(【11月27日 NHK】 既成二大政党の凋落が著しい欧州政治ですが、イギリスでは保守党・労働党が健在のようです。一時は二大政党と肩を並べた離脱に関する両極の自由党・離脱党は、結局二大政党の争いに埋没したようです)
【保守党が安定多数確保?】
イギリスのEU離脱の行方を決める総選挙は12月12日に行われます。
ジョソン首相率いる保守党は、来年1月末までの離脱の実現、来年末まで継続する「移行期間」を延長せず早期に完全離脱する方針を明らかにしています。
一方、労働党は離脱方針の是非を国民投票で改めて問う公約を発表しています。
****英保守党、EU離脱の移行期間延長せず 政権公約を公表****
英国の欧州連合(EU)離脱が主な争点となる英総選挙が迫る中、ジョンソン首相が率いる与党・保守党は24日、政権公約(マニフェスト)を公表した。
EU離脱を来年1月末までに実現するため、EUと合意した離脱協定案の関連法案の審議を年内に再開する一方、離脱後に現状の経済関係を2020年末まで継続する「移行期間」を延長しない方針を表明した。
英下院は協定案の批准に必要な関連法の成立まで協定案の採決を保留する動議を可決しており、関連法案の骨格は英下院で承認されたものの、成立まではなお審議が残っている状態だ。ジョンソン氏は24日、英中部テルフォードで演説を行い、「離脱を成し遂げ、英国の潜在能力を引き出す」と訴えた。
移行期間は離脱による企業や市民の急激な環境変化を緩和するのが目的。英国とEUはこの間に自由貿易協定(FTA)を交渉するが、締結できなければ、22年末まで延長できる仕組みになっている。
しかし、保守党は関税同盟などEUから早期に“完全離脱”するため、20年末までのEUとのFTA締結を目指しており、移行期間の延長は不要と判断した。
期間中は米国など第三国とのFTAを発効できないとの事情もあるとみられる。だが、野党からは「FTAを約1年間で結ぶのは難しい」との指摘が出ている。
保守党は離脱問題のほかに、総選挙で有権者の関心が高まる医療問題についての公約も発表。NHS(英国の国民保健サービス)への支出拡大のほか、看護師の5万人増員を約束した。
また、首相の議会解散権を縛る「議会任期固定法」の撤回も公約に掲げた。同法は前倒し総選挙をするための解散に、下院で3分の2以上の賛成を要するとしている。
ジョンソン氏は、離脱について国民の信を問うために、下院で前倒し総選挙の動議を3度提出したが労働党の抵抗でいずれも否決された。保守党は、撤回を公約に掲げた理由として「国が決定的な行動を必要とする場合に(政治を)まひさせる」とした。
一方、最大野党・労働党は離脱方針の是非を国民投票で改めて問う公約を発表している。
英調査会社ユーガブによると、22日時点の保守党の支持率は42%で2位の労働党を12ポイント引き離している。下院が解散した11月6日時点でも保守党は労働党を11ポイント上回っており、保守党が優勢を保ち続けている。【11月25日 産経】
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選挙では、与党・保守党が過半数を獲得できるかが焦点となります。
たとえ第1党でも、過半数を獲得できないと連立を強いられ、ジョンソン首相の強気の方針も実現できません。
選挙予測については、日々いろんな数字が報じられていますが、概ね保守党の優勢を伝えるものが多いようです。
****英総選挙、保守党が安定多数確保の見通し****
英紙サンデー・タイムズに掲載されたデータプラクシスによる世論調査の分析によると、ジョンソン首相率いる与党・保守党は12月12日の総選挙で過半数を約50議席上回り、安定多数を確保する見通し。
保守党は57議席増の約349議席を獲得する見通し。 一方、労働党は約30議席減の213議席となるとみられる。
下院定数は650だが、実質的な過半数には幅がある。(中略)
ユーガブが23日公表した世論調査によると、保守党の得票率は42%と、労働党を12ポイント上回るとみられる。【11月25日 ロイター】
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ただ、足元の数字では、労働党との差が縮小しているというものも。
****英総選挙支持率、保守党のリード差7ポイントに縮小=ICM****
英調査会社ICMがロイターの委託で実施した最新の世論調査によると、12月12日投開票の総選挙に向け、ジョンソン首相率いる与党保守党の支持率が1ポイント低下し41%となった。
一方、野党労働党は2ポイント上昇し34%。この結果、両党の支持率の差は7%ポイントに縮小した。その他、欧州連合(EU)残留派の自由民主党は13%と変わらず。ブレグジット党は1%ポイント低下の4%だった。
調査は11月22─25日の期間、2004人を対象にオンラインで実施した。【11月26日 ロイター】
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****英総選挙、与党保守党リードが8ポイントに縮小−アシュクロフト調査****
26日公表されたアシュクロフト・ポーリングの世論調査結果によれば、12月12日の英下院選で与党保守党に有権者が投票する可能性を示す平均スコアは、先週と同じ36だった。これに対し、最大野党・労働党は25から28に増えた。(中略)
アシュクロフトが4146人の成人を対象に21−25日に実施した調査は、下院選で各政党に投票する可能性をゼロ(絶対ない)から100(絶対確実)までのスケールで尋ねた。【11月27日 Bloomberg】
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まだ投票まで2週間ありますし、イギリスの投票予測は離脱是非を問う国民投票のときの失敗もありますので、まだ確かなことはなんとも言い難いところです。
【ジョンソン首相落選の可能性は? 落選しても・・・】
保守党の過半数確保もさることながら、非常に“興味深い”のは、ジョソン首相自身の当落だとも。
過半数は確保したが、首相自身は落選した・・・という結果も、可能性としてはあるとのことです。
****ジョンソン英首相が自身の選挙区で労働党候補と接戦か 勝利を危ぶむ見方も****
12月12日の英総選挙まで1カ月を切る中、ロンドン西部にあるジョンソン首相の選挙区が注目されている。
同選挙区では、欧州連合(EU)の残留を訴える有権者が増加。総選挙で、EUと合意した離脱協定案での離脱を訴えるジョンソン氏の勝利を危ぶむ見方もある。
与党・保守党が過半数の議席を獲得しても、ジョンソン氏が落選すれば、首相の退任に追い込まれ、離脱実現への影響は必至だ。
「現職首相を選挙区で負かす歴史的な瞬間を作り上げよう」
16日午後2時過ぎ。ロンドン西部の選挙区「アクスブリッジ・サウスライスリップ」にある駐車場で、最大野党・労働党から出馬するアリ・ミラニ氏(25)が数十人の有権者を前に熱弁をふるっていた。
集まった有権者の大半はEU残留を支持する選挙区の市民で、「ジョンソンを退任に追い込め!」と気勢を上げた。残留派の男性(51)は「ジョンソン氏を落選させれば、離脱の計画を妨害できる」と話した。
元々、EUに懐疑的な有権者が多い同選挙区では、2016年に実施された離脱の是非を問う国民投票で残留の支持は5割未満だった。
だが、英メディアによると、経済への影響が必至の「合意なき離脱」が懸念されてきたことから、一部の離脱派が残留派に転向。残留派の割合が5割を超えたという。
労働党は総選挙で、国民投票の再実施を提案することで、残留支持者を引きつけようとしている。同選挙区で、労働党候補は15、17年の総選挙でいずれも2位でジョンソン氏に敗れたが、票差を縮めつつあり、今回は逆転を予想する声もある。
労働党候補、ミラニ氏の健闘の理由は、残留派増加だけではない。その個性と地域に根ざした地道な活動にもある。
ミラニ氏はイラン生まれで5歳の時に家族とともに英国に移住。貧困に苦しみながら、同選挙区の大学を卒業した苦労人だ。恵まれない生い立ちを乗り越えた経験が、同じ境遇の若い世代の有権者を勇気づけている。また、同選挙区に住むミラニ氏は16〜17日に約2千人の支持者の自宅を訪れるなど地元密着の選挙活動を展開する。
一方、15年に同選挙区で落下傘候補として出馬したジョンソン氏は地域に縁がない。保守党支持者も「ジョンソン氏は選挙区の教育や医療の問題に関心がない」と非難する。
ただし、現職首相が総選挙で議席を失った前例はなく、ジョンソン氏が敗退する可能性は低いとみる有権者も多い。選挙区に住むキム・レーク・ベルソン・ボンドさん(60)は「高齢者を中心に地元の離脱派は根強く、首相が負けるとは考えづらい」と話す。
それでも、英紙ガーディアンは、同選挙区の議席は保守党内で「(落選の)リスクのある議席」とされているとした上で「総選挙で、首相が席を失う可能性がある」と指摘した。【11月18日 産経】
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地元BBCもこの話題を取り上げています。
****【英総選挙2019】 ジョンソン首相の議席はどうなる? 激戦区の大物議員たち****
(中略)
激戦区という言葉の伝統的な意味は、前回選挙の10%以下の票差で勝敗が決まった議席のことだ。
この理屈で言うと、イギリス全土で激戦区とされる選挙区は169カ所ある。しかしますます不安定になるイギリス政界では、たとえ前回は大勝したとしても、場合によっては安心できない。
ジョンソン首相はどうか
ボリス・ジョンソン首相は2017年の前回選挙で、アックスブリッジおよびライスリップ・サウス選挙区の議席を10.8%の僅差で守った。
これを首相経験者の前回結果と比べてみよう。ゴードン・ブラウン氏は50.2%、テリーザ・メイ氏は45.5%、トニー・ブレア氏は44.5%、デイヴィッド・キャメロン氏は43%だ。
今回の選挙最大の大波乱になり得ると言われている理由が、この数字からも明らかだ。
アックスブリッジ選挙区では2017年の選挙で、13%の票が労働党に流れた。そして現在、労働党を含めた野党各党が、ジョンソン首相を落選させようと強力に活動している。(後略) 【11月27日 BBC】
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部外者には“面白い”話題ですが、実際にはそうそう面白くは事は運ばないし、仮にジョソン首相が落選しても政治生命がただちに絶たれるわけではないようです。(もちろん、政治的打撃は甚大ですが)
****<解説>ロス・ホーキンス政治担当編集委員****
今回の総選挙において、野党にとっての夢の結果はこうだ。「投票から一夜明けて、ボリス・ジョンソンはもはや下院議員ですらありません」と。
ジョンソン氏打倒を目指す活動家は、何百人もの支持者がこぞって協力していると話す。アックスブリッジ選挙区の若年層や人種的マイノリティーの有権者が、勝敗のバランスを覆すと期待している。
首相を落選させるという野望に、希望以上の実現可能性はあるのだろうか?
全国的なデータを基にした推計によると、一部の閣僚は苦戦を強いられるが、ジョンソン首相自身は票差を伸ばして勝利するとみられている。もうすぐ発表される別の推計でも、似たような結果が出ている。
しかし、これは飽くまで「推計」だ。このところ、政界予想をなりわいにする人たちは、前にも増して慎重になっている。
もしも、保守党が選挙に勝っても、首相が落選したら。何がどうなるのか。
イギリスでは、上下院の議員でない人物が首相を務めた例が過去にある。
ユニヴァーシティー・コレッジ・ロンドンのロバート・ヘイゼル教授によると、1960年代のアレック・ダグラス=ヒューム首相(保守党)は、上院議員としての地位を捨て、補欠選挙で下院議員に当選するまでの間も、首相でい続けた。
そのため、たとえジョンソン氏が落選しても、保守党基盤で楽勝した保守党議員を辞めさせた上で、自分はその選挙区から補欠選挙で復帰をねらえるはずだと、ヘイゼル教授は言う。
野党の夢が実現したとしても、ジョンソン首相の政治生命がただちに絶たれるわけではなさそうだ。【同上】
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【「離脱党」ファラージュ氏の突然の方針転換は?】
今回選挙でジョンソン首相・保守党に追い風となっているのは、「離脱党」ナイジェル・ファラージュ氏の突然の方針転換です。
当初、全選挙区に候補者をたてて保守党と争うとしていましたので、離脱支持票の奪い合いで保守党には大きなマイナスとみられていました。
ところが一転して、前回の選挙で保守党が勝利した選挙区では候補を立てないと方針転換。
これで保守党は離脱支持票を固めて非常に有利な戦いとなりました。
****すでに息切れ?ファラージュ氏と離脱党のいま****
離脱派の立役者 ファラージュ氏
2016年にイギリスがEUからの離脱を選んだ国民投票。そのとき世界中のカメラを前に「独立記念日だ!」と叫んだ男、ナイジェル・ファラージュ氏は良くも悪くもEU離脱を象徴する人物として一躍、時の人となりました。ファラージュ氏が離脱派を勝利に導いた立役者の1人であることに疑いの余地はありません。
ことし4月には新たに離脱党を立ち上げ、党首に就任すると、翌月に行われたヨーロッパ議会選挙ではイギリス国内でいきなり第一党に躍進しました。
今回の総選挙でも「台風の目」となるのではという見方が一気に広がりました。ところがーー。
突然の方針転換
総選挙まで約1か月となった11月11日、ファラージュ党首は突然、選挙方針の転換を発表しました。全選挙区に候補を擁立するのではなく、前回の選挙で保守党が勝利した選挙区では候補を立てないことにしたのです。
保守党と比べて、より強硬な形での離脱を主張する離脱党はジョンソン首相の支持者を奪うと見られていました。保守党にとっては追い風となるだけに、何か裏取引があったのではないかなどと臆測を呼びました。(中略)
ファラージュ氏の思惑は
それなのになぜ離脱党はおよそ半数の選挙区に候補を立てない選択をしたのか。
ファラージュ氏は過半数を何としても確保したいジョンソン首相の足元を見るかのように、保守党との選挙協力を打診してきました。「うちと組まないと、離脱票が割れちゃうよ」という戦術です。
親交のあるトランプ大統領からも「ジョンソン首相はファラージュ氏と選挙協力すればいい」という発言を引き出し、外からもジョンソン首相にプレッシャーをかけました。
しかし土壇場でEUとの合意を取り付けた自信もあってか、ジョンソン首相はファラージュ党首の誘いには乗りませんでした。どうやらファラージュ党首の戦略は裏目に出たようなのです。
選挙戦が始まった時10%を超えていた離脱党の支持率は、最新の世論調査で3%に。選挙方針の転換で急落しています。
それでもファラージュ党首は「野党が政権を取ったら離脱は実現できない。保守党のほうがましだから、過半数をとれるようにしてあげたんだ」などと、相変わらず強気です。
離脱党はジョンソン首相にとって救いとなるのか、あるいは壁となるのか。選挙が終わるまで、本当のところはわからないかもしれません。【11月27日 NHK】
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上記記事を読んでも、どうして突然方針転換したのかはわかりません。わからない以上、“何か裏取引があったのではないか”とも勘繰ってしまいます。
それとも、保守党敗北、離脱とん挫の「戦犯」とされることを嫌ったのでしょうか?実際には候補者を擁立できないという内部事情でしょうか?
強硬に離脱を主張するファラージュ氏ですが、実際に離脱が軌道に乗ればファラージュ氏の政治的役割は終わり、誰も見向きもしなくなります。
ファラージュ氏にとって自身の存在感を高める都合のいいポジションは、離脱が進まない状況で、声高に離脱を叫ぶことです。
保守党が単独過半数を制して離脱が着実に進むことになれば、ファラージュ氏の出番はなくなりますが、そのあたりをどのように考えているのか・・・やっぱり何らかの“裏取引”を考えてしまいます。