(映画「砂漠のライオン」ポスター 20世紀初頭、イタリア・ムッソリーニ政権のリビア占領政策に立ち向かったリビアの国民的英雄・オマー・ムクターの生涯を描いた作品。衝突する東西両勢力とも、自分こそがオマー・ムクターを継ぐ者だと考えているのでしょうが・・・)
【従前からの地域対立に加え、ムスリム同胞団などイスラム主義への距離感の差も】
北アフリカ・リビア情勢については、4月21日ブログで、東部のハフタル将軍の首都トリポリ侵攻に対し、トリポリの国民合意政府(統一政府)側の反撃も始まっていること、アメリカ・トランプ大統領が従来からの国民合意政府支持からハフタル将軍側に転向したのかも・・・といった話題にも触れましたが、「リビアの状況は、現段階では情報が少ないこともあって、また別機会に。」とも。
相変わらずリビア情勢に関する情報は少なく、戦闘がどちらに優位にすすんでいるのかも定かではありません。
まず、リビアの東西対立という現状の背景、それぞれを支援する周辺国の事情等について、改めて概観すると以下のようにも指摘されています。
****東西に割れるリビア、全国民の心つかむ英雄は再来するか****
(中略)『砂漠のライオン』というハリウッド映画をご覧になったことがあるだろうか。
20世紀前半に活躍したリビア独立の英雄、オマル・ムフタールの生涯を描いた作品で、リビアの最高指導者だったムアンマル・ガッダーフィー(カダフィ)が私財を投じて作らせたといわれている。(中略)
オマル・ムフタールは、リビア東部キレナイカ(バルカ)地方を拠点とするイスラーム神秘主義(スーフィズム)教団サヌーシー教団のメンバーで、キレナイカを中心にベドウィン部族らを糾合し、反イタリア闘争を展開、砂漠での戦いに不慣れなイタリア軍を大いに苦しめた。しかし、最後にはイタリア軍に捕らえられ、処刑されてしまう。(中略)
国連はトリポリ政府を支持するが……
2011年のいわゆる「アラブの春」を経て、リビアが内戦状態になったのはご存じのとおり。ここで考えなければならないのは、リビアの地理的背景である。
現在の形式上のリビアの首都は西北部トリポリタニアにあるトリポリである(アラビア語では両方ともタラーブルス)。(中略)
一方、キレナイカは、リビアの東半分を占め、中心地はベンガジ(ベンガージー)である。リビア王国時代は、トリポリとベンガジが交互に首都の役割をつとめていたが、革命後はトリポリが首都に定められた。
現在、リビアでは、トリポリに国連の支援を受けて成立した国民合意政府があり、キレナイカでは、東端のトブルクに代議院の主導するいわゆるトブルク政府がいる。
今、トリポリ政府と軍事的に衝突してメディアを騒がせているハリーファ・ハフタル将軍もキレナイカ出身であり、このトブルク政府から軍司令官に任命されている(もう一つ、リビアにはフェッザーンと呼ばれる地域がある。ここは、トリポリタニアの南に位置し、ほとんどが砂漠で、人口も少ないので、政治的な役割は小さい)。
エジプトやUAEはハフタル将軍を支援
当然のことながら、リビアを考える際には、トリポリとベンガジのあいだのライバル関係を前提にする必要がある。
実際、2011年以降のリビア内戦では、キレナイカは、トリポリタニア出身のカダフィ打倒のための武装闘争の拠点となり、暫定政権が置かれることとなった。
カダフィ打倒後に新政府が掲げた国旗は、キレナイカで生まれたリビア王国時代のそれである。
ハフタル将軍を支援しているのはエジプトやアラブ首長国連邦(UAE)とされている。キレナイカと国境を接するエジプトが、リビアを安定化させる軍事力をもつ勢力を支援するのは当然かもしれない。実際、オマル・ムフタールもエジプトの支援を受けていた。
一方、トリポリ政府に対するムスリム同胞団の影響を指摘する声も少なくない。同胞団の影響を受けた国家が隣にできるのは、同胞団政権を軍事クーデターで打倒したエジプトのシシ大統領からみれば悪夢であり、エジプトが、同じく同胞団を毛嫌いするUAEとともに、ハフタルに肩入れするのはわかりやすい構図である。
他方、トリポリ政府は、同胞団を支援するカタールやトルコの支援を得ているといわれている。国際的に承認されているのはこちらである。実際、欧米諸国を中心にハフタル非難の声明が出されている。
ハフタル側からみれば、テロ撲滅の大義は彼らにある
だが、果たして、欧米やカタール、トルコがどこまでトリポリ政府を守ることができるのか。
ややこしいのは、国際社会でテロ組織あつかいされているジハード主義系組織の多くが反ハフタルでまとまっている点だ。
ハフタル側からみれば、テロ撲滅の大義は自分たちにあるということだろう。すでに、ロシアやフランスも、そして米国もハフタル寄りの姿勢を示しているとされる。
トリポリとキレナイカの衝突の行方は不明だが、たとえ、一方が勝利を収めたとしても、このままでは、地域対立という紛争の火種が消えることはない。オマル・ムフタールのように全国民によって共有される救国のヒーローがリビアに果たして現れるであろうか。
ここにきてリビアだけでなく、アルジェリア、そしてスーダンと、アフリカのアラブ諸国の状況が風雲急を告げている。アラブの春第2ラウンドとの声も上がるなか、ふたたび中東・北アフリカに混乱が訪れるのか。目が離せなくなっている。【4月30日 保坂 修司氏 日経ビジネス】
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【周辺国介入でシリア化の様相も】
でもって、最近の戦況については、首都トリポリでの攻防が続いているようです。
****リビア情勢と外国の介入****
リビアの情勢は相変わらず不透明と言うか流動的な模様ですが、同時に外国の介入の報道が増えています
アラビア語メディアから、取りあえず次の通り
・トリポリを巡る戦いは、その後も基本的に(市街地を含む)市の南部で激しく戦われている模様ですが、haftar軍に近いメディアは、haftar軍 は優勢に作戦を進め、市の中心に向かっていると報じています・
これに対して統一政府に近いメディアは、同軍の反撃が功を奏して、haftar 軍は1km上後退したと報じています。
またこれまでも統一政府軍の主力はミスラタ民兵だった模様ですが、29日更に新たな増援部隊がミスラタから到着し、陣容が強化されたと報じています。
・またこれまでは(現在でもそうか)空爆を行っているのは、主としてhaftar軍と伝えられてきましたが、29日には統一政府軍が2回の空爆を行った由
・他方外国の介入については、al jazeera net が、現地目撃者の談として、エジプトがhaftar軍に支援物資等を続々と送り込んでいる報じています。
リビア国境に近いマルサマトルーフ近郊にエジプトが一大軍事基地を建設したことは前に報告の通りで、この基地がエジプト機やUAE機のリビア空爆の拠点として使われていることも何度か報告の通りです。
目撃者によると、この基地からリビアに向かって、装甲車を含む、武器弾薬類の車列が送り込まれ、両国の国境は車列の通過する間閉鎖されたとのことです
また、この基地からはリビアの統一政府軍攻撃のために、UAEのドローンが飛び立っている由
(この話が事実であれば、UAEはイエメンのhothy軍からドローンでアブダビやドバイを攻撃するとの威嚇を受けていることもあり、忙しいことです)
・他方、haftar軍報道官は同じく29日、トルコが統一政府軍にドローン及びその操縦要員を供与している確かな証拠があると非難した由
(今のところ統一政府がドローンを使用したという報道はないが、ついにリビア内戦もドローンの相互使用という近代戦?になるのでしょうか)(中略)
どうやら戦線が膠着している一方で、双方に対する外国からの支援もあり、今後戦闘がトリポリの中心に近づけば、民間人の被害もさらに増える危険が強いですね。【4月30日 「中東の窓」】
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戦線の膠着、エジプト、UAE、トルコなどの軍事介入・・・シリアの混乱にも似てきました。
戦況は伝えるメディアの“色合い”によってニュアンスが異なりますが、一応、ハフタル将軍側がエジプトなどの支援を得て攻勢を続けている、国民合意政府(統一政府)側が抵抗しているというところです。
支援国についていえば、国連は国民合意政府(統一政府)を認めていますが、支援国はむしろハフタル将軍側に有利なようです。
****リビア情勢ハフタル軍優位か*****
リビアの首都トリポリでは、激戦が続けられているという情報が伝わってきているが、どうも東リビアのハフタル軍(LNA)が、優位に立っているようだ。
それは、ハフタル軍に対する支援が、エジプト、アラブ首長国連邦、サウジアラビアから、寄せられているからであろう。
加えて、ヨーロッパからはフランスとイタリアが、やはりハフタル軍を支援しており、ロシアも然りだ。またアメリカももともと、20年にも渡って、ハフタル将軍を匿ってきていた国であり、リビア革命勃発時には、彼をリビアに戻している。つまり、アメリカもハフタル軍を支援している、ということであろう。
その結果、ハフタル軍はいまリビアの3分の2を、支配しているといわれている。
アラブ首長国連邦は沿岸警備艇アルカラマを、ハフタル軍側に送っており、その警備艇が最近、ラース・ラヌーフの石油積出港に。進出しているのだ。
また、エジプトは軍事空港を建設し、軍用ヘリを送り、軍人も送っているといわれている。
こうした情況を見ると、エジプトやアラブ首長国連邦、サウジアラビアに加え、フランスやイタリアもハフタル軍が、出来るだけ早くリビアを完全掌握して欲しい、ということであろう。ヨーロッパ諸国にとってリビアの石油は、非常に重要なのだ。
トランプ大統領のイラン石油締め付けのおかげで、ヨーロッパだけではなく、多くの国々が石油不安に、陥っているのだから、当然であろう。【4月30日 「中東TODAY」】
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石油・・・という話になると、そもそもリビアの混乱は石油利権をめぐる旧宗主国イタリアと、やはりリビアに利権を有するフランスの対立が背景にあるとも言われています。
そのフランスは、以前からハフタル将軍に近いとされています。
イスラム過激派との距離、石油利権も絡んで、周辺国がそれぞれの立場で介入・支援する形になります。
【行き惑う難民 混乱に乗じて勢力拡大を狙うIS】
戦況は定かではありませんが、戦火の拡大によって、住民はもちろん、他の地域からの難民に多大な影響が出ていることは確かです。
****移民ら数千人が収容所に足止め、リビア首都の戦闘で****
アフリカ各地の戦闘地域から逃れてきた移民ら数千人が、リビア首都トリポリ西方ザウィヤの収容センターで足止めされている。
首都周辺では過去3週間にわたり、国民合意政府(GNA)と元国軍将校の実力者ハリファ・ハフタル氏率いる軍事組織「リビア国民軍(LNA)」との間で、激しい衝突が続いている。
人道支援団体や国際機関は、移民たちが置かれた状況に危機感を募らせている。取材に応じたセンターの移民男性によると、兵士らのグループがセンターを襲撃し、礼拝中の移民1人が殺害されたという。【4月30日 AFP】
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各地の戦乱から逃れてきたリビアも、また同様に戦乱・・・という悲惨な状況です。
もうひとつ確かなのは、こうした混乱がISなどの過激派にとっては格好の勢力拡大の土壌となることです。
****騒乱続く北アフリカ イスラム過激派活発化の懸念 リビアではISによるテロも****
北アフリカのリビアとアルジェリアで続く騒乱に乗じ、両国に潜伏するイスラム過激派の台頭が懸念されている。特に内戦の危機にあるリビアでは、一時は沈静化した過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロ再発の兆しがあり、勢力拡大を警戒する声が上がっている。
リビアは2011年の中東民主化要求運動「アラブの春」でカダフィ独裁政権が崩壊後、複数の武装勢力が割拠する事実上の内戦状態に突入。
ISや国際テロ組織アルカイダ系の組織も台頭し、「過激派天国」(AP通信)に陥った。
15年に国連の仲介で統一政府が樹立され、西部の首都トリポリを拠点とするシラージュ暫定政権が誕生したが、東部を拠点とするハフタル将軍が西部の政府を拒否。
今月4日以降、ハフタル氏が率いる民兵組織「リビア国民軍」が西部に進軍し、トリポリ近郊で暫定政府側との衝突が続く。
こうした中、ISはリビア中部フカハで9日、住民3人を殺害するテロを起こした。テロ組織に詳しいエジプト紙「バワバ」元編集長のサラハディン・ハッサン氏は「リビアでは国家が機能しておらず、今ISが台頭しても治安当局に戦う余裕がない」と話す。(中略)
アラブ諸国では政治が混乱した際、その隙(すき)を突く形で過激派が伸長するケースが多い。宗派対立が続いたイラク、内戦に陥ったシリアの両国では14年ごろからISが勢力を拡大。
今年3月までに米軍などの掃討作戦で両国のIS戦闘員はほぼ一掃されたが、「残党は偽造旅券を使って周辺国に拡散している」(中東の政治学者)との指摘もある。【4月15日 毎日】
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