孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  国家の比重が減少、市場の比重が増大 中国依存で緩やかに成長する経済 深刻な格差

2011-12-31 22:38:46 | 東アジア

(9月6日 北朝鮮・安州市 道端に集まっている人々は中国製の服を売っているとか こうした無数の取引が合法なのかどうかよくわかりません。北朝鮮では2003年に「市場管理運営規定」が採択され、それまでの農民たちの市場は「総合市場」(チャンマダン)として合法化され、企業や共同農場もこの市場で商品を取引できるようになってはいますが。 “flickr”より By Ray Cunningham  http://www.flickr.com/photos/zaruka/6199452962/ )

金正日(キム・ジョンイル)総書記の突然の死去に伴う北朝鮮の現状・今後については、毎日山ほどの情報が溢れていますが、結局のところ誰もよくわからない・・・というところではないでしょうか。

三男の金正恩(キム・ジョンウン)氏への権力移譲がスムーズに進むのかということもわかりませんが、個人的に一番関心があるのは、北朝鮮の人々が実際のところどんな暮らしをしているのか・・・、今後どうなるのか・・・・ということです。
しかし、これも厳しい情報統制によって、漏れ出る断片から推測するしかありません。

その際には、情報源による情報のバイアスを考慮しておく必要があるでしょう。
国家公認の情報が偏っているのと同様に、脱北者の伝える情報も必ずしも北朝鮮全体を表しているとも限りません。

「すぐに、死体を見ても何も感じなくなった」
金正日総書記の死去前には、悪名高い強制収容所に関する記事がありました。
****北朝鮮の強制収容所、生還者が語る「犬以下の生活****
北朝鮮の強制収容所に28年間にわたって収容されていた女性が23日、スイスで開かれた国際会議で、収容所内での公開処刑の様子や飢餓状態などについて貴重な証言を行った。

■13歳で収容、銃殺見学させられる
金恵淑(キム・ヘスク)さんは13歳のとき、両親が収容されていた「第18号管理所」と呼ばれる政治犯収容所に送られた。そこでは、収容された人びとが「犬よりもひどい扱い」を受け、強制労働を科され、看守たちに虐待されていたという。
2001年に釈放され、現在は韓国で暮らしている金さんは、スイスのジュネーブで開かれた北朝鮮の人権と脱北者に関する国際会議で、公開銃殺を強制的に見せられたことや、現在も収容所に残っている兄弟姉妹に食べ物を分けるため飢えをしのいだことなどを涙ながらに語った。

会議を共催した北韓人権市民連合によると、北朝鮮の6か所の強制収容所に収容されている政治犯は推計約20万人に上るが、北朝鮮政府は収容所の存在さえも否定している。

■収容理由を尋ねるだけで「死」
金さんによると、彼女も含めて囚人たちの多くはなぜ収容されたのかも知らず、それを尋ねただけでも死に直面した。10ページに及ぶ証言で金さんは、「食べ物はいつも不足していて、多くの人が餓死していた。あまりに多くの死体を見すぎて、すぐに、死体を見ても何も感じなくなった」「囚人たちは『人権』とは何かの意味さえ分かっていなかった。犬よりもひどい人生を送っていた」と述べている。

所内では「トウモロコシ粉を盗んだという理由から、迷信を信じたという理由まで」あらゆる「罪」で、毎年100回を超える公開処刑が行われていたという。「最初に公開処刑を見たのは13歳のときで、まだほんの子どもでした。所内の全員が見なければなりませんでした」(後略)【11月25日 AFP】
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厳しくなる脱北者監視 軍兵士にも脱北
中国への脱北者は警戒の強化によって現在減少しています。金総書記死去直前の状況が報じられています。
****脱北者:中朝国境、取り締まり強化****
北朝鮮から中国に渡る脱北者は90年代前半に急増し、97年ごろにピークを迎えたが、その後は緩やかに減少している。吉林省延辺朝鮮族自治州では、今もひそかに脱北者をかくまう家がある一方、密告制などによる取り締まりの強化が進んでいた。(中略)

11月に朝鮮人民内務軍の李泰哲(リ・テチョル)上将が北京を訪れ、中国の孟建柱公安相と会談するなど中朝の治安機関は連携を深めており、脱北者の取り締まり強化が議論されている可能性は高い。地元の朝鮮族男性は「豆満江沿いにある北朝鮮側の一部の監視所は7月以降、50メートルおきから25メートルおきに変更された」と語る。

中国の公安機関などが脱北者の通報に対して出す報奨金も、脱北者や支援者にとって脅威だ。別の朝鮮族男性は「最近は5000元(約6万円)程度。以前より上がっている」と語った。一方で、かくまっていることが発覚すると7000元(8万4000円)程度の罰金を支払わなくてはならないという。いずれも平均的な1カ月の収入を大きく上回る金額だ。「親戚すらも信用できないのが実情だ」と支援活動にかかわる男性はこぼした。【12月8日 毎日】
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当然ながら、死去後の現在は北朝鮮の混乱・難民流入に備えて、中国も国境警戒態勢を更に強化しています。

一方、食糧難は「先軍政治」の恩恵にあずかる軍兵士にも及んでおり、軍兵士の脱北も多くなっているようです。
****兵士6人が集団脱北、北が中国領内で2人射殺*****
北朝鮮・新義州と接する中国遼寧省丹東の郊外で、金正日総書記の死去前の今月上旬、北朝鮮軍の脱走兵6人が中国側への脱出を試み、2人が北朝鮮側に射殺され、残る4人が中国側に拘束されていたことがわかった。
地元当局者が明らかにした。中朝関係筋によると、この数年で軍の食糧事情が悪化したため、兵士の脱北が急増している模様だが、射殺は異例。

地元当局者によると、射殺された脱走兵らは国境を流れる鴨緑江を渡河して中国領内に入り込んでいたにもかかわらず、北朝鮮の国境警備隊が構わずに発砲した。北朝鮮側は兵士の脱北に極めて神経質になっている模様だ。
6人は仲間で武装していたとみられる。中国側に拘束された4人は、北朝鮮側に引き渡されたという。【12月31日 読売】
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約300万人が食糧難に直面
問題は、北朝鮮の食糧事情ですが、11月末段階で国連機関は約300万人が食糧難に直面すると予測した報告書を公表しています。

****北朝鮮、300万人が食糧難…国連機関が予測****
国連食糧農業機関(FAO)と世界食糧計画(WFP)は25日、北朝鮮で2012年度(今月~2012年10月)に食糧41万4000トンが不足し、約300万人が食糧難に直面すると予測した報告書を公表した。

同年度のコメや大豆、ジャガイモなどの食糧生産量は前年度比8・5%増の約550万トンが見込まれるが、需要を満たすにはさらに73万9000トンの食糧輸入が必要なのに対し、北朝鮮は32万5000トンの輸入しか計画していないという。

北朝鮮の今年5~9月の食糧配給は1人当たり1日200グラム以下で、最低必要とされる量の約3分の1にとどまった。小児病棟では栄養失調に陥った子供の入院が昨年より50~100%増えているという。【11月26日 読売】
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金(日成)主席の遺訓:「住民にコメと肉汁を食べさせる」】
配給制度が崩壊している北朝鮮ですが、金総書記死去直前に、食糧配給カード再作成の情報が流れて憶測を呼んでいました。

****北朝鮮が食糧配給カードを再作成 配給正常化か****
米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)は25日までに、北朝鮮当局が故金日成(キム・イルソン)主席の誕生100年を控え、全地域で食糧配給票(カード)を新たに作る作業を行っていると報じた。
中国を訪れた平壌の住民は「(当局が)来年から食糧配給を正常化するとした。区域別に世帯人数を調査している」と伝えた。
RFAによると、他地域でも新しい食糧カードを発行している。ただ、来年に配給制度が完全に正常化する可能性については大半の住民が懐疑的な見解を示した。

北京の北朝鮮消息筋は「100万トンの食糧支援を受ければ、住民全体に対する配給が可能になると思う」と述べた。北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の参加国から大規模な食糧支援を引き出そうとする思惑がありそうだという。

北朝鮮当局が食糧配給に向けた人口調査を実施していることについて、北朝鮮脱出住民(脱北者)は「住民にコメと肉汁を食べさせるのが金主席の遺訓だった。金主席の誕生100年を迎える来年に数か月でも配給を行うだろう」との見方を示した。ほかの脱北者は北朝鮮当局が住民を対象にした講演などで、「強盛国家建設の目標は住民にコメと肉汁を食べさせることだと宣伝している」と伝えた。
ある北朝鮮専門家は後継者の金正恩(キム・ジョンウン)氏が金主席の遺訓を実現したと宣伝するため、食糧配給制度の再整備に乗り出したと説明した。【11月27日 聯合ニュース】
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“金(日成)主席の遺訓”だろうが何だろうが、コメと肉汁を食べられるようになれば結構なことですが、金正日総書記死去直前には、米朝協議において核問題で何らかの譲歩の見返りに食糧支援があるのでは・・・とも報じられていました。しかし死去の混乱で、アメリカなどからの食糧支援引き出しも停滞しそうな状況です。

比重を増す市場経済
市民生活については、死去に伴って、電気が止まり、市場が閉鎖されているとの情報がありましたが、現在も続いているのかどうかはわかりません。

****金総書記死去:平壌停電、市場も閉鎖 市民ら強い緊張状態****
北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が死亡したとされる時期から、首都・平壌で電気の供給が全面的に止まっていたことが24日、複数の平壌市民の証言で分かった。
発表後には食料調達に不可欠な市場もすべて閉鎖され、「今後も再開されない」との情報も出回っている。街中では国家指導部で権力闘争が起きているといううわさが流れ、市民らは強い緊張状態に置かれているという。19日以降、出張のため中国を訪問した平壌市民の男性らが毎日新聞に明らかにした。

証言をまとめると、当局が金総書記の死亡日とする17日ごろから、市内のほぼ全域で電気が来なくなった。自家発電のない一般家庭では、死亡を伝える19日の「特別放送」さえテレビで確認できなかったという。男性は「こんなことは過去になかった」と話す。平壌市内の電力は主に二つの火力発電所から供給されるが、一つが修理中、もう一つも数カ月前から石炭の供給が滞り、それが枯渇した可能性が指摘できる。

一方、市場の閉鎖は一般市民の生活を直撃している。治安当局は、市民が集まれば集会などにつながる可能性があるため、市場閉鎖を命じて警戒を強めているようだ。94年に金日成(キム・イルソン)国家主席が死亡した際にも市場は閉鎖されている。

さらに市民の不安をあおっているのは、権力闘争のうわさだ。
「金大将同志(後継者の正恩〈ジョンウン〉氏)の継承に反対する勢力が、金大将の無力ぶりを際立たせて権力収奪を図っている。反対勢力の背後には中国がいる」うわさの出所ははっきりしない。市民の一人は「平壌では今、庶民は己の生活の行く末を案じ、国家幹部は権力の変動に恐れ、気が気でない」と話す。

市民生活が脅かされている中、23日午前から、金総書記の生前の指示に基づき、平壌市民に対するスケトウダラやニシンなどの魚の配給が始まったと国営朝鮮中央通信が報じた。正恩氏が主導しているとされる。ただ、配給規模などは明記されていない。(後略)【12月25日 毎日】
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市場の閉鎖は死活問題で、長引けば一昨年末のデノミ失敗同様の混乱を招くでしょう。
配給制度が破綻している現在、濃く観の生活を支えているのは市場での取引です。

****ヤミで買い、副業で稼ぐ 薄れる国家への忠誠心****
北朝鮮で23日から平壌市民に鮮魚の配給が始まった。金正日(キム・ジョンイル)総書記の生前の指示に基づくという。だが、こうした恩恵は限られ、住民は副業に精を出し、闇市場で買い物する毎日だ。生活の中での国家の比重は小さくなり、忠誠心の低下につながっている。
朝鮮中央通信によると、鮮魚の配給では後継者の金正恩(キム・ジョンウン)氏が特別の輸送対策を講じた。正恩氏は「偉大な将軍様の愛情を一日も早く人民に届けるべきだ」と語ったという。

脱北者などによると、平壌では、年3~4回、引換券が配られるなどの国の恩恵が残る。券があればコメ1キロを30ウォン(闇レートで1円=45ウォン前後)で買える。8月末からは「全量配給」が復活したが、一般労働者で1人当たり1日700グラムだった割当量は350~400グラムに減らされたという。地方都市の配給は1990年代に軒並み途絶えた。平壌でも衣類や電化製品などの引換券はいつ回ってくるかわからない。

足りないものは市場で探すしかない。国公認の「総合市場」には工業製品から食品まであるが、価格は国定の100倍以上。市民は少しでも安い品物を求め、アパートの裏や細い路地にある闇市場を巡り歩く。90年代から豆腐を加工した「人造肉(インジョコギ)」が人気だ。

1カ月に必要な生活費は引換券を利用しても3万~4万ウォンとされる。だが、平壌市民の月給は2500~7千ウォン。住民は資金があれば貿易や飲食業を営み、なければ夜間警備員や練炭運びなどに精を出す。
平壌近郊にある靴工場では、従業員750人のうち出勤するのは100人ほど。残りは材料を買って自分で靴を作り、市場で売る。毎月、1万~3万ウォンの売り上げを工場に納めた残りが自分の取り分だ。

かつて、市民の食卓での大きな話題の一つが故金日成(キム・イルソン)国家主席の動静だった。今は市場ごとの値段比べや金もうけの話に花が咲く。市民の意欲は生活を徐々に向上させている。だが、市場経済を否定する政府は副業に課税できず、国力にはつながらない。
韓国研究機関の調べでは、こうした「人民経済」が市民生活に占める割合は4~7割に達し、専門家は「人口の4分の3は全く国の経済に頼っていない」と語る。正恩氏が経済の改革開放に踏み切らなければ、北朝鮮の統治能力はジリ貧になるとの見方が支配的だ。【12月25日 朝日】
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デノミや市場閉鎖ではなく、市場経済を公認して経済を活性化させるのが本筋のように思えますが、正恩体制でそれが可能でしょうか?

食糧の絶対的な不足というより、物流や配給が行き届かない側面が強い
ここまでの情報は、“インフレと食糧不足で住民の不満は爆発寸前、体制の崩壊で大量の脱北者が周辺国に押し寄せる”という北朝鮮に関するイメージにも沿うものですが、北朝鮮経済の実態はそんなに悪くない・・・という指摘もあります。
特に、その後ろ盾になっているのが中国資本の流入です。実際、平壌では建設ラッシュが起きているという話題をこのブログでも取り上げたことがあります。

****北朝鮮経済、2つの顔****
GDPは緩やかに成長中 だが富を独占する特権層と一般国民の間には深刻な格差が

・・・・金正日体制下の北朝鮮は99年以降、実は緩やかな経済成長を続けてきた。・・・韓国銀行(中央銀行)の推計によると、北朝鮮経済は99年以降は平均して毎年約1~2%の成長を持続している。・・・食料不足は現在も存在するが、90年代半ばの大飢饉のような状況ではない。人道的な措置として北朝鮮への支援を決めたアメリカが、「食糧支援」ではなくミルクやビタミン剤などによる「栄養支援」と位置付けているのはこのためだ。

食糧不足は特に東北部を中心に深刻だと言われているが、専門家によれば食糧の絶対的な不足というより、物流や配給が行き届かない側面が強いという。
むしろ問題なのは、地位を利用して富を蓄え、経済成長のうまみを独占する特権層と、一般国民との格差がどんどん拡大していること。北朝鮮経済に詳しい環日本海経済研究所(新潟市)の三村光弘調査研究部部長は「今後、経済体制をめぐって特権階級の間で起きる路線対立が不安定要因となる可能性がある」と指摘する。

・・・首都平壌にはこうした大型スーパーや外貨が使える高級レストランも増えているが、顧客は法外な額を支払える富裕層や特権層に限られている。こうした施設の収益は「金総書記の裏金になる」とも指摘されている。

中国依存がますます加速
・・・そもそも金正日政権がなぜ経済成長を維持できたかを理解するためには、まず北朝鮮を取り巻くいくつかの思い込みを捨てなければならない。

まず、北朝鮮が少しずつではあるがインフラの整備に取り組んでいる点だ。特に最近では中国と協力して国境の羅先や鴨緑江上の2つの島を経済特区として共同関発している。またロシアとの間でも石油パイプラインや送電線、鉄道連結事業などの協力事業も進めている。
ソ連崩壊で後ろ盾を失って以降停滞していた重工業の近代化がようやく動き始めており、鉄鋼業、鉱業、軽工業を原動力に復興期から成長期へと移行しつつあると見ることもできる。

北朝鮮が国際的に孤立しているというのも誤解だ。実際には160を超す国と外交・通商関係を結んでおり、EU加盟国の大半とも国交がある。
日本との貿易は06年の日本側の経済制裁以来中断しているが、北朝鮮と世界の結び付きは年々強まっている。大韓貿易投資振興公社の統計によると、韓国との南北貿易を除く10年の北朝鮮の貿易総額は42憶ドル余りで、90年以降最高だった。

最大の貿易相手国は中国で、北朝鮮の貿易総額の83%を占めている。北朝鮮は主に石炭や鉄鋼、レアメタル(希少金属)を輸出し、逆に原油や工業製品を輸入している。10年3月の韓国海軍の哨戒艦の沈没事件以来、北朝鮮と韓国の間の南北貿易は中断しており、結果として北朝鮮の中国への貿易依存度はますます高まっている。・・・イランやシリア、パキスタンにミサイルを売って年間約1憶ドルの収入を得ているという事実もある

市場経済がもたらす変革
金正日死去後の指導体制では、経済や外交に影響力を持つとみられる金総書記の義弟・張成沢国防委員会副委員長が、経済改革に関心を持っていると伝えられている。ただ、今後の具体的な経済政策はまだ見えていない。

緩やかに成長しているとはいえ、北朝鮮経済はGDPの規模では韓国のわずか3%にすぎない。・・・深刻な懸念材料もある。90年代の犬飢饉で十分な栄養を取れないまま成長した子供たちが、労働人口世代に達しているのだ。

・・・中国に加え、ロシアとの経済協力が進むことで市場経済が浸透し、いずれ緩やかな社会改革へとつながるかもしれない。しかしこうした社会変革には相当の時間を必要とする。その一方で、国民にぎりぎりの生活を強いながら、特権層は経済成長の富を独占している。綱渡りの経済運営が、当面続くことになりそうだ。【1月4日号 Newsweek日本版】
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ベネズエラ  健康・治安・経済に問題を抱えるチャベス大統領 来年の再選は?

2011-12-30 21:16:54 | ラテンアメリカ

(9月17日 ボリビアのモラレス大統領歓迎式典でのベネズエラ・チャベス大統領 ガン治療のため髪が抜け、顔はむくんでいます。 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/6157454738/

南米首脳に相次ぐガン発症はアメリカの陰謀?】
ユニークな反米言動などで話題を提供することも多い南米ベネズエラのチャベス大統領ですが、ガン治療中ということで、後述Newsweek記事に“化学療法で髪が抜け、顔がむくんだチャベスに以前のような威勢の良さは感じられない”とあるように、ここのところは言動ではなく、その生存自体が話題になる状態でした。

そんなチャベス大統領が、久しぶりに“彼らしい”発言をしています。
****米国が「敵をガン患者にする」新技術を開発?ベネズエラ・チャベス大統領****
ベネズエラのウゴ・チャベス大統領は28日、南米の首脳に相次いでガンが見つかっているのは、米国が狙った相手にガン細胞を植え付ける技術を開発したためではないかとの見方を示した。

自身も癌で摘出手術を受けたチャべス大統領は、国営メディアで中継された国軍の式典での演説で、「南米の首脳たちの身に起きていることは、確率の法則をもってしても説明できない。不思議だ。極めて不思議だ」と述べ、米国が「(標的に)こっそりガン細胞を導入する技術を開発していたとしても、不思議ではないのではないか」との見解を披露した。ただし、そうした技術が存在するという証拠は提示しなかった。

27日には、アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領に甲状腺ガンが見つかり、来月4日に手術を受けると発表されたばかり。チャべス氏は演説でキルチネル大統領との「結束」も強調したが、キルチネル氏は28日、南米首脳の中ではチャべス氏がいち早く見舞いの電話をかけ、助力を申し出てきたことを明かしている。
 
近年では、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領、同ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ前大統領、パラグアイのフェルナンド・ルゴ大統領がガンと診断されている。ルセフ、ルゴ両大統領は「克服した」と述べているが、ルラ氏は現在も闘病中だ。【12月29日 AFP】
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1日53人が殺害
確かに、南米要人のガンが多いようですが、アメリカ云々より、南米式生活習慣を先ず再検討するのがいいかも。
それはともかく、10年以上チャベス大統領が政権を握るベネズエラについては、治安悪化が報じられています。

****殺人発生率、南米で最悪=ベネズエラ****
南米ベネズエラの犯罪監視団体によると、今年同国で殺害された人は、27日までに過去最悪の1万9336人に達した。1日53人が殺害された計算で、年間の殺人発生率は南米最悪の10万人当たり67人という。
ベネズエラでは暴力犯罪が深刻な社会問題となっており、内務相も今年2月、昨年の殺人発生率が同48人に上ったと認めていた。【12月29日 時事】
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ベネズエラの人口は、日本の約4分の1といったところです。
なお、日本の殺人犠牲者数は、人口動態統計の“他殺”で見ると、2010年が437人(1日に1人強)で、1998年の808人から一貫して減少しつつあります。
経済的にはよくないにもかかわらず、殺人が減少していく・・・日本の治安のよさとして誇るべき点でしょう。
ただし、自殺が3万人レベルで推移していることは、周知のところでもありますが。

南米は全体的に治安がよくない地域ですが、ひところはコロンビアの殺人・誘拐が抜きんでてきました。
そのコロンビアは、チャベス大統領の宿敵ウリベ前大統領(個人的には親しいとも聞きましたが・・・)のもとで、治安改善が大幅に進んでおり、ベネズエラが“最悪”の座を奪ったようです。

「麻薬戦争」で再三取り上げているメキシコは、大統領府によると、治安部隊と麻薬組織の戦闘や組織同士の抗争などによる「麻薬戦争」死者数は2010年は1万5273人とされています。ベネズエラと十分勝負出来そうな数字ですが、上記【時事】の統計数字は“南米”ということで、メキシコは含んでいないのでしょうか。

【“ミダス王の逆パターン” チャベス再選阻止に野党は統一候補
チャベス大統領は2013年初めに任期満了を迎えることを受け、12年10月7日に大統領選を実施することを決めています。
キューバでがん摘出手術を受けた後、国内外で断続的に化学療法を受けているチャベス大統領は「がんは再発しない」などと繰り返し述べて健康状態が良好なことをアピールしており、4選を目指して出馬する方針です。
一方、反チャベス派は統一候補擁立に向けて準備を進めています。【9月14日 毎日より】

チャベス大統領の健康問題に加え、国内的には上記のような治安悪化のほか、経済政策の失敗もあって、野党側が再選を阻止することも可能な状況です。
ただ、チャベス大統領はバラマキ政策で低所得者層の人気を得ていますので、選挙には自信を持っています。
もちろん。野党勢力が政権を奪取したとして、今の治安や経済問題、汚職・腐敗の政治が変わるのか?・・・と言えば、どうでしょうか。まあ、それを言ってしまうと・・・・。

****チャベス退場へのカウントダウン*****
癌の出術後に健康不安説が流れ、大統領選では野党候補にも勝ち目あり

99年に就任したウゴ・チャベス大統領が「21世紀型社会主義」の実験に着手してから、ベネズエラの人々はあらゆることを経験してきた。停電、犯罪の多発、食糧不足、バブル景気とその崩壊……。この激動の時代を通じて、ただ1つチャベスの支配だけは盤石だった。

それが揺らいだのは11年6月。癌が見つかり闘病中だと、チャベスは国民に語った。このニュースに中南米全体が色めき立った。回復は望み薄か?12年の大統領選には出馬できない?任期途中で辞任するのか?
チャベスは即座に噂を否定。政権の移譲はなく、「社会主義モデルヘの移行があるだけだ」と断言した。10月には「癌は完治」したと宣言。あと20年、大統領を続けると豪語した。

それでも化学療法で髪が抜け、顔がむくんだチャベスに以前のような威勢の良さは感じられない。現在、首都カラカスで話題になっているのは外国企業の接収でも、「ヤンキー」を罵るチャベスの悪口雑言でもない。今や「チャベスなきベネズエラ」が公然と語られている。

変化の可能性がほの見えると、ベネズエラ政界は深い眠りから覚めた。05年の議会選挙をボイコットし、一院制の議会がチャペス派ブ色に染まるのを許した主要野党も、寄せ集め所帯の連合「民主統一会議」を結成。12年2月には10月の大統領選挙に向けて予備選を実施する。

現時点で野党側の統一候補に名乗りを上げているのは5人。
本命視されているミランダ州のイケメン知事エンリケ・カプリレス・ラドンスキ(39)は、支持率ではチャベスと互角だ。穏健派のラドンスキは、貧困層への生活扶助や住宅補助など人気のあるチャベスの福祉政策を引き継ぐ一方、犯罪の撲滅と劣化した公的医療の再建、教育の「非政治化」に取り組むと公約している。

後継者なき体制の不安
だが野党にとって最大の追い風は、チャベス政権の機能不全かもしれない。肥沃な農地と豊富な石油に恵まれたベネズエラは経済大国になる可能性を秘めているが、失政と腐敗がたたってインフレ率は中南米で最悪の27%。カラカスは殺人事件の発生率が世界最悪レベルの危険な都市だ。チャベスの外国企業接収はナショナリズムを高揚させたが、おかげで外資の流入は途絶え、国内産業の生産性は低下。社会資本の老朽化も深刻だ。

ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)はかつて高い生産性と競争力を誇ったが、チャベスの支配下で経営基盤が弱体化。産油量は10年前より減っている。「チャベスは(触れるものがすべて黄金になる)ミダス王の逆パターンだ」と、グスタボ・コロネル元総裁は言う。 

チャベスの政治生命はまだ終わったわけではない。メディア操作の達人だけあって、癌との闘いを巧みに人気回復に利用している。軍と大規模な民兵組織、多くの報道機関を支配下に置き、バラマキ政策で釣った何百万もの支持者を味方に付けている。
さらに彼は後継者の育成を意図的に避けてきた。「チャベスがつくり上げた不安定なベネズエラの安定軸は、チャベス自身だ」と、地元の政治学者ソッコロ・ラミレスは言う。
たとえ12年の大統領選で野党側が勝っても、既得権益を握り続けてきたチャベス派との融和に苦労することになりそうだ。  マック・マーゴリス(リオデジャネイロ) 【12年1月4日号 Newsweek日本版】
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ソ連崩壊から20年 経済崩壊モルドバで深刻化する孤児問題 コソボのセルビア系住民は・・・

2011-12-29 22:20:54 | 欧州情勢

(モルドバのクプクイ 孤児施設の子供たち “flickr”より By alex.spatari http://www.flickr.com/photos/spatari/3541467263/

子どもの3人に1人が孤児
昨夜、NHKで、旧ソ連の構成国だった東欧の小国モルドバの孤児問題を扱った番組を放映していました。

****光なき孤児〜ソ連崩壊20年 東欧の小国の悲劇〜」****
子どもの3人に1人が孤児だという、旧ソ連の構成国だった東欧の小国モルドバ。
独立から20年、ソ連の経済圏に組み込まれていた産業が崩壊し、国民1人当たりの月収が100ユーロという、ヨーロッパ最貧国に転落。貧困にあえぐ人々は、不法な手段で海外に出稼ぎに出てしまい、モルドバに戻ろうとはしません。国は残され孤児となった子どもの教育にまで手が回らず、外国人との養子縁組を推進するまでに追い詰められています。孤児問題を通し、ロシアからもヨーロッパからも見捨てられた国・モルドバの現在を見つめます。【HNKホームページより】
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内容的には、今年1月のNewsweek記事と、ほぼ同じです。
****出稼ぎ孤児の国モルドバの悲しみ****
ルーマニアとウクライナに挟まれた東欧の国モルドバ。
この国に住む幼いオルガ、サブリナ、カロリーナの姉妹は、もう3年以上も自分たちだけで生活している。母親役を務める長女オルガはまだ13歳だが、登校の2時間前には起床し、自分たちで掃除や料理をする。彼女たちの母親は07年に不法移民としてイタリアに渡り、高齢者の世話をして収入を得ている。娘たちには1日に2度電話をかけ、月に1度は服や食料などを送る。しかし今も合法的な滞在許可を取得していないため、娘たちに会いに帰国することはできない。

モルドバでは近年こうした「出稼ぎ孤児」が大きな社会問題になっている。人口の約3分の1が西欧諸国などに出稼ぎに出ているといわれ、親が国外で働く子供の数も過去5年で倍近くに急増した。

問題はヨーロッパの最貧国であるモルドバの低迷する経済だ。ソ連からの独立以来、停滞を続け、08年の世界金融危機で致命的な打撃を受けた。国内の失業率は深刻な水準に達し、若者は国外に働き口を求めざるを得ない。
取り残された子供は精神的に傷つき、犯罪に走ることも多い。写真家のアンドレア・ディーフェンバッハは08年からこの問題を追っているが、彼女の目にはまだ改善の兆しは見えないという。【1月19日号 Newsweek日本版】
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“国民1人当たりの月収が100ユーロ(約1万円)”というのは、さすがに厳しい状況です。
登場女性が、ベビーシッターの仕事で、月200ユーロとも言っていました。
“欧州最貧国”と呼ばれていますが、わが子を残して国外に出て行かないと生きていけない現実があります。

一番手っ取り早いのは、隣国ルーマニア(EU加盟)に出稼ぎ出ることで、ルーマニアでは多くの職があります。更に、ルーマニア市民権を得られれば、EU域内各国に移動して働くこともできます。
しかし、50万人の希望者に対し、実際に市民権が得られるのは1万人ほど・・・とのことでした。
ただ、昨今は欧州経済危機で、外国人労働者の境遇はかなり厳しくなっているのではないでしょうか。

国外に仕事を得ても、国内に残された子供はどうなるのか・・・という問題が生じます。
出稼ぎに出た親との連絡と途絶えるケースも多々あります。そうしたこともあって“子どもの3人に1人が孤児”という状況になっています。
NHK番組は、そうした孤児問題の観点からのもので、モルドバの政治・経済情勢にはあまり触れていませんでした。

ソ連崩壊でモルドバ経済も崩壊
番組で経済的背景として取り上げていたのは、かつての基幹産業であるブドウ栽培・ワイン生産の崩壊です。
ソ連時代は集団農場でブドウを栽培し、大量にワインを生産しており、そのワインはソ連国内で消費されていたのが、ソ連崩壊・独立で農地は農民のものになりましたが市場を失い、現在は自家用に細々とつくる程度だとのことです。
番組では、「昔は良かった・・・」という言葉が何度も語られます。

モルドバについては、09年4月9日ブログ「モルドバ 選挙後の暴動で、大統領がルーマニア批判」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/2009040)で取り上げたことがありますが、そこからモルドバ経済崩壊について再録すると、“独立後の急速な市場経済化で従来の国営企業を中心とした経済体制が崩壊、更に、トランスニストリア問題で対立するロシアが天然ガス価格の値上げ、最大の輸出品であるワインの禁輸(国際的品質基準を満たしていないという理由)でモルドバに圧力をかけ、“ヨーロッパの最貧国”と呼ばれる状態に陥りました”ということになります。

“トランスニストリア問題”というのは、“国の東部に位置するドニエスル川東岸地域(別称:トランスニストリア、トランスドニエストル)にはロシア人・ウクライナ人が多く居住しており(ルーマニア(モルドバ)人、ロシア人、ウクライナ人が各々約30%)、91年に「沿ドニエストル共和国」として独立を主張、ロシア・ウクライナ・沿ドニエストル合同の平和維持軍によって停戦監視が行われています”という、ロシアを後ろ盾としたロシア人勢力の分離独立運動です。

モルドバは国の将来をEU加盟に求めているとのことですが、番組でも指摘していたように、EUが求める基準を何一つクリアできていないのが現状です。

与野党対立で大統領不在2年
更に、モルドバ再建の足を引っ張っているのが政治的混迷です。
09年4月9日ブログでは09年4月5日の議会選挙結果を巡って、勝利したとする与党・共産党に対し、野党勢力が暴動を起こしたことを取り上げていますが、結局、共産党は大統領選出に必要な議席をまとめられず、09年7月に再度、議会選挙が行われ、旧ソ連圏で唯一の共産党政権だったウォロニン大統領は09年9月に辞任しています。

しかし、09年7月の2度目の議会選挙結果は、共産党は48議席と後退し、野党4党が計53議席となって、与野党勢力伯仲の構図はむしろ強まり、野党側も大統領選出に必要な議席を獲得できませんでした。
その後、共産党側、野党側双方とも大統領を擁立できない“空白期間”が、2年以上経過した今も続いています。

****旧ソ連・モルドバ、大統領選べず 2年以上不在続く****
旧ソ連・モルドバの議会(定数101)で16日、大統領選出の議員投票が行われたが、唯一の候補者である親欧米の民主党党首ルプ氏が当選に必要な61票を獲得できず、再び選出に失敗した。旧ソ連から独立した諸国で唯一の共産党政権を率いたウォロニン大統領が2009年9月に辞任して以来、大統領不在は2年以上に及んでいる。

モルドバでは09年以降、親欧米派と共産党の議会勢力が伯仲し、双方の候補がギリギリで61票に届かず、大統領を選出できない状態が続いてきた。今回も親欧米派の連立与党で58票しかとれず、共産党は投票をボイコットした。30日以内に再投票されるが、情勢が動くかどうかは不透明だ。【12月17日 朝日】
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“国民1人当たりの月収が100ユーロ(約1万円)” “子どもの3人に1人が孤児”という状況で、2年以上に及ぶ“政治空白”は国民不在としか言いようがありません。

09年4月9日ブログでも触れたように、モルドバは歴史的にも、民族・言語的にもルーマニアと一体的な関係にありますので、91年の独立時から、“将来的にはルーマニアとの統合”ということがモルドバ・ルーマニア双方に想定されていました。
共産党政権は統合への熱意は冷めており、親欧米派の野党側がルーマニアとの統合を望んでいるそうです。

野党側が政権を握ればルーマニアとの関係強化で、経済的な打開策も出てくるのかもしれませんが、ロシアとの関係悪化で“トランスニストリア問題”は更にこじれそうです。
ただ、トランスニストリアは現在でもモルドバの実効支配が及んでおらず、ロシアの傀儡政権的な状態にありますので、実態としては今より悪くなることもない・・・とも言えます。モルドバ・ロシア双方の出方次第では、停戦状態が崩れる恐れはありますが。

グルジアの親ロシア分離独立勢力であるアブハジアと南オセチアには軍事介入して、国家承認を強行したロシアですが、トランスニストリアについてはどうでしょうか?

【「ロシアに故郷を守ってほしい」】
一方、セルビアから分離独立したコソボに少数派として残されたセルビア系住民が、RU加盟を目指してコソボとの関係修復を図るセルビア本国を見限り、ロシアの市民権を求めているという話もあります。
ユーゴスラビア崩壊、コソボ独立も、モルドバの経済崩壊同様、ソ連崩壊の流れのなかで起きてきた問題です。

****ロシア市民権を」署名7万人 コソボのセルビア系住民****
「我々にロシアの市民権を与えてほしい」
こんな書簡が11月中旬、旧ユーゴスラビアの小国コソボから、ロシア政府に届けられた。コソボで窮地にある少数派のセルビア系住民が、約2万2千人分の署名を添えた「嘆願書」だった。

コソボ北部のNGO「古きセルビアの運動」が、セルビア系住民の家々を回って署名を集めた。その後も賛同者は増え、今は約7万2千人に膨らんだ。
NGOのジョルジェビッチ代表(65)は「我々は新天地を求めているのではない。ロシアに故郷を守ってほしいのだ」と訴える。

旧ユーゴはかつて多民族国家の象徴だったが、東西冷戦終結とともに民族対立が頭をもたげ、血みどろの内戦に突入、解体への道を進んだ。2008年2月、セルビアから一方的に分離独立を宣言したコソボでは、人口約220万人の約9割を占めるアルバニア系住民が首都プリシュティナに政府を樹立。一方で、1割に満たないセルビア系住民は辺境に追いやられ、大半は職にも就けず、セルビア本国からの支援で細々と暮らす。若者の多くは移住を始めている。

セルビアはコソボ独立に反対してきたが、それも当てにはできなくなってきた。セルビアは欧州連合(EU)加盟を目指しており、EUの提案を受け入れてコソボとの関係改善に傾いたからだ。12月にはコソボとの国境の共同管理にも合意し、事実上、国境の存在を認めた。

「このままではコソボのセルビア人は根絶やしだ。頼れるのはセルビアと血を分けたロシアだけ」とジョルジェビッチさんは言う。
瀬戸際のセルビア系住民にとって、米欧主導のコソボ独立に反発し、今も国家承認していない大国ロシアは「守護者」だ。同じスラブ民族で正教を信じ、言語も近い。嘆願書に署名した警備員のイワノビッチさん(38)は「世界を二分して西側と覇権を争った力は今も健在だ。我々の声を世界に代弁してくれる」。

だが、ロシアのメドベージェフ大統領は、ロシア市民権付与は「現行法では対応できない」との見方を示した。代わりに指示したのが人道支援の強化だった。
今月7日、発電機や暖房具、毛布、食料など285トンの人道支援物資を積んだロシア緊急事態省の輸送車両25台がコソボに向かった。しかし、国境手前で3日間の足止めをくらった。EU側は「国連もEUもコソボ北部が人道支援物資の必要な地域とはみなしていない」と発言。ロシア側は「政治的動機がある」「人道的犯罪だ」と反発した。ソ連崩壊から20年。東西対立の痕が、今もうずいている。【12月27日 朝日】
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ロシアも深入りはしたくないのでは・・・とも思いますが、「強いロシア」を標榜するプーチン首相が大統領に復帰して、こうした問題にどう対処するのか注目されます。
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イラン  アメリカの経済制裁強化に対し、“ホルムズ海峡封鎖”に言及

2011-12-28 21:37:59 | イラン

(10月9日 ホルムズ海峡を通過する米空母ジョージ・H・W・ブッシュ イラク撤退で米海軍のこの地域への展開がどうなったのかわかりませんが、おそらく今もアメリカ側は何らかの展開をしていると思われます。イランの“ホルムズ海峡封鎖”ともなれば、両国の直接の衝突も懸念されます。“flickr”より By Official U.S. Navy Imagery  http://www.flickr.com/photos/usnavy/6325828304/ )

米:イランの原油収入を止める制裁強化
イランの核開発に対するアメリカの批判・警告のトーンが上昇しています。

***イラン、1年以内の核兵器保有も=「あらゆる措置で阻止」―米国防長官***
パネッタ米国防長官は20日までに、CBSテレビとのインタビューで、イランの核兵器製造能力について「恐らく1年ほど、ことによるとそれ以内の保有が可能」と述べた。また、イランが核兵器製造に着手すれば「阻止するのに必要なあらゆる措置を取る」として、軍事行動も辞さない姿勢を示唆した。【12月21日 時事】
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“軍事行動”とは、イスラエルがかねてより主張している、イラン核施設への攻撃です。
オバマ米大統領も、16日、ユダヤ系団体の会合で、イスラエル防衛に関与する米国の決意を改めて表明する一方、「イランの核兵器獲得を阻止する」と述べています。

“軍事行動”の実行は、イラン側の報復など、その影響を考えると容易な判断ではありませんので、先ずは経済制裁強化でイランへの圧力を強めることになります。
アメリカは15日、イラン中央銀行と取引する金融機関に制裁を科す条項を盛り込んだ国防権限法案を可決しました。
イランの資金源である原油収入を締め上げる、これまでより1段踏み込んだ制裁措置ですが、世界的な原油価格高騰によってアメリカ経済の足を引っ張ることにもなりますので、大統領選挙を控えて具体的運用には慎重を期す必要があります。

****米国:イラン制裁法成立へ 各国経済に打撃も****
米上院は15日、イラン中央銀行と取引する金融機関に制裁を科す条項を盛り込んだ国防権限法案を可決、米国として核開発を進めるイランに対して強硬姿勢を一段と強めた。

イラン中銀は原油輸出入代金の決済窓口で、米国はイランの原油収入の資金源を止めることで核放棄圧力を高めることを狙う。
ただ、制裁を発動すれば、世界的な原油高騰を招くリスクがある。回復力の弱い米経済や、東日本大震災から復興途上の日本など同盟国の経済にも打撃を及ぼす可能性があり、オバマ米政権は新たなイラン制裁カードについて、慎重な運用も求められそうだ。

法案は下院ですでに可決済みで、大統領の署名で成立する。米国内法のため、外国金融機関のイラン中銀との取引を直接的に禁じることはできない。しかし、イラン中銀と相当額の取引を持つと大統領が認定した場合、海外の金融機関に対しても米銀行とのドル取引を禁止することができる。外国金融機関は米国での事業維持かイラン中銀との取引継続かの選択を迫られる。議会は米国が世界経済の中心であることをテコに、イラン中銀を狙った制裁に打って出た。

だが、イランの原油輸出が減少すれば原油価格が高騰する可能性が高い。米議会での法案可決が確実になった13日、国際エネルギー機関(IEA)は報告書で制裁強化によって、イランが今後5年間で原油生産能力を4分の1近く失う可能性があると指摘。イラン中銀との取引禁止で原油価格が「著しく上昇する可能性がある」との見方を明らかにした。

来年11月の大統領選で再選を目指すオバマ大統領は国内経済の再建に躍起だ。カーニー米大統領報道官は13日の記者会見で「我々は常に原油価格を注視している」と述べ、経済回復の足を引っ張る原油価格高騰を望まないオバマ政権の本音をにじませた。

新制裁の法律は大統領に対して、イランからの原油輸入を「顕著に減らした」金融機関を制裁対象から除外できる特例を認めている。大統領が除外できるのは「国家安全保障上で利益にかなう場合」とされているが、具体的な運用基準の詰めはこれからだ。米政府は日本、韓国などイランと原油取引のある同盟国の意向も踏まえ、制裁の運用の詳細を詰める方針だ。【12月16日 毎日】
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日本:例外規定適用を働きかけ
原油輸入の1割をイランに頼る日本にも大きな影響がおよびます。
日本政府は、“例外規定”の適用を求めています。

****日本産業界に不安感****
イランから原油を輸入する日本は、オバマ政権に対し、新制裁の例外規定の適用を強く働きかける考えだ。米側も「(震災後の復興過程にある)日本経済の安定の重要性は十分に認識している」(ナイズ米国務副長官)とし、日本の立場に理解を示す。ただ、どのようなケースが制裁の例外に認定されるかはまだ決まっておらず、米議会の対イラン強硬ムードが高まる中、オバマ政権が日本にどこまで配慮できるかも不透明。日本政府や産業界には不安感が漂う。

「我が国、世界経済に与える影響への懸念を外務省から米側に伝えている」--。玄葉光一郎外相は16日の閣議後の記者会見でこう説明。「制裁法には例外規定も入っている」と述べ、原油輸入停止回避へ米政府への働きかけを強める考えを強調した。

イランは日本の原油輸入先の第4位で、輸入全体の約1割を占める。制裁法の影響で日本のメガバンクなどがイラン中銀との取引を停止し、原油輸入が事実上ストップしても、輸入先トップのサウジアラビアなどから代替調達が可能とみられる。経済産業省幹部は「急激な供給不足が起こるとは考えにくい」と話し、イラン制裁強化がオイルショック的な事態につながる可能性は否定する。

ただ、イランからは韓国や中国、イタリアなども原油を輸入しており、これらの国が米国の新制裁法を恐れて、一斉にサウジなど他の中東産油国からの代替輸入に走れば、原油価格が跳ね上がるリスクがある。

足元では東京電力福島第1原発事故を受け、国内の電力会社が電力安定供給維持のため、電源を原発から火力発電に切り替えている状況でもある。火力発電のエネルギーの主力は原油から液化天然ガス(LNG)に移っているとはいえ、米新制裁の影響による原油価格上昇がLNGに波及すれば、日本経済への打撃は大きい。
全国銀行協会の永易克典会長は16日の記者会見で「(イランからの輸入が)完全に止まると、日本経済に悪影響が及ぶ」と懸念を示し、政府に輸入停止回避への外交努力を求めた。【同上】
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制裁で疲弊するイラン経済
イラン指導者の強気な発言にもかかわらず、欧米諸国による経済制裁によって、イラン経済が大きな負担を課されているのも事実です。
国民世論を気にするアフマディネジャド大統領としては、本音としては、国民生活を圧迫するこれ以上の欧米との対立激化は避けたいところではないかとも見られていますが、イラン国内の保守派からの批判にさらされている政局では、安易な妥協もできないところです。

****イラン通貨リアル急落 経済制裁強化の懸念広がる****
イランの通貨リアルが下がり続けている。核開発に対する国際社会の経済制裁が強化されるとの懸念が広がっているためだ。特に米国の新たな制裁案は、イラン輸出の主力である原油収入を狙い撃ちにしており、経済へのさらなる影響が予想される。

「アラブ首長国連邦(UAE)ドバイとの貿易を一時中止する」。イランのメヘル通信がこう報じた20日、テヘランでは、リアルの実勢価格が1ドル=1万4千リアルから1万5500リアルに急落した。イランにとってドバイは、輸入の主要窓口の一つ。イラン政府は報道を否定したもののリアル安は続き、26日は1万4800リアル。1979年のイスラム体制成立後、最安値の水準とされる。
国際原子力機関(IAEA)が11月、イランの核兵器開発を示唆する報告書を公表。国際社会が制裁の強化策を検討し始め、リアル安に拍車がかかった。

米国の上下両院は、原油代金を決済するためイラン中央銀行と取引する外国の金融機関に対し、米国の金融システムから締め出すとの制裁強化案を可決した。イランは日量約360万バレル(11月現在)の原油を生産、歳入の6割を占める。米国の制裁が実施されれば原油取引に影響が及ぶのは必至だ。
さらに、イスラエルや米国がイランの核施設に対する軍事攻撃の可能性を排除していないこともリアル安の要因。年明けには2万リアルに達するとの予測もある。

アフマディネジャド大統領は「経済は健全だ」と述べ、不安の打ち消しに躍起。制裁が強まっても中国などが原油を買ってくれるとの読みもあるようだ。
だが、イランのインフレはすでに年20%とされる。銀行関係者によると、預金を米ドルに両替する市民が急増。生活に苦しむ市民の多くは大統領の言葉をそのまま受け止めておらず、自衛策に走っているようだ。【12月27日 朝日】
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イラン:“ホルムズ海峡封鎖”で威嚇
イスラエル・アメリカの“持ち札”が“核施設攻撃”“ガソリン禁輸”“イラン原油輸出への圧力”なら、イランにとっての“切り札”というか“伝家の宝刀”は“ホルムズ海峡封鎖”です。
海上輸送された原油のおよそ3分の1が通過するホルムズ海峡は、最も狭いところでの幅は約33kmしかなく、ここが封鎖されると原油取引、世界経済は大混乱します。これまでもイランはしばしば“ホルムズ海峡封鎖”をちらつかせてきました。

実際、イラン・イラク戦争のときは、イランはイラクの石油輸出を止めるためにホルムズ海峡に機雷を仕掛けて封鎖を行いました。現在イランはペルシャ湾岸に地対艦ミサイルを配備しており、かつての機雷以上に有効な封鎖能力を持っています。

その“ホルムズ海峡封鎖”が、再度、イラン副大統領によって語られています。

****イラン、追加制裁ならホルムズ海峡封鎖・原油輸送停止と警告****
イランは27日、同国の原油輸出に対し制裁措置が加えられた場合には、ホルムズ海峡を封鎖し原油輸送を停止させると警告した。
国営イラン通信(IRNA)の報道によると、ラヒミ第1副大統領は「彼ら(西側諸国)がイランの原油輸出に制裁を課すなら、原油一滴たりともホルムズ海峡を通過させない」と述べた。
イラン軍は24日からホルムズ海峡で10日間の演習を行っている。

国際原子力機関(IAEA)は11月、イランに核兵器製造の疑いがあるとする報告書を発表。それ以降、西側諸国はイランへの圧力を強めており、欧州連合(EU)は1月の次回会合までに、イラン産原油の禁輸措置を含め、追加制裁措置を実施するかどうか決定するとしている。

米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)によると、2009年に海上輸送された原油のおよそ3分の1がホルムズ海峡を通過している。
実際に封鎖すれば、湾岸産油国に原油を依存する国とイランとの間で、軍事的緊張が高まる恐れもある。だが封鎖すれば、イラン自身が受ける経済的被害も輸入国と同様に大きいことから、一部では決定には慎重を期すとの見方も出ている。

また、業界関係者によると、サウジアラビアなどペルシャ湾岸の石油輸出国機構(OPEC)加盟国は、追加制裁でイラン産原油の欧州への輸出が止まれば、その分を補う用意がある、との姿勢を示唆している。
米国務省は、イランからの警告について「空威張り」と一蹴するとともに、米国は原油の自由な輸送を支持している、との姿勢を強調した。
同省のトナー報道官は「核に関する国際的な責務に従っていないという、本当の問題から注意をそらそうとする試みにすぎない」と述べた。

イランの警告で供給懸念が強まり、原油価格は上昇。北海ブレント先物2月限は1.31ドル高の1バレル=109.27ドル(清算値)。米原油先物2月限は1.66ドル高の同101.34ドルで、期近物の清算値としては、11月16日以来の高水準となった。【12月28日 朝日】
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イランの“ホルムズ海峡封鎖”に備えて、サウジアラビアは紅海側からの輸出能力を高めており、アラブ首長国連邦(UAE)はホルムズ海峡を迂回する陸上パイプラインを建設しているとのことですので、この地域の原油が全く入らなくなる訳ではなさそうです。
そうは言っても、影響は大きなものがあります。

イラン側がそこまで踏み込めば、アメリカ・イスラエルも“核施設攻撃”のカードを切ることが現実的選択肢となります。そうなれば、あとは大混乱です。

強硬措置が諸刃の剣であることは、イラン・アメリカ両国指導者も熟知しているところです。
理性的に考えると割り合わない選択ですが、強気の対応を求める国内世論への配慮もあって、一旦動き出すとエスカレートしがちなのは、古今東西の戦争の歴史が教えるところです。
年明け早々、物騒なことにならなければいいのですが。
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ロシア  大筋は“それでもプーチン” ただし、物言う中間層も成長

2011-12-27 22:08:44 | ロシア

(モスクワ 12月24日 不正選挙への抗議行動に参加する人々 “flickr”より By genia_zub4ik http://www.flickr.com/photos/zub4ik2/6574945289/

【「プーチンなきロシアを」】
ロシア下院選挙の不正疑惑に地する抗議行動が続いています。
24日には主催者発表で13万人とも12万人(警察発表によると2万9000人)ともいわれる参加者を集めました。

こうした批判に、メドベージェフ大統領は政治改革方針を示してはいますが、抗議は沈静化していません。
いまのところ、政権側はこうした抗議行動を強権的な鎮圧でいたずらに刺激することなく、静観の構えです。

一方、デモの組織委員の一人、役人の汚職批判を展開するネット活動家アレクセイ・ナバルヌィ氏(35)は、「我々は平和な活動家であり、権力を力で奪取はしない。来年、政権は平和的に代わる」と語っているように、抗議者側も街頭行動での政権転覆などではなく、来年の大統領選挙でプーチン復帰を阻止する、選挙による政権交代という目標を据えています。

****ソ連崩壊後最大「13万人デモ」 民主化、空約束に激怒****
ロシア下院選での大規模不正疑惑に抗議するモスクワの反政権デモは24日、参加者が主催者発表で13万人と今月10日の前回デモを上回った。1991年のソ連崩壊後で最大となる反政権運動のうねりが続いていることが浮き彫りになった形だ。
メドベージェフ大統領は前回のデモ以降、政治制度の民主化方針を示したが、デモでは政権側の「口約束」に終わるのではとの懸念が渦巻いていた。

モスクワ中心部のサハロフ大通りを、デモに参加する老若男女が埋め尽くした。人々は抗議運動のシンボルとなっている白いリボンを衣服につけ、白い風船やカーネーションを手にした人も目立った。
「前回デモでわれわれが要求した政治犯の釈放も、票の再集計も実現していない」「新年をロシア政治の転換点にしよう」。演壇からの呼びかけに参加者らは力強く呼応し、「プーチン(首相、前大統領)なきロシアを」と気勢を上げた。

前回のデモを受け、メドベージェフ大統領は22日の年次教書演説で、プーチン前大統領時代に廃止された知事選挙や下院選小選挙区制度の復活といった改革方針を表明した。
ただ、24日のデモ参加者からは「メドベージェフはこの4年間、改革を約束しながら何もしてこなかった」(27歳、男性技師)といった声が多く聞かれ、政権の表面的な“ガス抜き”には現時点で効果が表れていない。
プーチン首相が15日のテレビ放送で、反政権デモが「外国の資金援助」を受けていると述べたことは逆に参加者の憤りを招いており、男性団体職員(44)は「われわれを侮辱している。これからもデモに参加する」と話していた。

この日のモスクワのデモは10日と同様、1人も拘束されることなく平穏に終了した。都市部では政権に対する不満を持つ人が急増しており、大規模な反政権デモを弾圧することはもはや不可能だ。来春の大統領選でのプーチン首相再選は確実視されているが、不満がくすぶる中で次期政権運営が順調にいくかは不透明になりつつある。【12月25日 産経】
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民主主義より秩序
中東の民衆運動「アラブの春」を踏まえて「ロシアの冬」とも呼ばれるロシアの抗議行動ですが、これで実際に政権交代が実現するか・・・と言えば、それはないだろう・・・というのが、個人的な感想ですし、多くが指摘するところでもあります。デモ参加者からは「プーチンなきロシアを」の声があがってはいますが、“それでもやはりプーチン”ではないでしょうか。

****それでもプーチンは生き残る****
ロシア 下院選の不正問題でソ連崩壊以来最大のデモが発生 しかし大多数の国民は民主主義も革命も望んでいない(オーエン・マシューズ)

・・・・10日に行われた6万人規模のデモはソ連の共産主義体制崩壊後、最大のものだったが、モスクワのボロトナヤ広場が「第2のタハリール広場(エジプト民衆革命の中心地)」にはなることはない。プーチンがエジプトの独裁者ホスニ・ムバラクのように、市民の怒りによって権力の座から追われることもない。
プーチン体制にとっては、05年に年金削減に抗議する大規模デモが全土に広がって以来最大の試練であることは間違いない。4日の下院選では、過半数の有権者がプーチン率いる最大与党「統一ロシア」以外に投票した。不正により得票の水増しが行われたとされているにもかかわらず、同党の得票率は49.5%にとどまった(前回の07年は64%だった)。

それでも、デモに参加した市民は少数派でしかない。選挙への参加を許された唯一のリベラル政党ヤブロコの公式の得票率はたった3%(不正がなければ6%を獲得していたと、同党は主張)。ロシア共産党と公正ロシア党の一部リーダーはデモを支持しているが、両党の支持者が大挙してデモに加わる事態にはなっていない。

民主主義よりも秩序を
プーチンが直面しているのは、あくまでも民主主義の「管理」の問題だ。革命の脅威にさらされているわけではない。
民主主義の「管理」に関して、プーチン陣営の参謀たちは相次いでミスを犯した。まず、穏健リベラル派の大富豪ミハイル・プロホロフの政治活動を妨げたのが失敗だった。プロホロフの活動を容認していれば、市民の不満のガス抜きがかなりできたはずだ。それに加えて、選挙不正問題への対応がお粗末だった。(中略)

大半の庶民はプーチン体制の強権的な姿勢より官僚や警官の汚職や権限乱用を嫌っている
「アラブの春」とは、状況がまるで違う。エジプトのムバラク前大統領一派と違って、プーチンにはまだ多くの選択肢が残っている。例えば「良い独裁者」の役回りを演じ、高官を何人か更迭し、汚職で何人か訴追してもいいだろう。
それに、今回の下院選で統一ロシアの得票率が50%を割ったとはいえ、それはプーチン個人への反対票というより、汚職の蔓延に対する抗議の意味合いが強い。ロシア国民は誰でも、役人の汚職により日々迷惑を被っている。

ロシアの反体制運動で目下の最重要人物は、役人たちの大掛かりな汚職の証拠をインターネット上で暴露し続けてきた弁護士のアレクセイ・ナバルニーだ。汚職問題こそ、大半のロシア国民にとって最大の政治的な関心事だからだ。
ロシア国民の多くが最も関心を持っている政治的なテーマは、報道の自由の抑制でもなければ、莫大な予算をつぎ込んだ軍備強化への懸念でもなく、移民に対する厳しい取り締まりでもない。政権を裏切った人間の毒殺や、反体制派や野党系富豪の投獄でもない。
むしろ、一般市民はプーチン体制のこれらの行動を歓迎しているようだ。最近の調査によると、ロシア国民の間で、「秩序」を「民主主義」より優先すべきだと答えた人は、民主主義を秩序より優先すべきだと考える人の約3倍に達している。

その半面で、ロシアの一般市民は役人が私腹を肥やしたり、権力を乱用したり、警官がゆすり行為を働いたりしていることを、そして官僚体質がロシア経済の活気を奪っていることを嫌っている。ナバルニーのメッセージがリベラル派の野党指導者たちの言葉よりはるかに大きな共感を呼んでいるのは、そのためだ。
ナバルニーは政府への抗議活動を行ってはいるか、親欧米のリベラルな主張を展開しているわけではない。最近も反移民運動に参加するなど、極めてナショナリスト的な傾向が強い。

国民は政治に関心がない
ロシア人の圧倒的大多数は、リベラル派が嫌いだ(欧米の手先だと思っている)。民主主義者も嫌いだ(過去に国を滅ぼした犯人だと思っている)。「革命」など願い下げだと思っている(過去に起きた「革命」がどういう結果をもたらしたかを考えれば無理もない)。それ以上に、大半のロシア人は政治に関心がない。不満は持っているが、怒りは感じていないのだ。

実は、10日にロシア全土でデモに参加した人の数を合計しても、アメリカの感謝祭翌日、クリスマス商戦幕開けの日となる「ブラックフライデー」(今年は11月25且に買い物に出掛けたニューヨーカーの数より少ない。
ソ連が崩壊した91年(またはロシア革命が起きた1917年)と違って、怒れるロシア人が街を埋めているわけではない。経済の危機が政権の正統性の危機と結び付かない限り、今後も状況は変わらないだろう。歴史上、ロシアで革命が起きたときはいつもこの2つの要素が結び付いていた。

11月のある日、モスクワの総合格闘技の試合会場に姿を現したプーチンが観客からブーイングを浴びせられる事件があった。本来であればプーチンの中核的支持層であるはずの普通の市民が、こうして不満を噴出させたのは極めて異例のことと言っていい。
プーチンにとって本当に脅威なのは、民主主義を求める騒がしい少数派のインテリ層ではなく、この日の格闘技ファンのような物言わぬ大勢の市民たちだ。
役人の汚職と権限乱用を封じ込めることに失敗し、この層の不満を抑え切れなくなったとき初めて、プーチン体制は崩壊の瀬戸際に立たされる。【12月28日号 Newsweek日本版】
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中流層は、安定した暮らしのもとで民主的な政治を求める
ただ、ロシアでも「都市中間層」が増加しており、この層が安定した暮らしのもとで民主的な政治を求めて声をあげ始めています。今のところ、こうした中間層の不満の受け皿となる政治勢力が存在しないというのがロシア現状です。政権側も今後、こうした中間層取り込みの配慮が必要になるでしょう。

****ロシア、目覚めた都市中流層 反政権デモ、最大規模に****
■プーチン氏いまだ盤石、不満の行き場なし
「物言う モスクワ!」
集会を伝えた反政権紙ノーバヤ・ガゼータは、1面の見出しを、こう掲げた。
90年代の混乱を「自由の代わりに安定をもたらす」という図式で立て直したプーチン体制に、市民が声をあげたといえる。我々の声を尊重しろ、と。

もともとは野党勢力が呼びかけた集会だが、主役はふつうの市民だった。
下院選で共産党や中道左派「公正ロシア」へと、政権批判の票を投じた層だ。中道の政権与党「統一ロシア」と民族右派、さらに左派系という今のロシアの政治ではすくいとれない「行き場のない有権者層」だとみられている。大規模集会を許可した当局も、民意の動きを感じ取っている。

成熟社会の基盤である中流層は、安定した暮らしのもとで民主的な政治を求める。政治学者のラジホフスキー氏は「中流クラスは2000年代の原油高騰期に生まれた。そしていま、政治的に物言う時が来た」と指摘する。
ロシア国営保険会社の調査では17%とされるが、都市部では3割に達しているとする専門家もいる。欧米では「中流の崩壊」で街頭デモが起き、ロシアでは中流の形成でデモが起きる。来春の大統領選に向け、中流層の取り込みがいっそう活発になるのは確実だ。

ただし、ロシアはユーラシア大陸に広がる多民族国家だ。中流が育つ都市部と、なお「安定」が優先される地方とでは、地殻変動に時間差がある。
集会があった10日と翌11日に全ロシア世論調査センターが実施した調査では、大統領選での投票先はプーチン氏が42%を占めた。2位のジュガノフ共産党委員長の11%を大きく引き離した。プーチン氏の支持基盤は固いものの、行き場のない不満を市民に抱かせたままでの「大統領復帰」になるとの見方が強い。【12月22日 朝日】
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ソ連の崩壊を「残念」と思う人は減少傾向
最近の世論調査で興味深かったのは、下記のものです。
見出しは“ソ連崩壊「残念」5割超、復活望む声も”となっていますが、特筆すべきことは、“ソ連の崩壊を「残念」と思う人は2000年の調査では75%だったが、ここ10年は減少傾向が続いている”という点ではないでしょうか?

****ソ連崩壊「残念」5割超、復活望む声も ロシア世論調査****
1991年末のソ連崩壊を「残念」と思うロシア人は53%いる一方、かつての形でのソ連復活を望む人は14%――。ロシアの民間世論調査機関レバダセンターが、ソ連崩壊から20年になるのに合わせ、ロシア人のソ連へのノスタルジー度を調べた。

15共和国で構成されたソ連の崩壊を「残念」と思う人は2000年の調査では75%だったが、ここ10年は減少傾向が続いている。「残念でない」との回答は00年の19%から今年は32%に増えた。ソ連崩壊を「避けられた」と考える人は53%で、10年前より5ポイント減。「不可避だった」は33%で10年前より4ポイント増えた。
ソ連が崩壊して何が残念かについては、「共通の経済関係の喪失」(48%)、「大国に所属しているという感覚の喪失」(45%)、「相互不信の高まり」(41%)などが挙がった。【12月25日 朝日】
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ソ連復活とも見えるプーチン首相の掲げる“ユーラシア連合構想”は、未だ多くの支持基盤があるとも言えますが、次第に国民の意識とのずれが大きくなりつつあるとも言えるのでは。
   
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クリスマスミサ  出口が見えないパレスチナ 流血のナイジェリア

2011-12-26 22:20:02 | 中東情勢

(09年のベツレヘム聖カテリナ教会のクリスマスミサ 平和への祈りは今年も変わっていません “flickr”より By Directions to Orthodoxy http://www.flickr.com/photos/directionstoorthodoxy/4215140628/

【「中東全体の平和と安寧を望む」】
パレスチナの和平交渉の停滞、自治政府・アッバス議長をとりまく困難な情勢については、12月16日ブログ“パレスチナ自治政府解体論も 「もし自治政府が独立を達成できないなら、いっそ存在しないほうがいい」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111216)で取り上げたところですが、例年どおりアッバス議長も参加してベツレヘムでクリスマスミサが執り行われました。

****ベツレヘムの教会でクリスマスミサ 中東の平和を祈る****
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ベツレヘムの聖カテリナ教会で24日深夜から25日未明にかけてクリスマスミサがあり、大勢のキリスト教徒らが集った。

ミサでカトリック教会のフアド・トゥワル・エルサレム総大司教は「中東全体の平和と安寧を望む」と述べ、エジプト、シリアなどの指導者が良識を持って民衆のために尽くすよう求めた。ミサにはパレスチナ自治政府のアッバス議長やファイヤド首相も出席した。
パレスチナ人の大部分はイスラム教徒だが、多くの市民が夜遅くまで教会前の広場に集まり、キリスト教徒とともにクリスマスを祝った。【11月26日 朝日】
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毎年のことではありますが、こうした平和な祈りが、イスラエル・パレスチナ全土に、また、クリスマス以外の日々にも何故広がらないのか・・・と、素朴な疑問を感じるところです。

【「中東和平を目指す努力を台無しにする決定だ」】
ただ、現実は厳しく、イスラエル政府は東エルサレムの入植地で約1000戸の新規住宅建設の入札を行うと発表し、パレスチナの反発が高まっています。

****入植住宅1千戸入札=「和平努力台無し」パレスチナ反発―イスラエル****
イスラエル政府は18日、東エルサレムの入植地ハルホマなどで約1000戸の新規住宅建設の入札を行うと発表した。住宅・建設省報道官によると、入札実施から建設の開始までは通常1年半程度かかる。
10月にパレスチナが国連教育科学文化機関(ユネスコ)加盟を決めた直後、イスラエルのネタニヤフ首相は、東エルサレムなどで入植住宅の建設を「加速させる」と発表していた。

パレスチナが将来の国家の首都と位置付ける東エルサレムなどでの入植活動の継続に対し、パレスチナ自治政府のアブルデイネ議長府報道官はAFP通信に「中東和平を目指す努力を台無しにする決定だ」と非難した。【12月19日 時事】 
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今回のイスラエルの入札発表は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)でパレスチナの正式加盟が可決されたことへの報復措置として占領地への入植活動を決定したことによるものですが、英仏独ポルトガルの国連安全保障理事会理事国は20日、連名で非難声明を発表しています。
ただ、安保理ではアメリカがイスラエル非難に消極的ですので、安保理としてのまとまった対応はできないのが実情です。

****イスラエル:国連安保理4カ国が非難声明…入植者住宅建設****
東エルサレムやヨルダン川西岸で入植者住宅の建設を進めるイスラエルに対し、英仏独ポルトガルの国連安全保障理事会理事国は20日、連名で非難声明を発表した。議長国ロシアが「深刻な懸念」を表明するなど、入植活動には15理事国のうち米国を除く14カ国が懸念を示すが、拒否権を持つ米国が非難に消極的で安保理として対応できず、個別に意見を表明する異例な形となった。

声明で欧州4カ国は「イスラエルの行為は、中東和平を進めようとする4者(米国、ロシア、国連、欧州連合)協議の努力を踏みにじるものだ。入植者の暴力行為も非難する」とし、パレスチナとイスラエルに速やかな交渉再開を促した。
議長国ロシアのチュルキン大使は記者団に「ある国が安保理でのいかなる種類の声明も望んでいない」と付言し、米国を暗に非難した。(後略)【12月21日 毎日】
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【「入植者たちの暴力の台頭を防ぐ努力も、罰することもしていない」】
また、ユダヤ人入植地では、ユダヤ人の原理主義者たちがパレスチナ人のモスクに放火する事件が相次いでいるとも報じられています。

****ユダヤ人入植者によるモスク放火相次ぐ、パレスチナ****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で、イスラエル軍が政府に承認されていない違法なユダヤ人入植地の一部を解体したことに対し、ユダヤ人の原理主義者たちが腹いせにパレスチナ人のモスクに放火する事件が相次いでいる。(中略)
こうした襲撃事件は、イスラエル政府が違法入植地を解体する過程で、ユダヤ人入植者側の反動として起きている。一連のモスクに放火し「値札」の落書きを残す襲撃は通常、パレスチナ人が標的とされるが、9月にガリラヤのベドウィン村のモスクが放火されて以降、アラブ系住民を標的とするものも増えており、またイスラエル人の左派運動家やイスラエル軍も標的となっている。

今週12日、原理主義ユダヤ人入植者たちは抗議デモを実施し、ヨルダンとの境界沿いにある立ち入り禁止の軍事地域内に侵入。13日にはヨルダン川西岸にあるイスラエル軍基地を襲撃、車両を破壊した。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は14日夜、自らが率いる右派政党リクーの会合で、「わが軍の兵士たちに対する彼ら(原理主義のユダヤ人入植者)の攻撃は許さないし、われわれの隣人との宗教戦争を誘発することも許さない。モスクの神聖を冒涜させもしないし、ユダヤ人でもアラブ人でも傷つけることは許さない。彼らを拘束し、裁いてみせる」と強く非難した。
ただ、これまでもイスラエルの指導者たちはこうした事件を直ちに非難してきたが、実行犯が拘束されることは滅多にない。

一方、パレスチナ人社会は一連の襲撃事件に激怒している。パレスチナの指導者たちは、実行犯を罰しもせず放置しているとしてイスラエル政府を非難。マフムード・アッバス自治政府議長の報道官、ナビル・アブ・ルデイナ氏はAFPの取材に対し「モスクへの放火は、ユダヤ人入植者たちによるパレスチナ人への宣戦布告だ」と怒りをあらわにした。

パレスチナ自治政府は、イスラエル軍が「入植者たちの暴力の台頭を防ぐ努力も、罰することもしていない」と批判し、「そうした方針がパレスチナ人とその礼拝の場への入植者たちの憎悪犯罪をたきつけている。イスラエル政府がそのような原理主義者を無罪放免にする方針だから、こうした事件がいつまでも続いている」と強く責めている。【12月16日 AFP】
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パレスチナ側の“イスラエル軍が「入植者たちの暴力の台頭を防ぐ努力も、罰することもしていない」”という批判には、下記のような実情がるようです。

****ユダヤ過激派が「無罪放免」される理由*****
今月初め、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のモスクが放火された。同地区とイスラエルを合わせると、この2年で6件目のモスク放火事件だ。
一連の事件はパレスチナ人に憎悪を燃やすユダヤ過激派の仕業だとみたイスラエル警察は、2ヵ月前に特別捜査班を設置。だがこれまでに起訴された者は1人もいない。事件が一向に解決されない理由の1つは、イスラエル当局がユダヤ人の訴追に消極的なためだ。

イスラエルの軍法は、パレスチナ人の容疑者については長期間の身柄拘束を許しているが、ユダヤ人の場合は24時間以内に起訴の是非を判断しなければならない。それを承知しているユダヤ人容疑者は黙秘を続け、自白が取れない場合は解放される。
問題は当局の仕事が捜査ではなく、自白の強要になっていることだ。ハーレツ紙によれば、警察は指紋の採取やアリバイ確認、目撃者の聴取といった基本的な捜査活動さえ行っていない。

今回の放火に関して警察の広報担当者は、既に指紋採取などを済ませ「適切な捜査を行う」と話す。この2年を振り返ると、にわかに信じ難い言葉だ。【12月28日号 Newsweek日本版】
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日本だけでなく、世界の多くのキリスト教が一般的でない国々でもクリスマスは祝われていますが、ユダヤ教のイスラエルではクリスマスを祝うことは殆んどないようです。
宗教的に揺らぎがないと言えばそうですが、その頑なさが、パレスチナ和平の停滞、あるいはユダヤ人に対する偏見などの影響しているようにも思えます。
クリスマスだろうが何だろうが祝ってしまう日本人の軽薄さも、多くの民族・異なる文化の人々がつきあっていくうえでは必要なことかもしれません。

宗教的な分断が生む狂気のテロ
もうひとつ、クリスマス関連で目を引いたのは、ナイジェリアの惨状です。
****ナイジェリア、クリスマスに爆弾攻撃相次ぐ 礼拝中の教会狙う****
ナイジェリア各地で25日、クリスマス礼拝が行われていたキリスト教会などを狙った複数の爆弾攻撃があり、少なくとも40人が死亡した。すべての攻撃について、イスラム過激派「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪の意)」が犯行声明を出し、アフリカ大陸で最大の人口を持つナイジェリアで、ボコ・ハラムによるテロ行為への恐れと怒りが広がっている。

首都アブジャ郊外の教会では、クリスマス礼拝を終え信者らが外に出始めたところで爆発が起き、少なくとも35人が死亡した。なかには車に乗り込んでから爆発に巻き込まれ、車両ごと焼死した犠牲者もいる。また負傷者も多数出ており、重傷を負いながら神父にすがる信者の姿もみられた。
このほか中部ジョスでも、教会を狙った爆発があり、警察官1人が死亡。北東部のダマトゥルでは、秘密警察ビル前に停車中の軍用車を狙った自爆攻撃があり、犯人のほか警察官3人が死亡した。

ナイジェリア政府は軍を投入してボコ・ハラムを取り締まり、多数メンバーを逮捕したと宣言していたが、今回のボコ・ハラムの犯行を防ぐことはできなかった。
ナイジェリア治安当局は、一連の爆弾攻撃がボコ・ハラムの犯行であることを認め、バチカンや米国を始めとする欧米各国もボコ・ハラムを非難する声明を発表している。

ナイジェリアは、イスラム教徒が多数を占める北部とキリスト教徒を主とする南部とで宗教的な分断がある。【12月26日 AFP】
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これまでも何回かとりあげたように、ナイジェリアは上記“宗教的な分断”があり、両者間の衝突が繰り返されています。
それにしても、祈りの日の教会を狙ったテロというのは“狂気”としか思えません。
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エジプト  イスラム主義政党の台頭 第2回投票でも流れ変わらず

2011-12-25 20:13:02 | 北アフリカ

(11月28日 アレキサンドリアの投票風景 “flickr”より By samar fouad http://www.flickr.com/photos/samarfouad_86/6424458049/

激化する軍部批判の一方で、デモへの反感も高まる
ムバラク政権崩壊後の人民議会(下院)選挙が行われているエジプトでは、暫定統治する軍最高評議会への不満が強まっており、1週間で15人が死亡する事態となっています。
ただ、抗議者のなかには暴れたいだけの若者も少なからずいて、市民の多くは辟易しているのが実情・・・とも伝えられています。

****エジプト、深まる分裂 軍・デモ隊、双方へ反感****
エジプトで、ムバラク政権崩壊後に全権を掌握した軍部に対する批判が強まっている。この1週間で治安部隊とデモ隊の衝突で15人が死亡。過剰な暴力行使を批判する複数の市民グループが23日に再びデモを呼びかけた。一方、続く混乱にデモへの反感も高まり、社会の分裂が深まっている。

カイロ中心部タハリール広場では23日午前、数千人の市民が軍政の即時退陣などを求めて叫んだ。首相府や議事堂に向かう通りは軍部が封鎖。衝突を警戒し、救急車数十台が待機した。
民政移管などを求めて11月下旬から続く反軍部デモを排除しようと、軍部は今月中旬、治安部隊を動員して衝突となった。デモ参加者の女性をこん棒でめった打ちにして路上で衣服をはぎ取るといった手荒なやり方に、国連からも批判が出た。軍部が23日以降、デモ隊排除に乗り出せば、暴力が再燃する可能性がある。

衝突のさなかに古文書を収めた国立施設が何者かに放火され、貴重な歴史資料が失われるなど、社会の混乱が続いており、デモへの反感も高まっている。23日にはカイロの別の地域で軍政支持を訴えるデモも呼びかけられている。

動員力を持つイスラム団体、ムスリム同胞団もデモと距離を置いている。11月末から地域ごとに投票が行われている下院選挙で、系列の政党が第1党となる勢いを見せているため、選挙活動に集中して政局の主導権を握りたい構えだ。
デモを主導する青年らでつくる「革命継続連合」やリベラル派は選挙で伸び悩んでおり、タハリールのデモ隊からは「同胞団は権力の分け前がほしいだけだ」との批判も強まっている。【12月24日 朝日】
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イスラム系2政党が、比例区で計7割近い得票
こうした混乱のなかで、地域別に行われている人民議会(下院)選挙は第1回の首都カイロなどに続いて、北部ギザや南部アスワンなど行われた第2回投票の結果が発表されています。
結果は、第1回同様、ムスリム同胞団の政治組織であるイスラム穏健派の「自由公正党」がリードしており、厳格派の「光の党」も合わせると、イスラム系2政党が比例区で計7割近い得票を得ており、世俗派やリベラル派は伸び悩んでいます。

****イスラム政党、優勢続く エジプト下院選第2回投票****
エジプトで地域ごとに投票が行われている人民議会(下院)選挙で、イスラム系政党の勢いが続いている。カイロ近郊ギザなど9地域で行われた第2回投票の結果が24日に発表され、穏健派と厳格派のイスラム系2政党が、比例区で計7割近い得票を得た。

イスラム穏健派の自由公正党が比例区で約37%を獲得、小選挙区(計60)では半数を超えた。より厳格なイスラム法の導入を求める光の党も比例区で29%を得た。世俗・リベラル派は伸び悩んだ。比例区ではワフド党が10%で3位、リベラル新党連合のエジプトブロックが4位だった。

首都カイロなどで行われた第1回投票と同様の傾向で、イスラム勢力が新議会を主導する見通しだが、両党は今のところ議会での連携を否定している。
東部シナイ半島などでの第3回投票は来年1月3日から。選挙違反が理由で再投票となる選挙区などもあるため、全体の結果が確定するのは1月中旬以降となる見通しだ。【12月25日 朝日】
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「ファラオ(古代エジプトの王)の時代以来の高投票率だ」(イブラヒム選管委員長)という第1回の結果が、比例区で自由公正党は37%、光の党は24%とのことでしたので、傾向は変わっていません。
(なお、第1回投票率については、当初の62%から52%に大幅訂正されました。非常に奇妙ではありますが、詳しい事情はわかりません。)

「エジプト・ブロック」や「革命継続党」などリベラル系会派・政党は第1回投票後、選挙区での候補者調整を協議しましたが難航し、ごく一部での選挙協力にとどまったとのことです。【12月14日 毎日より】
「エジプト・ブロック」は、イスラム主義政党による「新しい独裁」が始まると危機感を訴える選挙戦術を展開しましたが、流れは変わらないようです。

第1党が確実なイスラム穏健派と評される「自由公正党」は、ムバラク政権時代に弾圧されたエジプト最大のイスラム組織ムスリム同胞団を基盤としています。「イスラムの精神に基づいた近代的な市民国家づくり」を主張、キリスト教徒を副党首に据えた「市民政党」の体裁を取っており、政治路線は現実主義的とされています。
一方、イスラム厳格派と評される「光の党」は、法制度を全面的にイスラム法とするよう主張しています。
政治路線の違いから、両党が議会で連携するかどうかは、不透明とされています。【12月8日 朝日より】

【「アラブの春」で台頭するイスラム主義
「アラブの春」による変革後、イスラム主義政党が台頭するのは共通現象です。
組織力・資金力があるのがそうしたイスラム主義政党だけで、世俗派政党の体制が整っていないという事情もありますが、これまで行ってきた福祉活動などが一定に評価された“民意”でしょう。

****アラブの春」契機 チュニジア焼身自殺1年 イスラム勢力、我が世の春****
中東・北アフリカに民衆デモが拡大し独裁政権が相次いで倒れた「アラブの春」のきっかけとなった、チュニジアでの青年の焼身自殺から17日で1年を迎える。民主化プロセスが進む中、各国の選挙ではイスラム勢力がほぼ“独り勝ち”し、さながら「イスラムの春」の様相を呈している。今後は国のあり方をめぐる議論が焦点となるが、国内政治の安定や経済の立て直しなど課題も多い。

1月にベンアリ前大統領が亡命し、その後の「政権崩壊ドミノ」の先駆けとなったチュニジア。今月14日に、10月の制憲議会選で第一党となったイスラム政党アンナハダ幹事長のジバリ氏が新首相に指名され、アラブの春以降では初のイスラム勢力主導政権が誕生することになった。
民主化が進む一方、インフレが国民の生活に重くのしかかり、生活の改善に強い期待がかかる。

王制国家モロッコでは11月、イスラム政党が第一党に躍進、同じく王制のヨルダンでも今年に入り、イスラム勢力のデモなどで首相が2度にわたり交代した。

さらに、域内外からの注目が集まるのが、8千万人超の人口を抱える地域大国エジプトの動向だ。
2月のムバラク前政権崩壊後、初めてとなる人民議会(下院に相当)選が11月に始まり、これまでのところ、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団傘下の自由公正党が、比例投票枠で36%の票を獲得。最終結果は全選挙区で投票が終わる来年1月の発表だが、第一党となる公算は極めて大きい。
16日付の政府系紙アルアハラムは中間集計として自由公正党や、より復古主義的なイスラム政党、ヌール党が得票率を伸ばしていると報じた。

イスラム勢力の躍進について政府系シンクタンクの専門家は「政策そのものへの支持よりも、慈善活動などを通じて社会への浸透を図ってきた成果との側面が大きい」と分析。「現実の政策に関わるようになれば、穏健化していくだろう」と予想する。
だが、選挙での優勢が顕著になるにつれ、同胞団幹部からは「ビキニ着用は非イスラム的だ」といった発言が出始めている。劣勢のリベラル派には、イスラム化が進むことで主要産業である観光に悪影響が出るとの懸念の声も強い。

今後の新憲法制定プロセスでは、同胞団などの意向が反映され、イスラム色の強いものとなる可能性もあるが、暫定統治を担う軍部がどういった態度に出るかは不透明なこともあり、当面は各政治勢力間で激しい駆け引きが続きそうだ。
内戦と欧米の軍事介入の末、カダフィ政権が倒れたリビアでも、最近では民兵組織同士の衝突が続発し、平和的に民主国家移行が実現するかはなお不透明だ。【12月17日 産経】
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厳格派も現実路線をアピール・・・・、今後軍部は?】
なお、エジプトで第2位につけており、穏健派「自由公正党」との連立が注目される厳格派「光の党」党首は、「良好な対米関係の維持に努め、イスラエルとの平和条約など国際的な取り決めを順守する」と、今のところは現実主義的な外交路線を示しています。

****対米関係維持、現実路線へ=「光の党」党首が単独会見―エジプト****
ムバラク政権崩壊後初めてのエジプト人民議会選挙で躍進が見込まれるイスラム原理主義の厳格派「光の党」のエマド・ガッファール党首は、9日までに時事通信と単独会見し、外交方針について「良好な対米関係の維持に努め、イスラエルとの平和条約など国際的な取り決めを順守する」と述べ、初めての政治参加に際して現実路線を取る意向を示した。

1月まで地域ごとに段階的に実施される議会選の第1回投票で、光の党は穏健派イスラム政党、自由公正党に次ぐ議席を獲得した。光の党はシャリア(イスラム法)導入を唱えており、エジプト国民や国際社会の中で警戒論も出ている。会見に応じた同党首には、穏健な姿勢を強調し、こうした懸念を薄める狙いもあったようだ。

ただ、ガッファール党首は、対米関係を維持する一方で「多極的な関係の構築を目指す」と表明。イスラエルとの関係についても「イスラエルは国連決議などを順守しておらず、そうした問題に対しては、われわれなりの立場がある」と述べ、条約の見直しに含みを残した。【12月9日 時事】 
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第3回投票でも大きな変化はないと思われますので、今後はイスラム主義政党間の連立、イスラム主義政党の台頭を警戒する軍部との関係が注目されます。
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経済危機のハンガリー  与党フィデスの独自路線でEU・IMFとの軋轢も

2011-12-24 21:12:22 | 欧州情勢

(メディア法に反対して、ハンガリー・オルバン首相へ抗議する欧州緑の党のメンバー “flickr”より By greensefa http://www.flickr.com/photos/greensefa/5370009412/

欧州委員会委員長、オルバン首相に書簡を送り、中銀法改正案に「強い懸念」を表明
欧州の経済危機と言えば、“PIIGS”と呼ばれる国々が話題になりますが、ハンガリーの状況もかなり悪化しており、欧州経済危機の懸念材料となっています。ハンガリーの負債は、GDPの81%にのぼると言われています。(日本がとやかく言える立場にはありませんが・・・)

クラシックファンは別として、あまり普段馴染みのない国ですが、ハンガリーは2008年にIMFとEUから200億ユーロの融資パッケージを受けたEU最初の国ですから、経済危機は今に始まった話ではありません。
その後も、状況は好転していませんが、EU・IMFとの関係がこじれているのが新たに懸念されるところです。

その背景には、ハンガリーの政治的な体質もあるように見えます。
与党フィデス・ハンガリー市民連盟は、事実上のメディア規制を行う法律を成立させましたが、憲法裁判所はこれを違憲としています。

****ハンガリー:メディア法など憲法違反と判断、破棄命令****
ハンガリーの憲法裁判所は19日、今年初めに施行されたメディア法の一部条項が憲法に保障された「報道の自由」を侵害していると判断し、破棄するよう命じた。宗教法人数の激減を招いた宗教法人法の改正についても、十分な国会審議が行われなかったとして無効とした。メディアや宗教界への影響力拡大に動いた中道右派のオルバン政権には、欧州連合(EU、27カ国)からも懸念が表明されていた。

メディア法は、国会の大多数を占める与党フィデス・ハンガリー市民連盟の後押しで成立。政府の影響下にある規制当局に強力な権限を与え、報道や番組をチェックさせることになった。公共の利益に反すると判断された場合、高額の罰金が科される。

ロイター通信などによると、憲法裁は、規制当局がメディアを事実上検閲するような権利を破棄。「情報源の秘匿」の制限条項も削除するよう命じた。ジャーナリストは裁判所による厳格な手続き無しに、情報の開示を強要されるべきではないとした。【12月21日 毎日】
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経済政策面でも、与党フィデス・ハンガリー市民連盟は“独自路線”を進んでおり、ハンガリー中央銀行を財務監査庁と合併する法案審議を行っています。
この合併がなされると、いわゆる中央銀行の政治からの独立が侵される懸念が強くなりますので、EU、IMFはこれに強く反対、撤回を要求しています。

また、財政案承認は国会の3分の2が必要で、それに満たない場合は大統領が国会を解散できるとした法案も同時に審議されています。
この法案が実施されると、与党は予算案を審議を人質にして、3分の2を獲得するまで解散総選挙を繰り返せることにもなります。

S&P ハンガリー国債をジャンク級へ格下げ
こうした混迷の事態を受けて、米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は21日、ハンガリーの長期信用格付けをジャンク級の「BBプラス」への1段階引き下げを行っています。

****ハンガリー:「BBプラス」へ1段階引き下げ 米S&P****
米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は21日、ハンガリーの長期信用格付けを投資適格の下限の「BBBマイナス」から、投機的水準となる「BBプラス」へ1段階引き下げた。S&Pは、欧州債務危機の長期化など外的な要因に加え、ハンガリーの政策の透明性や信頼性への疑問が投資環境を悪化させていると指摘した。

ハンガリーは先月下旬、国際通貨基金(IMF)とEUに金融支援を要請したが、ハンガリー中央銀行に政権の意向を反映しやすくするための中銀法改正案を巡り、「中銀の独立性を損なう恐れがある」と主張するIMF側と対立。金融支援の事前協議が中断する事態に陥っている。
ハンガリー・メディアによると、EUの内閣に当たる欧州委員会のバローゾ委員長は近ごろ、オルバン首相に書簡を送り、中銀法改正案に「強い懸念」を表明し、撤回を強く促したという。【12年22日 毎日】
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この決定により、22日のハンガリー金融市場では、国債利回りが1カ月ぶり高水準に達したほか、株式相場と通貨フォリントが下落し、トリプル安となっています。

ハンガリー国内の反応は・・・と言えば、国際的な懸念・批判とは大分様相が異なるようです。
****四面楚歌のハンガリー****
・・・・ところがハンガリー政府はS&Pの格下げに対して、「経済好転の兆候を意図的に無視した政治的な決断だ」などと反論している。
IMFの支援要請交渉についても、1月には再開する予定だと政府は言っているが、殆どの投資家は、最低でも中央銀行に関する法律が撤回されない限り交渉再開は無いと考えている。

ハンガリー政府は国際的には四面楚歌の状態だけど、外国語の通用率が低いし、メディア法で外国のニュースの配信は政府系の1社に絞られているから、殆どの人はハンガリー政府の話しか知らされない。だからハンガリー経済が悪いのは外国勢力のせいだと考える人が多いのだとか。 【haydnhil氏 12月23日ブログ“クラシックおっかけ日記”より】
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【“キリスト教民主主義”か“ネオ排外主義”か
こうした“独自路線”を進める与党フィデス・ハンガリー市民連盟については、“諸政策に国家の介入をより多く認める、キリスト教民主主義的・準社会主義的政策をとっている。(中略)左派メディアからは激しく嫌われており、極右政党であるかのごとき批判をされることもあるが、政治思想的にはオーストリア国民党、ドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)などに類似のキリスト教民主主義政党である。”【ウィキペディア】ともありますが、排外主義的体質への批判もあります。

****ヨーロッパに忍び寄るネオ排外主義****
ユダヤ人やイスラム教徒を標的にする極右政党の躍進が各国で相次ぐ不気味

ヨーロッパに新たな分断が生まれている。かつての鉄のカーテンとは違って、今回の「壁」は異質なものに対する強い拒否反応。西ヨーロッパではイスラム教徒、東ヨーロッパではユダヤ人とロマ人、同性愛者が標的になっている。

オランダでは3月3日の地方選で、イスラム教徒排斥を唱える極右の自由党が主要都市で躍進。続いて4月11日にはハンガリーで国会議員選挙の第1回投票が行われ、「ユダヤ資本」が「世界をむさぼり食おうとしている」と攻撃するフィデス・ハンガリー市民連盟が、過半数の票を獲得した。
フィデスよりもあからさまに反ユダヤ主義を掲げる極右政党ヨッビクも、今回初めて26議席を獲得し、従来の政権与党である社会党と2議席差に迫った。初の国会進出を果たしたヨッビクの幹部たちは、ネオナチ風の制服を着て登院したいと考えている。

最近の政治学者はこうした勢力を「反ユダヤ主義」ではなく「急進的ポピュリズム」と表現したがる。だがヨーロッパの歴史を学んだことのある人なら、政治的にユダヤ人が迫害された時代との共通点は無視できないはずだ。

「悪いのはユダヤ資本」
世界的な不況のあおりを受けて有権者が失業や所得減に苦しむなか、スケープゴートを求める風潮がかつてと同じ有害な政治を生み出している。
フィデスのオルバン・ビクトル党首は、ハンガリーが共産主義から脱却した頃は熱心な市場経済論者だった。しかし今はナショナリズム色の濃い主張を展開している。

ユーロ圏諸国に(今のところ)救済してもらっているギリシャと違い、通貨フォリントが下がり続けているハンガリーは孤立無援だ。市民は景気の良かった頃に組んだユーロ建ての住宅ローンや自動車ローンの返済に苦しんでいる。
悪いのは社会党政権やグローバル化、国際資本だとする声はよく聞く。しかしフィデスは、さらに踏み込んだ主張を展開。同党のモルナール・オスカル議員は「グローバル資本やユダヤ資本ではなく、ハンガリーの利益を最重視すべき時だ」と訴えた。

ヨッビクはハンガリーで15%近い支持率を獲得。一方、チェコではミレク・トポラーネク前首相が、ユダヤ人や同性愛者に対する差別的な発言を連発したせいで、5月の選挙を前に市民民主党の党首辞任に追い込まれた。

多様性と民主主義への嫌悪
ポーランドの政治学者ラファル・パンコウスキは新著『ポーランドにおけるポピュリスト急進右派』で、こう指摘している。「反ユダヤ主義はポーランドの右派ポピュリストにとって重要な要素だ。現在ユダヤ人の人口は歴史上最も少ない水準にあるが、反ユダヤ主義は多様性と自由民主主義に対する嫌悪感を暗示している」(後略)
【10年4月28日号 Newsweek日本版】
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EU27カ国とは言いつつも、その内実は多様です。
先のEU首脳会議ではイギリス・キャメロン首相が“孤立”を選択したとして話題になっていますが、スウェーデン、チェコ、デンマーク、そいて今日取り上げたハンガリーなども、新条約署名へ態度を保留しています。
危機的状況への対応こそが共同体の真価でもありますが、危機的状況になればなるほど、綻び・不協和音も高まるのが実態です。
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フランス下院 オスマン・トルコによるアルメニア人「虐殺」の否定を禁じる法案可決

2011-12-23 21:33:40 | 欧州情勢

(アメリカ下院外交委員会で「大量虐殺」非難決議がなされ、アルメニアとの交渉も暗礁に乗り上げていた10年3月、トルコのエルドアン首相は「これまで大目に見てきたトルコ国内に10万人いるアルメニア人移民を帰国させるかどうか検討せねばならない」と恫喝しました。なお、トルコでは虐殺を議論することは法律で禁じられているようです。“flickr”より By Ashnag http://www.flickr.com/photos/studioashnag/4445459344/ )

【「虐殺」か「戦乱の中で起きた不幸」か?】
日本も近隣国との間にいくつかの歴史問題を抱えていますが、それぞれの民族感情が背景にあるだけに、解決はなかなかスムーズにはいきません。

イスラム穏健派のエルドアン首相のもと、今や中東の地域大国として存在感を発揮し、「アラブの春」においてもイスラム民主主義の手本と評価されるトルコに対し、隣国アルメニアは、第1次大戦中、約150万人のアルメニア人がオスマン帝国による強制移住の過程で帝国軍に虐殺されたり、病気で死亡したりしたとして、「虐殺」があったとしています。

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第1次大戦中の1915-1917年、オスマン帝国領内の少数派・辺境住民でキリスト教徒が多いアルメニア人は、敵国ロシアと内通し、独立を画策する勢力として強制移住させられ、アルメニア側は150万人が組織的に虐殺されたと主張しています。フランス国会やアメリカ下院外交委員会も、これを「虐殺(ジェノサイド)」と認定しています。
一方のトルコは「虐殺」を拒否し、実際には、アルメニアがアナトリア東部で独立のため武装しロシアの侵略軍を支持した際に、市民間の衝突で30万-50万人のアルメニア人と少なくとも同数のトルコ人が死亡したと主張しており、双方に犠牲者が出た「戦乱の中で起きた不幸」だったとしています。
【09年9月6日ブログ「トルコとアルメニア 「虐殺」問題を乗り越えて、国交樹立へ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090906)より再録】
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仏内アルメニア系有権者に迎合?】 
上記ブログでも触れたように、フランスやアメリカでもこの「虐殺問題」は論議されていますが、フランス下院は、22日、オスマン帝国によるアルメニア人虐殺を否定することを禁じる法案を可決しました。
これはアルメニア側の主張に沿うものですが、フランス国内に数百万人いると言われるアルメニア系有権者を対象にしたサルコジ大統領の再選戦略だとも指摘されています。
当然ながら、トルコは即座に反発しています。

****アルメニア人虐殺の否定を禁じる法案を可決、仏下院 ****
フランス国民議会(下院)は22日、第1次大戦中の1915年に起きたオスマン帝国によるアルメニア人虐殺を否定することを禁じる法案を可決した。違反者には4万5000ユーロ(約460万円)の罰金と禁固1年の罰則も規定されている。

アルメニア側は150万人が死亡したとしている。一方、トルコ側は死者の数は約50万人で、死因は虐殺ではなく第1次大戦中の戦闘と飢餓によるものだと主張し、侵略してきたロシアの側に付いたとしてアルメニア人を批判している。

■外交・経済への悪影響を懸念
法案が可決されればフランスとの外交・経済関係に大きな影響があると警告していたトルコ政府は激しく反発している。
レジェプ・タイップ・エルドアン首相は駐仏トルコ大使の召還を命じ、フランスが航空機のトルコ領空通過やトルコ国内の軍事基地使用を要請してきた場合はケース・バイ・ケースで判断し、フランス軍の艦艇がトルコ国内の港湾を使用したいという要請があっても全て拒絶すると述べた。
エルドアン首相はさらに、1月にパリで予定されている経済関係の会議をボイコットすると述べた。両国の企業関係者は、年間取引額が120億ユーロ(約1兆2200億円)に上る両国間の貿易への影響を懸念している。

エルドアン首相はまた、フランス国内にいる数百万人のアルメニア系有権者に迎合したとニコラ・サルコジ仏大統領を批判するとともに、制裁措置を強化する姿勢を示した。【12月23日 AFP】
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法案の成立には、今後の上院での可決も必要になります。

頓挫した国交樹立協定締結交渉
前出【09年9月6日ブログ】でも取り上げたように、トルコとアルメニアの関係には、この虐殺問題だけでなく、アルメニアの隣国アゼルバイジャン領内に居住するキリスト教系アルメニア人の独立をアルメニアが支援・軍事介入し、これにアゼルバイジャンと同じイスラム国トルコが反発してアゼルバイジャンを支援するという「ナゴルノ・カラバフ紛争」も絡んでいます。

トルコとアルメニアは09年、こうした歴史問題・領土問題を乗り越えて、国益を考慮して関係正常化に動き出しました。ただ、当時から先行きの難しさを示してもいました。

****国交樹立合意に調印 トルコ アルメニア 民族対立解決へ一歩****
トルコ、アルメニア両国は10日夜(日本時間11日未明)、スイスのチューリヒで国交樹立をうたった合意文書に調印した。第一次世界大戦中にオスマン帝国下で起きたとされるアルメニア人虐殺問題などをめぐり対立してきた両国は、1世紀近い民族対立の解消に向けて歴史的な一歩を踏み出した形だ。
しかし、両国外相が調印式で読み上げるはずだった声明は事前調整で紛糾し、調印式の開始が大幅に遅れ、双方の確執の根深さも浮き彫りにした。

合意文書には、トルコのダウトオール、アルメニアのナルバンジャン両外相が調印し、クリントン米国務長官、ラブロフ・ロシア外相、ソラナ欧州連合(EU)共通外交・安全保障上級代表らが見守った。

虐殺問題では、アルメニア側が、約150万人がオスマン帝国による強制移住の過程で帝国軍に虐殺されたり、病気で死亡したりしたと主張。これに対して、トルコ側は帝政ロシアの侵略を助けて反乱を起こしたアルメニア人を鎮圧する戦闘で双方に30万人程度の犠牲者が出たとして「虐殺」を否定し、双方の主張は対立したままだ。合意文書には、国際的な専門家委員会の設置が盛り込まれたものの、国交樹立の段階では虐殺問題の結論を先送りした形だ。
また、両国間には、アルメニアがトルコ系のアゼルバイジャン領内のキリスト教住民を支援したナゴルノカラバフ紛争も横たわる。

国交樹立の合意文書は、両国議会による批准を経て発効するが、トルコのエルドアン首相は11日、与党・公正発展党(AKP)の会合で、「アルメニア軍がアゼルバイジャン領から撤退しない限り、トルコはアルメニアとの国境開放について前向きな措置を取ることはできない」と言明。未解決のナゴルノカラバフ問題が国会審議に影響しかねないとの見方を示し、アルメニアとアゼルバイジャンに対し、早急に紛争解決に取り組むよう求めた。

調印式での紛糾は、トルコ外相の声明案にアルメニア側が反発したのが原因で、クリントン国務長官がぎりぎりの調停に入り、3時間以上遅れて調印式にこぎつけたが、両外相の声明読み上げは中止された。両国内には依然、反対論も根強く、国会審議に向けて曲折も予想される。【09年10月12日 産経】
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その後、案の定というか、この問題は暗礁に乗り上げています。
****トルコとアルメニアの和解に危機 国交樹立協定批准凍結****
アルメニアのサルキシャン大統領は先週、隣国トルコと昨年10月に結んだ国交樹立協定について、国会批准を凍結する大統領令に署名した。「トルコは無条件で和解プロセスを進展させる用意がない」と非難している。
オスマン帝国末期のアルメニア人大量殺害の歴史認識の違いを超え、米国の仲介で協定締結までこぎ着けて歴史的な和解を果たすはずだったが、第一歩からつまずく形になった。

トルコは批准の条件として、自国の友好国アゼルバイジャンから分離独立しようとの動きがあるナゴルノ・カラバフ自治州に、アルメニア軍が軍事介入した件で、撤退交渉の進展を要求。アルメニア側はトルコが批准手続きを遅らせていると非難していた。

アルメニアは、第1次世界大戦下の1915年に起きた150万人ともいわれるアルメニア人殺害を「ジェノサイド」と呼び、「戦乱の中で起きた不幸」と主張するトルコと対立。ソ連崩壊後はナゴルノ・カラバフを巡っても対立を深め、93年には両国の国境が閉鎖されていた。【10年4月27日 朝日】
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アメリカでの「大量虐殺」論議
このアルメニアの国会批准凍結に先立ち、アメリカの下院外交委員会がオスマン・トルコ帝国によるアルメニア人迫害を「大量虐殺」と認定して非難する決議案を可決して、トルコ側の反発を買っていました。

****アルメニア人迫害:米外交委が「虐殺」と認定 トルコ反発****
米下院外交委員会は4日、オスマン・トルコ帝国によるアルメニア人迫害を「大量虐殺」と認定して非難する決議案を賛成23票、反対22票で可決した。トルコは、駐米大使に「協議のため」帰国するよう命令。抗議のための事実上の大使召還措置とみられる。(中略)

クリントン米国務長官は3日、同委員会のバーマン委員長に「決議案採決は、両国の和解努力の妨げになる」などと採決の見送りを要請していた。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコは米軍にとって、中東やアフガニスタンでの軍事作戦の重要な足場。さらに、トルコは現在、国連安全保障理事会の非常任理事国で、核開発疑惑をめぐるイランへの新たな制裁決議案の採択に慎重姿勢を崩しておらず、制裁に向け各国の足並みをそろえたい米国の戦略に支障が出る可能性もある。

同様の非難決議案は07年にも委員会で可決。反発したトルコがイラク戦争への支援を見直す考えを示唆したため、当時のブッシュ政権が議会側に働きかけて本会議上程は回避された。【10年3月5日】
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このときも、トルコを刺激したくないオバマ大統領サイドの働きかけで、本会議では採決されませんでした。
なお、オバマ大統領は10年4月24日、第1次世界大戦中のオスマン・トルコ帝国によるアルメニア人虐殺の追悼記念日に際して声明を発表。大統領は就任前の選挙戦では、トルコによるアルメニア人虐殺を“ジェノサイド”と言明していましたが、この声明では「20世紀最悪の残虐行為の一つ」と述べるにとどめています。

フランス・サルコジ政権の真意は?】
フランスにしても、アメリカにしても、トルコ批判を政権・議会に迫るアルメニア人社会の影響力は大きなものがあるようです。ロビイスト活動が効果的なのでしょうか。
もちろん、“虐殺”を逃れた移民が欧米・ロシア社会に多数生活しているということもあります。

もっとも、「イスラム国家トルコ」対「キリスト教国家アルメニア」という構図が影響していることも考えられます。
フランス・サルコジ政権の場合、先述の「再選戦略」ということもありますが、イスラム国家という異質な存在ながらEU加盟を長年求めているトルコとあまり親しくしたくない・・・という基本的な心情もあるような感がします。トルコが怒って、EU加盟が更に難しくなるなら、それはそれで結構・・・といったところでしょうか。
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中国  広東省烏坎村の地方当局への「反乱」 党側が自治組織を「合法」と認める

2011-12-22 21:05:30 | 中国


(地方当局の腐敗・横暴に抗議する広東省烏坎村の住民 12月15日 “flickr”より By jhh510110@ymail.com http://www.flickr.com/photos/54213354@N04/6519807209/

【「中央政府に問題を処理してもらいたい。腐敗した役人は逮捕してほしい」】
中国では、土地収用、環境汚染、地方役人の横暴などを理由とした住民暴動が頻発していますが、香港にも近い広東省烏坎村のケースは、当局に数十年にわたって土地を接収され続けてきた住民が怒りを爆発させ、地元共産党幹部や警察官を村から追放し、自治組織の代表者を選出するという、住民が公然と共産党当局に反旗を翻した事件として注目されていました。

騒動は、地元当局が不正に村の土地を収用してきたことから起き、9月には村民らが警察署を襲撃し当局との衝突する場面もありました。
事態が拡大したのは、指導者の一人が拘束中に死亡したことからでした。
村民は、役人や警察を村から追い出し、一方、警察側は村を包囲して兵糧攻めにするという対立が続いていました。

****警察が漁村を「兵糧攻め」、地元当局の不正に抗議続ける****
土地をめぐる地元共産党当局の汚職に対して住民らが抗議を続けている中国南部・広東省烏坎村で、8日から警察が村を包囲して「兵糧攻め」にしている。村では水や食糧が底を付きかけているが、村民たちは抵抗を続けると話している。

■逮捕された村民が急死
烏坎村は人口約1万3000人の漁村。村民たちは、地元当局が不正に村の土地を収用し、元の持ち主に賠償もしてこなかったとして抗議を続けてきた。9月には村民らが警察署を襲撃し当局との衝突する事件も起きている。

警察は9日、9月の暴動に関与したとして村民5人を逮捕したが、暴動を主導したとされた村の指導者の1人、薛錦波氏(42)が拘束中に死亡。村民側がいっそう態度を硬化させる事態となった。
警察は、薛氏にはぜんそくと心臓病を患っており心不全を起こしたと説明しているが、村民側は遺体にはあざがあり撲殺されたに違いないと主張している。

封鎖6日目となる14日も、村に通じる道は特殊装備で武装し催涙ガスを携行した警察官たちに封鎖されたままだ。AFPの電話取材に応じた村民たちによると、8日夜から村の入口で検問が実施され、ごく一部の女性と子どもを除いて入村は厳しく制限されている。また、インターネットも遮断されているという。警官の人数は1000人以上で日々増えていると証言する村民もいた。

烏坎村を管轄する陸豊市当局は、村周辺には警察、武装警察、消防の放水車が配備され「村の秩序維持に努めている」と述べた。

■厳しい報道管制、ネット上から消された村
報道関係者の入村は許されていない。AFPの写真記者も14日に入村を試みたが、村から数キロ手前の検問所で武装警官に行く手を阻まれ、警官に付き添われて広東省深センに戻らざるを得なかった。
中国の国営メディアは烏坎村をめぐる一連の抗議行動についてほとんど報道しておらず、インターネットでは村の名前での検索が当局に遮断されている。抗議行動が全国に拡大するのを防ぐためとみられる。

不動産バブルが続いた中国では、地方当局が開発業者と結託して不正な不動産取引で巨額の利益を上げ、当局の収入源とする事例が相次ぎ、非難の的となっている。
地元当局は9日の声明で、9月の暴動の原因となった数件の不服申し立ては既に解決し、村の当局者2人を解雇したと発表したが、村民の怒りは収まっていない。ある住民は、「中央政府に私たちの問題を処理してもらいたいと思っている。われわれはあきらめない。腐敗した役人は逮捕してほしい」と話した。【12月15日 AFP】
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【「党中央や省の指導者に直接声を届ける道を築けたことは、我が村の勝利だ」】
この事件は、村民たちが自主選挙で発足させた自治組織を共産党側が「合法」と認める形で、一応の解決が図られています。

****中国・広東の自治組織「合法」 省幹部が村民争議を容認****
中国広東省で共産党地方幹部の横暴に反発し、村民たちが自主選挙で発足させた自治組織を、省党幹部が21日、「合法」と認めた。暫定的とはいえ、全国を網羅する党の統治機構に生まれた空白を、住民組織が補うという異例の事態となった。地方幹部の腐敗に苦しむ各地の住民に与える影響は大きいとみられる。

広東省烏坎(ウーカン)村を代表した林祖恋さん(65)と、党中央規律検査委員も務める朱明国・省党委副書記が同日面会。林さんによると、副書記は住民が9月に自主選挙で選んだ13人(現在は12人)による村民臨時代表理事会の「合法的な身分」を保証した。代表らを訴追せず、民意をまとめる組織としての活動を容認する意味とみられる。
副書記は住民側の要求に沿い、拘束された村人の早期釈放、拘束後に死亡した理事会幹部の死因の再調査も約束した。副書記の提案を受け、理事会は村民大会を開き、3カ月にわたった争議を収束させることを決めた。

村では40年近く村トップに居座った党の村支部書記らが勝手に農地を切り売りしてきたことに住民が反発し、9月と11月に村を管轄する陸豊市政府前で大規模なデモを行った。市当局は村書記らの不正を認めて免職にする一方、党に代わって村をまとめた理事会を「不法組織」と認定。今月9日に連行された理事会幹部が死亡したことを機に村人は入り口をバリケードで封鎖し、党村委幹部や派出所の警察官が去って村は半ば「自治区化」した。

国内主要メディアは政府側の見解以外は報じなかったが、住民は各地に出稼ぎに出ていた若者を中心にネットなどで情報発信し、国内外の関心と支持を引き寄せた。理事会も村民の暴徒化を慎重に抑えて、当局による弾圧を防いだ。
同省広州や深セン(センは、土へんに川)の若者がネットで村人への支援の集会を呼びかけて拘束されたほか、同省スワトー市上岱美村でも、烏坎村に刺激される形で村幹部の専横への抗議デモが起きた。

林さんは「我々は地方幹部の腐敗と戦っただけで、党の統治に対抗しているつもりは全くない」と強調し、「党中央や省の指導者に直接声を届ける道を築けたことは、我が村の勝利だ」と話した。【12月22日 朝日】
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地方当局は「草の根レベル」で争議を解決せよ 取り締まる場合は「文明的な」手段で
中国国民の党中央に対する信頼感は一定のものがありますが、地方役人・党末端と地域住民と関係は、革命以前の搾取する側と搾取される側のような関係が残存し、地方当局に対する住民の不信感が中国政治システムの大きな欠陥となっています。

事件収束によって報道が解禁され、中国メディアは地方当局への批判を報じています。
また、党中央は地方当局に「草の根レベル」で争議を解決するよう求めており、取り締まる場合は「文明的な」手段で行うよう指示しています。

****中国・烏坎村の抗議、広東省当局が村民に譲歩 包囲解く****
■地元メディア、地元共産党当局を一斉批判
合意から一夜明けた22日の中国メディアは、烏坎村の共産党当局が住民らの訴えを放置したため騒ぎが拡大したと一斉に批判。国内の地方当局に「国民を最優先せよ」と要求した。

中国共産党の機関紙、人民日報は、地方当局が「住民らの正当な要求に注意を払い損ねた」ため、「正当な請願を行き過ぎた住民運動に拡大させてしまった」と報じた。
国営英字紙・環球時報は社説で、「国民のあらゆるもめ事を真剣に受け止め、国民の要求に対して責任ある態度を示す」よう地方当局に呼びかけるとともに、こうした当局と住民の争議は今後も増加するだろうとの見通しを示した。

■「草の根レベル」の「文明的解決」、党治安部門トップが要請
一方、共産党の治安部門トップは同日、各当局に対し、住民らの争議はただちに解決し、取り締まる場合は「文明的な」手段で行うよう強く求めた。

新華社通信によると、党政治局常務委員で治安部門を統括する中央政法委員会トップの周永康書記は、国内でこのところ急増している社会不安に言及し、中央政府が暴動の予防に取り組んでいる中、地方当局は「草の根レベル」で争議を解決するよう努めなければならない、と述べた。(c)AFP
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台頭する中流階級の不満が成長鈍化とネットで社会不安に
こうした住民騒動の背景として、台頭する中流階級の不満が鈍化する経済成長のなかで噴出しやすくなっていること、インターネットによる情報発信が指摘されています。

****中国・烏坎村の「反乱」が象徴するものとは、専門家分析****
中国南部・広東省烏坎村の住民が公然と共産党当局に反旗を翻した事件は、世代交代を控えた中国共産党にとって社会不安が大きな課題であることを如実に知らしめた。
当局に数十年にわたって土地を接収され続けてきた同村の住民は怒りを爆発させ、地元共産党幹部や警察官を村から追放し、自治組織の代表者を選出した。同村の抗議行動は、政治腐敗から格差拡大まで中国にはびこる不公正に対し、市民の怒りが高まっていることを浮き彫りにした。

■経済成長に陰り、中流台頭も影響
専門家らは、経済成長が鈍化する中国で、こうした市民の怒りが党指導部の悩みの種となりつつあると指摘する。「指導部が安定を維持してこれたのは、経済成長のおかげだ。成長が止まれば、社会不安は広がるだろう」と、香港中文大学のウィリー・ラム教授(歴史学)は語る。

烏坎村のある広東省は中国製造業の心臓で、国内でも豊かな地域だ。しかし、輸出減速を背景に工場労働者の賃金カットが進み、この数か月で次々とストライキが起きている。11月には、欧米の靴ブランドの委託工場で従業員7000人以上が人員削減と賃金カットに抗議してストライキに突入し、警官隊と衝突した。

北東部の遼寧省大連でも今年、住民が化学工場の移転を求めて大規模なデモを行い、当局が工場閉鎖を決定する事態となったが、これも中国で台頭する中流階級が当局への抵抗を厭わない傾向を示す一例だと専門家らは言う。

■ネットの威力に警戒
ラム教授は、次のように説明する。「『アラブの春』や1980年代のポーランドの『連帯』運動のような全国規模の運動は、中国ではまだ起きていない。したがって今のところ共産党は全面的な抵抗にさらされているわけではない。
とはいえ、最近の個別の抗議行動もやはり(社会の)不安定さの実態を表す出来事であり、だからこそ北京当局は多数のユーザーを抱える『新浪微博』に実名登録を義務付けたのだ」

中国版ツイッターともいえるマイクロブログ「新浪微博」は、最近の抗議行動の多くで組織化や広報の重要ツールとなってきた。当局は厳しい検閲を化し次々とアカウントを閉鎖する措置を取っているが、ユーザーたちはそれに匹敵するスピードで新アカウントを取得し、発信を続けている。
「指導者交代を控えた当局は、ツイッターやフェイスブックの中国版が持つ組織化力を認識している」とラム教授は述べた。

中国の胡錦濤国家主席は来年2期目を終え、次期指導者――習近平国家副主席と目されている――に権力を委譲する。新体制発足は13年3月で、温家宝首相も辞任し、共産党指導部も10年ぶりに刷新される。
こうした中、共産党は社会の調和と安定を極めて重視しており、党最大の関心事は社会不安を収束させるかどうかにあると、専門家らは指摘している。【12月19日 AFP】
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なお、今回の烏坎村の事件が一定の成果を勝ち得たのは、住民の暴発を防ぎ、抗議行動を組織化した指導者の力量によるところが大きいと思われます。

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