(9月6日 北朝鮮・安州市 道端に集まっている人々は中国製の服を売っているとか こうした無数の取引が合法なのかどうかよくわかりません。北朝鮮では2003年に「市場管理運営規定」が採択され、それまでの農民たちの市場は「総合市場」(チャンマダン)として合法化され、企業や共同農場もこの市場で商品を取引できるようになってはいますが。 “flickr”より By Ray Cunningham http://www.flickr.com/photos/zaruka/6199452962/ )
金正日(キム・ジョンイル)総書記の突然の死去に伴う北朝鮮の現状・今後については、毎日山ほどの情報が溢れていますが、結局のところ誰もよくわからない・・・というところではないでしょうか。
三男の金正恩(キム・ジョンウン)氏への権力移譲がスムーズに進むのかということもわかりませんが、個人的に一番関心があるのは、北朝鮮の人々が実際のところどんな暮らしをしているのか・・・、今後どうなるのか・・・・ということです。
しかし、これも厳しい情報統制によって、漏れ出る断片から推測するしかありません。
その際には、情報源による情報のバイアスを考慮しておく必要があるでしょう。
国家公認の情報が偏っているのと同様に、脱北者の伝える情報も必ずしも北朝鮮全体を表しているとも限りません。
【「すぐに、死体を見ても何も感じなくなった」】
金正日総書記の死去前には、悪名高い強制収容所に関する記事がありました。
****北朝鮮の強制収容所、生還者が語る「犬以下の生活」****
北朝鮮の強制収容所に28年間にわたって収容されていた女性が23日、スイスで開かれた国際会議で、収容所内での公開処刑の様子や飢餓状態などについて貴重な証言を行った。
■13歳で収容、銃殺見学させられる
金恵淑(キム・ヘスク)さんは13歳のとき、両親が収容されていた「第18号管理所」と呼ばれる政治犯収容所に送られた。そこでは、収容された人びとが「犬よりもひどい扱い」を受け、強制労働を科され、看守たちに虐待されていたという。
2001年に釈放され、現在は韓国で暮らしている金さんは、スイスのジュネーブで開かれた北朝鮮の人権と脱北者に関する国際会議で、公開銃殺を強制的に見せられたことや、現在も収容所に残っている兄弟姉妹に食べ物を分けるため飢えをしのいだことなどを涙ながらに語った。
会議を共催した北韓人権市民連合によると、北朝鮮の6か所の強制収容所に収容されている政治犯は推計約20万人に上るが、北朝鮮政府は収容所の存在さえも否定している。
■収容理由を尋ねるだけで「死」
金さんによると、彼女も含めて囚人たちの多くはなぜ収容されたのかも知らず、それを尋ねただけでも死に直面した。10ページに及ぶ証言で金さんは、「食べ物はいつも不足していて、多くの人が餓死していた。あまりに多くの死体を見すぎて、すぐに、死体を見ても何も感じなくなった」「囚人たちは『人権』とは何かの意味さえ分かっていなかった。犬よりもひどい人生を送っていた」と述べている。
所内では「トウモロコシ粉を盗んだという理由から、迷信を信じたという理由まで」あらゆる「罪」で、毎年100回を超える公開処刑が行われていたという。「最初に公開処刑を見たのは13歳のときで、まだほんの子どもでした。所内の全員が見なければなりませんでした」(後略)【11月25日 AFP】
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【厳しくなる脱北者監視 軍兵士にも脱北】
中国への脱北者は警戒の強化によって現在減少しています。金総書記死去直前の状況が報じられています。
****脱北者:中朝国境、取り締まり強化****
北朝鮮から中国に渡る脱北者は90年代前半に急増し、97年ごろにピークを迎えたが、その後は緩やかに減少している。吉林省延辺朝鮮族自治州では、今もひそかに脱北者をかくまう家がある一方、密告制などによる取り締まりの強化が進んでいた。(中略)
11月に朝鮮人民内務軍の李泰哲(リ・テチョル)上将が北京を訪れ、中国の孟建柱公安相と会談するなど中朝の治安機関は連携を深めており、脱北者の取り締まり強化が議論されている可能性は高い。地元の朝鮮族男性は「豆満江沿いにある北朝鮮側の一部の監視所は7月以降、50メートルおきから25メートルおきに変更された」と語る。
中国の公安機関などが脱北者の通報に対して出す報奨金も、脱北者や支援者にとって脅威だ。別の朝鮮族男性は「最近は5000元(約6万円)程度。以前より上がっている」と語った。一方で、かくまっていることが発覚すると7000元(8万4000円)程度の罰金を支払わなくてはならないという。いずれも平均的な1カ月の収入を大きく上回る金額だ。「親戚すらも信用できないのが実情だ」と支援活動にかかわる男性はこぼした。【12月8日 毎日】
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当然ながら、死去後の現在は北朝鮮の混乱・難民流入に備えて、中国も国境警戒態勢を更に強化しています。
一方、食糧難は「先軍政治」の恩恵にあずかる軍兵士にも及んでおり、軍兵士の脱北も多くなっているようです。
****兵士6人が集団脱北、北が中国領内で2人射殺*****
北朝鮮・新義州と接する中国遼寧省丹東の郊外で、金正日総書記の死去前の今月上旬、北朝鮮軍の脱走兵6人が中国側への脱出を試み、2人が北朝鮮側に射殺され、残る4人が中国側に拘束されていたことがわかった。
地元当局者が明らかにした。中朝関係筋によると、この数年で軍の食糧事情が悪化したため、兵士の脱北が急増している模様だが、射殺は異例。
地元当局者によると、射殺された脱走兵らは国境を流れる鴨緑江を渡河して中国領内に入り込んでいたにもかかわらず、北朝鮮の国境警備隊が構わずに発砲した。北朝鮮側は兵士の脱北に極めて神経質になっている模様だ。
6人は仲間で武装していたとみられる。中国側に拘束された4人は、北朝鮮側に引き渡されたという。【12月31日 読売】
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【約300万人が食糧難に直面】
問題は、北朝鮮の食糧事情ですが、11月末段階で国連機関は約300万人が食糧難に直面すると予測した報告書を公表しています。
****北朝鮮、300万人が食糧難…国連機関が予測****
国連食糧農業機関(FAO)と世界食糧計画(WFP)は25日、北朝鮮で2012年度(今月~2012年10月)に食糧41万4000トンが不足し、約300万人が食糧難に直面すると予測した報告書を公表した。
同年度のコメや大豆、ジャガイモなどの食糧生産量は前年度比8・5%増の約550万トンが見込まれるが、需要を満たすにはさらに73万9000トンの食糧輸入が必要なのに対し、北朝鮮は32万5000トンの輸入しか計画していないという。
北朝鮮の今年5~9月の食糧配給は1人当たり1日200グラム以下で、最低必要とされる量の約3分の1にとどまった。小児病棟では栄養失調に陥った子供の入院が昨年より50~100%増えているという。【11月26日 読売】
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【金(日成)主席の遺訓:「住民にコメと肉汁を食べさせる」】
配給制度が崩壊している北朝鮮ですが、金総書記死去直前に、食糧配給カード再作成の情報が流れて憶測を呼んでいました。
****北朝鮮が食糧配給カードを再作成 配給正常化か****
米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)は25日までに、北朝鮮当局が故金日成(キム・イルソン)主席の誕生100年を控え、全地域で食糧配給票(カード)を新たに作る作業を行っていると報じた。
中国を訪れた平壌の住民は「(当局が)来年から食糧配給を正常化するとした。区域別に世帯人数を調査している」と伝えた。
RFAによると、他地域でも新しい食糧カードを発行している。ただ、来年に配給制度が完全に正常化する可能性については大半の住民が懐疑的な見解を示した。
北京の北朝鮮消息筋は「100万トンの食糧支援を受ければ、住民全体に対する配給が可能になると思う」と述べた。北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の参加国から大規模な食糧支援を引き出そうとする思惑がありそうだという。
北朝鮮当局が食糧配給に向けた人口調査を実施していることについて、北朝鮮脱出住民(脱北者)は「住民にコメと肉汁を食べさせるのが金主席の遺訓だった。金主席の誕生100年を迎える来年に数か月でも配給を行うだろう」との見方を示した。ほかの脱北者は北朝鮮当局が住民を対象にした講演などで、「強盛国家建設の目標は住民にコメと肉汁を食べさせることだと宣伝している」と伝えた。
ある北朝鮮専門家は後継者の金正恩(キム・ジョンウン)氏が金主席の遺訓を実現したと宣伝するため、食糧配給制度の再整備に乗り出したと説明した。【11月27日 聯合ニュース】
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“金(日成)主席の遺訓”だろうが何だろうが、コメと肉汁を食べられるようになれば結構なことですが、金正日総書記死去直前には、米朝協議において核問題で何らかの譲歩の見返りに食糧支援があるのでは・・・とも報じられていました。しかし死去の混乱で、アメリカなどからの食糧支援引き出しも停滞しそうな状況です。
【比重を増す市場経済】
市民生活については、死去に伴って、電気が止まり、市場が閉鎖されているとの情報がありましたが、現在も続いているのかどうかはわかりません。
****金総書記死去:平壌停電、市場も閉鎖 市民ら強い緊張状態****
北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が死亡したとされる時期から、首都・平壌で電気の供給が全面的に止まっていたことが24日、複数の平壌市民の証言で分かった。
発表後には食料調達に不可欠な市場もすべて閉鎖され、「今後も再開されない」との情報も出回っている。街中では国家指導部で権力闘争が起きているといううわさが流れ、市民らは強い緊張状態に置かれているという。19日以降、出張のため中国を訪問した平壌市民の男性らが毎日新聞に明らかにした。
証言をまとめると、当局が金総書記の死亡日とする17日ごろから、市内のほぼ全域で電気が来なくなった。自家発電のない一般家庭では、死亡を伝える19日の「特別放送」さえテレビで確認できなかったという。男性は「こんなことは過去になかった」と話す。平壌市内の電力は主に二つの火力発電所から供給されるが、一つが修理中、もう一つも数カ月前から石炭の供給が滞り、それが枯渇した可能性が指摘できる。
一方、市場の閉鎖は一般市民の生活を直撃している。治安当局は、市民が集まれば集会などにつながる可能性があるため、市場閉鎖を命じて警戒を強めているようだ。94年に金日成(キム・イルソン)国家主席が死亡した際にも市場は閉鎖されている。
さらに市民の不安をあおっているのは、権力闘争のうわさだ。
「金大将同志(後継者の正恩〈ジョンウン〉氏)の継承に反対する勢力が、金大将の無力ぶりを際立たせて権力収奪を図っている。反対勢力の背後には中国がいる」うわさの出所ははっきりしない。市民の一人は「平壌では今、庶民は己の生活の行く末を案じ、国家幹部は権力の変動に恐れ、気が気でない」と話す。
市民生活が脅かされている中、23日午前から、金総書記の生前の指示に基づき、平壌市民に対するスケトウダラやニシンなどの魚の配給が始まったと国営朝鮮中央通信が報じた。正恩氏が主導しているとされる。ただ、配給規模などは明記されていない。(後略)【12月25日 毎日】
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市場の閉鎖は死活問題で、長引けば一昨年末のデノミ失敗同様の混乱を招くでしょう。
配給制度が破綻している現在、濃く観の生活を支えているのは市場での取引です。
****ヤミで買い、副業で稼ぐ 薄れる国家への忠誠心****
北朝鮮で23日から平壌市民に鮮魚の配給が始まった。金正日(キム・ジョンイル)総書記の生前の指示に基づくという。だが、こうした恩恵は限られ、住民は副業に精を出し、闇市場で買い物する毎日だ。生活の中での国家の比重は小さくなり、忠誠心の低下につながっている。
朝鮮中央通信によると、鮮魚の配給では後継者の金正恩(キム・ジョンウン)氏が特別の輸送対策を講じた。正恩氏は「偉大な将軍様の愛情を一日も早く人民に届けるべきだ」と語ったという。
脱北者などによると、平壌では、年3~4回、引換券が配られるなどの国の恩恵が残る。券があればコメ1キロを30ウォン(闇レートで1円=45ウォン前後)で買える。8月末からは「全量配給」が復活したが、一般労働者で1人当たり1日700グラムだった割当量は350~400グラムに減らされたという。地方都市の配給は1990年代に軒並み途絶えた。平壌でも衣類や電化製品などの引換券はいつ回ってくるかわからない。
足りないものは市場で探すしかない。国公認の「総合市場」には工業製品から食品まであるが、価格は国定の100倍以上。市民は少しでも安い品物を求め、アパートの裏や細い路地にある闇市場を巡り歩く。90年代から豆腐を加工した「人造肉(インジョコギ)」が人気だ。
1カ月に必要な生活費は引換券を利用しても3万~4万ウォンとされる。だが、平壌市民の月給は2500~7千ウォン。住民は資金があれば貿易や飲食業を営み、なければ夜間警備員や練炭運びなどに精を出す。
平壌近郊にある靴工場では、従業員750人のうち出勤するのは100人ほど。残りは材料を買って自分で靴を作り、市場で売る。毎月、1万~3万ウォンの売り上げを工場に納めた残りが自分の取り分だ。
かつて、市民の食卓での大きな話題の一つが故金日成(キム・イルソン)国家主席の動静だった。今は市場ごとの値段比べや金もうけの話に花が咲く。市民の意欲は生活を徐々に向上させている。だが、市場経済を否定する政府は副業に課税できず、国力にはつながらない。
韓国研究機関の調べでは、こうした「人民経済」が市民生活に占める割合は4~7割に達し、専門家は「人口の4分の3は全く国の経済に頼っていない」と語る。正恩氏が経済の改革開放に踏み切らなければ、北朝鮮の統治能力はジリ貧になるとの見方が支配的だ。【12月25日 朝日】
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デノミや市場閉鎖ではなく、市場経済を公認して経済を活性化させるのが本筋のように思えますが、正恩体制でそれが可能でしょうか?
【食糧の絶対的な不足というより、物流や配給が行き届かない側面が強い】
ここまでの情報は、“インフレと食糧不足で住民の不満は爆発寸前、体制の崩壊で大量の脱北者が周辺国に押し寄せる”という北朝鮮に関するイメージにも沿うものですが、北朝鮮経済の実態はそんなに悪くない・・・という指摘もあります。
特に、その後ろ盾になっているのが中国資本の流入です。実際、平壌では建設ラッシュが起きているという話題をこのブログでも取り上げたことがあります。
****北朝鮮経済、2つの顔****
GDPは緩やかに成長中 だが富を独占する特権層と一般国民の間には深刻な格差が
・・・・金正日体制下の北朝鮮は99年以降、実は緩やかな経済成長を続けてきた。・・・韓国銀行(中央銀行)の推計によると、北朝鮮経済は99年以降は平均して毎年約1~2%の成長を持続している。・・・食料不足は現在も存在するが、90年代半ばの大飢饉のような状況ではない。人道的な措置として北朝鮮への支援を決めたアメリカが、「食糧支援」ではなくミルクやビタミン剤などによる「栄養支援」と位置付けているのはこのためだ。
食糧不足は特に東北部を中心に深刻だと言われているが、専門家によれば食糧の絶対的な不足というより、物流や配給が行き届かない側面が強いという。
むしろ問題なのは、地位を利用して富を蓄え、経済成長のうまみを独占する特権層と、一般国民との格差がどんどん拡大していること。北朝鮮経済に詳しい環日本海経済研究所(新潟市)の三村光弘調査研究部部長は「今後、経済体制をめぐって特権階級の間で起きる路線対立が不安定要因となる可能性がある」と指摘する。
・・・首都平壌にはこうした大型スーパーや外貨が使える高級レストランも増えているが、顧客は法外な額を支払える富裕層や特権層に限られている。こうした施設の収益は「金総書記の裏金になる」とも指摘されている。
中国依存がますます加速
・・・そもそも金正日政権がなぜ経済成長を維持できたかを理解するためには、まず北朝鮮を取り巻くいくつかの思い込みを捨てなければならない。
まず、北朝鮮が少しずつではあるがインフラの整備に取り組んでいる点だ。特に最近では中国と協力して国境の羅先や鴨緑江上の2つの島を経済特区として共同関発している。またロシアとの間でも石油パイプラインや送電線、鉄道連結事業などの協力事業も進めている。
ソ連崩壊で後ろ盾を失って以降停滞していた重工業の近代化がようやく動き始めており、鉄鋼業、鉱業、軽工業を原動力に復興期から成長期へと移行しつつあると見ることもできる。
北朝鮮が国際的に孤立しているというのも誤解だ。実際には160を超す国と外交・通商関係を結んでおり、EU加盟国の大半とも国交がある。
日本との貿易は06年の日本側の経済制裁以来中断しているが、北朝鮮と世界の結び付きは年々強まっている。大韓貿易投資振興公社の統計によると、韓国との南北貿易を除く10年の北朝鮮の貿易総額は42憶ドル余りで、90年以降最高だった。
最大の貿易相手国は中国で、北朝鮮の貿易総額の83%を占めている。北朝鮮は主に石炭や鉄鋼、レアメタル(希少金属)を輸出し、逆に原油や工業製品を輸入している。10年3月の韓国海軍の哨戒艦の沈没事件以来、北朝鮮と韓国の間の南北貿易は中断しており、結果として北朝鮮の中国への貿易依存度はますます高まっている。・・・イランやシリア、パキスタンにミサイルを売って年間約1憶ドルの収入を得ているという事実もある
市場経済がもたらす変革
金正日死去後の指導体制では、経済や外交に影響力を持つとみられる金総書記の義弟・張成沢国防委員会副委員長が、経済改革に関心を持っていると伝えられている。ただ、今後の具体的な経済政策はまだ見えていない。
緩やかに成長しているとはいえ、北朝鮮経済はGDPの規模では韓国のわずか3%にすぎない。・・・深刻な懸念材料もある。90年代の犬飢饉で十分な栄養を取れないまま成長した子供たちが、労働人口世代に達しているのだ。
・・・中国に加え、ロシアとの経済協力が進むことで市場経済が浸透し、いずれ緩やかな社会改革へとつながるかもしれない。しかしこうした社会変革には相当の時間を必要とする。その一方で、国民にぎりぎりの生活を強いながら、特権層は経済成長の富を独占している。綱渡りの経済運営が、当面続くことになりそうだ。【1月4日号 Newsweek日本版】
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