(ロシア黒海艦隊駐留延長に関する批准で大荒れのウクライナ議会 飛んでくる生卵を傘でよける議員 その他、発煙筒のたかれた議場や乱闘の様子など、【4月27日 AFP】(http://www.afpbb.com/article/politics/2721733/5676715)に多数の写真が掲載されています。)
【「長期戦略的にはロシアの勝利」】
ロシアのメドベージェフ大統領とウクライナのヤヌコビッチ大統領は21日、ウクライナ向けのロシア産天然ガス価格の引き下げと引き換えに、ウクライナ南部セバストポリへのロシア黒海艦隊の駐留期限を現行の2017年から42年に延長することで合意、協定に署名しました。
ユーシェンコ前大統領は、契約期限の切れる17年までの退去を求めていました。
この“取引”の事情については、“財政再建が急務のヤヌコビッチ政権にとって、今回の合意は「背に腹は代えられぬ」という面がある。ただ、メドベージェフ露大統領は、「ガス価格割引は黒海艦隊の基地賃借費用の一部」と明言しており、「長期戦略的にはロシアの勝利」(ウクライナの政治評論家フェセンコ氏)との評価が出ている。”【4月22日 毎日】
【大荒れの議会でスピード批准】
ティモシェンコ前首相派からは「わが国の戦略的な国益と未来をロシアに売り渡した」と批判もあり、ティモシェンコ前首相は「協定は(外国軍の駐留禁止を定めた)憲法違反だ」と批准阻止の意向を表明。
また、ユーシェンコ前大統領派の会派「われらのウクライナ」はヤヌコビッチ大統領の弾劾手続き開始を提起するなど、反対の声も強くありました。
ウクライナ国会は、与党会派が過半数を占めるものの、一部は政権交代でくら替えした「隠れ野党」という事情もあって、批准手続きは難航することが予想されましたが【4月22日 毎日】、ウクライナ議会は27日、これを批准。
協定署名からほぼ1週間後というスピード批准となりました。
しかし、議場では発煙筒がたかれるは、生卵は飛ぶは、傘をさしてこれをよける・・・と、大混乱の中での批准でした。
****ウクライナ:ロシア黒海艦隊の駐留延長を批准*****
ウクライナ最高会議(1院制、定数450)は27日、ロシア黒海艦隊のウクライナ駐留を25~30年延長する代償として、ロシア産天然ガス価格が3割値下げされる政府間合意について、賛成多数で批准した。一方、ロシア下院も27日に合意を承認しており、上院の承認を経て批准する。
ウクライナ最高会議では、野党が駐留延長について「主権放棄だ」として反対し、議事進行を妨害する中で採択されたが、賛成236で批准した。
一方のロシア下院(定数450)では、賛成410と圧倒的多数で承認された。上院も28日に下院の決定を承認する見通し。【4月27日 毎日】
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【進む“ウクライナ抜き”】
天然ガスについては、これまでロシア・ウクライナ間で支払いが滞るトラブルが起こり、ロシアが供給をストップ、その結果、ウクライナ経由でガス供給を受けている欧州各国が被害を受ける問題が起きていました。
今回のウクライナ親ロシア政権とロシアの価格合意で多少安定することが期待されます。
ただ、ロシアもウクライナに振り回される事態を避けるべく、ウクライナを通らないパイプライン“サウスストリーム”の建設を進めており、また、欧州もロシアに頼らないガス供給ということで“ナブッコ”を進めている・・・という展開は、これまでも何回かこのブログでも取り上げてきました。
そのひとつ、ロシアの“サウスストリーム”の通過国との協定が完了したとの報道がありました。
****欧州へのガス新ルート実現へ ロシアと7カ国が協定****
ロシアのプーチン首相は24日、オーストリアのファイマン首相とウィーンで会談し、ロシア主体の欧州への天然ガスパイプライン計画「サウスストリーム」をめぐる政府間協力協定に署名した。これで通過国となる中南欧計7カ国と協定が成立し、プーチン首相は「敷設のための法的整備は完了した。欧州のエネルギー安保が高まる」と強調した。2015年の運用開始を目指している。
欧州連合(EU)はガスのロシアへの依存度を下げるため、中東方面と欧州を結ぶパイプライン「ナブッコ」計画を対抗して進めているが、サウスストリームに先行される形となった。ロシアは今月、ドイツと直結する海底パイプライン「ノースストリーム」の建設にも着工しており、南北の新ルートを通じて欧州のエネルギー安保に一層深く関与していくことになる。
サウスストリームは、ロシアから黒海を経由して、ブルガリア、セルビア、ハンガリー、スロベニア、クロアチアからオーストリアに到達。ギリシャ方面にも分岐する。輸送能力は年間630億立方メートルで、ロシアから欧州への供給の35%を占めるとされる。
欧州では09年1月のロシアとウクライナのガス紛争でガス供給が滞り、ウクライナ経由に頼るエネルギー安保のもろさを露呈した。供給源の多角化を目指すためナブッコ計画を掲げたが、今年に入りウクライナに親ロシア政権が誕生してガス対立が解消に向かったこともあり、ナブッコ計画は一層厳しい状況に置かれることになる。 【4月26日 朝日】
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ロシアはバルト海経由でロシアからのガスをドイツなど欧州に運ぶ“ノルドストリーム”についても、4月着工とも言われていました。
一方、欧州の進める“ナブッコ”はガス供給先が確保できていない状況です。
こうした状況で、“サウスストリーム”と“ナブッコ”の合体案が提起されていることは、3月27日ブログ「ウクライナ ロシアとガス値下げ交渉 “ナブッコ”、そして“ノルドストリーム”の動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100327)で取り上げたところです。
いずれにしても、“ウクライナ抜き”のルートが進むことで、親ロシア政権とはいえ、ウクライナの対ロシア価格交渉力は今後低下するのではないでしょうか。
【不正を誘発する排出枠取引】
今回の黒海艦隊駐留延長問題でも激しく政府を批判しているティモシェンコ前首相ですが、温室効果ガスの排出枠売却で得た資金を不正に流用した・・・との疑惑が生じています。
****温室ガス排出枠で不正容疑 ウクライナ前政権幹部を捜査****
ウクライナの最高検察庁は28日、京都議定書に基づき同国が売却した温室効果ガス余剰枠の代金が不正に使われたとして、チモシェンコ前首相が率いた前政権幹部を職権乱用などの疑いで捜査することを明らかにした。イタル・タス通信などが伝えた。
検察によると、違法に使われたとする代金は23億グリブナ(約260億円)で、目的外に利用された疑いがあるとしている。ウクライナは昨年、日本に1500万トン分の余剰排出枠を売却しており、この代金も含まれるとみられる。チモシェンコ氏も参考人として聴取される見込み。
アザロフ首相は同日、政府の会合で、前政権はウクライナに巨額の損失を与えたとして、チモシェンコ氏の責任を追及している。
一方、チモシェンコ氏側は、捜査はロシアの黒海艦隊駐留延長協定を結んだ政権が、国内の関心をそらすために仕組んだものと主張。「野党に対する政治的弾圧の始まりだ」としてヤヌコビッチ大統領が率いる新政権を非難している。【4月29日 朝日】
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“日本は、余剰排出枠を持つウクライナから3000万トン分の排出枠を購入する計画で、関係者によると2009年に1500万トン分として約200億円を支払った。しかし、今年2月のウクライナの政権交代後、代金が所在不明になっていることが判明したという。”【4月29日 読売】とのことで、在ウクライナ日本大使館は「ウクライナ側に事実の究明を求めており、対応をふまえて今後の契約について考える」としています。
公式には日本政府はウクライナへの支払額を発表していませんが、支払代金は同国内の温暖化や環境対策へ使われることで合意しているとのことです。
ティモシェンコ前政権でどのように処理されたのかはともかく、こうした巨額の資金が、“国内の温暖化や環境対策へ使われる”といった合意だけで、詳細な公表されることもなくやり取りされるというのは、不正の温床となることが懸念されます。