孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

第4回アフリカ開発会議(TICAD) 元気なアフリカと貧困

2008-05-31 17:30:02 | 世相

(手作りのサッカーボールで遊ぶマラウイの子供 2006年には8%台の経済成長を遂げましたが、依然として世界最貧国の一つ。平均寿命も40才に満たないそうです。 アフリカの明日は天然資源ではなく、この子供達をどのように活かすかにかかっています。“flickr”より By Larsz http://www.flickr.com/photos/criminalintent/63141621/

【元気なアフリカ、しかし、50年にはアフリカの資源は枯渇】
国連エネルギー議長も務める国連工業開発機関(UNIDO)のユムケラ事務局長(シエラレオネ出身)は今月7日、「今、抜本的な対策を取らないと、アフリカ人口が2倍の19億人になる2050年には、アフリカの天然資源は枯渇する」「アフリカは、原油や天然ガスなど資源を供給しても自ら価格を決められず、経済のグローバル化の犠牲となった」と、地球規模で広がるエネルギー危機、食糧危機がアフリカ諸国を直撃しているとの認識・危機感を示していました。

そのうえで、出席予定の第4回アフリカ開発会議(TICAD)及び日本の役割について、「TICADは絶妙のタイミングで具体的な解決策を論議する場になる」「今こそ対話から行動に移る時。アフリカへの投資に向け、G8サミットで指導力を発揮してほしい」と期待を語っていました。【5月8日 毎日】

私が若かりし頃は、途上国が生産する農業・鉱業産品など一次産品の先進国工業製品に対する相対価格は長期的に悪化しており、この交易条件悪化が途上国のテイクオフを困難にしている・・・という認識・議論が一般的だったように思います。

最近は、原油・食糧価格の異常な高騰にも見られるように一次産品価格、特に鉱物資源価格が上昇基調で、天然資源を多く抱えるアフリカ各国のなかには、年間の経済成長率二十数%という驚異的な発展を遂げている国もあるようです。
“元気なアフリカ”なんて言葉も使われます。
本当にそうなら喜ばしい限りです。

“自ら価格を決められず、経済のグローバル化の犠牲となった”という表現には若干の疑問もあります。
生産者が需給バランスを無視して価格を自由に決められないのは、アフリカだけでなく、先進国工業製品も同じです。
仮に、無理な価格を設定しても、やがて需給の調整で、落ち着くべきところに落ち着きます。
(昨今の投機による価格混乱の問題はありますが)
昔よく聞いた“先進国の犠牲になっている”といった主張や、上記表現などは、被害者意識が強すぎるような感もあります。
もっとも、そのような被害者意識につながる負の歴史があるという問題は別途存在します。

それはともかく、やっと成長のきっかけを掴んだように見えるアフリカのマクロ経済も、“50年には、アフリカの天然資源は枯渇する”というのであれば大変です。
ましてや、“経済成長率二十数%”にもかかわらず、1日1ドル以下の生活を強いられる貧困層が一向に減らない、結果的に格差ばかりが拡大しているのではないか・・・という批判がアフリカ諸国に向けられている状況を考えると、アフリカの本当の安定・発展のために残されているソース・時間はそれほど多くないと考える必要があります。

【慈善事業よりも投資を望む声】
“元気なアフリカ”を反映して、アフリカ側からは「アフリカを一つで見ないでほしい」との声が多くあったようで、アフリカ開発銀行(ADB)のカベルカ総裁も「ブルンジのように紛争が解決したばかりの国と、成長途上の国ではニーズは異なる」と語っています。

TICADの会議ではアフリカ各国首脳らは、慈善事業よりも投資の必要性を訴えています。
これまで民間企業は政情不安定なアフリカへの投資をためらいがちで、JETROによると前年の日本からアフリカへの民間投資は11億ドル(約1160億円)、日本の海外投資全体の1.5%にも達していません。
今回政府はアフリカで事業を行う日本企業に対して融資を保証しリスクを軽減するため、25億ドル(約2600億円)規模の支援基金設立を表明しており、アフリカへの投資を5年間で倍増することを目指しています。
また、5年間に40億ドルの円借款で、投資環境を整えるための安全性などの「ソフトインフラ」、また道路・港湾・鉄道建設などの「ハードインフラ」の改善を行っていくことにしています。

【依然として深刻な貧困】
しかし、先述のように依然として貧困がなくならない現実があります。
「国連ミレニアム開発目標(MDG)のすべての目標を2015年までに達成できる国は1つもない」(ミギロ国連副事務総長)のが現実で、昨今の食糧価格の高騰で事態は深刻化しているとも言えます。 

かつて社会主義的統制経済が主流だったアフリカにおいても、近年は補助金カット、財政赤字削減、国営企業の民営化、規制緩和など、マーケット至上主義的なワシントン・コンセンサスの受け入れをIMFなどが援助の条件にしたため、小さな政府へと転じています。
しかし小さい政府への転換は、貧富の格差増大を招いており、もともと極めて低い水準にあった貧困層の生活は厳しいものになっています。

昨今の食糧高騰問題については、政府が4月に打ち出した総額1億ドルの緊急支援のうち「相当部分をアフリカに向ける」としています。
品種改良や灌漑整備などで生産性を上げ、東南アジアの「緑の革命」をアフリカで実現し、コメの生産高を今後10年で倍増させる計画も打ち出しています。

【民主化と良いガバナンス】
援助を貧困の解消に結び付けていくためには、「民主化と良いガバナンス」が不可欠であり、これこそが今のアフリカにもっとも欠けている要素です。
NGOは「アフリカのほとんどの政府は腐敗しているのだから、人々との直接対話が必要だ」と主張しています。

今回の会議でNGO主催会議が初めて公式行事に格上げされ、国内では基本的に国の政府と直接対話する機会を持てないNGOへの配慮が、不十分ながらも示されました。
横浜宣言には、NGO側の主張を取り入れ「市民社会の重要性」が明記されました。

援助する日本側にも、受け入れ側の腐敗体質を是認してしまう問題があります。
東京地検特捜部に旧経営陣らが特別背任容疑で逮捕された海外の建設コンサルタント大手「パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)」が03年以降、香港の現地法人などに年間1億円以上を送金していたことが明らかになっています。
同社の元首脳は「一部は東南アジアの公務員に渡すリベートとして使われた」と証言しています。
アフリカでも同様でしょう。

先日もTVでも、「賄賂を使わないと現地での事業を獲得し進めることはできない」と旧経営者が断言していました。
日本側だけでは解決しない問題ですが、貴重な援助が有効に活用するためには、どうしてもこのあたりを整理していく必要があるのですが・・・。

貧困の問題は感染症の問題にも絡んできます。
「元気なアフリカ」も、エイズ・結核・マラリアという3大感染症への対応を誤れば成長はおろか、政治、経済から保健、教育に至るまであらゆる分野で国の基盤が崩壊してしまいます。
今回、日本政府は世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)に“2009年以降、当面5.6億ドルの拠出する”としています。

【政治的安定の実現】
アフリカの問題はいかに「民主化と良いガバナンス」を実現するか、そして政治的安定を実現するかにかかっています。
TICADに合わせて、スーダンのダルフール紛争など北東アフリカの地域情勢について意見を交わす閣僚級の「北東アフリカ協力会議」が30日、東京都内の外務省・飯倉公館で開かれました。
北東アフリカにはスーダンのほか、ケニアなど政情不安定な国が多数あり、日本主導で対話の枠組みを提供し、各国間の信頼を醸成するのが狙いです。
こうした、治安改善の面での取組みを積み重ねることが望まれます。

スーダンについては、バシル大統領が30日、同国南部の復興支援(道路や橋の建設などのインフラ整備、水の供給などの活動)のため、日本政府から自衛隊の派遣を検討しているとの打診を受けたことを明らかにしました。
一方で日本側は、福田首相との二国間会談で「自衛隊派遣に関するやりとりはなかった」と、大統領の発言内容を否定しています。
日本政府は現在、スーダン南部に展開する国連スーダン派遣団(UNMIS)に司令部要員として自衛官を派遣する方針を固めており、この関連なのかどうなのか、よくわかりません。
なにせ、1日に十数カ国から二十カ国の首脳と話し合う、信じられないようなマラソン会談でしたから、多少の混乱はありそうですが・・・。

会議のポイントは他にも多数ありますが、長くなるのでこのへんで。
このTICADはバブル期の勢いで始められた数少ない日本主導の国際会議だそうです。
今後も、この貴重な枠組みを有効に活用して、アフリカの発展と、日本の国際的活動が促進されることを望みます。




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決まったレバノン、難航するネパール連立工作

2008-05-30 16:40:31 | 国際情勢

(カトマンズ ダルバール広場 05年12月の反王政集会 “flicakr”より By thecnote http://www.flickr.com/photos/thecnote/73166215/)

【レバノン】
複雑な宗派が入り組む“宗教モザイク国家”であるレバノンは、大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はシーア派からの選出が決まっているなど、宗派に応じてポストや議席数を配分する独特の「宗派主義体制」をとっています。

そのレバノンでは昨年11月以来、議会で欧米や多くのアラブ諸国が支持する多数派とシリア・イランが支持する野党勢力(シーア派ヒズボラなど)が対立して、大統領を選出できない状態が続いていましたが、ようやく新大統領選出・組閣に至りました。
新大統領の人選自体については与野党間で合意していたのですが、ヒズボラなどの野党連合は、新大統領就任後の次期内閣の閣僚構成について、内閣の決定に拒否権を行使できる3分の1以上の閣僚ポストを求め、これを拒否する与党側との交渉が膠着していました。

【武力衝突】
今月8日には首都ベイルートで与野党間の武力衝突が発生。
かつてのレバノン内戦再発を懸念させる深刻な事態になりました。
ヒズボラ側はこれまでの政治的な駆け引きに実力行使を加え、力を誇示しようとする狙いがあったようです。

戦闘・武力の面では、06年夏の第2次レバノン戦争をイスラエル相手に互角に戦ったヒズボラの独壇場です。
ヒズボラなど親シリア派は9日、反シリア派の有力指導者ハリリ氏(スンニ派)が所有するテレビ局や新聞社を占拠し、放送・発刊停止に追い込んだほか、イスラム教徒居住区・西ベイルートの反シリア派拠点の大半を制圧しました。

その後も紛争は首都以外に飛び火しましたが、13日、それまで緊急事態宣言も出さず中立の立場をとっていた軍が、“秩序回復のためには武力行使も辞さない”と警告、事態は落ち着く方向に動き出しました。
結局、6日間で首都ベイルートを中心に少なくとも62人の死亡、200人近い負傷者を出しました。

【ドーハ合意 “力”の勝利か】
与野党の交渉は、アラブ連盟が仲介するかたちでカタールのドーハで行われ、21日に挙国一致内閣成立へ向けての“合意”がなされました。
野党側は、合意を受けて成立する新内閣で「重要問題」をめぐる閣議決定に拒否権を行使できる11閣僚(閣僚数30)を獲得しました。
結局、ヒズボラによる西ベイルート制圧にも発展した“力の誇示”が成果をもたらしたようです。

憲法では、閣僚の3分の1以上を欠く内閣は正統性を失うと規定しており、野党勢力の閣僚全員が辞任すれば内閣は存続できなくなります。
今回のドーハ合意は新政権の閣僚に「辞任しない」と宣誓させるなど、「倒閣カード」を防ぐための一定の対策も盛り込んだそうです。
また、「政治的対立に暴力を持ち込まない」ことも確認。ヒズボラなどの「実力行使」に歯止めをかけたそうで、アラブ連盟のムーサ事務局長は「勝者も敗者もない」と強調していますが、どうでしょうか・・・・。
対立が先鋭化すれば、「辞任しない」とか「政治的対立に暴力を持ち込まない」とかいった合意がどれだけの意味を持つものか・・・。
“合意はほぼ野党側の主張に沿い、部分的に野党側が譲歩した内容”【5月22日 産経】といったところでしょう。

ただ、野党ヒズボラ側の強みは武力だけでなく、選挙を行えば野党のほうが勝つと言われるように“民意”を得ている点にもあります。
与党側のこれまでの交渉における手詰まり感もそこにありました。

【ネパール 毛派をめぐる問題】
一方、民意を得て選挙戦に勝利したものの、組閣が難航しているのがネパールの毛沢東主義派。
単独過半数には届かないので組閣には連立が必要で、選挙後からコイララ首相のネパール会議派(110議席)、統一共産党(103議席)との連立政権協議を続けていますが、会議派、統一共産党とも、旧反政府武装勢力の毛派主導の政権への参加に党内で異論が多く難航しています。

毛派は武装解除には応じたものの、依然兵力を維持しています。
各政党に毛派への警戒感は根強く、今後、毛派兵士の処遇などをめぐって対立が深まる可能性も指摘されています。
そもそも、これまで毛派は王制廃止以外には明確な政策を示しておらず、どういう政権運営を目指しているのか不明です。
一応、複数政党制と市場経済を尊重するとはしていますが・・・。

【難航する連立、人事】
制憲議会では、王政廃止は決定しましたが、軍の最高指揮官の権限を新設する大統領と首相のどちらに与えるかなどをめぐってはかなりの綱引きがあったようです。

これまでの経緯、不明確な政策などを考えると他政党が連立をいやがるのもわかりますが、急に力をつけた新参者への嫌がらせというか妬みというか・・・そういった感じも。
まあ、そんなことは“下衆の勘ぐり”というものでしょうから、まずは民意を尊重して連立を組んでやってみることでは。
その後のことは、これからのことを見た上で・・・ということで。
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アフガニスタン  アヘン生産激減、女性の権利

2008-05-29 17:40:12 | 世相

(アフガニスタン 自分のラジオ番組のインタビューをするブルカの女性 “”より By knottleslie http://www.flickr.com/photos/34897016@N00/2424047237/)

アフガニスタンの全般的な情勢はどうなっているのでしょうか?
掃討作戦とか自爆テロの断片的な記事は時々目にしますが、タリバンを抑えつつあるのか、逆にアメリカ・ISAFが追い込まれつつあるのかよくわかりません。

【最近のアフガニスタン 住民避難とテロ】
“断片的な記事”として最近目にしたところでは・・・

****アフガン南部で住民最大6000人が避難=NATO部隊の掃討作戦恐れ
【5月13日 時事】アフガニスタン南部(ヘルマンド州のガルムセル)でNATO主導部隊が反政府勢力タリバンに対する大規模な掃討作戦を展開するなか、NATO部隊の攻撃を恐れて最大6000人の住民が避難している
国連はこうした避難民を支援する用意があると発表しているが、避難民の数はつかんでいない。
掃討作戦は4月28日に開始され、米海兵隊と英軍部隊が作戦を主導している。
NATO部隊によると、ガルムセルは隣国パキスタンからアフガンへの反政府勢力の通路になっている。パキスタンの対アフガン国境沿いには、反政府勢力の複数の基地があるとされている。
***********************

自爆テロ関連は断続的に入ってきます。

*アフガニスタン南西部ファラ州デララムで5月15日、買い物客らでにぎわう市場で女性の伝統衣装のブルカを身に着けた女性とみられる人物が自爆し、警察官4人を含む16人が死亡した。
*アフガニスタン南部のカンダハルで5月25日、NATO主導のISAFの軍用車を狙った自動車による自爆攻撃があり、ISAFの兵士3人が負傷した。また地元の警察によれば、この自爆攻撃で少なくとも子ども2人も負傷した。
*アフガニスタン各地で5月27日、タリバンによるとみられる警察施設などへの攻撃や道路脇に仕掛けられた爆弾の爆発が相次ぎ、市民ら計24人が死亡した。(南部カンダハル州で警察施設などが攻撃され、警察官や子ども計12人が死亡した。中部ロガール州でも爆弾の爆発で警察官4人が死亡した。また西部ファラー州では乗り合いバスが爆弾の爆発に遭い、乗客ら8人が死亡した。)

少なくとも“治安が回復”というような状態にはないようです。
そんなアフガニスタンで明るいニュースがひとつ。

【アヘン生産が激減】
****アヘン生産が激減へ=アフガン対麻薬担当相*****
【5月28日 時事】アフガニスタンのコダイダード対麻薬担当相は、同国34州のうち約20州でアヘン生産を停止したと宣言する見込みであることを明らかにした。アヘン生産をやめたのは2007年は13州で、06年は6州だった。
同相は、昨年、全世界のアヘン生産の93%を占めていた同国の生産が、今年は大きく減少すると予想。農家や地元当局者にアヘン栽培をやめるよう説得するとともに、補償措置を約束したことが、奏功したと指摘した。
*****************

アフガニスタンではこれまでアヘン生産がなかなか減らず、記事にもあるように世界アヘンの大部分を供給する拠点となっていました。
アヘン生産・取引には、かつてはアヘン生産を禁止したタリバンが絡んでおり、このアヘンから得られる利益がタリバンの攻勢を支える大きな資金源になっているとも言われています。
その意味で、今回の発表が実態を伴う事実であれば、タリバンの活動資金を抑えることにもなり、カルザイ政権の将来に関わります。

また、“補償措置を約束”云々が事実なら、カルザイ政権の施策が一定に機能した、人々に信頼されたということにもなり、そのことも重要なポイントになります。
これまで、アヘン生産を止めるように“説得”だか“強要”だか“実力行使”だかがなされても、農業インフラが破壊されている地域の農民はアヘン以外につくれるものがない事情、政府は補償を口にしても実行してくれないという不信感がありました。

農民への補償措置をきちんと実行してアヘン生産を減らすことができれば、今後のアフガン統治にも幾らかの希望が持てます。
各国の支援も軍事だけに偏らず、こうした面での施策を援助していくことが、アフガンの安定化へ至る道筋ではないかと思います。

【アフガンの戦闘は何のため?】
それにしても、今更ではありますが、アフガニスタンでの戦闘はなんのために行われているのか?
アメリカにとっては明確で、9.11への報復であり、テロ集団アルカイダとそれを支持するタリバンとの戦いということでしょう。
日本を含め他の参加・協力している国々も、このアメリカを支援して・・・ということなのでしょうが、当初ISAFは治安維持・復興促進を目的としていたのが、思わぬタリバンの復活・攻勢によって、イラクに足を取られたアメリカに変わってアフガンでの対タリバン戦闘の矢面に立たされている・・・というような感もあります。

個人的には、もちろんテロを容認する訳ではありませんが、9.11は他国にいつも爆弾の雨を降らせているアメリカにとって、“痛み”を知る機会にもなったのでは・・・と思うところもあり、9.11報復だけでアフガンでの戦闘を支援する気持ちにはなれません。
さりとて、“タリバンでもいいじゃないか”とも言いがたい思いもあります。

【タリバン支配】
テロ云々より、正直なところ、あまりにも日本の今日的価値観とはかけ離れた“タリバン統治”に対する拒否感・嫌悪感があります。
文字どおりのイスラム原理主義に部族社会の前時代的封建性をミックスしたようなタリバン統治のもとでの息をひそめるような生活は、アフガン国民が望んでいるものではないのでは・・・との思いもあります。

****パキスタン:石打の刑-タリバン復活の兆し*****
アフガニスタンと国境を接するパキスタン辺境の部族地域で、駆け落ちした男女を石打の刑で処刑したのはタリバン支持者だったと、タリバンが認めた。石打の刑はいわゆる「名誉犯罪」に対する昔からの処刑方法だが、この地で行われたのは初めてである。
「タリバンが運営するガジ(宗教)法廷はこの男女を姦通の罪で有罪とし、石打の刑による死刑という判決を下した。」と、タリバンのモハマド・アサド広報官はIPSの取材に応じて語った。処刑はタリバンが判決を言い渡した2週間後の4月1日に執行された。
パキスタンの人権組織は、部族の古い慣習である「名誉殺人」が、タリバンによって銃殺よりも残酷な死刑方法を宣告されるという新たな事態を憂慮しているようだ。
ペシャワールの法律家であるヌール・アラム・カーン氏によると、最近でも「名誉殺人」と呼ばれる家族に恥をかかせたという理由での処刑が行われている。
「厳格な父権制の社会では、妻、娘、姉妹、母はちょっとした性的無分別さ(家族の承諾なしに結婚した・・・とか)とわずかな姦通の疑いで殺される」とカーン氏は説明した。【5月28日 IPS】
********************

2005年に刑事裁判法が改正され、賠償金に応じるといった示談により和解後に犯罪者を無罪放免とすることが阻止されるようになったそうですが、裁判所・警察にあっても実際には厳格には機能していないようです。
ある裁判長は「後進地域では女性が劣った市民として扱われ、名誉に関連した殺害などの非人道的慣習がいまだに行われている。これはイスラムの教えに反するとともに国の法律にも違反している」と語っていますが、社会全体に受け入れられてはいないようです。

【受け入れらない女性軽視社会】
もちろん“石打の刑”のような残酷さは、べつにタリバン・イスラム社会に限った話ではなく、日本も含め、どんな社会も過去に遡れば同様のものは見出せます。
今現在も行っている社会もあるでしょう。

名誉殺人にしても大同小異のことは、他の封建社会・家社会にはあるのでしょう。

ただ、教条主義的なイスラム原理主義に峻烈な部族社会の掟が加味されたタリバン社会における、人類の半分を占める女性に対する扱いは、どうしても今日の日本的価値観からは受容できないものを感じます。
“たわいもない”(日本的価値観にすればの話ですが)理由による名誉殺人にしてもそうですが、全身を覆うブルカを強要するだけでなく、そもそも保護者なしでは女性ひとりでの外出も認めない・・・そうした世界は、あまりにも身勝手な男性中心のルールを女性に押し付けているように思われます。

そんな男性中心の発想を物語るひとつの記事。
****マレーシア公立校の制服は「セクシー」過ぎる、イスラム系団体の非難に反論****
【5月28日 AFP】マレーシアの公立学校の制服が「セクシー」過ぎて性犯罪を誘発するとの非難をイスラム系団体から受けた問題で、同国のヒシャムディン・フセイン教育相は、制服には責任はないと反論した。
ことの発端は、イスラム系学生協会が前週、白いブラウスに胸当てのついた青いスカートという公立学校の制服を、薄すぎて「男性の気を散らす」と非難したことだった。
この団体は、「性的暴行やセクシャル・ハラスメント、10代での婚前交渉など」の社会悪を避けるには、イスラムの教えにのっとり「(体の線を)隠す」ことが重要だとしている。
これに対しフセイン教育相は「わたしの知る限り、性犯罪者の主な動機は衣服ではない。もっと根本的な問題がある。性犯罪の原因として、女性や子ども、彼らの着ている衣服を責めるのは不当だ」と述べ、公立学校の生徒や制服の責任転嫁するのは間違っているとした。
******************

フセイン教育相の意見に一票。
確かに、オスにとってメスはその気をひく存在ではありますが、そこで起こる問題は基本的には問題を起こす男性の側のモラルの欠如・女性の人権軽視あるいは信仰の弱さが原因であり、それを女性側に責任を押し付ける発想はどうもいただけません。
イスラムを蔑視するつもりはありませんが、こうしたあまりに無邪気な男性中心主義はなんとかならないものかと思ってしまいます。


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台湾  強まる中台関係 “この血縁は誰にも消せない”

2008-05-28 15:00:37 | 国際情勢

(麻雀をする4人の女 そばに立つ少女が台湾 果物ナイフを握り締め独立の機会を窺っています。 正面の着衣の女がアメリカで、台湾の動きを牽制しています。
背中を見せているのが中国 右に寝転がるのがロシア ロシアは片足をアメリカに置き、片手を中国に伸ばしています。 そして背中の中国は卓上に東が3枚、後ろ手に牌を2枚いじっており、ロシアと交換も。 左手で配牌の良いことをひとり喜んでいるのが日本。
・・・といった“解釈”もできるとか。もちろん相当なこじつけではありますが。“flickr”より By h a o http://www.flickr.com/photos/hungrytraveller/191495250/)

世の中変わるものです。

【台湾国民党主席訪中】
****「未来開く」と関係発展に意欲=南京で演説-初訪中の台湾与党主席****
台湾の与党党首として初めて訪中した国民党の呉伯雄主席は27日午前、訪問先の江蘇省南京で演説し、「両岸(中台)は歴史を直視し、現実と向き合い、未来を切り開くべきだ」と述べ、中台関係の発展に強い意欲を示した。南京訪問の模様は国営テレビが中継した。
 呉主席はまず、南京市内の国民党創設者・孫文の陵墓に参り、「安らかに眠って下さい」と8年ぶりの政権奪回を報告。演説では、「中台は共に中華民族に属しており、この血縁は誰にも消せない」とし、四川大地震で台湾の人々が率先して救援に協力していることが証しになるとの認識を示した。 【5月27日 時事】
******************************

“与党党首”としては初めてですが、国民党党首としては05年4月26日 当時の連戦主席がやはり南京から中国に入っています。
国民党主席が中国を訪問したのは、1949年の中台分断後初めてでした。
連戦氏は胡錦濤・中国共産党総書記と、毛沢東―蒋介石の会談(1945年)以来、60年ぶりの国共トップ会談を行いました。

この訪中で連戦氏は「訪問が遅すぎたうらみはあるが、ついに歴史的一歩を踏み出した」と述べ、中国側も国営メディアなどを総動員して「対話」「和解」ムードを演出しました。
当時海外のニュースなど殆ど関心を払っていなかったので事前の情報がなく、“国共トップ会談”とか“毛沢東―蒋介石の会談以来”というメディアの記事を目にして、随分驚いた記憶があります。
歴史の教科書に埋もれていた壊れた時計が突然動き出したような印象を持ちました。

さて、今回の訪中ですが、「台湾は島国。閉鎖すれば衰退する」として経済的な中台関係強化を掲げて先の総統選挙に圧勝した馬九英総統は、「任期中に独立も統一もしない」と表明する一方で、今回のトップ会談に続き、6月には中台対話の再開、7月からは中台間直行週末チャーター便と中国人観光客の受け入れ開始という流れを描いているとか。

【中国側の対応】
中国側もこの流れを加速させたい意向です。
中国共産党台湾弁公室は22日、中断されている台湾との直接対話の再開に向けて準備を進めていることを明らかにしました。
中国が対話再開の意思を示したのは数年ぶりで、陳雲林主任は国営メディアを通じて「現在、海峡両岸(中台)関係に良好で発展的な勢いが生じている」と述べ、対話再開に前向きな姿勢を示したそうです。
また、陳主任によると、“中台両政府は、「1つの中国」の原則を中台がそれぞれに解釈するとした対話の指針「92年合意」に基づいて、交渉と議論の再開に向け努力しており、関連の準備を進めている。中国政府は長年の懸案だった台湾問題の解決を見込んでいる”とのことです。【5月22日 AFP】

【四川大地震で高まる同朋意識】
こうした中台の改善ムードは四川大地震で一気に高まったようです。
馬英九総統は総統就任前の13日に約70万円の義援金を出した際、「一つは人道面から、もう一つは中華民族のひとりであるからだ」と述べています。
また、まだ総統の立場にあった、独立志向の陳水扁政権も人道支援に踏み切り、当時台湾からの義援金は突出して多額となっていました。
 
こうした状況を17日朝日は「地揺れて、仲深まる 中台に「同胞意識」 四川大地震」という見出しで報じています。
これは画期的な変化です。
「ひとつの中国」というものは、長く東アジア世界のパワーバランスを維持するための“虚構”として、あいまいな位置づけのまま保たれてきました。
今の中台関係改善には、単なる“虚構”でもなく、単なる経済発展のための関係でもなく、“同胞意識”が表に出始めており、冒頭記事にある呉主席の発言「この血縁は誰にも消せない」に至っています。

もちろん、今後一直線に接近が加速することはないでしょう。
台湾にとって、大陸の中国はあまりに巨大な磁石です。
距離を誤ると・・・という危機感は常につきまといますし、中国の1党独裁という政治体制が一定以上の関係を阻む壁になります。

しかし、一進一退はあるものの、政治的にも経済的にも存在感を増す中国の存在を無視することは今後ますます困難となるでしょうから、今後の具体的な関係のなかで対抗意識・警戒感が薄れ、同朋意識が高まることで、更にその関係は太いものとなっていくようにも思われます。

【東アジア地域の動向】
胡錦濤主席の日本訪問、日本からの緊急援助隊受け入れで日中関係改善もアピールされています。
27日には、韓国の李明博大統領が中国公式訪問のため北京入りし、人民大会堂で胡錦濤国家主席と会談。
双方は両国関係を従来の「全面的協力パートナー」から「戦略的協力パートナー」へ格上げするとともに、経済協力をさらに拡大することで合意しました。

中国・台湾・日本・韓国・・・・これらの国々の間には懸案事項も多く存在します。
それは隣接する国家であれば、いろんな問題を抱えるのは当然の話でもあります。
歴史的に深い関係があれば、それだけ問題も多く存在するでしょう。
政治的体制の違いもあります。
しかし、そこに囚われていては、事態は変化しません。
全体的な関係を前に進めることで、懸案の問題についても解決の糸口が見つかるのではないでしょうか。
経済的に大きな市場を形成しうる、文化を共有するこれら国々が、東アジアで成熟した関係を築いていけることを望むのですが・・・。
日本・台湾が海で隔てられており、中国と韓国の間には北朝鮮が緩衝地帯として存在する・・・という地政学的な関係も、地続きの国境線よりは緊張の高まりを防止するうえでいいかも。



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インド  魔女に不可触民、IT社会に並存する闇

2008-05-27 14:48:28 | 世相

(昨年5月 インド・ウッタルプラデシュ州議会選挙において、自身が不可触民であるMayawati氏率いるBSPの勝利を報じる新聞記事。Mayawati氏は州首相となりましたが・・・ “flickr”より By counterclockwise
http://www.flickr.com/photos/xclockwise/530720366/ )

インドという国は同じアジアとは言いながらも、“カレー”に“ターバン”といった類のイメージしかなく、もともと日本人にはあまり馴染みがない国でした。
更に、最近のITを軸にした目覚しい経済発展や中国に対抗するような資源外交、その一方で、なお残存する極度の貧困や宗教対立、また、ときおり伝えられる前時代的な事件や風習、伝えられる情報もアンバランスな感じで、一体的なイメージを掴みづらい国です。
経済格差や非民主的に思えるようなことがらというのは中国からもいろいろ伝えられていますが、「沿岸部と内陸部の格差が大きいから・・・」とか、「まあ、あそこは共産党独裁の国だから、そんなこともあるかも・・・」といった感じで、それなりにイメージを把握できるのですが、インドの場合は、なんだか日本人の想像の域を超えたような部分があるようにも思えます。

“前時代的な事件や風習”ということでは、これまでも、女性の婚資“ダウリー”や寡婦殉死“サティー”の問題(07年7月21日 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070721 )や不法腎臓密売の問題(3月1日
 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080301 )などにも触れてきました。

圧倒的な経済格差・貧困は現地のスラムを一瞥するだけで、一介の旅行者でもその凄まじさが感じられます。
ときおり毛沢東主義者が警察を襲撃といった記事を目にしますが、毛沢東主義派は現在インド全29州の半数にまで勢力を拡大しているとかで、その背景に絶対的な貧困・格差があることは容易に推察されます。

****インドの「魔女狩り」がテレビで放送****
【3月31日 AFP】魔女とされたインドの女性が木に縛られ、村民らに殴打される映像が28日夜、テレビで放映された。貧困層の多いビハール州での事件。
地元の報道では事件発覚後、警察が介入し、村民6人が逮捕されているという。
インドでは特に農村地域で、「黒魔術」を実践したとして非難を受け、毎年多くの人が暴行されたり、殺害されたりしている。警察当局によると、24日には東部チャッティスガル州でも、女性が魔女とされ暴行を受けた後死亡。前月には、西ベンガル州の女性が、家族が病気になった後、魔女と疑われ、女性の2人の息子と娘に殺害されている。***********************

“魔女狩り”自体はもちろん日本的感覚では受け入れがたい風習ですが、それがテレビ放映されるということが理解できません。

他の国々からのニュースを含め、最近見聞きした事件で一番衝撃的だったのが次ぎの記事
****病院に処置を拒否されたインドの妊婦、出産後母子ともに死亡*****
【4月26日 AFP】インド北部ウッタルプラデシュ州の病院で処置を拒否され、屋外で出産した女性が24日死亡した。この女性はインドの身分制度で「不可触民」に位置付けられる階層の出身だった。
通信社PTIは、病院の医療管理責任者を含む医師数人が、この女性の出産に際し、触ったり処置を施したりするのを拒否したと報じている。
「不可触民」は「ダリット(Dalit)」とも呼ばれ、法律では差別が禁じられているにもかかわらず、上位身分出身者の多くはダリットとの接触を恐れている。
Mayawati州首相は関係した医師らを停職処分にし、捜査を行うよう命じた。
***************************

医学という高度な教育を受けた者が、人の命を助けることを職業徒する者が、自分と異なる人間として医療を拒否するという、人間の心に巣くう差別の意識を目の当たりにする感じがして背筋が寒くなります。
インドにおけるカースト制度や不可触民“アンタッチャブル”については、万巻の書があるところであり、私は一片の知識も持ち合わせていませんので、これには立ち入りません。
ただ、彼等を神の子と呼んだガンジーをもってしても、また、経済成長・都市化といった社会の変容をもってしても、人の心に染み付いた差別の意識を拭うことはできないのか・・・と思うだけです。

ウッタルプラデシュ州はインドでも最も人口の多い州で、その数は1億7千万人あまり・・・日本より大きな人口です。そして、皮肉なことに、記事にも出てくるMayawati州首相というのは、彼女自身がDalit不可触民である女性です。
昨年5月の州議会選挙で彼女が率いるBahujan Samaj Partyは上位カーストの支持も取り付け、予想に反して第1党に躍進しました。そして彼女は州首相になったようです。
Mayawati州首相の政治実績・方針については全く知りませんが、あるサイトで「ヒンドゥー至上主義者とも手を組む、危うい政治的綱渡りをしている権力政治家である」との評価を目にしたことはあります。

もちろん、インド社会が“差別”を放置している訳ではありません。
人の心の内側に入り込むことはできませんが、目に見える部分での差別をなくしていくべく施策を行ってはいます。しかし、日本でも見られることですが、差別解消の取り組みが屈折して、そのような取り組みを利用した自己利益追及に変わってしまうこともあります。

****「最下層カースト優遇」求め暴動、31人死亡 インド******
【5月26日 朝日】インド西部ラジャスタン州で23~24日、最下層のカーストの人々に与えられる優遇策を州政府に求める少数部族のデモ隊が暴徒化し、地元報道によると、警察の発砲で少なくとも30人が死亡、デモ隊の暴行を受けた警官1人も死亡した。
インドでは、カースト制度で「不可触民」と呼ばれた最下層の人々と、生活水準の低い少数部族を、それぞれ「指定カースト」と「指定部族」と定めている。両者は人口の2割を占め、公務員の採用や国立大学の入学で優先枠が与えられる。
同州で人口の約5%を占めるグッジャール族が、自らも指定部族にするように州政府に要求。数千人が23日から、こん棒などを持って鉄道や幹線道路の封鎖を始め、制止しようとする警察と衝突した。
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強烈な日差しのもとでむき出しの生と死が織り成すインド社会のカオスは、日本的な穏健で秩序だった感覚では掴みかねる部分があるようです。

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コロンビア  FARC最高司令官の死で進むか人質解放

2008-05-26 15:03:44 | 世相

(2月4日 コロンビアやグアテマラやペルーなど中南米各地で、コロンビアで政治家らを人質にとっている左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」に対する人質解放を求める抗議デモが行われました。写真はコロンビアのMedellín で行われたデモ 人質達の写真を掲げて行われました。 “flickr”より By medea_material http://www.flickr.com/photos/medea_material/2242763076/)

【膠着したイランの人質事件】
前年10月にイラン南東部で誘拐された中村さん(23)の事件で、犯人グループが人質解放と引き替えに死刑判決を受けた親族(犯人の息子)1人の釈放を要求しているそうです。
中村さんは現在イラン国内ではなく、パキスタンとアフガニスタンの間の国境地帯で拘束されているようですが、イラン・ケルマン州警察長官は「そのような要求には屈しない」、「社会で権威が維持されるためには犠牲が払われる必要もある」と述べてますので、解放はまだ時間がかかりそうな状況です。【5月26日 AFP】

【FARC最高司令官の死】
誘拐というと“本場”は南米コロンビア。
そのコロンビアで、左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)のマルランダ最高司令官(80)が死亡したことを各紙が報じています。
今年3月にはコロンビア軍によるエクアドル領内への越境攻撃を受けて、FARCナンバー2のラウル・レジェス幹部も殺害されています。

父親が左翼ゲリラの犠牲者でもあるウリベ・コロンビア大統領の強硬路線によって、以前は全土の3分の1の地域を実効支配していたFARCは、最近ではベネズエラ国境付近、南西部ジャングル地帯に追い込まれており、人員もかつての1万8千人から、今は1万人を割る状態になっていると言われていました。
(4月21日 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080421 参照)
その上に最高司令官、ナンバー2の相次ぐ幹部の死で、一層の組織弱体化が推測されています。

【人質解放の期待】
ウリベ大統領は、FARCの複数の幹部から電話を受け、身柄の自由が保障されるならFARCを脱退し、ベタンクール元大統領候補ら人質を解放すると提案されたことを明らかにしています。
提案に対し大統領は、人質を解放するなら「政府の答えはイエスであり、メンバーの自由を保障する」との姿勢を示したそうです。
(ベタンクール元大統領候補については、3月29日 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080329 参照)

更に“人質を解放したコロンビア革命軍幹部の身柄をフランス捜査当局に移送する道を示唆し、「彼らはフランスで自由の身となろう」と述べた。大統領はさらにコロンビア革命軍のメンバーに対し、人質を解放すれば総額1億ドル(約100億円)の報奨金を支給するとして、政府への投降を強く求めた。”【5月25日 AFP】とか。

コロンビアに限らず、武装勢力との内紛に終止符を打つ際には、投降後の身分保障や職業訓練プログラムなどが提示されることはよくあります。
それはそれで結構なことですが、一方で、彼等の活動や紛争で犠牲になった人々への補償は殆どなされないことが多く、いささかバランスを失していることも目にします。
犠牲者へのより篤い補償策も忘れずに進めてもらいたいものです。

いずれにしても、ベタンクール元大統領候補など700名以上が人質として拘束されていると聞きますので、これらの人々が1日でも早く解放される方向に事態が進んでもらいたいものです。

【人質、ジャングルからプロポーズ】
FARCの人質に関して、ちょっと変わったところでは、つい先日こんな記事もありました。

****FARC人質、ジャングルから恋人にプロポーズ 解放議員が代役*****
【5月19日 AFP】コロンビアの左翼ゲリラ「コロンビア革命軍FARC)」の人質となっている米国人男性が、FARCが拠点とするジャングルから、恋人にプロポーズの言葉を届けた。
プロポーズしたのは、5年にわたりFARCの人質となっているStansellさん(43)。
Stansellさんは米フロリダ州出身で、米民間軍事会社の麻薬対策要員だったが、2003年2月13日、内偵中に同僚2人とともに乗っていた航空機が奥深いジャングルに墜落し、その場で連れ去られた。
一方、プロポーズの言葉を受け取ったのは、Medinaさん(36)。
Stansellさんが人質となったとき、Medinaさんは妊娠4か月で、Stansellさんとの間に双子の子どもを身ごもっていた。誘拐後、3人の情報はほとんどなく、メディアは「忘れられた人質」と名付けた。

同じく人質となっていた、ペレス元同国議員がほかの2人とともに解放されることになり、Stansellさんはペレス氏に、恋人へのプロポーズの伝言を依頼した。
Medinaさんは、ペレス氏の解放直後、多数の支持者が詰めかけた空港で同氏と面会した。Medinaさんは、人質となっている恋人の情報をわずかでも得ようと、ペレス氏との面会を申し入れていた。
ペレス氏は抱えていた花束から花を1輪抜き取ってMedinaさんに手渡し、Stansellさんの代わりにプロポーズした。
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報じられた19日時点では解放の目処もなく、読んで複雑な気持ちになる、どちらかと言うと悲しくなるような記事でしたが、昨日・今日のニュースを踏まえると、遠くない将来、この二人が再開できる日もあるかも・・・と思いたいものです。

【ゲバラブーム】
今朝TVを観ていると、最近チェ・ゲバラの本が多数出版されており、ブームだとか。
“ふーン”と思いネットで検索すると、確かにそのようですが、04年頃のブログで“最近チェ・ゲバラがブームで・・・”なんてものもいくつか目にします。
最近だけに限らず、ゲバラに対する想いというのは常にあるのでしょう。

およそ“革命”という言葉は死後となってしまった現代においても、不平等、不公正などは減ることなく、むしろ拡大する傾向さえあります。
そんな現実に生きる人々は、“信念の人”として“革命”に一生を捧げたゲバラに対して思うところがあるのかも。

コロンビアにしても世界第2位の国内難民を抱える社会ですから、“革命”の要素がなくなった訳ではないでしょう。
しかし、誘拐と麻薬に頼る組織であっては弱体化も止むを得ないところですし、ゲバラが泣いているのでは・・・と思われます。


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ソマリア  情勢は悪化、出口は?

2008-05-25 13:46:02 | 国際情勢

(ソマリアの青い海と廃墟 “flickr”より By  ctsnow
http://www.flickr.com/photos/ctsnow/851252619/ )

東アフリカ“アフリカの角”に位置するソマリア。
ソマリア沖では、海賊によって船舶が乗っ取られるニュース(昨年10月日本国籍タンカー、北朝鮮貨物船(工作船?)、今年4月フランス豪華帆船、スペインマグロ漁船)がしばしば報じられています。

06年末に隣国エチオピア軍がイスラム原理主義勢力「イスラム法廷連合」を首都モガディシオから追放し、一応暫定政府(ユスフ大統領)が成立はしましたが、「イスラム法廷連合」残党との戦闘、エチオピアへの抵抗運動が収まらず、事態は悪化の方向にあるようです。

【ソマリア情勢悪化の経緯】
事態悪化が顕著になったのは、昨年10月末に激化したエチオピア軍に対する抗議デモ、これに対するエチオピア軍発砲のニュースあたりからです。
10月29日には暫定政府のゲディ首相が辞任。
ケディ首相の出身氏族は反エチオピアの姿勢を強めており、エチオピアとの間に一定の距離を保とうとした首相は、エチオピアとの連携強化を図るユスフ大統領や議会と対立していたと言われています。

激しさを増すエチオピア軍への抗議活動により、10月末時点で最大9万人の避難民が発生。
人道支援団体などは、支援活動が不可能になりつつあるとしてソマリアの危機を訴える声明を発表しました。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は声明で「過去数か月で最悪の事態」と述べています。
無政府状態が長年続いたソマリアでは、すでに国民の6分の1にあたる150万人が人道支援を必要としており、これに上乗せするかたちでの難民です。

【国連もPKO断念】
戦況の泥沼化に対し、潘基文・国連事務総長は11月8日、暫定政府から要請されていた国連平和維持活動(PKO)部隊の派遣について「現実的でない」と国連安保理に報告し、派遣を事実上断念しました。
PKO部隊の派遣を見送る代わりに、アフリカ連合(AU)独自の平和維持部隊を支援する考えを表明した。
しかし、AUは07年1月、ソマリアへ8000人規模の部隊派遣を決定しまたが、治安の悪化で当時ウガンダ軍1600人の派遣にとどまっていました。
このため、事務総長の提案には「国連にできない派遣が、なぜAUにできるのか」(外交筋)との疑問も出ていました。【07年11月11日 毎日】

【ソマリア情勢の三つの側面】
ソマリアの混乱は、国内的には暫定政府と「イスラム法廷連合」の争いですが、暫定政権を支援するエチオピアと同国と対立し反政府勢力を支援するエリトリアの代理戦争でもあります。
独自で治安を維持できない暫定政府はエチオピアに頼るしかなく、エチオピアが前面に出るほど国民のエチオピアへの反発が強まる悪循環に陥っています。
エチオピアは当初「(ソマリアからの)即時撤退」を表明していましたが、引くに引けない泥沼化に陥っています。

ソマリア反政府勢力はエチオピア東部オガデン地方の分離・独立を求める反政府勢力と繋がっており、エチオピアにとってソマリアでの「イスラム法廷連合」の勢力拡大はエチオピア国内での分離独立運動激化を意味するため、エチオピア国内安定のためにもソマリア混乱を座視できない事情があります。
エチオピア空軍は11月18日、オガデン地方の村や遊牧民居留地をじゅうたん爆撃し、多数の住民、家畜が殺害されたと反政府勢力は発表しています。

ソマリア内紛は「アメリカ対イスラム原理主義」の代理戦争にもなっています。
今年3月には、アメリカはソマリア南部に潜伏する国際テロ組織アルカイダのメンバーを狙って、ソマリア沖の潜水艦から巡航ミサイル・トマホークを3発発射しています。

一方、反政府勢力の側も「暫定政権憎し」の感情でつながっているだけであり、内部はバラバラなのが実情とか。
昨年9月にはエリトリアにおいて対抗勢力側の会議が開かれましたが、コンセンサスに達することができませんでした。【07年11月16日 IPS】

【ジブチで国連主導の和平会議】
今年4月19日、20日には戦闘が更に激化。2日間で少なくとも81人が死亡【ロイター】。
市街地には遺体が放置されている状態とか。
世界的食糧価格高騰を受けて、5月5日、価格高騰に抗議する約7000人のデモ隊が治安部隊と衝突。
治安部隊の発砲で市民5人が死亡するなど情勢は悪化。

エチオピア軍が、ソマリアの一般市民を「のどをかき切って」処刑する事例が増えているとの報告書を国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが5月6日発表。
エチオピア政府はこれらの事実関係を否定し、同団体に対し謝罪を求めています。

ジブチで国連主導の和平会議が始まっているようですが、最近、「イスラム法廷連合」指導者や、「イスラム法廷連合」を支援しているといわれるエリトリア指導者の発言の記事を目にします。
これら勢力が勢いを増していることの反映でしょう。

「イスラム法廷連合」の最高実力者ハッサン・ダヒル・アウェイス師は22日付の英紙ガーディアンに掲載されたインタビューで、「先週、ジブチで始まった国連主催の和平協議は、エチオピアがまず全部隊を撤退させなければ、失敗する運命にある」、「国連は公平ではない。われわれはこの和平プロセスを続行したいとは思わない。われわれの計画は、闘争を続けることである。すべての地域から敵を追い出すことが重要だ」と主張しています。
ジブチでの和平協議は、イスラム勢力が実際の協議開始に先立ってエチオピア部隊の撤退を主張していることから、これまでのところ、間接的な接触しか行われておらず、強硬派のイスラム勢力司令官や行動を共にしている氏族は、協議をボイコットしているそうです。【5月22日 時事】

エリトリアのイサイアス大統領は23日、イランと「強い協力体制を築くことになる」と述べており、アメリカに対抗するイランとの関係強化で、エリトリアがさらに反米色を強める可能性も指摘されています。
大統領はまた、エリトリアの「テロ支援」を非難しているアメリカに対し、「事実に反する」「アメリカが(勝手に)ソマリアの反政府勢力を『テロリスト』と分類しているだけだ」と強く反論。
ソマリア情勢については「安定のためにあらゆる分野での支援をいとわない」と語っています。【5月24日 毎日】

【統一政権は可能か?国際支援は?】
現在の暫定政権は、1991年にバレ政権が崩壊して以降14度目の全国政権確立の試みでしたが、厳しい状況にあります。
ネルソン国際公共問題研究所(米ジェームス・マディソン大学)のピーター・ファム所長は「むしろ、氏族を中心としたいくつかの単位にソマリアを分割して統治した方が地域の実情に合っており、治安も保ちやすいのではないか。まずはソマリアに対する武器禁輸措置をとるべきだと話す。」と主張しています。【07年11月16日 IPS】

国際支援のあり方も問題になります。
先述のように国連は対応をあきらめ、アフリカ連合(AU)に任せていますが、資金的に困難な状況にあるアフリカ諸国は派遣もままならず、本来8千人規模のはずが2200人しか到着していません。
「国連にできない派遣が、なぜAUにできるのか」という疑問は当然に思われます。
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もつれ絡みあう天然ガスパイプライン

2008-05-24 18:27:29 | 世相

(ロンドンで行われたShellのパイプライン建設に対する市民の抗議活動「Shell to Sea」 環境破壊や安全面が理由のようです。 “flickr”より By fotdmike
http://www.flickr.com/photos/fotdmike/2341677213/)

天然ガスに関しては、海洋国家日本の場合、液化天然ガス(LNG)が中心になっていますので、パイプラインというのは今ひとつ馴染みが薄いところがあります。
(現状はしりませんが、サハリンからパイプラインで日本国内に直接持ち込もうという計画は以前からあります。)
大陸の場合はもっぱらパイプラインを使用していますが、国家間を物理的に結ぶパイプラインには、国家間の関係、利害、思惑が色濃く反映しています。

「North Stream」「South stream」、競合する「Nabucco」
天然ガス取引の主役はロシア。
3月3日のブログでも、いつもトラブルをおこすウクラウイナを避けて天然ガスをヨーロッパに送る、多チャンネル化の話題を取り上げたことがあります。
「North Stream」(ノース・ストリーム):ロシアからバルト海を経由してドイツへ至るルート
「South stream」(サウス・ストリーム):ロシアから黒海海底を通ってブルガリアに至り、その後は枝分かれして、南西はギリシア、北西はルーマニア、ハンガリー、オーストリアへ、そしてイタリアの北部までガスを運ぶルート。

サウス・ストリームには、EU支援で進められている競合ルートとして、カスピ海周辺諸国で産出された天然ガスをトルコから欧州に運ぶ「Nabucco」(ナブッコ)計画があります。
ロシアへの過度のエネルギー依存脱却を目指すものです。

「バルト海-黒海-カスピ海・エネルギー輸送回廊」
一方、ウクライナが主導して進めている計画もあります。
****エネルギー輸送:ウクライナと周辺6カ国の首脳が会談*****
ウクライナと周辺6カ国の首脳が23日、キエフで「エネルギー安保」をテーマに会談を始めた。カスピ海産の石油・天然ガス資源をロシアを回避して欧州に運ぶ「バルト海-黒海-カスピ海・エネルギー輸送回廊」の創設を目指すことで一致する見通し。石油輸送ではウクライナ国内にある既存のパイプライン「オデッサ-ブロディ」を利用する計画だが、同ラインは現在、ロシアが自国産石油を黒海経由で輸出するために使っており、ロシアの反発も予想される。
会議にはウクライナのほか▽アゼルバイジャン▽グルジア▽エストニア▽ラトビア▽リトアニア▽ポーランドの各大統領が参加した。【5月23日 毎日】
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ウクライナ他の参加国を眺めると、旧ソ連で現在はロシアと対立することが多い国々が並んでいます。
ロシアから見ると、“寝返り国”のロシア包囲網のようにも見えるかも。
カスピ海沿岸の石油・天然ガス産出国というと、カザフスタンやトルクメニスタンが主な国になります。
現在、これらの地域は、石油や天然ガスの輸出をロシア国内のパイプラインに依存していますので、ウクライナ、グルジアの主導で始まった今回の計画は、ロシアの利益と衝突します。

中央アジア諸国の思惑
そんなこともあって、ロシアのメドベージェフ新大統領は最初の外遊先として22日、カザフスタンを公式訪問し、ナザルバエフ大統領と「友好と協力関係」を確認する共同声明に署名しました。
世界一の天然ガス生産を誇り、欧州の需要の4分の1以上を満たすロシアは、国内生産だけではこの輸出をカバーできず、中央アジアのカザフスタンとトルクメニスタン、ウズベキスタンから大量の天然ガスを輸入しています。

ロシアは長年、この中央アジア産ガスを破格値で輸入し、数倍の価格で欧州に転売して荒稼ぎしてきたそうです。
ところが、この3カ国が3月、来年から「対欧州価格」でガスを売却するとロシアに通告しています。

中央アジア産ガスについては、ロシア、欧米だけでなく、中国も手を伸ばしています。
カザフスタンは昨年、中国向け石油パイプラインが完成、トルクメニスタンも中国向けのガス輸出で合意しています。
激しい資源争奪戦が繰り広げられていますが、ロシアはカザフスタン等の値上げ要求を呑んでも、この地域のガスをおさえる意向のようです。【5月23日 産経】

「TAPIガスパイプライン」とインド
更にこの争奪戦に絡んでくるのがインド。
****インドなど「TAPI」4カ国 パイプライン建設合意*****
トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、インドの4カ国は25日まで2日間にわたりパキスタンの首都イスラマバードで石油相会議を開き、トルクメンの天然ガスを他の3カ国に輸送するパイプラインの建設で合意した。
建設するのは、4カ国の頭文字をとった「TAPIガスパイプライン」【4月26日 フジサンケイ ビジネスアイ】
************************

ただ、この計画には問題も多いとされます。
第一、トルクメニスタンのガス田埋蔵量の正確な統計はなく、パイプラインが完成しても、どの程度の期間にわたり供給できるかの見通しは立っていません。
現時点では、トルクメニスタンの全採掘ガスはロシアのガスプロムとイランによってすでに契約されています。
第二にパイプラインが通るアフガニスタンの治安問題がります。
宿敵パキスタンとインドの関係もいつ火を噴くかわからないところがあります。

「IPIパイプライン」とイラン、更にロシア
インドはトルクメニスタンのほか、イランからもパキスタンを経由する「IPIパイプライン」を建設して天然ガスを輸入する話し合いを進めていますが、核開発をめぐりイランと対立する米国から強い反対圧力を受けています。
しかし、インドにはアメリカとの原子力協力が連立を組む国内左派勢力で進展しないというエネルギー事情もあります。
****イラン:パイプライン実現へ パキスタン首脳と合意****
イランのアフマディネジャド大統領は28日、パキスタンを訪問し、ムシャラフ大統領と会談した。両首脳はイランからパキスタン、インドに天然ガスを供給する「IPIガスパイプライン」について09年初めに着工、12年までに供給を開始することで一致した。インドも事前協議で合意しており、近く3カ国首脳がテヘランで正式調印する見通し。IPI計画は89年にイランが発案して以来、20年を経て実現する運びとなった。【4月28日 毎日】
****************************

この「IPIパイプライン」プロジェクトには、ロシアのガスプロムも積極的に参加の意向を示し、財政支援も提案する意向があるとか。
先述の欧米が脱ロシアを目指し進める「Nabucco」(ナブッコ)は中央アジアからの供給が不足し、イランがその供給を担うことが考えられています。
イランとしてはこれにより、アメリカ主導の政治的包囲網を突破することが可能になります。
しかし、ロシアはヨーロッパのガス市場を独占したいために、イランのヨーロッパへの参入は排除したいところです。
そこで、「IPIパイプライン」に参加して、イラン産ガスはヨーロッパではなく、インドやパキスタン、中国と言った東方にまわそう・・・という思惑のようです。
更に、ロシアは、インドへの納入に対し同国と関係の悪いパキスタン領土を通らないでイランからインドに納入するさらにもう1つのルートを開拓する可能性をイランとインドに提案したいと伝えているそうです。

ロシアと中国
ロシアと中国の関係は、資源を奪い合う競合する部分もありますが、ロシアの資源を支線で中国に引き込む「東シベリア・太平洋パイプライン」の計画もあります。
ただ、この計画は06年のプーチン前大統領の訪中時に基本合意しましたが、その後は進展していません。
背景には石油・ガス供給価格をめぐる中露の対立が指摘されています。
ロシアのメドベージェフ大統領は23日、中国・北京を訪問して胡錦濤国家主席と会談し、両首脳は会談後、米国が進めるミサイル防衛(MD)計画への反対で一致するなど、国際問題での中ロの共同歩調を強調する「共同宣言」に署名しました。
しかし、両国の間に上記のような資源の問題や兵器供給の問題で対立している部分があることが指摘されています。

日本は・・・と言うと、「東シベリアからの太平洋石油パイプラインの終点となる極東ナホトカ近郊コジミノ湾で22日までに、港の建設が始まった。完成は2009年12月の予定。日本や中国、米国などへのロシア産原油の一大輸出拠点となる。」なんて記事【5月23日 時事】もありました。
ただ、「東シベリア・太平洋パイプライン」の先行き自体がはっきりしませんが、ロシア側は今回の港建設はパイプライン全線の完成を目指す意思の表れと強調しているそうです。 

ガス取引をコントロールしたいロシア、ロシア依存から脱却したい欧州、需要が急増する中国・インド、関係国を天秤にかける中央アジア各国、アメリカの包囲網を破りたいイラン・・・いろんな思惑が渦巻いています。

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クラスター爆弾禁止を目指す「オスロ・プロセス」で日本孤立か?

2008-05-23 13:40:57 | 国際情勢

(ラオスの少女 ラオスは今なお残る多くのクラスター爆弾に苦しんでいます。
“flickr”より By Lorna87 http://www.flickr.com/photos/lorna87/362444513/)

【ラオスの悲劇】
*****インドシナ戦争の傷跡 不発弾7800万発、うめくラオス*****
60年代初めから、左派、中立派、右派の3勢力による内戦に揺れたラオスは、60年代半ばに入ると、ベトナム戦争に巻き込まれた。当時の北ベトナム軍は、南ベトナムで戦う兵力への補給路としてラオス東部のジャングルを使った。
 南ベトナムを支援する米軍はこのルートを断ち、ラオスの左派勢力を抑えるため、じゅうたん爆撃を重ねた。和平協定が結ばれた73年までの約10年間で、投下された爆弾は200万トン以上といわれる。
 このうち、最も大量の不発弾を残したのが、一つの爆弾で数個から数千個の子爆弾を飛散させるクラスター爆弾だった。ラオス政府は、飛散した計2億6000万個の子爆弾のうち、30~10%が不発のまま残存していると推計する。最大7800万個が地中に埋もれている勘定だ。
 政府が把握する不発弾の被害者数は99~07年の間で死者314人を含む1038人。クラスター爆弾による被害が約6割を占める。別の推計では73~96年の被害者は1万1000人とされている。
 農作業時の被害が多い。子供が危険物と知らずに遊んでいた時の爆発も絶えず、被害者の約半数は子供だという。
政府は96年以降、日本など外国の政府や民間団体の支援を受け、不発弾の処理を本格化させた。07年までに処理した不発弾は、ラオス全土で81万個。うち半数弱の38万個がクラスターの子爆弾だ。
 だが、処理面積は「危険地域」とされる面積の0・15%にとどまっている。担当のマリニャ国家調整局長は「このペースだと、すべての危険地帯の処理が終わるまでに何百年もかかる」と語る。【5月1日 毎日】
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【オスロ・プロセス】
不発弾が市民に被害を与えるクラスター爆弾について議論する「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」は、大量保有国の米露や中国、韓国などが規制に消極的なこともあって、米中露などを抜いた有志国方式の「オスロ・プロセス」がCCWと並行して進んでいます。
ノルウェー政府などの主導で昨年2月に始まったオスロ・プロセスは、国家とNGOの連携で対人地雷禁止条約(1997年調印)を導いた「オタワ・プロセス」同様、国連の枠外で有志国が独自に軍縮を進める試みです。
19日からアイスランド・ダブリンで開かれている会議が5回目で、最終会議です。

オスロ・プロセスでは、これまで全面禁止か、一部例外を除く部分禁止かで対立してきました。
しかし、ここにきて、極めて数が少なく不発率が低い「最新型」(それぞれの子爆弾が目標を識別して爆破するタイプ)だけを例外とする案で合意する可能性が浮上しています。

これまで「部分禁止派」であった独仏は「最新型」だけを例外とする方向を強めています。
一方、「全面禁止派」を引っ張ってきたノルウェーも、ほぼ全面禁止に近い「最新型」だけを例外にする線で、独仏と妥協しつつあるとか。
この流れを受けて、部分禁止派であったイギリスも孤立を避けるべく、「最新型」だけを例外とする方向での方針見直しを始めたことが伝えられています。【5月22日 毎日】

【孤立する日本】
日本は、アメリカなどを含むCCWの枠内で議論を行うべきだというのが基本姿勢で、オスロ・プロセスにおいては、不発率が実戦で10%以上もあるとされる現有の「改良型」の堅持を主張しています。
国連の軍縮関係筋の話では、「日本の主張に同調しそうなのはフィンランドくらいだ。」とか。
日本が何の態度表明もできないまま条約作りを目指すオスロ宣言が採択された、昨年2月のオスロ会議と同様の事態が繰り返される可能性が出てきているそうです。

日本の主張の背景には「日米同盟の配慮」があるとも言われていますが、独仏、更に英と態度を変更するなかで、日本ひとりが・・・という状況になっているようです。

【日本の国家戦略は?】
軍事的に見て、日本にとってクラスター爆弾の必要性がどの程度のものかは正直なところわかりません。
しかし、そういう次元の問題とは別に、日本は国際社会においてどういう立場を目指すのかというレベルの問題があります。

今更ではありますが、現行憲法の前文は「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と宣言しています。

憲法を改正するのか、9条をどうするか、いまあげた前文の文言をどうするか・・・についてはいろんな立場が国内にもあります。
私自身、昔と今では若干考えも違うところもあります。
ただ、国際社会において軍事力で重きをなすのではなく、国内外における平和のうちに生存する権利を重視した方向での国家を、そういった方向での国際社会での貢献を目指していくのだという姿勢については、そんなに大きな異論はないように考えています。

そうした国家戦略とも言うべきレベルから見たとき、多くの国々が制限していこうというクラスター爆弾について、ひとり日本が孤立してまでこれに固執するというのは、なんか違うのではないか・・・という違和感を感じます。

英誌エコノミストの調査部門EIUなどが世界140か国を対象に調査した2008年の「平和度指数」が20日、発表されました。
日本は昨年同様、主要8か国(G8)で最高の5位にランクされています。
なお、1位はアイスランド、2位はデンマーク、3位はノルウェーで、最下位は2年連続でイラクだったそうです。
まずは結構な話です。
欲を言えば、1位であってほしかったとも言えますが。

国連総会は21日、人権理事会(定数47)の一部改選を行いました。
2006年6月の人権理発足時のメンバーだった日本は、賛成155票の圧倒的多数で再選を果たしました。
地域ごとに一定数の議席が割り振られており、日本は韓国や東ティモール、スリランカ、パキスタンなどとアジア地域枠4議席を争ったそうです。
“冗談だろ・・・”と言うような国々が並んでおり、再選は当然のことではありますが、これもまずは結構な話で。

いずれにしても、将来日本が“平和”とか“人権”という面において国際社会に重きをなす国になって欲しいと願っています。

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インドネシアのガソリン値上げ、フィリピンのコメ不足

2008-05-22 13:59:58 | 世相

(ジャカルタの交通渋滞 ただ、このような渋滞はインドネシアだけでなく、途上国大都市ではどこも同様です。 道路や公共交通機関などのインフラ整備が不十分なまま一気に車社会に突入したためのように思われます。 ついでに言えば、こうした渋滞都市で困るのは、渋滞だけではありません。駐車スペース不足も深刻です。
写真は“flickr”より By aenertia
http://www.flickr.com/photos/aenertia/555928234/ )

【高騰続ける原油価格】
原油価格の高騰は止まるところを知らない状態です。
21日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、米標準油種の軽質スイート原油(7月渡し)が史上初めて130ドル台に乗せたあと更に上がり、終値は前日比4.10ドル高の133.17ドルでした。

原油価格は年明けに100ドルの大台に乗せた後、いったん80ドル台まで値を下げましたが、2月中旬に再び100ドル台をつけると上昇基調を強め、4月以降はほぼ一本調子での上昇を続けています。
4月以降の約1カ月半で原油価格は一気に30ドル近くも上昇しています。

金融市場の混乱を避けた資金流入には歯止めがかかりつつありますが、需給逼迫で下落しにくくなった原油先物市場には年金基金など安定運用を狙う資金の流入が今も続いており、下落に転じる材料が見当たらないのが現実だそうです。【5月21日 毎日】

米証券大手ゴールドマン・サックスが、今後の原油価格について「半年から2年の間に1バレル=150~200ドルまで上昇する可能性が増している」との見通しを示しているほか、大手投資家も年内に150ドルという線を出していると報じられています。

【穀物価格は一服感?】
一方の食糧価格高騰については、「国際穀物価格の急騰に一服感が出ている。今年の豊作予想などが背景で、食品高騰は最終局面に近づいているとの指摘が出ている。しかし、食品価格の上昇は今後も続くとの懸念も根強い。」【5月16日 ロイター】とのこと。

ただ、新興国の需要増大、バイオエタノールとの競合という基本構図は変わっておらず、短期的にも現在の飼料価格高騰が今後の食肉価格上昇としてあらわれてくると予想されています。
仮に上昇が止まったとしても、すでに各国で暴動を起こすほどに高騰してしまった食糧価格の問題は生命・生活に直結するだけに、依然深刻です。

【各国を揺さぶる原油・食糧高騰】
食糧価格、原油価格高騰の影響は世界各地から報じられており、このブログでも4月14日「食糧価格の高騰 世界は新たな飢餓の時代に入りつつあるのか?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080414)、4月28日「原油・食糧価格高騰、投機マネー、通貨取引開発税、トービン税のことなど」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080428)で取り上げてきました。

今日、フランスで燃料費高騰に怒った漁業関係者が暴徒化しているとの記事もありましたが、最近のアジア各国の状況として、インドネシアとフィリピンの記事も目にしました。

【インドネシアのガソリン値上げ】
インドネシアはOPEC加盟の石油輸出国ですが、国内需要拡大で純輸入国に転じているそうです。
これまで国内のガソリンや灯油など石油燃料価格は、政府補助金で国際価格の半額程度に抑えてきましたが、原油高騰で補助金が膨らみ続け、当初予算枠(国家予算の12%)を大幅に超過する見通しです。
そのため、政府は「今月末」にも石油燃料の30%上げを行うと見られています。

政府は「燃料補助金が結果的に貧困層でなく、(車などを保有する)比較的裕福な人々の利益になっている」「石油燃料を使う人の8割は貧困層といえない」と主張し、今回値上げで最も深刻な打撃を受ける貧困層に対し、現金を直接支給すると発表しました。
政府によれば、補助金の削減額と貧困世帯への現金支給額はほぼ同じ。つまり、これまで補助金にあてられていた政府支出は、貧困者に直接渡るということです。【5月20日 IPS】

こうした政府の方針を受け、全国各地で値上げ反対のデモが行われていますが、野党だけでなく、来年の総選挙を控えて与党内からも反対が噴出しているとか。
このあたりは“いずこも同じ”です。

確かに、非貧困層も対象となる価格抑制よりは、貧困層に絞った所得補償の方が、所得対策としては合理的に思えます。
ただ、ユドヨノ政権は05年にも同様の現金支給プログラムを実施したそうですが、そのとき現場では大きな混乱があったそうです。
現金支給に対して「根本的な解決策にはならない。金を渡すのではなく貧しい者が収入源を得ることができるようにすべきだ」という声、「車・バイクに頼らなくてすむように公共交通機関整備に力を入れるべきだ」との声、これらは正論です。

【フィリピンではコメ不足】
フィリピンではコメの価格上昇が大きな問題になっています。
日本政府は、フィリピンからの支援要請に対し、93年のウルグアイ・ラウンド合意で輸入が義務づけられたミニマムアクセス(MA)米の在庫から、食糧確保に苦しむフィリピンに20万トン(140億円相当)を送ることを検討していると明らかにしました。
MA米は今月16日のブログでも扱いましたが、年間約77万トンの輸入が義務づけられており、半分以上が米国産。従来、米国は日本国内での消費を求めていましたが、食糧高騰をうけて支援への転用を認める声明を15日に出したそうです。【5月19日 朝日】

そのフィリピンですが、世界最大級のコメ輸入国で、年間消費量の2割弱にあたる約200万トンを輸入しています。
有力な輸入先のベトナムが病害虫や台風の被害で06年末に輸出規制を始めたことなどから、現在コメ不足に陥っており、大量の貧困層の人々が、政府が助成する安価なコメを求めようと数時間の列を作っています。

フィリピンの著名な経済学者Dy氏は「フィリピンで問題となっているコメ不足の原因は食糧問題ではなく、劣悪な政策が農業セクターに損害を与えた結果だ」、「コメ不足の原因は農業およびインフラへの投資不足、貧困撲滅の実績のなさである」、「いわゆるコメ危機の真の姿は所得問題だ」と21日発表の報告書で指摘し、政府を批判しています。

「フィリピンよりもさらにコメ輸入に依存しているマレーシアやシンガポールでは、長蛇の列を作るようなひどい事態は起こっていない」とDy氏は指摘しています。
フィリピンのコメ消費量が特別に多いことについて、人口の大半がいまだ貧困状態にあるため、コメ以外の食料を買うことができないからだと分析、「貧しい人たちがあまりにもたくさんいる。彼らが買うことのできる食べ物といえば、小山ぶんほどのコメと、いくらかのケチャップ程度だ」【5月21日 AFP】

「いわゆるコメ危機の真の姿は所得問題だ」との指摘、これまた正論です。
原油価格、食糧価格高騰は各国がこれまで覆い隠してきた社会の問題を明らかにするかたちで、各国政府を大きく揺さぶっています。



コメント (2)
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