(手作りのサッカーボールで遊ぶマラウイの子供 2006年には8%台の経済成長を遂げましたが、依然として世界最貧国の一つ。平均寿命も40才に満たないそうです。 アフリカの明日は天然資源ではなく、この子供達をどのように活かすかにかかっています。“flickr”より By Larsz http://www.flickr.com/photos/criminalintent/63141621/)
【元気なアフリカ、しかし、50年にはアフリカの資源は枯渇】
国連エネルギー議長も務める国連工業開発機関(UNIDO)のユムケラ事務局長(シエラレオネ出身)は今月7日、「今、抜本的な対策を取らないと、アフリカ人口が2倍の19億人になる2050年には、アフリカの天然資源は枯渇する」「アフリカは、原油や天然ガスなど資源を供給しても自ら価格を決められず、経済のグローバル化の犠牲となった」と、地球規模で広がるエネルギー危機、食糧危機がアフリカ諸国を直撃しているとの認識・危機感を示していました。
そのうえで、出席予定の第4回アフリカ開発会議(TICAD)及び日本の役割について、「TICADは絶妙のタイミングで具体的な解決策を論議する場になる」「今こそ対話から行動に移る時。アフリカへの投資に向け、G8サミットで指導力を発揮してほしい」と期待を語っていました。【5月8日 毎日】
私が若かりし頃は、途上国が生産する農業・鉱業産品など一次産品の先進国工業製品に対する相対価格は長期的に悪化しており、この交易条件悪化が途上国のテイクオフを困難にしている・・・という認識・議論が一般的だったように思います。
最近は、原油・食糧価格の異常な高騰にも見られるように一次産品価格、特に鉱物資源価格が上昇基調で、天然資源を多く抱えるアフリカ各国のなかには、年間の経済成長率二十数%という驚異的な発展を遂げている国もあるようです。
“元気なアフリカ”なんて言葉も使われます。
本当にそうなら喜ばしい限りです。
“自ら価格を決められず、経済のグローバル化の犠牲となった”という表現には若干の疑問もあります。
生産者が需給バランスを無視して価格を自由に決められないのは、アフリカだけでなく、先進国工業製品も同じです。
仮に、無理な価格を設定しても、やがて需給の調整で、落ち着くべきところに落ち着きます。
(昨今の投機による価格混乱の問題はありますが)
昔よく聞いた“先進国の犠牲になっている”といった主張や、上記表現などは、被害者意識が強すぎるような感もあります。
もっとも、そのような被害者意識につながる負の歴史があるという問題は別途存在します。
それはともかく、やっと成長のきっかけを掴んだように見えるアフリカのマクロ経済も、“50年には、アフリカの天然資源は枯渇する”というのであれば大変です。
ましてや、“経済成長率二十数%”にもかかわらず、1日1ドル以下の生活を強いられる貧困層が一向に減らない、結果的に格差ばかりが拡大しているのではないか・・・という批判がアフリカ諸国に向けられている状況を考えると、アフリカの本当の安定・発展のために残されているソース・時間はそれほど多くないと考える必要があります。
【慈善事業よりも投資を望む声】
“元気なアフリカ”を反映して、アフリカ側からは「アフリカを一つで見ないでほしい」との声が多くあったようで、アフリカ開発銀行(ADB)のカベルカ総裁も「ブルンジのように紛争が解決したばかりの国と、成長途上の国ではニーズは異なる」と語っています。
TICADの会議ではアフリカ各国首脳らは、慈善事業よりも投資の必要性を訴えています。
これまで民間企業は政情不安定なアフリカへの投資をためらいがちで、JETROによると前年の日本からアフリカへの民間投資は11億ドル(約1160億円)、日本の海外投資全体の1.5%にも達していません。
今回政府はアフリカで事業を行う日本企業に対して融資を保証しリスクを軽減するため、25億ドル(約2600億円)規模の支援基金設立を表明しており、アフリカへの投資を5年間で倍増することを目指しています。
また、5年間に40億ドルの円借款で、投資環境を整えるための安全性などの「ソフトインフラ」、また道路・港湾・鉄道建設などの「ハードインフラ」の改善を行っていくことにしています。
【依然として深刻な貧困】
しかし、先述のように依然として貧困がなくならない現実があります。
「国連ミレニアム開発目標(MDG)のすべての目標を2015年までに達成できる国は1つもない」(ミギロ国連副事務総長)のが現実で、昨今の食糧価格の高騰で事態は深刻化しているとも言えます。
かつて社会主義的統制経済が主流だったアフリカにおいても、近年は補助金カット、財政赤字削減、国営企業の民営化、規制緩和など、マーケット至上主義的なワシントン・コンセンサスの受け入れをIMFなどが援助の条件にしたため、小さな政府へと転じています。
しかし小さい政府への転換は、貧富の格差増大を招いており、もともと極めて低い水準にあった貧困層の生活は厳しいものになっています。
昨今の食糧高騰問題については、政府が4月に打ち出した総額1億ドルの緊急支援のうち「相当部分をアフリカに向ける」としています。
品種改良や灌漑整備などで生産性を上げ、東南アジアの「緑の革命」をアフリカで実現し、コメの生産高を今後10年で倍増させる計画も打ち出しています。
【民主化と良いガバナンス】
援助を貧困の解消に結び付けていくためには、「民主化と良いガバナンス」が不可欠であり、これこそが今のアフリカにもっとも欠けている要素です。
NGOは「アフリカのほとんどの政府は腐敗しているのだから、人々との直接対話が必要だ」と主張しています。
今回の会議でNGO主催会議が初めて公式行事に格上げされ、国内では基本的に国の政府と直接対話する機会を持てないNGOへの配慮が、不十分ながらも示されました。
横浜宣言には、NGO側の主張を取り入れ「市民社会の重要性」が明記されました。
援助する日本側にも、受け入れ側の腐敗体質を是認してしまう問題があります。
東京地検特捜部に旧経営陣らが特別背任容疑で逮捕された海外の建設コンサルタント大手「パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)」が03年以降、香港の現地法人などに年間1億円以上を送金していたことが明らかになっています。
同社の元首脳は「一部は東南アジアの公務員に渡すリベートとして使われた」と証言しています。
アフリカでも同様でしょう。
先日もTVでも、「賄賂を使わないと現地での事業を獲得し進めることはできない」と旧経営者が断言していました。
日本側だけでは解決しない問題ですが、貴重な援助が有効に活用するためには、どうしてもこのあたりを整理していく必要があるのですが・・・。
貧困の問題は感染症の問題にも絡んできます。
「元気なアフリカ」も、エイズ・結核・マラリアという3大感染症への対応を誤れば成長はおろか、政治、経済から保健、教育に至るまであらゆる分野で国の基盤が崩壊してしまいます。
今回、日本政府は世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)に“2009年以降、当面5.6億ドルの拠出する”としています。
【政治的安定の実現】
アフリカの問題はいかに「民主化と良いガバナンス」を実現するか、そして政治的安定を実現するかにかかっています。
TICADに合わせて、スーダンのダルフール紛争など北東アフリカの地域情勢について意見を交わす閣僚級の「北東アフリカ協力会議」が30日、東京都内の外務省・飯倉公館で開かれました。
北東アフリカにはスーダンのほか、ケニアなど政情不安定な国が多数あり、日本主導で対話の枠組みを提供し、各国間の信頼を醸成するのが狙いです。
こうした、治安改善の面での取組みを積み重ねることが望まれます。
スーダンについては、バシル大統領が30日、同国南部の復興支援(道路や橋の建設などのインフラ整備、水の供給などの活動)のため、日本政府から自衛隊の派遣を検討しているとの打診を受けたことを明らかにしました。
一方で日本側は、福田首相との二国間会談で「自衛隊派遣に関するやりとりはなかった」と、大統領の発言内容を否定しています。
日本政府は現在、スーダン南部に展開する国連スーダン派遣団(UNMIS)に司令部要員として自衛官を派遣する方針を固めており、この関連なのかどうなのか、よくわかりません。
なにせ、1日に十数カ国から二十カ国の首脳と話し合う、信じられないようなマラソン会談でしたから、多少の混乱はありそうですが・・・。
会議のポイントは他にも多数ありますが、長くなるのでこのへんで。
このTICADはバブル期の勢いで始められた数少ない日本主導の国際会議だそうです。
今後も、この貴重な枠組みを有効に活用して、アフリカの発展と、日本の国際的活動が促進されることを望みます。