孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

市民革命のその後  混乱の収まらないチュニジアで首相辞任

2011-02-28 23:39:40 | 国際情勢

(市民革命の成果を喜ぶ市民 2月20日チュニス “flickr”より By Counterfire
http://www.flickr.com/photos/counterfire/5462197915/ )
 
【「私の辞任がチュニジア革命および将来のためになるだろう」】
北アフリカ・中東の“民主化ドミノ”は、チュニジアのベンアリ前大統領追放に始まり、エジプトのムバラク政権を崩壊させ、今はリビア・カダフィ政権の行方に世界の注目が集まっています。

しかし、ベンアリ前政権が崩壊したチュニジアにしても、前大統領追放でことが終わった訳ではなく、民主化のスタートラインに立ったにすぎません。
チュニジアでは、ガンヌーシ首相ら前政権メンバーが多く残留した暫定政権に対する不満から、抗議デモが再発し、5名の死亡者を出す混乱が続いていました。

こうした事態を受けて、暫定政府のガンヌーシ首相が辞意を表明しています。
****チュニジアのガンヌーシ首相が辞任、暫定政府への不満受け*****
2011年02月28日 09:13 発信地:チュニス/チュニジア
チュニジア暫定政府のモハメド・ガンヌーシ首相(69)が27日、辞任を表明した。後任にはベジ・カイドセブシ元外相(84)が決まった。

首都チュニスでは26日から27日にかけても、ガンヌーシ首相ら暫定政府閣僚の退任を求めるデモ隊と治安部隊が衝突し、5人が死亡しており、暫定政府への不満は収まる気配を見せていない。こうしたことから、ガンヌーシ首相が辞任に踏み切ったとみられる。
国営TAP通信が伝えた政府声明は「チュニスでは26日、暴力、略奪、騒乱、放火などの行為が横行し、治安部隊との衝突で5人が死亡した」と説明。ナイフや石を手に内務省ビルに向かったデモ隊の若者を治安部隊が制止しようとして両者が衝突。5人が死亡したほか、投石を受けるなどして治安部隊側にも16人の負傷者が出たという。

ガンヌーシ首相は自身の辞任について、「責任逃れではない」と言明し、「私の辞任がチュニジア革命および将来のためになるだろう」と語った。
反政府デモの拡大によりジン・アビディン・ベンアリ前大統領が亡命し、暫定政府の首相となったガンヌーシ氏は就任から6週間での辞任となった。【2月28日 AFP】
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強権支配者を追放する“革命”は、多くの犠牲者を伴う困難な行動でしたが、その後に民主的な政権をつくり出すことは、また別の意味で困難な作業です。
一過性の興奮や熱狂とは別の、地道な努力・忍耐が必要になります。

“革命”によって政治的自由は手にできますが、政変の背景にあった失業問題や食料品価格高騰などの経済問題を解決していくには時間を要します。
結果を求める性急な期待は、社会の混乱を招き、結果的にすべての問題の解決を宗教に委ねる原理主義の台頭や、混乱を抑えるための新たな軍事独裁政権を生みだしかねない危うさがあります。

エジプト:苛立つ軍部
エジプトでも、止まないデモに軍の苛立ちが募っている・・・との報道もあります。
****やまぬデモ、いらだつエジプト軍…強制阻止も****
ムバラク政権崩壊後のエジプトで実権を握る軍が、国内各地で賃上げや待遇改善などを求める労働者によるストライキやデモが収束しないことにいらだっている。
これまで軍は、民衆の動きを静観してきたが、経済活動の混乱が長引けば、デモやストライキの強制阻止に乗り出す可能性もある。
エジプトでは、週明けにあたる20日、ストの影響で営業を停止していた銀行の業務がほぼ再開された。カイロ中心部ザマレックにある外資系銀行では朝から、小切手や預金の引き出し用紙などを手にした市民ら数十人が窓口前で列を作った。国内銀行の窓口業務再開は1週間ぶりで、営業開始時間前から行列ができた店舗もあった。【2月21日 読売】
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【「独裁的支配からの移行の多くは自由にはつながらない」】
“独裁政権を倒した民衆による革命が、その後必ずしも民主化をもたらすわけではない”ということは、これまでの歴史が示しています。

****広がる「市民革命」、必ずしも民主主義にはつながらず*****
チュニジアやエジプトでは、市民による反政府デモが拡大し、結果的に長い間権力を支配してきたそれぞれの政権を退陣させた。しかし、独裁政権を倒した民衆による革命が、その後必ずしも民主化をもたらすわけではないことを、過去数十年間の歴史が物語っている。
革命を成し遂げたという高揚感は、そう長く続くものではない。公正で民主的な社会を作り、政治的自由を渇望するのみならず、経済的苦難に突き動かされているかもしれないデモ隊の期待を満たすという試練に、それはすぐに取って代わられる。

ワシントンを拠点とする人権団体「フリーダム・ハウス」が2005年に発行した報告書「How Freedom is Won: From Civic Resistance to Durable Democracy(原題)」は、「独裁的支配からの移行の多くは自由にはつながらない」と指摘。独裁政権から移行した67カ国を調査した結果、35カ国が「自由」となったが、23カ国が「部分的に自由」、9カ国が「自由でない」としている。また、民主主義を持続させる要素には、移行前からの強力な市民の団結力のほか、野党側に非暴力的な戦略があるかどうかだと分析している。
逆に言えば、野党側が政権転覆のために治安部隊と取引をすれば、安定的な民主主義づくりの見込みは損なわれる可能性があると専門家らは指摘する。

元米国務省高官で、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際研究大学院のダニエル・サーワー氏は、セルビアを例に挙げ、2000年にユーゴスラビアのミロシェビッチ大統領を失脚させるために、治安当局の過去の行いを不問にすると当局と取引を行ったことが、民主化を停滞させたと語る。「エジプトも同様の問題を抱えている。ムバラク大統領を退陣させるために民衆は軍部隊を信頼したが、問題は軍が今後全体的な改革を認めるかどうかだ」だと、サーワー氏は分析する。
 
<民主的な歴史の有無>
また、変革を成功させる鍵は、その国に民主的な歴史があるかどうかだという専門家もいる。1986年に民衆のほう起によって失脚したフィリピンのマルコス元大統領は、初めは選挙によって民主的に選ばれている。また、旧ソ連からの独立を求める革命を起こし、のちに欧州連合(EU)に参加した東欧諸国の例も挙げられる。
その中で唯一の例外はベラルーシだが、同国は独自の言語を持ち、長らく旧ソ連の支配下にあったため、独立国としての歴史がほとんどなかった。地理的にも文化的にもスカンジナビアに近いラトビア、リトアニア、エストニアなどのバルト3国が民主化のモデルとされる一方、1994年にベラルーシの大統領となったルカシェンコ氏は西側の指導者たちから欧州最後の独裁者とみられている。

くしくもエジプトのムバラク大統領が辞任に追い込まれた2月11日からちょうど32年前の1979年同日、イランではパーレビ国王がイスラム革命により失脚し、王制が崩壊した。しかしその後、新旧体制派双方が暴力に訴えたことで、人権団体「フリーダム・ハウス」の分析では、民主化が遠のいてしまった。
しかし、米インディアナ州ノートルダム大学クロック国際平和研究所のデビッド・コートライト氏は、少なくとも2009年に大統領選挙に不正があったとして非難する反政府デモが行われるまでは、イランでも民主的な選挙が行われていたと指摘している。【2月15日 ロイター】
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最後の“2009年に大統領選挙に不正があったとして非難する反政府デモが行われるまでは、イランでも民主的な選挙が行われていた”かどうかについては、異論もあるところでしょう。
確かに、“宗教独裁”“悪の枢軸”といったイメージと異なり、イランの政治システムはかなり民主的な制度になっていることは事実です。ただ、その一方で、現実の運用において、改革派候補者の立候補資格について厳しく制約し、事前に選挙から締め出してしまうといった非民主的な面もあります。

いずれにしても、多大の犠牲を伴って手にした強権支配体制打倒が、実りある成果に結び付くためには、民衆の側にも忍耐と理性が必要です。“悪い政権”の後に、また“悪い政権”が出来たというようなことにならないよう、「あの中東民主化は一体何だったのだろうか?」といった思いを将来抱くことがないように、堅実な国づくりに立ち向かってもらいたいものです。
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国連事務総長  リビア情勢で「市民を保護する責任」に踏み込む発言

2011-02-27 20:48:12 | 国際情勢

(戦車の下で休憩する市民 反政府勢力が支配権を握った東部のベンガジ 2月24日 “flickr”より By NotiZulia http://www.flickr.com/photos/notizulia/5474833981/

責任放棄の国家主権に代わって国際社会が市民を保護
リビアでは、反政府勢力による首都トリポリの包囲網が狭まっていますが、カダフィ政権側は徹底抗戦の構えで、傭兵や戦闘機・戦車を使った攻撃によって、これまでに数百人規模の死者が出ていると報じられています。
今後、本格的な市街戦によって更なる犠牲者の増加が懸念されています。

こうした事態に、国際社会は政権側の武力弾圧批判を強めており、国連人権理事会(本部ジュネーブ)は26日、リビアを非難する決議を全会一致で採択しました。
“人権理事会の決議は「市民への無差別な攻撃、法的に認められない殺害など、徹底的で組織的な人権侵害を強く非難する」とし、「そのいくつかは『人道に対する罪』に当たる可能性がある」と強調。国際調査委員会を立ち上げることも決めた。(中略)国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのジュリーデ・リベロ・ジュネーブ事務所長は「傭兵(ようへい)や戦闘機による爆撃などが伝えられ、完全に度を超えた許されない行為。国際社会としてメッセージを伝えられた」としている。”【2月26日 朝日】

また、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は25日、安全保障理事会の会合で「国際社会の第一の義務は、明らかな危機に面している市民の保護だ」と述べ、これまの内政不干渉の原則から、「市民を保護する責任」に踏み込んだ発言をしています。

****リビア介入、国連は動くか 「国民を保護する責任」初適用も****
リビア情勢をめぐる国連安全保障理事会の会合が25日開かれ、状況報告に立った潘基文事務総長は「一刻も早く、決定的な行動を起こさなければならない」と、国際社会に介入を強く促した。過去、数々の紛争をめぐって「内政不干渉」原則の前に無力さを露呈してきた国連が、今度こそ実効性のある行動に踏み出せるかどうか、今回の対応は国連にとっても試金石となる。安保理は26日午前(日本時間27日未明)、対リビア制裁決議の採択をめざし再び協議を始める。
制裁決議草案は英仏などが作成。人道に対する罪で問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託することや、カダフィ政権幹部に対する資産凍結や渡航禁止、武器禁輸などが盛り込まれており、早ければ26日中の採択をめざす。

主権国家の内部で住民の虐殺などが起きた場合、国際社会はどう対処すべきなのか-。この問いをめぐり国連は、とりわけルワンダやボスニアでの住民虐殺が相次いだ1990年代、無力さをさらけ出してきた。内政不干渉の原則から、目の前で起きている虐殺を見て見ぬふりをしているケースが相次いだからだった。
こうした苦い教訓から、2005年に開かれた国連首脳会合は、「保護する責任」と命名した新たな概念で合意した。国家主権は住民を保護する責任を伴い、国家がもしその責任を果たせないときは国際社会が代わって責任を果たすべきだという考え方だ。

だがそれでも、どれほど深刻なケースなら不干渉原則を曲げてもいいのか、といった点は政治的思惑に翻弄(ほんろう)されがちだった。その点で、今回のリビアは初めて実際に「保護する責任」の考え方が適用されるケースになる、と国連外交筋は指摘する。
介入が許される範囲をできるだけ制限したいのが本音の中国、ロシアも、歴史的な流れを形作りつつある現在の中東情勢の中では、おいそれと反対はできない。中国はまだ制裁決議の一部に難色を示しているとされるが、「拒否権行使はおろか、採決で棄権という選択をしても国際的にきわめて厳しい立場に追い込まれるのは確実」(外交筋)だ。
こうした状況を背景に、これまで指導力不足の評が常につきまとっていた潘事務総長は、ここに来て積極的な発言を連発。同時に国連内部でも、ルワンダやボスニア、あるいはソマリアやコソボなどで起きた過去の失敗を繰り返さないことへの期待が急激に高まりつつある。【2月27日 産経】
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この安保理における対リビア制裁決議は、今日27日全会一致で採択されています。
****対リビア制裁決議を採択=国際刑事裁付託盛り込む―安保理****
国連安全保障理事会は26日、公式会合を開き、対リビア制裁決議案を全会一致で採択した。決議は「(同国で反政府デモが始まった)15日以降の情勢を国際刑事裁判所(ICC)に付託すると決定する」と明記しており、今後、カダフィ政権当局者が人道に対する罪に問われることになる。ICC検察官は2カ月以内に、捜査状況などに関する最初の報告を安保理に行う。
決議は対リビア武器禁輸のほか、カダフィ大佐と親族、政権幹部ら16人に対する渡航禁止や資産凍結を決定。改めて市民に対する暴力行為を非難し、直ちに停止するよう要求している。

国連安保理は22日、リビア情勢に関する声明を出し、カダフィ政権に国民保護の責務を果たすよう求めた。しかし、その後も反政府デモの弾圧が続いたため、英仏が中心となり、制裁決議案をまとめた。(後略)【2月27日 時事】
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渡航禁止や資産凍結の対象は当初22人でしたが、カダフィ大佐からの離反を政権幹部に促すため、協議の過程で16人に減らされとか。

【“見殺し”を防ぐために何かできるのか?】
ただ、これだけで現在の危機が解消できるとは思われません。
国際刑事裁判所(ICC)に付託すると言っても、時間もかかりますし、何より実効性に問題があります。ダルフール紛争での人道上の罪を問われ逮捕状が出ているスーダンのバシル大統領は、特段の支障なくその後も活動しています。
武器禁輸や渡航禁止・資産凍結にしても同様です。

ルワンダやボスニアでの“見殺し”を繰り返すことなく、潘基文国連事務総長が言う「保護する責任」を実効あるものにするためには、どういう方法があるのでしょうか?
差し迫った暴力を封じるためには、現実的にはやはり武力が必要になります。
「国連軍」が存在すれば、ひとつの方法になりますが、現実にはそういったものは存在しません。

“国際連合憲章第7章においては、平和に対する脅威に際して、軍事的強制措置をとることができると定められている。国際連合憲章第42条で、安全保障理事会は国際の平和と安全を維持または回復するために必要な行動をとることができると規定されている。国際連合憲章第43条に従ってあらかじめ安全保障理事会と特別協定を結んでいる国際連合加盟国がその要請によって兵力を提供することになっており、指揮は安全保障理事会の責任となる。国際連合憲章第46条により安全保障理事会は軍事参謀委員会の援助により、兵力使用の計画を作成し、国際連合憲章第47条3項により軍事参謀委員会が兵力の指揮を執る。これまで、この兵力提供協定を結んでいる国がないため、国際連合憲章第7章に基づく、安保理が指揮する国連軍が組織されたことはこれまで一度もない。”【ウィキペディア】

国連軍に代わるものとして、国際連合平和維持活動(PKO)に基づき派遣される各国軍部隊による平和維持軍(PKF)がありますが、内政不干渉の原則から、これまでルワンダやボスニアで住民を“見殺し”にしてきたことは先述のとおりです。

安保理の決議や勧告を受けて各国が合同で編成する軍隊としての「多国籍軍」は、国際連合憲章で規定された「国連軍」と異なるものであり、各国が各々の裁量・責任において派遣する形になります。
これまで国連決議に基づいて編成された「多国籍軍」としては、アメリカ主導で中東諸国を含めて約30ヶ国が参加した91年の湾岸戦争「多国籍軍」があります。
(03年のイラク戦争では、国連決議に基づいていません。)

いずれにしても、国際合意には時間を要するため、現在の危機への対応が可能かどうかは疑問です。
また、今後こうした「市民を保護する責任」が国際的に求められるとき、日本はどのように対応するのかという深刻な問題もあります。

平和憲法の主旨は尊重しますが、“国際貢献”ではなく“国際責任”が求められるとき、多くの住民が暴力の犠牲になろうとしているとき、“国際介入には賛同するが、日本は海外派兵できない”という理屈は説明困難なものがあります。
どこの国も、できるなら海外派兵したくないのは同じです。日本だけがその責務を免れる理由は?
“国際介入”を認めないと言うなら、話はすっきりしますが。

アメリカでは、飛行禁止空域の設定の議論もあるようです。
****飛行禁止空域「優先」の声 資産凍結柱 米制裁、即効は不透明****
最大で約5億ドル(約408億円)とされる米国内のリビア国家資産の凍結を柱としたオバマ政権の対リビア制裁は、資金源のひとつを断つことで「リビア政権の中枢にカダフィ大佐を見限らせる」(米政府高官)ことを狙った措置だ。ただ、首都トリポリでは本格的な武力衝突が懸念されており、飛行禁止空域の設定などリビア国民の安全を確保する政策を優先して実施すべきだとの声も根強い。

国務省は25日、駐リビア米大使館の一時閉鎖を急遽(きゅうきょ)発表。カーニー大統領報道官が定例会見を始めたのは、米大使館で最後まで残っていた大使館員を乗せたチャーター機がトリポリを離陸したことが確認された後で、当初の開始予定から2時間が経過していた。
オバマ政権は迅速に制裁を実施するため、議会承認の必要がない資産凍結を優先。ウィキリークスに流出した米外交公電によると、米金融機関は3億~5億ドルのリビア関連資産を運用しているという。
しかし、把握されていないカダフィ大佐の資金源は多数あるとみられ、米政府の制裁がデモ弾圧に即時的な効果を発揮するかどうかは不透明だ。

カダフィ政権が軍用機を使った攻撃で、デモ鎮圧をはかる恐れも出てきており、アリ・スレイマン・アウジャリ駐米リビア大使は「経済制裁よりも、まずはリビア上空での飛行禁止空域の設定を最優先すべきだ」と米CNNテレビに語った。
ただ、飛行禁止空域の設定には国連安全保障理事会の決議が必要とされ、外交筋は「中国や一部のアラブ諸国などが主権侵害を理由に反対する可能性がある」と指摘。仮に決議が採択されても運用面で多くの難題が浮上することが予想されるという。【2月27日 産経】
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よくわかりませんが、飛行禁止空域設定を実効あるものにするためには、現地の制空権を握る必要があると思いますが、そのあたりはどう対応するのでしょうか?

欧州財政危機への対応として、EU加盟国の年金や税、賃金などの制度を統一化していこうという議論、ASEANのカンボジア・タイ国境紛争への監視団派遣など、国家主権や内政不干渉原則をどのように国際協調とバランスさせるかという問題が最近目につきます。
国連の「保護する責任」はその最たるものでしょう。制裁決議案採択でおしまいなのでしょうか?

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中国  環境汚染・食品汚染に見る中国社会の現状

2011-02-26 21:06:01 | 世相

(中国では乳製品のたんぱく質含有を増やすためのメラミン添加はかなり広範に行われていたようですが、問題は健康被害が表面化してからの対応です。“flickr”より By g_yulong http://www.flickr.com/photos/2friend/2881133980/

【「過ちは改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ」】
驚異的な経済成長をとげる中国では、かつての高度成長期の日本がそうであったように、成長の“代償”としての公害が日本以上に深刻・広範に社会を蝕んでいることは周知のところであり、そうした報道は枚挙にいとまがありません。

下記はそのひとつ、「イタイイタイ病」に関する記事です。
「イタイイタイ病」は、有機水銀による水質汚染を原因とする「水俣病<熊本県>」と「新潟水俣病(第2水俣病)<新潟県>」、亜硫酸ガスによる大気汚染を原因とする「四日市ぜんそく<三重県>」と並んで、「4大公害病」とも呼ばれる、富山県で発生したカドミウムによる水質汚染を原因とする公害病です。

「イタイイタイ病」は、1955年に神通川下流域の富山県婦中町(現・富山市婦中町)で1910年から1970年にかけて多発した病気で、患者が「痛い、痛い」と泣き叫んだことから命名されたものです。この原因は、神通川上流の岐阜県飛騨市にある三井金属鉱業神岡鉱山亜鉛精錬所から排出された廃水に含まれていたカドミウムが下流の富山県婦中町周辺の土壌を汚染したことにあるとされ、汚染された土壌で栽培されたコメや野菜を食べ、汚染された井戸水を飲んだ住民たちが体内にカドミウムが蓄積した結果、最終的には骨の激痛に苦しみ、容易に骨折、寝たきりとなりました。

****闇に葬られ続ける「イタイイタイ病*****
年間2000万トン、カドミウム汚染米比率は1割に達する
(中略)
日本の「4大公害病」を遥かにしのぐ
驚異的な高度成長により2010年にGDPで日本を抜いて世界第2位の経済大国となった中国にも「公害病」は当然ながら存在する。中国各地から報じられる環境汚染や公害から判断して、「公害病」の状況は、日本の「4大公害病」を遥かにしのぐほどに深刻と考えられるが、中国政府は依然として「公害病」の存在を公式に認めていないのが実情である。

2011年2月14日発行の週刊誌『新世紀週刊』は、“宮靖”記者による“鎘米殺機(カドミウム米の殺意)”という特集記事を掲載した。2007年頃、南京農業大学農業資源・環境研究所の潘根興教授が中国の6地区(華東、東北、華中、西南、華南、華北)の県レベルの「市」以上の市場で販売されていたコメのサンプルを無作為に170個以上購入して科学的に分析した結果、その10%のコメに基準値を超えたカドミウムが含まれていたという。これは2002年に中国政府農業部の「コメおよびコメ製品品質監督検査試験センター」が、全国の市場で販売されているコメについてその安全性を抜き取り検査した結果の「カドミウムの基準値超過率」10.3%と基本的に一致したのである。

鉛含有は28.4%、カドミウムは10.3%
上述の2002年に行われた中国農業部による市販米の抜き取り調査によれば、コメに含まれていた重金属で基準値超過が最も多かったのは鉛で28.4%を占め、これに次ぐのがカドミウムの10.3%であった。(中略)
中国のコメの年産量は約2億トンであるが、上述のごとく、基準値を超えるカドミウムを含むコメが10%あるとすれば、その量は2000万トンとなる。日本の2007年におけるコメの生産量は882万トンであるから、中国の「カドミウム汚染米」は日本のコメの年産量の約2.3倍もの膨大な量である。
(中略)
村人1800人中1100人が中毒と判定
(中国の「イタイイタイ病」発生地と考えられている広西チワン族自治区陽朔県興坪鎮の“思的村”の)李老人は1982年に退職して村に戻って以来、既に28年間も地元産のコメを食べており、体内に蓄積されたカドミウムによって「イタイイタイ病」の初期に似た症状を示していると多くの学者は指摘している。李老人と類似した症状を示している老人たちも同じ原因によるものと思われるが、これは“思的村”だけに出現したものではなく、全国の多くの地方には尿カドミウム値が基準値を上回ったり、「イタイイタイ病」に似た症状を呈している人々が存在しているのである。
(中略)
告発すれば、どんな報復を受けるか…
『新世紀週刊』の特集記事は、中国国内で大きな反響を呼び起こした。(中略)
ある地方で公害病の存在が表沙汰になれば、その地方政府の環境保護局のみならず、衛生局、工商局など関係部門の役人の責任が追及されることになる。そんなことになったら「立身出世」に差し障りが出るばかりか、責任を追及されて免職になりかねないし、下手に告発すれば、どのような報復を受けるか分からない。そういう事なら、「触らぬ神に祟(たた)りなし」が一番の処世術であり、公害病はますます深刻化して行くことになる。
『論語』には「過ちは改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ」とあるが、中国政府が祟りを恐れず公害病という「死に神」の存在を公表するようになるのはいつの日だろうか。
(2月26日 日経ビジネス 世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110222/218546/ より)
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鉛汚染については、下記の記事も。
****中国で子供100人が鉛汚染、原因は電池工場か****
新華社電(電子版)によると、中国安徽省安慶市の住宅地に住む200人以上の子供が昨年末までに病院で検査を受けた結果、100人余りの血液から基準を超える鉛が検出され、そのうち24人が治療を受けた。
保護者は、付近にある二つの電池工場が鉛汚染と関係しているとみているという。
中国各地で工場排水垂れ流しによる鉛などの重金属汚染が頻発、子供に被害が出るケースが目立っている。【1月6日 読売】
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中国の大気汚染のひどさも、北京オリンピック時に参加予定選手が参加を拒否する意向を示すなど、かなり問題になりました。
****測定不能レベルの大気汚染=米大使館が北京市の汚染にコメント―米大使館*****
2011年2月23日、環球時報は記事「米大使館発表=北京の空気は汚すぎて測定できない」を発表した。以下はその抄訳。

21日、北京市は霧に包まれた。空気汚染評価は2011年初の5級(重度の汚染)となり、「老人と子どもは外出を避けること」と発表された。米国大使館は「危険、測定不能なレベル」と異例の結果を伝えている。
米国大使館は2008年初頭以来、大使館に設置された大気観測所での調査を続けている。観測したデータは1時間ごとにツイッターで発表されている。昨年11月には「クレイジーなほど悪い」とコメント。後に「表現が不適切だった」としてコメントを削除する問題もあった。
中国側は、米大使館の観測結果は大使館区域に限定されたものであり、北京市全体の大気状況を示すものではないと指摘している。大使館地区は繁華街に位置し、車の交通量も多いため、汚染物質が多く観測されやすいという。【2月25日 Record China】
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人命に優先する利益追求
公害は前述のように高度成長期の日本でも大問題になりましたし、当時の(今も?)企業・当局の隠ぺい体質も日本でも同様でした。
ただ、問題表面化からその後の経過は、日本が公害対策・環境問題の先進国としての道を歩んだのに対し、どうも中国では対応が鈍く、カネ儲け・責任逃れのためなら人命軽視もいとわない風潮がはびこっているようにも思えます。

そうした傾向を端的に表しているのが有害物質メラミン入りの粉ミルク問題です。
中国産の牛乳や乳製品に有害物質メラミンが混入し、乳児4人が死亡、子ども5万3000人が被害を受けたという事件が表面化したのは08年9月のことです。健康被害の受けた乳幼児は、その後約30万人とも言われています。

有害粉ミルクという点では、日本でも昭和30年に、1万3千名もの乳児がヒ素中毒になり、130名以上の中毒による死亡者を出した「森永ヒ素ミルク事件」というものがありました。
ただ、日本の事件が問題発覚後は改善されたのに対し(森永側が企業責任を認めたのは、発生から15年経過した1970年(昭和45年)の裁判中のことですが・・・)、中国では今なお利益追求のため有害物質メラミンが混入された粉ミルクが市場に出回っているようです。

昨年7月から12月末までの半年だけで、2130トン余りの汚染粉ミルクが押収され、汚染粉ミルクの生産、販売に関わったとして96人が逮捕されています。
このため、安全な外国産粉ミルクへの需要が増大しているとか。

****中国で国産粉ミルク低迷、毒物混入の不信続く*****
中国産の粉ミルクの売れ行きがニュージーランドなど外国産に席巻され、低迷している。
有害物質メラミン入りの粉ミルクを飲んだ乳幼児約30万人に健康被害が出た2008年の事件が尾をひいているためだ。問題の粉ミルクがいまだに市場に流通するなど、消費者の国産ブランドへの不信感に歯止めがかからない。中国紙「国際先駆導報」などによると、同事件が起きるまで、国産の市場シェアは約60%だったが、昨年は約50%にまで低下し、今年は外国産が過半数を占める見込みだという。

インターネット上では、「外国産は高くて金がかかるが、国産なら命がかかる」との言葉が流行するほどだ。国外や香港に旅行に出かけた人々が外国産粉ミルクを買いだめして来るケースも多い。特に、富裕層が好む高級粉ミルクでは、外国産が90%を占めているという。【1月25日 読売】
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被害が出ることを知らなかったと言うならまだしも、死者を含む深刻な健康被害が出ることが表面化しているにも関わらず、同様商品が生産され流通するというのは、日本の感覚では理解できないところです。

モラルの欠如
こうした公害問題の深刻化、人命を軽視した利益追求姿勢の背景には、批判勢力としての野党・マスコミが機能しない事実上の共産党一党支配という政治体制の問題がありますが(中国当局は北京五輪前の問題発覚を恐れてメラミン含有ミルク事件を隠ぺいしましたが、日本ならそれだけで政権崩壊です)、それ以外にも、モラルの欠如とも言うべき文化の問題もあるように思えます。

最近、中国ネットで批判が集中している「冷血医師」の話題。
****患者が死んで今夜はぐっすり」、愚痴ったのは女性医師、すでに洗濯係に左遷―中国****
2011年2月25日、中国で「患者が死んだおかげで今夜はぐっすり」などと書き込まれたマイクロブログに非難が殺到している問題で、「看護師」と伝えられたブログ主は免許取得後3年の若い医師で、問題発覚後は洗濯係に異動させられたことが分かった。南方日報が伝えた。

ネットユーザーたちから早くも「冷血医師」との称号を賜ったこの女性医師。当初は看護師と伝えられていたが、同紙の取材で免許取得後3年の若い医師であることが分かった。普段の勤務態度は「特別優秀ではないが、クレームを受けたこともない」という平々凡々なもの。問題発覚後はすぐに病院の裏方である洗濯係に異動させられた。彼女が勤務する広東省汕頭市内の病院副院長は「通常は重大な医療事故を起こした医師に下す処分」と話す。

この「冷血医師」は22日晩、マイクロブログに「患者がもうすぐ死にそうなんだけど、夜中は勘弁してほしいな~。私の担当時間が終わってから死んでくれない?」「今日は良い知らせ!患者が午後2時10分に死んだの。おかげで今晩はぐっすり眠れる~。明日はどこに遊びに行こうかな」などと笑顔の写メ付きで毒を吐き、ユーザーらの怒りを買っていた。(後略)【2月25日 Record China】
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本人笑顔の写メ付きで書かれたこのブログはさすがに炎上したようですが、そもそもこんなことを本人顔写真付きで書くこと自体が信じられません。
自分を含めた人間すべての心の中に、こうしたどす黒いものがあることを否定するつもりはありません。彼女、中国だけの問題ではありません。人間性の本質とも言うべきものでしょう。

しかし、“偽善”とも言われるかもしれませんが、“思う”ことと、実際に“口に出すこと”“行うこと”は別問題です。
そこを規制するのはモラルであり、文化です。
その中心に位置するのは、西欧社会であればキリスト教であり、日本であれば仏教や儒教などに基づくモラル・規範でしょう。

昨今は日本でも“本音”“毒舌”がもてはやされていますが、無責任な本音が横溢する一部ネットはおぞましいものがあります。
中国社会は、共産主義の理念が規範としての役割を失った後、それに代わるものがなく、本音の欲望だけが社会を席巻しているようにも思えます。

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リビア・中東情勢に関連して、イラン・中国・欧州・ロシアの指導者発言及び対応

2011-02-25 23:10:27 | 国際情勢

(22日夜のリビア首都トリポリ リビアの首都トリポリを包囲しつつある反体制派に対し、「最後の血の一滴まで戦う。必要なら武力も使う。天安門事件のようにデモ隊をたたきつぶす」と語った最高指導者カダフィ大佐は外国傭兵を使った反体制派の弾圧や情報統制を徹底して自らの存続を図っており、内戦の様相を呈しています。
“flickr”より By sawtakonline.com http://www.flickr.com/photos/58910016@N02/5468283643/ )

カダフィ大佐:「殺し合いがしたいなら勝手にしろ」】
連日取り上げているリビア情勢ですが、最高指導者カダフィ大佐は24日、国営テレビで今週2度目の演説を行い、「(国際テロ組織)アルカイダが若者を薬物中毒にした。殺し合いがしたいなら勝手にしろ。私に公的な権力はなく、象徴的な権威しかない」などと述べ立てたてています。
“大量殺りくは、外国の差し金で勝手に争っているもので、自分には関係ないという驚くべき身勝手な理屈だ”【2月25日 毎日】ということで、内容もいささか支離滅裂な感じです。

22日の75分におよぶ演説とは異なり、今回は電話によるわずか20分の短い演説ですが、“電話を通じた音声だけで「出演」したのは、反政府勢力の攻勢を恐れて、居場所を知られたくない用心だったのかもしれない”【同上】とも。

アフマディネジャド大統領:「どうしたら自分の国民に銃を向けられるのか」】
こうしたリビア情勢を、国内反政府行動を厳しく弾圧しているイラン・アフマディネジャド大統領が「指導者を名乗るのであれば、国民の声に耳を傾けるべきだ」と批判しているのが笑えます。

****イラン大統領:カダフィ政権の武力弾圧を批判****
イランのアフマディネジャド大統領は23日、リビアのカダフィ政権による国民への弾圧を強く非難し、「指導者を名乗るのであれば、国民の声に耳を傾けるべきだ」と最高指導者カダフィ大佐に「忠告」した。

革命防衛隊系のファルス通信によると、大統領は「どうしたら自分の国民に銃を向けられるのか」などとカダフィ大佐を批判。「(指導者が)国民に尽くし、彼らの側に立てば、反抗を受けることなどありえない」と自説を展開した。自国で反政府デモが相次ぐ現状には触れなかった。
イランの首都テヘランでは14日以降、散発的にデモが発生。イラン当局は徹底的に弾圧し、計3人が死亡している。イラン国内では反政府的な言動への締めつけが進み、インターネット規制や外国メディアの取材制限も強化している。【2月24日 毎日】
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当然のごとく、宿敵アメリカ・オバマ大統領が、アフマディネジャド大統領の発言は「皮肉的」とつっこんでいます。
****イラン大統領がリビア弾圧非難、米大統領は「皮肉的****
・・・・これについて、オバマ米大統領は、イラン政府がこれまで平和的にデモを行ってきた自国民を武力鎮圧し、エジプトとは正反対の行動を取ってきたことを考えれば、アハマディネジャド大統領の発言は「皮肉的」だと語った。イランでは今月に入って、大統領選をめぐる2009年のデモ以来初めて、反体制派による抗議活動が行われ、2人が死亡。反政府デモが治安部隊に再び鎮圧されていた。【2月24日 ロイター】
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【「天安門事件のようにデモ隊をたたきつぶす」発言に中国不快感
また、22日の演説でカダフィ大佐が「(中国の)天安門事件のようにデモ隊をたたきつぶす」と語ったことについて、中国外務省の馬朝旭報道局長は24日の定例会見で「(天安門事件に対し)中国政府と国民は既に明確な結論を出している」と述べ、不快感を示したとか。【2月24日 時事より】
政治的にタブーとなっている天安門事件をこんな形で取り上げられては、中国当局としては大迷惑ということでしょう。

その中国は、「中国茉莉花(ジャスミン)革命」の呼びかけを警戒してか、デモの呼びかけ場所で突然の工事をはじめたとか。
****デモ呼びかけ場所で突然工事始まる 北京市繁華街*****
中国の民主化を求める「中国茉莉花(ジャスミン)革命」のデモの呼びかけ場所である北京市中心部の繁華街、王府井で路面の補修工事が始まった。20日の呼びかけの際には見物人を含め千人以上が集まり、27日にもデモが呼びかけられている場所だ。当局による事実上の封鎖措置との見方も出ている。

連日、観光客らでにぎわう歩行者天国。その路上の中央に鉄柵が張り巡らされ、歩行者はその両側を通る形に。「路面陥没による緊急工事」との張り紙が出ているが、工事主体などは不明。作業員は「何も知らない」と語った。
中国では昨年、獄中の民主活動家、劉暁波(リウ・シャオポー)氏のノーベル平和賞受賞が決まった後にも、北京市内に住む妻の劉霞さんの自宅前で突然、工事が始まり、事実上、報道陣が排除されたことがあった。【2月25日 朝日】
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ドイツ内相:「現時点では難民の殺到は起きていない」】
チュニジアの政変ですでに多くの難民が押し寄せているイタリアは、中東情勢の更なる混乱で難民・移民の流入に対する警戒を強めていますが、ドイツなどは今のところつれない対応です。

****中東混乱:ボートピープル続々 「100万人流入」イタリア警戒*****
チュニジア、エジプトからリビアへの民衆蜂起の飛び火を受け、地中海を挟み「対岸」に位置する南欧諸国が難民・移民の流入に対する警戒を強めている。イタリアはリビアから「100万~150万人」(マローニ内相)が押し寄せかねないとして欧州連合(EU、加盟27カ国)に支援を求めている。だが、北欧・中欧諸国の反応は鈍く、中東激震でEUの「連帯」が揺らいでいる。

地中海に浮かぶイタリア領ランペドゥーサ島には13日以降、チュニジアから8000人以上が漁船や船外機付きボートで漂着した。政変で国を追われた政治難民と、欧州に職を求める不法移民だ。イタリア政府は約6500人を本土などの施設に移し、EUも聞き取り調査にあたる専門家などを派遣した。

ランペドゥーサ島などイタリア沿岸部への漂着者は07年まで年間2万人強で推移していたが、08年に約3万7000人に増えた。ベルルスコーニ政権が09年に同島の収容施設を閉じて漂着船を追い返す措置を取った結果、09年に約9600人となり、10年には3000人台にまで減ったところだった。

チュニジア政変に続きリビア情勢が悪化すれば、イタリアを目指して地中海を渡る難民や不法移民が急増し、社会不安を招きかねない。懸念を見透かしたようにリビアの最高指導者、カダフィ大佐は「反政府デモを支持すれば移民対策の協力をやめる」とEUに脅迫状を突き付けている。

グテーレス国連難民高等弁務官は欧州諸国に対して、リビアの内戦突入時などに発生が想定される難民の保護を要請している。イタリアなど南欧6カ国は24日、ブリュッセルで開かれたEU内相会議で「欧州全体の問題だ」(マローニ内相)と主張、「難民受け入れ基金」を新設して、他加盟国も負担を分担するよう提案した。
だが、内相会議では負担増を嫌う他加盟国から「現時点では難民の殺到は起きていない」(デメジエール独内相)、「イタリアから他国への難民の振り分けには反対だ」(フェクター・オーストリア内相)など南欧諸国に冷淡な発言が相次ぎ、EUとしての「一枚岩」の対応は打ち出せなかった。【2月25日 毎日】
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プーチン首相:「市民には自分たちで運命や将来を選ぶ機会を与えなくてはならない」】
ロシア・プーチン首相は、中東での市民デモへの西側諸国の干渉を牽制しています。
****プーチン首相が中東デモで西側けん制、「干渉は要らない****
ベルギー訪問中のロシアのプーチン首相は24日、西側諸国に対し、中東や北アフリカで拡大する民衆蜂起に干渉しようとする試みは、過激派を政権に就かせることになりかねないと警告した。
プーチン首相は、バローゾ欧州委員長との共同記者会見で「市民には自分たちで運命や将来を選ぶ機会を与えなくてはならない」とし、いかなる外部からの干渉も必要ないとの見解を示した。

また、過去の「民主主義の押し付け」が、イランでイスラム革命をもたらしたほか、パレスチナではイスラム原理主義組織ハマスが立法評議会選挙で勝利するなど、西側諸国が現在対応に苦労する状況を自ら生み出したと批判。「素晴らしい。よくやった。ハマスが(選挙で)勝ったが、あなた方はその人たちを今度はテロ組織と呼び、戦いを始めている」と痛烈に皮肉った。【2月25日 ロイター】
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「市民には自分たちで運命や将来を選ぶ機会を与えなくてはならない」と言うプーチン首相ですが、ロシアの現状について、ゴルバチョフ元ソ連大統領が「われわれには議会も法廷もあり、大統領も首相もいるが、すべては真似事にすぎない」と痛烈に批判しています。

****ゴルバチョフ氏、プーチン露首相を「恥知らず」と痛烈批判*****
ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領は21日、プーチン首相がロシアで権力を独占し、有権者から民主的な選択の自由を奪っているとして非難した。

プーチン首相は2000年から08年までロシアの大統領を務め、同国では今でも最高権力者とみなされている。ゴルバチョフ氏は、プーチン首相と同首相が3年前に大統領へと導いたメドベージェフ大統領が2人で、来年3月に行われる大統領選挙の候補者を決めるだろうと指摘した。

ゴルバチョフ氏はさらにプーチン首相について、ロシアの選挙を自らが決められると考えるとは「恥知らず」で、そのような「うぬぼれ」は信じがたいと主張。「われわれには議会も法廷もあり、大統領も首相もいるが、すべては真似事にすぎない」とこき下ろした。また、ソ連崩壊から20年たった今でもロシアは民主化への道半ばであると語った。

1991年にソ連を崩壊させる大胆な改革を行ったゴルバチョフ氏は先週、エジプトやチュニジアの民衆デモについて、独裁政治が永遠に続かないことへの警告だと、新聞に寄稿していた。【2月22日 ロイター】
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北朝鮮  住民の公権力への抵抗の動き 支配体制のほころびか?

2011-02-24 19:58:55 | 国際情勢

(威容を誇る首都平壌に建設中の105階建て高層ホテル「柳京ホテル」 写真は09年4月当時のものですが、90年代初めに資金難などから建設が中断、08年にエジプトの通信大手オラスコム・テレコムの投資で工事が再開され、今月17日には全面ガラス張りの外装工事がほぼ終了したそうです。
低層階は年内にも一部仮オープンさせる計画もあるそうですが、こんなものに資金をつぎ込むよりは・・・というのは常識的な発想で、強権支配者には全く通じないものでしょう。 “flickr”より By nobbiwan
http://www.flickr.com/photos/nobbiwan/3470681622/ )

【「最後の血の一滴まで戦う」】
リビアでは報道のように、軍・政権内部からの離反者が相次ぎ、反政府勢力が首都トリポリを包囲するような形となっており、親族からも亡命者の情報が出るなど、盤石のように思われていたカダフィ政権の命運も“時間の問題”のようにも見えます。

あとは、“いつ”“どのような形で”決着するか・・・ということですが、アフリカ人傭兵を使って徹底抗戦の構えのカダフィ大佐は、22日のテレビ演説で「最後の血の一滴まで戦う。必要なら武力も使う。(中国の)天安門事件のようにデモ隊をたたきつぶす」「我々はここにとどまる。最後は殉教者としてこの地で死ぬ」と主張しています。89年のルーマニア・チャウシェスク政権崩壊時のような市街戦・多大な犠牲者の発生が懸念されます。

情報の統制を一段と強める北朝鮮
チュニジア・エジプト、更にリビアの情勢は、世界の強権支配者に大きな衝撃を与えていることと思われますが、隣国・北朝鮮の金政権もその一人でしょう。

****北朝鮮メディア、中東デモに沈黙…強い危機感*****
反体制デモが拡大する中東情勢について、北朝鮮メディアが沈黙を続けている。
1月のチュニジア政変からエジプトのムバラク政権崩壊、最近のイラン、リビアなどのデモまで一切伝えていない。大半が北朝鮮の友好国で、国民の動揺や体制批判につながる情報の統制を一段と強めているとみられる。

金正日総書記が友好国の市民蜂起と独裁政権崩壊に強い危機感を抱いているのは確実だ。父親の金日成主席は1989年、親友だったチャウシェスク・ルーマニア大統領の政変による銃殺に衝撃を受け、中国に体制生き残りのための経済改革を打診、金一族の警護を一気に強化したとされる。2003年のイラク戦争時には金総書記の動静報道が49日間も途絶え、米国の圧倒的な軍事力を前に「雲隠れ」したと受け止められた【2月22日 読売】
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また、韓国紙中央日報は23日、外交消息筋の話として、中国の孟建柱・公安相が今月13日から朱霜成・北朝鮮人民保安相の招きで訪朝した際、中東で広がる独裁政権崩壊と民主化の余波が北朝鮮に及ぶのを防ぐための措置を協議したと報じています。

【「明かりをよこせ!米をよこせ!」】
リビア・カダフィ政権に劣らず強固な強権支配が続く北朝鮮ですが、慢性的な食料不足や通貨切り下げの混乱など、経済的苦境を強いられる国民の不満が“デモ”などの形で噴出するニュースも最近報じられており、支配体制のほころびとも思われます。

****北朝鮮で停電や食料不足に怒った住民がデモ、韓国紙*****
韓国紙、朝鮮日報は23日、北朝鮮消息筋の話として、北朝鮮で停電や食料不足に怒った住民たちによるデモが起きていたと伝えた。

朝鮮日報によると、デモがあったのは金正日(キム・ジョンイル)総書記の誕生日から2日前の14日のことで、平安北道の定州、竜川、宣川で住民たちが「もう生きていけない。明かりをよこせ!米をよこせ!」などと叫んで行進した。
情報筋によると、抗議の声をあげていたのは当初は1~2人だったが、次々と家から外に出てきた住民が加わり集団となった。後に国家安全保衛部が調査に乗り出したが、住民たちは沈黙を守っているという。
ただでさえわずかな定州や竜川への電力供給が、金総書記の誕生日の祝賀行事のために平壌にまわされたことから、住民の怒りが爆発したとみられる。さらに、北朝鮮では1990年代以降、慢性的な食料不足が続いており、米価格が急騰していることも背景となっている。

だが、厳しい統制が敷かれる北朝鮮で公にデモが行われることは極めてまれで、2009年に通貨切り下げが導入された際に騒乱発生が報じられた程度だ。
北朝鮮情勢の専門家は、今回のデモが中東や北アフリカで発生しているような大規模な反体制行動に発展する可能性はないとみている。【2月23日 AFP】
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“住民数十人がメガホンで「明かり(電力)とコメをよこせ」と叫ぶ騒動が起き、保安機関が調査に乗り出したという”【2月24日 産経】ということで、規模的にはそう大きなものではないようです。
なお、金総書記の誕生日の祝賀行事のために平壌にまわされた電力は、平壌の夜景を演出するためとか。

保安員横暴に住民デモ
中朝国境近くでの住民の騒動も報じられています。
****中朝国境で数百人がデモ=軍部隊が鎮圧、死傷者情報も―北朝鮮*****
24日付の韓国紙・朝鮮日報は北朝鮮内部の消息筋の話として、中国との国境に近い北朝鮮新義州で18日、住民数百人と当局が衝突したと報じた。

同筋によると、金正日労働党総書記の誕生日の連休(16~17日)が明けた18日、新義州の市場を取り締まっていた保安員(警官に相当)が商人を殴り、被害者は意識不明の重体に陥った。家族は激しく抗議、周りの商人らも多数加勢し、デモに発展したという。
一般住民も集まりそうになると、当局は直ちに治安機関・国家安全保衛部と軍部隊を投入し、デモを鎮圧。4、5人が死亡し、数人が負傷したとの情報があるほか、新義州一帯に非常警戒態勢が敷かれたとの観測が出ている。【2月24日 時事】 
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前保安処長が住民に石を投げられ死亡
更に、前保安処長が住民によって石を投げられ殺害される事件も発生しています。
*****北朝鮮で公権力抵抗の動き、前保安処長殺害される*****
米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)は23日、今月初めに咸鏡北道・清津で前保安処長が殺害される事件が発生するなど、北朝鮮で公権力に抵抗する動きがみられると伝えた。

清津市民の言葉を引用し報じたもので、前保安処長は複数人に石を投げられ死亡したという。前保安処長は14年間にわたり市の保安処で監察課長、捜査課長などを歴任し、住民たちの事情を考慮せずに数十名を摘発、教化所(強制収容所)に送った。このため住民の恨みを買っており、今回の事件は復讐(ふくしゅう)だったとみられるとしている。
事件の調査に着手した清津市の保安処は、背後に教化所出所者らがいるとみて捜査している。保安処職員らは同様の事件に巻き込まれるのではないかと恐れているようすだという。

RFAは、今回の事件のように、北朝鮮で最近、公権力弱体化の兆しがみられるなか、住民が生活苦から犯罪を犯したり抵抗する動きが各地で発生していると報じている。
金正日(キム・ジョンイル)総書記の誕生日2日前の14日、平安北道の3地域で、住民数十人が電気とコメを求める騒動を同時に起こし、国家安全保衛部が首謀者の割り出しに動いていると伝えられた。
また年初には、咸鏡北道延社郡で生活苦にあえぐ住民が薪をすべて回収していった山林監督隊の監督員3人を殺害した。両江道恵山市では出勤中の軍官が自転車を奪われる事件があったという。【2月24日 聯合ニュース】
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いったん動き出した流れは・・・・
一般的な見方としては、“北朝鮮情勢の専門家は、今回のデモが中東や北アフリカで発生しているような大規模な反体制行動に発展する可能性はないとみている”【2月23日 AFP】ということですが、リビア情勢などを見ていると、いったん動き出した流れはどんな強権支配体制をも呑みこんでしまうこともあります。

もっとも、北朝鮮で政権崩壊といった事態となれば、中国・韓国、更にアメリカの対応を含め、日本にとって傍観できるようなことではありません。難民が海を渡って押し寄せることも考えられます。北朝鮮政権が苦し紛れにミサイルの発射ボタンを・・・といったことすらあり得ます。
まあ、一時の混乱をしのげば、国際関係もすっきりする・・・とも言えますが。

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ASEAN  「プレアビヒア」へ監視団派遣  南シナ海での行動規範づくりは難航

2011-02-23 20:50:38 | 国際情勢

(2月18日 給油船を挟んで南シナ海をパトロールするアメリカの艦船 中国の航空母艦がこの海域に出てくると状況は大きく変わることも予想されます。 ただ、中国の南シナ海での強気の姿勢は、結果的に関係各国が安全保障面でのアメリカへの依存を強める動きともなっています。 “flickr”より By U.S. Pacific Fleet
http://www.flickr.com/photos/compacflt/5456893556/ )

【「内政不干渉」から踏み出した「歴史的」一歩
カンボジアとタイの間で、国境に位置する山岳寺院「プレアビヒア」の領有を巡って小競り合いが続いていることは、2月8日ブログ「タイ・カンボジア 世界遺産遺跡領有問題で衝突再燃 困難な領土問題解決」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110208)など、これまでも何回か取り上げたことがあります。

1962年の国際司法裁判所の判決でカンボジア領とする判断が出されていること、更に、08年にカンボジア政府による世界遺産登録申請にタイ政府が一旦は合意したことなどから、カンボジアのフン・セン首相は国際介入に積極的ですが、タイ・アピシット首相は反タクシン派「民主市民連合」(PAD、いわゆる「黄シャツ」)など国内保守派の突き上げを受ける形で譲歩が困難な政治状況で、国際介入にも消極的でした。
カンボジア側が、安保理で国連の監視団や平和維持部隊の派遣を求めたのに対し、タイ側は“2国間協議で解決する” という立場でした。

そんななかで、東南アジア諸国連合(ASEAN)は22日、インドネシアの首都ジャカルタで開かれた緊急外相会議でインドネシアを中心とする監視団を派遣することを決めました。監視団派遣はカンボジアが要請したもので、タイもこれを受け入れた形です。

****タイ・カンボジア国境 ASEAN監視団派遣へ*****
・・・インドネシアのマルティ外相は「国境の両国側に監視団を配置する。これは平和維持、平和執行ではなく、監視団は非武装だ」と説明した。
議長声明では、既存の「タイ・カンボジア合同国境委員会」を第三国で開き、2国間交渉を進めることも求めた。タイの主張に配慮したもので、インドネシアでの開催が想定されている。
ASEANが加盟国の紛争に監視団を派遣するのは初めて。ASEANは内政不干渉を基本原則としているだけに、スリン事務総長は「歴史的」としている。【2月23日 産経】
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インドネシアの思惑も
当事者カンボジア・タイの思惑は別にして、内政不干渉を基本原則としているASEANが監視団を紛争地域に派遣するというのはこれまでにない対応です。
その背景には、ASEANの盟主としての地位を回復したいとのインドネシアの強い意向があったと指摘されています。

****ASEAN:タイとカンボジア衝突、国境監視団を派遣へ*****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は22日、加盟国タイとカンボジアの軍事衝突を協議する緊急外相会議をジャカルタで開き、戦闘が起きた両国国境の山岳寺院「プレアビヒア」付近へ国境監視団を派遣することを決めた。これまで内政不干渉を原則としてきたASEANが、加盟国間の紛争に直接介入し監視団を派遣するのは初めて。

監視団は議長国であるインドネシアの軍が中心となる見込み。同国のマルティ外相は会議後「派遣されるのは平和維持軍ではなく非武装の監視団だ」と述べ、国境の両側から状況を監視する考えを示した。タイ外務省によると、監視団は両国にそれぞれ15人ずつで、受け入れ期間は今後調整するという。(中略)

外相会議開催や監視団派遣などASEANのこの問題への積極対応には、持ち回りで今年、議長国を務めるインドネシアの強い意向が働いている。同国はASEAN随一の大国でありながら、タイやシンガポール、マレーシアなどと比べ政治や経済の安定が遅れ、ASEAN内部での地位が低下。だが最近になって政治、経済とも安定を取り戻し、強い指導力を発揮してASEANの盟主としての地位を回復したいとの思惑がある。

一方、ASEANは「2015年の共同体構築」との目標を掲げるが、加盟国間で衝突が続いていては達成はおぼつかない。国内に人権問題を抱えるミャンマーやベトナムなどには内政干渉への警戒感が根強いが、危機感を強めるASEAN事務局やインドネシアなどに押し切られる形で、内政不干渉原則から一歩踏み出す監視団派遣を受け入れたとみられる。
ASEANのスリン事務局長は「歴史的な日だ」と外相会議の決定を歓迎した。【2月22日 毎日】
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いずれにしても、「2015年の共同体構築」に向けた第一歩としてのASEAN監視団がどのように機能するか注目されます。

米中「覇権争い」のなかで
一方、ASEANが抱える対外的な最重要課題のひとつが、ASEAN諸国の多くが、南シナ海での存在感を強める中国と南沙諸島や西沙諸島で領有権を巡る対立を抱えており、経済的関係か強まる中国とどのように向き合うか・・・という問題です。

****ASEAN・中国、現状は 経済で接近、安保で距離*****
アジア・太平洋地域は、脅威を増す中国と、米国を軸とする静かな「覇権争い」のまっただ中にある。その一翼をなす東南アジア諸国連合(ASEAN)には、中国に対する安全保障上の「脅威」と、経済関係における「接近」という相反する力学が働く。現状はどうなのか-。

約960万平方キロの国土に、13億人の人口を抱える中国の国内総生産(GDP)は、およそ4兆9千億ドル。ASEAN10カ国(総人口5億8千万人)は、約1兆4千億ドル(いずれも2009年)である。1人当たりGDPでは、中国3744ドルに対し、ASEAN2557ドル。経済力の差は歴然としている。

その中国とASEANは、相互依存関係を強めている。双方の昨年の貿易額は、前年比37・5%増の2927億8千万ドル(約24兆円)と拡大した。これは昨年1月、「中国・ASEAN自由貿易協定」(CAFTA)により、中国と、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどASEAN側6カ国との間で、一部品目を除き関税が撤廃されたことが影響している。

◆内には華人
ASEAN諸国は、内に華人という「中国」を抱える。中国系は例えば、シンガポール75%、マレーシア26%、タイ14%、インドネシア3%。華人の系譜をたどると、中国の福建、広東両省などの出身だ。
ただ、華人の人口や現地化、他の民族への同化の程度などは、多様で複雑である。タイでは、マレーシアなどに比べ、華人の現地化とタイ系(75%)への同化が進んでいるとされる。
華人の企業グループ、ネットワークは、国家経済にとり重要な存在になっている。こうした華人を中国は、自らの勢力ととらえ、ASEAN諸国を取り込もうとするのでは-。そうした潜在的な脅威認識は今も、多くの国の間にある。

しかも華人と中国との関係は、地理、歴史的に人種や言語、宗教の多様性を内包する東南アジア諸国が苦慮してきた、国民統合とアイデンティティーの問題とも密接にリンクしている。
例えば、華人が支配するシンガポールは、むしろ中国と微妙な距離を保ち、国民に「シンガポーリアン」というアイデンティティーをもたせることに、力が注がれてきた。一方、マレーシアでは、マレー系(66%)を優遇するブミプトラ政策を見直す動きが出ている。これは裏を返せば、ブミプトラ政策により、「抑圧」を強いられてきた中国系との“融和”を図ろうとするものでもある。

◆束になれど
ASEANにとっては、スプラトリー(南沙)諸島などの領有権を争う中国との軍事力を、単純に比較するだけでも脅威だ。
中国は陸上兵力220万人、艦船970隻、作戦機5750機、国防予算は689億ドル。ASEANは陸上兵力146万人、艦船800隻、作戦機約1千機、国防予算は255億ドルだ。中国には単独ではむろん、束になっても及ばない。

ASEAN諸国も、装備の近代化を進めてはいる。例えば、シンガポールでは、フランス製フォーミダブル級フリーゲート艦6隻が、マレーシアでは初の潜水艦スコルペン級が、それぞれ就役した。多くの国は国防費を伸ばしてもいる。だが、ASEAN諸国の軍事力は基本的に、シンガポール以外は、国内の治安対策に対応する程度のものだとされる。

ASEANの場合、北大西洋条約機構(NATO)のような体制の構築は難しい。ASEAN地域フォーラム(ARF)も道半ばだ。2015年の設立を目指す「ASEAN共同体」は、姿形が見えない。
「中国と経済関係ではうまく付き合いつつ、安全保障は米国のプレゼンスに頼るほかない」(ASEAN筋)という基本構図に、変化はみられない。【2月3日 産経】
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【「宣言署名からすでに9年たっており、規範づくりの作業を促す」】
1月25日に中国・昆明で開催された中国とASEANの外相会議では、中国側の強気の姿勢で形骸化が懸念されていた南シナ海行動宣言について、改めてその重要性を確認していますが、具体的な進展は何も報じられていません。

****外相会議:中国ASEAN 南シナ海行動宣言の重要性確認*****
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が25日、中国雲南省の省都昆明で開かれた。中国外務省によると、楊潔※(ようけつち)外相は「南シナ海行動宣言は双方の相互信頼を増進した」と演説し、同宣言の重要性を確認した。

中国とASEANは02年に、領有権紛争を抱える南シナ海での武力行使禁止や資源共同開発などを盛り込んだ行動宣言に署名。しかし、中国が南シナ海を台湾などと同列の「核心的利益」と位置づけたと報じられたことから、宣言の形骸化が懸念されていた。

ASEAN10カ国外相は24日、タイ北部チェンライから車でラオスを経由して陸路中国入り。陸続きのASEANと中国の友好関係を演出した。
南シナ海問題では、「航行の自由」を主張する米国と中国が対立してきたが、米中首脳が今月19日に発表した共同声明は「航行の自由」「核心的利益」にはふれず、問題を棚上げしていた。(※は竹かんむりに褫のつくり)【1月25日 毎日】
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ASEANは02年に署名された「南シナ海行動宣言」の実効性を高めるため、法的拘束力のある行動規範づくりをめざしています。しかし、昨年12月に中国・昆明で開かれたASEANと中国の事務レベル会合では、そこへ向かう第1歩となる「指針」づくりの段階で、双方の意見がかなり異なったと報じられています。
“スリン(ASEAN)事務局長は「宣言署名からすでに9年たっており、規範づくりの作業を促す」と述べ、署名から10年となる来年には何らかの結果を出したいとの強い意向を示した。”【1月16日 朝日】

南シナ海を台湾などと同列の「核心的利益」とも位置付ける中国から、南シナ海の安定と安全保障、航海の自由に関する“行動規範”を引き出すのは、かなりハードルの高い課題のようにも見えます。

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リビアの「カダフィ流危機対処モデル」とジンバブエで続く強権支配

2011-02-22 20:37:16 | 国際情勢

(反政府運動側が制圧したとされる東部ベンガジで治安部隊の戦車に乗って“勝利”を喜ぶ人々 ただ、“中東の狂犬”カダフィ大佐を相手とする以上、それ相応の覚悟は必要でしょう。 “flickr”より By giaitri59
http://www.flickr.com/photos/21862466@N06/5465912093/ )

【「カダフィ氏はムバラクやベンアリとは違う」】
盤石と思われていたカダフィ政権が大きく揺らいでいるリビア情勢について、多くのメディアが報じています。

****リビア デモ 首都に拡大 国営テレビ襲撃、国会放火*****
騒乱状態が続くリビアで20日夜(日本時間21日未明)、反体制デモが首都トリポリにも拡大し、数千人のデモ隊と治安部隊が衝突、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、61人が死亡した。15日のデモ発生以降の死者は全土で300人を超したとみられる。フランス通信(AFP)によると、デモ隊は21日未明にかけて、国営テレビ本部を襲撃、全人民会議(国会)や警察署に放火した。反体制派は第2の都市ベンガジなど複数の都市を支配したもようで、41年にわたり同国に君臨する最高指導者カダフィ大佐(68)は最大の危機を迎えた。
                   ◇
トリポリは大混乱に陥っているもようで、カダフィ大佐が南米ベネズエラに向かったとの情報もある。
中東の衛星テレビ、アルアラビーヤによると、アブドルジャリル司法書記(法相)が21日、デモ隊への過剰な暴力行使を批判して辞任。報道によると、リビアのアラブ連盟担当大使や駐インド大使も弾圧に抗議して辞任した。
国営テレビ襲撃前の21日午前1時過ぎ、カダフィ氏の次男で、後継者として有力視されるサイフルイスラム氏(38)が同テレビを通じて演説。政治改革の必要性を認めた上で、憲法制定に向けた国民対話のため全人民会議が同日、会合を開くと明らかにした。
同氏はその一方で、「わが国は内戦の危機にある」と警告、「カダフィ氏はムバラク(エジプト前大統領)やベンアリ(チュニジア前大統領)とは違う。最後の1人となるまで戦う」と述べ、武力鎮圧を目指す方針を堅持した。

反体制派のデモ隊と当局の衝突が続いていたリビア北東部ベンガジでは20日夜、軍兵士らが任務を放棄しデモ隊に合流。住民はアルジャジーラに、「街はわれわれの支配下にある」と述べた。アルアラビーヤは、カダフィ氏の出身地である北部シルトなどでもデモ隊が治安を一時掌握したと報じた。東部最大の部族もデモ隊に加わったという。リビアでは外国メディアの取材が認められておらず、詳細は不明。(後略)【2月22日 産経】
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“ベネズエラ亡命”については、現在のところ否定的な報道がなされています。
(確かに、“中東の狂犬”カダフィを迎えてくれるのは“南米の異端児”チャベス大統領ぐらいかも・・・)
ただ、軍兵士や各国大使など政府高官から離反者が出ている状況で、カダフィ政権が追い詰められていることは事実のようです。有力な宗教指導者や主要部族の離反も報じられています。

カダフィ流危機対処モデル
チュニジア、エジプトでは民衆の抗議行動に譲歩する形で、結局政権を放棄せざるを得ないところまで行ってしまいましたが、その“教訓”を汲んでか、あるいは、最近でこそ国際的協調路線に切り替わったものの、かつては“中東の狂犬”という異名で呼ばれ、パンナム機爆破事件などテロ活動を行ったとされるカダフィ大佐の性格によるものか、抗議行動への対応も“戦闘機による攻撃”など、これまでとは異なる過激・強硬なものとなっています。

****カダフィ政権、最大の危機 武力鎮圧か退場か、各国は行方注視****
■大産油国のデモ拡大懸念
リビアの最高指導者カダフィ大佐が、過去最大の危機に直面している。政権側は反体制派デモに対し、徹底した武力鎮圧も辞さない考えを鮮明にさせた。「カダフィ流」のこうした極端な手法は、中東各国や他の地域に何をもたらすのか。

カダフィ氏はかつて数々のテロ事件を支援したほか、数々の奇行でも知られ、「中東の狂犬」とも呼ばれた。だが2003年のイラクのフセイン政権崩壊後は大量破壊兵器の放棄を宣言、長らく敵対してきた米国と関係改善に乗り出すなど、対外的にはより柔軟な姿勢を示してきた。しかし、国内のメディア活動はなおも厳しく制限され、カダフィ氏への個人崇拝に基づく徹底した強権支配が維持されてきた。
今回の一連のデモでは早い段階から実弾を使用。カダフィ氏の次男サイフルイスラム氏は21日の演説で、「最後の銃弾一発まで戦う」とまで言い切った。「(軍が中立を守った)チュニジアやエジプトとは明らかに一線を画す」(北アフリカ専門家)発想だ。

独裁者としての国際的“知名度”が抜群なだけでなく、実際に徹底した強権体制を敷き政権は盤石とみられていたカダフィ氏が、デモへの武力行使を辞さなかったにもかかわらず、それでも権力の座から追われるような事態となれば、その衝撃が及ぶ範囲は中東・北アフリカにとどまらない。
特にリビアは近年、アフリカ連合(AU)での活動を強化し、サハラ砂漠以南での存在感を高めていただけに、独裁的な政権が多いアフリカ諸国に波及する可能性がある。中国や中央アジアなどでもリビア情勢への関心が強まるのは間違いない。
一方、デモの武力鎮圧に成功した場合、カダフィ氏は、各地の独裁的な政権に一種の「危機対処モデル」を提供することになる。

リビアでもみられた交流サイト「フェイスブック」や簡易ブログ「ツイッター」などによる大衆動員はどの国でも起こり得る現象だ。今後、同様のデモに直面した国々が、武力使用に対する心理的抵抗感が少なくなるのではないかとの懸念はぬぐえない。
エジプト政府系シンクタンク、アハラム戦略研究所のジヤード・アクル氏は、武力使用に偏ったカダフィ氏的な手法は「人々の怒りを増幅させて対立を煽(あお)り、妥協を難しくするだけだ」と指摘している。【2月22日 産経】
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まだリビア情勢がどういう結末を迎えるのかはわかりませんが、どんなに強固な支配に見える権力も内部が空洞化していると、動き始めた現実に対応できずにもろくも崩壊してしまう・・・そんな思いを抱かせる状況です。

ジンバブエでの“民主化”余波
中東・北アフリカ各国での「民主化ドミノ」の影響は報道のとおり、リビアやバーレーンを頂点に多くの国々に広がっています。
その他の地域でも、ムガベ大統領による強権支配が続く南アフリカ・ジンバブエからもそうした影響が報じられています。

****エジプト反政府デモ研究会に参加した47人を拘束、ジンバブエ****
ジンバブエ警察当局は19日、エジプトの反政府デモを研究する会合に参加していた47人を拘束した。弁護人が21日明らかにした。
弁護人のローズ・ハンジ(Rose Hanzi)氏によると、47人は、ホスニ・ムバラク大統領を退陣に追い込んだエジプトの反政府デモおよびデモが他国に波及する可能性に関し、会合で議論していたところ、警察に拘束された。
47人の中には、モーガン・ツァンギライ首相率いる野党・民主変革運動(MDC)の元国会議員で大学講師のMunyaradzi Gwisai氏も含まれていた。だが、たまたま会場を通りかかった人なども拘束されたという。
(中略)
なお、47人は首都ハラレ(Harare)の警察に身柄を拘束されているが、まだ1人も正式に起訴されていない。警察は、非合法な手段で政府の転覆を図った罪で起訴される可能性を示唆しているという。【2月22日 AFP】
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ジンバブエ経済を崩壊させたムガベ大統領は、大統領選挙結果を強権で捻じ曲げ、かつての野党指導者ツァンギライ首相と権力を分担する形式を一応はとりつつも、強権支配をなお続けています。
野党勢力を暴力的に徹底弾圧した“実績”があるだけに、エジプトのような反政府デモには「カダフィ流」の「危機対処モデル」で対応すると思われ、抵抗の難しさが予測されます。

そのジンバブエを訪問した楊潔チ中国外相は、ジンバブエを「良き友人、良き兄弟、良きパートナー」と評したとか。
****中国の楊外相がジンバブエを訪問、「ジンバブエは良き兄弟*****
中東・アフリカを歴訪中の楊潔チ(Yang Jiechi)中国外相は10日、ジンバブエに到着した。
首都ハラレの空港でジンバブエのシンバラシェ・ムンベンゲグウィ外相に出迎えられた楊外相は、「中国はジンバブエとの政治的相互信頼を高め、互恵的協力関係を拡大して、友好と協力関係を進展させる準備がある」と演説した。また、ジンバブエを「良き友人、良き兄弟、良きパートナー」と評した。(後略)【2月11日 AFP】
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「良き兄弟」と言うか、「似たもの同士の兄弟」と言うか・・・・。

強権支配者周囲の腐臭
昨年末には、ウィキリークス絡みでこんなニュースもありました。
****ジンバブエ大統領夫人、ウィキリークス電文報じた新聞社を提訴****
ジンバブエのグレース・ムガベ大統領夫人は15日、内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」か公開した米外交電文をもとに夫人が違法ダイヤモンド取引で利益を得たと報じた新聞社を、名誉毀損で訴えた。要求額は1500万ドル(約13億円)。同国の政府系日刊紙ヘラルド(Herald)が16日報じた。

同国日曜紙スタンダードは前週、ウィキリークスが公開した米国大使の2008年の本国向け電文を引用し、大統領夫人が違法なダイヤモンド採掘によって数百万ドルの利益を得たと報じた。
電文で米国大使は、ジンバブエの政府高官らが私的に人を雇ってダイヤモンドを採掘し、数百万ドルを手にしたと報告していた。
夫人の代理人の弁護士は、「原告はジンバブエの著名人であり、何と言っても大統領夫人だ。国民の母とも言える重要人物にこのような汚名を着せるなど、正しい考えを持つ国民が原告に抱く尊敬の念を無におとしめるものだ」と非難した。
同弁護士は、問題の記事で「国が深刻な外貨不足にあえぐ中、夫人が自身の大統領夫人としての立場を利用して密かにダイヤモンドを入手して私腹を肥やした」と伝えられたのは誤りだと主張している。【10年12月17日 AFP】
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“「私腹を肥やした」と伝えられたのは誤り”・・・・でしょうか?これまでの言動を見ると、「そんなこともあるだろうな・・・」と思えますが。
強権支配の権力者周囲からは腐臭が漂います。


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イラク戦争  偽情報で開戦、結果としての「民主化」再評価の動き

2011-02-21 19:28:27 | 国際情勢

(“flickr”より By kurup_man http://www.flickr.com/photos/kuruporissa/4275482593/

【「イラクに民主化のきっかけをもたらしたこと誇りに思っている」】
イラク攻撃を正当化する根拠とされた「大量破壊兵器」について、この情報が故意になされた嘘であったということが改めて明らかにされています。

****イラクの大量破壊兵器情報はうそ」、情報提供者が認める 英紙報道*****
英紙ガーディアンは15日、米国が2003年のイラク攻撃を正当化する根拠とした大量破壊兵器(WMD)に関する情報を提供したイラク人科学者が、サダム・フセイン大統領(当時)を失脚させるためにうそをついていたことを認めたと報じた。

この人物はラフィド・アハメド・アルワン・ジャナビ氏。ドイツと米国の情報関係者に「カーブボール」というコードネームを付けられていた。
ジャナビ氏はドイツ連邦情報局(BND)に、フセイン政権が生物兵器を積んだトラックを保有しているとの情報を提供した。この情報はジャナビ氏の上司だったイラク人によって否定され、ジャナビ氏は態度を後退させたが、それでも情報局は信用し続けたという。

■国連安保理報告でも言及
ジャナビ氏の情報は、コリン・パウエル米国務長官(当時)が2003年2月5日に国連安保理で行ったイラクの大量破壊兵器に関する報告につながった。
国連での報告の中でパウエル長官は情報提供者のジャナビ氏を「イラクの化学技術者で兵器製造工場の1つを統括する人物」と紹介。さらに「生物兵器向け化学物質の製造に直接関与し、1998年の事故現場にも居合わせた」と説明した。

ジャナビ氏はこの演説を聞いてショックを受けたという。だが、パウエル長官は、イラクを攻撃する根拠として、ほかにもウラン濃縮活動と国際テロ組織「アルカイダ」の存在をあげたことから、自身の役割は大きなものではないと考えたという。
ジャナビ氏はむしろ、同氏が提供した情報を他国には漏らさないとの約束を破ったドイツ連邦情報局を非難した。

ジャナビ氏によると2000年、同氏がバグダッドで訓練された化学技術者でフセイン政権の内部情報に通じている可能性があると知った「パウル博士(Dr Paul)」と名乗るドイツ政府関係者が、同氏に接触してきたという。
1995年にイラクを出たジャナビ氏は、ドイツ連邦情報局に、フセイン大統領はトラックで移動が可能な生物兵器を所有しており、兵器工場を建設しているとうそを語った。

だが、ジャナビ氏の証言を、イラク軍需産業委員会で同氏の元上司だったバシリ・ラティフ氏が否定したことから、ドイツ連邦情報局とジャナビ氏は対立することとなった。連邦情報局に対し、ジャナビ氏は「わかった。彼(ラティフ氏)がそんなトラックはないというのなら、ないのだろう」と言ったという。しかしその後も連邦情報局は、ジャナビ氏の主張を真剣に受け止めていたという。

■「フセイン政権打倒のためだった」
さらに2002年、ジャナビ氏は連邦情報局から、協力しなければ身重の妻はドイツに入国できないかもしれないと言われたという。だが、同氏は、情報を提供したのは、亡命を確実にするためではなく、あくまでもフセイン政権を倒したかっただけだと主張した。
イラク戦争では市民10万人以上が犠牲となり、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領、ドナルド・ラムズフェルド米国防長官や米国を支持したトニー・ブレア英首相らが著しく評判を落とす結果となった。

自身が偽の情報を提供したことについて、ジャナビ氏は「正しかったもしれないし、間違っていたのかもしれない」と語る。「彼らは、私にフセイン政権を倒すため作り話をする機会をくれた。わたしも息子たちも、われわれがイラクに民主化のきっかけをもたらしたこと誇りに思っている」
さらに、同氏は「祖国のために、何かをせねばならなかった。捏造はそのためだ。わたし自身は満足している。イラクから独裁者はいなくなったのだから」と付け加えた。【2月16日 AFP】
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【「その種のデモがないのはイラクだけだ」】
いささか自己正当化に過ぎる言い分ではありますが、結果としてフセイン政権が打倒され、“イラク民主化”が実現したということについて、現在進行する「中東民主化ドミノ」のなかでイラクだけが民主化要求の動きが起きていないことから、改めてアメリカで評価されているとの指摘もあります。

****反政府デモ イラク波及せず 米指摘「介入で民主化進展****
エジプトでの政権打倒が触媒となり中東に広がった反政府デモや民主化要求の動きがイラクでは起きていない現実が米国の国政の場で指摘されるようになった。米国の軍事介入の結果にせよ、すでに民主化が進んだことがその理由とされ、ブッシュ前政権のイラク政策の再評価にもつながってきた。

反政府デモが中東諸国に連鎖的に広がっているのに要衝イラクでは政権や統治のあり方自体に抗議する動きが起きていないことについて、まず共和党のマケイン上院議員が「イスラム教の過激派あるいは専制的な政権に民主化を求める動きはいま中東によきウイルスのように広がったが、その種のデモがないのはイラクだけだ」と述べ、イラクではすでに民主化が進んだことを原因として指摘した。
同党のマコネル上院院内総務も「イラクで今回、エジプトに似たデモが起きていないのは、ブッシュ前大統領やマケイン議員の主唱によるイラクへの米軍増派と平定で民主化が軌道に乗ったためだ」と言明した。
ブッシュ氏は2005年イラクに対して「自由への課題」と題する民主主義構想を打ち出し、複数政党や自由選挙を実現させた。

イラクの現状について、15日付の米紙ニューヨーク・タイムズもバグダッド発で「イラクは国民一般が民主的選挙で選ばれた政権の統治を受け入れ、反政府デモはない」と報じた。同報道は、イラクの一部には政府への抗議もあるが、公共サービスや雇用、物価への苦情で、政権の打倒運動ではないとも付記していた。
米国の著名な中東問題専門家ダニエル・パイプス氏も「中東全域でもイラクだけはいま民主化要求デモが皆無だ」と述べ、「イラクではすでに自由な選挙、言論の自由、法の統治など民主主義の要件が備わったからだ」と理由を説明した。

同氏はまた「ブッシュ氏の中東民主化構想は米国内部でもリベラル派から『イスラムの教徒や教義は本質的に民主主義には合致せず、あまりに非現実的だ』と非難されたが、現在の状況はその非難こそが的外れだったことを証明しつつあるようだ」と論評した。オバマ政権も今では中東の民主化を政策目標に掲げるに至ったが、パイプス氏は「民主主義の促進には時間と手間がかかることと、民主化の名の下にイスラム過激派が権力を握る危険があることを銘記すべきだ」と提言した。【2月20日 産経】
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これも、イラク攻撃による多大の犠牲と混乱を捨象した自己正当化の議論のように思えます。

なお、イラクのマリキ首相は4日、今月から自らの給与を半減すると表明し、民衆の抗議デモ発生防止に向けた先手を打っています。
****格差是正を率先、給与半減=民衆蜂起の波及に先手-イラク首相****
ラクのマリキ首相は4日夜、声明を出し、今月から自らの給与を半減すると表明した。所得格差や不十分な公共サービスに対する国民の不満を緩和し、チュニジアを発端に中東に波及する民衆蜂起の影響を回避したいとの思惑があるとみられる。

首相は声明で「給与を50%削減し、今月から国庫に返還する」と述べた。宗教指導者は、中東に広がる民衆の抗議デモがイラクでも発生する可能性があると警告しており、首相は、社会全体の給与格差是正に向け、先手を打った形。AFP通信によると、首相給与は約35万ドル(約2800万円)とみられる。
イラクでは2003年4月、フセイン元大統領の独裁政権を米軍主導の多国籍軍が打倒、憲法を改正するなど民主化された。【2月5日 時事】
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「中国茉莉花(ジャスミン)革命」・・・・?

2011-02-20 20:11:34 | 国際情勢

(2月20日 「中国茉莉花(ジャスミン)革命」を支援する若者たち ただし、北京でも上海でもなく、台湾・台北です。 “flickr”より By KarlMarx http://www.flickr.com/photos/karlmarx_75/5461199666/

【「自分は見るだけではなく、参加する」】
チュニジアで始まった中東の民主化を求める長期・独裁政権に対する市民の抗議行動はエジプトでムバラク政権崩壊させましたが、バーレーン・リビアでは政府側の厳しい弾圧を呼ぶ“第2幕”が進行しています。
そうした“中東民主化ドミノ”の影響が、事実上の共産党一党独裁体制である、あの中国でも“一部で”見られるようです。

****上海で大学生ら4人を当局連行 デモ呼びかけを封じ込め*****
上海市の中心部の繁華街で20日午後2時(日本時間同3時)すぎ、民主化を求めるデモの呼びかけに応じて集まっていた男子大学生ら少なくとも4人が警察に連行された。中国では、中東で政治改革を求める民衆のデモが相次いでいるのを受け、ネットなどを通じて20日午後2時から全国各地で、「中国茉莉花(ジャスミン)革命」と名付けた一斉デモが呼びかけられていた。
北京でも、デモが呼びかけられた中心部の繁華街に厳重な警備が敷かれ、少なくとも男性2人が連行された。遼寧省瀋陽や四川省成都、広東省広州などの主要都市も同様で、この5都市ではデモは発生しなかった。

上海で連行された大学生は少なくとも3人。そのうちの1人は連行前、記者に「活動に参加するために来た。このまま何もしなければ、この国は永遠に変わらない。第一歩を踏み出すために、自分はここに来た。なにか活動があれば、自分は見るだけではなく、参加する」と話していた。「両親には絶対に行くなと言われたけど、それでも行くと言った」とも語った。
その後、大学生は警戒にあたっていた警察官に「何をしている」と聞かれ、肩をつかまれた。まわりの大学生らが「やめろ」などと言って割って入り、現場は混乱に陥った。大学生ら3人は数十人の警察官たちに囲まれ、髪を捕まれたり、両脇を抱えられたりしながら、近くの警察署に連行された。その際、大学生の1人は何かを叫びながら、ピースサインをして見せた。

3人の連行後、警察署前では法治の不備などを訴える年配の男女数十人が集まり、抗議活動を始めた。男性の一人が報道陣に対し、「この国には人権も法治も自由に話す権利もない。警察は好き放題、市民を逮捕する。これが中国の実態だ」と大声で叫んだ。市民はネットの呼びかけを見て集まったという。その後、年配の男性が警察署に連行された。【2月20日 朝日】
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インターネットを通じた政治改革などを求める「中国茉莉花(ジャスミン)革命」の呼び掛けに対し、当局側は北京、上海を含む主要13都市で厳戒態勢を敷きました。
“香港メディアなどによると、中国各地で19日以降、活動家や弁護士、不満分子ら100人以上が外出しないよう当局者に要求され、中には警察に連行されたり、家宅捜索でパソコンを押収されたりした人もいたという”【2月20日 時事】

ただ、“集合時間の20日午後2時(日本時間同3時)、集合場所の一つに指定された北京の繁華街、王府井には私服を含め多くの警察官が出動。テレビカメラを持った報道陣が駆け付けたこともあって、通りには買い物客を含め、1000人を超える人だかりができた”【同上】ということで、一般市民にとっては“別世界の出来事”のようにも思われます。
なお、「ジャスミン」という単語で検索すると、検索サイト百度(バイドゥ)では、「その検索は法律と規制によって禁止されている」と表示されるそうです。【2月20日 AFPより】

中国当局は、ネットを通じた民主化運動の波及に神経をとがらせており、胡錦濤総書記が管理強化を指示しています。

【「ネット世論を指導するメカニズムを整えよ」】
****胡総書記「ネット管理強めよ」中東デモに危機感****
新華社通信によると、中国の胡錦濤・共産党総書記は19日、北京の中央党校で開かれた会議で社会の管理に関する重要演説を行い、「情報、ネットの管理を強化し、仮想社会に対する管理の水準を高め、ネット世論を指導するメカニズムを整えよ」と指示した。
胡政権は中東で拡大する反政府デモにネットが大きな役割を果たしていることに危機感を強めている。演説はネット管理をさらに強化し、一党独裁体制を揺るがす言論を徹底的に封じ込める構えを明確にした。
胡氏はこのほか、「党の指導と政府の社会管理の機能」や「流動人口の管理」なども強化するように指示した。【2月19日 読売】
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そうした一連の“管理強化”の一環か、“中国の一党独裁終結などを求める「ジャスミン革命」集会の呼び掛けを19日に詳しく報道した米国の中国反体制派系ニュースサイト・博訊新聞網がハッカー攻撃を受け、閉鎖に追い込まれた。インターネット上では「中国当局が攻撃を仕掛けた」との見方も出ている。”【2月20日 時事】といった動きもあります。

中国では楽観主義がわんわん唸っている
ただ、前述のように、「中国茉莉花(ジャスミン)革命」の動きが広く一般市民に広がっているという様子は見られません。
その背景としては、政治的自由が制限されているのは中東も中国も同じですが、生活に苦しむ中東住民に比べ、中国住民は経済的繁栄と“大国”としての自尊心を手にいれて、一定に現状に満足している・・・ということがあるのではないでしょうか。

****なぜ中国人はエジプトに感動しないのか*****
「一部の欧米評論家たちは、経済成長だけ何とかすれば、国民はほかの要求をすべて我慢するだなんていう、おめでたい説明に納得してしまっている」。中国経験の長いジャーナリスト、ハワード・フレンチは米誌『アトランティック』にこう書いている。エジプトを見れば、そんな思い込みは嘘だとよく分かると。「社会というものは底辺の労働者から恵まれた専門職階級に至るまで全体として、一定の価値を求めるものだ。経済成長、透明性、明確な責任の所在、そして誰が統治するかを決める権利などのことだ」。

エジプトが中国政府にとって都合の悪い点を浮き彫りにしているのは、否定のしようがない。だからこそ、エジプト蜂起の初期段階で、中国は検閲をフル稼働させて事実を取り繕おうとした。公式発表はもっぱら、混乱して危険なカイロから中国市民がいかに脱出しているかにばかり注目し、そもそもいったいなぜこれほどの大規模な騒ぎが起きたのかを分析しようとはしなかった。

とは言え、エジプトをきっかけに自国内でも騒ぎが起きるのを中国政府が恐れている——などと結論するのは間違いだ。ここ数日間の革命報道は、一部の欧米メディアが伝えたほどには制限されていなかった。国営英語紙「チャイナ・デイリー」は中国語メディアの論調を代弁するものとは言いきれないかもしれないが、エジプト人が「歓喜」する様子を一面で伝えていた。『Sina』など主要サイトでは、(中国でも問題となっている)食品価格の高騰が、タハリールでも天安門でも民衆蜂起の先駆けになったとたっぷり議論されていた。(中略)

エジプトとの共通点はもちろん、中国にもある。しかしそれほど明確ではない。天安門広場からタハリール広場を眺めてみて、共通点より違いの方が大きいと気づかされた。

フレンチ氏が指摘するように、一国の国民を空港や道路や2ケタ成長だけで買収することはできない。けれどもそういうものはあった方がいいのだ。ひどい不平等や連日の不公平にもかかわらず、中国では楽観主義がわんわん唸っている。中国は進歩している、生活は前より良くなっていると、ほとんどの人は言う。私が先日、貧しい河南省であった70歳の農民もそうだ。この男性は自分の農地を新しい工業団地の用地に提供したところだった。
「エジプトで起きていることを見て、私たちは『ひどい騒ぎだ』と思った」。
欧米教育を受けた上海メディアグループのテレビ司会、パン・シャオリはこう言う。中国人にとってもっぱらの関心事は、社会安定と雇用機会と生活の改善なのだと言うのだ。

同じくらい強い要素として、中国の国際的影響力が強まっていることに対する、国民の誇りもある。政権による30年間の失策続きで経済は停滞し、国全体が行き場を失っている感覚に覆われていたエジプトとは、この点が対照的だ。

今年のノーベル平和賞を獄中から受賞した劉暁波氏の友人で人権活動家の滕彪(テン・ビャオ)氏は、エジプトの教訓が検閲と恐怖によって鈍化してしまっている側面もあるが、無関心と豊かさを増す生活も影響していると話す。「普通の人たちは実のところ、ほかの国で起きていることに関心がない。洗脳されてしまって、政治の話題に関心がない人も多い」。

滕氏が言うように、中国では毎年のように8万人~9万人規模の「大規模デモ」が開かれている。つまり国民は完全に現状に満足していて従順というわけではないのだ。しかし抗議デモに参加する人たちは民主主義そのものを求めるというよりは、土地の所有権や役人の汚職、不当裁判、給料や環境と言った具体的な課題の方を重視する。そういう諸問題について抗議した方が抗議し易い(こともある)というのもあるが、それよりも、市民にとってはそういう具体的問題の方が緊急課題だからだ。(後略)【フィナンシャル・タイムズ  2月16日初出 翻訳gooニュース】
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なお、G20では、サウジアラビアや中国の反対により、民主化運動を歓迎するとの表現は共同声明に盛り込まれなかったそうです。
*****G20がエジプトなど支援表明、「民主化歓迎」に中国など反対****
パリで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は19日、エジプトとチュニジアの経済改革を支援すると表明したが、サウジアラビアや中国の反対により、民主化運動を歓迎するとの表現は共同声明に盛り込まれなかった。
共同声明は「われわれは、エジプトとチュニジアの国民の利益と経済の安定化につながるような改革に向け、両国を支援する」としている。
議長国フランスは、両国の変革を歓迎し、民主主義への秩序だった移行に向けて暫定政権を支援するためのリソースを提供するよう呼びかけたが、G20筋によると、共同声明の文言は著しく後退。「民衆蜂起」や「民主主義」という文言は削られ、支援の方針を示すにとどまった。【2月20日 ロイター】
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「ポスト成長期」に入った日本 「まだまだ捨てたものではない」という元気が出る指摘

2011-02-19 19:48:26 | 世相

(今後も安心・安全な社会を守れるか・・・ “flickr”より By justindoub
http://www.flickr.com/photos/hikikomori/155438422/ )

近年の日本経済の停滞、中国の経済・政治的台頭に伴う国際的存在感の相対的低下など、日本に関するイメージは国内外を問わずあまり芳しくない・・・というのが大方の見方でしょう。
当面の課題としては巨額の財政赤字をどうするのかという難題があります。

財政改革が成功しなければ格付けにとってマイナス
菅直人首相は1月27日夜、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズが日本国債の長期格付けを引き下げたことについて、首相官邸で記者団に「そういうことに疎いので、(コメントは)改めてにさせてほしい」と発言、物議をかもしました。

****日本の財政改革、成功しなければ格付けにマイナス=ムーディーズ****
ムーディーズは、日本国債の格付け(Aa2、見通しは安定的)について、日本の債務縮小に向けた財政対応の欠如がネガティブな圧力となるとの見方を示した。そのうえで、日本政府の財政改革が成功しなければ格付けにとってマイナスになると語った。
また日本政府が策定を進めている社会保障・財政改革に注目していると指摘。そのうえで立法化できなければ日本のソブリン格付けのマイナス要因になる可能性があるとの認識を示した。(中略)
(ムーディーズ・インベスターズ・サービスのソブリン・リスク・グループ・シニア・ヴァイスプレジデント、トーマス・バーン氏は)「4月と6月の社会保障・財政改革が立法化できなければ格付けにマイナスの圧迫要因となる。国会を通らなかったといって(すぐさま)格下げすることにはならないが、可能性としては格下げやネガティブ・アウトルック、またネガティブ・アウトルックに近づくことを示唆しているということになる」と述べた。

一方でスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が1月27日に日本の外貨建て・自国通貨建ての長期ソブリン格付けをAAからAA─に引き下げたことに関し、ムーディーズの格付けはS&Pよりも1ノッチ高い「Aa2」であるとしたうえで、これはデフォルトの確率が非常に低いことを意味すると語った。
このほか、日本経済はおそらく回復の方向に向かっているが財政は非常に難しい状況にあるとの認識を示した。【2月9日 ロイター】
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「やれやれ・・・」とため息が出るような話題ばかりですが、「日本もそう捨てたものではない」と元気(カラ元気?)の出る記事も少しはあります。

中国:「日本にはまだ多くの学ぶ点がある」】
****日本尊敬され続ける、くじけるな…シンガポール*****
「日本人はくじけてはならない」――。
シンガポールの有力紙ストレーツ・タイムズ(17日付)は、日本が技術革新を続け、優れた製品やサービスを生み続ける限り、「今後もずっと尊敬される国であり続ける」との東京特派員のコラムを掲載した。
コラムでは、「GDPの順位だけで国の全体像は語れない」と指摘した上で、世界の音楽界最高の栄誉とされるグラミー賞を日本人4人が同時受賞したことに触れ、「音楽でも経済でも日本がこの先見限られることはないと思い知らせた」と評価した。
そして「世界レベルの成果」を生む要因として、勤勉さや仕事への誇り、秩序感覚など数字では表せない日本の国民性をあげた。【1月19日 読売】
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GDPで日本を抜いた中国・人民日報も「日本にはまだ多くの学ぶ点がある」と報じています。
****中国、GDP3位日本に「まだ学ぶ点多い*****
中国が国内総生産(GDP)で日本を抜いて世界第2位になったことを受け、中国共産党機関紙・人民日報(16日付)は「今こそ日本の発展方法を見つめ直そう」と呼びかけ、日本のような社会保障制度の整備を提案する評論員論文を掲載した。
「日本のもう一つの側面」と題する論文は、日本の高度経済成長を「一つの奇跡」と評価し、「奇跡のもう一つの側面は、社会保障の体系も即座に整備したこと」と指摘。「金融危機の影響を、他の先進国より長く受けている日本(社会)が再起不能に陥っていないのは社会保障制度を完成させたためだ」と分析した。
そのうえで、「日本にはまだ多くの学ぶ点がある。学ぶ精神を変えてはならない」と訴えた。【1月19日 読売】
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両報道とも同日の読売ですが、何か意図があったのでしょうか?

海外大型プロジェクト受注競争の実態
少し元気が出た(?)ところで、大型プロジェクト受注競争の話題。
韓国などの格安攻勢もあって、日本はなかなか思うような実績をあげられずにいますが、これについても「そう悲観することはない」との主旨の記事です。

****インフラ輸出、日本は本当に負けたのか*****
無謀な受注こそ「敗北」
原子力発電プラントや高速鉄道といった社会インフラを主に新興国へ輸出しようという動きが活発化している。特にこの1年あまりは、世界中の大型プロジェクトがメディアを通じて紹介され、その中で日本企業連合がどのような立ち位置にあるかが盛んに報じられている感がある。
さてその報道だが、日本企業連合が受注を獲得すれば“勝ち”、他国の企業に奪われれば“負け”と伝えられるのが大概のパターン。しかし、受注競争の最前線にいる当事者の受け止め方が、この世間の評価と正反対というケースが少なからずある。

破格の超長期保証で受注した韓国
韓国企業連合が受注したアラブ首長国連邦(UAE)での原子力発電所プロジェクトはその1つ。2009年末に実施された入札では日本、フランス、韓国の企業連合が参加、日仏の一騎打ちという下馬評をよそに韓国企業連合が落札した。これをきっかけに、官民が連携してインフラ輸出を図らなければならないという国内世論が急速に高まった。日本勢にとってはいわくつきの案件だ。

「UAEの原発プロジェクト入札前後で韓国勢の様子が違う」と日本の原発関係者は言う。トルコが黒海沿岸のシノプで建設を予定している原発プロジェクトは当初、韓国企業連合が受注するべく交渉が進められていたが暗礁に乗り上げた。その後、トルコ政府は交渉相手を「オールジャパン」に切り替えた。
さらに韓国勢はヨルダンで予定されている原発プロジェクトへの参加も断念。「UAEを取った時の勢いがない」(同)。
UAEプロジェクトの入札価格は日仏の各320億ドルに対し、韓国勢は200億ドルだったと言われる。1兆円近い安値を提案したことに加え、60年間にわたって原発の運転を保証するという条件が韓国勢落札の決め手になったと言われる。だが、ここにきて「破格の条件を提示し過ぎたとの思いから、トルコやヨルダンでは慎重な姿勢を保つようにしているのではないか」と大手プラントメーカー幹部は分析する。

原発関係者が「特に破格」というのが60年間という運転保証だ。(中略)つまり世界中の原発で60年間運転し続けたプラントはない。その後の技術の進展を勘案したとしても、60年という保証期間中に原発プラントを更新する可能性すらあるわけで、冷静に考えれば韓国勢はUAEにかなり思い切った長期保証を約束してしまったと言える。
「UAEでは確かに韓国勢が受注した。しかし破格の条件だったこと、その後のトルコやヨルダンでは日本勢が交渉を有利に進めていることを考えると、『UAEで日本勢は負けた』と言われるのはどうも納得が出来ない。総合的に見れば勝っているのではないか」(電力会社幹部)(中略)
ことほど左様にインフラ輸出に関して、世間でいう「勝ち負け」と当事者の「勝ち負け」は違う。

用地買収まで負わされて…
高速鉄道分野でも同じような現象が起きている。リオデジャネイロ五輪が開催される2016年の開通を目指すブラジル高速鉄道プロジェクト(TAV)。リオデジャネイロ州―サンパウロ州間510kmを1時間半で結ぶ総事業費1兆6000億円のプロジェクトは当初、韓国企業連合の落札が確実視されていた。
ところが昨年末に実施予定だった入札が今春に延期。そこで「日本企業連合も逆転受注に一縷の望みが出てきた」との声が上がるが、入札を検討している当の日本企業連合の関係者は「入札に参加しないことが“勝ち”なのかもしれない」と冷めた口調で語る。
日本企業連合が二の足を踏む理由は主に2つある。1つは1km当たり0.49レアル(約24円)の上限運賃で40年間の運営を求められていること。もう1つは高速鉄道路線を敷く土地の買収は受注した企業連合が責任を持つことが求められているためだ。「運賃に上限が設けられ、なおかつ40年間も運営責任を取らされて採算なんて取れるはずがない」(車両メーカー幹部)。(中略)
無論、当事者の判断がすべて正しいというわけではない。しかし、その行方を見守る立場として、世界中で膨れ上がるインフラ需要を日本企業連合が取り込んだ、あるいは奪われたと一喜一憂する姿勢は改めるべき時期に来ているのではないか。【2月9日 日経ビジネスリポート】
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ブラジル高速鉄道プロジェクト(TAV)で先行していた韓国ですが、韓国高速鉄道(KTX)が開業7年で脱線事故を起こし、一部では「海外輸出はまだ早い」との声も聞かれるとか。
****韓国高速鉄道の脱線事故で波紋 海外輸出にブレーキ? ブラジル鉄道入札控え*****
・・・・10年にも満たない経験で日本の新幹線と売り込み競争という大胆さだが、今回の事故にマスコミは「国民の自尊心が傷つけられた」(文化日報社説)と嘆き「日本の新幹線の脱線事故は47年間で地震の際のわずか一度だけ」と伝えている。【2月18日 産経】
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成熟した経済における成長 (growth)とは腫瘍(growth)】
最後に、ポスト成長期の日本は結構うまくやっている・・・という指摘です。
*****成長するばかりが人生ではないと気づいた日本*****
・・・・日本について悲しげに首を振る人たちの思いの裏には、前提となる思い込みが二つある。うまく行っている経済というのは、外国企業が金儲けし易い環境のことだ——という思い込みがひとつ。その尺度で計れば確かに日本は失敗例で、戦後イラクは輝かしい成功例だ。そしてもう一つ、国家経済の目的とはほかの国との競争に勝つことだ、という思い込みもある。

別の観点に立つなら、つまり国家の役割とは自国民に奉仕することだという立場に立つなら、かなり違う光景が見えてくる。たとえ最も狭義の経済的視点から眺めたとしても。日本の本当の業績はデフレや人口停滞の裏に隠れてしまっているのだが、一人当たりの実質国民所得を見れば(国民が本当に気にしているのはここだ)、事態はそれほど暗いものではなくなる。

野村証券のチーフエコノミスト、ポール・シアード氏がまとめたデータによると、一人当たりの実質所得で計った日本は過去5年の間に年率0.3%で成長しているのだ。大した数字には聞こえないかもしれないが、アメリカの数字はもっと悪い。同期間の一人当たり実質国民所得は0.0%しか伸びていないのだ。(中略)日本が約20年にわたって苦しんでいる間、アメリカは富の創出においては日本を上回ったが、その差はさほどではなかった。

GDPだけが豊かさの物差しではないと、日本人もよく言いたがる。たとえば日本がどれだけ安全で清潔で、世界でも一流の料理が食べられる、社会的対立の少ない国かを、日本人自身が言うのだ。そんなことにこだわる日本人(と筆者)は、ぐずぐず煮え切らないだけだと言われないためにも、かっちりした確かなデータをいくつかお教えしよう。日本人はほかのどの大きな国の国民よりも長く生きる。平均寿命は実に82.17歳で、アメリカ人の78歳よりずっと長い。失業率5%というのは日本の水準からすると高いが、多くの欧米諸国の半分だ。日本が刑務所に収監する人数は相対的に比較するとアメリカの20分の1でしかないが、それでも日本は世界でもきわめて犯罪の少ない国だ。

昨年の『ニューヨーク・タイムズ』に文芸評論家の加藤典洋教授が興味深い記事を寄稿していた。加藤氏は日本が「ポスト成長期」に入ったのだと提案する。ポスト成長期の日本では無限の拡大という幻想は消え去り、代わりにもっと深遠で大事な価値観がもたらされたのだと言うのだ。消費行動をとらない日本の若者たちは「ダウンサイズ運動の先頭に立っている」のだと。加藤氏の主張は、ジョナサン・フランゼンの小説『Freedom(自由)』に登場する変人の物言いに少し似ている。ウォルター・バーグランドという勇気ある変人は、成熟した経済における成長 (growth)とは成熟した生命体における腫瘍(growth)と同じで、それは健康なものではなくガンなのだと主張するのだ。「日本は世界2位でなくてもいい。5位でなくても15位でなくてもいい。もっと大事なことに目を向ける時だ」と加藤教授は書いている。

日本は出遅れた国というよりはむしろモデルケースなのだという意見に、アジア専門家のパトリック・スミス氏も賛成する。「近代化のためには必然的に、急激に欧米化しなくてはならないという衝動を、日本は克服した。中国はまだこの点で遅れているので、追いつかなくてはならない」。スミス氏は、非西洋の先進国の中で独自の文化や生活習慣をもっとも守って来たのは日本だとも言う。

ただし、強弁は禁物だ。日本は自殺率が高く、女性の役割が限られている国なのだから。加えて、日本人が自分たちの幸福についてアンケートされて返す答えは、21世紀を迎えてすっかり安穏としている国民のものでは決してない。日本はもしかすると、残り少ない時間を削って過ごしている国なのかもしれない。公的債務は世界最高レベルなのだし(ただし外国への借財がほとんどないのは大事なことだが)。今の日本は巨額な預貯金の上でぐーぐー居眠りをしているのだが、給料の安い今の若者世代がそれだけの金を貯めるには、さぞ苦労することだろう。

経済の活力を内外に示すことが国家の仕事だというなら、日本国家の仕事ぶりはお粗末きわまりない。しかし、仕事がある、安全に暮らせる、経済的にもそれなりで長生きができる——という状態を国民に与えるのが国家の仕事だというならば、日本はそれほどひどいことにはなっていないのだ。【フィナンシャル・タイムズ 2011年1月5日初出 翻訳gooニュース】
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それにしても、最近の日本政治の混迷ぶりは目を覆うものがあります。「退陣か、総選挙か・・・」などといった事態になっているようですが、少しはまともな仕事をしてもらいたいものです。

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