(30日、爆発があったイエメン南部アデンの空港で対応に当たる警備関係者ら(ロイター=共同)【12月31日 共同】)
【連立成立直後の「新首相の到着時を狙った犯行」?】
イスラム暦の来年の新年(Muharram)は8月10日だとかで、今日・明日の年末年始はあまり関係ないのでしょう。
内戦が続くイエメンでは、年末の30日、反政府勢力フーシ派によるとされる再び大規模な攻撃があったようです。
****イエメンの空港で爆発 26人死亡 閣僚ら到着直後****
イエメンのアデン空港で30日、新政権の閣僚らが航空機で到着した直後に爆発が発生し、少なくとも26人が死亡した。一部の当局者は、イランから支援を受ける反政府武装勢力フーシ派による「卑劣な」攻撃と非難した。
報道によると閣僚らは全員、無事だった。一方、医療当局と政府関係の情報筋によると、負傷者は50人余りで、犠牲者は今後増える恐れがある。
最初の爆発で空港ターミナルから煙が立ち上り、周囲一帯に破片が散乱。人々が負傷者の元へと駆けつける中、2回目の爆発が起こった。
AFP記者の撮影した動画には、ミサイルのような兵器が空港内のエプロン(駐機場)に着弾して爆発し、大きな火の玉になって炎が激しく上がる様子が捉えられている。
着弾の直前、現場は多くの人で混雑していた。爆発直後には散発的な発砲音が聞かれた。爆発の原因は今のところ明らかにされていない。
国際的な承認を得ている暫定政府と、南部分離独立派「南部暫定評議会」は今月18日、新内閣を組閣。首都サヌアと北部の大部分を支配下に置くフーシ派に対抗し、共同戦線を築いていた。 【12月31日 AFP】
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サウジアラビアが支援する暫定政権とUAEが支援する南部分離独立派の「南部暫定評議会」(STC)が、イランが支援する反政府武装勢力フーシ派に対し共闘するため、今月18日に連立政権を発足させたばかりでした。
STC幹部は「新首相の到着時を狙った卑劣な犯行だ」と怒りを見せていますが、政府関係者にけが人はないとのこと。犯行声明等はまだ出ていないようです。
【イラン製の巡航ミサイルやドローンを使った攻撃も】
現地では普段に戦闘・攻撃が続いているのでしょうが、最近目についたものとしては、11月のサウジ石油施設へのフーシ派による攻撃もありました。
****サウジの石油施設にミサイル攻撃、イエメンの武装勢力が犯行声明****
サウジアラビア西部ジッダで23日、イエメンの反政府武装勢力フーシによる石油施設を狙ったミサイル攻撃があり、火災が発生した。石油施設を所有する国営石油会社サウジアラムコは「すぐに鎮火させた。石油供給に問題はない」としている。
石油施設はジッダ北部にあり、ミサイルは貯蔵タンクの一つに着弾した。フーシの報道官は23日、イランの支援で開発されたとみられる巡航ミサイル「コッズ2」を発射したと発表した。
フーシは、イエメン内戦に軍事介入するサウジなどと対立する。サウジ側は24日、紅海上でフーシが敷設したとみられる機雷約160基を発見したと公表した。
一方、英インデペンデント・アラビア紙(電子版)によると、21〜22日に開催された主要20か国・地域(G20)首脳会議で、議長国のサウジのシステムを狙ったサイバー攻撃が約230万件に上ったという。【11月24日 読売】
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最近は、アラブ最貧国の反政府勢力でも巡航ミサイルを撃てるようです。もちろんイランの支援があっての話ですが。
フーシ派の攻撃としては巡航ミサイル以上に興味深いのはドローンを用いた攻撃があります。
****フーシ派がサウジの空港をドローン攻撃、有志連合は攻撃阻止と表明****
イランが支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派は、8日にサウジアラビアのアブハー国際空港を多数のドローンで攻撃したと表明した。
一方、フーシ派と戦っているサウジアラビア主導の有志連合は、サウジ南部の民間の標的へのドローンの攻撃を阻止し破壊したと発表した。
アブハー国際空港はサウジ南西部のイエメンとの国境近くにあり、ここ2年、たびたびフーシ派のドローン攻撃の標的になっている。【9月8日 ロイター】
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こときは「攻撃を阻止し破壊した」とのことですが(本当かどうかは定かではありません。フーシ派、サウジ両方とも“大本営発表”ですから)、昨年9月にはサウジの生命線ともいえる石油施設がドローン攻撃を受け↑大きな被害を出したこともあります。
そのときは、フーシ派は10機のドローンで2か所の施設を攻撃したと主張しています。
問題は、サウジはアメリカ製のパトリオットなどの高価な防衛システムを有しているはすですが、そうした「高価な防衛システム」で、安価なドローンの攻撃を防げなかったことです。
フーシ派が以前、サウジの都市に向けて発射した高高度飛行の弾道ミサイルは、首都・リヤドを含む主要都市で迎撃されてきましたが、ドローンや巡航ミサイルは、より低速かつ飛行高度も低く、パトリオットにとって検知・迎撃が難しいと言われています。【2019年9月19日 ロイター「サウジ防空システムに欠陥、ドローン攻撃に無防備」より】
【「ドローン戦争の時代が到来した」】
ドローン攻撃の防御が難しいのはアメリカ製パトリオットだけでなく、ロシア製兵器も同様です。
****自治州巡る戦闘でドローン猛威、衝撃受けるロシア…「看板商品」防空ミサイル網が突破される****
アゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ自治州を巡る大規模戦闘で、アルメニア軍に圧勝したアゼルバイジャン軍の戦術が、軍用無人機(ドローン)を駆使した運用事例として注目を集めた。ロシアが輸出を推進する防空ミサイル網も突破され、露軍は衝撃を受けている。
「歴史的勝利」
(中略)ソ連崩壊前に勃発した紛争では、ロシアとの同盟関係を生かしたアルメニアが優勢だった。今回の大規模戦闘で、アゼルバイジャンがこれまでの劣勢を覆したのは、最新兵器を積極的に導入した成果と言える。
トルコから
アゼルバイジャンとアルメニアは従来、兵器をロシアに依存してきた。だが旧ソ連製の旧式兵器も多いアルメニアに対し、アゼルバイジャンはイスラエル製やトルコ製の比重を高め、多角化を図っていた。
今回の戦闘では、イスラエル製の自爆型ドローン「ハーピー」や新型ミサイルを多用した。また、米政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)が今月公表した分析によると、トルコ製の攻撃ドローン「TB2」の活躍が目立ったという。
作戦面では、特にトルコの影響が色濃かったという。アゼルバイジャンは、第2次大戦直後に旧ソ連が開発した複葉機を無人機に改造して「おとり」に使い、アルメニア側の防空網をあぶり出した。
その後、攻撃ドローンなどで防空設備を破壊し、地上部隊が進攻した。CSISは、「従来型兵器と新型兵器を巧みに融合させることが、現代の戦場では重要だ」と指摘する。
戦闘での被害を分析した専門家グループによると、アルメニア側は地対空ミサイル「S300」など26基、戦車「T72」130両以上が破壊された。いずれも武器輸出大国ロシアの看板商品だ。アゼルバイジャンのドローンの損失は25機にとどまったという。
波紋
ロシア製兵器は、リビアやシリアの戦場でも苦戦を強いられており、周辺国にも波紋を起こしている。ロシアに南部クリミアを併合されたウクライナは昨年、トルコとTB2の購入契約を結び、国内生産に向けても協議しているという。
有人機に比べてコストを低く抑えられるドローンの有効性が証明され、「小国同士の軍事衝突が増える可能性」(米ブルームバーグ通信)も指摘される。
米国との本格的な戦闘への備えを最重視するロシアは、偵察用ドローンは配備しているものの、攻撃ドローンの開発は後回しにしてきた。ニュースサイト「ガゼータ・ルー」は、「ロシアはドローン革命で眠り続けている」と指摘し、攻撃ドローンの開発推進を求めた。【12月21日 読売】
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「ドローン戦争の時代が到来した」(ロシアの軍事評論家パーベル・フェルゲンガウエル氏)【10月23日 東京】とも。
日本は陸上イージスで迷走しましたが、無数のドローンが超低空で飛来するという戦闘のこうした変化に対応しているのでしょうか?
【勝利が見込めないサウジ イエメン撤退も検討段階か】
閑話休題 イエメン情勢です。
イエメンの状況が来年どうなるのかは素人にはわかる由もありませんが、素人でも思うのは、「サウジが大勝利を誇れるような状況にはならないだろうな・・・」ということ。
サウジの実力者ムハンマド皇太子が主導しているイエメンへ軍事介入は“お金持ち”サウジにとっても大きな負担となっています。このまま泥沼状態が続くことはサウジ・ムハンマド皇太子にとって耐えがたい重荷となるでしょう。
****サウジ、イエメン撤兵へ【2021年を占う!】中東****
【まとめ】
・サウジはイエメン撤兵を検討する時期に入っている。
・戦況は不利、原油価格低下、国際情勢もサウジに有利ではない。
・国内情勢から皇太子指導体制の力量は低下。体制への不満も。
サウジアラビアはイエメンから撤兵するのではないか。
サウジがイエメンに介入してから6年が経過しようとしている。内戦で親イランのフーシ派が勢力を拡大する。それを回避するため15年3月にUAEと共同で軍事介入した。
だが、介入はうまく行っていない。サウジはフーシ派を駆逐できず封じ込めもできていない。それ以前に戦場での勝利も得られていない。
サウジはこの介入を今後も続けるのだろうか?
継続困難であり撤兵を検討する時期に入っている。その理由の一つめは戦況不利、二つめは国際情勢の悪化、三つめは国内事情悪化である。
■ 戦局好転の見込みはない
イエメン介入の継続は困難となりつつある。
その一つめの理由は戦況だ。サウジは決定的な勝利を得られていない。最近ではむしろ押されている。この戦局を改善する見込みはない。
サウジはイエメンに強力な軍隊を送った。いずれのイエメン軍事勢力と比較しても装備優良な戦力である。
だが、成果は芳しくない。フーシ派の勝利は阻止できたがそれだけだ。支援する暫定政府の力も扶植できていない。
去年からは逆に戦況不利が目立っている。
陸戦では2019年9月28日の大規模投降だ。最新の米式装備で固めたサウジ・暫定政府軍がサンダル履きのフーシ派に敗北したのだ。しかも場所はサウジ領内であった。
同月14日には石油精製施設も破壊された。イエメンからの無人機攻撃で2つの製油施設が操業停止に追い込まれた。短期間だがサウジの石油供給能力は半分に減った。
今年には紅海側でのタンカーへの攻撃が始まった。被害は3月頃から出始めている。最近では20年11月25日と12月14日に攻撃が行われた。
なによりも改善の見込みが立たない。
この6年間、サウジは汚い戦争も厭わなかった。例えば海上封鎖である。飢餓やコレラが流行してもお構いなしに封鎖を続けた。また都市爆撃も実施した。病院や学校への命中被害や非戦闘員の死傷が生じても継続してきた。
だが、それでも勝てていない。むしろ戦況は不利となっている。
つまりサウジにはもう手がない。できることはすでにやっている。それでいて勝てないのである。
■ 国際情勢の変化
二つめは国際情勢の変化である。これも介入継続を難しくする。
まずは米国支持の弱化だ。これは政権交代がもたらす影響である。
トランプ政権は一応はイエメン介入を支持する立場にあった。親イラン勢力の伸長は望ましくはない。対イラン強硬態度からそのような態度にあった。(*1)
それがバイデン政権で変化する。対イラン態度は軟化すると予想されている。またイエメンにおける人道問題や米国製武器の拡散問題もおそらく重視されるようになる。
またイランが影響力を拡大する。イエメン内戦も含めて敵方にあたる勢力が強力となるのだ。
原油価格下落の影響である。コロナ流行により20年前半はバレル20ドル前後、今年後半は40ドル前後でしかない。この状況では産油国の力は弱くなる。国家の収入が減るためだ。
だがイランはその影響をあまり受けない。原油は事実上の禁輸状態にある。まがりなりにも原油に依存しない経済体制を作り上げている。イランの影響力は相対的に大きくなるのである。
最後がUAEとの共同介入の破綻だ。19年からは逆に親サウジの暫定政府への攻撃を始めているのである。
これらによりサウジの立場は悪化する。イエメン介入継続を難しくする。その方向に作用するのである。
■ 国内体制の変化
三つめは国内事情の悪化である。それにより皇太子指導体制の力量は低下する。結果、介入継続を難しくなる。
原因はすでに述べた原油価格の低迷である。サウジ財政は原油価格60ドルから80ドルでよううやく歳入歳出が均衡する。現在の40ドルが続くと種々の無理がでてくる。
それによりパンとサーカスの水準維持も難しくなる。サウジは国民に生活、娯楽、福祉を無料で提供してきた。その財源は原油輸出による外貨収入である。
そのきざしもある。2018年に導入された付加価値税の増税である。原油減収を補うため今年はいきなり税率3倍の15%に増税された。これは実質的な提供水準の切り下げだ。
この水準低下で何が起きるか?
体制への不満が高まる。これまでパンとサーカスで抑え込んでいた社会問題や諸矛盾が噴出しやすくなる。例えば自由、人権、民主主義、王政や現指導体制への不満である。それにより皇太子の政治指導力も削がれる。
もともと政治はうまく行ってはいない。経済・社会改革は成果を上げていない。外交も米大使館エルサレム移転やトルコでのジャーナリスト殺害と失敗が目立つ。
その指導力が更に弱化する。
特に不人気な政策は無理押しできなくなる。イエメン介入はまったくそれにあたる。介入自体への賛否はともかく勝利が得られていない戦争である。これも撤兵を検討させる要素となる。
もちろんその様態はわからない。いつ撤兵するか。一撃による勝利演出のあとか。逆に政治や戦場での一大敗北によるか。それは読めない。だが介入継続は困難となるのである。
(*1) ただ、トランプ政権でもさほどの支援はしていない。トランプ政権でも軍事力の提供はしていない。19年9月にサウジ石油施設が攻撃されても冷淡であった。また19年末からの有志連合による艦隊展開でもイエメン内戦への肩入れとはならなかった。【12月29日 文谷数重氏 Japan In-depth】
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サウジとしては、一定にメンツを保ちながら撤退する機会を探すことになるのではないでしょうか。
サウジ撤退後の暫定政権は、米軍撤退後のアフガニスタン政府以上にもろいかも。
ただ、アメリカやサウジとしては、イランが勝利宣言するような事態は避けたい・・・ということで・・・どうなるのでしょうか?