孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チュニジア  首相解任・議会停止 大統領は権限を強化し、2か月を経て女性新首相を任命

2021-09-30 22:30:08 | 北アフリカ
(チュニジアの首相に指名されたナジュラ・ブーデン・ラマダン氏【9月30日 毎日)】

(【9月30日 NHK】サイード大統領(右)と新首相 なんとなく両者の力関係が出ているようにも・・・)

【「アラブの春」唯一の成功事例チュニジアで大統領が首相解任・議会停止】
「アラブの春」・・・北アフリカ・チュニジアの一都市の露天商の一人の若者が地方役人の理不尽な対応に抗議して焼身自殺したことに端を発する2010年12月18日に始まったチュニジアのジャスミン革命は、2010年から2012年にかけて中東・北フリカのアラブ諸国に民主化を求める大規模反政府運動として瞬く間に拡散し、強権的な独裁・王権支配の多くの国で国家体制を揺るがし、幾つかの独裁政権が倒れました。

しかし、その後の推移は周知のように、シリア・イエメン・リビアのように今も続く内戦の混乱をもたらすことになった国、エジプトのように混乱を経て強権支配政権に戻ってしまった国など、ほとんどの国で“失敗”に終わったとされています。

そうした“失敗”した「アラブの春」の中で、民主化を達成し、その後も維持しているとして、唯一の成功例とされているのが北アフリカ・チュニジアです。

チュニジアでは労働総連盟など4団体が与野党を仲介して民主化を軌道に乗せ、2014年成立の新憲法のもとで大統領選と議会選が2度ずつ行われました。4団体は「チュニジア国民対話カルテット」として15年にノーベル平和賞を受賞しています。
 
憲法学者だったサイード氏は無党派層に支えられて2019年に大統領に当選。一方、同年の議会選で第1党となった穏健イスラム政党ナハダは、メシシ氏の首相就任を支持しました。

しかし、“成功例”チュニジアの政治が、絶えない汚職、改善しない経済不況、更にコロナ禍のなかで今年7月以来危機に瀕しています。

外交・国防を指揮する大統領と内政を担う首相の間で政治の主導権をめぐる争いがあるとされていましたが、7月25日、サイード大統領はメシシ首相を解任し、議会を停止しました。

****チュニジア大統領が首相を解任、新首相と行政権行使へ****
チュニジアのサイード大統領が25日、メシシ首相を解任し、議会を閉鎖した。新たな首相とともに、大統領自ら行政権を引き継ぐ考えを表明した。

2011年の「アラブの春」で民主化を実現したチュニジアが、大統領と首相、議会の権限を分けた2014年の新憲法制定以来、最大の政治危機に直面している。

大統領の発表を受け、首都チュニスには新型コロナウイルス対策の外出禁止令の発令中にもかかわらず、多くの支持者が集まったが、大統領の行動への支持がどこまで広がるかは不透明だ。

大統領は声明で、今回の行動は憲法に則ったものだと説明した。また、暴力的な反応には武力で応じると警告した。

一方、議会の議長を務める第1党のイスラム政党・アンナハダの党首は、大統領が改革と憲法に対するクーデターを起こしたと主張。「われわれは政府がまだ存続しているとみなし、アンナハダの支持者と国民は改革を守る」と述べ、大統領側との対決姿勢をあらわにした。

国民の間には、長年にわたる汚職や行政機能の悪化、失業の増加を受けて政治への不満がたまっていた。さらにコロナ禍が、経済に追い打ちをかけた。

同国が経済・財政危機に直面し、コロナ対策にも追われる中、サイード大統領とメシシ首相は、ここ1年ほど対立していた。

憲法の規定では、大統領は外交と国防にのみ直接の権限を持つが、サイード大統領は先週の政府のコロナワクチン接種体制の不備を巡り、軍がコロナ対応の指揮を執るよう指示していた。

憲法を巡る争いは本来、憲法裁判所で解決を図ることになっている。だが、判事任命で紛糾したため、憲法制定から7年が経った現在も、憲法裁は設置されていない。【7月26日 ロイター】
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【政変の背景には様々な事情も とは言うものの・・・・】
この事態は、大統領がクーデター的に民主主義を行う議会・首相を排除して独裁に乗り出した・・・というほど単純明快な話ではありません。

こうした事態に至った背景・理由はもちろんあります。

しかし、いろんな事情はあるにせよ、大統領が全権を掌握する独裁体制になっているではないか・・・・と言えば、そうも言えます。

****独裁返りか? チュニジア「アラブの優等生」報道が無視してきたこと****
<大統領サイードの全権掌握には、反対デモが起こっているだけでなく、賛成の声もある──欧米メディアが使い続ける「優等生」という表現が誤解を助長してきた、チュニジア政治と民主化プロセスの複雑性とは>

7月25日、チュニジアのカイス・サイード大統領が、ヒシャム・メシシ首相の解任と、議会の30日間停止を発表した。首都チュニスの議事堂周辺には治安部隊が配置され、議員たちの立ち入りを禁止した。

さらに翌日、サイードは法相代行と国防相も解任し、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの支局閉鎖を命令。一般市民についても3人以上の集会を禁止した。一連の措置について、ラシド・ガンヌーシ議会議長は「クーデター」だと厳しく批判した。

そんなことはない、とサイードは言う。チュニジア憲法80条は、「国家の一体性および、国家の安全保障や独立を脅かす差し迫った危険」が生じた場合、国家元首が全権を掌握することができると定められているというのだ。

確かにチュニジアは、長く経済が停滞し、議会は迷走し、新型コロナウイルスの感染者が急増している。だがそれが、国家の差し迫った危険かどうかは、議論が分かれるところだろう。本来なら憲法裁判所が裁定を下す問題だろうが、そのような法廷はない。

チュニジアはこうした政変とは無縁の国のはずだった。2011年のアラブ諸国の民主化運動「アラブの春」に先駆けて、25年近く権力の座にあったジン・アビディン・ベンアリ大統領を権力の座から引きずり降ろした後も民主主義体制が維持されてきた唯一の国であり、アラブの優等生だった。

だが、欧米メディアが使い続けてきたこの表現は、一種の誤解を助長してきた。まるでチュニジア政治には、民主化以外の道のりはなくて、デモの次は選挙、その次は憲法制定と、直線的に進化している印象を生み出したのだ。

独裁を試してもいい?
興奮気味の社説が、「本物の民主主義」への平和的な移行が起きていると語るとき、チュニジア政治の複雑性や、民主化のプロセス全般の複雑性は割愛されていたのだ。

サイードの全権掌握が、チュニジアの民主化の終わりを意味するのかどうかは、まだ分からない。それに、チュニジアで民主主義が壊れそうになったのは、この10年でこれが初めてではない。2013年には野党党首が暗殺されて、長期にわたり政局が混乱した。

2015年には、チュニジアで民主的に選ばれた初の大統領であるベジ・カイドセブシが、議会第2党のイスラム主義政党アンナハダとの協力を拒んだため、またも政局が混乱した(カイドセブシは議会第1党で世俗的な政党ニダチュニスの元党首だった)。

結局、カイドセブシと、アンナハダ党首のガンヌーシの間で和睦が生まれたが、それは2人が、相手に自分の意思を押し付けるだけの大衆の支持(つまり議席)がない現実を受け入れた結果だった。

それでも、2013年の暗殺事件が大掛かりな騒乱に広がらなかったことや、15年に2人の大物政治家の間で協力関係が構築されたこと、そして19年にカイドセブシが任期中に病死したとき平和的な権力の引き継ぎが行われたことは、大いに称賛に値する。

だからといって、今後もチュニジアの民主化が続くとは限らない。チュニジア情勢を丹念に追ってきた専門家なら、それを知っているはずだ。チュニジアの経済難、アイデンティティー問題、エリート層における旧秩序への回帰願望、そして議会の機能不全を考えれば当然だろう。

実際、現在のチュニジアでは、サイードが全権掌握を発表したことに対して、賛成のデモと、反対のデモの両方が起こっている。

現地からの報告によると、サイード支持派は、首相の政権運営と高止まりしたままの失業率に辟易していた。さらにこの1年のコロナ禍で、チュニジアの医療体制は大打撃を受けた。だから今、「もっと大きな権力を与えてくれれば、国民の生活を改善できる」と約束する独裁者に、賭けてもいいかもしれないと思う人が増えているのだ。

欧米人がチュニジアで交流する専門家やジャーナリストや社会活動家は、より公正で民主的な社会を構築したいと言うかもしれない。だが、幅広い庶民はどうだろう。少なくともここ数日路上に繰り出している人々は、民主主義についてもっと複雑な感情を抱いているようだ。

「成功例」というプリズム
彼らが求めているのは、特定の政治体制ではなく、雇用と社会的なセーフティーネットをもたらしてくれる、もっと実務能力の高い政府だ。

確かにこの10年で、チュニジアの人々はより大きな自由を得た。しかし経済難ゆえに、彼らの多くが自由を手放して、なんらかの形の権威主義を試してみてもいいと思うようになった可能性がある。

もちろん、今後チュニジアで何が起こるか、そして他国がどんな反応を示すかは完全に不透明だ。2011年1月にベンアリを追放して以来のチュニジアに対する世界の注目、そしてジョー・バイデン米大統領が唱える価値観ベースの外交という方針を考えると、アメリカは少なくとも何らかの措置を講じるプレッシャーを感じているだろう。

そこで厄介な問題となるのは、米政府も「チュニジアはアラブの春の成功例だ」というプリズムを通して物事を見る傾向があることだ。専門家も民主活動家も、チュニジアは民主化を成し遂げたのだから、もっと支援するべきだと主張してきた。

実際、アメリカは2011年以降、チュニジアの民主主義定着のために、総額14億ドルの支援を約束してきた。具体的には、国内の治安と安全保障、民主主義実践の強化、持続可能な経済成長などが含まれている。

もし、サイードの議会停止・全権掌握が一時的なものではなく、長期にわたり続くことになったら、つまりサイードが独裁と化したら、アメリカはこうした援助を停止または打ち切るのか。

それは価値観的には正しい判断かもしれないが、安全保障を考えるとリスクが高い。チュニジアはこれまでにも過激派分子を多く生み出してきたし、イスラム過激派の武力が交錯する隣のサヘル地域も不安定だ。

ひょっとすると、チュニジアは民主主義体制とか独裁体制といった、国家の体制に基づき外交政策の大枠を決める時代が終わりつつあるという教訓なのかもしれない。政治体制は変わるものだ。それも驚くほどあっという間に。【8月2日 Newsweek】
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【長引く「一時的措置」 強化された大統領権限】
腐敗と混乱をもたらす「民主的な体制」よりは、結果をもたらす独裁のほうがましか・・・・どうかは、多くの議論があるところで、チュニジアだけでなく、中国・ロシア、その他多くの国々で問題となるところです。

チュニジアの場合も、「一時的」とされた大統領の全権掌握が長引くにつれて、独裁への不安・批判も高まっていました。

****チュニジアの民主政治に危機 政変2カ月、大統領独裁に懸念の声****
北アフリカ・チュニジアのサイード大統領が7月25日に「緊急事態」として国民代表議会の一時停止と首相解任を宣言してから、間もなく2カ月となる。

議会再開と新首相指名はいずれも実現しておらず、9月18日には首都チュニスで反発する市民数百人のデモが起きた。大統領の独裁化を懸念する声も上がり、アラブ諸国では数少ない成功例とされた同国の民主政治は危機を迎えつつある。(中略)

地元紙アルアンワルのナジュム・アルアカリ編集長は電話取材に「イスラム政党と議会は数々の過ちを犯した。大統領の目的は国の方向性を正し、汚職を止めることで、世論調査でも国民の大多数が支持している」と指摘したが、時間の経過と共に欧米諸国を含む内外の懸念は強まっている。
 
ロイター通信によると、チュニジア大統領府は22日、「大統領は政令によって立法行為が可能」などと、権力を強化する新たな施策を発表した。政治制度改革の準備委員会を設置する一方、議会停止は継続するという。今後、国内で反発が強まりそうだ。【9月24日 毎日】
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上記記事にある9月22日に発表された、「大統領は政令によって立法行為が可能」などと、権力を強化する新たな施策については、以下のようにも。

****サイード大統領、緊急事態における新たな特別措置を発表****
チュニジアのカイス・サイード大統領は9月22日、緊急事態における特別措置に新たな措置を加えた大統領令を発表した。

発端は全国的な反政府抗議デモ
チュニジアでは、大統領への権力集中を避けるため、2014年の憲法改正以来、首相が内政を担う。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴う経済悪化への政府対応の遅れに対して国民の不満が爆発し、議会解散と首相退任を訴えるデモが発生していた。

こうした状況を踏まえ、2021年7月25日に、サイード大統領は、緊急事態における大統領の特別措置を定めた憲法第80条を適用し、ヒシェム・ムシーシ前首相の解任、国民代表議会の30日間の活動停止、全議員の免責特権の剥奪を発表した(2021年7月28日記事参照)。

8月23日には、これらの措置について無期限に延長することを大統領令によって決定している。そして今回、追加措置が発表された運びだ。

なお、今回の大統領令では、新たに以下を主要項目とする措置を加えることが発表された。

憲法の前文(一般原則)、権利と自由に関する第1章と第2章、さらに7月25日に公示された特別措置と矛盾しない全ての憲法の規定は引き続き有効とする。

法案の合憲性を審議するために設けられていた暫定機関を廃止する。
大統領は、大統領令によって組織される委員会の助力を得て、政治改革に関連する法律の修正案の作成に責任を負う。

立法文書は、大統領によって署名される法令の形で公布される。
大統領は、政府の長が議長を務める閣僚委員会の助力を得て行政権を行使する。

大統領への権力集中に対する批判の声
9月22日付のフランス「ルモンド」紙は、サイード大統領は今回の特別措置によって、2014年の憲法改正以降採用されている、大統領は外交と安全保障に関してのみ権限を有し、行政の長は首相とする「混合議会制」を「大統領制」へと移行させようとしていると指摘している。

新たな大統領令の発表を受け、「民主潮流党」「アル・ジョンフリ(共和党)」「エッタカトル(労働と自由のための民主フォーラム)」「アフィック・トゥーネス(チュニジアの地平線)」の4政党は共同声明を発表し、今回の大統領令は民主的な憲法を侵害するものだと強く批判した。

また、国民代表議会議長でイスラム穏健派政党「アンナハダ」の党首ラシェッド・ガヌーシ氏も、フランス通信社AFPのインタビュー(9月23日付)で、今回の大統領令は1959年憲法への逆行で、2011年のジャスミン革命における国民の意思に反するものだと批判した。その上で、大統領個人への権力集中を阻止するための平和的闘争を呼び掛けている。

サイード大統領は2021年9月20日、2011年のジャスミン革命の発端となった市民暴動が起こったシディ・ブジッドを訪問した際、近く特別措置の延長と新首相の任命を行うと述べている。【9月29日 JETRO】
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【女性地質学者を新首相に任命 実質的にはサイード大統領が内政も担う形か】
こうして強化された大統領権限のもとで、新首相が任命されました。

****チュニジア初の女性首相を大統領が指名 政変2カ月、混乱解消に向け****
北アフリカ・チュニジアのサイード大統領は29日、地球物理学者の女性ナジュラ・ブーデン・ラマダン氏を首相に指名し、直ちに組閣作業に入るよう指示した。ロイター通信が伝えた。

女性の首相は同国で初。アラブ諸国で数少ない民主政治の成功例とされた同国だが、7月から政治混乱が続いており、首相指名を機に解消へ向かうか注目される。
 
チュニジアではこの1年、経済低迷や新型コロナウイルス禍への政府の対応不足に抗議するデモが活発化。憲法学者出身のサイード氏は7月25日、「緊急事態」としてメシシ首相の解任と、首相を支えるイスラム政党アンナハダが第1党の座を占める国民代表議会の停止に踏み切った。
 
同国憲法では本来、大統領が外交と安全保障、首相は内政を担当する。しかし、サイード氏は9月22日に「大統領は政令によって立法行為が可能」などとする施策も発表し、ほぼ全権を掌握した。
 
大統領の強権発動に対し、主要政党や全国労組「チュニジア労働総同盟」から独裁化を危惧する声が上がり、26日には首都チュニスで数千人規模のデモが起きた。欧米主要国などからも懸念が示されていた。
 
新首相に指名されたブーデン氏は政界で無名に近く、政府関係の職歴もほとんどないという。政変で更に悪化した経済難に対処できるかは不透明だ。(後略)【9月30日 毎日】
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新首相のナジュラ・ラマダン氏は地質学者で、以前、国内で世界銀行のプロジェクトに携わった経験があるとのことです。【9月30日 NHKより】

実質的には、サイード大統領が内政に関しても今後とも主導していくということなのでしょう。

議会を今度どうするのか、経済再建・コロナ対策で成果を示せるか・・・「アラブの春」唯一の成功事例チュニジアは正念場を迎えています。

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イギリス  ガソリンスタンドに長蛇の列 トラック運転手不足から物流がトラブル

2021-09-29 20:31:27 | 欧州情勢
(英首都ロンドン近郊の高速道路脇にあるガソリンスタンドで、給油のため長蛇の列をつくる車(2021年9月26日撮影)【9月28日 AFP】)

【原因はトラック運転手不足 ブレグジット・コロナ禍が影響】
日本でも、かつてのオイルショック時のトイレットペーパー騒動、最近でもコロナ禍のマスク騒動など、商店の棚から品物が消えるという現象はたびたび経験していますが、イギリスからは連日ガソリン不足でガソリンスタンドに車の長蛇の列ができているという現象が報じられています。

救急車や病院、ケア施設関連の車両もガソリンが確保しにくくなり、健康や人命にも関わるおそれまで発生しているとのこと。

政府や石油会社よれば、直接の原因は消費者の「パニック買い」であり、正常に行動しさえすれば供給は不足していないという説明ですが、その背後には、モノはあっても、それをスタンドに配送するトラック運転手が10万人以上不足しているという実態、そのことにはブレグジットやコロナ禍が影響しているということもあるようです。

****なぜガソリンスタンドで長蛇の列、イギリスで連日****
イギリス各地のガソリンスタンドでこのところ連日、ガソリンがなくなると慌てて給油しようとする人たちで、長蛇の列ができている。政府や石油会社は、ガソリンは不足していないと強調しているのだが。いったい何が起きているのか、なぜ起きているのか、見てみる。

ガソリンスタンドでは何が
現場の様子はまるで「死屍累々(ししるいるい)」の惨状だと話すガソリンスタンドのオーナーもいる。
場所によってはガソリンスタンドまで、何キロも車の行列が続いている。給油の順番を待つドライバーたちは、車内で仮眠したり、人によってはガソリンスタンドの給油場に入っていくタンクローリーの後ろにぴったりつけて、列に割り込もうとしたりしている。

一気にはね上がった需要に対応できず、一時休業に追い込まれたガソリンスタンドもある。(中略)

場所によっては醜い騒ぎも起きている。
インペリアル・コレッジ・ロンドンのダニー・オルトマン教授は、ガソリンの在庫がなくなってしまった店先で殴り合いが起きたとツイートした。

「午前中いっぱい行列したが、先頭近くまでくると、もうないと言われた。後ろにいた男性は激怒して、警備員を殴り始めた。そこから8〜10人の殴り合いに発展して、みんな地面で殴ったり蹴ったりしていた」という。

イギリスはガソリン不足なのか?
シェル、エクソンモービル、グリーナジーといった石油各社は、ガソリンは不足していないと強調している。供給が圧迫されているのは、「消費者需要が一時的に急騰したことが原因で、全国的な燃料不足が原因ではない」という。
複数の閣僚も相次ぎ、テレビやラジオでこのことを強調している。

「不足はしていません」と、ジョージ・ユースティス環境相は27日に述べた。「何より大事なのは、誰もがただガソリンを普段通りに買うことです」。
「ガソリンが足りないというマスコミ報道が相次ぎ、それに世間が反応した。それさえなければ、十分対応できる事態だった」と、環境相は話した。

ただし現時点では、小売り段階でガソリンが不足しているのは明らかだ。
英石油小売協会(PRA)は27日、加盟する店舗5500軒のうち3分の2ですでにガソリン在庫が底をついており、残る店舗も「ほぼ枯渇して、まもなくなくなる」と明らかにした。(中略)

PRAのブライアン・マダーソン会長は、これは「純粋かつ単純に、パニック買いのせいだ」と述べた。

なぜ大勢が慌ててガソリンを買っているのか
実を言えば、イギリスが現在見舞われている、輸送トラックの運転手不足が一番の原因だ。

現在イギリスでは推定10万人以上、トラック運転手が足りないとされており、これがここ数カ月、スーパーマーケットからファストフード・チェーンに至るまで様々な業界を悩ませている。

ガソリン・パニックのきっかけとなったのは、石油大手BPの発表だった。同社は23日、トラック運転手が不足しているため、イギリス国内の一部のガソリンスタンドを「一時的に」閉鎖せざるを得ないと発表した。この時点まで、同じような問題に見舞われる石油会社はそれほど多くなかった。

では、どうしてイギリスでトラック運転手が不足しているのか。
重量物運搬車(HGV)の運転手不足は欧州全体で起きているという実態があるものの、イギリスは特に打撃を受けている。

ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を受けて、欧州連合(EU)圏出身の運転手の多くが母国に戻ったり、通関手続きが増えて収入に影響するため別の国で働くことにしたりと、イギリスを離れた。

それに加えて新型コロナウイルスのパンデミックが起き、さらに多くの運転手が母国に帰り、ほとんどがイギリスに戻らなかった。

この間、年長の運転手は引退し、世代交代は進んでいない。パンデミックのせいで、HGV運転免許の試験がなかなか実施されず、免許をとれない人の数がとてつもなく膨れ上がっているからだ。

イギリス政府の危機対応は
英政府は27日、ガソリンスタンドの逼迫(ひっぱく)対応支援のため、陸軍を待機させたと発表した。
陸軍の戦車操縦者を訓練し、必要な場合は、ガソリン需要が特に深刻な地域へガソリンを輸送するために動員する方針。

関係閣僚はさらに、HGV運転免許の有効期間を延長し、石油会社間の競争法を一時的に停止する方針を示している。
これによって石油各社は燃料供給量の情報を共有しやすくなるほか、国内のどこが最も供給を必要としているのか優先順位が明確になると、クワシ・クワルテング・ビジネス相は述べた。

トラック運転手不足の対策として、政府はさらに外国のタンクローリー運転手や食糧運搬トラックの運転手、計5000人に短期ビザを提供する方針を示した。クリスマスへ向けて、鶏肉加工作業員5000人に対して、同様に短期ビザを発行するとしている。

政府はさらに、HGV免許を持つ運転手に職場復帰を促す手紙約100万通を発送したほか、4000人にHGV免許取得の訓練を提供する方針。【9月28日 BBC】
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今朝の現地TVでは、各工程に必要な物を、必要な時に、必要な量だけ供給することで在庫を徹底的に減らして生産活動を行う「ジャストインタイム」の生産様式の問題を取り上げていました。

極力在庫を減らすことで通常の経済活動は効率化しますが、ひとたび異常な事態となるとすぐに在庫不足状態に陥る・・・とのこと。

また、トラック運転手不足による物流が滞る問題は、今回のガソリンだけでなく、以前からイギリスでは見られていた現象のようです。

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大型トラックの運転手が足りないというのは以前から言われていたことで、物流の混乱も始まっていた。特に今年に入ってからはスーパーの棚ががらがらになった、牛乳の配達が遅れてマクドナルドでミルクシェイクが作れない、という報道があり、問題は少しずつ暮らしに迫っていた。そこに、このガソリン騒動が起きた。【9月28日 ラッシャー貴子氏 Newsweek】
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長距離のトラック運転手という仕事が非常にハードな仕事であることは言うまでもありません。

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先週、テレビで紹介されていた長距離ドライバーの生活を見たけれど、確かに厳しそうな仕事だった。シフトで働くことが多いので生活は不規則、日によっては午前2時に出勤なんていう日もある。

移動が長距離になるほど家を空ける日が増えて、もちろん家族と過ごす時間は減ってしまう。一度出かけると家に1か月帰れないこともある。

運転中は一人きりで話し相手もいないし、食事も偏りがち。定期的な休憩が法律で決められているとはいえ、車内で寝泊まりすることも多い。収入も厳しい労働条件に見合わない。

だから英国人はあまりなりたがらず、特に若者には人気がないそうだ。【同上】
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このあたりは日本でも同じで、日本でもトラック運転手が不足しているという問題があります。
そのことを扱ったTV番組を観たことがありますが、運送荷物の積み込み・積み下ろしも自分でやる必要があるようで大変です。

おそらく事情はEU諸国でも同じでしょう。ということは、急にイギリスへトラック運転手を呼び戻そうとしてもなかなか・・・ということにもなります。

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大型トラックの運転手不足はEU内でも前々から深刻な問題だったそうで、EUでは最近、労働条件や環境、賃金も改善している。

そうなると一時的にビザを発給しても、前と変わらない待遇で英国に戻ってくるドライバーがいるのかどうか。

この問題にはきっとブレグジット後の対応と合わせた根本的な対策が必要で、本当の解決にはかなり時間がかかるのだろう。【同上】
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よくわからないのは、そんなに大変な仕事で希望者が少ないということであれば、賃金などの待遇が改善・上昇して、結果希望者が増加する・・・というのが、一般的な市場メカニズムですが、どうしてそのメカニズムが機能せず、厳しい待遇が続いているのか?

イギリスの場合は、その運転手不足を低賃金でも働く外国人労働者に頼って糊塗していたのが、ブレグジットとコロナ禍で露呈してしまったということのようにも見えます。

【政府はクリスマスに向けて正常化を目指す】
政府は状況改善の兆しが出ているとして、クリスマスまでには何とか事態を正常化させたいとしています。

****英首相、燃料問題でクリスマスに向け供給網整備強調****
英国の主要都市に燃料のパニック買いが広がって品不足が発生している問題で、ジョンソン首相は28日、クリスマスに向けて政府が供給網を確立する取り組みを続けていると強調した。

多くの地域ではなお、数百カ所もの給油所が閉まったまま。ドライバーは営業しているスタンドを見つけるのに何時間もかかったり、消費者が灯油を買うために長蛇の列ができていたりしている。

ただジョンソン氏は「状況改善が見え始めている。われわれは業界から、給油所に普段通りの供給が戻りつつあると聞かされており、私は関係者全員に正常な形でビジネス活動をするよう促していく」と語った。

燃料の品薄は、トラック運転手不足により製油所からスタンドまでの輸送が滞ったことが発端。病院や社会福祉などの活動を止めないように、医師や看護師、その他社会インフラ維持のために働いている人々の車に優先的にガソリンを供給するべきだとの声も高まっている。

これについてジョンソン氏は、全体の状況が落ち着いて正常になれば、そうした人々の環境も良くなるとだけ述べた。

また同氏は、スタンドだけでなく供給網の全ての部分に製品を行き渡らせるという意味で、クリスマスまでとその後を乗り切るために必要なあらゆる備えを確保していきたいとの考えを示した。【9月29日 ロイター】
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“クリスマスに向けて”というのは、クリスマスまでに何とかしないと国民の不満が爆発しかねないということでもあります。

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このままではガソリンの配送だけでなく、クリスマスの準備への支障も予想されるという。英国のクリスマスといえば日本でいうお正月のようなビッグイベントだ。

大きな心の拠りどころにして秋から計画を立てる人も多いし、家族で食べる七面鳥や交換するプレゼントなど経済効果も大きい。

去年はコロナの影響で同居の家族しか集まれない寂しいクリスマスだったので、今年も順調に行かないとなれば、すでに溜まっている不満が爆発するかもしれないし、経済回復にとっても都合が悪いだろう。【9月28日 ラッシャー貴子氏 Newsweek】
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大きく俯瞰すれば、今回の問題はブレグジットに伴う経済構造の調整過程のひとつであり、イギリスはは今後、このような問題に多く直面することになるのではないでしょうか。

予定では、イギリスのガソリン不足に併せて、欧州の天然ガス価格の上昇、中国の電力不足など、エネルギー関連の話題を取り上げる予定でしたが、とてもそのスペース余裕はなさそうなので、それらはまた別機会に。

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タリバン全土制圧はパキスタンにとって戦略的勝利ではあるものの、国内イスラム主義勢力刺激の危険も

2021-09-28 22:33:35 | アフガン・パキスタン
(【9月16日 CNN】CNNのインビューを受けるパキスタン・カーン首相)

【「戦略的縦深性(Strategic Depth)」と対米・タリバン「二股関係」】
アフガニスタンで権力を掌握したイスラム原理主義武装勢力タリバンを生み育て、支援してきたのが隣国パキスタン、特に軍の情報機関・三軍統合情報局(ISI)であったことは周知のところです。

ISIがタリバンを支援してきたのは、アフガニスタンに親インド政権が根付くのを嫌ったためと言われています。

そうしたこれまでの経緯からすれば、タリバンの勝利は、パキスタン・ISIの勝利だったとも言えます。
パキスタンのイムラン・カーン首相もタリバンの全土制圧を「隷属からの解放」と述べて歓迎しています。

****「戦略的縦深性(Strategic Depth)」を維持したパキスタンの勝利*****
タリバンの最高指導者だった故オマル師は元々、1980年代に旧ソ連軍のアフガン侵攻と戦うため、パキスタンのISIの訓練を受けた戦闘員だった。
 
1989年のソ連軍撤退後、アフガン内戦となり、オマル師は軍閥の1人として戦い、タリバンを結成。パキスタンの支援を得たタリバンは1996年、ほぼアフガン全土を制圧。それ以後もパキスタンは専門家を派遣して、軍事も経済もタリバン政権をテコ入れした。
 
2001年の米軍のアフガン攻撃で、オマル師と幹部らはパキスタンに事実上亡命し避難。ISI(パキスタン三軍統合情報局)はパキスタン国境地帯にインフラを整備して彼らを保護した。

タリバンはここを拠点に米国を中心とする有志国部隊への攻撃を徐々に強化、ISIはペルシャ湾岸諸国から寄金を集めて支援した。オマル師はその後、カラチで死亡したという。
 
大国インドを主敵とする縦長のパキスタンは「戦略的縦深性(Strategic Depth)」を国家存続の要としてきた。そのため、背後の隣国アフガンを同盟国とし、戦略的に奥行きを深くするという形で自国の安全保障強化を図ってきた。同時に、インドがアフガンとの関係を強化しないよう警戒してきた。
 
だからこの夏、タリバンが事実上パキスタンの支援を得て「電撃戦」のような形でアフガンのほぼ全土を制圧したことは、明らかにパキスタンの勝利だった。
 
パキスタンは米国から軍事援助を得るのと同時にタリバンを支援するという「二股関係」をひそかに続けた歴史があるのだ。
 
バイデン大統領がパキスタンのイムラン・カーン首相と会談することはなく、アントニー・ブリンケン国務長官が今回、イスラマバードを訪問せず、インドの首都ニューデリーやカタールを訪問した理由はまさにそこにある。
【9月28日 新潮社 Foresight「混沌のアフガン、秘密工作へ動く情報機関:テロの次の標的に中国も」】
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上記記事によれば、タリバンの全土制圧を受けて、各国諜報機関が目まぐるしい活動を見せています。当然ISIも。

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タリバンが全土をほぼ制圧した後の8月23日、最初にアフガンの首都カブールに乗り込んだのは米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官。2番手はパキスタン3軍統合情報局(ISI)長官のファイズ・ハミド中将だった。
 
バーンズ長官の会談相手は、その後副首相に就任した、タリバンの政治部門トップ、アブドル・ガニ・バラダル師だった。他方ハミド長官は9月4日、カブールでタリバン幹部と会談。11日にはイスラマバードに戻り、中国、ロシア、イラン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの情報機関トップと異例の会議を開催したと伝えられる。【同上】
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アメリカがパキスタンの“米国から軍事援助を得るのと同時にタリバンを支援する”という「二股関係」を(苦々しく思いながらも)許してきた理由は、アフガニスタンでの作戦遂行の上で補給路にあたるパキスタンの協力が不可欠だったことや、パキスタンが中国に更に接近するのを警戒したことなどがあると思われますが、それ以外にも水面下の複雑な事情があったのでは・・・とも推測されます。

ただ、どんな理由・事情があるにせよ、パキスタンのタリバン支援を断つことがアフガニスタンでの米軍勝利の最大の近道であることは素人的にも明白に思われましたが、それでもアメリカが多大な犠牲者をアフガニスタンで出しながら、結局パキスタンの「二股関係」を止めさせることができなかったというのは不思議なことです。

やはり「核保有国」にかけることができる圧力には限界があるということでしょうか。

いずれにしてもアメリカにとって、今後のアフガニスタン・タリバン統治の方向性に影響を与えるうえで、パキスタンが有するタリバンへの影響力は依然として重要になります。パキスタンは「我々のアフガニスタンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返してはいますが・・・

****米、対パキスタン関係を検証へ アフガンでの役割巡り=国務長官****
ブリンケン米国務長官は13日、数週間内に対パキスタン関係を検証し、アフガニスタンの将来においてパキスタンに果たしてほしい役割を明確化する考えを示した。

イスラム主義組織タリバンが先月、アフガニスタンを制圧し、米国が支援してきたアフガン政府が崩壊して以来初めての議会証言でブリンケン氏は、パキスタンには「数多くの関心事があり、一部は米国の関心事と対立している」と指摘、タリバン構成員をかくまっていることなどを挙げた。

議員にパキスタンとの関係を見直す時ではないかと問われ、ブリンケン氏は近く見直しを行うと表明。

「数日あるいは数週間内に検討する課題の1つになるだろう。パキスタンが過去20年間果たしてきた役割だけでなく、今後の数年に同国に果たして欲しい役割やどのようにすれば果たしてもらえるかについてを検証する」と述べた。

パキスタンはタリバンとのつながりが強く、20年続いたアフガン戦争ではタリバン側を支援したと批判されている。パキスタン側はこの見方を否定している。また、パキスタンとカタールはタリバンに最も強い影響力を持っていると見なされている。【9月14日 ロイター】
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「パキスタンとの関係を見直す時ではないか」という質問も奇妙です。何年も、十数年も前から、そのように言われて続けています。今更何を言っているのか・・・という感も。

【タリバン勝利でパキスタン国内イスラム主義勢力刺激の危険性】
パキスタンも、タリバン勝利を喜んでばかりはいられません。パキスタン国内にはタリバンと似たようなイスラム主義勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が存在していますが、パキスタン国軍はアフガニスタンのタリバンは支援する一方で、国内で反政府活動・テロを行うイスラム主義勢力に対しては厳しく武力針圧を試みてきました。

ひと頃は「テロ地獄」と言われるほど治安が悪かったパキスタンですが、2年半ほど前に観光でフンザ地方を訪れた際は、アフガニスタン国境も近いエリアまで観光目的で入れるほどに、ずいぶん治安も改善した様子でした。

しかし、タリバン勝利によって、再びパキスタン国内のイスラム主義勢力が刺激されることが推測されます。

****パキスタンのイスラム武装勢力指導者「タリバンとの強い関係願う」****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の最高指導者、ヌール・ワリ・メスード師が毎日新聞の取材に応じた。

メスード師は、隣国アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが20年ぶりに復権したことを歓迎し「両者の強い関係を願っている」と今後の連携強化に期待を示した。

パキスタン政府はタリバンの復権により、友好関係にあるTTPがさらに勢いづく可能性があるとして警戒を強めている。
 
TTPはパキスタン北西部やアフガンとの国境地帯を拠点とする複数の武装組織の連合体で、2007年に結成された。

12年には女子が教育を受けることの重要性を訴えたマララ・ユスフザイさんを銃撃。14年には北西部ペシャワルで学校を襲撃し、生徒ら150人以上が犠牲になった。マララさんは同年のノーベル平和賞を受賞した。
 
TTP、タリバンともに統治についてシャリア(イスラム法)の厳格な適用を掲げており、メスード師は「友好的で兄弟のような関係」だと表現。ただ、TTPはその活動をパキスタン内に限っているため「タリバン(の活動)に参加する機会はない」と述べ、共闘は否定した。
 
タリバンの今後について「彼らの莫大(ばくだい)な犠牲の見返りにアッラー(神)の支援があると思う。純粋なシャリアの首長国建設を心から願っている」と語った。一方でタリバンの復権がTTPの今後の戦略には影響しないと指摘。「その時々でパキスタン政府に対する攻撃は強化している」と述べた。
 
中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の一環としてパキスタンでインフラなどの整備事業「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)を進めているが、最近、これに携わる中国人らを標的にしたとみられるテロが頻発している。

TTPが関与したケースも少なくないが、メスード師は「中国に敵意はない」と主張。ただ中国政府や中国人に対し「パキスタンの陰謀や欺瞞(ぎまん)の餌食にならないことや、TTPとの戦争を始めないこと」を求めた。
 
メスード師は18年に最高指導者に就任し、一時は弱体化が伝えられたTTPの活動を再び活発化させた。(後略)【9月16日 毎日】
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なお、メスード師は「シャリアの価値観に反していなければ女子教育を支持」とも発言しています。

****タリバン再登場に戦慄するインド・パキスタン****
(中略)
今なおアフガンに影響力
パキスタンはかねてアフガニスタンを「兄弟国」と見なして付き合ってきた。

実際、タリバンのメンバーは、アフガニスタンにおける多数派であるパシュトゥーン人が主流。このパシュトゥーン人は隣国パキスタン西部のペシャワールやマルダンなどに幅広く居住している。平時においてはお互いの行き来も活発だった。

そしてパキスタンの貧困層や地方住民には景気悪化や汚職などに不満を強める人々が多く、程度の差こそあれタリバンへのシンパシーを抱いていることも無視できない。

アメリカとともにソ連のアフガン侵攻に対抗するためタリバンを支援したとされるパキスタンだが、同国の外交官らはかねて「我々のアフガンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返してきた。

だが、普通に考えればパキスタンの諜報機関である三軍統合情報部(ISI)は今なおタリバン、とりわけ最強硬派の「ハッカニ・ネットワーク」と何らかの接触を維持しているとみていいだろう。過去20年間、ISIはタリバンのリクルート活動などを黙認あるいは支援してきた、と言われている。パキスタンの手助けや見逃しがなければタリバンの「復活」はあり得なかった、という主張には一定の説得力がある。

旧ガニ政権を手厚く支援してきたインドにとって、タリバンのアフガン全土掌握は大きなダメージだ。これをもってパキスタンに「外交的勝利」が転がり込んできた、といえなくもない。

アフガニスタンはインドに対して大きな外交カードであり優位性となる。パキスタンのイムラン・カーン首相がタリバンの全土制圧を「隷属からの解放」と述べて歓迎した背景はこういう事情があるのだろう。

しかしタリバンの復権はパキスタンにも大きな副反応をもたらす。今後パキスタンがアフガン支援でタリバン寄りの姿勢を見せた場合には、陸軍基地の目と鼻の先でテロ組織アルカイダの頭領オサマ・ビン・ラーデンの潜伏を許すなど数々の失態を大目に見たうえ、借金まみれのパキスタンを見捨てずに付き合ってきた米国との関係が一気に悪化する恐れもある。

それでなくてもバイデン大統領はアフガン問題の重要ステークホルダーであるパキスタンのカーン首相に今なお会おうとしない。ユースフ・モイード国家安全保障顧問は8月上旬、この状況に不快感を示し「それならばパキスタンはほかの手段に訴える」と発言している。アフガン問題では今後協力しないぞ、という意味だろうか。

しかし、タリバンの台頭によってパキスタンの過激派が覚醒して再び政府に牙を剥く恐れもある。2014年に北西部ペシャワールで児童ら150人が犠牲となったテロなどをきっかけに同国陸軍は情け容赦ない過激派掃討作戦「ザルベ・アズブ(預言者ムハンマドの剣撃)」を断行、タリバン残党らも含む多くの武装勢力をアフガン側に追いやったが、彼らが再びパキスタンに舞い戻ってくる可能性もある。

パキスタン国内には、本家タリバンと緩やかに連携している「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が跋扈する。ノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイさんを襲撃したのも彼らの仕業だった。

パキスタン当局、特に軍はタリバンが再びテロ集団を迎え入れるなど暴走しないよう働きかける一方、指導部に対しては自国の過激派を扇動しないようくぎを刺しておく必要がある。(後略)【8月30日 日本経済研究センター】
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【カーン首相 タリバンに女性教育や多様性を求める】
タリバンの統治については、ISやアルカイダなどイスラム過激派の「温床」となる危険性のほか、女性の教育・就業の権利制限、民族・宗派による差別的政治などが懸念されるところですが、女性の教育に関しては、パキスタン・カーン首相も「女性の教育を禁じるのはイスラム教に反する」と語っています。

****女性の教育を禁じるのは「イスラム教に反する」 パキスタン首相インタビュー****
パキスタンのイムラン・カーン首相がBBCのインタビューに応じ、アフガニスタンで女性に教育を受けさせない動きがあることについて、イスラム教に反するとの考えを示した。

カーン首相はインタビューの中で、アフガニスタンのタリバン新政権をパキスタンが正式承認するために必要な条件も挙げた。

その1つとして、多様な人を受け入れ、人権を尊重する指導を求めた。
カーン氏はまた、パキスタンの治安を脅かすようなテロリストの居場所として、アフガニスタンが利用されてはならないと述べた。

女子生徒の教育をめぐって
タリバンは先週、中等教育の学校には男子生徒と男性教員だけが戻れるとし、女子生徒は除外した。
これについてカーン氏は、女子生徒も近く学校に行けるようになるはずだと、BBCのジョン・シンプソン記者に語った。

「タリバンが権力を握って以降の声明は、かなり希望を抱かせるものだ」
「タリバンは女子生徒についても、学校に行くのを認めるだろう」
「女性は教育を受けるべきではないという考えは、イスラム教にはない。宗教とは無関係だ」

判断には時間が必要
タリバンが8月にアフガニスタンで権力を掌握して以来、1900年代のタリバン政権時代に戻るのではないかとの不安が高まっている。当時はイスラム教の強硬派が、女性の権利を厳しく制限した。

タリバンは今回、女性の権利は「イスラム法の枠組みの中で」尊重されると説明している。

女子生徒は学校に戻れないとした先週の決定は、国際的な非難を浴びた。タリバンの広報担当はその後、女子生徒も「できるだけ早期に」教室に戻ると述べた。
ただ、その時期や、戻った場合にどのような形式で教育を受けられるのかは、まだはっきりしない。

カーン氏は、タリバンが正式承認のための条件をクリアすると思うかとの質問に、国際社会がタリバンに時間を与えることが必要だと繰り返し主張した。

カーン氏は、「何かを判断するにはまだ早すぎる」とし、アフガニスタンの女性はゆくゆくは「権利を主張」できるようになるだろうと述べた。

タリバン政権の承認は
パキスタンは、ジハーディスト(イスラム聖戦主義者)によるテロと戦ううえで、すべての国から強固な同盟国だとみなされているわけではない。アメリカなどの国々では、タリバンに支援を提供しているとして非難されてきた。パキスタンは支援を否定している。

アフガニスタンで計画された9/11攻撃の後は、パキスタンは「テロとの戦い」を推し進めるアメリカの同盟国になった。しかし同時に、パキスタンの軍と情報当局の一部は、タリバンなどのイスラム教組織との関係を維持した。

カーン氏は、タリバン政権を正式承認するかは、近隣諸国などと協議しながら決定すると述べた。
「すべての近隣国が集まり、事態がどう進むかを見ていく」
「タリバンを承認するかどうか、まとまって決めることになる」

内戦の恐れ
カーン氏はまた、タリバンに対し、多様な人を取り込んだ政府をつくるよう求めた。そして、それができなければ、アフガニスタンは内戦に陥る恐れがあるとの見方を示した。

「すべての派閥を取り入れなければ、遅かれ早かれ、内戦になるだろう」
「そうなれば、アフガニスタンは不安定で混迷状態となり、テロリストにとって理想的な場所となる。それが心配だ」

タリバンの広報担当は21日、アフガニスタンの男性のみでつくる内閣の残りの閣僚を発表した。
追加された閣僚には、保健相となった医師が含まれている。しかしアナリストらは新政府について、構成メンバーにはタリバン支持者が圧倒的に多く、少数派はほとんどいないと説明している。【9月22日 BBC】
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こうした考えをBBCにではなく、タリバン首脳に語ってもらいたいのですが・・・・。
もっとも、タリバンに影響力を持つのは、パキスタン政府・カーン首相ではなく国軍・ISIであり、カーン首相が何を言ってもさほど大きな影響はないのかも。
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シンガポール ワクチン接種だけでは止められない感染拡大 「ウィズコロナ」に必要なリスク受容の覚悟

2021-09-27 22:55:07 | 東南アジア
(【ロイター COVID-19 TRACKER】)

【日本の第5波収束傾向はワクチン接種の進展のせい?】
日本では新型コロナ第5波の感染者が急減しており、この状況を受けて緊急事態宣言とまん延防止等重点措置は今月末で解除される方針です。

*****緊急事態宣言 まん延防止措置 今月30日で全て解除の方針 政府*****
19都道府県の緊急事態宣言と8つの県へのまん延防止等重点措置について、政府は期限となる30日ですべてで解除する方針を固めました。

新型コロナウイルス対策で、東京や大阪など19の都道府県に出されている緊急事態宣言と8つの県に適用されているまん延防止等重点措置は、いずれも30日が期限となっています。

これについて、菅総理大臣は午後5時半すぎから総理大臣官邸で西村経済再生担当大臣や田村厚生労働大臣ら関係閣僚と会談し、対応を協議しました。

その結果、期限の30日ですべて解除する方針を固め、与党側に伝えました。

政府は28日、こうした方針を感染症などの専門家でつくる基本的対処方針分科会に諮り、了承が得られれば対策本部で決定することにしています。(後略)【9月27日 NHK】
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緊急事態宣言等にもかかわらず、人流はあまり減っていないようにも見えますが、それでも感染者が急減している理由について、24日の東京都のモニタリング会議では専門家から、8月中旬ごろから「ワクチン接種を完了していない」、つまり感染リスクの高い人は、去年の4月ごろと同じくらい外出を自粛しているといったことも指摘されています。

****お盆以降、人出増加も感染“減少”…これまでと違う様相****
人出自体はお盆以降、増えているとの指摘があり、懸念されていました。しかし詳しく分析してみると、ちょっと違う様相がみえてきたといいます。 

「東京の新規感染者数」と「東京の繁華街の夜間の滞留人口」…つまりレジャー目的で夜外出していた人の数について、これまでは『人出が減った後で、時間差で感染者も減る』ことを繰り返してきましたが、今回はちょっと違います。 

宣言が出て人出は減ってきてはいるものの、お盆以降の新規感染者数は増加に転じています。専門家「気をつけてほしい」と注意喚起してきたのが、この傾向です。 

この人出の内容について、年代や、ワクチン接種の有無を加味して分析したデータが出ました。人出の年代を調べて、その年代のワクチン接種の割合を掛け合わせると、8月中旬ごろから「ワクチン接種を完了していない」、つまり感染リスクの高い人は、去年の4月ごろと同じくらい外出を自粛していることがわかりました。 

「ワクチン接種を完了していない人」の人出が下がっている間に、ワクチンの接種が進んだということもあります。ただ、先ほどの西田氏は「お盆明けに繁華街に出たのは、主に40代以上の中年世代が中心。ただ、その世代に接種が進み、感染者は減少したのではないか」「また『若い世代』が夜の外出を控えたことが感染を抑えることに繋がった」と分析しています。

 つまりワクチンの効果、そして、接種してない若い世代も頑張って自粛し、感染者の減少に繋がったのではないかという分析です。(後略)【9月24日 日テレニュース24】
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ワクチン接種者の増加と未接種者の自粛で感染を減らせたとする見解のようです。

【ワクチン接種率82%のシンガポールでも感染拡大 行動制限一部再開へ】
新規感染者に占めるワクチン接種者の割合などの数字を知りませんのでよくわかりませんが、ワクチン接種が進んでいるにもかかわらず感染者が急増している国もあります。もちろん、ワクチン接種でその波が抑制されていることはあるのでしょうが。

シンガポールでは米ファイザー製か米モデルナ製ワクチンの接種が国民の8割まで進んでおり、行動規制も緩和されましたが、8月下旬から急速な感染拡大に見舞われています。

****接種済み8割でも増える感染 シンガポールは「共存」にかじを切った****
新型コロナウイルスのワクチン接種率が人口の8割と世界最高水準にあるシンガポールで、新規感染者が急増している。大半が接種の完了後でも感染する「ブレークスルー感染」だという。

ただ、2回の接種後なら重症化率は1%程度にとどまっている。企業に週1回の定期検査を求めるといった新たな対策により、感染状況の悪化を抑え込む考えだ。
 
シンガポールの1日の新規感染者数は8月下旬に100人を超えてから急加速し、9月13日に600人を超えた。直近の人口は550万~560万人程度とみられるため、日本なら約1万3千人の水準になる。

オン・イエクン保健相は10日の記者会見で、英国などの流行の分析から、この勢いが続けば「ピーク時に1日3200人程度になる可能性がある」と語った。
 
大人では接種した人がほとんどのため、感染者も多くはワクチン接種済み。9月7日までの28日間で感染した3千人余りのうち、約76%を占めた。1回接種が約8%、未接種は約16%だった。

ただ、重症化率はワクチン完了者で0・8%と非常に低く、1回のみの4・3%、未接種の6・1%と大きな差が開いた。

「厳しい行動制限に戻らなくても」政府の対策の柱は
シンガポールのワクチン接種は昨年12月に医療関係者などからスタート。今年2月から一般向けに本格化した。7月下旬には接種率が人口の5割を超え、8月末に8割に達した。政府は「世界で最も高い水準にある」と説明する。
 
国の公的接種では米ファイザー製か米モデルナ製が使われており、保健省によると、9月6日時点で約439万人が2回の接種を完了。さらに民間の医療機関で中国シノバック製などの接種を受けた人が約8万6千人おり、合計で人口の81%が2回の接種を終えた。年齢別では70歳以上が85%、12~39歳で88%、40~69歳は90%超という高水準だ。
 
シンガポールでは新型コロナの感染を防ぐため、外出時のマスク着用などが義務化されているほか、たびたび厳しい行動制限策が取られてきた。特に今年5月以降は、デルタ株の広がりを受けて断続的に外食禁止などの制限が続いた。
 
だが、接種率が高まったことを受け、政府はコロナとの共存策に転換。8月にはワクチン接種者に1組5人までの外食を認めたほか、屋台街でも1組2人までの外食を解禁した。酒類の提供は午後10時30分までで、それまでならふつうに飲み会なども開かれていた。
 
産業界の要望が強かった通勤についても、在宅勤務が不可能な人のみ出社を認める方針から、8月には在宅勤務が可能な業務でも50%までは出社を認める方針に切り替えた。
 
その結果、増えたのが新規感染だ。バスターミナルやショッピングモールなど人の集まるところで感染が急増。従業員の食堂など、マスクを外す環境で特に感染が広がったとみられている。
 
そこで政府は重症化しやすい人には3回目となる追加の「ブースター接種」を急いでいる。最初の接種から6カ月を超えている高齢者などを9月から始め、今後は他の年齢層にも拡大していく方針だ。老人ホームなどでは、一時的に入所制限も設ける。
 
これに加え、対策の柱に据えているのは、幅広い検査や徹底した接触者の追跡、迅速な隔離、そして密集を避けたり、手を洗ったりする市民の自主的な感染防止だ。
 
政府のコロナ対策の責任者を務めるローレンス・ウォン財務相は6日、こうした対策を進めることで「厳しい行動制限に戻らなくても、感染が抑えられると期待している」と語った。
 
検査の拡充は、無症状感染者を見つける狙いがある。8月下旬から全世帯に向けて迅速抗原検査キットの無料配布を進めており、立ち寄り先での集団感染が分かった場合などにすぐに検査するよう求めている。
 
さらに企業での検査も強化する。建設業などではすでに2週間に1回の従業員の定期検査が義務化されているが、対象業種を拡大し、頻度も週1回にする。その他の企業には、50%までの出社は認めるものの、約2カ月分の検査キットを配り、週1回の検査と結果の報告を求める方針だ。
 
接触者の追跡では、スマートフォンのアプリに加え、高齢者などに向けた専用端末を配布。両者を合わせた追跡アプリの普及率は9割を超えている。他人との接触を記録するほか、オフィスビルや飲食店などへの入館を記録していく。感染が分かった場合は濃厚接触者に連絡し、自主的に検査を受けてもらうほか、自宅での隔離などに臨んでもらう。
 
さらに政府は9月に入り、国民に対して「不要不急の外出は控えてほしい」との呼びかけを始めている。それでも今後2~4週間は感染状況を見守り、医療機関に余裕がある状況が続けば、外食禁止や出社制限などの強い行動制限はかけない方針だ。8日にドイツとの間で始まったワクチン接種者の隔離なしでの入国受け入れについても、予定通り続けるという。
 
背景にあるのは経済への危機感だ。強い入国規制や外出制限を敷いてきた結果、2020年の国内総生産(GDP)の成長率は、マイナス5・4%。日本などに比べても大きなマイナスになった。
 
2021年4~6月は前年の外出制限の反動でプラス14・3%。貿易産業省も8月、年間では6~7%のプラス成長との見通しを発表したが、今後、感染拡大が続いて外出制限が強まれば、下方修正を迫られる可能性がある。
 
このため、現地の産業界やメディアなどからは「行動制限に戻るべきではない」といった声が出始めている。ただ、政府幹部は「最終手段として、行動制限という選択肢は除外しない。今後さらに感染が拡大すれば再び強い制限に踏み切るしかなくなる」と説明している。【9月15日 朝日】
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上記は9月15日記事ですが、その後も感染拡大は止まっていません。
シンガポールでは以前、劣悪な住環境にある外国人労働者の大規模クラスターが発生しましたが、今回はワクチン接種も済んだ一般住民に感染が拡大しています。

****シンガポールの新規感染者数、過去最多更新 98%は軽症****
シンガポールで22日、新型コロナウイルスの新規感染者数が1457人となり、過去最多を更新した。直近の患者の約98%は無症状か軽症で、政府はこうした患者の大半を自宅療養に切り替え、医療体制が逼迫するのを防ぐ。

これまで1日あたりの新規感染者数が最多だったのは2020年4月20日の1426人だった。当時は感染者の9割超が専用寮に住む低賃金の外国人労働者だった。

今は外国人労働者の感染は全体の1割強にとどまり、大半が一般の住民だ。シンガポールは外国人を含む人口が約570万人で、日本の人口規模にあてはめると1日あたり3万人を超える感染者が出ている計算になる。(後略)【9月23日 日経】
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こうした事態に、シンガポール政府は行動制限再開に追い込まれています。

****一度緩めた規制、再び シンガポール、ワクチン8割も感染拡大で****
新型コロナウイルスのワクチン接種が人口の82%まで達しているシンガポールで、行動制限が再び強化されることになった。接種率の高まりを受けて8月にコロナ規制を緩和したところ、感染が急拡大。医療不足に陥る可能性が出てきたため、規制の再強化を迫られることになった。
 
9月27日から約1カ月間、外出時のグループの人数制限をいまの最大5人から最大2人に強める。官庁や企業は在宅勤務を原則とする。「難しい決断だった。市民の失望は理解している」。政府のコロナ対策の責任者を務めるローレンス・ウォン財務相は24日の会見でそう語った。
 
シンガポールのワクチン接種率は22日時点で人口の82%に達している。しかし8月下旬から感染拡大が加速。18日には1日1千人を超え、23日時点で1日1500人に達している。政府は今後2週間で6千人に達する可能性もあるとみる。
 
過去28日間の感染者約1万6千人のうち、97・9%は無症状か軽症。289人(1・8%)が酸素供給が必要な状況で、29人(0・2%)が集中治療室(ICU)に入院した。13人(0・1%)が亡くなった。
 
政府はワクチン接種済みの12~69歳の感染者については自宅療養を原則としている。一方で急な重症化に備え、地域の医療機関と連携し、既往症がある無症状や軽症の感染者が入所する施設の整備を進めている。
 
それでも患者の総数が増えれば重症者も増える。結果として医師や看護師などの負担も増えることから、行動制限で感染者の総数を抑える方向にかじを切る。
 
8月にワクチン接種者に1組5人までの外食を認めたほか、在宅勤務が可能な業務でも、50%までは出社を認めた。だが9月27日から10月24日までは外出制限の人数を2人に絞るほか、在宅勤務を原則とすることに戻す。職場に出る従業員については、週1回の自主検査を強く促す。行動制限の強化に対応して家賃の減免などの支援策も打ち出す方針だ。
 
ブースター接種も広げる。すでに60歳以上の接種を始めているが、これを50歳以上に拡大する。
 
一方でウォン財務相は「ロックダウンには戻らない」と強調。行動規制の強化は、新規感染の増加が医療不足を起こさない水準に落ち着くまでの措置だとして「もはやかつてのような少ない感染者に抑えることはしない。それは不可能だ」と述べた。【9月24日 朝日】
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シンガポールは新型コロナの感染が広がりはじめた2020年1月から入国制限措置を取り、徹底した追跡、監視システム、都市封鎖(ロックダウン)で早期抑え込みに成功した国の一つとされてきた。

ワクチン接種率も世界トップレベルを誇る。

ただし、市中感染をゼロまで抑え込む「ゼロコロナ」に関しては、8月にリー・シェンロン首相が「現実的ではない」と指摘し、「ウィズコロナ」への転換を示した。
 
これを受けて保健省は新型コロナを「パンデミック」(世界的大流行)から限られた範囲での流行である「エンデミック」にするための行動計画を進めている。しかしオン・イエクン保健相は今月24日の記者会見で「新型コロナの変異株デルタが我々の計画を許してくれない」と話し、苦戦している様子だった。【9月27日 毎日】
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【「ウィズコロナ」に必要な“覚悟”】
「ゼロコロナ」を断念して「ウィズコロナ」へ。
しかし、その「ウィズコロナ」もワクチン接種だけでは難しい面もあるようです。

行動規制だけでなく、ブースター接種、全世帯に向けて迅速抗原検査キットの無料配布、企業での検査強化、追跡アプリの活用(日本ではいつのまにか消えてしまいましたが)などの対策は、日本も参考にできる取り組みでしょう。

(ブースター接種すればどうかはわかりませんが)これまでのワクチン接種だけでは感染拡大は止められない・・・というのは、シンガポールの事例が示す教訓です。

しかし、一方で98%は無症状か軽症というように、ワクチン接種で重症化・死亡は大幅に軽減できるのも事実です。

日本について言えば、いつまでも自粛を続けて行くわけにもいきませんので、ワクチン接種を更に進めてワクチンパスポートなども活用した「ウィズコロナ」へ舵を切る必要があるでしょう。

ただ、その際、シンガポール、あるいはイギリスの事例が示すように、ある程度の感染拡大はやむを得ない、それに伴って若干の死者増加もあると“腹をくくった”覚悟が必要です。

多少の感染拡大でうろたえて、すぐに自粛というタコつぼに戻るのではなく、重症者や死者の動向を慎重に見極め、一定にリスクは受容していく・・・そういう方向性を政治化・マスメディアには示して欲しいのですが・・・リスクを極端に嫌う「安心安全教」の日本では無理かな。
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ドイツ  混戦の総選挙 難しい“連立パスル” だれが首相になっても「メルケル未満」?

2021-09-26 22:33:57 | 欧州情勢
(9月12日の首相候補テレビ討論会に参加した(左から)ショルツ、ベーアボック、ラシェット【9月23日 Newsweek】)

【中道左派・社会民主党を追い上げるる中道右派のキリスト教民主・社会同盟】
ドイツでは今日26日、総選挙が行われています。
16年にわたりドイツを、そして欧州をリードしてきたメルケル首相が今期で引退するこということで、その後任を決める選挙戦でもあります。

選挙戦の状況は、メルケル首相が率いてきた中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の人気がパッとせず、一時期緑の党が支持を伸ばしましたが党首のスキャンダルなどで終盤に失速、そうしたことから中道左派・社会民主党が終盤戦をリード。

しかし、投票日直前になって、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が社民党を激しく追い上げ、その差は僅かになっているとも。

まあ、日本時間の明日未明には出口調査による予測が出されるとのことですから、あと数時間で結果の大勢が反召します。

いずれにしても単独で政権を担える絶対勝者は出ませんので、今回選挙結果を受けての連立交渉が次の焦点になります。

当然ながら、今回選挙結果でその連立交渉の方向性が示されることになります。(方向性というほど明確なものにはならず、連立交渉は混戦模様になる可能性も高いですが)

****ドイツ総選挙 ショルツ氏とラシェット氏の首相争いが確実に****
ドイツ連邦議会(下院、基本定数598、任期4年)総選挙の投票が26日行われた。

最終盤まで世論調査で支持率1位だった中道左派・社会民主党と、引退するメルケル首相(67)が所属する中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の両者が1、2位を占めるのは確実で、選挙後は双方の首相候補が「ポスト・メルケル」の座を争う見通しだ。
 
調査会社アレンスバッハが24日公表した支持率調査では、26%で首位の社民党に対しCDU・CSUが25%と1ポイント差まで猛追。他の複数の世論調査でも9月中旬ごろまで5ポイントほど離れていた両者の差は1〜3ポイントまで縮まった。
 
この2大政党と環境政党・緑の党の首相候補のうち、8月以降は支持率3位から動かない緑の党のアンナレーナ・ベーアボック共同党首(40)が首相レースからほぼ脱落。

このため、選挙後は社民党のオラフ・ショルツ財務相(63)、CDUのアルミン・ラシェット党首(60)の2人のうち、連立交渉をまとめ上げた方が新首相に就任する見通しだ。ただ、どちらが主導する政権になっても緑の党は16年ぶりに連立政権に加わる可能性が出ている。
 
現在のメルケル政権はCDU・CSU、社民党による「保革大連立」だ。ドイツ(西独)ではこの2大政党が中心となり戦後政治を担ってきたが、現在はさらに緑の党、自営業者らから支持を受ける中道の自由民主党、旧東ドイツ社会主義政党の流れをくむ左派党、排外主義的な右派・ドイツのための選択肢(AfD)の計6会派が下院に議席を持ち、多党化が進行。一つの党が単独過半数を獲得する可能性は低く、今回も3党による連立が有力視されている。
 
今回は選挙期間中、首相候補3人の評価が揺れ動いた。当初はメルケル氏の後継候補として支持を集めていたラシェット氏は、7月の洪水被災地視察の際に談笑する姿が報じられ、人気が急落した。

清新さが売りだったベーアボック氏も著書の盗作疑惑が浮上して失速。

対照的に人気が上昇したのが地味だが安定感のあるショルツ氏で、メルケル政権の副首相兼財務相として新型コロナウイルス対応などに従事してきたベテランとしての実績が見直されている。
 
選挙は即日開票され、26日夜(日本時間27日未明)に独メディアが出口調査に基づく得票率予測を発表する。選挙後は連立交渉の難航も予想される。【9月26日 毎日】
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【連立パズル】
連立交渉はいろんな選択肢が予想されています。
今回選挙結果を受けて、どの組み合わせがまずアプローチされるかが決まります。

連立交渉が難しい一因は、排外主義的な右派・ドイツのための選択肢(AfD)の存在があるため。

この極右的政党とはどの政党も連立を組みませんので、ただでさえ過半数を超える組み合わせが難しいのに、実質的にはAfDを除いた残りの議席をベースに、全体の過半巣を超える組み合わせを作らねばならない・・・ということで、更に難しさが増します。AfDが議席を増やせば、連立交渉の難しさも増します。

****ドイツ総選挙、26日投開票 各党過半数見込めず、連立交渉が焦点に****
(中略)社民党首相候補のショルツ財務相は緑の党と組みたい意向を示しているが、双方を足しても過半数には届かない見通しで、さらに別の党を加えた「3党連立」案が浮上している。
 
有力視されるのはこの2党に自由民主党を加えた案だ。だが企業経営者・自営業者から支持を受けて減税を掲げる同党に対し、環境政党・緑の党は温暖化対策などへの投資に向けて増税を望んでおり、政策の違いが大きい。

自民党以外では旧東独の社会主義政党の流れをくむ左派党も「3党目」候補に挙がる。だが左派党は北大西洋条約機構(NATO)からの離脱を主張するなど外交政策で他党と隔たりがあり、いずれにせよ交渉難航が予想される。
 
一方、社民党を排除した連立の可能性もある。CDU・CSUが緑の党、自民党と組んで過半数を確保する戦略だ。この場合、自民党にとっては左派主導の連立より望ましい組み合わせとなる。
 
最近のドイツは連立交渉長期化が常態化しており、2013年は選挙後に新政権発足まで約3カ月、17年は約半年かかった。今回は新政権誕生までメルケル氏が引き続き首相を務める。【9月24日 毎日】
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「3党連立」がメインになっていますが、選挙結果次第では「2党連立」で過半数が可能になることもあり得ます。
また、「3党連立」がうまくいかなければ、再びCDU・CSUと社民党の大連立も検討されることになります。

どの組み合わせにしても、政党間の違いを調整したうえで過半巣を確保するのは非常に困難な作業で「連立パズル」といった状況にもなります。

【誰が首相でも「メルケル未満」?】
問題は、そういう困難な作業の結果にショルツ氏、ラシェット氏、ベーアボックなどの誰が首相になったとしても、メルケル首相の存在感を超えるものにはならないというところです。

****ドイツ新首相、候補者3人の誰にも希望を見いだせない悲しい現実****
<メルケル退陣後の侘しいドイツ政界。次期首相選びにつながる総選挙が9月26日に迫るなか、主要3党の代表は非難合戦に終始した>

ドイツ人にユーモアは似合わないが、意図せずして私たちを笑わせてくれることはある。いい例が、去る9月12日に行われた主要3政党の首相候補によるテレビ討論会だ。

登壇したのは緑の党のアンナレーナ・ベーアボック、引退するアンゲラ・メルケル首相と同じキリスト教民主同盟(CDU)のアーミン・ラシェット、連立与党の社会民主党(SPD)を率いるオーラフ・ショルツ(現職の財務相でもある)の3人。

ドイツらしい理詰めの議論が繰り広げられるかと思いきや、結果はベテラン男性2人(ショルツとラシェット)が派手に罵り合い、間に挟まれた若い女性(ベーアボック)は途方に暮れて見守るのみというマンガ的な展開だった。
司会役もお粗末だった。実のある議論を引き出せず、初歩的な不手際も目立った。

そもそもドイツでは、こうしたテレビ討論会がアメリカほどに定着していない。2002年に初めて実施され、以後は総選挙時の慣例となったが、選挙で有権者が選ぶのは政党であって個人ではない。勝った党が首相を選ぶ。ヒトラーのようなカリスマ性の強い人物の台頭を防ぐために採用された制度だ。

しかし今年の総選挙(投票は9月26日)に限って言えば、各党の「選挙の顔」にはカリスマのかけらもない。

鼻であしらわれたラシェット
CDUのラシェットは好感度の高い柔和な感じの男で、地元ノルトライン・ウェストファーレン州では人気だったが、先の大洪水による被害などで逆風が吹き始めると、下劣な面が顔を出してきた。あの洪水で気候変動に対する考え方は変わったかと問われたとき、彼が52歳の女性記者に向かって「お嬢さん」と呼び掛けたのは有名な話だ。

当初こそ最有力と目されていたラシェットだが、その後の支持率は下がるばかり。だから討論会では反撃に出たつもりらしいが、支持率トップで中道左派のショルツをいくら批判しても、小型犬が猛犬に向かってほえているようにしか見えない。相手のスキャンダルをいくら指摘しても、鼻であしらわれていた。

政策の訴えも下手だった。コロナ危機対策で増税が必要になるかと問われたとき、保守本流のラシェットは、増税すれば経済の体力が落ちるから結果として国庫の収入は減る(だから増税はしない)と述べた。減税してこそ税収は増えるという奇妙な理屈の焼き直しだが、あまりにも庶民感覚と懸け離れている。

緑の党のベーアボックは、この討論会でいちばん気楽な立場のはずだった。メルケルという大看板を失ったCDUは、右からは極右政党ドイツのための選択肢(AfD)に攻め立てられ、左からはコロナ対策の責任を追及される苦しい立場。連立を組むSPDも独自色を出しにくい。

それに比べて、緑の党はぶれない。気候問題や社会正義に関する問題で重ねてきた実績を武器に、初めて首相の座を狙える位置につけた。

しかし注目度が急上昇したベーアボックには、多方面から露骨に女性差別的な攻撃が仕掛けられている。「子供の世話は誰がするのか」と問われた際には、女性の指導力や男性の育児力に関する議論が全国に広がった。偽造のヌード写真がばらまかれるという下劣な攻撃もあった。

そんな偽情報を流したのは国内の極右勢力とロシアの手先だ。有力紙デル・ターゲスシュピーゲルの調べでは、極右勢力によるヘイトスピーチの対象になった回数はベーアボックが最も多く、ラシェットの3倍だった。

しかし、そんな偽情報よりも深刻なダメージになりそうなのは、彼女の学歴や能力に関する暴露趣味的かつ女性蔑視的な報道だ。例えば、彼女はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで得た法律の学位ではドイツで弁護士になれないだろうと批判された。そして、ベーアボックは一貫して経験不足を問題視されている。

彼女自身も、敵に付け入る隙を与えるような過ちを犯している。例えば、18年から20年の間に2万5220ユーロの所得を申告していなかった。また国の将来に関する自分のビジョンをつづった著書に盗用疑惑も浮上している。

それでもテレビ討論会でのベーアボックの議論には説得力があった。気候変動に関する国の不作為やインターネット接続環境の地域格差を問われたとき、ラシェットとショルツは責任逃れに終始したが、ベーアボックはそれなりに現実的な対策を示せた。

しかし彼女は上品過ぎ、ライバルとの違いを強く打ち出せなかった。首相候補というより「もう1人の司会者」に見えたという評価もある。

ショルツはリーダーシップを示せず
テレビ討論後の論評や各種世論調査を見ると、この段階での勝者は中道左派のショルツとされている。それも当然。なにしろ現職の財務相だし、雰囲気もメルケルに似て信頼できそうに見える。しかもラシェットの執拗な攻撃を巧みにかわした。

若くて首相っぽく見えないベーアボックや、偉そうだがほえ立てるだけのラシェットに比べると、数字や専門用語を巧みに操るショルツはドイツ人好みの安定感のあるリーダーに見えた。

だが「ショルツ首相」の誕生を懸念する人も多い。過去に有力銀行で起きた粉飾決算事件の捜査で彼の果たした役割には今も多くの疑問が残っており、相当数の国民がショルツは信用できない(あるいは無能だ)と考えている。

今度のテレビ討論で都市部の賃貸住宅価格上昇について問われたときも、ショルツは1973年に80万戸のアパートを建設できたのだから、今でも年に40万戸くらいは建設できると答えた。あまりに短絡的だ。価格上昇の背後に潜む脱税やマネーロンダリングの問題を無視しているし、今の時代に大規模な都市開発を進めることが地球環境に及ぼす影響も考慮していない。

地球温暖化対策についての質問でも、ショルツは連立相手のCDUに責任を転嫁するだけだった。気候変動と戦う今後のビジョンを問われても、太陽光発電と風力発電の量を増やすという漠然とした約束しかできなかった。

今回の選挙戦では、ベーアボックもラシェットもショルツも、それぞれ一度は世論調査でトップに立っている。だが誰も、まだ本当のリーダーシップを示せていない。気候の危機が近づき、コロナの危機が終息せず、格差も拡大する一方の現在、このまま投票日を迎えたら有権者の胸に残るのは「もうメルケルはいない」という喪失感だけだ。
【9月23日 Newsweek】
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もちろん、当初はあまり期待されてなくても、その後の実績で「大化け」することはあります。

プーチン大統領も首相就任時は「プーチン、誰それ? 元スパイ?」って感じでしたし、習近平主席も当初は基盤が脆弱と言われていましたが、いまや1強を固め毛沢東に並ぶ勢い。

【AfD、自由民主党、左派党】
最後に、老舗政党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、社会民主党、環境政党からスタートし、現実路線を進め、今では州レベルで首相を担うようになり、政権担当能力がある政党と認識されるようになった緑の党、この3党以外のAfD、自由民主党、左派党についての概略を。

****ドイツ議会選挙はまれにみる混戦 メルケル首相の後任は誰?****
(中略)
難民受け入れに反対 右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」
「ドイツのための選択肢」は、2013年に経済学者や実業家などによって設立された新興の右派政党です。

設立当初は、ヨーロッパの信用不安問題が深刻化していたため、ギリシャなど財政危機に陥った国々への支援の反対や、通貨ユーロ圏の解体など経済政策を中心に訴えていました。

2015年以降、内戦が激化したシリアなどから難民や移民がドイツに流入したのに伴い、難民の受け入れに反対するなど排他的な主張を前面に押し出すようになると、メルケル首相の難民政策に対する国民の不満の受け皿として旧東ドイツを中心に支持を集めてきました。

前回2017年の連邦議会選挙では、94議席を獲得して、初の国政進出を果たしただけでなく、一躍第3党に駆け上がり、最大野党となりました。

難民の受け入れには一貫して反対する姿勢で、クルパラ共同党首は、今月、地元メディアの取材に対して「今もドイツ国内にとどまる権利のないアフガニスタン人が3万人いる。彼らは強制送還されるべきだ」と述べるなど、アメリカ軍の撤退のあと混乱が続くアフガニスタン情勢を受けて、国境管理を徹底すべきだという考えを改めて示しています。

経営者などが支持 自由民主党(FDP)とは
ドイツの自由民主党は1948年に設立された中道右派の政党で、自由主義を掲げ、企業の経営者などから一定の支持を集めています。

キリスト教民主・社会同盟、社会民主党という2大政党のいずれかと連立を組むことで政権の一角を担い、影響力を示してきました。

戦後のドイツで最も長い、18年間にわたって外相を務め、東西ドイツ統一の実現にも貢献したゲンシャー元外相は自由民主党に所属していました。

2009年からはメルケル首相のもとで連立政権に加わっていましたが、選挙の公約としていた大型減税などを実現できず、企業から党への献金疑惑も発覚して支持を落とし、2013年の選挙では結党以来初めて、連邦議会の議席を失いました。

前回2017年の選挙では一転して80議席を獲得しましたが、連立協議で難民問題や環境政策をめぐってメルケル首相の与党などと意見が対立し、政権には参加できませんでした。

FDPは新型コロナウイルスの感染対策をめぐり、ドイツ全土で行動規制などが長引く中、政府は過剰に介入せず市民の自由を守るべきだと訴えて若者などから支持を広げていて、選挙後、再び連立政権の一角を担うことをねらっています。

左派党 連立政権入りの可能性も
左派党は、ドイツ語で「左派」を意味する「リンケ」と呼ばれ、旧東ドイツで独裁政権を担った「社会主義統一党」の流れをくんで2007年に創設されました。

創設直後は、旧東ドイツの共産主義政党のイメージが強かったことから、旧西ドイツ側の地域では支持率は低かったものの、最低賃金の保障や失業保険の充実などを訴えて少しずつ支持を伸ばしてきました。

一方で、2015年以降、シリアなどからの難民や移民がドイツに流入したのに伴い、難民の受け入れに反対する右派政党「ドイツのための選択肢」が躍進すると、旧東ドイツの高齢者や労働者層など従来からの支持者を奪われた形になっています。

前回2017年の連邦議会選挙では、69議席を獲得し、野党第3党となっています。

今回の連邦議会選挙では、結果次第では、中道左派の「社会民主党」、環境保護を訴える「緑の党」とともに、3党で連立を組んで政権の一角を担う可能性も指摘されていて、連邦議会の左派党のトップ、バルチュ院内総務は、今月6日、記者団に対し「われわれは政権の責任を引き受ける準備ができている」と述べ、連立政権への参加の意欲を見せています。【9月20日 NHK】
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ちなみに、今回総選挙のメイン争点はコロナ対策ではなく、180人以上が死亡した7月の記録的な豪雨もあって環境・気候変動とのことです。


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ミャンマー  民主派反政府勢力にもワクチン支援で二股かける中国

2021-09-25 23:18:44 | ミャンマー
(ミャンマーの中国との国境の町ムセ(2020年5月12日撮影)【9月25日 AFP】 ミャンマーと国境を接する中国は、国境地帯の経済活動、少数民族との関係などで、「中国は国軍を支援」というほど単純ではないようです)

【「内戦」の状況 反政府勢力にとっては倫理的・軍事的問題も】
ミャンマーでは、軍政に対抗するためにクーデター後に民主化勢力が組織した「国家統一政府(NUG)」が9月7日、国民に向けて一斉蜂起を呼びかけ、軍に対して実質的な「宣戦布告」を行いました。

その後の状況に関する報道はあまり多くありませんが、「宣戦布告」当時の状況については、この地域に詳しい大塚智彦氏が下記のように報じています。「ヤンゴンの朝は爆弾で明ける」というのは、印象的なフレーズです。

****ミャンマー「内戦」激化…市民の死者1000人超、ついに統一政府が「蜂起」呼びかけ*****
国家統一政府が「宣戦布告」
2月1日に軍がアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政権を武力で打倒したクーデターから7ヵ月目に入るが、この間、軍の強権的弾圧の犠牲となった市民はすでに1000人を超えている。 

一方、国境付近における少数民族武装勢力との衝突や市民の武装組織による爆弾攻撃、待ち伏せ攻撃などによる軍や警察、軍政支持者側の死者数も増加の一途を辿っている。  

軍政側が正確な数字を発表していなので具体的なデータはないものの、その数は9月までに相当数に上っているのは間違いないとの見方が有力だ。  

当初の思惑通りに市民の支持が得られないことに焦燥感を募らせているとも言われる軍政は、依然として反軍政のデモや集会、「不服従運動(CDM)」参加者などへの強権的な弾圧を続けており、各地で頻発する武装市民の抵抗に手を焼いている。  こ

うした中、軍政に対抗するためにクーデター後に民主化勢力が組織した「国家統一政府(NUG)」は9月7日、国民に向けて一斉蜂起を呼びかけ、軍に対して実質的な「宣戦布告」を行った。  

軍や警察は、中心都市ヤンゴンをはじめ各都市部で武装市民による爆弾や地雷、ロケットランチャーなどを駆使した攻撃にさらされ、また国境地帯では武装市民と連携した少数民族武装勢力との本格的な戦闘に直面しており、もはやミャンマーは実質的な「内戦」状態にあるといえる。

当局のスパイ170人が死亡か
ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」は、治安当局の実弾発砲を伴う弾圧で8月末までに犠牲となった市民は1001人に達したとして、すでに1000人を超えたことを明らかにした。  

これに対し軍政は6月15日に首都ネピドーで軍政の情報相幹部が会見の中で軍政支持政党である「連邦団結発展党(USDP)」関係者とその支持者170人が殺害されたことを明らかにしたのが、唯一の公式数字となっている。  

もっともこの170人は軍によって地区の管理者に任命され、住民の動向などを報告する当局のスパイ「ダラン(密告者)」であることを理由に殺されたケースであるとしている。このため軍兵士や警察官などの死者数に関しては正確なデータがない状況となっている。(中略)

各地で続く治安当局への武装抵抗
地元の反軍政メディア「イラワディ」や「ミッジマ」「キッティッ・メディア」などがインターネット上で伝えている個別の事案を追いかけてみることで軍や警察側の死傷者の実態の一部が浮かび上がってくる。  

大きな注目を集めたのが8月14日にヤンゴンの鉄道車内で警察官4人が射殺された事件だ。  同日午後5時過ぎ、ヤンゴン市街地のアロン郡区にあるホーンストリート駅付近を走る列車内で乗り合わせていた警察官6人が銃撃されうち4人がその場で射殺される事件が起きた。(中略)

8月23日、北西部サガイン地方のガングーからカレイに向かっていた軍の車列、トラック8台が地元PDFの待ち伏せ攻撃を受けて、兵士30人が死亡、15人が負傷した。(中略)

また8月25日午前11時ごろには中西部チン州ティータイン郡区にあるミャンマー経済銀行の支店がバイクで乗り付けた正体不明の男性らに襲撃され、銀行の警備員3人が射殺された。(中略)

9月3日午後11時45分ごろヤンゴン東部県北ダゴン・モーチット郡区の警察署に何者かによって爆弾が投げ込まれ、警察官1人が死亡したほか、翌4日午後1時ごろにはヤンゴン北部県インセイン郡区で約100戸の民家を管理する地区責任者が頭部などに4発の銃弾を受けて死亡した。この責任者は住民から「ダラン(密告者)」とみられていたという。

少数民族武装勢力との連携も増加
(中略)各都市部でのPDFによる武装抵抗と並行して国境周辺地帯では少数民族武装組織による、あるいは少数民族武装勢力とPDFの共同作戦による治安当局への攻撃も激化している。  

6月28日サガイン地方カタ郡区で軍の部隊と地元カチンPDFが交戦となり、兵士30人が死亡したという。その前の24日にも同地区で交戦があり、この時は兵士5人が死亡し19人を拘束したという。  

メディアによるとこの交戦には地元カチンPDFのメンバーに加えて少数民族武装勢力である「カチン独立軍(KIA)」も協力して攻撃に加わっており、共同作戦が展開されたという。  

8月15日午前7時15分ごろ、中東部シャン州ナムサンで軍部隊と少数民族武装勢力「南シャン州革命軍」が衝突し、兵士10人が死亡したと地元メディアが報じた。  

最近の事例としては8月28日シャン州モンコ地方で地元の少数民族武装勢力「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)」の山間部山頂付近にある拠点を軍が麓から攻撃しようとしたところ、激しい戦闘に発展し、兵士15人が死亡した。(中略)

このようにミャンマーの国境周辺では各少数民族武装勢力、あるいは武装市民組織の共同作戦で軍への攻勢を強めており、これまでに相当数の兵士が戦闘で死亡していることが見て取れる。その数は市民の側の犠牲者約1000人には及ばないものの、数百人規模上っているのは間違いものとみられている。  

このように兵士や警察官の死者が増えていることも軍政が詳細なデータを公表することを控えている一因とみられている。一部報道では軍や警察の中にも現在のような人権を無視した強権的弾圧方法に疑問を抱く者が出てきており、戦線離脱や職務放棄の事例も報告されているという。  

しかし士気や団結力の低下という悪影響を危惧する軍政によって、そうした実態は全く明らかにされていない。

ヤンゴンの朝は爆弾で明ける
ヤンゴンなどの都市部では爆弾の爆発事件が頻発している。8月30日にはヤンゴン市内8ヵ所で爆弾が爆発した。前日の29日は中部の都市マンダレーの4ヵ所で爆弾事件も起きている。いずれも人的被害などの詳細は明らかになっていないが、爆弾事件には武装市民組織であるPDFが関係した事案と同時に軍政側の組織による「やらせ」も含まれているという。  

30日のヤンゴン市内8ヵ所の爆発は、(中略)軍政を支援する市民組織「ピュー・ソー・ティー」による犯行との見方を地元メディアなどは伝えている。  

この「ピュー・ソー・ティー」は民間人の服装をした退役軍人や「ダラン(密告者)」、軍政支持の「USDP党」関係者などから成る武装組織で、2021年の5月頃から暗躍しているといわれている。  

ヤンゴンではこうした反軍政のPDF、軍政支持の「ピュー・ソー・ティー」双方による爆弾事案が増えていることから、最近では「ヤンゴンの朝は爆弾で明ける」とさえいわれているという。  

(中略)ヤンゴン市内では日中は経済活動や飲食店の営業も始まっているとはいえ、それはあくまで「嵐の前の静けさ」に過ぎず、街中にはあちこちに「ダラン(密告者)」や治安当局者の警戒監視の目が張り巡らされており、警戒を緩めることはできないという。  

一般市民が何気なくSNS上にアップした写真を情報源にして治安当局がPDFメンバーの拠点を特定して踏み込み、一斉摘発を行ったともいわれており、市民生活は表向きとは大いに異なり、緊張と警戒の中で過ごすことを強いられているのが実状だという。【9月9日 大塚 智彦氏(PanAsiaNews記者) 現代ビジネス】
***********************

こうした民主化勢力の武闘方針に対し、倫理的な問題及び軍事的な実効性の面における現実的な問題の指摘もあります。

****ミャンマーに迫る内戦危機、民主派の武装蜂起は「墓穴を掘る」結果になる可能性*****
<国民統一政府が宣言した「自衛の戦争」は、国軍の圧倒的な反撃と国土の荒廃を招く>

(中略)武装蜂起の呼び掛けは、ソーシャルメディアでは熱狂的に支持されたが、国際機関や外国政府は狼狽している。元国連調査団員らが組織するミャンマー特別諮問評議会(SAC-M)は8日、「7カ月にわたる軍事政権の暴力と国際社会の無策に、NUGと人民がいら立ちを募らせている」ことに理解を示しつつ、事態のエスカレートは「残念だ」と声明を出した。

「暴力はミャンマーの人々の苦しみの原因であって、解決策ではない」と、SAC-Mのクリストファー・シドッティは述べている。「NUGの気持ちは分かるが、その決断が引き起こす事態を、われわれは憂慮している」

米国務省のネッド・プライス報道官やイギリスのピート・ボウルズ駐ミャンマー大使、インドネシア外務省のテウク・ファイザシャー報道官らも、民主派の「自衛のための戦争」に理解を示しつつ、円滑な人道援助のために双方に平和を呼び掛けた。(中略)

だが、民主派が武力闘争を正式な戦略として打ち出したことは、倫理的な問題や現実的な問題を生じさせている。
NUGは5月に国民防衛隊を設置したとき、「市民を脅し、標的にし、攻撃してはならない」し、市民がいる場所を標的にしてはならないという行動規範を示した。

これは、無差別的な残虐行為を繰り返す国軍とは違うことを明確にするとともに、こうした非道の責任が問われることがなかったミャンマーの文化を正そうという意思の表れだ。

だが、戦闘が激化すれば、正義と不正義を分ける線は曖昧になりかねない。NUGの宣戦布告は、軍当局者や、民間人を含む軍事政権協力者の殺害を暗に奨励していると受け止められても無理はない。(中略)

ただし武力闘争を実践しようとする民主派は少数派で、大多数は大規模なストなど非暴力的な抵抗運動を展開しているという見方もある。

武力衝突のエスカレートは、NUGの政治的選択肢を狭めることにもなる。NUGはミャンマー政府として国際的な承認を得たいと考えているが、今回の宣戦布告で、その実現性は著しく小さくなった。

それに、いかに大義があっても、その戦いが成功する保証はない。にわかづくりの国民防衛隊はもとより、少数民族の武装組織はそれぞれ目標や利害が異なり、国軍に対して足並みのそろった戦いを展開できるかは分からない。

国軍がNUGの宣戦布告にひるむとも思えない。むしろ圧倒的な武力で反撃してくる可能性が高い。そうなれば、「もっと激しく長期的な内戦となり、大虐殺によって相手を消耗させる戦い方がまかり通るようになるだろう」と、長年ミャンマーの人権問題に取り組んできたデービッド・スコット・マティソンは語る。
その消耗戦によって残るのは、荒廃だけだ。【9月15日 Newsweek】
*******************

【国際社会にクーデターの正当性を求める国軍 うまくいかない経済運営 残虐行為も】
国軍側は各国の外交官を招いた説明会を開催するなどして、国際社会の「クーデターの正当性」への理解を求めています。そこには、思惑どおりに進んでいない現実への国軍側の“焦り”も

****「クーデターは正当」の主張続けるミャンマー国軍…国際社会復帰に“焦り”*****
(中略)クーデターによる混乱に加えて新型コロナウイルスの感染拡大により、ミャンマー経済は壊滅的な打撃を受けている。世界銀行は2021年度のミャンマーの経済成長率がマイナス18%になる見通しだと発表した。

ラスト・フロンティアと呼ばれ、日本企業を含め多くの海外企業が進出していたミャンマーだが、クーデター後の事業継続は依然不透明な情勢だ。国際社会やミャンマー市民の反発を受けて、国軍関連企業との取引を停止する外国企業も増えている。国軍側はこうした動きを何とか食い止めようと必死なのだ。(中略)

各国に求める「正当性」
国軍が各国に改めて理解を求めたのは、「クーデターの正当性」だ。
まず、アウン・サン・スー・チー氏率いる与党・国民民主連盟(NLD)が圧勝した2020年11月の選挙について、中間調査の結果を発表した。国軍側はクーデター以前から選挙に不正があったと主張し、選挙の無効を訴えてきた。

説明会でもこの主張を繰り返した形だ。会場の入り口にも与党側の不正の証拠とされる写真が大量に張り出されていた。

国軍による市民への弾圧でこれまでに1000人以上が殺害され、逮捕者は8000人を超える。国際社会は弾圧を止めるよう求めているが、国軍側が弾圧を止める動きはない。逆に「抵抗する市民側が起こした事件とその被害」について説明し、治安維持の必要性を強調した。

クーデターを起こしたことや、その後の国家運営など国際社会に何とか自らの主張を認めさせようと躍起となっているのが伺える。(後略)【9月14日 FNNプライムオンライン】
*********************

ただ、内戦は別にしても、国軍による統治はあまりうまくいっていません。
“ミャンマー国軍、為替相場の管理策を撤回 二重相場で混乱、通貨急落”【9月17日 朝日】

国軍による民間人殺害も。
“ミャンマー軍事政権、反政府勢力捜索を理由に各地で民間人虐殺”【9月25日 大塚 智彦氏 JBpress】

【反政府勢力に“二股”かける中国】
国軍に対し制裁を課す欧米とは一線を画している中国・ロシアですが、中国も国軍支援が目立ち、反政府勢力の標的にされるのは避けたいところ。

一定に反政府勢力側の少数民族勢力も支援して“二股”かけているようです。

****中国、政権・反政府勢力双方にワクチン支援 ミャンマー****
中国は、ミャンマー軍事政権に新型コロナウイルスワクチンを提供する一方、政権と敵対する反政府武装勢力にもワクチンを支援している。双方に協力の手を差し伸べることで、混迷を深めるミャンマーでの影響力を拡大する狙いがある。
 
(中略)中国政府はこれまでに、軍事政権に約1300万回分のワクチンを提供した。

軍事政権は感染拡大に歯止めをかけられずにいる。新型ウイルスを完全に封じ込める「ゼロコロナ」を目指す中国としては、2000キロにわたり国境を接するミャンマーからの新型ウイルス流入を警戒している。
 
反政府勢力メンバーがAFPに語ったところによれば、中国政府はワクチンや医療要員、隔離施設用の資材を目立たないように提供している。
 
ヒスイの産地として知られるミャンマー北部を支配する少数民族武装勢力「カチン独立軍」の報道担当者は、中国赤十字の職員が新型ウイルスの感染拡大抑制を支援するため時々やって来ると話した。(中略)

KIAの報道担当者によると、ミャンマーが感染の第3波に見舞われた7月、KIAは拠点とするカチン州ライザで1万人に中国製ワクチンを接種した。中国から医療要員が派遣され、マスクや手指消毒薬も配布されたという。
 
他の少数民族武装勢力「シャン州進歩党」や「タアン民族解放軍」も中国から支援を受けたとAFPに語った。
 
一方、国境の町ムセでは、中国との取引再開を目指す貿易関係者向けに1000床の隔離施設の建設が進められている。現場で働いているのはミャンマー人だが、建設資材は全て中国雲南省当局が提供していることが、AFPの取材で分かった。

■大々的に宣伝されない支援
中国によるこうした支援は、アジア、アフリカ向け支援のように大々的に宣伝されていない。(中略)

ミャンマーを拠点としていた専門家デービット・マシソン氏は、同国の国境地帯に暮らす中国系住民は中国のSIMカードや通貨を使っており、一帯は実質的に中国の一部のようになっていると話した。
 
ミャンマーで武力勢力と国軍の大規模な衝突が起き、2017年のように大勢のミャンマー人が中国に逃げ込んでくる事態になることが中国政府にとっての「最悪のシナリオ」だと、マシソン氏は指摘した。(中略)

香港大学の韓恩澤准教授は、軍事政権は中国による少数民族武力勢力への支援を決して快く思っていないが、他に選択肢はないと指摘した。 【9月25日 AFP】
**********************

少数民族の中には「カチン独立軍」のほか、中国と関係が深いワ州連合軍(UWSA)や中国系少数民族もいます。
そうした勢力との関係を維持することは、中国にとって、国境地帯の中国向けガスパイプライン等の権益保護にもなりますし、万一、国軍側が敗退した場合の「保険」にもなります。

反政府勢力をめぐる水面下の中ロの動きとしては、国連を舞台にしたアメリカとの駆け引きもあるようです。

****国連総会、ミャンマーの演説が見送りに 米国が中ロと水面下で合意か****
米ニューヨークの国連本部で開催中の国連総会一般討論演説で、今年はミャンマーの代表が発言しないことが決定的となった。国連のハク副報道官が24日夜、「現時点でミャンマーが話す予定はない」と取材に答えた。
 
一般討論演説は、国連に加盟する193カ国の首脳らが自国の政策などを内外に向けてアピールする場で、演説見送りは異例だ。今年は22日に始まり、ミャンマーは最終日の27日、チョーモートゥン国連大使が演説するはずだった。(中略)
 
チョーモートゥン氏は、国軍がクーデターを起こす前の昨年10月に就任。クーデター後は、国軍を公然と非難してきた。それに対し、国軍は「解任」や「訴追」を言い渡し、自らに近いアウントゥレイン氏を新たな国連大使として任命した。
 
複数の米メディアによると、国軍と一定の関係を保つ中国やロシアが、チョーモートゥン氏が演説を見送れば、当面は国連大使の座に異議を唱えないと、米国と水面下で合意したという。(後略)【9月25日 朝日】
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“(反国軍の)チョーモートゥン氏が演説を見送れば、当面は国連大使の座に異議を唱えない”というのは国軍としても不服でしょうが、“他に選択肢はない”力関係の現実でしょう。

あと興味深いところでは“ミャンマー民主派弾圧を支える、ウクライナの武器輸出──人権団体報告書”【9月14日 JBpress】といった記事も。
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中国  「共同富裕」段階への社会移行を主導する習近平主席の強烈な自負心

2021-09-24 22:17:39 | 中国
(2021年8月29日、世界各地の高級ブランド店が集まる北京中心部のビルの前で休憩する配達員(左手前)。都市部では富裕層が増える一方、低賃金の労働者との格差が広がっている=北京市朝陽区、林望撮影【8月30日 朝日】
習近平主席が目指す「共同富裕」社会は新たな社会主義ステージか? 毛沢東的な混乱・共同貧困への逆行か?)

【習近平主席が目指す今後の中国社会の方向性を占う「恒大集団」救済問題】
33兆円もの巨額負債を抱えた中国・不動産業界の大手企業「恒大集団」の経営危機に伴う混乱・不安は未だ続いています。

****警察が排除も…恒大集団への抗議活動続く****
およそ33兆円もの負債を抱え、経営不安に陥っている中国の不動産大手「恒大集団」の債権者らが北京で抗議活動を行い、警察に排除されました。

北京にある恒大集団の関連施設には、1億円以上を投資した人など債権者およそ20人が集まり、抗議活動を行いました。警察は一部の債権者について、強制排除に乗り出しました。

女性「私何もしていないわよ!」 警察「いま俺たちを侮辱しただろ」

恒大集団は23日、社債の一部の利払い期限を迎えましたが、最終的に支払われたかどうか、会社側は公式な発表を行っていません。

恒大集団は投資家向けに相談窓口を設置していますが、24日訪れると稼働していませんでした。

約1000万円投資した女性「長年少しずつ貯金してきたお金を投資したんです」

許家印前会長は22日、「投資家への支払いを断固として実行する」と表明しましたが、対応は追いついていないとみられます。債務不履行への不安は依然、続いています。【9月24日 日テレEWS24】
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万一、「恒大集団」が債務不履行に陥った場合、中国経済への影響だけでなく、中国経済の混乱の世界経済への波及も懸念されるところで、日本や欧米株式市場もその動向を見ながら上下しています。

しかし、私個人の関心は9月17日ブログ“中国 不動産大手「恒大」の経営難を習近平政権は救済するのか? 「文革」の“生贄”とするのか?”でも取り上げたように、鄧小平以来の改革開放路線による中国経済成長の申し子とも言えるこの巨大企業を習近平政権が救済するのか? 救済するならどういう形で? ということにあります。

その気になれば、従来の同様事例のように救済はできるのでしょうが、おりしも習近平政権は「文化大革命」とも評されるようなIT産業・不動産産業・エンターテイメント・芸能界・教育産業・市民生活におよぶ広範な分野で国家・党の統制・管理を強める動きを見せており、経済成長に伴う格差・歪を是正する「共同富裕」社会の建設をめざして、社会主義の原点、毛沢東的世界への回帰を目指す色合いを強めています。


社会主義の精神に沿わない、資本主義的金儲けに走る巨大企業、そこに群がる投資家を、そうした「変革」を社会に明確に示すための「生贄」として見殺しにする可能性もあるように思えます。

【「破私立公」「共同富裕」という社会主義社会の原点の実現を目指す習近平版「文化大革命」】
****習近平「第二文革」序曲:改革開放の「勝ち組」バッシングが止まらない****
強権化一途の習近平政権が「第二文革」を目指しているとの観測が強まる一方だ。京劇の改革、若手タレントやIT企業への締め付け、そして突如打ち出した共同富裕論――。そこからは新しい「破私立公」の姿が見えてくる。

「魂の革命」と讃えられた文革
毛沢東が発動した文化大革命(1966〜76年)は、後に「大後退の10年」と批判され、毛沢東が失った最高権力の座を奪還するための権力闘争絵巻と冷めた目で捉えられがちだ。だが、1966年の発動当初は人類空前の「魂の革命」と大いに讃えられていた。

「魂の革命」とは過去に見られた社会革命でも政治革命でも、ましてや中国古来の易姓革命でもない。誰もが「偉大なる領袖」に忠誠を誓い、毛沢東が掲げる「為人民服務」を活学活用し、「私」を捨て「公」に尽くすための絶え間なき自己改造である。

「破私立公(私ヲ破リ公ヲ立テル)」を実践することによって中国が邪悪な資本主義へ転落することを阻止し、毛沢東式社会主義ユートピアへの道を邁進することができると強く喧伝されたものだ。(中略)

想起すべき文革前夜の2つの動き
文革が発動される数年前から、中国では政治とは直接的な関係が認められそうにない領域で、2つの動きがあった。
 
1つが伝統京劇の全面否定と京劇の現代化だ。旧来の京劇を悪しき封建社会の残滓と捉え、新しい時代は「革命現代京劇」と呼ばれる新しい京劇によって表現されるべきだ、という考えに基づいて推進された京劇革命という試みである。(中略)

残る1つが模範的人物学習運動である。毛沢東思想を体現し、「公」のために自らを捧げた若き解放軍兵士や農村基層幹部を称えるキャンペーンが全国規模で、華々しく展開された。(中略)

京劇を革命する一方、全国民に雷鋒、王杰、焦裕禄――「破私立公」の理想的人間像を示す。後から考えれば、それが文革への序曲だった。そして革命現代京劇の主人公と雷鋒、王杰、焦裕禄らによって「魂の革命」は可視化され、彼らを手本に全国民が自らを改造する。

こうして毛沢東による文化大革命が本格始動したわけだ。

習近平政権が求める“理想的な中国人像”
それを習近平政権にあてはめてみると、『中國京劇』(中華人民共和国文化和旅游部主管/全国中文核心期刊)は2018年2月号で《陳廷敬》を特集して以来、《手鏡》、《貞観盛事》、《大舜》などの新編歴史劇を「習近平総書記が行った一連の重要な精神講話」をアピールする演目として推奨してきた。ここ2、3年の間に創作された新編歴史劇からは、あたかも毛沢東による文革発動前夜の雰囲気が感じられる。(中略)

そして、このような「破私立公」を讃える動きと呼応するかのよう、習近平政権は若手タレントを批判の俎上に載せている。中略) 

「劣跡芸人」の「劣跡」ぶりを暴露・糾弾することで、豊かさに狎れてしまった社会に警告を与える。いわば「劣跡芸人」を反面教師に仕立てることで、新しい時代の「破私立公」の姿を指し示そうしているようにも思える。

共同富裕を「前人未踏の全面的改革」と絶賛する極左作家
さらに、これとあわせて習近平政権が打ち出しているのが「共同富裕」である。
 
昨年10月下旬、阿里巴巴(アリババ)集団創業者の馬雲(ジャック・マー)の失踪騒ぎが起こり、今年1月20日にはIT長者たちの集まりである泰山会が解散を表明。その後、習近平政権は阿里巴巴集団をはじめとする巨大IT企業集団に対し、独禁法をテコにした露骨とも思える締め付けを始めた。

8月17日に開催された中央財経委員会で、「共同富裕は社会主義の本質的要求」であると説くと、ネットビジネス長者たちが貧困対策・格差解消のために巨額資金の提供を申し出た。
 
すると8月27日、「誰もが感ずることが出来る。まさに深刻な変革が進行中!」と題する論文が発表され、人民網、新華網、中華軍網に加え『光明日報』などの官製メデイアに転載され全国に拡散した。筆者は「極左作家」とされる李光満だ。(中略)

はたして鄧小平以来の「先富論」が生み出してしまった極端な格差社会を「破私立公」によって根本的に改め、「瑞々しく、健康で、明るく、力強く、強靱で人民を基盤とする文化」が招き寄せる「共同富裕」を目指そうとでもいうのか。(中略)

後に四人組の1人に収まった姚文元が1965年11月に『文匯報』紙上に発表した「新編歴史劇《海瑞罷官》を評す」が文革の口火を切ったことを思い起こすなら、李光満が「第二の姚文元」の役回りを演じていると見立てられないこともないだろう。

中国現代社会が「破私立公」へと転換するのか
このように昨秋からの一連の動きを振り返ってみると、3期目必至とされる習近平政権が「共同富裕」を打ち出した次のような狙いが思い浮かんでくる。
 
長期政権の正統性の根拠に「社会主義の本質的要求」の実現を置き、「共同富裕」によって国論を統一し、ジョー・バイデン米政権を軸に展開される中国包囲網という“逆風”に立ち向かう。そのための大前提として、新しい時代の「破私立公」を国民に求める――。(後略)【9月15日 新潮社Foresight】
**********************

【新たな社会主義社会への移行を実現できるのは自分しかいないという強烈な自負心】
鄧小平の改革開放路線による経済発展が作りだした中国の現実が、鄧小平理論では収まりきれなくなり、新しい理念ないし理論を必要としていおり、その問題への回答が習近平の掲げる「中国の夢」であり、「共同富裕」と考えられます。

****中国で進められる「習近平思想」の確立と普及****
8月28日付の英Economistが、最近中国で多く作られている習近平の考え方を学ぶ研究センターについて、その影響などについて分析している。多くの研究者が動員され、習近平の地位の強化に利用されている。次の党大会での習近平の留任のためかもしれない。
 
習近平と、そのインナーサークルが、新時代のマルクス主義、マルクス主義の中国化と称して、正に「習近平思想」を作り上げようとしていることは間違いない。理由は多々あり、長期政権を目指すためだけではない。

まず、中国社会の現実が、新たな理念を必要していることは間違いない。鄧小平の解決すべき課題は、地に落ちた共産党の威信と国民の信頼を取り戻すために、いかにして経済を発展させるかにあった。

しかし、その経済発展が作りだした中国の現実が、鄧小平理論では収まりきれなくなり、新しい理念ないし理論を必要としている。鄧小平が超大国になってから何をすべきか語ったことはない。「中国の夢」は、それへの回答でもある。
 
次に、その社会を統治する共産党の現実が、新たな理念ないし理論を必要としている。そこで巨大化した組織を再構成する必要があり、その根幹に「規律」と「法治」を据えた。さらに、党内に多くの敵を作り、アメよりもムチを多用する習近平にとり、最後の支えは国民の支持となる。
 
先祖返りのように「人民第一」を強調しているのは、社会の不安定化を避けると共に、国民の多数を味方につけ、党内を牛耳る算段でもある。先進大企業たたきや経済分野への積極的介入も国民対策だ。

しかし、如何にして発展の原動力である民間企業のやる気を持続させるかという難問に逢着する。【9月16日 WEDGE】
*********************

鄧小平的な改革開放のもとでの資本主義と社会主義を合わせたハイブリッドモデル、国家資本主主義は過渡期的段階であり、やがては“まっとうな”社会主義、毛沢東が思い描いた世界へと移行するというのは、社会主義理論からすればオーソドックスな発想でしょう。

その「変革」を主導するのが自分であるというのが習近平主席の強烈な自負です。彼が異例の長期政権・権力に拘るのも、その「変革」を成し遂げられるのは自分をおいて他にはいないという自負からのことでしょう。

****習氏の資本主義締め付け、毛沢東思想への回帰****
共産党が資金の流れをかじ取りし、金もうけの手綱引き締めを目指す

中国の習近平国家主席の民間企業に対する締め付けは、見た目よりもはるかに野心的な取り組みであることが、一段と明らかになりつつある。
 
習氏は、IT(情報技術)企業など大手数社を抑圧し、誰が中国のボスであるかを示そうとしているだけではない。
中国が数十年かけて進めてきた西洋式資本主義への進化を巻き戻し、同国に全く別の道を歩ませようとしている。習氏の著作や中国共産党幹部との議論内容を詳しく調べ、政策決定に携わる複数の人物に取材した結果、明らかになった。
 
鄧小平が中国で初めて経済改革に踏み切ってから40年、共産党の指導者たちは概して、市場原理が繁栄する余地を広げてきた。それは何億人もの人々を貧困から脱却させ、何兆ドルもの富を生み出すことになった一方で、腐敗のまん延を招き、共産党の支配を継続させてきたイデオロギー的な基盤が損なわれることにもなった。
 
習氏の優先事項に詳しい複数の関係者によると、同氏は今や民間資本が自制を失い、党の正統性を脅かしていると考えている。毛沢東は資本主義を社会主義に向かう途上の過渡的段階と見なしていたが、習氏は中国をそうしたビジョンに強制的に回帰させようとしていることが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の調査で明らかになった。
 
WSJの調査によると、習氏は市場原理を根絶やしにするつもりはない。しかし、党が資金の流れをもっとかじ取りし、起業家や投資家、彼らの金もうけに対する条件を厳格化し、経済を今以上に統制する国家を望んでいるようだ。つまり、いつか世界最大になる可能性を秘めた経済のビジネスルールを書き換えようとしているということだ。
 
習氏は1月の演説で「中国は新たな発展段階に入った」と宣言。その目標は「現代の社会主義国」を築くことだと述べた。
 
WSJの集計によると、習氏の方針見直しによって昨年終盤以降に発動された規制措置や政府指令、政策変更は100件以上に上る。これには、電子商取引(EC)の巨人アリババグループやコングロマリット(複合企業)のテンセントホールディングス、配車アプリ大手の滴滴(ディディ)グローバルなどの企業による市場支配を阻止する措置も含まれる。
 
政府が最近講じた住宅価格抑制策は、多額の負債を抱えた不動産開発大手、中国恒大集団の資金繰りを悪化させ、世界の市場を冷え込ませている。中国政府が、多くの国有企業を救済してきたように同社を救済する可能性は低いとアナリストはみており、他の民間開発業者に対する規制をさらに強化する可能性もある。
 
習氏は、さらに踏み込んだ措置を取ることを示唆している。同氏は8月に開かれた指導部の会合で、富のより公平な分配を求める「共同富裕」という目標を強調した。その達成に向け、政府による経済へのさらなる介入策や富裕層に成功の果実を分配させる一段の措置が取られる可能性がある。

国営メディアが8月29日にネットで配信した論評では、これを国にとっての「抜本的な革命」と呼んでいた。
 
米カリフォルニア大学サンディエゴ校の中国経済専門家、バリー・ノートン氏は「習自身は、世界のどこにも存在しない新しい種類のシステムに移行していると考えている」と指摘。「私からすれば、それは『政府主導型経済』だ」と述べた。
 
多くの国が産業や労働、市場を綿密に規制し、金融政策を策定し、景気浮揚のために補助金を支給している。だが習氏は、政府が経済や産業を好きな方向に導き、民間資源を国力の強化に振り向けられるレベルの統制力を持つようにしたいと考えている。
 
中国と習氏にとっての大きなリスクは、そうした強引さが、中国の好景気と長年にわたるイノベーション(技術革新)をけん引してきた起業家精神の多くを抑圧する結果になることだ。(中略)
 
習氏は自らのビジョンと西欧式資本主義との違いについて、中国では「資本は人民に奉仕するもの」であることだと内部の会議で述べている。
 
同氏が資本主義的精神に惑わされていると見なした産業はITだけではない。塾やデジタルゲーム、エンターテインメントなどの産業も、即座にその影響を受けた。

一方、習氏の統治下で既に力を増大させていた国有企業は、デジタルデータの管理など、民間企業が開拓したものの国家安全保障にとって重要と見なされつつある分野に進出している。
 
国有企業を監督する国務院国有資産監督管理委員会(国資委)の活動に詳しい複数の関係者によると、国資委はデータ保存に向け、政府が管理するクラウドサービス会社をさらに設立することを計画している。そうしたサービスはこれまで、アリババやテンセントなどの民間企業が独占していた。(中略)

習氏の行動の背景には、毛沢東の開発理論に根ざしたイデオロギー的な嗜好(しこう)がある。国家資本主義は、中国経済が欧米に追いつく手助けをする一時的な段階にすぎず、いずれ社会主義に取って代わられる、というのがその理論だ。
 
毛沢東の熱烈な信奉者である習氏は、資本主義と社会主義を合わせたハイブリッドモデルの消費期限が切れたと党員に説いている。
 
党の主要な理論誌「求是」に掲載された2018年の記事は、習氏の信念をあらわにしていた。「中国の実践によれば、社会主義改造が完了すれば、公有制を主体とした基本的な社会主義体制が確立され(中略)過渡的な経済形態としての国家資本主義は、その歴史的使命を終え、歴史の舞台から撤退する」

他の場面では、習氏はもっと単刀直入だ。「中国的な特色を持つ社会主義が社会主義であり、他の『主義』ではない」と同氏は2013年1月に党指導部に語った。関係者によると、習氏は以降、党員にたびたびそう警告している。
 
資本を厳しく取り締まる中、汚職や貧困対策のおかげで、党の本来の基盤である労働者階級や農村部の貧困層の間では、習氏の人気が高まっているようだ。
 
岩場が多く大規模農業が難しい南部の江西省興国では、一部住民の居間の壁には習氏の肖像画が飾られている。かつては毛沢東の写真が飾られていた。
 
現地の住民は、貧困世帯に現地当局者をあてがうなど、習氏の的を絞った対策を評価している。

Zhongという名字の住民は2020年春に現地を訪れたWSJの記者に対し、「これまでの指導者たちも、貧しい人たちの支援を口にしていた」とした上で、次のように続けた。「でも、彼は私たちのことを本当に気にかけてくれている」【9月24日 WSJ】
*******************

党の本来の基盤である労働者階級や農村部の貧困層を味方につけて、資本主義的価値観に堕した反革命分子を追い落とす・・・・というのが習近平版「文化大革命」でしょう。

問題は、そういう「共同富裕」世界で、これまで中国の好景気と長年にわたるイノベーション(技術革新)をけん引してきた起業家精神をどうやって維持するのか・・・というこにあるというのは、大方が指摘するところです。
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監視社会  中国だけではない顔認証技術の実用化 日本のJR東日本の事例

2021-09-23 23:05:42 | 監視社会
(シンガポールのホームチーム科学技術庁による商業地区や住宅地を巡回するパトロールロボットの実証実験(2021年8月6日撮影)【9月7日 AFP】

【パトロールロボットやドローンによる監視、顔認証チェックも】
短いトピックス記事みたいなものですが、妙に印象に残ったのが下記のシンガポールに関する話題。

*****規則を守ってるかな? ロボット巡回中 シンガポール****
シンガポールのホームチーム科学技術庁は、商業地区や住宅地を巡回するパトロールロボットの実証実験を実施している。
 
期間は3週間。6日には、市中を巡回し、公の場での喫煙や5制限を超えた人数による集まりなど社会的に不適切な行動をとらないよう呼び掛ける姿が見られた。 【9月7日 AFP】
******************

パトロールロボットは別にシンガポールだけのものでもありませんが、規則がうるさい管理社会シンガポールのイメージと重なって印象が強まったのでしょう。

愛嬌のあるロボットではなく監視ドローンが街を飛び交うとなると、気味悪いものがあります。

実際、コロナ対策で外出・集会が制限されていた頃の中国ではドローンが監視に飛んで、何人かの集まりを発見すると「自宅に戻りなさい」と警告するようなことも昨年段階で行われています。また、マスクをはずと「マスクを着けなさい」という警告も。

そうしたドローン監視は中国だけでなくスペインなど“西側諸国”でも行われていました。

こうしたロボットやドローンにAIが利用され、顔認証技術で人々をチェックするというのも、技術的にはすでに可能でしょう。実際そういう技術がすでに稼働しているのかどうかは知りませんが、そうなると・・・・監視社会の息苦しさを感じてしまいます。

【中国 2億台の監視カメラで24時間監視 犯罪捜査で威力発揮】
もちろん、顔認証技術は犯罪捜査などでは絶大な威力を発揮します。
この手の話になると、やはり中国です。

****中国警察「4年間で1万人の逮捕に貢献」の顔認証システム。政府支援で大躍進****
友だちの結婚式で撮った集合写真をFacebookにアップロードしようとして驚いたことはないだろうか。Facebook上で友だちになっている人(のうち顔写真がプロフィールやタイムラインで公開されている人)が自動認識され、投稿へのタグ付けをうながされる。現在の画像認識技術をもってすれば、このくらいのことは何でもない。(中略)

中国の銀行400行に顔認証システムを提供
だが、顔認証分野では世界最先端を突っ走る中国では、こんなことで驚いていたら身が持たないかもしれない。香港メディアのサウスチャイナ・モーニング・ポストは3月28日、こんな衝撃的なタイトルの記事を掲載した。

「中国警察当局による1万人の犯罪者逮捕に貢献した、政府支援のAIユニコーン」

このユニコーン(非上場ながら企業価値が10億ドル=約1110億円を超えるベンチャー)は、中国南部・広州市に本拠を置き、人工知能(AI)を使った顔認証技術の開発を進めるクラウドウォーク・テクノロジー(以下、クラウドウォーク)を指す。

同社の顔認証技術は、中国31行政区(自治区・直轄市含む)のうち29の警察で使われ、1日あたり約10億人分の顔をデータベースと突き合わせ、過去4年間で1万人を検挙するのに貢献してきたという。

とりわけ大口の顧客は銀行で、中国4大銀行と呼ばれる中国銀行と中国農業銀行、中国建設銀行、中国工商銀行を含む400行のATMの顔認証システムとして採用されている。1日あたりの取引(に伴う顔認識)量は2億1600万件にものぼる。

また、同社は広州市から約3億ドルの補助金を受け取るなど(2017年実績)、行政との結びつきも深く、中国国家発展改革委員会の進める高精度顔認証プロジェクトでは、政府推奨企業にも名を連ねている。(後略)【2019年4月2日 川村 力氏 BUSINESS INSIDER】
***********************

****中国の監視網、数秒で20億人識別 プライバシー侵害か****
中国の街頭や公共施設などには、あらゆる場所に監視カメラが設置されており、その多くが人工知能(AI)を搭載した顔認証システムと連動しているとされる。逃亡犯の逮捕や犯罪抑止に効果を上げる一方、プライバシーの侵害を指摘する声もある。

中国当局、ウイグル巡り監視リスト 日本人895人記載
上海市当局がネット上で管理していたとみられる、日本人も含む大量の個人情報データについて、専門家はデータから入手できる顔写真と監視カメラを利用すれば、対象者を常に監視できると指摘する。
 
中国メディアによると、2018年に中国各地で開かれた「香港四天王」と呼ばれた人気歌手、張学友(ジャッキー・チュン)さんによる全国ツアーの各地の会場で、様々な事件で指名手配されるなどして当局が行方を追っていた容疑者たちが次々と拘束された。会場内に設置された監視カメラで映し出された容疑者の顔と、警察が持つ顔写真データをAIが照合して見つけ出したもので、全国で計約60人が拘束された。

BBC記者、わずか7分後に「拘束」
「張さんの大ファンでコンサートをどうしても見たかった。大きな会場内で、まさか見つかるとは思わなかった」。経済事件で指名手配中に、江西省南昌の約6万人の会場で拘束された容疑者の男は、調べに対してそう供述したという。
 
こうした監視網は「天網(悪事を逃さないよう天が張り巡らせた網)」と呼ばれる。数秒間で20億人を識別して、対象となる人物を特定できるとされるシステムだ。英調査会社「コンパリテック」は、中国内には約2億台の監視カメラがあると推計。中国全土の公共施設をほぼカバーしているという。
 
英BBCの記者が17年、中国南部・貴州省貴陽市の警察当局の協力を得て、「天網」システムの実験をした。自身の顔写真を提供してシステムに登録。「指名手配犯」として警察署から逃亡を図ったものの、わずか7分後に「拘束」された。
 
このシステムによって検挙率は上がったものの、プライバシーの侵害も問題になっている。中国各地の警察当局は、信号無視などの交通違反をした人の顔写真や氏名、身分証番号を街頭テレビで映し出している。
 
また、当局が警戒する少数民族や人権活動家らの監視強化にもつながっている。人権活動に取り組む中国人弁護士は「かつてのような当局による尾行はなくなったが、『天網』によって24時間、居場所を把握されるようになり、活動が難しくなっている」と語る。【6月9日 朝日】
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【中国でも、無秩序な利用には批判・制約も】
ただ、「何もしていないなら、恐れる必要なない」ということで、こういう「監視」に対する抵抗がほとんどないように思われる中国でも、無秩序な利用には批判・制約もあるようです。

****急速に広がる顔認証技術に市民が不満 中国・最高裁が使用制限****
中国では生活のあらゆる場面で個人の識別に顔認証技術が導入されている。プライバシーの侵害や犯罪に悪用される不安から批判が高まり、最高人民法院(最高裁)は7月下旬、商業目的の顔認証技術の使用を制限する見解を示した。
 
スマートフォンのロック解除、飲食店での注文や支払い、勤務先への入居、ショッピングモールの買い物、銀行、空港、ホテル、さらには帰宅時のマンションの入り口…。中国の市民は朝から晩まで、1日に何度も顔認証を求められるのが当たり前となった。

中国の警察は犯罪抑止や指名手配容疑者の追跡のため街角に防犯カメラ設置を進めており、中国メディアも「社会の安定に貢献」と肯定していたが、最近は風向きが変わってきた。

顔認証で撮影された顔写真が裏ルートで流通し、本人の銀行口座などが特定されたり、本人になりすました犯罪が行われていたりする懸念が広がっている。裏ルートでは、数千枚の顔写真がわずか2元(約34円)で売買されているという。

企業が勝手に客の顔認証情報を収集する動きも目立っている。「世界消費者権利デー」の3月15日に合わせて著名企業の不正を告発する中国国営テレビの番組「315晩会」は、ドイツのBMWや米国のユニットバスメーカーのコーラー(Kohler)、イタリアのアパレル大手マックスマーラ(Max Mara)などが中国の店舗で顔認証カメラを設置し、同意を得ずに来店者情報を保存していたと報道した。
 
顔認証をめぐっては2019年、浙江理工大学法学部の郭兵副教授が、浙江省杭州市にある杭州野生動物世界を提訴した。

年間パスポートを購入した後、本人確認の方法を顔認証システムに一方的に変更され、「顧客の同意なしに生体情報の収集を強制するのは消費者権益保護法違反」と主張した。「顔認証を巡る中国初の裁判」と注目され、杭州中級人民法院は今年4月、一方的な変更は契約上のルール違反と判断を下した。
 
清華大学法学部の労東燕教授は昨年3月、自分が住む集合住宅の各入り口に顔認証出入管理システムが設置されるとの通知を見て、不動産管理会社と住民委員会に「同意なく個人の生体情報を収集することは法律に違反する」と抗議。顔認証システムは無期延期となった。
 
こうした問題を受け、最高人民法院は7月28日、人工知能(AI)で個人の顔を識別する顔認証技術の使用に関する規定を公表。

ホテルや商店、駅などでの顔認証技術の使用は違法とし、アプリなどで使用する場合は消費者の同意を得るよう求めた。「同意しなければサービスを提供しない」という規定も違法とし、マンションの出入りに顔認証を使う場合は同意しない人のために代替手段の提供を義務付けた。

顔認証装置は数万円で購入でき、個人が私的な目的のため顔情報を収集できることも可能だ。急速に広がる顔認証システムに、一定の歯止めがかけられた形だ。【8月24日 東方新報】
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上記記事タイトルは“急速に広がる顔認証技術に市民が不満 ”とありますが、紹介されている事例はいずれも法学部教授の訴え。一般市民の理解とはやや異なるかも。

【日本でも JR東日本「社会的合意・議論なし」に刑務所からの出所者、仮出所者の顔認証監視】
こうした話は、海の向こうの中国などでの話かと思っていましたが、日本でも。

****「硫酸男」スピード逮捕のウラで…実はJRが「顔認証カメラ」を導入していた****
「駅名は明かせませんが、約110の駅のコンコースなどに設置したおよそ5800台の監視カメラの一部に、顔認証機能を搭載しました。マスクをつけていても、不審者の顔を判別できる能力があります」(JR東日本広報) 

JR東日本が、ひっそりと「顔認証監視カメラ」を導入したことをご存じだろうか。駅利用者の顔と、登録されている犯罪容疑者や不審者の顔をリアルタイムで照合し、検知しているというのだ。  

五輪開幕に合わせて、7月から導入していた。顔データの出元や最終的な情報提供先は「答えられない」と言うものの、警察とみて間違いない。  

先月24日夜、東京・港区で男性に硫酸をかけた男は、JR品川駅から新幹線に乗って逃走した。男は28日にスピード逮捕されたが、この捜査にも顔認証監視カメラが活用されたとみられる。  

捜査に役立つなら、問題ないと思うかもしれない。しかし、顔の画像を無差別に収集されるのはあまり気持ちのいい話ではない。

ITジャーナリストの三上洋氏が言う。  
気がかりなのは『誰がどんな基準で顔リストを作っているのか』『集めたデータが何日間保存されるのか』が不明な点です。  

欧米では一部の国や州で同様の監視カメラの規制が始まっています。一方、日本ではまだ規制が一切なく、データの利用状況を監視する第三者機関もない。悪用されても気づけないのです」  

さらに心配なのは、情報漏洩のリスクだ。映像のデータはJR東日本が委託する警備会社が管理・チェックするという。  

「考えたくないことですが、もし委託先の会社に悪意ある人や外国人スタッフがいて、そこから情報が漏れた場合、責任をとれるのでしょうか」(前出・三上氏) 

顔認証監視カメラは、あくまでも五輪・パラリンピック期間中の警戒用というが、今後、警察がこの技術を放っておくとは思えない。日本も中国なみの監視国家になってゆくのか。  【『週刊現代』2021年9月11・18日号より 週刊現代(講談社)】
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駅構内には、「顔認証機能」が付いた防犯カメラが作動していることを伝えるステッカーが掲示されてはいるようです。

このJR東日本の顔認証システムは、刑務所からの出所者、仮出所者の一部を駅構内で検知する仕組みも含まれていましたが、21日、JR東日本は「社会的なコンセンサスがまだ得られていない」として取りやめたとのこと。

****「駅で出所者を顔認識」中止 JR東、導入に「社会的合意なし」****

(駅構内で、「顔認証機能」が付いた防犯カメラが作動していることを伝えるステッカー=JR東日本提供)

主要駅の安全対策としてJR東日本が7月から、顔認識技術を用いて刑務所からの出所者、仮出所者の一部を駅構内で検知する仕組みを導入していたことがわかった。

JR東の施設などで重大事件を起こした人を想定。国の個人情報保護委員会と相談して判断したとしていたが、同社は21日、「社会的なコンセンサスがまだ得られていない」として取りやめた。
 
同社によると、検知対象として、指名手配中の容疑者や駅で不審な行動をとった人に加え、乗客らが狙われたテロ事件などで服役した出所者や仮出所者を想定していた。痴漢や窃盗などは対象外という。
 
容疑者として逮捕された時点で報道された顔写真などをデータベースに登録。出所後、駅構内に設置した顔認識機能がある防犯カメラに映ると自動的に検知する仕組みで、駅の警備員らが声をかけ、必要に応じて手荷物を調べるケースを想定していた。
 
同社は、事件の被害者らに出所や仮出所を知らせる「被害者等通知制度」に基づき、被害者の立場で出所者情報の提供を受ける立場だという。

主要110駅や変電所などに、ネットワーク化されたカメラ8350台を設置し、東京五輪・パラリンピックへ向けた安全対策として7月6日に運用開始を公表したが、出所者情報を取り扱うかどうかなど具体的な運用方針は明らかにしていなかった。
 
JR東が一部出所者らを顔認識の検知対象にしていたことについては、読売新聞が21日に報道した。JR東は9月時点で出所者、仮出所者の登録がないとした上で「新聞報道や外部からの意見を踏まえていったん軌道修正し、当面はやらない」と説明した。指名手配者や不審者を対象とした運用は継続するという。

JR東海は「東海道新幹線などすべての駅で、顔認識機能がある防犯カメラは導入していない」とした。JR西も「具体的な検討はしていない」と説明。国の「情報通信研究機構」(東京)が過去に大阪駅の駅ビルで通行人の顔を撮影する実証実験を検討したが「プライバシー権の侵害」などと反発があったという。
また、JR九州も駅での顔認識カメラの設置はなく、「現時点で予定もない」としている。

 ■防犯目的、個人情報の扱いは
顔認識機能があるカメラで駅利用者らを撮影し、出所者を検知する仕組みに法的な問題はないのか。
 
まず、通勤客ら駅利用者の顔の特徴などの顔認識データを撮影・検知することについて、個人情報保護委員会は「本人同意は不要」と判断している。顔認識データは、本人の同意なしの取得を禁じている「要配慮個人情報」にはあたらないとの理由からだ。
 
利用目的の通知または公表は義務づけられている。同委は今月に更新したガイドラインに関する「Q&A」の中で、顔認識データを利用する際は、カメラの設置場所などにデータの利用目的や問い合わせ先の明示が必要との見解を示した。同委はこの点についても、JR東日本は7月時点で駅などで通知をしているとみて問題ないとの立場だ。
 
また、個人情報保護法では、服役していたという情報は「要配慮個人情報」にあたり、取得には本人同意が必要だが、法令に基づく場合や人の生命、身体、財産の保護のために必要な場合は同意なしに取得できるという例外規定がある。同委は被害者等通知制度に基づいてJR東が提供を受ける今回のケースはこの例外にあたる、とみる。
 
同委事務局の佐脇紀代志審議官は「個人情報保護法は保護と利用のバランスを図っており、今回の防犯という目的に限った利用であればバランスを欠くケースではない」と取材に話した。
 
欧米では近年、顔認識データの取得を禁じる動きが出ている。欧州連合(EU)が4月に発表した人工知能(AI)をめぐる規則案では、警察などによる顔認識データの取得を禁じている。米国では顔認識データの取得を禁止した州や市がある。

 ■ある程度やむなし、ルール決めて
公共施設の防犯カメラに詳しい藤井雄作・群馬大教授(安全工学)の話 
対象者の変装や整形も考慮すると、検知精度がどれくらいかにもよるが、逮捕状などが出ている指名手配の場合は問題ない。顔認識での検知は、セキュリティー上必要だ。
 
出所者や仮出所者については、刑期を終えて社会に出た人のプライバシーの問題を含めて、社会的なルールをしっかりと決める必要がある。
 
ただ、こうした顔認識での検知は、安全確保の観点からもある程度はやむを得ないのではないか。

 ■データ、緊急性高い事例のみに
個人情報の問題に詳しい宮下紘・中央大教授(憲法学)の話 
顔認識データは最も厳格に保護するべき生体情報の一つであり、人工知能(AI)など機械による判断で個人が不利益を被る事態は避けるべきだ。欧米では取得そのものを禁じる動きが増えており、JR東日本による駅利用者の顔認識データの取得は欧米の流れと逆行している。
 
服役した人の顔の情報を民間企業のJR東日本が登録し使うことも許されるべきではない。不審な行動をとった人のデータを登録する基準も示されておらず登録内容のチェックもできない。データの取得や使用は防犯目的であっても緊急性の高い事例に限定されるべきだ。【9月22日 朝日】
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いろいろ見解はあるにせよ、社会的合意はもちろん、議論もなしにこういう技術が普及するというのはやはり問題でしょう。


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フィリピン  来年5月の大統領選挙に向けた動き 娘が大統領で父が副大統領?

2021-09-22 23:00:39 | 東南アジア
(ドゥテルテ大統領とサラ・ダバオ市長の父娘 コンビで正副大統領に?【8月30日 現代ビジネス】)

【ドゥテルテ大統領は副大統領に出馬 大統領最有力と見られる長女サラ氏は?】
フィリピンでは来年5月に行われる大統領選挙に向けて、立候補の具体的な話が出始めています。

先鞭をつけたのはドゥテルテ大統領。
連続の大統領立候補は再選禁止の憲法規定によってできませんが、副大統領として立候補するという「奇策」に。

****ドゥテルテ氏、副大統領候補に=来年の比大統領選―権力維持の奇策、違憲の恐れ****
フィリピンのドゥテルテ大統領(76)は、来年5月の大統領選に副大統領候補として出馬することを決めた。与党PDPラバンが24日、明らかにした。自身の権力維持を図るための奇策だが「憲法に反する恐れがある」と懸念も出ている。
 
ドゥテルテ氏は2016年6月に就任した。フィリピン憲法は、大統領職を1期6年までと規定している。大統領を務めた者が副大統領候補として出馬した例はない。

ただ、7月に行われた世論調査で、ドゥテルテ氏は副大統領候補の中でトップとなる18%の支持を得ていた。【8月24日 時事】 
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フィリピンでは、大統領と副大統領は別個に投票されますので、大統領とは敵対する陣営から副大統領が選出されるということがよくあります。

ただ、もし大統領に万一のことがあった場合、前大統領だった副大統領が引き継ぐことが1期に限定している憲法に照らして認められるのでしょうか?

更にドゥテルテ大統領の場合、単に自身が副大統領に立候補するというだけでなく、大統領には長女のサラ氏をたてるのでは・・・という憶測が以前からあり、もしそうなると親子で正副大統領ということにもなります。

****比ドゥテルテ氏腹心、大統領候補を辞退 長女が出馬との見方も****
フィリピンのドゥテルテ大統領の腹心であるボン・ゴー上院議員が2022年の大統領選に出馬しない意向を表明した。これにより、ドゥテルテ氏の娘であるサラ氏の立候補に道が開かれるとの見方もある。

ゴー氏は、与党・PDPラバンへの書簡で、新型コロナウイルス感染対応に注力したいとの考えを伝え、ドゥテルテ氏の政策を受け継ぐ候補を支援するよう要請した。

この日公表された書簡でゴー氏は、「党の仲間からの要望に応えたいが、候補擁立の支援申し出を謹んで辞退する」と述べた。

同氏は、ドゥテルテ氏が副大統領として出馬するなら大統領候補になることにやぶさかでないと発言していた。

ドゥテルテ氏は再選を禁止する憲法により再出馬できないが、反対勢力は任期満了後も影響力を保持したいとみている。

一方、ドゥテルテ氏は、娘のサラ氏が大統領候補に出馬しなければ副大統領候補としての出馬を模索すると宣言している。父娘ともに最近の世論調査では支持率がトップとなっている。

政治アナリスト、ビクトル・マニト氏は、「ドゥテルテ親子が、来年の大統領選で単一候補擁立の戦略で和解した可能性がある」と分析した。

サラ氏は大統領選出馬もあり得ると発言したとメディアが報じているが、政治戦略で父と和解したかに関するコメントを控えた。

候補の正式な届け出は10月に始まる。【8月31日 ロイター】
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“政治戦略で父と和解したか”とありますが、父娘の間で何らかの意見の相違があるのかどうかは知りません。

サラ氏は父ドゥテルテ氏とは別の地域政党に所属しており、“ロイターに対して大統領の仕事には興味がないと語った数カ月後、大統領選への出馬に前向きな姿勢を示した。”【9月9日 ロイター】とのことで、出馬するのか、その場合、副大統領に立候補する父親とはどいう関係になるのか・・・さだかではありません。

父親の跡を継いでダバオ市長を務めるサラ氏は、“こわもて”の父親以上に強気の性格で政治家向きとも言われ、ドゥテルテ大統領が思いどおりにできない唯一の人物とも。

“7月発表の世論調査では(サラ氏は)大統領候補としてトップの28%の支持を得ており、14%のモレノ氏、8%のパッキャオ氏を大きく引き離した”【9月22日 朝日】と、もしサラ氏が出れば、一番大統領に近い位置につけています。

“これまで出馬の意思を示さなかったサラ氏が10月の立候補締め切り間際に出馬を表明するとの観測が根強い”【同上】とも。

【国民的英雄パッキャオ上院議員、マニラ市長のモレノ氏も名乗り】
一方、反ドゥテルテの立場からの有力候補者の立候補も明らかになっています。

まずは国民的英雄でもあるプロボクシング世界6階級の元王者のパッキャオ上院議員。

8月21日、約2年1カ月ぶりとなった試合をラスベガスでWBA世界ウェルター級スーパー王者ヨルデニス・ウガスと対戦し、判定負けで王座獲得に失敗、大統領戦立候補表明と同日に公開された動画で「現役引退」を表明しています。

****パッキャオ氏出馬へ、「反ドゥテルテ」宣言 来年5月に比大統領選****
来年5月のフィリピン大統領選に向けて各陣営の駆け引きが激しくなっている。

ドゥテルテ大統領(76)の長女の出馬が取りざたされる中、与党内ではプロボクシング世界6階級の元王者のパッキャオ上院議員(42)が19日に出馬を表明。野党側は「反ドゥテルテ」勢力の結集を目指す。
 
「国のお金を盗み続けている政府の関係者は刑務所に入ることになる」。パッキャオ氏は19日、与党PDPラバンの派閥の会合で大統領選への立候補を表明しドゥテルテ政権との対決を宣言した。

パッキャオ氏は今年7月まで同党の党首を務め、ドゥテルテ氏の後継候補の一人と目されてきた。しかし6月ごろから政権の汚職や不正を繰り返し批判。その後、パッキャオ氏を追放する動きが出ていた。
 
一方、ドゥテルテ氏は9月8日に開かれた同党主流派の派閥会合で、副大統領選への出馬を表明。ペアを組む大統領候補には側近のボン・ゴー上院議員が選ばれ、与党の分裂が決定的になっている。
 
これを受けて自由党所属のロブレド副大統領は6日、パッキャオ氏との協力を検討する考えを示した。21日夜にはモレノ・マニラ市長の大統領選出馬情報が流れたが、野党側が「反ドゥテルテ」で候補者一本化を図る可能性もある。(後略)【9月22日 朝日】
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上記記事にもあるモレノ・マニラ市長も立候補を表明しています。

****マニラ市長、22年のフィリピン大統領選出馬を表明****
フィリピンの首都マニラのフランシスコ・ドマゴソ市長は22日、2022年に実施される大統領選に出馬すると表明した。

ドマゴソ氏(47)は芸能界で活躍していた頃の芸名、イスコ・モレノとして知られる。大統領選に出馬表明した3人目の候補者で、世論調査では有力候補の一人。

マニラの貧困地域で行われた会見でドマゴソ氏は「フィリピンの大統領選立候補を受け入れてほしい」と述べ、「完璧な政府を与えられないかもしれないが共に良くしていこう」と述べた。

貧民街で生まれ育ち、幼少期は空き瓶などを集めてリサイクル業者に売り、家計を支えた。ある葬式で芸能関係者にスカウトされ、芸能界入りした。

2019年に元大統領のエストラダ前市長を破って市長に初当選。マニラ市長としてきれいな街づくり運動を展開し、かつて露天商がひしめき合っていた繁華街を一掃した。

大統領選には、元警察長官のパンフィロ・ラクソン氏と国民的人気を誇るプロボクサー、マニー・パッキャオ上院議員も出馬を表明している。【9月22日 ロイター】
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南部ミンダナオ島を地盤とするドゥテルテ・サラ氏に対し、北部ルソン島で支持が強いマルコス一族の後継者、元大統領の長男ボンボン・マルコス氏もいますが、最近はあまり名前を聞かないようにも。
前回選挙で副大統領候補として立候補した際には、母親イルメダ夫人が「どうして大統領に出ない」と落胆したとか。

【ドゥテルテ大統領が権力に執着する事情 ICCは超法規的殺人を捜査開始】
ドゥテルテ大統領が副大統領候補として出馬するというように、権力に執着するのは、大統領職を離れた後の自身の保身のため・・・とも言われています。

ドゥテルテ大統領は周知のように「麻薬戦争」での数千人にも及ぶ大量の「超法規的殺人」を主導したとして、「国際刑事裁判所(ICC)」による捜査が始まっています。

****フィリピンの苛烈な麻薬戦争、ドゥテルテ大統領は罪に問われるか****
2022年5月に次期大統領選挙を迎えるフィリピンでは、副大統領に立候補するドゥテルテ大統領も含め、正副大統領の出馬への動きが10月1日の立候補届け出を控えて本格化している。
 
こうした中、オランダ・ハーグにある「国際刑事裁判所(ICC)」が、ドゥテルテ政権で進められた麻薬関連犯罪の捜査手法が「人道に反する罪」の可能性があるとして、このほど本格的な捜査着手を決めた。
 
人権団体などからの報告に基づき麻薬犯罪の捜査現場で警察官らが司法手続きによらずに容疑者を射殺するなどのいわゆる「超法規的殺人」の違法性にICCは早くから注目し、予備的調査に着手したものの、ドゥテルテ大統領はこれを不満とし、フィリピンはICCを脱退している。
 
しかしICCでは「フィリピンが加盟国であった時期の犯罪容疑には捜査権がある」と主張して今回本格的な調査に乗り出すことを決めたのだった。
 
ドゥテルテ大統領側は「捜査協力拒否」を強く打ち出しているが、次期大統領選とも関係して、今後ICC側との捜査を巡る駆け引きが複雑化しそうな気配だ。

現職大統領が、是が非でも副大統領候補の指名を受けたかった事情
(中略)ドゥテルテ大統領が副大統領候補を受けた理由の一つとして「政権の中枢に残ることで次期政権への影響力を残し、在任中の諸問題への批判、司法の訴追を回避する狙いがあるのではないか」と言われている。

無実の市民の巻き添えや誤認殺害も
批判・訴追されかねない最大の問題と目されているのが麻薬犯罪の取り締まり現場における「超法規的殺人」だ。ドゥテルテ大統領としては大統領退任後にICCや国内でその責任を問われたり、司法の訴追を受けたりすることだけはなんとしても避けたいところだろう。
 
麻薬対策は、2016年の大統領就任以降、ドゥテルテ大統領が最も力を注いだ政策の一つだ。ただ取り締まり強化のためとはいえ、警察官による捜査現場での「超法規的殺人」をドゥテルテ大統領は黙認してきた、あるいは積極的に支持した、との批判がキリスト教組織や人権団体、欧米を中心とする国際社会から噴出していた。
 
フィリピンの警察によれば、これまでに約20万件の麻薬関連捜査で「超法規的殺人」で殺害された民間人は約6000人としているが、人権団体などでは実数は正確には不明ながらも警察発表の数倍には上っていると推計されている。
 
実際、麻薬事件とは無関係の人間が殺害されたケースも数多く報告されている。ギャング組織の抗争や私怨に基づく殺人や、人違いや現場での巻き添えで無抵抗・非武装の若年者や少年を殺害してしまったケースなどだ。
 
こうした「異常な状況」がICCを動かし、予備調査に乗り出す事態となった。

国際刑事裁判所を脱退して抵抗
ところが前述のように、ICCのこうした動きを受けてドゥテルテ大統領は2019年にICCを脱退(正確にはICC設立条約であるローマ規定からの脱退)してしまった。
 
これによりフィリピン政府はもはやICCの管轄権、捜査権は及ばないとの態度をとり続け予備捜査への協力を一切拒否してきた経緯がある。
 
ICCの検察局は、フィリピンの弁護士から告発を受け予備調査を進めてきた。今年6月に検察局が提出した資料を調査してきたICCの予審裁判部は、9月15日、フィリピンの「超法規的殺人」について「司法に基づかない民間人の不当殺害の疑いがあり、人道に反する罪、そして殺人罪があったと判断する十分で合理的な根拠がある」として、ドゥテルテ政権による「麻薬戦争」に対する本格的な捜査開始実施を正式に認めたのだった。
 
これにより今後ICC関係者による各種調査、捜査がこれから本格化し、ICCメンバーによるフィリピン訪問、実地での聞き取りや調査も予定されるという新たな事態を迎えることになったのだ。

国際刑事裁判所の捜査官に対し入国拒否も
こうしたICCの動きを受けてドゥテルテ大統領の首席法律顧問であるサルバドール・パネロ氏は9月16日、地元ラジオ局に対して「ICCには一切協力しない」と拒否する姿勢を改めて明らかにした。
 
その理由としてフィリピンがもはやICCを脱退しており、その管轄権も捜査権もないことを指摘して、今後ICC関係者がフィリピンを情報収集や証拠集めのために訪問することがあっても「一切の活動を許さないし、そもそもフィリピンへは入国させない」と態度を硬化させて、全面拒否を貫く方針を内外に表明したのだった。
 
これに対しICC側も一切妥協しない姿勢を改めて強調している。「フィリピンが脱退する前の犯罪容疑には依然としてICCの管轄権があり、捜査は法的に可能」との立場を示し、フィリピンがICCを脱退した2019年までを調査対象とするとしているのだ。
 
麻薬対策も含め、ドゥテルテ大統領の強い指導力に対する国民の支持は相変わらず高い水準を保っているのも事実だが、来年5月の正副大統領選に向けて、ドゥテルテ大統領の麻薬捜査に異を唱えてきた野党側の候補者は改めて「超法規的殺人」などへの批判を強めることが予想される。

政治的不確定要素が増す中で、「副大統領として政権に残り訴追を避ける」というドゥテルテ大統領の戦略にも黄信号がともり始めている。【9月20日 大塚 智彦氏 JBpress】
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“ギャング組織の抗争や私怨に基づく殺人や、人違いや現場での巻き添えで無抵抗・非武装の若年者や少年を殺害”だけでなく、汚職に関与する現職警官が「口封じ」のために都合の悪い人物を殺害するケーズも多々あるようにも言われています。

こうした「麻薬戦争」を一貫して主導してきたのがドゥテルテ大統領です。

この「麻薬戦争」超法規的殺人以外でも、パッキャオ上院議員が追求する現政権の汚職・不正の問題もあります。

こうした追求をかわすため、父娘で権力を固めれば・・・というところでしょうか。

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移民・難民  米テキサス州のハイチ移民「投げ縄」 エーゲ海のアフガン難民「プッシュバック」

2021-09-21 22:20:59 | 難民・移民
(米国と国境を接するメキシコのシウダードアクニャで、食料などを確保するためにリオグランデ川を渡る移民ら(2021年9月18日撮影)【9月19日 AFP】)

【度重なる災害、政治混乱、コロナ禍・・・破綻国家状態のハイチ】
カリブ海の島国ハイチでは2010年1月にM7.0の大地震が起き、31万人超が死亡するという20世紀以降では世界で最も多い犠牲者を出し、国の経済、市民生活も壊滅的な打撃を受けました。

その大地震から立ち直れないまま、2016年10月には、過去10年で最大規模の大型ハリケーン「マシュー」がハイチを直撃し、一部報道では800人を超す死者が出たとされており(ロイター 842人)、市民生活は更に困窮。

更に、今年8月、追い打ちをかけるように再び地震が。死者数は2200人超。

****ハイチ地震で負のスパイラル 支援依存でさらに弱体化する****
<コロナ、ギャング抗争、大統領暗殺──疲弊するハイチ貧困層を直撃した大地震の非情>
マグニチュード7.2の大地震が8月14日に発生したハイチで、被災者のいら立ちが頂点に達している。

救援活動が遅れ、不満を募らせた民衆は建物の倒壊現場に集まって仮設シェルター建設用の防水シートを要求。被災地は大地震の翌々日に暴風雨に見舞われたため、防水シートは以前に増して必需品だ。

大地震の死者数は18日時点で約2200人。負傷者は1万2000人を超え、多くは猛暑の中、屋外で治療を待っている。当局によると、倒壊家屋は5万2000戸以上で、約8万世帯が自宅を失った。

多くの貧困層は大地震で、頼みの綱の食料源や収入源を奪われた。新型コロナウイルスやギャングの暴力、7月の大統領暗殺事件と困難続きのハイチに追い打ちをかける。

大地震の結果、外国からの送金や国際団体の支援への依存が増し、ハイチはさらに弱体化するだろうと、経済学者エツァー・エミルは語る。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」【8月23日 Newsweek】
***********************

"“外国からの送金や国際団体の支援への依存が増し、ハイチはさらに弱体化する。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」”というのは一面の真実であり、どういう支援のあり方がいいのかという議論は必要でしょうが、差し当たりの人道支援は絶対に必要です。

度重なる自然災害に加え、上記記事にもあるように、新型コロナやギャングの暴力、更に7月には大統領が暗殺される、しかも犯行に首相が関与か・・・ということで、政治的にも崩壊状態です。

****ハイチ大統領暗殺、首相が関与か 検察が捜査要請****
カリブ海の島国ハイチで7月、ジョブネル・モイーズ大統領が暗殺された事件で、同国の検察当局は14日、アリエル・アンリ首相に対する捜査を判事に要請していることを明らかにした。

同国の検察幹部は、事件の捜査を担当する判事に宛てた書簡で、アンリ氏が事件発生直後に主犯格とみられる容疑者の一人と電話で話していたことから、同氏の事件への関与についての捜査を要請。移民管理局長に宛てた別の書簡では、アンリ氏の出国を禁じるよう求めた。

7月6日夜から7日未明にかけ起きた事件では、政界や国民から批判を浴びていたモイーズ大統領が、首都ポルトープランスにある私邸に押し入った武装集団により暗殺された。

アンリ氏はその数時間後、事件に関連して指名手配されている元政府高官と電話で話していたとされ、事情聴取のための出頭をすでに求められていた。

事件ではこれまでにコロンビア人18人、ハイチ系米国人2人を含む44人が逮捕されている。襲撃により大統領警護隊にけが人は出なかった。

アンリ氏は事件の数日前にモイーズ氏から首相に指名され、7月20日に就任。国内で悪化している治安を改善し、長らく延期されていた選挙を実施すると約束していた。 【9月15日 AFP】AFPBB News
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こうした状況では災害の復旧・救済にも手が回りません。
“「病院に何もない。水も食料もない」 ハイチ地震、被災地は”【8月24日 朝日】
“レイプの恐怖と隣り合わせ…地震で家失い避難所生活の女性 ハイチ”【9月1日 AFP】

【ハイチからの移民が押し寄せる米テキサス州 米当局は国外退去便を増加 国境警備隊は「投げ縄」】
破綻国家ハイチと海を隔てるのが世界でも最も豊かな国アメリカ。
国家もまともに機能していない状況で、アメリカへ人々が押し寄せるのは、生きていくうえでの現実選択肢として必然的な帰結でしょう。

****橋の下に不法移民1万人超すし詰め、米テキサス州****
米テキサス州で、カリブ海の島国ハイチ出身者を中心とした不法移民1万人以上が橋の下に集められている。米当局が17日、明らかにした。

メキシコとの国境に位置するデルリオのブルーノ・ロサノ市長によると、デルリオ国際橋の下の、税関・国境警備局が管理する地域に不法移民が押し込められている。

不法移民の多くは、大地震が発生し政治的混乱が続くハイチ出身者で、米国に留まることを希望しているとロサノ氏は述べた。

同氏によると、デルリオ国際橋の下に集められた不法移民の数は、16日のうちに約8000人から1万503人に増えた。同地域では橋の下以外でも、2000〜3000人がCBPに拘束されている。

CBPは橋の下について、日陰になっていて熱中症などを防ぐことができ、拘束を待つ間の一時的な待機場所として機能していると説明した。

CBPによると、単身の移民の「大部分」と家族連れの多くは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けた政府の移民抑制政策「タイトル42」に基づいて国外に退去させられる。

「タイトル42に基づき退去させられず、滞在する法的根拠を持たない人に対しては、速やかに退去手続きに入る」とCBPは説明した。

民主・共和両党はジョー・バイデン政権に迅速な対応を求めている。一方、ホワイトハウスは本件についてコメントしていない。

バイデン氏は17日朝、「市民の日」に合わせて演説し、「移民はさまざまな状況から米国にやってくるが、どの世代も米国を強くしてきた」と述べた。

米国では、7月と8月に過去10年以上で最多となる20万人以上の不法移民が流入したが、そのほとんどを国外退去させた。 【9月18日 AFP】
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アメリカはこれまでホンジュラスやエルサルバドル、グアテマラなど中米からの移民圧力にさらされてきましたが、ここにきてハイチからも・・・

アメリカは航空便の数を増やして国外退去を加速させる方針です。

****橋の下の不法移民、米当局が国外退去便の増加で対応へ****
米当局は18日、メキシコとの国境に位置するテキサス州デルリオに押し寄せている1万人を超える不法移民を国外退去させるため、航空便の数を増やしていくと発表した。
 
不法移民らはカリブ海の島国ハイチの出身者が中心で、リオグランデ川の上に架かるデルリオ国際橋の下の、税関・国境警備局が管理する区域に押し込められている。
 
デルリオのブルーノ・ロサノ市長は記者団に対し、1万4000人を超える不法移民らが「拘束されるのを待っている状態」だと説明。地元当局と連邦当局が退去に向けて人員やバス、航空機を派遣していると述べた。
 
米国土安全保障省は、72時間以内に「退去のペースを加速させるために追加の移動手段を確保し、ハイチ行きなどの国外退去便を増やす」と発表。

また、ジョー・バイデン政権が「混雑を緩和し、米本土にいる移民の状況を改善するため」に行動しており、「出身国や通過する周辺各国」と協力していると説明した。
 
テキサス州の共和党議員からは、バイデン大統領に対する批判が上がっている。テッド・クルーズ上院議員はツイッターへの投稿で、「実際に起こっていることを見れば、バイデン政権の非人道的な政策が理にかなっていないことが分かる」と批判した。
 
米政府は7月と8月に国境で過去10年で最多となる20万人以上の不法移民の対応に当たっており、その多くを国外退去させている。 【9月19日 AFP】
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テッド・クルーズ上院議員の言う“バイデン政権の非人道的な政策”云々は、どうしろという話なのか、よくわかりません。

一方、国境警備隊員の“非人道的対応”も問題になっています。

****米大統領報道官、テキサス国境警備隊の「投げ縄」移民威嚇を批判****
米国とメキシコの国境を流れるリオグランデ川の川辺で米入国を求めるハイチ移民らが大量に野宿している問題で、国境警備隊員が馬用の縄を振り回して追い立てる映像が拡散し、サキ米大統領報道官は20日、「不適切で容認できない」と批判した。

川を渡ってテキサス州側にたどり着いた移民たちは、食料や水を買い求めるためメキシコ側にいったん引き返してはまた戻ることを強いられている。

ロイターの目撃情報では、この際に馬にまたがったカウボーイハットの隊員らが移民の行く手を遮り、1人は投げ縄に似た太いひもを移民の顔近くまで振り回していた。明らかに縄で移民を脅している隊員の動画も出回っている。

サキ氏は「自分はいきさつの全容がよく分かっていないが、どんないきさつならこんなことが適切になるのか想像できない」と語った。

ソーシャルメディアの幾つかのコメントは、馬上の白人隊員が逃げ惑う黒人男性を追い掛ける映像が、米国で黒人が歴史的に受けてきた不正義を呼び起こすと指摘している。

国境警備隊の責任者、ラウル・オルティス氏は、そうした行為が警備隊のやむにやまれぬ行動だったことを確かめるため調査していると述べた。隊員たちは困難な環境で職務に当たっており、移民たちの安全を確保しようとしながら人身売買業者の捜索にも当たっているとも表明した。

米国土安全保障省のマヨルカス長官はデルリオでの記者会見で、馬に乗った隊員らが「馬を制御するために」長い縄を使っていることは認める一方、「われわれは事実関係を調査する」と強調した。

リオグランデ川では橋の下に最近、母国でのギャングの暴力や極度の貧困や災害などから逃れようとしてたどり着いた移民たちが大勢野宿している。

しかし、このうち何百人ものハイチ人が、米当局によって航空機でハイチに強制送還されることを恐れてメキシコ側に戻った。

入国希望者があふれたため、米当局は既に17日に国境を封鎖。航空情報サイトのフライトアウェアによると、実際に19日には最初の送還便がハイチに到着し、20日にはさらに3便が到着予定。マヨルカス氏は1日当たり1−3便のペースになると述べた。

ハイチから数カ月かけてたどり着いた人々からは、7月の大統領暗殺で治安がさらに悪化したことに加え、8月に大地震で壊滅的な被害に見舞われたことで出国を決めたとの声が聞かれた。【9月21日 ロイター】
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【アフガン難民増加にギリシャは「プッシュバック(押し返し)」】
移民・難民を追い返そうとするのはアメリカに限った話でもなく、どこの国も似たり寄ったりです。

欧州では、従来からのアフリカ・中東からの難民に加え、アフガニスタンからも。
しかし、どこからの移民・難民であれ、「来てほしくない」ということは変わりません。

ただ、あまり露骨な方法をとると何かと問題にもなる・・・・ということでしょうか、難民船を領海外に押し出す「プッシュバック」という方策が取られているとか。

****漆黒のエーゲ海、漂う命 ギリシャ沿岸、押し返される難民****
漆黒の海に、ボートが姿を現した。エンジンはなく、波間を漂うだけ。救命胴衣すら着けない幼い子どもがいる。どこから来たのか。私の問いかけに、年配の女性が訴えた。「アフガニスタン」
 
ギリシャとトルコを隔てるエーゲ海で、欧州を目指す難民や移民の上陸を阻む「プッシュバック(押し返し)」と呼ばれる行為が相次いでいる。7月初旬、沖合での取材で目撃したのは、昼夜を問わず海のど真ん中に置き去りにされた、アフガニスタンやアフリカの人たちの姿だった。
 
「30~40人を乗せた密航船が漂流しているとの情報がある」。7月1日朝、トルコ沿岸警備隊の巡視艇で司令官が険しい表情を見せた。トルコ西部クシャダス沖は、欧州への玄関口であるギリシャの島々に渡る密航ルートになっている。出港から40分後、船が速度を落とした。
 
「あそこだ」。乗組員の言葉に望遠レンズを向けた。ギリシャの沿岸警備艇とみられる2隻が白波を立てている。かすかに見えるゴムボートは2隻がそばを通るたびに大きく揺れた。
 
「ああやって波を作り、船をギリシャ領海からトルコ領海に追いやる。これが『プッシュバック』だ」
 
発見から5時間後、ボートがトルコ領海に入ったのを確認した。約40人がすし詰めになっている。アフリカのソマリアやトーゴなどから来たという。
 
救助された人たちの話では、前夜にトルコの海岸を離れ、早朝に20キロほど離れたギリシャ・サモス島近くまでたどり着いた。そこでギリシャ当局に見つかり、ボートのエンジンなどを取り上げられたという。救助されるまでの約12時間、漂流した。
 
エーゲ海北部を管轄するトルコ沿岸警備隊の責任者によると、ギリシャ側のプッシュバックが頻発したのは昨年2月ごろから。ギリシャの船は波を立てたり、ロープで牽引(けんいん)したりして密航者たちのボートをトルコ側に押しやるのだという。「これは現実に起きていることだ。映画のワンシーンではない」
     ◇
欧州を目指し、エーゲ海を渡ろうとする難民や移民が絶えない。イスラム主義勢力タリバンが実権を握ったアフガニスタンからは、徒歩で国境を越えながら、イランなどを経由してトルコに入り、ギリシャを目指す人々も多い。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2018年ごろには内戦の続くシリア出身者よりも多くのアフガニスタン人たちが、ギリシャに着くようになった。

UNHCRは、年末までに最大約50万人がアフガニスタンから難民となる可能性があると指摘。欧州では100万人以上が押し寄せた15年の「難民危機」の再来かと、危機感が高まる。【9月21日 朝日】
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ギリシャに渡る手前のトルコでは、イランからアフガニスタン難民流入阻止のため「壁」を建設しています。

****兵士大量動員で国境警戒 アフガン難民阻止へ壁建設―トルコ****
スラム主義組織タリバンが政権を奪取したアフガニスタンからイラン経由で多数の難民が流入する事態を防ぐため、トルコ軍が大量の兵士を動員し、国境付近に配置するなど警戒を強めている。

トルコは欧州を目指す難民らの主な通過ルート。経路上の関係各国はアフガン情勢をめぐる人道状況への配慮もしつつ、難しい対応を迫られることになる。

 ◇国境500キロに壁
トルコでは現在、アフガン難民約30万人が暮らしている。現地報道によると、アフガン情勢の流動化が進んだ7月以降、対イラン国境付近に兵士ら約2万人が展開して難民の違法越境を取り締まり、イラン側に追い返す措置を本格化させた。国境沿いのワン県に設置された検問所では23日、アフガン人とみられる男性らが尋問を受ける姿が見られた。
 
トルコ政府はこれに加え、全長500キロ超にわたる国境線に沿って、有刺鉄線の付いた高さ3メートルのコンクリート壁を建設する作業も加速させる。

エルドアン大統領は18日、「イランと国境を接するすべての地域に壁を造る。157キロは完成した」と述べ、2016年に始まった作業の完了を急ぐ考えを示した。
 
ただ、一連の対策の有効性を疑問視する向きもある。ワン・ユズンジュユル大学の難民専門家オルハン・デニズ教授は、タリバンのアフガン制圧に伴う難民の移動が本格化するのはこれからだと指摘。「大量の兵士をいつまで国境付近に維持できるのか。壁についても抜け道があり、トルコへの流入を防ぐのは困難だ」と語った。

 ◇さや当て始まる
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、アフガンに隣接するイランにはアフガン人300万人以上が暮らしている。核問題をめぐる米国などの経済制裁が続く中、イランが新たな難民を引き取る余裕はないとみられ、トルコへの越境を試みる人が増えるのは不可避の情勢だ。
 
トルコとその先に位置する欧州各国の間ではさや当てが始まっている。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は、難民の扱いではトルコが「極めて重要な役割」を果たすと強調。ギリシャのミタラキス移民相は「アフガン市民にとってはトルコが安全だ」と主張し、トルコにとどまるべきだという認識を示した。
 
これに対しエルドアン氏は、トルコが「欧州の難民置き場」になるつもりはないと訴え、人道的見地から責任を果たすよう欧州側に要求。20日以降、EUのミシェル大統領や欧州各国首脳と相次いで会談し、既にシリア難民約400万人を抱えるトルコに「これ以上受け入れる余力はない」という立場を伝えた。【8月25日 時事】
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イラン、トルコ、ギリシャなどの間での難民の押し付け合い・・・民主主義や人権を語る一方での「現実」です。

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