孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ情勢  成果が出ない反転攻勢、欧米の支援疲れ、米の混迷 強まる「停戦」に向けた流れ

2023-11-30 23:09:02 | 欧州情勢

((左)ボリス・ジョンソン前英国首相(2022年ウクライナ訪問)【11月28日 テレ朝news】 当時ウクライナ・ロシア間で停戦に関する交渉が行われていましたが、「この時キーウに来ていた英国のボリス・ジョンソン首相(当時)が、いかなる文書にもサインせず、『ただ戦え』とアドバイスした」(停戦交渉にあたったウクライナ側代表ダヴィド・アラハミヤ氏)とのこと。 しかし今、“潮目”は変わったようにも)

【ゼレンスキー大統領、ロシア軍撤退まで停戦せず G7はウクライナ支援で結束・・・というものの・・・】
ウクライナ情勢については、期待されたようには進まないウクライナの反転攻勢、戦争の長期化に伴って露呈し始めた政権内部での不協和音、広がる欧米諸国の「支援疲れ」、パレスチナ問題などによるウクライナへの国際的関心の低下・・・といった、ウクライナにとって厳しい状況が強まっていることは、11月5日ブログ“ウクライナ  戦局は膠着 ウクライナ内部の不協和音も 欧米には支援疲れ、関心低下で和平協議の声も”でも取り上げました。

ゼレンスキー大統領は、ロシアがウクライナから部隊を撤退させない限り停戦に応じないと戦争継続の姿勢を崩していません。

****ロシア軍撤退まで停戦せず ゼレンスキー大統領会見****
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、共同通信などアジアの一部メディアと首都キーウ(キエフ)の大統領府で会見し、ロシアがウクライナから部隊を撤退させない限り、停戦に応じないと明言した。

欧米では停戦を探る動きもあるが、ゼレンスキー氏は否定。中東パレスチナ情勢が緊迫し、侵攻への関心が低下していることへの懸念を示した。来年2月に東京で開かれる日ウクライナ経済復興推進会議の成果に期待を示した。

ゼレンスキー氏はロシア軍が撤退しないままの停戦は「紛争の凍結」に過ぎず、ロシアは時間を稼いで戦力を回復した後、領土を奪うため再び攻撃を仕掛けてくると主張。「ロシアは平和を望んでいない」と述べた。

欧米で広がりつつある停戦論に関しては「手を切り落として他人に渡すような案」しか見たことがないと批判し、領土を割譲してまで和平を求める考えはないと断言した。

ロシアのプーチン大統領については「貪欲で常に飢えている」「ソ連がかつて有していた影響力を取り戻すことを目標としている」と分析した。【11月30日 共同】
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欧米・日本も、日本が議長国となったG7外相会合などで表向きはこれまでどおりのウクライナ支援で結束を示しています。しかし、水面下では「支援疲れ」やウクライナ国内での不協和音が露呈し始めています。

****G7、ウクライナ支援は「決して揺らがない」 東京での外相会合で声明****
G7外相会合で議長を務めた上川陽子外相は、各国がウクライナ支援で結束したと述べた
主要7カ国(G7)の外相会合が8日までの2日間、東京であり、中東情勢が緊迫するなかでもウクライナへの支援は「決して揺らぐことはない」とする共同声明を発表した。(中略)

各国の外相らは、ウクライナを侵攻しているロシアが長期戦に備えているとの認識を共有。ウクライナを経済的にも軍事的にも支援していくと強調した。(中略)

「ウクライナ疲れ」への懸念
(中略)アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、G7が「ロシアの戦争に対する非難で結束している」と述べた。だが、そうした強い言葉は、戦争の長期化の影響を受けるウクライナの現状を覆い隠すものとなっている。

ウクライナは、西側諸国の「ウクライナ疲れ」が、ロシア軍に対抗する戦闘力を低下させることを懸念している。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、600億ドル(約9兆円)規模のウクライナへの追加支援の承認を議会に求めているが、共和党議員の反対によって保留されている。米政府関係者によると、現在の支援は数週間以内に底をつき、ウクライナ軍に破滅的な結果をもたらす可能性があるという。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は先週、ウクライナでの戦争に関する「疲労」が強くなっており、「出口が必要だと誰もが理解する瞬間が近づいている」と、アフリカ連合関係者になりすましたロシア人からのいたずら電話で述べ、話題になった。

先月就任したばかりのスロヴァキアのロベルト・フィツォ首相は、政権を発足させると同時にウクライナへの武器供与を停止した。

ウクライナ国内でも揺らぎ
ウクライナ国内でも結束に揺らぎがみられる。軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は先週、戦況について「行き詰まり」だと述べ、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領との見解の違いが表面化した。ゼレンスキー氏は「内紛で溺れないよう」国民に訴えた。(後略)【11月9日 BBC】
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【混迷するアメリカのウクライナ支援 トランプ復活を待つプーチン大統領】
ウクライナにとって死活的に重要なのはアメリカの支援ですが、短期的にはウクライナ支援を含んだ予算案への米議会の抵抗、より長期的には、バイデン政権の継続か、あるいはウクライナ支援に消極的でロシア寄りともとられるトランプ前大統領の復権か・・・という問題があります。

ゼレンスキー大統領は「アメリカの支援なしでもわれわれは戦う」とは言っていますが・・・

****「支援がなければ自分たちで戦う」 欧米“支援疲”とゼレンスキー大統領の苛立ち****
■「あなたたちの支援なしでわれわれは戦う」
ゼレンスキー大統領の危機感と焦燥は日増しに強くなっているようだ。
11月8日のロイターとのインタビューで、「もし来年トランプが大統領に返り咲いたらどうするか」と聞かれたゼレンスキー大統領は、苛立った様子でこう答えた。「もし米国議会やホワイトハウスがウクライナ支援策を変更するなら、こう言おう――わかった、それならあなたたちの支援なしでわれわれは戦う」。

ガザでの悲惨な状況が連日のように伝えられ、世界の関心はパレスチナにシフトしている。東京で開かれたG7外相会議ではウクライナへの支援継続が確認されたが、いまや各国でウクライナ戦争への関心は薄れ、支援の成り行きはますます不透明になっている。

■「支援の96%は使い果たした」
米国のカービー国家安全保障会議戦略広報調整官は、ロシアの侵攻開始以降、ウクライナ支援に当てられた600億ドル(約9兆円)の財政手段のうち、バイデン政権はすでに96パーセントを使い果たしたことを明らかにした。

これは軍事だけでなく財政・経済、人道支援を含んでいる。軍事支援に限ってもすでに90%は支出済みで、ペンタゴンに残るのは11億ドル(約1650億円)のみだと言う。

ホワイトハウスのジャン・ピエール報道官によれば、大統領が決断すれば実施可能な支援であるPDA(緊急時大統領在庫引き出し権)で残っているのは1億250万ドル(約187億円)、武器の生産を発注できるUSAI(ウクライナ安全保障支援イニシアチブ)は3億ドル(約450億円)にすぎず、「USAIは底をつく。PDAも小出しに使っていくしかない」と危機感をあらわにした。

にもかかわらず、バイデン政権が10月20日に議会に提出したウクライナとイスラエルへの新たな支援パッケージ、総計1060億ドル(約15兆円)の支援策は、共和党が多数を占める下院で骨抜きにされ、イスラエルへの143億ドル(約2兆2000億円)緊急支援法案のみが採択された。

これに対して11月7日、上院で多数を占める民主党がこのイスラエル緊急支援法案を否決した。この米国議会の党派的分断によって、結局、イスラエルへの支援もウクライナへの614億ドル規模(約9兆2000億円)の支援も滞っているのが現状だ。

もともと共和党の古参議員は「反ロシア」の機運が強いために超党派でのウクライナ支援が続いてきたのだが、トランプ支持派は、新たなウクライナ支援を拒否する姿勢を打ち出している。【11月11日 テレ朝news】
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与野党の対立からウクライナ支援を含む予算案が決まらないアメリカでは、必要最小限の「つなぎ予算」でなんとかやりくりしていますが、その「つなぎ予算」も失効する11月17日の直前、15日にアメリカ上院は新たな「つなぎ予算」をようやく可決。

これで政府閉庁といった最悪の事態は免れていますが、新たな「つなぎ予算」は一部の予算を来年1月19日まで、残りを2月2日まで確保するもので、対立の要因となっているウクライナ支援などは盛り込まれていません。

こうした事態を歓迎しているのはロシアのプーチン大統領。トランプ前大統領の復権を待っている状況で、それまでは和平合意など新たな動きは示さないのでは・・・とも見られています。

****プーチン氏、米大統領選の結果前に和平で合意せず=米高官****
米国務省高官は28日、ロシアのプーチン大統領は、2024年11月の米大統領選の結果を確認するまではウクライナと和平で合意することはないと述べた。

米大統領選を巡っては、共和党の有力候補と見られているトランプ前大統領がウクライナへの支援を批判している。

同高官は、北大西洋条約機構(NATO)外相会合後に記者団に述べた。個人的な見解かそれとも米政府の見解かと記者から質問された際、「広く共有されている認識だ」と述べ、「それが28日のNATO会議で全ての同盟国がウクライナへの強い支持を表明した背景だ」と説明した。

トランプ氏に言及したり、米大統領選の結果がウクライナ支持にどう影響するかは明言しなかった。【11月29日 ロイター】
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【広がる停戦に向けた転機に入ったとの見方 領土の線引きと戦後ウクライナの安全保障が最大の焦点】
こうした状況を受けて、ウクライナ戦争をめぐる欧米メディアの報道にもウクライナ反転攻勢の失敗、アメリカの対応の失敗、ロシアのウクライナ領占領という現状での停戦といったウクライナにとって不都合な面に言及するような“潮目の変化”が起きています。

****ロシア・ウクライナ戦争の潮目が変わった?――領土割譲で停戦という「不都合な選択」****
「支援疲れ」に中東情勢の緊迫も加わり、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる欧米メディアの報道に潮目の変化が起きている。

ウクライナ軍の反転攻勢の失敗や兵員不足に多くが言及、バイデン政権の対応にも批判が集まる。現状でロシア側が占領地域を手放すことは考えにくい。このまま停戦交渉に向かった場合、ウクライナが領土割譲という苦渋の選択を強いられるとの見方が台頭している。

ロシア軍の全面侵攻から1年9カ月を経たロシア・ウクライナ戦争は、ここへ来て潮目が変わりつつある。
ウクライナ軍の反転攻勢は成果を得られず、政権内の亀裂が伝えられる一方で、ロシアは長期戦に持ち込み、兵力を増員しながら有利に展開している。

イスラエル・ハマス戦争も、欧米諸国のウクライナ支援に影を落とした。

欧米側がヴォロディミル・ゼレンスキー政権に対し、和平交渉の検討を打診したとも報じられた。ゼレンスキー政権は依然徹底抗戦の構えだが、今後、停戦の動きが浮上する可能性も出てきた。
「力による現状変更は許されない」(岸田文雄首相)としてウクライナ支援を続けた西側諸国にとって、憂鬱な展開となりかねない。

「反攻は失敗、突破口なし」
10月末以降、ウクライナ側の「不都合な真実」(米誌『タイム』)を伝える欧米の報道が相次いでいる。

ウクライナのワレリー・ザルジニー総司令官は英誌『エコノミスト』(11月1日)とのインタビューで、「ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で17キロしか前進できていない」「われわれは膠着状態に追い込まれた。これを打破するには大規模な技術的飛躍が必要だが、突破口はないだろう」と苦戦を認めた。

ウクライナが6月4日に反転攻勢を開始して5カ月を経たが、ロシアが制圧するウクライナ領土の約20%のうち、奪還できたのは0.3%にすぎないとの報道もあった。

国民的人気の高い総司令官は、「ウクライナ軍はロシアが構築した地雷原に足踏みし、西側から提供された兵器も破壊された。指揮官らの交代もうまく機能しなかった」と述べた。ウクライナ軍高官が戦況の膠着や苦戦を公然と認めたのは初めて。

『タイム』誌(10月30日号)はゼレンスキー政権の内幕を報道し、「ゼレンスキー大統領は肉体的な疲労からか精神的にも疲弊し、メシア的妄想と精神病的な第三次世界大戦の恐怖を煽っている」とし、「ウクライナはロシアとの消耗戦に敗れつつあり、大統領の命令に従わない兵士も出ている」と伝えた。兵員不足で高齢兵士の招集をせざるを得ず、現在の軍部隊の平均年齢は43歳まで老化しているという。

『タイム』は昨年末、国家と国民を統率し、勇気ある抵抗を示したゼレンスキー大統領を「パーソン・オブ・ザ・イヤー」(今年の人)に認定したが、カバーストーリーを書いた同じ筆者が今回、政権内部の亀裂を列挙している。

欧米が水面下で停戦説得
こうした中で、米NBCニュース(11月3日)は、欧米諸国の政府高官がロシアとの和平交渉の可能性について、ウクライナ政府と水面下で協議を始めたと報じた。

米当局者によれば、これは10月に開かれたウクライナ支援国会合の際に話し合われ、ウクライナ側が協定締結のために何をあきらめるかについて概要が討議されたという。NBCは、欧米側の和平提案は、戦況の膠着や欧米の援助疲れ、中東紛争激化という新展開を受けて示されたとしている。

NBCによれば、ジョー・バイデン大統領はウクライナの兵力が枯渇していることに強い関心を寄せている。米当局者は「欧米はウクライナに兵器を提供できるが、それを使える有能な軍隊がなければ、あまり意味がない」と話した。

これらの報道に対し、ゼレンスキー大統領は記者会見やNBCテレビとの会見で、「戦争が膠着状態とは思わない」「年末までに戦場で大きな成果を挙げる」「ロシアと交渉するつもりはない」と反論し、抗戦方針を確認した。

米国家安全保障会議(NSC)の報道官は、「米国は引き続きウクライナを強力に支援する。交渉も含め、将来の決定を決められるのはウクライナだけだ」と述べた。戦争継続か和平かの決断を、ゼレンスキー政権が下す構図は変わらない。

一方で、ロイド・オースティン米国防長官とウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官が11月20日時点でキーウを訪問中だ。バイデン政権屈指のロシア通といわれるバーンズ長官の訪問はサプライズで行われたが、今後の展開などをめぐり重要協議が行われた可能性がある。

バイデン外交への批判噴出
一連の報道を受けて、欧米では、ロシア・ウクライナ戦争が転機に入ったとの見方が相次いでいる。

ドイツのニュースサイト、『インテリニュース』(11月6日)は、「ウクライナ戦争の終わりの始まり?」と題する記事で、「西側のウクライナ疲れは半年前から始まっていたが、反転攻勢への期待があったため、抑えられた。しかし、反攻が何ら進展をみなかったことで、停戦論が浮上している」「ゼレンスキーが昨年4月に和平に持ち込むことを検討したことは正しかった。今、クレムリンに交渉を持ち掛けても、一蹴されるだろう。時はロシアに味方する」と分析した。

英紙『テレグラフ』(11月4日)は、「ウクライナの現在の軍事力では、ロシアが厳重に構築した防衛網を突破する見込みはなく、反攻作戦は萎縮している。ロシアは間違いなく、消耗したウクライナ軍に対して再攻勢を準備している」とウクライナ軍が悲惨な状況に追い込まれかねないと指摘した。

同紙は、米国が長射程地対地ミサイル「ATACMS」の供与を10月まで実施しなかったり、F16戦闘機の供与を遅らせるなど、優柔不断な対応を続けたことが反転攻勢不調の理由だとし、「現状では、プーチンが勝利を手にする。これを打破するには、ウクライナに制空権、戦闘技術、強力な大砲を与えることだ」と強調した。

米紙『ワシントン・ポスト』(11月5日)も、ウクライナ軍が今後、突破口を開く可能性は低いとし、昨年11月にロシア軍が南部ヘルソン市から撤収した時点が交渉のチャンスだったが、バイデン政権は何もしなかったと指摘。「長距離ミサイルの供与の遅れも含め、バイデン政権はウクライナで確固たる対応を取らなかった。官僚的な惰性や、戦況がエスカレートするリスクへの懸念があった」と分析した。

パレスチナとウクライナの二つの戦争への対応をめぐり、米国内でバイデン外交への批判が高まりつつある。

ただし、首都キーウの外交筋は、一連の報道について、「長期戦がロシアを利する要素はあるが、ウクライナ軍内部に乱れはなく、反転攻勢は続く。ザルジニ―総司令官らの発言は、航空戦力、地雷撤去など西側に支援の足りない部分を列挙したものだ。ドイツ政府も援助の倍増を決めた」と述べ、誇張が多いと指摘した。

バルダイ会議で「西側との戦争」を強調
ロシアの通信社は、ウクライナの苦境を伝える欧米の報道を細大漏らさず転電し、ロシアの優位を印象付けている。ウラジーミル・プーチン大統領は10月のバルダイ会議で、「6月に開始されたいわゆる反攻作戦で、推定9万人以上のウクライナ兵が死傷した。作戦は失敗に終わった」と強調した。(中略)

10月のバルダイ会議では、「西側は何世紀にもわたり、植民地主義と経済的搾取で途上国を蹂躙した」「この戦争は、より公平な国際秩序を作るための戦いだ」と述べ、BRICS諸国とともに、新国際秩序を目指すと強調した。ロシア側のナラティブ(物語)は、限定軍事作戦から「西側との戦争」へと変質しており、長期戦の構えのようだ。

停戦交渉について、プーチン大統領は「ウクライナが東部・南部の4州をロシア領と認めることが停戦の条件」としてきた。バルダイ会議では、「ロシアは世界最大の領土を持つ国であり、これ以上新たな領土は求めない」とも述べた。

ロシアの独立系世論調査機関、レバダ・センターによれば、プーチン大統領が4州確保を前提に停戦を提案すれば、70%が支持すると回答しており、ロシア世論にも戦争疲れの兆しがみられる。

中国が仲介に登場との予測も
これに対し、ゼレンスキー大統領は昨年11月のビデオ演説で、ロシアとの和平交渉再開の条件として、①領土の回復②国連憲章尊重③損害賠償④戦争犯罪者の処罰⑤ロシアが二度と侵攻しないという保証――の5項目を要求した。

この基本方針は1年後の現在も変わっていないが、反転攻勢の不調、欧米の支援疲れ、国内の疲弊といった新情勢の下で、今後停戦交渉に乗り出す可能性もないとは言えない。「すべての領土奪還まで戦争遂行」を支持する国内世論は、昨年前半は90%に達したが、最近は60%台に低下している。

仮にロシア・ウクライナ間で和平交渉が行われるなら、領土の線引きと戦後ウクライナの安全保障が最大の焦点になろう。

ロシアは既に、クリミアと東部・南部4州をロシア領と憲法に明記しており、占領地を手放すことは考えられない。ただ、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は新しい国境線について、「東部ドネツク、ルハンスクは州全体がロシア領。南部ヘルソン、ザポリージャ両州の境界は住民と協議して決める」と述べたことがあり、南部2州で一定の譲歩を行う可能性もある。

いずれにせよ、和平交渉に応じるなら、ウクライナ側は領土割譲を受け入れるかどうか、苦渋の選択を強いられそうだ。

戦後の安全保障では、ウクライナは既にNATO加盟を申請している。ロシアは停戦によって時間稼ぎをし、再度侵攻する可能性があるだけに、安全確保にはNATO加盟が最も有効だ。しかし、ロシアはこれに猛反発するほか、NATO内部に反対論、慎重論もある。

仮に和平交渉が始まっても、交渉は難航し、長期化しそうだ。和平工作に際しては、「欧米とロシアはウクライナ戦争で疲弊しており、中国が満を持して仲介に登場し、超大国としての台頭を狙う」(エドワード・サロ米アーカンソー州立大准教授、『ナショナル・インタレスト』誌、11月7日付)との予測も出ている。【11月21日 新潮社Foresight】
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「停戦交渉」をめぐるさまざまな憶測が欧米各国で出始めた現在、ウクライナ・ゼレンスキー大統領からすれば、「欧米はウクライナを見捨てた」ということにも。
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EV生産に不可欠な「白い金」リチウムをめぐる争奪戦

2023-11-29 23:29:08 | 資源・エネルギー

(チリのアタカマ塩湖にある広大なリチウム採掘場。広さ約45平方キロメートル(東京ドーム約962個分)以上【2022年11月17日 greenz】 塩湖から地下水を大量に汲み上げ、蒸発プールで濃縮し採取。色の違いは濃縮後の差によるもの しかしリチウム採掘は、1日あたり約2,100万リットルもの大量の水を地下から汲み上げて消費・汚染し、近隣地域の希少な水資源を枯渇させ奪う結果に。これによりさまざまな地域住民と水関連の紛争を引き起こしているとも)

【リチウム調達はEV業界の発展を左右する「本質的なチョークポイント」】
今後の産業をリードしていくのがEV(電気自動車)やAI(人工知能)だ・・・という議論は枚挙にいとまがありませんが、EVに関しては(出遅れている日本では特に)賛否両論があります。

****急成長するEVに失速のきざしか?****
電気自動車(EV)はこのまま普及するのか、それとも壁にぶち当たって失速するのか。

この数年というもの、飽きるほど聞いた論争だ。「脱炭素は世界的な潮流であり、逆転することはない」「実際に保有すればわかるが、加速性能や乗り味、あるいはOTA(オーバー・ザ・エアー、無線によるソフトウェアアップデート)などのユーザー体験は内燃車を上回っている」「実現間近の自動運転との相性の良さ」など普及派の論を聞くと、なるほどなるほどとうなずいてしまう。

一方で、「高額なバッテリーを使うEVは割高。補助金がなければ誰も買わない」「EVの製造時に莫大なエネルギーを消費するほか、充電するための電気を作るのにも温室効果ガスを排出するのだからそもそもエコではない」「内燃車をすべてEVに置き換えるとレアメタルなどの資源が枯渇する」など、否定派の意見を聞いても説得力を感じる。(後略)【11月28日 WEDGE】
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EV普及の最大のハードルは充電施設の整備ですが、最大のEV大国では巨額の資金投資の“力わざ”で充電インフラ整備を進めて、ある程度この問題をクリアしているようです。それでも今後の普及には中国でも難題があるかも・・・というのが上記記事ですが、中国のような政府主導の“力わざ”での充電インフラ整備が難しい他国ではどうなるのか・・・という問題も。

上記のような「EVは今後更に急成長を続けるのか?」と言う話は今回はパス。今回取り上げるのは、そのEVに欠かせないリチウムの話。

「チョークポイント」・・・地政学では、戦略的に重要な海上水路を指し、重要な航路が集束している場所、例えばスエズ運河やパナマ運河、あるいかマラッカ海峡やホルムズ海峡など、水上の要衝を意味します。

リチウム電池に必要なリチウム調達は“業界の発展を左右する「本質的なチョークポイント」である”(テスラのイーロン・マスクCEO)とも言われています。

産業を牽引することも期待されるEV生産に不可欠のリチウム確保を求めて「ゴールドラッシュ」のごとく世界は走り出しているようにも見えます。

****リチウムはアメリカにとって次のゴールドラッシュとなるか?****
「21世紀のゴールドラッシュ」が到来した。電気自動車(EV)産業の台頭に伴い、新車のバッテリー製造に不可欠なリチウムの米国内の鉱床を発見し掌握しようという動きが過熱していると、『Vice News』は伝えている。

米国西部一帯で、探鉱者たちは「可能なかぎり多く採掘権を主張」し、降って湧いた需要の爆発的増加から莫大な利益を得ることを期待している。なぜこんなことが起こっているのだろうか? 現時点では、米国内にこの銀白色の金属を産出する稼働中の鉱山はたった一つしかないからだ。

1849年、のちにフォーティーナイナーズと呼ばれる人々が、金を求めてカリフォルニアに殺到した。2023年に一攫千金を求める者たちも、同じくカリフォルニアの「リチウムバレー」を目指していると、CBSの『60 Minutes』は報じる。ある採掘企業幹部によれば、この地域はいずれ「年間750万台のEV製造を支えるだけのリチウムを産出」する可能性があるという。これは、米国における年間EV販売数の半分に匹敵する。

テキサスも負けてはいない。テスラは2023年5月、同州でリチウム精製工場の操業を開始したと、『ロイター』は報じている。テスラのイーロン・マスクCEOは、EV産業の継続的成長はこうした取り組みにかかっていると述べ、リチウムの調達は、業界の発展を左右する「本質的なチョークポイント」であるとした。

背景には中国との競争がある。現在、世界のリチウム供給の67%は中国で精製されていると、『ニューヨーク・タイムズ』は報じる。米国では「地域および環境に関する懸念」のために、生産拡大の取り組みが遅れているため、追いつくのはずっと先になるかもしれない。

環境保護団体のシエラクラブは、リチウム電池は「高い代償を伴うクリーンパワー」であると指摘している。リチウムはどんな未来を約束し、どんな危機を招き得るのだろうか。

識者の見解
リチウムは矛盾をはらむ。コロンビア大学気候学部のマルコ・テデスコはそう述べる。「自動車やその他の社会的側面の電化」は、気候変動の原因である炭素ベース燃料からの転換の必要に迫られてのものだが、「この転換は、私たちが考えるほど効率的なものではないかもしれない」と、同氏は指摘する。

リチウムバッテリーの製造過程では、二酸化炭素排出が生じる──それは、EV革命が明確にその削減を目的として掲げているはずのものだ。さらに、「1トンのリチウムを精製するには50万リットルの水が必要」と言われるほど、リチウム精製には膨大な水が使用され、深刻な副次的汚染を引き起こすおそれがある。そのため、リチウム需要が急増するなかでも、代替資源の探索は続けるべきだ。「そうでなければ堂々巡りになってしまう」と、テデスコは言う。

一方、こうした懸念はおそらく杞憂だろうと、EV業界に詳しいブラッド・テンプルトンは『Forbes』に寄稿した記事のなかで主張している。リチウム需要の増加に伴い、「より効率よく、環境破壊を抑えて採掘するための業界努力」がなされるはずであり、とりわけ政策決定者が環境法を整備すれば、こうした動きは加速する。

(中略)問題が重要で、大量の資金が注ぎ込まれているなら、物理的に可能であるかぎり、何らかの解決策は見つかるはずだ」と、テンプルトンは言う。(中略)

今後の動向
リチウムをめぐる競争は、世界規模の現象だ。カナダは、北米自動車市場への資源供給地として名乗りをあげ、ボリビアの企業は同国の豊富な埋蔵リチウム資源を武器に、新興自動車メーカーとして飛躍をめざしている。

一方、インドは先日リチウム資源開発計画を発表し、2023年後半に採掘権の競売を実施予定だ。こうした国々には勝機があるが、一方で出遅れている国もある。例えばインドネシアは、2025年にバッテリー生産工場を稼働させることを目標としているが、リチウム資源の不足により計画に狂いが生じている。

代替動力源の台頭も予想される。ナトリウムイオン電池は「数十年前から利用されてきた」が、リチウム技術が急速に普及した結果、脇へと追いやられた。だが、「現在このテクノロジーが再び脚光を浴びつつある」と、CNBCは報じる。同様に、『GreenBiz』によれば、現在のリチウムイオン電池よりも安価な代替技術として、一部の研究者はリチウム硫黄電池に可能性を見いだしているという。

米国のクリーンエネルギー転換の成否は、こうした多様な取り組みにかかっている、と『E&E News』は述べる。EV産業を支援するバイデン政権は、新車のバッテリーを大量生産するために「必要不可欠な資源を、米国が十分に調達できる」ことに賭けているのだ。【7月7日 TANAKA】
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【世界第2位のリチウム生産国チリは国有化 調達先多様化の動きが今後加速】
現在、リチウム生産は大きく偏在しています。
“英BPの資料によると、21年のリチウム生産の世界シェアはオーストラリアが52%と首位だった。チリはオーストラリアに次ぐ世界2位で、25%のシェアを持つ。3位の中国を合わせると、3カ国だけで世界シェアの約9割を占める。”【4月22日 日経】

事態を不透明にしているのは世界第2位の産出国であるチリがリチウム生産国有化を表明していることです。

****チリ大統領、リチウム国有化を表明 世界2位の生産国****
南米チリのボリッチ大統領は21日までに、国内のリチウム産業を国有化すると表明した。チリのリチウム生産量は世界2位で、シェアは25%にのぼる。リチウムは電気自動車(EV)向け電池の製造に不可欠で、メキシコも2022年に国有化した。資源保有国の保護主義がEV供給網のリスクになってきた。

チリ政府はリチウム生産を担う国有企業を設立する。23年後半に国有企業を設立するための法案を議会に提出する。今後は国有企業がリチウム生産を主導するが、ボリッチ氏は民間企業の投資も部分的に認める方針を示した。国有企業と民間企業が共同出資会社を設立する場合、国有企業が過半出資する見込みだ。

ロイター通信によると、チリのSQM社は30年、米アルベマールは43年までチリでのリチウム生産が認められている。ボリッチ氏は「チリ政府は既存の契約を尊重する」と説明している。両社は契約が切れるまでは従来通りリチウム生産を続けられる見通しだ。

左派のボリッチ氏は21年の大統領選で格差是正や環境保護を重点政策として掲げて当選した。選挙戦では鉱山会社に増税し、社会保障を強化すると主張してきた。世界でEV普及の動きが広がるなか、ボリッチ政権はリチウムの国有化で経済的な利益を囲い込みたい考えだ。(中略)

チリは中南米で最も早く中国と外交関係を結んでおり、同国との経済関係も深い。ボリッチ氏は22年に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談し、中国との経済関係を強化する意向を示した。中国のリチウム大手の天斉リチウム業は18年、SQMの発行済み株式の約24%を取得した。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によれば、日本の炭酸リチウムの輸入国としてチリは最大で、20年は輸入量の75%を占めた。チリの国有化の動きは日本の調達戦略に影響を与える可能性がある。

希少資源の保有国では保護主義が広がっている。メキシコ議会では22年、リチウムを国有化する法改正が成立した。新たに設立した国有企業が生産を独占する。メキシコはリチウム採掘の実績がないが、米地質調査所によると埋蔵量は世界10位に入る。インドネシアも20年からニッケルの未加工鉱石の輸出を禁止している。【4月22日 日経】
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資源を極力自国優位に開発したい生産国と安価な資源を求める世界的大企業の間で綱引き・争奪戦、あるいはリチウム生産への新規参入が始まっていますが、EV生産にとって不可欠なものとしては電池の電極用グラファイト(黒鉛)もあって、これは中国が大きなウェイトを占めているようです。

****重要原料リチウム、チリの国有化で調達先探し急務に****
(中略)ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの最高データ責任者、カスパー・ロールズ氏は「自動車メーカーは国有化計画がどうなるかはっきりするまで、チリからのリチウム調達に慎重になるのではないか」と述べた。「ほとんどのメーカーはいずれにせよ、国有化の前に調達地域の多様化を模索するだろう。しかし、これにより他の地域の魅力が一段と高まりそうだ」という。

鉱物資源の供給網についてアドバイスするボルタイア・ミネラルズの創業者、デービッド・ブロカス氏は、電池原料金属は国家にとって石油と同じくらい戦略的に重要な資源となりつつあり、自動車メーカーは特に「多様な調達戦略」が欠かせなくなるとみている。

大手自動車メーカーは既に欧米やアフリカで新たなリチウム調達先を探している。例えば米ゼネラル・モーターズ(GM)は1月にリチウム・アメリカズに出資しており、同社のネバダ州サッカーパスのリチウム採掘プロジェクトを支援する予定だ。

こうした調達先多様化の動きは今後加速するだろう。(中略)

自動車業界は新型コロナウイルスのパンデミックの際には半導体不足に襲われており、リチウム以外でも今後供給リスクに直面しそうだ。

電池用シリコンアノード(負極)を開発するGDIのロブ・アンスティCEOは、電池の電極用グラファイト(黒鉛)を中国に依存している自動車業界にとって今回の動きは警鐘になると話す。「チリがリチウムを国有化すれば、オーストラリアは供給を増やすことができるし、米国や欧州も供給を増やすだろう」と予測。「しかし中国がグラファイトの輸出を制限し始めたら、電池の供給網全体に急ブレーキが掛かる」

いくつかの新興企業が、より多くのエネルギーを保持し、航続距離が長く、急速充電が可能な、シリコンベースの電極を用いたEV電池を開発しているが、今のところ全グラファイトの70%を中国産が占める。

チリの動きはリチウム供給網への参入をもくろむ国にとって追い風になりそうだ。
リチウム探査会社アテリアンはモロッコ、ルワンダなどアフリカの多くの国に採掘のチャンスがあるとみている。チャールズ・ブレイ会長は「こうした国が、これまでチリに向かっていたエネルギー転換のための投資を引き寄せることになりそうだ」と話した。【4月25日 ロイター】
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【採掘現場での労働条件、環境負荷、汚職などの問題も】
問題は、リチウム採掘が生産国労働者の劣悪な労働に支えられていることが多く、また、大きな環境負荷を伴うことや汚職の助長にも繋がることです。

****アフリカのリチウム採掘でクリーンエネルギーの弊害が暴露―独メディア****
独ドイチェ・ヴェレはこのほど、「アフリカのリチウム採掘でクリーンエネルギーの弊害が暴露される」とする記事を掲載した。記事によると、アフリカでの新たなリチウム採掘競争が汚職をあおり、地域社会や環境に悪影響を及ぼしていることが調査で判明した。

アフリカ南西部のナミビアにある中国企業が所有するリチウム鉱山で、地元の労働者らが劣悪な生活環境や危険な労働環境について不満を訴えている。

中国企業の新豊投資が所有するウイス鉱山で、地元の労働者が新鮮な空気を循環させる十分な場所もなく、高温の狭い場所に住んでいるのに対し、中国人労働者はエアコンとトイレが付いた条件の良い場所に住んでいることがナミビアの鉱山労働組合のメンバーらが行った調査で判明した。労働組合はまた、この中国企業に対し、労働者が勤務中に特別な防護服を着るなどの安全対策を講じていないことについても非難したという。

記事によると、この中国企業をめぐる物議はこれだけではなく、国際NGOグローバル・ウィットネスが実施したアフリカのリチウム採掘に関する新たな調査で、汚職を通じてウイス鉱山を所有する許可を得たことから、小規模採掘許可を通じて鉱山を開発することまで、同社に対する容疑が列挙されている。

報告書にはナミビアと同様にコンゴやジンバブエのリチウム鉱山における人権侵害、汚職、危険な労働環境の事例も列挙されている。グローバル・ウィットネスの主任研究員コリン・ロバートソン氏によると、アフリカの鉱業セクターは過去数十年にわたり汚職問題と結びついており、民衆は常に利益を得ることができていない。リチウム鉱物の採掘において物事が同じ方向に進んでいることに大きな懸念を抱いているという。

(中略)アフリカでリチウム鉱石を輸出しているのはジンバブエとナミビアだけだが、コンゴ、マリ、ガーナ、ナイジェリア、ルワンダ、エチオピアなどでプロジェクトが進行中だ。

国際エネルギー機関の見通しによると、リチウムの需要は2040年までに約40倍に増加する可能性がある。経済大国や国際企業がアフリカのリチウムにアクセスすることになり、それがアフリカ大陸でまん延する汚職を増加させ、鉱物が発見された地域の住民がその恩恵を受けられない原因となっている。

記事によると、中国はアフリカのリチウム採掘を事実上独占している。コンサルタント会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの推計によると、今後10年間のアフリカのリチウム供給量の約83%に中国のプロジェクトが関与するとみられる。

2022年に中国の鉱山大手3社がジンバブエの6億7800万ドル(約1014億円)相当のリチウム鉱山とプロジェクトを取得した。ジンバブエ環境法協会(ZELA)が発行した最近の報告書には、「一国によるリチウム採掘の独占は、鉱物資源の過小評価、租税回避、人権侵害などの望ましくない結果を招く可能性がある」と記されているという。

グローバル・ウィットネスのロバートソン氏は、欧州連合(EU)と米国に対し、鉱業の透明性を高め、汚職と闘うために地元の活動家による監視を強化するよう求めた。

ジンバブエ自然資源管理センターのファライ・マグウ氏は、鉱山プロジェクトからの利益は道路建設、医療施設、学校の形で地域社会に還元されるべきだと強調し、「私たちは未利用の鉱物資源を自然資本とみなしており、地元の人々だけでなく子どもたちもその恩恵を受けるべきだ」と語った。【11月28日 レコードチャイナ】
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上記のような外国や大企業による利益収奪を防ぐべく、チリやメキシコでの国有化の動きがあるのでしょう。ただ、収奪主体が外国・大企業から国家に代わるだけかも。

世界最大のEV生産国である中国はリチウムを求めてアフリカにも手を伸ばしていますが、国内でも。

****中国リチウム採掘ブーム、チベット高原に打撃****
中国で活況を呈する電気自動車産業にあおられ、チベット高原で希少金属リチウムの採掘ブームが起きている。だが、リチウム採掘がチベット文化や生態系に損害を与えると警鐘を鳴らす報告が1日、現地研究者のネットワークによって発表された。

中国は世界最大のEV市場だが、低炭素型車両のバッテリーに使用されるリチウムの供給はほとんど他国に依存してきた。だが政府は最近、国内埋蔵量の約85%という膨大なリチウムが眠るチベット高原の開発に着手。状況が変わろうとしている。

一方、チベット人研究者のネットワーク「ターコイズ・ルーフ」は、スピードと低コスト偏重の採掘業者による抽出・加工工程が環境汚染につながっていると指摘する。

(中略)ターコイズ・ルーフが引用した中国の地質調査によると、チベットから隣接する四川省、青海省にかけての鉱床には約360万トンのリチウムが眠っている。

気候変動に特に脆弱(ぜいじゃく)な生物の多様性が高い地域と重なるが、「チベット人は富に殺到するこの採掘ラッシュにおいて、何の発言権も持っていない」と報告書は訴えている。

例えば四川省のチベット族自治州では豊富なリチウム鉱脈が発見され、土地をめぐる入札合戦が起きた。最終的に中国EV用電池大手の寧徳時代新能源科技が落札したが、その間、地元のチベット人は「自分たちの牧草地が売りに出されていることも知らされず、ましてや土地の採掘について何ら相談もされていない」という。

また四川省では、すでに採掘活動によって川の魚が大量死する事例も発生している。

中国は欧米の輸出国との関係悪化に直面し、重要鉱物の国内供給を補強しようとしている。最近では米国が中国へのマイクロチップ輸出を規制したために、中国政府はEVバッテリー製造用のグラファイト(黒鉛)供給に制限をかけている。 【11月1日 AFP】AFPBB News
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アメリカではネバダ州とオレゴン州の州境にある火山「マクダーミット・カルデラ」に世界最大量とも言われるリチウムが存在する可能性があると報告され、「ゴールドラッシュ」も予想されていますが、そこは先住民居住区。

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ただひとつ問題がある。先住民にとって(マクダーミット・カルデラ南部の超優良リチウム埋蔵地)タッカー・パスは神聖な土地であり、伝統的な薬や食料、神聖な儀式に必要な物資を収穫する場所だとマクダーミット・カルデラのある地域の先住民のコミュニティは話しているとガーディアンが報じている。

「そこには埋葬地がある。薬や根があり、生態系があり、そこにはまだ生命が残っている」とタッカー・パスに住む先住民族、ショショーニ・パイユート族のゲイリー・マッキニーは、アルジャジーラ)に語っている。
「気候危機を解決するために、それらのすべてが犠牲になるのだ」【9月23日 BUSINESS INSIDER】
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北朝鮮・韓国  軍事偵察衛星打ち上げを受けて高まる緊張 伊政権「抑止は力によって達成される」

2023-11-28 22:59:31 | 東アジア

(北朝鮮が南北軍事合意に基づき撤去した境界線付近の監視所を復元【11月28日 TBS NEWS DIG】 軍事偵察衛星とか無人機による偵察・監視とかに比べると、木造の簡単な監視所ということで時代が違うような感もありますが、境界線付近という場所が場所だけに緊張を高めるものではあります。)

【韓国 南北合意の一部効力停止】
北朝鮮が21日夜、軍事偵察衛星「万里鏡1号」を打ち上げたことを受けて、これに反発する韓国、その韓国に反発する北朝鮮の間で緊張が俄かに高まっています。

北朝鮮への強硬姿勢をとる韓国・尹錫悦(ユンソンニョル)政権は南北軍事合意の一部効力停止の方針を決めました。

****南北軍事合意、一部停止へ=「衛星」に対抗、監視活動強化―韓国****
韓国政府は北朝鮮の「軍事偵察衛星」打ち上げを受け、国家安全保障会議(NSC)常任委員会を開き、南北軍事合意の一部効力停止の方針を決めた。大統領府が22日に常任委の声明を発表した。会議はオンラインで行われ、英国訪問中の尹錫悦大統領が主宰した。

南北軍事合意は文在寅前政権下の2018年に締結され、南北の軍事的緊張緩和などを掲げた。韓国政府が効力を停止するのは、軍事境界線上空付近に飛行禁止区域を設けた項目。

朝鮮半島の東部では境界線から40キロ、西部では20キロが禁止区域に設定され、韓国軍の監視活動が制限されているとの指摘が出ていた。韓国軍は、飛行禁止区域での北朝鮮に対する偵察・監視活動を再開させる。

 尹氏は、北朝鮮による偵察衛星の打ち上げを「成功かどうかにかかわらず、われわれに対する監視・偵察能力強化と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の性能向上が目的だ」と非難し、対抗措置を指示した。【11月22日 時事】
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上記記事にもあるように、韓国軍は軍事境界線付近に偵察機を投入して偵察・監視活動を再開させました。

****韓国軍 軍事境界線付近に偵察機投入=南北合意の一部効力停止直後に*****
韓国軍当局は22日、北朝鮮が前夜に軍事偵察衛星を打ち上げたことを受けて韓国政府が南北軍事合意のうち飛行禁止区域の設定に関する効力を停止した直後から、最前線での対北朝鮮偵察に乗り出した。

韓国軍の消息筋によると、軍は飛行禁止区域の設定に関する効力が停止した同日午後3時以降、無人機「ソンゴルメ(はやぶさ)」や偵察機「金剛」「白頭」などの監視偵察資産を南北の軍事境界線(MDL)付近に投入した。

軍関係者は「昼夜を問わず対北偵察を行っている」として、南北軍事合意を締結した2018年9月19日以前の偵察レベルを回復したと説明した。 

飛行禁止区域を設定した南北軍事合意の第1条第3項により、韓国軍はMDL周辺で対北朝鮮偵察作戦を展開できず、北朝鮮に対する監視に空白が生じるとして批判されていた。

申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官もラジオ番組で「わが国の偵察機が北上できる、いわゆる飛行禁止線がわれわれの地域内から北側に上がることになった」と説明。北朝鮮の主要軍事標的が見えやすくなり、挑発を監視しやすくなるとして「われわれ自身を制限していた偵察監視能力に対する足かせを外したという意義がある」と述べた。【11月22日 聯合ニュース】
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【北朝鮮 事実上の軍事合意破棄を宣言】
これに対し、“北朝鮮の国防省は同日(23日)早朝に発表した声明で「北南(南北)軍事合意書はすでに死文化し、抜け殻となって久しい」としながら、韓国の故意、挑発的な策動によるものと非難。今後は南北軍事合意に縛られないと表明した。”【11月22日 聯合ニュース】と、北朝鮮は事実上の軍事合意破棄を宣言、軍事境界線地域に「強力な軍事力を前進配備する」とも発表しています。

****北朝鮮、軍事境界線地域に「強力な軍事力を前進配備」と宣言 南北の緊張高まる****
北朝鮮は軍事境界線地域に「強力な軍事力を前進配備する」と宣言し、南北間で緊張が急激に高まっています。

23日付の朝鮮労働党の機関紙によりますと、北朝鮮国防省が声明で「北南合意で中止した全軍事措置を即時復活させる。軍事境界線地域により強力な軍事力を前進配備する」と宣言したということです。

声明は合意の事実上の「破棄」とみられ、韓国が北朝鮮の衛星打ち上げに反発し、合意の効力を一部停止して境界地域で偵察活動を再開するとしたことへの対抗措置とみられます。

北朝鮮は21日の軍事衛星の打ち上げに続き、22日の夜遅くにも日本海に向けて弾道ミサイルを発射しましたが、韓国メディアは失敗したとみられると伝えています。(ANNニュース)【11月23日 ABEMA TIMES】
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“事実上の軍事合意破棄”であり、正式な「破棄」ではありません。このあたりについては、南北共に「先に破棄」したという責任を免れようとの意図が込められているとの指摘も。

****「効力停止」「無効化」…南北「破棄」ではない?****
9・19南北軍事合意の現状をめぐって、南北が神経戦を繰り広げている。南北の当局ともに、9・19軍事合意を「破棄する」との表現を口にしてはいない。9・19軍事合意を「先に破棄」したという責任を免れようとの意図が込められていると読み取れる。

北朝鮮国防省は23日午前に発表した声明で、「今この時刻から、我が軍は9・19北南軍事分野合意書に拘束されない」とし、同合意を守らないと宣言した。

声明のタイトルは「『大韓民国』の者どもは北南軍事分野合意書を破棄した責任から決して逃れられず、必ずや厳しい代価を支払わなければならない」というもの。9・19軍事合意を破棄したのは南側だとの主張だ。

北朝鮮国防省は、声明の本文では「破棄」という単語は使わず、「『大韓民国』の者どもの故意・挑発的策動で死文化され、抜け殻となって久しい」などの表現を使っている。

(韓国)統一部の当局者はこの日、記者団に対し、北朝鮮国防省の声明は「9・19軍事合意の事実上の無効化宣言」だと規定した。

この当局者は「破棄とは考えないという意味か」と記者団に繰り返し問われ、「通常の南北合意は、双方が破棄に同意してはじめて効力が発生すると考える」とし、「政府は破棄に同意していない」と述べた。北側が何と言おうと、9・19軍事合意の現在の地位は「破棄」状態ではない、との主張だ。当面は政府が効力を停止させた1条3項以外の9・19軍事合意の条項は守るという意味も込められている。

軍の複数の元高官も「双方の合意によって修正および補充できる」という9・19軍事合意6条1項をあげつつ、一方的な破棄は難しいと述べた。

可能性は低くても、将来的に南北関係が改善して9・19軍事合意が回復されるケースを想定し、韓国から「破棄」を宣言する必要はない、というのが外交安保専門家たちの見解だ。【11月24日 ハンギョレ】
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いずれにしても、北朝鮮が2018年に締結された南北軍事合意の「事実上」の破棄を宣言し、その責任を韓国に転嫁したことに関し、韓国側が更に反発。

****北朝鮮が事実上の軍事合意破棄宣言 韓国国防部「盗っ人たけだけしい」****
韓国国防部のチョン・ハギュ報道官は23日の定例記者会見で、北朝鮮が2018年に締結された南北軍事合意の事実上の破棄を宣言し、その責任を韓国に転嫁したことに関し「事実関係をごまかし、盗っ人たけだけしい振る舞いを見せることに厳重に警告する」と述べた。韓国軍として「北の措置を鋭意注視しながら韓国国民を保護するための対応措置を講じていく」と説明した。

北朝鮮の国防省は同日早朝に発表した声明で「北南(南北)軍事合意書はすでに死文化し、抜け殻となって久しい」としながら、韓国の故意、挑発的な策動によるものと非難。今後は南北軍事合意に縛られないと表明した。

北朝鮮が21日に軍事偵察衛星を打ち上げたことを受け、韓国は22日に南北軍事合意の効力を一部停止し、南北軍事境界線付近での監視・偵察活動を再開している。

チョン氏は南北軍事境界線付近で南北間の衝突が予想されるとの指摘に対し、「抑止は力によって達成される」と答え、韓国軍は万全の態勢を取っていると強調した。北朝鮮が挑発する場合には「韓米連合防衛体制と能力を基盤に即刻、強力に、最後まで懲らしめる」と警告した。

韓国統一部の当局者は記者団に、韓国による南北軍事合意の効力の一部停止は北朝鮮の核・ミサイル脅威に対する最小限かつ正当な防衛措置だと述べた。北朝鮮国防省の声明については「(南北軍事合意の)事実上の無効化宣言」との見方を示しつつも、「北が一方的に破棄を宣言したからといって、一方的に破棄されるものではない」とした。(後略)【11月23日 聯合ニュース】
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【韓国 「抑止は力によって達成される」】
「抑止は力によって達成される」・・・・韓国はアメリカとの軍事的協力体制で北朝鮮に圧力をかけています。
韓国・尹政権の強気姿勢は、来年4月の総選挙を控えて国内に対し「弱気」姿勢は見せられないという事情もあります。

****韓国、北朝鮮に強硬姿勢 軍事合意の一部効力停止、高まる南北緊張****
(中略)北朝鮮が衛星の再打ち上げを予告する中、韓国軍は米軍との共同訓練を繰り返し、米韓同盟の結束ぶりを誇示してきた。

米軍も原子力潜水艦や戦略爆撃機を韓国に相次いで投入。22日には申源湜(シンウォンシク)国防相が釜山港に寄港する米海軍の原子力空母「カールビンソン」を訪問した。聯合ニュースは22日、今回の衛星発射を受けて、米韓両軍と日本の海上自衛隊が週末にも海上合同訓練を実施し、カールビンソンも参加する見通しだと報じた。

韓国では、来年4月に尹政権の政権運営を左右する総選挙を控える。尹氏を支える保守系の少数与党「国民の力」にとっては、過半数の議席の奪還が必須となっている。それだけに尹氏にとっては、核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に安易に譲歩したというネガティブなイメージを国民に持たれることは何としても避けたいタイミングでもある。

競い合うかのように軍事力を誇示する北朝鮮と韓国。朝鮮半島情勢をめぐる軍事的な緊張の水位は今後、さらに高まりそうだ。【11月22日 毎日】
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【北朝鮮 共同警備区域(JSA)の非武装化も破棄 南北双方が監視所を復元】
北朝鮮は南北軍事境界線がある板門店の共同警備区域(JSA)の非武装化も破棄した模様です。

****北朝鮮、南北の共同警備区域非武装化破棄か****
韓国メディアは28日、南北軍事境界線がある板門店の共同警備区域(JSA)に配置された北朝鮮軍人らが拳銃を携帯していることが判明し、南北軍事合意で進めたJSAの非武装化を白紙化したもようだと伝えた。【11月28日 共同】
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更に、北朝鮮は軍事境界線付近の監視所の復元を開始、韓国も同様措置をとる方針です。

****軍事境界線付近で監視所を復元の北朝鮮に韓国も対抗 政府高官が明らかに 板門店では武装兵士を確認 高まる南北の緊張*****
北朝鮮が南北軍事合意に基づき撤去した境界線付近の監視所を復元させたことに対抗し、韓国も再び監視所を設置する方針であることが明らかになりました。

韓国政府は、北朝鮮による偵察衛星の発射を受けて軍事的な緊張緩和に向けた2018年の南北軍事合意の効力を一部停止すると発表。

これに反発した北朝鮮は合意の事実上の破棄を宣言し合意に基づき撤去した軍事境界線付近の監視所の復元に乗り出していることが確認されています。こうした事態を受け韓国政府の高官は27日、韓国も監視所を再び設置する方針だと出演したテレビ番組で明らかにしました。

一方、南北の軍事境界線がある板門店の共同警備区域では北朝鮮の兵士が武装していると報じられ韓国がさらなる対応に踏み切るのか注目されています。【11月28日 TBS NEWS DIG】
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【尹大統領「相手の善意に頼った平和は虚像」】
北朝鮮に対し、良く言えば「自制的」、悪く言えば「腰が引けた宥和的」だった前政権と違い、韓国・伊政権は前述のように「抑止は力によって達成される」という姿勢で、伊大統領は「相手の善意に頼った平和は夢であり虚像に過ぎない」とも語っています。

****尹大統領「相手の善意に頼った平和は虚像」 南北軍事合意の有名無実化に****
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は28日、ソウル郊外の国際展示場KINTEX(京畿道高陽市)で開かれた大統領直属の諮問機関、民主平和統一諮問会議の全体会議で「真の平和は圧倒的で強力な力と、自分自身を守るためにいつでもそのような力を使うという断固たる意志によって構築されるもの」とし、「相手の善意に頼った平和は夢であり虚像に過ぎないということを人類の歴史が証明している」と述べた。

北朝鮮が軍事偵察衛星を打ち上げ、非武装地帯(DMZ)の監視所(GP)を復元して重火器を持ち込むなど脅威を高めている中、南北が2018年に結んだ軍事合意が名ばかりになってしまった状況を指摘したものと受け止められる。

尹大統領は「北の核とミサイルは政権擁護勢力を結集させる手段」とし「北の政権が核を放棄できないのは、核放棄が究極的には独裁権力を危険に陥れると考えるため」と指摘した。また「北の政権は核とミサイルで韓国の現代化した非核軍事力を相殺しようとし、核武力使用の脅威を加えて韓国国民の安保に対する意志を無力化し同盟との協力を瓦解させようとしている」として、「荒唐無稽」と批判した。

そのうえで、韓米同盟を基盤に北朝鮮に対する抑止力をさらに強固にすると強調した。【11月28日 聯合ニュース】
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朝鮮戦争は「終戦」した訳ではなく、「最終的な平和解決が成立するまで朝鮮における戦争行為とあらゆる武力行使の完全な停止を保証する」と規定した休戦協定が1953年7月27日に署名された「休戦」状態にあるという話はさて置いても、南北双方の強気姿勢が「想定外」「不測」の衝突を招き、それがエスカレートする危険性をはらんでいます。
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ベトナム  アメリカとの関係強化の一方で、米中間でのバランスも維持

2023-11-27 22:56:19 | 東南アジア

(【11月27日 日経】 ベトナムとって中国との関係は最重要であると同時に、それだけに警戒感も)

【南シナ海領有権で中国に対抗】
南シナ海ほぼ全域の領有権を主張する中国に対し、ベトナムは中国批判の急先鋒の立場にあり、ときに小競り合いもあったりしますが、ベトナムもただ中国の埋め立て等を批判しているだけでなく、自国の領有権確保に向けた中国と同様の埋め立てを行っています。

****南シナ海 ベトナムも20の岩礁などで埋め立て 米研究機関の分析****
南シナ海で中国が実効支配する岩礁などで埋め立てを進める中、ベトナムも領有権を主張する20の岩礁などで埋め立てを行い港の整備などを進めていることがアメリカの研究機関の分析で分かりました。

特に2022年後半から埋め立てが急ピッチに進められていて、専門家は「中国の活動が拡大する中、ベトナムが存在感を高めようとしている」と分析しています。

CSIS「ベトナム 拡張した面積約約3.5平方キロメートル」
南シナ海では、ほぼ全域の管轄権を主張する中国が岩礁や環礁などを埋め立ててつくった多くの人工島に滑走路やレーダー施設を整備し、軍事的な拠点づくりを進めています。

アメリカのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所が衛星画像などを分析したところ、中国はこの10年間で16の岩礁などを埋め立てていて拡張した面積はあわせておよそ15.8平方キロメートルにのぼるということです。

一方、一部の島などで領有権を主張するベトナムも南シナ海の南沙諸島、英語名・スプラトリー諸島で20の岩礁や環礁などを埋め立てていることが新たに分かりました。

このうちピアソン礁では、去年12月の時点で中央付近が埋め立てられ、それまでなかった船が停泊できる港が整備されていく様子が衛星画像で確認できます。

CSISによりますと、ベトナム側がこれまでに拡張した面積はあわせておよそ3.5平方キロメートルにのぼるということです。

特に去年後半から埋め立てが急ピッチに進められているということで、分析を行ったCSISのハリソン・プレタさんは「中国の海警局や海上民兵の活動が拡大する中、ベトナム側もこの海域での自らの存在感を高めようとしている」と分析しています。

専門家“開発の背景に中国に対抗し 海洋監視能力高める狙い”
中国が西沙諸島の中で最もベトナムに近いトリトン島で新たな開発を進めていることについて分析を行ったCSISのハリソン・プレタさんは「ベトナムに存在感を示す意味でも中国にとっては重要な拠点で、埋め立てた場所が浸食されないようにするとともに拠点としての機能を拡張しているとみられる」と分析しています。

一方、ベトナムが南沙諸島で埋め立てを加速させていることについては「ベトナムは南沙諸島の南西で石油やガスの開発事業を多く行っているが、周辺で中国によるパトロールや妨害行為も増えている。ベトナムにとっては港などの整備を行うことで、この海域で多くの船がパトロールをするなど活動しやすくなる」と開発を進める背景に中国に対抗し、海洋監視能力を高める狙いがあると指摘します。【11月26日 NHK】
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単に現在の国際情勢だけでなく、ベトナム・韓国など中国周辺国は中国歴代王朝の覇権主義との長年の抗争の歴史を有しており、中国に対する強い警戒感が根底にあります。

【アメリカとの関係強化】
こうした中国に対抗する枠組みの中で、ベトナムは(かつて激しい戦争を戦った)アメリカや日本との関係を強化しています。

アメリカにとっても、対中国という安全保障においても、また半導体製造などの経済面においても、ベトナムとの関係強化は望むところで、9月にはバイデン大統領がベトナムを訪問し、その米越関係強化を進めています。


****米越「戦略関係」に格上げへ 対中国、半導体で連携強化****
バイデン米大統領は(9月)10日、ベトナムの首都ハノイを訪問し、最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長と会談する。バイデン政権はインド太平洋を重視しており、米高官はベトナムに向かう大統領専用機内で、首脳会談で両国関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げすると明らかにした。

バイデン政権はアジアで影響力を強める中国に対抗し、半導体などの供給網再構築の一環としてベトナムとの戦略的連携を強化したい考えだ。

両国関係は「包括的パートナーシップ」だった。専門家らによると「戦略的パートナーシップ」を飛ばして格上げするのは異例の措置となる。

ベトナムは米中間でバランス外交を展開しつつも、南シナ海の領有権問題で中国とのあつれきは強まっている。ベトナムは半導体生産や人工知能(AI)分野に力を入れており、米国は同盟国や友好国と供給網を構築する「フレンド・ショアリング」で協力を目指す。

ベトナム戦争を経て両国は1995年に国交正常化し、武器関連の禁輸措置を段階的に緩和してきた。【9月10日 共同】
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****米がベトナム向け過去最大規模の武器売却を協議=関係者****
バイデン米政権は、ベトナムに過去最大規模の武器売却を行う協議を進めている。事情に詳しい2人の関係者がロイターに明かした。

関係者の1人の話では、売却対象にはF16戦闘機などが含まれ、来年中にも合意に至る可能性がある。バイデン大統領とベトナム最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長は11日に共同声明を発表し、両国関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げしており、大規模武器売却はそうした取り組みの集大成となってもおかしくない。

一方この動きは中国の反発を招く可能性もある。ベトナムと中国の間では南シナ海における長年の領海問題を巡る対立が強まり、ベトナム側が海軍力の拡充を図ろうとしている理由の1つにはこうした状況がある。

米国とベトナムの話し合いはまだ始まったばかりで、細かい条件を詰める作業はこれからになるため、最終的に協議がまとまるかどうかは現時点では分かっていない。ただ過去1カ月にハノイやニューヨーク、ワシントンなどで開かれた両国高官の交渉でもこの武器売却が重要な議題の1つになったもようだ。

もう1人の関係者は、米国は財政が苦しいベトナムのために高額な装備品調達に向けた特別な資金支援の枠組みも検討していると述べた。

ある米政府高官は「われわれはベトナム側と非常に生産的で有望な安全保障上の関係を結んでおり、特に領海監視や輸送機、その他幾つかのプラットフォームについて米国の武器システムに対して彼らから興味深い動きが見える」と述べ、ベトナムが本当に有益な武器を入手できるように資金面でより適切な選択肢を提供できる方法が米政府内で考慮されていると付け加えた。

米国のベトナム向け武器売却は2016年に解禁されたが、これまでの取引は沿岸警備艇や訓練用航空機などに限られ、ベトナムは武器の約8割をロシアから調達していた。【9月25日 ロイター】
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日本との関係では・・・

****日ベトナム首脳、27日会談 戦略的関係を格上げへ*****
岸田文雄首相は27日にベトナムのボー・バン・トゥオン国家主席と東京都内で会談する。両首脳の会談は初めてで「広範な戦略的パートナーシップ」の格上げで一致する見通し。政府関係者が24日、明らかにした。

トゥオン主席は26~30日の日程で来日。政府はベトナムを来年度の「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の対象とすることを決めており、首脳会談では安全保障協力についても意見交換する。【11月24日 時事】
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【中国との関係も死活的に重要 米中間でバランス外交】
上記のような、南シナ海をめぐる中国との対立、アメリカとの関係強化という流れの一方で、いつも言うように、ベトナムは中国との関係を決定的に悪化させることを避けるように常に神経を使っています。

ベトナムにとって中国は経済的には最大の貿易相手国です。2021年度の数字で見ると以下のようにも。

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輸出
ベトナムの主な輸出相手国は、アメリカ、中国、韓国、日本、香港などが挙げられます。全体のシェアのうち、アメリカが28.6%、中国が16.7%、韓国が6.5%、日本は6.0%などとなっています。

輸入
ベトナムの主な輸入相手国は、中国、韓国、日本、台湾、アメリカなどが挙げられます。全体のシェアのうち、中国が33.1%、韓国が16.9%、日本が6.8%などとなっています。【2022年12月6日 貿易.com】
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(話がそれますが、輸出入とも日本より韓国が多いあたりは時代の変化を感じます)

また、安全保障面でも中国とは陸続きで、1979年には約ひと月に及ぶ中越戦争を戦っています。
“戦争勃発の理由は、直接には領土紛争をめぐって起こった事件への制裁であるが、背景には中国の支援を得ていたクメール・ルージュを崩壊させる為にカンボジアに進攻したベトナムに対する懲罰であった。中国軍は一時的にベトナム北部の主要都市を占領するが、後にベトナム側の対抗に苦戦し撤退した。”【ウィキペディア】

当時は、ソ連に支援された近代兵器を持つベトナムに対し、旧式の兵器の中国軍は犠牲を厭わず人海戦術をもって攻撃するという様相で、また、文化大革命の影響で中国軍の指揮系統に乱れもあったようです。

短期間で容易に制圧できると考えて侵攻した中国軍が、ベトナムから予想外の抵抗を受け、甚大な被害を出したあたりは、現在のロシアのウクライナ侵攻にも似ています。

しかし、その後の中国・人民解放軍の巨大化・近代化を考えれば、ベトナムとしては再び中国との間で同様の事態になれば国家存亡の危機に直面することは明らかで、中国との決定的な関係悪化は回避する必要があります。

ベトナムにとっては米中のはざまで“バランス”を維持することが重要になります。

****米国と中国の間でバランスをとるベトナム外交****
バイデン米大統領の訪越に関し、2023年9月7日付の英Economist誌は、米越関係は「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされ、防衛、経済安全保障等で成果はあろうが、ベトナムは米中のどちらかを選択することなく引き続き両国間のバランスを取るだろうと解説している。

バイデンは、インドでの主要20カ国・地域(G20)会議出席後の9月10日、ベトナムを公式訪問した。
この10年間、米越関係は「包括的パートナーシップ」として位置付けられてきたが、今般バイデンとグエン・フー・チョン・ベトナム共産党書記との会談の結果、両国関係は「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされた。

米国の運動家らは、バイデンがおぞましい人権実績の政権に媚びようとしていると非難する。しかしバイデンは、インド太平洋地域における中国の影響力に対抗すると決めている。

ベトナムの安全保障上の最大の懸念は、中国による南シナ海への侵入、漁船や石油・ガス探査船への嫌がらせである。米国は2016年にベトナムへの武器売却禁止措置を解除した。

米国にとって、中国を念頭に置いた経済安全保障も目標の一つである。それは、貿易とサプライ・チェーンを再構築することで、優秀で若い労働力を擁し、生産拠点として成長しているベトナムは重要である。

ベトナムにとっては、「関係の格上げ」に多くのことがかかっている。世界のサプライ・チェーンの要となっているベトナムにとって、米国は最大の輸出市場である。

米国の技術もベトナムにとって重要である。 防衛分野における米国との関与強化は、南シナ海における支援だけでなく、ロシア兵器に代わる選択肢を求めるベトナムにとって魅力的である。

中国は、バイデンがベトナムとの関係を深めようとしていることを非難している。しかし、ベトナムは、中国は抗議するだけだと予測している。

米国の一部の人たちは、ベトナムが自国陣営によってくる可能性があると考えている。 それは希望的観測である。ベトナムは、これまで米国の側に立ったことは一度もなかった。 おそらく、米中との間で巧みにバランスを取ろうとするだろう。
*   *   *

外交関係の格上げはあるものの、ベトナムは、当面の間は米中間のバランスを取る形で関係を維持しようとの上記エコノミスト誌の結論は、妥当な見解であろう。

米越関係を語る前に、中越関係を少し考えてみたい。ベトナムにとって中国は2000年の歴史を通じての「脅威」である。対中警戒感は政治指導者から市民まで広く共有されている。

「中国が弱体化した時、ベトナムに平穏が訪れ、中国が強国になるとベトナムに災いが及ぶ。今や災いのくる時代になった」と、あるベトナム人が数年前に語ったが、ベトナムでは多数意見であろう。

ベトナムは、中国が主導する「一帯一路」やAIIB(アジア・インフラ投資銀行)に参加しているが、具体的プロジェクトは実施していない。  

ベトナムが特に恐れているのは、資源に富む南シナ海を中国が実効支配し、日本にとっても死活的に重要なシーレーンを封鎖するような事態である。中国は1974年に西沙諸島、1988年に南沙諸島6環礁をベトナムから奪っている。  

また、台湾には20万人を超えるベトナム人労働者、10万人以上の配偶者、約2万人の留学生が居住しており、台湾有事が発生すれば厳しい選択を迫られることとなる。  

一方で、中国は貿易総額ではベトナムの最大のパートナーであり、コロナ前の外国人観光客約1800万人の内、約3分の1は中国人であった。  

昨年10月、習近平総書記の3期目確定後、中国が初の国賓として迎えたのはチョン・ベトナム共産党書記長であった。また、バイデン氏の訪問直前(9月5日)に、中国は共産党中央対外連絡部長をベトナムに派遣し、チョン書記長と会談させ、両国共産党は中越関係の発展を最優先事項とする旨を確認した。中国は、数年来のベトナムと日米欧との関係強化を快く思っておらず、動きをけん制している。

変化してきた米国の方針
米越間の外交関係は、1995年に樹立されたが、米国が安全保障分野でベトナム重視に転化したのは、2014年に中国が南シナ海で人工島を作り、軍事拠点化を進めて以降である。15年、米国は「航行の自由作戦」を始め、同年、チョン越共産党書記長は、現役の書記長として初めて訪米した。  

16年にはオバマ大統領が訪越して武器輸出禁止の全面解除を公表した。トランプ大統領もベトナムを重視したし、バイデン政権になってからもベトナム重視の姿勢は引き継がれている。  

米国のベトナム重視の背景には、地理的重要性の他、南シナ海問題に関して中国がアセアン分断工作を進めた際、ベトナムだけは毅然とした姿勢を維持したことから、対越信頼感が高まったこともある。また、安全なサプライ・チェーン構築の観点からも、ベトナムの重要性は大きくなっている。  

ベトナムにとって、中国の軍事的プレゼンスに対する唯一の抑止力は米軍であり、かつ、米国は最大の輸出市場でもある。更にベトナム人の対米感情は非常に良い。  

外務省が2021年に実施した調査(ASEAN10カ国)によると、現在最も重要なパートナーとして米国をあげた国は、フィリピンとベトナムの二か国であった。将来、究極の状況下でのベトナム国民の選択は明白であると思う。【9月25日 WEDGE】
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ベトナムはアメリカとの関係強化とバランスをとるかのように、中国とも関係強化を図っています。

****中国、ベトナムとの貿易関係強化を表明 戦略的分野も対象に****
中国の王文濤商務相は25日、ベトナムのファム・ミン・チン首相とホーチミンで会談し、貿易で相互関係を深める方針を伝えた。中国商務省が明らかにした。

王氏は、両国の貿易協力は既に「実りある結果」をもたらしているとし、今後はデジタル経済、グリーン開発、国境をまたいだ電子商取引など戦略的分野が含まれると述べた。

中国と米国はベトナムを含む東南アジア諸国に影響力を強めようとしのぎを削っている。ベトナムは9月、米国との関係を包括的戦略パートナーシップに格上げし、中国・ロシアと同格にした。【11月27日 ロイター】
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アメリカ大統領選挙  高齢問題で不安視されるバイデン・トランプ両氏 「第3の候補」で攪乱も

2023-11-26 23:44:52 | アメリカ

(【11月22日 アゴラ】 確かに多すぎるロウソクで誕生日ケーキが燃え上がっています)

【笑えない自虐ネタ】
バイデン大統領は11月20日に81歳となりましたが、多すぎるロウソクで誕生日ケーキが燃え上がっているように見えた・・・という、笑うには深刻な話。

****「パレスチナの子供は誕生日を祝えない」と批判も****
アメリカのバイデン大統領が誕生日に投稿した写真に対して、反響と批判が広がっています。 反響が広がった理由は、誕生日ケーキの見た目のインパクト。

一方で批判が寄せられている。イスラエルの攻撃によって誕生日を祝えない大勢パレスチナの人たちがいることへの憂慮からです。 

バイデン大統領は11月20日に81歳となり、アメリカの大統領としての史上最高齢記録の更新を続けています。当日にインスタグラムで、誕生日ケーキを前に笑顔で座っている写真を投稿しました。 投稿を見た人から注目を集めたのはテーブル上の誕生日ケーキ。

大量のろうそくが刺さっており、ケーキ自体が燃え上がっているように見えます。 投稿の中で「146歳の誕生日にもなると、ろうそくのスペースがなくなるみたいだね」と高齢を自虐するジョークを綴りました。 (後略)【11月26日 HUFFPOST】
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高齢についてバイデン氏本人は自虐ネタにしていますが、多くの国民は不安を感じています。

****81歳のバイデン氏、テイラー・スウィフトさんをブリトニー・スピアーズさんと言い間違え…米世論調査で71%「年を取り過ぎている」****
米国のバイデン大統領は20日、81歳の誕生日を迎え、米大統領の最高齢記録を更新した。有権者の間で高齢批判が広がる中、来年の大統領選再選に向けた道のりは険しさを増している。

「60歳になるのは大変なことなんだ」。20日にホワイトハウスで開かれた毎年恒例の感謝祭行事に出席したバイデン氏は、こう冗談を飛ばして笑いを誘った。

2021年1月に78歳で就任したバイデン氏は、退任時に77歳だったレーガン大統領の記録を塗り替え、最高齢を更新し続けている。年初の健康診断で異常は見当たらず、先月には「0泊3日」でイスラエルを往復する強行日程もこなした。

だが、大統領選まで1年を切る中、2期目を全うすれば86歳を迎えるバイデン氏の体力に不安が強まっている。言い間違いや移動時に転倒する姿が度々報じられ、この日も歌手のテイラー・スウィフトさんに言及するところをブリトニー・スピアーズさんと言い間違え、事後に訂正が発表された。

米紙ニューヨーク・タイムズなどが今月実施した世論調査では、71%が大統領としては「年を取り過ぎている」と回答した。共和党の大統領候補指名争いで首位を走るトランプ前大統領(77)との再対決が現実味を帯びる中、3、4歳若いトランプ氏に対しては高齢過ぎるとの回答は39%にとどまる。

大統領選の本選を見据えるトランプ氏は20日、自らの健康状態は「極めて良好」だとする診断書をバイデン氏の誕生日にぶつけて発表した。

トランプ氏が当選しても任期中にはバイデン氏を超えて最高齢を更新する。このためバイデン氏陣営には「選挙戦が本格化すれば年齢は争点ではなくなる」と楽観視する声もある。とはいえ米メディアによると、イメージチェンジを図ろうと、ホワイトハウスでは革靴からより快適な靴に履き替えさせ、バイデン氏の歩行をスムーズに見せる案まで検討されているという。

パレスチナ情勢を巡りイスラエルを擁護するバイデン氏は、民主党の支持層だったイスラム教徒やアラブ系、無党派層が離れ、支持率は急落中だ。トランプ氏に支持率で後れを取る世論調査もあり、一段と厳しい選挙戦が予想されている。【11月21日 読売】
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【トランプ前大統領も高齢ということでは同じ】
高齢はトランプ前大統領も同じですし、バイデン氏ほど話題にはなりませんが、言い間違いの類も多数。

****ドナルド・トランプ、現米大統領が誰かも分からず...堂々と間違えネット爆笑...口にしたのはまさかの「あの人物」*****
<北朝鮮の人口に続き、現職のアメリカ大統領の名前まで言い間違ってネットに笑いの種を提供しているが......>

ドナルド・トランプ前米大統領が、ニューハンプシャー州での選挙運動中に現米大統領の名前を間違えた発言の動画が出回り、ソーシャルメディアで笑いものになっている。ライバル政治家2人からも当てこすられる始末だ。

トランプは来年の大統領選に向けた共和党の候補指名レースの先頭を走っている。ところが11日にニューハンプシャー州クレアモントで行った演説で、現職のアメリカ大統領が誰かを「間違えた」として物議を醸している。ちなみにトランプは、ほんの数日前に北朝鮮の人口を大きく間違えてネットで笑いものになったばかりだ.

トランプはこの演説で、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相を話題に出した。かつてオルバンのことを「トルコの指導者」と呼んだことがあるトランプだったが、今回の演説では正しい呼称を使うことができた。問題は、オルバンがしばらく前に「バラク・オバマに」退陣を迫ったと述べたことだ。

トランプは「非常にパワフルな人物」とオルバンを持ち上げたうえでこう述べた。「2週間前にインタビューで『オバマ大統領にアドバイスするとしたら何と言いますか? 世界各地でドンパチが起きていますが』と問われ、オルバン首相はこう答えた。『ごく単純なことだ。即座に辞任すべきだ。そして世界の平和を保ってくれたトランプ大統領に席を譲るべきだ』」

バイデンとともに勘違いのオンパレード
本誌はトランプとバイデンそれぞれの代理人にコメントを求める電子メールを送ったが回答は得られなかった。
一方、現職のバイデンはカマラ・ハリス副大統領とともに再選を目指している。

今回の間違い以外にもトランプは国名を間違えるとか、自分のいる町がどこか分からないとか、言葉の発音を間違えるなどミスを繰り返している。

バイデンとハリスの陣営は、こうしたミスにスポットライトを当てて、メディアがトランプの失敗を報道するよううながしている。メディアではバイデンの高齢問題が取り上げられがちだからだ。
来年の大統領選は77歳のトランプと80歳のバイデンの戦いになる可能性があり、年齢の問題はしばしば取り上げられる話題だ。

両者とも、最近は似たようなミスを繰り返しており、ネットなどで笑いの種にされることが増えている。
トランプは9月、バイデンのことを「認知能力が損なわれている」と言ったそばから、バイデンはアメリカを「第2次世界大戦」に導こうとしていると言ってしまい、笑いものになった。(後略)【11月13日 Newsweek】
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歌手の名前を間違うぐらいならまだしも、現職大統領の名前を間違えるのは・・・・。
誰でもやる言い間違いもさることながら(ただ、頭の中がオバマ時代で止まっている可能性はありますが)、欧米的な自由主義的民主主義価値観に異論を唱え、ロシア・中国のような非自由民主主主義を目指しているとされるハンガリー・オルバン首相を持ち上げる事の方が重大な問題に思えます。

【高齢問題以外でも票を失うバイデン氏】
バイデン大統領に話を戻すと、高齢問題以外に、パレスチナ問題でのイスラエル支持によって、イスラム教徒の支持を失っていること、更に経済問題で支持基盤であった黒人票を失っていることも問題視されています。

“米イスラム団体、バイデン氏にガザ停戦なければ再選不支持と警告”【11月1日 ロイター】
“20年大統領選で約110万人のイスラム教徒が投票した。AP通信の出口調査では、イスラム教徒の64%がバイデン氏に、35%がトランプ前大統領に投票した。”【同上】と数は多くないですが、勝負を決めるスウィング・ステートにあっては無視できない票にもなります。

更に大票田の黒人層の離反となると問題は深刻です。

****黒人票を失うバイデン氏、それが大問題な訳****
景気不安で黒人の民主党離れが進む

米ノースフィラデルフィア在住の黒人女性であるミシェル・スミスさん(46)は、2020年の米大統領選挙で民主党のジョー・バイデン候補(現大統領)に投票した。二つの仕事を掛け持ち、10代の息子3人を育てている自分のような人々を助けてくれると思ったからだ。

それが今では、物価の上昇や家賃の高騰だけでなく、自分が取り残されたような感覚にも見舞われているため、バイデン氏には二度と投票しないと話す。(後略)【11月15日 WSJ】
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【カリフォルニア州のニューサム知事(56) 「影の選挙運動」?】
当然、「誰か他にいないのか?」という話にもなります。

****民主党の次世代へ「バトンを」 再選目指すバイデン氏に突き上げ****
2024年米大統領選の民主党候補指名争いに出馬したフィリップス下院議員(54)を支持する特別政治活動委員会は23日までに、再選を目指すバイデン大統領(81)に「次世代にバトンを渡そう」と促す動画広告を公開した。

民主党の指名獲得が確実視されるバイデン氏だが、高齢への懸念が広がる。フィリップス氏は党内の突き上げ役として世代交代を求める国民の声を代弁し、存在感を高めようとしている。

21日公開の広告は、バイデン氏とトランプ前大統領(77)との再対決になった場合を想定した世論調査で、トランプ氏の支持率が上回った結果を提示。「バイデン氏はバトンを渡す時だ」と訴えた。【11月23日 共同】
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フィリップス下院議員が何者かまったく知りませんが(多分、多くのアメリカ人も)、民主党の「次期大統領候補」として期待されているのはカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(56)。今回選挙については出馬しないとしていますが、今後の成り行きでは・・・という話も。

****「将来の大統領候補」が国内外でアピール バイデン氏不出馬に備え?****
2024年11月の米大統領選を巡って、民主党で「将来の大統領候補」との期待がある西部カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(56)が国内外で存在感をアピールしている。高齢で不人気のジョー・バイデン大統領(80)が出馬を辞退するシナリオに備えて、「影の選挙運動」を展開しているとの見方も出ている。

ニューサム氏は24年大統領選で「ポスト・バイデン」の有力候補と目されてきたが、22年の中間選挙後に「バイデン氏を支持する」と表明。米メディアのインタビューでは、バイデン氏が出馬しない場合でも「立候補しない」としていた。【11月8日 毎日】
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バイデン氏もニューサム知事をかなり意識しているようです。

****バイデン氏が後継指名?=カリフォルニア州知事「大統領になれる」―米****
「彼は何にでもなれる。私がなりたい仕事にも就けるかもしれない」―。西部カリフォルニア州を訪問中のバイデン米大統領(80)が15日夜、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の歓迎行事で、同州のニューサム知事(56)を持ち上げる一幕があった。

ニューサム氏は「バイデン後」の大統領候補と目される民主党ホープの一人。来年の大統領選でバイデン氏の再選を支持しているが、同時に国政課題で州をまたぐ発信も強化している。先月は中国を訪れ、習近平国家主席と異例の面会を果たすなど外交でも存在感を発揮。再選に向け高齢不安を抱えるバイデン氏にとっては、潜在的な「脅威」とも言える。

バイデン氏は同じ行事で、同州選出の上院議員だったハリス副大統領(59)にも言及。ハリス氏も将来の大統領候補と見なされているが、バイデン氏は「彼女は傑出したリーダーだ」と述べるにとどめた。【11月17日 時事】
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【共和党側では評価が高まるニッキー・ヘイリー前国連大使】
一方の共和党はトランプ独走は変わっていませんが、トランプ氏を追う候補として評価が急上昇しているのが、ニッキー・ヘイリー前国連大使です。

****トランプ対抗馬の最右翼、支持率上昇中の共和党候補ニッキー・ヘイリーとは****
<2024年大統領選挙の共和党候補として頭角を現すニッキー・ヘイリー前国連大使。トランプにはまだ差をつけられているが、他の大物政治家を抜いて2位に浮上した>

2024年共和党大統領候補ニッキー・ヘイリー元国連大使の支持率が上昇している。2011年から2017年までサウスカロライナ州知事を務めたヘイリーは、今回の共和党候補者のなかでは穏健派の一人とみられている。全米を二分する中絶の是非についての見解も同様だ。

ヘイリーは自らを「誰はばかることのないプロライフ(人工中絶合法化反対)派」であると公言しながらも、国民は中絶という医療行為を「悪者扱い」するのはやめるべきだと呼びかけ、養子縁組や避妊へのアクセスを推進してきた。(中略)

一方、ヘイリーの広報担当を務めるケン・ファーナソは、24年大統領選挙に関する複数の世論調査で、本選挙においてヘイリーとバイデンの対決を想定した場合、ヘイリーに投票すると答えた人の割合が、バイデンに投票する人をかなり上回っていることを指摘した。その差は、トランプ対バイデン、あるいはフロリダ州のロン・デサンティス知事対バイデンよりもはるかに大きかった。

たとえば11月2日から7日にかけて実施されたマーケット法科大学院の世論調査(サンプル数は全米の成人1010人、誤差は4.2ポイント)において、ヘイリーはバイデンを10ポイントリード(55対45%)したが、トランプがバイデンと対決した場合は4ポイントのリード(52対48%)に過ぎない。デサンティスとバイデンでは2ポイント(51対49%)の僅差だった。

ヘイリーは過去にトランプ政権を称賛してきたが、対中政策などではトランプを批判したこともある。
「私はいつも、トランプはいい時に現れたいい大統領だと言ってきたし、私は彼の政策の多くに賛成してきた」とヘイリーは最近、フォックス・ニュース・サンデーで語った。「問題なのは、トランプを取り巻く騒動と混乱だ。トランプは常に混乱に付きまとわれている。アメリカ人はそれを感じている」

新たな世論調査データによると、トランプ政権下で国連大使を務めていたヘイリーは、トランプが強力なリードを維持する中、ニューハンプシャー州の共和党予備選を予想する調査で2位に急浮上した。

最新の調査でも好調
11月10日から13日にかけてエマーソン大学世論調査/WHDHがニューハンプシャー州の登録有権者917人を対象に実施した世論調査で、今年8月の時点で4%だったヘイリーの支持率は2位の18%に上昇、3位のクリスティー前ニュージャージー州知事(11%)や4位の実業家ビベック・ラマスワミ(8%)に差をつけた。一連の討論会で支持を集めたとみられる。一方、トランプの支持率は49%で、圧倒的トップは8月と変わらない。

さらに、11月に行われたニューヨーク・タイムズ紙/シエナ・カレッジの調査では、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの6つの主要激戦州において、ヘイリーはバイデンと直接対決した場合、トランプよりも勝利の可能性が高いことが明らかになった。【11月20日 Newsweek】
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国連大使時代の彼女は、トランプ氏に比べたらずいぶん“まし”にも思えました。国際情勢認識についても穏当です。

【選挙戦を攪乱する「第3の候補」】
ただ、結局バイデンvs.トランプになりそうということで、民主・共和2大政党以外からの「第3の候補」を求める声も大きくなっています。

****米大統領選「第3の候補」切望論、本命2人の不人気で****
2024年米大統領選でバイデン大統領とトランプ前大統領の二者択一を迫られそうな事態を前に、多くの米国民は、もっと若くて国を分断しない別の選択肢を切望している。

第3の候補者に巨大な「市場」が開かれ、出馬すれば大きな影響力を持ち得る現状は、民主・共和2大政党のバイデン、トランプ両氏が飛び抜けて不人気だという事実を突きつけている。

米国は現在、経済問題と格闘し、政治は完全に二極化し、米国が支持するイスラエルがパレスチナ自治区ガザを攻撃して物議を醸す中、次世代の指導者を求める声が広がっている。

ギャラップが最近実施した調査では、米国の成人63%が「第3の主要政党が必要」という考えに同意した。共和・民主両党は民意を代弁するという仕事をまともに果たせていない、とみている。この割合は1年前から7ポイント上昇し、ギャラップが最初にこの質問を行った2003年以来で最も高かった。

バイデン、トランプ両氏はいずれも党の予備選で対立候補の挑戦を受けそうだが、結局は大統領候補に選ばれる可能性が高い。バイデン氏は高齢が憂慮され、トランプ氏は数々の刑事訴追を受けているにもかかわらず、だ。

現代の米大統領選で第3の候補が勝利した前例はない。しかし主要政党の候補者から大量の票を奪うことで、非常に大きな役割を果たした事例は数件ある。

1992年の大統領選では、大富豪で実業家のロス・ペロー氏が19%の票を獲得。民主党のビル・クリントン氏が現職のジョージ・H・W・ブッシュ氏を破る要因になったと言って差し支えない。

2000年の大統領選に出馬した政治活動家のラルフ・ネーダー氏は、全体の得票率こそ3%に満たなかったが、フロリダ州で民主党のアル・ゴア候補から十分な票を奪い、同州及び全国で対立候補のジョージ・W・ブッシュ氏を勝利に導いた。

現在、ロイター/イプソスの世論調査を見ると、反ワクチンの陰謀論者で民主党の名門ケネディ家のロバート・ケネディ・ジュニア氏が、バイデン、トランプ両氏との三つどもえ選挙となった場合に20%の票を獲得する可能性がある。ケネディ氏は10月に無所属出馬の意向を表明した。

ケネディ氏を支持する特別政治活動委員会(スーパーPAC)「アメリカの価値2024」は、元トランプ氏支持者を含む富裕な献金者から1700万ドル余りの資金を調達している。【11月24日 ロイター】
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ロバート・ケネディ・ジュニア氏は新型コロナウイルスのワクチンの接種に反対するなど怪しげなところもありますが、ロバート・ケネディ元司法長官の息子で、ケネディ元大統領のおいにあたるという金看板はまだ有効なようです。

彼が当選することはないでしょうからその主張は脇に置くとして、その存在は選挙戦を大きく攪乱します。元民主党員・ケネディ家一員ということで、民主党バイデン氏の票を奪いそうですが、むしろ共和党支持者からの支持が多く、トランプ氏がバイデン氏をリードしているという調査結果が出た勝敗を決めるスウィング・ステートについては、もし三つ巴になるとトランプ氏のリードが大きく減少するという調査もあります。

ケネディ氏のほか、“9日にはウェストバージニア州選出のジョー・マンチン上院議員が、(大統領選への出馬を考えてのことか)来年の上院議員選への再出馬を見送ると明らかにした。同氏は今年に入ってから、第3政党での大統領選出馬をほのめかせていた。公共宗教研究所(PRRI)が行ったこの夏行った世論調査によると、無所属候補者としてマンチン氏は10%の支持率を集めていた。”【11月19日 CNN】といった話も。

こうした「第3の候補」が出てくると、選挙戦はますます不透明になります。

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ミャンマー  拡大する少数民族武装勢力の攻勢 注目される中国の動向

2023-11-25 23:08:19 | ミャンマー

(ミャンマー・シャン州で投降した国軍兵士らに向かって話す武装勢力関係者【11月20日 共同】)

【少数民族武装勢力の攻勢、拡大の様相】
民主派勢力(アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが設立した「国民統一政府」(NUG))の民兵組織及び少数民族武装組織と国軍の間で戦闘が続くミャンマーにおいて、10月27日に中国国境も近い北東部シャン州で三つの少数民族武装組織が連携して攻勢(「1027作戦」)を開始したことは、これまでも取り上げてきました。
に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

今回が3回目になりますが、取り上げる度に混乱は拡大し、国軍支配にとって深刻な状況になりつつあります。

シャン州での少数民族武装勢力の攻勢に国軍が有効に対応できない状況を受けて、想定されたように各地の少数民族武装勢力も国軍への武闘を開始し、戦線が拡大しています。

****ミャンマーで新たな戦線、反軍政派が攻勢 数千人がインドに避難****
軍事政権下のミャンマーで13日、少数民族の反軍政派が治安拠点を攻撃した。反軍政側などが明らかにした。2つの新たな戦線が開かれたほか、数千人が戦闘から避難するため隣国インドに越境した。

10月下旬に3つの少数民族武装勢力が協調して攻撃を開始し、一部の町や軍拠点を奪取。軍政にとっては2021年のクーデターによる政権掌握以来、最大の問題となっている。

反軍政勢力の一角で西部ラカイン州を拠点とするアラカン軍(AA)の広報担当者は、約200キロ離れている2地域で拠点を抑えたと語った。

インドと国境を接するチン州でも戦闘が発生し、インド当局者らによると、反軍政勢力が軍駐屯地2カ所を攻撃した。

ミャンマーからは約5000人がインドのミゾラム州に渡ったという。

軍政の報道官からは今回の戦闘について今のところコメントを得られていない。【11月14日 ロイター】
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アラカン軍はシャン州で「1027作戦」に参加している組織で、その動向が注目されていましたが、本拠地ラカイン州でも国軍への攻勢を始めたようです。

少数民族武装勢力側は、国軍から投降者が相次いでいると発表しています。(このあたりの情報は、「大本営発表」的なプロパガンダの側面がありますので、どこまで信用できるかは注意する必要があります。)

****ミャンマー軍政、数十人の治安要員投降 少数民族武装勢力が発表****
ミャンマー軍事政権の治安要員数十人が投降したり、身柄を拘束されたと、反軍政武装勢力が15日に発表した。

同国では10月下旬に3つの少数民族武装勢力が協調して軍政に対する攻撃を開始し、一部の町や軍拠点を奪取。軍政は2021年のクーデターによる政権掌握以来、最大の難局に直面している。

反軍政勢力の一角で西部ラカイン州を拠点とするアラカン軍(AA)によると、少なくとも28人の警察官が武器を放棄して投降したほか、10人の兵士が身柄を拘束されたという。ロイターはAAの情報が正確なのかどうか確認できていない。

ラカイン州の州都シットウェには夜間外出禁止令が出されている。【11月15日 ロイター】
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ラカイン州の州都で夜間外出禁止令が出されているということは、国軍側にとって警戒すべき状況ではあるようです。

【辺境での少数民族の攻勢が全土の抵抗に結びつくのか】
民主派組織NUG=国民統一政府の外相が来日して、軍事政権について「崩壊はもはや時間の問題だ」と主張、日本を含む国際社会に支援を求めていますが、このあたりはプロパガンダ的な政治的発言でしょう。

****ミャンマー民主派組織幹部「少数民族武装勢力との連携で成果、軍は都市部の支配喪失し始めている」****
来日したミャンマーの民主派組織NUG=国民統一政府の外相が会見し、クーデター後、民主派などへの弾圧を続ける軍との戦闘について少数民族武装組織との連携で「成果をあげている」と強調しました。

ミャンマー民主派組織「NUG(国民統一政府)」ジンマーアウン外相 「(ミャンマー軍との戦いについて)少数民族との戦闘の連携で成果をあげている」

ミャンマーの民主派勢力は、少数民族武装勢力と連携し軍への大規模な攻撃を進めていますが、NUG=国民統一政府で外相を務めるジンマーアウン氏は会見で、農村部での軍の支配地域は40%以下になっていると指摘。「都市部での支配も失い始めている」と強調しました。

一方、現在の軍政に対する日本政府の対応については、「ミャンマーで現在起きていることに合っていない」と批判したほか、今後、軍政から逃れようとする多くの国民に対して国際社会からの支援が必要だと訴えました。【11月24日 TBS NEWS DIG】
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プロパガンダ的発言ではありますが、このまま衝突が拡大すると、場合によっては・・・という可能性もあります。
タリバンの攻勢であっけなく崩壊したアフガニスタン政府軍の事例もありますので。

ただ、アフガニスタンと異なるのは、(軍の能力の問題は別にして)、タリバンを主導していたのがアフガニスタンにおける最大部族パシュトゥン人であったのに対し、ミャンマーでは攻勢をかけているのは自治拡大・独自の権益拡大を目論む少数民族であり、今後多数派ビルマ族社会がこの動きにどのように反応するのかが事態の推移に大きく影響します。

約70%を占めるビルマ族社会にあっても多くの国民が国軍支配を嫌悪しているのは間違いないですが、少数民族との共闘で彼らの権利拡大を容認するのか・・・民主派組織「NUG(国民統一政府)」は州を基本としてそれが集まって連邦国家を作る「The Federalとしての連邦制」を掲げ、少数民族との連携を基本枠組みとしていますが、一般世論にどこまで受け入れられるのか・・・。

そうした少数民族と多数派ビルマ族の連携によって国軍への抵抗が辺境地域だけでなくミャンマー全土に広がるのかどうか・・・が、今後の展開にとって重要です。

【「静観」する中国 今後は?】
そしてもう一つのカギは中国の動向でしょう。

中国はミャンマー国軍に制裁を課す欧米とは異なり、国軍とも一定のつながりを持ち、「一帯一路」事業を進めています。
一方で、シャン州の中国国境付近の州数民族武装勢力にもこれまで支援を行ってきたとされています。

そして、今回の衝突は中国が重視する「一帯一路」事業展開エリアで起きています。
「一帯一路」事業への影響を防ぐため、そして、これまでの中国と国軍との関係を考えると、中国が少数民族武装勢力に圧力をかけて沈静化させる・・・というシナリオが考えられますが(実際、従来はそうしたような動きがありました)、今回は中国は表だって動いていません。

その背景には、中国国境付近で活動する(国軍も関与しているとも言われる)中国系詐欺グループ摘発に国軍が有効に動いていないことに中国が苛立っていることがあると指摘されています。

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(「1027作戦」を行っている三つの少数民族武装勢力で構成する)同胞同盟は(国境近い詐欺グループ拠点)ラウッカインを包囲してから間もなく、攻撃のタイミングを慎重に計っていた。中国はこの出来事を受け、ミャンマーの軍事政権にしびれを切らしていた。

中国政府はこの1年、軍事政権に対し、主に中国人集団によって稼働している詐欺センターを閉鎖するよう圧力をかけてきた。詐欺センターに閉じ込められている人身売買の被害者が残忍な扱いを受けていることが広く知られるようになり、中国政府はきまりの悪い思いをしている。

中国側の圧力は、ワ族など多くのシャン州の民族勢力を説得し、詐欺への関与が疑われる人々を中国の警察に引き渡すことにつながった。8月から10月にかけて4000人以上が中国側へ送られた。しかし、ラウッカインの人々は、年間数十億ドルを生み出してきたこのビジネスを停止することに難色を示した。

現地の情報筋がBBCに語ったところによると、10月20日に、ラウッカインで閉じ込められている数千人の一部を解放しようとする試みがあったが失敗に終わったという。

詐欺センターで働く警備員たちが、脱出を試みた大勢の人を殺害したと考えらえている。その結果、隣接する中国側の地元政府から、責任を負う者に裁きを受けさせるよう求める強力な内容の抗議文書がミャンマー側へ送られた。

同胞同盟は好機と見て攻撃を仕掛けた。中国を落ち着かせるために詐欺センターを閉鎖すると約束した。中国は公には停戦を求めているが、同胞同盟のスポークスマンは、中国政府から直接、戦闘をやめるよう要請は受けていないとしている。【11月10日 BBC】
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“混乱収束が見通せない中、武装勢力に一定の影響力を保持する中国は攻勢を静観している。BBCは静観の理由を、ミャンマーで中国国内を標的とした複数の詐欺グループが活動する中、「中国が国軍の無策にいらだちを感じている」ためだと指摘。一部武装勢力には詐欺容疑者の身柄確保を巡って中国に協力する動きがあり、事態は複雑さを増している。”【11月15日 産経】

こうした状況を受けて、国軍側も動いた・・・のでしょうか。

****特殊詐欺容疑者3万人を移送 ミャンマーから中国に****
中国公安省は21日、中国人を標的にした特殊詐欺に関わった疑いがあるとして、これまでに隣国ミャンマーで拘束された計3万1千人の容疑者が中国に移送されたと発表した。

中国では海外を拠点としたグループによるインターネットや電話を利用した詐欺被害が深刻化している。公安省は今年9月からミャンマー側と協力し、国境を接する同国北部で取り締まりを強化していた。

王小洪公安相は10月末、ミャンマーの首都ネピドーで軍政トップのミンアウンフライン総司令官と会談し、両国の司法機関の連携強化について協議した。【11月21日 共同】
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3万1千人・・・・小さな都市の全人口にも匹敵するけた外れの数ですが、一度にという訳でなく、これまでの累計でしょう。(その大部分は強制的に働かせられていた加害者兼被害者の人々でしょう)

摘発は、中国側の公安主導で行われたようです。

****ミャンマー拠点のネット詐欺、中国への容疑者引き渡し3万1千人****
中国公安部は21日、ミャンマー北部を拠点とした中国人に対するネット詐欺犯罪が深刻な状況にあることを受け、雲南省などの警察機関に国境警察任務・法執行協力を持続的に進めるよう手配し、複数回にわたる摘発を連続して実施したと明らかにした。

ミャンマー北部の関連地域の法執行部門がこれまでに中国側へ引き渡した詐欺容疑者は、資金提供者や組織幹部など63人、指名手配中の逃亡者1531人を含む3万1千人に上り、摘発は目覚ましい成果を上げている。【11月22日 AFP】
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中国絡みでは、国軍側の中国への圧力ともとれる動きも。

****「テロ支援やめろ」ミャンマーで親軍政派が反中国デモ****
クーデターによる軍政が続くミャンマーで、政権を支持する団体が中国を非難する異例のデモを行ったと現地メディアが報じました。

現地メディアによりますと、19日、軍政を支持する50人ほどのグループが最大都市ヤンゴンにある中国大使館の前でデモを行いました。

ミャンマー北東部の中国との国境地帯では先月27日以降、少数民族武装勢力と軍との間で激しい戦闘が続いていますが、参加者の一部は“中国がこうした武装勢力に武器を売っている”と非難。

「中国政府よ、テロリストへの支援を中止せよ」などと書かれた横断幕を掲げ、“ミャンマーに流血の事態をもたらしているのは中国だ”などと声をあげたということです。

2021年の軍事クーデター以降、欧米からの制裁が続く一方で、軍政への支援を表明するなどミャンマー政府の“後ろ盾”となってきた中国に対し、こうした抗議活動が行われるのは異例です。

あらゆる抗議活動が厳しく取り締まられるミャンマー国内で、政権寄りの団体により公然と反中国デモが行われたことが、今後のミャンマーと中国の関係にどのような影響を与えるのか注目されます。【11月21日 TBS NEWS DIG】
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更に、今のところどちらが行ったよくわからない攻撃も。

****ミャンマー 中国との貿易拠点でトラック100台以上炎上****
ミャンマーと中国の国境地帯にある貿易拠点でトラック100台以上が炎上し、ミャンマー軍と抵抗勢力の双方が相手側による攻撃だと主張したと報じられています。

ミャンマーの国営紙によりますと、北東部・シャン州の国境近くにある対中貿易の拠点で、23日、大規模な火災が発生しました。

この火災により、衣類や建築資材などの物資を積んだトラックなど258台のうち、およそ120台が焼けたということです。

火災の原因については、「軍との戦闘を続けている少数民族や民主派などの武装勢力がドローンを用いて爆弾を投下した」としています。

一方、ミャンマーの独立系メディアは「軍側が近くの基地から無差別な砲撃を行った」のが原因だったと報じ、ロイター通信は「人びとの利益となるものを破壊するような攻撃を行うことはない」とする武装勢力側の主張を伝えています。

2年前のクーデターで軍が実権を握ったミャンマーでは、先月から中国との国境地帯で激しい戦闘が続いていて、軍政寄りの団体が中国に対し「武装勢力を支援している」と激しく非難するなど、後ろ盾となってきた中国を巻き込んだ異例の緊張状態が生まれています。【11月25日 TBS NEWS DIG】
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炎上したトラックはおそらく中国のものでしょう。
国軍にしても、少数民族武装勢力にしても、中国を怒らせるような攻撃の理由がよくわかりません。

詐欺グループ摘発や上記の攻撃などを受けて、中国の対応がこれまでの「静観」から変化するのか、しないのか・・・変化するならどちら側につくのか・・・注目されるところです。

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スウェーデンNATO加盟で続くハンガリー・トルコの抵抗 加盟したフィンランドへは露が難民送り付け

2023-11-24 22:55:26 | 欧州情勢


(近頃の難民は自転車でやってくる?──フィンランドに入ろうとする「難民」はロシア国境警備隊の支援を受けているという主張も(11月21日、国境検問所があるフィンランド北部のサッラ)【11月22日 Newsweek】)

【スウェーデンNATO加盟へのハンガリーの抵抗 EU補助金をめぐる駆け引きか】
ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアへの警戒感を強める北欧フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を新たに申請した件に関しては、フィンランドについては3月末にハンガリー・トルコが承認し正式加盟に至っていますが、スウェーデンについては未だにハンガリー・トルコ両国の批准が得られていません。

スウェーデンの新規加盟については、主にクルド人反政府勢力の扱いに反発するトルコ・エルドアン大統領の動向が国際的に注目されてきましたが、上記のようにロシア寄りの姿勢を隠さないハンガリー・オルバン首相も(当初は“ほどなく同意する予定”とも見られていましたが)未だに同意していません。

****スウェーデンのNATO加盟、ハンガリーが批准先延ばし…ぎりぎりまで抵抗して譲歩引き出す戦術か****
スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を巡り、ハンガリーが承認手続きを先延ばしにしている。ぎりぎりまで抵抗して譲歩を引き出す戦術とみられるが、NATOとしては、今月末に「32か国体制」とする計画が頓挫しかねず、懸命の説得を続けている。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は8日、ブリュッセルでハンガリーのノバーク・カタリン大統領と会談。共同記者会見で「ハンガリー議会は、これ以上遅れることなく批准を決議すべきだ」と強く求めた。

スウェーデンの加盟実現に向けて残された手続きは、トルコとハンガリーの議会批准のみだ。最大のネックと目されてきたトルコは、タイップ・エルドアン大統領が10月23日に加盟を認める議定書に署名し議会に送付した。批准確実とみたNATOはスウェーデンの正式加盟を決定する場として今月28〜29日の外相理事会開催で調整に入った。

ところが、トルコに追随するとみられていたハンガリーの議会は10月24日、ビクトル・オルバン首相率いる与党フィデスが採決を拒否した。

オルバン政権の強権政治に懸念を示すスウェーデンへの不満が表向きの理由だが、法の支配に懸念があるとして凍結された欧州連合(EU)補助金の支給に向けた交渉材料にするのが本音との見方が強い。

ハンガリーの物価上昇率(前年同月比)は9月、EU平均の4・9%を上回る12・2%を記録し、経済対策の財源が必要という背景もある。

ハンガリーは「自国第一」を掲げ、NATOやEUに加盟しながら、中露との協力も重視する。ウクライナへの侵略開始後もロシアから天然ガスの輸入を続けてきた。その一方で、EUの対露制裁案に当初は反対しつつも最終的には同意し、補助金凍結の一部解除につなげるなどしたたかな外交を展開する。

ノバーク大統領はストルテンベルグ氏との共同記者会見で、批准の時期を明言しなかった。外相理事会までに決着するかどうかは未知数な状況だ。【11月11日 読売】
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ハンガリー・オルバン首相がEU指導部の西欧的・リベラルな民主主義価値観に反発し、独自の“非自由民主主義”掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること、また、NATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。

その一方で、ハンガリーはEUからの補助金の受益者でもありますが、国内の人権問題などから凍結もされており、スウェーデンのNATO加盟批准はそこらをめぐる駆け引きの材料にもなっているようです。

オルバン首相は、スウェーデンのNATO加盟だけでなく、ウクライナのEU加盟問題でも反対姿勢を崩しておらず、EU指導部の頭痛の種になっています。

オルバン首相のウクライナへの反感の背景には、単にEU内部での価値観・人権・移民問題をめぐる対立、ロシアとの緊密な関係、エネルギー政策での国益第一主義だけでなく、(表向きの議論ではあまり言及はされませんが)ハンガリーの歴史的事情、ウクライナに暮らすハンガリー系住民の存在もあることは、4月30日ブログ“ハンガリー・オルバン首相  ロシア制裁・ウクライナ武器供与に反対する独自路線”でも取り上げました。

****ハンガリー首相、EUに変化必要と訴え ウクライナ加盟交渉に反対****
ハンガリーのオルバン首相は18日、自ら率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」の大会で、同国は欧州委員会が設計した現状の欧州モデルを否定しなければならず、欧州連合(EU)には変化が必要だと述べた。

首相は、ウクライナのEU加盟交渉に反対する政府の姿勢を改めて表明。「ウクライナはEUからはるかに遠い位置にあり、欧州委が加盟交渉開始を約束したとの誤解を正すのもわれわれの責務だ」と指摘。ハンガリーに移民を送り込もうとするEUの試みを阻止していくとも述べた。

ウクライナは2022年2月のロシアによる侵攻から数日後にEU加盟を申請し、これを最優先課題に据えている。来月のEU首脳会議では、加盟交渉を開始するかどうかが議題となっている。

ただEU高官は17日、ハンガリーの抵抗がEUの一致した足並みを乱す恐れがあるなどの理由から、加盟交渉のためウクライナを首脳会議に招請する決定が「リスクにさらされている」との見方を示した。【11月20日 ロイター】
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EU指導部も保留されていたハンガリーへの資金拠出を認めることで、オルバン首相の懐柔を試みているようです。

****欧州委、ハンガリーへの資金拠出承認 対ウクライナ支援で前進も****
欧州連合(EU)欧州委員会は23日、ハンガリーへの9億ユーロ(10億ドル)資金提供を承認した。これによりEUのウクライナ支援が実現に前進する可能性がある。

欧州委は、ハンガリーの汚職やオルバン政権の民主主義後退的政策への懸念から、コロナ禍後の支援対象から外した。これを受け、ハンガリーはEUとしての500億ユーロ規模の対ウクライナ経済支援や、ウクライナのEU加盟交渉開始に待ったをかけていた。

今回、ハンガリーへの実施が承認されたのは、コロナ禍後の支援策の一つで脱化石燃料を支援する「REPowerEU」からの拠出。EUの金融支援では「法の統治」に関する条件を満たす必要があるが、8億ユーロはその条件が付かない方式で実行する。【11月24日 ロイター】
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(欧州・EUにとって問題を残す対応ではありますが)こうした形でEUから資金を引き出すことができれば、スウェーデンのNATO加盟についても、オルバン首相の姿勢も和らぐ・・・・のでしょうか。

【トルコの対応も一進一退】
一方、スウェーデンNATO加盟に関するトルコ・エルドアン大統領の対応については、10月、ようやく・・・といった動きもありました。

****スウェーデンのNATO加盟 トルコ大統領が承認し議会に提出****
トルコ大統領府は23日、エルドアン大統領がスウェーデンのNATO加盟を認める議定書に署名し、トルコ議会に提出したと明らかにしました。これで議会は批准の手続きに入りますが、詳しい日程などは明らかになっていません。

スウェーデンは2022年5月、NATOに加盟申請しましたがイスラム教の聖典「コーラン」が燃やされるデモが起きたことなどにトルコが反発し、話し合いが続いていました。そして2023年7月、エルドアン大統領はNATOの首脳会議で、自国での加盟承認手続きを進めることで合意したと発表しました。

NATOの加盟にはすべての加盟国の批准が必要ですが、ハンガリーも手続きが終わっていません。(ANNニュース)【10月24日 ABEMA TIMES】
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しかし・・・一進一退のようです。

****トルコ議会外交委、スウェーデンNATO加盟法案の採決延期****
トルコ議会の外交委員会は16日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟批准に向けた法案について、一段の討議が必要として採決を延期した。

議会外交委員長は、数時間にわたる討議後に記者団に対し「全議員がスウェーデンのNATO加盟を承認するには、十分に納得しなければならない。次回の委員会会合で討議を重ねる」とし、必要ならスウェーデン大使を招いて議員に対する説明を求めることもできると述べた。

来週にも討議が再開可能性があるとしながらも、具体的な日程は示さなかった。

スウェーデンのNATO加盟批准に向けた法案は、外交委員会の承認を経て議会全体で採決にかけられ、可決されればエルドアン大統領が署名して成立する。(後略)【11月17日 ロイター】
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【NATO加盟を果たしたフィンランドへのロシアの嫌がらせ 難民送り付け】
スウェーデンより一足先にNATO加盟を果たしたフィンランドに関しては、難民を送り付けるというロシアの“いやがらせ”が表面化しています。

****フィンランド、ロシア国境の一部検問所閉鎖を決定 難民流入阻止****
フィンランドのオルポ首相は16日、ロシアから増加している難民申請希望者の流入を阻止するため、ロシアとの国境にある9カ所の検問所のうち4カ所を18日に閉鎖すると発表した。

隣国ノルウェーも、必要になればロシアとの国境を閉鎖するとしている。

フィンランド政府は前日、ロシアが意図的に難民申請希望者を国境へ送り込んでいると非難し、大規模な難民流入を阻止して国家安全保障を確保するために必要な措置を講じると表明。オルポ首相は「これらの人々が(ロシアの)国境警備隊に手助けされたり、誘導されたりしているのは明らかだ」と述べていた。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「ロシアによる移民の利用は恥ずべきことだ」と非難。「フィンランドが決定した措置を全面的に支持する」と述べた。

フィンランド国境警備隊によると、イラク、イエメン、ソマリア、シリアなどの国からの難民申請希望者は秋の初めは1日平均1人程度だったが、今週に入ってからはロシア経由で毎日数十人が到着している。【11月17日 ロイター】
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フィンランドでは難民不法入国への懸念から、ロシアとの国境付近に高さ3メートル、全長およそ200kmのフェンスの建設も進められています。

****フィンランド、ロシアとの国境検問所1カ所除き閉鎖へ 難民流入阻止へ****
フィンランドのオルポ首相は22日、ロシアとの国境の最北端1カ所を除き全ての検問所を24日から閉鎖すると発表した。ロシア経由での難民申請者の流入を食い止めることが目的。

月初から、イエメンやアフガニスタン、ケニア、モロッコ、パキスタン、ソマリア、シリアなどの第3国から600人超の難民申請者がロシア経由でフィンランドに入国しており、フィランドはすでにロシアとの国境にある9カ所の検問所うち4カ所を閉鎖している。

オルポ首相は「東部国境の状況が悪化している兆候が増大している」とし、さらなる国境閉鎖を決定したと述べた。

フィンランド政府はこれまでにロシアが意図的に難民申請希望者を国境へ送り込んでいると非難。ロシア側は否定しており、ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は20日、フィンランドによるロシアとの国境の検問所の一部を閉鎖する決定を「非常に遺憾」に思うと述べた。【11月23日 ロイター】
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ロシアのこうした動きに、ノルウェーやエストニアなども神経を尖らせています。

****ヨーロッパに「鉄のカーテン」が復活──ロシアの新種の嫌がらせに、たまらず国境閉ざすフィンランド****
<NATO加盟の報復に「自転車難民」を送り込んでくる?ロシアの新種の攻撃を防ぐには、人権保護に厚いフィンランドも壁を築くしかない>

フィンランドは、ロシアとの国境からの入国制限を強化している欧州諸国の一つだ。際限なく続く亡命希望者は、フィンランドを弱らせるためにロシアが送り込んでいる「武器」だと非難している。

ある専門家は本誌の取材に対し、ロシアは、NATO加盟でアメリカと軍事同盟を組んだフィンランドの決意を試そうとしていると語り、状況はさらに悪化する可能性があると付け加えた。(中略)

この動きを見たノルウェーのエミーリエ・エンゲル・メヘル法務大臣は、ロシアからノルウェーへの越境者が急増した場合、極北にあるロシアとの国境を閉鎖する用意があると警告した。

越境阻止に動く近隣諸国
一方、バルト三国のエストニアでは、ソマリアからの移民8人が国境都市ナルバを経由してNATOおよびEU加盟国に入国しようとする事件があり、必要とあればロシアとの国境通過点をすべて閉鎖すると発表した。

エストニア政府は、東部ナルバにあるロシアとの国境に、対戦車用の「竜の歯」という障害物を設置するよう命じた。ラウリ・ラーネメッツ内相は、ロシアが「理由もなく」亡命希望者を国境に向かわせていると非難した。エストニアは、書類も許可もなしに国境を越えようとする人々を全員送還した。

ヨーロッパ各国のロシアとの国境における緊張を如実に物語るのが、ニイララ国境駅でのフィンランド国境警備隊と移民の対立を撮影した動画だ。ソーシャルメディア上で共有された画像には、自転車で国境に集まった難民たちの姿が写っている。

フィンランドはロシアと1340キロに渡る国境を接している。

フィンランドのペッテリ・オルポ首相は、ロシアがフィンランドのNATO加盟に報復しようとしていると主張し、ロシアからの難民は「ロシアの国境警備隊の助けを借りて国境まで護衛されたり、移送されたりしている」と非難した。

シンクタンク英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアソシエイトフェローでヘルシンキ大学の客員研究員サリ・アルホ・ハブレンは、ロシアはフィンランドのNATO加盟と10月に発表されたアメリカとの防衛協力協定(DCA)の両方に反応していると述べた。

「フィンランド当局は、こうしたロシアの圧力に断固として対応する用意があると言っているが、状況は緩和されるどころか、悪化する可能性がある」と彼女は本誌に語った。フィンランドは今も国際人権協定を遵守し、正当な亡命希望者の申請手続きを進めているというが、ロシアはそれを逆手に取っている可能性もある。

ロシアはフィンランドに圧力をかけるために亡命希望者を利用している、とハブレンは言う、「冬の気候を考えると、国境地帯に集まった人々はとても厳しい状況にある」

「今や、フィンランドに住むロシア人までが、国境を開放し続けるよう要求し始めている。事態の根本的な原因はロシア政府の攻撃的な政策にある」と、彼女は言う。「ロシアが次にどんな行動を計画しているのか、推測するしかない」

巧妙な難民利用作戦
ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は、フィンランドが移民問題でロシアと対立するのは「大きな過ち」だと述べ、ロシア外務省は「移民を武器化している」というフィンランドの主張を否定。「非常に奇妙」な非難だと表現した。

移民の武器化といえば、ロシアから数千人の移民がロシアの同盟国ベラルーシ経由でEU加盟国のポーランドとリトアニアに入国した2021年のケースが有名だ。EUはベラルーシの指導者アレクサンドル・ルカシェンコがEU圏を不安定化させようとしていると非難した。

フィンランドのタンペレ大学の研究員ペッカ・カッリオニエミは、ロシアはベラルーシとともに、軍備と難民の「ハイブリッド攻撃作戦」をEUに仕掛けていると本誌に語った。

「ロシア政府は、この作戦からさまざまな面で利益を得ることができる。国内のプロパガンダに利用できるだけでなく、フィンランドを亡命希望者を不当に扱う国に仕立て上げることもできる」【11月22日 Newsweek】
****************

フィンランドでは4月の総選挙で、マリン首相率いる中道左派「社会民主党」が敗れて緊縮財政を訴えた中道右派野党の「国民連合」が第1党になりました。また、極右野党「フィン人党」も第2党に躍進。この結果を受けて、「国民連合」のペッテリ・オルポ党首を首相とする極右勢力「フィン人党」を含む右派連立政権が発足しています。

移民・難民問題に関する右派連立政権のスタンスはよく知りませんが、政権交代・極右台頭の背景には移民・難民への厳しい世論も影響しているのではないでしょうか。流入が急増する難民の問題が大きな政治・社会問題になることは容易に想像できます。

難民を政治的な道具として送り付ける手法は、リベラルな価値観と急増難民がもたらす軋轢という現実問題の間の齟齬という「弱点」をつく有効な手段として、近年、上記記事にもあるベラルーシや、あるいはアメリカ国内における南部州からニューヨークなどへのバス移送など頻用されています。
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インドのシーク教徒 1984年のシーク教徒虐殺暴動 欧米でのシーク教徒過激派をめぐる問題

2023-11-23 22:56:27 | 南アジア(インド)

(インド当局はカリスタン運動指導者シン(中央)の逮捕を目指している【4月4日 Newsweek】)

【モディ首相がなくすとアピールする「3つのC」】
将来的には中国を凌ぐとも言われているインド経済ですが、当然ながら現段階では問題山積。

****トヨタが新工場建設のインドに横たわる「3C問題」の根深さ 中小企業進出は要注意と専門家が指摘****
11月23日のニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に、戦略科学者の中川コージ氏がゲスト出演。トヨタ自動車がインドで新たな工場を建設するニュースに関連し、年内にインドへ移住する予定という中川氏は、インド経済と社会に横たわる問題点について言及。「3C問題」について注意を促した。(中略)

中川)インド経済のマクロ的な指標としては、当然ながら人口ボーナス。14億人いて、平均年齢が20代とすごく若い。これはもうマクロ的にどう考えてもファンダメンタル、基礎力はある。ここから伸びるか伸びないかで言うと、伸びなかった方が奇跡。

それはともかくとして、日本や欧米の企業進出はあるが、IT系や一次産業は良いものの、結局カースト制があるからITが伸びている。

職業ギルドのような形のカースト制度があるなかで、ITは新しくできたから、みんながそこに誰でもいける。しかも儲かる。儲かる上にカーストに縛られないということで伸びた。そうじゃないという論もあり、まだ僕も行っていないので確信はしていないが、いずれにしてもカースト制はある。

そこでモディ首相は、独立して100年となる2047年までに「3つのC」をなくすと言っている。caste(カースト)、corruption=汚職・腐敗、communalism=イスラム教やヒンズー教の宗教対立。

この3Cをなくすと言っているが、ただ、そもそもその時(2047年)までモディは(首相を)やってないだろうみたいなことで批判されていて、つまり、この3つが相当根深い問題ということです。

解決はいつかしないといけないが、歴代棚上げしてきたという感じ。経済は伸びるが、まだまだ3Cみたいなものがある。日本企業も、大資本であればひとつの都市を買うという感じで汚職も何もないが、中小企業が500万円や1000万円をもって現地でやるということになると、汚職の餌食になる。【11月23日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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ヒンズー至上主義を進めるモディ首相が“communalism(同一の宗教・言語などをもつ地域社会の利害を優先させ、その優位性を強調する考え方)=イスラム教やヒンドゥー教の宗教対立”をなくすと言っているのは不謹慎ながら笑えます。

caste(カースト)にしてもどうでしょうか? (ヒンドゥー的な)インド伝統重視のモディ首相のもとで進むのでしょうか?

corruption=汚職・腐敗が蔓延していること、その解消がなかなか困難なことは、インドだけでなく世界共通。
ちなみに、世銀のThe Worldwide Governance Indicators(WGI)によれば、2022年の各国の政治腐敗抑制度評価において、インドは213か国中119位にランクされています。思ったよりいい結果かも。インドの下にはインドネシア、タイ、ミャンマーが。日本は21位。

【「インド人=ターバン」のもとになったインドのシーク教徒 全人口の1.7%】
でもって、宗教対立。 インドの宗教対立と言えば多数派ヒンドゥー教と少数派イスラム教の対立・迫害がすぐに想起され、これまでもその種の問題は何回も取り上げてきました。

ただ、インドにはもう一つの宗教グループがあります。シーク教です。
日本外務省HPによれば、インドの宗教割合は、ヒンドゥー教徒79.8%、イスラム教徒14.2%、キリスト教徒2.3%、シク教徒1.7%、仏教徒0.7%、ジャイナ教徒0.4%と記されています。

1.7%と割合的には小さいですが、母数が14億ですから“キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教に次いで世界で5番目に信者の多い宗教で、約2400万人の信者がいる”【ウィキペディア】ということにもなります。

私のような古い世代の人間は、インド人というと頭にターバンを巻いた姿をイメージしやすいですが、ターバンを日常的に使用しているのは髪やひげを切らないシーク教徒です。

植民地支配していたイギリスが世界中でシーク教徒兵士を使用したこと、シーク教徒は比較的裕福で世界で活躍している人が多いこと、日本で活躍したインド人がたまたまシーク教徒だったことなどから、そういうインド人=ターバンという誤ったイメージが生まれ、身近なイラストなどで強化されてきたようです。

もっとも、最近の若いシーク教徒ではターバンを使わない人も多いようですし、ヒンドゥー教徒やイスラム教徒も昔はターバンを巻いていたとか、現在でもヒンドゥー教の結婚式では新郎、新郎新婦の親族男性は赤またはピンクのターバンを巻くとかいいったこともあるようです。

後述する1984年のシーク教徒虐殺を扱ったインドのドラマでも、シーク教徒を探す暴徒が列車乗客の手荷物からターバンを発見し、持ち主男性をシーク教徒と断定してリンチしようとしますが、その乗客が「これは結婚式用だ」と説明し、暴徒もすぐに納得する・・・という場面もありました。

【シーク教徒活動家殺害をめぐる緊張 カナダに続いてアメリカでも】
シーク教徒のなかにはインドからの分離独立を求める人々もおり、海外で活動するそうしたシーク教徒活動家殺害にインド対外情報機関が関与しているのでは・・・といった案件を最近目にします。

****米国内でシーク教徒の男性暗殺計画 「インド政府関与」の報道****
英紙フィナンシャル・タイムズは22日、シーク教徒の独立運動に関わっていた男性を米国内で暗殺する計画に、インド政府が関与したとする懸念を米当局がインド側に伝えたと報じた。計画は未遂に終わったとしている。

9月にはカナダ政府も、カナダ国内でシーク教指導者の男性が殺害された事件にインド政府の工作員が関与した疑いがあると表明し、インド政府が否定したばかりだった。

フィナンシャル・タイムズは、事情を知る複数の関係者の話として報じた。暗殺計画で標的だったとされるのは、米国とカナダ国籍を持つ男性で、インド北部パンジャブ州でシーク教徒の国家「カリスタン(清浄の地)」の建設を目指す運動に関わっていた。

ロイター通信によると、米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は22日、この疑惑を伝えられたインド側が「驚きと懸念を表明した」と説明。インド政府がこの問題を調査中だとした上で「(関与した者が)責任を問われるべきだという期待を伝えた」と述べた。

インド外務省は22日、米国との最近の協議の中で、米側から組織犯罪などの情報が共有されたとした上で「この情報は両国にとっての懸念材料で、必要なフォローアップをすることを決定した」とする声明を発表した。米側が示した情報の具体的な内容には言及しなかった。

米印は近年、インド太平洋における中国の台頭を念頭に、日米豪印の協力枠組み「クアッド」などを通じて連携を強化している。疑惑を巡る両国の対応次第では、今後の関係に影響を及ぼす可能性もある。

シーク教徒の独立運動を巡っては、カナダで6月に射殺されたカナダ国籍のシーク教指導者の男性について、インド政府の工作員が関与したとする情報を入手したとカナダ当局が発表。インド外務省は「ばかげている」と否定し、両国は外交官を追放し合うなど外交問題に発展した。【11月23日 毎日】
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この案件が注目されたのは、上記記事にあるように、カナダでカナダ国籍のシーク教指導者の男性が射殺された事件をめぐって、インドとカナダの外交問題が続いているからです。

****カナダとインドとの亀裂さらに深まる カナダ外交官41人をインドから引揚げと発表 シーク教徒殺害めぐる対立で 一方で「報復措置とらない」とも****
インドとの関係が悪化するカナダが、インドに駐在する外交官41人とその家族を出国させました。

カナダ国内で6月に起きたシーク教の指導者殺害事件をめぐり、カナダのトルドー首相が「インド政府の関係者が関与した可能性がある」と指摘して以降、インドとカナダの間では急激に対立が深まっています。

こうしたなか、カナダのジョリー外務大臣は「『駐在する外交官が国外退去しなければ、外交官の特権を剥奪する』と正式に通告があったことから安全上の懸念がある」として、インドに駐在するカナダの外交官のうち41人とその家族を出国させたと発表しました。

インドに残るカナダ外交官は21人に減り、領事館の対面業務を一時的に中止せざるを得ないとしています。
一方、今回の件で、インドに対する報復措置は取らないということです。【10月20日 TBS NEWS DIG】
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【シーク教徒の分離主義運動 「カリスタン運動」】
インドのシーク教徒の分離主義運動は「カリスタン運動」と呼ばれています。

****シーク教徒指導者殺害で激しく対立するインドとカナダがこだわるカリスタン運動とは****
<カナダ在住のシーク教独立運動指導者が殺害された事件で、インド政府の関与を疑うカナダ政府に対し、インドが猛反発。怒りの背景には、積年の恨みがあった>

カナダ在住のシーク教指導者ハーディープ・シン・ニジェールが殺害された事件について、インド政府が関与した可能性があるとカナダのジャスティン・トルドー首相が発言したことで、インドとカナダの関係は外交的危機の瀬戸際に立たされている。

背景にはこの事件や発言だけでなく、インドのシーク教徒の分離主義運動をカナダ政府が支援しているのではないか、という長年の疑心暗鬼が大きな流れとしてある。

この衝突を世界が注視するなか、インドは断固として暗殺との関わりを否定。カナダの特定の政治家や当局者が、独立国家カリスタンの創設を目指すシーク教徒の分離主義グループを間接的に支援している可能性を指摘して、それが両国関係を緊張させていると主張した。

カリスタン運動はインドのパンジャブ地方にシーク教徒の独立国家創設をめざす運動で、インド政府としては到底容認できない反政府分子だ。ニジェールはその過激派とつながっていたとしてインドで有罪判決を受けた「テロリスト」なのに、カナダ政府はその身柄を拘束しようともしなかった、というのだ。

トルドー首相は2023年7月、記者団に対し、カナダは「表現の自由」を支持しているに過ぎないと述べた。「この国は多様性が非常に豊かな国であり、われわれには表現の自由がある」

トルドーはこの危機について公然とインドを非難し、議会下院で、ニジェールの死についてインド政府のいかなる関与も「容認できない」と述べた。カナダのメラニー・ジョリー外相も、インドが関与しているという主張が事実であれば、それは「わが国の主権に対する重大な侵害」になると述べた。

カナダ野党も「造反」
(中略)

インド政府もシーク教徒の分離主義運動を取り締まらないカナダの姿勢を批判した。
「この問題に対するカナダ政府の不作為は、長年の懸念だった。カナダの政治家がこのような勢力に公然と同調を表明していることは、非常に重要な問題だ」

「カナダでは以前から、殺人、人身売買、組織犯罪など、さまざまな違法行為が容認されている。われわれは、インド政府とこのような動きを結びつけるいかなる試みも拒否する。われわれは、カナダ政府に対し、自国内で活動するすべての反インド勢力に対し、迅速かつ効果的な法的措置をとるよう求める」【9月26日 Newsweek】
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前述のようにインド全土ではシーク教徒は1.7%ですが、パンジャブ州では58%を占める多数派で38.5%のヒンドゥー教徒を上回っています。(2011年の数字 【ウィキペディア】)

【1984年のシーク教徒虐殺暴動 カナダの事件でのインド政府の強硬姿勢の背景】
インド国内におけるシーク教徒をめぐる状況は、1984年に当時のインディラ・ガンジー首相がシーク教徒ボディーガードに暗殺された事件、それに激高するヒンドゥー教徒が数千人のシーク教徒を虐殺したことで極度に悪化しました。

****カナダとの対立 シーク教徒殺害にまつわるインドの事情****
(中略)このシーク教徒は、インドのパンジャブ地方に多く住み、昔は独立国家を形成していた。英国がここを攻撃した際、シーク教徒の王国がすでに西洋式の軍隊を保有しており、強力な軍事力で迎え撃ったため、英国はシーク教徒を高く評価したのである。

英国の雇い兵であったセポイが反乱を起こした際、英国はセポイに代わる新しい兵士の供給源を探し、シーク教徒に目を付けた。こうして英国は、世界を支配する際に、シーク教徒の兵隊を連れて行った。

世界中でインド人がターバンを巻いているイメージが広がったのは、英国人が連れて回った兵士がシーク教徒だったことが一因である。例えば、日本も出兵した義和団事件に参加した各国の兵士たちの写真を見ると、シーク教徒の兵士が写っている。こうして日本でも、インド人というと、ターバンを巻いているイメージが定着していったのである。

しかし、1984年、このシーク教徒の一部がインドからの独立を目指した。インド国内の商売が進展するにしたがって、ヒンドゥー教徒の商人らがパンジャブ州に移り住むようになり、次第にシーク教徒の一部が「ヒンドゥー教徒に乗っ取られる」という危機感を覚えたことが背景にある。  

武装蜂起したシーク教徒の過激派は、シーク教徒の聖地ゴールデンテンプル(日本の金閣寺のような建物)に立てこもった。これに対し、当時のインディラ・ガンジー首相は軍に鎮圧を指示、軍は鎮圧作戦「ブルースター作戦」を開始、戦車で聖地に突入し、聖地を破壊してしまった。  

インディラ・ガンジー首相は、ヒンドゥー教徒とシーク教徒の和解のため、ボディガード5人の内2人をシーク教徒にしたが、ある日、この2人がインディラ・ガンジー首相に発砲、殺害してしまったのである。  

全土で、怒ったヒンドゥー教徒がシーク教徒を襲い、約6000人が殺害されたが、1人を除き逮捕者は出ていない(逮捕された1人は 当時与党だった国民会議派のリーダー、サジャン・クマール氏で2018年に逮捕、終身刑 )。だから、到底文化的とは言えない野蛮な方法で、報復による集団的懲罰を加えたものの、テロ対策としては大失敗であった。

世界的なテロ対策事例へ
しかし、インドはその後、テロ対策を改良した。(中略)このような対策の結果、1992年には、このテロ活動をほぼ完全に鎮圧することに成功したのである。2001年、米国で9.11同時多発テロが起きると、このシーク教徒過激派鎮圧の例がテロ完全撲滅の数少ない成功例として、世界のモデルとなったのである。  

ところが、ここで終わりではなかった。シーク教徒過激派は、英語を話す各国、カナダなどに逃げて、そこで独立運動の再建を目指して潜伏していた。これをインドの情報機関は監視し続けていた。

そして今回、その過激派指導者がカナダで殺害され、国際問題になったのである。  インドの情報機関が関与したかどうかは、まだ調査中であるから、断定的に言うべきではない。だが、可能性はある。(中略)

選挙に向けたメッセージ
問題は、インド政府の対応が、かなり強いものであることだ。まだ調査中の段階であるにもかかわらず、カナダ人のビザ発給の停止に踏み切っている。少し対応が先走りしすぎていないか。

実は、その背景には、選挙があるものとも思われる。  インドは今、2024年の総選挙に向け、激しい争いになっている。14年以降続いてきたモディ首相に対する人気は相当高いものの、新型コロナウイルス感染拡大以後、そしてロシアのウクライナ侵略以降、世界的な物価高になっている。 (中略) 

その選挙における非難合戦が激化していることが、外交に強い影響を与えている。そもそもインド国内の問題が外交に影響を与えるのは、インド人が世界中に住んでいるためである。  

インド国籍ではないものの、米国の副大統領や英国の首相、カナダの内閣の大臣たちもインド系であることをみれば、インド系が世界的に深く広がっていることは一目瞭然である。海外にいるインド人の意見は、国内の親戚・知人の判断に影響を与える。  

そのような環境の中で、インド政府は、インド国内にいるインド人に対して、カナダに強い対応に踏み切ったというメッセージを送りたくなるのである。「かつてインドを植民地にした西側諸国と、その西側諸国にしっぽを振ってテロを計画しているようなインド人たちが、インドの内政に干渉しようとしている。それを許すな」というメッセージである。

そういったメッセージは、結局、インド国内のインド人たちの選挙での行動に影響を与え、与党有利に働くという思惑があるのだろう。(後略)【9月26日 長尾 賢氏 WEDGE】
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インド政府が神経質なる背景には、海外でのシーク教徒過激派復活の動きがあるからです。

****シーク教過激派に復活の足音...米英でインドの外交施設が破壊される事件****
<国内外で存在感を強める新世代の分離主義と拡大する暴力、複雑な対インド事情を抱える欧米は対応に及び腰だ>

イギリスとアメリカで、インドの外交施設がシーク教徒に破壊される事件が起きた。
3月19日、ロンドンにある在英インド高等弁務官事務所とサンフランシスコのインド総領事館前で行われた抗議活動の際、窓ガラスが割られ、施設スタッフ数人が負傷した。

インドメディアによれば、両施設前に集まったのは、過激なシーク分離主義運動を率いるアムリトパル・シンの支持者とみられる。シンには、インド国家安全保障法に基づく逮捕状が出ている。地元パンジャブ州から逃亡したとされるシンを追って、インド警察は逮捕作戦を展開する一方、同州でシンの支持者を拘束している。(後略)【4月4日 Newsweek】
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個人的なところでは、最近たまたま観たインドドラマ「鉄道人」が、1984年のシーク教徒虐殺暴動を伏線としていたことで、これらのシーク教徒関連の記事に関心が持たれました。

上記ドラマの主題は、同時期に発生したインド・ボパールで起きた米企業ユニオン・カーバイド社の子会社のガス漏れ事故。ガスはスラム街を覆い、死者は少なくとも3,787人(州政府発表)とも、(事故が原因の病気で亡くなった者を含めると)16,000人以上(推定)とも言われる世界最悪の産業事故です。 その件はまた別機会に。

シーク教徒虐殺にしろ、ボパール化学工場ガス漏れ事故にしろ、数千人単位で死者が・・・ドラマの冒頭、「この世で藁よりも軽いものがあるとすれば、それは貧者の命だ」といった主旨のナレーションが。

そうしたことは「昔」の話で、「今のインドは違う」ということであればいいのですが。
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ポーランド  ウクライナとの穀物、トラック輸送問題、移民排斥・・“国境を超える市場経済への戸惑い”

2023-11-22 23:23:56 | 欧州情勢

(ポーランドとウクライナの国境付近に駐車されているウクライナのトラック=ポーランドで2023年11月19日、ロイター 【11月22日 毎日】)

【ウクライナ産穀物をめぐるウクライナとの対立】
ポーランドはソ連による衛星国としての事実上の支配の歴史から、NATO諸国のなかにあってもバルト3国と並んでロシアの脅威を強く意識する国であり、ロシアのウクライナ侵攻への批判では急先鋒に立つ国です。

軍事支援を含むウクライナへの支援額で見ても、決して経済規模が大きいい国ではないにもかかわらず、アメリカやドイツ、日本などに次いで7位となっています。(キール世界経済研究所調査)

そのウクライナ支援を重視する姿勢は基本的には今も変わりませんが、いわゆる「支援疲れ」的な現象も見られます。ワルシャワ大の研究者らが5~6月に実施した調査によると、「ポーランドはウクライナを支援するべきだ」と答えた人の割合は、今年1月の62%から42%に大きく減少しています。

背景には、多くのウクライナ難民を受け入れた結果、家賃などの物価が上昇して市民生活が困窮するなかで、ウクライナ難民に対しては手厚い保護が与えられているという国民の不満があります。

更に、後述するウクライナ産穀物をめぐるウクライナとの対立もあって、10月15日に行われた総選挙を前にした9月、与党・モラビエツキ首相がウクライナへの武器供与を停止すると発言する状況にもなりました。(首相発言後、ドゥダ大統領は9月21日、波紋が広がっている首相の発言について「最悪の形で解釈された。最新鋭の武器を供与するつもりはない」という意味だったと軌道修正してはいます。)

ポーランド(及び中東欧諸国)とウクライナの間で対立の火種となっているのが、ウクライナ産穀物の輸入規制問題です。

ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの中東欧5カ国は、黒海経由に代わるウクライナ産穀物の輸出ルートとして、関税が免除された安価なウクライナ産穀物の国内通過を認める一方、(単に通過するだけでなく、通過国の市場に流れ出すことなど)安価なウクライナ産穀物の流入による自国農業への打撃を懸念し、ウクライナ産の小麦やトウモロコシなどの国内での販売を禁止しました。

EUは5カ国による輸入規制を9月15日まで認めていましたが、東欧5カ国は少なくとも年末までの期限延長を求めていました。

結局、EUは期限通りで規制を撤廃。しかし、ポーランド、ハンガリー、スロバキアの3カ国はEUの規制撤廃後も、独自の輸入規制措置を継続。これにウクライナが強く反発、WTOに提訴することにも。

****ウクライナ、穀物禁輸のポーランド・スロバキア・ハンガリーをWTOに提訴…軍事支援の中東欧と亀裂****
ウクライナ政府は(9月)18日、同国産穀物の禁輸を続けるポーランド、スロバキア、ハンガリーの3か国の措置は不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。ユリヤ・スビリデンコ第1副首相兼経済相が発表した。ロシアの侵略を受けるウクライナと、ウクライナを軍事面などで支援する中東欧諸国との亀裂が浮き彫りになった。

3か国が加盟する欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は15日、ブルガリア、ルーマニアを含む中東欧5か国を対象にウクライナ産穀物の輸入規制を認めてきた異例の措置を打ち切った。

これを受け、ポーランド、スロバキア、ハンガリーは15日、禁輸を独自に続ける方針を発表した。ルーマニアは今後の輸入量によっては禁輸延長を検討、ブルガリアは禁輸を解除する方針だ。

スビリデンコ氏は声明で、ウクライナ国内の穀物輸出業者は多大な損失を被ってきたと指摘。通商政策はEUの排他的権限に属し「加盟国の一方的行動は容認できないはずだ」として3か国の措置は「国際義務違反だ」と主張した。

ウクライナ産穀物を巡っては、EUが昨年春、経済支援の一環として関税を免除した結果、中東アフリカ向け産品が中東欧諸国の市場に流入し各国で価格が下落した。ポーランドなどは自国農業保護のため国内の通過は認めつつも自国市場では受け入れない措置を打ち出していた。【9月20日 読売】
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このウクライナ産穀物への規制をめぐる対立は、10月にウクライナがWTO提訴を中断したことで、一応は棚上げ状態にもなっています。

****東欧3カ国のWTO提訴中断=穀物紛争「解決の見通し」―ウクライナ****
ウクライナのカチカ通商代表は5日、訪問先のブリュッセルで、同国産穀物の輸入を独自に規制した東欧3カ国に対する世界貿易機関(WTO)での訴訟手続きを中断すると発表した。ロイター通信がウクライナメディアを引用して報じた。

カチカ氏は記者団に「この問題は数週間から数カ月で解消する見通しだ」と述べた。ポーランドとハンガリー、スロバキアは、国内農家への悪影響を懸念し、ウクライナ産穀物の受け入れを拒否。ウクライナ側は、欧州連合(EU)のルールに反するとして、WTOに提訴していた。

ロシアの侵攻を受けるウクライナを強力に支えてきた東欧諸国の間では、このところ「支援疲れ」が鮮明となっている。ウクライナは穀物を巡る緊張を和らげ、支援のつなぎ留めを図る考えだ。【10月5日 時事】
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ウクライナとスロバキアとは規制撤廃に向け穀物取引に免許制を導入することで合意しているますが、ポーランドに対してはウクライナが譲歩した形です。
しかし、ポーランドはWTO提訴の「中断」ではなく「取下げ」を求めています。

カチカ通商代表の「解決の見通し」という発言は、少し違うかも。互いに不満はくすぶっています。

なお、ポーランド、ウクライナ両政府は10月3日、ウクライナ産穀物をポーランド経由で第三国に輸出する際、(ポーランド国内に滞留しないように)鉄道輸送を迅速化する合意を結んだと発表しています。

【今度はトラック輸送をめぐって対立】
そして今度はトラック輸送がウクライナ・ポーランドの間で問題化しています。

****ウクライナ国境、仕事奪われたポーランド運転手がトラック数珠つなぎで封鎖…3000台が足止め***
ポーランドのトラックが隣国ウクライナとの国境付近の道路を10日以上にわたって封鎖している。ウクライナへの特別配慮でトラック運転手の仕事が奪われたことへの抗議行動だ。ロシアの侵略を受けるウクライナと、ウクライナを支援するポーランドとの間で、穀物問題に続く摩擦となっている。

ロイター通信によると、トラック運転手らは今月上旬から、ウクライナ国境3か所につながる道路に数珠つなぎでトラックを止めて渋滞を作る形で道路を封鎖している。ウクライナ側は19日時点で約3000台が国境で足止めになっているとしており、両国政府は事態の打開に向けて協議に乗り出した。

ロシアによるウクライナ侵略後、欧州連合(EU)は、ウクライナの運送業者の入域許可を免除。コストの安いウクライナの運送業者に輸送業務を奪われたことが、ポーランドのトラック業界の不満の原因だ。

ロシアの黒海封鎖で海上輸送が鈍った影響で陸路の物流は活発化しているが、陸上輸送の大半はウクライナの業者が請け負っているという。隣国スロバキアのトラック運転手らにも同調する動きが出ている。【11月21日 読売】
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上記記事にもあるように、混乱はスロバキアにも拡大

****東欧 ウクライナ国境を車体で「封鎖」相次ぐ トラック運転手ら不満****
(中略)報道によると、スロバキア東部の国境付近で21日昼ごろに道路の封鎖が始まった。運送業者の組合は関与しておらず、少数の運転手らによる独自の動きだとみられる。封鎖された道路は、スロバキアとウクライナの間で大型車両が通過できる唯一の検問所につながっており、一部を除いて越境が妨害されている。

ポーランドやスロバキアの運送業者らは、ウクライナ側に対する特例措置の一部制限などを求めている。東欧諸国では、ウクライナ産穀物の流入による農業への打撃についても不満がくすぶっている。【11月22日 毎日】
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【移民・難民の流入に対して厳しい一方で、最大の移民送り出し国 “国境を越えて自分たちをのみ込む市場経済への戸惑い”】
ポーランド国内の政治情勢については、10月24日ブログ“ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か”でも取り上げたように、10月15日の総選挙結果を受けて、司法やメディアへの介入で強権的な色合いも濃い独自の政治体制で、これまでEU指導部と対立することが多かった保守政党「法と正義(PiS)」政権から、親EU的な政権への交代が実現する運びとなっています。

保守政党「法と正義(PiS)」はこれまで、移民・難民らを敵視し、敵対する勢力から国民を守るとの構図を作った上で、自国民優先の姿勢を鮮明にして支持を集めるポピュリズム的手法を駆使し、欧州難民危機を受けた2015年総選挙ではその手法が奏功して政権を獲得していました。

欧州では、イタリアでは右翼政党を率いるメローニ首相が就任。ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持率で2位に浮上するなど、移民・難民に厳しい姿勢を見せる右傾化の流れが強まっていますが、そうしたなかでポーランドが“踏みとどまった”形にもなっています。

ただ、ポーランドの移民・難民への対応は二つの側面があります。ひとつは上記のような(ウクライナ難民以外の)流入する移民・難民への厳しい政策ですが、もうひとつ、ポーランド自身が対EUでは最大の移民送り出し国であるという側面もあります。

****移民と国家 ポーランドの戸惑い=岩佐淳士(ブリュッセル)****
ポーランドは欧州きっての移民の送り出し国だ。2004年の欧州連合(EU)加盟後、多くが職を求めてより豊かな欧州の国に渡った。その数は延べ300万人以上とされる。

3年前に公開された映画「アイ・ネバー・クライ」は、そんなポーランド社会を題材にしている。監督のピョートル・ドマレフスキさんは、多くの移民を送り出すポーランド北東部の出身。「この映画は私自身の経験を反映したものです」と語る。

主人公は17歳の少女オラ。ある日、アイルランドで出稼ぎをしている父親が事故で死んだとの知らせを受ける。彼女は遺体を引き取るため、一人アイルランドに向かう。離れて暮らす父のことは、ほとんど知らない。生活費を送ってくれるだけの存在だ。

オラは、アイルランドで父が自分に残したお金はないか、と父の職場の同僚や愛人を尋ね歩く。そこで目の当たりにするのは、自由だが無慈悲なグローバル市場の現実だ。アイルランドではポーランド人など東欧からの移民労働者がその底辺に置かれていた。それでも彼女は悲観しない。たばこをふかし、悪態をつきながら、強く生きようとする。

ポーランドは国外に移民を送り出しながら、外国からの移民受け入れには極めて消極的だ。自国民が流出する代わりに外国人が流入すれば国家のアイデンティティーが失われると不安を抱くためだ。それは1989年に共産圏を脱して以降、国境を越えて自分たちをのみ込む市場経済への戸惑いとも重なる。

ドマレフスキさんは、国内に広がる排他的な国家主義には批判的だ。「オラは国家から自由で、独立しています。それが新しい時代の生き方だと思うのです」

ポーランドで移民受け入れは政治的にタブー視されるが、生産年齢人口は減少しており、経済を維持するために外国人労働力の必要性は増している。ドマレフスキさんはこう言う。「資本主義の原理がすべてを解決するのではないでしょうか。ただし、それが良いことか悪いことかは分かりませんが……」

映画では地元の教会に忠誠を尽くすオラの母親や、重い障害を抱えた兄弟も登場する。自由に土地を離れることのない家族とのつながりも、そこに描かれている。【11月22日 毎日】
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“1989年に共産圏を脱して以降、国境を越えて自分たちをのみ込む市場経済への戸惑い”・・・これまでの強権的な「法と正義(PiS)」政権、ウクライナ産穀物をめぐる対立、そして今回のトッラク輸送問題・・・それらもそうした“戸惑い”のひとつのようにも見えます。

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北朝鮮の「軍事偵察衛星」打ち上げをめぐる韓国・アメリカ・中国の反応

2023-11-21 23:35:49 | 東アジア

(【11月21日 NHK】 北朝鮮による5月の打ち上げの様子)

このブログを書いていた午後10時50分頃、政府はJアラートで北朝鮮がミサイルを発射したもようと速報、沖縄県に避難が呼び掛けられています・・・これも、下記のような緊張の高まりを反映したものでしょうか。それとも、下記の「軍事偵察衛星」打ち上げなのか・・・。

【22日〜1日に「軍事偵察衛星」打ち上げ ロシアの支援で技術問題解消とも】
周知のように北朝鮮が「軍事偵察衛星」と見られる人工衛星の打ち上げを通告しています。

****北朝鮮衛星発射は22日〜1日に 日本に通報、南西諸島上空通過か****
日本の海上保安庁は21日、北朝鮮から「人工衛星」を22日午前0時から12月1日午前0時の間に打ち上げるとの通報があったと発表した。

5、8月に失敗した「軍事偵察衛星」の再打ち上げとみられ、通報通りなら沖縄県を含む南西諸島上空の通過が見込まれる。22日午前0時に予告期間入り、自衛隊は不測の事態に備えて迎撃態勢を維持している。

岸田首相は「弾道ミサイル技術を使用するなら一連の国連安全保障理事会決議違反だ」と中止を要求。日米韓は、北朝鮮が関係を深めるロシアの技術支援で性能を向上させた可能性があるとみて警戒を強めている。

北朝鮮は21日未明、衛星打ち上げに伴い海上に危険区域を3カ所設けると海保に連絡した。朝鮮半島西側の黄海と東シナ海、フィリピン東部の太平洋の海域で、部品の落下予測地点とみられる。

日本政府は5月の打ち上げ時に自衛隊に出した「破壊措置命令」を継続。日本への落下時、海上自衛隊イージス艦や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊が撃墜する態勢を取っている。【11月21日 共同】
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韓国では初日の22日打ち上げが有力との見方が出ていますが、天候にもよるでしょう。
北朝鮮は5、8月に「軍事偵察衛星」打ち上げに失敗していますが、ウクライナをめぐるロシアとの接近を背景に、ロシアからの技術支援を受けて問題の改善を図ったようです。

****北衛星発射予告、ロシア技術者の直接支援で能力向上か…韓国国防相「エンジン問題ほぼ解消」****
北朝鮮が21日に今年3回目の衛星打ち上げを通告したのは、8月の「軍事偵察衛星」の発射失敗から約3か月で技術的な問題を克服し、再発射が可能になったと判断したためとみられる。韓国政府はロシアの技術者が北朝鮮を訪れて直接技術支援を行い、打ち上げ能力が向上した可能性があるとみて警戒している。

韓国軍関係者は21日、時期や詳しいメンバーは明らかにしなかったが、9月13日の金正恩キムジョンウン朝鮮労働党総書記とプーチン露大統領との首脳会談以後にロシアの技術者が北朝鮮に入り、エンジンに関する技術支援を行ったという分析を明らかにした。北朝鮮がウクライナ侵略を続けるロシアに大量の砲弾などを供与している見返りとみられる。

北朝鮮は8月24日の2回目の発射直後、10月に3度目の打ち上げを行うと予告していたが、同月内の打ち上げは見送っていた。5月の1回目の失敗時にはエンジン異常、2回目は非常爆発システムの誤作動が原因と発表。これらの技術的問題が10月末までには解決できなかった可能性が高い。

韓国の情報機関・国家情報院(国情院)は今月1日、技術面でのロシアの協力を受け、次回の打ち上げは「成功する確率が高くなる」との見方を示していた。申源●(シンウォンシク)国防相も19日のテレビ番組で「ロシアの支援を受け、エンジンの問題をほぼ解消したと判断している」と述べた。打ち上げに必要なエンジン燃焼実験にも成功したという見方も示した。。(●はサンズイに「是」)

北朝鮮が今年2度の発射失敗で正恩氏の威信を傷つけながらも3度目の発射に臨むのは、米韓の軍事力に対抗するには偵察能力が必須と判断しているためだ。

北朝鮮には宇宙から地上を監視する「目」がなく、在韓米軍基地の細かな動きを把握できない。国情院によると、正恩氏は衛星の打ち上げ成功を今年後半の最優先課題と位置づけている。北朝鮮が2回目の失敗から3か月で技術的問題を克服したかについては懐疑的な見方もあり、各国が注視している。【11月21日 読売】
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いくらロシアから技術者が入っても、それだけで3か月で一気に技術問題が解決するものでもないでしょう。
失敗したら「やっぱり・・」ということになりますし、成功したら、それだけ北朝鮮のロケット技術水準が高かったということでしょう。

【北朝鮮だけでなく韓国も打ち上げ 軍拡の流れ】
北朝鮮だけでなく韓国も対抗するように、30日に初の国産軍事偵察衛星をスペースXで打ち上げます。

****北朝鮮と韓国、偵察衛星を今月打ち上げへ 軍備競争が拡大****
韓国と北朝鮮は今月中にそれぞれ軍事偵察衛星を打ち上げる見込み。成功すれば両国にとって初めてで、軍備競争が宇宙へ拡大する。(中略)

一方、韓国は30日にカリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地から初の国産軍事偵察衛星をスペースXの「ファルコン9」で打ち上げる。

偵察衛星が稼働すれば、北朝鮮は米韓日の軍事活動を初めて遠隔で監視することが可能になる。韓国は米情報システムへの依存を減らすことができる。

韓国陸軍元司令官のChun In-bum氏は早期警戒能力を向上させるほか、戦争が起きた場合の被害評価、通信などに活用できると述べた。ただ「北朝鮮が打ち上げに成功しても軍事的価値のある偵察能力には程遠いだろう」との見方を示した。

カーネギー国際平和財団のアンキット・パンダ氏は北朝鮮の衛星について、解像度が低くても戦略的警告や状況認識など一定の軍事的価値があると話した。

また、北朝鮮の偵察能力向上は脅威の増大でしかないとの見方は近視眼的と指摘。核攻撃によるダメージの評価などに使用する可能性があるが、危機が高まった時に状況をより適切に認識できるようになり、安定につながることもあり得ると述べた。【11月21日 ロイター】
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記事最後の“安定につながる”云々は、やや楽観的に過ぎる見方でしょう。

【北朝鮮は韓国の打ち上げを“口実”にも利用】
韓国、日米の批判に対し、北朝鮮はこの韓国の軍事衛星打ち上げを前面に出して、「危険千万な挑発」と非難しています。

****発射予告の北朝鮮 韓国の衛星の打ち上げは「危険千万な挑発」****
近く軍事偵察衛星の3回目の発射に踏み切るとみられている北朝鮮が21日、韓国が30日に予定している偵察衛星の打ち上げ計画を「危険千万な挑発」と非難した。

朝鮮中央通信によると、北朝鮮の国家航空宇宙技術総局の関係者は論評で、韓国軍の偵察衛星打ち上げ計画について「われわれの戦略的対象に対する監視能力を向上させ、有事の際に先制攻撃を加える目的の下で敢行される極めて危険な軍事的挑発行為の一環だ」と主張した。

また韓国の衛星はミサイル脅威に対処する防衛用ではなく、侵略戦争用や攻撃のためのものとし、米国とその追従勢力が進める宇宙軍事化の動きは地域の軍備競争を激化させ、世界のバランスと安全を深刻に損なう挑発行為だと指摘した。

さらに米国が韓国や日本とともに衛星監視システムの完備を急いでいるとし、「(これは)地域の諸国に対する情報収集能力を強化し、ミサイル防衛システムの効果と信頼性を高めることで、われわれ(北朝鮮)と中国、ロシアよりも戦略的優位に立とうとする意図」とも指摘した。

韓国は北朝鮮の核・ミサイル脅威に対応するため偵察能力の強化を進めているが、北朝鮮はこれを偵察衛星打ち上げる口実にしたことになる。(後略)【11月21日 聯合ニュース】
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【北朝鮮へ厳しい姿勢を見せる韓国・伊政権 韓国世論も北を警戒する方向へシフト】
一方、韓国国防省は北朝鮮の打ち上げについて、「強行すれば国民の安全のため必要な措置をとる」と改めて警告しており、韓国大統領室高官は北朝鮮と2018年に結んだ南北軍事合意の効力を停止する可能性を示唆しています。

****「強行すれば必要な措置」韓国国防省が北朝鮮に警告****
北朝鮮が2023年3回目となる軍事偵察衛星の再打ち上げを事前通告し警戒が強まる中、韓国国防省が「強行すれば国民の安全のため必要な措置をとる」と改めて警告しました。

韓国国防省の報道官は「我々の国家安全保障を脅かす挑発行為だ。軍事偵察衛星の発射を強行すれば軍は国民の生命安全を守るため必要な措置を取る」と述べ、改めて北朝鮮に対し警告しました。(後略)【11月21日 ABEMA TIMES】
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****韓国大統領室 南北軍事合意の効力停止を示唆=北の衛星発射予告受け****
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の英国訪問に同行している大統領室高官は21日、北朝鮮が軍事偵察衛星の3回目の打ち上げを22日にも行うと予告したことに関連し、北朝鮮と2018年に結んだ南北軍事合意の効力を停止する可能性を示唆した。

同高官は、北朝鮮の軍事偵察衛星の発射強行など重大な事態が発生した場合は「南北関係発展に関する法律」に軍事合意の一部または全部の効力を停止することができるとの条項があるとし、挑発の内容などを踏まえながら「われわれが必要な措置を決めなければならない」と述べた。

そのうえで北朝鮮が南北軍事合意を一方的に破っていることに言及。韓国だけが対北朝鮮偵察能力を制限する軍事合意を順守するのは不適切だということを詳しく国民に説明していると述べた。

また同高官は、尹大統領が外遊先の英国で多忙なスケジュールをこなしているが、いつでも北朝鮮関連の報告を受けられる状態になっていると説明。必要なら大統領が国家安全保障会議(NSC)常任委員会を現地で開催することも検討していると述べた。【11月21日 聯合ニュース】
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このあたりの韓国の強い北朝鮮批判は、北の脅威を重視する尹錫悦大統領の日頃の姿勢からして想定できるところです。

尹錫悦大統領だけでなく、韓国世論においても北朝鮮に対し冷めた見方、警戒感が強まっているようです。

****「南北統一不要」が過去最高の32%に 韓米同盟「拡大すべき」44%=韓国調査****
韓国大統領直属の諮問機関、民主平和統一諮問会議は8日、7〜9月期の「国民統一世論調査」の結果を発表した。南北統一について「非常に必要」「ある程度必要」と答えた人は計66.9%だった。「さほど必要ではない」と「全く必要ではない」を合わせた「必要ではない」は32.0%となり、同様の質問を入れた2015年1〜3月期の調査以降で最も高くなった。

南北統一が必要な理由としては「戦争脅威の解消」との回答が32.9%で最も多かった。次いで「経済発展」(26.7%)、「自由と人権実現」(14.7%)などの順だった。

北朝鮮に対する認識に関しては、回答者の48.0%が「敵対・警戒の対象」と回答。「協力・支援の対象」(42.0%)より多かった。「敵対・警戒の対象」が「協力・支援の対象」を上回るのは2020年4〜6月期以来となる。

一方、回答者の44.3%が韓米同盟を「拡大すべきだ」と答えた。36.9%は「現在の水準を維持すべきだ」と回答し、「縮小すべきだ」は16.0%にとどまった。 

北朝鮮とロシア間の武器取引や軍事訓練などロ朝の接近については、71.4%が懸念を示した。そのうち42.3%は「非常に懸念」と回答し、関心の高さをうかがわせた。

現在の安全保障状況については「不安定」との回答が52.3%で、「安定的」(42.6%)を上回った。

調査は9月15〜17日、全国の19歳以上の成人男女1000人を対象に実施された。【11月8日 聯合ニュース】
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【アメリカ 原子力空母の釜山入港で北へ圧力】
アメリカは原子力空母を釜山に入港させ、北朝鮮への圧力を強めています。

****米原子力空母が韓国入港 北が偵察衛星再発射なら対抗措置も****
米海軍の原子力空母カール・ビンソンが21日、韓国南部釜山に入港した。北朝鮮が22日以降、予告通り軍事偵察衛星の再発射を強行すれば、対抗措置として韓国軍との合同海上演習などに加わるとみられる。

米原子力空母が韓国に寄港するのは10月のロナルド・レーガン以来。米国が核を含む戦力で同盟国を守る「拡大抑止」の強化を示す狙いがある。韓国海軍は高度化する北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対応し「韓米同盟の堅固な連合防衛態勢を示す」と意義を強調した。

韓国軍関係者は20日、カール・ビンソンの入港は事前の計画に沿ったもので、北朝鮮の衛星発射準備の動向と「直接関係がない」と説明。その上で、発射が強行された場合には「(韓国側と)連携して必要な措置を取りうる」と述べ、同艦の演習参加を示唆した。

米韓は今年、複数回の協議で、米軍の戦略資産(兵器)を朝鮮半島周辺で定期的に展開する方針を確認。7月、約40年ぶりに弾道ミサイルの搭載が可能な戦略原子力潜水艦が韓国に入港したほか、10月にはB52戦略爆撃機が韓国軍基地に初めて着陸した。【11月21日 産経】
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北朝鮮は韓国・アメリカの対応を更に「挑発」「不当な圧力」と批判して、対抗措置をエスカレートさせていくのでしょう。

【中国 北の打ち上げを事実上容認 アメリカの圧力を批判】
中国は北朝鮮の打ち上げを“事実上容認する姿勢”を見せており、アメリカの圧力を緊張を高めるものとして批判しています。

****中国“北朝鮮への圧力停止すべき” 22日以降に「衛星ロケット」打ち上げ予告受け****
北朝鮮が「衛星ロケット」を22日以降に打ち上げると予告してきたことについて、中国政府は「各国が北朝鮮に対する圧力を停止するよう呼びかける」として、アメリカなどの対応を批判しました。

北朝鮮は22日から来月1日までに「衛星ロケット」を打ち上げると予告し、日本などは「国連安保理の決議違反にあたる可能性がある」と非難しています。

これについて、中国外務省の毛寧報道官は21日、「朝鮮半島情勢が膠着状態に陥ることを放任するのは各国の利益に合致しない」と指摘したうえで、北朝鮮への圧力をかけるアメリカなどの対応を批判しました。

中国外務省 毛寧報道官
「中国は関係各国が朝鮮半島の問題点を直視し、圧力をかけることを停止し、実際の行動で半島問題の政治的解決を推進し、半島の平和と安定を維持するよう呼びかける」

また、「アメリカの戦略爆撃機と空母打撃群がしばしば朝鮮半島周辺に現れていることにも留意している」とけん制、「問題を解決する鍵はアメリカにある」と主張。

一方で、「中国は責任ある大国として常に朝鮮半島の平和と安定を維持し、政治的解決のプロセスを推進することに取り組む」と強調しました。

アメリカとの対立が続くなか、中国政府は北朝鮮やロシアとの連携強化の方向に動いていて、北朝鮮の度重なるミサイル発射を批判せず、事実上容認する姿勢を見せています。【11月21日 TBS NEWS DIG】
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