孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トランプ復権に備えて動き出した世界

2024-11-17 23:04:46 | 国際情勢

(【DIAMOND online】)

【中国企業の東南ジア移転】
アメリカでの「トランプ復活」は、紛争中のウクライナ・パレスチナだけでなく、すでに世界の多くに国々に様々な影響を与え始めています。

経済面で一番注目されているのが対中国関係、具体的にはアメリカに輸入される中国製品に60%を課すとしている件。もちろん、トランプ氏が好む「ディール(取引)」においては、先ず強硬な要求をぶつけて相手の出方を見るという話になりますので、実際にトランプ氏が60%の関税を課すかどうかはわかりません。

わからないけど、わかってからでは遅いということもあって、中国企業には東南アジアへ工場を移転することで「中国製」をクリアしようという動きが加速すると見られています。

****米次期大統領にトランプ氏返り咲き、中国から東南アへの工場移転が加速―海外メディア****
米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏の返り咲きが決まったことで中国から東南アジア諸国への工場移転が加速するとみられるとロイター通信が報じた。トランプ氏が中国からの輸入製品に高額の関税を課す可能性があるためで、企業関係者も東南アジアはこの関税政策の恩恵を受ける公算が大きいとみている。

トランプ氏は次期大統領就任後、米国に輸入される中国製品に60%と、1期目の政権時に発動した7.5〜25%よりずっと高い関税を課すと約束している。

ロイター通信はタイの事業用不動産開発大手WHAグループのジャレエポーン・ハルコーンサクル最高経営責任者(CEO)の話として「米大統領選でトランプ陣営の勢いが強まるとともに中国の顧客から問い合わせの電話が殺到した」と報道。2017〜21年のトランプ前政権時代、既に東南アジアへの工場移転は起きていたものの、これからより本格化するだろうという。

ジャレエポーン氏はWHAがタイとベトナムに展開する広さ1万2000ヘクタール強の工業団地を管理運営する部門でセールス要員と中国語ができる人材を拡充しつつあると明かした。

タイの別の事業用不動産大手アマタが運営する工業団地に今年開設された90の工場のうち、およそ3分の2は中国から移転してきた企業だった、と創業者で会長のビクロム・クロマディト氏は話す。

ビクロム氏はトランプ氏の返り咲きは中国にとって「大打撃」で、同社が東南アジア4カ国で運営する広さ150平方キロの工業団地に中国から移転を検討している企業は倍増する可能性があると見込んでいる。

同氏はアマタが今月になってラオスの工業団地建設も開始したと指摘。ラオスは首都ビエンチャンと中国南部を結ぶ高速鉄道が既に開通している。

東南アジアの自動車産業の拠点となっているタイの電気自動車(EV)業界には中国の自動車メーカーからこれまで14億ドル(現レートで約2170億円)の資金が投じられた。

タイのピチャイ商務相は「中国からの多額の投資をわれわれが米国に輸出できるような形にしていきたい、これは実現すると信じている。米国民も中国国民もわれわれを愛しており、われわれはどちら側かを選ぶ必要はない」と記者団に語った。

マレーシアでも企業団体の指導者が半導体セクターに1000億ドルの新規投資を呼び込み、世界的なサプライチェーン(供給網)再編の動きの追い風を受けられると期待を示した。同国製造業連盟を率いるソー・ティアン・ライ氏は「この再編でマレーシアは米国やその他の重要市場向け輸出シェアを拡大する新たなチャンスを得られるだろう」と話した。【11月16日 レコードチャイナ】
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受け皿となる東南アジア各国は、上記記事にもあるように大歓迎といったところですが、移転先の有力候補がベトナム。

もっとも、生産拠点を移すということは早々簡単な話ではなく、サプライチェーンや輸送コストなどの問題もあります。

****トランプ当選で中国の輸出業者こぞって「そうだ、ベトナムに行こう」―中国メディア****
6日に投開票が行われた米国の大統領選でトランプ氏が当選したことで、中国では中小を中心に輸出業者が大きな試練にさらされることになった。トランプ氏が発言してきた関税の大幅引き上げが実施されれば、会社が存亡の危機にさらされるからだ。

一方で、ベトナム行きのツアーや航空券の売れ行きが伸びているという。中国の情報サイトの百度が関連記事を掲載した。

トランプ氏は選挙期間中に、米国に輸入されるすべての商品に10%以上の関税を課し、中でも中国製品には60%の追加関税を適用すると発言した。また、4年以内に中国からの電子製品、鉄鋼、医薬品などの輸入を段階的に停止することも提案した。

多くの中国の貿易業者が、実施されれば生き残りが難しくなると判断し、対策を模索している。典型的な方法がベトナムへの「転進」だ。

米国が2018年に中国製品の関税を引き上げた際には、多くの中国企業がベトナムに生産拠点を移して、ベトナム製品として米国に輸出してきた背景もある。

ベトナムにある中国系企業に22年から駐在している劉勇海氏は、中国国内の友人から「視察に行きたい」という電話を次々に受けるようになった。またSNSのグループには「視察」に言及する書き込みが増えた。冗談と思われるが、「トランプ氏が当選を決めた日には、中国からハノイとホーチミン行きの航空券が売り切れた」とする噂も出現したという。

中国からベトナムへの「視察ツアー」では、現地の工場団地の見学などのほかにも、多くの場合には日程に観光が含まれている場合が多く、「大名旅行」の色合いもある。旅行会社は利益を多く出せるために、このような「視察ツアー」に力を入れている。

しかしベトナムでは中国のように産業チェーンが成立しておらず、鉄やプラスチックなどの素材は中国から輸入せねばならない。また、交通インフラの整備が遅れており、輸送コストも中国より割高だ。そのためベトナムでの生産コストは中国と同等か、場合によっては割高になる。コスト引き下げの要因である人件費も上昇しつつある。

トランプ政権により中国製品に対する輸入関税の引き上げが実施された場合と比べれば、ベトナムへの移転は「比較すればお得」ということになるが、トランプ政権がベトナム製品に対する関税を引き上げない保証はない。そのため、インドネシアあるいはマレーシア、フィリピン、中東地域での生産拠点設立を検討する業者もある。

前出の劉勇海氏の会社は、米国による18年の関税引き上げを機にベトナム工場を設置した。従業員30人で出発したが、現在は300人を雇用するまでに成長した。ただしベトナムでの投資はまだ回収できておらず、米国がベトナム製品への関税引き上げを実施すれば、会社は「存亡の危機」に陥るという。

中国企業にとっては、米国市場を補填する他の市場を開発する方法もある。例えば欧州市場だ。ただし、欧州は全体としては人口7億人の大市場ではあるが50カ国ほどに分かれており、各国の政策や消費者の好みも異なる。またここ数年間は消費者の購入も軟調だ。

東南アジアとアフリカは人口は多いが、人々の購買能力に制約があり、売れる物は多くの場合、低価格商品だ。中東には、戦乱などの恐れもある。

米国は購買能力が極めて強く人々の好みもばらつきが比較的少ない、中国にとっての格好の市場だった。輸出先が小規模市場に分散されれば、多様な製品を生産するために、生産ラインなどもより多く必要になり、それぞれの市場を開拓せねばならず、そのためにはそれぞれの市場での人員が必要になる。このことは、低価格商品を強みとしてきた小規模企業にとっては特に、耐えがたい負担であり、未知への冒険になる。

中国の投資コングロマリットである中国中信集団による単純な推計によると、米国が中国製品に60%の関税を課せば、中国の対米輸出は16%減り、輸出全体は2.3%減る可能性がある。すでに輸出業の廃業を決意した経営者もいるという。【11月10日 レコードチャイナ】
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なんかかんだ言っても、「アメリカ市場」の魅力は大きく、そこらがトランプ新大統領の狙い目ともなります。

“すでに輸出業の廃業を決意した経営者も・・・”云々は早すぎ。おそらく廃業理由は別にあるのでしょう。

中国だけでなく、“米国に輸入されるすべての商品に10%以上の関税を課し”ということですから、当然に日本企業も影響を受け、ひいては世界経済の大きなかく乱要因となりますが、関税によるアメリカ国内での輸入品価格上昇はアメリカ国内消費者が負担することになります。

基本的にトランプ氏は、「世界はアメリカを必要としているが、アメリカは単独でやっていける」と認識しているようですが、本当にそうなのか?

【日中関係では、中国が日本側への歩み寄りも】
国際政治面の「またトラ」の影響は様々。
上記のような強い圧力にさらされることも想定される中国は(もっとも、「ディール」ですから、話がまとまれば、状況は一夜で様変わりします)対日関係において、日本側への歩み寄りも見られるとか。

****“対トランプ氏”意識か 中国が日本に歩み寄り****
石破茂総理大臣は、訪問先のペルーで中国の習近平国家主席と初めて会談しました。

石破総理大臣「日中関係が発展してよかったと両国民が実感できるよう、具体的な成果を双方の努力で積み上げてまいりたい」

習主席「私は皆さまとの意思疎通と協力を強化し、中日関係を正しい軌道に乗せていくことをともに推進していきたい」

習主席はこのように発言し、中国軍の動きが活発化する尖閣諸島や、台湾を巡る情勢についても議論したうえで、安定的な関係を構築することを確認しました。

また、中国での日本人男児襲撃事件を巡り、日本人の安全確保を約束するなど中国側から一定の歩み寄りがみられました。

トランプ次期大統領が掲げる関税の引き上げなどの政策を念頭に、日本と対トランプ政策で足並みをそろえたい思惑もあるとみられています。(「グッド!モーニング」2024年11月17日放送分より)【11月17日 テレ朝news】
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懸案となっていた日本産水産物の輸入再開についても
“石破茂首相は15日午後(日本時間16日午前)、訪問先のペルー・リマで中国の習近平国家主席と約35分間、初めて会談した。東京電力福島第1原発の処理水放出を巡り、日本産水産物の輸入再開に向けた9月の合意を実施することを確認。”【11月16日 時事】

ただ、「約35分間」の会談ですから、すでに話がついていることを確認しただけでしょう。

ビザ免除についても、ようやく動き出すとの情報。

****中国政府“日本人短期滞在ビザ免除”再開検討か****
中国政府が日本人に対する短期滞在ビザの免除について今月中にも再開する方向で検討していることが明らかになりました。

中国国営の旅行会社幹部らによりますと、中国政府がコロナ禍以降、停止している日本人の短期滞在ビザの免除措置について、今月中にも再開する方向で検討していることが当局側から通知されたということです。

日本政府や日本の経済団体は、これまで繰り返し、免除措置を求めてきましたが、中国側は訪日する中国人に対する同様の措置を求めていて、再開のめどが立っていませんでした。

中国では経済の低迷が続く中外国企業による投資の拡大に期待が高まっていますが免除措置の再開が実現すれば日中間のビジネス往来が回復に向かう可能性もあります。【日テレNEWS】
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なお、韓国についてはすでに11月3日に「一方的ビザ免除」していますが、この措置は駐中国韓国大使館も「事前に連絡がなかった」とか。米大統領選挙後への備えと併せて、北朝鮮に警告のメッセージを送る必要もあったとみられるとも。【11月5日 レコードチャイナより】

【連立崩壊・2月総選挙のドイツ ショルツ首相、2年ぶりにプーチン大統領と電話会談】
西側各国は「またトラ」によって、「守って欲しければカネを出せ」といった安全保障に関する見直しも迫られています。

ドイツでは、予算編成を巡る対立から、自由民主党が6日に社会民主党・緑の党との3党による連立政権から離脱し2月に総選挙が行われることになっていますが、トランプ政権が発足すれば更に経済・安全保障・ウクライナ支援で逆風にさらされるとも見られています。

ショルツ首相は当初来年3月の総選挙をよていしていましたが、野党側の「またトラ」に備えて早期に行うべきとの圧力が強く、来年2月実施に早まっています。

****ドイツ総選挙「トランプ復活」の風圧で再度前倒し、2月実施へ 保守野党が優勢****
ドイツでショルツ連立政権の崩壊を受け、前倒し総選挙が来年2月23日に行われる見通しとなった。12日、大統領府が発表した。

来年1月のトランプ次期米政権の発足を視野に、総選挙で政権出直しを急ぐよう圧力が強まった。世論調査では中道右派野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が首位に立ち、政権交代の公算が大きい。

連立政権は今月6日に予算案をめぐる対立で崩壊した。ショルツ首相は当初、来年3月に前倒し総選挙を行う日程を描いた。だが、CDUのメルツ党首は「国際的な政治状況や悪化する経済状況を考えれば、早く新政権を樹立すべきだ」として、早期実施を要求した。

大統領報道官の発表によると、ショルツ氏の中道左派、社会民主党(SPD)やCDUなどの与野党代表が12月16日、連邦議会で首相の信任投票を行うことで合意した。不信任となった場合、大統領は速やかに連邦議会を解散する構えで、総選挙の2月23日実施が「現実的」だとした。ショルツ政権は連立崩壊で少数内閣となっており、不信任の成立は確実だ。

ドイツではトランプ政権が発足すれば、安全保障や経済で逆風にさらされるとの見方が広がる。連立崩壊による政局混迷は長期化させるべきではないとの声が強く、世論調査では65%が「できるだけ早期に総選挙を実施すべきだ」と答えた。

バイデン米大統領はドイツを「わが国と最も緊密で重要な同盟国」と呼び、ロシアのウクライナ侵略後、欧州安全保障でドイツの役割を重視した。これに対し、トランプ氏については2017年の最初の就任後、「ドイツは防衛費をケチる」とやり玉にあげ、ドイツ駐留米軍の一方的削減を打ち出すなど、米独関係が冷え込んだ記憶が残る。

通商でもトランプ氏が国内産業保護策として、公約通り関税を引き上げれば、貿易大国ドイツには打撃が避けられなくなる。低迷する経済が、さらに冷え込むことになりかねない。

ショルツ政権は21年、SPD、緑の党、経済界に近い自由民主党(FDP)の3党連立で発足した。任期満了に伴う総選挙は来年9月に計画されていた。先週の支持率調査ではCDU・CSUが34%で首位に立ち、移民排斥を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が18%、SPDが16%と続いた。
ドイツで国会解散の権限は首相ではなく、大統領にある。【11月13日 産経】
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こうした状況で、ショルツ首相としては独自の安全保障対策を遂行していることを国内にアピールする必要に迫られています。そうしたショルツ首相の選択が、ロシア・プーチン大統領との2年ぶりの電話会談でした。

しかし、このプーチン大統領との電話会談は、ロシアの国際的孤立から救うことにつながるとウクライナ・ゼレンスキー大統領が強く反発、「パンドラの箱を開けた」とも。

****プーチン大統領・ドイツ首相、2年ぶり電話会談…ゼレンスキー氏「パンドラの箱開けた」と批判****
ドイツのショルツ首相は15日、ロシアのプーチン大統領と約2年ぶりに電話会談し、ウクライナとの和平交渉に臨むよう強く求めた。両氏は今後も対話を続けることで合意したが、ウクライナは反発している。

独政府によると、ショルツ氏は会談で、ウクライナからの露軍撤退と「真剣な交渉」を要求。ウクライナに対する支援を継続する考えも示した。欧米の「支援疲れ」を否定し、プーチン氏に交渉を促した。

露大統領府によると、プーチン氏はウクライナとの和平合意は「新たな領土の現実に基づくべきだ」と述べ、戦況に応じた交渉が必要との認識を示した。

両氏の電話会談は2022年12月を最後に途絶えていたが、今回はショルツ氏が打診した。背景には、トランプ次期米大統領がウクライナ支援に消極的な姿勢を示していることがある。

ショルツ氏はトランプ氏の大統領選勝利後、「欧州の安全保障のためにドイツが責任を果たさなければならない」と訴えてきた。来年2月の独連邦議会選挙で政権交代の可能性も浮上する中、和平への取り組みが不十分との批判も出ていた。

一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は15日、ショルツ氏主導の電話会談について、プーチン氏を孤立化させる取り組みを妨げるもので「パンドラの箱」を開けたと批判した。ゼレンスキー氏は一部領土を占領されたまま、和平交渉が進むことを警戒しているとみられる。【11月16日 読売】
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政治的にも、経済的にも、各国がトランプ氏復権に備えた動きに走り出しています。
今回取り上げたのはその一例ですが、政治・経済に限らず、例えば温暖化対策などでも、報じられるトランプ人事を見ると、世界がここ数年積み上げてきた動きの歯車が逆転しそうな感じも。

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アメリカ大統領選挙を左右するイスラエル・ネタニヤフ首相 ちらつくトランプ前大統領の影

2024-10-27 23:43:49 | 国際情勢

(ドナルド・トランプ前米大統領(中央)とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相夫妻。フロリダ州のトランプ氏邸「マーアーラゴ」で。イスラエル政府広報室提供(2024年7月26日撮影・提供)【10月27日 AFP】)

【中東情勢悪化を避けたいバイデン政権 ネタニヤフ首相と組んで揺さぶりをかけるトランプ前大統領】
パレスチナ・ガザ、レバノン、イランとイスラエルという中東情勢と接戦が続くアメリカ大統領選挙がリンクしながらの展開となっています。

パレスチナ・ガザ地区での対ハマス、更にはレバノンでの対ヒズボラの攻撃を続けるイスラエルに対し、民間人犠牲者の増大などを受けて国際的な批判も強まり、また、アメリカ国内でもアラブ系市民・若者らの反発が強まるなかでも、大統領選選挙の最中にあるアメリカ・バイデン政権は国内ユダヤ人層などの支持つなぎ止めもあって、従来からのイスラエル支持路線を継続していることは周知のところです。

まだイランへの報復攻撃が行われる前の16日時点で、イスラエルのイラン攻撃後のイランから報復に備えて、アメリカはイスラエルに迎撃ミサイルシステム「THAAD」搬入を開始したとの報道が。

ネタニヤフ首相とバイデン大統領が「THAADの供与と引き換えに、(イラン)核施設などへの攻撃をやめるという取引をしたのは明らかだ」(中東専門家)とも。

****米迎撃ミサイルシステム「THAAD」イスラエルへ搬入始まる****
アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官が、連名でイスラエルに対し、パレスチナ自治区ガザ地区の人道状況の改善を求める書簡を送ったことが明らかになりました。

アメリカ国務省によりますと、ブリンケン国務長官とオースティン国防長官が13日に、ガザ地区の人道状況の改善を求める書簡をイスラエル側に送りました。

ワシントン・ポストはアメリカがイスラエルに対し、1か月以内に人道支援を増やす措置をとらなければ、軍事支援の停止を含む措置をとらざるを得ないと警告したと報じています。

ホワイトハウスのカービー補佐官は、書簡について、「人道支援を劇的に増やす必要性についての切迫感を改めて伝えるものだ」と説明しました。

こうした中、アメリカの迎撃ミサイルシステム「THAAD」のイスラエルへの搬入が始まりました。今月1日、イランによるイスラエルへの大規模ミサイル攻撃の際には各地に着弾が相次ぎ、イスラエルの迎撃能力の限界も指摘されていました。

アメリカメディアは、イスラエルが近く、イランの軍事施設を標的に報復攻撃に踏み切ると伝えていて、アメリカとしてはイランから再び反撃があった際に、イスラエルを守る狙いがあります。【10月16日 日テレNEWS】
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アメリカとしては、イスラエルに武器供与してネタニヤフ政権をなだめながら、その一方でイスラエルにガザ・レバノンや対イランで過激な攻撃を行わないように圧力をかける難しい対応です。

そうした難しい対応を取らざるを得ないのは、大統領選挙終盤でイスラエルが派手な攻撃に行うと、アメリカ国内のアラブ系市民・若者らのイスラエルへの反発が更に強まり、イスラエル支持のバイデン政権・ハリス候補への批判が強まり、選挙戦に大きく影響しかねないからです。

イスラエルとしては、そうしたアメリカ・バイデン政権の苦しい事情を利用して、アメリカを“手玉にとっている”との見方も。

更には、対立候補のトランプ氏がネタニヤフ首相と組んで、バイデン政権・ハリス陣営を更に苦しめる策に出るのでは・・・との見方も。

歯止めがかからない事態を避けるため、イランの石油施設や核施設といった死活的に重要な施設への攻撃を控えるようにイスラエルに要請するバイデン大統領に対し、トランプ前大統領はイラン核施設への攻撃を主張しています。

****イラン核施設「攻撃すべき」 反対のバイデン氏批判―トランプ氏****
トランプ前米大統領は4日、南部ノースカロライナ州で開かれた集会で、イスラエルによるイランへの報復について、イランの核施設を「攻撃すべきだ」と語った。核施設攻撃に反対したバイデン大統領を「間違っている」と批判した。

トランプ氏はイランの核施設に関し、「われわれにとって最大のリスクだ」と強調。その上で、「まずは核(施設)をたたき、残りのことは後で心配すればいいと(バイデン氏は)答えるべきだった」と語った。

イスラエルのネタニヤフ首相はイランによる大規模な弾道ミサイル攻撃を受け、報復する構えを見せている。報復対象にはイランの核施設や石油施設などが浮上。バイデン氏は2日、核施設への攻撃を支持するか記者から問われ、「答えはノーだ」と述べていた。ただ、イスラエルによる反撃は容認している。

バイデン氏は4日、ホワイトハウスで記者会見し、イランの石油施設への攻撃に関し、「私なら、油田を攻撃する以外の選択肢を検討するだろう」と否定的な見方を示した。また、イスラエルが「早急に決断することはない」と語り、対応を注視する意向を明らかにした。【10月5日 時事】
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****【米大統領選の行方はネタニヤフ次第?】イラン攻撃でオクトーバーサプライズ演出、ちらつくトランプの影****
最終盤に差し掛かった米大統領選の帰すうがイスラエルのネタニヤフ首相に握られている構図が鮮明になってきた。大統領選はイスラエルのパレスチナ人への攻撃をめぐってユダヤ系が支持、アラブ系が反対しているが、僅差で勝敗が決まる接戦州がこの影響をもろに受けるからだ。

ネタニヤフ氏が共和党のトランプ氏と「オクトーバーサプライズ」を演出するとの見方も浮上してきた。

ジレンマのハリス
米国の各種世論調査を総合すると、民主党の大統領候補になって以来、支持率でリードしてきたハリス副大統領の優位は現在、トランプ氏の猛追で完全に崩れた。全国レベルではハリス氏が平均2ポイント程度上回っているが、勝敗のカギを握る接戦7州では事実上の五分五分、どちらが勝ってもおかしくない情勢だ。

中でも注目されるのが全米で最もアラブ系が多い中西部ミシガン州の状況だ。同州には中東や北アフリカからのイスラム教徒の移民が約30万人居住しており、本来は民主党支持者がほとんどだった。だが、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃でパレスチナ人の犠牲者が増えるにつれ、アラブ系市民の間ではネタニヤフ政権に軍事援助を続けるバイデン政権への批判が高まった。

ハリス氏に対しても、イスラエルの「虐殺」を止めるために積極的に動こうとしていないとして、支持を撤回する人も増えた。アナリストは「接戦州は2000、3000票差で勝敗が決するかもしれない」と指摘しており、アラブ系票がトランプ氏に流れれば、ハリス氏が同州を落とすことになりかねない。

ハリス氏の「勝利の方程式」は接戦7州のうち、東部ペンシルベニア(選挙人19人)、中西部ウイスコンシン(同10人)、ミシガン(15人)の3州を制することを前提に過半数270人獲得を目指しており、ミシガン州で負ければ、当選は危ういものとなってしまう。このため同氏はアラブ系市民と対話するなど支持のつなぎ止めに必死だ。

だが、アラブ系に肩入れし、イスラエルの攻撃を抑えようとすれば、今度はより大きな票田のユダヤ系の反発を食らい、ユダヤ系票を減らしかねない。ハリス氏にとっては深刻なジレンマだ。

若者についても同様だ。全米の大学ではイスラエルに肩入れするバイデン政権への非難が続いており、ハリス氏は若者票の獲得にも苦慮している。

ネタニヤフ首相はこうした大統領選の微妙な情勢につけ入ってバイデン政権を揺さぶっている。同政権としては選挙が終わるまで、「イスラエルには戦闘を激化させないでほしい」というのが本音。

だが、ネタニヤフ氏はレバノンの親イラン組織ヒズボラとのバイデン大統領の停戦調停をぶち壊してレバノンに侵攻。ガザ攻撃を再び激化させてバイデン政権を翻弄し続けている。

米政権を手玉にとるネタニヤフ
バイデン政権の最大の懸念はイスラエルが米国の想定をはるかに上回るようなイラン攻撃に出るのではないかという点だ。

イランはヒズボラの指導者ナスララ師やガザのイスラム組織ハマスの指導者ハニヤ氏がイスラエルに殺害された報復として10月1日、約200発の弾道ミサイルをイスラエルに撃ち込んだ。ほとんどが撃墜されたものの、イスラエルの軍事基地などが損傷を受けた。

イスラエルは報復を宣言し、攻撃の標的を絞りつつある。バイデン氏は「核施設や石油関連施設」への攻撃を支持しないと表明し、ネタニヤフ首相に自制を働きかけてきた。

しかし、ネタニヤフ氏の政敵でもあるベネット元首相が「イランの核施設を破壊する絶好の機会」と発言したように、世論は核施設への攻撃支持に傾いている。

ネタニヤフ氏と近いトランプ氏も「まずは核施設を攻撃するべきだ」とし、抑制的な攻撃を求めるバイデン政権をけん制している。

核施設への攻撃はイランにとっての「レッドライン(超えてはならない一線)」で、イランが再び反撃するのは確実。また石油関連施設への攻撃でも反撃する可能性が強く、報復の連鎖で「中東大戦」に突入する恐れがある。

イランの石油関連施設はペルシャ湾岸に集中しており、攻撃を受ければ、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)の石油輸出にも影響が出かねない。イランはこれまで、攻撃されれば同湾の出入り口のホルムズ海峡を封鎖すると警告してきたが、そこまでしなくてもエネルギー価格が急騰するのは必至だ。

そうなれば米国のガソリン価格も跳ね上がり、インフレの再燃でハリス氏には深刻な打撃となるだろう。まさに「オクトーバーサプライズ」だ。

バイデン政権はネタニヤフ氏をなだめるため、イスラエルに急きょ、「高高度防空ミサイル」(THAAD)を供与。同システムはすでに米軍の要員100人ともにイスラエルに到着、配備された。

これに先立ち、ネタニヤフ氏はバイデン大統領と数カ月ぶりに電話会談。ワシントン・ポストの特ダネによると、同氏はこの会談で、核、石油関連施設は避け、軍事基地などを中心に攻撃することを伝えたという。

「THAADの供与と引き換えに、核施設などへの攻撃をやめるという取引をしたのは明らかだ」(中東専門家)。ネタニヤフ氏のしたたかさが浮き彫りになった一幕だ。

ネタニヤフとトランプの接触
だが、「ネタニヤフはこれまでガザやレバノンへの攻撃拡大をなし崩し的に米国に認めさせてきた。米国の反対を押し切ってネタニヤフが戦闘を拡大しても、選挙でユダヤ系票を失うことを恐れるバイデンが渋々追認し続けてきた。だからイラン攻撃についても、バイデンへの約束を守るとは限らない」(ベイルート筋)。

ネタニヤフ首相がイランの核施設や石油関連施設を攻撃する決定を下す可能性を排除できないというのだ。そうした首相の動きの背後にはトランプ氏の影がちらついている。首相は7月の訪米の際、トランプ氏をフロリダ州の自宅に訪ねて会談しており、その後も接触を続けているのは想像に難くない。

「ネタニヤフとトランプの間で、核施設攻撃を支持するトランプを勝たせるための“密約”があるのではないか。それこそオクトーバーサプライズだ。攻撃が遅れているのはいつ仕掛ければ、トランプが一番有利になるのか、そのタイミングを図っているのだと思う」(同)。(中略)

ネタニヤフ氏は17日、開戦以来の宿願だったハマスの最高指導者ヤヒア・シンワルの殺害を発表、「ハマス壊滅」を事実上実現した。ヒズボラにはすでに大打撃を与えており、残された最大の敵イラン攻撃に向け、一段と弾みがついた格好だ。【10月19日 WEDGE】
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“(ネタニヤフ)首相は7月の訪米の際、トランプ氏をフロリダ州の自宅に訪ねて会談しており、その後も接触を続けているのは想像に難くない”という密接さに比べ、中東情勢が緊迫する状況にもかかわらず“ネタニヤフ氏はバイデン大統領と数カ月ぶりに電話会談”という疎遠さが目立ちます。

イスラエルがハマスの最高幹部ヤヒヤ・シンワル氏を殺害したことを受けても、バイデン・トランプ両者がイスラエルに働きかけています。

****バイデン大統領「戦争終わらせ人質取り戻す時」ハマス最高幹部の殺害受け****
イスラエルは17日、パレスチナ自治区ガザ地区で行った軍事作戦で、イスラム組織ハマスの最高幹部ヤヒヤ・シンワル氏を殺害したと発表しました。一方、アメリカのバイデン大統領は17日、「戦争を終わらせ、人質を取り戻す時だ」と強調し、停戦に向け、外交努力を強める考えを示しました。

アメリカ・バイデン大統領 「世界にとって良い日だ。この戦争を終わらせ、人質を取り戻す時だ」

バイデン大統領は、停戦協議について「希望を感じている」と話し、ブリンケン国務長官を近くイスラエルに派遣する考えを示しました。また、ネタニヤフ首相に電話で祝意を伝え、「今こそガザ地区での停戦に向け前進する時だ」と伝えたことを明らかにしました。

ホワイトハウスによりますと、電話会談で両首脳はこの機会を捉え、人質を解放し、ハマスが二度とガザ地区を支配できない状態で戦争を終結させる方法について協議したとしています。【10月18日 日テレNEWS】
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****トランプ前大統領 イスラエル・ネタニヤフ首相と近く電話会談の意向、ハマス最高指導者シンワル氏殺害受け****
アメリカのトランプ前大統領は、イスラム組織「ハマス」の最高指導者シンワル氏がイスラエル軍に殺害されたことを受けて、近く、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談する考えを示しました。(中略)
トランプ前大統領 「彼は良い仕事をしている。バイデンは彼を抑え込もうとしているが」

トランプ前大統領は18日、このように述べた上で、ハマスの最高指導者シンワル氏がイスラエル軍に殺害されたことを受けて、パレスチナ自治区ガザでの停戦の実現が「容易になると思う」との見方を示しました。【10月19日 TBS NEWS DIG】
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ネタニヤフ首相は何かとうるさい民主党政権ではなく、ほぼ無条件にイスラエルを支持してくれるトランプ前大統領の復権を期待していると見られています。

****イスラエル首相、トランプ氏勝利を期待 中東政策に「自由度」増す可能性****
米大統領選の一般投票まで残すところわずかとなる中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ドナルド・トランプ前大統領のホワイトハウス復帰を期待しているとみられる。

かつてのトランプ政権は、ネタニヤフ氏にとって好都合だった。ただ現在、来月5日の投票を前にトランプ氏は、自身の中東政策について矛盾したメッセージを発信している。

ネタニヤフ氏にイランの核施設を爆撃するよう促す一方、「私が大統領だったら10月7日の攻撃は決して起こらなかっただろう」と言い張るとともに、イスラエルに戦争を終わらせるよう圧力をかけるつもりだと発言している。

こうした一貫性を欠く考え方は、「アメリカを再び偉大に」というトランプ氏のスローガンと併せ、ネタニヤフ氏にとっては期待するところだと、専門家は指摘する。

孤立主義者のトランプ氏が返り咲けば、ネタニヤフ氏にとって、パレスチナ自治区ガザ地区とレバノンで激化する紛争への対応に向け、自由度が増すかもしれない。

エルサレム・ヘブライ大学のギドン・ラハト教授(政治学)はAFPに、「米国の選挙はネタニヤフ氏にとって一つの節目だ。彼はトランプ氏の勝利を祈っている。トランプ氏が勝てば行動の自由度が増し、自分の望むことができるようになると考えている」と語った。

ジョー・バイデン大統領はイスラエルへの「断固たる支持」を表明しているものの、ネタニヤフ氏との関係は長らく冷めている状態だ。トランプ氏とは対照的に、バイデン氏はネタニヤフ氏に対し、イランの石油生産施設や核施設を攻撃しないよう警告してきた。

トランプ氏はネタニヤフ氏だけでなく、イスラエル国民にも人気がある。イスラエル地域外交政策研究が9月に実施した世論調査によると、トランプ氏が自国の利益に最も貢献する米大統領候補だと考えるイスラエル国民は68%に上る。 【10月27日 AFP】
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【イスラエルのイラン攻撃は限定的なものに イランは今後について慎重姿勢 事態収束を求めるバイデン大統領】
イスラエルのイラン攻撃は結果的には石油施設や核施設を避けたものになっていますので、バイデン大統領のネタニヤフ首相への働きかけが奏功した形となっています。

ネタニヤフ首相としてもアメリカ大統領の圧力を無視しての無茶はできなかったということでしょうか。もちろん、核施設などを攻撃した場合、イランとの全面戦争も覚悟しなければなりませんので、ネタニヤフ首相としても難しい決断でしょう。

****米大統領、応酬の終結要求 イスラエルとイランに****
バイデン米大統領は26日、イスラエル軍によるイランへの反撃について「これで終わることを望む」と述べ、イランに報復しないよう求めた。イスラエルが軍事施設以外は狙わなかったとの見方も示した。記者団に語った。

バイデン政権はイスラエル軍の反撃に理解を示す一方、イランの核施設や石油施設を標的から外すよう説得していた。

ハリス副大統領は「イランは中東地域に脅威を与えるような振る舞いをやめなければならない」と記者団に述べた。【10月27日 共同】
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イスラエルとのこれ以上の危機は避けたいイランも今のところ慎重姿勢です。

****イラン最高指導者「対応は政府当局者が決める」 報復は明言せず****
イランの最高指導者ハメネイ師は27日、イスラエル軍による26日未明の対イラン攻撃について「軽視すべきでも過大評価すべきでもない」と語った。「イランの力を示す最善の方法は政府当局者たちが決める」とも述べたが、報復するかは明言せず、慎重姿勢を示唆した。地元メディアが伝えた。(中略)

26日の攻撃では少なくとも兵士4人が死亡したが、イラン当局は「被害は限定的だった」と発表している。イランが更なる報復に踏み切れば紛争が拡大するのは確実で、指導部は今後の対応を慎重に検討しているとみられる。

一方、イラン強硬派の有力者であるガリバフ国会議長は、イスラエルが今回の攻撃で軍事目標を達成しなかったと主張し、「イランの抑止力を証明した」と述べた。自衛権を認める国連憲章の範囲内で「イランは自国を守る権利を持つ」とも語り、「この攻撃への対応は必ず行う」と訴えた。【10月27日 毎日】
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イスラエル・イランという当事国の事情に加え、大統領選挙への影響を考えるバイデン・ハリス陣営とトランプ前大統領の思惑が交差して、中東情勢は微妙な展開となっています。

今後のイランの出方、ネタニヤフ・トランプチームのハリス潰しの動きが注目されます。

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インドと中国、国境問題で一定の合意、5年ぶりの首脳会談も なぜ中国は今インドの要請に応じたのか?

2024-10-26 23:11:21 | 国際情勢

(ナレンドラ・モディ首相と習近平国家主席(ロシア中部カザンで、23日、インド政府提供)【10月24日 読売】)

【中印国境 一定の合意 5年ぶりの首脳会談 実際に撤兵の動き】
ネパール(カトマンズ)旅行を終えて昨夜帰国・帰宅しました。(田舎住まいなので、成田から自宅までが大変)
旅行中、情報の収集が普段以上に不十分となりましたので、そのあたりご容赦ください。
まだ、バタバタしていますのでそのあたりも。

でもって、今日取り上げるのはインドと中国の国境領有権紛争の話題。

印北部カシミール地方の係争地で2020年に衝突し、多数の死傷者を出して両国軍が対峙している問題で、ミスリインド外務次官は21日、ニューデリーで記者団に対し、中国側との数週間に渡る話し合いの結果、「実効支配線(LAC)のパトロールの取り決めについて合意に達したと発表しました。【10月21日 産経より】

中国側からも同様の発表も。ただ、合意内容の詳細は明らかにされていません。

****中国、インドとの国境紛争巡る合意を確認 詳細は非公表****
中国外務省は22日、国境紛争を巡りインド側と合意に達したことを確認した。ただ、2020年に軍事衝突が起きた地点の国境線について合意したのか、国境線全体について合意したのかは明らかにしなかった。

同年の軍事衝突ではインド兵士20人、中国兵士4人が死亡。インド外務省は21日、両国が国境地帯のパトロールに関する取り決めに合意したと発表していた。

中国外務省報道官はこれについて定例会見で「中国とインドは最近、外交・軍事ルートを通じて、中印国境に関する問題について緊密な意思疎通を保っている」とし「双方は現時点で関連する問題を解決しており、中国はこれを前向きにとらえている」と述べた。

同報道官はインド側と協力して合意内容を履行すると表明したが、具体的な内容には触れなかった。【10月22日 ロイター】
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いずれにしても両国の緊張状態が一定に緩和の方向に向かっているようで、これを受ける形で「BRICS」首脳会議に出席した中印首脳の5年ぶりの会談も。ただ、“今回の会談が本格的な関係改善につながるかは不透明”とも。

****中印首脳5年ぶり会談、緊張緩和狙う 習氏「意思疎通と協力を強化」****
中国の習近平国家主席とインドのモディ首相は23日、主要新興国による「BRICS」首脳会議に合わせて露中部カザンで会談した。

習氏は冒頭で「双方は意思疎通と協力を強化し、相違点を適切に管理しなければならない」と関係改善を呼びかけた。両者の会談は2019年以来、5年ぶり。国境係争地での衝突による緊張を緩和したいとの思惑で双方が一致した形だ。

両国のメディアによると、習氏は「中印は発展途上国の団結の模範を示し、世界の多極化の推進に国際的な責任を負わなければならない」と指摘。モディ氏も中印関係の重要性を強調し「国境の平和と安定を維持することが我々の優先事項であるべきだ」と応じた。

近年、中印両軍はヒマラヤ山脈付近の国境係争地で小競り合いを繰り返し、20年6月には互いに死者が出るほど激しい衝突が起きてトップ外交が停滞していた。

ただ、互いに隣国との決定的な対立は望んでおらず、今回の会談に先立ちインド外務省は21日、中国との間で係争地でのパトロールに関する取り決めに合意したと発表するなど、双方が首脳会談のための環境整備を図っていた。

一方で、今回の会談が本格的な関係改善につながるかは不透明だ。国境紛争を巡っては過去にも緊張緩和で合意しながら摩擦が再燃してきた経緯がある。

南アジアを舞台とする両国の綱引きも激化しており、習指導部はインドと対立するパキスタンの後ろ盾となり、スリランカやモルディブなどとも連携を進める。

こうした動きを警戒するインドは、米印豪日(クアッド)のメンバーに名を連ねて米国主導の対中包囲網に加わる動きを見せて中国をけん制している。【10月23日 毎日】
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もし、本格的に中印関係が改善すれば、米日主導の対中国包囲網のクアッドの枠組みにも影響してきます。
ただ、両国は国境の領有権問題だけでなく、中国のインド洋進出などで基本的な競合対立関係がありますので、インドの中国への警戒は変わらないでしょう。

一応、今回合意に基づいて、両軍の撤収も始まっています。

****中国・インド両軍が“係争地から部隊の撤退を開始”インドメディア報道****
インドと中国が衝突を繰り返してきた国境の係争地から、両国の部隊が撤退を始めたとインドメディアが報じました。

インドのPTI通信は25日、現地当局者の話として、インドと中国が領有権をめぐって対立する北部・ラダック地方の一部から、両国の部隊が撤退を始めたと報じました。

また、別の当局者の話として、インドの部隊が装備品をより後方へと引き揚げ始めたと伝えています。

国境の係争地をめぐり衝突を繰り返してきたインドと中国の関係は、2020年に双方の軍に死傷者が出たことで急速に悪化していましたが、今月21日、インド政府が係争地のパトロールに関する取り決めについて両国の政府が合意したと発表。

その2日後には、インドのモディ首相と中国の習近平国家主席が5年ぶりとなる首脳会談を行い、関係の修復を目指すことで一致していました。

一方、中国外務省の林剣報道官は「合意した解決案に基づいて双方の一部部隊は関連作業を展開している。進展は順調だ」と述べ、軍の撤退が進んでいることを示唆しました。

ただ、撤退する部隊の規模などには言及しておらず、どこまで実現するのかは不透明な情勢です。【10月26日 TBS NEWS DIG】
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【中国が合意に応じた背景 アメリカの“もしトラ”、台湾侵攻に備え後方の対インド関係を安定化させたい思惑】
以上が事実関係としての中印両国の動きですが、こうした合意・一定の緊張緩和が進んだ背景については以下のようにも。

基本的にはインドの要請に中国側がようやく一定に応じたという形ですが、そうすると「なぜ今、中国は応じたのか?」という話になります。

中国としては、“もしトラ”後のアメリカとの対立、あるいは台湾進攻に備えて、背後のインドとの対立を鎮めておきたい思惑があるとも指摘されています。

****〈インドと中国が首脳会談した背景〉印中国境における合意の意味、衝突は安定化へと進むのか****
詳細は正式には発表されてないものの、インドと中国が、陸上国境における国境パトロールについて合意し、2020年の衝突以来続いてきた緊張を解くことになったようだ。モディ首相と習近平主席の首脳会談についても、正式に行われた。

22年の主要20カ国・地域(G20)時と、23年のロシア、中国、インドなど有力新興国でつくる「BRICS」首脳会談時に、立ち話のようなことはあったが、それらを除けば、正式な首脳会談は19年を最後に行われていない。

20年の印中国境における衝突で、インド側だけで死者20人、負傷者76人(中国側の死者は、異常なほど少ない中国政府の発表はあるが、実態は不明)出して以降、モディ首相は、習氏との正式な首脳会談を避けてきたのである。

だから、今回の国境問題における両国の合意が、一定の重要性を持ったものであることは、疑う余地がない。そこで、今回の合意が、どのような意味を持っているのか分析する。

インドの要求に中国が応じた
まず、今回の合意の経緯をみると、インドの要求に中国が応じたものであることがわかる。

そもそも、20年に起きた侵入事件は、中国側がインド側に大規模に侵入を仕掛けたものであった。中国側は、5カ所に大規模に侵入し、前述の衝突を含め、複数の衝突を起こしながら、居座ってきた。中国側は、この侵入を支援するために、ハイテク兵器を有する大規模な部隊を展開し、緊張を高めてきた。

これに対し、インド側も大規模に軍事力を展開するとともに、交渉を通じて中国軍の撤退を求めてきた。交渉は一定の成果を上げ、22年までに3カ所から、中国側は撤退した。しかし、その後、中国は、「平常に戻った」と主張し、インド側の撤退要求に応じなくなったのである。

インド側は中国への圧力を高めるため、日米豪印4カ国の枠組み「QUAD(クアッド)」各国を呼び込む作戦に出た。22年に印中国境から100キロメートル(㎞)以内の地域で、米印共同演習を行った。

23年には、中国全土を爆撃できるカライクンダ基地に米空軍のB1爆撃機や日本のオブザーバーを招いて共同演習を実施した。そして24年には、QUAD各国すべてが参加する「タラン・シャクティ」空軍演習を行った。
これまで、インドは、QUADの共同演習を海洋だけに限定し、印中国境に近づけなかったから、これらは大きな変化で、中国側に対する圧力強化として、とらえられるものだった。

このような経緯を見ると、中国が侵入事件を起こし、インドが中国軍の撤退を求めて、交渉を行ってきたが、中国側がなかなか応じないできた経緯がわかる。今回、両国の合意が成立したということは、中国に何らかの変化があり、インドの要求に応じたことを意味している。

なぜ今なのか
では、これまで要求に応じてこなかった中国が、なぜ今、要求に応じたのだろうか。考えられる変化は2つだ。11月に行われる米大統領選挙の影響と、27年ともいわれる中国の台湾侵攻との関連性である。

米大統領選挙は、中国にとって最重要の関心事項だ。バイデン政権とトランプ政権での対中戦略は、大まかな方向性では同じだ。両政権とも中国に厳しい姿勢で臨んでいる。

それでも、中国は、トランプ政権を、より恐れているようだ。それは、トランプ政権がロシアのウクライナ侵略を終わらせて、対中戦略に集中するよう主張していること、トランプ政権を支える共和党陣営の方が安全保障の専門家が充実していること、そして、トランプ政権の方が予測しがたいことが理由と思われる。

実際、第1次トランプ政権では、習氏は、友好の証として、トランプ大統領から夕食会に招かれた。そしてトランプ大統領は、習氏にチョコレートケーキを勧めながら、同時に、「シリアにミサイルを撃ち込んだ」と伝えたのである。

これは、習氏からみれば、今はシリアがミサイルの標的だが、中国も標的になりえることを示した点で、中国に対する脅しとして捉えられるものだった。しかも、そういった脅しを、友好の証である夕食会の時にやるとは思わず、油断していたから、効果は倍増し、習氏は強いショックを受けただろう。つまり、トランプ政権は、力を効率的に使いながら脅しをかけてくる、怖い政権、という印象をあたえた。

今回の米大統領選挙で、またトランプ氏が選挙に勝つようなことがあれば、それは、中国にとり、怖いはずである。だから、それに備えなければならない。

中国としては、太平洋側での米国対策に集中したい。だとすると、太平洋側から見て背後にあたる印中国境などの地域では、情勢を安定化させておきたい。インドとの問題を解決しておきたい動機が、中国にはある。

ただ、このような中国の姿勢は、トランプ政権に備えるという防御的なものではなく、より攻撃的なものとしてとらえることも可能である。それは、中国が、もし台湾に侵攻するつもりならば、背中側である印中国境での緊張を下げ、台湾侵攻に集中したくなるからだ。

実際、中国は今年、台湾周辺で軍事演習を繰り返しているが、演習にはアルファベット順の名前がついており、aの次はb,c,d…と続いていくことを示唆している。徐々にエスカレートさせる計画を持っていることは明白だ。

今後、中国軍の侵入は止まるのか
今後、どうなるだろうか。印中国境における中国軍によるインド側への侵入事件数をみると、11年には213件だったものが、19年は663件に増え、確実に増加傾向にある。

中国側は、印中国境で629もの村を建設しており、中国軍が展開するための軍事拠点になっているし、中国軍が展開するための道路や橋、トンネル、空港などの建設も急ピッチで進んでいる

だから、今回の合意で、もし仮に、一時的に中国軍が行動を自制したようにみえたとしても、長期的には、中国軍のインド側への侵入が止まるとは思えない情勢だ。

だから、インド側の対応もまた、中国への対抗策を強めていくことが予想される。前述の、インド洋をめぐるQUAD各国の海軍協力は、空軍協力へ拡大した。

先月行われたQUAD首脳会談の共同声明では、「我々はまた、インド太平洋地域全域における自然災害への文民による対応をより迅速かつ効率的に支援するため、我々の国々の間で空輸能力を共有し、我々の集合的な物流の強みを効果的に活用することを目指すべく、本日、インド太平洋ロジスティクス・ネットワークのパイロット・プロジェクトを立ち上げることを発表する」という文言がある。

災害対応を全面にだしてはいるが、QUAD各国が軍の部隊を迅速に空輸する協力である。まさに、海洋協力から空の協力へと、QUADは拡大しつつあることを示すものだ。

こうしてみると、中国に対するQUAD各国の防衛協力は、ゆっくりとではあるが、着実に進みつつある。まさにインドはゾウ、といってもいいだろう。ゾウを一生懸命に押しても、大きすぎて動かすことは難しい。しかし、長期的な視点に立てば、ゆっくりと、着実に、動いている。

中国がインドを刺激し続ける限り、ゾウは動き続けるだろう。それは、日本にとって、インドとの協力が、大事になっていくことを示唆している。【10月25日 WEDGE】
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BRICS首脳会議 13か国が加盟する「パートナー国」の新設 「反米」については露中と印で温度差

2024-10-24 22:09:20 | 国際情勢

(23日、ロシア中部カザンで、BRICS首脳会議の写真撮影に臨む(手前左から)インドのモディ首相、プーチン露大統領、中国の習近平国家主席=AP【10月23日 読売】)

【20か国以上の首脳級が参加し、36か国が代表団を送る 背景に新興国・途上国のG7への不満】
ロシア・中国の欧米に対抗する国際的枠組みともなっているBRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国から、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、イランを含むより広範なグループに拡大しており、トルコやサウジアラビアも新規加盟を検討しています。

そのBRICSの首脳会議がロシア中部カザンで開催されていますが、20か国以上の首脳級が参加していて、36か国が代表団を送っているとのことです。

****プーチン大統領の狙いは…ロシアで「BRICS」首脳会議 20か国以上の新興国の首脳級が参加****
ロシア中部で、20か国以上の新興国の首脳級が参加する「BRICS」首脳会議が開催されています。(中略)

ロシアは、自国における過去最大級の外交イベントだとアピールしています。欧米との対立を深めるプーチン大統領は、自国開催のBRICSを主導し、数多くの新興国との連携を見せつけたい狙いです。

プーチン氏は先ほど始まった首脳会議の冒頭、「BRICSは世界の安定にプラスの影響を与えている」とした上で、「世界の多数派の願望を満たすBRICSの権威と影響力が高まっている」と強調しました。

また、今回から9か国に増えた「BRICS」に、新たに30か国以上が参加を希望していると明らかにしました。

一連の首脳会議には、中国やインドなど20か国以上の首脳級が参加していて、36か国が代表団を送っています。プーチン氏は数多くの新興国を取り込み、欧米の制裁に対抗できる経済システムの構築を目指します。

一方で、参加国には欧米に近い国や経済的な利益を追求するだけの国もあり、プーチン氏が目指す反欧米陣営の結束強化につながるかは不透明です。

首脳らの共同宣言では、ウクライナ情勢についても盛り込まれる見通しで、BRICSとして、どのようなメッセージを打ち出すかも注目されます。【10月23日 日テレNEWS】
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多くの新興国がBRICSへの参加を希望している背景には、欧米主導の現在の国際的枠組み、欧米的価値観の“押しつけ”への不満があります。

****グローバルサウス、魅力に映るBRICS G7に不満、加盟の流れ****
(中略)
こうした国々が加盟を目指すのはなぜか。背景には、G7など欧米諸国が、第二次世界大戦後の国際政治を主導してきたことへの反発や不満がある。
 
例えば、開発資金などを融資する国際通貨基金(IMF)や世界銀行のあり方だ。欧米の影響力が強く、途上国側の目には「説教ばかりで、融資条件が厳しい」と映る。
 
そんな不満を熟知するBRICSは15年に「新開発銀行(NDB)」(本部・上海)を設立した。すでに新興・途上国向けに96プロジェクト、320億ドル(約4兆5000億円)を融資している。(中略)

先進国にとって「手ごわい存在」に
 ■遠藤乾・東京大教授(国際政治)
「グローバルサウス」(新興・途上国)は、急激な経済成長でそれぞれの国が力を付けつつある。そこに米国の指導力低下が重なり、相対的に存在感が高まった。

米中両国の対立が続く中、ロシアのウクライナ侵攻でこの動きが加速した。西側諸国も中露両国も「味方につけよう」と動くことで、重要性が増している。
 
一方、グローバルサウスの国々は「それなら言いたいことを言わせてもらう」と積極的に発言するようになった。いま、こうした二つのダイナミズムが重なり合って起きている。
 
拡大したBRICSは、対立する事項の討議は避け、合意が可能な案件だけを議論して結束力を示そうとするはずだ。一国だけでは達成が不可能な事項でも、グループが一致すれば力を持つ。その可能性が高まるほど、加入したい国は増える。先進国にとっては「手ごわい存在」になるだろう。【2023年5月31日 毎日】
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【プーチン大統領 「孤立しているのはロシアではない。西側だ」】
ロシア・プーチン大統領にとっては、「ロシアは孤立していない」と、更には多くの新興国やグローバルサウスはロシアとともにあり、「孤立しているのはむしろ欧米の方だ」とアピールする場となっています。

****「孤立しているのはロシアではない。西側だ」BRICS首脳会議で巻き返すプーチン大統領****
<ロシアでBRICS首脳会議が開かれ、プーチン大統領が中国、インドなど36カ国の首脳もてなした。西側諸国はBRICSを脅威と単純に見なすべきではない>

国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10月22日、3日間の日程でロシア南西部の都市カザンで始まったBRICS(新興国)首脳会議で中国、インド、イランを含む36カ国の首脳をもてなした。

プーチンは早速、中国の習近平国家主席と会談し「この75年間に露中関係は包括的パートナーシップと戦略的協力のレベルに達した。現代世界における国家間関係のあるべき姿のパラダイムになったと自信を持って断言できる。1~8月の二国間貿易は4.5%増加した」と胸を張った。 

習主席も「400年前、お茶を運ぶ両国間の道もこのカザンを通っていた。われわれは非同盟、非対立、不干渉という大原則の下、大国関係を構築する正しい道を歩んできた。両国はあらゆる分野における多面的な戦略的交流と実務協力を絶えず強化・拡大する」と応じた。 

■米国の経済制裁の威力を減じるのが狙い
プーチンはインドのナレンドラ・モディ首相とも会談し「ロシアとインドの関係は特別な特権的戦略的パートナーシップを特徴としており、発展を続けている。貿易も順調だ。大型プロジェクトも一貫して進展している」と歓迎した。 

モディ首相は「われわれはロシアとウクライナの紛争に関し定期的に連絡を取り合っている。問題は平和的手段によって解決されなければならない。一刻も早い平和と安定の確立を全面的に支持する。人道を優先し今後も可能な限りの支援を提供する」と釘を刺すのを忘れなかった。 

ドル取引を減らし、西側の経済制裁の威力を減じるのがサミットの狙いだ。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は昨年と同様、サミットに出席、ウクライナや西側諸国を怒らせた。グテーレス事務総長は、ウクライナ侵攻は国連憲章違反とのお題目を繰り返すのが精一杯だった。(中略)

世界は今、ウクライナを軍事支援する西側50カ国以上と、ロシアを積極的に支援するベラルーシ、シリア、イラン、北朝鮮、中国。そしてインドや南アフリカ、ブラジル、トルコ、サウジアラビアなどの「第三勢力」に三分する。 

■BRICSの行方が世界の未来を決める
ケガのため今回のサミットを欠席したブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は「誰に対しても敵対するものではない」とBRICSが反米ブロックになるのを防ぐよう努める。 

シンクタンク、カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンダー・ガブエフ所長は米誌フォーリン・アフェアーズ(9月24日付)に「BRICSの将来が世界秩序を形作る」と題して寄稿している。 

BRICSは世界経済の35.6%、人口の45%を占め、G7(主要7カ国)のそれを上回る。西側が国際秩序を形作る力を失いつつある中、BRICSは西側以外の国が自律性を強化するための選択肢の一つになっている。 

BRICSの中では、米国主導の世界秩序に挑戦する中国やロシアと、既存秩序を民主化・改革したいブラジルやインドの間で大きな意見の違いがある。 

ロシアは経済制裁を避けるためBRICSを使ってドルに依存しない決済システムを構築しようとしている。これに対し、ブラジルとインドは西側との関係を断ち切ることなく、BRICSを利用して多極的な世界の中で中立的な立場を取ろうとしている。 

西側にとって重要なのはBRICSを脅威と単純に見なすのではなく、その背景にある不満を理解し、「第三勢力」取り込みのため、より柔軟な外交を展開することだとガブエフ所長は指摘している。【10月23日 木村正人氏 Newsweek】
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【中国 新興・途上国と連携して対抗軸を構築し、米欧主導の国際秩序の切り崩しを図る】
ただ、“米国主導の世界秩序に挑戦する中国やロシアと、既存秩序を民主化・改革したいブラジルやインドの間で大きな意見の違いがある。”というように、主導国間でも思惑が異なります。

ロシア同様に中国も、加盟国を拡大して、欧米への対抗軸を形成したいとの狙いがあります。

****BRICS首脳会議 共同宣言で「パートナー国」創設を支持 非欧米陣営の拡大狙う****
中国やロシアなど新興国でつくるBRICSの首脳会議は全体会合を行い、「パートナー国」の創設を支持することなどを盛り込んだ共同宣言を採択しました。

ロシア プーチン大統領 「BRICSはダイナミックに発展しており、国際情勢において、その権威と影響力が強まっている」
23日に行われた全体会合の冒頭で、プーチン大統領は世界でBRICSの存在感が増していると強調しました。

共同宣言には、ドルに代わる新たな国際決済システムの構築を目指すことや、BRICSの「パートナー国」創設を支持することなどが盛り込まれました。

「パートナー国」について、ロシア大統領府は13か国が認められる見通しだとしていて、トルコやインドネシア、タイ、マレーシアなどが取り沙汰されています。

24日にはアジアやアフリカの各国が参加する拡大会合が開かれる予定で、ロシアはグローバルサウスの取り込みを加速させたい構えです。【10月23日 TBS NEWS DIG】
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****中国、BRICS拡大に前のめり 米欧への対抗軸狙い****
(中略)米欧主導の国際秩序の切り崩しを図る習政権は、新興・途上国と連携して対抗軸を構築したい考えで、加盟国の拡大に前のめりだ。(中略)(拡大路線は)習氏と、国際的孤立を回避したいロシアのプーチン大統領の思惑が一致し、働き掛けを強めた結果だ。  

中国の官製メディアは「拡大したBRICSが世界の国内総生産(GDP)に占める割合は、購買力平価換算で先進7カ国(G7)を上回る」と強調。タイやトルコなど30カ国以上が新規加盟に関心を示しているとして、影響力の増大を誇示する。  

新興・途上国にとって、巨大な経済力を持つ中国とのつながりに加え、国際社会において新興国がより大きな発言権を持つべきだという習政権の主張は「魅力的に響く」(北京の外交筋)。  

一方で、加盟国や加盟検討国の立ち位置はまちまちだ。ブラジルは米中間のバランス外交を重視し、日米豪と「クアッド」を形成するインドは中国との間で国境紛争がくすぶる。

タイやいまだ正式には未加盟と報じられるサウジアラビアは米国と同盟関係にあり、BRICSが反米的色彩を強めれば距離を置く可能性がある。  

BRICS拡大を推進する習政権だが、加盟国が増えれば、統一的な方向性を打ち出すことが困難になるとのジレンマも抱えている。【10月23日 時事】 
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記事最後にあるように、参加国が拡大すればするほど、中国・ロシアが期待するような反米路線は薄められていくというジレンマがあります。

【インド 多極的なグローバル・ガバナンス・システムの構築を構想】
拡大路線、反米路線については主要国でもバラツキがあります。特に、中国と領土問題で対立し、アメリカとも一定の関係を持つインドの立場が注目されます。

****BRICSグループ化の将来の鍵を握るインド****
(中略)そもそもインドと中国は、この組織をどのように進めるべきかについて意見が一致していない、とアナリストらは言う。 

インドは多極的なグローバル・ガバナンス・システムの構築を構想しているのに対し、中国は米国とその同盟国・提携国に対抗するメカニズムを模索している。(中略)

国際金融協会(Institute of International Finance)の元専務理事で、国際通貨基金(IMF)元副総裁のトラン(Tran)氏は、「BRICSがインドのアプローチに従うなら、途上国間の協力を促進し、その上でG7に関与して、国際経済・金融システムの改革や気候変動の影響などの地球規模の問題に対処する方法を話し合うことができる」と書いている。(中略)

「これは、現在の国際経済・金融システムの改革を望んでいるが、明確に米中のどちらかの味方をすることを望んでいない多くの発展途上国にとっては、魅力的に映るだろう」とトラン氏は指摘する。

「中国が勝利すれば、BRICSグループは反米政治活動の場となり、おそらく多くの発展途上国に具体的な利益をもたらすことができなくなるだろう」

多くのアナリストは、BRICSが中国の傀儡組織となり、一帯一路構想やグローバル安全保障イニシアティブなど、中国の地政学的野心を推進し、最終的には多くの新興国を犠牲にして中国の利益を増進させるのではないかと懸念している。 

中国とロシアで権威主義が強まり、多くのBRICS諸国が権威主義的な支配を受けやすくなっていることも、グループの方向性に対する懸念を高めている。(中略)【5月16日 INDO PACIFIC DefenseForum】
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そのインドと中国が、懸案の国境問題で一定の合意にこぎつけ、5年ぶりに首脳会談も行われていますが、中国・インドの対抗関係は基本的には変わっていません。

****中印首脳5年ぶり会談、緊張緩和狙う 習氏「意思疎通と協力を強化」****
中国の習近平国家主席とインドのモディ首相は23日、主要新興国による「BRICS」首脳会議に合わせて露中部カザンで会談した。

習氏は冒頭で「双方は意思疎通と協力を強化し、相違点を適切に管理しなければならない」と関係改善を呼びかけた。両者の会談は2019年以来、5年ぶり。国境係争地での衝突による緊張を緩和したいとの思惑で双方が一致した形だ。
 
両国のメディアによると、習氏は「中印は発展途上国の団結の模範を示し、世界の多極化の推進に国際的な責任を負わなければならない」と指摘。モディ氏も中印関係の重要性を強調し「国境の平和と安定を維持することが我々の優先事項であるべきだ」と応じた。
 
近年、中印両軍はヒマラヤ山脈付近の国境係争地で小競り合いを繰り返し、20年6月には互いに死者が出るほど激しい衝突が起きてトップ外交が停滞していた。
 
ただ、互いに隣国との決定的な対立は望んでおらず、今回の会談に先立ちインド外務省は21日、中国との間で係争地でのパトロールに関する取り決めに合意したと発表するなど、双方が首脳会談のための環境整備を図っていた。
 
一方で、今回の会談が本格的な関係改善につながるかは不透明だ。国境紛争を巡っては過去にも緊張緩和で合意しながら摩擦が再燃してきた経緯がある。
 
南アジアを舞台とする両国の綱引きも激化しており、習指導部はインドと対立するパキスタンの後ろ盾となり、スリランカやモルディブなどとも連携を進める。

こうした動きを警戒するインドは、米印豪日(クア(*´∀人)ありがとうございます♪ッド)のメンバーに名を連ねて米国主導の対中包囲網に加わる動きを見せて中国をけん制している。【10月23日 毎日】
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ロシア・中国・インドなどの思惑が渦巻くBRICS首脳会談です。
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カナダとインド、シーク教指導者暗殺事件で激しい対立

2024-10-19 01:43:42 | 国際情勢

(ニューデリーにて2023年9月に撮影したトルドー首相とモディ首相【10月16日 ロイター】)

【シーク教指導者で対立が激しくなるインドとカナダの関係】
カナダで昨年6月、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が(カナダ側主張では)インドの工作員に暗殺される事件が起きて以来、カナダとインドの関係が互いに外交官を追放するなど、非常に悪化しています。

シーク教徒はインド国内では少数派ですが、カナダには、インド国外では最大のシーク教徒のコミュニティーがあります。

*****インドとカナダ、互いに外交トップを追放 シーク教指導者殺害めぐり対立悪化****
インドとカナダは14日、互いに外交トップらを国外追放した。カナダで昨年、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が暗殺される事件が起きて以来、両国の対立は激しく悪化している。

カナダ西部ブリティッシュコロンビア州サリーで昨年6月、シーク教指導者ハーディープ・シン・ニジャール氏が、寺院の前で覆面をした2人に射殺された。同国の警察は、インドの工作員らが直接関与したとの信用度の高い疑いがあるとして、捜査を進めている。

警察は、インドの工作員らがカナダで「殺人、恐喝、暴力行為」に関わり、シーク教徒の独立国を求めるカリスタン運動の支持者らを襲撃しているとしている。

一方、インドはこの見方を「ばかげている」と全面否定。カナダのジャスティン・トルドー首相が政治的利益を目的に、同国の大規模なシーク教徒コミュニティーに迎合しているのだと非難している。また、カナダが主張を裏付ける証拠を、全く示していないと主張している。

カナダのトルドー首相は14日午後、テレビの生放送で、最新の捜査で証拠が浮上し、カナダ政府はこれを無視できず、行動を取る必要があると説明。インドについて、カナダ国内での「犯罪」行為を支援するという「根本的な誤り」を犯したと主張した。

そして、「カナダの治安を脅かし続ける犯罪行為を阻止する必要がある。だからこそ私たちは行動に出たのだ」と述べた。

カナダの連邦警察トップはこの日、捜査中の情報を公表するという異例の措置を取ると発表。「私たちの国の治安にとって重大な脅威」と理由を説明し、主にカリスタン運動の支持者らに対する「本物だと信頼できる、かつ切迫した、生命への脅迫が十数件」あるとした。また、脅迫は深刻なもので、「インド政府との対決が不可欠と感じる段階に達した」とした。

警察当局は、インドの工作員12人が犯罪行為に関与している疑いがあるとしたが、ニジャール氏殺害に直接関係したとみているのかは明らかにしなかった。

インドは怒りの声明を発表
インド外務省は同日、声明で激しい怒りを表明した。カナダの主張について、シーク教徒の分離主義者らの影響を受けているとした。

同省はその後、インド駐在のスチュワート・ロス・ウィーラー高等弁務官代理らカナダの外交官6人について、19日までにインドを出国するよう求めたと発表した。

ウィーラー氏はこの日、インド外務省に呼び出され、カナダの動きについて説明を求められた。この面会のあと、ウィーラー氏は記者団に、カナダはインドから要求されていた証拠を渡しており、インドは疑惑について調べる必要があると主張。「真相究明は、両国と両国民にとって有益なことだ」と述べた。

インド政府は、カナダ駐在のサンジャイ・クマール・ヴェルマ高等弁務官に関して、「カナダ政府からの中傷はとんでもないもので、軽蔑に値する」とした。

インド外務省は、トップの外交官を含む外交スタッフを「引き揚げる」と発表。「外国官らの安全確保に対するカナダ政府の取り組みは信頼できない。従って、インド政府は高等弁務官をはじめ、標的とされている外交官や職員らを引き揚げることを決めた」とした。

対立の経緯
インドとカナダの関係は、カナダ議会で昨年9月にトルドー首相が、ニジャール氏殺害とインドの工作員を結びつける信用度の高い証拠があると発言して以来、緊張が続いている。トルドー氏は、カナダの主権に対する侵害行為だと批判した。

これを受け、インドがカナダに対し、外交スタッフ数十人を帰国させるよう求め、カナダ人へのビザ(査証)発行を停止するなど、両国関係は悪化した。

昨年10月にインドがビザ発給を再開すると、凍りついた関係がわずかに改善したかに見えた。

しかし、カナダのメラニー・ジョリー外相は先週、インドとの関係を「緊迫している」、「非常に難しい」と表現。ニジャール氏殺害のような殺人事件がカナダで今後も起きる危険がなお存在するとした。

カナダには、インド国外では最大のシーク教徒のコミュニティーがある。シーク教徒のほとんどはインド・パンジャブ州に住み、宗教的にはインド国内で少数派となっている。【10月15日 BBC】
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【両国政権とも、国内的に苦境にあって、強硬姿勢をとることのメリットがあるという事情も】
両国首脳が双方とも強気の姿勢をとっている背景には、インドのモディ首相率いるインド人民党は先の総選挙で単独過半数を失い、カナダのトルドー首相の自由党は支持率低下に苦しんでいるというように、両国首脳とも国内的には苦しい状況にあり、今回の問題で強硬姿勢をとることで国内的には良い影響があるといった事情もあるようです。

****インドとカナダの関係悪化、両国首相には短期的に追い風か****
インドのモディ首相とカナダのトルドー首相にとって、両国の関係悪化は当面政治的なプラスに働く可能性があるとの見方を複数の専門家が示した。

カナダでインドのシーク教徒独立運動に関わった男性が昨年殺害された事件を巡り、カナダ政府は今月14日に捜査への協力を拒否したインド外交官6人の国外追放を決定。インド側も対抗措置として同国に駐在するカナダ大使代理ら6人に19日までに出国するよう要請し、外交関係がかつてないほど冷え込んだ。

カナダはインド国外で最もシーク教徒が多く、全人口の約2%を占める。近年インドでは分離独立を求めるシーク教徒のデモが相次ぎ、政府は神経をとがらせている。

こうした中で専門家の間では、インド政府による今回の対応を通じてモディ氏が国家安全保障面で毅然とした人物だとのイメージが高まるのではないかとみられている。

元インド外務次官のハーシュ・バルダン・シュリングラ氏は「国民はインド政府が先進国からの脅しや高圧的な措置に立ち向かっているとみなす。一般大衆はモディ首相と政府を強く支持するだろう」と述べた。

モディ氏が率いる与党インド人民党は今年6月の総選挙で過半数議席を失い、同氏の政治基盤は弱体化した。しかし、シンクタンクのオブザーバー・リサーチ・ファウンデーションの外交政策責任者、ハーシュ・パント氏は、トルドー氏がインドに批判の矛先を向ければ向けるほどモディ氏にとって有利になると指摘。

インドの主権と領土の一体性を守るために立ち上がっている指導者とみなされ、モディ氏の人気維持につながると予想した。

一方、来年10月までに総選挙が行われるカナダで、与党自由党の支持率低迷に苦しんでいるトルドー氏にとっても、インドとのあつれきは党内の「トルドー降ろし」の動きから注目をそらす効果がある。

トルドー氏は今月13日、記者団に対して「党内の動きについてはまた改めて話す機会があるだろう。今は政府と全ての議員がカナダの主権のための行動や、内政干渉への反対、この難局における国民の支援に専念しなければならない」と訴えた。

自由党の少数派政権を維持する上で協力が不可欠となっている左派系野党も、インド外交官の退去措置を支持すると表明した。

ただ、トレント大のクリスティン・ド・クレルシー教授は、トルドー氏への追い風は長続きしそうにないとみている。遠くのインドとの関係という1つの事象に比べ、トルドー氏が対処すべき国内問題はずっと多く、より複雑だと指摘した。【10月16日 ロイター】
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上記のような事情もあって、トルドー首相のインド批判も激しくなっています。

****インドの主権干渉は「恐ろしい過ち」、カナダ首相が疑惑巡り批判****
カナダのトルドー首相は16日、インドのシーク教徒独立運動に関わった男性がカナダ国内で殺害された事件を巡りインド外交官の追放を決めたことを受け、カナダの主権に大胆な形で干渉できるとインドが考えたのは「恐ろしい過ち」だと述べた。

カナダ政府は14日、インド外交官6人の追放を決定。国内のインド人反体制派を標的とする広範な動きがなお見られるとしている。

トルドー氏の発言は、1年にわたる論争で両国関係が最悪となる中、これまでで最も強い調子となった。

また、政府としてカナダ国民の安全確保に追加措置を講じる可能性があると述べたが、詳細は明らかにしなかった。

インドは干渉疑惑を否定し、報復としてカナダ外交官6人を追放した。【10月17日 ロイター】
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【アメリカでも未遂事件 インド・カナダのような激しい対立には至らず】
シーク教徒指導者暗殺についてはアメリカでも未遂事件があったとして、アメリカはインド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴するという対応を示しています。

****米、元インド情報当局幹部を起訴 シーク教徒独立指導者暗殺未遂で****
米司法省は17日、米国とカナダの二重国籍者であるシーク教徒独立運動指導者のグルパトワント・シン・パヌン氏を米ニューヨークで暗殺するように指示したとして、元インド情報当局幹部のビカシュ・ヤダブ被告をニューヨーク南部地区連邦地裁に起訴したと発表した。暗殺は未遂に終わった。

米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は「憲法で保証された権利を行使して米国に住んでいる人々に対する暴力行為や、他の報復行為をFBIは許さない」との声明を出した。

インドの関与を調査している同国政府の委員会関係者は15日、米首都ワシントンで米当局者らと会談した。米司法省はインド情報当局がパヌン氏の暗殺計画を指示したと主張しており、米国がインドに対して調査するよう促していた。(中略)

インドはシーク教徒独立主義者を「テロリスト」と決めつけ、治安を脅かす存在だとレッテルを貼っている。シーク教徒独立主義者はインドの一部を分離し、「カリスタン」という名の独立国を作ることを求めている。1980年代から90年代にかけての独立運動では数万人が死亡した。【10月18日 ロイター】
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ただ、インド・カナダのとげとげしい対立にくらべると、今のところインドとアメリカの関係は比較的穏やかです。

****シーク教徒殺害計画巡るインドとの会談、米政府「生産的」と評価****
米国務省の報道官は16日、米国内で計画されていたシーク教徒独立活動家の暗殺に関するインドとの協議について、生産的だったと評価し、インド側の協力に満足していると語った。

米政府は、昨年ニューヨークで起きたシーク教分離主義指導者の暗殺計画にインドの工作員が関与していたと主張し、インド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴した。

国務省報道官は、暗殺計画への関与を調査しているインド政府委員会が15日にワシントンで米当局者と会談したとし、会談は「生産的」なものだったと指摘。「我々は(彼らの)協力に満足している。これは継続中のプロセスだ」と説明した。

カナダ政府は14日、インド外交官6人の国外追放を決定した。インド側もカナダの外交官6人の追放を発表。カナダでインドでのシーク教徒独立運動に関わった男性が殺害された事件を巡り、両国の対立は激化している。【10月17日 ロイター】
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カナダとのようにインド批判が激しくならないのは、アメリカは中国包囲網のためにはインドの協力が不可欠ということで、インドに対しては宥和的ですし、大統領選挙を控えて、これ以上もめ事を抱えたくないといった思惑もあるのかも。

【カナダ 中国とも追加関税で対立】
なお、カナダは中国とも、中国製品に対する追加関税をめぐり対立しています。

****中国 カナダの追加関税に「差別的」として調査開始 さらなる対抗措置検討か****
中国商務省は、カナダが中国製品に対し追加関税を課したことについて調査を始めたことを明らかにしました。

カナダ政府は先月、中国製のEV=電気自動車に100%の関税を課す方針を発表していますが、中国商務省はきょう、カナダがEVに加え中国産の鉄鋼、アルミニウムに対し追加関税を課したことについて「差別的な措置だ」として調査を開始したと発表しました。

調査期間は3か月ですが、場合によっては延長される可能性もあるということです。

すでに中国政府は食用油の原料となるカナダ産の菜種について価格が不当に安く抑えられている疑いがあるとして「反ダンピング調査」を始めるなど対抗措置をとっていますが、今回さらに追加の措置をとることでカナダ側に圧力をかける狙いがあるものとみられます。【9月26日 TBS NEWS DIG】
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中ロと米の対立の状況で進む核兵器軍拡競争

2024-07-25 22:52:49 | 国際情勢

(アメリカ国立公文書記録管理局より、アメリカ陸軍のパーシング2準中距離弾道ミサイル【2018年10月22日 YAHOO!ニュース】 パーシング2は中距離核戦力(INF)全廃条約により廃棄されました)

【高まる中ロと米の対立緊張】
ロシアのウクライナ侵攻以後の世界は、ロシアと実質的にロシアを支援する中国の連携(これまでも取り上げてきたように、その内実は「蜜月」という言葉だけでは言い表せない問題・それぞれの思惑も多々ありますが)とアメリカの対立という構図が深まっています。

そうした情勢のあらわれに関する最近のニュースを二つ。

****ロシアと中国の核搭載可能な爆撃機、米アラスカ付近をパトロール****
ロシアと中国は両国の核兵器搭載可能な戦略爆撃機が25日、米アラスカ州付近をパトロールしたと発表した。これを受けて米国とカナダは戦闘機を緊急発進させた。

ロシア国防省はロシア軍のTu−95MS「ベアー」戦略爆撃機と中国軍のH−6戦略爆撃機がチュクチ海、ベーリング海、北太平洋のパトロールに参加したと明らかにした。

5時間の飛行中、ロシアのSu−30SMとSu−35S戦闘機が両国の爆撃機を護衛したとし、外国の領空を侵犯した事実はないと説明した。

北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は米国とカナダの戦闘機がアラスカ防空識別圏(ADIZ)でロシアと中国の航空機を監視したと発表した。

「ロシアと中国の航空機は国際空域にとどまり、米国とカナダの主権空域には進入していない」と指摘した。「アラスカ防空識別圏におけるロシアと中国の活動は脅威とは見なされていない」とし、監視し続ける方針を示した。

中国国防省の張暁剛報道官は、今回の共同パトロールは両軍の戦略的相互信頼と協調を深めたと述べた。「現在の国際情勢とは何の関係もない」と語った。

ロシアも「2024年の軍事協力計画の一環として行われたものであり、第3国に対するものではない」とした。【7月25日 ロイター】
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****中ロ連携、北極圏構図に変化=安定維持へ同盟国と協力―米新戦略****
米国防総省は22日、北極圏に関する戦略文書を発表した。中国とロシアの連携強化が「北極圏の安定と脅威の構図を変える可能性がある」と警戒。地政学的変化に対応するには「新たな戦略的アプローチが必要だ」として、同盟国やパートナーと協力して安定維持を図る方針を示した。

北極圏では、気候変動の影響で海氷が減少し、資源開発や新たな航路開拓を巡る各国の競争が激化している。米国は砕氷船建造が進まず、ロシアなどに比べて出遅れを批判されている。

戦略では、ロシアを「北極圏で最も発達した軍事力を持っている」と分析し、「米本土や同盟国の領土を危険にさらす可能性がある」と懸念を示した。中国については「長期計画の中で影響力と活動の拡大を図っている」と指摘した。

2022、23両年に中ロ両海軍が米アラスカ州沖で合同パトロールを実施したほか、中国海警局とロシア連邦保安局(FSB)が協力で合意したと例示。両国の連携が北極圏での中国のさらなる影響力拡大につながる恐れがあると警鐘を鳴らした。

これを踏まえ、国防総省は戦略の中で「監視と対応」のアプローチを採用すると表明。北極圏での情報収集能力を高めるほか、米軍部隊の訓練などを通じて即応態勢を強化すると明記した。

北欧のスウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、「北極圏8カ国のうち、米国を含む7カ国がNATO加盟国になったことで安全保障態勢が強化された」とも説明。同盟国や北極圏の先住民族などと連携し、「安全と国益を守るために一丸となって取り組む」との姿勢を打ち出した。【7月23日 時事】 
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北極海を「わが庭」としたいロシアがこの地域に重点を置いていることは当然ですが、中国も北極圏で3隻の砕氷船を運用しているほか、ロシア海軍と北極圏で合同作戦をするなど軍事的な存在感も持っています。

アメリカにとっては北極圏のスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟してロシアに対抗する態勢を構築できるようになったことは大きな得点でしょう。

【トランプ前大統領による「中距離核戦力(INF)全廃条約」破棄により進む米ロの再配備 中国の存在でより複雑化】
こうした中ロとアメリカの緊張関係を更に危ういものにしているのが、緊張激化のブレーキ機能をは担ってきた米ロ二国間条約「中距離核戦力(INF)全廃条約」がトランプ前大統領時代に破棄されたことです。

****中距離核戦力(INF)全廃条約****
米国と旧ソ連が地上配備の中・短距離ミサイル(射程500〜5500キロ)を発効後3年以内に全廃すると定めた条約。1987年12月調印、88年6月発効。特定分野の核戦力の全廃を盛り込んだ史上初の条約となった。

査察制度も導入し、91年までに計2692基を廃棄。米国は2018年10月、ロシアの違反を理由に条約破棄の方針を表明。19年8月に失効した。条約に縛られない中国は開発・配備を進めてきた。【6月29日 産経】
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2010年代、ロシアは巡航ミサイルの開発を進めたが、アメリカはこれが条約違反に当たると指摘[。2014年のアメリカ連邦議会向けの報告書では、ロシアが条約違反をしていることが記載された。

このように条約違反を巡ってたびたび米ロ両国が対立してきたほか、この条約に参加していない中国がミサイル開発を推し進めている懸念を持ち続けていたアメリカは2018年10月20日、ドナルド・トランプ大統領が本条約を破棄すると表明。2019年2月1日、アメリカはロシア連邦に対し条約破棄を通告したと発表し、翌2日からの義務履行停止も同時に表明した。

ロシア連邦もこれを受けて条約の定める義務履行を2日に停止した。条約は予定通り半年後の2019年8月2日に失効した。【ウィキペディア】
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ブレーキ機能を失った状況で、米ロの核戦略強化が進行しています。

****ロシア、短・中距離核ミサイルの生産再開へ プーチン氏が表明 米国への対抗と主張****
ロシアのプーチン大統領は28日、米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約が2019年に失効した後、ロシアが停止していたとする中・短距離ミサイルの「生産と配備を開始すべきだ」と述べた。

米国が中・短距離ミサイルを欧州やアジアに搬入していることへの対抗措置だと主張した。オンライン形式で同日開かれた露国家安全保障会議の会合で発言した。

プーチン氏はロシアが核戦力の増強に乗り出す方針を改めて示した形。ウクライナ侵略を背景とした米露間の緊張がさらに高まるのは避けられない情勢だ。

プーチン氏は「米国の身勝手な離脱によりINF全廃条約が失効した後も、ロシアは米国が中・短距離ミサイルを世界各地に配備しない限り、中・短距離ミサイルの生産や配備をしないと表明してきた」と指摘した。

その上で、米国が最近、軍事演習名目でデンマークとフィリピンに中・短距離ミサイルを搬入した上、その後も搬出したかは分かっていないと主張。「ロシアはこれらの攻撃システム(中・短距離ミサイル)の生産を開始し、その後、どこに配備するかを決定する必要がある」と述べた。

米国は19年2月、ロシアがINF全廃条約を順守していないとして条約の破棄をロシアに通告。条約は同年8月に失効した。ロシアは「米国がINFを欧州などに配備した場合、対抗措置をとる」と警告する一方、双方が条約失効後もINFの新たな配備を自制することを提案していた。

ロシアは米国との軍拡競争の激化に伴う財政の悪化を懸念し、INF配備の相互自制を提案していたとみられている。【6月29日 産経】
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****米国、ドイツに長距離兵器の配備開始へ 2026年から****
米国は2026年、欧州防衛強化を目的にドイツに長距離攻撃システムの配備を開始する。両国が10日共同声明で明らかにした。「スタンダード・ミサイル6」(SM─6)や「トマホーク」ミサイル、極超音速兵器が含まれる。(後略)【7月11日 ロイター】
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状況を複雑にしているのが、「中距離核戦力(INF)全廃条約」の枠外にあった中国の存在です。

****米ロが中距離兵器を再配備、中国巻き込み軍拡競争複雑化****
米国は40年前、ソ連の中距離弾道ミサイル「SS20」に対抗するため、核ミサイル「パーシングII」と巡航ミサイルを欧州に配備した。この動きは冷戦の緊張をあおったが、一方で数年後の歴史的な軍縮合意にもつながった。

米国とソ連は1987年12月、射程距離500―5500キロの地上発射型弾道ミサイルと、核弾頭もしくは通常弾頭を搭載可能な巡航ミサイルを両国で全廃する二国間条約「中距離核戦力(INF)全廃条約」で合意。ソ連のゴルバチョフ書記長は米国のレーガン大統領に「この苗木を植えたことはわれわれにとって誇れることだ。いつの日か巨樹に育つだろう」と語りかけた。

この苗木は2019年まで生き延びたが、この年に当時のトランプ米大統領はロシアが合意に違反しているとして条約を破棄。その後米国とロシアは新たな兵器配備計画を打ち出しており、INF全廃条約の崩壊がいかに危険なことだったかが今になってようやく明白になりつつある。

ロシアのプーチン大統領は6月28日、短・中距離陸上ミサイルの製造を再開し、必要なら配備地を決定すると公言した。西側諸国は、いずれにせよロシアは既にこうしたミサイルの製造を始めているのではないかと疑っていた。専門家によると、これらのミサイルは通常弾頭と核弾頭のいずれも搭載が可能とみられる。

一方、米国は7月10日に対空ミサイル「SM6」や巡航ミサイル「トマホーク」、新型極超音速ミサイルなどの兵器を2026年からドイツに配備すると発表した。これらは通常弾頭搭載型だが、理論的には核弾頭を搭載できるものもある。

こうしたミサイル配備計画が打ち出された背景にはウクライナ戦争を巡る緊張の高まりと、西側諸国がプーチン氏の核兵器に対する発言を威嚇的だと受け止めたことがあるが、双方が軍備増強を決めたことで脅威は一段と高まった。また、両国の兵器配備には中国とのより広範なINF軍拡競争の一部という側面もある。

オバマ米政権で核不拡散担当の特別補佐官を務めた米国科学者連盟のジョン・ウォルフスタール氏は、「現実として、ロシアと米国の両国が、相手国の安全を損なうかどうかに関係なく、自国の安全を強化すると信じる措置を講じている。その結果、米国とロシアの一挙手一投足が、敵対国に対して政治的、軍事的に何らかの対応を迫ることになる。これが軍拡競争というものだ」と話す。

<攻撃シナリオ>
国連軍縮研究所のアンドレイ・バクリツキー上級研究員は、計画が浮上した兵器配備によって「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間で直接的な軍事衝突が起きるシナリオが高まる」と指摘し、全ての関係者は身構える必要があると警告する。

ウクライナ向けの西側兵器が保管されているポーランドの基地をロシアが攻撃したり、ロシアのレーダーや司令部を米国が攻撃したりするといった事態も想定されるという。

専門家によれば、こうしたリスクは緊張を一段とあおり、事態を連鎖的に激化させる。

ウォルフスタール氏は、米国が計画しているドイツへのミサイル配備について、欧州の同盟国に安心感を与えるためのもので、軍事的に大きな利点はないと指摘。「軍事的な能力は向上せず、危機が加速し、制御不能に陥る危険性が高まる恐れがある」と語る。

平和研究・安全保障政策研究所(ハンブルク)の軍備運用専門家、ウルリッヒ・キューン氏は 「ロシアの立場からすれば、この種の兵器が欧州に配備されれば、ロシアの司令部や政治的中枢、戦略爆撃機を配備している飛行場や滑走路に、戦略的な脅威がもたらされる」とし、ロシアが対抗措置として米国本土を標的とする戦略ミサイルの配備を増強する恐れがあるとの見方を示す。

<中国の反応>
ロシアと米国が中距離ミサイルを配備すれば、これまで全廃条約に縛られることなくINF兵器を増強してきた中国がさらなる軍備拡張に動く可能性もある。

米国防総省は2023年の議会への報告書で、中国のロケット軍が射程300―3000キロのミサイルを2300基、射程3000―5500キロのミサイルを500基保有していることを明らかにした。

中国のミサイルに対する懸念は、トランプ氏がINF全廃条約破棄を決断した大きな要因の1つであり、米国は既にアジアの同盟国への中距離兵器配備に着手している。

キューン氏は「軍拡競争はロシアと米国およびその同盟国との二者間のものではなく、もっと複雑になるだろう」と危惧する。

専門家3人はいずれも、1980年代にレーガン氏とゴルバチョフ氏が合意したような画期的な軍縮協定がロシアと米国の間で結ばれる可能性は低いとみている。

国連軍縮研究所のバクリツキー氏は、たとえロシアと米国の両国が軍拡は無意味だとの考えに至っても、米国は中国のことを考えてINF全廃条約の復活には動けないと指摘する。【7月20日 ロイター】
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米国は既にアジアの同盟国への中距離兵器配備に着手・・・当然、日本もその流れの中に組み込まれていくことになります。

【世界は危険な方向に】
ロシアは包括的核実験禁止条約(CTBT)からも離脱しており、従来の核拡散防止体制は崩壊しつつあります。
そもそも、アメリカはCTBTを批准していません。

****ロシアは核実験を再開するのか?CTBTから離脱、プーチン大統領は「準備を万全とする」よう命じた 「シベリアでやれ」「米国に分からせろ」相次ぐ強硬発言、核拡散防止体制に危機****
ロシアのプーチン大統領が11月2日、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回する法律に署名、同国の事実上のCTBT離脱が決まった。ウクライナ侵攻を巡る西側との対立が深まる中、ロシアが国際的な核軍縮の求めに反して核実験に踏み切るのではとの懸念が強まっている。(共同通信=太田清)

▽大統領「準備万全に」
ロシアのCTBT離脱の動きはかねてあった。2月21日に行われた毎年恒例のロシア上院に対する年次報告演説で、プーチン大統領は、米国の核兵器について「核弾頭の性能を保証する期限が切れつつあることを知っているし、新たな核兵器開発が行われ、核実験の可能性を検討していることも分かっている」とした上で、国防省と国営原子力企業ロスアトムに対し、「核実験の準備を万全とする」よう命じたことを明らかにした。(中略)

▽20年以上も批准せず
CTBTについて、核二大国の米国とソ連はともに1996年に署名。ソ連の核兵器を継承したロシアは2000年6月に批准した。

一方、米国は1999年、共和、民主両党の党派対立などから、権限を持つ上院での批准に失敗。その後も(1)ロシアなどが小規模核実験を行っても検知できない恐れがある(2)安全保障上のフリーハンドが持てない。実験なしでは核兵器の信頼性が確保できない(3)潜在的敵国である中国、北朝鮮、イランなどが署名または批准せずに核開発・強化を進めるなど、CTBT、核拡散防止条約(NPT)は既に形骸化している―などの主張が強く、批准に必要な3分の2の賛成票を得られていない。

米国は92年に実験のモラトリアム(一時停止)を始め、現在まで行っていないものの、ロシアの批准から20年以上にわたってCTBT未批准の状況が続いている。

▽ウクライナ問題
ロシアはなぜ今になって、核実験再開に結びつく動きに出たのか。公式には、未批准の米国への対抗措置との立場を取っているが、背景には米国の実験再開に対する警戒とともに、ロシアとの戦争でウクライナを支援する西側へのけん制の狙いがあるのは間違いない。(中略)

▽連鎖反応
万が一、ロシアが核実験再開に踏み切ることがあれば、世界はどのように変化するのか。

米ソの核軍縮交渉にも参加した核軍縮問題分析の第一人者、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所のアレクセイ・アルバトフ国際安全保障センター長はコメルサント紙に対し、こう警告した。

「ロシアのCTBT離脱で世界各国の条約離脱と核実験開始という、連鎖反応を引き起こす可能性がある。CTBTがNPT体制を支える重要な主柱であることを考えると、同体制が崩壊し、核保有国がさらに増え、核のカオス(無秩序)に陥る恐れすらある」【2023年11月29日 47NEWS】
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これまでまがりなりも国際緊張高まりにブレーキをかける役目を担っていた中距離核戦力(INF)全廃条約や包括的核実験禁止条約(CTBT)の無効化、中国の軍拡競争参入、中ロとアメリカの対立構造の先鋭化・・・世界は危険な方向に向かっているようです。
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インド・モディ首相のロシア訪問  インドの思惑 ロ印関係の変化

2024-07-10 23:08:43 | 国際情勢

(インドのモディ首相(左)を電動カートに乗せて運転するロシアのプーチン大統領=モスクワ郊外で2024年7月8日、スプートニク通信【7月9日 毎日】)

【孤立イメージを払拭したいロシアはモディ首相を歓待】
インド・モディ首相がロシアを訪問、プーチン大統領と会談。
ロシアとしてはウクライナ問題で欧米からの制裁を受ける中、決して国際的に孤立はしていない・・・ということをアピールする場になります。インド・モディ首相としてはグローバルサウスを代表する国としての存在感を示すことにもなります。

ただ、インドの思惑は他にも・・・という話は後ほど。

****インド首相、5年ぶり訪ロ プーチン大統領公邸で非公式会談****
ロシアのプーチン大統領は8日、モスクワ郊外の公邸でインドのモディ首相を迎え、非公式に会談した。9日に大統領府(クレムリン)で公式会談に臨む。モディ氏のロシア訪問は5年ぶり。

国営タス通信によると、プーチン氏はモディ氏を抱擁して迎え、「親愛なる友人」と呼んであいさつを交わし、会えて「とても嬉しい」と語った。

また「公式会談は明日だが、きょうはこの快適で心地良い環境で、同じ問題について非公式に話し合うことができる」と述べた。プーチン氏はモディ氏にお茶などを振る舞い、邸内を案内した。

米国務省はロシアがウクライナ侵攻を続ける中でのモディ氏の訪ロと印ロ関係は懸念を抱かせると述べた。
ロシアと長年緊密な関係を維持してきたインドはウクライナ侵攻を巡りロシアを非難することを控え、対話と外交を通じた紛争終結を求めている。

インド政府高官が先週明らかにしたところによると、モディ氏は今回の訪ロで両国の貿易不均衡是正や、だまされるなどしてウクライナ戦争に加わったインド国民の帰国などを働きかける見通し。【7月9日 ロイター】
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ロシア・プーチン大統領は、前述のように欧米の制裁を受ける中で、来てくれたモディ首相に感謝・・・というところでしょう。なかなかの歓迎ぶりだったようです。

****印モディ首相にロシア最高位勲章 プーチン大統領が授与、習近平氏に続き外国人で4人目****
ロシアのプーチン大統領は9日、モスクワでインドのモディ首相と会談後にロシア最高位の聖アンドレイ勲章を授与した。プーチン氏はクレムリンで行われた式典で「われわれの国家や国民の間の友好や相互理解を強化してくれた」と演説した。

モディ氏は「この勲章は私一人のものではなく、インド国民14億人に与えられた栄誉だ」と謝意を示した。

タス通信によると、同勲章はピョートル大帝時代の1698年に創設され、1917年のロシア革命後に廃止されたが、98年に復活した。外国人の受章者は、アゼルバイジャンの故アリエフ前大統領、カザフスタンのナザルバエフ前大統領、中国の習近平国家主席に続きモディ氏が4人目という。【7月10日 共同】
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もとよりインドは武器輸入などでロシアと関係が深く、ウクライナ侵攻を巡りロシアを非難することを控え、欧米とは一線を画した対応をとっています。また、制裁下でロシア産石油を格安で入手できているという実利も。

そうしたことでロシア訪問は不思議ではありませんが、やはりウクライナやアメリカとしては不愉快。

****ウクライナ大統領、インド首相に「大きな失望」 ミサイル攻撃と同日のロシア訪問めぐり****
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、インドのモディ首相がロシアを訪問したことについて「大きな失望であり、平和への取り組みに対する壊滅的な打撃」と批判した。ロシアは同日、首都キーウの小児病院などへのミサイル攻撃を仕掛け、少なくとも37人が死亡、170人が負傷している。

モディ氏は8日、モスクワ郊外のノボオガリョボにあるプーチン・ロシア大統領の公邸で会談した。

モディ氏の2日間の訪問は、ロシアが約2年半前にウクライナへの侵攻を開始して以降初めて。公開された写真や動画には両首脳が抱き合ったり、お茶を飲みながら会話をしたり、電気自動車(EV)に乗ったりする様子が映っていた。

ゼレンスキー氏は同日、X(旧ツイッター)に「世界最大の民主主義国の指導者がこのような日にモスクワで、世界で最も残虐な犯罪者を抱きしめるのを見るのは大きな失望であり、平和への取り組みに対する壊滅的な打撃だ」と投稿した。

モディ氏はXで、公邸に招いてくれたプーチン氏に謝意を示し、「明日の会談も楽しみにしている。会談はインドとロシアの友好関係をさらに強固にする上で明らかに役立つだろう」と投稿した。公式の首脳会談は9日に行われる見通し。

ロシアによるウクライナへの攻撃は、米ワシントンで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を翌日に控える中で起きた。同会議ではウクライナに対する軍事、政治、財政面での支援について新たな発表があるとみられている。【7月9日 CNN】
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【インド 平和的解決を求める立場でグローバルサウスリーダーの立場をアピール 実利も重視】
モディ首相としても、中国のようにロシアの言動を事実上容認している訳ではなく、ロシアの軍事行動にはこれまでも一定に批判を行っています。今回訪問も平和的解決を求める立場でロシアをいさめるような形をとっています。(実際のプーチン大統領との会談のなかで、どういうやり取りがなされたかは別として)

そのような、アメリカに追随はしないが、ロシアに対しても言うべきことは言う・・・という立場をとることで、グローバルサウスのリーダーとしてのインドをアピールしたいのでしょう。

****ロシア、モディ氏訪露で伝統的友好を強調 「孤立」否定も実利重視のインドと温度差も****
ロシアのプーチン大統領はインドのモディ首相との9日の会談で、両国の伝統的な友好を強調した。ウクライナ戦争を巡り欧米と対立する中、新興国の代表格であるインド首脳を迎え、ロシアは国際的に孤立していないと誇示している。

ただインドは「解決策は戦場では見つからない」(同国外交筋)として中立外交を貫き、欧米と中露の対立に巻き込まれるのも避けたい構え。露印には抜きがたい温度差が残っている。

モディ氏はプーチン氏の招待を受け訪露。プーチン氏はモスクワ到着後のモディ氏を、まず露大統領公邸に招いて厚遇した。米ワシントンでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせてモディ氏と会談し、国際的な孤立イメージを払拭したい思惑もあった。

ロシアはウクライナ侵略後、グローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)との関係を強化し、国際的孤立や欧米主導の対露制裁の打撃を緩和させようとしてきた。グローバルサウスの筆頭格とされるインドとの関係強化もこうした外交戦略に基づくものだ。

一方、モディ氏はウクライナ侵略の平和的解決を求める立場を露側に訴えたとみられる。同氏は2022年9月、ウズベキスタンでプーチン氏と会談し、「今は戦争の時代ではない」と言及。今回も改めて説得を試みた形だ。ただ、インドはこれまで、国連総会などの場で民主主義陣営主導のロシア非難にも加わってこなかった。

インドは対中牽制も念頭に日米豪との協力枠組み「クアッド」に参画。領土問題で中国と対立する中、最近の中露接近への警戒を強めており、ロシアとインドの関係強化にはハードルがある。【7月9日 産経】
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****プーチン大統領と会談 長期化する侵攻に改めて懸念示す****
インドのモディ首相は訪問先のロシアでプーチン大統領と会談し、ウクライナ侵攻をめぐり「戦争による解決はない、対話が必要だ」と述べ、外交的解決を改めて呼びかけました。

プーチン大統領  「ウクライナ危機の平和的な解決方法を探す努力をしていただいていることに感謝する」

プーチン大統領とモディ首相は9日、モスクワのクレムリンで会談し、モディ氏は冒頭で「明るい未来のために平和が必要だ」と指摘。そのうえで「戦争は解決策にならない。対話こそが必要なことだ」と述べ、ウクライナ侵攻を続けるロシアに外交的解決を呼びかけました。

モディ氏はおととしの会談の際にも「今は戦争のときではない」と述べていて、長期化する侵攻に改めて懸念を示した形です。

一方、インドメディアによりますと、ロシア軍に入隊させられ、ウクライナに派遣されたインド人の問題をめぐり、プーチン氏はモディ氏の要請に応じ、全員を除隊させる方針を示したということです。【7月9日 TBS NEWS DIG】
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【インドの真の狙いはロ中接近の牽制】
上記のような表向きの話とは別に、モディ首相ロシア訪問の狙いは、国境紛争を抱える中国とロシアの接近を牽制することにある・・・と指摘されています。

****ロ印首脳会談 モディ首相の真の狙いとは****
ロシアのプーチン大統領は、インドのモディ首相と会談しました。ロシア側は経済から軍事面まで関係強化につながったとアピールしました。

プーチン大統領は、モディ首相を公邸に招くなど歓待しました。しかし、笑顔の下には深い悩みが隠されています。中国です。インドと中国は対立関係にあります。クレムリンに近い関係者は「モディ首相の真の狙いは、中国との関係にくぎを刺すことだ」と述べています。

これまでプーチン大統領は、中国とインドの対立を利用して影響力を発揮してきました。しかし、ウクライナ侵攻の長期化でロシアの影響力は減り、中国とインドに対する立場は逆転しました。

モディ首相はプーチン大統領に「今は戦争の時代ではない」と直接苦言を呈したこともあり、ウクライナ侵攻には厳しい立場です。

モディ首相は中国の関係強化が不可欠なプーチン大統領の弱い立場を理解したうえで、原油の割引など強かな交渉を迫っているとみられます。【7月10日 ABEMA TIMES】
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中国への接近を牽制しつつ、原油の割引など実利はしっかり確保する・・・したたかな外交です。

【進むインドのロシア武器離れ】
一方で、ロシアはインドにとって重要な武器輸入国でしたが、ロシアは現在ウクライナで手一杯。北朝鮮の手も借りようかという状況。

****ロシア、大規模攻勢の弾薬不足 国外調達の必要── NATO当局者****
北大西洋条約機構(NATO)当局者は9日、ロシアはウクライナで大規模な攻勢を開始するための弾薬と兵力が不足しており、他の国から大量の弾薬を確保する必要があるとの見方を示した。

NATO当局者は匿名を条件に記者団に対し、ロシア軍は小規模な領土獲得に苦戦する中、大規模な攻勢を仕掛ける兵士と弾薬が不足しており、「極めて大きな」損失を被っていると指摘。「人員が不足し、かつ経験不足の部隊に非現実的な目的を達成するよう命令せざるを得なくなっている」と述べた。

その上で「ロシアが本格的な攻撃作戦を継続するには、イランと北朝鮮からすでに得ている弾薬に加え、その他の国から相当量の弾薬の供給を確保する必要がある」と言及。ロシアは新たな大規模動員を実施する必要にも迫られるとの見方を示した。

同時に、ロシアのプーチン大統領は「時間はロシア側の味方だと考えている」とし、「驚異的な数の兵士の犠牲」に耐える用意ができていると指摘。あと3─4年は戦時経済を維持できるとの見方を示した。

ウクライナについては、かなりの兵力損失が出ているとしながらも、防衛力は大幅に向上したと指摘。ただ、新たな大規模攻勢をかけるために必要な弾薬と人員を調達するまで「しばらく時間がかかる」との見方を示した。

NATOは米ワシントンで9─11日に首脳会議を開催。ウクライナのゼレンスキー大統領も参加する。【7月10日 Newsweek】
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そうした状況では、これまでのようなロシア・インドのつながりは維持できないかも。インド側には「ロシア離れ」が起きているとも。

****インドのロシア武器離れで貴重な「命綱」を失うプーチン****
<世界最大の武器輸入国インドは、ロシアがウクライナに本格侵攻しても武器を買い続けてくれる重要なスポンサーだったのだが>

インド軍がロシアの武器離れを起こしている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に残された経済的「命綱」の一つが切れかかっているということだ。

統計調査委会社スタティスタによれば、インドは世界最大の武器輸入国だ。2019〜2023年までの世界の全武器輸入に占める割合は9.8%に上る。

インド国防省は2023年3月、今後5〜10年の武器輸入予算として1000億ドルを投じると発表している。
ロシアは以前から、インドの主要な武器供給国だった。

しかしここへきて、ロシアがウクライナ戦争を継続しつつ、インドの軍備にも寄与するのは困難であることが明らかになってきた。

未確認だが、インドは旧式のロシア製戦車や大砲、軍艦、ヘリコプターなどの使用を最小限に抑えるようにし始めているという報道もある。 軍用機や最先端の軍備品の大量発注も停止した。

本誌は、インド国防省にメールでコメントを求めている。

ウクライナ戦争が始まった当初、インドは、プーチンのありがたいスポンサーだった。
ウクライナ侵攻後も、インドはロシアから武器を輸入し続けた。2019〜2023年にかけて、ロシアの武器輸出の36%はインド向けだった。

しかし、ロシアが武器不足で次第にインドの注文に応じ切れなくなり、両国の関係はぎくしゃくし始めた。

米軍と兵器を共同生産も
インド空軍は2023年3月、ロシアに発注していた防空ミサイルシステム「S400」が期日まで納入されないことに不満を表明。2024年のロシアからの調達予算を減額した。

ロシアからの武器輸入を減らした後、インドは、自国の軍事需要を満たすべく他国に目を向け始めた。

インドの英字紙「ザ・タイムズ・オブ・インディア」が2024年6月半ばに報じたところによると、インドはアメリカと組み、米軍の装甲車ストライカーの共同生産を検討しているという。

ストライカーは、老朽化するロシア製BMP-2の代わりの歩兵戦闘車として、インドと中国の国境係争地帯に配備される可能性が高い。

だがインドのロシア製兵器離れが報道されるさなか、モディはモスクワを訪問しプーチンと会談している。

モディがロシアを訪問するのは、2022年にロシアがウクライナに侵攻して以来、初めてだ。地政学的な同盟国であり続けてきた両国の関係は、間違いなく岐路にある。【7月9日 Newsweek】
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こうした状況を考えると、インド・モディ首相はかなり強い姿勢でロシアに話ができるように思われます。

ロシアは中国依存を強め、インドはロシア離れを加速する・・・・ロシアと中国・インドとの力関係は後者の側に有利に変化しているようです。

【ロシアが“見解の相違は一切なかった”と説明しないといけないあたりに逆に感じられる「温度差」】
なお、モディ首相の平和的解決を求める立場や、中国を意識した真の狙いといった指摘がなされるなかで、ロシアもそのあたりを意識はしているようです。

****ロ印首脳会談、見解の相違「一切ない」=ロシア大統領府***
ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日、今週モスクワで行われたプーチン大統領とインドのモディ首相の会談について、見解の相違は一切なかったと述べた。

モディ氏は9日、プーチン氏との会談で、罪のない子どもたちの死は非常に痛ましいと発言。ウクライナの首都キーウ(キエフ)では8日に小児病院がミサイル攻撃を受けた。

ペスコフ報道官は記者団に対し、ロシアとインドの代表団による会談の中止は日程上の都合と、全ての議題がすでに協議されていたことが理由だとし「見解の相違や問題のある状況とは一切関係がない」と述べた。【7月10日 ロイター】
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“見解の相違は一切なかった”と説明しないといけないあたりで、逆に見解の相違があったのでは・・・と思えたりもします。

ロシアとインドの代表団による会談の中止については、以下のように説明されています。

****印ロ首脳会談の一部キャンセル プーチン氏が日程乱す****
9日にモスクワで行われた印ロ首脳会談で、閣僚を交えた少人数会合は予定通り実施されたが、昼食を伴う拡大会合が急きょキャンセルされた。

ロシアのプーチン大統領が会談直前、インドのモディ首相が視察した博覧会場に飛び入りで合流し、日程が乱れたことが原因とみられる。

ペスコフ大統領報道官は10日、拡大会合の中止は「意見の不一致」に起因するものではないと説明。「モディ氏は次の訪問国オーストリアに出発しなければならなかった」とも述べた。【7月10日 時事】
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ロシア・中国  “蜜月”の一方で、ロシアは北朝鮮と“相互軍事援助”、中国は中央アジアと関係強化

2024-07-07 23:19:33 | 国際情勢

(握手するロシアのプーチン大統領(右)と中国の習近平国家主席=3日、カザフスタン・アスタナ【7月4日 産経】 しかし、国際関係の常で、「蜜月ぶり」の表の一方で、「裏」では冷めた視線や激しい競合も)

【プーチン大統領 中ロ関係「史上最良」と評価】
今月3日、カザフスタンの首都アスタナで開催された上海協力機構(SCO)首脳会議に出席したプーチン大統領と習近平国家主席はその“蜜月ぶり”を誇示しています。

****中ロ関係「史上最良」=首脳会談で連携確認―上海協力機構会議****
中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は3日、上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせ、カザフスタンの首都アスタナで会談した。

タス通信などによると、プーチン氏は中ロ関係を「史上最良」と評価し、習氏は中ロ友好を堅持すべきだと強調。対米共闘の観点から、連携を再確認した格好だ。

プーチン氏は会談で、10月にロシア中部で開かれる新興国グループ「BRICS」首脳会議への習氏の参加に期待を示した。約3カ月後に再会談することになる。【7月3日 時事】 
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【ロシアと北朝鮮が新条約で“相互軍事援助” 中国はロ朝から距離を置く】
ただ、いつも言われるように、中ロ間には必ずしも“蜜月”とは言い難いそれぞれの思惑があります。大まかに言えば、ウクライナに手こずるロシアは中国の支援を必要としていますが、中国はロシアへの協力で得られるもの、欧米への影響を冷静に見定めている・・・といったところでしょうか。

ロシア・プーチン大統領は今回会談に先だって、中国が後ろ盾となってきた北朝鮮を訪問し、有事の際に「軍事的に相互援助をする」という内容を含む「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名しています。

****プーチン大統領は苦渋の判断か ロシアと北朝鮮が新条約…“相互軍事援助”の闇*****
(6月)19日、ロシアのプーチン大統領が訪朝し、金正恩総書記とともに「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名をした。この条約には、有事の際に「軍事的に相互援助をする」との条文も盛り込まれ、専門家も予測しなかった異例の展開だ。(中略)

1)「包括的戦略パートナーシップ条約」署名 冷戦時代に逆戻りか?
双方ともに、様々な思惑が錯綜する中、ロシアと北朝鮮の間に結ばれた「包括的戦略パートナーシップ条約」。
23条に及ぶ広範囲の条約だが、注目されているのが有事の際に「軍事的に相互援助をする」という第4条だ。

今回の条文を見ると、「一方が個別的な国家または複数の国家から武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、他方は国連憲章第51条と朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に準じて、遅滞なく自国が保有しているすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」と書かれている。

どちらかの国が武力侵攻を受けた場合には、軍事的なものもの含めてすべての手段でお互いに援助する、ということだ。この国連憲章第51条とは、他国に武力攻撃された場合の自衛権を認めた条項を指す。

ソ連と北朝鮮の間には、1961年に結ばれ、1996年に失効した「友好協力相互援助条約」があった。その第1条には「一方が個別の国または国家連合から武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、他方は遅滞なく自国が保有しているすべての手段で軍事的またはその他の援助を提供する」とあり、今回の新条約は、国連憲章と両国の法に準じて、という文言以外、ほぼ同じだ。

プーチン大統領も20日、ベトナムでの会見で「旧ソ連時代と同じだ」と強調し、「条約を結んだのは古い条約が消滅したためであり、以前の条約と内容は同じだ。新しいことは何もない」と説明している。

この、冷戦時代に逆戻りしたかのような第4条について兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所研究幹事)は、以下のように分析をした。

今回締結された「包括的パートナーシップ条約」には、第4条で有事の際の軍事的な相互援助を行うことが含まれているが、ロシアがこれまでベトナムなどと結んできたほぼ同様の条約には、4条にあたるものが含まれていなかった。その点を考えると、踏み込んだ内容となっている。

プーチン大統領は、旧ソ連時代に結んだ「友好協力相互援助条約」の第1条と同じと述べているが、今回は、「国連憲章第51条と北朝鮮とロシアの国内法に準じて」の文言が追加されており、古い条約と同じとみるかどうかは見解が分かれるところだ。

今回、私がより注目をしているのは、なぜ今、北朝鮮とロシアがこの条約を結んだのか、という点だ。いま、この条約を結んだということは、北朝鮮とロシアが今後、軍事協力を強化するという政治的宣言を行った、つまり、意図表明を行ったということである。

ただ、北朝鮮とロシアは現状、軍事的な関係がないため、有事の相互援助が実際できるかというと、実行には程遠い状況だ。今回の条約が中身の伴ったものとなるかどうかは、今後、両国の軍事技術協力や軍事演習などが始まり、どう深化していくかを見極めて判断する必要がある。とはいえ、政治宣言としては、一定程度のインパクトはあったと思う。

プーチン大統領が、ソ連崩壊後、失効させた軍事的な相互支援を復活させ、今回の条約を結んだ理由はどこにあるのか。兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所研究幹事)は、ロシアと北朝鮮の軍事的接近の背景にあるのは、ウクライナ戦争だと指摘する。

今回の条約締結に至った理由は、一つには、いま、ロシアが戦争を継続する上で、北朝鮮はロシアにとって、いわば、新たな兵器の生産工場という位置づけに変わってきており、これを維持したいという狙いがある。

二つ目には、現在アメリカなどは、自国製兵器を用いてウクライナ軍がロシア領内を攻撃することを容認しつつあり、もう既に領内への攻撃激化の兆しがある。ロシアとしては、アメリカをはじめとした西側諸国のウクライナへの軍事支援と、ロシア領内への攻撃を抑止したいという狙いがあり、北朝鮮に接近するそぶりを見せることで牽制したい、ということだろう。

しかし、これら一連の動きはウクライナとの戦争に起因しており、仮に戦争が終息へ向かえば、ロシアが北朝鮮に接近する動きは弱まる可能性がある。とはいえ、こういった条約を一度締結してしまえば簡単に破棄することは難しく、もし戦争が終わってもロシアの政策転換は容易ではない。ある意味では、今回の条約締結がロシアにとっての足かせとなる側面もある。(後略)「BS朝日 日曜スクープ 2024年6月23日放送分より」【6月27日 テレ朝news】
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中国からすれば、北朝鮮の暴走は、朝鮮半島情勢の緊張を招くほか、アメリカの北東アジア地域への関与をよりいっそう強めることにつながることからも、中国にとって北朝鮮への影響力を維持することは重要です。

その北朝鮮がロシアに傾斜することについては、警戒感を伴いつつ、注意深く見守っている・・・というところでしょう。

また、欧米が、中国・ロシア・北朝鮮の3か国を一体とみなし、ロシアと北朝鮮に対する制裁が中国に飛び火するのを避けたいというのも本音とみられます。【6月19日 NHKより】

****中国、ロ朝の関係緊密化に距離 対西側関係の不安定化望まず*****
中国は今週、ロシアのプーチン大統領による北朝鮮訪問に対して用心深い反応を示した。3国間で何らかの合意を結べば他の国々との関係が複雑化しかねないため、距離を置いている形だ。

19日に平壌で行われたプーチン氏と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記との会談を、中国は傍観した。

中国外務省の林剣報道官は18日の記者説明で、首脳会談はロシアと北朝鮮の2国間交流である、と述べるにとどめた。

米カーネギー国際平和財団のトン・ザオ氏は「中国は、北朝鮮がロシアと軍事協力を深めることに一定の距離を置いている。中国はまた、自国とロシア、北朝鮮が事実上の同盟関係にあるとの認識を持たれないよう注意している。主要西側諸国と現実的な協力を維持する上で妨げとなるからだ」と解説した。

北朝鮮が昨年、新型コロナウイルスのパンデミックに対応する国境管理を緩和して以来、中国との貿易は回復した。しかし金正恩氏の政治的関与はロシアに集中している。

金氏は昨年、パンデミック後初めてロシアを訪問し、プーチン氏と会談した。そしてプーチン氏は、北朝鮮の国境再開以来、政治的にも経済的にも孤立した同国を訪問した最初の首脳だ。

米国や同盟国の当局者、国連の制裁監視団によれば、ロシアはまた、国連安全保障理事会の決議で禁止されている北朝鮮製の弾道ミサイルを使ってウクライナの標的を攻撃するという、前例のない行動に出た。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の数日前、中国はロシアとの「限りない」友好関係を宣言。しかし中国はこれまでのところ、戦争のための武器や弾薬の提供を避けている。

中国はロシアとともに国連安保理で北朝鮮への新たな制裁を阻止してきたが、制裁の実施状況を監視するパネルの延長にロシアが拒否権を発動した際には棄権した。

ある韓国政府高官は、国連決議に違反して中国に残っている数千人の北朝鮮労働者を巡り、中国と北朝鮮の間に緊張があるようだと述べた。

<中国は経済重視>
中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、両国は1960年代に相互防衛条約を締結している。両国は他のいかなる国ともそうした条約を結んでいない。

米シンクタンク、スティムソン・センターの中国プログラム・ディレクターであるユン・スン氏は、この関係が変わることはないだろうが、金正恩氏とプーチン氏の関わりや、2人の予測不可能な行動は、中国に新たな不確実性をもたらしていると説明。「中国の立場を揺るがすような明確な進展や政策が出てくるまでは、中国は静観するつもりだろう」と語った。

またスン氏の見方では、ロシアと北朝鮮の関係緊密化は中国にとって、米国の注意をそらすことになるため悪い話ではない。「中国としてはただ、3国間の取り決めであるかのような仕草を注意深く避けさえすれば良い」という。

中国は外交政策や貿易問題で米国と衝突することが増えているものの、ロシアや北朝鮮のような世界の「のけ者国家」とは程遠い。米国とその同盟国である日本と韓国は昨年、中国の貿易相手国トップに名を連ねた。

中国の李強首相が5月の日中韓サミットで北朝鮮の核兵器について話し合った後、北朝鮮は珍しく中国を公然と非難した。

プーチン氏の北朝鮮訪問は、中国の外務・国防高官らによるソウル訪問と日程が重なった。

韓国の説明によると、同国側はプーチン氏の北朝鮮訪問に懸念を示し、中国側は「ロシアと北朝鮮の交流が地域の平和と安定に寄与すること」への期待を表明した。

スウェーデンの安全保障開発政策研究所のニクラス・スワンストローム所長は、北朝鮮とロシアの連携が、中国にとって地域情勢をより困難にする挑発的行動につながる場合、中国は間違いなく懸念を抱くだろうと述べ、「中国が望むのは貿易と、経済の再建だ」と付け加えた。【6月20日 ロイター】
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【ロシアの“裏庭”中央アジアで影響力を拡大する中国】
中国との間に強固な関係がある北朝鮮にロシアが接近する一方で、中国はロシアの“裏庭”とも言われてきた中央アジア諸国への影響力を更に強めています。

****中国主席、カザフ大統領と夕食=ロシア勢力圏で影響拡大****
中国の習近平国家主席は2日、中ロ主導の上海協力機構(SCO)首脳会議が開かれるカザフスタンの首都アスタナを公式訪問した。

カザフ側の発表によると、トカエフ大統領と2日に夕食を共にしながら会談。3日の中ロ首脳会談に先んじた形で、ロシアのプーチン大統領は対中関係を重視しながらも、自らの勢力圏とする中央アジアへの中国の影響力拡大に内心穏やかではなさそうだ。

習氏は2022年9月、ウズベキスタンで行われたSCO首脳会議の直前にもカザフを公式訪問。これがコロナ禍が始まってから初の外遊となり、巨大経済圏構想「一帯一路」を推し進める姿勢を示していた。【7月3日 時事】 
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更に上海協力機構(SCO)首脳会議は・・・

****中国主席、タジク訪問=ロシア勢力圏取り込み図る****
中国の習近平国家主席は5日、タジキスタンの首都ドゥシャンベでラフモン大統領と会談し、両国の関係強化について協議した。中国国営中央テレビが報じた。

習氏はこれに先立ち、上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせてカザフスタンを訪問。ロシアの伝統的勢力圏である中央アジアの国々の取り込みを図っている。

4日夜、ドゥシャンベの空港ではラフモン氏が自ら習氏を出迎え、盛大な歓迎式典を開催。習氏の手を取り、共にレッドカーペットを歩いた。

旧ソ連圏の中央アジアは、ロシアの「裏庭」とも呼ばれる地域。ただ、ウクライナ侵攻をきっかけにロシアと距離を置く国が増え、代わりに経済面での結び付きが強い中国の影響力が増している。【7月5日 時事】 
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****ロシアの「裏庭」で勢力争い、中露の微妙な関係****
ウクライナ戦争でロシアの影響力が低下した中央アジアで、中国が勢力を拡大中

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が5月、アジア諸国で自身の権威をアピールする外交攻勢の一環としてウズベキスタンの首都タシケントを訪れた時、現地当局は大通りにプーチン氏のポスターを掲げた。いまだロシアの大きな影響下にある旧ソ連構成国では当然の対応だった。

だが、そのポスターの足元の光景は、ロシアの国際的な影響力の低下を浮き彫りにするものだった。ウズベキスタンの街中を走り回る自動車は、比亜迪(BYD)や吉利汽車(ジーリー)などの中国ブランドがますます増える一方、ロシアブランドのラーダは減っているのだ。

中国とロシアはかつてないほど緊密な関係にあり、権威主義的な大国同士が結束して、西側諸国の包囲網とみなす動きに立ち向かおうとしている。

カザフスタンで3~4日に開かれる上海協力機構(SCO)首脳会議を前に、プーチン氏と中国の習近平国家主席は現地で会談し、双方が二国間関係の現状を称賛した。しかし、ロシアにとって裏庭の中央アジアでは、プーチン氏と習氏が「無制限」と宣言した友好関係が、中国の世界的野心と衝突している。

中国はロシアによるウクライナ侵攻を機に、ロシアの伝統的な勢力圏を切り崩そうとしている。ロシアは軍事機構の維持を中国に依存しているため、北極圏と同様、中央アジアにおいても中国の侵入を黙認せざるを得ない。

戦略的要衝である中央アジア全体で、中国は域内経済を自らの勢力圏に引き込もうとしている。中国の投資により、この地域の若い労働者のロシア離れが進んでいる。中国が出資する鉄道は、ロシアを経由せずに中央アジアと欧州を結ぶルートとなる予定だ。また、中国の再生可能エネルギープロジェクトは、この地域のロシア産ガスへの依存度を下げるのに役立っている。

ウズベキスタン中部の中国系工場で働くサンジャルベク・クルマトフさん(29)は、中国マネーのおかげでウズベキスタン国民の就業見通しが劇的に変わったと話す。

国際移住機関(IOM)によると、2023年はロシアで働くウズベキスタン人が約130万人となり、前年の145万人から減少した。その理由は複雑だが、クルマトフさんは中国資本の仕事の増加を一因に挙げている。「失業者は皆、ロシアまで行かなくても、ここで仕事を見つけられる」

帝政時代のロシアにとって中央アジアは、米国の開拓者にとっての「西部」のようなものだった。すなわち、荒野とされる土地に進出し、近代化し、資源を搾取した。搾取と近代化はソビエト連邦下でも続けられ、ソ連は中国の侵入を受けないよう国境を厳重に守った。

中央アジアにおけるパワーシフトは何年も前から始まっていたが、ロシアによるウクライナ侵攻後にその流れが加速した。

この地域ではウクライナ侵攻を、同じ旧ソ連構成国の領土一体性に対する軽率かつ不吉な侵害行為と受け止める人が多かった。中央アジア5カ国はいずれもウクライナ侵攻に関してロシアを支持せず、中立を保った。

米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのテムール・ウマロフ研究員は「中国は中央アジアの未来像を示している。ロシアは、中央アジア独自の戦略的目標に投資しない近視眼的な政治体制だ」と語る。

ロシアと中国は長年にわたり、この地域で暗黙の役割分担をしてきた。 ロシアは安全保障を提供し、中国は開発と投資に重点を置くというものだ。

中国は今、開発・投資という役割に一層傾倒し、巨大な経済力を政治的影響力の拡大に利用することで、このバランスを崩そうとしている。中国と中央アジアの貿易額は2023年に890億ドルに達した。

ウズベキスタンはソ連崩壊後の中央アジア5カ国の中で最も人口が多く、最も工業化が進んでいる。公式統計によると、中国は昨年、ウズベキスタンの貿易相手国トップの座をロシアから奪った。ウズベキスタンは20年にわたる孤立主義を転換し、世界経済との融合を図っている。(後略)【7月4日 WSJ】
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中ロ関係は「史上最良」と言いつつも、ロシアは北朝鮮に、中国は中央アジアに触手をのばしています。
ただ、これもいつも言われるように、こうした中ロ間の競合は中国の分がいいように見えます。

単に勢力圏での争いだけでなく、ロシアそのものが中国に依存しつつあるというのよく指摘されるところ。その流れを加速させているのがウクライナでの戦争。ウクライナでの結果がどうなろうと、ロシア・プーチン大統領にとってウクライナは極めて高い代償を伴うものとなっています。
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中国  ロシア・プーチン大統領訪中で“蜜月”演出も、したたかにロシアの足元を見て利益確保を狙う

2024-05-17 23:42:39 | 国際情勢

(【5月16日 FNNプライムオンライン】プーチン大統領の到着を笑顔で迎える習近平国家主席)

【“蜜月”を演出す中ロ首脳 思惑の違い・温度差も】
周知のようにロシアのプーチン大統領が16日訪中し、習近平国家主席との首脳会談を行いました。
中ロ両国首脳はその蜜月ぶりをアピールしています。

“「ここ数年、私とプーチン氏は40回余り会談し、密接な意思疎通を保ってきた」(習近平氏)” “ウクライナ侵略開始後、プーチン氏の外遊機会は限定的となっているが、訪中は続けている。プーチン氏は会談について「温かく、友好的」なものだったと共同記者発表で評価した。”【5月16日 産経】

ただ、多くが指摘しているように、とにかくウクライナでの戦争を中国の支援で勝利したいロシア、アメリカとの対立も視野に入れながら、そこでの優位なポジションを得ようとする中国、両国間で思惑の違い・温度差もあります。

****中国とロシア“蜜月”見せつけも……両首脳に「温度差」 プーチン氏、侵攻長期化で「経済力の強化」狙い 習主席は米揺さぶりか****
ロシアのプーチン大統領が16日訪中し、習近平国家主席との首脳会談に臨みました。5期目の大統領となって初の外遊先に中国を選んだプーチン氏と、電気自動車などをめぐってアメリカとの摩擦を抱える習主席。それぞれ、どんな狙いがあったのでしょうか?

■侵攻、経済…協力について意見交換か
(中略)
小栗泉・日本テレビ解説委員長
「16日の首脳会談では、ウクライナ侵攻や経済など、幅広い分野での協力について意見が交わされたとみられます。今回、とにかく2人は蜜月ぶりをアピールしたい、アメリカ一強の今の世界を変えたいという狙いでは一致しています」

■首脳会談にかける熱意には温度差も
日テレNEWS NNN藤井キャスター
「2人の表情を見ていると仲は良さそうですし、一枚岩のようにも見えましたが、どうでしょうか?」

小栗委員長
「会談にかける熱意という意味では温度差もあります。プーチン大統領の方が思いが強いようです。プーチン大統領の頭の中にあるのは、ウクライナ侵攻の長期化です」

「ロシアに詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授は『プーチン大統領は、侵攻が年単位で長引くのではないかとみているのでは。それだけに経済力の強化を急いでいて、今回訪中を決めたのではないか』と指摘しています」

「5月に入ってロシア軍の攻勢はますます強まっていますが、今ロシア国内ではセンサーやレーダーといった軍事転用できる製品の生産は難しく、ここで頼りになるのが中国。廣瀬教授によると、こうした軍事転用品の中国への依存率は既に 90%ほどになっています」

■アメリカと対立…中国側の狙い
日テレNEWS NNN藤井キャスター
「そうなると、ややプーチン大統領は前のめりになるのかなと思います。習主席はどう考えているのでしょうか?」

小栗委員長
「習主席の方が冷めている部分もあるようです。NNN 中国総局の柳沢総局長によると、中国としては国際的な批判にさらされているプーチン大統領と一緒にされたくはない」

「ただ、プーチン大統領が圧倒的な勝利を大統領選で収めて新たな任期が始まった今であれば大歓迎で受け入れてもいいかな、というくらいの心境だといいます」

「さらに中国としては、プーチン大統領との仲の良さをアメリカに見せつけてけん制したい思いもあったようです。バイデン大統領は電気自動車など中国からの輸入品がアメリカの市場を脅かしているとして、関税を4倍に引き上げるなどの決定をしました」

「中国としては、ただでさえ国内経済が低迷する中、大ダメージです。そういうことをするなら本当にロシアと仲良くしますよ、それでいいんですか? と、アメリカを揺さぶっているという形です」(後略)【日テレNEWS】
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中国・習近平主席としては、ロシアが負けてアメリカが再び勢いづくような事態は困りますので、ロシア勝利に向けた支援はやぶさかではないでしょう。ただし、ロシア・プーチン大統領と一体視されて国際批判の矢面に立つのは得策ではありません。

****プーチン氏、中露共闘で対ウクライナ「戦勝」狙う 中国は「戦後」の影響力確保か****
(中略)一方、ロシアの軍事産業を支えていると欧米に批判される中国は米国への対抗上、ロシアと対立するフランスなど欧州主要国との関係強化も重視するため、ウクライナ侵略に一定の距離を演出。習氏は5月上旬の欧州歴訪で「中国は危機を作り出した者ではなく、当事者でも参加者でもない」と強調した。

ただ、実際には米国と対立する中で、ロシアとの共闘は不可欠。北京の外交筋は「ウクライナでロシアが負け、プーチン政権が崩壊することは中国にとって絶対に避けたい事態。そのためにも密接な経済・貿易関係を続けてロシアを支えてきた」と指摘する。

中国側は、露軍が有利な状況でウクライナ戦争が終わる可能性を計算に入れているとみられる。その際、米欧・ウクライナとロシアとの間の橋渡し役として影響力を高めることを狙っているとの見方もある。【5月16日 産経】
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【軍事利用できる物資・機器をロシアに輸出する中国 しかし、“高値”で利益確保】
中立を装う中国はさすがにロシアへの兵器供与は行っていませんが、アメリカは中国がドローンなど軍事用にも使える機器をロシアに輸出していると指摘し、侵攻を続けるロシアを結果的に支援していると批判しています。

****「中国がドローン輸出などでウクライナ侵攻を支援」批判に中国反論****
中国がロシアに軍事転用可能な物資を輸出しているとアメリカなどが批判していることについて、中国政府は「輸出は厳格に管理している」と改めて反論しました。

北京で16日に行われた中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領の会談では、ウクライナ侵攻をめぐって「政治的解決が正しい方向」との考えで一致。一方、アメリカなどは中国がロシアに対してドローンなど軍事用にも使える機器を輸出していると指摘し、侵攻を続けるロシアを結果的に支援していると批判しています。

これについて、中国外務省の報道官は。

中国外務省 汪文斌報道官  「中国は軍用品の輸出において常に慎重かつ責任のある態度を持ち、民間用ドローンを含む軍民両用品の輸出を厳格に管理している」

首脳会談が行われた当日の会見で改めて反論し、「アメリカがウクライナに前例のない規模で軍事支援を行いながら、中国とロシアの正常な貿易を根拠なく非難したことは無責任だ」と強く批判しました。【5月16日 TBS NEWS DIG】
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「厳格に管理している」と言われても・・・・あまり反証にもなっていないような。
ウクライナに大規模軍事支援しているアメリカにとやかく言われる筋合いはないというのは、中立スタンスの中国からすれば、もっともな言い分でしょう。

実際のところは、軍事目的に使う物資を中国がロシアに大量輸出している現実があります。

****中国からロシアへの「ニトロセルロース」輸出 ウクライナ侵攻以降急増****
弾薬の材料としても使われる物質「ニトロセルロース」について、ロシアによるウクライナ侵攻以降、中国からロシアへの輸出が急増していることが分かりました。

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、西側諸国は中国からロシアへの軍事転用可能な物資の輸出に警戒を強めていて、その1つとして「ニトロセルロース」が指摘されています。

「ニトロセルロース」は塗料などに使われる一方、着火すると激しく燃焼するため、弾薬の材料としても使われます。

中国の税関当局が公表しているデータによりますと、「ニトロセルロース」のロシアへの輸出は、2021年までほとんどありませんでした。

しかし、ロシアがウクライナ侵攻を開始したおととしになって、年間700トンあまりに増加、去年はその2倍近い年間1300トン余りに急増しています。

「ニトロセルロース」をめぐっては、アメリカのブリンケン国務長官が先月、中国を訪れた際、中国側に懸念を示しています。

これについて、中国外務省の汪文斌報道官は16日の記者会見で「輸出を厳格に管理している。中国とロシアの正常な貿易を根拠なく非難するのは無責任だ」と反論しています。【5月17日 TBS NEWS DIG】
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興味深いのは、その価格です。 友好国への支援ということであれば、無償とか格安が想像されますが、実際は他国への輸出より高値でロシアに輸出しているということで、ロシアの“足元を見る”形でしっかり利益を確保しています。

****中国 ウクライナ侵攻後 ロシアへ軍事転用可能物資の輸出急増****
(中略)
今回のNHKの分析では、中国が欧米向けにニトロセルロースを輸出する際、1キロ当たりの価格がおおむね2ドル台から3ドル台であるのに対し、ロシア向けへの輸出では4ドル台と、高くなっていることも分かりました。

これについて、山本氏は「欧米から厳しい経済制裁を受けているロシアに言い値で売って、利益を取っている。これは、単純な軍事支援ではない。ロシアの弱い部分につけ込んでいる。これからは中国が主で、ロシアが従だという中国の立場をロシアに知らしめようとしているともみることができる」と述べました。

さらに、中国が欧米にもニトロセルロースを輸出していることについて「中国からアメリカやヨーロッパに対する輸出が制限されることになれば、欧米の弾薬の製造に影響が及ぶかもしれない。そうなれば、今ですら欧米からウクライナへの弾薬支援が限定的である中、より一層制約されるのではという危惧を持ってしかるべきだ」と述べ、中国側の対応によっては、欧米のウクライナ支援に影響を与える可能性もあるという認識を示しました。【5月16日 NHK】
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【ロシアが求める天然ガスパイプライン建設 弱い立場のロシアを買いたたくために交渉を先延ばしする中国】
中国のしたたかさは、天然ガスでも。
ロシアが中国に求めているのは戦争のための軍事利用出来る物資の他に、西側の制裁を受けるロシア経済を長期にわたり安定させるロシアから中国への天然ガス輸出(パイプライン建設)です。

しかし買い急ぐ必要はない中国は、欧州への販路を失い弱い立場のロシアから徹底した値下げを勝ち取る戦術です。

****中国優位か ロシアは「依存」に弱み 新ガスパイプライン交渉難航****
ロシアと中国を結ぶ新たな天然ガスパイプライン「シベリアの力2」の建設を巡り、交渉が難航している。

今月下旬にウクライナ侵攻開始から2年を迎えるのを前に、ロシアは欧州へのガス輸出市場を失いつつある。ロシアは代わりの輸出先として中国への輸出を増強したい意向だが、中国はロシアの足元をみて、好条件での契約を求めているとみられる。

建設が検討されてきた「シベリアの力2」
「シベリアの力2」はロシア北部ヤマル半島のガス田で生産した天然ガスを、モンゴル経由で中国に輸送する全長約3550キロのパイプライン計画。建設費は10兆円規模に達し、年間約500億立方メートルの輸送力が見込まれている。建設の議論は2014年以降に始まった。

ロシアのノバク副首相は1月25日発行の政府系エネルギー専門誌で「パイプラインの建設時期や技術、予算面は、中国側との契約締結後に決まる」と述べ、建設計画の詳細が未定であることを認めた。

また「シベリアの力2」が経由する予定のモンゴルのオユーンエルデネ首相も1月28日の英紙フィナンシャル・タイムズで、「(両国は)経済効果の調査に、さらに時間を要するだろう」と発言。交渉が難航している状況を示唆した。

欧州連合(EU)によると、ロシアはウクライナ侵攻前、年間1550億立方メートルの天然ガスを主にパイプラインで欧州に供給し、欧州全般で輸入される天然ガスの約4割を占めていた。

だが侵攻後、EUはロシアへの依存を低減させるため、天然ガスの輸入元の多角化を進めた。ノルウェー産のパイプラインによる輸入拡大や、米国産の液化天然ガス(LNG)の輸入増などに伴い、ロシア産の輸入は現在、年間約400億~450億立方メートルに減少している。

侵攻後の輸出減少、補いきれず
これに対し、ロシアも輸出先の多角化を試みるが、欧州への供給減を補えていないのが現状だ。中国との間では19年、「シベリアの力」(輸送容量年間380億立方メートル)を稼働させており、「シベリアの力2」を新たに加えることで、輸出量の挽回を図る。

中国によるロシア産天然ガスの輸入は、「シベリアの力」と北極圏からのLNG輸入などで、30年には輸入量全体の2割に達する見通し。「シベリアの力2」の供給が加わると、天然ガス輸入量の約4割をロシア産が占めることになる。

中露間では別のパイプライン建設が既に始まっている。中露両首脳は23年2月、ロシア国内の既存のパイプラインを利用した「極東線」ルートも建設することで合意。26年から年間最大100億立方メートル分のガス供給を開始する予定で、国営新華社通信によると、24年1月に中国国内の建設が始まった。

過度のロシアへの傾斜を警戒か
ただ、中国の習近平指導部は、エネルギー分野でも安全保障を強化する方針を示しており、ロシアに過度に依存することへの警戒感もあるとみられる。極東線とは対照的に「シベリアの力2」の交渉に関する報道はほとんどない。

習近平国家主席とプーチン露大統領は23年に互いに相手国を訪れて会談を重ねたが、これまで「シベリアの力2」の建設を巡り、目立った進展は見られていない。

「シベリアの力」を巡っても、中露のガス価格交渉は07年以降、難航した前例がある。ようやく建設合意に達したのは14年5月。ロシアがウクライナ南部クリミアの強制併合で欧米諸国から制裁を科せられた直後だ。ロシアは孤立を深めたことから、値下げに応じたとみられる。

現在、中国は国内生産と既存のロシアとの輸入契約、米国産LNGの輸入などで、30年までに必要とされる天然ガス供給量の大半を確保できる見通しだ。そのため専門家の間では、中国側が、「シベリアの力2」でも優位に交渉を進めるとの見方が強い。

ロシアとアジアの貿易に詳しい英国の政治危機コンサルティング会社「エンメテナ・アドバイザリー」の設立者、マクシミリアン・ヘス氏は「中国は天然ガスの輸入元の多様化を進めており、現状ではロシアの交渉力は弱い。ロシアはどこかの時点で妥協を迫られることになり、中国はそのタイミングを待っている」と分析する。【2月7日 毎日】
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今回のプーチン・習近平会談でも中国からの色よい返事はなかったようです。

*****ロシア 中国とのガスパイプライン建設計画で合意得られず****
ロシア産の天然ガスを中国側に送る新たな天然ガスパイプライン「シベリアの力2」の建設計画は中国の同意を得られず、延期されたままとなっています。

プーチン大統領は習近平国家主席に対して去年から「シベリアの力2」の建設計画への同意を求めています。

ロシアメディアによりますと、今回のプーチン大統領の訪中で公表された協定文書の中に「シベリアの力2」の建設に関する内容はありませんでした。

「シベリアの力2」の事業主体となるロシアの国営天然ガス企業「ガスプロム」のトップ、ミレル氏はプーチン氏に同行しなかったということです。

関係者によりますと、プーチン大統領は去年から首脳会談のたびに習近平国家主席に対して建設計画への同意を求めていますが、中国側の対応が厳しく、交渉は難航しています。

ウクライナ侵攻によってヨーロッパとの取引が激減したガスプロムは2023年12月期決算で24年ぶりの赤字に転落し、中国との新たな契約は必須だと指摘されています。

年末にはウクライナを通過するヨーロッパ向けのパイプラインの契約も満期を迎えます。

ウクライナのエネルギー省は「契約は更新しない」との立場を表明していて、ガスプロムの経営は厳しい状況に追い込まれています。【5月17日 テレ朝news】
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ロシアとしては中国に頼らざるを得ないものの、足元を見る中国からしたたかに買いたたかれる・・・・こうした力関係の変化の一点をみるだけでも、プーチン大統領のウクライナ侵攻はその勝敗にかかわらず「失敗」だったと言えます。
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インド洋・南太平洋島しょ国で地政学的に注目される総選挙がふたつ モルディブとソロモン諸島

2024-04-24 23:37:50 | 国際情勢

(ソロモン諸島の遠隔地に投票箱を運ぶ支援をするニュージーランド軍の部隊【4月19日 ロイター】)

【インド洋のモルディブ 親中国の与党が圧勝】
世界各地で“勢力圏”維持・拡大を目指す大国間の綱引きが日々行われていますが、先週・今週はインド洋のモルディブ、南太平洋のソロモン諸島という島しょ国で注目される選挙が行われました。

いずれも小さな島国ではありますが、地政学的な重要性から、選挙結果が国際的に注目されています。

先ず、インド洋の島国、モルディブは伝統的に影響力を行使してきたインドと、近年進出が著し中国の争い。
選挙前の時点では、昨年末に就任した親中国派の大統領が駐留インド軍の撤退を求める一方で、議会は親インド派の野党が最大勢力でした。

****中国接近強める大統領就任後初の総選挙、モルディブ親中与党の過半数獲得が焦点…駐留インド軍は撤退始める****
インド洋の島嶼(とうしょ)国モルディブで21日、総選挙(一院制、定数93)の投票が行われた。中国への接近を強めるモハメド・ムイズ大統領が昨年11月に就任してから初の総選挙となる。少数与党だったムイズ氏率いる人民国民会議(PNC)が過半数を取れるかどうかが焦点だ。
 
モルディブはインド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝で隣国インドや中国が選挙結果を注視している。
ムイズ氏は昨年秋の大統領選で「駐留する印軍の撤退」を掲げ、野党モルディブ民主党(MDP)を率いる親インドの現職を破って大統領に就任した。

1月には歴代大統領の慣例を破ってムイズ氏がインドより先に中国を訪れ、習近平シージンピン国家主席と経済面などでの連携強化を確認した。3月には、中国が無償でモルディブに軍事援助する内容の協定に両国が調印した。海洋監視などを担っていた印軍は3月に撤退を始めた。
 
改選前の最大勢力は42議席を持つMDPで、与党のPNCは16議席にとどまっていた。ムイズ氏の大統領就任後は、閣僚任命などを巡って国会が空転した。
 
モルディブでは中国の融資によるインフラ(社会基盤)整備が進む。PNCは単独過半数を獲得し、事業を加速させたい考えだ。ただ、ムイズ氏を支持してきた大統領経験者が昨年11月に新党を設立したため、PNCの思惑通りにならないとの見方がある。【4月22日 読売】
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結果は・・・親中国派の与党が3分の2超の議席を獲得する圧勝でした。
中国支援によるインフラ開発の利益に対する国民期待が大きかったと指摘されています。

****モルディブ総選挙、親中大統領率いる与党が大勝…インフラ整備で対中債務が膨張する懸念も****
インド洋の島国モルディブで21日に投開票された総選挙(一院制、定数93)で、親中国のモハメド・ムイズ大統領が率いる与党・人民国民会議(PNC)が単独で3分の2超の議席を獲得し、大勝した。複数の地元メディアが22日報じた。対中接近がさらに進みそうだ。
 
地元メディアは、少数与党だったPNCが改選前の4倍超の65議席以上を獲得すると報じた。一方、親インドの野党モルディブ民主党は11〜13議席にとどまり、改選前の3分の1を割り込む見通しだ。
 
ムイズ氏は、中国に接近した2013〜18年のアブドラ・ヤミーン政権でインフラ(社会資本)整備の担当閣僚を務め、中国の融資を受けて首都マレと空港島を結ぶ橋や、首都周辺の高層住宅の建設を主導した。今回の選挙戦でもPNCはインフラ整備推進を掲げており、外交筋は「政権が約束する開発の利益実現を国民が期待したのではないか」と分析する。
 
ただし、中国の融資でインフラ整備がさらに加速した場合、債務の膨張が懸念される。モルディブは今年2月、国際通貨基金(IMF)に「大幅な政策変更がなければ、対外債務に窮するリスクを今後も抱えるだろう」と警告を受けた。
 
インドの影響力はさらに低下しそうだ。昨年の大統領選でムイズ氏が掲げた公約に従い、海洋監視などのためにモルディブに駐留していたインド軍の撤退が進んでいる。インド洋の安全保障の観点からインドはモルディブを重視しており、主要紙タイムズ・オブ・インディアは「モルディブがさらにインドから離れる」と危機感を示した。
 
一方、中国外務省報道官は22日の記者会見で「モルディブの人々の選択を尊重し、各領域における交流や協力を拡大させる努力をする」と述べ、ムイズ政権との関係強化の方針を示した。【4月22日 読売】
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【南太平洋のソロモン諸島 与野党ともに過半数獲得できず連立協議が焦点に】
南太平洋のソロモン諸島は旧日本軍が攻防戦を戦ったガダルカナル島を中心とした島しょ国ですが、近年は台湾と断交した親中国派の首相のもとで中国と安全保障協定を結び、中国の南太平洋島しょ国への進出のモデル事例・橋頭保ともなっています。

一方、中国に対抗してこの地域での影響力維持拡大を目指すアメリカ・オーストラリアは、ソロモン諸島が中国の軍事拠点となるのではないかと警戒を強めています。

****ソロモン諸島で総選挙の投票始まる 台湾と断交し中国と関係深める“現政権継続か”が最大の焦点に****
南太平洋の島国、ソロモン諸島で17日、総選挙の投票が始まりました。台湾と断交して中国との関係を深める現政権が継続するかが最大の焦点です。

オーストラリアの北東、およそ1600キロに位置する人口70万人あまりのソロモン諸島で現地時間の朝7時、総選挙の投票が始まりました。

前回、2019年の総選挙で、4度目の首相に就任したソガバレ氏はその年に、台湾と断交して中国との国交を樹立。中国資本による開発を急ピッチで進めるなど、経済的な結びつきを強めています。

また、2022年には中国と安全保障協定を締結し、安全保障の分野でも関係を強化していて、ソロモン諸島に近いオーストラリアなど西側諸国は、中国の軍事拠点ができるのではと警戒しています。

ロイター通信によりますと、ソガバレ氏はソロモン諸島では前例のない2期連続での政権運営を目指し、親中路線を継続する姿勢を鮮明にしています。

一方の主要野党は、ソガバレ政権が過度に中国に依存していると批判し、中国との安全保障協定の破棄など関係見直しを訴えています。

南太平洋の島国では今年、ナウルが台湾と断交して中国と国交を樹立するなど、中国の影響力が強まっています。オーストラリアメディアは、今回のソロモン総選挙は「南太平洋地域の将来を左右する可能性がある」とも指摘しています。

総選挙の結果が判明するのには1週間程度かかるとみられ、新政権の発足は、来月初旬ごろになる見通しです。【4月17日 日テレNEWS】
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こちらの結果は、親中国路線の与党は過半数を失いましたが、野党も単独過半数には至らず、連立協議が注目されています。親中派のソガバレ首相は議席を維持しています。

****ソロモン 親中ソガバレ大統領派は過半数確保できず 議会選結果確定 連立協議へ****
南太平洋のソロモン諸島で24日、議会(定数50)選挙の結果が確定した。親中派のソガバレ首相が率いる与党OUR党の獲得議席は15にとどまった。単独で過半数の議席を確保した政党はなく、与野党の連立協議が始まった。

急速な中国接近を進めるソガバレ氏が続投するかが焦点で、米国や中国、オーストラリアが協議の行方を注視している。

選挙は17日に行われた。地元メディアによると、野党連合が13議席、別の野党の統一党が7議席を獲得した。このほか、少数政党や無所属候補が15人当選しており、各党が取り込みを進めている。

選挙戦でソガバレ氏は中国支援によるインフラ整備を政権の実績としてアピールしたが、中国接近に反発する一部有権者が野党支持に回ったようだ。議会選と同時に行われた地方議会選挙では親中派として知られた東部マライタ州首相、フィニ氏が落選した。

ソガバレ氏は2019年の前回選挙で4度目の首相に就任。同年、台湾と断交し中国と国交を樹立した。22年には中国軍の寄港を可能とする安全保障協定を結ぶなど、急速に中国との関係を深めた。

連立協議について米ブルームバーグ通信は「ソガバレ氏が敗れれば、中国の太平洋における戦略的野心を後退させるだろう」と指摘した。【4月24日 産経】
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【激化する南太平洋島しょ国をめぐる米豪・中国のせめぎ合い】
こうした状況を睨みつつ、南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではないとも発言しています。

****南太平洋地域、大国間の対立の場となるべきではない=中国外相****
南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は20日、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではなく、域内の国々への支援に政治的条件はないと述べた。

パプア外相との共同記者会見で「中国の南太平洋島しょ国への関与と協力は地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」と語った。

その上で、中国はパプアとハイレベルの交流を維持し、自由貿易協定の交渉をできるだけ早く開始する用意があるとした。

また、中国国営の新華社通信によると、王氏は全ての当事者が太平洋島しょ国ソロモン諸島の人々の選択を尊重し、内政干渉を控えるべきだと述べた。(後略)【4月22日 ロイター】
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もちろん外交的建前であり、米豪からすれば「対立を持ち込んでいるのは中国だ」という話にもなります。

****中国は「要衝」島嶼国の取り込み注力 米国とのせめぎ合い激化****
中国の習近平政権は太平洋島嶼(とうしょ)国の取り込みに力を入れている。経済力を背景に台湾と外交関係を持つ国の切り崩しを進めているほか、治安維持部門の協力をテコに影響力拡大を図っている。

南太平洋は海上交通路(シーレーン)の要衝であり、米国とのせめぎ合いも激しくなっている。

1月、ナウルが台湾との外交関係を解消して中国と国交を樹立した。同月の台湾の総統選では、中国が「台湾独立派」と敵視する民主進歩党の頼清徳副総統が当選しており、民進党政権への圧力の一環とみられる。

1月にはツバルの総選挙でナタノ首相が落選した。在任中は台湾との外交関係を続ける姿勢を堅持しており、ツバルの新政権の動向に注目が集まる。19年にはソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾と断交し、中国と国交を結んでいる。

中国は昨年2月、太平洋島嶼国担当の特使を新設し、18年から駐フィジー大使を務めた銭波氏を任命した。太平洋地域での経済、軍事的な影響力を拡大させることにつなげる狙いがある。

今年1月にはパプアニューギニアが中国と警察協力について交渉中であることが明らかになった。ソロモンは22年に中国軍駐留を可能とする安全保障協定を締結しており、中国は他の島嶼国にも同様の協定を結ぶよう打診している。

中国にとって同地域は戦略的に重要な意味を持つ。台湾有事の際に米海軍の接近を阻止する防衛ライン「第2列島線」上に位置するためだ。ハワイやグアムの米軍基地をにらんだ戦略的拠点を確保する狙いもある。

米国にとっても戦略上の要衝であり、中国の影響拡大を阻止するための対応を進めている。米国は22年に島嶼国との第1回首脳会議を開き、安全保障面などで連携を強化する「太平洋パートナーシップ戦略」を発表。23年にソロモンとトンガに大使館を開設するなど関与を強化してきた。【2月8日 産経】
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パプアニューギニアのトカチェンコ外相は2月7日、「われわれが中国と安全保障協定を結ぶ手続きを前に進めることは絶対にない」と述べています。トカチェンコ氏は1月末、中国から安保協力の提案があったことを認めていましたが、協定締結を明確に否定した形となっています。【2月7日 時事より】

前出の王毅外相のパプアニューギニア訪問は、こうした動きを踏まえたものでもあります。

【中国が進める警察協力】
経済支援と並行して中国が進めるのが警察協力。

ソロモン諸島は22年に中国と安全保障協定、23年に警察協力協定を締結し、中国から財政支援を受けています。
バヌアツにも23年に中国が警察の専門家グループを派遣。警察物資を提供し、警察の能力向上やインフラ整備について協議しています。

****キリバスで中国警察が活動、米国務省が懸念表明****
米国務省報道官は26日、太平洋島しょ国が中国の警察から支援を受けることに懸念を示した。

ロイターは先週、太平洋島しょ国のキリバスで中国の警察官が現地の警察とともに活動していると報道。中国の警察官が地域の警備や犯罪データベースプログラムに関与している。

同報道官はこの報道について「中華人民共和国から警察隊を受け入れることが太平洋島しょ国の助けになるとは思えない。むしろ、地域の緊張や国際的な緊張をあおるリスクがある」と発言。

世界各地への警察署の開設など、中国の「国境を越えた弾圧の取り組み」を容認しないとし「中華人民共和国との安全保障協定や安保関連のサイバー協力が、太平洋島しょ国の自治に及ぼす潜在的な影響を懸念している」と述べた。

キリバスはハワイに比較的近く、太平洋で350万平方キロメートル以上の排他的経済水域(EEZ)を有するため戦略的に重要な国家と見なされており、日本の衛星追尾用のレーダーステーションもある。【2月27日 ロイター】
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****中国、トンガにサミット警備支援申し出 「勢力圏拡大には関心なし」****
中国は12日、南太平洋の島国トンガに対し、同国で8月26日に開催される太平洋諸島フォーラム首脳会議(サミット)の警備支援を申し出たと明らかにする一方、南太平洋での中国の影響力をめぐる西側諸国からの懸念を一蹴し、「勢力圏拡大に関心はない」と主張した。

人口11万人に満たないトンガは、サミット開催には支援が必要だと訴えている。だが、西側諸国は、特に安全保障を中心に南太平洋での中国の影響力拡大を懸念している。

在トンガ中国大使館はAFPの取材に対し、トンガ警察がサミットに対応できるよう、バイク20台と「車列警護訓練」の提供を申し出たと述べた。

さらに、「中国は地政学的競争や、いわゆる『勢力圏拡大』には関心がない」とし、中国はトンガの主権と独立を「全面的に尊重」していると説明。支援を希望する他の国々とも喜んで協力すると補足した。 【4月13日 AFP】
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一方フィジーでは、軍事クーデターで実権を掌握した前政権とオーストラリアやニュージーランドとの関係が悪化し、前政権は中国と接近、2011年には中国と警察協力協定を結び、中国の警官派遣を受け入れ、フィジーの警官を中国で訓練させるなどしてきました。

しかし、2022年12月の総選挙結果を受けて首相に就任したランブカ首相は中国との関係の見直しを進め、今年3月末、自国に駐在する中国人警察官を中国に送還したことを明らかにしています。

中国・王毅外相の「地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」という建前と裏腹に、米豪との勢力争い、台湾排除をめぐって熾烈な争いが続いています。

米豪・中国といった「大国」にすれば、島しょ国のような経済的に困難な「小国」はオセロの石のようにひっくり返しやすいという話もあるのでしょう。

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