写真は南アフリカ、ヨハネスブルグの貧困黒人居住区ソウェトの少女
(“flickr”より By Chico Almendra)
2010年のワールドカップは南アフリカで開催されることになっていますが、スタジアム建設など準備の遅れがしばしば伝えられており、万一南アで開催できないときの代替候補地のひとつとして日本の名前が大会関係者の口に出たりすることもありました。
この南アフリカの準備遅延の背景には、アパルトヘイト撤廃後の社会の混乱・人材不足があげられています。
アパルトヘイト時代には国民の8割を占める黒人は高等教育を受けておらず、94年の民主化後大量の白人が国外に流出したことで、技術者・管理職等の人材が決定的に不足しているとのことです。
更に、治安の悪化、公共交通機関システムの崩壊も重大な問題となっています。
アパルトヘイト廃止によって、都心部へ大量の黒人が流入しましたが、教育を受けておらず、読み書き計算も不十分な彼等に職はなく、必然的に犯罪に手を染めることも多くなったようです。
国民の11%が感染しているというエイズの影響も深刻です。自暴自棄になる者が多くいても不思議ではありません。
(このエイズ問題だけでも国家崩壊の危険がありそうな大問題ですが・・・)
ヨハネスブルグは「都市中心部では白昼から強盗が多発。特に白人やアジア人は格好の標的だ。治安は世界最悪の状況にあり、殺人発生率は日本の35倍、米国の7倍」(毎日新聞 2007年6月28日)という状態です。
また「観光客が空港に降り立っても出迎えの車を手配しておかなければ、どこへも行けない。空港と市街地を結ぶ電車、バスはない」(同上)ということで、2010年に大量の応援観客が押し寄せたらどうなるのでしょうか?
この“民主化で差別は撤廃されたが、治安は崩壊した”という現状を物語るエピソードをフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』で見ました。
「交差点の赤信号で自動車を停車した日本人ドライバーが武装ギャングに襲撃され殺された」事件に対する地元警察のコメント・・・「たとえ赤信号であっても事故の恐れが無ければ乗用車でも『停止しない』のが常識である」
「乗用車の故障のため高速道路の脇に車を停め、車外に出てボンネットを開けていた白人ドライバーがギャングに殺された」事件に対する地元警察のコメント・・・「如何なる理由があろうとも、車外に出るとは非常識で、携帯電話で警察の救援を求めるべきだった」
殆どお笑いネタみたいな話です。
まあ、この手の話は針小棒大に語られるのが常であり、ヨハネスブルグ全体がこういった状態という訳でもないでしょう。
実際に南アで生活している日本人もいますし、観光で訪れる日本人もいますので。
ただ、やはり世界一治安の悪い都市という評価は揺るがないようです。
もちろん民主化、アパルトヘイト撤廃自体をどうこう言うつもりはないですが、一般的にひとつの達成は新たな困難との闘いのスタートであり、南アでも然りということです。
民主化は社会の安定とトレードオフの関係にあるように思えることもしばしば見られるところです。
不平等、不条理な格差は単なる貧しさよりも人の心を蝕みます。
白人が特権を手放したとはいってもそれまでの蓄積によって厳然と存在する圧倒的な貧富の差、教育水準にみられる黒人側の負の蓄積、蔓延するエイズ・・・。
事態の解決には、時間はかかってもとにかく教育水準の引き上げが不可欠です。
「教育を受ける世代が一巡したことで、白人・黒人間の失業率格差は縮小しつつある。また政府は、単純労働者からIT技術者の育成など技術労働者へ教育プログラムなどを用意し、国民のスキルアップに努めている。今後、失業率の問題は、人種間失業率格差から、数十あると言われる各部族間格差を縮小させるような政策が期待されている。」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)というような記述もあるようですので、少しずつ前進しているのでしょう。