孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン内戦  戦闘・飢餓で崩壊状態の医療 戦闘、国軍有利の報道も・・・露、それを見込んだ動き

2024-12-19 23:07:28 | スーダン


(準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の攻撃で破壊された車両。スーダンのオムドゥルマンで10月撮影【12月11日 ロイター】)

【「戦争の両当事者による犯罪は、国際社会が完全に沈黙する中で続いている」】
****スーダンで続く「忘れられた紛争」****
2023年4月15日に始まったスーダンでの紛争・・・国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生・・・は、パレスチナやウクライナでの戦争とは違って、それらの戦争に匹敵する犠牲者を出しながらもあまりメディアに取り上げられることなく続く「忘れられた紛争」となっています。

「忘れられた」かどうかに関係なく、紛争の戦火から逃げまどい、飢えや医療崩壊に苦しむ住民にとっては等しく悲劇・地獄であり、「忘れられた紛争」の場合は人道支援も行き届かないというということでより悲惨な状況にもなります。

死者は推計で1万5千人にのぼるとされていますが、実際にはその10~15倍に上る可能性があるとの見方(バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏)もあります。【8月1日ブログ“スーダンの「忘れられた紛争」 国内外への避難民は人口の20%、1000万人超”より再録】
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戦闘は未だ激しく、12月9-10日の二日間だけで、交戦中の双方による爆弾や砲撃で民間人を中心に少なくとも127人が死亡したとのことです。

****内戦下スーダン、2日間で100人超が死亡 国軍とRSF双方が攻撃****
内戦下のアフリカ北東部スーダンで9─10日、交戦中の双方による爆弾や砲撃で民間人を中心に少なくとも127人が死亡した。

国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」は昨年4月以降戦闘を続けており、停戦交渉は停滞している。

国軍とRSFは人口密集地域を中心に攻撃を続けている。北ダルフール州では9日、市場に8発以上の樽爆弾が投下され、人権団体によると100人以上が死亡し、多数の負傷者が出た。

国軍は北ダルフール州周辺の最後の拠点となる州都アル・ファシールを巡りRSFと激しい戦闘を続けている。

一方、10日にはRSFがハルツーム州の国軍支配地域に砲撃を行い、少なくとも20人が死亡した。

国連の推計によると、内戦で約1200万人が家を追われ、3000万人以上が援助を必要としている。【12月11日 ロイター】
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9日、北ダルフール州の市場への国軍の空爆による被害者は多くが市場の商人や買い物客だったとみられ、地元の弁護士団体は声明で「戦争の両当事者による犯罪は、国際社会が完全に沈黙する中で続いている」と訴えています。

空爆による犠牲者は連日で、昨年4月に戦闘が始まって以降、国軍の空爆による犠牲者は数千人にのぼるとみられるとも報じられています。

10日のRSFによるハルツーム州国軍支配地域への砲撃では、市場や医療施設が標的になっており、走行中のミニバスが被弾し乗客全員が死亡したもようです。

“紛争地域のデータを収集する米NPO「ACLED」によると、スーダンでは昨年4月以降、少なくとも1万8千人が戦闘で死亡した。”【12月11日 共同】

【戦争による死傷者、大量飢餓の脅威、医療施設への攻撃・・・ほとんど崩壊している医療】
こうした状況ですので、もともと極めて不十分だった医療は「崩壊状態」です。

****スーダンの医師たち、医療崩壊と戦争の矢面に立たされる****
スーダンの医師モハメド・ムーサ氏は、自分の病院の近くで絶え間なく聞こえる銃声や砲撃音に慣れてしまい、もはや驚かなくなった。それどころか、彼はただ患者に接し続けている。

「爆弾には麻痺してしまった」30歳の開業医は、アル・ナオ病院からAFPの電話インタビューに答えた。

遠くで銃声が鳴り響き、頭上で戦闘機が唸り、近くの砲撃が地面を震わせる。苦境に立たされた保健ワーカーたちは「続けるしかない」とムーサ医師は言う。

2023年4月以来、スーダンはアブドゥルファッターハ・アル・ブルハン陸軍大将と、即応支援部隊(RSF)のリーダーであるモハメド・ハムダン・ダグロ元副将との戦争によって引き裂かれている。

この戦争は数万人を殺し、1200万人を根こそぎにし、国際救済委員会の援助団体が「過去最大の人道危機」と呼ぶ事態を引き起こしている。

アル・ナオの圧迫された病棟の中では、紛争の犠牲者は驚異的である。頭、胸、腹部への銃創、重度の火傷、粉砕された骨、切断–わずか4ヶ月の子供でさえ–などである。

病院自体も被害を受けている。アル・ナオ病院を支援している国境なき医師団(MSF)によれば、致命的な砲撃が何度も病院の敷地を直撃しているという。

他の地域でも悲惨な状況が続いている。北ダルフールでは、最近ドローンによる攻撃で州都の主要病院で9人が死亡し、MSFは飢饉に見舞われた難民キャンプにある野戦病院からの避難を余儀なくされた。

スーダンの医療制度は、戦争前からすでに苦境に立たされていたが、今やほとんど崩壊している。
エール大学の人道研究ラボとスーダン米国医師会が提供し分析した衛星画像によると、ハルツーム州の87の病院のうち、半数近くが戦争開始から今年8月26日までの間に目に見える被害を受けた。

10月の時点で、世界保健機関(WHO)はスーダン全土で119件の医療施設に対する攻撃を確認したことを記録している。

MSFの人道問題アドバイザーであるカイル・マクナリー氏は、「民間人の保護は完全に無視されている」と述べた。
彼はAFPに対し、現在進行中の「医療に対する広範な攻撃」には、「広範な物理的破壊が含まれ、その結果、文字通り、そして比喩的に、医療サービスが低下している」と述べた。

スーダンの医師組合は、スーダン全土の紛争地帯で、医療施設の90%が閉鎖され、数百万人が必要な医療を受けられなくなっていると推定している。

紛争の双方が医療施設への攻撃に関与している。
医療組合によると、戦争が始まって以来、78人の医療従事者が職場や自宅での銃撃や砲撃によって死亡している。

組合スポークスマンのサイード・モハメド・アブドゥラー氏はAFPに語った。
「病院や医療関係者を標的にする正当な理由はない。医師は…患者と他の患者を区別しない」

医師組合によると、RSFは負傷者の治療や敵の捜索のために病院を急襲し、軍は国中の医療施設を空爆している。

11月11日、MSFは、南ハルツームで機能している数少ない病院のひとつであるバシャール病院を戦闘員が襲撃し、そこで治療を受けていた別の戦闘員を射殺したため、ほとんどの活動を停止した。MSF職員は、戦闘員はRSFの戦闘員だと考えているという。

戦争による死傷者が後を絶たないことに加え、スーダンの医師たちは、大量飢餓という別の脅威にも対応しようと奔走している。

ハルツームからナイル川を隔てた対岸のオムドゥルマンの小児科病院には、栄養失調の子どもたちが大挙してやってくる。

ある医師によれば、8月中旬から10月下旬にかけて、この小さな病院には1日に40人もの子どもたちが収容され、その多くが重体だったという。

「毎日、3、4人の子どもたちが亡くなっていました。その理由は、病気が非常に末期で複雑であったため、あるいは必要な医薬品が不足していたためです」と、その医師は安全を考慮して匿名を要求した。

国連によると、スーダンは数カ月にわたって飢饉の淵に立たされており、人口の半分以上にあたる2600万人近くが深刻な飢餓に直面している。

赤十字国際委員会のスポークスマンであるアドナン・ヘザム氏は、「医療施設に対する物資と人的資源の面で早急な支援が必要だ」と述べた。「それがなければ、すでに限られているサービスが急速に悪化する恐れがある」と彼はAFPに語った。

医師のムーサ氏にとって、「耐え難い」と感じる日もある。「しかし、やめるわけにはいかない」【12月18日 ARAB NEWS】
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戦場と化した国土はどこも「地獄」ですが、スーダンの場合もパレスチナ・ガザ地区に匹敵するような悲惨な状況です。しかし、それにしてはニュースなどで取り上げられることがあまりにも少ない。

【セルビア、ロシアや中国など6カ国から武器供給】
こうした国軍とRSFの戦闘がいつまでも続くのは、武器・弾薬を支援する形で“火を絶やさない”外国の存在があります。

****スーダン内戦、国外からの武器流入で世界最悪の人道危機に拍車 ****
深刻な人道危機が起こるスーダン内戦で、セルビア、ロシアや中国など6カ国から武器供給が事態を深刻化させている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが、国連武器禁輸措置を迂回したスーダン西部ダルフール地方への流通ルートを明らかにした。

アムネスティ・インターナショナルが7月に公表した調査で、何千もの武器がスーダンに流入し、一部は2004年以降、国連の武器禁輸措置の対象地域であるダルフール地方にまで拡散していることが判明した。

(中略)国連は紛争の影響で、スーダンの人口の過半数が前代未聞の食糧不安に陥っているとして、両当事者による戦争犯罪を糾弾している。

アムネスティの報告書は、海外から絶え間なく流入する武器が紛争を煽っている」と指摘した。調査は約2000件の出荷記録と数千枚の画像を分析し、内戦当事者の双方が手にする武器を追跡した。

対スーダン武器輸出は国連の禁輸措置に違反
アムネスティ・インターナショナル・スイス支部広報担当者、ナディア・ボーレン氏は、「複数の国が武器貿易条約(ATT)に違反して、スーダンに武器を輸出している」と解説する。

拳銃やライフル銃などの小型武器、また装甲戦闘車両やドローン妨害機器、何百万発もの弾薬、さらには迫撃砲などのより重い武器も輸出されているという。

2014年に発効した武器貿易条約は、武器の使用が人権侵害を引き起こす可能性が高い国への武器輸出を禁じている。一方で、世界の違法な武器移転を追跡する調査団体スモール・アームズ・サーベイ(本部・ジュネーブ)のデータ責任者ニコラ・フロルカン氏はフランス語圏のスイス公共放送(RTS)で、同条約の文書には違反した際に科す制裁は盛り込まれていないと指摘した。

アムネスティは、スーダンへの武器輸出国としてセルビア、ロシア、トルコ、中国、アラブ首長国連邦(UAE)、そしてイエメンの6カ国を名指しした。そのうち、イエメンとロシア以外は、武器貿易条約の締結国だ。

2024年1月には、国連のスーダン専門家グループによる複数の調査が、RSFを支援するUAEからの武器の供与を確認した。その経由地として、RSFの拠点があるダルフール地方に隣接するチャド東部のアムジャラス空港を特定したが、UAEはこの告発を強く否定している。

猟銃を軍事転用
同調査は、武器を紛争に利用するための迂回供給ルートが少なくとも二つ確認した。民間用途(狩猟やスポーツ射撃など)の武器のみならず、軍事転用される可能性のある刃物も輸出されていた。

スモール・アームズ・サーベイによると、軍事転用による武器の迂回供給は増加傾向にあり、欧州内でも確認されている。「警報用の銃の軍事転用は、欧州連合(EU)における違法な武器取引の主要因のひとつとして挙げられている」とフロルカン氏は強調する。

こうした武器の迂回供給への対策として、国連事実調査団、そしてアムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権擁護団体は、武器禁輸をスーダン全域に広げるよう呼びかけている。

アムネスティのボーレン氏は「ダルフール地方に限定された武器禁輸は、民間人への被害を阻止するにはまったく不十分だ。スーダンに武器を輸出すれば、ほぼ確実に人権侵害を犯すために使用される」と主張し、武器貿易条約の締約国または署名国に対し、スーダンへの武器輸出を厳格に規制するよう訴えた。

しかし、こうした呼びかけに対する国際社会の反応は鈍い。国連安全保障理事会は9月、ダルフール地方における武器禁輸措置を1年間延長したが、適用範囲はスーダン全域に広げなかった。

また、8月にスイスのジュネーブ地方で行われたスーダン内戦の停戦協議は、停戦合意に達することなく終了している。【12月7日  swissinfo】
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【国軍が軍事的に優位に・・・政府に接近するロシア、「勝ち」が期待できる戦争の停止を望まず】
関係国の中でも国軍へ接近するロシアは停戦交渉にも消極的ですが、どうやら軍事的に国軍が優勢となっており、このまま戦闘を続ければ「勝てる」と考えているようです。

****スーダン停戦決議にロシアが拒否権****
(11月)18日、国連安全保障理事会で、スーダンの停戦を求める決議がロシアの反対で否決された。決議は英国とシエラレオネが共同提案したもので、14ヵ国が賛成し、反対はロシアだけだった。

英国のラミー外相は、「一ヵ国の反対で理事会の意思が挫かれた。この国は平和の敵だ。ロシアの拒否権は恥ずべき行為だ.ロシアはまた、本当の顔をさらけ出した」と強く非難した。米国のトーマス・グリーンフィールド国連大使も、「ロシアはアフリカと協調するようなことを言っているが、アフリカ諸国が賛成する停戦決議に反対した」と述べた。

一方、ロシアのポリャンスキー国連次席大使は、ロシアは紛争当事者による停戦を支持すると述べて、決議案を「ポストコロニアルの香りがする」と批判した。ロシアの拒否権に対しては、スーダン外相が「スーダン及びその国家機関の独立と統一を支持するものだ」と評価する声明を出している。

スーダン内戦は、国軍指導者ブルハーンと準軍事組織RSFの指導者ヘメティの対立を軸に動いてきたが、ロシアは最近になってブルハーン寄りの姿勢を強めている。スーダンに停戦を呼びかける前回の決議の際、ロシアは棄権している。

ブルハーンと国軍はRSFに軍事力で勝利できると踏んでおり、そのために国際社会による停戦呼びかけに消極的な態度を取るのだと考えられる。

10月に入って、国軍側が優位に立っているとの分析記事が掲載された(10月11日付ルモンド)。ロシアはスーダンに接近したい思惑があり、そうした情勢を理解した上で、国軍側に秋波を送っていると見られる。

18日、米国のスーダン特使Tom Perrielloが18日、ポート・スーダンを訪問してブルハーンと面会した。当然、国連をめぐる状況が議論になったと考えられる。

2023年4月にスーダン内戦が始まってから、既に1年半が経過した。世界で最も深刻な人道危機と言われ、ウクライナやガザを上回る数の死者や避難民が生まれているが、周辺国の介入や当事者の頑なな態度のために停戦が成立せず、人道危機が拡大し続けている。【11月21日 現代アフリカ地域研究センター】
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「勝馬」に乗るためには、民間人犠牲の戦闘継続も厭わない・・・残念ながらこれが現実です。

【多くのスーダン難民を受け入れる南スーダンも医療は逼迫  国民の約半数は人道支援が必要】
なお。今朝のTVニュースでは隣国南スーダンの医療状況を取り上げていました。
南スーダンは2023年には、スーダンの内戦から逃れて来た60万人余りの難民も受け入れていますが、もともと南スーダン自体が国際支援を切実に必要とする国ですから、多くの難民がスーダンから流入するその状況は想像に難くありません。

****南スーダンでの国境なき医師団(MSF)の活動は****
2011年7月に長年の内戦の末、独立を果たした南スーダン。和平合意や統一政府の発足後も多くの地域で不安定な情勢は続き、国内での戦闘や暴力によって大勢の人が命を落とす状況が続いています。

加えて大洪水や食料危機、病気の流行など複数の緊急事態も発生。2023年には、スーダンの内戦から逃れて来た60万人余りの難民も受け入れています。

人道援助を必要とする人は、人口の1240万人のうち590万人に達しました(2023年、国連人道問題調整事務所)。【12月11日 国境なき医師団】
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南スーダンも混乱と貧困のなかで病院職員への長期間賃金支払いが滞っており、医療スタッフのストライキも発生しているとか。

そのニュースの次は北イタリアかどこかの洞窟で女性洞窟研究者が滑落し、救助隊が百数十人駆けつけて奇跡的な救出を実現したという喜ばしいニュースでした。

一方で満足な医療を受けることもできず大勢が命を落とす国があり、いっぽうで、一人の事故救出におびただしい救出チームが派遣される・・・これまた「現実」です。まだ、よくある「木から下りられない猫救出」のニュースでなかっただけ救いか・・・
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スーダン  「忘れられた紛争」の資金源・・・チョコ・ガムに使用されるアラビアガム

2024-05-28 23:09:28 | スーダン

(アラビアガムノキの樹液を収穫する男性(23年、オベイドの東)【5月28日 WSJ】)

【死者は推計されている約1万5000人の10~15倍に上る可能性も 避難民の数はガザの5倍】
世界の各地で紛争は絶えませんが、その中にはウクライナやパレスチナ・ガザのように、国際関係への影響や先進国との関連の強さなどで世界の注目を集める紛争もあれば、ほとんどメディアに取り上げられることなく続く「忘れられた紛争」もあります。

しかし、紛争の戦火から逃げまどい、飢えや医療崩壊に苦しむ住民にとっては等しく悲劇・地獄であり、「忘れられた紛争」の場合は人道支援も行き届かないというということでより悲惨な状況にもなります。

スーダンで1年以上続く紛争・・・国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生・・・・も「忘れられた紛争」の一つです。

“推計で約1万5000人が死亡し、家を追われた避難民の数はガザの5倍近い約830万人に上る。ところが米国やロシアといった大国の思惑があまり絡まないこともあり、国際社会の関心は低いままだ。”【4月8日 毎日】

死者は約1万5000人の10~15倍に上る可能性があるとの見方(バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏)もあります。いったいどのくらいの犠牲者が出ているのかすら分からないのが「忘れられた紛争」です。

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2023年4月15日にスーダンの各地域で戦闘が発生してから1年が経ちました。

いまだに武力衝突は続き、800万人以上が国内外に避難を余儀なくされ、数万人が死傷しています。また、スーダン国内の医療施設の80%以上が機能不全の状態に陥っており、2,500万人以上が深刻な食料危機に直面しています。

家族が亡くなったり行方が分からなかったりという状況は、人びとの心理面での負担の増加にもつながっています。「忘れられた紛争」ともいわれるスーダンにおける人道危機は、悪化の一途をたどるばかりです。(後略)【5月1日 日本赤十字】
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【人道援助の「空白地帯」 「援助は一度も受けたことがない・・・・私たちはどこへ行けばいいのでしょう」】
「忘れられた紛争」が続くスーダンは人道援助の「空白地帯」ともなっています。

*****人道援助の「空白地帯」となったスーダンで何が──戦闘から1年以上 援助のない避難生活は続く****
スーダンでスーダン軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で戦闘が始まって1年余り。医療、食料などさまざまな面での人道危機が深刻さを増す一方、支援は今もとぼしく、スーダン全体が人道援助の「空白地帯」となっている。

同国西部の中央ダルフール州。州都ザリンゲイのハサヒサ・キャンプで暮らす避難民の人びとも、戦闘に巻き込まれた。国連によると、11月までに、同キャンプは数カ月にわたり「即応支援部隊(RSF)」に包囲され、負傷者はキャンプの外で医療を受けることができず、水や食料の供給も妨げられていたという。

国境なき医師団(MSF)は、現地で医療活動を行うとともに、スーダン保健省の支援を行っている。戦闘が始まってから1年以上がたった現在も、人びとは過酷な環境での生活を強いられており、医療ニーズは増え続けている。

11月2日の夜、アイサさん(50歳)とその家族はロバにひかせた車に乗り込み、ハサヒサ・キャンプから避難した。持ち物はマットレス1枚だけだった。

「同行していた男性は殺され、拘束されました。武装した男たちに止められた際には、彼らは人びとを縛り上げ、若い男性に暴力をふるいました」とアイサさんは当時の様子を振り返る。

アイサさんと家族が、破壊された消防署で輸送用コンテナの一つに住み始めてから、すでに6カ月以上がたつ。スーダンで避難を強いられている650万人の人びとと同様、アイサさん一家も主に人道援助に頼って生活をしている。

しかし、多くの場所で援助を受けることは難しく、水や食料、医療を含む必要不可欠なサービスへのアクセスも十分ではない。

消防署の向かいに暮らすのは、ナジャさん(30歳)と3人の子どもたちだ。一家はハサヒサ・キャンプからの避難民とともに、略奪された銀行に避難している。

「屋根もなく、食べ物もない。こんな状況で私たちは暮らしています」。そう、ナジャさん話す。

援助は一度も受けたことがないし、石鹸一個すらもありません。もうすぐ雨季がやってきますが、私たちはどこへ行けばいいのでしょう……。それも分からないのです。

医療を受けることも困難に
街の中心部にあるのは、ザリンゲイ大学だ。ここはかつて、医学、農学、科学技術を学ぶ学生の集う場所だった。しかし、いまではすっかり姿を変えている。講堂にはロバ用の干し草が保管され、キャンパスの建物は洗濯物の物干し竿がかけられている。

そこからわずか10分の距離にあるザリンゲイ教育病院で、娘のマラカさんが退院するのを待っているのがハディージャさんだ。その日は、MSFが救急治療室を再開した最初の日で、マラカさんは最初の患者の一人だった。家を追われたハディージャさんは、残った持ち物を売り、お金に換えた。しかし、彼女は娘のための薬を買うことができなかったという。

「この病院まで1時間以上かけてやってきました。マラリア検査で陽性だった子どもに治療を受けさせるためです」。そう、ハディージャさんは説明し、続ける。

以前住んでいたハサヒサ・キャンプでは、無料で薬をもらっていましたが、ここではそうはいきません……。でも今日、MSFの支援する病院で初めて無料で薬をもらうことができました。

崩壊した医療システムを支えるために
戦闘による大規模な暴力の中、スーダンでは医療従事者や医療施設が攻撃や略奪の対象となってきた。医療システムの大部分は破壊され、機能していない。中央ダルフール州に唯一残る二次医療施設であるザリンゲイ教育病院も、この紛争中に何度も略奪の被害に遭っている。(中略)

スーダンは人道援助の「空白地帯」に
MSFの緊急対応コーディネーターを務める、ビクトル・ガルシア・レオノールは、スーダンの状況について次のように話す。

「医薬品や食料品の価格は高騰し、特に避難民には手が届かないものになっています。また、ほとんどの医療施設は正常に機能していません。スーダンは援助の届かない、人道援助の『空白地帯』になっており、膨大な医療ニーズはさらに悪化しています」【5月28日 国境なき医師団】
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【紛争の資金源となる資源 例えば「紛争ダイヤモンド」】
こうした紛争がいつまでも継続するのは、紛争当事者に何らかの利害関係を持つ国が水面下で武器・弾薬などの支援を行っていることも大きな理由ですが、紛争地域の資源が資金源として紛争当事者によって取引されることもあります。

そして紛争の犠牲者の血で汚れた資源は、最終的には先進国消費者の豊かな生活を潤すことに。
有名なところでは、アフリカ・シエラレオネやコンゴの内戦を支えた「紛争ダイヤモンド」(血塗られたダイヤモンド)があります。

*****紛争ダイヤモンド*****
シエラレオネなど内戦地域で産出されるダイヤモンドをはじめとした宝石類のうち、紛争当事者の資金源となっているもの。血塗られたダイヤモンド (blood diamond)、汚れたダイヤモンド (dirty diamond)、戦争ダイヤモンド (war diamond)とも呼ばれる。

概要
ダイヤモンドなどの宝石は、国際市場で高値の取引が行われる。産出国にとっては貴重な外貨獲得資源となるが、その産出国が内戦など紛争地域だと、その国家は輸出したダイヤモンドなど宝石類で得た外貨を武器の購入に充てるため、内戦が長期化および深刻化することになる。

とくに反政府組織はこれら鉱物資源による外貨獲得とそれによる武器購入を広く行っている。その際には罪のない人々を採掘に苦役させることから人道上も大きな問題がある。

これら内戦の早期終結を実現するには内戦当事国の外貨獲得手段を奪うのが有力な手立てであり、国際社会はそれに取り組むべきだとされる。内戦当事国に外貨が流れ込まないようにするために、内戦国から産出するダイヤモンドや宝石を「紛争ダイヤモンド」と定義し、サプライチェーンはそれらを取引しないことが求められている。

歴史
冷戦時代は東西両陣営が自陣営の味方となる反政府組織に武器を無償供与していたために、このような問題は起こらなかった。

冷戦終結後に、特に東側からの武器供与が打ち切られたために、反政府組織は武器商人から武器を買わなければならなくなった。そこで、ダイヤなどの宝石産出国の反政府組織は武器の代金を確保するために、宝石鉱山を占領・制圧して宝石を採掘して売るようになった。

なお、武器は対立する組織双方に売られており、これがさらなる紛争の激化、生活レベルの低下をもたらしている。この生活レベルの低下は、鉱山労働者の賃金をさらに下げ、宝石価格の低下につながっている。

このように、欧米諸国は武器の販売及び廉価な宝石の購入の双方で莫大な利益を上げてきた。【ウィキペディア】
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【スーダン内戦の資金源となるアラビアガム・・・先進国で消費されるチョコやガムに使用】
スーダンでは、先進国消費者が口にするチョコレートやチューインガムに使用されるアラビアガムが紛争を長期化させる資金源ともなっています。

世界のアラビアガムの約80%はスーダンのアラビアガムノキから採取されています。

****スーダン内戦、チョコやガムが資金源に****
国際商品「アラビアガム」の売買は対立する同国の準軍事組織と国軍の双方に利益をもたらしている

ムハメド・ジャベールさんは週に一度、でこぼこ道を運転してスーダン国内のオベイドという町に向かう。トラックの荷台には、こはく色の樹脂「アラビアガム」が詰まった袋が山のように積まれている。あまり知られていないが、アラビアガムはチョコレートやソーダ、チューインガムなどの添加物として利用される。

50マイル(約80キロメートル)先の目的地に到着する頃、ジャベールさんは準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘員に330ドル(約5万1700円)ほど払うのだと話した。

RSFは、1年に及ぶスーダン内戦で民族浄化や人道に対する罪を行ったとして米政府が非難している。RSFは昨年6月にオベイドを包囲し、市内につながる主要道路4本のうち3本を制圧した。同市はスーダン有数の農産物集積地で、市内は国軍の支配下にある。

「車列を組んで移動するしか安全な方法はないが、かなり費用がかかる」とジャベールさん。「誰もが支払うしかない」

ジャベールさんによると、アラビアガムの売買人はRSFの検問所以外でも、AK-47銃を構えてピックアップトラックで車列に随伴するRSFの戦闘員に60~100ドルを渡す。支払いを拒否すれば、積み荷と車両を民兵に奪われかねないという。

世界のアラビアガムの約80%は、スーダンでアカシア属のアラビアガムノキから収穫される。西のチャドとの国境から東のエチオピアとの国境まで、およそ20万平方マイル(約51万8000平方キロメートル)に及ぶ砂漠地帯にアラビアガムノキは生育している。アラビアガムは無味無臭の乾燥樹液で、安定剤や増粘剤、乳化剤として多くの食品、飲料、化粧品、医薬品に使用されている。

スーダンの貿易業者によると、この樹液が内戦の両陣営にとって重要な資金源になっている。RSFは農産物の主要な流通経路を支配下に置いて資金を集めている。同国の事実上の政府を運営する国軍は、アラビアガムの売買に税金や関税を課している。

スーダンでは2023年4月の軍事衝突以来、約850万人が家を追われた。バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏は今月、戦闘による実際の死者数は、確認されている約1万5000人の10~15倍に上る可能性があるとの見方を示した。

「アラビアガムの輸出収入が、この戦闘の直接の資金源になっている」。アラビアガム産業を研究しているスーダンのラビー・アブデラティ氏はこう指摘する。

こうした懸念があるにもかかわらず、ほとんどの企業がスーダン産アラビアガムを回避する措置を講じていないことが、メーカーやサプライヤーなどへのインタビューで分かった。

「顧客にガムを切らしてもらいたくない」。未加工ガムの輸入・加工を手掛ける英モロウジ・コモディティーズのゼネラルマネジャー、オサマ・イドリス氏はこう話した。製菓や飲料、香味料のメーカーを顧客に持つが、いずれもスーダン産アラビアガムを使うことの懸念を訴えてはいないという。

チョコレートやグミにアラビアガムを使用しているスイスのネスレは、使用量はわずかだとし、サプライヤーによると主にチャド・ニジェール・マリから調達していると述べた。

「キス」ブランドのチョコレートを製造している米ハーシーの広報担当者は、全サプライヤーが現地の法律を順守しているものと認識していると述べた。イタリアのチョコレートメーカー、フェレロの広報担当者は、全サプライヤーが順守すべき厳格な精査手順を定めていると述べた。

一部企業は、スーダン産アラビアガムの購入をやめれば、樹液で生計を立てている数十万人が打撃を受けると指摘する。その多くは自給自足の農業従事者や遊牧生活者だ。国連機関はスーダンが飢餓の危機にひんしていると警鐘を鳴らしている。

世界のアラビアガム市場で40%のシェアを持つという仏ネキシラは、スーダンでの操業を昨年3カ月停止したが、その後再開してガムを輸入している。広報担当者によると、関係者から最近、「スーダンの路上で恐喝行為が行われている可能性がある」との報告を受けた。現地の契約先に対し、自由な移動を確保できないルートは避けるよう要請しているという。

経済制裁を管轄する米財務省は、アラビアガムがスーダンの戦費調達に関係していることを考慮しているかとの問いに対し、コメントを控えた。米国は1990年代、スーダンの指導者オマル・バシル大統領(当時)が国際テロ組織アルカイダなどを支援したとして、同国に制裁を科した。この時ビル・クリントン米大統領は抜け道を作り、アラビアガムをおおむね禁輸対象外とした。

アラビアガムはスーダンの主要な輸出農産物だ。入手可能な最新データによると、2022年に約1億8300万ドル相当を輸出し、同国の全輸出品で上位10位に入った。

貿易業者は昨年10月から今年5月頃までの今期について、スーダンの生産量が約半分に減少するとみている。樹液の採取を担う若者が兵士として雇われたり、収穫のために外へ出るのを怖がったりしているためだ。一方、価格は3分の2ほど上昇し、一時1トン当たり5000ドルを付けたという。

オランダのFOGAガムは、主に欧米の香味料メーカー向けにスーダン産アラビアガムを輸入・加工していたが、軍事衝突が始まってすぐの23年4月にスーダンでの売買を全面的に停止した。

「事業が完全に停止した」。FOGAガムのパートナー、マーティン・ベルカンプ氏はこう話す。「われわれは完全な透明性のあるフードチェーンに取り組んでいる。紛争のせいで、ガムがスーダンのどこから来ているのか明確ではない。どちら側とも協力したくない」

同社が現在支援しているのは、スーダン西部ダルフールの育苗業者による植林だけだという。

貿易業者によると、スーダンのアラビアガムは大半がオベイドに集まり、主にチャドやエジプト、紅海に面した国内のポートスーダンを経由して輸出される。

「もし世界の市場でアラビアガムが大幅に不足すれば、かなり深刻な影響が出かねない」。国連貿易開発会議(UNCTAD)でコモディティー(商品)貿易監視を担当しているラチド・アムイ氏はこう指摘した。【5月28日 WSJ】
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“スーダン産アラビアガムの購入をやめれば、樹液で生計を立てている数十万人が打撃を受ける”との指摘は考慮すべきところでしょう。

ただ、何も手をうつことなくチョコレートやガムに使い続けるというのも・・・・。
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スーダン  武力衝突から1年 国連の仲介・支援活動の限界

2024-04-17 23:51:46 | スーダン

(スーダン北東部ポートスーダンで撮影に応じる正規軍兵士ら=2023年4月(AFP時事)【4月16日 時事】
正規軍兵士には見えませんが、双方のこうした「兵士」が戦っているのが実態でしょう)

【スーダン武力衝突1年 国民の6人にひとりが避難民となっており、パレスチナ・ガザの5倍】
「忘れられた紛争」スーダン内戦については、3月29日ブログ“スーダン内戦  「忘れられた紛争」で拡大する被害 「代理戦争」の側面も 武器としての性暴力”で取り上げました。

スーダンでは、昨年4月15日、国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生して、今もなお続いています。

「忘れられた・・・」というのは、“推計で約1万5000人が死亡し、家を追われた避難民の数はガザの5倍近い約830万人に上る。ところが米国やロシアといった大国の思惑があまり絡まないこともあり、国際社会の関心は低いままだ。”【4月8日 毎日】という事情。

そのスーダン内戦も1年が経過した節目ということで各メディアが取り上げています。

****スーダン武力衝突1年 戦闘続く “820万人が住む場所追われる”****
(中略)
戦闘は首都ハルツームやその周辺などで続いていて、国連は世界の紛争地のデータを集めているNGOの数字として、先月上旬までに1万4790人が死亡したとしていて、犠牲者はさらに多いおそれがあると指摘しています。

また、OCHA(国連人道問題調整事務所)によりますと、少なくとも820万人が住む場所を追われ、このうち170万人以上が国境を越えてエジプトやチャドなどの周辺国で避難生活を余儀なくされています。

日本を含む各国の大使館や国連機関などは安全を確保できないとしてハルツームから退避していて、現地の実情の把握も難しくなっています。

WFP(世界食糧計画)は、スーダン国内では1800万人が深刻な食料不安を抱え、5歳未満の子どもおよそ380万人が栄養失調に陥っているとしています。

一方で、パレスチナのガザ地区やウクライナの情勢などに国際社会の目が向けられるなか、スーダンへの支援にことし必要な27億ドルのうち、集まったのはわずか6%にとどまっていて、国連は人道状況がさらに悪化しかねないとして各国に支援を訴えています。

スーダン武力衝突 1年の経緯
スーダンでは2019年に独裁的な長期政権が崩壊したあと、民主化への模索が続いたものの、2021年に軍がクーデターを起こして実権を握りました。

その後、軍の傘下にある準軍事組織のRSFが軍の再編などに反発し、去年4月15日、首都ハルツームや国際空港などで激しい衝突が発生しました。

軍事衝突が拡大する中、各国が自国民を退避させる動きが広がります。

日本も自衛隊機を派遣し、4月24日には日本大使館やJICA(国際協力機構)、それに支援団体などの関係者やその家族あわせて45人が東部の都市ポートスーダンから自衛隊機でジブチに退避しました。

国連のほかエジプトやサウジアラビアなど周辺国が停戦や和平交渉を呼びかけていますが道筋はたっておらず、1年たったいまも現地では戦闘が続いています。

このため教育や医療など社会基盤の崩壊が進み、人道危機が深まっていて、国連はおよそ4800万の人口の2人に1人が人道支援を必要としているとしています。

ただ、多くの支援関係者が退避を余儀なくされたほか、治安の悪化で支援を届けるのは容易ではなく、周辺国に逃れた避難民の支援も含め厳しい状況が続いています。

支援活動のNPO「現地に目を向けて」
武力衝突から1年となるのにあわせ、現地で支援活動をしてきた日本の団体などがオンラインの報告会を開き、人道危機が深まる現地への支援と関心の継続を訴えました。

今月9日に行われた報道機関向けの報告会にはスーダンへの支援活動を続けてきたNPOの「ロシナンテス」と「難民を助ける会」の職員などが参加しました。

スーダンでは、いまも軍と準軍事組織の戦闘が続き、人道危機が深まる一方、治安への懸念などで支援活動は困難に直面しています。

このうち医療や教育の支援を行ってきたロシナンテスは遠隔の支援を続けスーダン北部の2600人以上が身を寄せる3つの避難所で衛生環境の改善を目指してトイレなどの整備を進めることにしています。

ロシナンテスの川原尚行理事長は「単独での活動は難しいですが、国連機関などとともに現地に戻れないか調整を続けています。気持ちとしては年内にでも戻りたいと思っていますが、治安状況によるので情報収集を続け、判断したいです」と話していました。

また、「難民を助ける会」の職員でウガンダから支援を続ける相波優太さんは、スーダンにとどまる現地スタッフを通じて避難民に食料配付などの支援を行っていることを紹介しました。ただ、スタッフ自身も何度も避難を余儀なくされ、厳しい状況に置かれていると話していました。

相波さんは「情勢が安定したら、感染症対策事業なども再開したいと思っています。メディアにも関心をもってもらい、現地で何が起きているのか少しでも多くの人に目を向けてもらいたいと思います」と訴えていました。【4月15日 NHK】
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避難民が820~830万人・・・パレスチナ・ガザの5倍、総人口(約4810万人)のおよそ6人に1人に当たります。

【欧米は20億ユーロの支援表明】
国際社会も“見捨てた”訳ではない・・・ということで、飢餓寸前に陥った数百万人れを支援する国際会議がパリで開催され、20億ユーロ(21億3000万ドル)の支援が表明されてはいます。

****スーダン内戦1年、欧米諸国が飢餓対策で20億ユーロ支援表明****
アフリカ北東部スーダンで政府軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が始まって1年となる15日、飢餓寸前に陥った数百万人を支援する国際会議がパリで開かれ、フランスのマクロン大統領は支援総額が20億ユーロ(21億3000万ドル)を超える規模に上ることになったと表明した。

会議はフランスとドイツが共催し、両国はそれぞれ1億1000万ユーロと2億4400万ユーロの拠出を確約。欧州連合(EU)は3億5000万ユーロ、米国は1億4700万ドル、英国は1億1000万ドルを約束した。

これまでのスーダン向けの国際的な人道支援は、戦闘継続や紛争当事者側からのさまざまな制限に加え、パレスチナ自治区ガザやウクライナなど他の地域で起きている危機に対する支援の需要も生じている影響で、思うように進んでいない。

マクロン氏は会議の締めくくり演説で、紛争解決と紛争当事者への外国からの支援を停止するため国際協調の必要性を強調。「残念ながら、われわれが本日躍起になって集めた額は、戦争が始まって以来、複数の国が紛争当事者同士の殺し合いを手助けするためにかき集めた額よりも恐らく少ないだろう」と述べた。

国連の専門家らは、アラブ首長国連邦(UAE)がRSFに武器支援を実施したとの疑惑に信憑性があると述べている。一方で、複数の情報筋はスーダン軍がイランから武器を受け取ったと述べている。ただ、紛争当事者双方はそうした報道を否定している。

スーダンのインフラは機能不全に陥り、避難民は850万人を超えている。ドイツのベーアボック外相は「即座に協力し合えた場合にのみ、大規模な飢餓を回避できる」と発言するとともに、事態が最悪となる場合は今年中に100万人が餓死する恐れがあると付け加えた。

スーダン国内では2500万人が支援を必要としており、国連は今年27億ドルのスーダン向け支援を要請。また、数十万人の難民を受け入れている近隣諸国への支援として別途14億ドルの支援を求めている。【4月16日 ロイター】
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もちろん内戦状態を止めることが第一ですが、20億ユーロが実際に飢餓に直面している人々の救済に使われるなら大きな助けにはなるでしょう。ただ、(本当に拠出されたとしても)戦闘状態にあるなかで現実にどのように運用されるのか・・・。

【「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」】
グテレス国連事務総長はスーダンでの民間人への無差別攻撃は「戦争犯罪や人道に対する犯罪」となり得ると警告、一方で、「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」と危機感を表明しています。

****国連総長、無差別攻撃は「戦争犯罪」 スーダン戦闘1年****
スーダンで正規軍と準軍事組織の戦闘が始まって15日で1年となったのに合わせ、アントニオ・グテレス国連事務総長は同日、民間人への無差別攻撃は「戦争犯罪や人道に対する犯罪」となり得ると警告した。

スーダンでは昨年4月、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」の武力衝突が勃発。グテレス氏は報道陣の取材に応じ、これまでに1万人以上が死亡しており、1800万人が飢餓に直面しているとし、「これはもはや二つの勢力間の紛争にとどまらず、スーダンの人々に対する戦争となっている」と語った。

その上で、「民間人を無差別に攻撃して殺傷したり、恐怖に陥れたりすることは戦争犯罪や人道に対する犯罪に該当し得る」と強調。特に成人女性や少女に対する性暴力、援助物資を積んだ車両への攻撃を非難した。

また、北ダルフール州の州都エルファシェルでの情勢不安と人道状況の悪化に懸念を表明した。 【4月16日 AFP】******************

****スーダンへの関心低下 国連危機感、戦闘1年****
国連のグテレス事務総長は(中略)中東情勢などに各国や市民の関心が移り「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」と危機感を表明した。

グテレス氏は、1800万人が飢餓に直面し、2500万人が支援を必要としていると指摘。「スーダンの人々が熱望する平和で安全な未来への呼びかけをやめるつもりはない」と述べ、双方に戦闘停止を求めた。【4月16日 共同】
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【昨年末に民主化を支援する国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の活動終了】
しかし、現実には「忘れようとしている」のは国連も同じ・・・と言ったら言い過ぎでしょうが、国連のスーダンへの関与も低下しています。
国連安保理は昨年末、民主化を支援する国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の活動終了を決めています。

これは国連と緊張状態にあるスーダン政府からの要請に基づくものであり、国連は、「国連がスーダンから撤退するというのは、事実誤認だ。人道・開発支援を提供する国連の国別チームはスーダンにとどまる」とはしていますが、危機が継続・深刻化するなかで関与の低下は否めません。

****安保理、国連スーダン・ミッションの終了を決議****
1日、国連安全保障理事会は、スーダンにおける国連ミッションの任務終了を決議した。理事会15カ国のうち14カ国が決議案に賛成、ロシアは棄権した。

同決議案は、国連スーダン統合移行支援ミッションに対し、12月4日から活動の縮小を開始し、その任務を他の国連機関に移管するよう求めるものだ。可能であれば、2月までに移管を完了させることを目標としている。その後、3月1日にミッションの閉鎖を開始する。(中略)

国連スーダン派遣団とスーダン当局との関係は、紛争勃発以来、緊張状態にある。5月、(スーダン政府軍を率いる)アル・ブルハン氏はアントニオ・グテーレス国連事務総長に書簡を送り、当時グテーレスのスーダン担当特別代表だったフォルカー・ペルテス氏の交代を要求した。

国連がペルテス氏を擁護すると、アル・ブルハン氏は彼を「ペルソナ・ノン・グラータ」に指定した。関係が悪化の一途をたどるなか、ペルテス特使は9月、スーダンの外から効果的に仕事を遂行することは不可能だとして辞任した。

それ以来、スーダンの国連ミッションは、ポートスーダンに駐在するクレメンタイン・ンクウェタ・サラミ副特別代表兼スーダン常駐・人道調整官の指導の下にある。

先月開かれた安全保障理事会で、スーダンのアルハリス・イドリス・モハメッド国連大使は、スーダンの国連ミッションの閉鎖を求める自国の決定を伝えた。スーダン外務省は、現在の状況を鑑みると、同ミッションはもはやスーダン国民と同国政府の望みに沿うものではない、と述べた。

米国のロバート・ウッド特別政治問題担当代表代理は、1日の安保理決議後、理事会に対し、同国は「ミッションの安全かつ秩序ある撤退」を可能にするため決議案に賛成票を投じたが、スーダンにおける国際的プレゼンスの低下は「残虐行為の加害者を増長させるだけであり、民間人に悲惨な結果をもたらす」と引き続き懸念していると述べた。

同氏は「UNITAMSの活動は、現在進行中の紛争、残虐行為、人権侵害や虐待、数千万人のスーダン人に対する悲惨な人道的状況、地域の安全と安定を脅かす波及リスクの増大を考慮すれば、全ての面で極めて重要である」と付け加えた。

11月30日、ステファン・デュジャリック国連報道官は次のように述べた。「国連がスーダンから撤退することはない。私たちは、戦争の終結、人道支援の促進、文民統治への移行の回復を目指し、全ての努力を継続する」

「政治ミッションがどうなっているかにかかわらず、スーダンには人道支援に携わる仲間が大勢残っており、人道支援を切実に必要としている人々を支援していることを忘れてはならない」。「そのため、国連がスーダンから撤退するというのは、事実誤認だ」【2023年12月2日 ARAB NEWS】
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国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)は国連平和維持活動(PKO)ではなく、国連特別政治ミッション(Special Political Mission: SPM)です。

“PKOは軍事・警察の部隊派遣を伴い、時には国連憲章第7条に基づいた武力行使も用いて文民保護、治安回復、和平合意実施を行うが、SPMの主眼は紛争予防や和平合意の締結、選挙支援、平和構築など政治的プロセスに特化している”【2023年7月7日 中谷 純江氏(一橋大学講師 国際連合平和活動 安全調整担当官) IINA“国連特別政治ミッションはPKOの代替案となりうるのか――マリからのPKO撤収で問われるスーダンの教訓”】という目的の違いがあります。

現実にはPKOに比べ、SPMはコンパクトな活動になります。

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SPMはPKOより費用対効果の良いオプションと捉えられる傾向にある。またホスト国においては、国連憲章第7条の(武力行使)可能性が視野に入るPKOを避けてSPMという形でのみ国連ミッションの受け入れを容認する場合もある。

よって政治ミッションとは言っても武装解除(ネパール、コロンビア)や停戦監視(イエメン、リビア)などの軍事・警察機能を兼ね備えるSPMも増えてきた。またイラク、リビア、ソマリアなどの危険地帯で展開しているSPMでは安全確保のために警備部隊(Guard Unit)も展開している。

しかしながら、概してSPMの規模はPKOの10分の1程度で、アフガニスタン・UNAMAやイラク・UNAMIの規模で予算がつくミッションは稀である。”【同上】
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イメージ的には、国内の内戦状態・混乱にPKOで対処し、混乱が一定に収まった段階で、新たな統治体制確立をサポートするSMPに移行する・・・といったところでしょうか。

しかし、現実にはスーダン・ダルフールで活動してたPKOの国連・アフリカ連合合同ミッション(UNAMID)がはスーダン政府の要請に基づき撤収することになり、選挙や憲法改正などの権力移譲措置の実施、またダルフールのみならず南スーダンとの国境地域での紛争解決など広い委任権限がSPMの UNITAMSに与えられました。

当初から人員的にも非常に厳しいものがありました。
“縮小しながらもダルフールで文民保護にあたっていた(PKOの)UNAMID(2019年段階で要員7000人前後が13箇所に展開)の撤退と(SMPの)UNITAMSへの引き継ぎも定められた。この全国規模の新ミッションは首都ハルツーム以外では地方事務所7箇所で総勢250名というスリムな形で発足した。国連財政状況の厳しさから当初のミッションコンセプトを3分の1まで削らざるを得なかったからである。”

準軍事組織の存在は引継ぎ当時から懸念されてはいましたが、その懸念が現実となり政府軍と準軍事組織の間で紛争が勃発、SMPのUNITAMSは事態に対処することもかなわないなかで、スーダン政府の要請により撤退を余儀なくされた・・・というのが現実です。

SMPとしての国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の失敗と言うより、現実世界において国連が果たしうる役割の限界を示している・・・と言うべきでしょうか。

【リビアでも 国連リビア特別代表が辞意】
スーダン以上に最近情報が少ないのが東西勢力が分裂状態で争うリビアですが・・・

****国連リビア特別代表が辞意 和平見通せず、仲介断念****
東西分裂状態のリビアで和平協議を仲介する国連リビア支援団(UNSMIL)のバシリー事務総長特別代表は16日、ニューヨークの国連本部で記者団に対して辞意を表明した。「リビア指導者らの政治的意思の欠如」で協力が得られず、和平の進展が期待できないとして、仲介を断念したと説明した。後任は未定。

バシリー氏は2022年9月から同代表。内戦状態のリビアを外国勢力が代理戦争に利用していると指摘し「状況は悪化している」と訴えた。

リビアでは40年以上統治したカダフィ独裁政権が、11年に北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入を受けて崩壊した。【4月17日 共同】
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よく知りませんが、国連リビア支援団(UNSMIL)もSMPのひとつではないでしょうか。(違うかも)
いずれにしても、そのリビア国内でプレゼンスを強化するための改革案が安保理で議論されましたが、ロシアが反対していました。【2021年10月1日 ARAB NEWS“国連リビア支援団をめぐる安保理の紛糾が続く”】
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スーダン  戦闘開始から2か月 見えない“終わり” 増加する犠牲者・難民 拡散する飢餓の脅威

2023-06-16 23:38:53 | スーダン

(チャド東部で、国連WFPがスーダンから新たに到着した避難民に食料を配布している様子【6月5日 国連WFP】)

【実効の疑わしい停戦を繰り返しながら、戦闘は拡大 終わりは見えず】
軍と準軍事組織が武力衝突を始めてから15日で2か月となったスーダン。
ウクライナ軍の反転攻勢などが国際的に注目を集めるなかでは、次第に世間の関心も薄れ、やや「賞味期限切れ」状態にも。

「停戦合意」という記事はときおり目にしますが、必ず「しかし、戦闘は続いている」という記事がそのあとに。
今月10日も、サウジアラビア・アメリカの仲介で“一応”「24時間停戦」があったようです。

****24時間の停戦で合意=スーダン****
アフリカ北東部スーダンの正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が10日午前6時(日本時間同日午後1時)から24時間停戦することで合意した。両者を仲介するサウジアラビアと米国が9日に共同声明で発表した。

声明によると、軍とRSFは停戦期間中、航空機やドローンの使用、空爆や砲撃、陣営強化などをやめ、「軍事的優位を求めない」ことに同意。人道支援を妨げないことでも一致した。【6月9日 時事】 
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10日の24時間停戦がどれほどの実効があったのかは知りませんが、少なくとも戦闘はその後もむしろ拡大しているようです。かつて、「世界最悪の人道危機」と呼ばれた惨劇が繰り広げられたダルフールでも。

そもそも、今回衝突の一方の当事者、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」はダルフールの「ジェノサイド」で悪名をはせた民兵組織「ジャンジャウィード」の後継組織です。

****RSFとは何者か 独裁者が保護した第2の軍隊―強力な資金源、頼みは「外部」・スーダン****
スーダンで軍と戦闘を繰り広げている準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」は、イランの革命防衛隊と同様、軍がクーデターを起こしても、それを迎え撃てるよう想定された「第2の軍隊」だ。軍と互角に戦える装備や訓練を施されている。

スーダン停戦、また実現せず 軍は「RSF一掃の段階」主張
 ◇総兵力10万
RSFの最近の総兵力は10万人と報じられてきた。スーダン軍は陸軍の10万人が圧倒的で、空軍は3000人、海軍は1000人。兵力数を見れば両者は互角のはずだった。

2019年まで30年に及んだバシル独裁政権が構築した「カウンター・クーデターのための暴力装置」だったが、最後は軍と手を組み権力を奪った。

この協力をきっかけに、RSFは軍から大量の「出向者」を受け入れ、スーダン全土へ急速に膨張する組織を整えた。双方の総兵力数には重複があったとみられ、15日の戦闘勃発の翌日、軍はこうした出向者に「原隊復帰」を命じた。現在の正確な勢力比は分かっていない。
13年に発足したRSFの源流は、西部ダルフール地方で住民弾圧を担った民兵組織「ジャンジャウィード」だ。03年から激化したダルフール紛争で「スーダン解放軍(SLA)」や「正義と平等運動(JEM)」など反政府勢力に対し、軍の先兵となって戦った。

軍による空爆の援護を受けつつ、ジャンジャウィードはダルフールの町や村を略奪し蓄財した。バシル大統領の個人的な保護を受け、RSFを率いるダガロ司令官の一族は今やダルフールの金鉱の利権を握り、幾つも企業を経営する富豪となっている。

 ◇他国の内戦で稼ぐ
さらに、RSFは過去10年、海外との関係を強化した。サウジアラビアのムハンマド皇太子が介入し15年から激化したイエメン内戦に数万人のスーダン人傭兵(ようへい)を送り込み、サウジを支えた。

リビア内戦では、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と関係を深め、リビア東部のハフタル派のため傭兵を送り込んだという。イエメンやリビアの最近の内戦沈静化はこうした「RSFの資金源」に影響を与え、ダガロ氏に焦りが生まれていた可能性もある。

ロイター通信は19日、軍の空爆を受けたRSFは市内の拠点を放棄し「住宅街に紛れ込んでいる」と伝えた。ダルフール紛争以来磨いてきたゲリラ戦で軍に対抗する構えだ。

しかし、兵力も資金も「第2軍隊」であるRSFは、国庫を握る軍に対し、時間の経過とともに不利になる。サウジやリビア、ロシアなどこれまで培ってきた「外部勢力の支援」が頼みの綱だ。【4月22日 時事】
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今のところは互角の戦闘が続いており、“時間の経過とともに不利になる”という状況でもなさそうです。

****スーダン西部の都市で戦闘激化、準軍事組織批判した州知事殺害****
スーダン西部の複数の都市で14日、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が激化した。西ダルフール州ではRSFによる市民の「ジェノサイド(大量虐殺)」を批判した知事が殺害された。

正規軍とRSFの戦闘が4月半ばに同州の州都ジェネイナで始まって以来、1100人が死亡したと現地の活動団体は推定しており、首都ハルツームやコルドファン、ダルフール両地方の主要都市が人道危機に陥っている。

米国とサウジアラビアが仲介する停戦は何度も頓挫しており、戦闘終結の見通しが立たないままだ。米国務省の高官らは13日、新たなアプローチを検討していると述べた。

西ダルフール州のアバカル知事は14日、RSFとその協力関係にある民兵組織がジェノサイドを実行したと批判した数時間後に殺害された。知事が指揮する武装集団が明らかにした。2人の政府筋はRSFの犯行だと述べた。【6月15日 ロイター】
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【増加する犠牲者、難民・避難民】
戦闘の犠牲者は少なくとも1800人との推計も発表されています。また、国全体では220万人が家を追われているとも。しかし、戦闘が終わる兆しは見えていません。

****スーダン、終わりのない戦闘2カ月 首都から100万人脱出―軍とRSF、泥沼の衝突****
アフリカ北東部スーダンで正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が始まってから15日で2カ月が経過した。サウジアラビアなどが仲介する中、両陣営は依然として首都ハルツームや西部ダルフール地方で戦火を交え、終わる兆しは見えない。住民からは「国の全域が災害に遭ったようだ」と嘆く声が漏れる。

19日にスーダン支援国会合 サウジ主導、EU・国連も参加
衝突は、軍トップのブルハン統治評議会議長と、RSFを率いるダガロ司令官の権力闘争が表面化する形で4月15日に始まった。ハルツームの支配を巡り都心部で激しい戦闘を展開してきたことが特徴で、首都の街並みは変わり果てた。

目撃者がAFP通信に語ったところによると、軍は14日、戦闘開始後初めてハルツーム南西約350キロの都市オベイドを空爆した。RSFが2カ月間包囲していた地域だった。

ただ、制空権はこれまで、空軍を握る軍が一貫して掌握してきたが、スーダン軍当局者は14日、RSF側が攻撃用ドローンを使用し始めたと述べ、警戒を強めている。

軍は14日、西ダルフール州の知事をRSFが「拉致して殺害した」と非難。「(RSFが)全スーダン人に対して犯している野蛮な犯罪記録に新たな一章が加わった」と批判し、衝突は泥沼の様相を濃くしている。

米NGO「武力紛争地域事件データプロジェクト(ACLED)」によると、戦闘の犠牲者は少なくとも1800人。国際移住機関(IOM)によれば、国全体では220万人が家を追われ、ハルツームからも100万人以上が脱出した。うち52万8000人は周辺国へ避難したとみられている。

ハルツームでは水や食料、医薬品が調達できなくなりつつある。住民アハメド・タハさんはAFPの取材に「われわれには何も残っていない」と訴えた。「国中が完全に破壊された。どこを見ても、爆弾が落ちたり、銃弾が当たったりしている」と力なく語った。

米国やサウジが仲介努力を続けるが、停戦合意は、軍とRSF双方の違反で幾度となく破られ、有名無実が常態化している。援助団体は物資搬送のための人道回廊の設置を訴えるが、実現していない。サウジは19日にスーダンへの援助を話し合う支援国会合を開くと発表している。【6月16日 時事】
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米国は双方の人権侵害、暴力を批判していますが、批判の力点は「即応支援部隊(RSF)」側にあるようにも見えます。

****米、スーダンの人権侵害と暴力非難 対立勢力双方を批判****
米国は15日、スーダンで2カ月にわたり続いている紛争による人権侵害、虐待、「おぞましい暴力」を最も強い調子で非難すると表明した。

国務省のマシュー・ミラー報道官は声明を発表し、米国は特に準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」と、協力関係にある西ダルフール州の民兵組織による民族を対象にした暴力行為を懸念していると指摘。

「西ダルフール州その他の地域で行われている残虐行為は、2004年に米国がダルフールでジェノサイド(大量虐殺)が行われていると判断した事態の残存だ」と述べた。

その上で、RSFによる市民のジェノサイドを批判したアバカル西ダルフール州知事が14日に殺害された事件を特に非難するとした。

一方、スーダンの正規軍(SAF)も「民間人を保護できておらず、部族動員を扇動して衝突をあおっているとの報告がある」と批判した。【6月16日 ロイター】
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【日本政府も新たな緊急支援で食料・水・薬を供与】
“52万8000人は周辺国へ避難”とのことですが、その避難先のひとつが隣国チャド。
しかし、避難先でも雨期で孤立し、状況が懸念されています。

****チャドに逃れたスーダン難民、雨期で孤立も 国境なき医師団が警告****
非政府組織(NGO)の国境なき医師団は12日、スーダンから紛争を逃れてチャドに避難している難民数千人が、雨期の到来で人道支援から隔絶される恐れがあると警告した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今月、4月の紛争勃発以降にスーダンからチャドへ避難した人は10万人を超え、今後3カ月で倍増する可能性があると予測した。

国境なき医師団のチャド担当者は、例年この時期に発生する洪水で、スーダンと国境を接する地域が孤立する可能性があると指摘。清潔な水が入手しにくく、衛生状態の確保も困難で、降雨により水を媒介した感染症が発生するリスクが高まると警告した。

国境なき医師団によると、同地域には約3万人の難民がおり、人道支援の不足から住居、水、食料が足りない状態にある。

チャドは世界最貧の国の一つだが、今回の紛争前から既に60万人近くの難民を受け入れている。【6月13日 ロイター】
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チャドの状況は、多くの避難民の直面している苦境のひとつに過ぎないでしょう。
日本政府も新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、食料や飲み水などを供与することを決めました。

****スーダン支援に新たに500万ドル 食料や飲み水など供与へ 政府****
武力衝突が続くアフリカのスーダンの人たちを支援するため、政府は新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、食料や飲み水などを供与することを決めました。これは、林外務大臣が16日に記者会見で発表しました。

それによりますと、軍と準軍事組織との間で武力衝突が続くスーダンの人たちを支援するため、新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、WFP=世界食糧計画などの国際機関を通じて食料や飲み水、薬などを供与するとしています。

また、これとは別に、日本政府がすでにNPOに拠出しているおよそ146万ドルを使って、スーダンと周辺国のチャドで、食料や保健などの分野で支援を行うとしています。

林大臣は、「スーダン情勢について、先月の広島サミットでもG7=主要7か国として、一刻も早い停戦の実現に向けて取り組むことで一致した。日本政府として、引き続き必要な支援を実施していく」と述べました。【6月16日 NHK】
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【難民流入でスーダンの不安定な状況が『アフリカの角』の地域全般に拡散する懸念も】
スーダンから国外への避難民流出は、東アフリカ一帯に不安定な状況を拡散し、すでに深刻化している飢餓の脅威を更に悪化させることが予想されます。

****「スーダン、内戦により1900万人が飢饉に追い込まれる」WFP局長の訴え****
「今後3~6カ月以内にスーダンで飢餓に直面した人々は1900万人に達する可能性があります」

内戦中のスーダンで援助活動を行っている国連世界食糧計画(WFP)のマイケル・ダンフォード東アフリカ地域局長は8日、中央日報との書面インタビューで、現地の雰囲気をこのように伝えてきた。

ダンフォード局長は「内戦によりスーダンから近隣諸国への難民流出がすでに始まっている」とし「これが進めば、スーダンの不安定な状況が『アフリカの角』の地域全般に拡散しかねない」と懸念を示した。

「アフリカの角」地域はアデン湾の南部にまたがる東アフリカ地域で、サイの角のように突出している地域を指す。エチオピア・ソマリア・ジブチなどが属している。(中略)

内戦以降、外国人はもちろんスーダン人も「必死のエクソダス」に乗り出して難民が最大86万人発生するという悲観的見通しが出てきている。(中略)

スーダン内の状況が統制不能状態に陥り、国連のような国際救援団体の活動はますます厳しくなっている。一線の救護団体職員たちは文字通りに命懸けで活動している。

WFPも先月16日、スーダンの北ダルフール地域で救護活動中に職員3人が交戦に巻き込まれて命を落とした。WFPはこの事件で活動をしばらく中断したが、今月1日、WFPのシンディ・ヘンスリー・マケイン事務局長が救護を臨時に再開すると伝えた。(中略)

東アフリカは長い政治不安で慢性的な食糧危機を経験しているが、最近になって40年ぶりに最も乾燥した気候に直面し、食糧難が最悪に達しているという。

ダンフォード局長は「エチオピア、ケニア、ソマリアなどでは生計手段である家畜が干ばつや気象異変による洪水などで1300万頭が死亡し、最大8000万人が飢えに追い込まれている」と述べた。(後略)【5月9日 中央日報】
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RSFは“軍と互角に戦える装備や訓練を施されている”(前出 時事)とは言え、民兵組織に由来した歩兵中心の組織であり、装備的には国軍に劣るものと想像されます。

そのRSFがここまで軍と互角に戦い、ドローン攻撃も・・・周辺国、国外勢力の支援も推測されます。

軍・RSFの戦闘を沈静化させるためには、周辺国・関係国の停戦に向けた強い意思が必要でしょう。武器・弾薬などの供給が止まれば、戦闘もおのずから停止するはずです・・・ただ、多くの紛争がそういう道をたどらないのは、現実には関係国の武器支援などが止まないためでしょう。

1日も早い実効ある停戦の実現を期待する・・・としか言い様がありませんが・・・。
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スーダン  戦闘が収まらず、日本を含めた各国の自国民保護も困難 ジブチで待機の状況

2023-04-21 23:30:39 | スーダン

(【4月21日 NHK】)

【エジプトやサウジなど周辺国、米中露など関係国の利害・思惑が錯綜】
自国民の保護などで日本を含めて各国が状況を見守っているスーダンの内戦は未だ収拾の目途がたっていません。

正規軍と(かつて西部ダルフールでの紛争で、黒人住民を虐殺したアラブ系民兵組織が前身とされる)民兵組織「即応支援部隊」(RSF)が主導権を争っているとのこと。

****スーダン 軍統治トップ2人の争い 長期化懸念****
アフリカ北東部スーダンで起きた軍事衝突は、正規軍と民兵組織「即応支援部隊」(RSF)が表明した19日夕からの停戦が守られず、20日も首都ハルツームなどで戦闘が続いた。

中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると15日の戦闘開始以来、300人近くが死亡、3千人以上が負傷したが、収束の兆しはみえない。

今回の衝突で正規軍とRSFのどちらが戦端を開いたかなど詳細は不明だ。ただ、スーダンでは2019年に約30年間に及んだバシル独裁政権が軍のクーデターで崩壊し、民政移管が進められていた。衝突の背景には、民政移管を巡る軍とRSFの主導権争いがあるとの見方が強まっている。

軍を主導するブルハン氏とRSFを率いるダガロ司令官はバシル政権打倒で共闘し、21年に民主派を排除して権力を掌握したクーデターでも協力した間柄だ。軍主導の統治組織でブルハン氏はトップ、ダガロ氏がナンバー2の座に就く。

だが、英BBC放送(電子版)によると、2人はその後対立。ブルハン氏がバシル政権を支えた人の復権を計画し、ダガロ氏は自らの権力縮小につながるとして不信感を募らせた。

軍と民主派は昨年12月、移行政権の樹立で大枠合意したが、4月1日に予定された合意文書への署名は実現しなかった。RSFの軍への統合を巡り、時期や権力移譲などの点で折り合えなかったもようだ。

ダガロ氏は金採掘などの事業を展開し、豊富な資金をもとに各地に総勢10万人の兵力を有するとされる。正規軍に劣らぬ勢力でサウジアラビアなどの要請でイエメン内戦にも派兵した。

RSFは衝突直前、各地の民兵を動員し軍の警戒心を招いたともされる。ダガロ氏はブルハン氏について「どこにいようと見つけて責任を取らせる」と非難しており、衝突は長期化することが懸念されている。
■スーダン 
人口約4690万人(2020年推定)。1980年代に南部のキリスト教徒主体の反政府勢力と内戦になり、南部は2011年に南スーダンとして独立した。

19年のクーデターで約30年続いたバシル独裁政権が崩壊。民政移管に向けた取り組みが続いていた。

今回、政府軍と衝突している民兵組織「即応支援部隊(RSF)」は03年から続く西部ダルフールでの紛争で、黒人住民を虐殺したアラブ系民兵組織が前身。

自衛隊は08〜11年にスーダンの国連平和維持活動(PKO)に司令部要員を派遣した。【4月20日 産経】
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RSFに関しては、国連が「世界最悪の人道危機」と呼んだダルフールでの黒人住民虐殺を行ったアラブ系民兵組織が前身ということで、非常にイメージが悪いですが、現在の組織の性格などは知りません。

スーダン情勢と周辺国・関係国の関りについては、下記のように各国の思惑が交錯しています。
エジプトは軍を支援し、サウジ・UAEはRSFに肩入れしているとも。
また、ロシア民間軍事会社ワグネルがリビアやシリアを経由し、RSFに武器を供給しているとの情報もあるようです。

****軍事衝突のスーダン 米中露の利害錯綜****
正規軍と準軍事組織の軍事衝突が起きたアフリカ北東部スーダンは、地下資源が豊富な戦略上の要衝だ。周辺国のほか米中露3カ国も浸透を図ってきたが利害は錯綜(さくそう)しており、混迷が深まる一因になりかねない。

割れる中東の大国
スーダンでは15日、ブルハン氏が主導する軍と、ダガロ司令官率いる準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の戦闘が始まった。

軍を支援するのはシーシー大統領が統治する北隣のエジプトだ。シーシー氏自身も軍出身で、エジプト、スーダン両軍はしばしば演習を行うなど関係が深い。

ロイター通信は20日、スーダンにいたエジプト軍兵士約180人が空路で本国に脱出し、RSFが拘束した兵士27人の身柄を在スーダンのエジプト大使館に引き渡したと報じた。エジプト軍が水面下で活動していた可能性をうかがわせる。

これに対し、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)はRSFに肩入れしているようだ。両国が介入したイエメン内戦にRSFは兵を送って支援し、関係を深めた。

スーダンでは、バシル独裁政権が支配した約30年間でイスラム色が強まり、軍関係者に、その傾向が残っているとされる。一方のRSFは、イスラム過激派を敵視するサウジなどと立場が近いという側面がある。

親米のサウジとエジプトはともに反米のイランと関係改善を図るなど、中東で広がる融和の機運を担ってきたが、スーダンでは利害が割れたとの見方が多い。

露の侵略の資金源か
スーダンをめぐっては大国の思惑も絡み合い、過去に米露が火花を散らした経緯もある。

米国は1993年、バシル政権が国際テロ組織アルカーイダのビンラーディン容疑者らをかくまったとして、テロ支援国家に指定した。この機に乗じて政権と蜜月関係を築いたのがロシアだった。

しかし、軍とRSFによる2019年のクーデターでバシル政権が崩壊し、情勢が一変。米国は20年、スーダンに対するテロ支援国指定を解除し、関係改善を模索していた。

一方のロシアは巻き返しに躍起だ。RSFと親密な関係を築き、昨年2月にはダガロ氏が訪露したほか、今年2月にはスーダンの紅海沿岸に海軍基地を建設する合意を結んだ。紅海はインド洋と地中海を結ぶ海上輸送の大動脈で、米中も沿岸のジブチに基地を有する。アフリカへの影響力強化を目指すロシアの意欲が透けてみえる。

米CNNテレビは20日、露民間軍事会社ワグネルがリビアやシリアを経由し、RSFに武器を供給していると報じた。ワグネルはRSFが採掘利権を握る金を獲得し、ウクライナ侵略の資金を捻出しているともささやかれている。

中国も権益死守に腐心
アフリカに巨額の投資を行ってきた中国はスーダンとも関係を深めてきたが、最近は意欲が衰えていたといわれる。
香港の英字紙、サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は18日付で、11年に南部スーダンが「南スーダン」として独立したことに伴い、油田地帯の採掘権も移ったことが主な理由だと指摘した。

同紙は中国・アフリカ関係に詳しい米ジョージ・ワシントン大のデビッド・シン教授が「中国はビジネスと商圏を守る上で(軍事衝突を)懸念している」と述べたとし、アフリカの紛争の調停役を務めようと計画していた中国にとり、「スーダン情勢は明らかに(状況を)複雑にした」との見方を示したと伝えた。【4月21日 産経】
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【3回目の停戦も機能していない様子で、自国民退避のための活動は困難な状況 日本を含め各国がジブチで待機】
日本との関りでは、在留邦人は約60名と言われていますが、進出企業は4社のみ。
日本とアフリカの関係の“薄さ”、アフリカ外交の弱さを反映しているとも言えます。(今回の戦乱からの避難ということでは、好都合ではありますが)

在留邦人保護の活動拠点となるのが、自衛隊がソマリア海賊対応以来、唯一の海外拠点を持つジブチです。

****戦闘激化のスーダン 進出の日本企業は4社 「影響は限定的」****
戦闘が激化しているアフリカ北東部スーダンの在留邦人を退避させるため、自衛隊機1機が21日、周辺国のジブチに向けて航空自衛隊小牧基地(愛知県)を出発した。ジブチに到着後、スーダンの情勢を見極めて現地入りのタイミングなどを判断する。

帝国データバンクによると、スーダンに進出している日本企業は2023年3月末時点で4社。スーダンと直接、輸出入をしている企業は21年時点で6社ある。帝国データバンクは「日本とスーダンの貿易規模は元々大きくなく、現地にいる邦人の数も限られている。情勢不安による日本への影響は限定的だろう」としている。

スーダンには医療サービスや、資源開発支援の日本企業が進出。日本からの輸出は自動車など機械類が中心となっており、スーダンからの輸入はガムの原料となるアラビアガムなど天然資源が多いという。【加藤美穂子】
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海外に滞在している日本人の自衛隊機による輸送が行われれば6回目となります。最近ではアフガニスタン・カブールで邦人1名と現地住民を運んだ事例が。

日本を含めて各国とも自国民保護に向けて動いてはいますが、現地の戦闘が収まらないとスーダンに入ることもできません。
しかし、3回目の停戦合意も、これまで同様に機能していないようです。

ジブチには、日本の自衛隊の他、アメリカ・中国も拠点を構えていますので、各国がジブチで待機している状況です。

****スーダンの激しい戦闘続く、停戦設定時刻を過ぎても首都ハルツームなどで激しい銃撃音****
アフリカ北東部スーダンでは21日も、国軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)が激しい戦闘を続けた。

RSFは21日、イスラム教のラマダン(断食月)明けの祝祭に合わせた3日間の停戦に応じるとSNSで表明したが、開始時刻として一方的に設定した同日午前6時を過ぎても、首都ハルツームなどで激しい銃撃音が確認された。

国軍側は国連による停戦の呼びかけに反応していなかった。国軍トップのアブドルファタハ・ブルハン主権評議会議長は21日、戦闘が始まった15日以降初めて国民向けに演説。「我々は試練を克服し、国の安全と団結を守る」とRSFの壊滅を目指す姿勢を強調した。

各国でも自国民らの国外退避の準備を進めている。米国防総省は20日、米大使館員の退避に備え、近隣国に部隊を追加配備すると明らかにした。韓国の尹錫悦ユンソンニョル大統領も21日、軍輸送機派遣などの対策を迅速に進めるよう指示した。

世界保健機関(WHO)は21日、戦闘による死者は413人、負傷者は3551人に上ると明らかにした。【4月21日 読売】
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米紙ニューヨーク・タイムズは、米軍関係者の話として、最初の数百人の米兵がジブチに到着し始めたと報じています。

韓国の輸送機もジブチの米軍基地に待機しています。

日本では午後2時45分ごろ、C-130輸送機が、愛知・小牧基地からジブチ共和国に向け出発。
浜田防衛相はさらに、別の輸送機や空中給油輸送機も、準備が整い次第出発させると明らかにしています。

ただ、前述のように戦闘が収まらない状況では救出も困難です。
「アメリカが動く時に彼らがどう動くか、どう判断するかを見て、場合によっては自衛隊で足りない部分はアメリカにお願いすることも必要に」(軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏)【4月21日 テレ朝news】と、米軍の動向を見ながら、協調して・・・ということになるのでしょう。

****スーダン内戦激化…自衛隊が輸送機派遣へ 日本人60人救出どうなる? 風間解説委員「陸路の脱出はなかなか厳しい」****
武力衝突が起き、内戦状態にあるスーダン。首都ハルツームでは、軍と民兵組織の激しい戦闘が続いています。邦人の退避を政府が表明しましたが、どの国もスーダンに入ることすらできていないといいます。(中略)

風間解説委員「陸路の脱出はなかなか厳しい」
風間晋 フジテレビ解説委員:
とにかく今は危険すぎるということがあるんですけども、各国がスーダン国内に入るときは救出するために入るわけで、救出できるという見込みがないと入れないし入らないことなんだと思います。

陸路と空路という問題もありますが、陸路の場合は、そこそこ距離があるわけです。63人を何台かの車に分けて走らせる。その間も護衛しなくてはいけない。というようなことを考えると、陸路の脱出はなかなか厳しいものがあると思われます。

あともうひとつ言われているのは、首都の国際空港というのは、かなり壊されていて、使い物にならないんじゃないかっていうのは、目で見ても分かるんですけど、一方で首都の北方20㎞あまり行ったところに、政府の空軍基地があると。

その空軍基地から、実は今週エジプト軍機が離陸しているという情報があるんですね。
だから空軍基地の方は、もしかしたら国軍がとにかく全力で確保をしている可能性が考えられるので、だからまだ使える可能性が考えられるので、やはりそういうところを使わせてもらう。

でも現実問題として日本は単独で話をまとめる力はありません。
やはりそこは、アメリカだったり、ヨーロッパの国々がまとまって交渉したりとか、日本はその交渉に乗っからせてもらうということだと思うんですよね。

でもそのためには、やはり交渉の過程で日本もいなきゃいけない、いまどういうことになっているという情報をもらいながら、どうするっていう作戦を考えなきゃいけない。

そのためには、ジブチが今各国の集まっている場所ですから、ジブチにとにかく、自衛隊も早く入って、そういう話し合いとか、情報の中に自分たちもいなきゃいけないというのが今の現状だと思います。【4月21日 FNNプライムオンライン】
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仮に空軍基地が使える状況になったとしても、現地の日本人が自力で空港までたどり着けない可能性もある・・・ということで、自衛隊機が発着する空港まで、自衛隊の車両で運ぶ案も浮上しています。

地雷などが爆発しても走り続けられるブッシュマスターと呼ばれる輸送防護車などを派遣し、陸上輸送することが検討されています。

しかし、地雷には耐えても、攻撃を受けた場合どうするのか。安全の問題と、自衛隊の“応戦”をどうするのかという問題にもなります。

「(ブッシュマスターが)敵として見られる可能性がある。だから、攻撃を受ける可能性がある。ブッシュマスターは基本的には銃弾が飛んでいない所で使うのが前提」(軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏)【4月21日 テレ朝news】 これまでも、アメリカ外交官の車列が銃撃された事実もあります。

目下の在留邦人退避の問題の他に、スーダン自身の問題として、昨年12月5日に、10月にクーデターを主導したスーダンの軍事政権トップのブルハン統治評議会議長が民政移管に向けた枠組みで主要な民主派勢力と合意したと発表していましたが、この民政移管がどうなるのか? という問題があります。

ただ、その件は現在の混乱が収まらないことにはどうにもなりません。どういう結果になったとしても、軍事政権が残存し、民政移管は遠のくことが懸念されます。

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南スーダン  「また食べ物がないという悪夢」 「独立10年」への絶望と「次の10年」への希望

2021-09-10 23:07:31 | スーダン
(7月9日、南スーダン・ジュバの広場で国旗を掲げ独立記念日を祝う人たち【7月9日 共同】)

【「国に帰ってまた食べ物がない、という悪夢を見る」 日本で長期合宿のパラアスリート】
2011年に独立した世界で最も新しい国、南スーダン。

日本は、国連平和維持活動(PKO)の一環として2012年1月に自衛隊の施設部隊を国連南スーダン派遣団(UNMISS)に派遣し、道路改修などにあたりました。

しかし、宿営地の施設が被弾するなど、自衛隊が戦闘に巻き込まれる危険にも直面。2017年5月に部隊は撤収しましたが、司令部に要員を派遣し続けています。

部隊撤収後は日本における南スーダンへの関心は急速に薄れましたが、この南スーダンから陸上の代表選手とコーチ、計5人がJICA(国際協力機構)の斡旋で2019年11月に来日し、東京オリンピック・パラリンピックの出場を目指して群馬県前橋市で長期事前キャンプを続けていました。

その南スーダンの選手が語る母国での状況は、練習以前の問題として、食べることさえままならない現実です。

****南スーダン代表選手が語る母国の困難 「食べられない悪夢」をなくしたい****
南スーダンは国民の6割が日々の十分な食事を摂れずにいる、世界で最も飢餓の深刻な地域の一つ。選手団の中にも、何も食べられない日々を送った人がいます。私たちには何ができるでしょうか。

父は病死、何も食べられない日も
(中略)(選手たちの)滞在中は、前橋市が住まいや3度の食事、練習場などを、協賛企業が衣類やスポーツの道具をそれぞれ提供しています。前橋市へのふるさと納税を通じて、一般の人々からキャンプへの支援も集まっています。

「来日して、毎日3回食べられることが本当にうれしい」と語るのは、パラリンピック100メートルの選手、クティアン・マイケルさん(30歳)。南スーダン中央部の村で育ちましたが、18歳の時に父親を病気で失い、厳しい暮らしを強いられてきました。

家族を支えてくれる人は誰もいません。ラッキーな日は1度ご飯を食べられましたが、何も食べられない日もしょっちゅうでした」。パラアスリートとなり首都・ジュバで練習を始めてからも、生活費の援助は一切なかったそう。

「競技場まで歩いて3時間かかり、お金がなくて食べ物を買えない日は、練習に行く力も湧きませんでした。胃が空っぽではトレーニングはできません」。来日して栄養状態が改善したことで、自己ベストは1秒近く縮まりました。

「栄養をつけてエネルギーを蓄えてこそ、パフォーマンスが上がると実感しました。自信がつき、記録を更新したいという意欲も高まりました」

マイケルさんは生まれつき、右腕に障害があります。しかし誰よりも練習熱心で、走りは健常者のアスリートとも遜色がありません。将来は母国で、障害者を集めて競技会を開くのが夢です。

ただ、今は帰国して再び飢餓に直面することを恐れています。親しくなった前橋市の職員に「国に帰ってまた食べ物がない、という悪夢を見る」と、ポツリと漏らしたそうです。(中略)

総合的食料安全保障レベル分類 (IPC) 評価によると、南スーダンでは農作物の収穫量が減る7月になると、724万人が深刻な飢餓に直面し、140万人の子どもが急性栄養不良に陥る恐れがあります。

しかし今年4月、国連WFPは資金不足のため、同国で1人当たりの食料配給量を削減すると発表しました。これによって難民や国内避難民、70万人近くが影響を受ける見通しです。

飢える恐怖のあまり悪夢を見るというマイケルさんのような人を一日でも早くなくすため、国連WFPは厳しい状況の中でも懸命に、現地での食料支援を続けています。【8月11日】
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【国際パラリンピック委員会加盟が間に合わず大会出場出来ず】
しかし、上記記事にも紹介されているパラアスリートのマイケルさんは、パラリンピックに出場出来ませんでした。

****IPC 南スーダンのパラリンピック出場認めず “PCに未加盟”で****
24日に開幕する東京パラリンピックに参加するため前橋市で長期合宿を行っていた南スーダンの選手について、IPC=国際パラリンピック委員会は南スーダンがIPCに加盟していないとして大会の出場が認められないことを明らかにしました。

南スーダン出身で陸上男子の腕に障害があるクラスのクティヤン・マイケル選手は、母国の練習環境が十分でないとして、東京パラリンピックの出場を目指しおととしからホストタウンの前橋市で長期合宿を行っていました。

この選手についてIPCのスペンス広報部長は20日、NHKの取材に対して「南スーダンはIPCに加盟していないので大会には参加できない」として出場が認められないことを明らかにしました。

南スーダンは2011年に独立したあとも政府と反政府勢力の間で武力衝突が繰り返されるなど内戦状態でしたが、東京大会までにIPCに加盟することを目指していました。

マイケル選手とともに前橋市で合宿をしていた南スーダンの陸上選手2人は東京オリンピックに主催者の枠で出場しています。

東京パラリンピックにはおよそ160の国と地域から選手4400人が参加する予定ですが、これまでに北朝鮮とバヌアツ、それにアフガニスタンの不参加が明らかになっています。【8月20日 NHK】
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“大会開催までに国際パラリンピック委員会への加盟が間に合わず、出場が認められなかった”【8月23日 読売】とも。

このあたりに、独立後も民族対立を背景にした大統領派と副大統領派の内戦が続いた南スーダンの“食べること”“生きていくこと”で精一杯の混乱ぶりがうかがえます。

【内戦は停戦したものの混乱が続く】
****南スーダン、見えぬ未来 独立10年 各勢力の軍統合難航****
南スーダンが(7月)9日、独立から10年を迎えた。内戦を繰り返し、自衛隊もインフラ整備などを支援した「世界で最も新しい国」だが、人口の3分の1にあたる約390万人の難民や避難民は帰還のめどが立っておらず、国の先行きは不透明なままだ。
 
サルバ・キール大統領は同日朝、首都ジュバの大統領府で演説し、「私は再び内戦に戻ることがないことを国民に約束する。失われた10年を取り戻し、新たな10年でこの国を発展の道へと戻すために皆で力を合わせよう」と呼びかけた。
 
南スーダンは、1955年から05年まで断続的に続いた武装闘争の末、11年にスーダンから分離独立。だが、13年12月、最大民族ディンカ出身のキール大統領と、2番目に多い民族ヌエル出身のマシャル副大統領の間で緊張が高まり、ジュバでの戦闘をきっかけに全土で内戦に突入。約40万人が犠牲になったとされる。(中略) 
 
18年にキール氏とマシャル氏などの間で和平合意が成立し、20年2月に暫定政府が発足した。だが、各勢力を国軍に統合する計画が進まないなど、合意内容の実現は遅れている。

政府のガバナンスなどを監視する現地NGOのエドムンド・ヤカニ事務局長は「平和と安定は軍統合の成否にかかっているが、階級の割り当てなどをめぐる争いで進まない。新たに内戦が起きないか恐れている」と話す。

 ■国内720万人、食料不足
内戦で家を追われた人々の苦しい生活は今も続いている。
 
7月8日朝、首都ジュバ郊外にある計約3万1千人が暮らす避難民キャンプを訪れた。
複数の避難民によると、昨年キャンプの運営が国連から政府に移管されて以降、生活環境は悪化。給水が制限されるようになり、近くの溝を流れる水をくんでしのぐ。
 
世界食糧計画(WFP)による支援が続いてきたが、コロナ禍で財源不足に陥り、配給は基準の半分に落ち込んでいるという。国連人道問題調整事務所(OCHA)は、今年5~7月に国内の約720万人が食料不足に陥り、独立以来、最悪の状況だと指摘する。
 
それでも、避難民で起業家を目指す男性(29)は「指導者たちが協力できれば、戦後の日本のように国を立て直すことはできる」と希望を語った。【7月10日 朝日】
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大統領派と副大統領派の内戦は一応2018年に停戦したものの、副大統領派の分裂など不安定な状態は続いています。

****南スーダン戦闘、30人超死亡 副大統領派が分裂****
南スーダンでマシャール第1副大統領を支持してきた勢力が分裂し、7日までに戦闘を開始した。副大統領派の報道官は同日、敵対する勢力の有力司令官を含む29人を殺害、自派の兵士3人が死亡したと明らかにした。ロイター通信が伝えた。
 
一方、副大統領派と敵対する勢力側は兵士28人を殺害したと発表。4日にマシャール氏を指導者から「解任した」と主張しており、戦闘の激化が懸念されている。
 
マシャール氏は5日、敵対勢力側が南スーダンの和平プロセスを阻害しようとしていると批判していた。【8月8日 共同】
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【「独立10年」への絶望と「次の10年」への希望】
こうした南スーダンの現状に絶望を隠さない人も、あるいは、「次の10年」に希望を託す人も。

****希望と絶望抱え…世界一若い国が独立10年 最貧のアフリカ南スーダン****
東京五輪の開幕が間近に迫った7月上旬、世界196カ国のうち一番若い国が独立10年を祝った。アフリカ東部に位置する南スーダンだ。

多くの犠牲を経て2011年に始まった新国家の歩みは決して順調とは言えない。国連開発計画(UNDP)が昨年12月に発表した国民生活の豊かさを示す「人間開発指数」の世界ランキングでは下から4番目だった。

最貧国を抜け出せないまま訪れた「次の10年」。人々の思いには希望と絶望が入り交じっている。

▽血塗られた歴史
「平和の中で独立10年を迎えられたことをうれしく思う」。独立記念日の7月9日、首都ジュバの大統領府でサルバ・キール大統領はこう演説し、国家の安定を強調した。演説の直前には記念日を祝うショートマラソン大会がジュバ市内で開かれ、リアク・マシャール第1副大統領が「過去の不幸を忘れて国家の新しい章を開こう」と観覧席から訴えた。集まった数千人の市民から歓声が沸き上がり、会場は大興奮だ。
 
政府首脳2人の前向きな発言の背景には血塗られた歴史がある。南スーダンは05年まで20年以上続いた内戦を経て、11年にスーダンから独立した。当初は豊富な地下資源を活用した経済発展が期待されたが、政権内でキール氏とマシャール氏が対立し、両氏の出身民族を巻き込んで13年12月に再び内戦に突入。18年9月の和平協定締結までに約40万人が犠牲になったとされる。
 
20年2月、共同で権力を握る現政府が発足し、両陣営は元のさやに収まった。民主的な選挙を23年までに実施することを目指しているとされ、権力闘争は表面上、一時休戦となっている。
 
ただ不穏な空気は晴れない。キール氏とマシャール氏が独立記念日を公の場で共に祝うことはとうとうなかった。

今年8月に入ると、マシャール陣営内の分裂が表面化。反マシャールに転じた勢力は同氏を指導者から「解任した」と主張した。対立する勢力間では激しい戦闘が起きたとみられ、ロイター通信は何十人もの死者が出た可能性を伝えた。次の10年の始まりには、早くも暗雲が垂れ込めている。
 
▽悲しみ抱えた難民生活
独立後の内戦では多くの人々が南スーダンから逃れ、今も220万人以上が国外で暮らしている。多くは祖国での悲しい思い出を抱えたまま、経済的にも苦しい日々が続く。隣国エチオピアの首都アディスアベバで出会ったジョックさん(29)=フルネーム非公表=もそんな中の一人だった。
 
「おれの生活を見てみろよ。独立10年に何の意味がある」。7月9日の独立記念日が近づいてきた6月後半、自宅がある貧困地区の薄暗いカフェの片隅で聞いたジョックさんのつぶやきにはあざけりと怒りが込められていた。
 
11年の南スーダン独立時は学生だった。首都ジュバ郊外で両親や兄弟との9人で暮らし、スーダンからの分離闘争を経ての祖国誕生は「まさに喜びだった」。原油などアフリカ諸国有数の豊富な地下資源が、明るい未来を約束しているかのように感じたという。
 
だが現実は違った。政権内の主導権争いが激化。ジョックさんの民族はマシャール氏と同じヌエル人で、キール氏が属するディンカ人との間で緊張が高まった。
 
悲劇が起きたのは13年12月の夜。近所の人と夕食を囲んでいると背後から銃声が響き、目の前で3人が倒れた。「ディンカだ!」。当時9歳だった弟の手を引いて一目散に闇の中を逃げた。その日以来、他の家族の行方は分からない。
 
逃げた方向が同じだった約50人で一緒にコンゴ(旧ザイール)国境を目指した。森林をさまよう決死の逃避行。「動けなくなった人は置いていった。仕方なかったんだ」。7日後にコンゴの名も知らない町にたどり着いた時には、仲間は20人ほどになっていた。
 
コンゴで国連機関の保護を受け、難民として弟と共にエチオピアに受け入れられた。「安全だが仕事はない」。わずかな公的補助を頼りに、同じ境遇の南スーダン人同士で寄り添い合って生きている。最近、難民仲間の女性(21)と結婚したが、生活力がなく同居はできない。
 
「もちろんいつかは彼女と暮らしたい。仕事があるなら、どこの国にだって行くさ。おれから全てを奪った南スーダン以外なら…」
 
▽国歌への思いもう一度
ジョックさんのように祖国への絶望を隠さない人がいれば、国内にはその行く末に希望を見いだそうとする人々もいる。国歌の誕生を支えたジュバ大学コーラス隊メンバーら、当時の学生たちだ。この10年への思いを聞きたくて、独立記念日2日前の夜、既に社会人となった彼らにジュバ市内のレストランでささやかな“同窓会”を開いてもらった。
 
「新しい国の始まりに貢献できたわけだから、それは光栄な気持ちでいっぱいだったよ」。ITエンジニアのエベネザ・ゴレさん(32)は卓上のスープを口に運びつつ懐かしげに語った。
 
分離独立の道筋が見えた10年ごろ、南部スーダン自治政府(当時)のリーダーたちは新しい国歌の歌詞を定め、旋律は複数の音楽家に作曲を打診し選ぶことにした。ある作曲家グループがジュバ大学のゴレさんら約30人に歌唱を依頼し、同年秋のコンテストで歌ったものが採用された。
 
その後、歌詞の一部改訂を経て生まれたのが今の国歌「南スーダン万歳!」だ。聴いてみると、国歌一般に抱いていた荘厳なイメージは裏切られ、軽快な響きが印象に残る。
 
「近隣国で流行していた音楽のコード進行やリズムを取り入れたんだ。これからの国なんだから重たい感じはふさわしくないと思ってね」。作曲補助と編曲を担当した音楽プロデューサーのエイブラハム・コスタさん(32)は振り返る。生まれてくる祖国を待ち受けているはずの幸福な未来への願いを明るい調子に託したという。

コーラス隊は小中学校を訪れ国歌の普及に努めた。11年7月9日の独立の日にはジュバ中心部の祝賀会場で、300人を超える大編成を組み、高らかに歌った。
 
政権内の主導権争いの末に内戦が始まり、夢は色あせた。ゴレさんらは「内戦時のことは思い出したくない」と口が重い。明るい将来を信じて共に歌った仲間の中には、命を落としたり国外へ逃れたりした人もいた。

国歌の普及活動も頓挫した。「国歌を少しでも歌える国民なんて今はほとんどいないだろうね」。元コーラス隊で、コスタさんと音楽活動を続けるジョン・ボスコさん(34)が浮かべた笑みは自嘲気味だった。
 
政情不安の続く南スーダン。だが内戦は18年に一応の終結をみた。彼らにとってはわずかな光が差し込む中での建国10年。「また独立時と同じ気持ちで国歌と向き合いたい」。この日の会合ではこんな言葉も聞こえてきた。
 
「平和と調和の中でわれらに団結をもたらしたまえ」―。あのころ力いっぱいに歌った歌詞の願いはまだかなっていない。それでも元コーラス隊の気持ちは同じだ。「次の10年でこそきっとかなうはず。いつか平和な世の中で、この歌が歌い継がれるようになってほしい」【9月10日 47NEWS】
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スーダン  ダルフール紛争の和平合意調印 「テロ支援国家」指定の解除のために米が求めるものは

2020-10-05 23:06:42 | スーダン

(南スーダンの首都ジュバで3日、和平合意書を前に拳を突き上げるスーダン統治評議会のブルハン議長(左)。中央は南スーダンのキール大統領、右はチャドのデビ大統領=ロイター【10月5日 朝日】)

 

【2016年ダルフール住民投票】

次から次に新たな「最悪の人道危機」が起きる世界にあって、もはや忘れ去られた感もあるのがアフリカ・スーダンのダルフール紛争。

 

****世界最悪の人道危機****

2003年2月、アラブ系中心の政府に不満を募らせたダルフール地方の黒人系住民が「スーダン解放軍」(Sudan Liberation Army)、「正義と平等運動」(Justice and Equality Movement)などの反政府勢力を組織して蜂起、紛争が勃発した。

 

その後、スーダン政府軍と政府軍を支援する民兵組織「ジャンジャウィード」(Janjaweed、"馬に乗った悪魔"を意味する)により黒人居住の村々が襲撃され、地元の農民や一般市民はジャンジャウィードの手による無差別殺戮・強制移住の犠牲となった。

 

正式な人数は把握されていないものの、これまでに30万人以上が死亡、250万人以上が避難民になり(今年だけでも10万人以上の避難民が生まれたと推定されている)、440万人が人道支援を必要としている。

 

スーダン政府はジャンジャウィードとの繋がりを否定している。

 

なお、ダルフール紛争での無差別殺戮や強制移住は正式にジェノサイド(集団殺害)の認定は行われてはいないものの、元アメリカ国務長官のコリン・パウエル氏は当時これをジェノサイドと表現している(2004年)。

 

なおダルフール地方では1956年のスーダン独立以来紛争が頻発しており、1972年から1983年の11年間を除く期間に、200万人の死者、400万人の国内避難民、60万人の難民が発生したと考えられている。【2016年04月15日 原貫太氏 HUFFPOST】

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さしものダルフール紛争も2016年には下火となり、2010年10月23日カタールの首都ドーハで、カタール政府などの仲介により、スーダン政府と主要反政府勢力「正義と平等運動」が即時停戦を含む「ダルフール問題解決のための枠組み合意」に調印。また、2013年2月10日にはスーダン政府と「正義と平等運動」が、カタールの首都ドーハで停戦協定に調印しました。

 

このドーハ和平合意を受けて2016年にはダルフールの統治形態について住民投票が行われました。

 

****スーダン・ダルフール地方で住民投票が実施 「世界最悪の人道危機」に終止符は打たれるか****

投票は、スーダン政府とダルフール反政府勢力との間で締結されているドーハ和平合意の最終段階として行われる。

北アフリカに位置するスーダン共和国のダルフール地方で、行政形態を決めるための住民投票が今月11日(月)から始まり、昨日13日(水)をもって終了した。(中略)

 

本投票では、北・西・中央・南・東ダルフールへと5つに分割されているダルフール地方を、現在の分割形態を残すかもしくは一つの地域へ統合するかに関して争われており、スーダン政府は、今回の投票が長年続く紛争の根本的問題を解決することに繋がっていくとの見解を示している。

 

その一方、反政府軍やその他の反対派は今回の投票は公平ではないと訴えており、投票のボイコットを呼び掛けている。

 

またアメリカ国務省は、「現在のルールや状況下で投票が行われれば、それはダルフールの人々の意志を確かに表したものだと考える事は出来ない。」と声明を出している。(中略)

 

なお、ダルフール地方が一つに統合されることは反政府軍が独立を求めるための追い風となるため、スーダン政府は同地方の統合に反対していると考えられている。

 

投票の結果は予定では来週発表される。今の状態から察するに、ダルフール地方は分割されたまま残る可能性が高いが、その場合は選挙の不公平さなどを理由とし、政府側・反対派との間での更なる紛争に繋がっていく懸念もある。

 

しかしながら、その反対に仮にダルフール地域が統一された場合を考えても、その後、独立の機運の高まりへと繋がり、政府側との間で更なる軋轢が生まれるかもしれない。長年続く紛争の政治的解決の着地点がどこになるのか、今後の動向に注目したい。【同上】

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この住民投票実施については、このブログでも以前取り上げた記憶がありますが、正直なところ、その後の展開については把握していません。(当時は世界の耳目は南スーダンの紛争に集まっており、スーダンの動向にはほとんど関心が向けられていなかったという事情もあります。)

 

【2019年クーデターでバシル失脚 「民主化」へ】

その後、スーダンでは2019年4月、クーデターによってバシル大統領(当時)が拘束されましたが、この混乱時に、ダルフールで悪名をはせたジャンジャウィードの名前を目にすることに(下記記事の“ダルフール紛争で住民虐殺を行った民兵組織”)。

 

****「どうなる スーダンの民主化」****

「特集ワールドEYES」、けさは、アフリカのスーダン情勢についてです。30年にわたる独裁政権を築いたバシール前大統領が、2か月前、民主化を求める民衆のデモと、軍のクーデターにより失脚しました。

 

実権を握った軍に対し、民主化勢力は、民政への移行を求めて、今週、ストライキなど「不服従」の抗議行動を開始しました。緊迫の度を加えるスーダンの民主化について考えます。スタジオには、出川解説委員です。

 

Q1:こうした事態に至った原因は何でしょうか。

 

A1:
今回のスーダンの政変、2つの要素があります。「民衆革命」と「軍によるクーデター」です。

 

バシール前大統領は、もともと軍人で、1989年、クーデターで政権を握りました。軍による支配と「国民イスラム戦線」というイスラム主義政党による支配を結合させた特異な独裁体制を築き、30年にわたって君臨したのです。

 

反対勢力を徹底的に抑え込み、2003年、西部のダルフール地方で起きた紛争では、およそ30万人が犠牲になりました。バシール前大統領は、大量虐殺を命じた容疑で、国際刑事裁判所から逮捕状が出されています。

 

8年前、スーダンの南部が、「南スーダン」として分離独立すると、スーダン政府は、石油収入の4分の3を失い、財政難に陥りました。去年12月、補助金のカットで、主食のパンの値段が3倍に跳ね上がって、人々の怒りが爆発し、バシール前大統領の退陣を求める抗議デモが、3か月以上続きました。

 

そして、4月11日、国防相など軍の幹部らが、バシール大統領の身柄を拘束し、軍事評議会を設立し、暫定統治の主導権を握りました。これに対し、民主化勢力は、「軍人が支配する暫定政権は認められない」として、速やかに民政に移行するよう強く要求。首都ハルツームにある軍の本部前で、抗議の座り込みを続けました。

 

先月15日、軍事評議会と民主化勢力の代表が、協議の結果、3年後に選挙を実施し、民政に移行することで基本合意しました。

 

ところが、軍事評議会は、選挙までの期間、主導権を手放さない姿勢を示したため、両者の協議は行き詰まりました。

 

こうした中、今月3日、軍事評議会が、武力によるデモ隊の強制排除に乗り出したのです。民主化勢力によりますと、ダルフール紛争で住民虐殺を行った民兵組織を母体にした部隊が、銃や刃物でデモの参加者を次々と殺害し、遺体をナイル川に投げ込んだということで、120人以上が犠牲になり、500人以上がけがをしたと見られています。(後略)【2019年06月12日 NHK「特集ワールドEYES」 出川展恒解説委員】

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軍事評議会と民主化勢力の対立はなんとか収まり、(ダルフール紛争のイメージからすると信じがたい感もありますが)「民主化」スーダンが船出しています。

 

【暫定政府の最優先事項 ダルフール内戦終結】

ダルフール紛争については、最終的な和平合意はこれまでなされていなかったようで、今月3日にスーダン暫定政府と反政府勢力の間で合意が調印されました。

 

****スーダン暫定政府と反政府勢力、和平合意に調印****

スーダン暫定政府と反政府勢力は3日、隣国南スーダンの首都ジュバで、数十年にわたって多数の死者を出した内戦の終結を目指し、画期的な和平合意に調印した。

 

調印は暫定政府と「スーダン革命戦線」の代表により、和平交渉が始まってから1年後のタイミングで行われた。SRFは激しい紛争があった西部ダルフール地方に加え、南部の青ナイル州や南コルドファン州の武装勢力で構成されている。

 

和平合意は、土地の所有権、損害賠償、権力の分担、難民および国内避難民の帰還といった数々の難しい問題をカバーしている。反政府勢力はスーダンが政教分離を保障する新憲法を制定するまで、「自衛」のため武器を持つことが認められている。

 

南コルドファン州と青ナイル州には相当数のキリスト教徒がおり、首都ハルツームの政権によるイスラム法の適用停止を求め、数十年にわたって闘争を続けてきた。

 

スーダン暫定政府のトップであるアブデル・ファタハ・ブルハン最高評議会議長とアブダラ・ハムドク首相は、欧州連合と国連とともに、今回和平合意に調印しなかった有力な2反政府勢力に和平プロセスへの参加を呼びかけた。

 

これらの反政府勢力は、ダルフールを拠点とする「スーダン解放運動」の分派と、南コルドファン州を拠点とする「スーダン人民解放運動北部勢力」の分派。軍によると前者は9月28日に攻撃を行ったという。後者は別の停戦合意に調印した。

 

スーダンでは強権的な体制を敷いたオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が一連の民主化デモを受けて2019年に政権の座を追われて以来、内戦終結が暫定政府の最優先事項に位置づけられている。

 

和平交渉は、その指導者らが反政府勢力としてスーダン政府と数十年闘い、2011年に独立を果たした南スーダンが仲介した。南スーダンも自国内の和平実現に向けて苦戦を強いられている。

 

スーダンは、米政府からテロ支援国家に指定されていることに加え、長年続いた米政府による経済制裁や、産油地帯がある南スーダンの独立によって国内原油埋蔵量の4分の3を失ったことが響き、経済が低迷。約83万人が被災した最近の水害で、状況はさらに悪化している。 【10月4日 AFP】

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調印が南スーダンの首都ジュバで行われたということで、スーダンから分離独立した南スーダンとスーダンの関係、内戦が続いていた南スーダンの現状も気になるところですが、そこはまた別機会に。

 

****合意実現、課題は経済 外国に支援呼びかけ スーダン****

(中略)署名式は南スーダンの首都ジュバで3日に開かれた。暫定政権トップのスーダン統治評議会のブルハン議長は「この合意がスーダンを正義、自由、民主主義の国へ転換する一助となる」と語った。(中略)

 

合意では、反政府勢力の戦闘員が暫定政権の治安部隊に合流するほか、紛争地から避難した人々が元の土地に戻る機会を保証した。

 

南スーダンのキール大統領は「現在の経済状況では、合意内容の実現は簡単なことではない」と国際社会に支援を呼びかけた。和平合意にこぎつけた暫定政権だが、バシル政権から引き継いだ経済危機は悪化しているのが実情だ。

 

経済危機から脱し、外国からの投資を呼び込むために暫定政権が求めているのが、米国による「テロ支援国家」指定の解除だ。バシル政権時代の1993年、イスラム過激派への支援を理由に指定された。

 

ハムドク首相も9月の国連総会で「国際社会と協力し、テロと戦う努力をする」と演説。「私たちはテロ支援国家のリストから外されるべきだ」と理解を求めた。【10月5日 朝日】

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【暫定政府が求める「テロ支援国家」指定の解除 アメリカはイスラエルとの国交正常化を求める】

上記記事にあるように、スーダンが求めているのがアメリカの「テロ支援国家」指定の解除ですが、アメリカはこの解除を梃にスーダン側に圧力をかけているようです。

 

その圧力の具体例のひとつが、UAE・バーレーンに続く、イスラエルとの国交正常化。

スーダン内部には慎重姿勢があることが8月段階では報じられていました。

 

****対イスラエル正常化で「勇み足」?=外務報道官解任―スーダン****

スーダンで(8月)19日、イスラエルとの国交正常化に前向きと受け止められる発言を一方的に行い混乱を招いたとして、外務省報道官が解任された。国営メディアが伝えた。

 

スーダンはイスラエルとの外交関係はないが、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化合意に追随する可能性が取り沙汰されている。

 

同報道官は18日、ロイター通信などに対し、イスラエルとUAEの合意を「地域の平和に寄与する大胆な一歩」などと評価。スーダンもイスラエルと接触を重ねていると述べていた。

 

これに対し、外務省は声明で、報道官の発言に「驚いた」とした上で「省内で対イスラエル関係は議論されていない」と強調した。

 

スーダンのブルハン統治評議会議長は2月、ウガンダでネタニヤフ・イスラエル首相と会談し、関係正常化への協力開始で合意。ネタニヤフ氏は今月18日にツイッターで「イスラエル、スーダンと地域全体は和平合意から利益を得て、より良い未来をつくることができる」と秋波を送っていた。【8月20日 時事】 

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****イスラエルと国交正常化「困難」 米国務長官訪問のスーダン****

ポンペオ米国務長官は(8月)25日、スーダンを訪問し、ハムドク首相と会談した。ハムドク氏は米国が求めるイスラエルとの国交正常化について、現在は暫定政権下にあり「決定の権限がない」として、当面困難との考えを示した。スーダン政府が発表した。

 

スーダンでは昨年、約30年間続いたバシル政権が崩壊して軍民共同統治中で、民政移管までの3年3カ月、暫定政権が置かれる。スーダンはイスラエルと目立った対立がないことから、国交正常化で合意したアラブ首長国連邦(UAE)に追従するとの観測もある。【8月25日 共同】

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ただ、トランプ再選にむけた「成果」が欲しいアメリカ側はあきらめたわけではなく、「圧力」というか、協力要請は続いているようです。

 

****イスラエル・スーダン関係正常化?****

先日、最近UAEとバハレンに次ぐイスラエルとの関係正常化はクウェイトととかスーダンとかの名前が挙がっているが、どうやらスーダンと言うことになりそうだとお伝えしたかと思いますが、al qods al arabi net は、イスラエル放送等によると、スーダンのブルハン主権評議会議長が近日中にウガンダで、ネタニアフ首相と会談するが、協議の主題は関係正常化であろうと伝えています。

またスーダン筋によると、両者の会談の日時は26日が予定されている模様。

他方スーダン外相は24日、スーダンをテロ支援国家のリストから除外する交渉は(1993年からアルカイダの指導者オサマビンラーデンはスーダン滞在を認められていたが、1998年ケニア等でのアルカイダによる米大使館爆破事件等に関連して、スーダンがテロ支援国家のリストに載せられていた。その犠牲者に対する補償問題とリストからの除外問題が話し合われていた模様)、合意にごく近いと語っていて、その意味でもスーダンのイスラエルとの関係正常化の条件が整ってきたと思われる

但し、スーダン内には正常化反対の勢力も強いとされているので、公式の発表までは慎重に見た方がいいかもしれません。【9月25日 「中東の窓」】

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本来、「テロ支援国家」指定の解除とイスラエルとの国交問題は全く別物ですが、そこらが「取引」されるのが国際政治の実態なのでしょう。

 

【アメリカの要求 イエメン派兵も?】

アメリカの「圧力」に関しては、もうひとつ。

 

****スーダン兵のイエメンへの派遣****

al jazeera net とal qods al arabi netは、英国のMiddle east eye誌が、スーダンがサウディ経由で、1000名以上の兵士をイエメンに送っていると報じています。

それによると、9月22日に1018名からなるスーダン部隊が、海路サウディに入り、イエメン国境に近いジャザーンに到着したたが、その2日前には輸送機2機が先遣部隊をジャザーンに送り込んでいるよし、

記事は更にスーダンはバシール政権の下で、イエメンに対するアラブ連合軍に参加し、一時は15000名の兵士をイエメン各地に派遣していたが、その後その大部分を撤収し、650名程度が残存していた由

スーダンの現政権に対しては、米、UAE等からスラエルとの関係正常化の圧力がかけられ(米国はその対価としてスーダンをテロ支援国家のリストから除くとしていた模様)、このスーダン兵のイエメンへの再派遣もその一環である可能性があるところ、取りあえず。【10月3日 「中東の窓」】

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テロ支援国家」指定の解除を約束するかわりに、イエメンへの派兵を求める・・・事実であれば、ますます奇妙な話ですが、これまた国際政治の実態なのでしょう。

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アルジェリア・スーダンは「民主化」か「混乱」か 遅い南スーダンの和平 ローマ法王、異例の要請

2019-04-13 22:35:35 | スーダン

(11日、南スーダンのキール大統領(中央)の前にひざまずき、靴にキスをするフランシスコ法王【413日 朝日】)

 

【アルジェリア 7月に大統領選 既得権益層の存在、経済問題、IS浸透の危険も】

47日ブログ“北アフリカ(アルジェリア・スーダン)でうごめく抗議行動 「アラブの春」再燃? リビアも緊迫”で取り上げた、アルジェリアやスーダンの「新たなアラブの春」もしくは「遅れてきたアラブの春」は刻々と進展しています。

 

アルジェリアでは4期20年にわたる長期政権を続けてきたブーテフリカ大統領が、現実に執務できないほどの健康上の問題がありながらも、国民生活を改善できないまま政権に居座ろうとしましたが、国民の反発を受けて辞任に。

 

後任のベンサラ暫定大統領に対する国民不満も強く、状況は収まっていません。

こうした状況で、政権は74日に大統領選挙を実施すると発表しています。

 

****アルジェリア、7月に大統領選 首脳交代もデモ続く****

アルジェリア大統領府は10日、74日に大統領選挙を実施すると発表した。同国では長期にわたり政権を握ってきたアブデルアジズ・ブーテフリカ大統領が辞任した後も、現政権に対する抗議デモが続いている。

 

アブデルカデル・ベンサラ暫定大統領は大統領府の発表に先立ち、「透明な」選挙の実施を約束していた。

 

国民評議会の議長を務めていたベンサラ氏は前日の9日、憲法の規定に準じて任期90日間の暫定大統領に就任したが、デモ参加者らはブーテフリカ氏の側近だったベンサラ氏の就任に激しく反発。

 

7週間にわたり反政府デモが続いている首都アルジェでは、10日も警察が監視する中で数千人がデモを行い、「ベンサラは出ていけ」「自由なアルジェリアを」とのシュプレヒコールをあげた。

 

ベンサラ氏は憲法により次期大統領選への立候補が禁じられているが、デモ隊は同氏退陣を要求し続けており、学生や判事らは10日、アルジェを含む同国各地での集会や行進の継続を呼び掛けた。 【411日 AFP】

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後述のスーダンも同様ですが、こうした動きが「民主化」につながるのか、かつての「アラブの春」のように内戦や過激派台頭をもたらす「混乱」に終わるのか・・・これからが正念場です。

 

アルジェリアの今後について、下記記事で島田久仁彦氏は、実質的な改革を阻害する権力を取り巻く特権階層の存在、深刻な経済・財政状況、そしてシリア・イラクからのISの移動をあげています。

 

****国際交渉人が警戒。アルジェリアの政変が地域にもたらす変動の嵐****

アルジェリアのブテフィリカ大統領が辞任を表明しました。この知らせをアルジェリア人から受けたというメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者の島田さんは、独裁体制は終わっても、アルジェリアの未来に明るい光が差したとはとても言えないと、理由を3つ上げて解説しています。

 

さらに、アルジェリアの動静は、トルコの中東での立場の変化も相まって、北アフリカ・中東地域に大きな変動を引き起こすかもしれないと警戒を呼びかけています。

 

中東・北アフリカ地域が直面する再編の波

(中略)2010年に隣国チュニジアで端を発した『アラブの春』では、アルジェリアでもブテフィリカ氏の独裁に対する混乱はありましたが、「国民の声を聴く」と社会保障の拡充や職の斡旋といった社会政策を通じて、何とか抑え込むことが出来ていました。

 

しかし、その際の社会政策はさらなる国家経済の破綻の引き金となり、長引く原油価格の低レベルでの安定は、アルジェリア経済を回復不可能なレベルまで悪化させ、失業率も45割に到達する事態になっていました。

 

その元凶をブテフィリカ氏とその周辺の特権層に見つけた国民は、首都アルジェはもちろん、アルジェリア各地で大規模なデモに訴え、ついにブテフィリカ氏の独裁体制に終止符を打つことになりました。

 

ここまでであれば、「ついにアルジェリアも近代化され、明るい未来が…」というストーリーに繋がるはずなのですが、どうもそう一筋縄では行かないようです。

 

それはなぜか?主に3つの理由が考えられます。

1つ目は、先にもお話したブテフィリカ氏の取り巻き、Pourvoirの存在です。国民の支持を失ったブテフィリカ氏を切り捨て、自分たちの特権を堅持するためにさまざまな策を尽くすと思われるからです。

 

(中略)つまり、20年にわたったブテフィリカ氏の独裁体制が“終焉”したとはいえ、実質的な変化は起こらないでしょう。

 

2つ目には、積み重ねられた財政赤字と悪化する一方の失業率の存在です。2018年のデーターでは、失業率は12%ほどですが、20代から30代の失業率については、50%から60%と算出されており、若年層での社会不満が顕著になってきています。

 

また、日本のように失業保険制度は存在しないため、大学教育や専門教育を受けても働き口がなく、収入のあてもないという状況です。(中略)

 

そしてアルジェリア経済を立ち行かなくさせてしまっている元凶は、一向に改善しない原油価格です。

 

国家財政に占める石油関連産業の割合が少なくとも6割という経済であるため、国としての収入も年々減少しているにもかかわらず、失業対策で始めた公共事業が立ち行かず、費用ばかりがかさむという悪循環に陥っているため、アルジェリア財務省筋によると、「本当にヤバイ」のだそうです。

 

この“やばい!”状況は、数年前からIMFや世界銀行でも問題視されているのですが、ブテフィリカ政権はその“やばさ”を否定してきたため、国際的な金融支援も滞っています。

 

ゆえに、ブテフィリカ後のアルジェリアにおいても、目立った改善の種は見当たらず、国家財政の破綻と、生活環境の著しい悪化がもたらすcivil unrestの懸念が高まってきています。

 

そして3つ目は、高まる国家安全保障上の危機です。

最近のニュースでは、ISISの危機は去ったとの情報もありますが、それはあくまでも“シリア”“イラク”に限った話であり(といっても真相は??ですが)、その他の国ではまだまだ勢力を保っているか、増殖しています。その一つがアルジェリアと言われています。

 

その理由は、カダフィー大佐が民衆に惨殺されて以降、リビアでは無政府状態が続いていますが、そこに北アフリカ地域に勢力を伸ばすISISの中心が移ってきています。そのリビアの隣国ともいえるのが、アルジェリアです。

 

これまでは、現在大統領代理を務めているベンサラー将軍率いる国軍の健闘もあり、アルジェリアにおいては大規模なISISによる攻撃は起こっていないとされていますが、2016年あたりから激化しているアルジェリア南部にある炭鉱町を舞台にした武力衝突の背後には、ISISの戦士たちがいるとされています。

 

イラクに展開していたISIS勢力がイラクから駆逐されたとされる今、その残存勢力がリビア周辺に集まっています。今年に入ってから、ブテフィリカ氏の求心力の著しい低下と、民衆の不満の爆発、立ち行かない経済といった諸事情もあり、“生存を求めてISISと与する”という流れがあるように聞いています。

 

また、治安部隊や警察に対して、給与支払いが滞っているようで、次々と人員の離反が進んでいるようで、国内の治安状態の悪化は著しく、もう国軍の力では抑えきれない状況になっているようです。

 

もし、アルジェリアが近々、倒れるようなことが起きると、モロッコやチュニジアという周辺国はもちろん、北アフリカ地域と中東をつなぐ大国エジプトも一気に倒れ、その悪影響はドミノ倒しのように中東全域に広がりかねません。もうすでにシリア、イラクは言うまでもなく、イエメンなどでも惨憺たる状況が広がっているわけですから。(後略)【410日 MAG2NEWS

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【スーダン 軍によるバシル大統領拘束 軍事評議会議長は1日で交代】

一方、物価上昇に対する抗議デモが昨年末から続いていたスーダンでは、実質的な軍事クーデターで、バシル大統領は軍に拘束される事態となっています。

 

****スーダン大統領、辞任 軍がクーデターか****

アフリカ北東部スーダンで、軍事クーデターを経て30年にわたり政権を握ってきたバシル大統領(75)が11日、辞任に追い込まれた。軍当局が同日、発表した。物価上昇に対する抗議デモが昨年末から続いており、軍が事実上のクーデターを起こしたとみられる。

 

国防相は国営放送を通じ、「バシル氏を拘束した。今後、2年間にわたって暫定の軍事政権を発足させる」と述べた。政権幹部が逮捕されたとの情報もある。(中略)

 

スーダンは、油田の8割を占めた南部が2011年に南スーダンとして独立し、石油関連の輸出が約75%減少した。米国から「テロ支援国家」に指定された影響もあって経済難が続き、昨年末には物価上昇をきっかけに各地で抗議デモが発生した。

 

バシル氏は経済改革を約束しつつ、今年2月には、1年間の国家非常事態を宣言し、不満の抑え込みを図った。しかし、人々はバシル氏の辞任を求め、今月にはハルツームの軍本部前でも連日デモを続けていた。

 

バシル氏は1989年に軍事クーデターで政権を掌握。2003年に始まり、推定30万人の犠牲者が出たとされるダルフール紛争での集団殺害などの容疑で国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。(後略)【412日 朝日】

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しかし、勢いづいた抗議の矛先は権力を掌握した軍部にも向けられています。

 

****スーダンのデモ隊、軍による政権移行を拒否 抗議継続を宣言****

スーダンで長期政権を維持してきたオマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領が軍のクーデターで解任されたことに関し、同大統領の強権支配への抗議活動を続けてきたデモ隊は11日、軍の評議会による政権移行を拒絶し、デモの継続を宣言した。

 

アワド・イブンオウフ国防相は国営テレビで、「政権を打倒」し、バシル大統領は「安全な場所」で拘束されていると発表。30年におよぶバシル政権の支配に幕が閉じられた。

 

イブンオウフ氏は、今後2年間、大統領に代わり暫定軍事評議会が設置されると説明。また、新たな発表があるまでは国境および領空は閉鎖するとした。一方で、デモ隊に警告を発し、午後10時〜午前4時までの夜間外出禁止令を出した。(中略)

 

これに対し、昨年12月からバシル政権に対する抗議活動を続けてきたデモ隊は、軍のこうした動きを拒否し、政権が一掃されるまで抗議運動を継続すると宣言した。

 

陸軍本部前でデモ隊のシュプレヒコールを先導する様子がインターネット上に拡散し、抗議運動の象徴となったアラー・サラハさんは、「人々は暫定軍評議会を望んでいない」と述べた。

 

サラハさんはツイッターの投稿で「バシル政権全体が軍事クーデターでスーダン市民を欺いている限り変化は訪れない」と主張。「われわれは市民評議会主導の移行を望んでいる」と述べた。 【412日 AFP】AFPBB News

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こうした国民の不満に押されたのか、あるいは軍内部の権力闘争か、軍事評議会議長がわずか1日で交代するという事態になっています。

 

****軍評議会トップ、1日で辞任=民衆反発で混乱も―スーダン****

スーダンでバシル前大統領がクーデターで解任された後に設置された軍事評議会のイブンオウフ議長は12日、国民向け演説で辞任を表明した。11日に議長に就いたばかりで、わずか1日での辞任。

 

バシル氏退陣を求めてきた市民の間には軍主導のクーデターへの反発が強い。軍政トップ人事をめぐる混乱で政情不安が続く恐れもある。

 

新しい議長にはブルハン・アブドルラハマン中将が就任した。民政移管を求める反政府勢力は「国民の意思の勝利だ」と歓迎。一方で、一連の抗議活動を今後も継続するよう呼び掛けた。【413日 時事】

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今後の動向は「流動的」としか言えません。

 

【和平の成果が遅い南スーダン ローマ法王、異例の和平実現要請】

個人的にスーダンの動向以上に関心があるのは、その南の「南スーダン」の状況。

日本の自衛隊が撤退して以来、日本メディアの関心は消えてしまい、一体現在どうなっているのかすら定かではありません。

 

****メディアの報道から消えたアフリカの国****

総人口(約1300万人)の半分以上に当たるおよそ700万人が緊急の人道支援を必要とし、約228万人が近隣の国々に難民として逃れ、これとは別に約187万人が国内避難民と化し、もはや国家崩壊の危機にある──と書けば、「一体、どこの国の話?」と思う読者もいるのではないだろうか。

 

これはアフリカの南スーダン共和国の現在の状況である。20175月まで陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた国だ。

 

これほど深刻な人道危機が起きているにもかかわらず、その危機が現在の日本で人々に知られているとは到底思えない。なぜか。一つ考えられるのは、陸自が撤収した途端に、新聞もテレビも南スーダンについて、全くと言っていいほど報道しなくなったことである。(中略)

 

■メディアがアフリカを取り上げる「例外」とは

(中略)

筆者は南スーダン内戦に関する報道だけでなく、日本の新聞とテレビが1990年代以降のアフリカや中東の紛争について、何をどれくらい報じてきたかを詳細に調べたことがある。

 

そこで分かったことは、70年以上昔の「過去」の戦争体験を語り継ぐことに今も膨大なエネルギーを投入し続けている日本のメディアが、大勢の人々が命を落としている世界各地の「現在進行形の戦争」については、「一部の例外」を除いて相対的に低い関心しか示さないという事実であった。とりわけテレビ報道に、その傾向が著しかった。

 

「一部の例外」とは、「自衛隊派遣」と「米国の関与」である。とりわけ、日本のメディアは、米国が部隊派遣や和平仲介などの形で関わっている紛争については熱心に報道するが、米国が足抜けした途端に報道が激減する。(中略)

 

紙の新聞には紙面の広さという物理的な制約があり、テレビのニュースには時間的な制約がある。世界各地で起きている森羅万象の出来事を全て報道することは不可能であり、メディアはニュースに優先順位を付けざるを得ない。それはインターネットによる情報流通が主流となった現在でも変わらない。

 

しかし、メディアによるニュースの優先順位の付け方がこのままでよいのか、という問題はあるだろう。

 

南スーダンの総人口の半分以上が人道危機に瀕している中、自衛隊派遣と日報問題に集中する報道の仕方はメディアの「内向き志向」を、米国の関与を重視する報道の仕方は「米国偏重」を象徴してはいないだろうか。【321日 GLOBE+

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南スーダンの混乱・内戦は、民族問題を背景とするキール大統領とマシャール前第1副大統領の対立・抗争という形で展開してきました。

 

今現在は、両者は表立った抗争は停止しているようです。(よくわかりませんが)

ただ、これまでも何度も停戦合意は破棄された経緯もありますので、安心はできませんし、“配給に向かう女性を標的、10日間で125人がレイプ被害 南スーダン”【2018121日 AFP】といった記事にみられるように、国内情勢はとても“安心できる”状態にはないようです。

 

国際停戦監視団も、現状には不満を表明しています。

 

***南スーダンの和平進捗、成果は「期待をはるかに下回る」 停戦監視団****

南スーダンの和平合意の実行に向けた進捗状況について、国際停戦監視団「合同監視評価委員会」は12日、「期待をはるかに下回っている」との見解を示した。(中略)国軍の創設や各州の境界確定といった「未解決の重大課題」が残されていると指摘した。

 

反政府勢力を率いるリヤク・マシャール氏は、2013年にサルバ・キール大統領と不和になるまで副大統領を務めていた。同国ではスーダンから独立してわずか2年後に内戦が勃発する事態となった。

 

マシャール氏が属するヌエル人と、キール大統領が属するディンカ人の間の民族対立は、残忍な暴力やレイプに発展し、国連は「民族浄化」だと警告した。

 

内戦の終結を目指し、いくつかの停戦合意や和平協定が結ばれたが、いずれも失敗に終わった。南スーダン内戦では推定で約38万人が死亡、国民の約3分の1が住む場所を追われて250万人近くが難民化したほか、深刻な飢餓も発生した。 【413日 AFP】AFPBB News

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そうしたなかで注目されたのは、ローマ法王の対応。

 

****和平願うローマ法王、対立の両者の靴にキス 南スーダン****

ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は11日、南スーダンのキール大統領と、反政府勢力を率いるマシャル元副大統領の両者とバチカンで面会した。

 

法王は、昨年9月の和平合意後も対立を続ける両者に和平の実現を呼びかけた後、両者に歩み寄ってひざまずき、靴にキスをした。

 

南スーダンの和平を望む強い思いの表れとみられるが、法王の前代未聞の行動が話題を呼んでいる。

 

南スーダンは2011年の独立後に内戦が続き、昨年9月に和平合意を結んだ。来月12日までにマシャル氏も参加した統一政権が発足することになっているが、両者は主導権争いを続けている。同国にはキリスト教徒が多く、法王は和平問題の解決に関わりたいとの強い意向を示していた。【413日 朝日】

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全世界が注目するのを見越してのパフォーマンス的側面もあるでしょうが、キール、マシャール両氏とも、一定に思う所はあるでしょう。

 

 

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南スーダン  「再活性化された衝突解決合意」のもとで横行する、武装勢力によるレイプ

2018-12-02 22:15:26 | スーダン

(南スーダン北部のベンティウで、食料の配給を受けに行く国内避難民の女性ら(2014年2月13日撮影)【12月1日 AFP】 美しく牧歌的な光景のようにも見えるのですが・・・)

【「再活性化された衝突解決合意」を祝う平和記念式典
南スーダンに関しては、11月1日ブログ“アフリカ紛争国の現在は? 南スーダン、マリ、中央アフリカ”でも取り上げたように、サルバ・キール大統領と反政府勢力を率いるリヤク・マシャール前副大統領は9月12日、エチオピアの首都アディスアベバで最終的な和平協定に調印したものの、これまで10回以上結ばれた停戦合意はいずれもすぐに破られており、和平の実現には曲折が予想されてもいます。
(紆余曲折はあっても、和平にたどり着けばいいのですが・・・)

内戦死者40万人超という甚大な犠牲をすでに出しており、子供2万人が年末までに栄養失調によって死亡する可能性があるというように、特に子供の犠牲が大きいことなどは、11月1日ブログで触れたとおりです。

10回以上停戦合意が結ばれ、いずれも破綻し、再度合意に至った・・・ということについて、外交的には「再活性化された衝突解決合意」と呼んでいるようです。

****再活性化された衝突解決合意(R-ARCSS)*****
南スーダン共和国では,首都ジュバは2016年7月の衝突以降比較的平穏であるものの,地方の一部において衝突や殺傷事案が継続。

これを受け,東アフリカの地域機関である政府間開発機構(IGAD。議長国:エチオピア)は,履行が停滞気味であった2015年の「南スーダンにおける衝突の解決に関する合意(衝突解決合意,ARCSS)」を再活性化するため,2017年6月,南スーダン関係者を集めて「ハイレベル再活性化フォーラム」のプロセスを開始した。

同プロセスでは,2018年6月27日に恒久的停戦を含む「ハルツーム宣言」,7月7日に治安取決め,8月5日に暫定政府の体制がそれぞれ合意された。

その後の協議で合意の細部や履行スケジュールも合意され,9月12日に「再活性化された衝突解決合意(R-ARCSS)」が正式に署名された。【11月7日 在スーダン日本国大使館 外務省HP】
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なるほどね・・・・停戦合意が破綻したのではなく、“履行が停滞気味”だった、それを“再活性化”した・・・・とのことです。

内戦死者40万人超、子供2万人が年末までに栄養失調によって死亡する可能性・・・という状況も、「首都ジュバは2016年7月の衝突以降比較的平穏であるものの,地方の一部において衝突や殺傷事案が継続」という評価にもなるようです。

まあ、自衛隊のPKO派遣期間中、「戦闘状態にはなかった」という理解ですから・・・。

でもって、在スーダン日本国大使館が何を表明しているかというと・・・

****南スーダン政府主催による「再活性化された衝突解決合意」の平和記念式典開催について****
1 我が国は,10月31日(現地時間),南スーダン共和国のジュバにおいて,「南スーダンにおける衝突の解決に関する再活性化された合意(R-ARCSS)」署名を受けた平和記念式典が大きな混乱もなく成功裡に開催されたことを歓迎します。

2 式典において,南スーダン政府及び反政府勢力を含む関係者が,停戦を遵守すること,合意履行に取り組んでいく強い政治的意思を示したことを高く評価します。また,南スーダンの平和促進に向けて,スーダン及び他の政府間開発機構(IGAD)諸国並びに同事務局が行ってきた努力に敬意を表します。

3 我が国は,国際社会と協力して,合意の履行及び南スーダンの平和と安定に向けた努力を引き続き支援していく考えです。

平和記念式典
「再活性化された衝突解決合意」の平和記念式典は,反政府勢力であるSPLM-IOのマシャール前第1副大統領のジュバ訪問が予定されていたため,治安の急激な悪化等も予測されたが,同氏の他,ムスタファ・エジプト首相,ゼウデ・エチオピア大統領,バシール・スーダン大統領,ムセベニ・ウガンダ大統領を迎え,キール大統領を中心とする南スーダン政府主催で成功裡に開催された。【同上】
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【“再活性化されたなんとか”のもとで、武装勢力によってレイプ標的になる女性たち】
「平和記念式典」も成功裡に開催されて「よかった、よかった」ということのようですが、“地方の一部において衝突や殺傷事案が継続”というには悲惨すぎる現実も報じられています。

****配給に向かう女性を標的、10日間で125人がレイプ被害 南スーダン****
内戦にあえぐ南スーダン北部ベンティウでは過去10日間、緊急の食料支援を受け取りに向かう女性や少女125人がレイプ被害に遭っていたことが分かった。国際医療支援団体「国境なき医師団」が先月30日、明らかにした。
 
南スーダンで活動するMSFの助産師、ルース・オケロ氏は、「ベンティウにあるMSFの診療所にはこの1週間、恐ろしい性的暴行事件を生き延びた女性や少女が大勢訪れた」と説明。「中には10歳未満の少女も、65歳以上の女性もいた。妊婦でさえもこうした残忍な襲撃を免れなかった」と語った。
 
一連の襲撃では、飢えに苦しむ女性や少女が、国際援助団体によって設置された緊急の食料配給所へ向かおうとしていたところを正体不明の男たちに襲われたという。
 
MSFによると、被害者の多くはレイプされた他、殴られたり、むちで打たれたり、棒や銃床でたたかれたりした。さらには衣服や靴、食料援助の受給に必要な配給カードといった、なけなしの所持品まで奪われた。
 
オケロ氏は「南スーダンでの3年超にわたる活動において、医療を求めてわれわれの事業を訪れる際に性暴力に遭った女性が、これほど劇的に増加する状況を見たことがない」「われわれは今年初めから10か月の間、性的な暴力を受けた人々104人を治療した。そしてわれわれは、過去1週間だけで125人を助けた」と話した。
 
南スーダンでは5年前に新たな内戦が始まり、集団レイプや民間人に対する攻撃が相次いでいる。また内戦により推定38万人が死亡し、数百万人が餓死寸前に追いやられ、地域に難民危機を引き起こす事態となっている。【12月1日 AFP】
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襲われた女性たちは無警戒だった訳ではなく“女性たちは身の安全のため大勢で歩いていたが、それを上回る人数の武装勢力に襲撃されたという”【12月1日 共同】とのことです。

【テクノロジーの野蛮な利用】
こうした事件が起きる背景には、武装勢力が跋扈する現状がある訳ですが、女性へのレイプという点で見ると、南スーダンを含めてアフリカ社会で未だ非常に低い女性の権利状況もあるように思われます。

権利状況と言うか、女性がいまだ対等な人間として十分に認識されていない・・・と言うべきでしょうか。

そうした状況に、「フェイスブック」といった現代的「テクノロジー」すらも利用されているようです。

****フェイスブックで幼な妻を「競売」、批判の声 南スーダン****
南スーダンでこのほど、「フェイスブック」に、16歳の少女と結婚する代わりに持参金を支払うことを求める投稿が行われた。「テクノロジーの野蛮な利用」だとしてフェイスブックに対して批判の声も出ている。

フェイスブックは問題を認識した直後に投稿を取り下げたと説明している。しかし、その時点で少女はすでに結婚していた。

国際NGO「プラン・インターナショナル」によれば、5人の男性が名乗りを上げたという。報道によれば、中には南スーダン政府の高官も含まれていた。

父親は、牛500頭、車3台、1万ドルを受け取ったとされる。活動家からは、今回の件でより多くの持参金を手に入れようとしてSNSを利用する動きが強まるのではないかとの懸念の声があがっている。

フェイスブックによれば、投稿が行われたのは10月25日。投稿を取り消したのは15日後の11月9日だった。

フェイスブックの広報担当は声明で、「投稿やページ、広告、グループなどあらゆる形態の人身売買をフェイスブックは認めていない」と指摘。投稿を削除したほか、今回の投稿を行った人物にひもづけられたアカウントについても永久的に無効にしたという。

プラン・インターナショナルは、持参金自体は国の文化の一部だとしながらも、今回の件については、「別次元の問題」だと指摘した。

南スーダンの弁護士会によれば、今回の投稿は少女の家族によって行われたものではなかった。コミュニティーの誰かが代わりに行ったことだったが、こうした「競り合い」によって家族も恩恵を受けるという。

結婚式は11月3日に行われていた。【11月21日 CNN】
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「ヤフオク」のようなネットオークションに女児が出品される・・・といったことにならなければいいのですが。

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南スーダン 自衛隊は今月末までには撤収完了するも、深刻化する現地の混乱・危機

2017-05-08 21:35:51 | スーダン

(南スーダンのワウに国連が設置した文民保護地区 (PoC)の避難民たち(2016年8月2日撮影)【4月11日 AFP】

制約が浮き彫りになった日本のPKO活動
日本政府はことし3月、「一定の区切りがついた」などとして南スーダンのPKO活動に派遣していた陸上自衛隊の撤収を決め、先月帰国した第1陣に続き、5月6日には第2陣115人が帰国しました。今月末までには全員が撤収する予定です。

現地の復興に向けたインフラ整備で大きな功績を残し、これまでのところ全員が無事帰還できることは素晴らしいことではありますが、現地の混乱が収まり、復興も軌道に乗った・・・からではなく、混乱が激しくなったために帰国するという日本PKOの在り方を含めて、今後への課題も大きなものがあります。

****南スーダンPKO、第2陣きょう帰国 最大の実績、注目されず 新たな派遣先、選定難航****
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊部隊の第2陣約110人が6日、帰国する。5月末までに全員が撤収する予定。

5年以上の活動を通じ、インフラ整備で過去最大の実績を残すなど国家建設に貢献した。キール大統領から特別な賛辞が贈られたが、国内では日報の隠蔽問題などに焦点が当てられ、その成果は注目されていない。PKO5原則に基づく制約も置き去りにされたままだ。(中略)

 ◆制約浮き彫り
安全保障関連法に基づき昨年11月から、「駆け付け警護」と宿営地の「共同防護」が新たな任務として付与された。(中略)

しかし、活動地域を限定したこともあり、駆け付け警護は現在まで実施していない。現地住民の保護のため監視や巡回を行う「安全確保業務」も可能になったが、任務付与は見送られた。

これとは対照的に、PKOに参加している中国軍部隊は3月、南スーダン南部で戦闘に巻き込まれそうになった国連職員ら7人をホテルから救出している。
 
治安維持の面では陸自部隊の活動が見劣りすることは否めない。自衛隊は停戦合意の維持などを柱とするPKO参加5原則に縛られているためだ。武力衝突が発生すれば、国会で「5原則違反」の批判にさらされるため、政府は積極的な活動に二の足を踏む。
 
陸自部隊が南スーダンから完全撤収すれば、日本が部隊派遣するPKOはゼロになる。政府高官は「ゼロの期間は極力短くしたい」と語るが、新たな派遣先の選定は難航している。地中海のキプロス平和維持隊など活動環境が安定したPKOは多くの国が希望し、空きがないのだ。
 
陸自部隊第1陣が帰国した4月19日、政府高官は自身に言い聞かせるように、こう語った。「無理に新たな派遣先を見つける必要はない。日本は日本らしい貢献をすればいい」【5月6日 産経】
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拡大する現地の混乱 国際的な住民保護の必要性は増している
現地。南スーダンからは、政府軍による住民殺害、NGO職員の被害、PKO拠点への攻撃など、混乱を伝える報道が続いています。

****<南スーダン>政府軍虐殺か、住民16人死亡****
内戦状態が続く南スーダン北西部のワウで10日、地元住民が襲撃され、少なくとも16人が死亡した。AP通信などは住民の証言として、政府軍が民兵集団と民家を一軒ずつ捜索、出身民族を理由に銃撃したり、家を焼き払ったりしたと伝えた。
 
9日に反政府勢力の待ち伏せ攻撃で政府軍兵士が死亡したことに対する報復だったとみられる。
 
国連南スーダン派遣団(UNMISS)は10日の声明で「病院で民間人16人の遺体を確認した」と明らかにした。住民3000人以上が教会や国連施設に避難したという。
 
南スーダンの内戦を巡っては、国連の専門家が何度も「ジェノサイド(民族大虐殺)の危機にある」と警告。住民らは、政府軍を主導し民兵集団もつくる最大民族ディンカ人による他民族の虐殺や襲撃が繰り返されていると証言していた。【4月11日 毎日】
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****<南スーダン>戦闘拡大 NGO職員など人道支援者にも被害****
国連平和維持活動(PKO)に参加している陸上自衛隊が17日に撤収を始める南スーダン各地で、政府軍と反政府勢力の間の戦闘が拡大している。援助関係者に対する襲撃も多発するなど、戦況のさらなる悪化が懸念されている。
 
国連人道問題調整事務所(OCHA)は15日、内戦激化を受けて、東部ジョングレイ州で活動していた人道支援関係者60人が一時退避を余儀なくされたと明らかにした。北西部ワウで14日に世界食糧計画(WFP)の契約スタッフ3人が殺害されるなど、支援活動は「ますます危険かつ困難になっている」と警告している。
 
南スーダンでは、一部地域で飢饉(ききん)が起きるなどかつてない規模で食糧不足が広がっているが、主に政府軍や大統領直属の民兵集団によるとされる援助関係者に対する襲撃や妨害が後を絶たない。
 
この1カ月あまりでも、3月中旬に中部イロル付近で国際移住機関(IOM)の車列が銃撃を受けて5人が死傷したほか、同下旬にも首都ジュバからジョングレイ州へ移動中のNGO職員6人が何者かに殺害された。国連によると、2013年末に内戦が始まって以降、殺害された援助関係者は82人に上る。
 
国連の専門家などからも、政府軍や民兵が特定の民族を標的とした襲撃を行っているほか、反政府勢力の支配地域への食料供給を妨害し「意図的に飢餓状態を作り出している」との批判が出ている。
 
国連南スーダン派遣団(UNMISS)も15日、声明を発表。西部ラガや上ナイル地方でも新たな戦闘が発生しているとして、政府軍と反政府勢力の双方に自制を呼びかけた。【4月17日 毎日】
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****南スーダンのPKO拠点、攻撃受ける 国連部隊が反撃***
国連南スーダン派遣団は4日、南スーダン北部の国連平和維持活動(PKO)の拠点が何者かによって攻撃を受け、国連部隊が反撃したと発表した。
 
現場は同国北部リアーのPKO拠点。3日夜、小型の武器による攻撃を受け、ガーナの国連部隊が反撃したという。同国では政府軍と反政府勢力による戦闘が続いているが、どちらの勢力が攻撃を仕掛けてきたかは不明。攻撃による死傷者は出ていないという。【5月5日 朝日】
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日本政府や国内世論は、自衛隊がこうした混乱に巻き込まれることがなかったことを喜んでいるかと思いますが、政府軍による住民殺害など、国際的な介入によって住民の生命・財産を守ることがこれまで以上に必要とされている時期でもあります。

****住民保護は担えず****
現地情勢に詳しい栗本英世・大阪大大学院教授(文化人類学)の話 

与えられた条件の中で自衛隊は最善を尽くしたと思う。しかし道路補修などは自衛隊でなくてもできる。内戦の激化で最も期待された住民保護の役割は担えなかった。
 
国会での議論も、PKO5原則など内向きのものばかり。日本が南スーダンの人々にどんな貢献ができるかの議論が必要だった。
 
現地は今、和平合意の実施や国民和解の実現、飢えに苦しむ人々への援助をめぐって重要な局面を迎えている。このタイミングでの撤収は決して歓迎されることはない。「一定の区切りがついた」という日本政府の説明は、とても現地の人々を納得させることはできないだろう。【4月20日 朝日】
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戦闘激化と並行して飢餓進行、難民増大の問題も深刻化
激しさを増す戦闘・混乱、政府機能のマヒのなかで、600万人の命が危険にさらされる可能性があるとも指摘される飢饉が進行しています。

****南スーダン、「人災」による飢饉で600万人の生命が危機に ****
南アフリカの慈善団体は5日、飢饉(ききん)に見舞われている南スーダンやその周辺国で、年末までに計600万人の命が危険にさらされる可能性があると警告した。

一方で国際社会は、最悪の事態を防ぐために必要とされる44億ドル(約4940億円)の支援金の調達に苦慮している。
 
慈善団体「ストップ・ハンガー・ナウ・南アフリカ」の代表、サイラ・カーン氏は、国際社会が南スーダンに支離滅裂な対応をしているため、数百万人の命が脅かされていると警鐘を鳴らした。
 
カーン氏は「非常に暗たんたる状況だ。多くの非政府組織(NGO)や各国政府には、何をする必要があるかという点について多くの混乱がみられる」と指摘。「その地域は困難に直面しており、われわれが何もしなければ、飢餓によって年末までに600万人を死なせることになる」と述べている。
 
今年2月、南スーダンと国連(UN)は、同国北部のユニティー州を中心とする複数の地域で飢饉が発生していると公式に宣言。国連の担当者らは、避けることもできた「人災だ」と述べていた。
 
2011年にスーダンからの独立を勝ち取った南スーダンは、サルバ・キール(Salva Kiir)大統領とリヤク・マシャール(Riek Machar)前副大統領による権力争いが2013年12月、内戦にまで発展。これまでの死者は数万人に上り、350万人が避難を余儀なくされた。【5月5日 AFP】
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350万人とも言われる避難民・難民への対応も急務と言うか、限界に近づいています。
隣国ウガンダにはすでに83万人が流入しており、数か月足らずで世界最大の難民キャンプが出現するような状況で、現地社会との摩擦も大きくなっています。

****南スーダンからの難民受け入れ、危険水域に ウガンダ****
ウガンダ・ユンベにある難民キャンプで大勢の南スーダン難民が食料の配給を待っている──。そばで客待ちしているバイクタクシー運転手のサディク・アゴトレさんは彼らが客になることはめったにないと不満を漏らす。
 
アゴトレさんは「商売はよくないね。この人たちには金がない」と語り、わずか8か月で低木などが生い茂る森から27万人以上が暮らす世界最大の難民キャンプ「ビディビディ(Bidibidi)」へと様変わりした広大な土地を見やった。
 
ウガンダはこれまで、難民を温かく歓迎していると称賛されてきた。しかし隣国の南スーダンの内戦により1日2000人以上の難民が同国に流入しているなか、地元コミュニティーや支援団体はその重圧に押しつぶされそうになっている。
 
人口50万人のユンベでは、地元で展開されている人道活動が仕事に還元されずにいるため、住民の多くはいらいらを募らせている。しかも、もともとそこまで豊富ではない資源が、この影響でさらに手に入りにくくなっており、状況はより厳しいものになっている。
 
ユンベで小売店を営むナシャール・ドブレ―さんは「これ(難民危機)のせいでここはだいぶ変わった。ストレスの度合が増えた。仕事のストレスがものすごく増えた。食料価格は上がる一方だ。彼らは木を切るから地元の環境にだって良くない」と語る。
 
ビディビディ難民キャンプは昨年8月、南スーダンのサルバ・キール大統領派とリヤク・マシャール前副大統領派の間で結ばれていた停戦協定が崩壊し、2013年に勃発した内戦状態に戻ったことによって生じた難民の大量流入に対処するために設置された。
 
ビディビディはほんの数か月足らずで、主にソマリア難民を受け入れているケニアのダダーブ(Dadaab)難民キャンプを追い越し、世界最大の難民キャンプとなった。
 
しかしこの広さ250平方キロメートルのビディビディでさえ、南スーダン難民を部分的にしか収容できてない。これまでに南スーダンからウガンダに流入した難民は計83万人。国連(UN)の予測によると、今年半ばには100万人を超えるとみられている。
 
国連世界食糧計画(WFP)のウガンダ副代表を務めるシェリル・ハリソン(Cheryl Harrison)氏は、月に1万5000トンの食料を配送するロジスティクスの困難さを指摘している。

■「今はとても不安定な状態」
WFPは南スーダンの和平協定崩壊前、ウガンダに滞在する難民への食料支援として月600万ドル(約6億7700万円)を投じていたが、今では1600万ドル(約18億円)以上にまで膨れ上がっている。WFPの今後半年間の予算は5000万ドル(約56億4000万円)足りない状況だ。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ高等弁務官は先月、この状況について「限界にある」と述べた。
 
現地資源の利用をめぐっては、難民と地元住民との間で対立も起きている。最近では、難民の流入はなんの利益も生まないと主張する住民らが、掘削孔へのアクセスを数時間封鎖するという出来事も起きた。
 
地元当局のジェイコブ・バテミエット氏は「建材、木材、燃料などの天然資源の問題は最悪の状況だ。流入した27万2000人の影響は大きい。ここでの失業率はとても高い」とキャンプの状況を説明した。
 
あるNGOのスタッフによると2月には、地元当局の職員9人が支援物資を横領して解雇されたことに不満を持つ100人が、ビディビディ難民キャンプ襲撃を予告するプラカードを掲げてデモを行ったという。
 
ウガンダは長らく、世界で最も進歩的な難民政策を取っている国として称賛されてきた。政府は難民に勤労と国内移動の自由を認めてきたし、北部のコミュニティーでは定住用の土地も提供してきた。
 
難民らは小さな土地を譲り受けて小屋を建て、農作業用の土地開墾に従事することになっている。しかし、ビディビディではまだ行われていない。
 
ビディビディ難民キャンプの責任者、バリャムウェシガ氏は、自分たちの食べるものを生産できない人々が増えていることの危険性を強調し、「(食べものを生産できなくなれば)難民たちは仕方なく盗む。盗みは暴力を呼ぶ。そうなれば難民と受け入れ側のコミュニティーが享受している共存は崩壊してしまうだろう」「今はとても不安定な状態にある」と語った。【5月8日 AFP】
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とりあえずは“日本ができること”を
一方、イギリスは南スーダンPKOへ兵士400名(医療・工兵部隊)を派遣することを発表しています。

****英国軍400人、国連南スーダン派遣団に初参加****
英国軍は2日、兵士約400人を南スーダンで平和維持活動(PKO)を行っている国連(UN)部隊に数週間以内に派遣することを明らかにした。同軍の国外配備としては最大規模となる。
 
2011年に発足し、現在1万3000人規模のUNMISSに初めて参加する英国軍は、医療部隊と工兵部隊から編成される。英国軍の南スーダンへの派遣は、デービッド・キャメロン前政権時代に決定していた。(中略)

配備先は、南スーダン北部ベンティウとマラカルで避難を強いられた民間人を収容している国連のキャンプ。

ここで道路や排水溝の整備、治安維持などを支援する。また、80人近い医療要員がベンティウの病院に配属され、民間人に加え同地域で活動している国連PKO要員1800人の治療に当たる。【5月3日 AFP】
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自衛隊の撤収で南スーダンの危機は終わった訳ではなく、むしろ危機は拡大しています。

PKO5原則など、日本のPKO活動の在り方については、今後に向けた議論が必要ですが、国内で飢餓が進行し、国内・隣国に避難民・難民があふれる状況で、さしたりの“日本ができること”に早急に取り組むこと必要です。
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