(仏デカトロン社のランニング用ヒジャブ モロッコでは好評でしたが・・・【2月28日 BBC】)
(米ナイキ社のランニング用ヒジャブ広告動画より)
【「世界中の女性がスポーツをできるようにする」ためのものだったが・・・】
ときおり取り上げる、イスラム教徒女性のスカーフ(ヒジャブ)の問題。
****仏デカトロン、ランニング用ヒジャブの販売取りやめ 「中傷の波」受け****
フランスのスポーツ用品大手デカトロンは、同国でのランニング用ヒジャブ(ムスリムの女性が頭髪を覆う布)の販売を取りやめると発表した。
販売を発表した後に「中傷の波」と「前例のない脅迫」を受けたためとしている。
ランニング用ヒジャブをめぐっては、一部の政治家がフランスの世俗主義的価値観に反すると指摘し、デカトロン製品をボイコットするよう促すなどしていた。
このヒジャブはすでにモロッコで販売されており、デカトロンも当初はフランスでの販売を擁護していた。
フランスでは、ムスリム女性の公共の場での服装についてたびたび論争が巻き起こっている。
デカトロンの広報担当を務めるクサヴィエ・リヴォワ氏はRTLラジオで、「我々はこの製品をフランスで発売しないことを決めた」と発表した。
リヴォワ氏はAFP通信の取材で、「世界中の女性がスポーツをできるようにする」のがそもそもの決定だったと話している。
簡素で軽い素材のランニング用ヒジャブは頭髪だけを隠し、顔は隠さないもので、今年3月から49カ国で発売される予定だった。
アメリカの大手ナイキは2017年に、フランスでスポーツ用ヒジャブを販売している。
物理的な脅迫も
デカトロンによると、同社には「ランニング用ヒジャブ」についての苦情のメールや電話が500件寄せられたほか、店舗スタッフが侮辱されたり、物理的に脅迫されたりしたという。
アグネス・ブジン社会問題・保健相はRTLに対し、こうした製品はフランスで禁止されてはいないものの、「私が共有していない女性像だ。フランスのメーカーがスカーフを販売するのは感心しない」と述べた。
また、エマニュエル・マクロン大統領率いる「共和国前進」のオロー・ベルジェ報道官もツイッターでこの問題に触れ、ボイコットを促した。
「私は女性として、また市民として、我々の価値から外れるブランドはもう信頼しない」
ベルジェ氏のツイートに対してデカトロンは、「我々の目標は簡単なもの。何であれ(ランニングにそぐわないヒジャブを被って走る女性に)適したスポーツ製品を届けること」と返信した。
デカトロンはその後、「暴力的な」反応が「消費者のニーズに応えたいという我々の思いを越えてしまった」ため、平和を取り戻したいと話している。
フランスとムスリムの衣服
フランスは厳しい世俗主義の法律の下、児童や公務員などに求められる中立性を表していないとして、スカーフといった目に見える宗教的象徴に疑問を投げかけている。
ムスリム女性のスカーフは公共の場での着用は禁止されていないが、2004年以降、公立の学校や一部の公共機関で禁じられている。
2016年、複数のフランスの地方自治体が、イスラム教徒の女性が全身を覆う水着「ブルキニ」を禁止して問題となった。この禁止措置は後に、行政裁判の最高裁にあたる国務院が「信教と個人の自由という基本的自由を、深刻かつ違法に侵害する」と判断し、凍結を命じた。
フランスは2010年に欧州で初めて、イスラム女性の顔をすべて隠す「ブルカ」と、顔を部分的に隠す「ニカブ」の公共の場での着用禁止を決定し、2011年春から禁止措置を実施した。
権利保護団体はフランスのイスラム嫌いを糾弾し、一連の禁止措置がムスリムの女性を傷つけたと述べている。【2月28日 BBC】
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【世俗主義を重視と言いつつも、根底にはイスラム嫌いが】
フランスが、フランス革命以来の世俗主義を重視していることは承知していますし、宗教的権威が女性に一定の服装を強いることには私も反対です。
ただ、長年そうした服装に慣れ親しんでいるイスラム教徒女性の一部からすれば、そうした服装が認められないことが、逆に自由の侵害というように感じられるのでしょう。
双方の言い分があるなかで、顔をすべて隠す「ブルカ」と、顔を部分的に隠す(眼だけを出す)「ニカブ」については、微妙な宗教や服装の自由の問題は別にして、市民社会の基本的な前提にそぐわないように思えて、これを一定に制限することには私も賛成です。
市民社会は、自立した自由な個人同士が責任ある関係・つながりを形成することで成立するもので、「ブルカ」や「ニカブ」といった個人の正体を隠してしまうような服装は、そうした関係・つながりを拒否しているような感じがします。
その趣旨で、イスラム教徒の服装だけでなく、最近日本女性が繁用するマスクにもいい印象は持っていません。
保健衛生的な用途以外に、マスクで顔を隠してしまえば“気楽”なのでしょう。
しかし、そうした匿名性に隠れる行為は「ブルカ」や「ニカブ」同様に、個人間の責任ある関係構築にはそぐわないように思われます。
一方、スカーフ(ヒジャブ)に関しては、宗教的に強制されている云々を別にすれば、上記のような匿名性に隠れるような弊害はありません。
実際、イスラム教国を旅行すると、女性たちもスカーフをファッションとして楽しんでいるのでは・・・とも思えます。デザイン・色彩も多様ですし、かぶり方もいろいろです。
そういうことを考えると、本人らが着用したいというなら「それはそれで・・・」といった感じもします。
今回の「ランニング用ヒジャブ」は、宗教的価値観あるいは社会習慣と女性がスポーツを楽しむ機会を増やすという観点の折り合いをつける現実的妥協であり、これを批判して販売中止に追い込むというのは、イスラム教徒女性の活動機会に対する配慮を著しく欠いた判断に思えます。
2016年に問題となった「ブルキニ」とときもそうですが、「世俗主義の価値観にそぐわない」云々の以前に、イスラム嫌いと言うべき偏狭なゼノフォビア(外国人嫌悪症)の臭いがします。
【スカーフなどをめぐる話題】
スポーツとヒジャブの関係は、ときおり問題になります。
****スカーフ脱がずイスラム教徒の選手が失格 アジアパラ大会 柔道****
インドネシアのジャカルタで開かれているアジアパラ大会の柔道の種目でイスラム教徒の女性の選手が人前で髪を隠すスカーフを着用したまま試合に出場しようとして失格になりました。
この判定に対し信仰を尊重すべきだとして規則の見直しを求める声があがっています。
失格とされたのはジャカルタで開かれているアジアパラ大会で視覚障害者の柔道女子のインドネシア代表でイスラム教徒のミフタフル・ジャンナー選手(21)です。
ミフタフル選手は8日に行われた初めての試合に、イスラム教徒の女性が髪を人前で隠すのに用いるスカーフ「ヒジャブ」を着用したまま出場しようとしました。
ところが審判は安全上の理由から頭を布などで包むことは禁止されているとしてスカーフを脱ぐよう指示し、これをミフタフル選手が拒否したところ、失格の判定を下したということです。
これを受けてミフタフル選手は記者会見を開き「信仰と競技のルールとの両方が尊重される必要がある」と述べて規則の変更を訴えました。
イスラム教徒の女性選手のスカーフ着用は、サッカーやバスケットボールなどでは認められていますが、柔道では国際柔道連盟の規則で原則、認められていません。
今回の判定についてイスラム教徒の間では信仰を尊重すべきだとして規則の見直しを求める声があがっていて、2020年の東京パラリンピックに向けた国際柔道連盟の対応が注目されます。【2018年10月11日 NHK】
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国際柔道連盟はどいう検討をしているのでしょうか?
アメリカでは、議会でのスカーフが問題となっています。
****「議場でヒジャブの着用許可を」 米初のムスリム女性議員らが規則改正案****
イスラム教徒の女性として初の米連邦議員に選出されたイルハン・オマル氏は、スカーフや帽子など頭部を覆うものの着用を下院の議場で禁じた米議会の規定に関して、イスラム教徒の「ヒジャブ」など宗教的な衣装については適用除外とする変更案を民主党幹部らと作成した。
国内のイスラム教徒人権団体は19日、この取り組みへの支持を表明した。
米下院では181年前から、議場で頭部を覆ってはならないという規定がある。オマル氏らは今回、ヒジャブのほか、ユダヤ教徒の伝統的な帽子「キッパ」、シーク教徒のターバンなど、宗教の戒律で定められている衣装については例外的に着用を認めるように改正を求めている。
オマル氏は17日、ツイッターに「スカーフをかぶるのはあくまで自分がすることだし、ほかの誰かにされるものではありません。これは私の選択、合衆国憲法修正第1条で保護されている選択なのです」と投稿。「私が解除に取り組もうとしている禁止事項はこれだけではありません」とも書き込んだ。
変更案は、ナンシー・ペロシ下院院内総務を含む民主党幹部による包括的な規則改正案に含まれている。
全米最大のイスラム人権団体である米イスラム関係評議会の幹部は「時代錯誤の政策を更新し、下院を憲法と信教の自由の保護に従わせる取り組みを支持する」と述べた。
元ソマリア難民のオマル氏は、今月行われた米中間選挙でミネソタ州から下院議員に当選。ミシガン州の下院選で当選した女性とともに、全米初のイスラム教徒女性の下院議員になる。【2018年11月20日 AFP】AFPBB News
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こちらも、その後の話は知りません。
イスラム系移民・難民への反発が強まる欧州では、規制強化の流れがあります。
デンマークでは公共の場で顔を完全に覆うベールの着用を禁止する法案が昨年中道右派政権から提出され、社会民主党と極右のデンマーク国民党が賛成して可決しています。
****顔隠すかぶり物、公共の場で禁止に デンマークが新法****
デンマーク国会は3日までに、顔を隠すかぶり物の着用を公共の場で禁止する法案を可決した。ロイター通信によると、今年8月1日から発効する。
違反した場合、初犯は1000デンマーク・クローネ(約1万7150円)、4回繰り返した際は1万クローネの罰金を科す。目を除いて顔を隠す「ニカブ」や頭からすっぽりかぶって顔全体を覆い隠す「ブルカ」などイスラム教徒の女性が使う伝統衣装を狙い撃ちにしているとの批判が出ている。
類似の法案はフランス、ベルギーやスイスで既に導入済みで、他の欧州諸国でも検討されている。カナダ・ケベック州の議会も昨年10月、公務員もしくは政府関連の職種を求める市民が顔を隠す衣装を用いることを禁じる法案を通過させていた。
国際人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル」の欧州担当責任者は、全ての女性は自らが好むもしくは固有性や信念を体現する衣装を自由に選ぶ権利を持つべきと指摘。公共の安全を理由に顔全体を隠す衣装に対する一部の規制は適法であるかもしれないが、全面的な禁止は不必要であり、表現や信仰の自由の権利に背反していると主張した。【2018年6月3日 CNN】
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