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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コンゴ、武力衝突で増える避難民  国際刑事裁判所(ICC)を巡る動き

2012-05-31 23:08:58 | アフリカ

(コンゴ政府軍とンタガンダ将軍の衝突を避けて避難する家族 “flickr”より By ENOUGH Project http://www.flickr.com/photos/enoughproject/7152488231/

混乱が続くコンゴ情勢
アフリカ・コンゴでは、隣国ルワンダにおける内戦の影響を受け、また、コンゴの豊富な地下資源を目的とする周辺国の思惑もあって、第二次世界大戦後の国際紛争としては最大の死者を出す内戦が繰り広げられました。
02年に和平協定が締結されましたが、今も多く武装勢力や政府軍による殺戮・暴力・レイプなどが絶えず、多くの難民が発生している状況であることは、これまでも何回か取り上げてきました。

下記は、09年6月20日ブログ「世界難民の日 10億人突破する飢餓人口」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090620)からの再録です。

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“コンゴでは隣国ルワンダから逃れてきた反政府勢力が難民キャンプを拠点にルワンダへ出撃したことなどを契機に、96年、周辺国が侵攻を開始。ダイヤモンドなどの豊富な鉱物資源の利権争いもあって、一時は周辺8カ国の軍隊が同国領内で抗争を繰り広げ、第二次世界大戦後の国際紛争としては最大の死者を出すに至った。戦闘によって兵士、民間人約40万人が死亡したほか、戦闘による国土荒廃に伴い、約500万人が餓死、病死したという。”【09年4月11日 毎日】

この“アフリカ大戦”とも呼ばれるコンゴ内戦は02年に一応の和平協定調印にこぎつけましたが、その後も、94年のルワンダ虐殺への関与が疑われるフツ族系武装集団「ルワンダ解放民主軍(FDLR)」、FDLRに対抗するローラン・ヌクンダ司令官(09年1月拘束)率いるツチ族系反政府勢力「人民防衛国民会議(CNDP)」、国際判事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているジョゼフ・コニー率いるウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」など多くの武装組織、これら反政府勢力討伐を目的とするコンゴ政府軍、隣国ルワンダ軍・・・など多くの組織が入り乱れ戦闘を行ってきており、それに伴い東部を中心に紛争や略奪、レイプが横行し、膨大な難民が発生しています。
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フツ族系武装集団「ルワンダ解放民主軍(FDLR)」をコンゴ政府が、ツチ族系反政府勢力「人民防衛国民会議(CNDP)」をルワンダ政府がそれぞれ支援していましたが、この構図が変化し、コンゴ・ルワンダの関係修復がなされたのが09年のことです。

****アフリカ:コンゴ民主共和国とルワンダ、関係修復へ****
アフリカ中部コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部ゴマで6日、同国のカビラ大統領と隣国ルワンダのカガメ大統領が会談した。ルワンダ軍の越境などで緊張状態が続いてきた両国だが、約13年ぶりに外交関係修復に向けて動き出した。

AFP通信によると、両大統領は「新しい時代」を告げ、コンゴ東部での武装勢力根絶に向けた議論や約100万人の難民・国内避難民対策、経済促進について意見を交わした。同地域は平和維持活動部隊「国連コンゴ監視団」とコンゴ政府軍が治安維持を担当するが、安定していない。現在、アフリカ7カ国を歴訪中のクリントン米国務長官は紛争被害者視察のためゴマ訪問を予定している。

ルワンダ政府軍(当時)やフツ系過激派民兵によりツチ系住民やフツ系穏健派ら80万~100万人が殺害された94年の「ルワンダ大虐殺」後、コンゴ東部に逃れたフツ系民兵が拠点を築いたことで情勢が悪化。その後、コンゴがフツ系、ルワンダがツチ系主体の武装勢力をそれぞれ支援、96年のルワンダ軍の越境以降、事実上、両国間の外交は途絶えていた。昨年8月以降、コンゴ政府軍とツチ系武装組織「人民防衛国民会議」(CNDP)の戦闘が激化した。

今年1月、カビラ政権は支援していたFDLRに対し、一転してコンゴ・ルワンダ両軍による共同掃討作戦を本格化。親ルワンダのCNDPのヌクンダ将軍を戦争犯罪容疑でルワンダ軍が逮捕し、今会談の契機となった。【09年8月8日 毎日】
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“親ルワンダのCNDPのヌクンダ将軍を戦争犯罪容疑でルワンダ軍が逮捕”することになったのは、ヌクンダ将軍の側近であったCNDPのボスコ・ンタガンダ参謀長が、戦争犯罪等の罪を問わないことを条件に、コンゴ政府軍に投降したことが大きく影響しています。

3月現在で200万人の避難民
長くなりましたが、以上が、コンゴ情勢に関する前置きです。
現在コンゴでは、コンゴ政府軍によるボスコ・ンタガンダ将軍追討作戦が激化しているそうです。
ボスコ・ンタガンダ将軍はコンゴ政府軍に投降した後、国際刑事裁判所(ICC)から指名手配にもかかわらず、コンゴ領内で独自の武装勢力を率いる形で自由に活動していました。

****コンゴ少年兵を操る男に追及の手が****
コンゴ(旧ザイール)東部で再び内戦が激化し、数万人が難民として隣国のルワンダやウガンダに脱出している。「毎日、朝から山のほうでものすごい爆撃がある」と、ビルンガ国立公園の責任者は言う。同公園は絶滅危惧種マウンテンゴリラが多く生息し、影響が心配される。

戦いは政府軍と、ボスコ・ンタガンダ将軍率いる反乱軍の間で行われている。ンタガンダは反政府勢力、人民防衛国民会議(CNDP)の指揮官だった人物で、09年の和平協定により所属を政府軍に変えた。しかし今年4月に離脱。兵上数百人がそれに続いた。

ンタガンダは子供を徴集し、戦闘に従事させた容疑で、06年に国際刑事裁判所(ICC)から指名手配されている。5月半ばには、最近の戦闘で少年兵を使ったとしてICCから新たな告発を受けた。
ICCの逮捕状にもかかわらずンタガンダが自由の身でいられるのは、コンゴ政府が東部コンゴの平和のために必要な代償だと主張していたからだ。しかしンタガンダの離反と内戦再開に憤る政府は、初めて本気で彼を捕まえようとしている。【6月6日号 Newsweek日本版】
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コンゴの話題になると「マウンテンゴリラへの影響が懸念される」云々が言及されますが、マウンテンゴリラより遥かに懸念されるのは、十万人単位で発生している難民の問題です。
アフリカ・コンゴで難民が何万人出ようが欧米・日本ではニュースにもなりませんが、マウンテンゴリラが10頭も死ねば国際ニュースになるでしょう。悲しい現実です。

コンゴの避難民は、今回の政府軍とボスコ・ンタガンダ将軍の衝突で増大しており、今年3月現在で200万人に達しているそうです。

下記は、2007年―2008年にコンゴ東部でUNHCRの所長として勤務したこともある米川正子氏のブログ「コンゴとアフリカを考える」からの引用です・

****最近のコンゴとルワンダの動き:ICC戦争犯の逃亡、2009年の「和平合意」のもろさ、新しい避難民と難民の動き *****
・・・・上記の戦闘で、4月29日以降、新たに50万人の避難民が発生しました。昨年12月の時点でコンゴ全国に170万人いたのですが、今年3月現在で200万人に増えています。
私がコンゴ東部にいた2007-8年、数の浮き沈みはありましたが、コンゴ全国の避難民数は約130万人(そのうち私が担当していた北キブ州は85万人)だったので、その時と比べると1.5倍に増えたことになります。
この数だけで判断できませんが、状況は全然改善されていないことだけは言えるでしょう。

この避難民の中には1994年から何回も避難している人もおり、その度に学校が休校になり、仕事もできず、夜はブッシュの中で過ごし(家にいると軍人に襲われる危険性があるため)、彼らのことを考えると、胸が痛み怒りを覚えます。

ルワンダに難民化したコンゴ人も5000人ほどいて、これも2007年以来初めてのことです。逃亡・避難することが日常化し、不安定な生活を約20年続けて、現地の人はかなりのストレスを抱えています(ところで、なぜルワンダとコンゴ内に避難する組に分かれるかというと、前者はツチで、後者がフツだからです。2007年の文民の動きも、同様でした)・・・・【米川正子氏 「コンゴとアフリカを考える」 http://congonokongo.blog.shinobi.jp/Date/20120511/ 】
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限界がある国際刑事裁判所(ICC)】
話をボスコ・ンタガンダ将軍に戻すと、2002年から03年の間にイトゥリ地区北東部で行われた戦闘において、少年兵を動員し使用した戦争犯罪の容疑で、2006年、ICCはンタガンダ将軍に対する極秘の逮捕状を発行し、その逮捕状は2008年4月に公開されました。

しかし、“ICCの逮捕状発付にも拘らず、ンタガンダはコンゴ国軍編入を認められ、2009年には将軍に昇格した。彼はコンゴ東部で、コンゴ政府当局者、国連平和維持軍、各国外交官の目の前を自由に動き回っていた。コンゴ政府は、ンタガンダは和平に向けた重要なパートナーであり、彼の逮捕は和平プロセスを損なうと主張していた。”【4月13日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】

そうした状況が変化したのは、ンタガンダ将軍の共犯者であるトマス・ルバンガに対して、3月、ICCは同裁判所にとっての初の判決で、少年兵を徴集して使用したという戦争犯罪容疑で有罪判決を言い渡したことによります。
その判決の後、ICCの検察官は、イトゥリ州でのンタガンダ将軍の罪状に、レイプや殺人罪などを追加する意向であると表明しました。

****国際刑事裁判所:コンゴ元武装指導者に有罪 初の判決****
国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ)は14日、コンゴ民主共和国の元武装勢力指導者に対し、戦争犯罪(少年兵徴用)の罪で有罪判決を言い渡した。02年にこの裁判所が設立されて以来初めての判決だ。
人道に対する罪など個人の重大な犯罪を国際的に裁く史上初の常設裁判所だが、大国の思惑で訴追自体が難しかったり、訴追した容疑者を拘束できない例も多い。初判決までの10年の歳月は、国際刑事裁判所の直面する課題の多さを象徴している。

有罪となったのはトマス・ルバンガ被告(51)。量刑は後日言い渡される。不服の場合は上訴できる。
判決によると、被告はコンゴ民主共和国や周辺国を巻き込んだ紛争で、02年9月から03年8月にかけ、多数の15歳未満の少年を自ら司令官を務める武装集団「コンゴ愛国者解放戦線」(FPLC)などに徴兵、志願させ、戦闘に参加させた。ボディーガードとしても働かせた。
被告が拠点にしていたコンゴ民主共和国北東部では、被告がかかわった戦闘で住民など6万人が死亡したとされる。

国際刑事裁はこれまでに、容疑者死亡に伴い取り下げた2件を含む20件の逮捕状を出したが、大物のバシル・スーダン大統領など11人が未拘束だ。国際刑事裁設置を規定するローマ条約に未加盟の国は逮捕に協力する義務はなく、スーダンも未加盟だ。
また国際刑事裁が独自の捜査機能を持たず、各国に拘束を委ねているため、司法機能が十分でない国では逮捕は事実上不可能だ。

一方、軍による市民の虐殺が続いているシリアについて、モレノ・オカンポ主任検察官は毎日新聞に対し訴追に意欲を示したが、中露などの反対で実現していない。シリアもローマ条約に非加盟で、こうした国を巡っては安保理の付託がないと捜査できないからだ。

このため実際に訴追に至ったのはアフリカの7カ国に限られる。北朝鮮やミャンマーでは捜査は不可能な状況で、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは今回の被告を「小物」と評し、「世界で残虐行為は減っていない」と批判している。【3月15日 毎日】
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“ICCのルバンガに対する有罪判決は、ンタガンダが未だに不処罰状態にあることを改めて明らかにし、彼の逮捕を求める声を高める結果となった。逮捕を恐れたンタガンダは、自らの部隊に対しコンゴ軍の指揮下から離れるよう求めた。”【4月13日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】という経緯で、コンゴ政府軍とンタガンダ将軍の勢力との衝突に至っています。

なぜ今コンゴで難民が増大しているのか? その原因となっているンタガンダ将軍とは何者なのか?・・・について説明すると上記のように、グダグダした“アフリカ大戦”にまで遡る話になります。
このことから言えるのは、コンゴが未だ混乱状態にあり、政府のコントロールが全土には及んでいないということです。

国際刑事裁判所(ICC)の活動について言えば、国際刑事裁設置を規定するローマ条約に未加盟の国は逮捕に協力する義務はないこと、独自の捜査機能を持たず、各国に拘束を委ねていることなどの問題点・限界は、上記【毎日】記事にあるところです。

ただ、ICCによる訴追が問題を硬直化させ、政治的解決を阻害する結果ともなる面もあるように思えます。
コンゴでも活動しているウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」を率いるジョゼフ・コニーについても、国連仲介の和平が頓挫した大きな理由のひとつが、ICCによる訴追がなされており身の安全が保障されないということでした。

なお、「神の抵抗軍(LRA)」については、この5月、ICCから逮捕状が出ていた幹部1人が身柄を拘束されています。

****ウガンダ軍、反政府勢力LRAのナンバー4の身柄を拘束****
ウガンダ軍は12日、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」の幹部1人の身柄を拘束した。

拘束されたのはLRAのナンバー4、シーザー・アチェラム司令官(49)。中央アフリカ領内のコンゴ(旧ザイール)との国境付近で散発的な銃撃戦の後に身柄を拘束された。報道陣の前に姿を見せたアチェラム容疑者は、自身がメディアの前に姿を見せれば、現在も潜伏中のメンバーの投降を促すことになり、闘争終結に向けて大きな影響をもたらすだろうと語った。

アチェラム容疑者は翌13日、健康検査のため、南スーダン・ヌザラにあるLRAを追跡するアフリカ連合(AU)合同部隊の拠点に空路で移送された。

LRA幹部らの身柄確保の任務は、米国の支援を受け、ウガンダ軍を主力とするアフリカ連合の合同部隊が担っている。アチェラム容疑者が拘束されたことは、LRAトップで逃亡中のジョゼフ・コニー司令官の包囲網が狭まっていることを示しているのかもしれない。

ICCはLRAのトップ3人、コニー容疑者、オコト・オディアンボ容疑者、ドミニク・オングウェン容疑者に加えビンセント・オッティ容疑者に逮捕状を出しているが、オッティ容疑者は既に死亡したとみられている。【5月14日 AFP】
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ロシア  シリア・アサド政権擁護を変えず 今後の“転換”にはロシアの説得がカギ

2012-05-30 22:07:11 | 中東情勢

(ホウラ(Houla)虐殺で死亡した108名を埋葬する墓地 4列の溝に、縦に並べられた遺体が埋葬されます。
“flickr”より By FreedomHouse2 http://www.flickr.com/photos/syriafreedom2/7277070412/
生々しい遺体の画像(多くは幼児・子供)も多数ありますが、そういう画像を目にしたくない方も多いと思われますので、墓地だけにしました。)

ホウラの虐殺:大半は政府側による処刑
シリアでは、国連停戦監視団約280人が派遣されているものの、アサド政権はいまだ軍部隊の撤退に応じず、反体制派もこれに応戦しており、事実上「停戦」は実現していません。そうしたなかで、27日にはシリア中部のホウラで108人以上の死者を出す「虐殺」が起きています。

****犠牲者の大半は「処刑」=シリア政府側民兵関与か―国連****
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)報道官は29日、シリア中部ホウラで子供や女性を含む市民多数が殺害された砲撃事件について「犠牲者108人のうち砲弾や戦車の攻撃で死亡したと確認できたのは20人以下」と述べ、大半は政府側による処刑との見解を示した。

報道官はジュネーブでの記者会見で、目撃者や生存者の情報として「処刑は2度行われ、政府側民兵組織シャビーハが関与したとみられる」と語った。【5月29日 時事】
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【“転換点”】
死者108名にうち女性34人、子供49人ということで、明らかに非戦闘員殺害です。
これまで、有効な手だてがないまま、弾圧の手を緩めないアサド政権に引きずられる形でズルズルと推移してきた欧米諸国は今回の惨劇に、シリア大使追放など、改めて強いアサド政権批判を行っています。

***米欧、シリア大使追放…政府軍の市民殺害に抗議****
米国務省のヌーランド報道官は29日、シリア政府軍の攻撃で多数の市民が殺害されたのに抗議し、ワシントンに駐在するシリアのジャブール代理大使を国外退去処分にすると発表した。

ロイター通信などによると、フランスのオランド大統領も同日、駐仏シリア大使を国外退去させると表明した。ドイツも駐独シリア大使に対し、72時間以内に出国するよう通告。イタリアとスペインもシリア大使を国外退去処分にする。英国とオーストラリア、カナダも同日、各国に駐在するシリア幹部外交官数人を国外退去させると発表した。

ヌーランド報道官によれば、一連の措置は8か国による「協調行動」で、アサド政権に圧力を加える狙いがある。【5月30日 読売】
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アナン特使による交渉でも“転換点”という言葉が使われており、今後の対応に変化がありうることを示唆しています。

****シリア:「転換点を迎えている」と指摘…アナン特使****
ロイター通信などによると、シリア情勢を巡るアナン国連・アラブ連盟合同特使(前国連事務総長)は、29日にダマスカスで開かれたアサド大統領との会談で、シリア中部ホウラで少なくとも市民108人が殺害された事件について「重大な懸念」を表明、直ちに暴力の停止に応じるよう求めた。

アナン特使は会談後、記者団に「我々は転換点を迎えている」と指摘。停戦などを提案した特使の調停は無期限でないとしたうえで、「近く国際社会が現状を検討し、さらなる行動が必要かどうかを判断しなければならない時が来る」と述べた。

これに対し、シリアの国営通信によると、アサド大統領もホウラの事件を非難するとともに、国内で最近「テロリスト」が活動を強めていると指摘した。

ホウラの事件を巡っては、米英仏独などが自国に駐在するシリア外交官の国外追放を決定。新たにブルガリアなどもこの動きに同調した。米欧はシリアの友好国であるロシアや中国に働きかけ、シリアに対する外交圧力を強めたい考えだ。【5月30日 毎日】
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アサド政権擁護の基本姿勢を崩さないロシア
しかし、“転換点”とは言いつつも、現実問題としては、すでに戻れない川を渡った感のあるアサド政権は力による反政府派封じ込めを続けており、国際的にもロシアのシリア支援姿勢は変わっておらず、国際社会として有効な手だてが見つからない情勢は相変わらずです。

安全保障理事会は27日、緊急会合を開き、殺害は「住宅地への政府軍による大砲・戦車の砲撃を含む攻撃」で起きたとし、「最も強い言葉で非難する」とした報道声明を全会一致で採択しました。

“全会一致”ということで、ロシアの姿勢に何か変化があったのか・・・とも思ったのですが、そうでもないようです。依然として、アサド政権擁護の基本姿勢は崩していません。

****反体制派も殺害関与」=シリア砲撃でロシア外相****
ロシアのラブロフ外相は28日、シリア中部ホウラへの砲撃で子供を含む100人以上が死亡した事件について「(政府軍と反体制派の)双方が民間人殺害に関与している」と主張した上で、まずは真相究明が必要との認識を示した。モスクワでヘイグ英外相と会談後、記者会見で語った。

ロシアを含む国連安保理は27日、シリア政府軍の砲撃を非難する報道機関向け声明を発表。ただ、ロシアは「砲撃自体による死者はさほど多くない」と条件付きで発表を認めた経緯がある。アサド政権擁護の基本姿勢は崩していない。【5月28日 時事】
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アメリカ国務省のヌーランド報道官は29日の記者会見で、シリア中部ホウラで発生した虐殺事件を受け、国連憲章第7章に基づく安保理決議の採択を通してシリアへの包括的な制裁強化を目指す考えを明らかにしていますが、これにもロシアは反対姿勢をみせています。

****新たな決議は「時期尚早」=シリア介入に反対―ロシア高官****
ロシア外務省のガチロフ外務次官は30日、インタファクス通信に対し、シリア中部ホウラでの虐殺事件をめぐり新たな国連安保理決議採択を目指す動きがあることについて、「時期尚早」との認識を示し、軍事介入に反対する立場を鮮明にした。

ガチロフ次官は「(ホウラ事件を非難する)安保理の報道機関向け声明は、シリアの全当事者に対する十分に強い警告となっている」と指摘。その上で「安保理でいかなる新たな手段を検討することも時期尚早と思われる」とし、シリアへの圧力強化を求める欧米をけん制した。【5月30日 時事】
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このように、国際社会の対応は、アサド政権支援を続けるロシアをどのように説得できるかにかかっています。
フランスのオランド大統領は、「(国連)安保理決議があるという条件の下なら排除しない」と、“軍事介入”にも言及していますが、現状ではロシアの反対で安保理決議が行われる見通しはなく、現実性はありません。
なお、オランド大統領は、6月1日に予定するロシアのプーチン大統領との首脳会談で、対シリア制裁に協力するよう説得する考えを示しています。

手詰まりのアメリカ、「イエメン型」を模索
欧米諸国の対応の中心は何と言ってもアメリカですが、“手詰まり”感は拭えません。

****シリア:米大統領報道官 軍事介入しない考え改めて強調****
アサド政権側の攻撃によるとみられる民間人虐殺の発生でシリアへの軍事介入を求める声が高まる中、カーニー米大統領報道官は29日の記者会見で、シリアに軍事介入しない考えを改めて強調した。
米政府は同日、駐米シリア代理大使の72時間以内の国外追放を決定するなど外交的圧力を強めているが、暴力の停止には程遠く、オバマ政権のシリア外交は手詰まりに陥っている。

記者会見で軍事介入の可能性を問われたカーニー報道官は「それは更なる混乱と大虐殺へつながる」と否定的な考えを明示した。
シリア国民評議会など在外反体制組織の間では、アナン国連・アラブ連盟合同特使(前国連事務総長)の調停に見切りをつけ、米欧の軍事介入を求める声が強まっている。
フランスのオランド大統領は29日、仏国営テレビの番組で「国連安保理決議があるならば(軍事介入を)排除しない」と述べ、軍事介入の可能性を示唆した。

だが、対シリア武器輸出国のロシアは軍事介入に反対しており、オバマ政権は国連安保理での武力行使容認決議の採択は不可能と踏んでいる。再選を目指す11月の大統領選が近づく中、安保理決議なしの米単独の軍事介入は失敗すれば政権の致命傷になりかねず、完全に選択肢の外だ。

27日付の米紙ニューヨーク・タイムズによると、オバマ大統領は18、19両日に米キャンプデービッドで開かれた主要8カ国首脳会議で、ロシアのメドベージェフ首相に対し、国際社会の仲介で大統領退陣と副大統領への権限移譲を実現した「イエメン型」解決をシリアに適用することを提案した。だが、同様の案は、アラブ連盟が今年1月にアサド政権に提示し、拒否された経緯がある。

オバマ政権は国際テロ組織アルカイダのシリア反体制派への浸透も疑っており、反体制派への軍事支援にも消極的だ。米国防総省のリトル報道官は29日の会見で「現時点では人道支援、非軍事支援に集中している」と明言した。【5月30日 毎日】
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ロシアの承諾取り付けが条件
ロシアのシリア・アサド政権へのこだわりの背景には、ロシア軍が地中海に有する唯一の拠点であるタルトゥース港使用権、武器輸出先としてのシリアの重要性、リビアで国連決議がロシア側の意図を超えて拡大解釈され、NATOの大規模な軍事介入が正当化された“失敗”・・・などがあります。

****露、シリアに兵器供与 アサド政権崩壊なら「痛手****
ロシアのシリアに対する兵器供与の情報が相次いでいる。反政府勢力の弾圧で欧米諸国の非難が強まるなか、アサド政権を支持するロシアの姿勢が示された形だ。ただ、ロシアはリビアのカダフィ政権が崩壊する前に同国と締結した40億ドル(約3080億円)相当の兵器売却契約を、国連安保理の武器禁輸決議により逃した経験があり、新たに締結した契約が履行されるか懸念する声も出ている。

露有力紙コメルサントは23日、ロシア国営兵器輸出企業当局者の話として、訓練用の軍用機36機を総額5億5千万ドル(約420億円)でシリアに売却する契約を結んだと伝えた。
AP通信によると同機は対地攻撃も可能とされる。しかし、ロシアの軍事評論家は同紙に「アサド体制が崩壊すれば、財政的にもイメージの面からもロシアの痛手になる」と述べた。

ロイター通信などによると、露西部を先月出航した船が今月中旬、キプロス経由でシリアの港タルトゥースに到着した。船はロシア製の武器・弾薬類60トンを積んでいたとされ、キプロスで一時足止めされた。
タルトゥースはソ連時代の1971年に使用協定を締結、ロシア軍が地中海に有する唯一の拠点で、艦艇修理や部品供給などに利用している。

ロシアの兵器輸出は一昨年、100億ドル相当と過去最高を記録し、シリアはこのうち7%を占めるとされる。昨年12月には米国などの懸念をよそに、対艦巡航ミサイル「ヤホント」(射程300キロ)を供与したとの報道も出た。

対シリア軍事行動につながる国連安保理決議は容認しない-とするロシアは、23日の欧州連合(EU)によるイラン産原油の全面禁輸決定にも「強い懸念」を表明。両国の問題で対話による解決を呼びかけている。中東の友好国を擁護してロシアの存在感を示すとともに、軍事、経済面の権益を守りたいという思惑がありそうだ。【1月25日 産経】
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アサド政権崩壊を目指す「リビア型」の軍事介入にロシアが同調する可能性はありません。
また、仮に軍事介入した場合、安保理決議の有無にかかわらず、政権側・反政府側、そして一般民間人に多大の犠牲を出すことにもなります。
更に、アサド政権崩壊後の、多数派スンニ派によるアサド政権を支えた少数派アラウィー派への報復も懸念されます。
そもそも、今の欧米にはシリアに軍事介入するような余力もありませんが。

現実的な線としては、ロシアのシリアにおける権益を国際社会・反政府派が保証する形でロシアの承諾を取り付け、現政権の骨格は残存させたまま、アサド大統領から副大統領などへの権限移譲と停戦の実施を目指す「イエメン型」しかないように見えます。
アサド大統領本人の意向はともかく、政権周辺はキャップの取り換えに応じる余地はあるのではないでしょうか。
反政府派は不満でしょうが、現在の殺戮を止めるには他に手だてがないのでは・・・。

それについても、アサド大統領の意向の他に、ロシアの承諾がカギとなります。
ロシアがシリアにおける権益確保だけでは応じない・・・ということであれば、欧州のミサイル防衛問題を絡めて、ロシアの主張に多少配慮する・・・等の妥協もあるでしょう。

そんなロシアへの譲歩をするつもりはないということであれば、プーチン大統領が嫌がるようなカードをちらつかせてブラフをかけるとか・・・どんなカードがあるかは、テーブルの下の外交交渉の話ですからわかりません。

****露がキルギス大統領に賄賂…米大使の発言が波紋****
マイケル・マクフォール駐露米大使がモスクワの大学での講演で、「ロシアはキルギスの大統領に多額の賄賂を持ちかけ米軍基地を撤去させようとした」と述べ、露外務省が28日、「外交上の礼儀を逸脱した」と不快感を示す騒ぎとなった。

英BBC放送によると、マクフォール大使はキルギスの米軍マナス基地を巡るロシアとの確執に言及。ロシアが2009年、当時のバキエフ大統領に賄賂提供を申し出たと述べた上で、「我々もバキエフ氏に資金提供を申し出たが、金額はロシアの提示額の10分の1だった」と述べた。

大使はまた、北朝鮮の核問題で露当局者と協議した際、ロシア側は譲歩に応じる代わりに米国がロシアの民主化・人権状況を問題視しないよう求めた、などと明らかにし、互いに直接関係のない問題を議題に乗せ、自国に有利な状況を作ろうとするロシア流交渉術の一端を「暴露」した。【5月29日 読売】
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アルゼンチンに見るデフォルトの後遺症

2012-05-29 23:04:30 | ラテンアメリカ

(アルゼンチン・ブエノスアイレス 1913年、南半球で初めて開業した地下鉄 インフラ投資不足から今も木製車両が残っています。 まあ、これは“レトロ”ないい感じで、観光的にも目玉になりそうですが、インフラ投資不足の影響は深刻です。 “flickr”より By Jeff Metcalf http://www.flickr.com/photos/azmetcalf/3669530803/

今は高い成長率を維持
再選挙に突入したギリシャでは、さすがにユーロ離脱などへの不安から財政緊縮策維持への支持がやや持ち直し傾向にあるようです。
しかし、このところはスペインの国債利回りが上昇するなど、市場では警戒感が強まっています。

ギリシャ、スペイン、イタリアと、欧州経済は債務不履行(デフォルト)など経済破綻への危機感が強まっていますが、かつて実際にデフォルトを経験した国がラテンアメリカのアルゼンチンです。

以前は経済的豊かさを背景に、政治的・軍事的にもラテンアメリカをリードする国であったアルゼンチンですが、フォークランド紛争・政治的混乱・経済失政から1988年にはハイパーインフレーションを招きました。(1989年には対前年比50倍の物価上昇)
90年代には一旦経済は回復したものの、99年のブラジルの通貨切り下げで国際競争力を失い国際収支が悪化、2001年11月14日には国債をはじめとした対外債務の返済不履行宣言(デフォルト)を発する事態に陥り、国家経済が破綻しました。

その後は、マクロ経済的には、高い成長率を維持して順調な回復しているようにも見えます。
アルゼンチンは世界有数の穀物の輸出国であり、「大豆など中国からの需要が高い」(米メディア)穀物の価格高騰もあって、2010年は実質GDP成長率9.2%、11年は8.3%を記録。

こうした経済的な好調さもあって、夫婦で権力の頂点を目指した政治的野心から「南米のヒラリー」と呼ばれることもある、また、政治的指導力の問題も指摘されるフェルナンデス大統領ですが、11年10月には見事再選を果たしています。(前大統領の夫が急死したことによる同情票もありましたが・・・)

2012年経済については、欧州債務危機や主要輸出先のブラジルの経済成長率下振れ懸念から、5%台にとどまる見通しとされていますが、欧州や日本などからすれば、うらやましい数字です。
“失業率もここ20年間で一番低く、貧困率も07年から半分になった”【11年10月25日 産経】とのことです。

【「デフォルトの最悪の影響は、数年間、ほとんどインフラ投資ができなかったことだ」】
そんなアルゼンチンですが、デフォルトの影響は10年以上が経過した今も未だ消えていないようです。
国も銀行も長期資金を海外で借りられないため、インフラ投資が出来ず、住宅ローンも存在していません。

****行きづまる国々:4〉デフォルト 苦しみ10年*****
ユーロ圏9カ国の国債が一斉に格下げされた13日、アルゼンチンでは昨年の物価が前の年より9.5%上がったと公表された。だが専門家は「庶民の実感とかけ離れている」と疑い、実際は20%近いと指摘する人もいる。庶民生活に響くインフレを招きやすい体質は、国家破綻(はたん)から10年たったいまも変わらない。

広大なラプラタ川を背にしたアルゼンチンの首都、ブエノスアイレスの港地区に、真新しい高層マンションが立ち並ぶ。
マンションの人気の部屋は一室、日本円で1億円程度する。「みな現金で買っていく。大豆の取引でもうけた成り金が多いね」。地元の不動産業者は言う。

この国には、返済までの期間が長い住宅ローンが存在しない。だから高い物件は、手持ちの現金をたくさん持っている人でないと手を出せない。
アルゼンチンは2001年12月、政府債務(借金)を返せなくなり、債務不履行(デフォルト)を宣言して破綻した。日本でもアルゼンチン国債を買っていた個人や地方自治体が損失を被った。それから10年。日本政府など先進国からの借金は今も返していない。

このため、国の格付けは、「投資不適格」とされる「B」(米スタンダード・アンド・プアーズ)のまま。海外市場で実質的に国債を発行できない孤立状態が続く。国内の銀行や企業の格付けも国の格付けに従って低い。

■住宅ローンなく
国も銀行も長期資金を海外で借りられないため、消費者に長期の住宅ローンを提供できない。「家を持てるのは親の支援がある人だけだ」と20代男性は言う。資産のない若者は現金をためるしかない。(中略)

■失業率、一時30%
お金の流れが滞り、給与や代金の支払いが止まって倒産や解雇が相次いだ。02年の失業率は約30%まで上昇し、国内総生産(GDP)の伸び率は前年比でマイナス11%に落ち込んだ。(中略)

デフォルトは、国力に合わない為替政策がたたった、との見方が一般的だ。
フォークランド紛争などで増えた借金がたたってインフレが進んだアルゼンチンは1991年、対策として固定相場制を採用した。90年代後半にアジア通貨危機の影響が南米にも及び、ブラジルは通貨レアルの価値を下げたが、アルゼンチンは固定相場を維持した。輸出競争力が弱まり、経済が悪化。外貨の流出が止まらなくなり、約1400億ドル(約11兆円)まで積み上がった対外債務の返済が行きづまった。

ただ、デフォルト後は力強く成長する。債務を整理し、ペソを切り下げ、製造業は輸出競争力を取り戻した。折しも中国の急成長にともない、国際的な穀物価格が急上昇。もともと大豆などの穀物の輸出大国だ。外貨を稼げるようになり、03年以降は8%程度の成長を続ける。

■木造の地下鉄も
ただし、後遺症は残る。トルクアト・ディ・テッラ大学のグイド・サンドレリス教授は「デフォルトの最悪の影響は、数年間、ほとんどインフラ投資ができなかったことだ」と話す。
国も民間も、収入の範囲内でしか投資ができない。ブエノスアイレスの中心部を走る地下鉄線のひとつはいまも木造だ。電気利用がピークに達する夏や冬は電力が不足し、一部工場で停電するという。

産業界からは「交通網や電力などのインフラはもう限界にきている」との声が高まっている。このため、フェルナンデス政権は最近、先進国への借金の返済へ意欲をみせ始めた。外貨準備は400億ドル(約3兆円)以上で、現在90億ドル(約6900億円)といわれる借金が返せるまで積み上がっている。国際金融市場への復帰が視野に入りつつある。(後略)【1月18日 朝日】
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外資流出に過敏 目減り防止のため輸入制限
上記記事にあるように、外貨準備は相当に積み上がってはいますが、国際収支悪化からデフォルトに陥った経験から、外資流出に過敏な傾向がるようです。
“日本や欧米諸国にまだ借金を返しておらず、外国の公的機関から投資を得られない。国債を発行して国際金融市場で資金を集めることもできず、主に貿易黒字で外貨を積み増すしかない”【下記記事】という事情もあります。

****輸入規制強めるアルゼンチン 外貨流出警戒、生活に影響****
南米の農業大国アルゼンチンが、輸入の規制を強め、欧米諸国から「保護貿易」と批判を浴びている。近年の景気拡大と裏腹に、楽ではない懐具合を整えるため国が繰り出した苦肉の策だが、規制は玩具や薬、自動車部品など広範に及び、市民の生活にも影響を与えつつある。

■手の届かぬバービー
ブエノスアイレス市内の繁華街。おもちゃ屋のショーウインドーの前で、アリアナちゃん(7)は、ドレス姿のバービー人形を見つめていた。289ペソ(約5千円)。コメなら100キロほど買える。母親のロレナさん(38)は「高すぎるね」と肩をすくめ、娘の背を押して立ち去った。
市内の玩具店は、昨年末からバービーをほとんど入荷できないでいる。政府による輸入規制の影響だ。新しいモデルの売値は1年前の2倍ほどになった。

輸入規制は昨年10月のフェルナンデス大統領再選後に強まった。事前審査が導入され、輸入には同額の輸出が求められる。法律があるわけではないが、応じなければ輸入申請はたなざらしにされる。

同国南部に工場を持つ家電メーカーのニューサンは、テレビなどの部品を輸入するため、昨年からイカやエビの輸出を始めた。
船もなく、漁の経験もないため、資金難で操業をやめていた網元に出資して漁を始め、水産加工業者と業務契約を結んで切り身などに加工する。電子レンジなどを売っていた社員が外国のイベントに出向いて売り込んだり、箱詰めしたりしている。輸出先はアジアからヨーロッパ、アフリカへと広がりつつあるという。

自動車販売業界でも、ポルシェの販売店がワインを、BMWがコメを、アルファロメオがバイオディーゼル燃料を輸出するなど、18社が同様の取り組みを進めている。輸出品目は農産物が多いが、ある企業幹部は「いつまでも一次産品だけで済むと思わないでくださいね」と、政府高官からささやかれたという。

影響は薬や衣類などにも及び、輸出に対応できず廃業や倒産するケースもある。電子機器輸入会社に勤めていたホルヘ・ダニエルさん(43)は4月に会社が倒産し、失業した。それでも「長い目で見たら会社にも国にもプラスだ」と政策を支持する。今は、輸出を始めるという会社の面接を受け、結果待ちの状態だ。

■外資企業の国有化も
下院議員で元経済学者のクラウディオ・ロサーノさんは「輸入規制は外貨流出を防ぐため。国は米ドルも、内政的に回すペソもない苦しい状況にある」と指摘する。

アルゼンチンの経済は2003年以降、農産物の輸出が波に乗り、高めの成長を続けてきた。だが、景気拡大で国民の輸入品購入やエネルギー消費が急増し、原油の輸入額は昨年、ついに輸出額を上回った。インフレを抑えるため為替介入も繰り返しており、外貨準備高も目減り傾向にある。

01年に債務不履行に陥ったアルゼンチンは、外資流出に過敏だ。日本や欧米諸国にまだ借金を返しておらず、外国の公的機関から投資を得られない。国債を発行して国際金融市場で資金を集めることもできず、主に貿易黒字で外貨を積み増すしかない。輸入規制は外貨の目減りを防ぐ目的とみられる。

今月3日には、スペインの石油大手レプソル傘下の「YPF」をアルゼンチンが事実上、国有化する法案が成立した。レプソル側との事前の合意はなく、求められた賠償金105億ドルの支払いも拒んだまま強行した。アルゼンチンへの投資に不安を招いている。
エコノミストのオルランド・フェレーレ氏は「強硬な手段をとった背景は、輸入規制と重なる。外貨での燃料輸入への支払いと、国民に安く供給するための補助金負担が限界に達した」と説明する。

欧米各国は「保護貿易だ」と批判を強める。欧州連合(EU)は25日、アルゼンチンが進めている輸入規制について、世界貿易機関(WTO)に訴える手続きを始めた。一方、アルゼンチン政府は「国内市場を守り、産業を育てるためだ」と意義を強調する。

ロサーノ氏は「リーマン・ショックや欧州の金融危機で、国は危機に強い、多様な産業の育成が必要だと気づいた」と語り、農産物や天然資源だけでなく、工業分野などで競争力を高める必要があると説く。最近は輸入規制の効果もあり、おもちゃなど一部の分野で国産品が輸入品にかわって店に並び始めた。

だが、ブエノスアイレス市内で車部品販売店を営むシャッツさん(67)は「先端機器の部品などはすぐに作れるわけがない」と指摘する。近所には修理できないままの車が何台も置かれたままだ。国内の自動車組み立て工場が部品不足で操業を中止するという皮肉な結果も招いている。【5月28日 朝日】
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【「国際社会のならず者」】
スペインの石油大手レプソル傘下の「YPF」の国有化強行は、当然ながらスペインは激怒しています。
ベネズエラ・チャベス大統領のようなこの種の施策は、一時しのぎにはなっても、長期的には国外からの投資を抑制することでマイナス面が大きいように思えます。

****美人大統領、外資系石油会社を「接収」へ****
原油不足を背景にスペイン系石油会社の経営権奪取に動くアルゼンチンは、国家介入ブームの不気味な最新例

アルゼンチン最大の石油会社YPFは当初、中国企業が買収することになっていた。それでも十分驚きだが、アルゼンチン政府はもっと度肝を抜く行動に出た。
フェルナンデス大統領が、スペインのレプソルYPFの子会社であるYPFの経営権を「接収」すると発表したのだ。

アルゼンチン議会は、政府がYPF株式の51%を取得することを認める法案の審議に入った。フェルナンデスが所属する与党ペロン党は議会の過半数を維持しているので、法案は可決される見通しだ。
当然、スペインは激怒し、外交問題に発展している。スペイン政府は駐マドリードのアルゼンチン大使を召喚。ラホイ首相は訪問先のメキシコで「深い憂慮」を表明した。イニーゴ・メンデスEU担当大臣は、アルゼンチンが「国際社会のならず者」になりつつある、と非難した。

ヨーロッパ各国は今のところスペインの味方だ。欧州委員会のバローゾ委員長は、ヨーロッパ各国がアルゼンチン政府に対して「国際的な責任と義務を遵守するよう」期待している、と語った。

世界に広がるエネルギー国営化の輪?
レプソルのアントニオ・ブルファオ会長は、アルゼンチン政府との戦いを宣言。必要なら訴訟も辞さない構えで、105億ドルの損害賠償を求めている。まるで傷口に塩をすり込むように、レプソルYPFの株価は急落している。

だが、アルゼンチン国内のYPF国有化気運は高まる一方(厳密には「再」国有化だ)。93年に民営化されたYPFをスペインのレプソルが買収したのは99年のこと。この買収でレプソルは、世界で8番目の大きさの石油会社になった。

フェルナンデス政権はエネルギー不足をYPFのせいにしている。増産のための投資を渋っているというのだ。原油不足を補うために財政支出も膨らんでいる。コンサルティング会社ユーラシア・グループの予測によれば、アルゼンチンの昨年のエネルギー輸入は前年比113%増加し、今年のエネルギー分野への補助金はGDPの4%を超える(YPF側はエネルギー不足の原因は政府の介入政策だと反論している)。

問題を民間企業のせいにするその主張は、ベネズエラの左派政権を率いるチャベス大統領にそっくりだ。「フェルナンデスはチャベス・モデルに近づいている」と、ニューヨークの投資銀行アナリスト、ボリス・セグラはクリスチャン・サイエンス・モニター紙の取材に語っている。

フィナンシャル・タイムズ紙のブログが指摘しているように、こうした国家介入は最近増加傾向にある。
エクアドルやモンゴルがそのケースに当たる。このブログはフェルナンデスのこんな言葉を引用する。
「アラブ首長国連邦は石油・ガス産業を100%管理している。中国、イラン、ベネズエラ、ウルグアイ、チリ、エクアドル、メキシコ、マレーシア、エジプトもだ。コロンビアは株式の90%を、ロシアはガスプロムの50%を(政府が)保有している。今回の対応はアルゼンチン政府がある日突然思いついたものではない。」
仲間が多ければ安心だということだろうか。

政府のYPF買収がアルゼンチンのエネルギー問題を悪化させる可能性もあると、ユーラシア・グループのアナリスト、ダニエル・カーナーは言う。国有化して石油開発投資を増やしても、解決策にはなりそうにない。埋蔵量も生産量もこの10年間減り続けているからだ。

カーナーは、今回の法案が1カ月以内に発効すると見ている。しかし訴訟になれば発効は延期されるかもしれない。アルゼンチンにプライドを踏みにじられたスペインは、そう簡単には引き下がらないだろう。【4月19日 Newsweek】
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どうでもいいことですが、上記記事の見出し“美人大統領”はどうでしょうか?
特にアルゼンチンには、ペロン元大統領夫人で、国民に今も人気がある“エビータ”(1952年に33歳で子宮癌によって死去)がいますので、ハードルが高いようにも思えます。

フェルナンデス大統領自身は、エビータの再来の線を考えているようですが、大衆受けを狙ったポピュリズム的な施策は、かつてのハイパーインフレーションやデフォルトという失敗にもつながります。
エビータにも、“国費ばらまき”というポピュリズム的傾向があったようですが。
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北朝鮮  困窮する国民生活 「人肉食」も?

2012-05-28 23:20:54 | 東アジア

(平壌で携帯を使う女性 北朝鮮でも携帯を使える生活を享受できる層が存在するのは事実ですが、一方で生命の維持すら難しい飢餓に追いやられる人々も存在しています。 “flickr”より By Roman Harak http://www.flickr.com/photos/roman-harak/5015261681/ )

【「キリンなど、他国の動物や世界的に珍しい動物を増やすべきだ」】
****北朝鮮・金正恩第1書記、動物園や遊園地などの視察を急増させる****
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が、動物園や遊園地など娯楽文化施設の視察を急増させている。
クマの子どもを見て、笑顔を浮かべる正恩氏の映像は、ピョンヤンの中央動物園で26日に撮影されたもので、麦わら帽子をかぶった正恩氏が、張成沢(チャン・ソンテク)国防副委員長らをともない、園内を見て回る様子が映されている。

正恩氏は、関係者に「キリンなど、他国の動物や世界的に珍しい動物を増やすべきだ」と指示した。
正恩氏は5月に入り、3回遊園地を訪れるなど、娯楽施設に強い関心を示していて、国民に「親しみやすさ」をアピールする狙いとみられている。【5月28日 FNN】
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“国民に「親しみやすさ」をアピールする狙い”であって、決して自分が動物園や遊園地に行きたいから・・・という理由ではないのでしょう。いくらなんでも、それではあまりにはお馬鹿ですから。

ただ、金正恩第1書記がご存知かどうかは知りませんが、現在の北朝鮮の国民生活が動物園や遊園地どころではない状態にあるのは国際的にも周知のところです。

****正恩体制でも人権改善なし=北朝鮮600万人に支援必要―アムネスティ****
国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナル(本部ロンドン)は24日、世界の人権状況をまとめた年次報告書(2012年度版)を公表。金正恩体制移行後の北朝鮮について、600万人が緊急食料援助を必要としている上、公開処刑や強制労働も横行、「ひどい人権状況は少しも改善されていない」と批判した。

報告書は、北朝鮮で穀物の配給量が1人1日200グラム以下に減らされたとの国連報告を引用した上で「これは1日に必要な最低限の栄養量の3分の1に満たない」と指摘。北朝鮮では15~49歳女性の4人に1人が栄養不良であるほか、乳児の3分の1以上が発育障害、5分の1近くが低体重に陥っていると訴えた。【5月24日 時事】
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必要な配給ができない現実をかろうじて支えるのは闇市場などの市場経済で、その部分の統制を強めようとすると国民生活は危機に瀕します。
日々の食糧さえ確保できない状況ですから、電気なども当然行きわたっていません。
あるいは、電気も行きわたらない社会・政治だから、食糧も満足に確保できない・・・というべきでしょうか。

****北朝鮮人口の26%が家庭で電気使用=UNDP****
北朝鮮では全人口の26%の家庭でしか電気を使っていないことが、国連開発計画(UNDP)のアジア太平洋地域人間開発報告書で分かった。米国営放送のボイス・オブ・アメリカ(VOA)が18日、伝えた。

北朝鮮の電力事情は、2009年時点でアジア20カ国のうち5番目に悪い。ミャンマーの電力使用は全人口の13%と最も低水準で、アフガニスタン(16%)と東ティモール(22%)、カンボジア(24%)も北朝鮮を下回った。(後略)【5月18日 聯合ニュース】
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壮絶な飢餓の実態
極めつけは、「人肉食」の話題もあります。
最近、韓国で摘発された中国製「人肉カプセル」とか、中国雲南省の「食人魔」など、“人肉”に関する話題を目にしますが、北朝鮮のそれは飢餓によるものです。

****金正恩体制で露呈した極限の人肉食****
強制労働収容所での人権侵害に続いて明らかになった壮絶な飢餓の実態

食べるものがなく極限まで追いつめられた人間はどうするか――厳しい食糧難が続く北朝鮮で、壮絶な実態が新たに明らかになった。
韓国の政府系研究機関、統一研究院が新たに作成した人権白書では、公開処刑を目撃したという脱北者230人の証言を集計。これによると、2006年以降に公開処刑された者の中には、人肉を食べたり売ったりした者が少なくとも3人は含まれていたという。

ある男は同僚を殺害して体の一部を食べ、残りを羊の肉と偽って市場で販売しようとしたらしい。中国との国境に位置する恵山市では3年前、食糧不足に困窮した者が少女を殺して食べる事件が発生。3件目の事件は昨年発生したようだが、詳細は分からない。

このニュースを報道した韓国の聯合ニュースは、北朝鮮の情報統制が厳しいため、いずれの事件も裏づけを取ることはできなかったとしている。

繰り返す失政と飢饉
北朝鮮ではデノミを断行した09年以降、食糧難が一層悪化したとみられる。
だが01年に脱北したある公務員の証言によれば、99年以降にも10件以上の人肉食事件が発覚したらしい。
200万人近くが死亡する大飢饉が発生した90年代半ばにも、人肉食事件が複数発生したと言われている。(後略)【5月24日 Newsweek】
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「人肉食」の真偽はさだかではありませんが、大量の餓死者が出る状況なら、「人肉食」が行われても不思議ではありません。長距離ミサイルや核爆弾の実験など行っている場合ではない・・・ことは、今更言うまでもないところです。

【中国 「北朝鮮に、住民の生活を優先すべきと説得中だ」】
北朝鮮の後ろ盾である中国も、さすがにそのあたりを北朝鮮に説得しているとのことです。

****住民の生活優先を…中国が北朝鮮を説得中****
13日に北京で行われた日中韓首脳会談で、中国の温家宝首相が、「北朝鮮に、住民の生活を優先すべきと説得中だ」と、核実験などを自制するよう働きかけていることを明かした。
韓国政府高官が伝えた。

同高官によると、温首相は、新指導者、金正恩第1書記の新体制が始動した現在、「国際社会が、北朝鮮が『正しい判断』をするよう誘導し、勧告していく必要がある」と野田首相や、李明博大統領に語った上で、北朝鮮側には「経済発展を重視すべき」と伝えているとも述べた。

中国は、4月の長距離弾道ミサイル発射の前も、「民生発展に集中すべき」と北朝鮮側に発射自制を求めていた。(後略)【5月13日 読売】
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そうした中国の説得に少しは耳を貸したのか、北朝鮮外務省報道官は22日、「衛星打ち上げ」と称して4月13日に長距離ミサイルを発射したことと関連して、「最初から平和的な科学技術衛星発射を計画したため、核実験のような軍事的措置は予定したことがない」と述べ、核実験見送りを示唆する発表を行っています。

****北朝鮮:核実験見送り示唆 自国経済のてこ入れが狙いか****
北朝鮮の外務省報道官が22日、当面、核実験の実施を見送る考えを示唆したことには、米国などの姿勢の軟化を促し、国際社会との関係を改善することによって自国経済のてこ入れを図りたい意図があるとみられる。

米朝両国は2月下旬、北朝鮮がウラン濃縮活動、核・ミサイル実験の中断を約束する合意を結んだが、北朝鮮による4月のミサイル発射実験で、事実上、合意は破棄された。しかし、外務省報道官は米朝合意について「平和的発展に総力を集中するために必要な朝鮮半島の平和と安定を保障するため」と説明した上で、「我々は合意の拘束からは抜け出すものの、実際の行動は自制していると数週間前に伝えた」と強調した。北朝鮮が米朝合意の継続を望んでいることを明確にしたといえる。

そもそも、対米関係の改善は昨年12月に死去した金正日(キム・ジョンイル)総書記が決めた方針だ。それにもかかわらず、北朝鮮が合意破棄につながるミサイル発射実験を行った理由について、米朝協議筋は「北朝鮮側がオバマ政権の出方を読み誤った」と見る。北朝鮮としては、米朝合意で得るものが多い米国は合意にとどまるはずだ、と考えたという見方だ。

一方、北朝鮮が3回目の核実験に備えた新たなトンネルを準備しているのは間違いない。ただ、プルトニウムによる核実験はすでに2度実施しており、一定の水準に達している。北京の外交筋は「新たな実験はウラン濃縮型で行われる可能性が高いが、まだ準備は整っていない」と分析しており、北朝鮮が時間を稼ぎながら米国などの対応を見て今後、方針を変える可能性もある。

北朝鮮国内の経済状況は、今年が「強盛国家の門を開く」と目標に掲げた時期であるにもかかわらず、全国的には改善していない。5月中旬に中国を訪れた北朝鮮の貿易商は「食糧事情は明らかに昨年よりも悪い」と明言する。北朝鮮に対して、中国は高官の往来を通じて民生支援を強化する用意などを伝えているとされている。【5月23日 毎日】
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こうした政権が長く続くとは思われませんが、終止符が打たれるまでの間に犠牲になる国民の苦しみを思うと、やりきれないものがあります。
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ロシア  “強い指導者”プーチン新体制始動 反プーチンデモも再燃

2012-05-27 14:12:00 | ロシア

(モスクワ プーチン大統領就任式翌日の5月8日夜、デモ封じ込めのため道路を封鎖する警官 “flickr”より By somiz http://www.flickr.com/photos/43257267@N08/7162797828/

支持基盤の再編成
プーチン大統領が復帰したロシアでは、昨年12月の下院選挙で惨敗したうえに不正疑惑も根強い与党「統一ロシア」の党首が、プーチン大統領からメドベージェフ首相に委ねられています。
利用価値が低下し、厄介者にもなりつつある同党をメドベージェフ首相に押し付けた様な感もあって、両者の力関係が窺えます。

****ロシア:与党「統一ロシア」新党首にメドベージェフ首相****
ロシアの政権与党「統一ロシア」は26日の党大会でメドベージェフ首相を新党首に選出した。プーチン大統領の党首辞任に伴うもので、プーチン氏は国民の批判が強い党を首相に委ねる一方、自らの支持基盤を超党派組織「全ロシア国民戦線」へ移す狙いとみられ、今後の政界流動化につながる可能性も出ている。

メドベージェフ首相は内部刷新に取り組む意欲を表明、16年の下院選で過半数を維持する決意を強調した。
プーチン氏は08年5月から党首を務めてきたが、昨年12月の下院選の際、同党の官僚的な体質や汚職の広がりを批判され、77議席を減らす「惨敗」を喫した。

カーネギー国際平和財団モスクワセンターのシェフツォワ上級研究員は「プーチン氏は自分の支持率に影響を与えるとみて、党と距離を取りたがっている」と指摘する。

プーチン氏は18日、支持者の兵器工場の現場監督の男性を、ウラル連邦管区の大統領全権代表に指名。政治家や高級官僚が就く職で、一般市民からの抜てきを演出すると同時に「国民戦線」に重きを置く狙いとみられる。
またプーチン氏を支持する青年団体「ナーシ」の創設者ヤケメンコ氏は21日、新政党発足を目指す考えを表明。こうした動きはプーチン政権が統一ロシア以外の支持基盤の受け皿作りを検討している表れとみられている。【5月26日 毎日】
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よくわかりませんが、“兵器工場の現場監督の男性を、ウラル連邦管区の大統領全権代表に指名”というのも凄い抜擢です。
プーチン大統領の絶対的な指導力の表れでしょう。

【“強い指導者”の「アジア重視」で、日本にも機会が
21日発足した新内閣では、「アジア重視」を掲げるプーチン大統領の意向を強く反映して、極東発展担当相が新設されています。

“プーチン大統領は9月にウラジオストクで主催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を極東シベリアの発展につなげる戦略で、担当相には極東連邦管区のイシャエフ大統領全権代表(元ハバロフスク地方知事)を兼任させた。
極東発展省は極東地方に設置されるとみられ、実現すれば首都モスクワ以外で初の連邦政府省庁となる。同省がロシア本土だけでなく、北方領土(ロシア名・南クリル諸島)の開発を推進していく可能性もある。”【5月22日 毎日】

極東シベリアの開発となれば、日本への協力依頼もあるでしょうし、北方領土開発となれば当然に日本との関係が焦点になります。
そうした状況で、周囲の反対をトップダウンで封じることができる“強い指導者”の存在は、停滞している北方領土問題を動かしていくうえでは、日本にとって大きな機会にもなりうるところです。
もちろん、話はそうスムーズにはいかないでしょうが、互いの譲歩を前提にして交渉にあたれば、チャンスであるのは間違いないでしょう。
問題は、とかく強硬論・原則論が幅を利かせがちな世論にあって、「引き分け」を国民に納得させられるか、日本側の政治指導力かもしれません。

代わり映えしない布陣 KGB出身者留任
プーチン新体制の全体的イメージは、これまでのプーチン側近がそのまま大統領府に横滑りしたようで、今後の改革・刷新を連想させるものではありません。

****プーチン新政権 居座る側近 偽りの刷新 汚職撲滅、経済改革望み薄****
ロシアのプーチン新政権の陣容をめぐって、大幅な政治改革や経済改革は望めないとの見方が出ている。

プーチン大統領はこれまでに内閣の閣僚人事に続き、外交・国防面を担うクレムリン(大統領府)スタッフを任命したが、保守派や「シロビキ」(軍・治安機関出身者)が要職に居座ったまま。汚職撲滅や開かれた政治を求める市民らが反プーチンデモを続ける中、「大幅な刷新」(メドベージェフ首相)も掛け声だけに終わった。

プーチン氏は21日、クレムリンで内閣の布陣を発表。緊張した面持ちの閣僚たちの前で、「国際的な経済状況が不透明な中で、ロシアの発展を推し進める計画を実行に移さなくてはいけない」と指示した。

前政権で国民から不満の声が高かった保健相らの閣僚を交代するなど5分の3強のポストが代わったが、シュワロフ第1副首相、ラブロフ外相、セルジュコフ国防相ら主要閣僚は留任。大統領補佐官らの人事でも、プーチン氏が首相から大統領に異動するのに伴い、側近たちもクレムリンに横滑りさせており、「政府のコピー組織にすぎない」と揶揄(やゆ)されている。

代わり映えしない布陣だけに、プーチン氏の政権運営や長期発展計画は維持されるとの見方が支配的で、投資環境の激変を嫌う市場は、株価が値上がりするなど好感触を示してはいる。

しかし、石油・天然ガス産業を仲間内だけで牛耳り、汚職の温床とも批判されてきた旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身者らのシロビキや、「私はリベラルではない」と主張し、反政権デモを続ける市民と距離を置く保守派のスルコフ副首相は、そのまま主要ポストに居座っている。

さらに、対米強硬派とされるウシャコフ元駐米大使を大統領補佐官に起用し、外交・安全保障面を担わせる。欧州ミサイル防衛問題やイラン・シリア情勢をめぐって、強硬姿勢を貫くロシアと欧米の摩擦は改善されない可能性が高い。

プーチン氏に忠実な側近らが中枢で権力を握る新政権の布陣について、専門家からは「本格的な改革には力不足」「経済のリベラル化を目指すメドベージェフ首相の推進力は限られたものになる」との声が出ている。
来月にも首都モスクワで大規模な抗議デモが予定されており、プーチン新政権がどのような対応を取るか注目される。【5月24日 産経】
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再燃した反プーチンデモ 規制強化の動きも
一時下火となっていた反プーチンの抗議デモは、大統領就任式前日の6日にも2万人規模で行われ、参加者の一部と警官隊が衝突、野党指導者ら400人以上が拘束されています。
翌週13日にも、モスクワで1万人規模(警察発表では2千人程度)の反プーチンデモが行われました。

プーチン政権を礼賛する国営テレビに対し、こうした反政府デモを生中継する独立系民間テレビ局も人気を集めているそうです。

****ロシア:反政府デモを生中継、独立系民間TV局が旋風*****
政府が主要テレビをコントロールするロシアで、2年前にできた独立系の民間テレビ局「ドーシチ」(ロシア語で「雨」の意味)が旋風を巻き起こしている。昨年12月の下院選不正疑惑をきっかけに広がった反政府デモを初めて「完全生中継」するなど独自報道を展開し、プーチン政権を礼賛する国営テレビに飽き足りない市民の支持を広げているようだ。

「私たちのモットーは公正な報道。ロシアで大規模な反政府デモはこれまでなかった現象で、起きていることをすべて見せようと考えた」。ドーシチのマリヤ・マケーエワ編集局次長(37)は、昨年12月にモスクワでのデモを初めから終わりまで中継した狙いを説明した。国営テレビは当初、デモを無視したが、ドーシチの報道で反響が社会に広がり、ニュースで取り上げざるをえなくなった。

5月7日に行われたプーチン大統領の就任式では、国営テレビ各局が式典の一部始終を全国中継したのに対し、ドーシチは画面を3分割し、式典のほか、モスクワで続いている「反プーチン」デモや厳重警備で車が排除された大通りを同時に映し出した。マケーエワ局次長は「我々の仕事はジャーナリズムであり、政府のプロパガンダではない」と指摘。プーチン大統領の行動を連日報じる国営メディアとの違いをアピールした。

10年4月に開局したドーシチは、ラジオ局なども経営する女性実業家のナタリヤ・シンデーエワさん(40)=社長=が約1000万ドルを個人出資して設立した。モスクワの本社は政治の中心クレムリンのすぐ近くで、ソ連時代に建てられた元チョコレート工場内にある。社員は約350人で、平均年齢は26歳と若い。メディア経験者もいるが、国営テレビ出身者の採用は避けているという。

ニュース中心の番組は衛星放送とケーブルテレビで24時間放映される。視聴者数は開局当初の20万人から、現在は約400万人に増えた。番組はインターネットでも無料配信している。

昨年4月には当時のメドベージェフ大統領がドーシチの本社を見学に訪れた。IT(情報技術)好きのメドベージェフ氏は新興テレビに関心を示し、自身のツイッターでドーシチをフォローしていた。だが、反政府デモの報道後、ドーシチをフォローのリストから外したことが判明、ネットユーザーの失笑を買った。

権力にこびない報道姿勢で視聴者の信頼を獲得する一方、経営はまだ軌道に乗っておらず、赤字が続いている。人員や機材も大手テレビ局と比べて十分ではない。取材クルーを組む余裕がなく、現場では記者1人がビデオカメラと携帯電話を駆使して取材から撮影、中継を行っている。

また、ロシアで独立系メディアの最大の懸念は権力との関係だ。プーチン大統領1期目の00年、反政権報道で知られた民間テレビ局「NTV」が政府の圧力で国営企業の経営傘下に入った。メディア支配を進めたプーチン氏の大統領復帰で、ドーシチがNTVの「二の舞い」になることを憂慮する声もある。

マケーエワ局次長は「(政権からの)圧力は時々ある」と認めた。今年2月には政権与党「統一ロシア」の下院議員が「反政府デモ中継費の出所が不透明だ」と検察に照会(実際は同社が負担)。デモ取材中の記者が治安当局に拘束されたり、サイトがサイバー攻撃を受けたこともあるという。

マケーエワ局次長は「我が社は社長1人が株主で、資金面で権力から独立している。ただ、今後さらなる投資が必要で、投資家を通じて影響を与えようとする動きがあるかもしれない」と話した。【5月23日 毎日】
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ただ、政権側もおさまらない抗議行動に対し圧力を強める動きをみせています。

****ロシア下院:デモ規制強化を審議 「反プーチン」収まらず****
ロシア下院は、プーチン大統領が7日に就任した後も抗議運動が収まらない状況を受け、デモ規制を強化する法案の審議を始めた。18日にも1回目の採決をする。罰金の大幅な引き上げが柱だが、17日にも警官隊とデモ隊との激しい衝突があり、政権が「反プーチン」の波を封じ込められるのかは見通せない。

相次ぐデモを受け、与党「統一ロシア」が下院に抗議活動規制の改正法案を提出。これまで1000ルーブル(約2600円)にとどまっていた参加者への罰金を最大100万ルーブル(約260万円)へ引き上げるほか、逮捕歴のある政治家が集会を主催したり、参加者がマスクをつけることを禁じるなど、規制を大幅に強化した。

改正案は15日に審議入り。下院は通常、法案成立まで3回採決する。政権側は次回の大規模集会が予定されている6月12日までに成立させたい方針。野党は「国民が抗議集会へ参加できなくなる」(公正ロシアのドミトリー・グトコフ下院議員)と反対しているが、統一ロシアが過半数を占め、成立する見通しだ【5月17日 毎日】
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“法案成立まで3回採決”ということで、現在の状況がわかりませんが、改正法案が成立すれば相当に威力を発揮しそうです。ただ、その分、反政府勢力との軋轢を強め、不満を先鋭化させることも考えられ、プーチン大統領が“強い指導者”として任期を全うできるかは、今後の情勢を見守る必要もありそうです。
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ネパール  今月27日の期限を前に迷走する憲法制定

2012-05-26 21:19:55 | 南アジア(インド)

(5月7日 制憲議会の前で実施された憲法制定を支持する集会 27日の期限が近付き、どういう形で落ち着くのか、混迷の度を深めています。 “flickr”より By kguragai http://www.flickr.com/photos/kguragai/7159237492/

新憲法制定に向けて高まる機運
ネパールでは、武装闘争を続けていた共産党毛沢東主義派(毛派)が停戦に合意し、王制を廃止し、毛派を含めた諸政党間で新体制づくりが行われていますが、毛派と他政党の対立などから新憲法制定ができない迷走状態が続いています。

しかし、“ネパールで1996年から約10年間、武装闘争を繰り広げた共産党毛沢東主義派(毛派)の旧ゲリラ兵士が今月、和平から6年を経て国軍の指揮下に入った。最大の政治的懸案が解決したことで、2008年の王制廃止後の国のあり方を決める新憲法制定へ、機運が高まっている。”【4月23日 朝日】ということで、長年の政治混乱の原因ともなっていた毛派兵士の国軍統合問題が一応決着し、いよいよ新憲法制定に向けたステップに入った・・・ということを、4月25日ブログ「ネパール  毛派兵士の国軍統合問題が解決、今後は新憲法制定論議へ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120425)で取り上げました。

憲法制定を議論する制憲議会はこれまで4回期限延長を行ってきましたが、その期限も今月27日で切れます。
このタイムリミットを前に、5月3日には与野党4会派による大連立政権の樹立が合意されました。

****ネパール、大連立政権樹立で合意****
ネパールで2008年の王制廃止後の新憲法をつくる制憲議会の任期満了が今月27日に迫る中、与野党4会派は3日夜、大連立政権の樹立で合意した。新政権は憲法案承認に必要な3分の2以上の議席を占め、4年を費やした新たな国の枠組みづくりにようやく完成の道筋が見えてきた。

合意に先立ち、議会内第1党・共産党毛沢東主義派(毛派)幹部のバタライ首相が率いる内閣は、バタライ氏を除くすべての閣僚が辞任した。
合意したのは毛派と、議会内第2党のネパール会議派、第3党の統一共産党の両野党など。

合意によると、2日以内にバタライ氏を首相とする大連立政権をいったん樹立。27日の期限に向け、憲法制定の見通しが立った段階でバタライ氏は辞任し、ネパール会議派に首相ポストを移譲する。同党が率いる新たな大連立政権が憲法を公布し、1年以内に総選挙を実施する。【5月4日 朝日】
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更に、15日には、毛派など主要4会派は、新憲法で大統領を直接選挙で選ぶことと全国を11連邦州に分けることで合意しました。
大統領は議会解散権を持たないとされ、大統領制を主張する毛派と議院内閣制を訴えるネパール会議派が歩み寄った形ですが、大統領と首相の権力分掌については決まっていないとも報じられていました。

****ネパール新憲法、大枠決定 主要4会派が合意****
ネパールで2008年の王制廃止後の新憲法をつくる制憲議会の主要4会派は15日、最大の懸案だった連邦制の枠組みについて11州の設置で合意した。
14日には統治制度に関しても一致しており、主な論点すべてで合意が図られた。27日の議会任期満了までの憲法制定に向け大きく前進した。

合意したのは、共産党毛沢東主義派(毛派)、ネパール会議派、統一共産党、統一民主マデシ戦線(UDMF)で憲法案の最終承認に必要な3分の2以上の議席を占める。憲法案の枠組みについては当初今月上旬に一致を図る予定で、日程がずれ込んだ形だが、4会派は15日、制憲議会任期内の憲法公布も再確認した。

連邦制に関しては州の数では合意したものの、細かな境界や州名の検討は新憲法制定後に先延ばしした。
また、統治制度は直接選挙の大統領と国会が選出する首相とで行政権を分担するシステムの導入で一致したが、権限の配分までは決まらなかった。

連邦制に関する合意に対してはUDMF内部や先住民族などの全国組織から反対の声が上がっており、民族組織は抗議活動やゼネストを計画。憲法公布に向け、国内が混乱するおそれがある。(ニューデリー=五十嵐誠)【5月17日 朝日】
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少数民族の反対で再び迷走
ここまではなんとか漕ぎつけたのですが、上記記事の最後にあるように、11州を設置するという連邦制について、少数民族などから強い反対があり、再び迷走を始めています。
「各民族が州を持つべきだ」とする少数民族は3日間のゼネストを22日まで行っています。

****ネパール:憲法制定で政治混乱 国民同士の対立深刻化****
立憲君主制から共和制へ移行したネパールで、08年の王制廃止以降、最大の懸案の憲法制定を巡り、政治混乱が広がっている。

制憲議会の主要4政党の議論に不満を訴える少数民族が22日までの3日間、全国でゼネストを繰り広げたため、首都カトマンズなどで市民生活がマヒ状態に陥った。23日にはこれに反対する都市生活者の大規模なデモが首都であり、国民同士の対立が深刻化している。

政府は22日、今月27日で切れる憲法制定を議論する制憲議会の期限を3カ月延長する法案を議会に提出した。期限延長は5度目となり、最高裁は認めない姿勢を示している。期限の27日までに憲法を制定することは絶望的で、政治的な危機が広がる恐れがある。

憲法制定の議論で最大の問題は、連邦制のあり方だ。主要4政党は今月初め、11州に分ける案に大筋合意していたが、国民の7割を占める100以上の少数民族が「各民族が州を持つべきだ」と主張し、ゼネストとデモを展開した。

ストの呼びかけを無視する店舗やタクシーなどが次々と襲撃されたため、カトマンズなどでは、スト期間中、全ての商店がシャッターを下ろし、一般車の通行もできない異常事態となった。デモに参加したタル民族のカムレシ・チョードリーさん(29)は「我々少数民族に土地と財産、安心できる生活権をくれというのが要求だ。これが確保されない限り憲法制定は認めない」と話した。
こうした少数民族の動きについて、英字紙「リプブリカ」のコスモス・ビショカルマ編集長(45)は「これまで社会の隅に追いやられていた少数民族たちが初めて政治的に覚醒したためだ」とみる。

一方、議会第1党のネパール共産党毛沢東主義派(毛派)が、憲法制定後の議会選で影響力を維持するため、少数民族をあおっているとの見方も強い。毛派は武力闘争を展開していた90年代から「少数民族の解放」を訴えていたからだ。

だが、毛派幹部のキムラル・デブコタ議員(46)は「すでに少数民族は我々が制御できない状態だ」と語る。第2党・ネパール会議派の幹部で議員のラム・マハト元外相(61)は「今後、無政府状態になる恐れがある。出口なしだ」と語った。

制憲議会は08年に発足し、10年までに憲法を制定する予定だった。議会内の内紛で首相の辞任・就任を繰り返し、憲法制定期限も4度延長してきた。【5月24日 毎日】
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27日の期限内に新たな合意を図るのは困難と判断した主要4会派は22日、議会の任期を3カ月延長することを決めました。
しかし制憲議会の5度目の延長に対し、最高裁は24日、政府の任期延長動議を暫定憲法違反とし、差し止める命令を出しました。とにかく大枠でもいいから、まとまるところで一旦憲法を作れ・・・という指示です。

これを受けて、主要3政党の共産党毛沢東主義派、ネパール会議派、統一共産党などから成る連立政権は、期限内の憲法公布を目指すことになりました。
しかし、複数民族を含む11の州を主張するネパール会議派、統一共産党と、1民族1州を主張する毛派や少数民族側の対立は厳しく、どうなるのか・・・よくわかりません。

ネパールの民族事情
“国民の7割を占める100以上の少数民族”とのことですが、各民族ごとに州を作ると膨大な数の州ができそうです。居住地が混在しているエリアはどうするのでしょうか?
そもそも、7割が少数民族ということでは、多数派は3割しかないということになり、“多数派”とも言えないようにも思えます。

ウィキペディアによれば、ネパールの最大かつ支配的民族として、ネパール語を母語とする「パルバテ・ヒンドゥー」があげられています。
“パルバテ・ヒンドゥー(Parbate Hindu, Parvate Hindu)はネパールの最大かつ支配的民族。ネパールの人口のほぼ半分を占める。山地のヒンドゥー教徒という意味。インド・イラン語派に属するネパール語を母語とする。シャハ王家もこの民族集団に属す。
インドとは違ったカースト体系を持つ。最大の民族であるにもかかわらず、ネパールではあまりこの言葉は用いられず、国勢調査ではカーストに分けて統計を取っている。
「バフン(丘陵ブラーマン)」(バラモンに相当)、「チェトリ」(クシャトリアに相当)、「カミ」(不可触の一部)など、上位カーストと下位カーストのみあり、ヴァイシャ、シュードラ(中位カースト)に相当するものが存在しないのが特徴である。”【ウィキペディア】

3割の多数派というのは、この「パルバテ・ヒンドゥー」のうち、「バフン(丘陵ブラーマン)」や、「チェトリ」など支配的なカーストの合計でしょうか?

ネパールの国土は、北部の山岳地帯からカトマンズなどの丘陵地帯を経て、インド国境・南部の平野部に至る地形構造をしています。
この平野部には「マデシ」と呼ばれる、北インドの影響を強く受け、共通語としてヒンドゥー語を話す人々が暮らしています。

“マデシとは、タライ、またはテライともいわれるインド国境地帯に東西に細長く広がる肥沃な平原地帯(マデス)に住む人々のことである。現在の行政区画にはない。この細長い地域は文化的に北インドの影響が強く、丘陵地帯に住むネパール人の主流派パルバテ・ヒンドゥーから差別を受けてきた。このため、近年、「マデシ人権フォーラム」などの団体が中心になって、マデシ自治区を設け、高度な自治を実現するように、バンダ(ゼネラル・ストライキ)・チャッカジャム(交通妨害)などの激しい抗議活動を行ってきた。2008年の制憲議会選挙ではマデシ系のいくつかの政党が目覚しい議席数を獲得している。”【ウィキペディア】

上記のように08年選挙で大きな議席を獲得し、副大統領は「マデシ人権フォーラム」から、大統領はマデシ出身のネパール会議派から選出されるというように、ネパール政界でははもはや無視できない、キャスティングボードを握る政治勢力となっています。

更に、この南部の平野部には、マデシより更に古い先住民族「タルー」も存在します。
多くの「タルー」が北部からの移住者に土地を奪われ、債務を負い実質的には奴隷同様に一生働かされる農奴(カマイヤ)となっている問題もあります。

ネパールの民族事情はよく知りませんが、今回の11州の連邦制への反対は、これまで社会的に抑圧されてきた「マデシ」や、「タルー」などの先住民族が中心となっているようです。
日本から見ると「ネパール人」としてひとくくりに見てしまいますが、複雑な民族事情で「ネパール人」というアイデンティティーがまだ確立していないようにも見えます。

憲法制定は、そうした「ネパール人」のアイデンティティーを形成していくものでもある訳ですが、その入り口でアイデンティティーの欠如から立ち往生している感があります。
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エジプト  混戦の大統領選挙、開票始まる 選挙後の混乱への懸念も

2012-05-25 23:18:49 | 北アフリカ

(23日カイロ 投票所の前で列をなして開場を待つ女性有権者 “flickr”より By rassdphoto http://www.flickr.com/photos/79169928@N07/7256651004/

混戦の有力4候補
「アラブの春」でムバラク政権が崩壊したエジプトでは、23,24日に初の自由な大統領選挙がおこなわれました。
事前の報道では、有力候補は、アムル・ムーサ前アラブ連盟事務局長(75)、アフマド・シャフィク元首相(70)の世俗派と、穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団傘下の自由公正党のムハンマド・モルシ党首(60)、元同胞団幹部のアブドルメナム・アブルフトゥーハ氏(60)のイスラム勢の4名とされています。
ただ、後述のように、左派のハムディン・サバヒ氏の名前があがるなど、この種の報道がどこまで現状を反映しているかは、よくわかりません。

ムーサ前アラブ連盟事務局長は、ムバラク政権で外相を務め、イスラエルへの強硬姿勢から人気を高めました。
しかし、「ムバラク前大統領に人気を危険視された」(元エジプト外務省幹部)から、外相を外され、アラブ連盟事務局長就任に祭り上げられています。
昨年1月に反政権デモが起きると早々とこれを支持し、大統領選への立候補の表明も早い段階から行っています。

“「貧困対策を最優先する」「安全保障評議会をつくり、閣僚と軍の高官で軍事・外交政策を協議する」と打ち出し、貧困層や、内外政の急激な変化を懸念する軍部と国際社会への「全方位外交」を欠かさない。
同胞団のシャーティル氏や、ムバラク氏の側近だったスレイマン前副大統領らの有力候補が選挙管理委員会の審査で失格になるなか、「妥協先」として注目され、世論調査では首位だ。半面、「旧政権の残党」「八方美人」との批判もある”【4月29日 朝日】

シャフィク元首相は、ムバラク政権最後の首相です。元空軍司令官のシャフィク氏は「軍との人脈のない文民を大統領に据えてもうまくいかない。私ならスムーズな変化を促せる」と、軍との関係をアピールしています。
このため、革命後の治安の悪化に不満を募らせる市民や、イスラム勢力の伸長を嫌うキリスト教徒の一部などの支持を集めていますが、「軍部の手先」との見方も根強くあります。

モルシ党首は、総選挙でその底力を見せたムスリム同胞団の公認候補です。
最強の支持基盤を有していますが、 “(当初、大統領選挙に候補を擁立しないとしていた)同胞団は3月、「軍が国民の意思に反した統治を続けているため」と副団長シャーティル氏の擁立を発表。全権を握る軍最高評議会との対決姿勢を強めた。だが、ムバラク政権下で政治犯として投獄歴があったことから同氏は立候補資格を失い、代わりにムルシ氏が立った”【同上】ということで、選挙戦への出遅れに加え、同胞団にとってムルシ氏が「意中の候補」ではなかったことと、同胞団が「大統領選に候補を擁立しない」とする方針を転換したことが影響して選挙戦序盤では伸び悩みました。また、議会と大統領の両方を同胞団が抑えることへの警戒感もあります。
ただ、同胞団という強力な支持基盤がありますので、終盤、激しい追い上げを見せているとも。

アブルフトゥーハ氏は同胞団幹部でしたが、“候補を擁立しない”という方針に反して立候補を表明、同胞団を除名されています。
同氏は、女性やキリスト教徒の権利擁護を主張するなどリベラルな姿勢を見せ、「イスラム主義者と世俗派をつなぐ」とアピールしています。
その一方で、同胞団より厳格なイスラム主義を標榜する「光の党」も、同党候補のアブイスマイル氏が「母親が米国との二重国籍」だったとして候補失格となったためアブルフトゥーハ氏支持を表明しており、リベラル派とイスラム強硬派の相乗りという形になっています。

暫定統治する軍最高評議会は特定候補を支援しない方針ですが、“軍が歴代政権下で与えられてきた予算面などでの特権温存を狙っており、これに否定的な同胞団候補の勝利を嫌う。シャフィク氏や外相経験もあるムーサ氏を水面下で支援する可能性がある。”【4月30日 時事】とも報じられています。

過半数を得る候補がいない場合、上位2候補が6月16、17日の決選投票に進みます。
“決選投票までに新憲法を制定、7月1日に新大統領に権限を移譲し、民政移管を完了させる”という日程を軍は示しています。【4月30日 時事より】

****ムバラク政権崩壊後初のエジプト大統領選、開票進む****
エジプトで24日に投票が締め切られたムバラク政権崩壊後初の大統領選挙は25日、票の集計が進んでいる。選挙では、国の安定かホスニ・ムバラク前大統領を失脚させた民衆蜂起の理念かのどちらを優先させるかが争点となった。

過去の大統領選挙では常に同じ人物が勝利する、いわゆる「出来レース」だったため、今回の選挙のように勝利の行方がわからないまま結果を待つという経験は、エジプト国民にとって新鮮なものとなった。
5000万人超の有権者たちは、12人の候補者の中から1票を投じることができた。2011年の民衆蜂起前の選挙で見られた暴力や不正とも、ほぼ無縁だった。

投票は前日夕刻に締め切られたが、その数時間後にはエジプト内で大きな影響力を持つイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が、同胞団のモハメド・モルシ候補がリードしているとの声明を発表し、勝利に自信を見せた。ムスリム同胞団は、エジプト全土に広がる強固な組織網を駆使して、全国1万3000か所中236か所の投票所で(独自の)票集計を行った。

同日、ヒラリー・クリントン米国務長官は、エジプトで「歴史的」な大統領選挙が実施されたことに祝意を示し、米国は新たに誕生する政権と協力していく用意があると語った。

エジプトの選挙管理委員会によると、23、24両日に行われた大統領選の投票率は50%前後で、中には有権者が数時間も列に並ぶ投票所もあったという。
25日には、国内各投票所の集票結果が徐々に明らかになる見込みだが、公式の結果発表は27日に予定されている。【5月25日 AFP】
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モルシ氏とシャフィク元首相の決選投票?】
有力4候補の混戦から誰が抜け出すのかは、報道によっても様々で、集計結果が出ないとわかりません。
ムスリム同胞団は、独自集計で“同胞団のモルシ候補が得票率30%でトップに立ち、シャフィク元首相が同22%で2位につけている”と発表しています。
また、リベラルな有権者の支持を最終盤に固めた左派のハムディン・サバヒ氏(57)がシャフィク氏を猛追して2位争いをしているとも地元紙は報じています。【5月25日 毎日より】
公式結果発表は29日の予定です。

日本の選挙では、事前の世論調査でほぼ結果が予測されていますし、投票日の出口調査で当落がすぐに判明し、開票率0%で当確がだされます。
それに比べれば、投票結果が予測できない争いというのは、選挙らしい選挙とも言えます。

【「もし前政権の人間が勝てば、すぐにタハリール広場でデモだ!」】
一方、激しい選挙戦の結果、選挙後の混乱も懸念されています。
世俗派が勝利すれば、軍部とのつながり、旧体制存続への批判が高まりそうです。

****エジプト、深まる対立 大統領選投票開始 民主化で混乱****
昨年2月のムバラク前政権崩壊後、初となるエジプト大統領選が23日、始まった。同国史上初めて、複数候補による民主的な選挙での指導者誕生に期待がかかる半面、有権者の中には「本当に公平な選挙になるのか」と疑問の声も。選挙戦を通じ、体制支持派とイスラム勢力との対立も深まっており、新大統領選出後も混乱が続く可能性がある。

 ◆負ければデモ
「もし前政権の人間が勝てば、すぐに(首都カイロ中心部の)タハリール広場でデモだ!」
エジプト最大のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団に属するアブドルラフマン・ムハンマドさん(28)はこの日、朝から長蛇の列ができたカイロの下町サイエダ・ザイナブの投票所で順番を待ちながら、早くもこう“宣言”した。

政府系紙の世論調査によれば、13人が出馬した今回の選挙ではアムル・ムーサ元外相(75)とアハマド・シャフィク元首相(70)の世俗主義派2人が他候補をリード。これを同胞団傘下、自由公正党のムハンマド・モルシー党首(60)と同胞団元幹部のアブドルムネイム・アブールフトゥーフ氏(60)のイスラム系2人が追いかける展開だ。

ムーサ氏とシャフィク氏の優勢が伝えられる背景には、政変後の経済混乱が長期化する中、国民の間で「変革」より「安定」を求める心理が強まっているとの事情があるとみられる。
しかし、モルシー氏らの支持者の目には、こうした調査結果も「当局の操作」と映る。暫定統治を担う軍最高評議会に代表される体制側にとっては、前政権の高官だったムーサ氏やシャフィク氏の方が、自分たちの権益を守る上で都合が良いとみられているためだ。

 ◆民政移管、約束
前政権下のエジプトでは選挙不正が常態化していただけに、公正な大統領選が実現することへの有権者の期待は大きい。
軍部も今回の選挙を民主化に向けた重要なステップと位置づけ、新大統領選出後の速やかな民政移管を約束している。

ただ、このところ軍部との対立が強まる同胞団や、「旧体制打破」を掲げる民主化グループの当局不信は根深く、ムーサ氏やシャフィク氏が当選した場合、不正の証拠の有無にかかわりなく、大規模な抗議行動が起きる懸念は拭えない。(後略)【5月24日 産経】
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イスラム主義候補が勝利した場合、イスラム主義が前面に出てくることへの警戒もあります。
今朝のTV報道でも、すでに議会でイスラム主義政党が多数派となったことで、女性の権利を制限する方向の法案がいくつも出されていることが伝えられていました。
同胞団のモルシ候補は「イスラム法によれば、女性は指導者にふさわしくない」という主旨の発言を公然と行っています。
「アラブの春」の結果、世俗主義的なムバラク前政権より女性の権利が制約されることになる・・・ということもあり得ます。

【「彼らがほとんど競わなかったことがひとつある。政策だ」】
日本の選挙でも、政策は殆んど語られず、ひたすら候補者の名前が連呼されるという現象が見られますが、エジプトでも政策が論じられることはあまりないようです。

****投票先は、神の思し召し〈カオスの深淵*****
中東の独裁政権が次々に倒れた「アラブの春」。エジプトでは革命後初の歴史的な議会選挙に多くの政党と候補者が名乗りを上げた。
しかし、彼らがほとんど競わなかったことがひとつある。政策だ。

「地中海の真珠」とたたえられる北部の古都アレクサンドリア。観光客を魅了してきたこの街でいま目立つのは、議会選後も残るイスラム系政党の選挙ポスターだ。あごひげを蓄え、祈りで額を地面に何度もこすりつけてできた「たこ」を強調する顔のアップが、黄土色のビル壁を埋める。

約30年続いたムバラク政権を倒したのは若者たち中心のデモだった。だが1月に確定した議会選の結果は、世俗派の若者たちが苦戦し、イスラム系政党が議席の約7割を占めた。

問われたのは宗教への帰属意識だった。
「政策はムバラク時代から変える必要はない」。第1党になった自由公正党の政策担当、ヌサイバ・アシュラフさん(30)はそう言い切った。担当者がこうなのだから、選挙戦は政策ではなく「エジプトに善を」の抽象的な訴えで乗り切った。

より復古的な「光の党」は、かつて「法は人ではなく神がつくる」と議会制民主主義を否定していた。革命にも冷ややかだったが、第2党に躍進。広報担当のユスリ・ハミドさん(52)は勝因を「神が望んだから」と答えた。
世俗派によると、宗教政党はモスクで「神」の名の下に候補者を推し、投票日には有権者をバスで投票所に運び、パソコンで名簿を調べながら投票漏れを防いだ、という。

「妻も親戚も、イスラム教徒だからって同じ党に投票していた」。世俗派を応援するバドラディン・アッバスさん(55)は嘆く。海岸沿いでカフェを経営するが、客はいない。エジプトは革命後も、治安の悪化や、観光客の減少による景気低迷に悩む。
「議会に神様の仕事はないはずだ」。カイロの薬剤師、モアズ・アブドルカリームさん(28)は言う。世俗派の政党をつくって候補6人を擁立。国民皆保険などの政策を掲げたが、全員落選した。

一方、光の党を支持する水道会社勤務のハサン・アリさん(43)は「政策なんて関係ない。神が示したことに従う。それが大事なのだ」。

独裁後の新しい道を自ら選ぶ選挙ではなかったか。カイロ・アメリカン大のサイード・サデク教授は言う。「独裁体制は、人々を無知のままにするのが都合が良かった。今回わかったのは、選挙も同じだったということだ」
政策への賛否ではなく、帰属意識で投票する人たち。それは、民主化したばかりのエジプトだけの現象だろうか。【4月25日 朝日】
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本来は、エジプトの経済状況は悪化しており、その対策が問われるべきなのですが、そういった選挙情勢にはないようです。

****給油に行列・政変後ゼロ成長…エジプト、疲弊する経済****
23日に大統領選の投票が始まるエジプトで、昨年の政変後の混乱で落ち込んだ経済の立て直しが急務だ。
だが貧困層は物資の入手にも困り、国際支援は宙に浮いたままだ。通貨暴落の懸念も消えない。
民主化を経て、初の自由な直接選挙で誕生する新大統領は重い課題を背負う。

ピラミッドのあるカイロ近郊ギザ。ガソリンスタンドには早朝から、車やミニバスの列ができていた。補助金で1リットル0.9エジプトポンド(約12円)に抑えられた最安ガソリン「オクタン80」の順番待ちだ。
「今日は2時間待った。2カ月前には8時間待ったこともある。仕事にならない」。ミニバス運転手イスラム・マクディさん(25)は嘆いた。

10軒探して「80」の在庫があったのは3軒。それもすぐに売り切れる。次に安い「90」を使うと、月1400ポンド(約1万8200円)の手取りの半分以上が飛ぶ。
住宅街の路上に「80」と書かれたポリタンクがあった。「80」を扱う「闇市場」の目印だ。奥の路地に小型のタンク車が見えた。売値は1リットルが1.5エジプトポンド(約20円)。

昨年のムバラク政権崩壊後に入手が難しくなったのはガソリンだけではない。家庭用ガスボンベやパンにも行列ができる。いずれも補助金で安値に抑えられている。
エジプト経済研究所のマグダ・カンディル所長は「外貨準備高不足で輸入が滞る懸念が広がり、転売を狙った買い占めがこの数カ月間で一段と広がった」と指摘する。警察が横流しや密売を取り締まることもなくなった。

「パンや治安の問題を100日間で解決する」(ムスリム同胞団幹部のムルシ氏)、「治安回復は就任24時間以内だ」(元首相のシャフィーク氏)など、大統領選の有力候補は、生活向上や公共秩序の回復を競うように唱える。ただ、解決は簡単ではない。

ムバラク政権が進めた国営企業の民営化などの開放政策は貧富の格差を広げたものの、経済成長率はここ数年4~7%で推移していた。それが政変後、ほぼゼロに失速した。
観光収入は激減、対内直接投資はマイナスに落ち込み、外貨準備高は政変前から半減した。中央銀行が支えきれなくなってエジプトポンドが急落すれば、生活必需品を含む輸入品の価格が急騰し、社会不安を引き起こしかねない。

頼みの綱は、国際通貨基金(IMF)と交渉中の32億ドル(約2500億円)の融資だ。世界銀行や欧米などから融資を得る呼び水となる。だが、系列政党が議会第1党となったムスリム同胞団は、軍最高評議会が全権を握る現在の状況での決定に難色を示し、決着は先送りされた。

融資で急場はしのげても、いずれ政府歳出の2割近くを占める石油補助金の改革に手をつけざるを得ないとの見方が大勢だ。だが、選挙戦で大統領候補が「痛み」を口にする場面は見られない。外交筋の間では「ムバラク前大統領ですら反発が怖くてできなかったのに、新大統領にできるのか」との声も漏れる。【5月23日 朝日】
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ギリシャ  “欧州の玄関”に押し寄せる移民、台頭する移民排斥の極右政党

2012-05-24 21:28:02 | 欧州情勢

(ギリシャの港湾都市パトラ 当局によって撤去された不法移民居住地から毛布などを拾い出す不法移民 彼らの多くはアフガニスタンからで、イタリア行きのフェリーに忍びこめる機会を窺っていると言われています。
しかし、仮にイタリアに行けても、職も食べ物もないのはギリシャと同じです。あるのは更に厳しい不法移民取り締まりだけです。“flickr”より By MORTEZA26 http://www.flickr.com/photos/50396650@N05/4629027140/)

現実の問題となったユーロ離脱
再選挙となったギリシャでは、“ユーロ離脱”が現実的問題となってきたことを受けて、世論もこれまでの財政緊縮策反対一辺倒から、ユーロ離脱を不安視する慎重論も増加し、両者拮抗した状態となっているようです。

****ギリシャ再選挙:ユーロ離脱に不安…世論調査****
ギリシャ再選挙(6月17日投開票)の序盤戦は、財政緊縮策を巡って、先の総選挙で第2党となった反対派の急進左派連合の支持率が高止まりし、第1党で推進派の中道右派・新民主主義党が勢いを持ち直す互角の戦いになっている。ユーロ圏離脱への不安から、反対派離れも起きており、1カ月間の選挙戦は「ミスを犯した側が負ける」(政治アナリスト)緊迫した情勢が続きそうだ。

再選挙公示の19日前後に地元メディア・調査機関が伝えた各世論調査では、6日実施の総選挙終盤戦から選挙後にかけて支持率を急増させた急進左派は、再選挙が確定したころから伸びが鈍った。代わりに、旧与党の新民主に、離れた支持者の一部が戻る傾向が表れている。

公表された7種類の世論調査で最も高い支持率を得た党は、急進左派が3調査、新民主が4調査と真っ二つに分かれた。1位と2位は多くが約1〜3ポイント差の大接戦だ。【5月24日 毎日】
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ネオナチ極右政党の台頭
先の総選挙では緊縮策反対派の急進左派連合が第2党に躍進して、再選挙で政権獲得に至るかどうかが注目されている訳ですが、前回総選挙では移民排斥を掲げる極右政党「黄金の夜明け」が7%の得票率で、初の議席(21議席)を獲得したことも注目されました。

“同党は93年設立。ナチス・ドイツの総統ヒトラーの思想の影響を受け、ギリシャ人の人種的優位を信じる「ネオナチ」団体だ。全国に約1万2000人の党員がいるとされる。
ミハロリアコス党首(55)は、債務危機に陥ったギリシャを支援した欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)を「国際的な金貸し」と切り捨て、同国が受け入れた緊縮策の破棄を主張。ユーロ圏を離脱し、ユーロ導入前のギリシャ通貨「ドラクマ」の復活、銀行国有化などを叫んでいる”【5月1日 時事】

総選挙の勝利会見の際には、報道陣に党首への敬意を表して起立するよう求め、反論した記者に退場を促したり、17日の初議会では、ミハロリアコス党首を先頭に軍隊行進のような立ち居振る舞いで議場に入ったなど、摩擦を起こしています。

また、同党支持者による移民排斥の暴力事件も起きています。
****ギリシャ:暴力事件が相次ぐ****
総選挙のやり直しで国内対立が激化しているギリシャで、暴力事件が相次いでいる。西部の港町パトラで22日、6日の総選挙で初めて国会に議席を獲得した極右政党「黄金の夜明け」の支持者ら約300人と警官隊が衝突し、双方で計15人が負傷、5人が逮捕された。

衝突は先週末、30歳のギリシャ人男性が、アフガニスタンからの移民3人組にナイフで襲われて死亡した事件がきっかけとなった。不法移民による治安悪化に苦しむ住民と、移民排斥を強硬に主張する同党支持者らが、アフガン移民が住みついている地元の古い倉庫跡に、集団で抗議に押し掛けた。覆面姿でギリシャ国旗を振りながら叫ぶ若者らが投石や放火を始め、警官隊も催涙ガス弾で対抗する騒動となった。

一方、先の総選挙で議席に届かなかった右派小党・国民正統派運動の候補者が23日、見知らぬ男たちに襲撃された。けがはなかった。候補者は同日朝、財政緊縮策推進を呼び掛ける新民主主義党に移籍すると発表したばかり。犯人たちは「移籍にいくら支払われたのか知ってるぞ」と言って殴りかかったという。【5月24日 毎日】
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【「これは我が国だけではなくて欧州全体の問題だ」】
こうした極右政党の台頭、社会不安の増大の背景には、アジア・アフリカから“欧州の玄関”ギリシャに大量の不法移民が押し寄せている現実があります。

****ギリシャへ押し寄せる不法移民 アジアからアフリカから****
2大政党が過半数割れの歴史的大敗を喫し、排外主義的な極右政党が躍進したギリシャの総選挙。その一因となったのは、欧州の一角であるギリシャに向けて押し寄せる大量の不法移民の存在である。

■経済危機でも「先進国」
ギリシャ北東部、トルコとの国境の町オレスティアダのはずれ。7、8人の男が立ちつくしていた。
片言の英語を話すリーダー格は「ユーセフ。31歳」と名乗った。バングラデシュ・ダッカ出身。アラブ首長国連邦のドバイまで空路。その後、オマーンを経て、イラン、トルコと陸路で来たという。この日午前4時ごろ、トルコとの国境を歩いて越えた。
レジ袋に着替えを入れて持っている者が少しいるが、多くは手荷物もない。所持金は1人50ユーロほど。「アテネに行く。仕事を探す」。胸に両手を当て、顔いっぱいに笑顔を広げた。

国境近くの村でカフェを営むユアニス・パルシスさん(75)は言った。
「毎朝やって来るよ。川を渡っているからみんなびしょぬれで疲れ切っていて。かわいそうなものだ」
移民を見かけることが増えたのはここ2、3年だという。「戦争のせいだろう。パキスタンやソマリアなどの人が多いようだ」

当局にとってはもちろん、頭の痛い問題だ。
ギリシャ国家警察の広報担当は「アフリカ、南アジア、中近東。三つの地域からの移民が、海から陸から押し寄せてくる。これは我が国だけではなくて欧州全体の問題だ」と話す。

昨年ギリシャで拘束された不法移民は約10万人。国籍は111に上った。5万5千人いる警官のうち1万5千人が不法移民対策に専従するが、流入は1日に100~300人とされる。
トルコとの国境は約230キロ。ギリシャ紙によると、昨年10~12月に欧州全域に入ってきた不法移民3万人のうち、75%はここを越えてきた人々。国境線の大半は海や川で隔てられているが、粗末なゴムボートで渡ってくる者が絶えない。海での取り締まりを強化したら、オレスティアダ近くに約12キロの距離だけある陸続きの場所を歩いてくる移民が激増した。

欧州の政府債務危機の震源地であるギリシャだが、移民にとっては豊かな「先進国」であり、欧州の玄関だ。警察当局によると、70万人の不法移民と100万人の外国人住民が暮らす。人口の2割近くにあたる。

■極右台頭、襲撃事件も
「国境に地雷を埋め、不法移民が入ってこられないようにする。トルコ系住民にも母国に帰ってもらう」
アテネ郊外。スキンヘッドの男性が語気を強めると、支持者は叫んだ。
「ギリシャはギリシャ人のものだ!」
極右政党「黄金の夜明け」のゲルメニス氏(34)は「やっと国民が目覚め、私たちの主張を現実の問題と認識するようになった」と話す。「アレクサンドロス大王を生んだ、偉大な古代ギリシャの誇りを取り戻せるのは我々だけだ」

同党は総選挙で21議席を得た。「仕事を奪い、犯罪が増える」として移民排斥を唱え、「ギリシャ人のため」と貧困層対象の食糧配給などに力を入れた。支持層は、移民が多く住む都市郊外の住民。約10%の票を得た選挙区もある。

同党が勢力を広げる裏で不穏な事態も起きている。
地元記者によると、同党のメンバーを名乗る男たちが、造船工場の経営者に外国人労働者を解雇してギリシャ人を雇うよう求め、拒否されるとその工場の外国人労働者を襲撃する事件などが起きているという。

移民の収容施設の建設を巡って、予定地周辺で治安悪化を心配した反対運動も生じる。「福祉予算が削られる中で、移民に多額の税金を費やすことには、国民の合意が得られない」と国家警察の広報担当は話す。
収容施設が不足しているため、不法移民たちは取り調べを受けた後、国外退去を命じられて施設から出される。だが、多くはそのまま欧州にとどまる。

トルコ国境地帯では、ギリシャ警察の車両とともに緑色の車両が巡回していた。各国の国境警備の連携を深めるため、欧州連合(EU)の機関であるフロンテックス(欧州対外国境管理協力機関)が派遣した他国の警官だ。国境警備はEU頼みになりつつある。
「シェンゲン協定に加盟すれば、いまギリシャが苦労しているのと同じ問題に必ず向き合わなければならない」とルーマニアから派遣されたミハラケさん(32)は語った。

国境は、通貨とともに国の独立を示す存在だ。だが欧州の内側で、もはやそれは半ば溶けている。
もしギリシャがシェンゲン協定やユーロから脱退すれば、不法移民は大幅に減るだろう。しかし、それは、ギリシャが欧州から追い出され、移民を送り出す側となることにほかならない。【5月23日 朝日】
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ギリシャの人口は約1100万人ですから、“70万人の不法移民と100万人の外国人住民”というのは膨大な数です。
移民の急増が、経済的・文化的摩擦や治安悪化の問題を引き起こすことは事実です。
ただ、豊かさを求める人々に対し、先に豊かになった国が門戸を閉ざしたり、排斥することが“あるべき姿”か・・・と言えば、そうでもないように思えます。
日本の場合には、将来的人口減少・高齢化社会に対応する社会活力維持という問題も絡みます。

暴力的対応は許されないことは言うまでもないですが、ギリシャだけでなく欧州全体で、移民問題全体への賢明な対策が求められています。受入れ側の叡智と良識、そして品格も問われる問題です。
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北朝鮮による中国漁船拿捕事件に見る「血の友誼」の実態

2012-05-23 22:34:14 | 東アジア

(黄海では、昨年12月12日、韓国排他的経済水域(EEZ)で韓国海洋警察の係官が違法操業中の中国漁船員にガラス片で切り付けられ、1人が死亡、1人が負傷する事件もありました。“flixkr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6498220923/
もちろん韓国国内では中国への激しい抗議行動はありましたが、激高しやすい対日関係に比べると、随分と穏やかにすんだ感もします。 本論とは関係ありませんが、このあたりが日本からすると不可解なところでもあります。)

南シナ海では中比両国が禁漁措置
南シナ海のスカボロー礁近海での中国とフィリピンの艦船による“にらみ合い”は、相変わらず続いていますが、両国が同海域での“禁漁措置”を発表する形で、とりあえずの休戦に持ち込まれる動きも出ています。

****フィリピンと中国、それぞれ南シナ海に禁漁令 にらみ合い解消へ布石か****
フィリピンは16日、中国と領有権を争っている南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)近海域について、2か月間の禁漁措置を発表した。これに先だって中国も、同日から8月1日まで同海域を含めた南シナ海の広域を禁漁とすると発表しているが、フィリピン政府は中国側の禁漁措置は無効だと主張している。

スカボロー礁近海では、前月10日に中国漁船を拿捕しようとしたフィリピン船舶を中国の監視船が妨害して以降、両国の船舶がにらみ合いを続けている。フィリピン当局によると現在、同海域には中国の監視船2隻と漁船10隻、フィリピン艦船2隻と漁船1隻がいる。

フィリピン漁業水産資源局(BFAR)は、禁漁措置は同海域で漁を行う漁船が多すぎるとの報告に基づくものだと説明した。
一方の中国側も、水産資源の乱獲を禁漁の理由としているが、専門家らは両国の禁漁令について対面を保ちつつ問題海域から船舶を引き上げるためのものと分析している。

禁漁措置の発表に先立ってフィリピンのベニグノ・アキノ大統領は、中国の禁漁措置に従う義務はフィリピンにはなく、自国の規定にのみ従うと表明していた。

フィリピン海軍の海図によれば、スカボロー礁はフィリピン・ルソン島から約230キロ沖合にあり、一方の中国本土からは約1200キロ離れている。フィリピン政府はスカボロー礁を自国の排他的経済水域(EEZ)内だと主張しているが、中国はスカボロー礁や他アジア諸国の近海を含む南シナ海の大部分の領有権を主張している。【5月17日 AFP】
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相手側の“禁漁措置”を根拠のないものと批判するのは当然で、中国の禁漁措置にはフィリピンだけでなくベトナムも抗議の意を表明しています。
そうした表向きの対応は別にして、お互いが艦船を引く結果になれば、それはそれで・・・といったところですが、逆に中国が監視船を増派しているとの報道もあり、どういうふうに決着するのかよくわかりません。

****中国が監視船増派」=南シナ海問題で比が抗議****
南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)の領有権をめぐり、中国とフィリピンの船舶がにらみ合いを続けている問題で、フィリピン外務省は23日、中国がスカボロー礁周辺に監視船を増派したとして抗議した。

フィリピン外務省は声明で、スカボロー礁周辺の中国海洋監視船が21日夜の時点で5隻に増え、中国漁船16隻も確認されたと指摘した。これまで中国監視船は3隻だった。【5月23日 時事】
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フィリピンを支援しつつも深い入りは避けたいアメリカ
戦闘機も、ミサイル搭載の艦艇も持たないフィリピンの後ろ盾はアメリカです。

****比、権益維持へ米に接近****
4月22日、南シナ海に面するフィリピン・パラワン島で行われた米比合同軍事演習の記者会見。「南シナ海は米比相互防衛条約の範囲内なのか」との質問に対し、フィリピン国軍のサバン西部方面軍司令官は「条約に基づき両国は、どちらかが侵略されれば対応する」と述べ、南シナ海で有事の際には米軍が関与するとの見方を示した。横に並んだ米海兵隊のティーセン中将も「司令官の見解は正しい」とうなずいた。

30日にはワシントンで両国の外務、国防担当閣僚による初の「2+2」会談があった。パネッタ米国防長官は、南シナ海を監視する米国の偵察衛星の情報を24時間態勢でフィリピン側に提供すると約束した。

極東最大の米軍基地だったクラーク、スービック両基地を1991年に返還させたフィリピンは、昨年3月に南シナ海のリード礁で自国の資源探査船が中国軍艦に妨害された事件を機に、軍事面で米国に再び急接近している。
戦闘機も、ミサイル搭載の艦艇も持たないフィリピン軍は、中国軍に対しては丸腰同然だ。米軍機や艦船への補給場所の提供を広げることで、南シナ海の自国の権益を守ってもらうことを目指している。

一方、中国は、米比合同軍事演習と同じ頃、黄海でロシアとの合同軍事演習を実施。「フィリピンの一方的な動きは度を超しつつある」(外交筋)と、対米接近に対して警戒感を強めている。【5月9日 朝日】
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ただ、“アジア重視”を掲げているアメリカとしても、領有権そのものについては中立的な立場を崩していないなど、南シナ海での争いへの深い入りは避けたい本音も窺われます。

中国は、フィリピンから輸入されるバナナの検疫を強化する形で圧力をかけるなどしていますが、先日のTVニュースでは、フィリピンに滞在する中国人観光客がゼロになったとのことです。中国政府の意を受けた旅行会社がフィリピン向けのツアーを中止しているようで、さすがにこのあたりは徹底しています。
“対中関係の冷え込みにより、フィリピンではホテル、レストランなどの観光業が大打撃を被っており、現地で働く人々は政府の反中感情に反発している”【5月13日 Record China】との報道もあります。

中国ネット上で噴出する北朝鮮への反感
今日取り上げたかったのは、同じ漁業問題に起因する対立でも、南シナ海の話ではなく、実は黄海の話です。
黄海では、5月8日、北朝鮮が境界線を越えて不法操業したとして中国漁船を拿捕する事件がありました。
事件そのものは、拘束されていた中国漁船3隻と乗組員29人が21日、拘束から13日ぶりに中国・大連の港に戻り、一応終結しています。

しかし、北朝鮮側が漁船と乗組員返還の条件として100万元(約1250万円)前後を要求し、「支払わない場合は船と乗組員を処分する」などと警告していたこと、漁船の船主が「乗組員らは拘束中、毎日のように殴られ、監視員に私語を禁じられた。家畜のように扱われた」と語ったことなどから、中国国内では北朝鮮に対する批判・不満が増大しているそうです。

****中国で反北朝鮮世論高まる 漁船拿捕事件受け****
中国漁船が北朝鮮に拿捕(だほ)され、約2週間後に解放された事件を機に、中国で「反北」世論が急速に広がっている。

黄海で操業中の中国漁船3隻は今月8日、中朝の境界線を越えたとして北朝鮮の船に拿捕されたが、拘束されていた乗組員28人は21日、拘束から13日ぶりに中国・大連港に戻った。
拘束中に北朝鮮の軍人から暴行や非人間的な扱いを受けたとする乗組員の証言が報じられたこともあり、中国のネット上では北朝鮮への反感が噴出している。

中国版ツイッター(短文投稿サイト)「微博」では、「一切の北朝鮮機関と協力しないようにしよう。取引もやめよう。北朝鮮レストランを排斥しよう」と訴える書き込みが広がっている。
あるネットユーザーは「北朝鮮政府が外貨稼ぎのために経営している北朝鮮レストランを排斥すべきだ。だが、韓国人や朝鮮族の経営する店が被害を受けるようなことがあってはいけない」と書き込んだ。

また別のネットユーザーは「先週、北朝鮮レストランである客が金正恩(キム・ジョンウン)のことを口にしたら、従業員に取り囲まれ、謝罪を求められた。客が公安(警察)に通報し、外交当局に報告がいき、ようやく解決した」と紹介し、中国人の反北感情をあおった。
一部の中国人は、経済援助を含め中国から少なくない支援を受けている北朝鮮が、自国の漁船を拿捕したという事実に憤り、北朝鮮に対する一切の人道支援を中断すべきだと主張している。

中国のネット上でこれほど反北世論が強まるのは、北朝鮮が中国など国際社会の自制要請を振り切って2度目の核実験を強行した2009年以来、初めてと指摘される。
中国人の非難は、事を荒立てずに済ませようとした自国の政府にも向けられている。漁船の乗組員が10日以上も正体不明の勢力に拘束されていたにもかかわらず、北朝鮮に一度も正式に抗議できなかったのは屈辱的だとの意見が、ネット上で飛び交っている。

こうした世論を意識したかのように、中国の政府や国営メディアは、漁船の拿捕が中朝友好関係に基づき円満に解決したとする一方で、北朝鮮に問うべきことがあれば問うとの姿勢を暗に強調している。
事件後、明確な言及を控えていた中国外務省の洪磊報道官は22日の会見で「外務省は事件を注視しており、平壌、北京で北朝鮮と密接に連絡を取ってきた。中国の漁船管轄部門が、詳細を調査中だ」と述べた。

ただ中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」は前日の1面で、乗組員の帰国を伝えながら、中国と北朝鮮が今回の事件について正式な言及を自制している状況は、両国間の意思疎通が円滑なことを示すものだと報じた。【5月23日 聯合ニュース】
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【「血の友誼」】
朝鮮動乱の際、義勇兵を送った中国と北朝鮮とは「血の友誼」といわれる密接な関係にあるとされてはいますが、核開発や長距離ミサイル発射実験などで中国の制止に従わない北朝鮮に、中国側は苛立ちを募らせているとも言われています。
一方、ことあるごとに改革・開放政策の実施などを迫る中国を、故金正日総書記はひどく嫌っていたとも言われています。

ただ、そうであっても、北朝鮮にとって中国は食糧・エネルギー援助などで不可欠な存在ですし、中国にとっても朝鮮半島における親中国政権の存続は至上命題でもあります。

そうした関係で、実際のところ中国と北朝鮮がどういう関係にあるのかよくわかりませんが、“黄海の中朝境界線付近では、中国漁船と北朝鮮船とのトラブルが多発している。今回は、漁船の船主が15日、ネット上で事件を公開したことから、外交問題に発展。金正恩第1書記の中国訪問など懸案を抱える北朝鮮は、中国内で北朝鮮に対する反感が高まることを恐れ、解決を図ったとみられる”【5月21日 読売】とのことです。

中国世論にすれば、中国が支えてやっているのに・・・といった感情でしょうし、北朝鮮側すれば、そうした高飛車な物言いは神経を逆なでするところでもあるでしょう。

「血の友誼」の両国が揉めるぐらいですから、中国とフィリピン、あるいは尖閣諸島で中国と日本が揉めるのも、大騒ぎするほどのこともない、ごく当たり前のことなのでしょう。

それにしても、中国漁船か南シナ海でも黄海でも、あちこちに出没して問題を引き起こしていますが、統制が得意な中国当局はこれを管理する考えはないのでしょうか。
中国漁船の活動が盛んなのは、中国国内での水産物需要が急拡大しており、魚はいくらでも売れる状況で、違法操業による多少の罰金ぐらい支払っても十分に採算が合うという国内事情もあるようです。

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セルビア  民族派のニコリッチ氏、大統領選挙勝利 懸念されるコソボへの影響

2012-05-22 22:48:03 | 欧州情勢

(4月26日、ベオグラード セルビア進歩党の選挙集会に参加した、ニコリッチ党首のポスターを掲げる支持者 “”より By www.pierremorel.net  http://www.flickr.com/photos/pierremorel/6973026158/ )

【「ムラディッチ被告はボスニアの民族浄化をたくらみ・・・」】
ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦当時のセルビア人武装勢力司令官で、戦犯として国際法廷に起訴されたラトコ・ムラディッチ被告(70)の裁判が5月16日、オランダ・ハーグの国連旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(ICTY)で始まりました。

****ムラディッチ被告の公判開始、旧ユーゴ国際戦犯法廷****
・・・・ムラディッチ被告は民族浄化や第2次世界大戦後としては欧州最悪の大量虐殺などの残虐行為を指揮したとして起訴されている。Dermot Groome検察官は冒頭陳述で「ムラディッチ被告はボスニアの民族浄化をたくらみ、犯罪行為を実行した」と述べた。

同被告は、1992~95年まで続いた内戦でのジェノサイド(大量虐殺)や戦争犯罪、人道に対する罪など11件の罪で起訴された。内戦では10万人が殺害され、220万人が家を失った。

同被告は裁判官が法廷に入ってくると、皮肉を込めて拍手で迎えた。Groome検察官は「検察当局は、いずれの犯罪においても、被告が確かに関与した証拠を提示する」と加えた。
同被告は前年6月に開かれた審理で、無罪を主張した。【5月17日 AFP】
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ムラディッチ被告が責任を問われている“民族浄化”のひとつに、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中の1995年にイスラム教徒の男性約8000人が殺害されたスレブレニツァ虐殺事件があります。

当時、スレブレニツァには周辺地域から戦火を逃れてイスラム教徒ボシュニャク人が集まっていました。
国連はこの地域を安全地帯に指定し、200人の武装したオランダ軍の国際連合平和維持活動隊も駐留していました。しかし、武力に勝るスレブレニツァを包囲したセルビア人勢力の圧力に屈する形で、ボシュニャク人男性8000人がセルビア人勢力に引き渡され、そのほとんどが組織的、計画的に、順次殺害されていったと言われています。

TVニュースで見ると、検察側の罪状説明の際に、ムラディッチ被告は嘲るような冷笑を見せていました。
昨年5月に拘束されたときは、随分やつれた様子で、“脳卒中に見舞われ、右手がほぼマヒ状態で、心臓病も患っている”とのことでしたが、法廷での同被告は健康を回復したように見えました。

セルビア人は戦犯引き渡しを求めるEUの要求を恐喝と見ている
ムラディッチ被告は、セルビアの民族主義的なサイドからすれば“英雄”であり、同被告がながく潜伏できたのもセルビア国内の多くの支持者の存在があるとされていました。
しかし、内戦敗北からの復興をEU加盟に託すセルビアに対し、EU側は同被告の身柄引き渡しを条件としていたこともあって、EU加盟を推進する親西欧派のタディッチ大統領のもとで、同被告の拘束・引き渡しが実現しました。

****戦犯ムラディッチ拘束に怒るセルビア人****
ボスニア内戦でムスリム虐殺を指揮したムラディッチだが、セルビア人は彼を英雄視する

旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷から戦争犯罪などの罪で起訴され、逃亡していたセルビア人武装勢力指導者ラトコ・ムラディッチが拘束された。このニュースを受けて、セルビアの首都ベオグラードの中心部では若者が集まり、ムラディッチの拘束に怒りの声を上げた。

ボスニア内戦の終結から15年以上、NATO(北大西洋条約機構)軍による空爆でコソボ紛争が終結してから10年以上が経つが、バルカン半島の緊迫はまだ続いている。
ムラディッチの拘束に対する市民の反応から、多くのセルビア人がまだ内戦の傷を抱えていること、そしてEU(欧州連合)加盟のために戦犯を引き渡すという条件に疑念を持っていることがうかがえる。

EU統合セルビア事務所のミリカ・デレビッチ所長によると、現在EU加盟を望んでいるセルビア国民は57%で、02年以来最低の割合だ。
セルビア人は戦犯引き渡しを求めるEUの要求を恐喝と見ている。
さらに国外旅行をするセルビア人が増えるにつれて、実際に見るEUが政治家が喧伝するような「バラ色の社会」とは異なると実感し始めた。

ムラディッチ拘束を受けて、セルビア語のネット上には怒りの声も書き込まれている。「セルビアは何も得られない」「セルビア人はこれから、特にボスニアで大きな圧力にさらされるだろう」
(中略)
ベオグラードでも街の中心部で若者のグループが愛国的な歌を歌うなどの現象がみられたため、セルビア警察は組織的な集会を禁止し、警備を強化した。

ある世論調査によれば、セルビア人の51%がムラディッチの身柄引き渡しに反対だった。フェースブックのセルビア国防相のページには、あるユーザーが「まるで自分が拘束されたようだ」と書き込んだ。「われわれは誰しも神の前では小さな存在だ」【11年5月27日 Newsweek】
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EU加盟路線への転向は「選挙向けの演出に過ぎない」】
そのセルビアでは、大統領選の決選投票が20日行われ、野党の民族派、セルビア進歩党のトミスラブ・ニコリッチ党首(60)が与党の親欧米派、民主党を率いるボリス・タディッチ前大統領(54)を抑えて勝利しました。

****セルビア大統領選:ニコリッチ氏当選確実 コソボなど警戒****
セルビア大統領選で野党の民族派、セルビア進歩党のニコリッチ党首が初当選を確実にした。欧州統合路線の継承を約束するが、極右政党出身で欧米と対立してきた「過去」を持つだけに、隣国コソボや欧州諸国からは懐疑的な見方も出ている。

20日深夜段階でニコリッチ氏の得票率は50.21%。3選を目指した親欧米派、民主党のタディッチ前大統領は46.77%だった。

タディッチ氏は、90年代の紛争で戦った近隣国との和解を推進。大物戦犯の逮捕や、セルビアから独立したコソボとの直接対話の実現などを通じ、今年3月にEU加盟候補国の地位を獲得していた。
だが、欧州債務危機のあおりで国民生活が打撃を被る中、選挙の関心事は経済の再生や汚職体質の是正に向いた。地元観測筋は「00年の民主化から10年余。生活の向上などで国民が期待したほどの成果が上がらなかったことへの不満が表れた」とみる。

ニコリッチ氏は08年に極右政党を離脱。EU加盟路線へ切り替えたが、多くの専門家は「選挙向けの演出に過ぎない」と見る。
コソボのセリミ副外相はロイター通信に、ニコリッチ氏が近隣国で戦争犯罪を行ったセルビア部隊の組織化に関与したとして懸念を表明。
スウェーデンのビルト外相はツイッターで「ニコリッチ氏が率いるセルビアは、欧州統合や近隣協調に向け信頼を醸成しなければならない」と指摘した。【5月21日 毎日】
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ニコリッチ氏勝利の背景には、記事に指摘されるように“選挙の関心事は(EU加盟問題よりは)経済の再生や汚職体質の是正に向いた”ことがあるようです。
最近のEU・ユーロ圏の混乱が、EU加盟に対する期待感を損なっていることもあろうかと思われます。

また、事前の世論調査ではタディッチ氏が大幅にリードしていたとのことで、民族派のニコリッチ氏勝利に、かつての“セルビアの英雄”ムラディッチ被告の公判開始が影響した面はないのでしょうか?

コソボのセルビア系住民問題が更に厄介なことになるのでは・・・
ニコリッチ氏は、旧ユーゴスラビア紛争を巡る国連の戦争犯罪法廷の裁判中に死去したミロシェビッチ元大統領の下で閣僚を務めるなど、反欧米の民族派として知られていますが、4年前に極右政党を脱退し、「セルビア進歩党」を立ち上げてからは欧米との協調路線に転換したとされています。

ただ、勝利宣言でも「セルビアは今後もEU統合への道を歩むが、コソボは守り抜く」と述べ、EUとの加盟交渉は進める一方、コソボの独立を認める考えはないことを改めて強調しています。
EUへの加盟には、戦犯引き渡しと並んで、EUが後ろ盾となっているコソボとの関係改善が条件となっていることから、「EU統合への道を歩むが、コソボは守り抜く」というのは “加盟しない”と言うのと同義です。実際、「EUが(セルビアからの)コソボ独立の承認を加盟条件にするなら加盟しない」と公言しているそうです。
コソボに強硬な姿勢をとるニコリッチ大統領が就任することで、セルビアのEU加盟に向けた交渉に遅れが出るものとみられています。【5月21日 NHK、毎日より】

また、コソボでは、少数派となったセルビア系住民がコソボ政府への反発を強め、セルビア本国には“見捨てられた”と失望を抱いていますが、民族主義的なニコリッチ氏が今後コソボにこれまで以上に関与を強めると、ただでさえ厄介なセルビア系住民問題が更にこじれる可能性もあります。
5月8日ブログ「コソボのセルビア系住民に残された道は・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120508

また、セルビア国内においては、先の総選挙でニコリッチ党首の進歩党が第1党に躍進したものの過半数に届かず、連立協議が注目されていましたが、大統領選挙では敗れたタディッチ氏率いる親欧米派与党・民主党を軸とする連立が合意されたと報じられています。

****セルビア:連立政権維持で合意 躍進の進歩党は野党に****
セルビア議会選で第2党となった親欧米派与党、民主党は9日、第3党につけたセルビア社会党と連立政権の維持で合意したと発表した。他の少数政党を加え、過半数の獲得を目指す。首位に躍進した民族派野党、セルビア進歩党は野党にとどまる見通しとなった。

政党別の獲得議席は進歩党73、民主党67、社会党44の順。社会党は、民主党のタディッチ前大統領と進歩党のニコリッチ党首による20日の大統領選決選投票でも、タディッチ氏への支援を明確にした。大統領選の第1回投票ではタディッチ氏が小差でリードした。【5月9日 毎日】
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大統領選挙でのニコリッチ氏勝利・タディッチ氏敗北でもこの連立合意が変わらなければ、大統領と議会・内閣のねじれ現象も生じるように思えますが・・・。
いろいろ厄介な問題を生じそうなニコリッチ氏勝利です。

セルビア国民の内戦の傷を癒すためには、民族主義的な自己主張も有効なのでしょうが、副作用には注意が必要です。
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