(コンゴ政府軍とンタガンダ将軍の衝突を避けて避難する家族 “flickr”より By ENOUGH Project http://www.flickr.com/photos/enoughproject/7152488231/ )
【混乱が続くコンゴ情勢】
アフリカ・コンゴでは、隣国ルワンダにおける内戦の影響を受け、また、コンゴの豊富な地下資源を目的とする周辺国の思惑もあって、第二次世界大戦後の国際紛争としては最大の死者を出す内戦が繰り広げられました。
02年に和平協定が締結されましたが、今も多く武装勢力や政府軍による殺戮・暴力・レイプなどが絶えず、多くの難民が発生している状況であることは、これまでも何回か取り上げてきました。
下記は、09年6月20日ブログ「世界難民の日 10億人突破する飢餓人口」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090620)からの再録です。
************************
“コンゴでは隣国ルワンダから逃れてきた反政府勢力が難民キャンプを拠点にルワンダへ出撃したことなどを契機に、96年、周辺国が侵攻を開始。ダイヤモンドなどの豊富な鉱物資源の利権争いもあって、一時は周辺8カ国の軍隊が同国領内で抗争を繰り広げ、第二次世界大戦後の国際紛争としては最大の死者を出すに至った。戦闘によって兵士、民間人約40万人が死亡したほか、戦闘による国土荒廃に伴い、約500万人が餓死、病死したという。”【09年4月11日 毎日】
この“アフリカ大戦”とも呼ばれるコンゴ内戦は02年に一応の和平協定調印にこぎつけましたが、その後も、94年のルワンダ虐殺への関与が疑われるフツ族系武装集団「ルワンダ解放民主軍(FDLR)」、FDLRに対抗するローラン・ヌクンダ司令官(09年1月拘束)率いるツチ族系反政府勢力「人民防衛国民会議(CNDP)」、国際判事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているジョゼフ・コニー率いるウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」など多くの武装組織、これら反政府勢力討伐を目的とするコンゴ政府軍、隣国ルワンダ軍・・・など多くの組織が入り乱れ戦闘を行ってきており、それに伴い東部を中心に紛争や略奪、レイプが横行し、膨大な難民が発生しています。
**************************
フツ族系武装集団「ルワンダ解放民主軍(FDLR)」をコンゴ政府が、ツチ族系反政府勢力「人民防衛国民会議(CNDP)」をルワンダ政府がそれぞれ支援していましたが、この構図が変化し、コンゴ・ルワンダの関係修復がなされたのが09年のことです。
****アフリカ:コンゴ民主共和国とルワンダ、関係修復へ****
アフリカ中部コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部ゴマで6日、同国のカビラ大統領と隣国ルワンダのカガメ大統領が会談した。ルワンダ軍の越境などで緊張状態が続いてきた両国だが、約13年ぶりに外交関係修復に向けて動き出した。
AFP通信によると、両大統領は「新しい時代」を告げ、コンゴ東部での武装勢力根絶に向けた議論や約100万人の難民・国内避難民対策、経済促進について意見を交わした。同地域は平和維持活動部隊「国連コンゴ監視団」とコンゴ政府軍が治安維持を担当するが、安定していない。現在、アフリカ7カ国を歴訪中のクリントン米国務長官は紛争被害者視察のためゴマ訪問を予定している。
ルワンダ政府軍(当時)やフツ系過激派民兵によりツチ系住民やフツ系穏健派ら80万~100万人が殺害された94年の「ルワンダ大虐殺」後、コンゴ東部に逃れたフツ系民兵が拠点を築いたことで情勢が悪化。その後、コンゴがフツ系、ルワンダがツチ系主体の武装勢力をそれぞれ支援、96年のルワンダ軍の越境以降、事実上、両国間の外交は途絶えていた。昨年8月以降、コンゴ政府軍とツチ系武装組織「人民防衛国民会議」(CNDP)の戦闘が激化した。
今年1月、カビラ政権は支援していたFDLRに対し、一転してコンゴ・ルワンダ両軍による共同掃討作戦を本格化。親ルワンダのCNDPのヌクンダ将軍を戦争犯罪容疑でルワンダ軍が逮捕し、今会談の契機となった。【09年8月8日 毎日】
************************
“親ルワンダのCNDPのヌクンダ将軍を戦争犯罪容疑でルワンダ軍が逮捕”することになったのは、ヌクンダ将軍の側近であったCNDPのボスコ・ンタガンダ参謀長が、戦争犯罪等の罪を問わないことを条件に、コンゴ政府軍に投降したことが大きく影響しています。
【3月現在で200万人の避難民】
長くなりましたが、以上が、コンゴ情勢に関する前置きです。
現在コンゴでは、コンゴ政府軍によるボスコ・ンタガンダ将軍追討作戦が激化しているそうです。
ボスコ・ンタガンダ将軍はコンゴ政府軍に投降した後、国際刑事裁判所(ICC)から指名手配にもかかわらず、コンゴ領内で独自の武装勢力を率いる形で自由に活動していました。
****コンゴ少年兵を操る男に追及の手が****
コンゴ(旧ザイール)東部で再び内戦が激化し、数万人が難民として隣国のルワンダやウガンダに脱出している。「毎日、朝から山のほうでものすごい爆撃がある」と、ビルンガ国立公園の責任者は言う。同公園は絶滅危惧種マウンテンゴリラが多く生息し、影響が心配される。
戦いは政府軍と、ボスコ・ンタガンダ将軍率いる反乱軍の間で行われている。ンタガンダは反政府勢力、人民防衛国民会議(CNDP)の指揮官だった人物で、09年の和平協定により所属を政府軍に変えた。しかし今年4月に離脱。兵上数百人がそれに続いた。
ンタガンダは子供を徴集し、戦闘に従事させた容疑で、06年に国際刑事裁判所(ICC)から指名手配されている。5月半ばには、最近の戦闘で少年兵を使ったとしてICCから新たな告発を受けた。
ICCの逮捕状にもかかわらずンタガンダが自由の身でいられるのは、コンゴ政府が東部コンゴの平和のために必要な代償だと主張していたからだ。しかしンタガンダの離反と内戦再開に憤る政府は、初めて本気で彼を捕まえようとしている。【6月6日号 Newsweek日本版】
************************
コンゴの話題になると「マウンテンゴリラへの影響が懸念される」云々が言及されますが、マウンテンゴリラより遥かに懸念されるのは、十万人単位で発生している難民の問題です。
アフリカ・コンゴで難民が何万人出ようが欧米・日本ではニュースにもなりませんが、マウンテンゴリラが10頭も死ねば国際ニュースになるでしょう。悲しい現実です。
コンゴの避難民は、今回の政府軍とボスコ・ンタガンダ将軍の衝突で増大しており、今年3月現在で200万人に達しているそうです。
下記は、2007年―2008年にコンゴ東部でUNHCRの所長として勤務したこともある米川正子氏のブログ「コンゴとアフリカを考える」からの引用です・
****最近のコンゴとルワンダの動き:ICC戦争犯の逃亡、2009年の「和平合意」のもろさ、新しい避難民と難民の動き *****
・・・・上記の戦闘で、4月29日以降、新たに50万人の避難民が発生しました。昨年12月の時点でコンゴ全国に170万人いたのですが、今年3月現在で200万人に増えています。
私がコンゴ東部にいた2007-8年、数の浮き沈みはありましたが、コンゴ全国の避難民数は約130万人(そのうち私が担当していた北キブ州は85万人)だったので、その時と比べると1.5倍に増えたことになります。
この数だけで判断できませんが、状況は全然改善されていないことだけは言えるでしょう。
この避難民の中には1994年から何回も避難している人もおり、その度に学校が休校になり、仕事もできず、夜はブッシュの中で過ごし(家にいると軍人に襲われる危険性があるため)、彼らのことを考えると、胸が痛み怒りを覚えます。
ルワンダに難民化したコンゴ人も5000人ほどいて、これも2007年以来初めてのことです。逃亡・避難することが日常化し、不安定な生活を約20年続けて、現地の人はかなりのストレスを抱えています(ところで、なぜルワンダとコンゴ内に避難する組に分かれるかというと、前者はツチで、後者がフツだからです。2007年の文民の動きも、同様でした)・・・・【米川正子氏 「コンゴとアフリカを考える」 http://congonokongo.blog.shinobi.jp/Date/20120511/ 】
*************************
【限界がある国際刑事裁判所(ICC)】
話をボスコ・ンタガンダ将軍に戻すと、2002年から03年の間にイトゥリ地区北東部で行われた戦闘において、少年兵を動員し使用した戦争犯罪の容疑で、2006年、ICCはンタガンダ将軍に対する極秘の逮捕状を発行し、その逮捕状は2008年4月に公開されました。
しかし、“ICCの逮捕状発付にも拘らず、ンタガンダはコンゴ国軍編入を認められ、2009年には将軍に昇格した。彼はコンゴ東部で、コンゴ政府当局者、国連平和維持軍、各国外交官の目の前を自由に動き回っていた。コンゴ政府は、ンタガンダは和平に向けた重要なパートナーであり、彼の逮捕は和平プロセスを損なうと主張していた。”【4月13日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
そうした状況が変化したのは、ンタガンダ将軍の共犯者であるトマス・ルバンガに対して、3月、ICCは同裁判所にとっての初の判決で、少年兵を徴集して使用したという戦争犯罪容疑で有罪判決を言い渡したことによります。
その判決の後、ICCの検察官は、イトゥリ州でのンタガンダ将軍の罪状に、レイプや殺人罪などを追加する意向であると表明しました。
****国際刑事裁判所:コンゴ元武装指導者に有罪 初の判決****
国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ)は14日、コンゴ民主共和国の元武装勢力指導者に対し、戦争犯罪(少年兵徴用)の罪で有罪判決を言い渡した。02年にこの裁判所が設立されて以来初めての判決だ。
人道に対する罪など個人の重大な犯罪を国際的に裁く史上初の常設裁判所だが、大国の思惑で訴追自体が難しかったり、訴追した容疑者を拘束できない例も多い。初判決までの10年の歳月は、国際刑事裁判所の直面する課題の多さを象徴している。
有罪となったのはトマス・ルバンガ被告(51)。量刑は後日言い渡される。不服の場合は上訴できる。
判決によると、被告はコンゴ民主共和国や周辺国を巻き込んだ紛争で、02年9月から03年8月にかけ、多数の15歳未満の少年を自ら司令官を務める武装集団「コンゴ愛国者解放戦線」(FPLC)などに徴兵、志願させ、戦闘に参加させた。ボディーガードとしても働かせた。
被告が拠点にしていたコンゴ民主共和国北東部では、被告がかかわった戦闘で住民など6万人が死亡したとされる。
国際刑事裁はこれまでに、容疑者死亡に伴い取り下げた2件を含む20件の逮捕状を出したが、大物のバシル・スーダン大統領など11人が未拘束だ。国際刑事裁設置を規定するローマ条約に未加盟の国は逮捕に協力する義務はなく、スーダンも未加盟だ。
また国際刑事裁が独自の捜査機能を持たず、各国に拘束を委ねているため、司法機能が十分でない国では逮捕は事実上不可能だ。
一方、軍による市民の虐殺が続いているシリアについて、モレノ・オカンポ主任検察官は毎日新聞に対し訴追に意欲を示したが、中露などの反対で実現していない。シリアもローマ条約に非加盟で、こうした国を巡っては安保理の付託がないと捜査できないからだ。
このため実際に訴追に至ったのはアフリカの7カ国に限られる。北朝鮮やミャンマーでは捜査は不可能な状況で、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは今回の被告を「小物」と評し、「世界で残虐行為は減っていない」と批判している。【3月15日 毎日】
**************************
“ICCのルバンガに対する有罪判決は、ンタガンダが未だに不処罰状態にあることを改めて明らかにし、彼の逮捕を求める声を高める結果となった。逮捕を恐れたンタガンダは、自らの部隊に対しコンゴ軍の指揮下から離れるよう求めた。”【4月13日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】という経緯で、コンゴ政府軍とンタガンダ将軍の勢力との衝突に至っています。
なぜ今コンゴで難民が増大しているのか? その原因となっているンタガンダ将軍とは何者なのか?・・・について説明すると上記のように、グダグダした“アフリカ大戦”にまで遡る話になります。
このことから言えるのは、コンゴが未だ混乱状態にあり、政府のコントロールが全土には及んでいないということです。
国際刑事裁判所(ICC)の活動について言えば、国際刑事裁設置を規定するローマ条約に未加盟の国は逮捕に協力する義務はないこと、独自の捜査機能を持たず、各国に拘束を委ねていることなどの問題点・限界は、上記【毎日】記事にあるところです。
ただ、ICCによる訴追が問題を硬直化させ、政治的解決を阻害する結果ともなる面もあるように思えます。
コンゴでも活動しているウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」を率いるジョゼフ・コニーについても、国連仲介の和平が頓挫した大きな理由のひとつが、ICCによる訴追がなされており身の安全が保障されないということでした。
なお、「神の抵抗軍(LRA)」については、この5月、ICCから逮捕状が出ていた幹部1人が身柄を拘束されています。
****ウガンダ軍、反政府勢力LRAのナンバー4の身柄を拘束****
ウガンダ軍は12日、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」の幹部1人の身柄を拘束した。
拘束されたのはLRAのナンバー4、シーザー・アチェラム司令官(49)。中央アフリカ領内のコンゴ(旧ザイール)との国境付近で散発的な銃撃戦の後に身柄を拘束された。報道陣の前に姿を見せたアチェラム容疑者は、自身がメディアの前に姿を見せれば、現在も潜伏中のメンバーの投降を促すことになり、闘争終結に向けて大きな影響をもたらすだろうと語った。
アチェラム容疑者は翌13日、健康検査のため、南スーダン・ヌザラにあるLRAを追跡するアフリカ連合(AU)合同部隊の拠点に空路で移送された。
LRA幹部らの身柄確保の任務は、米国の支援を受け、ウガンダ軍を主力とするアフリカ連合の合同部隊が担っている。アチェラム容疑者が拘束されたことは、LRAトップで逃亡中のジョゼフ・コニー司令官の包囲網が狭まっていることを示しているのかもしれない。
ICCはLRAのトップ3人、コニー容疑者、オコト・オディアンボ容疑者、ドミニク・オングウェン容疑者に加えビンセント・オッティ容疑者に逮捕状を出しているが、オッティ容疑者は既に死亡したとみられている。【5月14日 AFP】
*************************