孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  「極右」を警戒されたメローニ首相のEUとの協調姿勢 難しい不法移民対策

2024-05-31 22:17:55 | 欧州情勢

(イタリアのメローニ首相(写真右)は来月の欧州議会選挙後に、中道右派のフォンデアライエン欧州委員長(左)の2期目続投を支持すれば、同氏の影響力は増すかもしれない。昨年1月、ローマで撮影【5月31日 ロイター】)

【厳しい状況のイタリア経済・社会】
日本はよその国の状況をとやかく言える立場にありませんが、イタリアも経済・社会情勢はよくありません。

****イタリア貧困人口、昨年は9.8% 統計開始以来最高に*****
イタリアの昨年の貧困人口が過去最高水準に達したことが、国家統計局(ISTAT)が25日発表した統計で分かった。

経済は新型コロナウイルス禍関連の規制解除以後回復しているが、昨年は必需品などを十分購入できない絶対貧困者が人口の9.8%に当たる575万人となり、前年の9.7%から増えたほか、2014年に現在の統計が始まって以来最高となった。

イタリアはドイツやフランスなどに比べてコロナ禍による景気後退(リセッション)からより強く回復し、就業者数も増加したが、貧困者の支援にはほとんどならなかった。

20年の絶対貧困率は9.1%、コロナ流行の最盛期となった21年は政府支援策でリセッションの家計への影響が一部相殺され、9.0%だった。

地域別の絶対貧困率は北部が9.0%、中部が8.0%、伝統的に貧しい南部は12.1%だった。【3月26日 ロイター】
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財政面でもイタリアはEU内では最悪の状態にあります。

****イタリア、昨年の財政赤字対GDP比7.4% EU平均の2倍以上に****
欧州連合(EU)統計局は22日、イタリアの昨年の財政赤字は対国内総生産(GDP)比で7.4%と3月時点の推計7.2%から拡大し、欧州連合(EU)内で群を抜いて高かったと発表した。

この数字はEU加盟27カ国の平均3.5%の2倍以上に当たり、同国の財政課題が浮き彫りとなった。

EU加盟国のうち計11カ国がEUの財政赤字のGDP比の上限である3%を上回っており、その中には5.5%のフランスも含まれる。

イタリアのジョルジェッティ経済財務相は今月、欧州委員会がこれら全ての国に対して財政規律違反に関する手続きを開始すると述べた。

昨年、財政赤字が5%を超えた他の国はいずれもユーロ圏20カ国外の国々で、ハンガリー(6.7%)、ルーマニア(6.6%)、ポーランド(5.1%)の3国のみだった。【4月23日 ロイター】
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なお、日本の財政収支(対GDP比)は2024年は-6.2 %。前期2023年の-11.6 %と比べると大きく改善しています ただし、政府債務残高のGDPに対する比率は2023年で252%と200%を大きく上回り、主要国の中で突出しています。欧州ではギリシャが168%、イタリアが137%。

長期的にも、少子化が深刻なのは日本と同じ。

****イタリア出生数、23年は15年連続減少 過去最低を更新****
イタリア国家統計局(ISTAT)が29日発表した2023年の出生数は前年比3.6%減の37万9000人と、15年連続で減少し、過去最低を更新した。

出生率(女性1人当たりの子ども数)は1.24から1.20に低下。人口の維持に必要とされる2.1を大きく下回った。

総人口は7000人減の5899万人。出生数より死亡者数が約28万2000人多かったが、移民の流入や海外移住からの帰国者がその大部分を補った。

イタリアの人口は14年以来減り続けており、その間の累積減少数は136万人強と、第2の都市ミラノの人口に相当する。

ISTATは昨年9月、基本シナリオでは50年までに人口が5440万人まで減少するとの見通しを示している。【4月1日 ロイター】
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【メローニ首相 「極右」と警戒されたものの、EUとも協調的な政権運営】
こうしたイタリアを牽引するのが、2022年の就任時は「極右」として警戒されたメローニ首相ですが、“思いのほか”EUとも協調した穏健な路線をとっており、欧州政界においても存在感が高まっています。

****メローニ伊首相、欧州の実力者に 「極右」鳴り潜める****
2022年、イタリアでメローニ首相が政権を握ると、欧州各地の極右政党はこれを歓迎し、新しい熱血指導者が民族主義を推し進めて欧州連合(EU)の官僚主義と闘ってくれると期待した。

ところがメローニ氏はEUのエリートらと衝突するどころか、緊密に協力することで敵味方双方を驚かせ、主流の中道右派と、自身が属する強固な保守陣営との橋渡し役を果たしてみせた。

来月の欧州議会選挙後に、メローニ氏自身がほのめかした通り中道右派のフォンデアライエン欧州委員長の2期目続投を支持すれば、同氏の影響力は増すかもしれない。

そうなれば同氏はEU新執行部で影響力を高め、イタリアに次期欧州委員会の重要ポストをもたらし、権力を操る「陰の実力者」ぶりを発揮することにもなりそうだ。

同氏が率いる政党「イタリアの同胞」選出の欧州議会議員、カルロ・フィダンツァ氏は「メローニ氏は欧州の右派および中道右派のさまざまな派閥の橋渡し役として最適の人物であり、尊敬され、リーダーとして認められている」と語った。

同氏が率いるイタリア連立与党が多様な右派勢力を束ねているのは確かだ。だが、メローニ氏が次の欧州議会でそれを再現するのは不可能に思われる。

フォンデアライエン委員長とその仲間は既に、メローニ氏の盟友であるイタリアの極右政党「同盟」党首のサルビーニ氏や、フランスのルペン氏率いる極右政党・国民連合(RN)など、より過激な勢力とは協力しない姿勢を表明。これらの政党も委員長に反発している。

一方でフォンデアライエン委員長は、メローニ氏については何の懸念も表明していない。

委員長は23日、「ジョルジア・メローニ氏とは非常にうまく協力している」と述べ、同氏は「明らかに親欧州派」だと付け加えた。

<即座に実績>
メローニ氏は22年に首相に就任すると、初めての外遊先としてブリュッセルのEU本部を訪問し、好印象を残した。

その後数カ月間は欧州委と協力し、EUが10年近く果たせなかった移民・難民規定改革への合意取り付けに貢献した。

また、フォンデアライエン氏と共に北アフリカを3回訪れ、エジプトとチュニジアとの間で、移民の出国を食い止める条項を含む協定に署名した。

重要なのは、メローニ氏がウクライナへの支援とロシアへの断固とした批判を一貫して表明していることだ。これは、長らくロシアのプーチン大統領と緊密な関係を築いてきたルペン氏やサルビーニ氏と一線を画している。

英サリー大学の政治学教授、ダニエレ・アルベルタッツィ氏は「メローニ氏は賢い。彼女はつまり、こう言っている。『国際舞台で主流派になり、責任を果たそう。なぜなら自分にはこの人たちが必要だからだ』」と語った。

あるEU指導者はオフレコにするよう念を押した上で「メローニ氏は依然として『過激な右翼』だが、イタリアは多額の負債を抱えており、財政的に援護してもらっている国々を敵に回すわけにはいかないため、親欧州的な態度を取っている」と語った。

動機が何であれ、メローニ氏は最近のEU首脳会議で自らがかけがえのない存在であることを証明した。民族主義者であるハンガリーのオルバン首相を説得し、ウクライナへの資金援助と、EUの新移民・難民協定を支持させたからだ。

あるEU関係者は、欧州委がオルバン氏との意思疎通の大部分をメローニ氏を通じて行っているため、同氏には「オルバンのささやき声」というニックネームが付いたと明かした。

<続く分裂>
欧州の極右政党や民族主義政党は、欧州議会内で2会派に分かれている。

メローニ氏は、ポーランドの「法と正義(PiS)」を含む「欧州保守改革(ECR)」会派の代表。サルビーニ、ルペン両氏は「アイデンティティーと民主主義(ID)」会派で、オルバン氏の「フィデス・ハンガリー市民連盟」は今のところどの会派にも属していない。

フォンデアライエン氏は欧州最大会派である中道右派、欧州人民党(EPP)出身だ。

メローニ氏といえども、ECR全体の足並みをそろえさせるのは難しいとみられる。例えばPiSの議員らは、国内で敵対するトゥスク首相がEPPの有力人物であるため、ほぼ確実にフォンデアライエン氏の続投に反対するだろう。

メローニ氏はまた、ECRとIDの統合を否定。ECRが欧州議会選で議席を伸ばし、EUにおける自身の影響力が高まることを期待している。

シンクタンク、欧州外交評議会(ローマ)のアルトゥーロ・バルベッリ理事は「会派の勢力が強まれば、メローニ氏はIDとEPPの中央に立てる。私が見るところ、それが彼女の目標だ」と語った。【5月31日 ロイター】
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メローニ首相の穏健な姿勢は、宗旨替えした訳ではなく、冒頭に述べたように厳しい状況にあるイタリアにとってEUからの支援が必要不可欠であるという「現実」があってのこと・・・との評価のようです。

【難しい対応を迫られる移民・不法移民対策】
メローニ首相にとって、難しいかじ取りとなっているのは移民・不法移民対策です。
メローニ首相は、地中海を経由して欧州に渡るアフリカからの移民について、不法移民を排除する一方、合法移民の受け入れを進める考えを示しています。

不法移民に対する厳しい姿勢は、「移民船は一切イタリアの海岸に上陸させない」との選挙公約からも当然の方針です。

しかし、昨年1年間で地中海を経由してイタリアに到着した人数は、15~16年にシリア難民が欧州に押し寄せた「難民危機」の時以来の水準になっています。

メローニ政権は昨年7月には、北アフリカ諸国と不法移民の摘発強化で合意し、11月には強制送還を進めるため、(イギリスの不法移民ルワンダ移送に類似した)海上で救助した移民・難民の一時収容施設をアルバニアに建設する計画を発表しています。

更に、アフリカ諸国への資金提供も。

*****アフリカに8千億円拠出へ イタリア、不法移民抑制狙い****
イタリアのメローニ首相は29日、アフリカの開発に55億ユーロ(約8700億円)以上の資金を拠出すると表明した。ローマで開催したアフリカ諸国の首脳らとの国際会議で述べた。エネルギーや農業分野への投資を通じて経済発展を支援し、欧州へ逃れる不法移民の数を抑制する狙いがある。

2022年に発足したメローニ政権は「不法移民排斥」を公約に掲げたが、移民増加に歯止めがかからず、アフリカ諸国の課題に対処する姿勢を示した。メローニ氏は記者会見で、今年の議長国を務める先進7カ国(G7)の会合でもアフリカ支援を主要テーマにする意向を明らかにした。【1月30日 共同】
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その一方で、イタリアは日本と同様の高齢化(22年時点のイタリアの高齢化率は24・1%で、世界で最も高い日本の29・1%に次いでいます)で人手不足が深刻化するなか、外国人労働者なしには社会が立ちゆかない現実があります。

そのため、メローニ政権は、従来の2倍以上の規模で、外国人労働者の受け入れを拡大しています。経済界からは更に大規模な外国人労働者を求める声も出ています。

また、不法移民を排除する一方、合法移民の受け入れを進めるとは言うものの、不法移民と合法移民の線引きは必ずしも明確でないの実情もあるようです。

*****イタリアの移民問題 首相が移民船を止めるのか、移民船が首相を止めるのか****
イタリアで昨年(2022年)9月に行われた総選挙でジョルジャ・メローニ氏が率いる極右連合が地滑り的勝利を収める要因となったのは、これまで誰もなしえなかった公約だった。すなわち、イタリアから欧州への上陸を図る移民船の阻止だ。

当時、メローニ氏のソーシャルメディアには、移民を満載した密輸船の写真とともに「Blocco navale(ただちに海上封鎖!)」の文字が躍っていた。

メローニ氏は選挙遊説で、乗船者が誰であれ、命の危険を冒してまで海を渡る理由が何であれ、移民船は一切イタリアの海岸に上陸させないと約束した。

就任後100日間は順風満帆と思われた。
首相は一部で懸念されていたほど極右に傾くことはなく、マルチリンガルで政界にも精通していたことから、世界各国の首脳にもすんなり溶け込んだ。

移民船阻止というメローニ首相の公約の可能性からリベラル派の欧州各国首脳も得をすることから、大勢が実現に期待を寄せた。ハンガリーのビクトル・オルバン首相をはじめとする保守派もメローニ氏の当選を祝福し、「欧州国境を守ってくれた」ことに感謝した。(中略)

そこへきて、移民船が相次いでイタリアにやってきた。
今月21日までに船でイタリアに到着した移民の数は3万5000人余りで、前年より3倍以上も多い。
(中略)

「メローニ首相が船を止められるかと尋ねれば、専門家の答えは、いいえだろう」と(移民政策研究所(MPI)欧州支部のハナ・ベイレンス)所長は言い、移民流入を食い止めたのは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)だけだったと付け加えた。

欧州に向かう早い段階での亡命申請の機会提供や、移民・難民がもっとも多く出ている国の問題解決など、根幹の問題にどう対処するか欧州の意見がまとまらない限り、移民は今後も続くだろうとベイレンス所長は言う。(後略)【2023年4月24日 CNN】
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パプアニューギニア  地滑りで甚大な被害 現地の部族間抗争 劣悪な治安状況 中国の協力申し出

2024-05-30 22:39:11 | オセアニア

(26日、パプアニューギニアで、地滑りが起きた現場を捜索する人々=AP【5月27日 読売】)

【被害状況は判然としないものの、部族間抗争の避難民が巻き込まれた可能性の指摘も】
南太平洋のパプアニューギニアで、5月24日に起きた地滑りによる甚大な被害が報じられています。

****パプアニューギニアで地滑り、2000人以上が土砂に埋まった恐れ****
南太平洋のパプアニューギニアの中部エンガ州で24日午前3時ごろ、大規模な地滑りが発生した。

パプアニューギニア国家災害センターのルセテ・ラソ・マナ長官代行は27日、国連への書簡で、「地滑りによって2000人以上が生き埋めになり、建物や農地に大規模な被害をもたらした」と報告した。

国連の国際移住機関(IOM)は26日、少なくとも670人が土砂に埋まったとみられると明らかにした。IOMパプアニューギニア事務所のセルハン・アクトプラク代表によると、民家150軒超が土砂の下敷きになった。
また、現地では地滑りがまだ続き、落石もあることから、救出活動は危険を伴っていると述べた。

27日午前までに十数人の遺体が収容されたものの、被害状況がさらに明らかになれば、死者数は一気に増えるのではないかと懸念されている。

被災地域には約3800人が暮らしていた。地滑りの影響がなかった付近の民家約250軒に暮らす住民らにも避難が命じられている。

アクトプラク氏によると、重機による救出作業に抵抗感を示す住民もいて、「人々は棒やシャベル、大型の農具のすきを使って土砂に埋まっている犠牲者を掘り出そうとしている」という。

同氏はまた、エンガ州に通じる唯一の幹線道路沿いで民族間の暴力衝突がみられるため、救援活動に影響が出る恐れがあるとした。【5月27日 BBC】
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ただ、“2000人以上”という数字には過大推計ではないかとの疑問も出ています。

****「2000人埋没」は過大か=パプア地滑り、政府推計に疑問****
南太平洋のパプアニューギニアで起きた地滑り災害で、「2000人以上が土砂に埋まった」とする同国政府の推計は多過ぎるのではないか、と疑問の声が上がっている。捜索が難航し、正確な犠牲者数の把握は難しい状況だが、地元では不明者や消失した建物の数から数百人規模との見方が強まっている。

 オーストラリア公共放送ABCによると、被災地エンガ州の当局者は30日、定住者のうち約160人が依然行方不明と説明。さらに、州外から出稼ぎに来ていた鉱山労働者らが現場付近にいた可能性がある。消失した建物は約150軒で、小学校も含まれている。

24日未明に発生した地滑りの犠牲者数を巡っては、まず地区代表者が「300人以上」、次いで国連機関が「670人以上」との見方を発表。この後、パプア政府が「2000人以上」との推計を示したが、人口や有権者登録のデータを基にした机上の計算だった可能性が大きい。マラペ首相は29日に議会で、「初期段階の推計だ」と説明し、変動はあり得るとの認識を示した。

これまでに土砂の中から見つかった遺体は6人。崖崩れが続き、地元当局は住民の避難誘導を優先しており、捜索は遅れる見込みだ。【5月30日 時事】 
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上記のように被害状況は判然としていませんが、地滑りの起きたエンガ州では部族間の抗争が起きており、これを避けるための避難民が事故現場にいたことで被害が拡大したとの見方もあります。

****被害拡大は部族間抗争が影響か…パプアニューギニアで土砂崩れ 約2000人が行方不明****
(中略)
サッカーコート数面分の広さが崩れ、その深さは5〜8メートルともいわれています。地元当局は、当初、約100人が生き埋めになっている可能性を指摘していました。しかし、その後、IOM=国際移住機関は、死者が670人に上るという推計を出します。

さらに、パプアニューギニア政府は、2000人以上が生き埋めになった恐れがあるとしています。

24日の発生から数日間で、死者数の推計が激増しました。その背景をJICAは、このように分析しています
JICAパプアニューギニア事務所:「エンガ州で、部族間抗争が頻発していて、住民以外が、一時、避難していたため、被災人数が増えたのではないか」

崩れた辺りには、100近くの民家や学校といった建物がありました。こうした民家では、住民に加え、1軒当たり10人程度、部族間抗争の避難民が生活を送っていたともいわれ、それにより被害拡大につながったようです。

日本政府は、29日、緊急援助物資を送ることを決めました。ただ、地滑り後も現場地域では、死者が出る部族間抗争が起きていて、悪化する治安のなか、各国の災害援助が順調に行える見通しは立っていません。【5月29日 テレ朝news】
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【エンガ州の部族間抗争】
地滑り被害の死者数、部族間抗争の避難民が巻き込まれたのかどうか・・・は定かではありませんが、エンガ州で部族間抗争が続いているのは事実です。

外務省の海外安全ホームページによると・・・

****エンガ州における部族間闘争発生に伴う注意喚起****
エンガ州ワペナマンダ地区における大規模部族間闘争についてお知らせします。

エンガ州ワペナマンダ地区にてシキン族とイトオコン族間の衝突に端を発し、他の複数の部族がそれぞれに加勢したことにより大規模化し、現在では約500人が闘争に関与しており、これまでに少なくとも10人が殺害された他、家々が燃やされる状況下で、警察・軍の共同により事態に対処していると警察は発表しています。

また、衝突当事者間では重火器を用いた激しい銃撃戦が現在も継続している模様です。【2023年6月14日 外務省 海外安全ホームページ】
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今年2月には大規模な衝突も報じられています。

****パプアニューギニアで民族間抗争、26人が死亡 待ち伏せ攻撃か****
南太平洋パプアニューギニアの山岳地方で民族間の紛争があり、数十人が死亡した。当局が発表した。
国家警察の報道官がBBCに語ったところによると、犠牲者は先週末、エンガ州で待ち伏せ攻撃を受け射殺されたという。

山岳地方では長年、暴力と闘ってきたが、今回の件はここ数年で最悪のケースとみられている。違法な銃火器の流入が、民族間の衝突の犠牲者を増やし、暴力を加速させているとされる。

当局は当初、少なくとも64人が殺されたと発表。しかしその後、ミスが発覚し、死者数は26人に下方修正された。BBCは、パプアニューギニアの警察に確認を求めている。

警察は、首都ポートモレスビーから北西約600キロに位置するワバグ周辺の現場で、遺体の収容作業を開始した。
パプアニューギニア王立警察のジョージ・カカス本部長は豪公共放送ABCに対し、「私がエンガ州で、あるいは山岳地方全体で見た中で最大の(殺人)事件だ」と述べた。

「私たちはみな打ちのめされ、精神的にストレスを感じている。受け入れるのが本当に難しい」
警察には、現場のものだという生々しい映像や写真が寄せられている。メディアによると、遺体をトラックに積み込む様子が写っているという。

主に土地や富の分配をめぐる民族間の紛争が加速する中、エンガ州では昨年7月に3カ月間のロックダウンを実施。警察は、夜間の外出や旅行に制限をかけた。

翌8月には、3人の遺体が映った生々しい映像がインターネットで拡散し、パプアニューギニアの問題が世界に知れ渡った。

エンガ州のピーター・イパタス知事はABCの取材で、この事件の前に再び戦闘が勃発しそうな気配があったと述べた。

また、最近のエスカレーションには、最大17の民族が関与しており、平和を維持するのは最終的には治安部隊にかかっていると説明した。
「州としては、この戦闘が始まると分かっていたので、先週に治安部隊に警告を発し、このような事態が起きないよう適切な措置を取らせていた」

パプアニューギニアにとって、安全保障は広い意味でも懸念事項だ。1月には大規模な暴動と略奪で少なくとも15人が死亡。政府は緊急事態宣言を発令した。

最も密接な友好国の一つであるオーストラリアは、今回の殺人事件は「非常に動揺するものだ」と述べた。
アンソニー・アルバニージー首相は19日、「我々はパプアニューギニアの治安維持のため、特に警官の訓練など多大な支援を行っている」と語った。【2月20日 BBC】
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上記2月の事件の際も被害者数は大きく変動していますが、日本などと違って現状把握・情報伝達手段が極めて限られている地域ですのでやむを得ないところでしょう。

【全国的に悪い治安状況 中国からの治安協力の申し出】
エンガ州の部族間紛争に限らず、パプアニューギニアの治安状況はよくありません。

****パプアニューギニアの治安情勢****
(1)一般的な情勢 

(ア)パプアニューギニア(以下PNG)では依然として失業者や生活困窮者が多く、これら困窮 者や失業した若者グループによる金品強奪を目的とした犯罪が頻発しており、治安の悪化に歯止めがかからない状況となっている。 

首都特別区及び主要都市部では物価の高騰が進行しており、一方で失業者や不法居住 区の数が増加しているため、これらの者が犯罪を行うという悪循環が生じている。 

(イ)首都ポートモレスビーは、セトルメントと呼ばれる不法居住地域が市内約70カ所に混在し て分布しており、セトルメント居住者による犯罪が増加している。このような状況では、日中であっても、市内外の単独での徒歩行動は危険であり、車両による移動についても路上等での途中停車は避けるべきである。また、カージャック被害が昼夜を問わず多発しているため 注意が必要である。 

なお、当地では治安悪化により自転車、バイク等の走行はほとんど見られない。 

(ウ)犯行の手口として、5~10名の若者がひとつのグループとなって犯行を行うことが多い。 このグループを「ラスカル」と呼んでいる。ラスカルは蛮刀、ナイフ、銃または手製銃などを使 用しており、万が一、犯罪に遭遇したり、事件に巻き込まれたりした場合には、身体を守るた め、金品などの所持品を奪われても抵抗しないほうが良い。 

(エ)最近では、給料日前に現金が保管されている事務所や銀行、レストラン、ゴルフ場、病院 への襲撃が発生しており、治安の悪化が顕著である。多額の現金を銀行で引き出した後に尾行され、強奪される事件も多く、金品が強奪される事件の背景には、内通者が関与している場合もあると推測される。(中略)

(カ)市民の安全を守るべきPNG警察機構は、人員不足や予算不足を理由として十分機能しておらず、これら犯罪者の検挙率は極めて低く、犯罪の抑止を期待できない状況である。

その上、各地で頻繁に脱獄事件が発生しており、脱獄犯が再び犯行を繰り返している。そのため、多数の脱獄囚人が市内、郊外に潜伏している可能性がある。

さらに、偽装警察官による強盗犯罪、または検問を装った“たかり”なども報告されている。車両運転中は免許証の携 行は勿論のこと、不当な言い掛かりを受けた場合には、必ず相手に最寄りの警察署への同行を求めるなど偽警察官への対応にも注意が必要である。 

(キ)2015年6月、マダン市において、教会関係者が計画したデモ行進が暴動・略奪に発展し、少年(小学生)1名が射殺、多数の市民が負傷、複数の商店が破壊される事態となった。 また、同月、同市内の中国系商店においては、同時多発的に略奪が発生し、警官が出動す る事態となり、現場周辺にてかなりの数の発砲があった。

この背景には、「中国系の商店は 暴利を貪っているから、商品を無償で取ってもいいと地方政府が発表した」との噂があった。 これらの背景には、地方から都市部への人口の流入、高い失業率、貧富の格差の拡大が 背景にあると見られているが、現地人のアジア人(特に中国人)に対する感情に関しても注意が必要である。(後略)【日本大使館】
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犯罪者グループ「ラスカル」に襲撃される可能性が高い中華料理レストランでは、店舗をフェンス・鉄条網で囲い、門番・番犬を置いて「ラスカル」の侵入を防止する自衛策をとっているようです。【市川哲氏 「鉄条網の中の中華料理店」】

視点を変えると、そういう極めてハイリスクな状況にあっても経済活動を続けている中国系の人々が多数存在する・・・・パプアニューギニアだけでなく、アフリカ諸国でも同様ですが・・・という点において、安全第一の日本と、リスクをとる中国の違い、ひいては、両国の現地経済との関係性の違いも窺えます。

中国は他の南太平洋島しょ国同様に、警察訓練などの治安協力を申し出ていますが、上記のような現地治安状況からすると、単に米中の地政学的争いといった視点だけではない議論も必要なように思われます。

****中国外相、パプア訪問 治安協力議論か****
中国の王毅外相が(4月)20日、南太平洋パプアニューギニアの首都ポートモレスビーを訪問し、トカチェンコ外相と会談した。中国がパプアに打診している警察訓練などを含む治安協力について議論したとみられる。

パプアと伝統的に関係が深いオーストラリアは、中国の動向に警戒を強めている。米国は昨年5月、パプアの基地利用を含む防衛協定を結んだ。

パプアは政情が安定しておらず、部族間の衝突や暴力事件がたびたび発生。今年1月には略奪や放火などの暴動が起き、死者が出た。【4月21日 産経】
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カンボジア  前政権からの中国重視を継承 中国資本による運河整備事業

2024-05-29 22:22:30 | 東南アジア

(【5月19日 日経】)

【中国重視を継承するフン・マネット首相 「習近平大通り」もお目見え】
カンボジアがフン・セン前首相時代から中国と緊密な関係(ASEANにあってはカンボジアは中国の代弁者的な立場にも)にあるのは周知のことですので、下記のようなニュースもことさら驚くには値しません。「ようやるよ・・・」とは思いますが。

*****中国・習近平氏の名前冠した道路誕生 カンボジア****
中国が影響力を強めている東南アジアのカンボジアで、中国の習近平国家主席の名前を冠した道路が誕生しました。

駐カンボジア中国大使館によりますと、カンボジア政府は、首都・プノンペンにある道路の全長48キロメートルの区間を、「習近平大通り」と命名しました。命名発表の式典にはカンボジアのフン・マネット首相らが出席し、「習主席のカンボジアの発展への歴史的貢献に感謝する」などと述べたということです。

カンボジアは、中国が推し進める経済圏構想「一帯一路」の参加国で、中国資本による大規模なリゾート開発なども行われています。

「一帯一路」をめぐっては、中国経済の減速により、近年、途上国への投資の冷え込みが指摘されています。しかし、カンボジアでは、去年の外国からの投資額の66%は中国が占めるなど、経済は依然として中国に大きく依存しています。【5月29日 日テレNEWS】
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当然ながら、「習近平大通り」については中国企業が建設工事を請け負ったとのことです。

カンボジアではフン・セン前首相の長男フン・マネット首相に代替わりしていますが、中国との緊密な関係は維持されています。

****カンボジア「中国重視」継承 マネット首相、王毅外相と会談****
中国の王毅外相は22日、訪問先のカンボジアの首都プノンペンでフン・マネット首相と会談し、両国間の協力を強化する考えを示した。中国外務省が発表した。

フン・マネット氏は「中国との関係は揺るぎないもので、対中政策は一貫している」と述べ、中国を重視した父フン・セン氏の外交路線を継承する方針を表明した。

フン・マネット氏は昨年8月、フン・セン氏から首相職を世襲した。前政権は人権弾圧などで欧米と鋭く対立し、中国に傾斜していた。王氏は18日から23日の日程でインドネシアやパプアニューギニアを歴訪。アジア太平洋地域の友好国と関係強化を図っている。【4月23日 共同】
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こうした両国関係を背景に合同軍事演習も行われており、アメリカは懸念を強めています。

****合同軍事演習に中国艦参加 カンボジア軍と、米懸念*****
カンボジア軍は27日、同国南西部沖で中国軍と共に、乗っ取られた貨物船から人質を救出することを想定した海上演習を実施した。合同軍事演習「ゴールデンドラゴン2024」の一環。南西部リアム海軍基地に昨年12月から停泊している2隻を含む中国艦船も参加した。

中国は同基地を支援し、拠点化を目指しているとの見方があり、米国が懸念を強めている。カンボジア軍幹部は取材に、演習は軍事能力や両国関係の強化が目的で「特定の国の脅威になる訓練ではない」と述べた。

カンボジアと中国は2016年に合同軍事演習を初めて実施し、今回が6回目。カンボジアの船舶10隻以上が中国艦船と共に、乗っ取り犯側に貨物船を停止するよう命じ、射撃して制圧した。

カンボジア軍関係者によると、中国艦船2隻は海上演習終了後、同基地の桟橋に戻った。在カンボジア米大使館は先月、同基地の拡張工事で「中国軍が果たしている役割と将来の基地利用」に深い懸念を示していた。【5月28日 共同】
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カンボジアの主要港シアヌークビル港にほど近いリアム海軍基地は、かつてアメリカなどからの資金援助で建設されたましたが、現在は中国の支援を受け拡張工事が進められています。

タイ湾に面した同基地は係争海域である南シナ海に近いため、アメリカは、中国が戦略拠点として利用する恐れがあると懸念しています。

リアム海軍基地拡張工事については、カンボジアが中国による独占的な基地の軍事利用を認める見返りに、中国がインフラを整備する密約を結んだ疑いが指摘されており、カンボジアは「中国軍の施設ではない」とこれを否定しています。

実際に中国の軍事利用が進むと、同基地はアフリカ東部ジブチに次ぐ二つ目の中国軍の海外拠点になる可能性があります。

【中国資本による運河整備 ベトナムは反対するも・・・】
中国資本によるインフラ開発で注目されるのが、カンボジア首都のプノンペンとタイランド湾を結ぶフナム・テコ(フナン・テチョ)運河の整備事業です。

*****中国資本でカンボジアに運河建設、「歓迎の声」と「警戒の声」―シンガポールメディア****
シンガポール華字メディアの聯合早報はこのほど、カンボジア国内で中国資本による建設が今年後半に始まるフナム・テコ運河を巡る、さまざまな見方を紹介する記事を発表した。

同運河はカンボジア経済に大きな恩恵をもたらすとして歓迎する意見がある一方で、環境問題への影響や中国が軍事利用する可能性を懸念する声があるという。

フナム・テコ運河はカンボジア首都のプノンペンとタイランド湾を結ぶ全長180キロ、幅100メートル、深さ5.4メートルの積載量3000トンの船舶が利用できる運河で、2028年の完工を見込む。

建設を請け負う中国路橋集団は、数十年間の占有権を取得するとされる。同運河が完成すれば、カンボジアからのベトナムの港湾を通じた海運輸出が最大で70%削減できるとみられている。

ニュージーランドのオークランド大学の名誉研究者でもあるカンボジア開発研究所(CDRI)のンギン・チャンギットシニアリサーチフェローは、同運河により、カンボジアの繊維製品や原材料をプノンペンから海まで運ぶ距離が短縮され、温室効果ガスの排出が削減されると述べた。また同国の農業でかん漑のレベルが上がれば、運河沿いに暮らす160万人のカンボジア人が恩恵を受けるという。

ンギン氏は一方で、中国の投資や援助を受けてカンボジア経済が発展してインドシナ半島における同国の政治的影響力が向上することは「中国の利益につながる可能性がある」と述べ、「ベトナムと米国の関係がより密接になるにつれ、メコン地域では中米の競争によって地政学的な緊張がさらに高まるかもしれない」との見方を示した。

また、同運河の環境に対する影響を懸念する声もある。ベトナムのサプライチェーンの専門家であるグエン・フン氏は、運河によって既存の人口の流出や農業用地の喪失、湿地帯の減少が起きる可能性があると述べた。米スティムソンセンターの持続可能な開発プロジェクトの責任者であるアイラー氏は、運河によって「ベトナムの大規模なコメ生産のために使用可能な水量が減少する」と主張した。

カンボジアのスン・チャントル副首相は水資源に関連する問題について、「運河はかん漑や漁業にも使われるが、運河に使われる水の量は『大海の一滴』にすぎない。運河は最大で毎秒5立方メートルの水を海に排出するが、メコン川は毎秒8000立方メートルの水量を海に流している」「運河が環境に与える影響は小さく、ストローほどの大きさしかない」などと説明した。

メコン川については、水資源の利用と調整を行うための、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの4カ国が参加するメコン川委員会がある。

ソン副首相は、カンボジアはメコン川委員会に運河建設計画を通知したが、同プロジェクトについて地域の他の国に相談することはないと述べた。カンボジア政府は要請があれば、メコン川委員会に情報を追加提供する用意もあるが、そのようにする法的義務はないとした。

一方でメコン川委員会は、カンボジアに対しては数回にわたり要請し、2023年8月と10月に正式な書簡を送ったにもかかわらず、運河を評価するために必要な情報は伝達されていないとしている。

軍事面については、中国の軍艦が同運河を利用してメコン上流に進出するのではないかとの懸念も出た。スン副首相は「絶対にありえない」「われわれの憲法は、いかなる外国軍もカンボジアに入ることを認めていない」と、完全否定した。

ベトナム駐在の西側外交官も、ベトナムが安全保障上のリスクに直面しているとするベトナム人学者の警告について、運河の深さと水門の規模が限られているとして、中国に軍事利用される恐れがあるとの主張は「やや誇張されている」として、取り合っていないという。【5月13日 レコードチャイナ】
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フナン・テチョ運河は、扶南王国(1~7世紀ごろ)時代に建設されたものを水深を深めるなどの整備をするもののようです。

これにより、現在はベトナムから小型船に積みかえてメコン川を遡ってプノンペンに運ばれていた物資が、直接タイランド湾からプノンペンに入ることになります。

****カンボジア副首相が東京で講演、フナン・テチョ運河建設の利点強調****
(中略)
(カンボジア副首相兼カンボジア開発評議会第1副議長)スン・チャントール氏は講演で、カンボジアの地理的優位性をさらに強化するものとして、フナン・テチョ運河の建設計画に言及し、同運河の整備はカンボジア進出企業の大きなメリットとなり得ると説明した。

フナン・テチョ運河の原型となる運河は扶南王国(1~7世紀ごろ)時代に建設されたものとされる。スン・チャントール氏は、現在も利用されているこの運河を深さ1.5メートルから5.4メートルに整備し直すことにより、船の積み替えをせずに内陸まで貨物を運ぶことができ、輸送のリードタイムやコストの低減につながると話した。

同運河の全長は180キロで、総工費は17億ドルを見込む。官民連携パートナーシップ(PPP)方式で建設を行い、2028年の完成を目指すとした。

ジェトロによるプノンペン港担当者へのヒアリング(2023年時点)によると、カンボジアの海上貨物のうち、現在65~70%がシアヌークビル港で、残りがプノンペン港で荷揚げされているという。プノンペン港を利用する貨物は、ベトナム・ホーチミンの港で小型船に積み替えてプノンペン港まで運ぶことが多い。

過去には経由港での検査を理由とした大幅な輸送遅延などが起き、国内の物流や生産に影響を及ぼすことがあった。運河が整備されることにより、経由国の物流事情に左右されるリスクの軽減が期待される。

フナン・テチョ運河建設に当たっては、ベトナムなどが環境や生態系への影響、中国の軍事利用への懸念を表明しているが、カンボジアは懸念に足る事実はないとして反発している。【5月28日 JETRO】
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物資の流れが“ベトナム抜き”に変わること、メコンデルタでのコメ生産等に影響する可能性があること、更には中国の軍事利用の懸念などからベトナムが同計画に反対しているのは前出【レコードチャイナ】にもあるところです。

カンボジア側は、「運河が環境に与える影響は小さい」「水深5mでは軍艦は使えない」「われわれの憲法は、いかなる外国軍もカンボジアに入ることを認めていない」などと、反論しています。

ただ、「われわれの憲法は・・・」云々はまったくあてにならないようにも思えますが。

【インフラ整備をめぐって争う中国と日本・・・ということではあるが・・・】
カンボジアでは上記のような中国に対抗する形で日本もインフラ整備を争っています。

****日本と中国、カンボジアの366億ドルのインフラ整備めぐり争う―中東メディア****
中国メディアの環球時報によると、中東の衛星テレビ局アルジャジーラはこのほど、中国と日本がカンボジアの366億ドル(約5兆6730億円)のインフラ整備をめぐり争うとする記事を配信した。

記事はまず、「カンボジアはインフラ整備を推し進めているが、366億ドルと推計されるその計画は、海外の友人らの助けがあって初めて実現できるだろう。これはカンボジア政府が10年という期間内で国の交通と物流ネットワークを徹底的に見直す174のプロジェクトからなるマスタープランの中で今年初めに発表された最終的な金額だ」と伝えた。

記事によると、カンボジアの政府と民間企業は、同国のインフラ整備に資金を提供しているが、その投資の多くを占めているのが中国と日本だ。両国はカンボジアの外交上の最高位である「包括的戦略的パートナーシップ」を保持している国でもある。

これまでのところ、中国の「一帯一路」構想は、首都プノンペンから沿岸都市シアヌークビルまでを結ぶ同国初の高速道路などの主要プロジェクトでインフラ整備を主導してきた。

一方、日本は独自の歩みを維持し、新しい下水処理施設や既存の道路の改良などのさまざまなプロジェクトに焦点を当てている。

東京大学の研究者、柴崎隆一氏によると、「中国の(インフラ)投資額と比較すると、日本の投資額はとても限られている。中国からの投資がとても多いため、隙間を埋めるか、投資をより広い視点に合わせて調整するため、ニッチな市場を見つけなければならない」という。

中国政府は近年、メガプロジェクトへの投資に背を向け、優良なプロジェクトへの投資指向の傾斜を支持している。これらの資金は通常、「建設・運営・移転」契約によって提供され、作業を監督する企業が、あらかじめ決められた期間にわたって完成したプロジェクトによって生み出される収益と引き換えに開発費用を負担する。

協定が終了すると、所有権は開催国の政府に移管される。カンボジアの大局的なビジョンの重要な部分は、その種の資金調達に依存することになる。

カンボジアのインフラ基本計画には、九つのメガプロジェクトの案が含まれている。それらのほとんどはまだ実現可能性について研究中の段階だが、日本の国際協力機構(JICA)、または中国交通建設集団傘下の中国路橋工程(CRBC)がほとんどすべてに接触している。

CRBCは昨年、プノンペンとベトナムとの国境都市バベット間の2番目の高速道路の起工を果たしたが、これは計画されている九つのメガプロジェクトの一つだ。

シンガポールに本拠を置く海運代理店ベン・ライン・インテグレーテッド・ロジスティクスのプノンペン事務所のプロジェクト開発責任者、マシュー・オーウェン氏は、「誰もが影響力を持ち、誰もが得るものを持っている。これは競争ではなく、カンボジアの親友になろうとする国々のたまり場のようなものだ。カンボジアは、同国をより良くすることに前向きな国であればどの国に対してもオープンだ。誰が最大の橋を架けるかという独自の競争をしたいのであれば、それに参加すればいい」と語る。【5月20日 レコードチャイナ】
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現在の資金力などからみて、更にカンボジアと中国の政治的緊密さを考慮すれば、日本が中国にまともに対抗できるとは思われませんが、“ニッチな市場”で日本独自の技術・発想で取り組む・・・といったところでしょうか。

カンボジアも、全てを中国に委ねるリスクを考慮して、日本側への幾分かの配慮もあるのかも。

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スーダン  「忘れられた紛争」の資金源・・・チョコ・ガムに使用されるアラビアガム

2024-05-28 23:09:28 | スーダン

(アラビアガムノキの樹液を収穫する男性(23年、オベイドの東)【5月28日 WSJ】)

【死者は推計されている約1万5000人の10~15倍に上る可能性も 避難民の数はガザの5倍】
世界の各地で紛争は絶えませんが、その中にはウクライナやパレスチナ・ガザのように、国際関係への影響や先進国との関連の強さなどで世界の注目を集める紛争もあれば、ほとんどメディアに取り上げられることなく続く「忘れられた紛争」もあります。

しかし、紛争の戦火から逃げまどい、飢えや医療崩壊に苦しむ住民にとっては等しく悲劇・地獄であり、「忘れられた紛争」の場合は人道支援も行き届かないというということでより悲惨な状況にもなります。

スーダンで1年以上続く紛争・・・国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生・・・・も「忘れられた紛争」の一つです。

“推計で約1万5000人が死亡し、家を追われた避難民の数はガザの5倍近い約830万人に上る。ところが米国やロシアといった大国の思惑があまり絡まないこともあり、国際社会の関心は低いままだ。”【4月8日 毎日】

死者は約1万5000人の10~15倍に上る可能性があるとの見方(バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏)もあります。いったいどのくらいの犠牲者が出ているのかすら分からないのが「忘れられた紛争」です。

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2023年4月15日にスーダンの各地域で戦闘が発生してから1年が経ちました。

いまだに武力衝突は続き、800万人以上が国内外に避難を余儀なくされ、数万人が死傷しています。また、スーダン国内の医療施設の80%以上が機能不全の状態に陥っており、2,500万人以上が深刻な食料危機に直面しています。

家族が亡くなったり行方が分からなかったりという状況は、人びとの心理面での負担の増加にもつながっています。「忘れられた紛争」ともいわれるスーダンにおける人道危機は、悪化の一途をたどるばかりです。(後略)【5月1日 日本赤十字】
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【人道援助の「空白地帯」 「援助は一度も受けたことがない・・・・私たちはどこへ行けばいいのでしょう」】
「忘れられた紛争」が続くスーダンは人道援助の「空白地帯」ともなっています。

*****人道援助の「空白地帯」となったスーダンで何が──戦闘から1年以上 援助のない避難生活は続く****
スーダンでスーダン軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で戦闘が始まって1年余り。医療、食料などさまざまな面での人道危機が深刻さを増す一方、支援は今もとぼしく、スーダン全体が人道援助の「空白地帯」となっている。

同国西部の中央ダルフール州。州都ザリンゲイのハサヒサ・キャンプで暮らす避難民の人びとも、戦闘に巻き込まれた。国連によると、11月までに、同キャンプは数カ月にわたり「即応支援部隊(RSF)」に包囲され、負傷者はキャンプの外で医療を受けることができず、水や食料の供給も妨げられていたという。

国境なき医師団(MSF)は、現地で医療活動を行うとともに、スーダン保健省の支援を行っている。戦闘が始まってから1年以上がたった現在も、人びとは過酷な環境での生活を強いられており、医療ニーズは増え続けている。

11月2日の夜、アイサさん(50歳)とその家族はロバにひかせた車に乗り込み、ハサヒサ・キャンプから避難した。持ち物はマットレス1枚だけだった。

「同行していた男性は殺され、拘束されました。武装した男たちに止められた際には、彼らは人びとを縛り上げ、若い男性に暴力をふるいました」とアイサさんは当時の様子を振り返る。

アイサさんと家族が、破壊された消防署で輸送用コンテナの一つに住み始めてから、すでに6カ月以上がたつ。スーダンで避難を強いられている650万人の人びとと同様、アイサさん一家も主に人道援助に頼って生活をしている。

しかし、多くの場所で援助を受けることは難しく、水や食料、医療を含む必要不可欠なサービスへのアクセスも十分ではない。

消防署の向かいに暮らすのは、ナジャさん(30歳)と3人の子どもたちだ。一家はハサヒサ・キャンプからの避難民とともに、略奪された銀行に避難している。

「屋根もなく、食べ物もない。こんな状況で私たちは暮らしています」。そう、ナジャさん話す。

援助は一度も受けたことがないし、石鹸一個すらもありません。もうすぐ雨季がやってきますが、私たちはどこへ行けばいいのでしょう……。それも分からないのです。

医療を受けることも困難に
街の中心部にあるのは、ザリンゲイ大学だ。ここはかつて、医学、農学、科学技術を学ぶ学生の集う場所だった。しかし、いまではすっかり姿を変えている。講堂にはロバ用の干し草が保管され、キャンパスの建物は洗濯物の物干し竿がかけられている。

そこからわずか10分の距離にあるザリンゲイ教育病院で、娘のマラカさんが退院するのを待っているのがハディージャさんだ。その日は、MSFが救急治療室を再開した最初の日で、マラカさんは最初の患者の一人だった。家を追われたハディージャさんは、残った持ち物を売り、お金に換えた。しかし、彼女は娘のための薬を買うことができなかったという。

「この病院まで1時間以上かけてやってきました。マラリア検査で陽性だった子どもに治療を受けさせるためです」。そう、ハディージャさんは説明し、続ける。

以前住んでいたハサヒサ・キャンプでは、無料で薬をもらっていましたが、ここではそうはいきません……。でも今日、MSFの支援する病院で初めて無料で薬をもらうことができました。

崩壊した医療システムを支えるために
戦闘による大規模な暴力の中、スーダンでは医療従事者や医療施設が攻撃や略奪の対象となってきた。医療システムの大部分は破壊され、機能していない。中央ダルフール州に唯一残る二次医療施設であるザリンゲイ教育病院も、この紛争中に何度も略奪の被害に遭っている。(中略)

スーダンは人道援助の「空白地帯」に
MSFの緊急対応コーディネーターを務める、ビクトル・ガルシア・レオノールは、スーダンの状況について次のように話す。

「医薬品や食料品の価格は高騰し、特に避難民には手が届かないものになっています。また、ほとんどの医療施設は正常に機能していません。スーダンは援助の届かない、人道援助の『空白地帯』になっており、膨大な医療ニーズはさらに悪化しています」【5月28日 国境なき医師団】
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【紛争の資金源となる資源 例えば「紛争ダイヤモンド」】
こうした紛争がいつまでも継続するのは、紛争当事者に何らかの利害関係を持つ国が水面下で武器・弾薬などの支援を行っていることも大きな理由ですが、紛争地域の資源が資金源として紛争当事者によって取引されることもあります。

そして紛争の犠牲者の血で汚れた資源は、最終的には先進国消費者の豊かな生活を潤すことに。
有名なところでは、アフリカ・シエラレオネやコンゴの内戦を支えた「紛争ダイヤモンド」(血塗られたダイヤモンド)があります。

*****紛争ダイヤモンド*****
シエラレオネなど内戦地域で産出されるダイヤモンドをはじめとした宝石類のうち、紛争当事者の資金源となっているもの。血塗られたダイヤモンド (blood diamond)、汚れたダイヤモンド (dirty diamond)、戦争ダイヤモンド (war diamond)とも呼ばれる。

概要
ダイヤモンドなどの宝石は、国際市場で高値の取引が行われる。産出国にとっては貴重な外貨獲得資源となるが、その産出国が内戦など紛争地域だと、その国家は輸出したダイヤモンドなど宝石類で得た外貨を武器の購入に充てるため、内戦が長期化および深刻化することになる。

とくに反政府組織はこれら鉱物資源による外貨獲得とそれによる武器購入を広く行っている。その際には罪のない人々を採掘に苦役させることから人道上も大きな問題がある。

これら内戦の早期終結を実現するには内戦当事国の外貨獲得手段を奪うのが有力な手立てであり、国際社会はそれに取り組むべきだとされる。内戦当事国に外貨が流れ込まないようにするために、内戦国から産出するダイヤモンドや宝石を「紛争ダイヤモンド」と定義し、サプライチェーンはそれらを取引しないことが求められている。

歴史
冷戦時代は東西両陣営が自陣営の味方となる反政府組織に武器を無償供与していたために、このような問題は起こらなかった。

冷戦終結後に、特に東側からの武器供与が打ち切られたために、反政府組織は武器商人から武器を買わなければならなくなった。そこで、ダイヤなどの宝石産出国の反政府組織は武器の代金を確保するために、宝石鉱山を占領・制圧して宝石を採掘して売るようになった。

なお、武器は対立する組織双方に売られており、これがさらなる紛争の激化、生活レベルの低下をもたらしている。この生活レベルの低下は、鉱山労働者の賃金をさらに下げ、宝石価格の低下につながっている。

このように、欧米諸国は武器の販売及び廉価な宝石の購入の双方で莫大な利益を上げてきた。【ウィキペディア】
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【スーダン内戦の資金源となるアラビアガム・・・先進国で消費されるチョコやガムに使用】
スーダンでは、先進国消費者が口にするチョコレートやチューインガムに使用されるアラビアガムが紛争を長期化させる資金源ともなっています。

世界のアラビアガムの約80%はスーダンのアラビアガムノキから採取されています。

****スーダン内戦、チョコやガムが資金源に****
国際商品「アラビアガム」の売買は対立する同国の準軍事組織と国軍の双方に利益をもたらしている

ムハメド・ジャベールさんは週に一度、でこぼこ道を運転してスーダン国内のオベイドという町に向かう。トラックの荷台には、こはく色の樹脂「アラビアガム」が詰まった袋が山のように積まれている。あまり知られていないが、アラビアガムはチョコレートやソーダ、チューインガムなどの添加物として利用される。

50マイル(約80キロメートル)先の目的地に到着する頃、ジャベールさんは準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘員に330ドル(約5万1700円)ほど払うのだと話した。

RSFは、1年に及ぶスーダン内戦で民族浄化や人道に対する罪を行ったとして米政府が非難している。RSFは昨年6月にオベイドを包囲し、市内につながる主要道路4本のうち3本を制圧した。同市はスーダン有数の農産物集積地で、市内は国軍の支配下にある。

「車列を組んで移動するしか安全な方法はないが、かなり費用がかかる」とジャベールさん。「誰もが支払うしかない」

ジャベールさんによると、アラビアガムの売買人はRSFの検問所以外でも、AK-47銃を構えてピックアップトラックで車列に随伴するRSFの戦闘員に60~100ドルを渡す。支払いを拒否すれば、積み荷と車両を民兵に奪われかねないという。

世界のアラビアガムの約80%は、スーダンでアカシア属のアラビアガムノキから収穫される。西のチャドとの国境から東のエチオピアとの国境まで、およそ20万平方マイル(約51万8000平方キロメートル)に及ぶ砂漠地帯にアラビアガムノキは生育している。アラビアガムは無味無臭の乾燥樹液で、安定剤や増粘剤、乳化剤として多くの食品、飲料、化粧品、医薬品に使用されている。

スーダンの貿易業者によると、この樹液が内戦の両陣営にとって重要な資金源になっている。RSFは農産物の主要な流通経路を支配下に置いて資金を集めている。同国の事実上の政府を運営する国軍は、アラビアガムの売買に税金や関税を課している。

スーダンでは2023年4月の軍事衝突以来、約850万人が家を追われた。バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏は今月、戦闘による実際の死者数は、確認されている約1万5000人の10~15倍に上る可能性があるとの見方を示した。

「アラビアガムの輸出収入が、この戦闘の直接の資金源になっている」。アラビアガム産業を研究しているスーダンのラビー・アブデラティ氏はこう指摘する。

こうした懸念があるにもかかわらず、ほとんどの企業がスーダン産アラビアガムを回避する措置を講じていないことが、メーカーやサプライヤーなどへのインタビューで分かった。

「顧客にガムを切らしてもらいたくない」。未加工ガムの輸入・加工を手掛ける英モロウジ・コモディティーズのゼネラルマネジャー、オサマ・イドリス氏はこう話した。製菓や飲料、香味料のメーカーを顧客に持つが、いずれもスーダン産アラビアガムを使うことの懸念を訴えてはいないという。

チョコレートやグミにアラビアガムを使用しているスイスのネスレは、使用量はわずかだとし、サプライヤーによると主にチャド・ニジェール・マリから調達していると述べた。

「キス」ブランドのチョコレートを製造している米ハーシーの広報担当者は、全サプライヤーが現地の法律を順守しているものと認識していると述べた。イタリアのチョコレートメーカー、フェレロの広報担当者は、全サプライヤーが順守すべき厳格な精査手順を定めていると述べた。

一部企業は、スーダン産アラビアガムの購入をやめれば、樹液で生計を立てている数十万人が打撃を受けると指摘する。その多くは自給自足の農業従事者や遊牧生活者だ。国連機関はスーダンが飢餓の危機にひんしていると警鐘を鳴らしている。

世界のアラビアガム市場で40%のシェアを持つという仏ネキシラは、スーダンでの操業を昨年3カ月停止したが、その後再開してガムを輸入している。広報担当者によると、関係者から最近、「スーダンの路上で恐喝行為が行われている可能性がある」との報告を受けた。現地の契約先に対し、自由な移動を確保できないルートは避けるよう要請しているという。

経済制裁を管轄する米財務省は、アラビアガムがスーダンの戦費調達に関係していることを考慮しているかとの問いに対し、コメントを控えた。米国は1990年代、スーダンの指導者オマル・バシル大統領(当時)が国際テロ組織アルカイダなどを支援したとして、同国に制裁を科した。この時ビル・クリントン米大統領は抜け道を作り、アラビアガムをおおむね禁輸対象外とした。

アラビアガムはスーダンの主要な輸出農産物だ。入手可能な最新データによると、2022年に約1億8300万ドル相当を輸出し、同国の全輸出品で上位10位に入った。

貿易業者は昨年10月から今年5月頃までの今期について、スーダンの生産量が約半分に減少するとみている。樹液の採取を担う若者が兵士として雇われたり、収穫のために外へ出るのを怖がったりしているためだ。一方、価格は3分の2ほど上昇し、一時1トン当たり5000ドルを付けたという。

オランダのFOGAガムは、主に欧米の香味料メーカー向けにスーダン産アラビアガムを輸入・加工していたが、軍事衝突が始まってすぐの23年4月にスーダンでの売買を全面的に停止した。

「事業が完全に停止した」。FOGAガムのパートナー、マーティン・ベルカンプ氏はこう話す。「われわれは完全な透明性のあるフードチェーンに取り組んでいる。紛争のせいで、ガムがスーダンのどこから来ているのか明確ではない。どちら側とも協力したくない」

同社が現在支援しているのは、スーダン西部ダルフールの育苗業者による植林だけだという。

貿易業者によると、スーダンのアラビアガムは大半がオベイドに集まり、主にチャドやエジプト、紅海に面した国内のポートスーダンを経由して輸出される。

「もし世界の市場でアラビアガムが大幅に不足すれば、かなり深刻な影響が出かねない」。国連貿易開発会議(UNCTAD)でコモディティー(商品)貿易監視を担当しているラチド・アムイ氏はこう指摘した。【5月28日 WSJ】
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“スーダン産アラビアガムの購入をやめれば、樹液で生計を立てている数十万人が打撃を受ける”との指摘は考慮すべきところでしょう。

ただ、何も手をうつことなくチョコレートやガムに使い続けるというのも・・・・。
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イスラエル  国内外で強まる圧力 それでも強硬策を求める極右勢力を支持する人々も

2024-05-27 23:19:54 | パレスチナ

(ガザ南部ラファの難民キャンプが26日、イスラエル軍による空爆を受けて20人以上が死傷したと、イスラム組織ハマスが運営する保健当局が発表した。死者には、女性や子どももいるという。【5月27日 BBC】)

【イスラエル 見えない出口 強まる国内外の圧力】
多大な民間人犠牲者を出し続けているパレスチナ・ガザ地区の状況ですが、ハマス側がどの程度戦力を低下させているのか、組織的抵抗が続けられる状況なのか・・・よくわかりません。

ただ、イスラエル軍の執拗な攻撃が続いているということは、ハマス側の抵抗も続いているということなのでしょう。ハマスを一掃したとイスラエルが主張していたガザ中部や北部にハマス戦闘員が再び集結しているとの情報もあります。

また、イスラエルはラファにハマスの相当勢力が残存しており、これを叩かないとハマスを壊滅させることはできないとして、ラファ侵攻を何としても行うと主張しています。

しかし、8か月が経過した戦争の出口(イスラエルにとっては、人質救出かつハマス壊滅)は未だ見えず、イスラエルは国内外からの厳しい批判・圧力に直面しています。

*****イスラエルはハマスの罠にはまった...「3つの圧力」に追い込まれたネタニヤフ、ガザ戦争の出口は見えず*****
<ハマスを壊滅できると主張するイスラエル軍がガザ南部ラファへの突入を強行。それでも8カ月目に入った戦争は泥沼化する一方>

パレスチナ自治区ガザの戦争は8カ月目に入ったが、出口は一向に見えない。
イスラエルは、これまでイスラム組織ハマスの戦闘員1万3000人を殺害したと主張している。その数字が確かなら、負傷したり戦闘不能になった戦闘員の数は少なくともその2~3倍と推定できる。

戦争が始まる前、イスラエルはガザにいるハマス戦闘員を約3万人と推定していた。この数字も額面どおりに受け取るならば、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の言葉は正しいのかもしれない。彼は、ガザ南部の都市ラファに残るハマスの最後の大隊を排除すれば、ハマスを壊滅させられると主張している。

しかし、この論法には穴がある。イスラエルは、殺害したハマス戦闘員の数をどのように推定しているのか説明していない。ガザの混乱ぶりから考えれば、1万3000人という数字は、パレスチナ人の犠牲者の総数3万5000人のうち戦闘任務に就ける年齢(18~40歳)の男性の概数を基に割り出した大ざっぱな数字でしかないだろう。

さらに、もし残存する戦闘員がラファの地下トンネルに隠れているとすれば、攻撃を逃れるためにトンネル網を利用して移動する可能性もある。実際にイスラエル軍とメディアは、イスラエルが何カ月も前にハマスを一掃したと主張していたガザ中部や北部に、ハマス戦闘員が再び集結しているとしている。

もっと重要なのは、イスラエルがハマスの最高幹部2人を排除できていないことだ。昨年10月7日のイスラエル襲撃の首謀者である政治部門の指導者ヤヒヤ・シンワールと、軍事部門の司令官ムハンマド・デイフである。この2人が野放しのうちは、イスラエルが勝利を宣言することはできない。

イスラエルは、ハマスに捕らえられている残りの人質も救出できていない。昨年10月7日にハマスに拉致された約240人のうち、軍事作戦によって解放されたのはわずか3人。これ以外に、交渉やハマスの一方的な決定によって100人強が解放された。

ネタニヤフに3つの圧力
国際社会では、イスラエルを非難する声が急拡大している。各国の大学で反イスラエルの抗議デモが展開され、先日開催されたヨーロッパの国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」では、イスラエル代表がすさまじいブーイングを浴びた。

ネタニヤフがラファ侵攻に踏み切ったことを受け、ジョー・バイデン米大統領はイスラエルへの一部弾薬の供与を保留した。ただし、これは象徴的な措置にすぎず、バイデン政権はイスラエル向けに新たに10億㌦相当の兵器を供与する手続きを進めている。

戦争の引き金となった昨年10月の奇襲攻撃の狙いを、ハマスは明らかにしていない。だが、次の3点が推測できる。

第1に、サウジアラビアとイスラエルが和平合意に達しつつあったなか、パレスチナの大義を中東の最優先課題に引き上げること。第2に、世界最大の「屋根のない監獄」と呼ばれるガザの惨状に世界の注目を集めること。そして第3に、イスラエルをあおって過剰な武力行使に駆り立て、国際社会からの非難を引き出すことだ。

この理屈でいけば、イスラエルはハマスが仕掛けた罠にまんまとはまったことになる。
ハマス壊滅の目標には程遠く、国際社会でイスラエル批判が高まるなか、ネタニヤフは3方向からの圧力によって窮地に追い込まれている。

第1の圧力は、イスラエル史上最も右寄りの政権内部からのものだ。なかでも強硬派のベザレル・スモトリッチ財務相とイタマル・ベングビール国家治安相は、ネタニヤフが長期の停戦に同意すれば、閣僚を辞任して選挙の実施に向けて動くと語っている。最近の世論調査ではネタニヤフの退任を望む国民が71%に上っており、すぐに選挙が行われれば敗北はほぼ確実だ。

ポスト9.11との類似
第2の圧力は、今もハマスに拘束されているとみられる約130人の人質の家族や支持者からのものだ。彼らは人質解放と引き換えに停戦を受け入れるよう、ネタニヤフに圧力をかけ続けている。

そして第3は、ネタニヤフの一番の盟友であるバイデンからの圧力。11月に大統領選を控えるバイデンは、この戦争をできるだけ早く終わらせたい。戦争が長引けば、進歩派やアラブ系アメリカ人の票を失いかねない。弾薬供与の保留は、バイデンの忍耐が限界に達しつつあることをネタニヤフに伝えるシグナルの1つにすぎなかった。

戦争が長引くなかで浮き彫りになってきたのは、イスラエルにパレスチナ人と共存するための長期戦略がないことだ。停戦に合意したとしても、その後の計画が全く見えない。計画の欠如が既にガザ北部で危険な権力の空白をつくり出し、そこでギャングや部族組織、犯罪者が幅を利かせている。

カート・キャンベル米国務副長官は先頃、現在の状況は9.11同時テロの後、アメリカがイラクとアフガニスタンで直面したものに似ていると警告。「(イラクとアフガニスタンでは)一般市民が退避した後も、多くの暴力や反乱が起きた」と述べた。

ガザは今後、どうなるのか。イスラエルもパレスチナも、イスラエル軍が長期にわたってガザを再占領する状況は望まないだろう。しかもネタニヤフは、いまヨルダン川西岸の一部を統治するパレスチナ自治政府がガザの統治を引き継ぐことは認めない姿勢をはっきり示している。

だが部族組織の指導者らがイスラエルに代わってガザを管理するというネタニヤフが好む方法は、対立する組織間の小競り合いや腐敗を招く恐れがある。一方、中東の近隣諸国や国連などの外部勢力が関与するという選択肢は、ネタニヤフが支持していない。

戦闘地域から別の戦闘地域へと避難を続けるパレスチナの住民は、もう希望を失いつつある。ラファのある地域指導者はこう語った。
「戦争は全てを変えた。だが何より問題なのは、安全が消え去ったことだ。弱者に残されたものは何もない。生き残るのは強者だけだ」【5月21日 Newsweek】
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【政権内部の亀裂も】
政権内極右勢力からの突き上げ、人質救出を求める家族ら国民世論、自身の大統領選挙への影響を懸念するバイデン大統領からの自制強要・・・・ネタニヤフ首相が直面している圧力はまだ他にもあります。

国内的には、閣内では政敵ガンツ前国防相とのガザ地区の将来計画をめぐる路線対立が危険なレベルに達しています。

****イスラエル戦時内閣、足並みの乱れ浮き彫りに ガンツ前国防相が“ガザ地区統治”計画案の策定を要求 ネタニヤフ首相は反発****
イスラエルのガンツ前国防相は、戦闘終結後のガザ地区の統治などを含む計画案を来月8日までに策定するよう求めました。ネタニヤフ首相は反発していて、戦時内閣の足並みの乱れが浮き彫りになっています。

ロイター通信によりますと、イスラエル戦時内閣の一員であるガンツ前国防相は18日、戦闘終結後のパレスチナ自治区ガザ地区の統治などに関する6項目の計画案を提示しました。

イスラエルが治安管理を続ける一方、パレスチナや欧米、民政部門などが関与する国際的な枠組みで統治する案などが掲げられていて、こうした項目が盛りこまれた計画が来月8日までに策定されなければ、連立内閣から中道政党を離脱させると述べました。

ネタニヤフ首相は15日に、戦闘終結後はイスラエルがガザ地区の軍事的責任を持つと述べていて、イスラエルメディアによりますと、ガンツ前国防相の発言に対し、「イスラム組織ハマスではなく、首相に最後通告を突きつけるのか」と反発したということです。

ガザ地区の統治をめぐっては、ガラント国防相もイスラエルが統治に関与することに反対の立場を示していて、戦時内閣での足並みの乱れが浮き彫りになっています。【5月19日 日テレNEWS】
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【国際刑事裁判所(ICC)はネタニヤフ首相の逮捕状請求 欧州3各国のパレスチナ国家承認 強まる一方の国際圧力】
国際的なイスラエルへの圧力は強まる一方です。

****ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米など猛反発****
国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は20日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、戦争犯罪と人道に対する罪の疑いでイスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相のほか、イスラム組織ハマス幹部3人の逮捕状を請求したと発表した。

これに対し、ネタニヤフ首相本人は猛反発。米国や英国からも批判的な声が上がっている。逮捕状を発行するに十分な証拠があるかどうかは、予審裁判部が今後判断する。

カーン氏は声明で、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑で「刑事責任を負う」と信じるに足る十分な根拠が得られたと指摘。

「イスラエルは他の全ての国と同様に国民を守るために行動する権利があるが、こうした権利は国際人道法を順守する義務を免除するものではない」とし、イスラエルが行ったとされる人道に対する罪は「国家政策に基づくパレスチナ民間人に対する広範かつ組織的な攻撃」の一部との見解を示した。

その上で、イスラエルが食料、水、医薬品、エネルギー源などの「人間の生存に不可欠な物資」を民間人から組織的に奪っていたことを示す証拠が得られているとし、ネタニヤフ首相とガラント国防相は故意に多大な苦しみを引き起こし、戦争犯罪として殺人を犯したことに責任を負っているとした。

ICCはハマス最高指導者のハニヤ政治局長ら3人の逮捕状も請求。ハマス幹部のサミ・アブ・ズフリ氏は「被害者と加害者を同一視するものだ」と非難し、逮捕状請求の取り消しを要求した。

イスラエルのネタニヤフ首相は「ICC検察官が、民主的なイスラエルと大量殺りくを行うハマスとを比較したことに嫌悪感を抱く。イスラエル国民を虐殺し、レイプし、誘拐したハマスと、正義の戦争を戦っているイスラエル軍兵士を比較することなどできるだろうか」と激しく反発した。

その上で、逮捕状請求は不合理であり、イスラエル全体を標的にしたもので「新たな反ユダヤ主義」の姿だと批判した。(後略)【5月21日 ロイター】
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更に、スペイン、アイルランド、ノルウェーの欧州3カ国がパレスチナ国家を承認すると発表。

“英BBC放送などによると、少なくとも140カ国がパレスチナを国家承認しているが、米国をはじめG7は未承認。パレスチナは3カ国の決定を悲願の独立国家樹立や国連正式加盟への追い風にしたい考えだ。 今回の承認表明により欧米諸国の間での立場の違いが表面化した。”【5月22日 共同】

****イスラエル孤立さらに鮮明に 世論反発で政権に求心力も、欧州3カ国のパレスチナ国家承認****
アイルランドなど欧州3カ国が22日、パレスチナを国家承認すると表明し、国際社会で進むイスラエルの孤立が印象付けられる形となった。イスラエルのネタニヤフ首相は、同国を奇襲したイスラム原理主義組織ハマスなどを勇気づける「テロリズムへの褒美」になるとして批判した。

イスラエルは第3次中東戦争(1967年)でパレスチナ人が多く住むヨルダン川西岸とガザを占領し、ガザではハマスと戦闘を続けている。3カ国のパレスチナ国家承認には、こうした実態を変える実効力はなく、象徴的な意義にとどまる。

とはいえ、ガザの民間人に大きな犠牲が出ているイスラエルの軍事攻撃への反感は根強く、外交にも影響を広げつつある。

バイデン米政権はイスラエルがガザ最南部ラファで行うとする地上作戦に反対し、兵器供与の停止をちらつかせている。5月には国際刑事裁判所(ICC)の検察官がネタニヤフ氏らの逮捕状を請求したほか、国際司法裁判所(ICJ)は1月に始めた審理でジェノサイド(集団殺害)を防ぐ「あらゆる措置」を取るようイスラエルに求めた。

一方、イスラエルではパレスチナ国家を建設して共存を図る「2国家解決」の支持は少数派で、ネタニヤフ政権も一貫して反対してきた。

ロイター通信は、欧州3カ国の動きはイスラエル国内で政権の求心力強化につながり、イスラエルの孤立を是とする国内世論を促しかねず、「非生産的だ」などとする識者の見方を伝えた。【5月23日 産経】
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ドイツのベーアボック外相は「『象徴的な承認』ではなく、政治的な解決が必要だ」と述べ、イスラエルとパレスチナの当事者間の交渉を呼びかけています。【5月23日 共同より】

フランスのステファヌ・セジュルネ外相は22日、同国がパレスチナを国家承認するのは「タブー」ではないが、今は適切な時期ではないとの見解を示しています。【5月23日 AFPより】

一方、次期総選挙で保守党からの政権奪還がほぼ確実視されているイギリス野党・労働党のスターマー党首は24日、総選挙で勝利すればパレスチナ国家を承認したいが、承認は和平プロセスの適切な時期に行う必要があると述べています。【5月27日 ロイターより】

国内外で四面楚歌的な圧力・批判に直面するネタニヤフ政権ですが、極右政党の激しい突き上げもあってラファ侵攻を主張しています。そうした極右勢力を支持しているのはどういう人々か?

****誰が極右政党を支持しているのか、イスラエルの止まらないガザ侵攻****
イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ南部ラファへの侵攻で、多くの死傷者が出ています。ネタニヤフ政権の事実上の「ガザ占領政策」に対し、イスラエル国内でも各地で反戦デモが続き、政権支持率は低迷しています。その一方で、「ガザ占領政策」を支持する声も根強くあります。

現在、極右政党と連立を組む第6次ネタニヤフ内閣には、首相よりも強硬な閣僚であるスモトリッチ財務相、ベングヴィル国家安全保障相らがいます。スモトリッチ財務相は極右政党の「宗教シオニズム」を、ベングヴィル安保相は「ユダヤの力」を率いています。2022年11月1日に行われた総選挙では、これらの極右政党が議席を倍増させました。いったい、イスラエルの中のどのような人たちが極右政党を支持しているのでしょうか。

ヨルダン川西岸の若い世代は「入植者」との意識を持たず
1967年の第3次中東戦争で、イスラエルがヨルダン川西岸を占領して以来、イスラエル人の入植が進み、今日では70万人以上のユダヤ人が住んでいます(同地域におけるパレスチナ人居住者は約300万人)。国際法の観点からは、イスラエル人の同地域への入植は違法とされています。

同地域におけるイスラエル人は第2世代や第3世代に広がっており、彼らはここで生まれ育ち、ヨルダン川西岸地域を自分たちの生まれ故郷と見なしています。

それにもかかわらず、パレスチナ人との争いが絶えず、なぜ、自分たちの故郷に、邪魔な異邦人がいるのかという不満を募らせています。若い世代は、自分たちが「入植者」であるという意識を持っておらず、その土地での生存権を当然のごとく主張し、原住者のパレスチナ人を完全駆逐することを目的としています。

そして、SNSなどを効果的に活用し、全イスラエルに向けて、ユダヤ人の権利を訴えているのです。極右政党の集会に集う若い熱狂的な支持者はこのような形で、連帯しています。(中略)

極右政党の一つである「宗教シオニズム」を率いるベザレル・スモトリッチ財務相はヨルダン川西岸の入植者に厚い支持層を持っています。ヨルダン川西岸出身(生まれはゴラン高原)で、イスラエルによる同地域の併合とユダヤ人の権利拡大を主張しています。

核兵器使用発言で物議を醸した閣僚も
スモトリッチ財務相はヨルダン川西岸の占領行政を担当する特任担当大臣(Additional minister) を兼任しており、同地域の入植をかつてないほど急増させ、また、入植支援活動を積極的に行うなどして、支持層を固めています。現在、自身が率いる「宗教シオニズム」から同氏を含めて3名が閣僚となっています。

もう一つの極右政党「ユダヤの力」を率いるイタマール・ベングヴィル党首は新設の国家安全保障相に就任しています。治安を担当する閣僚であり、警察や公安組織を統括します。

特に、ヨルダン川西岸の警察行政を統括し、パレスチナ人排斥とイスラエル人保護の強硬な施策を推進しています。スモトリッチ財務相同様に、同地域の有権者や強硬派の支持を得ています。

ベングヴィル安保相は、バールーフ・ゴールドシュテインというユダヤ民族主義者の肖像を自宅に掲げていたことで知られています。ゴールドシュテインは1994年、29名のパレスチナ人を射殺しました(マクペラの洞窟虐殺事件)。

ベングヴィル安保相率いる「ユダヤの力」からも、同氏を含めて3名が閣僚となっています。その内の1人、アミハイ・エリヤフ文化遺産相は昨年11月5日、ガザ地区に核爆弾を投下することも選択肢の一つだと発言し、物議を醸しました。

ハイテク、軍需関連産業に強硬派支持の傾向
 1993年に調印されたオスロ合意での中東和平プロセスが失敗していく状況で、ヨルダン川西岸を含むイスラエルの入植地で、ユダヤ人とパレスチナ人の対立が激化し、イスラエル人の不安や不満が募ります。しかし、中道左派は何一つ、有効な手立てを打つことができませんでした。

2021年には、ガザ地区で軍事衝突が発生し、イスラエル人とパレスチナ人が抗争状態となりました。ヨルダン川西岸の治安悪化などを受けて、同地域の事実上の併合推進を主張する勢力が伸長し、極右政党の台頭を招いたのです。

「宗教シオニズム」や「ユダヤの力」に比べれば、ネタニヤフ首相率いる「リクード」は決して強硬とは言えず、中道路線に霞んで見えるほどです。

ではどのような層が、とりわけ政治に強い影響力を持つ産業界はこうした極右政党を支持しているのでしょうか。
産業界のほとんど、特に地場産業は極右政党を支持していません。地場産業はパレスチナ人を労働者として雇用しており、パレスチナ人との対立を望んでいないのです。

しかし、ハイテク産業は地場産業とは異なり、パレスチナ人との直接的な接触が少なく、また、特に軍需関連企業は戦争によって特需に見舞われるため、強硬派を支持する傾向が強いと言えます。(後略)【5月27日 宇山 卓栄氏 JBpress】
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サウジアラビア  ムハンマド皇太子が進める新しいサウジ「NEOM」 国王の健康悪化で王位継承問題

2024-05-26 23:29:22 | 中東情勢

(THE LINE 【TECTURE MAG】

【超未来的な巨大都市「NEOM」 その中核「THE LINE」】
以前にも取り上げたことがありますが、サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子が進める超巨大プロジェクトNEOM(ネオム)・・・砂漠の中に最先端技術を駆使した未来都市を建設しようというものですが、あまりに斬新かつ巨大過ぎて私のような凡庸な想像力ではイメージを把握しかねてもいます。

****サウジアラビアの超未来的な巨大都市「NEOM」とは一体なんなのか? 構成する4つのプロジェクトを紹介****
NEOM:サウジアラビアの未来都市
超スリムな超高層ビルがどこまでも続くメガシティー・プロジェクト「THE LINE」は、2年前の発表以降、その極めて野心的なデザイン(と、物議を醸す政治)で話題を呼んでいるが、このメガシティーは、サウジアラビアが思い描く未来都市NEOMを構成する4地域の一つにすぎない。

サウジアラビア北西部のタブーク州で進行しているこの壮大な計画は、首相でもあるムハンマド・ビン・サルマン皇太子と、英国を本拠とする構造工学コンサルタント、ビューロ・ハッポルドの元CEO、ロジャー・ニッケルズ氏が主導している。(中略)

NEOMという名称は、「新しい未来」を表現する2つの言葉に由来する。最初の3文字は、古代ギリシャ語で「新しい」を意味する接頭辞ネオ(neo)。最後の1文字は、アラビア語で「未来」を意味する「モスタクバル(mostaqbal)」の頭文字だ。

NEOMを構成する4つの「地域」は、SINDALAH、TROJENA、OXAGON、そして、THE LINE。

プロジェクトに関わる国際チームは、スマートシティー技術を取り入れ、未来的な都市計画を実現することで、「都市生活を再構築」したいと考えている。NEOMの都市計画責任者タレク・カドゥミ氏は2022年のインタビューで、この未来志向のビジョンについて語った際、超効率性とカーボンニュートラルというチームの目標を詳述している。

SINDALAH

SINDALAHは、NEOMで最初に設計された地域で、「島がもつリラックスした雰囲気と、新時代のラグジュアリーが融合したハイテクな観光地」だ。(中略)

このリゾートの特色はラグジュアリーツーリズムで、3つのホテルを合わせて750室近い客室とアパートメントを提供する。86の係留所を備えるマリーナと、75の沖合ブイがあり、スーパーヨットの寄港先になることが期待されている。島に到着したら、高級小売店、ビーチ、ヨットクラブ、スパ、ウェルネスセンターなどを利用できる。

TROJENA

TROJENAは、タブーク州の山岳地帯に計画されている。面積は約60平方キロで、アカバ湾から50キロ、標高1500~2600メートルの場所につくられる。

まだ建設が開始されてはいないが、2029年のアジア冬季競技大会の会場になることがすでに決まっている。5000億ドルの資金を投じ、2026年に砂漠の都市が完成する予定で、一年中滑ることができるスキー場、人工の淡水湖、シャレー、ヴィラ、超高級ホテルなどを備え、2045年までに最大900万人の居住が見込まれている。(中略)

OXAGON

OXAGONは、世界最大の浮体構造物になる予定だ。アジア、ヨーロッパ、米国東海岸を結ぶ貿易の約13%が通過するスエズ運河のすぐ南に、紅海に突き出すようにつくられる。このような戦略的立地から、この巨大港湾都市は「最先端のクリーン技術」の拠点になることが期待されており、「2030年までに9万人」が居住することを目指している。インフラも先進的で、OXAGONは100%クリーンエネルギーで運営されるとチームは主張している。

THE LINE

ギガシティーNEOMで最も有名な地域は、おそらくTHE LINEだろう。海抜500メートルという高さで、幅200メートルという、背が高く細長い都市になる予定だ。

「都市生活の革命」をうたい、車や道路を必要としないコミュニティーがベルト状に築かれる。居住者は、徒歩5分圏内で日常のニーズをすべて満たすことができ、自然と触れ合うこともできる。人工知能(AI)を活用し、すべてがネット接続されているこのコミュニティーの発展は、100%クリーンエネルギーで実現されるとチームは述べている。(後略)【2023年1月29日 pen】
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斬新かつ巨大なプロジェクトのなかでも、ひときわ奇抜なのが全長170km・高さ500mの直線型高層都市「THE LINE」

“垂直性による3次元的な移動と、他の都市に類を見ない密度による効率性を実現し、100%再生可能エネルギーにより稼働するサステナブルな都市構想”・・・・だそうです。

全長170kmに及ぶ直線型高層都市がどのようなものになるのか、どうしてそういう形状が必要になるの、そんなものが機能するのか・・・個人的には未だに理解できていません。

ネオムは単にムハンマド皇太子の「世界を驚かせるものを作りたい」といった欲望(おそらく、それもかなり大きなウェイトを占めているのではないかと思っていますが)だけでなく、脱石油を目指して未来のサウジアラビアの礎を築きたいという皇太子の熱い思いが込められています。

建設は始まっているようですが、膨大な費用を要するプロジェクトということで、さすがに資金問題も表面化しているようです。

【資金的な問題から「THE LINE」の第1段階の規模を縮小 全体規模には変更なし】
****サウジ巨大都市構想「ネオム」 立ちはだかる現実の壁****
全長170キロメートルの超高層ツインビル構想、コスト高と建設問題の浮上で勢い失う

エンジニアたちは問題を山ほど目にした。
何千台ものトラックと掘削機が毎日24時間の稼働を数週間続け、サウジアラビアが進める世界最大の建設プロジェクト「ネオム」の予定地で何十万立方メートルもの砂をどかした。捨てられた砂は巨大な山となり、幅は数十メートルに伸びていた。だがそこは、紅海へ通じる水路の工事予定地だった。

トラックと掘削機は再び作業に取り掛かり、捨てたものを再びすくって近くに新たな砂の山を築いた。高くついたこのハプニングは、サウジのプロジェクトが大胆なコンセプトとして始まり、無秩序に膨張する前途多難な事業へと変貌していく波乱に満ちた道のりを象徴している。

懐疑派を尻目に、サウジは何千億ドルもの資金を注ぎ込んでネオムのプロジェクトを進めている。大きさは米マサチューセッツ州に匹敵し、SFばりの建築物や乾燥地帯でありながらスキーリゾートも備え、ニューヨーク市の人口を上回る人を呼び込むための派手なプロジェクトの数々を一から作り上げようとしている。

目玉となる「ザ・ライン」は威容を誇る数兆ドルの構造物で、ニューヨークのエンパイアステートビルより高いツインビルが約170キロメートル伸び、900万人を収容できる予定だ。指揮を執るサウジの事実上の統治者、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、このプロジェクトをエジプトの三大ピラミッドになぞらえている。

サウジは数カ月前にザ・ラインの第1段階の規模を縮小した。同国が現在、大幅な歳出超過状態にあるという現実を直視したためだ。計画を知る複数の関係者によると、当初は2030年までにまず約16キロメートル分を建設する予定だったが、約2.4キロメートル分に修正した。このサイズでも断トツで世界最大のビルで、面積はエンパイアステートビル60棟分をしのぐ。

サウジのファイサル・アル・イブラヒム経済・計画相は4月の米CNBCとのインタビューで、計画の第1段階の縮小に関するブルームバーグの報道について聞かれると、ザ・ラインの長期的な展望は変わっていないことを示唆。「規模に変更はない。これはモジュール方式で計画された長期プロジェクトだ」とし、「現在サウジの経済成長は加速しているが、過熱はさせたくない」と語った。

サウジにとってこれはムハンマド皇太子の野心並みに大きな賭けだ。経済を改革して石油依存から脱却し、世界から資金と人材が集まる国にするという同氏の計画をネオムが象徴している。

だが同氏は、前例がなく実現困難な実験になるかもしれない都市建設に、国庫の多くを浪費するリスクを冒している。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの客員研究員で、サウジの民主化を支援する団体に所属するマダウィ・アル・ラシード氏は、「ムハンマド・ビン・サルマンはギャンブルをしている」と話す。「これだけの大金を使えば、理論上、サウジ経済は目に見える形で飛躍するはずだ」という。だがこれまでのところ、資金の多くは外国のコンサルタントや建築家に費やされている。

課題は山積している。どの大都市からでも車で2時間かかる広大な砂漠の一角に、建設労働者を10万人以上収容する必要がある。必要な鉄鋼や外装ガラスなどの資材はあまりに膨大で、世界的に価格を押し上げる可能性があり、調達は困難になるかもしれない。

米デラウェア州と同じ長さの超高層ツインビルに収まった垂直都市という、ザ・ラインの一風変わったコンセプトについて、魅力的な住環境ではないと思われはしないかと立案者は危惧している。【5月17日 WSJ】
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【ムハンマド皇太子の改革路線 外交でもイスラエル・イランとの関係を模索】
NEOMに限らず、ムハンマド皇太子は女性の自動車運転を認めるなどの(人権軽視・あくまでも皇太子の意に沿う“上からの改革”に過ぎない・・・等の批判はあるものの)野心的な改革を進めていますが、国際政治においても、宿敵イランと(表面的には)手を結び、同時に技術的・経済的に実利が大きいイスラエルとの関係改善を模索しています。

イスラエルとの関係は、パレスチナでの紛争再燃を受けてとん挫した形にはなっていますが(アラブの盟主を自任するサウジとしては、パレスチナがイスラエルの攻撃を受けている状況でイスラエルとの関係改善を図るのは立場上困難)、先ずは仲介国アメリカとの防衛協定締結を目指す動きもあるようです。

****米・サウジ、防衛協定で最終合意に近づく=米高官****
米政府高官は21日、サウジアラビアとの2国間防衛協定で最終的な合意に近づいたと明らかにした。民生用原子力に関する協力などが含まれるという。

ただ、イスラエルとサウジの関係正常化に向けたより広範な地域的な取り決めについては障害が残っている。

同高官は2国間協定は「ほぼ完了した」としつつ、パレスチナ国家樹立への信頼できる道筋や、パレスチナ自治区ガザの情勢安定化に向けた措置などについて依然として完了する必要があると指摘した。

サリバン米大統領補佐官の中東訪問を受け、記者団に説明した。サリバン氏はサウジのムハンマド皇太子やイスラエルのネタニヤフ首相と会談した。

関係者によると、協定はサウジが中国製兵器の購入を停止し、中国からの投資受け入れを制限する見返りに、米国がサウジ防衛を正式に保証するとともに、サウジがより先進的な米国製兵器にアクセスできる内容になる見通し。

米当局者によると、合意の一環として米国からサウジに対するF35戦闘機などの武器売却も協議している。【5月22日 ロイター】
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一方、ライシ大統領が亡くなったイランについても、イラン国営通信は25日、ムハンマド皇太子がイランを訪問すると報じています。イラン側との電話協議で訪問を要請され、承諾したとのことですが、具体的な時期には触れておらず、その実現可能性は不透明です。

【父親である国王の健康悪化 王位継承はスムーズに進むのか?】
良きにつけ悪しきにつけ、サウジアラビアの実力者として内外の問題に取り組んでいるムハンマド皇太子ですが、先日、来日予定が、父親である国王の健康悪化で直前にキャンセルされました。

****サウジ皇太子が来日を延期 国王の健康悪化で 日程再調整へ*****
林芳正官房長官は20日午前の記者会見で、同日から予定されていたサウジアラビアのムハンマド皇太子の来日を延期すると発表した。

ムハンマド氏の父、サルマン国王の健康状態が肺炎により悪化し、サウジ政府から19日深夜、訪日延期の申し出があったため。林氏は訪日の日程について「改めて調整する」とした。

日本政府は10日、ムハンマド氏を公賓として20日から招き、天皇陛下との会見や岸田文雄首相との会談を実施すると発表していた。【5月20日 毎日】
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ムハンマド皇太子が進める内外の改革は父サルマン国王の信任があっての話であり、高齢のサルマン国王に万一のことがあり、その後継問題がこじれると、全ては白紙に戻ります。中東情勢・石油価格にも大きな影響が出ます。

これまでのサウジの慣例からすると父から子への王位継承はイレギュラーな形でもあります。

****原油に新リスク…イラン大統領死去より深刻なサウジアラビア王位継承問題、皇太子の訪日ドタキャンの裏に権力闘争か****
(中略)20日に日本を訪問する予定だったサウジアラビアのムハンマド皇太子(39歳)が直前になってその中止を通告してきたが、そこにリスクの兆候が潜んでいると考えている。ムハンマド氏は2022年11月にも訪日をキャンセルしており、今回が2度目だ。

「日本軽視の表れだ」との憶測が流れているが、ムハンマド氏はなぜこのような決断をしたのだろうか。

サウジアラビア皇太子の訪日ドタキャンはなぜ起きた?
中止の理由は「サルマン国王の健康状態」にあるとされている。88歳のサルマン氏は肺炎に罹り、高熱と関節痛の症状を和らげるために王立診療所で抗生物資の投与を受けているという。サルマン氏は2020年にも胆のうの摘出手術を受けている。

高齢の父親の健康が心配なのはわかるが、それだけが理由だとは思えない。むしろ「王位継承がカウントダウンに入ったからではないか」と筆者は考えている。

ムハンマド氏は2017年に皇太子となり、2022年には本来国王が務める首相にも就任した。莫大な権力を掌握していることから、「ミスターエブリシング」と呼ばれているが、サルマン氏から国王の座を譲られているわけではない。

サウジアラビアではこれまで初代国王のアブドラアジズの息子の間で王位が受け継がれてきた。ムハンマド氏が次期国王に就任すれば、初めて初代国王の「孫世代」に王位が渡ることになる。

だが、王位継承は年功序列が慣行となっていることから、「孫の世代でも若い部類に入るムハンマド氏がすんなり王冠を手に入れられるかどうかわからない」との指摘がある。つまり、王位継承をめぐる激しい権力闘争が勃発する可能性がある。

ムハンマド氏には「敵」が少なくないことも気がかがりだ。王位継承の有力者を強引に排除してきた経緯がある。

サウジで権力闘争が勃発すれば原油価格高騰
2017年、当時皇太子だったナイフ氏が更迭され、2020年にはムハンマド氏に批判的だったサルマン氏の弟であるアフメド氏らが逮捕されている。これらの“事件”の背景には、ムハンマド氏による政敵排除の動きがあるとの見方が根強い。

いよいよ国王の健康状態が悪化し王位継承のカウントダウンが始まったとすれば、ムハンマド氏は差し迫った王位継承を盤石なものにするため、国内にとどまらざるを得なかった……。それが、訪日ドタキャンの真相ではないだろうか。

ひとたび中東最大の産油国で王位継承をめぐる権力闘争が勃発すれば、直接的な供給不安にすぐに結び付かなくとも原油価格を高騰させる圧力になりかねない。日本の原油輸入に占めるサウジアラビアの比率は40%を超える。サウジアラビアをめぐる今後の動静について、より一層の注意を払うことが必要なのではないだろうか。【5月24日 藤和彦氏 JBpress】
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これまでムハンマド皇太子は政敵・ライバルを剛腕というか、かなり強引な方法で排除してきましたので、後継問題で直ちに立ちはだかる存在はないと思いますが、“敵も多い”皇太子だけに何が起こるかわからないところも・・・。

*****サウジ国王、肺炎で健康悪化…実権者ビン・サルマン皇太子の継承が有力*****
サウジアラビアのサルマン・ビン・アブドルアジズ国王(88)が肺炎と診断され、病院で治療中という報道があった。サルマン国王の健康が悪化し、王位継承序列1位の息子ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(39)に世間の耳目が集まっている。(中略)

ロイター通信によると、サルマン国王は2020年に胆嚢除去手術を受けてから不調が続き、最近は高熱と関節痛に苦しんでいた。 このためサウジの実権者ビン・サルマン皇太子の権力がより一層強まるという分析が出ている。

2015年に王位に就いたサルマン国王はすでにサウジの国政の相当部分を息子に任せている状態だ。 ビン・サルマン皇太子はサウジの長い慣行を破って王位序列1位になった人物だ。サウジは兄弟間の王位継承が原則だったが、サルマン国王はこうした王位継承序列を破って息子を皇太子とした。(中略)

ビン・サルマンは国王の3人目の妻から得た6人目の息子であり、王座とは距離が遠かった。王室の後継者の一人にすぎなかったビン・サルマンは留学をした他の兄弟と違ってサウジで大学を卒業し、いつも国王のそばにいた。またいくつかの事業で頭角を現し、父の信頼を得たという。 

◆ホテル監禁、粛清…国庫に1070億ドル還収
特にビン・サルマンは王位継承有力者を順に粛清しながら自身の地位を固めた。ビン・サルマンは皇太子となった2017年、王室の有力者数十人を不正・公権力乱用などの容疑でホテルに監禁した。そして財産献納の約束と忠誠誓約を受けた後に解放した。「宮中クーデター」と呼ばれたこの粛清は2019年初めまで続いた。 

ビン・サルマン皇太子が財産献納約束を受けて国庫に還収した金額は1070億ドル(約16兆7000億円)。この時期からビン・サルマン皇太子は何でもできる「ミスターエブリシン」と呼ばれた。

2020年にもビン・サルマン皇太子はサルマン国王の弟アフメド・ビン・アブドル・アジズら王家の3人が「反逆謀議」をしたとして逮捕した。ビン・サルマンの叔父といとこの3人は王位継承の大きな障害だった。

ビン・サルマン皇太子の慈悲のない粛清に国際社会の目は厳しかったが、サルマン国王は息子に大規模な国家建設事業を任せるなど力を与えようとした。皇太子の「粛清」に国王が目をつぶったという評価もある。英ガーディアンによると、皇太子が発付した王室有力者逮捕状に直接署名したのもサルマン国王だ。 

これに先立ち2022年、サルマン国王は伝統的に国王が務めてきた首相に皇太子を任命するなど自身の死後に備えて息子に権力を集中させてきた。ロイター通信は、高齢者のサルマン国王が自身が生きている間に息子の王位継承作業に着手したと分析した。 

ビン・サルマン皇太子は2018年、米経済雑誌フォーブスが選定した「世界で最も影響力のある人物トップ10」に入って注目された。ビン・サルマン皇太子の財産は約2兆ドルと推算される。【5月22日 中央日報】
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ドイツ  支持が拡大した極右AfD 相次ぐスキャンダルで党勢に陰りも EU離脱主張

2024-05-25 23:33:06 | 欧州情勢

(スキャンダルが相次いでいるAfD筆頭候補者マクシミリアン・クラー氏
そのスキャンダルの真相や発言内容はともかく、民族衣装の綺麗なお姉ちゃんに旗持たせて颯爽と・・・という感覚は、いかにも・・・という感も。 ドイツのリベラルな政権与党に批判的な保守の立場の川口マーン恵美氏も「世間にはたまに、自分が男であるだけで威張っている人間がいるが、氏の言動にはしばしばその傾向がある。」とも)

【6月欧州議会選挙で拡大が予想されている極右政党】
6月に、欧州連合理事会とともにEUの立法府にあたる欧州議会の選挙が行われます。

****欧州議会****
直接選挙で選出される欧州連合の組織。欧州連合の機関において欧州連合理事会とともに両院制の立法府を形成している。

現在では、多くの分野で、共同決定手続が適用され、理事会と欧州議会の双方が同意することが必要になっており、決定権は理事会にあるという分野は限定的になっている。(中略)

欧州議会は立法権を持つものの、ほとんどの国内議会とは違って法案提出権を持たない。またごく一部の例外を除いて、立法や予算の決定と監督に関する権限を理事会との間で共有している。

そして欧州連合の政策執行機関である欧州委員会は欧州議会に対して説明義務があり、とくに欧州議会は欧州委員会人事案や欧州委員会委員長の選任について拒否権を持ち、また欧州委員会を総辞職させることができる。
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今回の欧州議会選挙では極右勢力の躍進がかねてから予想されています。

****なぜ欧州議会選挙で極右の躍進が予想されているのか****
国際協調による負担が有権者の不満を蓄積

6月の欧州議会選挙を前に、EU加盟国の多くでは、現政権が支持を落とす一方、極右勢力が台頭。この背景には、生活苦を中心とした不満の高まり。消費者が体感する豊かさはコロナ前を下回る水準。こうした生活苦は、現政権による以下3点の国際協調的な政策に起因する面もあることから、市民は自国民優先の主張への支持を強めている状況。

第1に、移民の急増。現政権が寛容に対応してきたコロナ明けの移民労働者の増加は賃上げ圧力の緩和に作用した一方、不法移民の増加も招いており、社会的な軋轢が増大。極右勢力は移民への社会福祉の提供を批判するなど、生活苦の責任を移民に求める風潮を形成。

第2に、気候変動対策。ドイツでは暖房設備に再生可能エネルギー利用が義務付けられるなど、経済的負担の重さが気候対策疲れを引き起こしている可能性。

欧州投資銀行(EIB)の調査によると、前回選挙時の2019年にEU市民は「気候変動」を最大の困難として挙げていたものの、2023年には「生活費上昇」を重視する回答者が急増。

第3に、ウクライナ支援。ロシア制裁やウクライナ支援にもかかわらず、情勢変化は乏しく、対外的な支援がむしろ加盟国の経済情勢や財政を厳しくしているとの見方も。

とりわけ、2022年6月以降、EUはウクライナからの輸入品への関税を停止したことで、安価な同国産農作物の輸入が急増。EU内の農家は自国優先の対応を求め、抗議活動を実施するなど不満が拡大。【5月22日 藤本一輝 日本総研】
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【ドイツ 極右AfD躍進 進む社会の分断】
EUの中核ドイツにあっては極右AfD(「ドイツのための選択肢」)が支持を拡大してきました。
ドイツでは社会の分断が進んでおり、AfD躍進は分断の原因でもあり、また、分断を受けての結果でもあるでしょう。

****ドイツで政治家標的の暴行事件急増、背景に社会の分断****
ドイツでは今年に入って、政治家を標的にした暴行事件が急増している。専門家はポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭や、ソーシャルメディアの普及による社会の分断が背景にあると指摘する。

欧州議会選挙と地方議会選挙に向けて選挙戦が進む中、わずか1週間で政治家を狙った暴行事件が3件も発生した。
ドイツ東部ドレスデンでは3日、与党・社会民主党(SPD)所属のマティアス・エッケ欧州議会議員がポスターを貼っていたところ、黒ずくめの集団に殴られて重症を負い、手術を受けた。ノルトホルンでは男が議員に卵を投げつけて顔を殴り、ベルリンでは上院議員がカバンで殴られた。

投票を控えて緊張が高まるのはいつものことだが、政党関係者やアナリストの間からは、何か変化が起きているとの声が出ている。連邦刑事庁の発表によると、身体的傷害を伴う襲撃事件が急増しており、2023年通年の27件に対して今年は既に22件に上る。

ソーシャルメディアによるあおりを受けた対立のエスカレート、ポピュリストによる分断や「口撃」で、選挙戦は殺伐としたムードになっている。

デュッセルドルフ大学の政治学者シュテファン・マルシャル氏は「感情的な二極化が起きており、反対勢力は『敵』に位置付けられている」と述べた。(中略)

政党別で最も被害件数が多い連立与党、緑の党は、党員による昨年の被害報告が1219件と19年から7倍に急増。次に多いのは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の478件、3番目がSPDの420件。

SPDや緑の党など与党政党の関係者は、雰囲気が険悪になって対立が激化したのはAfDによる過激な論調のせいだと非難する。

緑の党の欧州議会議員であるニクラス・ニーナス氏は「公の場で『彼らを追い詰めよう』と放言する政治家がいると、言葉が行動を形成してしまう」と述べた。AfDの前党首アレクサンダー・ガウラント氏は17年の演説で、当時のメルケル首相を追い詰めると発言した。 ニーナス氏は小児性愛者、犯罪者といった言葉を投げつけられているという。

一方、AfDはこうした批判を全面的に否定。共同党首のアリス・ワイデル氏は先週、襲撃事件を政治的利益のために利用しようとする試みは「卑劣かつ無責任」であり、AfDの政治家やメンバーも頻繁に襲撃を受けていると反論した。(後略)【5月13日 ロイター】
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****「外国人は出て行け」人種差別的な歌に非難 ドイツ****
ドイツ北部のリゾート、ジルト島でパーティーの参加者が人種差別的な歌を歌う動画がソーシャルメディアで拡散し、国内で激しい批判を浴びている。オラフ・ショルツ首相も24日、「不快だ」と非難した。

動画では、若者グループがバーのテラス席で、人気のダンス曲に合わせて「ドイツはドイツ人のためのもの。外国人は出て行け」と歌っている。 若者の一人が、禁止されているナチス・ドイツ式の敬礼のようなポーズを取っているのも確認できる。

ショルツ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「こうしたスローガンは不快であり、容認できない」と非難した。
ナンシー・フェーザー内相も独メディアグループ「フンケ」のインタビューで、「ドイツの恥」だと非難し、人種差別の「常態化が忍び寄っている」と警鐘を鳴らした。

警察は、カンペンの町のバーで週末に起きたとみられるこの件について捜査していると明らかにした。 【5月25日 AFP】
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【極右勢力へ抵抗・反発も強まる 相次ぐスキャンダルでAfDの党勢に陰り】
ただ、さすがに極右勢力への抵抗感も強く、AfDの勢いは直近では衰えも見せています。

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AfDの支持率は、2023年中頃に連立与党である社会民主党(SPD)と同盟90/緑の党(B90/Gr)を抜き、最大野党である中道右派のキリスト教民主同盟・同社会同盟(Union)に次ぐ2位にまで躍進した。

AfDは、オラフ・ショルツ政権による積極的な気候変動対策や、寛容な移民・難民政策に対して不満を高める有権者の「受け皿」として支持を集めてきた。しかし2024年の年明けに、AfDの幹部が移民の排斥を謀議したとの疑惑が浮上したことを受けて支持率が急落し、SPDに支持率2位の座を譲ることになった。

とはいえ、AfDは旧東ドイツを中心に支持を集めており、地方議会でも一定の勢力を築いている。2025年10月までに予定されている次回のドイツの総選挙では、それが主に比例代表制(正しくは比例代表制を主に小選挙区制の要素を加味した小選挙区比例代表併用制)で行われるため、AfDは議席を増やし、国政への影響力を強めよう。【5月24日 土田陽介氏 JBpress】
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“AfDの幹部が移民の排斥を謀議したとの疑惑”は激しい社会的反発を生みました。

****ドイツの「移民追放計画」に全国デモ 欧州で極右への警戒強まる****
ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部らが移民の大規模な排斥を謀議したとの疑惑が波紋を呼んでいる。AfDに対する抗議集会が全土で実施され、数十万人が参加。与党からAfDの党活動禁止を求める声も上がった。

フランスでも極右政党の意向を反映した移民法に反対するデモが発生。6月の欧州議会選を前に右派の台頭への警戒が強まっている。

「人種差別にNOを」
ドイツ全土で20、21両日に実施された抗議集会にはAfDや極右を批判するプラカードを掲げた市民が集まった。20日には各地で計30万人以上が結集。21日にベルリンで開かれた集会には最大で10万人が参加した。26、27日にもフランクフルトやデュッセルドルフでそれぞれ数千人がデモを行い「国内で過去最大規模の抗議活動」(欧州メディア)と報じられた。

きっかけは独調査報道団体による10日の報道だ。報道によると、昨年11月に東部ポツダムでAfDのワイデル共同党首の側近ら約20人が出席する会合が開かれた。参加した右翼活動家が移民や難民のほか、市民権があっても出身地や肌の色が異なる「同化していない国民」を追放する計画を発表した。最大200万人の追放者を北アフリカに住まわせる案も話し合われた。

AfDは「会合は党が主催したものではない」と釈明したが、報道された計画はユダヤ人をマダガスカル島に移送するナチス・ドイツの計画を連想させるとして批判が噴出。

ショルツ首相は27日、ユダヤ人ら110万人以上が虐殺されたアウシュビッツ強制収容所がソ連軍による解放から79年を迎えたことを受け「右派のポピュリストが(今も)台頭し、恐怖をあおり、憎悪をまき散らしている」と非難した。

人種差別的な計画は独憲法に反しており、ショルツ氏率いる中道左派「社会民主党」の議員がAfDの活動禁止を求めた。

与党などが警戒を強める背景には、AfDの急速な躍進がある。移民排斥を掲げるAfDは2013年に結成後、経済低迷や急増する移民への不満の受け皿として支持を広げた。

謀議の報道後も、AfDは世論調査の支持率で連立与党3党を抜き、2位を維持する。昨年12月の独東部の市長選ではAfDの候補者が初当選。今年の旧東ドイツ3州の州議会選ではいずれも第1党となる公算が大きい。

ワイデル氏は、AfDが政権に就いた場合、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の実施を目指すと明言。シリア難民流入など欧州を襲った危機の克服でかじ取り役になったドイツが、EUを不安定化させる恐れが生じている。

フランスでも昨年12月、極右「国民連合」の賛成を得て新移民法が成立。外国人労働者の社会保障の条件を厳格化するなど移民への厳しい内容が盛り込まれた。2万人以上の市民が今月21日、「(極右の)死の口づけで可決された」(仏紙)同法の廃止を求めるデモをパリなどで行った。【1月29日 産経】
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その後もAfDへの警戒感は根強く、EUのフォンデアライエン欧州委員長は「祖国を独裁者に売り渡している」と批判しています。

****「ドイツを独裁者に売り渡している」 欧州委員長、極右政党AfDを非難****
欧州連合のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は8日、6月の欧州議会選を前にスキャンダルが相次いでいるドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」を「祖国を独裁者に売り渡している」と非難した。続投を目指すフォンデアライエン氏は、元ドイツ国防相。

AfDをめぐっては先月、欧州議会選の同党筆頭候補、マクシミリアン・クラー議員の側近が、中国のためにスパイ活動をしていた疑いで逮捕された。クラー議員自身も過去に、ロシアのプロパガンダ疑惑に巻き込まれたことがある。

フォンデアライエン氏は、自身が所属するドイツの保守政党「キリスト教民主同盟」の党大会でAfDについて、「振る舞いは極めて不誠実だ」「欧州議会選を前に、(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンのためにプロパガンダを広め、中国のためにスパイ活動をしている」と非難。

「AfDはまず国民と祖国について騒ぎ立て、今度は祖国を独裁者に売り渡している。自らを恥じるべきだ」

さらに、AfDの欧州議会選での公約は雇用を破壊すると指摘し、AfDはドイツのEU離脱を軽率に論じているとも批判した。

6月の欧州議会選では、AfDを含む欧州各国の極右政党が議席を伸ばすとみられている。
反移民を掲げるAfDは昨年、支持率を大きく伸ばし、オラフ・ショルツ首相が所属する中道左派与党、社会民主党を抜き、CDUに次ぐ2位に浮上した。だが、相次ぐスキャンダルを受け、支持率は低下している。 【5月9日AFP】
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“相次ぐスキャンダル”・・・これをAfDの本性があらわれたもの、あるいは、“身から出たさび”と見るか、逆に、AfD以外の政治勢力が寄ってたかってAfDを潰しにかかっていると見るかは立場にもよります。

“欧州議会選のAfD筆頭候補、マクシミリアン・クラー議員の側近が、中国のためにスパイ活動をしていた疑いで逮捕された”事件についても、逮捕された側近は、かねて中国側スパイであると同時に、二重スパイとして中国側情報をドイツ当局に渡すことも企てており、当局側はその存在を以前から十分に把握し、監視していた人物とか。

そうした人物がなぜAfD筆頭候補になり得て、なぜ選挙直前の今逮捕されたのか・・・・AfD以外の政治勢力が“AfD潰し”に出ている結果だ・・・とする指摘もあるようです。
(5月3日 川口マーン恵美氏 “ドイツ政府が「AfD潰し」に王手か…!? 欧州議会選挙直前にAfDの筆頭候補者事務所で「中国スパイ」が逮捕され” 現代ビジネス)

AfDは潜在的な過激派政党と扱われていますが、司法もこれを是認しています。

****極右AfDの「潜在的過激派」分類は相当、独高裁が下位審支持****
ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を潜在的な過激派政党と国内情報機関が認定していることの是非を問う裁判で、ミュンスターの高等裁判所は13日、認定は相応であり、憲法、欧州や国内の民法に違反していないという下級審の2022年の判決を支持する決定を下した。

情報機関の連邦憲法擁護庁(BfV)は、AfDを21年から潜在的な過激派政党に分類している。

高裁は「AfDが特定の集団の人間の尊厳や民主主義に反する目標を追求しているという十分な証拠がある」と指摘した。

フェーザー内相は「判決は、民主主義が自らを守ることが可能なことを示した」と述べた。AfDは、詳細を明らかにせず、BfVに対する批判の一部を裁判所が認めたと述べ、上訴する方針を示した。

AfDは、今年選挙を実施する東部のいくつかの州で高い支持率を得ているが、党員の人種差別的発言などで最近、厳しい目が向けられている。【5月13日 ロイター】
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【右翼欧州議会会派からも追放】
AfDにとって痛手は、他の欧州各国の極右政党グループからも、そのナチス擁護体質を批判され、会派から追放されたこと。

*****欧州議会会派がドイツ右派を追放 ナチス親衛隊擁護発言、収賄容疑****
フランスの極右政党、国民連合(RN)などで構成する欧州連合(EU)欧州議会の会派「アイデンティティーと民主主義」は23日、ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の議員団の追放を決めたと発表した。ナチス親衛隊(SS)出身者を擁護するような発言をするなど、AfD議員の相次ぐスキャンダルが理由。

会派は6月の欧州議会選で躍進が予想されていたが、亀裂が浮き彫りになった。

スキャンダルが相次いでいるのはAfDのクラー欧州議員。SSに所属していた人が犯罪者とは限らないとメディアに語り、RNが強く反発。AfDを排除する姿勢を鮮明にしていた。

ドイツの検察は、ロシアと中国から資金を受け取ったとする収賄容疑でクラー氏の予備捜査を開始。同氏のスタッフも中国のためにスパイ活動をした疑いで拘束されている。【5月24日 共同】
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【党勢陰りをカバーすべく強めているのがEU離脱の主張】
相次ぐスキャンダルで党勢の勢いに陰りもでてきたAfDが最近主張を強めているのがEUからの離脱。

****GDPで日本を抜いたドイツで浮上し始めたEU離脱の現実味****
経済合理性を凌駕する政治の理屈、英国に続く離脱は二度起きるか

ドイツの極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)の共同党首の発言が物議を醸している。同党が2025年の総選挙で政権を奪取した場合、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票を実施するという発言だ。

ドイツがEUを離脱すれば、EU単一市場を離脱することになるため、EU加盟国との間の貿易取引に関して免除されていた通関業務が発生する。ユーロ放棄による独自通貨の導入もドイツ経済を強く圧迫するだろう。

EU離脱は、EUに不満を抱える有権者に向けた強いメッセージ。AfDのような民族主義政党によって、EU離脱は定期的に蒸し返される主張となるだろう。(中略)

ワイデル共同党首がEU離脱の是非を問う国民投票の実施を謳った背景には、AfDの支持率の低下があると考えられる。(中略)

政治の理屈は、時として経済的な合理性を凌駕する。そのことを体現したのが、英国のEU離脱だった。(後略)【5月24日 土田陽介氏 JBpress】
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ジョージア  ロシアに宥和的な与党 ロシア同様「外国の代理人(スパイ)」法案可決を強行

2024-05-24 23:42:22 | 欧州情勢

(ジョージアと欧州連合(EU)の旗を身にまとって警官と対峙するデモ参加者=14日【5月15日 CNN】)

【与党「ジョージアの夢」 表向き“親欧米路線であり、EU加盟を目標とする”とされるが反欧米・対ロシア宥和路線が目立つ】
ロシア系分離独立地域南オセチアとアブハジアを抱える旧ソ連のグルジア(現在の国名はジョージア)とロシアの関係は、多くの旧ソ連構成国同様に微妙です。

この国が国際的に注目されたのは、2008年に起きたロシアとの軍事衝突でした。

プーチン首相(当時)が北京オリンピック開会式に出席していた8月(メドヴェージェフ大統領は休暇中)、ジョージア側の暴発気味の行動で始まった戦争でしたが、(待ち構えていた)ロシアは親ロシア系住民を守る目的でロシア系分離独立地域南オセチアとアブハジアに軍を投入し圧勝、ジョージア(グルジア)は完敗。「5日間戦争」の別称が示すように超短期で終わりました。

おそらくウクライナ侵攻を企てたプーチン大統領の頭の中には、この2008年の成功体験があったのではないでしょうか。

ジョージアにとって、この戦争によってロシアとの関係はますます重要・複雑なものになっています。

上記2008年のロシア・グルジア戦争を引き起こしたサアカシュヴィリ大統領(当時)の「統一国民運動」を破り、政権を獲得した現在の与党「ジョージアの夢」は、表向き“親欧米路線であり、EU加盟を目標とする”とされながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政策をとっています。

その“親欧米路線”の方は、かなり色褪せてきているようにも。

*****与党「ジョージアの夢」と欧米の関係*****
2022年、欧州連合加盟を申請したウクライナ、ジョージア、モルドバのうち、ジョージアのみ報道の自由など人権上の問題を理由に加盟候補入りを留保されたこと、欧州連合が拘束力のない決議ながらこれらの問題の解決を求めたこと、そして(実質的オーナーである大富豪)イヴァニシヴィリ初代党首の制裁を欧州理事会に求めたことなどに「ジョージアの夢」は反発。

さらに、西側諸国のNGOがジョージア政府への抗議活動を行ったことを受け、スバリら9名の議員は戦術上の相違を理由にグルジアの夢を離党して「人民の力」を結成。(中略)

同党はアメリカなどの「グルジアへの干渉」を非難するとともに「ジョージアの夢」と政策上連携しており、2023年に一度撤回した外国のエージェント登録法案を2024年に共同で提出して5月15日に成立させ[14]、国民の反発を招いている【ウィキペディア】
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“親欧米路線”というよりは、欧米との刺々しい関係の方がめだちます。

【23年に抗議行動を受けていったん撤回された「外国人代理人」法案】
そうした反欧米的な感情がしみ込んだ“国外から20%以上の資金提供を受けている団体に外国の代理人としての登録を義務付け、未登録の団体には多額の罰金を科す「外国の代理人」に関する法案”(ロシアにもそっくりの法律があり、政権に敵対的なNGO弾圧に活用されています)は、2023年3月に一度撤回されました。

****ジョージア与党、「外国人代理人」法案を撤回 抗議デモ受け****
旧ソ連構成国ジョージアの与党は9日、2日間にわたる激しい抗議デモを引き起こした「外国の代理人」に関する法案を撤回すると発表した。

与党「ジョージアの夢」は声明で、社会における「対立」を緩和する必要があるとして、同法案を無条件で取り下げると表明した。その一方で、「過激な野党」が法案について「うそ」を広めたと非難した。

同法案は国外から20%以上の資金提供を受けている団体に外国の代理人としての登録を義務付け、未登録の団体には多額の罰金を科す内容だった。

欧州連合(EU)の代表団は法案の撤回を歓迎し「ジョージアの全ての政治指導者が包括的かつ建設的な方法で親EU路線の改革を再開するよう働きかける」とツイッターに投稿した。

ジョージア議会は7日に法案可決の第1段階のプロセスを終えたが、反発する多数の市民が議会の外に集まり一部が警察と激しく衝突した。治安当局によると77人が拘束された。【2023年3月9日 ロイター】
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反対派は、この法案が2012年にロシアで制定され言論弾圧に使用された法律に類似していると批判。将来的な目標であるEU加盟が遠のくと懸念していました。

【今年4月 与党再提出 抗議を振り切って可決 大統領は拒否権行使も議会で覆すことが可能】
2023年5月、ウクライナとロシアの戦争のさなか、ジョージアはロシア行き直行便の再開を許可。これにウクライナは激しく反発しましたが、ロシア・プーチン大統領は・・・

****プーチン氏、ジョージアでの反ロデモに「頭がおかしい」****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は26日、同国とジョージア間の直行便の再開を受けてジョージアで反ロシアデモが起きたことに驚かされたと述べた。

ジョージアの首都トビリシの空港には先週、2019年以来初めてロシアからの直行便が着陸した。しかし、空港前では数十人が抗議デモを実施。「お呼びでない」「ロシアはテロ国家」と書かれたプラカードを掲げた。

プーチン氏はテレビ中継された財界人との会合で、「正直に言って、この反応には非常に驚かされた」「皆に『ありがとう、いいね』と言われると思っていたが、この件をめぐる騒ぎは理解し難い」「ここから見ると、彼らは頭がおかしいとしか思えない」と語った。

ロシアは2008年、ジョージアに軍事介入し、親ロシア派地域の南オセチアとアブハジアの「独立」を承認した。このためジョージアでは反ロシア感情が今も根強い。 【2023年5月27日 AFP】AFPBB News
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そして今年4月、「外国人代理人」法案の第2ラウンド。政府は「外国の代理人」の呼称を「外国の利益のため活動する組織」と修正して議会に再提出。

*****ジョージアで「反スパイ法案」巡り再び抗議デモ 「ロシア化」を危惧 治安部隊と衝突****
欧州連合(EU)加盟を目指す旧ソ連構成国、ジョージア(グルジア)の議会で4月30日、スパイ活動の抑止を名目とした「外国の影響の透明性に関する法案」の第2読会(3段階審議の2番目)が始まった。首都トビリシでは同日、法案に反対する国民が第1読会の際に続いて抗議デモを実施。治安部隊が放水や催涙ガスを使った鎮圧に乗り出した。タス通信などが伝えた。

SNS(交流サイト)には、治安部隊がデモ隊に暴力を振るう様子を撮影したとする動画が投稿された。

法案は、外国から資金提供を受けて活動する団体を事実上のスパイとみなして当局への財務報告を義務付け、違反した場合は2万5千ラリ(約147万円)の罰金を科すとする内容。4月上旬にコバヒゼ政権の与党「ジョージアの夢」が議会に提出していた。

ただ、類似の法律「外国の代理人法」が施行されているロシアでは、プーチン政権側が反体制派勢力や人権団体、独立系メディアなどを弾圧するための道具として同法を活用。ジョージアの法案に対しては、米国やEUも「人権侵害や言論の自由の悪化につながる」と可決に反対している。

このためデモ隊は、与党がロシアのように法律を恣意(しい)的に運用し、政治弾圧に使う恐れがあると反発。「EU加盟が遠のく」とも主張してきた。

一方、与党は「法案は外国勢力の活動を監視するために不可欠で、EUとジョージアをむしろ近づける」と反論。欧米の批判やデモ隊の主張には根拠がないとして法案を断固成立させる構えで、4月17日の第1読会で法案を可決した。

ジョージアの夢は親欧米派政党だが、ロシアとの対立回避も重視。野党勢力からは「親露的」「強権的」だと批判されてきた。【5月1日 産経】
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法案は5月14日に可決されました。

*****ジョージア議会で“スパイ法案”可決 議場で乱闘、大規模デモも*****
旧ソ連のジョージア議会で14日、外国から資金提供を受ける団体を事実上「スパイ」とみなす法案が可決されました。議場で乱闘が起きたほか、大規模な抗議デモも行われました。

ジョージア議会で可決された「外国の代理人」法案は、外国から資金提供を受けている団体を事実上「スパイ」とみなして規制するもので、ロシアでも同様の法律が市民の抑圧に使われていることから、「ロシア法」などと呼ばれ批判されています。

ロシアメディアによりますと、法案は14日、与党「ジョージアの夢」などの賛成多数で可決しましたが、議場では野党議員との間でもみ合いとなりました。また、法案に反対するデモ隊が集まり、議会への突入を試みるなど激しい抗議デモに発展しました。

法案はズラビシビリ大統領の署名によって成立しますが、大統領は「EU=ヨーロッパ連合加盟への道を閉ざす」として拒否権の行使を表明していて、混乱が続いています。【5月15日 日テレNEWS】
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ズラビシビリ大統領は拒否権を行使していますが、議会は過半数の賛成で拒否権を覆すことができます。

****ジョージアでスパイ法案に拒否権 親EUのズラビシビリ大統領****
旧ソ連ジョージア(グルジア)のズラビシビリ大統領は18日、外国から資金提供を受ける団体を事実上スパイと見なす法案に拒否権を発動したと明らかにした。タス通信が伝えた。議会は過半数の賛成で拒否権を覆すことができる。
 
ズラビシビリ氏は親欧州連合(EU)の立場。議会が14日採択した法案はロシアのプーチン政権が反対派排除に使う法律に類似しているとして、野党側は抗議デモを継続。ジョージアが加盟を目指すEUや米国も懸念を示している。

法案は予算の20%以上を外国の資金に頼る組織やメディアを法務省に登録させる内容。【5月19日 共同】
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ズラビシビリ大統領はブリーフィングで「私は今日、ロシアの法律に拒否権を発動した。この法律は本質的にも精神的にもロシア的なものだ」とした上で「わが国の憲法と欧州の全規範に反するものであり、わが国の欧州への道を阻むものである」と主張しました。

【背後には、与党創設者であるイヴァニシヴィリ氏の、更にはロシア・プーチン大統領の思惑も】
一連の動きを見ると、与党「ジョージアの夢」こそがロシアの代理人ではないか・・・とも思えます。

*****【裏でロシアが手を引いている?】ジョージア新法案へ大規模デモ、プーチンがEU加盟阻止を図る地政学的理由*****
ジョージアは、ロシアと同様の「外国の代理人」を取り締まる法案を推進し、5月14日同法案を可決した。首都トビリシでは抗議運動が大規模なデモに発展している。

法案が審議入りした際の4月17日付けワシントン・ポスト紙は、国内で大きな反発が生じていることを報じるとともに、同国の欧州連合(EU)加盟の障害となるのではないかと指摘する解説記事‘Georgia pushes Russian-style ‘foreign agent’ law, putting E.U. bid at risk’を掲載している。概要は次の通り。

ジョージアの法案にロシアのプーチン大統領の関与はあるのか?(代表撮影/AP/アフロ)
ジョージアの議会は、4月17日、非常に異論の多い「外国の代理人」を取り締まる法案を前進させた。この法案は、ロシアにおいて、政治的反対勢力をつぶすために用いられてきた法律と同様の内容のものである。

ジョージアでは、この法案は、大規模の街頭デモと非難を引き起こしたが、サロメ・ズラビシヴィリ大統領も同法案を非難している一人である。同大統領は、ジョージアの議会と政府を支配している政党「ジョージアの夢」には所属していない。

ズラビシヴィリ大統領をはじめとする同法案の批判者は、この法案自体、ロシアが背後にいて、外国の介入の手段となるものであり、ジョージアが申請しているEU加盟を困難にさせる狙いのものだとしている。「国民の意思に反してこの法案を進めようとすること自体が直接の挑発であり、ジョージアを不安定化させるロシアの戦略だ」と同大統領はXに投稿した。

同法案が成立すると、資金の20%以上を外国から得ている非政府機関、活動家集団、メディアは「外国の代理人」として登録することを求められる。ロシアにおいては、同様の法律により、多くの政治的な反対派が迫害され、メディア、人権団体が閉鎖に追い込まれた。それには、2022年のノーベル平和賞を受賞した人権団体「メモリアル」も含まれる。
 
ジョージア政府は、同法案はジョージアの政治から外国の影響力を排除するために必要だと主張している。一方、同法案については、親露派のオリガルヒであり、元首相で与党「ジョージアの夢」の実際上の指導者であるビジナ・イヴァニシヴィリの方針によって、政府がロシアの勢力圏に逆戻りしつつあり、EU加盟の計画を壊そうとしていることの現れではないかとの懸念が持たれている。

ジョージアは、昨年、EU加盟候補国の地位を得たが、ブリュッセルでは、ジョージアが民主化に逆行するのではないかとの懸念がある。
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(論評)
大国間競争の中でのジョージアの存在
 ロシア・ウクライナ戦争が進行する中、その先の地域情勢を考えると、ジョージアは、バルト三国、モルドバなどとともに要注目の国である。(中略)

プーチンの西側への姿勢の変化をもたらしたのは、北大西洋条約機構(NATO)拡大、ミサイル防衛もさることながら、いくつかの旧ソ連諸国における、いわゆるカラー革命の影響が大きいと思われる。  

特に、03年のジョージアのバラ革命、04年のウクライナのオレンジ革命によって、国境を接する隣国において、民衆の街頭行動によって政権が倒され、親西欧の政権が誕生したことは、プーチンに深刻な危機感を呼び起こしたであろう。  

それだけに、ウクライナとジョージアのNATO加盟を阻止することは、プーチンにとっては至上命題となった。08年、それが議題となったブカレストで開催されたNATO首脳会議には、プーチンが自ら赴き、反対論をぶった。
 
賛否両論がぶつかり合った結果、同首脳会議の共同声明は「いつ」「どのように」は棚上げした上で、ウクライナとジョージアは「将来加盟国となるであろう」と記す玉虫色の決着となった。NATO加盟を目指したジョージアは不満であったが、これを阻止しようとしたロシアも不満であった。ロシア・ジョージア戦争が勃発したのはその4カ月後のことであった。

続く欧州とロシアとの複雑な関係
ジョージアはロシア・ジョージア戦争で敗北し、ロシアは「凍結された紛争」の南オセチアとアブハジアの独立を承認した。

ジョージアでは、南オセチアに攻め込むことでロシアに介入の機会を与えたサーカシュヴィリ大統領が率いた「統一国民運動」は12年に政権を失い、政党「ジョージアの夢」が政権の座に就いた。「ジョージアの夢」は、ロシアと関係の深いオルガルヒのビジナ・イヴァニシヴィリが創設した政党である。  

ジョージアでは、一方では欧米への接近、他方ではロシアとの宥和という二つの力学が複雑にぶつかり合っている。08年の戦争以来、ロシアとの外交関係は断絶しており、国民の多くが親欧米路線を支持している。

「ジョージアの夢」の下、ジョージアはEUとNATOへの加盟を目指す一方で、ウクライナ侵攻についての制裁などの対応においては、ロシアを刺激しすぎないように注意を払ってきている。  

そうした中での今回の「外国の代理人」法の可決である。ジョージアでは、同法の背後に「ジョージアの夢」の創設者であるイヴァニシヴィリの影を見ての懸念が持たれている。すなわち、同法は、ロシアへの宥和でありEU加盟を挫折させようとする試みであるとの懸念であり、民主主義の圧殺に繋がるとの懸念である。  

ジョージアでは、今年10月に総選挙を控えている。「ジョージアの夢」においては、前記の対ロシア関係、対EU関係からの考慮に加え、選挙戦を有利にしたいとの考慮も働いているのであろう。  

NGO、メディアなどの影響力を考えると、外国からの資金は、政権与党の行動を監視する方向に使われることが多いと考えられる。

ジョージアは、12年に総選挙によって政権交代が行われた国であるが、「外国の代理人」法の可決は、同国で民主主義が実質的に機能し続けるのかどうかに大きく関わるものとして注視される。【5月22日 WEDGE】
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旧ソ連の国ではロシアに対する感情は微妙です。ロシア語を使い、ロシアに協調的な国民もいます。また、ロシアへの恐怖からロシアを刺激することを回避する国民もいます。

今年10月に行われる総選挙で、「ジョージアの夢」の対ロシア宥和路線が国民によってどのように評価されるのか。
ただ、2020年10月31日の総選挙では野党勢力は選挙不正があったと主張し、11月21日の第2回目投票をボイコットしたといった経緯もありますので、「公正な選挙」が行われるのかも注目されるところです。
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タイ政治  上院改選を控えて混乱の予兆か 上院グループがセター首相の解任を憲法裁に求める

2024-05-23 22:40:39 | 東南アジア

(セター首相 【5月23日 日経】)

タイで上院改選が行われることは、5月11日ブログ“タイ 6月に上院改選 改選内容・改選後の動きに対する軍部の対応は? 混乱の可能性も”で取り上げました。

従来は選挙による公選制であった上院議員は、2007年憲法で一部に上院議員選出委員会による「選出」が取り入れられ、軍事政権下の2017年憲法では、完全に非公選となり、下記のような方法で選出されることになっています。

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被選挙権を有する者はすべて行政,司法,農民,産業,公衆衛生,女性,高齢者・障害者などの10のグループに分けられ,いずれかのグループから誰でも立候補することが認められる。

選出は,各グループの代表から選出された候補者の互選による。つまり候補者が自分以外の者に投票することによって選出される。

まず郡レベルで候補者のなかから選出が行われ,各郡で選出された者のなかから県レベルの候補者が選出される。最終的には,全国レベルで上院議員200人が選出されるというものである【2020年 JETRO 今泉慎也氏 「タイ2019年総選挙 : 軍事政権の統括と新政権の展望」】
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ただし、現在の上院議員は経過措置的に軍部が選出した者が任命された形で、軍の意向を代弁する形で議会での首相指名選挙に参加し、実質的に軍部の政治支配の装置ともなっています。

それが、6月に初めて上記のような2017年憲法規定による候補者間の互選による選出が行われることになっています。

軍事政権が定めた憲法による国民の直接の選挙によらない形であるにしても、経過措置としての現在の上院に比べると、必ずしも軍の意向に沿う者が選出される保証はないこと、かつ、新たな上院は首相指名選挙には加わらないことで、軍の上院・政治への影響力は薄まります。

可能性としては、現在親軍勢力との大連立で政権を形成しているタクシン支持派の「タイ貢献党」が、革新的な「前進党」と組んで(解党命令が出ていなければの話ですが)、軍を排除した政権を樹立することも可能になります。

そうした上院の改正は2017年憲法制定を主導した軍部も承知のことですので、軍も一応上院改選に関しては規定どおり粛々と臨むのだろうかとも思っていましたが、話はやはりそう簡単ではないようです。

親軍勢力は国民の大きな支持は得られず、タクシン派は依然として大きな力を持ち、何よりも王制改革を掲げるような革新的な前進党が急拡大した・・・といった現状は、2017年当時に軍事政権が想定していたものとは大きく異なるものだったでしょう。

****タイ憲法裁、セター首相の解任求める上院議員らの申し立て受理****
タイの憲法裁判所は23日、倫理規定違反を理由にセター首相の解任を求める上院議員グループの申し立てを受理した。ただ、判断が出るまで、首相の職務遂行を認めた。
憲法裁は声明で、同首相が先月の内閣改造で犯罪歴のあるピチット氏を閣僚に任命したことは、憲法の倫理基準に対する重大な違反だと主張する上院議員40人による訴えの審理を行うと発表した。

首相解職の申し立ては6対3で受理され、5対4でその間の職務停止への反対が決まった。

ピチット氏は首相府相に任命されたが、同氏にそうしたポストに就くため必要な資格がなかったと上院議員グループは主張。ピチット氏は21日に辞任し、セター首相を法的トラブルに巻き込みたくないと表明。辞任により、ピチット氏は審理の対象にはならないと憲法裁は説明している。【5月23日 Bloomberg】
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“ピチット氏は、タクシン元首相が関与したラチャダー土地事件の公判中に、現金200万バーツが入ったバッグを賄賂として裁判所の事務官に引き渡したとして、懲役6カ月の有罪判決を受けています”【5月23日 タイニュース クロスボンバー】

セター首相はタクシン派のタイ貢献党に所属しています。

犯罪歴のあるピチット氏を閣僚に任命したことで、セター首相の解任を求める、いささか無理筋の訴えのように思えますが、憲法裁はこれまで軍部の意向を受けた判断をしてきていますので・・・・

親軍勢力がどこまで本気でセター首相の“首”を狙っているのかはしりませんが、こうした動きの背景には冒頭の「6月上院改選」があるとのことです。

“6月の上院議員選挙を前に政権内の勢力争いが激しくなっており、判決次第で政情が混乱する可能性がある。”【5月23日 日経】

親軍勢力としては、タイ貢献党・セター首相に圧力をかけることで、今後の動きを牽制した・・・ということでしょうか。

ただ、仮にセター首相が失職しても、タイ貢献党にはタクシン元首相の次女ペートンタン・シナワット氏という本命首相候補がいますので、致命傷にはならないようにも思えます。

もっとも、前述の革新的な「前進党」と組んで軍を排除した政権樹立ということでは、前進党が解党されそうな状況(憲法裁判所が審理中)なので難しいところも。

来月の上院改選の前後、タイ政治には大きな混乱もありそうな状況です。

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台湾  頼清徳氏が新総統就任 “ねじれ”議会は大荒れ 「独立派」と警戒する中国 “秋波”も

2024-05-22 19:45:51 | 東アジア

(台湾・立法院の勢力【5月21日 産経】 第3政党の台湾民衆党がキャスチングボートを握る様相)

【荒れる「ねじれ国会」】
台湾では5月20日に民進党・頼清徳氏が新総統に就任しましたが、野党側が多数を握る議会では大荒れの状況です。

****女性議員にタックル 床に叩きつけられる男性議員も… 台湾議会で激しい乱闘 6人ケガ****
女性議員に襲いかかり、押し倒す男性議員。議場の入口は大勢の人で人波をかき分けることも出来ず、よじ登って強引に中に入った男性議員は転がるように机に落ち、そのまま頭から床に叩きつけられた。

台湾の国会にあたる立法院は現在、野党・国民党が最大会派となる「ねじれ」の状態で、国民党主導の議会改革法案の採決を、与党・民進党の議員が力ずくで止めようとして乱闘に発展した。

1月の総統選で当選した民進党の頼清徳氏は5月20日、総統に就任したが、少数与党として厳しい政権運営になることは避けられず、波乱の船出となる。【5月20日 ABEMA Times】
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最大野党・国民党と民衆党が立法院の権限強化を目的に提出した法案が目下の混乱の火種のようですが、過半数を下回る与党・民進党としては阻止のためには“体をはる”しかないのが苦しいところです。

****議会の改革法案めぐり与野党の対立が激化 新総統が就任した台湾で****
新たな総統が就任した台湾では国会に相当する立法院で、議会の改革法案をめぐり、与野党の対立が激化しています。こうした中、40を超える市民団体が立法院を取り囲むなど混乱が広がっています。

最大野党・国民党と民衆党が立法院の権限強化を目的に提出した法案には、答弁者の反問などを禁じる「議会侮辱罪」を刑法に加えることや、総統に対し、定期的に立法院での報告と質疑に応じることを求める内容が盛り込まれています。

国民党と民衆党が強行採決しようとしたため、与党・民進党と衝突し、17日には乱闘も起き、立法委員6人がけがをしました。

さらに民進党は法案について、「審議が不十分」だとして議事日程の先送りを求めましたが、民進党は現在、過半数割れとなっていて、過半数を上回る野党側に反対され否決。 逆に野党側は会期を延長するよう求め、賛成多数で可決されました。

こうした中、夜にはおよそ40の市民団体が野党側への抗議のため、立法院を取り囲みました。 台湾メディアによると、最大3万人の人が参加したということです。

20日に就任したばかりの民進党の頼清徳新総統ですが、議会では主導権を野党に握られ、厳しいスタートとなりそうです。【5月22日 TBS NEWS DIG】
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こうした状況は選挙で“ねじれ国会”になることが確定した段階から予測はされていました。

****台湾・立法委員選、与党・民進党が過半数割れ…16年ぶり「ねじれ」で政治不安定化の可能性*****
13日の台湾総統選と同時に行われた立法委員(国会議員、定数113)選で、与党・民進党は過半数を獲得できなかった。国民党が立法院(国会)の第1党となり、少数与党に転落して「ねじれ」状態となる民進党は、予算案や法案の審議で野党に抵抗され、政治が不安定化する可能性がある。

民進党は前回(2020年)と前々回(16年)の立法委員選では過半数を獲得。議会第1党として盤石な政治体制を敷き、 蔡英文ツァイインウェン 総統の政権運営は安定した。ねじれ議会となるのは、00~08年の陳水●政権以来、16年ぶりとなる。(●は「編」のつくり) 

頼清徳ライチンドォー 副総統は今回、「総統と副総統はハンドルを握る運転手で、立法院はエンジンだ」とし、総統当選と立法院の過半数確保の両方を目指す方針を示していた。

だが、内政の課題に適切に対応できていないとの批判を受け、党が関係する不正や不祥事も相次いだことから、厳しい戦いを強いられた。現有の62議席から大きく減らし、過半数(57議席)にも届かなかった。

国民党は、22年11月の統一地方選で大勝していた。今回の立法委員選では激戦区や民進党が地盤とする選挙区で、若手候補者を中心に接戦を繰り広げた。政策立案能力を高めるため、軍事や少子化問題、生成AI(人工知能)など、幅広い分野の専門家を擁立した。

第3政党の台湾民衆党も、現有5議席を8議席に伸ばし、キャスチングボートを握ることになる。政権与党側の政策や法案などに是々非々で対応していくとみられる。国民党は選挙中から民衆党に協力を呼びかけており、選挙後も駆け引きが続くと予想される。【1月14日 読売】
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【議会では国民党など野党が過半数という現実を日本も直視する必要も】
新総統就任式に日本からは過去最大規模31名の国会議員(自民党や立憲民主党など超党派の国会議員で作る「日華議員懇談会」のメンバー)が出席したように、日本では親日的で中国と厳しく対峙する民進党が人気がありますが、議会では半数以上を中国に融和的ともされる国民党など野党側が占めているという事実を受け止めて対応していく必要もありそうです。

*****中国の強硬姿勢が〝台湾人の意識〟変えた 頼総統就任「民進党=親米、親日、反中」「国民党=親中、反日」の二元論では見誤る****
台湾で昨日(20日)、頼清徳総統の就任式が開かれました。中国の台湾へのアプローチを見るにつけ思うのが、このイソップ童話のタイトルです。今回も総統就任式に向けて、さまざまなメッセージが出されました。

中国で台湾政策を主管する国務院(政府)台湾事務弁公室の陳斌華報道官は15日の記者会見で、台湾独立派を取り締まる法的措置を導入すると明言しました。陳氏はまた、中国を中傷する情報を拡散したとして、台湾のコメンテーターら5人と家族に制裁を科す方針も打ち出しました。

1月の台湾総統選直後から、台湾の離島、金門島周辺での民間船の臨検などの圧力を加え、「独立」を言えば武力行使も辞さないという強硬な主張も繰り返す。いずれも十年一日のごとき定型文です。

一方、台湾の馬英九前総統が先月訪中した際は、習近平国家主席が会談に応じました。「中台の融和」をアピールしたものと言われます。

こうして、「親中派」に秋波を送りながら、現状維持を訴える人まで含めて敵対視する姿勢が台湾社会にどういった影響を与えたのか。結果はむしろ逆方向です。

台湾の国立政治大学選挙研究センターが昨年12月に公表した世論調査によると、自分を「台湾人」と思うか、「中国人」か、または「両方」かを尋ねる質問に対し、「台湾人」が61・7%、「両方」が32・0%、「中国人」はわずか2・4%でした。調査が始まった1992年は「台湾人」が17・6%でしたから、遠心力が働いていることが分かります。

先の総統選でも、台湾の人々は「穏当な中道」を求め、日本の国会議員にあたる立法委員選挙では、与党の民進党も、最大野党の国民党も過半数を割るという絶妙に微妙な民意を見せました。

投票直前は、国民党有利とすら言われていましたが、馬前総統がメディアでも過度な「親中発言」をし、一説にはそれで50万票を失ったともいわれます。まさに、ひいきの引き倒し。「中道」「現状維持」を求める世論をつかみきれなかったわけです。

では、日本側はどうか。
日本国内のイメージでは、「民進党=親米、親日、反中」「国民党=親中、反日」というような二元論がありますが、これでは見誤ります。

前述の立法委員選挙で民進党は負けたわけですが、現地を取材すると人々の関心は「経済」でした。われわれは、今後も政権がどう変わろうとも現状維持を続け、「民主」「自由」「法の支配」が続く台湾である限りにおいては、惜しみなく協力していくことが大事になるでしょう。

折しも先週、国民党の蒋万安・台北市長が来日しました。「将来の国民党を背負って立つ」といわれる人物だけに大歓迎すべしと思っていたので、自民党の麻生太郎副総裁が会談したのは良かったと思います。

民進党をひいきするあまり、台湾全体を引き倒してしまわないように。中国の振る舞いを「以て他山の石とすべし」。日中の古い格言が思い出されました。【5月22日 飯田浩司氏 夕刊フジ】
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【「現状維持」を前面に出す頼新総統を「台湾独立派」として警戒する中国】
かつては独立志向的発言も目立った(そのため、アメリカなども当初は不安視していたところもある)頼清徳新総統は就任演説では「現状維持」を前面に出して安全運転ですが、中国の主張する「一つの中国」に組しない対応も見せています。

****台湾・頼清徳新総統就任 演説で中国との関係「現状維持」訴える****
台湾の新たな総統に就任した頼清徳氏は演説で、緊張関係にある中国との関係について「卑下せず、おごらず、現状を維持する」と強調しました。現地から中継でお伝えします。(中略)

中国との関係については「卑下せず、おごらず、現状を維持する」と強調し、中国に対して、圧力をかけるのをやめるよう求めています。

頼清徳新総統 「私は中国に対し、台湾への威嚇を取りやめ、台湾と共に世界の責任を負い、台湾海峡や地域の平和と安定の維持に力を注ぎ、世界が戦争の恐怖から免れるのを確保するよう呼びかけたい」

演説では対話の姿勢も強調していますが、一方で「中国はまだ台湾に対する武力行使の可能性を放棄を放棄していない」と警戒する姿勢もうかがわせています。

中国は「一つの中国」を認めることを対話の前提にしていて、今回の頼新総統の演説を受けて、圧力を緩めたり、対話を再開したりするような変化はないものとみられます。【5月20日 TBS NEWS DIG】
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当然のように中国側は厳しい反応。

****中国外相が台湾の頼新総統を名指しで非難 「民族と祖先に背く恥ずべき行為」****
中国の王毅(おう・き)共産党政治局員兼外相は21日、台湾の総統に就任した頼清徳氏について「民族と祖先に背く恥ずべき行為」をしていると名指しで非難した。中国外務省が同日発表した。改めて頼氏を「台湾独立」派とみなして、対話を拒む構えを示した形だ。(後略)【5月21日 産経】
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****中国政府「台湾独立は死にいたる一本道だ」 台湾・新総統に頼清徳氏の就任を受け****
台湾の新たな総統に頼清徳氏が就任したことを受け、中国政府は「独立は死にいたる一本道」だとの強い表現でけん制しています。

中国外務省 汪文斌 報道官 「強調するが、台湾独立は死にいたる一本道だ」

中国外務省の報道官は、台湾の頼清徳総統の就任式が行われた後の会見で「台湾独立は死にいたる一本道」という強い表現を用いました。

そのうえで「どのような看板や旗印を掲げて、台湾独立を推進しても失敗するに決まっている」として、独立勢力とみなす頼新総統をけん制しています。【5月20日 TBS NEWS DIG】
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【一方で台湾取り込みのためいろんな「秋波」を送る中国】
一方で、中国から台湾への「秋波」はいろんな方面で。

****中国が対台湾規制緩和を相次ぎ発表、台湾側識者の見解さまざま―地元メディア****
中国は福建省の住民による観光目的での台湾への渡航や台湾産ブンタンの条件付き輸入解禁を相次いで発表した。台湾メディアは中国側の規制緩和策について「台湾側の専門家らからはさまざま見解が出ている」と報じた。

台湾・中央通信社によると、対中関係をめぐっては対中融和路線の野党・国民党の立法委員(国会議員)17人が4月26日から28日までの日程で訪中していた。

中国の文化・旅遊部は28日、福建省住民による離島・馬祖への旅行を再開させると国民党の訪問団に伝達。中国海関総署(税関)も同日、検疫の基準をクリアした台湾産ブンタンなどの農水産物の輸入を認める方針を発表した。

中国の政治・経済勢力への抵抗などについて考えるシンクタンク、台湾経済民主連合の許冠沢副秘書長は取材に「中国は台湾に対して経済的圧力を加え続けている」と指摘。局所的に遮断して経済的つながりを切り離すというやり方を先に取った後で、「一つの中国」に関する「92年コンセンサス」に賛同する人の仲介を通じて改めて規制を解禁することで「『一つの中国』を受け入れてこそ甘い蜜が吸える」とのメッセージを発している」との見方を示した。

一方、両岸(台湾と中国)の経済・貿易交流を推進する海峡両岸経貿文化交流協会の鄧岱賢秘書長は、中国が台湾に向けて発表した措置は「一種の善意」とみなすことができると語った。鄧氏は「関係を改善するためには双方の善意が必要だ」とし、「中国が一歩歩み寄ったからには台湾の政府の関係部門もそれに応えることが期待される」との考えを示した。

また、5月20日の頼清徳・新総統就任を前に中国がこのメッセージを発出したことは「新政権にとっては好転の機会になる。もし台湾政府が何かしらの応答をすれば、北京もその善意を理解することができ、両岸関係改善の契機になる」との見解を明らかにした。【5月3日 レコードチャイナ】
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「一種の善意」・・・“毒まんじゅう”という言葉もありますが・・・

****台湾・頼清徳新総統あす就任へ 中国との緊張続く中「家賃3分の1」で台湾からの移住促す優遇措置も****
(中略)
台湾の対岸にある中国福建省福州市。ここでテコンドー道場を経営する陳燕亭さんは、6年前に台湾から移住しました。自分の道場をもつのが夢でしたが、台湾で良い場所が見つからず、中国で道場を開きました。

台湾から中国に移住 陳燕亭さん 「いま二つの道場があって、80人くらいの子どもが通っています」
陳さんは道場を共同経営している友人と市内で暮らしています。

台湾から中国に移住 陳燕亭さん 「中国に来て成長できたと思います。市場は大きくて競争力も高いです。ここで働けば、今まで学べなかったことを学ぶことが出来ます」

ただ、台中関係の緊張が日常生活に影響することもあるといいます。
台湾から中国に移住 陳燕亭さん 「果物、魚が(輸入規制で)入ってきません」

中国政府は台湾の民進党政権を「独立勢力」と見なし、軍事面や貿易面などで圧力を強める一方で「経済・社会の融合的発展」を掲げ、「平和的統一」を目指す動きも続けています。

その一つが移住の促進です。2人が暮らすマンションは台湾からの移住者専用で、ある「優遇措置」が受けられるといいます。
台湾から中国に移住 陳燕亭さん 「家賃は相場の3分の1くらいです」

ほかにも、福州市では、18歳から45歳までの移住者は起業する際に補助金を受け取ることができます。

また、移住希望者に住居や仕事などを紹介するため、福建省をはじめ、中国各地に80か所近く設けられているのが「海峡両岸青年創業基地」です。この基地では、7年間で100人以上の支援を行ったということです。

ミン台家園台湾青年創新創業基地 李宛芯 執行長 「ここを通じて、より多くの台湾の若い人たちに福建省のことを知ってもらうことです」

福建省は台湾統一に向け、去年9月、移住者のための「モデル地区」を設置すると発表。
また、融和的な姿勢を示すためか、台湾をテーマにした商業エリアも省内に作りました。特産品や土産物を扱う免税店もありますが、日曜にもかかわらず、ほとんど客がいません。政府と市民の温度差も感じられました。(後略)【5月19日 TBS NEWS DIG】
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「一国二制度」を簡単に反故にされた香港の現状を見れば、中国側の「一つの中国」に同調するのは自殺的とも思えますが、「そうは言っても、食べていかなければ・・・」という話もありますし、同じ中華系民族としての思いは日本人とはまた違うものなのかも。
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