孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア  コロナ不況下での増税発表を機に抗議行動 暴力的な取り締まりへの反発で混乱拡大

2021-05-30 21:58:18 | ラテンアメリカ

(コロンビア・カリで行われた反政府デモの様子(2021年5月10日撮影)【5月12日 AFP】)

 

南米コロンビアでは、新型コロナによって経済が悪化し、財政状況が悪化した政府は増税を発表、これに反発する市民が抗議行動を展開、その抗議行動を鎮圧するために当局が激しい暴力を行使、市民は更に反発を強め・・・というある種“ありがち”な混乱が4月末から続いています。

 

****コロナ不況深刻のコロンビア、デモで24人死亡 税制改定引き金****

「コロナ不況」が深刻な南米コロンビア各地で格差の是正を求める反政府デモが続いている。抗議活動は5日で8日連続となり、これまでにデモ隊と治安当局との衝突などで24人が死亡した。国際社会が当局による暴力的な取り締まりに懸念を深める中、デモが沈静化する兆しはみえない。

 

首都ボゴタの大通りで5日、多数の市民が「政府を変えろ」と連呼した。平和的な訴えがほとんどだが、一部グループが暴徒化し当局と衝突。当局は催涙ガスを発射するなどし、抑え込みを図った。この日は中部メデジンや西部カリなど主要都市でも抗議活動があり、各地の道路が封鎖された。

 

デモは4月28日に始まった。新型コロナウイルス対策の支出で財政が悪化する政府が、消費税引き上げを含む税制改定を打ち出したことが引き金となった。

 

2020年の経済成長率がマイナス6・8%に落ち込む中、政府は税収増加分を貧困層対策に回すと説明したが、国民が反発した。

 

政府は5月3日、税制改定の撤回を発表し、カラスキジャ財務相が辞任する事態に追い込まれた。だが、その後も貧困の解消や医療・教育制度の改善、当局の暴力中止など幅広い要求を掲げた抗議活動が続く。

 

地元メディアによると、デモに絡み当局の暴行を受けるなどして24人が亡くなり、89人が行方不明になった。デモ参加者に対する政府の強硬姿勢にデモ隊は不信感を強めている。

 

国連人権高等弁務官事務所は4日、「警察の発砲を深く懸念する」との声明を出し、強硬な取り締まりの中止を求めた。米国務省のポーター副報道官も「公権力に最大限の抑制を求める」と述べた一方、「暴力と破壊行為は権利の乱用」だと、暴力的なデモ隊のグループを問題視した。

 

コロンビア政府は平和的なデモに寛容な態度を示しつつ、左翼ゲリラや麻薬組織の後押しを受けた武装集団が紛れ込み、デモを混乱させていると主張する。【5月6日 毎日】

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もともとコロンビアは2017年に武装解除したコロンビア革命軍(FARC)が政府軍と激しい抗争を続けていたほか、左翼ゲリラ組織、民間武装組織や麻薬密輸組織が跋扈するなど、世界的に見ても暴力的犯罪が非常に多い国ですので、そうした「暴力」に関する「温床」が政府・国民双方にあるようにも思えます。

 

****コロンビアで反政府デモ、死者も多数 背景に何が?****

南米コロンビアで、2週間にわたって反政府デモが続いている。首都ボゴタでは、デモ参加者が複数の警察施設を襲撃した。

 

クラウディア・ロペス市長は暴力行為は「受け入れられない」と述べ、コロンビア国軍に警備支援を依頼した。

これまでに、警官1人を含む少なくとも24人が一連の抗議で亡くなっている。国連は治安部隊に対し、銃火器の使用を控えるよう訴えている。

 

コロンビアのオンブズマンによると、少なくとも11人の死亡に警察が絡んでいる。また、これまでに警察との衝突で800人以上が負傷したほか、80人以上が行方不明になっているという。

 

ボゴタ市によると、スペイン語でCAIと呼ばれる警察施設25カ所が襲撃された。CAIは、緊急出動用に街中に設置されている、1〜2部屋ほどの交番を指す。

 

ロペス市長は、警官15人が中にいたCAIに火がつけられたが、死人は出なかったと話した。また、警官が銃撃されたりナイフで襲われたりしたケースもあると述べた。

 

5日には、ボゴタ市内で夜間に起きた暴動で、市民30人と警官16人が負傷した。また、南部カリでは最大規模の暴動が起きた。

 

人々はなぜ抗議している?

デモは4月28日、政府が経済危機脱却のために打ち出した税制改革に反対する形で起こった。(中略)

 

イヴァン・ドゥケ大統領は2日、この改革案を取り下げると発表したが、抗議の波が収まることはなかった。抗議の対象は年金や保健、教育システムなどにもおよんでいるほか、治安部隊による過剰な暴力行為にも非難の声が上がっている。

 

カリでは何が起きた?

コロンビア第3の都市カリでは、抗議活動が始まって以来、最大の暴力行為が報告されている。道路は封鎖され、多くの警察施設や公共施設、個人所有の建物などが襲撃を受けている。また、警察を支援するため軍隊が派遣されている。

 

国連の人権高等弁務官事務所は4日、前日に「警察が抗議参加者に発砲した」として、カリでの暴力行為に「深い懸念」を示した。

 

現地コミュニティーのリーダーを務めるヴィン・レイエスさんはBBCムンドの取材で、デモの最中に「覆面警官と兵士が半自動小銃やライフルを発砲した」と説明。「デモには母親や子供もいた」と話した。

 

一方で専門家からは、カリでの緊張には別の要因があるとの声もある。この地域は長年、民間武装組織や麻薬密輸業者による紛争に巻き込まれており、コロンビア国内でも特に暴力の多い街だという。また、この地域に武器が多いことを指摘する専門家もいる。

 

人権専門家のカセリン・アギレさんは、「暴力縮小を求める市民団体もあるが、家の中から発砲する市民グループもある。街に流れ込む武器のせいで人々の用心深さに拍車がかかっている」と話した。

 

政府の見解は?

コロンビア政府は、左翼の反政府組織が暴力を起こしていると非難している。また、反政府組織「民族解放軍(ELN)」のメンバーに付きまとわれていると述べた。ELNは、2017年に武装解除したコロンビア革命軍(FARC)の分派で、政府との和平に合意していない。

 

ディエゴ・モラノ国防相は、「一連の暴力は組織的で、犯罪組織の指導と資金援助を受けている」と述べた。

警察も、窃盗や放火といった「犯罪要素」を防ごうとした警官が襲撃されるケースが多いと話している。

 

こうした中でドゥケ大統領は、政府は国全体と対話する用意があると発言。「市民の声を聞き、解決策を築いていく場所」を創設すると発表した。

 

コロンビアの反政府運動で死者が出るのは今回が初めてではない。昨年9月には、ボゴタ市で警官にテイザー銃を向けられた男性が死亡した事件への抗議で、7人が殺害されている。【5月6日 BBC】

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上記記事にもあるコロンビア第3の都市カリを中心に、未だ混乱は拡大しており、犠牲者も59人にのぼっています。

 

****コロンビア第3の都市で衝突、反政府デモの死者59人に****

コロンビア第3の都市カリで28日夜、反政府デモの市民と警察が衝突し、少なくとも13人が死亡した。一連の抗議行動による死者は少なくとも59人になった。政府は29日、軍をカリに派遣し、治安対策を強化した。

 

28日の衝突を受け、人口約220万人のカリでは通りから市民の姿がほぼ消えた。バリケードの残骸やがれきの山から上る煙が、激しい衝突だったことをうかがわせている。

 

コロンビアでは、イバン・ドゥケ政権に対する抗議行動が1か月以上続いている。カリでは、コロンビアの他地域と同様に、貧困とコロナ禍によって人々の間に怒りや恨みが広がっている。

 

当局によると、一連の抗議行動による死者は、カリでの13人を含めて少なくも59人に上った。国防省は、負傷者は民間人と警察官などを合わせて2300人を超えたとしている。

 

抗議デモがより大きな反体制運動へと姿を変えている中、28日からカリにいるイバン・ドゥケ大統領は、警察を支援するためカリなどに軍を派遣していると述べた。

 

経済学者らによると、コロンビアでは総人口約5000万人の42%以上が貧困に苦しんでいる。もともと経済的に弱い立場にあった人の多くが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)によって厳しい貧困に陥った。

 

4月28日、増税案に怒った人々が路上に出てデモを始めた。増税案はすぐに撤回されたものの、これを機に大勢の人がデモに参加するようになった。治安部隊による強硬な対応にもかかわらず、抗議行動の勢いは増し続けている。 【5月30日 AFP】

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混乱がここまで拡大したのは、前述のように「暴力」が身近にある環境という問題、そうした状況での治安当局の強権的低湿もありますが、基本的には多くの貧困層が存在し、その貧困層がコロナ禍で大きな犠牲を強いられているところにあります。

 

コロナ禍が非対称的に貧困層により厳しい負担・犠牲を強いることは常々言われるところです。

 

貧困層の場合、リモートなどのコロナ対策が難しい職種が多く、より大きな危険にさらされます。

また、コロナ対応としての経済規制はたくわえの無い貧困層にとっては、コロナ感染以上に死活的な問題ともなります。

 

日本のような国では「当たり前」のように言われる“自粛”も、貧困層の犠牲のもとでの自粛可能な富裕層・中間層の価値観の押しつけにもなるという側面も。

 

コロンビアでは、そうした犠牲を強いられる貧困層の怒りが、消費税増税の発表で爆発、更に治安当局の“暴力”で拡大しているようにも。

 

新型コロナは中国語で“新型冠状病毒肺炎”、略して“冠”

「苛政は冠よりも猛し」といったところか。

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過去の歴史への向き合い方 フランのルワンダ、ドイツのナミビア、オランダの国内奴隷制の問題

2021-05-29 22:45:17 | 欧州情勢

(ルワンダを訪問した仏マクロン大統領 【5月27日 TRT】)

 

【仏マクロン大統領 「フランスは大虐殺を行った体制側にあった。謙虚に私たちの責任を認める」】

どこの国も、自国が過去に犯したと責められている事柄に向き合い、その批判を認めて謝罪するというの難しいこと。弁明しようと思えば、いろんな論点がありますので。事実関係の認識も立場が違えば異なるものにもなります。

最終的には、「心」の問題でしょう。

 

ここ2,3日、たまたまでしょうが、そういう話題が三つほど重なりましたので、今日はそれらを取り上げます。

 

最初は、ルワンダの「ジェノサイド」に関与したとされるフランス。

アフリカ・ルワンダでは1994年4月、政府の実権を握るフツ族によるツチ族虐殺が行われ、正確な犠牲者数は明らかとなっていませんが、およそ50万人から100万人の間、すなわちルワンダ全国民の10%から20%の間と推測されています。

 

その当時のフツ族政権と密接な関係にあったのフランスです。

この件は、2016年4月28日ブログ“ルワンダ  大虐殺から22年 多くの服役囚が刑期を終えて釈放予定 被害者・加害者はどう向き合う?”でも取り上げました。下記はそのときの記事の再録です。

 

++++++++++++++++++++++++【以下 2016年4月28日ブログからの再録】

【大虐殺関与をめぐってフランス・ルワンダ両国は依然対立】
国内的にはツチ・フツの対立に封印をしようとしているカガメ政権ですが、大虐殺当時のフツ系政権と親密な関係にあったフランスに対しては、フランス軍が大虐殺に関与したとして、その責任を追及しています。

一方、フランス側は、2010年にはサルコジ大統領がルワンダを訪問し「ここで起こった忌まわしい犯罪を防ぎ、止めることができなかったという過ちについて、フランスを含む国際社会は反省をまぬがれない」と述べ、虐殺前のルワンダに大きな影響力を持っていたフランスが大虐殺を防止できなかったという「甚だしい判断の誤りを犯した」ことは認めましたが、大虐殺への関与は認めず、謝罪も行っていません。

このサルコジ訪問で政治的決着がなされたのかと思いましたが、その後も大虐殺関与をめぐってルワンダ・フランスは対立は続いています。カガメ大統領はフランスを許してはいないようです。

一昨年は、カガメ大統領のフランス批判に対し、フランス側は、ルワンダ首都キガリで行われた虐殺20年の追悼式典への閣僚参加を中止するなどギクシャクしています。

****ルワンダ大虐殺へのフランス軍関与疑惑、当時の司令官が否定****
アフリカ中部ルワンダで1994年に起きたジェノサイド(大量虐殺)をめぐってフランス軍の関与が疑われている問題で、当時現地に展開していた仏軍の司令官だった退役将軍が証言し、フランス側の対応を擁護したことが7日、明らかになった。

フランス軍は94年4月、多数派フツ)人が主導する政権下で3か月間に少数派ツチ人を中心に80万人が犠牲となった大虐殺が始まる数日前に、国連主導の作戦でルワンダに部隊を展開していた。

当時フランスはフツ人主導の民族主義政権と同盟関係にあったことから、ルワンダのポール・カガメ大統領はフランス政府が大虐殺に加担したと繰り返し非難している。
 
情報筋が7日に明かしたところによると、国連主導のターコイズ作戦を当時率いていた仏軍のジャンクロード・ラフルカード将軍(72)は、94年6月にルワンダ西部ビセセロの丘でフツ人がツチ人を殺りくするのを放置したとの主張をめぐり、証言に立った。
 
この事件では生存者らが、仏軍部隊は6月27日にビセセロに戻ると約束したにもかかわらず3日後まで戻ってこず、その間に数百人のツチ人が虐殺されたと主張し、2005年にフランス国内で訴訟を起こしている。
 
情報筋によれば、ラフルカード将軍は訴追対象ではなく、いつでも参考人招致に応じる証人の1人として、1月12日と14日に行われた長時間の審理で証言。フランス軍の兵士がフツ人の過激派たちに武器を提供したとの疑惑について、「全くの作り話」だと改めて否定した。
 ラ
フルカード将軍は「ターコイズ作戦の下で、武器弾薬をフツ人に提供した事実はない。弾丸1発さえもだ。仏軍兵士のいた場所では、虐殺も虐待も一切起きなかった」と述べるとともに、大虐殺の実態が明らかになるには時間がかかったと主張。

「フランスも国際社会も、地元民や政府当局の関与を全般的に過小評価していた」と説明し、ビセセロへの到着が遅れたのは部隊が120~130人と少人数だったうえ、西部キブエから尼僧たちを避難させる作戦を優先して遂行していたためだと弁明した。【2月8日 AFP】
**********************  

+++++++++++++++++++++++【以上 2016年4月28日ブログからの再録】

 

この問題でフランス・マクロン大統領は謝罪はしないものの、フランスの責任を認め、ルワンダ・カガメ大統領もこれを了承したようです。

 

****ルワンダ虐殺でフランスの責任認める マクロン大統領、謝罪はせず****

フランスのマクロン大統領は27日、訪問先のルワンダで演説し、約80万人が死亡した1994年のルワンダ虐殺で、フランスの責任を認めた。両国間で四半世紀続いた対立の解消を目指した。

 

マクロン氏は、犠牲者を弔うキガリ虐殺記念館で演説した。当時の仏政府はルワンダで「虐殺を進めた政権」を支援し、警告に耳を貸さなかったと振り返り、「フランスはルワンダで政治的責任を負う。歴史を直視し、ルワンダの人たちに与えた苦しみを認めねばならない」と発言した。

 

一方で、「フランスは共犯者ではなかった」として謝罪はしなかった。当時、ルワンダに人道介入していた仏軍が虐殺を止められなかったことについても、「兵士の名誉は傷つけられない」と述べるにとどめた。

 

マクロン氏の演説について、ルワンダのカガメ大統領は記者会見で、「彼の言葉は謝罪より、価値がある。真実を語った」と歓迎した。

 

ルワンダ虐殺は、多数派民族フツの政府や軍が、少数民族ツチの抹殺を狙った事件。94年4月、フツのハビャリマナ大統領が乗った飛行機が撃墜されたことが引き金になった。

 

フランスのミッテラン政権(当時)はハビャリマナ政権を支持していた。虐殺発生後は人道介入で仏軍を派遣。避難民の保護地域を設けながら、フツ民兵の蛮行を積極的に止めなかったという批判があった。

 

カガメ氏はかつて、ツチの反体制派指導者で、2000年に大統領に就任した。虐殺責任をめぐって両国関係は冷却化し、2006〜09年には国交断絶に発展した。

 

マクロン大統領は、関係改善に向け、ルワンダ虐殺をめぐる専門家委員会を設置。委員会は今年3月に報告書を発表し、ハビャリマナ大統領のツチ敵視政策を止めなかったフランスの責任を指摘した。【5月28日 産経】

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マクロン大統領も「共犯者ではない」としており、謝罪もしていないということで、その点では前出のサルコジ大統領の“大虐殺を防止できなかった誤り”を認める発言と同じですが、今回のマクロン大統領は一歩踏み込んで「(当時の)フランスは大虐殺を行った体制側にあった。謙虚に私たちの責任を認める」【5月28日 共同】とフランスの「責任」に明示的に言及しています。

 

また“明確な謝罪には踏み込まなかったが「私たちを許すことができる」のは大虐殺の生存者だけだと言及しており、事実上許しを請うた形。”【同上】ということで、その「心」を汲んだカガメ大統領も「彼の言葉は謝罪より価値がある。真実を語った」と評価したのでしょう。

 

【独外相 「われわれは今後これらの出来事を、現代の見方に基づき『ジェノサイド』と公式に呼ぶ」】

次はドイツ。

ドイツと言えば、ユダヤ人虐殺のホロコーストに関する謝罪が話題になりますが、今回はアフリカ南部の植民地ナミビア(当時に名称は「南西アフリカ」)での「歴史」に対する認識。

 

****ドイツ、植民地ナミビアでの「ジェノサイド」初めて認める****

ドイツ領時代のナミビアで、独軍兵士とみられる男性(右端)と鎖につながれた先住民(1904〜08年撮影)

 

ドイツは28日、植民地だったアフリカのナミビアで20世紀初頭に入植者らが犯した大量殺人について、自国によるジェノサイド(大量虐殺)だったと初めて認め、援助事業に11億ユーロ(約1470億円)規模の資金提供を行う方針を示した。

 

これを受けてナミビアは、ドイツがジェノサイドと認めたことは「正しい方向への一歩」だと歓迎した。

 

ドイツ人入植者らは1904〜08年、先住民のヘレロ人とナマ人数万人を殺害。歴史学者らはこれを、20世紀で最初に起きたジェノサイドとみており、問題は両国間に禍根を残した。

 

ドイツ政府はこれまで、入植者らによる残虐行為があったことは認めていたが、直接的な賠償は繰り返し拒んできた。

 

ハイコ・マース独外相は28日、声明で「われわれは今後これらの出来事を、現代の見方に基づき『ジェノサイド』と公式に呼ぶ」と発表した。

 

この「残虐行為」について、「ドイツの歴史的、倫理的責任を踏まえ、ナミビアと犠牲者の子孫に許しを請う」と述べた。

 

そして「犠牲者らが被った計り知れない苦しみを認識する証し」として、ドイツは11億ユーロ規模の経済援助事業を通じてナミビアの「復興と発展」を支援すると表明した。

 

今回の協議の関係筋によると、この資金提供は今後30年かけて行われる。主にへレロ人、ナマ人犠牲者の子孫の支援への充当が義務付けられるという。 【5月28日 AFP】

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****ヘレロ・ナマクア虐殺****

1904年1月12日、ドイツによる南部アフリカの侵攻により土地を追われた先住民族ヘレロ族サミュエル・マハレロの指揮の下、ドイツ人への無差別攻撃を開始した(ホッテントット蜂起)。

 

これに対してドイツは8月、ロタール・フォン・トロータ将軍の指揮でこれを破り、三方から包囲して、カラハリ砂漠に追い込み、英領ベチュアナランドを目指して脱出した途上で多くが渇きのために死んだ。ベチュアナランドに辿り着いたのは1000人以下だった。

 

10月にはナマクア族も蜂起したが同様の結果に終わった。

 

ドイツは先住民を強制収容所へ収容したり強制労働に従事させた。結果、戦後の人口統計からみて、約6万人のヘレロ族(全人口8万人のうち、80%)、1万人のナマクア族(全人口2万人のうち50%)が死亡した。ヘレロ族の死者数は2万4000人~最大10万人とする推計もある。

 

この虐殺の特徴は、1つは餓死であり、もう1つはナミブ砂漠に追いやられたヘレロ族とナマクア族の使用する井戸に毒を入れたことによる中毒死である。【ウィキペディア】

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今回のドイツの判断は2015年に始まった和解交渉を受けてのものです。

 

なお“ドイツは、第2次世界大戦中のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)被害者に対しては謝罪を繰り返し、個人補償を行ってきたが、旧植民地への正式な謝罪や補償・賠償は行ってこなかった。また、ユダヤ人以外の戦争被害への措置が不十分だとして、ポーランドやギリシャがドイツに賠償を請求する動きを見せている。”【5月28日 時事】

ということで、EU内部でギリシャ財政問題が起きたときも、ドイツのギリシャ放漫財政批判に対し、ギリシャ側からは賠償請求の議論が噴出しました。

 

【蘭国立美術館 「これは国の歴史なのです。私たち一人ひとりに関わる歴史です」】

三件目はオランダ。

 

****自国の暗部「奴隷制」 オランダ国立美術館で企画展****

展示されているのは、奴隷に罰としてはめられた鎖の足かせに、巨匠レンブラントによる奴隷制で財を築いたオランダ人夫妻の肖像画──。オランダのアムステルダム国立美術館で現在、「奴隷制」と題し、同国の植民地支配をめぐる暗い過去をテーマにした画期的な企画展が開かれている。

 

今月18日に開幕した展覧会は、オランダがスリナム、ブラジル、カリブ海諸国、アジア、南アフリカの奴隷制に関与した250年間を取り上げ、奴隷にされた人々や奴隷の所有者ら10人に焦点を当てている。

 

アムステルダム国立美術館の歴史部の責任者、ファリカ・スメールデルス氏は内覧会でAFPの取材に応じ、「これは国の歴史なのです。一部の少数の人々だけではなく、私たち一人ひとりに関わる歴史です」と語った。

 

■捕まって焼き殺された奴隷の話も

10人のうちの一人は、スリナムの農園の奴隷だったワリーさんだ。1707年の奴隷反乱に参加して逃亡したが、捕まって焼き殺された。

 

ワリーさんに関する話の音声ガイダンスを担当したのはオランダ出身のキックボクシングの元世界チャンピオン、レミー・ボンヤスキーさん。祖先は、同じ農園から逃亡したとされている。

 

展示作品にはこの他、アムステルダムの富豪オーピエン・コピットと夫のマーテン・ソールマンスの肖像画も。夫妻が1634年にレンブラントに依頼して描かせたもので、ソールマンス家はブラジルの奴隷農場による砂糖の精製で巨額の富を築いた。

 

オランダはこれまで、奴隷貿易で果たした同国の役割について公式に謝罪したことはない。だがマルク・ルッテ首相は昨年、「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」抗議運動が広がる中、同国で人種差別の問題が続いていることを認めた。

 

同展は、美術館や博物館に関する新型コロナウイルスの規制が解除され次第、一般公開されるが、当面はオンラインでの閲覧と、学校団体の見学のみ可能となっている。 【5月29日 AFP】

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元世界チャンピオン、レミー・ボンヤスキー氏の試合はTVで何度か観たことがありますが、そういう出自は知りませんでした。

 

上記は国立美術館で企画展で、国家としての謝罪云々ではありませんが、記事にもあるように、ルッテ首相は国内に残る人種差別問題を指摘しています。

 

オランダにおける奴隷制の名残をとどめるのがシンタクラース祭に欠かせない顔を黒塗りした黒人従者ズワルトピート。

(オランダにはクリスマスの聖人ニコラスの従者として、顔を黒塗りにしたブラック・ピートがいる。近年人種差別的だと否定する声が多かったが……【2020年12月23日 クーリエ・ジャポン】)

 

****ズワルトピート(黒人従者)に関するルッテ首相の見解一転?****

オランダにおける反人種差別デモに関する国会討論で、ルッテ首相はオランダの伝統行事であるシンタクラース祭に欠かせない黒人従者ズワルトピートに関する意見を発表した。

 

オランダの子どもたちにとってクリスマス以上に重要な行事「シンタクラース祭」。スペインから船に乗ってやってくるシンタクラース(聖ニコラス)は白い馬に乗り数人の黒人従者ズワルトピート(黒いピート)を従えている。子どもたちはこのお祭りの期間、毎日プレゼントを貰える。

2013年、国連がこのズワルトピートを人種差別だと批判するという事態が起き、オランダ国内で反ズワルトピート派と伝統を守りたい保持派が対立した。

 

一部の市町村では黒いピートを廃止し、顔を茶色に塗るなどの措置を取ってきた。これまでルッテ首相は伝統を守るという立場を通していたが、今回の米国の警官による黒人殺人事件とオランダにおける反人種差別デモに直面し、ズワルトピートがどれだけ人種差別を煽っているかを痛感したと延べた。

 

シンタクラース祭での黒人が辛い思いをすることをなくしたい。と首相はこれまでの立場を一転した。「数年後には顔を黒く塗ったピートは消え去るだろう。」と首相。ただし政府によるズワルトピートの廃絶や規制は考えていない。

オランダでの(構造的)人種差別は根が深く、税務署などの政府機関、労働市場、そして住宅市場でも公然と行われている。首相はこの差別の撤廃に乗り出すようだ。【2020年6月5日 ポートフォリオ・オランダニュース】

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台湾  ワクチン確保に苦慮 中国が独企業との契約妨害?

2021-05-27 23:36:55 | 東アジア

26日、台北市の民主進歩党本部で話す蔡英文総統【5月27日 SnkeiBiz】)

 

【蔡英文総統「中国の介入のために今も契約ができていない」】

これまで新型コロナ感染をほぼ完璧に封じ込めてきた台湾がここにきて感染拡大に見舞われていること、ワクチン確保が遅れていることが住民の不安を大きくしていること、そうした事態にあって中国がワクチンの提供を申し出て台湾に揺さぶりをかけていることについては、5月19日ブログ“台湾 コロナ防衛“優等生”で感染急拡大 不足するワクチン 揺さぶる中国 アメリカは?”で取り上げました。

 

新型コロナ防衛で支持率を大きく上げた蔡英文総統ですが、感染拡大・ワクチンパニックでその支持率が低下しています。

“蔡総統の支持率、45.7%に低下 2期目最低、コロナ拡大影響”【5月25日 毎日】

 

台湾は中国のワクチン提供に関し「偽善は必要ない」などと拒否。「中国政府が邪魔しなければ、国際社会からワクチンを購入できる」としていました。

 

今、台湾が言うところの「中国政府の邪魔」が大きく取り上げられています。

 

****台湾・蔡総統、中国のワクチン輸入妨害を指摘 「介入で契約できず」****

台湾の蔡英文総統は26日、新型コロナウイルスワクチンの輸入を中国当局に妨害されているとの認識を示した。与党・民進党の会合で、独ビオンテック社との間で一度はワクチンの購入で合意したものの、「中国の介入のために今も契約ができていない」と述べた。

 

ビオンテック社製のワクチンを巡っては、台湾でコロナ対策を統括する陳時中・衛生福利部長(衛生相)が2月、500万回分の契約が頓挫した理由として、中国の介入を示唆。中国側は、台湾が中国を中傷していると反発していた。

 

台湾メディアは、中国メーカー「上海復星医薬」がビオンテック社から台湾での販売代理権を取得したことが、中国当局の介入を招いたと報じた。

 

台湾では新型コロナの感染が急速に拡大し、ワクチンの確保が課題となっている。【5月26日 毎日】

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【台湾を標的にした中国ワクチン外交 台湾の自主開発路線】

この「中国政府の邪魔」「中国の介入のために今も契約ができていない」という問題は、後程もう少し詳しく見ていくことにして、中国側の対応について概観すると、かねてより推進してきた「ワクチン外交」が、台湾へのワクチン供与だけでなく、台湾と関係を持つ国々への働きかけという面でも効果をあげています。

 

一方の台湾は、アメリカからの支援を期待するのと同時に自主開発を進めているとのことです。

 

****台湾を「中国ワクチン」で揺さぶる習近平 自主開発に賭ける蔡英文****

台湾での新型コロナ拡大を受け、焦点に急浮上したのがワクチン不足の問題だ。中国製ワクチンの提供を呼びかけた習近平政権、対中依存を望まず自主開発と米国の支援に期待をかける蔡英文政権。ワクチンをめぐる駆け引きが、米中新冷戦と台湾の未来を睨みながら、激化している。(中略)

 

「重要な防疫物資は国産化」という方針

台湾は新型コロナ流行当初からワクチン自主開発の方針を明確に掲げていた。それは台湾なりの「自助」重視の考え方に基づく。(中略)

 

中国から常に強い圧力を受け、WHO(世界保健機関)にも参加できないなど、国際社会で孤立を強いられてきたゆえのサバイバル戦略であった。

 

昨年秋、台湾企業の「メディゲン・ワクチン・バイオロジクス(高端疫苗生物製剤)」と「UBIアジア(聯亜生技開発)」の2社に対してワクチン開発の許可を与え、現在、実用化に向けた治験が第2フェーズの最終段階に入っている。

 

従来の方針では第3フェーズが完了する今年夏以降の本格供給開始を想定しており、医療従事者や高齢者などについては、海外製造の輸入ワクチンで対応する方針だった。

 

ただ、台湾内の感染状況が落ち着いていたため、医療従事者も一般市民もワクチン接種の希望が低く、ワクチンの輸入にそこまで高い優先度を置いていなかったようだ。これまでに英アストラゼネカのワクチンが約70万本輸入されている程度で、接種率は1%程度にとどまっていた。

 

ところが、今回の感染拡大で状況が変わり、「疫苗荒(ワクチン不足パニック)」と呼ばれるほど世論の関心が一気に高まった。そのなかで、政府のワクチン入手の遅れを責める声も上がり始めている。

 

中国が各国に迫る「ワクチン or 台湾?」

そこにつけ込むように、中国政府は5月17日、「台湾の中での人為的な政治的障壁を取り除き、台湾同胞がワクチンを入手できるようにすることが不可欠だ」との声明を発した。「人為的な政治的障害」という言葉で、かねてから中国ワクチンを断っている蔡英文政権の姿勢を暗に批判し、揺さぶりをかけたのである。

 

中国では現在、5億回超のワクチン接種を国内で行い、人口の30%が受けた形になっている。海外にも35億回分のワクチンを輸出・援助しており、これは全体のワクチン製造の4割にあたる数量だ。

 

中国にとってワクチンは外交的な影響力拡大のための非常に大きな武器になっており、蔡英文政権への揺さぶりのチャンス到来と見ているようだ。台湾が国交を有する中南米のホンジュラスやパラグアイに対しても、ワクチン提供と交換条件で、台湾との国交断絶を含めた「代償」を求めているとされる。

 

この中国の動きに呼応する形で、対中関係の良好さを売りとする野党国民党の孫大仙立法委員は、「中国の製造するワクチンがWHOやCOVAXの認証も得ているのなら、台湾は中国から購入すればいいのではないか」「米国は台湾のワクチン取得を助けると言っているが、具体的にどんな行動があるのか」と批判を強めている。また、中国製ワクチンの受け入れを求める国民党系の地方首長も現れている。

 

強さを誇ってきた民進党政権の傷を広げ、1年半後の統一地方選や2 年半後の総統選挙につなげたいという狙いもある。

 

アメリカは台湾支援に乗り出すか

蔡英文総統も、ここでなんとかワクチンの入手を進めないと、世論対策的にも感染症対策的にも厳しい局面を迎えてしまう。

 

台湾は、対中関係とは対照的に、最近急速に関係を深めている米国との交渉に乗り出した。

蔡英文総統の側近である蕭美琴・駐米代表は米国政府とワクチン提供の交渉に入っており、すでに「米国から前向きな対応があった」ことを自身のFacebookで明らかにした。

 

また、コロナ対策の指揮をとる陳時中・衛生福利部長は5月21日、米国のハビエル・ベセラ厚生長官と電話会談を行った。台湾側の発表によれば、米国はワクチン取得に関して台湾を支援することを表明したとされている。

 

米国では国内へのワクチン供給に目処がついたことで、これまで発表していた6000万回分に加え、新たに2000万回分のワクチンについて、途上国を中心とした外国に提供する考えを明らかにしているが、そのなかに台湾も含めるよう交渉していると見られる。

 

また蔡英文総統は、台湾製ワクチンの開発も加速させることを表明した。

 

もともと台湾のワクチン開発自体が米国との関係が深いものだ。

台湾でワクチン開発を進めている前述の「高端」「聯亜」は、米国立衛生研究所が抽出したコロナウイルスのスパイクタンパク質の抗原を提供されている。(中略)

 

蔡英文政権は、この台湾製ワクチンについて第3フェーズを特例的に省略させ、早期供与の開始を示唆している。

 

台湾では、到着時期はまだ固まっていないが、アストラゼネカとモデルナに2000万回のワクチンを発注しているという。陳時中・衛生福利部長は、6月中に200万回分のワクチンが海外から到着し、8月末には台湾製のワクチンを含めて1000万回分のワクチンが調達できる見通しであることを明らかにした。こうした形で、台湾の人口2300万人にほぼ行き渡るだけの供給量を確保したい構えだ。

 

それまでは、蔡英文政権は中国の揺さぶりをしのぎつつ、当面の感染状況をまずは抑え込まなくてはらない。だが、感染者数がなかなか下方に向かわないのが現状だ。

 

これまでコロナの抑え込みを高い支持率につなげてきただけに、ここで万が一大きく転んでしまえば逆に強い反発と失望を招きかねない。台湾のコロナ対策は、米中新冷戦も絡みながら、いままさに正念場を迎えようとしている。【5月27日 Foresight】

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【台湾世論の中国産ワクチンへの拒否感 中国企業を通したビオンテックワクチン供給は?】

中国産ワクチンについては、中国との関係強化を主張する国民党関係やその支持者の一部を除いて、台湾世論は「拒否感」を持っているようです。

 

****中国、ワクチン提供の意向 台湾が反発「統一工作の一環だ」****

(中略)蔡政権が強気な背景には台湾の民意がある。民間会社が3月上旬に実施した世論調査によると、中国製ワクチンの接種を受けたくないと答えた市民は76・1%に達した。民進党支持層では92・5%が、対中融和路線を取る野党・国民党の支持層でさえ46・7%が接種を望まなかった。(後略)【5月26日 毎日】

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これには、中国の「統一工作」への反発に加えて、かねてよりの中国製品の品質に関する強い不信感も背景にあります。

 

ただ、「中国産ワクチン」ではなく、前出のように独ビオンテック社から台湾での販売代理権を取得している中国メーカー「上海復星医薬」からのビオンテック社ワクチン(いわゆるファイザーワクチン)の購入となると、また少し事情が変わってくるのかも。

 

中国は上海復星医薬を通じてワクチンを提供する用意があると表明しています。

 

****ワクチン調達巡り中国が「政治戦」、台湾当局が非難****

台湾の複数の当局者はロイターに対し、中国が台湾に新型コロナウイルスワクチンを提供する用意があると表明しているが、誠実な申し出ではないとし、政治的な理由で台湾のワクチン調達を妨害しているとの認識を示した。

台湾は、ドイツのバイオ医薬会社ビオンテックから新型コロナワクチンを購入するのを中国が妨害していると主張。中国は、ビオンテックと販売契約を結んでいる中国の上海復星医薬を通じてワクチンを提供する用意があると表明している。

ただ、台湾は上海復星医薬を通じたワクチンの調達を拒否。透明性が不足しており、中国が関連情報の提供を拒んでいることを理由に挙げている。

台湾のある高官はロイターに対し、中国がワクチン提供を巡って、既存の情報交換ルートを利用していないと指摘。中国は台湾を「分離・弱体化」させるため「政治戦」を仕掛けており、ワクチンを提供する意思はないとの見方を示した。

同高官は「台湾がワクチンを輸入するには一定の手続きが必要で、彼らに(ワクチンを提供する)意思が本当にあるのなら、何をしなければならないか分かっているはずだ」と述べた。

台湾当局は、ビオンテックのワクチン調達に中国が介入していることを数カ月間にわたって公表していなかったが、同高官は公表が必要だと感じるようになったと発言。

「ワクチンは政治ではない。だが、ワクチンの政治化を世界で一番よく知っているのは中国本土だ」と述べた。

台湾の治安当局関係者もロイターに、中国は台湾のワクチン調達を妨害するため「多数の措置を講じている」と指摘。「(資金力を背景に対外進出を図る)ドル外交に似ている。ドルがワクチンに変わっただけだ」と述べた。

中国国務院の台湾事務弁公室は、コメント要請に応じていないが、ワクチン提供の申し出は誠実なもので、台湾は政治的な障壁を築くべきではないと繰り返し主張している。

台湾の中央流行疫情指揮センターは、上海復星医薬を通じたワクチン提供に関する中国国営メディアの報道について、情報が不足しており、ワクチンが台湾の基準を満たすか知るすべがないとロイターに述べた。

上海復星医薬のコメントは取れていない。

一方、台湾の最大野党・国民党は、上海復星医薬を通じてワクチンを調達すべきだと主張。同党幹部は会見で、同社のワクチンは「100%」ビオンテックのワクチンであり、なぜ与党が購入を拒否するのか分からないと述べている。【5月27日 ロイター】

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上海復星医薬を通じてのビオンテックワクチンということになると、品質の問題はなくなり、政治的な判断がメインとなります。(情報が不足しており、ワクチンが台湾の基準を満たすか知るすべがない云々は表向きの話でしょう)

 

【昨年3月に成立していたビオンテックと中国企業の「中国」市場での販売契約】

そもそも、ビオンテックはどうして台湾を含めた中国市場での販売を中国企業・上海復星医薬に委ねたのか?

台湾問題をどのように認識していたのか? 中国市場という「大きさ」に魅惑されて、台湾の問題に目をつぶったのか?・・・という疑問がでますが、ビオンテックと上海復星医薬の契約は最近の話ではなく、1年以上前に成立した契約のようです。

 

****ドイツ企業、新型コロナウイルスのワクチン開発で脚光****

(中略)バイオンテック(本社:マインツ)は、3月17日に米製薬大手ファイザーとCOVID-19ワクチン「BNT162」の共同開発と中国以外の地域における流通にかかる提携を発表した。

 

ドイツを皮切りに、欧州、米国、中国で2020年4月下旬から臨床試験を開始できるように研究開発を加速させる。中国市場では上海復星医薬と提携し、同国での治験と商品化を共同で行う。(後略)【2020年03月25日 JETRO

********************

 

1年前の段階で台湾がどのようにビオンテックと交渉していたのかは知りませんが、自主開発路線もあって、おそらく大きな動きはなかったのではないでしょうか。

 

台湾へのワクチン供給が今のように強く意識されない段階で、中国以外はファイザー、中国は上海復星医薬による独占的供給が契約されたというのは、まあ、常識的な取引だったのかも。

 

その「中国」というのがどの範囲を意味するのかが政治的には大きな問題ですが、一般的な商取引では、中国の主張する「一つの中国」原則に沿って行われるのでしょう。

 

こういう商取引の知識は皆無ですが、いったんビオンテックと上海復星医薬の間で「中国」市場における独占的販売権の契約が成立したら、そこに台湾があとから割って入るのは難しいようにも思えます。

 

基本的には、そういう契約上の問題であり、中国政府が台湾の契約を妨害している云々ではないのかも。

 

ただ、台湾側の下記報道を見ると、そういう「一つの中国」に関わる問題ではなく、何らかの「契約外の問題」が起きたために・・・ということのようです。

 

****独ワクチン交渉頓挫、書類に「わが国」表記で=台湾コロナ指揮官****

新型コロナウイルス対策を担う中央感染症指揮センターの陳時中(ちんじちゅう)指揮官は27日の記者会見で、ドイツのビオンテック社とのワクチン購入に関する交渉が頓挫した背景に、契約に関する報道資料にあった「わが国」という表記について意見の食い違いがあったと明らかにした。

同社のワクチンを巡っては、蔡英文(さいえいぶん)総統が26日、「中国の介入によって現在も契約できていない」と述べていた。

陳氏によれば、昨年12月末には双方とも契約内容を確認。報道資料も今年1月初めに同社が確認を済ませ、「契約成立を全国民に発表するはずだった」。だが同社が突如、報道資料の「わが国」という表記を「台湾」に変更するよう要求。すぐに応じたが、1月中旬になって購入量やスケジュールを見直すよう求められたという。

陳氏は、同社との交渉は実際には合意に達していたとした上で「双方が話し合っている際に、契約内ではなく、契約外の問題が起きた」との見方を示した。【5月27日 フォーカス台湾】

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このあたりの事情はよくわかりません。

 

台湾のワクチン確保が今後も滞るようであれば、ワクチン供与申し出という中国の揺さぶりが大きな効果をあげそうです。

逆に、自主開発なり、アメリカからの調達なり、中国やビオンテックによらずにワクチン確保ができるのであれば、中国の「不当な介入」を批判することは、蔡英文政権側の政治的ポイントになるのかも。

 

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アフガニスタンからの米軍撤退に伴う現地協力者の処遇 タリバンの報復にさらされる通訳・家族

2021-05-26 23:27:29 | アフガン・パキスタン

(米軍や国連、NATOに抗議するアフガニスタン人の元通訳たち(21年4月)【6月1日号 Newsweek日本語版】)

 

【不透明な撤退後の枠組み】

5月13日ブログ“アフガニスタン  女子生徒が犠牲になる爆弾テロ 将来の姿を暗示するものでなければいいが・・・”でも取り上げたように、アフガニスタンからの米軍撤退について、バイデン大統領は4月末期限を9月11日に延期しましたが、実際にはより早い時点での完了(米独立記念日の7月4日)を目指して、すでに撤退が開始されています。

 

****米軍のアフガン撤収、「6〜12%完了」と中央軍****

米中央軍は11日、アフガニスタン駐留米軍の撤収に関し、4月下旬の作業開始から10日までに全体の6〜12%が完了したと発表した。米軍のC17輸送機104機分の物資約1800個以上をアフガン国外に搬出したとしている。

 

バイデン大統領は、米中枢同時テロから20年となる9月11日までに全ての米軍将兵を完全撤収させると表明。ただ、撤収が急ピッチで進む見通しであることから、米独立記念日の7月4日までに撤収が完了するとの見方も出ている。

 

駐留米軍の規模は、撤収開始の時点で約2500人。アフガン政府と対立するイスラム原理主義勢力タリバンは、米軍の撤収開始を受けて首都カブールを含む各地で攻勢を強めており、今後、米軍将兵の撤収が本格化するのに比例して治安が一層悪化するとの懸念が強まっている。【5月12日 産経】

**********************

 

米軍など外国部隊撤退後の枠組みとしてアメリカが提案しているとされる、タリバンも権力分担した暫定政権に関する話は、その後どうなっているのか・・・その件に関する報道は目にしていません。

 

****「アフガニスタン 米軍撤退 危うい和平への道」(時論公論)****

(中略)

ではアメリカ軍が撤退したあとのアフガニスタンはどこへ向かうのでしょうか。現在アフガニスタンにはアメリカ軍兵士2500人の他、NATO・北大西洋条約機構の部隊およそ1万人がアフガニスタン軍の訓練などにあたっており、現地の報道ではすでに一部の国は撤退を始めました。

 

この地図はアフガニスタン政府とタリバンの支配地域を示しています。クリーム色が政府の支配地域、赤がタリバン支配地域です。外国の部隊が撤退後、この色分けが大きく変わり、タリバンが支配地域を急速に拡大し、政権を掌握するのではないかといった見方もあります。

タリバンは政権を握っていた当時、女性の就学や就労を認めず娯楽も禁止するなど極端なイスラム主義政策をとりました。タリバンの圧政から解放された瞬間の市民の安堵の表情が今も強く印象に残っていますが、タリバンが復権すれば再び人権が抑圧されるのではないか、とくに女性の権利が守られないのではないかと多くの人が懸念しています。

 

アメリカは、そのタリバンも参加する暫定的な政権を発足させ、新しい憲法のもとで選挙を行って正式な政権を発足させるという提案をしています。

 

しかし、水と油の関係にある両者が権力を共有することができるか疑問です。20年前、アメリカとその支援を受ける北部同盟が首都カブールに突入する瞬間を、私たち各国メディアはタリバンの砲撃が続く中取材しました。そのときの激しい戦闘を思えば、アメリカが政権から引きずり下ろしたタリバンを今度は政権に参加させようとしていることに抵抗を感じる人は少なくないでしょう。

ガニ大統領はアメリカの提案を拒否し、代わりに3段階の和平案を主張しています。まず戦闘を停止し国際監視団が監視する、次に大統領選挙を行って新しい政権を発足させ、最後に憲法の枠組みを作るというものです。

一方、タリバンは外国軍部隊が撤退するまでいかなる会議にも参加しないとしており、アフガニスタンの将来を話し合うために今月後半に予定されていた国連主導の国際会議も延期となりました。(後略)【4月28日 NHK】

**********************

 

「暫定政権」構想を実現し、維持していくうえで、アフガニスタン政府だけでなく、タリバンへの働きかけが必要ですが、そのためにはタリバンの後ろ盾となってきたパキスタンとの交渉が不可欠です。

 

しかし、アメリカとパキスタンの交渉も見聞きしません。首脳会談も行われていないようです。

 

****米軍撤退後のアフガンに残る課題****

(中略)バイデン政権は、パキスタンをどう扱おうとしているのかよく分からない。

 

バイデンは未だパキスタンのイムラン・カーン首相と電話会談をしていない。4月の気候変動サミットには、インドとバングラデシュの首脳は招待したが、イムラン・カーンは招待しなかった。

 

中国に傾斜するパキスタンのバイデン政権にとってのプライオリティは低いということかも知れないが、アフガニスタンからの撤退という新たな情勢を前に、テロの脅威の監視の観点を含め、パキスタンとの関係をどうするかの整理は必要であろう。

 

これまでアフガニスタン駐留米軍への補給路として、あるいはタリバンの隠れ家として重要であったパキスタンは、用済みという訳にも行かないであろう。【5月26日 WEDGE】

*******************

 

【最低限必要とされる現地通訳・家族のアメリカ移住 国としてのモラルの問題】

前回ブログで取り上げたように、イスラム主義のタリバンが実権を握るような体制にあって、人権(特に女性の権利)や民主主義がどのように保証されるのかが最大の関心事ですが、それ以前の問題として、新たな事態への転換が混乱なく実施されるのかという問題もあります。

 

(持続性あるものかどうかは疑問ですが)きちんとした枠組みなしの撤退では、南ベトナムからの米軍撤退、その後の「南」の崩壊に伴う混乱、大量の難民発生といった事態の再現となってしまいます。

 

もし、「暫定政権」などの枠組みをあきらめる場合であっても、米軍など外国部隊に協力した通訳やその家族など、タリバンの報復にさらされる人々の保護が最低限必要でしょう。

 

それすらなければ、文字どおり南ベトナム崩壊時の混乱・悲劇の再現です。

あれはダナンの米軍基地だったでしょうか。アメリカに向かう最後のチャーター便に乗せてもらおうと群がる大勢の人々。無理やり乗り込もうとする群衆を腕ずくで振り落とすアメリカ人・・・・

 

あのとき、上院議員だったバイデン氏は、救出計画つぶしの急先鋒だったそうです。

 

****米軍は相棒を見捨ててアフガンを去るのか****

移民ビザの発給が間に合わなければ、現地の通訳やその家族らはタリバンに殺される危険性がある

 

サイゴン陥落でベトナム戦争が終結した1975年4月。南ベトナムにいたアメリカ人がヘリコプターで一斉に脱出するなか、ワシントンでは若き上院議員がこう主張していた。

 

「1人だろうと10万人プラス1人だろうと、アメリカには南ベトナム人を救出する責務は一切ない」

救出計画つぶしの急先鋒だったその議員こそ現在の米大統領、ショー・バイデンだ。

 

そして、20年に及んだ戦争の末に米軍がアフガニスタンから撤退し始めた今、バイデンは再びアメリカの良心が問われる二者択一に直面している。自国の軍隊のために働いてきたアフガニスタン人を見捨てるのか、それとも救いの手を差し仲べるのか。

 

アメリカに永住できる特別移民ビザ(SIV)発給を条件に、駐留米軍や多国籍軍の通訳などを務めてきた多数のアフガニスタン人とその家族。

 

彼らは今、命の危険にさらされている。救出ミッションは時間との競争であり、煩雑な行政手続きとの戦いだ。

 

米軍と多国籍軍が撤退すれば、アフガニスタンは再びイスラム原理主義勢カタリバンの支配下に置かれかねない。今もSIVの発給を待っていた米軍の通訳が武装勢力に殺される事件が相次ぎ、通訳仲間らは不安を募らせている。

 

米軍に協力したアフガニスタン人とその家族へのSIV発給については、ワシントンでも米政府の対応の遅れを非難する大合唱が起きている。議員や退役軍人が手続きを迅速化するようハイテン政権に猛プッシュをかけているのだ。

 

下院外交委員会のメンバーである民主党のアミ・ベラ議員によると、現時点でSIVを申請し、発給を待っているアフガニスタン人はざっと1万7000人。手続きを迅速に進める具体的な計画がなければ、米軍の撤退完了までに発給が問に合うか「非常に心配」な状況だと、ベラは言う。

 

見せしめの制裁を懸念

(中略)今のところハイテン政権は手続きの迅速化について、はっきりした計画を議会に示していない。このままいけばベトナム戦争終結時の二の舞いになると、民主・共和両党の議員は危機感を募らせている。

 

「アフガニスタンをもう1つのサイゴンにしてはならない」。下院外交委員会の共和党のトップ、マイケル・マコール議員は議会でそう訴えた。「これはアフガニスタンでビザを待っている人だけの問題ではない。同盟国やパートナーがアメリカは約束を守らず、自分たちを見捨てると思ったら、アメリカの安全保障に致命的なダメージが及ぶ」(中略)

 

アフガニスタンの高官クラスの外交筋は匿名を条件に取材に応じ、米軍の通訳が国外に脱出できなければ、タリバンに報復されるとの懸念が現地でも広がっている、と明かした。

 

タリバンには通訳に制裁を加える動機があると専門家はみる。80年代末に旧ソ連軍が撤退した際、タリバンはソ連兵に協力したアフガニスタン人に厳しい制裁を加えなかった。そのため外国の軍隊に雇われるアフガニスタン人に歯止めをかけられなかった、とタリバンは後悔しているのだ。

 

「(米軍に雇われていた)人たちが(見せしめのために)報復されるリスクは極めて高い」と、スタンフォード大学の南アジア研究者、アスファンディアル・ミルは警告する。

 

バイデンが設定した米軍の撤退完了の期限は9月11日。政府が手続きを簡略化しなければ、それまでにはとてもSIVの発給は問に合わないと、議員や退役車人らぱ懸念している。問に合わない場合は、通訳とその家族らを首都カブールか第三国もしくは他の米軍基地に一時的に避難させるべきだと、彼らは言う。(中略)

 

タリバンの標的になる

この問題に対処するため、カブールの米大使館に関して「領事部の一時的な増員」を承認したと、国務省の報道官は語る。(中略)

 

これまでにイラクとアフガニスタンから約3万の家族が、SIVを通じてアメリカに移住している。一方で、米軍や多国籍軍を支援したアフガニスタン人の通訳などが、ビザの発給を待つ問にタリバンなどの武装勢力に殺害されており、アメリカのモラルの甚大な欠如だと、米退役軍人の支援団体は指摘している。

 

SIVの申請者を支援する非営利団体「ノー・ワンーレフトービハインド」は、少なくとも300人の通訳やその家族の殺害を確認していると、ジェームズ・ミーアバルディス理事長は言う。

 

国防総省報道官のロブ・ロードウイック少将は、「自分や家族を大きな危険にさらしながら、われわれの軍に貴重な責務を提供してくれた人々を助けるために」、同省もSIVプログラムを引き続き「支持する」と語っている。(中略)

 

国としてのモラルの問題

しかし、ビザ取得までには官僚主義の壁がいくっも立ちはだかる。膨大な数の申請書類をそろえ、米領事館で面接を受け、さらに書類作成、手続きなど11段階の複雑なプロセスを経て、ようやくSIVを手にできる。

 

1月に国務省が発表したデータからも、膨大な時間がかかることが見て取れる。書類審査は1つにつき平均10日、事務処理には3ヵ月以上かかることも。さらに、特別委員会が申請を審査して承認を決定するプロセスは平均833日と、2年を優に超える。

 

陸軍時代にイラクとアフガニスタンの双方に駐留したミーアバルディスは、自分のアフガニスタン人通訳のSIV申請を手助けしたが、ビザの発給までに3年かかった。多くの退役軍人が似たような経験をしていると、彼は語る。

 

「彼らはそれぞれ、個人として正しいことをしようと努め、自分のパートナーの脱出を助けるために何年もかけて官僚機構と戦ってきた」

 

米国務省のデータによると、昨年10~12月にアフガニスタン向けに発給されたSIVは計1321件。アフガニスタン人の申請枠は残り1万993件だ。

 

アメリカは19年度末までに、米政府のために働いたイラク人に2万993件のSIVを発給したが、やはり処理の遅さや言語の壁などについて批判を受けている。今も多くのイラク人が、アメリカヘの入国の承認を待ちながら危険にさらされている。

 

長く待だされる理由は、典型的なお役所仕事に加えて、過去の申請の処理が滞っていること、厳格な身元調査に時間がかかること、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で米大使館員が退避したために事務スタッフが少ないことなどがある。

 

アフガニスタン人通訳の中には、雇用契約書や、かなり前に死亡した上司や倒産した契約会社からの推薦状など、必要な書類の作成に苦労する人もいる。また、米議会内外の支援者はバイデン政権に対し、移民の再定住先として、米国内の候補地を明確に承認することを求めている。

 

ベラ下院議員は、アメリカという国の基本原則が問われており、党派を超えた最優先課題だと語る。

「ほかの国の人々に私たちのために働いてほしい、協力してほしいと求めるなら、今後どのようなモラルを持つべきか。国としてモラルの範を示したいのなら、これこそ私たちがやるべきことだ」【6月1日号 Newsweek日本語版】

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パレスチナ「停戦」 今回衝突でネタニヤフ首相、ハマス双方が「成果」 敗者はガザ地区住民

2021-05-25 23:20:10 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ市で、破壊された建物の横を歩くパレスチナ人女性(2021年5月22日撮影)【5月23日 AFP】)

 

【停戦はしたものの、問題は棚上げ】

イスラエルとパレスチナ・ガザ地区を実効支配するハマスの戦闘がエジプトの仲介で「停戦」に至ったことは報道のとおり。

 

停戦によって空爆やロケット弾の脅威からパレスチナ・イスラエルの市民が逃れることができるのは喜ばしいことですが、これで問題が解決した訳でないことはもちろん、改善に向けて一歩踏み出したとすらも言えないことはイスラエルも、パレスチナも、世界中も、皆が承知しています。

 

悪く言えば、次の戦いに向けた準備・休息期間に過ぎないとも。

 

****イスラエルとハマス、停戦に合意 エルサレム問題棚上げ****

武力衝突を続けてきたイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスなどの武装勢力が21日午前2時(日本時間午前8時)、停戦に入った。

 

11日間にわたる戦闘で多くの市民が犠牲となり、国際社会から停戦を求める声が高まっていた。エジプトなどの仲介が奏功したが、停戦が長く続くか懸念は残る。

 

イスラエルは20日夜、治安閣議で、エジプトが主導した「相互かつ無条件」の停戦案を承認した。ロイター通信によると、ガザ地区を実効支配するハマスの幹部は「イスラエルが合意に従う限り、合意に従う」と述べた。

 

ガザ地区の保健省によると、これまでの死者は子ども65人を含む232人に上る。イスラエル軍は10日夜以降、ガザ地区で空爆を続け、ハマスの地下トンネルなど「軍事拠点」を破壊した。ネタニヤフ首相は21日、「ハマスにひどい損害を与えることができた」と述べた。

 

一方、イスラエル軍によると10日以降、ガザ地区からは4340発のロケット弾が発射された。イスラエル国内ではこれまで12人が死亡した。ハマス側は、停戦を「抵抗運動の成功」とする見方を示している。

 

エジプトは、停戦を監視するために代表団を送ると明らかにしている。

 

米国のバイデン大統領は20日、停戦を受けてホワイトハウスで演説し、米国が今回の軍事衝突をめぐって「強力な外交的関与」を行ったと強調。エジプトの仲介にも感謝を示した。バイデン氏は「米国は、イスラエルが自衛の権利をもつことを強く支持している」と述べたうえで、「ハマスなど、ガザ地区を根拠地とするテロリストグループは何の罪もない市民の命を奪ってきた」とも批判した。

 

今回の衝突は、イスラエル占領下の東エルサレムでパレスチナ人が退去を求められたことや、イスラエル治安当局と衝突したことなどを機に拡大した。

 

ハマスは今月10日、報復としてエルサレムなどに向けてロケット弾を発射し、イスラエルによる空爆へと展開した。

 

今回の停戦条件では、エルサレムをめぐる問題に触れられていない。ロイター通信によると、ハマス幹部は「銃は下ろしていない」としており、停戦が短期で終わる可能性が残っている。【5月21日 朝日】

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今回停戦は、長年のイスラエルとパレスチナの対立の要因とは無関係であるばかりでなく、戦闘のきっかけとなった東エルサレムの当面の問題・状況に言及するものですらありません。

 

停戦後も東エルサレムでイスラエル治安部隊とパレスチナ人の衝突が再燃していることも報じられています。

“イスラエル治安部隊がパレスチナ人と衝突、ガザ停戦後 エルサレムのモスク前”【5月22日 CNN】

 

イスラエル、ハマス双方が、これ以上の本格的戦争に入る考えは今のところなく、犠牲者も多く出ていること、更に、現段階で一定の成果を得たと判断したところからの「停戦」成立です。

 

【ネタニヤフ首相、ハマス双方が「成果」 敗者はガザ地区住民】

イスラエル・ネタニヤフ首相は自身の汚職疑惑で国内政治的に苦しい状況にありましたが、今回戦闘を果敢に遂行したこと求心力を回復し、ネタニヤフ包囲網が崩れる結果ともなっています。

 

****イスラエル首相、求心力回復の兆し****

イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの軍事衝突を受け、イスラエルの政治状況がネタニヤフ首相に有利な情勢に傾いてきた。

 

同氏を首相職から追い落とすために中道・左派勢力との連携を模索していたユダヤ人極右政党の党首が、国内のユダヤ人とアラブ系住民の衝突が深刻化したことで方針を転換し、挙国一致政権の樹立を求め始めたからだ。

 

3月23日の国会(定数120)選挙ではネタニヤフ氏率いる右派政党リクードが第1党となり、まず同氏が連立協議を行ったが過半数の賛同が得られず失敗。続いて第2党の中道「イェシュアティド」のラピド党首が連立協議を進めている最中に、戦闘が始まった。

 

ハマスの越境攻撃を引き金に息を吹き返したのが、治安維持に定評があるネタニヤフ氏だった。

 

選挙で7議席を獲得した極右政党「イエミナ」のベネット党首は、ネタニヤフ氏と同じく対パレスチナ強硬派の代表格だが、収賄疑惑が浮上したネタニヤフ氏には協力しないとして今回の連立入りを拒んでいた。

 

しかし、ベネット氏は13日、ユダヤ人とアラブ系の住民同士の衝突激化を受けて、右派だけでなく、中道・左派勢力との連立協議も中断すると表明した。

 

イスラエル有力紙ハーレツによると、同氏は、国内の治安回復のためには軍部隊の投入などが欠かせないとして、挙国一致政権の樹立を主張し始めた。

 

左右両派ともにイエミナの協力抜きには連立政権は発足できず、ベネット氏が事実上のキングメーカーだ。しかし左右両派の政策には大きな差があり、ベネット氏が主張する挙国一致政権発足の実現は難しいとの見方が大勢を占める。

 

政権が発足しなければ2019年4月以降で5回目の国会選が行われる公算が大きくなり、ネタニヤフ氏は当面の間、首相にとどまる道が開ける。

 

同氏はユダヤ人右派の支持を集めるためにパレスチナ人の抗議デモに厳しく対処し、ハマスへの攻撃姿勢もしばらく緩めない可能性が高い。【5月15日 産経】

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一方、ハマスもイスラエルと戦えるのは自分らだけだとアピールすることができ、この間全く存在感を示せなかった政治的ライバルの自治政府・ファタハに対し優位な立場に立ったと言えます。

 

****ハマス、戦力向上で支持拡大 議長に対抗、政治力強化か****

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスはイスラエル軍との戦闘で、ロケット弾の集中発射などで戦力向上を誇示し、パレスチナ全土で支持を広げた。パレスチナ自治政府のアッバス議長に対抗し、政治力強化を狙ったとの見方も浮上している。

 

ハマスは11日間の戦闘で約4300発のロケット弾を発射。イスラエルメディアによると、約50日間で約4600発を発射した2014年の戦闘より頻度が増えた。1日の最大発射数も195発から480発に増加。同時集中発射でイスラエルの対空防衛を困難にし、無人機攻撃も実施した。【5月22日 共同】

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ネタニヤフ首相、ハマス双方が「成果」を得た一方で、住民、特にガザ地区住民は多大な犠牲を強いられています。

 

****荒廃したガザ、生活再建へ 6000人以上が家失う****

パレスチナ自治区ガザ地区では22日、住民たちが生活再建に向けて動き始めた。11日間にわたるイスラエルとの交戦により、貧困にあえぐ同地区では200人以上が死亡、6000人以上が家を失った。

 

AFPの記者によると、エジプトの仲介で停戦が発効して翌日のこの日、ガザ地区では当局がテントやマットレスの配布を開始。パレスチナ通信は、エジプトの停戦監視団が22日にパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長と面会したと報じた。

 

イスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザ地区の再建に目が向けられる中、救助隊はがれきの中の生存者や遺体の捜索を続けた。住民は、自分たちに残されたものを確かめようとしていた。

 

ハマス傘下の保健省によると、ガザ地区では10日以降、イスラエルの攻撃により子ども66人を含む248人が死亡し、負傷者は1900人を超えた。(後略)【5月23日 AFP】

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“ガザの主要なコロナ検査施設が損壊、イスラエル空爆で”【5月20日 CNN】ということで、避難民の劣悪・密集した住環境もあって、今後の新型コロナ感染拡大も懸念されます。

 

世界最速ペースで進むイスラエルのワクチン接種ですが、そのイスラエルが占領するパレスチナでのワクチン接種は進んでいません。

 

【復興のための流入資金・資材を使って武器を生産するハマス】

ただ、ガザ地区再建にあたっては、流入する資金・資材がハマスの戦闘準備のために使われるのではないかとの懸念もあって、厳しい制約がかかります。

 

****ガザ地区の再建、米国などはハマスへの資金流入警戒***

イスラエルや米国など外国政府は、大きな被害を受けたガザ地区について、実効支配するイスラム組織ハマスに資金が流れないように再建する方法を模索している。ガザでは23日、ボランティアなどががれきの撤去作業を行っていた。

 

イスラエル当局は、ガザ再建への取り組みが、ハマスの再武装を助けることにならないようにしたいと考えている。ハマスが過去の武力衝突の復興資金を吸い上げてロケット弾を製造したり、ガザ地区の地下やイスラエルへのトンネルを掘ったりしていると非難している。

 

イスラエル・カッツ財務相は23日、「ハマスを利することがないように人道的危機に対処する方法について、イスラエルは、米国や他の関係国と協力して議論する必要がある」と述べた。

 

地元メディアによると、23日にはトラックの車列がエジプトからガザ地区に入り、食品や医薬品など3000トンを届けた。ガザの保健省がこの物資を受け取ったという。

 

国連によると、ガザ地区では10万人余りが国内避難民となっているほか、1000戸の住宅を含む300棟の建物が破壊された。

 

国連人道問題調整事務所とイスラエルの医療関係者によると、11日間の武力衝突で、ガザ地区では242人、イスラエルでが12人がそれぞれ死亡した。【5月24日 WSJ】

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そもそも、天井のない監獄とも評される厳しい制約が課されているガザ地区にあって、ハマスは連日何百発も発射するロケット弾をどうやって入手しているのか? 不思議なところでもありますが、下記記事によれば、イランの支援で現地生産しているとのこと。ロケット弾燃料は塩とヒマシ油から作っているとも。

 

そうしたこともあって、イスラエル側の流入資材チェックが厳しくなり、結果、ガザの復興はいつになっても進まないということにもなります。復興が進まない状況で、また次の戦闘が・・・。

 

****ハマスのロケット弾、イラン支援で「ガザ製」****

イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、21日から停戦することで合意したが、過去10日にわたるイスラエルとの衝突で、ハマスは過去最大級の集中攻撃を仕掛けた。発射したロケット弾は4000発を超え、イスラエルの対空防衛システム「アイアンドーム」による探知回避を狙った爆撃ドローン(無人攻撃機)も投入した。

 

こうした猛攻が可能になった背景には、武器製造でイランが相当な技術支援を行うとともに、現地におけるハマスの製造能力が向上していることがある。イスラエル国防幹部やアナリストが明らかにした。

 

イスラエル軍幹部は、ここ数日にガザにある数十カ所のミサイル製造拠点を空爆で破壊したと述べている。だが、なお数千単位のロケット弾が残っており、衝突が収まれば、ハマスは製造を再開する技術的な能力を備えていると推測している。

 

イスラエルは、ガザ地区への兵器密輸を一段と効果的に阻止できるようになっている。一方で、イランもロケット弾の設計やノウハウ提供など、ハマスを手助けする方策を見いだしており、パイプやヒマシ油など一般に広く出回っている原料や、イスラエルから打ち込まれた武器の残骸を利用して武器に改造しているものもある。

 

イスラエルのエフライム・スネフ元副国防相は「設計はイランだが、製造は現地のものだ」と指摘する。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は20日、ガザの武装勢力による攻撃を背後で中心になって手助けしているとしてイランを批判。その上で「イランの支援がなければ、武装勢力の組織は2週間以内に崩壊する」と述べた。

 

イランとパレスチナの武装勢力は、双方の連携を隠していない。ハマスやパレスチナ・イスラム聖戦機構の幹部はイランとの軍事協力を誇示。イラン国営テレビによると、イランの精鋭部隊「コッズ部隊」のエスマイル・カアニ司令官は、ハマスの指導者イスマーイール・ハニーヤ政治局長に電話かけ、激励した。

 

イランの国連大使、ハマス軍組織のスポークスマンはコメントの要請に応じていない。

 

イスラエル当局によると、ハマスが発射したロケット弾でイスラエル市民の生命を脅かすとみられるものについては、アイアンドームが9割を迎撃したと話している。(中略)

 

イスラエルがガザとの境界を厳重に警備しているため、パレスチナの武装勢力は現地で入手できる原料で武器を製造している。ドローンには繊維ガラス、ロケット弾には工業用金属パイプ、ロケット燃料には塩とヒマシ油を使っているという。イスラエル軍幹部が明らかにした。

 

ハマスはこれまで、2014年の衝突でイスラエルが打ち込んだ兵器の残骸を使って新たなロケット弾を製造していると誇示している。

 

ハマスはまた、アラビア語で隕石(いんせき)を意味する「シェハブ」と呼ばれる新型ドローンも動画で公表している。

 

シェハブは、イランが支援するイエメンのフーシ派が使っている設計を踏襲しているようだ。翼幅は8フィート(約2.4メートル)と比較的小型で、標的への自爆型ドローン兵器としてはハマスの中では最先端のものだ。

 

ドローンの映像によると、ハマスは中国製のエンジンや50ドル程度の全地球測位システム(GPS)など商業部品を使って兵器を製造しているとみられている。

 

ただ、ハマスのドローンがイスラエルのアイアンドームの検知を逃れるところまでは達していない。イスラエル軍幹部によると、アイアンドームは新たな脅威であるドローンに対応できるよう改良され、今回の衝突開始から少なくとも3機のドローンを撃ち落とした。【5月21日 WSJ】

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いずれにしても、先述のようにネタニヤフ首相、ハマスが今回戦闘で「成果」を得たことで、今後とも両者を軸にした構図が続くことが想像されます。

 

イスラエルの方は右派ネタニヤフ首相でなくても、パレスチナに対する厳しい姿勢はあまり変わらないとも言われます。ただ、人が変われば政策・対応の転機にもなりますが、当分それもなさそう。

 

問題はパレスチナ側。自治政府アッバス議長は選挙での勝算が見込めないため選挙を延期していますが、今回戦闘でハマス人気が更に高まったかも。

 

仮に選挙が実施されて、自治政府でハマスが主導的位置を得るところとなれば、ネタニヤフ首相対ハマス主導の自治政府という形で、パレスチナ和平の進展は現在以上に難しいものになることが危惧されます。

 

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欧州議会 中国との包括投資協定批准手続きを停止、その背景

2021-05-23 22:45:26 | 欧州情勢

(【2020年12月30日 日経】)

 

【欧州のアジアシフト、中国牽制】

アメリカが中国への対抗を戦略的に最重視するようになり、日本も対中国包囲網の一翼を担いつつ、同時に中国との経済関係を維持しようとしていることは周知のところ。

 

そうしたなかで、これまで日本にとって欧州諸国というのは文化的あるいは経済的関係が中心で、安全保障の面では地理的に遠く離れていることもあって、あまり強い関係はなかったようにも思われます(昔は日英同盟とか三国同盟といったものもありましたが・・・)

 

しかし、最近、日本・アジアにおいても欧州諸国の影が濃くなっています。

 

****英空母「クイーン・エリザベス」出港 日本にも寄港予定****

日本にも寄港する予定のイギリス海軍の空母クイーン・エリザベスが港を出発しました。(中略)出発前には、エリザベス女王がヘリコプターで空母に降り立ち、艦内を視察しました。

クイーン・エリザベスを中心とした空母打撃群は、22日出発しました。地中海、インド洋、南シナ海などを航行して40か国を訪れる予定で、日本では自衛隊との合同訓練も行われます。

「日本とは軍として、貿易パートナーとして、また価値観の近い国同士として緊密な関係を築きたいです」(イギリス海軍・第一海軍卿 トニー・ラダキン大将)

今回の派遣は、インド太平洋地域での存在感を高めたいイギリスの防衛・外交・貿易政策の一環で、海洋進出を強める中国をけん制する狙いもあると見られます。【5月23日 TBS NEWS】

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****フランス軍、九州の合同訓練参加で中国けん制****

◇「絶対的パートナー」日本と協力
陸上自衛隊とフランス陸軍、米海兵隊は5月11-17日、九州で共同訓練「アーク21」を行った。インド洋や南太平洋に海外領土を持ち、90%以上の排他的経済水域(EEZ)をインド太平洋地域に持つフランスは、中国の海洋進出を警戒。今回の訓練参加には、対中包囲網の強化を示したい思惑があるとみられる。

フランス国防省のグランジャン報道官は時事通信社のインタビューに応じ、台頭する中国を念頭に「インド太平洋地域へのわれわれの関心の強さと日本との協力関係を確認する機会だ」と強調した。

 

日本との関係については、インド太平洋地域における「絶対的に重要なパートナーであり、両国は同じ価値観を共有している」と述べた。【5月23日 時事】

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経済を含めたアジア重視の流れ、台頭する中国への対抗措置・けん制といった背景があるようです。

 

****欧州のアジアシフトは何を意味するか 「対中国」で連携加速、背景には経済的思惑も****

欧州とアジアが距離的に離れていることは言うまでもない。だが、英国やフランス、ドイツなどの欧州主要国は最近、アジアへの接近を加速化させている。

 

インド洋や南太平洋に海外領土を持つ英国やフランスは東アジアにフリゲート艦を展開し、今後はドイツも日本にフリゲート艦を派遣する計画を明らかにしている。また、今年夏にはオランダ海軍もフリゲート艦を派遣し、米国や日本などと合同軍事演習を行うという。

 

なぜ、英国やフランスなどはこのような姿勢を転じているのだろうか。

 

まず、その背景には、中国との関係悪化やバイデン政権の誕生がある。新型コロナウイルスが中国を起源とされることから、感染拡大の震源地となった欧州主要国と明確な発生源解明で積極的に対応しない中国との間で亀裂が深まり、それは各国にワクチンを配給するというワクチン外交競争にも発展している。

 

また、習政権は去年7月に香港国家安全維持法を施行したが、それによって民主派への締め付けが強化され、一国二制度が事実上崩壊状態にある。香港の人権問題を巡っても両者の関係が悪化している。

 

また、トランプ政権時から欧州と中国との間では亀裂が深まっていたが、同盟国・友好国と協力しながら中国へ対抗する戦略を重視するバイデン政権となり、米欧関係の大幅な改善も影響し、欧州の米国への接近は加速化している。

 

インド太平洋構想の基軸となる日米豪印4カ国の枠組み“クアッド”の動きも加速化しており、英国やフランスはクアッドとの協力を強化する意思も鮮明にしており、“クアッドプラス”の様相を呈している。

 

一方、欧州がアジアシフトを鮮明にする背景には経済的な思惑もある。欧州はアジアの潜在的可能性を熟知している。近年、注目を浴びるインド太平洋地域は、世界全体のGDPの60%、世界人口の65%を占めると言われ、今後のインドやASEAN諸国などの経済発展や人口増加を考えれば、これまで以上に世界経済のハブとなることは間違いない。

 

また、GDP世界ナンバー1の米国、ナンバー2の中国、ナンバー3の日本が集う地域でもあり、今後の新たな国際経済秩序はインド太平洋から生まれ、世界に拡大していく可能性が高い。

 

今後、米中が主導する形で良い意味でも悪い意味でも秩序形成が進められることになるが、その秩序形成に関与していなければ中長期的には利益を共有できず、蚊帳の外に置かれる可能性もあり、欧州はそこを強く警戒している。

 

これまで戦後の国際経済秩序は米国と欧州を中心に北大西洋の両岸で進められ、英国やフランス、ドイツなどが遠方を気にする必要性は低かった。

 

それを警戒しているかのように、英国のトラス国際貿易相は今年1月、日本やオーストラリア、シンガポールなど11カ国が加盟する環太平洋連携協定(TPP)へ近く正式に加盟する方針を明らかにした。域外国がTPPへの加盟手続きを行うのは英国が初めてだが、EUから離脱した英国は新たな経済パートナーや枠組みを模索している。ま

 

た、今年のG7議長国である英国は、中国との関係が冷え込む中、インドとオーストラリア、韓国の3カ国を招待した形で拡大会合を行う意思を明らかにしている。

 

欧州が遠い東アジアへ接近するだけでなく、インドとオーストラリア、韓国の経済主要国を逆に欧州へ接近させる英国の戦略は、英国の本気度を示している。世界経済のハブは欧米からアジアへシフトしている。欧州のアジア接近は今後とも続くだろう。【5月8日 治安太郎氏 まいどなニュース】

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【「民主主義」や「基本的人権」を重視する欧州議会 中国との包括投資協定批准手続きを停止 欧州各国政府の本音とはまた別物】

もっとも、“欧州はアジアの潜在的可能性を熟知している”ということで言えば、その際たるものが中国市場でしょう。

 

日本同様、安全保障や人権等の価値観の面では中国を牽制しつつも、経済的には中国との関係を重視しているというのが欧州各国の本音ではないでしょうか。

 

しかし、そうした各国政府の本音・欧州企業の思惑とは別に、EU内(特に欧州議会)には中国に対する牽制姿勢を強める動きもあって、昨年末に中国とEUの間で合意に達した包括投資協定(CAI)について、欧州議会での批准手続きがストップしています。

 

投資協定は欧州にメリットの大きい協定ですが、アメリカに対抗する関係を構築したい中国側がかなり譲歩する形で昨年末に成立しました。

 

欧州議会は欧州連合理事会と平等に立法権を有し、議員は27加盟国において直接選挙によって選 出されています。

欧州連合理事会は各加盟国の閣僚によって構成される立法機関です。

欧州委員会は各加盟国より 1 名ずつ任命される 27名の委員によって構成されている、EUの行政執行機関です。

欧州理事会は加盟国首脳や 欧州委員会委員長などから成る機関です。

 

****ウイグルを理由に中国との投資協定を凍結したEUの建前と本音****

欧州連合(EU)のドムブロフスキス欧州委員(通商担当)は5月4日、昨年末に中国との間で合意に達した包括投資協定(CAI)について、欧州議会での批准手続きを停止したと発表した。

 

その理由として、ドムブロフスキス欧州委員は双方の関係悪化を挙げている。特にEU側が問題視しているのが、新疆ウイグル自治区における人権抑圧問題である。

 

EUの執行機関である欧州委員会は3月22日、この問題を理由に中国に対して制裁を科した。具体的には、新疆ウイグル自治区での非人道的行為に加担したとされる法人と個人に対して資産の凍結と渡航の制限を課すもので、中国の行動変容を実際に促すことよりも、あくまで象徴的な意味合いの強い措置だったと言える。

 

もちろんこの制裁は、対中圧力を重視する米国と歩調を合わせる必要から実施されたものだが、同時に行政府である欧州理事会がEUの立法府である欧州議会に配慮する観点からも実施されたものであった。言い換えれば、EUにおいて中国への制裁を重視しているのは欧州議会であり、欧州委員会は必ずしも対中圧力の強化に乗り気ではないという事実がある。

 

もともとCAIは、中国よりもEUにメリットが大きい協定である。CAIによって、EUの企業が中国で投資を行う際の自由度が増すためだ。欧州委員会にとって、CAIを批准するためには中国への圧力を重視する欧州議会を懐柔する必要がある。そのジレンマの中で、欧州委員会は中国に対して制裁を科したわけだが、結局のところ批准手続きの停止に追い込まれた。

 

欧州議会はなぜ対中圧力を重視するのか

そもそも欧州議会とはどのような組織だろうか。欧州議会は、EU27カ国から直接選挙で選出された700人余りの議員から構成される。加盟国から1人ずつ選出された閣僚から構成される「欧州連合理事会(閣僚理事会)」とともに、EUの立法府を形成している。

 

その欧州議会による同意が、CAIのような国際合意を発効させるためには必要となる。

 

また欧州議会は、欧州委員会を総辞職させる権限も持っている。そのため、欧州委員会としては欧州議会に対して必ずしも強気で出ることができない。

 

そして、欧州議会はいわゆる「民主主義」や「基本的人権」といった欧米流の価値観を極めて重視しており、中国の新疆ウイグル自治区における行為を看過することは当然できない。

 

欧州議会の議員は自国の政党には属さず、自らの主張に近い「会派」に属する。伝統的に欧州議会では中道の右派ないしは左派の会派が重責を担ってきたが、近年では欧州の政治の多様化と同様に、自由主義や民族主義、環境主義など多様な会派が勢力を強めている。そのため、欧州議会の運営も従来に比べるとスムーズにいかなくなってきた。

 

とはいえ「民主主義」や「基本的人権」という価値観は、立場を問わず各政党がほぼ一致して重視する考えだ。2021年1月に、欧州議会が香港での反民主的行為に対して採択した非難決議で賛成が圧倒的多数(賛成597、反対17)だったことからも、欧州議会が会派の立場を問わずに欧米流の価値観を極めて重視している事実が窺い知れる。

 

またEUによる制裁への対抗措置として、中国が欧州議会の議員の資産凍結や渡航禁止を科したことについても、欧州議会は反発を強めていた。多様な会派が勢力を強める過程で意思決定のプロセスが煩雑化している欧州議会だが、欧米と異なる価値観を持つ中国への対応に関しては一丸となっている点に、ある意味での欧州らしさが表れている。

 

平和裏に発効を目指したい欧州委員会の本音

フォンデアライエン欧州委員長やドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領といったEUの首脳陣からすれば、欧州企業にとってメリットが大きいCAIは是が非でも発効させたいところだ。従来なら暫定発効という手立てをとることも選択肢の中にあり得ただろうが、今そうした対応をすれば欧州議会との間で本格的な対立が生じかねない。

 

フォンデアライエン欧州委員長は中道右派で欧州議会の最大会派である欧州人民党グループ(EPP)や、中道左派で第二位の会派、そしてEPPのパートナーでもある社会民主進歩同盟(S&D)のバックアップを受けることができる。しかしEPPとS&Dの勢力はともに着実に削がれており、多様な会派が勢力を強めていることと裏腹の関係にある。

 

つまるところ、EPPやS&Dの影響力が低下する中で投資協定の暫定発効を強行すれば、欧州委員会を含むEU首脳陣と欧州議会との関係が悪化し、EUの政策運営が停滞することになりかねない。そのためフォンデアライエン欧州委員長などEUの首脳陣には、欧州議会が矛を収めるまで投資協定を凍結するしか選択肢がなかった。

 

それゆえに、CAIの凍結はウイグル自治区における人権抑圧問題を表向きの理由としながらも、その実はEU内部の問題を反映した決定であったという方が正しい理解だろう。(中略)

 

中国はEU首脳陣がCAIを重視していることを十分に理解している。敵に塩を送るとまではいかないまでも、自ら波風を立てないようにしているというのが中国の姿勢ではないか。同時にこうした中国の反応は、CAIの締結を強く望んでいるのがむしろEUであるという実情を浮き彫りしているように見える。

 

二項対立ではないEUと中国の関係

(中略)とはいえ、図らずもCAIの批准手続きの停止が物語ったように、EU内部では中国への対応方針をめぐる相違がある。

 

それは各国レベルでも同様であり、経済面で中国との関係維持を重視するドイツのような国もあれば、中国への敵対心を強めるチェコのような国も存在する。EUと中国の関係は、単純な二項対立構造では捉えきれない。

 

EUと日本が正面から衝突することはまずない。日本は先進国として、基本的には欧米と同じスタンスで行動をともにせざるを得ない。一方で、EUと中国の関係が単純な二項対立ではないことを踏まえて行動しないと、日本だけがはしごを外されてしまうリスクがある。表面上の対立の裏にある力学関係を読み解くための外交分析が必要となる。【5月8日 土田 陽介氏 JB press】

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欧州議会は、中国との投資協定の批准手続き再開の条件として、中国に欧州の議員や外交官を標的にした報復制裁の撤回を求めています。 しかし、これは欧州側の中国に対するウイグル問題を背景にした制裁措置への報復装置であり、欧州側の対中国制裁を残したまま中国だけ報復制裁を止めろというのは、中国としてはのめない条件でしょう。

 

****欧州議会、中国に対EU制裁撤回要求へ 投資協定批准の条件に****

 欧州連合(EU)欧州議会は、中国との投資協定の批准手続きが停止している問題について、再開の条件として、中国に欧州の議員や外交官を標的にした報復制裁の撤回を求める決議案を20日に承認する見通し。決議案の原案をロイターが閲覧した。

中国は3月に対EU制裁を発動。EUと英米、カナダが、中国が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族に重大な人権侵害を行っているとして、中国政府当局者に対する制裁措置を発表したのに対抗した。

EUの議員らは、EUの対中制裁は国連条約に記されている人権の侵害に対応しているが、中国の制裁は国際法に基づいていないと主張している。中国側は人権侵害を否定している。

欧州議会が承認する見通しの決議案の原案には、中国との投資協定の批准手続きは「中国の制裁が発動中というもっともな理由で凍結されている」と記してある。

その上で、中国に制裁の撤回を要求。「EUと中国は通常どおりの関係を維持できなくなる可能性がある」と警告した。

決議案に法的拘束力はないが、加盟国にとっては政治的に重要な意味がある。採決は20日に予定されている。【5月20日 ロイター】

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前出【JB press】では中国側対応について“自ら波風を立てないようにしている”とありましたが、さすがに苛立ちを隠せない様子も。下記はCRI(中国国際放送)の論評です。

 

****【CRI時評】中欧投資協定を政治カード化は賢明な選択に非ず****

欧州議会は現地時間20日午後、中国・EU投資協定を批准する前に、欧州連合(EU)への報復制裁を解除するよう中国に求める動議を採決した。諸外国は、欧州議会が7年間の交渉を経て合意に達した中国・EU投資協定が「凍結した」と見ている。

中国はなぜ欧州に報復制裁を科したのか。原因は今年3月、欧州側が新疆関連のデマに基づいて中国側の関係する個人と団体に単独制裁を実施し、中国の内政に干渉し、国際法と国際関係の基本ルールに違反したことにある。中国側の対抗措置は自国の利益を守るために必要であり、欧州側の制裁に対抗する上で必要な当たり前の反応でもある。

欧州議会が中国側に報復制裁の撤廃を要求することは、中国が中傷・攻撃されても抵抗するなと言うのに等しく、このような要求は「荒唐無稽」以外に形容できる言葉がない。中国・EU投資協定の批准・発効を阻止することで、中国に恐怖感を与えられるかといえば、そうではない。中国側が何度も強調しているように、「中国・EU投資協定はバランス、互恵ウィンウィンを旨とする協定であり、欧州が中国に与える恩恵ではない」。

中国・EU投資協定の採択阻止で、最もやきもきしているのは多くの欧州企業だ。過去20年間、欧州企業の中国への投資は1460億ユーロに達し、収益はかなり大きい。14億人の消費者を擁する大きな中国市場は今もどんどん成長し、開放が続いている。欧州議会の妨害は、間違いなく欧州企業の得た利益を奪う行為だ。また、回復が待たれる世界経済にも悪影響をもたらす。

中国側は自国の利益を守ることを前提に、終始誠意を持って中国・EU協力を促進し、ウィンウィンの実現に努めてきた。EU側は是非を明らかにし、デマに基づく対抗制裁を停止し、各方面の利益に合致する理性的選択をすべきだ。(【5月22日 レコードチャイナ】

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****中国、EUの投資協定批准凍結に「EUは反省を」と反発 再考求める****

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は21日の記者会見で、欧州連合(EU)と中国が合意した投資協定の批准手続きの凍結を明記する決議を欧州議会が採択したことに対し「責任は中国側にはなく、EU側が真剣に反省することを望む」と反発した。

 

趙氏は「EUは中国内政への干渉を直ちに停止すべきだ」と強調。その上で、投資協定について「バランスがとれていて、互いに利益がある」と述べた。経済的なメリットを強調し、EU側に措置について再考するよう求めた形だ。【5月21日 産経】

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なお、EUは安全保障面で中国を牽制する流れで、インドとの関係強化を図っています。

“EUとインド、FTA交渉を再開へ 安全保障も連携強化”【5月9日 朝日】

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日本  エンジン、石炭火力など長年培われた高度な技術へのこだわりが変化への足かせになることは?

2021-05-22 22:44:47 | 環境

(【5月19日 WSJ】 米エネルギー大手ビストラがカリフォルニア州モスランディングで建設する、廃止された天然ガスプラントを利用した大規模蓄電池施設 完成すれば400メガワットの電力を4時間供給できるようになる)

 

【EVシフトの流れの中で“エンジン”へのこだわりは?】

先ほど食事しながらTVのニュースを観ていると、トヨタが富士24時間レースに水素エンジン自動車を参加させ(社長自らレーサーとして参加するとか)、今後も水素エンジンの開発を進める・・・といったことを報じていました。

 

脱炭素社会の自動車の主流は電気自動車(EV)と一般的にはみられており、すでに中国を筆頭にEVへのシフトが加速しています。

 

“中国、50万円弱の低価格EV販売急拡大「人民の足」アピール”【4月20日 産経】

“中国IT大手、続々とEV市場に参戦 上海モーターショーで世界が注目”【4月22日 AFP】

 

****世界初「夢の全固体電池」も?! 上海モーターショーで注目“中国のテスラ”NIOの実力****

「夢の次世代電池」一番乗りは中国EV企業?

4月19日に開幕した上海モーターショー。トヨタがSUVタイプのEV(電気自動車)を世界初公開し、ホンダも中国で来春発売するEVを披露するなど、EV一色となった。

 

世界的な脱炭素の流れのなか、中国でも2035年までに新車販売の50%以上をEVなどの「新エネルギー車」とする計画が示されていて、各社がアピールに必死だ。

 

そんなモーターショーに先立つこと3カ月。中国の新興EVメーカーが夢の次世代バッテリー「全固体電池」を世界で初めて実用化した―?そんなニュースが一部で話題になった。(後略)【4月27日 FNNプライムオンライン】

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「夢の全固体電池」については、いささか疑問符があるようです。

 

アメリカも負けじと・・・

“バイデン氏「EVでは中国に負けない」 全米50万カ所に充電施設”【5月20日 FNNプライムオンライン】

 

一方、クリーンなエネルギーとしての水素の利用ということでは、トヨタも手がける燃料電池車(FCV)がありますが、燃料電池は水素を酸素と結合させて電気を取り出しているのに対し、燃焼によって水素と酸素と結合させ熱エネルギーとして取り出すのが水素エンジンの原理です。

 

つまりFCVが電気でモーターを動かすのに対し、水素エンジンはあくまでも水素を燃やしてエンジンを動かす・・・ということのようです。

 

そのことで、これまでのエンジンに関する技術も活かせるし、エンジン生産に携わる多くの企業の雇用も守れる・・・ということのようです。

 

価格もFCVより安くなるようですが、ネックは水素ステーションが全く広がっていないこと。

 

私は四輪の免許も持っておらず、車には全く関心も、知識もないので、全くの見当はずれになることを覚悟で感想を言えば、(トヨタの真の狙いがどこにあるかはともかく)水素エンジンへのこだわりは、これまで培ってきた高度な技術に引きずられて、世の中の大勢からどんどん孤立していくとなるような危うさを感じました。

 

仮に、日本国内である程度の販売が可能になっても、水素ステーションが整備されていない外国への輸出もできないでしょう。

 

「長所・強み」を活かそうとして、やろうとすれば何とか可能だけに、ずるするとそこに執着し、結局新たな転換に乗り遅れる、周囲から孤立化する・・・ということは往々にしてあることですが、自動車王国・日本についてもそんな“ガラパゴス化”の懸念を感じた次第。

 

【脱炭素発電の流れのなかで“石炭火力”へのこだわりは?】

電気自動車が今後の主流になるにしても、その「電気」をどうやって発電するかが問題になります。

 

EVシフトする中国ですが、中国のように石炭火力でCO2を排出しながら、その電気でEVを動かしても、社会トータルの脱炭素・カーボンニュートラルは達成できません。

 

その点では、高効率な石炭火力に拘る日本も国際的評価は芳しくないことは、5月8日ブログ“SDGsを目指す世界の流れとは溝もある日本の石炭火力対策”でも取り上げました。

 

****英、G7に石炭火力全廃を提案 サミット議長国、日本孤立も****

6月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)議長国の英国政府が、共同声明にG7各国での石炭火力発電の全廃を盛り込む提案をしていることが17日、分かった。

 

国内外の複数の関係者が明らかにした。二酸化炭素(CO2)の排出が多い石炭火力は、日本などが目指す「2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ」達成を妨げる存在。英国はG7が積極姿勢を示すことで、世界全体の排出削減に向けて機運を高める狙い。石炭火力の利用を続ける日本が孤立する可能性もある。

 

G7各国のうち、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5カ国は国内の石炭火力発電について廃止を表明している。【5月17日 共同】

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CO2の排出が多い石炭火力廃止の流れのなかで日本は

“日本の発電電力量のうち、二酸化炭素(CO2)の排出が多い石炭火力の割合は19年度で32%。政府は30年度までに「非効率」な旧式の発電所を段階的に休廃止するが、旧式よりも排出を抑えた発電所は維持する方針だ。しかし、国際的には石炭火力自体の廃止圧力が強くなっている。”【4月22日 東京】

 

****G7気候相会合、石炭火力への国際投資停止で合意 年末までに具体措置****

主要7カ国(G7)の気候・環境相会合は21日、石炭火力発電への国際投資を年末までに停止する方針で合意した。

ロイターが確認した共同声明は「2021年末までに、国際的な石炭火力事業への直接的な政府支援を完全に停止するために、具体的措置を講じることにコミットする」と言明した。

日本が支持に回ったことで、中国など、石炭火力の使用を支持する国にとっては逆風が強まる見通しだ。第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)のシャルマ議長は中国に対し、「長期目標の達成に向けた短期的な政策」を明示するよう求めた。

G7はさらに「他のグローバルパートナーと連携し、ゼロエミッション車の展開を加速させる」ほか、2030年代に電力部門を「圧倒的に脱炭素化」し、いずれは化石燃料全体への国際投資を停止することでも一致。ただ、目標達成に向けた具体的な日程は盛り込まれなかった。

世界の産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えるという2015年のパリ協定へのコミットメントも確認した。

バイデン米政権で気候変動問題を担当するケリー大統領特使は20カ国・地域(G20)に対し、G7が表明した方針と一致した取り組みを進めるよう要請した。【5月22日 ロイター】

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「国際的な石炭火力事業への直接的な政府支援を完全に停止」とは言いつつも、結局は日本と議長国イギリスで折り合いがつかず、曖昧なメッセージとなったようです。

 

****G7、石炭火力で折り合いつかず 日本は継続維持****

オンライン形式で開かれていた先進7カ国(G7)の気候・環境相会合が21日、二酸化炭素(CO2)の排出抑制対策をしていない石炭火力発電への「国際投資をやめなければならない」とする共同声明を採択して閉幕した。

 

議長国の英国は「全廃」を模索したが、G7各国のうち、日本は今後も使い続ける方針を維持し、折り合いがつかなかった形だ。

 

共同声明では、新たな政府支援の全面的な終了に向け「年内に具体的な措置を取る」としたものの、高効率の石炭火力は継続を容認する余地も残した。また各国内の石炭火力廃止について踏み込んだ表現は盛り込まれなかった。【5月22日 共同】

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自動車同様、技術的なことは知りませんが、おそらく日本が主張する高効率の石炭火力というのは、それなりの水準にあるのでしょう・・・ただ、自動車のEVシフト同様に、高効率の石炭火力というものを可能にする技術力があるだけに、石炭火力からの決別が難しく、世の中の流れとは異なる方向に・・・という印象を感じたところです。

 

新しい世界に飛び込むためには、これまでの高い技術力、そこへの執着は、かえって足かせになることがあるようにも。

 

【再生可能エネルギーの可能性を広げる蓄電池技術】

その意味では、石油・天然ガスに恵まれたアメリカは、そのことが再生可能ネルギー進展の足かせにもなる可能性がありますが、アメリカ電力業界では新たな動きも見られるとか。

 

再生可能エネルギーの発電コストが大きく低下してきたこともありますが、カギとなるのは、不安定な再生可能エネルギーを蓄える蓄電池技術の開発。

 

****天然ガスを脅かす蓄電池、変わる米電力業界****

再生エネと電力貯蔵の併用でガス発電所が「座礁資産」化も

 

米エネルギー大手ビストラは全米最多クラスの36基の天然ガス発電所を有しているが、これ以上は発電所を買収または建設する予定はない。

 

代わりにテキサス州とカリフォルニア州で太陽光発電所と蓄電池に10億ドル以上を投資し、新技術によって変貌しつつある電力業界で生き残るため、事業の転換を図る意向だ。

 

「次のブロックバスターにならないよう必死だ」。ビストラのカート・モーガン最高経営責任者(CEO)は、経営破綻した米ビデオレンタル大手の名を挙げてこう話した。「私はこのレガシービジネスが衰退していくのを黙って見守るつもりはない」

 

米国では10年前、フラッキング(水圧破砕法による掘削)によって天然ガスが安価に手に入るようになり、天然ガスが石炭に代わって最大の電力供給源となった。今度は天然ガスが同様の市場破壊によって脅威にさらされている。新たな破壊をもたらしているのは、風力や太陽光エネルギーを利用した費用対効果の高い蓄電池だ。

 

米国エネルギー情報局(EIA)によると、2019年の米発電量に占める天然ガス火力発電電力は38%に上り、24時間体制で電力を供給し、ピーク需要を満たしている。

 

風力発電や太陽光発電も大きなシェアを獲得しており、電池コストの低下に伴って、グリーン電力と電池の組み合わせが需要を満たす役割を担いつつある。電池に安価なグリーンエネルギーを蓄え、太陽が沈んだ後や風がやんだ後に放電するのだ。

 

米電力市場に占める蓄電池の割合はまだ1%にも満たず、現在のところ主に太陽光発電装置から給電されている。太陽光発電の出力量はかなり予測可能で、貯蔵によって増やしやすい。

 

しかし、蓄電池と再生可能エネルギーの併用は、何十億ドルもの天然ガス投資を無駄にする恐れがある。そのため、何十年も稼働することを見越して過去10年間に建設された発電所が、採算が取れるようになる前に引退する「座礁資産」と化すことが懸念されている。

 

米国の現在までの再生可能エネルギーの成長は、電力会社に一定量のグリーン電力の調達を義務付ける州の規制や、風力・太陽光発電の経済的競争力を高めた連邦政府の税制優遇措置によるところが大きい。

 

しかし再生可能エネルギーは近年、補助金なしでもコスト競争力を増している。このため化石燃料発電に代えて風力・太陽光発電に投資し、自主的に二酸化炭素(CO2)排出量を削減しようとする企業が増えている。気候変動に対処する州・連邦規制が強化される見込みであることも、こうした傾向を加速させている。(中略)

 

ガス対グリーンエネ

ガス火力発電所は、風力発電や太陽光発電との競争で既に苦戦している。米電力大手デューク・エナジーは依然、ガス火力発電所の増設を検討している。しかし、発電所がさほど長く運営できない可能性があるため、早期に採算を取れるよう財務計算を見直し始めている。(中略)

 

電力網用の蓄電池

電力網用の蓄電池の多くは、電気自動車(EV)に使用されているのと同じようなリチウムイオン製だ。大型の輸送用コンテナのような見た目で、複数の電池をまとめて配列し、大容量の電力を供給できるようにしていることが多い。再生可能エネルギー源に付属しているものもあれば、単独で設置され、電力網から給電されているものもある。

 

蓄電池は、風力発電ファームよりも太陽光発電ファームと併用されることが多い。太陽光の方が発電量を予測しやすいことと、その組み合わせの方が連邦政府の税額控除を受けやすいためだ。風力発電所と蓄電池の併用に取り組んでいる企業もあり、技術コストが低下すれば、市場の拡大が期待できる。(中略)

 

電力市場の競争が激しく、排出規制のないテキサス州でさえも、ガス発電所はほとんど建設されておらず、太陽光発電所や蓄電池の利用が急速に増えている。

テキサス電気信頼性評議会によると、同州では約8万8900MWの太陽光発電、2万3860MWの風力発電、3万0300MWの蓄電池容量が企業によって検討されている。一方、検討中の新たなガス火力発電容量は7900MWにとどまる。

 

電力会社や電力網規制当局は、少なくとも当初は、新たな電力源の信頼性が既存の発電所ほど高くない可能性を考慮する必要がある。2月に起きたテキサス州の大停電は、その懸念を浮き彫りにした。

 

同州では、気温の低下で電力需要が急増していたところに強力な寒波が襲い、風力タービンやガス発電所、原子力発電所などの多くの電力源が凍結。壊滅的な停電が何日も続いた。

 

たとえテキサス州に蓄電池がもっとあったとしても、風力・太陽光発電ファームの生産性が低い時期だったことを踏まえると、数日間に及ぶ供給不足の緩和にはあまり役立たなかった可能性が高い。企業幹部やアナリストはそう話す。現在のほとんどの蓄電池は、一度の充電でせいぜい4時間程度の放電しかできない。

 

カリフォルニア州では昨夏、ガス発電所への依存度を急速に下げた結果、その影響をもろに受けることになった。米西部が熱波に見舞われた8月、同州の電力会社は需要急増による供給不足を緩和するため、計画停電を余儀なくされた。カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)とカリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)が共同作成した事後分析では、その一因に太陽光や風力発電への急激なシフトが挙げられていた。【5月19日 WSJ】

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現在の蓄電池技術は長期間の蓄電にはまだ不十分なレベルですが、こういった技術は利用が広がれば加速度的に進化するものではないか・・・との印象も素人的にはあります。

 

原子力・石炭火力に頼る姿勢を崩さない日本政府が繰り返し主張するのも再生可能エネルギーの不安定性ですが、上記のような流れが加速すれば、その不安定性を補う蓄電池技術の進歩もそう遠い将来のことではないのかも・・・と楽観的に考えてしまいます。

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アメリカ  人工中絶禁止の最高裁判断の現実味 司法を舞台にしたトランプ氏の「リベンジ」幕開けか

2021-05-20 22:57:13 | アメリカ

(2018年、アメリカ合衆国最高裁判所前で抗議するプロライフ派とプロチョイス派。【2020年12月15日 VOGUE】

プロライフ派(黒い四角のボード)は人工中前反対派、プロチョイス派(ピンクの丸いボード)は賛成派)

 

【人工中絶をめぐる問題 レイプ被害で妊娠、死産した女性が殺人罪で数十年の禁固刑になる国も】

日本は人工妊娠中絶を制度的にみとめること関しては、ことの良し悪しは別にして、あまり大きな議論にもなっていませんが、外国、特に宗教的な規範が強い国では厳しく制約されており、一方で認めるべきだとの主張もあって、国民間で激しい議論・対立となることも珍しくありません。

 

カトリックの影響が強い中南米は、人工妊娠中絶がほぼ認められていない国が多い地域ですが、そうしたなかで昨年末、アルゼンチンで動きがありました。

 

****アルゼンチン上院、人工中絶合法化法案を可決 賛成派は歓喜****

アルゼンチン議会上院は30日、人工妊娠中絶を合法化する法案を可決した。南米で中絶が合法化されている国はごくわずかしかない。

 

人口4400万人のアルゼンチンでは、毎年何十万件もの違法な中絶手術が行われてきた。賛成派は長年にわたり、人工中絶を合法化することによって危険な違法中絶をなくすよう、当局に訴えてきた。

 

上院での法案審議は12時間以上に及んだ。賛成38、反対29、棄権1で可決されると、首都ブエノスアイレスの街頭に集まった大勢の賛成派が歓声を上げた。新法では、妊娠14週目までであればどの時点の人工妊娠中絶であっても合法とみなされる。

 

南米には、世界で最も厳しい中絶関連法が設けられている国がある。アルゼンチンでも、これまで中絶が認められてきたのはレイプによる妊娠か母体の命に危険がある場合のみだった。

 

中南米で妊娠中絶が合法化されているのは、キューバ、ウルグアイ、ガイアナの3か国とメキシコ市のみ。エルサルバドルやホンジュラス、ニカラグアでは中絶は禁止されており、たとえ流産であっても女性に禁錮刑が科される可能性がある。 【2020年12月30日 AFP】

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“たとえ流産であっても女性に禁錮刑が科される”という事に関して、中米エルサルバドルで一昨年話題になった裁判がありました。

 

****レイプ被害で妊娠、死産して収監された女性に逆転無罪判決。エルサルバドルで続く「中絶禁止法」とは****

人権団体はこの無罪判決を「画期的」と評価。一方、中絶禁止法によりいまだに約20人の女性が流産によって刑に服しているという。

 

中米のエルサルバドルで、「中絶禁止法」によって収監されていた女性に対し、逆転無罪の判決が言い渡され、世界から注目を浴びている。

 

AFP通信などによると、エルサルバドルの控訴裁判所は8月19日、レイプ被害によって妊娠し、胎児が8カ月の時に死産したエベリン・エルナンデスさん(21)に対し、無罪を言い渡した。

 

エルナンデスさんは、当初、中絶をしたとして殺人罪で禁錮30年の判決を受け、2年9カ月もの間、収監されていた。(中略)

 

エルナンデスさんは18歳だった2016年4月、妊娠8カ月のときにクスカトラン県にある自宅のトイレで子どもを出産。彼女は出産するまで妊娠に気が付いていなかったという。

 

エルナンデスさんはトイレで腹痛を覚え、出産したものの胎児は死産していたと主張していた。

だが検察側は彼女が出産前のケアを受けることを怠ったとして有罪を求めていた。裁判所は2017年、エルナンデスさんに対し殺人罪で禁錮30年の判決を言い渡した。

 

エルナンデスさんが妊娠したのは、レイプ被害を受けたためだった。しかし、家族が脅迫されていたために恐怖を感じ、警察には被害届を出せなかったという。

 

控訴審で弁護側は、一審では胎児が出産前に死亡していたとする法医学的証拠が見逃されていたと主張。検察側は一審判決より重い禁固40年を求刑していた。

検察側が期限である8月29日までに上告するかが注目されている。

 

エルサルバドルで問題となっている「中絶禁止法」とは

カトリック教徒の多いエルサルバドルでは1998年以来、あらゆる状況で中絶を禁じている。

中絶禁止法と呼ばれるこの法制度では、違反した場合に禁固2~8年となるが、さらに重罪である加重殺人で有罪となる場合が多く、最大で刑罰は禁錮50年となる。

 

2013年には、出産直後に死亡する可能性の高い胎児を妊娠しており、自らも難病を抱え、妊娠の継続が困難だった女性が特例的な堕胎許可を求めていたが、裁判所が不許可とした。

 

当時の保健相も、裁判所に中絶の特例許可と、堕胎手術を行う医師に対する刑事免責を求めていた。女性は妊娠27週で帝王切開し、女児は数時間後に死亡した

 

1992年の内戦終結後、内政不安のなかでカトリック教会がキャンペーンを開始し、そのなかで中絶禁止が盛り込まれた法律が1998年に成立。

 

2016年には、野党が最大禁固8年としている中絶禁止罪の刑罰を50年に引き上げるよう法改正を提案している

 

AFP通信によると、2019年3月には、流産したことで加重殺人で有罪となり、禁錮30年の刑となり収監されていた女性3人が釈放された。しかし、同様の罪で約20人の女性が今も刑に服しているという。

 

米州人権委員会はエルサルバドル政府に対し、中絶によって女性に対し実刑判決を下す制度について見直しを求める報告を、2019年1月に公表している。【2019年08月21日  Shino Tanaka氏 HUFFPOST】

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人工中絶に対する考え方はいろいろあるとは思いますが、上記エルサルバドルの中絶禁止法が「欺瞞」「偽善」に思われるのは、ギャングの横行によって同国が世界でも最も殺人が多い、「世界一治安の悪い国」としてランキングされることがしばしばあるからです。

 

そのため、多くの国民が自国を捨ててアメリカに難民として向かっています。

ギャングの横行とは書きましたが、そうした事態を許している背景に政治の腐敗があろうことは想像に難くありません。

 

そんな国で、レイプ被害で妊娠、死産した女性を殺人罪で数十年の禁固刑を課す・・・笑止です、欺瞞・偽善です。

政治・司法やるべきことは、他にあります。

 

【アメリカで保守・リベラルを分かつ問題 医療施設・医師への爆破・殺人・放火も頻発】

宗教保守派の影響力が強いアメリカでも、人工中絶問題は国論を激しく二分する大問題です。

大統領選挙でしばしば争点となります。先の選挙でも。

 

2019年5月21日ブログ“アメリカ  次期大統領選挙論点として再燃した人工中絶問題

 

日本人が想像できないのは、この人工中絶問題をめぐる対立は、単に“議論”ではなく、しばしば医療関係者・施設への暴力事件に及ぶことです。

 

****米コロラド州で男が銃乱射 3人死亡、9人負傷****

米西部コロラド州コロラドスプリングズで27日、男が銃を乱射し、少なくとも3人が死亡、警察官4人を含む9人がけがをした。CNNなどが伝えた。米メディアによると、27日昼ごろ、コロラドスプリングズの医療施設「家族計画クリニック」で銃撃があったと通報があった。

 

警官隊と容疑者の男との間で銃撃戦になり、目撃者によると5分間で20発ほど銃声が聞こえたという。(中略)同クリニックは妊娠中絶や性感染予防などのケアをしている。米国では人工妊娠中絶の是非を巡り、大きな議論になっており、中絶に反対する人々は同クリニックなどを批判している。

 

米メディアによると、1977年から14年まで、人工中絶をする施設を狙った爆破事件は42件、殺人事件は8件、放火事件は182件起きているという。【2015年11月28日 朝日】

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もっとも、アメリカの人工中絶件数自体は近年、以前より大きく減少しています。

 

****米国の中絶率、過去最低に その理由は?****

アメリカの人工妊娠中絶率が、 連邦最高裁が人工中絶を女性の権利として認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決以降で最も低くなっていることが、9月18日に発表された最新の調査結果で明らかになった。専門家は、中絶率の減少理由を特定するのは難しいとしている。

 

中絶権を支持するガットマッハー研究所は、2017年に約86万2320件の人工中絶が行われたと推定している。これは、2011年の約20万件を下回っている。ピークだった1990年には約160万件の中絶が行われていた。

 

10年近くにわたり、保守的な州や自治体の政治家が中絶を規制しようと取り組んできたが、同研究所は、中絶件数の減少は必ずしも新しい法律が関係しているわけではないとしている。(後略)【2019年11月18日 BBC】

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【最高裁判断に反する州議会決定 敢えて法廷闘争に持ち込むのが狙い】

前期記事にもあるように、1973年にアメリカ最高裁は女性の中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」を出しました。

 

しかし、その後も論議が絶えず、先の大統領選挙中に再びこの問題を論点とすべく、アラバマ州議会はレイプや近親相姦(そうかん)による妊娠も含め、中絶をほぼ全面的に禁止するという全米で最も厳しい法案を可決し、他州にも類似の動きが。

 

中絶容認派は最高裁決定に反する憲法違反として無効の訴えを起こしますが、中絶禁止派の狙いはまさにそうした裁判闘争に持ち込むこと。

 

たとえ地裁・高裁レベルで「無効」とされても最高裁に持ち込めば、トランプ大統領が保守派判事を増やしたことで、「ロー対ウェイド判決」を半世紀ぶりにひっくり返すことが可能だからです。

 

【トランプ前政権下で保守派優位となった最高裁判事 人工中絶に関する半世紀ぶりの判断変更の現実味】

トランプ前大統領の行った施策の多くがバイデン大統領によって無効とされたり、見直しが行われていますが、唯一手が付けられないのが前政権によって任命された終身制の最高裁判事の人選。

 

人工中絶問題の他、銃規制、難民問題、いわゆるオバマケア問題など、国論を激しく二分する問題は、アメリカでは議会・政治ではなく最高裁決定で決着がつくことが多々あります。

 

そのため、大統領の最大の仕事は、個々の政策決定ではなく、任期中にいかに自派の主張に近い判事を最高裁に送り込むかにあります。いったん送り込めれば、その判事が亡くなるまで何十年も影響を持ちます。

 

その点でトランプ前大統領は3人の保守派判事を任命し、最高裁判事の保守・リベラルのバランスを一気に保守派優位に持っていくという「大成果」をなしとげ、この影響は今後のアメリカを5年、10年、あるいはそれ以上大きく制約します。

 

民主党政権が決定した政策を最高裁に持ちこめば、ことごとくひっくり返せるということにも。(もちろん各判事は事実関係を公正に審議し、各自の信念・良識に基づいて判断するのでしょうから、それほど単純でもないのでしょうが・・・そうあって欲しいと言うべきか)

 

2020年9月22日ブログ“アメリカ  最高裁判事後任人事をめぐる問題  あらゆるものを政治化するトランプ政治

 

上記のような共和党主導の保守派の強い州で敢えて最高裁判断に反する人工中絶禁止法が制定され、それが最高裁に持ち込まれる・・・最高裁はトランプ前大統領によって大きく保守派優位に変わっている・・・という状況で、ことが動き始めています。

 

****米最高裁、中絶の合憲性審理へ 保守派主導で判断覆る可能性も*****

米連邦最高裁は17日、人工妊娠中絶を制限する南部ミシシッピ州の州法が違憲だとする下級審の判断について、州当局の上告を受理すると発表した。

 

最高裁は1973年に中絶は女性の権利だとして最長で妊娠28週までの中絶を容認したが、現在の最高裁は9人の判事のうち6人が中絶を制限する傾向の強い保守派で、約半世紀ぶりに判断が覆る可能性がある。

 

米メディアによると、州法は妊婦の命に関わる場合などの例外を除き、妊娠15週より後の中絶を禁止する内容で、2018年3月に成立した。成立直後に連邦地裁が州法の施行差し止めの仮処分を命令。地裁に続き高裁も違憲と判断したため、州当局が最高裁に上告していた。

 

米メディアによると、最高裁は21年10月以降に審理を始め、22年6月までに判断を下すとみられる。22年秋には連邦議会議員や知事を改選する中間選挙を控えており、国論を二分するテーマでの司法判断は選挙の行方にも影響しそうだ。

 

最高裁は20年6月、人工妊娠中絶を大幅に制限する南部ルイジアナ州の州法は違憲だとする判断を下した。このときは保守派の判事の一人が違憲判断に回り、5対4の僅差だった。

 

しかし、リベラル派のギンズバーグ判事の死去を受け、20年10月に保守派のバレット氏が新たに就任したことで、保守派とリベラル派の構成は6対3となっている。【5月18日 毎日】

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“保守派とリベラル派の構成は6対3”という状況では、半世紀ぶりの最高裁判断変更の可能性が高いように思われます。

 

保守派からすれば、トランプ前大統領が蒔いた種が、民主党・バイデン政権下にあって大きく花開くということにもなります。

 

【最高裁改革の動きはあるものの、政治的には困難】

なお、アメリカ最高裁のこうした実情には批判・疑問も投げかけられてはいます。

 

****米最高裁改革の検討委員会が初会合、6カ月以内に報告****
米連邦最高裁判所の改革について検討するためバイデン大統領が設置した委員会の初会合が19日に開かれた。判事の増員などについて検討し、6カ月以内に報告書をまとめる。

36人で構成される超党派委員会は、オバマ政権時代に司法省で勤務したエール大法科大学院のクリスティーナ・ロドリゲス教授と、同じくオバマ政権でホワイトハウスの法律顧問だったニューヨーク大法科大学院のボブ・バウアー教授が共同委員長を務める。

ロドリゲス氏は、委員会で勧告をまとめることはせず、具体的な改革案の「利点や合法性」を検討すると述べた。

バイデン大統領は4月9日、現行9人の判事の増員や、終身制に代わる任期導入などの改革について検討する委員会設置の大統領令に署名した。

委員会では、最高裁の権限の範囲や、議会で成立した法律を無効にする権限などについても検討する。

トランプ前大統領は任期中に3人の最高裁判事を任命し、現在は6対3で保守派が多数となっている。

民主党のリベラル派議員グループは4月、判事の定員を4人増やして13人とする法案を提出した。ただ、ホワイトハウスや民主党幹部は法案を進めることに消極的で、委員会に検討を委ねたい考えだ。【5月20日 ロイター】

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現実問題としては、保守派が手にしている大きな「成果」をやすやすと手放すことは考えられませんので、この改革を進めようとすると「分断」が更に火を噴くことにもなります。混乱の中で改革はとん挫することも想像されます。

 

ホワイトハウスや民主党幹部は法案を進めることに消極的というのはそうしたことを想定してのことでしょう。

 

人工中絶問題で「逆転」が成功すれば、他の問題も次々に・・・

トランプ前大統領の「リベンジ」の幕開きとなるかも。

 

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入管法改正案は廃案へ 難民認定、入管制度のあり方の議論は今後も必要

2021-05-18 23:23:19 | 日本

(名古屋出入国在留管理局の施設収容中に死亡したウィシュマ・サンダマリさんの遺影を持つ妹のワヨミさん=16日午後  (葬儀で)あいさつした妹ワヨミさんは「誰が責任を取るのか、私たちも分からない。死亡してから2カ月たつが、なぜ亡くなったのか、答えがない。お姉さんが大好きだった国でこんなことになり、信じられないです」と声を震わせた。【5月16日 共同】)

 

【入管施設で衰弱死したスリランカ人女性の監視カメラ映像開示で折り合いがつかず廃案へ】

国会で審議が行われていた在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案については、政府は今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めました。

 

****入管法改正案が廃案へ、「人権侵害」と野党や国内外から批判****

在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案を巡り、野党の反対や国内外の批判を受け、政府は18日、今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めた。

同法案は、難民申請をしている外国人でも強制的に母国に送還されることや、退去命令に従わない人に罰則を設けるなどの点が難民条約違反、人権侵害であるとして弁護士団体や学者など国内外から批判を浴びていた。

入管法に詳しい児玉晃一弁護士は「たくさんの声が集約され、入管法の改悪が阻止された。SNSやネットニュースを通じていろいろな人に声が届き、みんなの声が勝ち取った成果」と述べた。

国会では、法務委員会で野党議員が法案の問題点を指摘、修正協議も行われていた。しかし、入管施設で3月、収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)に関し、遺族に監視カメラ映像を開示するよう野党が求めたのに対し、出入国在留管理庁がこれを拒否、野党側は法務委員長の解任決議案を提出して与野党間の対立が深まった。

このため与党は18日、今国会での成立を断念することを決めた。ある与党幹部は「国際社会の批判もあり、強行採決はメリットがない」と語った。

昨年8月から不法滞在で名古屋出入国在留管理局に収容されていたウィシュマさんは、今年になって体調を崩し1月下旬から嘔吐を繰り返し吐血もしたが、入院などの措置はとられず3月6日、職員が死亡しているのを発見した。

支援団体と遺族は5月16日午後、名古屋市でウィシュマさんの葬儀を行い、約80人が参列した。支援団体は国会前で断続的に抗議活動を行い、法案の廃案とウィシュマさんの死亡についての真相究明を訴えてきた。

上川陽子法相はウィシュマさんの遺族と18日午後に面会することを明らかにした。

2019年末時点で、全国で収容されていた外国人は1054人。本来、収容所は退去強制令書を発出された人が退去するまでの間一時的に収容される場所だが、実際には1054人のうち約400人が6カ月超収容されていたという実態がある。

国連の「恣意的拘禁作業部会」は20年9月に、日本の入管収容制度における長期収容について、申し立てを行った被収容者2人の事案は国際法に違反し「恣意(しい)的」であるとし、日本政府に意見書を送付し必要な措置をとるよう求めた。

こうした長期収容の問題を改善するために政府は同改正法案を策定したが、内容について理解を得られなかった。【5月18日 ロイター】

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入管施設での長期収容が国際的に問題視されるなかでの「改正案」でしたが、(ほとんど難民申請が認められない日本の現状において)難民申請3回以降であれば母国への強制送還を可能にするといったような内容に問題があること、入管施設での収容者対応に人道上の問題があるように思われることなどについて、これまでもこのブログで取り上げてきました。

 

4月2日ブログ“国際的にも問題視される日本入管制度の過酷な実態

4月29日ブログ“国会審議が始まった入管難民法改正案 入管庁の収容者衰弱死に関する「隠蔽」も問題視

 

改正案の問題点などに関しては上記ブログと重複しますので、今回はパスします。

 

政府・自民党も改正案の内容については一定に野党側主張に歩み寄った形でしたが、上記【ロイター】にもあるように、入管施設での不適切な対応で亡くなったのではないかとも指摘されているスリランカ人ウィシュマさんの監視カメラ映像開示で折り合いがつかなかったようです。

 

4月29日ブログでも取り上げたように、ウィシュマさんの「仮放免」の必要性を指摘した医師の診断内容が中間報告書に記載されていないということで、入管庁側は彼女の衰弱死の経緯を隠蔽しようとしているのではないかとも思われる工作もあり、政府はどうしてもこの問題に触れたくないようです。

 

****入管法、遺族迎え野党引かず=自民なお歩み寄り模索****

自民党は17日、衆院で審議中の入管難民法改正案の採決強行を回避するため、立憲民主党など野党側と歩み寄りを探った。

 

しかし、入管施設収容中に死亡したスリランカ人女性の映像開示に当面応じられないとの立場は崩さず、協議は平行線に終わった。スリランカ人女性の遺族が来日し、死亡経緯の解明を訴える中、立憲は安易な妥協には応じない姿勢を見せており、先行きは不透明だ。

 

自民党の森山裕国対委員長は17日、立憲の安住淳国対委員長と国会内で会談し、改正案採決への理解を求めた。安住氏はスリランカ人女性の映った監視ビデオの映像について「遺族が日本にいる間に、まず遺族に開示したらどうか」と提起した。

 

会談後、安住氏は記者団に「1ミリも前進していない」と説明。「真相解明はわが国にとって必要だ。譲るつもりは全くない」と語った。

 

立憲、共産、社民3党の議員はこれに先立って、スリランカ人女性が収容されていた名古屋市の入管施設を遺族とともに視察。遺族と並んで記者会見した立憲の中川正春元文部科学相は「入管法改正に厳しい態度で臨む」と語った。遺族は18日に国会を傍聴する予定だ。

 

立憲は先週、ビデオ映像の即時開示を求めるとともに、難民認定審査中でも申請3回目以降なら強制送還できるようにする規定の削除など10項目の修正を要求。自民は修正には大筋で応じる姿勢を示したが、映像開示は受け入れなかった。

 

これを受け、立憲、共産、社民3党は採決阻止に向け、義家弘介衆院法務委員長(自民)の解任決議案を提出した。解任決議案は18日の衆院本会議で採決される予定。立憲は改正案の採決を阻むため、上川陽子法相の不信任決議案などの提出も検討している。【5月18日 時事】

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結局、映像開示に応じない政府が廃案の選択をしたことは、前出【ロイター】のとおり。

 

【“外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか”という議論が必要】

改悪が見送られたことは歓迎すべきことですが、入管施設で何が行われているのか・・・・日本の入管はいわば“ブラックボックス”であることの問題、更には、問題の根底にある“なぜ日本はこんなに難民認定が少ないのか”という問題、そうした基本的な問題は今後も継続して議論していく必要があります。

 

****日本の外国人制度の根底に“長く定着して欲しくない”という考え方が? 見送られた入管法改正案から考える****

(中略)

■“半永久的に送還できない人が増えてしまう”という危機感か

 

現行法では、難民申請の手続き中の外国人については本国へ送り返されることはなかったが、それを逆手にとり申請を繰り返す外国人もいたことから、入管施設での収容が長期化する問題が浮上していた。与党はこの点を踏まえ、3回目以降の難民申請者については原則、国へ送り返すことを可能にしようとしていたのだ。

18年にわたって入国管理局に勤務、現在は「未来入管フォーラム」代表を務める木下洋一さんは次のように話す。

 

「基本的には“オーバーステイ”が発覚すれば強制送還されることになっていて、現時点で約8万人が該当している。ただ、多くの場合はオーバーステイが発覚すれば自分で帰国するし、結婚して家族を持っているような人などに関しては入管の裁量による“在留特別許可“の制度で“正規在留者”として認定されるケースもある。

 

一方で、約3000人が“帰国すれば迫害される”などとして送還を拒んでいるといわれていて、この人達を入管では“送還忌避者”と呼んでいる。

僕自身は難民の認定業務に直接携わったことはないが、窓口などで申請の受付をしていると、切実な事情を抱えた方もいる一方、申請すれば6カ月後には働くことができるという規定があるので、“難民じゃないけど仕事がしたいから”という方もいらっしゃる。

 

入管側に言わせると、難民申請をしている限りは送還されない“送還停止効”という制度を使うことによって、半永久的に送還できない人が増えてしまうという危機感があった。そこで回数を決めて送還できるようにしようという発想になっていったのだと思う。

 

入管法の一番の問題は、役所に巨大な裁量権を与えていることだ。半世紀ぐらい前、ある法務官僚が“外国人は煮て食おうが焼いて食おうが自由だ”と言って国会で問題になったことがあるようだが、現実は本当にフリーハンドで外国人のビザを左右することができるし、それを統制するシステムもない。

 

非常に慎重な手続きを取る刑事手続きと違って、人を収容、つまり身柄を拘束するのにも裁判所の令状が要らない。主任審査官という入管の職員が発布するだけで、収容から送還に至るまでの司法も第三者機関も全くタッチしない。完全にブラックボックスだ。

それでも入管職員に人権感覚がないとか、決してそういうわけではないと思う。私のかつての同僚たちも、みんな優秀な人たちだったし、多かれ少なかれ問題意識は持っていたと思う。しかし公務員である以上、入管法に従うというのが役目だ…」。

 

■入国の管理をする役所が難民保護も担う現状

 

政府与党の改正案について立憲民主党の安住淳国対委員長は「対象になっている外国人の方々が3回目には強制的にこの国を出されるんじゃないかという恐怖心を持っている。この恐怖心を持たせたところに、この法案の核心がある」と指摘。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も「非常に重大な懸念を生じさせる様々な側面がある」との声明を発表。 

また、日本在住のクルド出身者たちも先月、改正案への抗議集会を開き、母国に送還されれば“反体制派”として迫害され、命の危険に曝される恐れがあると懸念を示し、「迫害や差別を受けて逃げてきたのに、強制送還されたらどう思いますか?」「本国に帰ったら人生は終わりです」と訴えていた。

 

木下さんも「特にクルドの人たちに関しては、今まで1人も難民として認められていないという状況があるので、繰り返し申請をしてきたというケースがある。改正案が通ってしまえば、3回以上の申請として本国に送り返される可能性があるということで、大きな恐怖感を覚えていたと思う」と話す。

「日本の難民認定のハードルが非常に高いと言われているのは、命からがら逃げてきた人に対して、“自分は難民だ”ということについての立証を求めるからだ。加えて“個別把握論”といって、“反政府組織に属しているからといって、リーダー的な存在じゃないなら帰国しても迫害の恐れはないのではないか”などと評価しがちなところがあるといわれる。

もちろん日本も難民条約に加盟をしている以上、条約上の難民は保護しなければいけない。ただ、国によって難民認定のシステムには違いがあって、日本には独立した難民審査機関のようなものが存在していない。

 

だから基本的には入国の管理をする役所であるはずの入管が、難民認定や難民保護の役割も行っているということだ。それが同じ組織で行われていることについては、どうかと思う」。

 

■“あまり長く定着して欲しくはない”という考え方が?

 

難民問題について取材を続けるジャーナリストの堀潤氏も「まずその人が難民であるかどうかを調査するための体制を作ってから、どのような人について申請を認めるのか、という議論がされるべきなのに、一足飛びに回数で切って送還するというのは、政府の不作為ではないか」と指摘する。

「“私たちの仲間たちが次々と拘束され殺害されているので日本にやってきた”と説明したトルコ出身の方に対し、“あなたが銃口を向けられたわけではないですよね”と詰問をされたと聞いた。厳しすぎると思う。

 

あるいは“大学院に所属していました”というシリア出身の方に、“証明はありますか。取り寄せられますか”と言ったというケース。まさに爆撃が行われていて、指導教員が生きているかさえどうかわからないのに」。

 

作家の乙武洋匡氏は「どうしても、“はいはい、またいつもメンバーが賛成して、またいつものメンバーが反対しているのね”で終わってしまいがちだが、そうではない。一昨年の外国人労働者の受け入れ問題を思い出してみると、自民党は支持者のために“いやいや、外国人を入れるつもりはない”。でも経済界の要請も聞き入れないといけないから“これくらいの期間ならオッケーだ”という、玉虫色の決着をしてしまった。

 

人口が減っていく中で、外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか、ちゃんと議論しようよという骨太の議論をしなければならない」と訴えた。

木下さんは「国としては外国からの労働力が欲しいはずだ。しかし日本の移民政策、外国人政策の根底には、“あまり長く定着して欲しくはない”“定着しない人ならウェルカムだ”という考え方があるのではないか。それが技能実習生制度によく表れていると思う。

 

あれも3年、長くても5年居たら、後は帰ってくださいと、短い期間だけ日本で頑張って働いてください、というような制度の立て付けだ。

 

難民についても、ずっと長く日本に定着する予定の人に関してなので、厳格な姿勢で臨んでいるという部分があるのかもしれない」との見方を示した。【5月18日 BEMA TIMES】

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乙武洋匡氏が言うように、“人口が減っていく中で、外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか”という問題でしょう。

 

“外国人を定着させたくない”という内向き姿勢で、グローバル化した世界で日本は生きていけるのか?という疑問を感じます。

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フランス  来年の大統領選挙 「脱悪魔化」、コロナの追い風もあって極右ルペン氏勝利の現実味も

2021-05-16 22:55:22 | 欧州情勢

(マクロン大統領(左) マリーヌ・ルペン氏(右))

 

【マクロン大統領 ワクチン接種進展をアピール 制限緩和も】

EUでは一時期ワクチン確保が想定を大きく下回り、EUを離脱したイギリスが比較的順調にワクチン接種を進めていたこともあって、焦り・混乱・足並みの乱れなども取り沙汰されていましたが、ここにきてフランスなどEU各国の接種状況も進んできたようです。

 

****フランス、コロナワクチン初回接種2000万人達成*****

フランスは15日、新型コロナウイルスワクチンの初回接種が目標の2000万回に達したと発表した。今週には6週間に及んでいた公共施設などの閉鎖が解除される見込み。

 

エマニュエル・マクロン大統領は、「2000万」という数字に緑色のチェックマークの付いた画像をツイッターに投稿し、この節目を発表した。2000万人はフランス人口の3割に当たる。

 

保健当局によると初回のワクチン接種を完了した正確な人数は2008万6792人。うち880万5345人は2回目の接種も終えている。

 

仏政府は6月15日までに3000万人の初回接種を済ませることを目標としている。またそれまでに、現在は優先度の高いグループと50歳以上の成人に限定されている接種を、全成人が申し込めるようにするとマクロン大統領は述べている。(後略)【5月16日 AFP】

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フランス人口は約6700万人ですから、2000万人というのは単純な割り算で言えば約30%。

ちなみに日本は、少なくとも1回投与された人の割合は約3%にとどまり、世界平均の約9%に及びません。

“日本の接種、世界100位以下 発展途上国の水準、欧米と差”【5月16日 共同】

 

フランスは、新規感染者数もピーク時に比べると減少しつつあることから、上記のように制限緩和に踏み出しています。

 

****仏、コロナ規制を4段階で緩和 5〜6月、観光も再開へ****

フランスのマクロン大統領は、国内に導入した新型コロナウイルス対策の規制を5〜6月に4段階で緩和する方針を明らかにした。

 

5月19日に全商店や飲食店のテラス営業、美術館、映画館などを再開、6月9日から外国人観光客を受け入れる考え。パリジャン紙などが29日、インタビューを報じた。

 

流行「第3波」の抑制を踏まえ、原則として国内一斉に規制緩和を進める考えだが、地域ごとの流行や医療体制の状況次第で、規制を一部で維持する可能性もある。

 

政府は既に5月3日から日中の外出規制を解除する方針を発表済み。6月30日には夜間外出禁止も解除する。【4月30日 共同】

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なお、新規感染者数でみると、フランスは4月8日の84,999人のピークが減少傾向にあって、5月15日は15,685人に低下しています。

ただ、日本の5月15日6,422人に比べるとまだ倍以上の水準にあります。

 

このあたりの感覚は、日本と欧米ではかなり差があります。

それが、欧米ピーク時の「地獄」から回復した安堵感、ワクチン接種が進んでいることの安心感、あるいは日本では「さざ波」でも大騒ぎするといわれるような国民性の違いにるものなのか・・・興味深い所ですが、今回はパスします。

 

【人気が低迷するマクロン大統領 「脱悪魔化」で支持を広げる極右ルペン氏 コロナも追い風】

いずれにしても、フランス・マクロン大統領はワクチン接種の進展をアピールし、規制の段階的緩和を進めていますが、そうした対応で国民にコロナ対応の「成果」をアピールしたい狙いもあると思われます。

 

というのは、フランスでは来年には大統領選挙が行われますが、年金や労働市場などの「改革」に対する「庶民」からの批判に動じない強気の姿勢への批判に加え、(どこの国でもそうですが)コロナ対応が後手に回ったとの批判もあってマクロン大統領の支持が伸び悩み、「あの」極右マリーヌ・ルペン氏との激しい争いが想定されているからです。

 

****「庶民軽視」でマクロン大統領の人気低迷、極右政党に勢い フランス大統領選まで1年****

フランスのマクロン大統領(43)就任から今月で4年。清新さへの期待が高かった反動で、「庶民軽視」と批判される政治姿勢や新型コロナウイルス対応への不満から支持率は低迷が続く。

 

1年後の大統領選では再び極右候補との決選投票が有力視されるが、前回の圧勝劇から一転、激戦を予想する見方が強まっている。

 

マクロン氏は先月下旬、右派系読者が多い日刊紙フィガロの単独インタビューで、警察官増員などを約束し、記事掲載日に郊外の警察署などを視察した。これを受け、正式な出馬表明はまだだが、仏メディアは「事実上の選挙戦を始めた」と一斉に報じた。

 

仏調査機関IFOPが4年間を総括した世論調査では「不満足」(63%)が「満足」(37%)を大きく上回る。特に治安対策や移民問題への不満が目立つ。マクロン氏の最近の言動には、この点を攻撃してきた極右「国民連合」(旧・国民戦線)や保守中道「共和党」など野党の右派支持層を切り崩す狙いがあるとみられる。

 

4年前の大統領選では、政権を分け合ってきた共和党と社会党の候補がともに1回目の投票で敗退。決選投票では社会党政権の閣僚を辞して新興政治勢力を創設したマクロン氏が国民戦線のルペン党首(52)に得票率66%対34%の大差をつけた。

 

だが、マクロン氏が就任後に次々と打ち出した年金や社会保障の制度改革には「富裕層重視」との批判が集まり、反政府デモ「黄色いベスト運動」に発展。沈静後に到来したコロナ禍でもマスク着用の義務化が遅れるなど後手に回る対応が目立つ。

 

この4年で言動の極右色を薄めたルペン氏はコロナ禍で蓄積した国民の不満を吸収。IFOPの調査ではマクロン氏と決選投票を戦った場合の予想得票率は54%対46%と迫り、マクロン氏に失望した左派支持層の票の一部がルペン氏に流れる可能性も指摘される。

 

パリ政治学院のダニエル・ボワ名誉教授は「今の仏政界の構図はかつての『右派対左派』ではなく『中道対ポピュリズム右派』が定着してきた。ルペン氏が前回以上の票を得るのは間違いない」と話す。【5月3日 東京】

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左派支持層の票の一部が極右ルペン氏に流れるというのも不思議な感じがしますが、ルペン氏の極右イメージを払拭する「脱悪魔化」が奏功しているようです。

 

****「脱悪魔化」で抵抗感低下=仏極右、若者の支持拡大―フランス大統領選****

2022年のフランス大統領選の有力候補、極右「国民連合(RN)」のマリーヌ・ルペン党首(52)は、前身政党「国民戦線(FN)」創設者の実父ジャンマリ氏の除名処分や党名変更を経て、人種差別的イメージの払拭(ふっしょく)に努めてきた。

 

専門家は、「脱悪魔化」戦略により特に若い世代でルペン氏への抵抗感が低下していると指摘する。

 

6日付のルモンド紙が報じた世論調査によると、25~34歳の層でルペン氏を支持すると答えた人の割合は29%に上り、17年の前回大統領選時調査の23%から上昇。エマニュエル・マクロン大統領(43)を支持すると答えたのは、17年の29%から約20%に低下した。(後略)【4月24日 時事】

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若年層では、実父ジャンマリ氏以来の「極右」イメージが薄いだけに、「脱悪魔化」も進むのでしょう。

ただ、マクロン大統領にとっての問題は、そこだけではないようです。

 

これまでは、ルペン氏は決選投票には進めても、極右に対する国民の強い抵抗で決選投票では勝利できないという構図でしたが、「“極右”ルペン勝利」の現実味も出てきているとか。

 

****コロナ禍が追い風2022年フランス大統領選「“極右”ルペン勝利」の現実度****

着実に支持層を広げる極右「国民連合(RN)」。左派シンクタンクまでが、ルペンRN党首の大統領選当選の可能性を指摘し始めた――。

 

フランスの大統領選挙まであと1年。4月11日付のフランスの『ジュルナル・デュ・ディマンシュ(JDD)』紙は、出馬候補を10パターンに仮定して大統領選に関する世論調査を発表した(内容は「フランス世論調査研究所:IFOP」の調査)。

 

その結果は、いずれの仮定でも、第1回投票では現職のエマニュエル・マクロン氏(得票率23〜28%)と極右政党「国民連合(RN)」党首のマリーヌ・ルペン氏(同25〜27%)が伯仲している、というものだった。

 

もっともフランスの大統領選挙は2回投票制で、第1回投票で過半数をとった候補がない場合には、上位の2名が残って2週間後の第2回投票で雌雄を決する。その第2回投票では、マクロン氏54%、ルペン氏46%という結果になった。この他、今年に入ってからのさまざまな世論調査はいずれも、ほぼ同じような結果である。

 

これだけをみるとマクロン氏優勢、といいたいが、2017年選挙の第2回投票では、マクロン候補は66.10%を獲得しており、このときほどの優勢さはない。(中略)

 

社会党系財団レポートの示す「当選シナリオ」

そんな中、4月21日に「ジャン・ジョレス財団」が、ルペン氏勝利の可能性を示唆するレポートを出し、話題になった。同財団は、(中略)本来は「社会党」系であるが、現在ではマクロン与党の「共和国前進」にも近いとされている。

 

「最近、第2回投票ではマリーヌ・ルペンに投票してもいいと思っている左派支持層が多いと言われている。しかし、データを検討すると、この危惧はあたらない」と同レポートは述べ、危惧は、別のところにあると3つの要因を指摘する。すなわち、

 

(1)「共和党(LR)」などを支持する穏健右派層がルペン氏に流れる。

(2)RNが旧「国民戦線(FN)」時代の悪いイメージの払拭に成功する(「非悪魔化」)

(3)コアな支持層以外でマクロン大統領が嫌われてしまう

 

レポートでは、(1)については「RNの政策は共和党の政策に接近している」が、双方の支持者はまだ「かなり明確に分かれている」。ただし、共和党の支持者たちは経済面の政策についてはRNと隔たっているが、対イスラム政策、社会や家庭における権威の復活などについては接近しており、第2回投票でルペン氏への投票となる可能性もある、とする。

 

(2)については、レポートは以下のように分析する。

「非悪魔化戦略は実を結びつつある。エマニュエル・マクロンの任期が始まって以来、国民連合の候補に関するフランス人の心象は大幅に改善された」

 

(3)についての分析はこうだ。

「エマニュエル・マクロンは、第1回投票では確固たる基盤をもっているが、残りの人々に重大な拒絶を引き起こし、マリーヌ・ルペンとの一騎打ちの際に多数の棄権を引き起こすおそれがある」

 

このように、いずれも実現する可能性があるため、「マリーヌ・ルペンの最終的な勝利に無視できない可能性があると考えられる」と結論づけているのだ。

 

父を除名してまでがらりとイメージチェンジ

このレポートが発表された4月21日は、フランスの歴史に残る日である。2002年大統領選第1回投票で、左派候補の乱立のおかげもあってマリーヌの父ジャン=マリー・ルペン候補が、現職のジャック・シラク候補につづいて第2位となったのだ。

 

このときは文字通り激震が走った。シラク大統領は、「我が国民の結束、フランス人が深い愛着を持っている共和国価値」「人権、人間の尊厳」の問題だ、と国民に「民主主義の決起」を呼び掛け、各地で反ルペンのデモが渦巻いた。(中略)そして投票の結果は、得票率82.21%対17.79%でシラク大統領の圧勝であった。 

 

たしかに、ジャン=マリー・ルペン氏はアルジェリア戦争のときの反ド・ゴール派などを集めた極右政党FNの党首であり、第2次世界大戦中の対独協力のフィリップ・ペタン政権を擁護し、ユダヤ人虐殺はなかったなどとする歴史修正主義者だった。(中略)

 

2011年の党大会で、娘のマリーヌ・ルペンがFNの党首になった。「父の後を継いだ」と言いたいところだが、実は父ルペンの路線の後継者が別におり、その対抗馬として登場したマリーヌが当選したのだった。

 

彼女は、FNのイメージチェンジ、いわゆる「非悪魔化」に乗り出した。ナチスやユダヤ人差別を公然と批判し、前回の2017年大統領選の前には、ついに父を党から除名した。またアルジェリア独立を認めたためFNの不倶戴天の敵だったド・ゴールを称賛し、2017年の第2回投票の前には、ド・ゴール派極右政党と共闘した。政策面でも、とくに他の党派との最大の違いであった欧州連合(EU)と通貨ユーロからの離脱という主張を一旦捨てた。

 

大統領選での落選の後もこの路線をつづけ、「国民戦線(FN)」を「国民連合(RN)」に改名した。単純な移民排斥はやめ、治安・テロ問題にフォーカスして過激性を抑えた。そのため、2月11日の『FRANCE2』でのジェラール・ダルマナン内相との討論で、ダルマナン内相がルペンのイスラムへの態度について「柔弱だ」と非難するほどだった。(中略)

 

かつてFNはカトリック原理主義との結びつきもあったのだが、現在のRNの党是は非宗教の「共和国価値」の尊重に代わっている。

 

仏週刊誌『ルポワン』が4月14日に発表した世論調査(調査会社「Ipsos」「Sopra Steria」による)では、「共和国価値」の防衛のためにはマクロン氏よりもルペン氏の方が信頼できる、という結果がでている。フランスはカトリック信者は多いが、毎週ミサに行くような人は少なく、宗教よりも「共和国価値」が道徳の源泉になっているからだ。

 

また今の若年層はジャン=マリー・ルペン氏の印象は薄く、マリーヌ・ルペン氏しか知らない。ルペンに投票するということに対するアレルギーは少ないのだ。

 

「グローバリズム減退」で現実化したRN的な価値観

ドナルド・トランプ米大統領当選のとき、マリーヌ・ルペン党首は真っ先に祝福した。2018年には、元側近のスティーブン・バノン氏を歓迎した。

 

しかし、新型コロナウイルスの蔓延以降は、まるでトランプ氏を反面教師にするかのようだった。他国の極右勢力が“マスクを外す自由”を求めたり、ロックダウン破りを起こしたりして騒ぎを起こしていたのとは対照的に、ルペン氏はマスクの義務化を求め、マクロン政権の新型コロナへの見通しの甘さ、対策の遅さを攻撃した。

 

共産党に代わって左翼政党の代表となった「不服従のフランス(FI)」と政府批判を争ったが、大規模な大衆運動は起こさず、それをおこなったFIにくらべて穏健なイメージを与えた。

 

新型コロナは、彼女にとって追い風だったと言える。

 

RNはもともと、各国の主権を埋没させた現在のグローバリズム的EUではなく、ド・ゴール的な「諸国家のEU」を主張してきたが、コロナ禍で国境検査の強化や閉鎖がおこなわれるなど各国の主権が重視され、RNの主張が実現した形になった。

 

またマスクや医療器材などが欠乏した経験から、グローバリゼーション主義者のマクロン大統領さえも基幹産業や保健衛生など国民を守る産業は国内に戻すという政策を推進するようになった。

 

「危機は私たちが予見し何十年もの間国民に訴えてきたこと、フランス人に言ってきたことが有効なのだと認めさせました」(『フィガロ』2020年5月18日)とルペン氏は言うのである。

 

今日、政治や社会の対立点はもはや「右と左」ではなく「上と下」である、ということがはっきりしている。

 

よく「フランスの亀裂」といわれる。グローバリゼーションの恩恵を受ける「中心」=「上」と、恩恵を受けないところか犠牲になる「周辺」=「下」の亀裂だ。これは地理的なものであると同時に、かつての資本家=「右」と労働者=「左」に代わる経済的社会的な階層でもある。

 

そんな状況で、ルペン氏は「下」をすくいあげて支持を増やしている。一方で社会党や共産党など既成左派は、派遣社員、配達員、周辺地の最低賃金の者など「新しいプロレタリア」に訴えきれていない。

 

前回大統領選で、マクロン氏が66%もの得票で当選できたのは、けっして彼自身が支持されたからではない。2002年ほどではないが、「極右だけはだめだ」という「民主主義の決起」があったからである。だが今は、「下」をすくいきれなかったマクロン氏に失望し、むしろ「マクロン嫌い」がじわじわと増えつつあり、そこにルペン氏が浸透しつつあるのだ。

 

前述の社会党系の財団のレポートは、“ルペン当選”という危機を回避するために、「極右の考え方への政治的戦いを続けなければならない」「RNに投票するフランスの取り残された人々に語りかけよう」 と鼓舞する。

 

しかし戦後76年、ホロコーストもペタン政権も歴史のかなたである。「マクロン嫌い」で棄権したい人たちを「民主主義の決起」で1票を投じさせることができるのか、これからの1年が正念場となる。【5月7日 Foresight】

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ちなみのルペン氏の政府批判は以下のような内容です。

 

****仏極右ルペン氏、コロナ対策で政権批判****

(中略)ルペン氏はかつて欧州連合(EU)やユーロ圏からの離脱など過激な政策を掲げていた。しかし17年の前回大統領選でマクロン氏に敗れて以降はこれらの不人気な政策を取り下げ、有権者に普通の政治家との印象を持たせ、支持を広げる戦略をとる。

 

マクロン政権がコロナ対策で商店の休業を命じていることに対して「小規模な店は感染拡大の主な原因ではない」と批判した。コロナの感染拡大初期にマスクなどの医療品が不足に陥ったことも、政権が進めた自由貿易路線が「仏産業の独立を奪った」からだと主張した。

 

貿易交渉は欧州連合(EU)レベルでなく、各国がそれぞれ実施すべきだと主張した。EUがすべての加盟国の利益を代表することはできないとの理由だ。

 

北大西洋条約機構(NATO)についても「ロシアは危機ではない」として、イスラム過激派に対抗する組織にならなければ事実上脱退すべきだとした。欧州加盟国内を国境審査無く行き来するための「シェンゲン協定」も、欧州市民のみが恩恵を受けられる改革を提案した。

 

中国政府は一帯一路構想の参加を欧州に呼びかけているが、ルペン氏は「中国にとっての利益は分かるが、フランスにとってはどうなのか」として消極的な姿勢をみせた。

 

海洋進出を目指す中国をけん制するため仏軍が軍艦を南シナ海に送っていることには「同海域はフランスが軍事的に存在感を持つ。平和に貢献するのは重要だ」と語った。

 

極右候補と呼ばれることに「私は民主主義を尊重しているし、極右の定義は全く当てはまらない」と不快感を示した。世論調査によると、マクロン氏とルペン氏の支持率は拮抗しており、次回大統領選は2人の接戦になるとの見方が出ている。【5月13日 日経】

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ロシアに宥和的なのは欧州極右に共通するところで、ロシアは資金的に欧州極右を支援しているとも言われています。

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