(コロンビア・カリで行われた反政府デモの様子(2021年5月10日撮影)【5月12日 AFP】)
南米コロンビアでは、新型コロナによって経済が悪化し、財政状況が悪化した政府は増税を発表、これに反発する市民が抗議行動を展開、その抗議行動を鎮圧するために当局が激しい暴力を行使、市民は更に反発を強め・・・というある種“ありがち”な混乱が4月末から続いています。
****コロナ不況深刻のコロンビア、デモで24人死亡 税制改定引き金****
「コロナ不況」が深刻な南米コロンビア各地で格差の是正を求める反政府デモが続いている。抗議活動は5日で8日連続となり、これまでにデモ隊と治安当局との衝突などで24人が死亡した。国際社会が当局による暴力的な取り締まりに懸念を深める中、デモが沈静化する兆しはみえない。
首都ボゴタの大通りで5日、多数の市民が「政府を変えろ」と連呼した。平和的な訴えがほとんどだが、一部グループが暴徒化し当局と衝突。当局は催涙ガスを発射するなどし、抑え込みを図った。この日は中部メデジンや西部カリなど主要都市でも抗議活動があり、各地の道路が封鎖された。
デモは4月28日に始まった。新型コロナウイルス対策の支出で財政が悪化する政府が、消費税引き上げを含む税制改定を打ち出したことが引き金となった。
2020年の経済成長率がマイナス6・8%に落ち込む中、政府は税収増加分を貧困層対策に回すと説明したが、国民が反発した。
政府は5月3日、税制改定の撤回を発表し、カラスキジャ財務相が辞任する事態に追い込まれた。だが、その後も貧困の解消や医療・教育制度の改善、当局の暴力中止など幅広い要求を掲げた抗議活動が続く。
地元メディアによると、デモに絡み当局の暴行を受けるなどして24人が亡くなり、89人が行方不明になった。デモ参加者に対する政府の強硬姿勢にデモ隊は不信感を強めている。
国連人権高等弁務官事務所は4日、「警察の発砲を深く懸念する」との声明を出し、強硬な取り締まりの中止を求めた。米国務省のポーター副報道官も「公権力に最大限の抑制を求める」と述べた一方、「暴力と破壊行為は権利の乱用」だと、暴力的なデモ隊のグループを問題視した。
コロンビア政府は平和的なデモに寛容な態度を示しつつ、左翼ゲリラや麻薬組織の後押しを受けた武装集団が紛れ込み、デモを混乱させていると主張する。【5月6日 毎日】
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もともとコロンビアは2017年に武装解除したコロンビア革命軍(FARC)が政府軍と激しい抗争を続けていたほか、左翼ゲリラ組織、民間武装組織や麻薬密輸組織が跋扈するなど、世界的に見ても暴力的犯罪が非常に多い国ですので、そうした「暴力」に関する「温床」が政府・国民双方にあるようにも思えます。
****コロンビアで反政府デモ、死者も多数 背景に何が?****
南米コロンビアで、2週間にわたって反政府デモが続いている。首都ボゴタでは、デモ参加者が複数の警察施設を襲撃した。
クラウディア・ロペス市長は暴力行為は「受け入れられない」と述べ、コロンビア国軍に警備支援を依頼した。
これまでに、警官1人を含む少なくとも24人が一連の抗議で亡くなっている。国連は治安部隊に対し、銃火器の使用を控えるよう訴えている。
コロンビアのオンブズマンによると、少なくとも11人の死亡に警察が絡んでいる。また、これまでに警察との衝突で800人以上が負傷したほか、80人以上が行方不明になっているという。
ボゴタ市によると、スペイン語でCAIと呼ばれる警察施設25カ所が襲撃された。CAIは、緊急出動用に街中に設置されている、1〜2部屋ほどの交番を指す。
ロペス市長は、警官15人が中にいたCAIに火がつけられたが、死人は出なかったと話した。また、警官が銃撃されたりナイフで襲われたりしたケースもあると述べた。
5日には、ボゴタ市内で夜間に起きた暴動で、市民30人と警官16人が負傷した。また、南部カリでは最大規模の暴動が起きた。
人々はなぜ抗議している?
デモは4月28日、政府が経済危機脱却のために打ち出した税制改革に反対する形で起こった。(中略)
イヴァン・ドゥケ大統領は2日、この改革案を取り下げると発表したが、抗議の波が収まることはなかった。抗議の対象は年金や保健、教育システムなどにもおよんでいるほか、治安部隊による過剰な暴力行為にも非難の声が上がっている。
カリでは何が起きた?
コロンビア第3の都市カリでは、抗議活動が始まって以来、最大の暴力行為が報告されている。道路は封鎖され、多くの警察施設や公共施設、個人所有の建物などが襲撃を受けている。また、警察を支援するため軍隊が派遣されている。
国連の人権高等弁務官事務所は4日、前日に「警察が抗議参加者に発砲した」として、カリでの暴力行為に「深い懸念」を示した。
現地コミュニティーのリーダーを務めるヴィン・レイエスさんはBBCムンドの取材で、デモの最中に「覆面警官と兵士が半自動小銃やライフルを発砲した」と説明。「デモには母親や子供もいた」と話した。
一方で専門家からは、カリでの緊張には別の要因があるとの声もある。この地域は長年、民間武装組織や麻薬密輸業者による紛争に巻き込まれており、コロンビア国内でも特に暴力の多い街だという。また、この地域に武器が多いことを指摘する専門家もいる。
人権専門家のカセリン・アギレさんは、「暴力縮小を求める市民団体もあるが、家の中から発砲する市民グループもある。街に流れ込む武器のせいで人々の用心深さに拍車がかかっている」と話した。
政府の見解は?
コロンビア政府は、左翼の反政府組織が暴力を起こしていると非難している。また、反政府組織「民族解放軍(ELN)」のメンバーに付きまとわれていると述べた。ELNは、2017年に武装解除したコロンビア革命軍(FARC)の分派で、政府との和平に合意していない。
ディエゴ・モラノ国防相は、「一連の暴力は組織的で、犯罪組織の指導と資金援助を受けている」と述べた。
警察も、窃盗や放火といった「犯罪要素」を防ごうとした警官が襲撃されるケースが多いと話している。
こうした中でドゥケ大統領は、政府は国全体と対話する用意があると発言。「市民の声を聞き、解決策を築いていく場所」を創設すると発表した。
コロンビアの反政府運動で死者が出るのは今回が初めてではない。昨年9月には、ボゴタ市で警官にテイザー銃を向けられた男性が死亡した事件への抗議で、7人が殺害されている。【5月6日 BBC】
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上記記事にもあるコロンビア第3の都市カリを中心に、未だ混乱は拡大しており、犠牲者も59人にのぼっています。
****コロンビア第3の都市で衝突、反政府デモの死者59人に****
コロンビア第3の都市カリで28日夜、反政府デモの市民と警察が衝突し、少なくとも13人が死亡した。一連の抗議行動による死者は少なくとも59人になった。政府は29日、軍をカリに派遣し、治安対策を強化した。
28日の衝突を受け、人口約220万人のカリでは通りから市民の姿がほぼ消えた。バリケードの残骸やがれきの山から上る煙が、激しい衝突だったことをうかがわせている。
コロンビアでは、イバン・ドゥケ政権に対する抗議行動が1か月以上続いている。カリでは、コロンビアの他地域と同様に、貧困とコロナ禍によって人々の間に怒りや恨みが広がっている。
当局によると、一連の抗議行動による死者は、カリでの13人を含めて少なくも59人に上った。国防省は、負傷者は民間人と警察官などを合わせて2300人を超えたとしている。
抗議デモがより大きな反体制運動へと姿を変えている中、28日からカリにいるイバン・ドゥケ大統領は、警察を支援するためカリなどに軍を派遣していると述べた。
経済学者らによると、コロンビアでは総人口約5000万人の42%以上が貧困に苦しんでいる。もともと経済的に弱い立場にあった人の多くが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)によって厳しい貧困に陥った。
4月28日、増税案に怒った人々が路上に出てデモを始めた。増税案はすぐに撤回されたものの、これを機に大勢の人がデモに参加するようになった。治安部隊による強硬な対応にもかかわらず、抗議行動の勢いは増し続けている。 【5月30日 AFP】
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混乱がここまで拡大したのは、前述のように「暴力」が身近にある環境という問題、そうした状況での治安当局の強権的低湿もありますが、基本的には多くの貧困層が存在し、その貧困層がコロナ禍で大きな犠牲を強いられているところにあります。
コロナ禍が非対称的に貧困層により厳しい負担・犠牲を強いることは常々言われるところです。
貧困層の場合、リモートなどのコロナ対策が難しい職種が多く、より大きな危険にさらされます。
また、コロナ対応としての経済規制はたくわえの無い貧困層にとっては、コロナ感染以上に死活的な問題ともなります。
日本のような国では「当たり前」のように言われる“自粛”も、貧困層の犠牲のもとでの自粛可能な富裕層・中間層の価値観の押しつけにもなるという側面も。
コロンビアでは、そうした犠牲を強いられる貧困層の怒りが、消費税増税の発表で爆発、更に治安当局の“暴力”で拡大しているようにも。
新型コロナは中国語で“新型冠状病毒肺炎”、略して“冠”
「苛政は冠よりも猛し」といったところか。