孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  イメージと現実のギャップ 核開発の現状

2024-09-10 22:52:01 | イラン

(イラン・イスファハンのチャイハネ(茶店)で水たばこを楽しむ若い女性 2017年旅行時に撮影。
当時は穏健派とされるロウハニ大統領の時代でしたが、当局は人々が集まって水たばこを楽しみながら政治談議を行うチャイハネを嫌い、その数は非常に少なくなっていました。

ガイド氏のつてでようやく探したこの店も、表の店内では水たばこは吸えず、奥の別部屋に用意される形。まるで非合法マリファナでも吸うような雰囲気。

そんな状況ですから、若い女性がこんな場所に出入りして大丈夫なのか?と心配にもなりましたが、彼女らは屈託なく水たばこを楽しんでいました)

【「イランはイスラムではない」「イラン人ムスリムは世界で最も世俗的」】
イランに関しては、強権的な神権政治、厳しいイスラム的な規制という大方のイメージがある一方で、実際のイラン社会の様相はそうしたイメージとは異なるものがあります。

****改革派大統領誕生のイラン、10年内に大変動か=「厳格な宗教国家」とは程遠い一面も****
7月初めにイラン・イスラム共和国で行われた大統領選挙の決選投票で、改革派と言われるペゼシュキアン元保健相が保守強硬派の候補を破って当選した。

同氏は欧米との対話を重視する立場。「保守強硬派による政策運営に不満を持つ人たちの受け皿として、支持を伸ばした」(NHK)とみられる。

外交などの最終的な意思決定権は最高指導者のハメネイ師(85歳)が握っているため目立った変化は期待できないという見方もあるが、ハメネイ後の体制は不透明で、今後10年以内の大変動を予測する向きもある。

米国やイスラエルと激しく対立、核開発を進める一方で、イスラム体制への支持率低下にも直面している中東の大国、イラン。その動向は日本にとっても無視できない。

(中略)
酒・豚肉もOK、国民は世俗的
イラン革命後の同国のイメージは、「キス攻撃」(親欧米的なパーレビ王朝下のイランで開催された試合に出場して健闘した日本のサッカー選手が、試合後に大勢のイランの若い女性から祝福のキスをされたというエピソード)から連想されるものとは正反対だ。

厳格なイスラム教の教えが社会を支配し、酒はご法度。女性は誰もがスカーフやチャドル(体全体を隠す布)で髪や体を覆い、外国人はもちろん、夫以外の男性との接触は禁止。

「70年代には欧米と同様のライフスタイルで暮らしていた人たちもいたはずで、彼らはどうしているのだろう」と疑問に感じることもあったが、政府の締め付けが厳しい中、イスラム共和国体制に同化せざるを得ないのだろうと思っていた。日本人の多くは、私と同様のイメージを抱いているはずだ。

そんなステレオタイプのイラン観を根底からぶち壊す本が今年出版された。同国に長期にわたり滞在した若宮總さんが執筆した「イランの地下世界」(角川新書)がそれだ。(中略)

同書によると、1979年のイスラム革命直後は、イラン人の多くは敬虔で、かつ宗教上の最高指導者(当初ホメイニ師、のちハメネイ師)が統治するイスラム共和国体制を支持していた。

しかし、その後のスカーフの強制や言論弾圧、イラン・イラク戦争(1980〜88年)、経済の低迷などを経て、現在は過半数が「イスラム体制を支持しないことはもちろん、もはや熱心なムスリム(イスラム教徒)ですらない」という。今回の大統領選挙の結果も、この指摘を裏付けていると言える。

敬虔なイスラム教徒でないことは、当然ながら行動に表れる。スカーフを適切に着用していないという理由で警察に拘束された女性の不審死をきっかけに燃え上がった2022年の反政府運動以後、スカーフで髪を隠さない女性が増加。

イスラム教でタブーとされている豚肉や酒、さらにはマリファナなどの薬物も、その気になれば比較的簡単に手に入る。

最近はイスラム教から離れる若者も少なくないという。本書の解説で高野秀行氏(ノンフィクション作家)が書いているように、「イラン・イスラム共和国は世界で最もイスラムに厳格な国家なのに、国民の圧倒的多数を占めるイラン人ムスリムは世界で最も世俗的」というパラドックスが存在するようだ。

最高指導者ハメネイ師の退場でどうなる?
同書で興味深いのが、周辺のアラブ諸国や、友好国とされるロシア、中国に対する一般イラン人の見方だ。

われわれ日本人はイランとアラブの区別がつかず、ほとんど同一視しているきらいがある。しかし、かつてイラン高原を中心に中央アジアから現在のトルコ、エジプトまで支配した古代のペルシア帝国(アケメネス朝、ササン朝など)を7世紀に倒したのは、イスラム教を奉じたアラブ軍だ。

イラン国内では近年、古代ペルシア帝国への憧れの強まりに比例する形で「アラブ嫌い」の風潮が年々高まっているという。

イラン政府の公式の立場とは異なり、昨年10月以降のガザをめぐる武力衝突では、若者を中心にイスラエルを支持する国民が多いとの指摘には驚かされる。

また、イラン政府は近年、ロシア、中国との関係を深めているが、支持率が低下しているイスラム体制をバックアップしているとして、この両国も国民の間では人気がない。

そもそもロシアは、19世紀以降一貫してイランの領土を侵食してきた国だし、中国に対しては、一般国民の多くが「(欧米諸国の)経済制裁下で生じた空隙を突いてイランを食い物にする『招かれざる客』」と呼んでいるという。

実は、イラン国民に最も好かれている外国は日本なのだが、日本人のイランへの関心は薄く、イラン側の「壮大な片思い」になっていると説く。

最後に筆者は、今後10年程度の間にイラン政治に大きな変化が起こる可能性があると予測する。10年というのは、今年85歳になるハメネイ師の退場が、一つのターニングポイントになるとみられるからだ。

イスラム体制は今のまま存続できるのか、形を変えるのか。国民の一部に強い願望のあるパーレビ王朝の復活(前国王の息子が米国に居住)があるのか。それとも…。

7月下旬に日本記者クラブで、「大統領選後のイランと中東情勢」のテーマで会見した田中浩一郎慶応義塾大学教授は「イスラム体制が支持を失っているのは間違いないが、次が見えない。人口9000万の国が混乱した場合の影響はとてつもなく大きく、その不安定性は対岸のアラビア半島に及ぶ。日本は依然として原油の95%をあの地域から買っている」と語り、危機感を隠さなかった。

予想されるイランの政治変動は、日本にとって決して他人事ではない。今後の動向に注目したい。【9月10日 レコードチャイナ】
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私はイランには7年前に物見遊山の観光旅行を1回しただけです。
ですから、イラン社会の実相について語る資格はまったくありませんが、上記記事が指摘するイランのお固いイスラムのイメージと実際の人々の生活のギャップは私もそのとき強く感じました。

特に印象に残ったのは、「イランはイスラムではない」という現地の方の言葉です。

その意を説明すれば、イラン国民のアイデンティティーはペルシャ時代からの文化・風土にあり、イスラムはよそ者アラブ人がイランに7世紀頃に持ち込んだものに過ぎない・・・・という認識です。

上記記事の“イラン国内では近年、古代ペルシア帝国への憧れの強まりに比例する形で「アラブ嫌い」の風潮が年々高まっているという。”という記述とも符合する話です。

「イラン人ムスリムは世界で最も世俗的」ということに関しても、同じような印象を持ちました。もちろん敬虔なイスラム教徒も多数いますが、それと併存してイスラムをあまり意識しない生活もありました。

私にとっては“目ウロ”の旅行でした。

今後のイラン政治については、ハメネイ師の死去がポイントになることは多くの者が指摘するところですが、その後どうなるのか・・・現段階で知り得る人はいません。

現実政治に目を移すと、改革派大統領が就任した後も、最高指導者や議会保守強硬派と改革派大統領が激しく衝突したという話も聞きません。

ペゼシュキアン大統領が穏便にうまくやっているのか・・・
あるいは、最高指導者や保守派内部で意識の変化があるのか。

上記記事の最後に登場する田中浩一郎慶応義塾大学教授は“イラン大統領選は「出来レース」か、改革派ペゼシュキアン氏の勝利はハメネイ師の思惑通り?選挙操作の可能性も”【7月13日 JPpress】で、改革派に勝たせることは最高指導者も了解の上であり、改革派が勝利するように工作された可能性もある・・・という大胆な主張をしています。(会員登録していないので記事前半しか読めていませんが)

最高指導者や保守派の意向はイスラエルへの対応や核開発にも絡んできます。

【核開発の現状】
イランの核開発については、アメリカはイランが核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとの、これまでより一歩踏み込んだ情報評価を示しているとのこと。

****<米国で高まるイランへの警戒>核兵器製造準備へ米国が評価を変えた三つの可能性****
ウォールストリート・ジャーナル紙が、米国の国家情報長官が7月に議会に対して行ったイランの核計画についての報告において、イランが核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとの情報評価を示していることを報じる解説記事‘Iran Is Better Positioned to Launch Nuclear-Weapons Program, New U.S. Intelligence Assessment Says’を8月9日付けで掲載している。概要は次の通り。

米国の情報機関の新たな評価によれば、イランは核兵器計画に着手する準備を以前よりも整えているとのことである。イランは数個の核兵器のために必要な高濃縮の核物質をすでに製造している。

米国の情報コミュニティは、依然としてイランは現在、核装置を製造する作業自体は行っていないと評価している。イランの核兵器計画は、2003年にほぼ中断されたものとみられているが、最高指導者のハメネイ師がこれを再開させるよう考慮しているとの証拠もないとのことである。

一方、国家情報長官の7月の議会への報告では、イランが「核装置を生産すると決めれば、それに着手する準備を以前よりも整えている」と警告している。

また、この報告では、イランは「実験可能な核装置を製造するのに必要となる、核兵器開発の主要な活動には現在のところ従事していない」というこれまで何年もの間、用いられてきた標準的な表現が削除されている。

ハマスの指導者がイランにおいて暗殺され、イランがイスラエルを攻撃すると脅して以来、中東では緊張が高まっている。

米国はイランが核兵器を取得することを決して認めないとバイデン大統領は累次にわたって述べてきた。イランが核装置の製造に乗り出したと米国が判断すれば軍事行動をとる可能性が高まることとなる。

共和党は、バイデン政権の対応が不十分であると批判しているが、バイデン政権の方はトランプ前大統領が2015年のイラン核合意から離脱したため、イランが核活動を活発化させたと反駁している。

イランが行っているとされる作業の性格については、米国政府関係者は詳細を明らかにしなかったが、このところ、イスラエルと米国の関係者の間では、コンピューターモデリング、冶金などの分野を含め、イランが兵器化に関連した研究を行っていることが懸念されていた。そうした作業は、核兵器に必要な部品を準備する作業と実際の核装置の組み立ての間に位置するグレーゾーンである。

「今やイランは核兵器級のウランの製造技術を獲得したのであるから、次の論理的なステップは政治的な決定がなされた際に核装置を作るのに必要な時間を短縮するため、兵器化の活動を再開することである」とオバマ政権時に米国家安全保障会議(NSC)で勤務したゲイリー・セイモアは指摘した。

「最高指導者は兵器化の決定を下していないという評価には同意するが、同時に、最高指導者は核の敷居の最も高いところまで科学者が研究をすることを禁じているわけではないと考える」とイスラエル政府の元高官であるアリエル・レビテは述べた。(後略)【9月5日 WEDGE】
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イラン側には、イスラエル対応でも、核開発問題でも、今はいたずらに緊張を高めたくないとの思いもあるのかも。

イランの基本的な核開発に関する戦略は以下のようにも
“イランの意図についての専門家の間の有力な見方は、イランは「核取得能力(Break out capability)」を構築しようとしてきているというものである。これは、核取得の意思決定さえすれば時を置かずして、それを実現できる能力のことである。つまり、核オプションを保持し、核兵器を製造する能力の取得を目指しつつ、その手前で止める「寸止め」戦略をとっているとの見方である。”【同上】

なお、国際原子力機関(IAEA)は現状を以下のように評価しています。

****核爆弾4個に迫る量=イランの高濃縮ウラン―IAEA****
国際原子力機関(IAEA)が29日、加盟国に送付したイラン核開発に関する報告書によると、濃縮度最大60%のウランの保有量は3カ月前よりも22.6キロ増え164.7キロとなり、核爆弾4個分に迫る量に達した。ロイター通信などが報じた。

ウランは90%まで濃縮すれば核爆弾に転用可能とされる。イランが保有する濃縮度最大20%のウランは813.9キロ。イランは核兵器開発の意図を否定する一方、IAEAによる監視強化を拒んでいる。【8月30日 時事】 
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そのうえで、「大幅な増産を加速させている兆候はない」とも。

****イラン核開発めぐり IAEA事務局長「ウラン大幅増産の兆候はない」****
IAEA(=国際原子力機関)のグロッシ事務局長は9日、イランによる核開発に必要な高濃縮ウランの生産について、「大幅な増産を加速させている兆候はない」と述べました。

「(イランは)いくつかの作業を行っているが、濃縮ウランの大幅な増産を加速させていることを示す兆候は何もない」(グロッシ事務局長)

IAEAの定例理事会が本部のあるオーストリアのウィーンで9日から始まり、グロッシ事務局長はイランの新しい指導部と近い将来、核問題について協議を再開すると明らかにしました。

イランでは5月、ヘリコプターの墜落事故で当時の大統領と外相が死亡し、「核合意」の再建に向けた対話がとだえていました。核兵器の開発には、濃縮度90%の「兵器級ウラン」が必要とされていて、イランはすでに濃縮度60%のウランを貯蔵していることが確認されています。【9月10日 ABEMA Times】
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イラン  改革派新大統領が目指す小さな改革と「橋渡し」 イスラエルとは神経質な局面が続く

2024-08-28 23:14:02 | イラン

(ペゼシュキアン大統領(ハメネイ師の右隣)、イラン閣僚と会談する最高指導者ハメネイ師(中央) ハメネイ師とペゼシュキアン大統領の間の額縁写真は初代最高指導者ホメイニ師【8月28日 VOI】)

【改革派ペゼシュキアン大統領 イスラエル報復を抱えて厳しい船出】
イランの改革派ペゼシュキアン大統領は、就任3日後の7月31日、就任宣誓式に招待されたハマス最高指導者ハニヤ氏がイスラエルによって首都テヘランで暗殺され、イスラエルへの報復が不可避という改革実現のためには逆風の中でのスタートとなっています。

****融和へ転換、厳しい船出 イラン大統領、就任1カ月*****
イランの改革派ペゼシュキアン大統領が就任して28日で1カ月。核問題で欧米との対立を深めたライシ前政権の強硬路線から対外融和への転換を目指すが、就任直後、支援するイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が国内で暗殺された。

イスラエルに宣言している報復を実行した場合、欧米の非難は必至で、厳しい船出を強いられている。

就任3日後の7月31日、就任宣誓式に招待されイランの首都テヘランを訪れたハニヤ氏が暗殺された。イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルの犯行として報復を宣言。ペゼシュキアン氏は「テロリストである侵略者にひきょうな行為を後悔させる」と警告した。

ペゼシュキアン氏はすぐに報復しないよう主張したと伝えられている。対応を誤れば中東の緊張を一層高め、対外融和を掲げた選挙公約に反することを懸念した可能性がある。

25日には、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラがイスラエルと大規模に交戦したが、ペゼシュキアン氏はいまだ反応を示していない。欧米を刺激しないよう腐心しているもようだ。【8月27日 共同】
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【小さな社会・経済改革、保守派との橋渡しを目指す新大統領】
改革派ペゼシュキアン大統領については、イランの最終的な意思決定は最高指導者ハメネイ師の決断によるので、保守強硬派が支えるハメネイ体制にあっては手かせ足かせで思うような仕事はできない・・・というのが一般的な見方です。

しかしながら、ペゼシュキアン大統領の存在を「何もできない」と過小評価するのもまた誤りでしょう。

もとよりペゼシュキアン大統領の目指すものは過激な改革ではなく、日常生活の改善を目指す小さな社会・経済改革であり、穏健な改革派と穏健な保守派の間の橋渡しであるとのことです。

****〈イラン新大統領の厳しい船出〉国内外から出される足かせ、改革を実行できるのか****
ジョンズホプキンズ大学高等国際関係大学院のバジョグリ助教授とナスル教授が、Foreign Affairs誌電子版の7月29日付け論文‘A More Normal Iran?’で、7月5日のイランの大統領選挙に勝利した改革派のマスード・ペゼシュキアンがイランを変え得るのかを論じている。主要点をごくかいつまんでご紹介すると次の通り。
・・・・・・・・・・・・・・・
多くのアナリストは、ペゼシュキアンの勝利をさして重大事とは思っていない。ペゼシュキアンは余りに弱く、ハメネイに手を縛られているからである。ペゼシュキアン自身、過激な変革に関心を持っていないようでもあり、以前の改革派の大統領とは違って、彼はハメネイに忠誠を誓っている。

にもかかわらず、将来の歴史家は2024年選挙をイランが決定的に変わった瞬間として位置づけるかも知れない。ペゼシュキアンが大幅な改革を追及したからではなく、彼が穏健なイスラムの政権を作り得たことがその理由である。

彼はイランには穏健な改革派と穏健な保守派から成る連立が存在し得る空間があることを示した。選挙戦ではペゼシュキアンは人々の日常生活の改善を目指す小さな社会・経済改革に焦点を当てた。

米国との外交の刷新はより困難であろうが、交渉を支持するよう、そして控えめな核についての合意を承認するようハメネイを説得することは出来る。

ペゼシュキアンは、当選以来、優先事項は良いガバナンスと「橋渡し」であることを明確にしているが、いずれも変革的な政治改革を要する訳ではない。彼は政府を改革派と保守派の双方で構成することを欲している。

政府が発足すれば、ペゼシュキアンは経済改善の圧力に直ちに当面するであろう。そのために、彼は赤字予算、財政の乱脈、経済的欠乏、水と耕地の不足の原因となっている慣行――例えば、一定の既得権益に流れる補助金――を変えることを約束している。

けれども、国内的な改革で経済に出来ることには限界があろう。イランは投資を死活的に必要としているが、西側がその制裁を緩和しないことには可能でない。その目的で、ペゼシュキアンはイラン経済の改善のためには和解が必要だとして米国との真剣な外交上のエンゲージメントを強く主張した。

イランの外交政策を変えることは、それが大体においてハメネイと革命防衛隊の領分であるので難しいであろう。しかし、核外交に何のインパクトも与えられないということではない。

ハメネイは核プログラムの拡大を承認したが、イランに対する制裁圧力を減じ得るのであれば、交渉することには満更でもない。ハメネイはウィーン協議のライシの企てを支持し、2023年には米国との間で秘密のディエスカレーションの合意を成し遂げた経緯がある。

ペゼシュキアンの政策転換の結果は、もちろん、米国がエンゲージメントに応ずるかにかかっている。米国は彼がどの程度動く余地を有しているかをテストすべきである。

米国の当局者は彼らが思っている以上にペゼシュキアンが自由を有していることを発見するかもしれない。彼はハメネイの支持を有している。

もちろん、ハメネイの支持はペゼシュキアンがイスラム共和国という体制の人間であることを意味する。彼がハメネイを裏切ることはない。彼の目標は安定した政治秩序を作り出すことである。しかし、過激な変化でないにしても、変化は重要な影響を持ち得る。
*   (評論)   *

米国も冷淡な対応
先のイラン大統領選挙における改革派のペゼシュキアンの勝利の経緯、彼の特質、そして選挙を巡る四囲の状況に関する筆者の観察は客観的で的確なものと考えられる。

ペゼシュキアンはハメネイの絶対的権力に服す、あくまでも体制内の人間であり、従って、彼の行動の自由には限界があることに留意しつつも、彼が目指す改革は現体制の枠内に十分収まり得るはずのものである、と指摘している。

彼が目指すのは国民の日常生活の改善のための小さな社会・経済改革であり、そのための実際的な政治である。そして、経済の立て直しのために、西側の制裁の緩和を実現すべく西側とのエンゲージメントを目指している。彼の改革は過激な変化ではないが、イランの今後に重要な影響を持ち得る、と論じている。

この先、ペゼシュキアンが指向する方向に事態が進展するか否かは分からない。彼の改革がイランの将来、特に、その対外関係に及ぼす潜在的なインパクトにどれほどのものがあるかは予測の限りではない。

懐疑的な見方はイラン国民の間にも多い。他方、ペゼシュキアンの改革の成否は、彼が求めるエンゲージメントに米国をはじめ西側がどう対応するかにかかっている側面のあることが指摘されねばならない。

ペゼシュキアンの勝利について、7月7日、米国務省の報道官は「この選挙がイランの方向性の基本的な変化あるいは市民の人権尊重の進展をもたらすとは期待していない。……イランの政策は最高指導者によって定められる」「選挙はイランに対する米国のアプローチに重要なインパクトを持つことにはならない。われわれのイランの振舞いに対する懸念は変わっていない」と述べたと報じられている。

この冷淡で紋切型の応答はいかがなものかと思われる。7月30日のペゼシュキアンの宣誓式に特使として出席したのは西側では欧州連合(EU)のエンリケ・モラ欧州対外活動庁事務次長と日本の柘植芳文外務副大臣のみだった模様である。

欧米の反応は全般的に冷淡のようであるが、少なくとも、ペゼシュキアンの出方によっては積極的に対応し得るとの含みを持たせた立場を維持すべきではないかと思われる。

船出早々、強硬路線に
なお、7月30日の宣誓式に出席したハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤが、その数時間後、テヘランで暗殺された。暗殺がペゼシュキアンの改革と西側との関係改善の努力を妨害する効果を併せ狙ったものであったとすれば、その目的においては成功である。

いずれにせよ、ペゼシュキアンの外交が始動する前に、旧態依然たる強硬路線を踏襲することを強いられる怖れが出て来たようである。【8月23日 WEDGE】
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イランでは閣僚は議会での信任が必要で、保守派が多数を占める議会で信任が得られるか、最初の関門として懸念されていましたが、そこは無事通過したようです。

****イラン国会、改革派ペゼシュキアン大統領の閣僚候補19人を全員信任****
イラン国会は21日、マスード・ペゼシュキアン大統領が指名した閣僚候補19人の信任投票を行い、全員を信任した。大統領選期間中、国会で過半数を占める保守強硬派の批判にさらされてきた改革派のペゼシュキアン氏は、行政運営における最初の関門を通過した。

ペゼシュキアン氏は19日、国会議員との会合で、閣僚指名にあたっては全閣僚候補について、国政の全権を掌握する最高指導者アリ・ハメネイ師に相談したことを明らかにしていた。

ペゼシュキアン氏は大統領選で、核開発を巡る核交渉の立て直しや、米政府などが科している制裁の解除を公約に掲げて当選した。【8月21日 読売】
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大統領、最高指導者、議会保守派の間で、一定に調整が可能な環境はあるようです。

【対イスラエル報復を睨んで“波乱含みの神経質な局面”が続く】
今後については、イスラエルへの報復をどういう形で行うのかが課題となっていますが、イラン・イスラエルともに戦闘が激化・本格化する事態は避けたいのが本音で、“波乱含みの神経質な局面”が続くと予想されます。

*****ハマス最高指導者の殺害から1カ月 続くにらみ合い 戦闘激化避けたい当事者****
イランが支援する反イスラエル民兵組織の幹部ら2人が殺害されてから約1カ月。イランはイスラエルへの報復を明言しており、パレスチナ自治区ガザを発端とする戦闘が広域化する恐れがある。ただ、民兵組織やイラン側も戦闘激化を避けたい事情を抱えており、波乱含みの神経質な局面が続きそうだ。

イスラエルは7月30日、レバノンで親イラン民兵組織ヒズボラの幹部を殺害したと発表した。翌31日にはイスラム原理主義組織ハマスのハニヤ最高指導者がイラン訪問中、何者かに殺害された。イスラエルのネタニヤフ政権は殺害に関わったかには触れていないが、この事件でいくつかの利益を得たことは事実だ。

特に、イランがハニヤ氏殺害を受けてイスラエルへの報復を宣言し、バイデン米政権がイスラエルの防衛強化に乗り出した意義は大きい。イランで就任したばかりの改革派、ペゼシュキアン大統領が掲げる対米関係の改善が当面は困難になったからだ。ネタニヤフ氏は以前から米イランの相互接近を警戒していた。

ヒズボラは8月25日、幹部殺害に対する報復としてロケット弾320発超をイスラエルに発射した。イスラエル軍もこの日、100機前後の戦闘機でレバノン国内のヒズボラの軍事拠点40カ所以上を攻撃した。

攻撃の応酬は昨年10月の交戦開始以来、最大規模となったが、死者はレバノンで3人、イスラエルで1人にとどまったもよう。双方が人的被害を抑えるため周到に計算したとみられる。

8月25日付英紙ガーディアン(電子版)は、パレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸に兵力を投入するイスラエル側だけでなく、レバノンで政党を有するヒズボラも、戦闘が激化すれば痛手を被るとし、両者に深入りを避けたい「切実な理由」があったと報じた。

一方、イスラエルへの報復を誓ったイランも、「限定的で計算された正確な対応」(アラグチ外相)をするといった抑制的なメッセージを発している。

イランは国民の不満拡大を背景に、反米の保守強硬派が選挙で敗北し大統領ポストを改革派に明け渡した。経済再生など内政の課題は深刻で、イスラエルや米国の反撃を招くような報復は回避したい−との分析が多い。

こうした評価は現状を反映したものに過ぎず、内政事情や優先順位の変動により、イスラエルやイランが激しい戦闘にかじを切る可能性は否定できない。なかでもイランは報復を封印すれば「前例」を作ることになりかねず、いずれ何らかの形でイスラエルを攻撃してその事実を国内に宣伝する可能性は残っている。【8月28日 産経】
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ヒズボラ・イスラエルの攻撃応酬は、“双方が人的被害を抑えるため周到に計算したとみられる”という抑制されたものにとどまり、今後についても“一段落”の様相です。

****イスラエルへの報復攻撃、ヒズボラが幕引き図る可能性…「満足のいく結果であれば作戦完了」****
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師は25日のテレビ演説で、イスラエルに対する25日の報復攻撃について、「計画通り正確に行われた」と述べた。

演説では、イスラエル軍情報機関の基地などが標的だったとして再攻撃を示唆しつつ、「満足のいく結果であれば、作戦完了とみなす」とも語った。今回の攻撃で報復の幕引きを図る可能性もある。

ヒズボラを支援するイランも、首都テヘランでのイスラム主義組織ハマス最高幹部殺害を受け、親イラン組織と連携したイスラエルへの報復を宣言しているが、ナスララ師は今回の攻撃が「独自の判断で実行された」と話した。イランの了解を得たうえで、単独で実施したとみられる。【8月27日 読売】
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このヒズボラ・イスラエルの攻撃応酬に対し、イランは動きを見せず、慎重な構えです。

【アメリカとの交渉については最高指導者ハメネイ師も一定に了解】
イラン・ペゼシュキアン大統領が目指すのはアメリカとの交渉、制裁緩和ですので、それを不可能にするイスラエルとの戦闘激化、アメリカのイスラエル支援といった事態は避けたいところでしょう。ただ、何もしない訳にもいかないので、イスラエル・アメリカの出方も見ながら、慎重に「報復」の可能性を探っているところでしょう。

アメリカとの交渉については保守強硬派のハメネイ師も一定に了解しているようです。

****「敵との対話も必要」イラン最高指導者ハメネイ師が新大統領の融和路線に理解示す****
イランの最高指導者・ハメネイ師が改革派のペゼシュキアン大統領らとの会合で「敵との対話が必要な時もある」と述べ、欧米への融和路線を認めたことが分かりました。

イランの最高指導者・ハメネイ氏の事務所は27日に、ペゼシュキアン大統領や新しい内閣の担当者がハメネイ師と会談したと発表しました。

会談でハメネイ氏は「敵を信用するべきではないが敵との対話が必要な時もある」と述べました。 改革派のペゼシュキアン大統領が掲げる欧米などへの融和路線に理解を示した形です。

ペゼシュキアン大統領は5月にライシ前大統領がヘリコプターの墜落事故で死亡したのを受け、欧米との対話の必要性を強調して選挙戦に勝利しました。【8月28日 テレ朝news】
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イラン政治は反米・保守強硬派の側面が強調されがちですが、現実主義の側面もありますし、最高指導者としても改革派大統領を支持した国民の意向というのは一定に配慮せざるを得ません。 そうしないと、国民の不満・批判は体制の在り方に向かう危険がありますので。

イランにしても、中国にしても、「強権支配」と言われていますが、民意をくみ上げる民主的選挙がない、あるいは不十分なだけに、指導部は世論の動向に敏感になる面があります。

【アメリカに求められるイラン国内の改革の芽を潰さない対応】
アメリカは、イスラエル・ネタニヤフ首相とはガザ停戦をめぐってやりあう場面もありますが、イスラエル防衛という基本にあってはイスラエル支持を崩していません。

****米、イスラエルを防衛 イランが攻撃なら=大統領補佐官****
 米ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は27日、イランがイスラエルを攻撃すれば、米国はイスラエルを防衛すると改めて表明した。

カービー氏はイスラエルのチャンネル12に対し、攻撃の可能性を予測するのは難しいとしながらも、米政府はイランのレトリックを深刻に受け止めているとし、「イランに対する米国のメッセージは常に一貫している。第1にイスラエルを攻撃するなということ、第2に攻撃が行われれば米国はイスラエルを防衛するということだ」と語った。

中東情勢の緊迫化を受け、米国は中東地域に2つの空母打撃群を維持しているほか、F22戦闘機を追加配備。カービー氏は、イスラエルとこの地域に展開する米軍を防衛するために、必要な限りこの態勢を維持すると述べた。(後略)【8月28日 ロイター】
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イスラエルとしてはハマス最高指導者ハニヤ氏殺害によって、緊張を高め、アメリカを自国側に引きとどめて、イラン・アメリカの交渉を阻止するという「成果」を一定に得た・・・というところです。

ただ前出【WEDGE】も指摘するように、アメリカのイランへの“冷淡”な対応は、結局イラン国内における“改革”の芽を潰し、イランを反米・保守強硬に追いやることになります。これまでもそういう愚行を繰り返してきました。

アメリカの対応については、改革派大統領が誕生し、最高指導者も「敵との対話も必要」と語る状況を利用して、イランを“改革”の方向に引っ張る工夫が欲しいものです。

その点で、トランプ復活はイランとの交渉を無にすることが予想されますが、トランプ氏はイランについて「友好的になるつもりだ」と語ったとか。

*****トランプ氏、再選で「イランに友好的になるだろう」 方針転換を示唆****
トランプ前米大統領(共和党)は15日の記者会見で、11月の大統領選で返り咲いた場合は「イランに対して友好的になるだろう」と述べた。トランプ氏は在任中は対イラン強硬策をとり、今回の選挙運動でもイランを敵視する発言が目立つが、中東情勢の安定化に向けて、方針を変える姿勢を示唆した。

トランプ氏は東部ニュージャージー州で開いた会見で、「イランに対して悪い姿勢で臨もうとしているわけではない。友好的になるつもりだ」と述べた。ただし、イランの核開発計画に関しては「核兵器を持つことはできない。もし、核兵器保有となれば、状況は全く異なり、まるで違う交渉になる」とくぎを刺した。

トランプ前政権は、イランの核開発を制限する見返りに制裁を緩和する国際的合意から離脱し、イラン最高指導者直轄の革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」司令官を殺害するなど、対イラン強硬策をとった。

米当局は、イランが報復として、トランプ氏の暗殺を計画しているとみている。イランは今回の選挙運動でも、トランプ陣営や民主党関係者にハッキングを仕掛け、選挙干渉を図っているとみられている。【8月16日 毎日】
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本当でしょうか? 暗殺防止のための発言でしょうか?
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イランやヒズボラの報復攻撃、早ければ24〜48時間以内(米国務長官)

2024-08-05 23:09:28 | イラン

(【8月5日 ABEMAnews】)

【米国務長官 イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方をG7外相に伝える】
7月31日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏が、イラン新大統領就任式賓客として訪れていたイランの首都テヘランでイスラエルの攻撃により殺害。

8月1日、イスラエル軍は、ハマスの軍事部門トップ、ムハンマド・デイフ氏の殺害を確認したと発表。イスラエル軍は7月13日、パレスチナ自治区ガザ地区南部ハンユニスでデイフ氏を狙った空爆を行っていました。

7月30日、イスラエル軍の攻撃により、レバノン首都ベイルート南部郊外の建物にいたフアド・シュクル司令官が死亡。

一連のハマス・ヒズボラ幹部へのイスラエルの攻撃で、中東情勢が非常に危うい状況になっていることは、8月3日ブログ“イスラエルによるハマス最高指導者・ヒズボラ幹部殺害 イランの報復は必至”で取り上げたところです。

賓客として訪れたハニヤ氏を首都で殺害されたイラン及びすでに緊張が高まっていたヒズボラの報復は必至ですが、ブリンケン米国務長官が主要7カ国(G7)の外相に対し、イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方を伝えたとのことです。

****イランのと復巡り緊迫 24〜48時間以内に攻撃との見方も****
 イランやレバノンのイスラム教シーア組織ヒズボラによるイスラエルへの報復攻撃を巡り、緊張が高まっている。米ニュースサイト「アクシオス」は4日、ブリンケン米国務長官が主要7カ国(G7)の外相に対し、イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方を伝えたと報じた。

米政府はイラン側に自制を求めるとともに、防衛体制の構築を図っている。

ブリンケン氏は、イラン側への外交的な圧力を強めて報復攻撃をできるだけ小規模にするため、G7の外相との協議を招集。日本外務省によると、声明では「全ての当事者に対し、報復的な暴力の連鎖の継続を回避し、緊張の度合いを下げ、緊張緩和に向けて建設的に関与することを改めて強く求める」とした。

また、ブリンケン氏は4日、イランの隣国イラクのスダニ首相とも電話協議し、緊張緩和に向けた措置を取ることで一致した。米国はこうした外交努力を続けると同時に、イラン側からの攻撃に対する準備も進めており、中東に艦艇や戦闘機を追加で配備した。

イスラエルメディアによると、同国のネタニヤフ首相は4日の閣議で、イランなどの報復攻撃が迫っているとの見方について「われわれを攻撃すれば高い代償を科す」と警告。イラン側をけん制するとともに、防衛能力に自信を見せた。

イランが4月にイスラエルによる在シリアのイラン大使館空爆への報復として、計300発以上の弾道ミサイルなどを発射した際、イスラエルは米軍などの支援を受けて「99%」の迎撃に成功している。

パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏は7月31日、イランの首都テヘランでイスラエルによるとみられる攻撃で殺害された。イランの最高指導者ハメネイ師は報復を宣言している。【8月5日 毎日】
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“4月にイスラエルによる在シリアのイラン大使館空爆への報復として、計300発以上の弾道ミサイルなどを発射した際、イスラエルは米軍などの支援を受けて「99%」の迎撃に成功している”とのことですが、あのときは、イラン側もイスラエル側の被害を大きくしないために、早期に発表するとか、到達までに時間を要するドローンも多用するなど、抑制的攻撃でした。

おそらく今回はイラン側は攻撃レベルを上げてくると思われます。

「弾道ミサイルなどの飛しょう体の数は前回を確実に上回る。イスラエルの軍関係施設を中心に狙うと見られる」「今回はヒズボラの司令官も殺害されている。イランも撃つ、ヒズボラも撃つ、イエメンのフーシ派やイラク国内の民兵組織の一部も加勢し、飽和攻撃のような形で、最終的にイスラエルの防空能力を損なう形にもっていくのが狙いだと見られる」(慶應義塾大学の田中浩一郎教授)【8月3日 NHK】

【イスラエル・ヒズボラの全面戦争になれば中東以外の地域からもイスラム教徒が参戦 各国は退避勧告】
****「戦争引き起こしても構わない」イスラエルへの報復攻撃宣言するイラン “攻撃差し迫っている”米メディア*****
イスラエルへの報復攻撃を宣言するイランは、緊張緩和を求めるアラブ諸国の呼びかけを拒否し、「戦争を引き起こしても構わない」と伝えたとアメリカメディアが報じました。(中略)

アメリカやアラブ諸国はイランに自制を求めていますが、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、イランは緊張緩和を求める呼びかけに拒否する姿勢を示しているということです。そのうえで、アラブ諸国の外交官に「攻撃によって戦争を引き起こしても構わない」と伝えたと報じています。(後略)【8月5日 TBS NEWS DIG】
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ただ、「戦争引き起こしても構わない」とは言いつつも、イランもイスラエルと本格的戦争に突入するまでの意思は(少なくとも現段階では)ないと想像されますので、イランによるイスラエル直接攻撃は単発のものになるのではないでしょうか。 イスラエルに大きな被害が出て、更にイランに報復する・・・といった事態になれば別ですが。

より長期的な本格的な戦争が懸念されるのは国境を接するレバノン・ヒズボラの方でしょう。

****最強武装組織ヒズボラ vs. イスラエル...戦争になればイランや中東以外からも戦闘員が参戦する****
<衝突は危険なレベルにエスカレートしている。地域戦争を阻止するにはガザ停戦と人質解放が必要だが、ネタニヤフはこれを拒否。既にタリバンも「戦闘員を送る」と表明しており、中東は一触即発の危機にある>

中東が地域戦争の危機に瀕している。イスラエルとレバノンのシーア派組織ヒズボラの衝突が、極めて危険なレベルにエスカレートしたためだ。アメリカ政府は両者を譲歩させようと外交努力を重ねているが、成果は上がらない。
戦争を回避するにはイスラエルとヒズボラ、双方の支持者を巻き込んで大がかりな合意を取り付けるのが急務だ。

ヒズボラとその支持者を勢いづかせたのは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のパレスチナ自治区ガザへの対応だった。

ガザに侵攻した際、ネタニヤフはイスラム組織ハマスの殲滅と人質解放を目標に掲げた。だがどちらも達成できずに孤立し、その支配力は衰えている。戦争の終結についても戦後のガザ統治についてもビジョンを持たずに無差別攻撃を繰り広げた結果、ネタニヤフの地位は揺らぎ、国際社会でのイスラエルの立場も危うくなった。

10万の戦闘員と最新兵器
今や国民の大半が退陣を求めるネタニヤフは、閣内の強硬派およびイスラエル国防軍(IDF)指導部の支持により辛うじて首相の地位にしがみついている。支持層の超正統派ユダヤ教徒からも見放され、建国以来の盟友アメリカとの信頼関係も揺らいだ。

IDFの将校たちは弾薬不足と兵士の疲弊に懸念を表し、ヒズボラ対応に注力できるようにハマスとの停戦を受け入れてほしいと首相に訴えた。

だがネタニヤフは強硬姿勢を崩さない。6月18日には、ガザ戦争を終わらせヒズボラとの戦いに軸足を移すのに必要な弾薬の供給を渋っていると、ジョー・バイデン米政権に言いがかりを付けた。

ヒズボラがイスラエルにとって厄介な存在なのは確かだ。ネタニヤフは7月24日に米議会の上下両院合同会議で演説。ヒズボラおよび支援国のイランと戦うことはイスラエルのみならずアメリカの利益だと強調し、次のように述べた。

「(レバノンと国境を接する)イスラエル北部では8万の市民が家を追われ、自国内で事実上の難民となっている。彼らを故郷に帰すことに、われわれは全力を尽くす。そしてこれを外交的に成し遂げることを望んでいる。だがはっきりさせておく。国境の安全を回復し市民を故郷に帰すために必要とあらば、イスラエルはどんなことでも実行する」

1980年代前半にヒズボラが政治・民兵組織として台頭して以来、イスラエルはその弱体化や撲滅を図ってきた。しかし2006年のレバノン侵攻をはじめ、試みはことごとく失敗。イスラエルと戦って生き延びるたび、ヒズボラは中東で影響力を拡大した。イランと、ハマスなどその同盟組織も影響力を増した。

現在のヒズボラは世界最強の準国家的武装組織だ。伝えられるところによれば百戦錬磨の戦闘員を10万人も擁し、最新鋭のミサイルやドローンを含む幅広い武器をそろえており、その組織力、また兵站における同盟組織との協力体制には目を見張るものがある。

緩衝地帯の設置が急務
ヒズボラは殉教を信仰の証しとするイラン主導の武装組織ネットワーク「抵抗の枢軸」の要。7月28日に就任したイランのマスード・ペゼシュキアン新大統領も、ヒズボラへの堅い支持を明言した。

イスラエルと全面戦争になれば、イランとその代理勢力から数万の戦闘員がヒズボラに加わるだろう。中東以外の地域からもイスラム教徒が参戦するだろう。アフガニスタンのタリバンは、既に戦闘員を送ると表明している。

イスラエル、アメリカおよびその多くの同盟国はヒズボラをテロ組織と見なしてきた。だがアラブ連盟はアラブおよびイスラム世界におけるその人気の高まりを受けヒズボラをテロ組織に指定しないことを6月29日に決定した。

イスラエルはもはや中東の支配的勢力と目されてはいない。ガザでの戦闘、ヒズボラやイエメンのフーシ派やイランとの交戦はイスラエルの脆弱性を露呈させた。

レバノンの首都ベイルートをガザと同じように焼き尽くす兵力を、イスラエルは今も保持しているかもしれない。だがわずかでも余力を残してヒズボラとの戦いに片を付けるには、アメリカの直接介入が欠かせない。

とはいえ秋に大統領選を控え、イスラエルの安全を守ると主張するアメリカも、レバノンでの対ヒズボラ戦を支援するのは非常に難しい。

アメリカが積極的にイスラエルを支援すれば、ロシア、中国、北朝鮮は待ってましたとばかりにイランとヒズボラに加勢するだろう。

イスラエル、ヒズボラおよび双方の支持者は外交を通じて合意を取り付け、イスラエル・レバノン国境の両側に緩衝地帯を設ける必要がある。そのためにイスラエルとハマスはまずガザ停戦と人質の解放に合意し、パレスチナ問題の恒久的解決の礎を築かなければならない。

現時点でネタニヤフはこれを拒否している。ネタニヤフは汚職疑惑で係争中の身。ガザ侵攻が終結すれば政権を追われ、裁判で有罪になるかもしれないと恐れているのだ。

武力衝突と外部の介入が平和と安定をもたらすどころか問題を悪化させることを、中東の歴史は幾度となく示してきた。中東が一触即発の危機にある今、求められるのは冷静な判断だ。【8月5日 Newsweek】
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上記記事は、ハニヤ氏殺害などに触れられていないので、それ以前に書かれたもののように思われます。とすれば事態は更に逼迫しています。

イランとヒズボラは当然に攻撃のタイミング・規模などを調整しています。同時に攻撃するのか、事態を制御不能にしないために敢えてずらすのか・・・はわかりませんが。

ヒズボラは世界最強の準国家的武装組織・・・かつてイスラエルに負けなかったのは事実ですが、現在の戦力がどの程度なのかは知りません。

事態の切迫を受けて、各国は自国民のレバノンからの退避を勧告、航空会社も周辺地域の航空便を運休する動きが進んでいます。

****レバノンから退避を 各国が自国民に勧告****
イスラム組織ハマスの指導者とレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部が相次いで殺害され、イランおよび親イラン派勢力がイスラエルへの報復措置を表明している事態を受け、各国は新たな中東戦争の前線になるとみられているレバノンに滞在中の自国民に対し、早急に出国するよう勧告している。

米英などに続き、サウジアラビアとフランスも、自国民にレバノンからの退避を要請。

仏外務省は自国民に対し、レバノンの「治安状況が極めて不安定」であるため、同国への渡航を中止するよう緊急要請し、同国に滞在している人々には早急に出国するよう呼び掛けている。フランスは、イラン在住の自国民にも「一時退避」を要請している。

欧米の複数の航空会社も、レバノンをはじめ周辺地域の航空便を運休。カタールの国営カタール航空は、少なくとも5日まで、同国の首都ドーハとレバノンの首都ベイルートを結ぶ航空便を「昼間のみの運航」に制限すると発表した。(後略)【8月5日 AFP】
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【アメリカはネタニヤフ首相にガザ停戦を強く求めるものの、イランから攻撃に対してはイスラエル防衛堅持】
事態を悪化させている原因に、イスラエル・ネタニヤフ首相のガザでの頑なな戦闘継続姿勢がありますが、アメリカ・バイデン大統領は相当に苛立っているようにも。電話会談で「甘く見るんじゃねえぞ!」と凄んだとか。

****バイデン氏、ハマスと停戦交渉進めているというネタニヤフ氏に「でたらめ言うな」「米大統領を甘く見るな」****
米国のバイデン大統領が、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と1日に電話会談した際、イスラム主義組織ハマスとの停戦合意に向け交渉を進めていると述べたネタニヤフ氏に対し、「でたらめを言うな」と反発した。イスラエル主要紙ハアレツなどが4日報じた。

報道によれば、バイデン氏は会談でネタニヤフ氏に、ハマスとの停戦合意と人質解放に向けた交渉について「今すぐ取引に応じるべきだ」と迫った。ネタニヤフ氏は「我々は交渉を進めている」と強調すると、バイデン氏が反発。「米大統領を甘く見るな」と異例の強い表現で交渉の進展を求め、会談を終えたという。

米高官はハアレツに「ネタニヤフ氏は交渉ではなく戦闘を長引かせようとしている」と指摘し、イスラエルに武器弾薬を提供してきた米国による支援継続が「難しくなってきている」と語った。イスラエルの交渉団は3日にエジプトを訪れ、停戦合意に向けた協議を行ったが、進展はなかったとみられる。

ロイター通信によると、イスラエル軍は3日、パレスチナ自治区ガザの中心都市ガザ市の学校を空爆し、避難していた15人が死亡した。一方、パレスチナ人の男が4日、イスラエルの商都テルアビブ郊外でイスラエル人の男女2人を刺殺した。男は駆けつけた警官に射殺された。【8月4日 読売】
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ネタニヤフ首相は戦争を止めたら汚職裁判やハマス襲撃の責任問題で政治生命が終わりますので、なんとか戦争を継続したいようです。

それにしても、こういう首脳間の会話がどうして漏れてくるのでしょうか。誰かが勝手に漏らしているとも思えませんので、イスラエル側かホワイトハウスの意図的なリークなのでしょう。

何のために? イスラエル側の「アメリカの対応が厳しい」というアピール?あるいはアメリカ側の「これだけ精一杯イスラエル側に厳しく対応している」とのアピールでしょうか。

アメリカもイスラエル・ネタニヤフ首相の強硬姿勢にどこまで付き合うのか悩ましいところでしょうが、ネタニヤフ首相への厳しい自制要請の一方で、イスラエルを守るという基本姿勢は変わりません。

****米軍、中東へ増派 イスラエルを守るためにイランと戦争か****
(中略)
米国防総省の報道官は2日、国防総省が「イランおよびイランのパートナーやその代理勢力による中東地域の緊張激化の緩和に向けた」対応を取っていると述べるとともに、「イスラエル防衛への(アメリカの)強固な関与」をあらためて表明した。

アメリカはイスラエルにとって最強の同盟国であり、昨年10月7日にハマスがイスラエルに越境攻撃して以降、イスラエルに対する外交的・軍事的支援を繰り返し表明している。(中略)

1日夕、ジョー・バイデン米大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談し、イスラエル防衛に関与していくというアメリカの姿勢をあらためて伝えた。

国防総省の報道官は2日、「中東における空母打撃群のプレゼンスを維持するため、(ロイド・オースティン国防)長官は、中央軍の担当地域に派遣中のセオドア・ルーズベルトの空母打撃群を、空母エイブラハム・リンカーンの空母打撃群に交替させるよう命じた」とも述べた。また「長官は戦闘機部隊の中東への追加派遣も命じた。空からの支援能力を強化するためだ」とも述べた。

国防総省はまた、「弾道ミサイル防衛が可能な巡洋艦や駆逐艦を米欧州軍および中央軍の担当地域に追加(配備)することを命じる」とともに、陸での弾道ミサイル防衛を追加配備する」準備を整えているという。

「支援のために軍事態勢を変える」
これに先立ち、オースティン国防長官は報道陣に対し、「もしイスラエルが攻撃されるなら、間違いなくイスラエルの防衛を助けることになる」と述べた。

2日、オースティンはイスラエルのヨアブ・ガラント国防相に対し、イスラエルへの軍事支援の実施に向けて「現在、また今後も防衛力態勢を変えて」いくと伝えている。

4月、イランはイスラエルに対し、無人機やミサイルによる過去最大規模の攻撃を行った。アメリカはイギリスやフランスなどイスラエルと同盟関係にある国々とともに迎撃を支援した。(中略)

ネットメディアのアクシオスによれば3日、米中央軍のマイケル・クリラ司令官がイスラエルとヨルダンを経由して中東に到着した。旅程は以前から計画されていたというが、イランからの攻撃に対する備えについて話し合ったとみられている。(後略)【8月5日 Newsweek】
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大統領選挙のさなか、アメリカにとってイスラエルを見捨てるという選択肢はないのかも。ただ、アメリアの一貫したイスラエル擁護姿勢がネタニヤフ政権の強硬姿勢を支えてきたという側面も。
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イラン  改革派新大統領就任 内外の壁 更にイスラエル・ヒズボラの危機的状況という難事も

2024-07-28 23:22:28 | イラン

(イラン大統領の認証式典のペゼシュキアン氏(右)と最高指導者ハメネイ師(左)=28日、テヘラン【7月28日 日経】)

【国民の変化への期待、新大統領の改革に立ちはだかる保守強硬派・最高指導者の壁】
イラン大統領選挙では、改革派の無名候補ペゼシュキアン氏が国民の現状への強い不満の受け皿となって勝利するという予想外の結果となりました。

そのペゼシュキアン氏が今日28日、イラン新大統領に就任しました。

****「国民は変化を期待」とイラン新大統領****
イラン大統領に就任したペゼシュキアン氏は28日「国民は変化を期待している」と演説した。欧米との対立を深めたライシ前政権の強硬路線を転換する方針。【7月28日 共同】
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しかしながら、国民が期待する変化の実現、改革の実現が極めて困難な状況であることは衆目が一致するところです。

新大統領の改革を阻む最大の壁は、国会など国の主要機関を保守強硬派が支配しており、何より最終決定権を持つ最高指導者ハメネイ師が改革に否定的なことです。

****イランに改革派の新大統領就任…対話路線を重視、演説で「団結」呼びかけも保守強硬派は抵抗か****
イラン大統領選で当選した改革派のマスード・ペゼシュキアン氏(69)は28日、首都テヘランで最高指導者アリ・ハメネイ師の認証を受け、大統領に就任した。国際協調路線と核開発をめぐる制裁の解除を公約に掲げたペゼシュキアン氏は演説で繰り返し「団結」を呼びかけたが、保守強硬派の抵抗が予想されている。

ペゼシュキアン氏の任期は4年。30日には国会で就任宣誓式が行われる。対話路線を重視する改革派の大統領は19年ぶりで、ペゼシュキアン氏は世界との「建設的で効果的」な関係を訴えた。

イスラム的な価値に根ざした国民の自由や社会正義、権利などを追求する姿勢を示した。対米交渉や制裁には直接的には触れなかった。

イランでは国会など国の主要機関を保守強硬派が支配しており、強硬派の懐柔はペゼシュキアン氏の大きな課題となる。カギは、主要政策の最終決定権を持つ最高指導者のハメネイ師の後ろ盾を得られるかどうかにある。

ハメネイ師は28日の認証式で「好ましい人物が大統領に選ばれた」と述べ、二極化や争いを避けるために国会や司法府、軍に行政府への協力を求めた。

しかし、ハメネイ師は核交渉の相手の一角である欧州各国との協議を「優先事項に挙げない」として、過去の制裁などを理由に列挙した。米国については名指しせず、「我々を苦しめ、困らせたことを忘れない」と述べた。米欧との交渉の実現には、困難が予想される。【7月28日 読売】
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ただ、ハメネイ師にしても、保守強硬派にしても、大統領選挙で示された「民意」をあからさまに無視することもできません。それは「体制」を揺り動かす国民的抗議行動につながる恐れがあるためです。

そうした「民意」を背景にした新大統領と、「体制」の現状維持を目指す保守強硬派のせめぎあい、綱引きが続くと思われます。その中で、改革に否定的な最高指導者の「協力」「譲歩」をどこまで引き出せるかが新大統領の勝負所となります。

【改革を更に難しくするトランプ復権・イラン敵視】
国民が希望する変化の中核は経済状況の改善であり、そのためにはアメリカによる制裁の解除が必要になります。
しかし、新大統領が保守強硬派の抵抗をはねのけて、最高指導者の譲歩を引き出して「変化」を実現しようとする努力を阻むのがアメリカでのトランプ氏復権です。

前政権時代に核合意を離脱して、イラン制裁を課したトランプ氏が復権すれば、イラン敵視政策の復活で制裁解除に向けた試みは水泡と化します。

すでに、イランによる暗殺計画があったという情報もあって、トランプ氏のイラン敵視が露骨に示されています。

****「米国はイランを地球上から消滅させるべき」 トランプ氏****
米大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ前大統領は25日、敵対関係にあるイランが自身を暗殺した場合、同国を地球上から消滅させるよう呼び掛けた。

トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「彼ら(イラン)が『トランプ大統領暗殺』を実行するなら、それは常に起こり得ることだが、米国がイランを跡形もなく消し去ることを、地球上から消滅させることを願う。そうしないなら、米国の指導部は『腰抜けの臆病者』と見なされるだろう!」と述べた。

トランプ氏の投稿には、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が米連邦議会で、イランによるトランプ氏暗殺計画疑惑に言及する動画が添えられていた。

米メディアは先週、イランによるトランプ氏暗殺計画の情報を米当局が入手したのを受け、米大統領警護隊(シークレットサービス)が数週間前に同氏の警備を強化したと報じた。本件は、最近起きた20歳の男によるトランプ氏暗殺未遂事件とは無関係だという。

大統領時代の2019年、トランプ氏は類似の発言で議論を呼んだ。トランプ氏はこの時、「米国の何か」を攻撃すれば、イランを「跡形もなく消滅させる」と脅した。トランプ氏が新たな制裁措置を発動したのを受け、イラン当局が両国の外交の道は永遠に閉ざされたと述べた後の発言だった。

トランプ氏は大統領時代、北朝鮮に対しても「世界がかつて見たことがないような炎と怒り」で脅したが、やがて同国の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と友好な関係を築き、しばしば両者の「愛」にさえ言及している。 【7月26日 AFP】
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思想・信条ではなく、取引(ディール)で動くトランプ氏ですから、取引内容次第で流れが180度変わる可能性はある・・・・とは言うものの、同氏のイラン嫌いが変わるのは難しいでしょう。

保守強硬派の抵抗、更にはアメリカのイラン敵視で制裁も解除できない、結果的に変化も実現できない・・・となれば、国民の新大統領への期待も萎み、やがて保守強硬派の主導する対米強硬路線へと世論は流れ、新大統領は死に体となるのでしょう。これまでの改革派・穏健派のたどった道筋です。(就任した日に、それに言及するのはいかにも早過ぎますが)

****<前途多難なイラン新大統領>「改革派」が必ずしも民意を通せない複雑な事情****
(中略)
改革派を阻む国内外の壁
今後、神(正確にはイマーム)の代理人であるハメネイ最高指導者を戴く保守強硬派と国民の支持をバックとする改革派大統領の間で厳しいせめぎ合いが起きることは間違いないが、この改革派政権の前途は多難だと言わざるを得ない。

例えば、ペゼシュキアン氏は、イラン国民の不満が特に強い女性に対する服装規定や核開発問題に起因する米国、欧州との対立・緊張を緩和して制裁を解除させると公約しているが、公約の実現が一筋縄では行かないことは明白だ。

イスラム革命体制下でハメネイ最高指導者が大統領、国会議長、司法権長という三権の長の上に君臨しており、大統領といえども最高指導者の意向には従わなければならない。服装規定や核開発の見直しを最高指導者は、「国民の要求に譲歩することは権威に傷が付く」と見なすだろうから簡単に同意するとは思われない。

さらに最高指導者に直結している革命防衛隊が、改革派大統領を支持する国民のデモ等に対して無言の睨みを利かせている。

また、ヒズボラやフーシー派等のイランの代理勢力は革命防衛隊のコントロール下にあり、改革派政権を行き詰まらせるためにわざとこれらを使って米国等に対する挑発を激化させようとするかも知れない。

さらに、11月の米大統領選挙でトランプ前大統領の復活の可能性が高まっているが、トランプ前政権時に米・イラン関係が著しく悪化したことを考えれば、トランプ前大統領が当選する場合は、米・イラン関係を改善して経済制裁が解除されるのは望み薄であろう。

しかし、近隣アラブ諸国では、任命制か選挙結果を政府がコントロールするのが当たり前であるのに対して、イランでは今回、候補者の資格審査段階では保守強硬派があからさまな介入を行ったが、投票自体は自由な投票が許されたのであり、この点ついてはイランを評価するべきであろう。【7月26日 WEDGE】
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上記記事最後に記されているように、世界には中国・北朝鮮のように選挙が実質的には行われていない国、ロシアのように反政府的な候補者の立候補が妨げられている国、今日投票が行われているベネズエラのように、投票結果とは全く関係ない結果が発表されるのではないかという不正が強く疑われる国も多い中で、(体制派の「誤算」もあったにせよ)一定に民意を反映する選挙が許されたイランはその点で評価すべきで、いたずらに「神権政治」、「テロ国家」と忌避すべきではないでしょう。

【就任したばかりの新大統領にのしかかるイスラエル・ヒズボラの危機的状況】
話を新大統領に戻すと、就任早々、極めて難しい状況に直面しています。
かねてから緊張が高まっており、本格的戦闘突入が懸念されていたイランの支持を受けるヒズボラとイスラエルの関係が限界点に近づいています。

****ゴラン高原にロケット弾、12人死亡=イスラエル・ヒズボラ全面衝突懸念高まる***
イスラエルのメディアは27日、同国が占領するゴラン高原のサッカー場にロケット弾が着弾し、子供を含む少なくとも12人が死亡したと報じた。イスラエル軍はレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの仕業と断定した。

昨年10月以降活発化した双方の交戦で、イスラエル側の死者数としては最悪。イスラエルの激しい報復は必至で、全面衝突の懸念がさらに高まった。

軍は、ロケット弾1発がグラウンドに着弾したと説明。犠牲者は10〜20歳という。目撃者はロイター通信に、グラウンドに遺体が転がり「誰が誰だか分からなかった」と語った。ヒズボラは関与を否定している。【7月28日 時事】
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ハマスの奇襲を許したこと、人質解放が進まないこと、以前からの自身の裁判・司法改悪などで国内的に強い批判にさらされているイスラエル・ネタニヤフ首相はかねてより政権維持・政治生命維持のためにハマスとの戦闘継続だけでなく外敵ヒズボラとの全面戦争を望んでおり、ヒズボラを挑発している・・・とも言われていましたので、この事態に一気に対応を強化する可能性があります。

****「全面戦争近づいている」イスラエル占領のゴラン高原に攻撃で11人死亡 イスラエルとヒズボラの緊張一気に高まる*****
(中略)
イスラエル軍は、レバノンを拠点とするヒズボラによる攻撃だと主張していますが、ヒズボラは関与を否定しています。

ヒズボラは、去年10月のイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘開始以降、ハマスに連帯を示してイスラエル北部に攻撃を続けていて、交戦が激化していました。

イスラエル首相府によりますと、アメリカを訪問中のネタニヤフ首相は予定を早めてイスラエルに戻り、対応に当たるということです。

またイスラエルのカッツ外相は、アメリカメディアに対して、「レッドラインを超えた。我々はヒズボラとレバノンに対する全面戦争の瞬間に近づいている」と述べたほか、イスラエル国内の右派の閣僚からは激しい報復攻撃を求める声が上がっていて、緊張が一気に高まっています。【7月28日 TBS NEWS DIG】
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アメリカはイスラエル支援を明確にしています。

****アメリカ NSC「この恐ろしい攻撃を非難する」****
ゴラン高原への攻撃についてアメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議は27日、「この恐ろしい攻撃を非難する。イスラエルは、安全保障に対する深刻な脅威に直面しており、アメリカはこうした恐ろしい攻撃を終わらせる取り組みを続けていく」とする声明を発表しました。

その上で「イスラエルの安全保障へのわれわれの支援は、レバノンのヒズボラを含め、イランが支援するすべてのテロ組織に対して鉄壁であり、揺るぎない」としています。【7月28日 NHK】
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「この恐ろしい攻撃」・・・ガザ地区では同じような、もっと大きな犠牲を伴う攻撃がイスラエルによって連日行われていますが・・・

それはともかく、大統領選挙真っただ中にある状況で、バイデン政権としてはトランプ氏に攻撃の種を与えないように強気姿勢をとることが予想されます。

イランとの関係では、“ヒズボラやフーシー派等のイランの代理勢力は革命防衛隊のコントロール下にあり、改革派政権を行き詰まらせるためにわざとこれらを使って米国等に対する挑発を激化させようとするかも知れない。”【前出】と今回の件の関係はわかりません。

いずれにしてもイランにとってレバノンを牛耳るヒズボラは最大の支援組織ですから、ヒズボラがアメリカの支援を受けるイスラエルと本格的戦争に突入すれば、改革派大統領であっても何らかの形でヒズボラを支援せざるを得ません。それによりアメリカとの関係が悪化しても。

というか、大統領の意思に関わらず、対米・対イスラエル強硬路線の革命防衛隊はヒズボラ支援で動くでしょう。

革命防衛隊をコントロールする力のないペゼシュキアン新大統領にとっては就任早々の難しい事態です。

****対ヒズボラ報復をけん制=イスラエルに自制要求―イラン****
イラン外務省報道官は28日、イスラエルが占領地ゴラン高原へのロケット弾攻撃の報復として、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに対して反撃する動きを見せていることについて、「地域の不安定化と紛争の拡大を招く」と述べ、イスラエルに自制を求めた。

イランが後ろ盾となっているヒズボラは、ゴラン高原への攻撃を否定している。同報道官は声明で、イスラエルが「架空のシナリオで、パレスチナでの犯罪から世界の関心をそらそうとしている」と主張。

レバノンへの報復攻撃は「新たな冒険」だと非難し、「シオニスト政権(イスラエル)は、ばかげた行動に伴う予期できない結果の責任を負うことになる」とけん制した。【7月28日 時事】
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ヒズボラがやっていないなら誰が?
ヒズボラがやったとしたら、イラン革命防衛隊の意向が反映したものか?
イスラエル・ネタニヤフ政権はどこまでやる気か?
イラン新大統領ペゼシュキアン氏はどのように対応するのか?

戦闘がガザ地区から一気に拡大しかねない非常に危うい状況にあります。
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イラン  改革派ペゼシュキアン氏が新大統領に 改革の実現を阻む保守派の厚い壁も

2024-07-06 22:26:40 | イラン

(テヘランのダウンタウンを歩く、ヒジャブを着用しない女性【6月26日 ARAB NEWS】
こうした国民の現体制への不満をペゼシュキアン氏が具体的改革で解消していくことができるか・・・)

【改革派のペゼシュキアン氏が当選 変化を求める国民の受け皿に】
イギリス総選挙での労働党の地滑り的圧勝・政権交代、イラン大統領選挙の改革派勝利、フランス総選挙の決選投票に向けた動き、更にはアメリカ大統領選挙でのバイデン大統領の去就・・・選挙絡みの情報が溢れていますが、イギリスは予想通り、フランス・アメリカは不確定要素が多いということで、今回はイランの大統領選挙。

選挙戦開始当時は保守強硬派が優位と見られていましたが、多くの報道で周知のように、結局、国民の変化への希望の受け皿になった改革派ペゼシュキアン氏が当選しました。

****イラン大統領選、改革派のペゼシュキアン氏が当選…改革派大統領の政権は19年ぶり****
イラン内務省は6日、5日に行われた大統領選決選投票の結果、改革派で元保健相のマスード・ペゼシュキアン氏(69)が当選したと発表した。任期は4年。改革派大統領の政権は19年ぶりとなる。

米国の制裁に伴う経済低迷や抑圧的な政権運営に対する不満が噴出した形だ。ペゼシュキアン氏は対話を重視する国際協調路線で、核交渉による制裁解除を目指すが、保守強硬派の抵抗で難しいかじ取りを迫られるとみられる。

大統領選は、エブラヒム・ライシ大統領がヘリコプター墜落で死亡したのを受けて行われた。6月28日の第1回投票で過半数を得た候補がおらず、首位のペゼシュキアン氏と2位だった保守強硬派で元核交渉責任者のサイード・ジャリリ氏(58)による19年ぶりの決選投票となった。

内務省の発表によると、ペゼシュキアン氏は1638万票以上を獲得し、ジャリリ氏に284万票余りの差をつけた。投票率は49・8%で、過去最低だった第1回投票の40%を大きく上回った。

改革派大統領は、1997〜2005年の任期中に「文明間の対話」を提唱し、積極外交を展開したモハンマド・ハタミ師以来となる。

ペゼシュキアン氏は当初、強力な候補とはみなされなかったが、米国の制裁解除の重要性を訴え、支持を拡大した。制裁は、国民生活を圧迫している40%程度の物価上昇率の要因となっていた。

しかし、イランの重要施策は最高指導者のアリ・ハメネイ師が最終決定権を握っている。ハメネイ師は、対米強硬姿勢を貫いたライシ師を高く評価しており、急激な方針転換は困難だ。

イランは米国の制裁再開後、対抗措置として核合意で制限されていた核開発活動を再開し、核兵器のレベルに近い60%濃縮ウランを生産・貯蔵してきた。国際原子力機関(IAEA)の一部査察官の受け入れも拒否するなど国際的な孤立を深めている。

イランは中国やロシアが主導する上海協力機構(SCO)や新興国グループ「BRICS」に加盟し、中露に急接近している。パレスチナ自治区ガザでの戦闘では反米・反イスラエル勢力を支援しており、今後も変化はないとみられる。【7月6日 読売】
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【争点の一つなった抑圧体制の象徴“ヒジャブ問題”】
国際協調を重視して、核合意を再建し、経済制裁解除を目指す・・・・改革派のペゼシュキアン氏の路線が経済低迷・インフレで生活に苦しむ国民が求める変化の受け皿になった形ですが、ヒジャブに象徴される抑圧的・強権的政治への国民不満もペゼシュキアン氏を押し上げることになりました。

ペゼシュキアン氏は、ヒジャブの未着用を取り締まるため街頭で活動する風紀警察に反対する姿勢を表明し、SNSなどで支持が広がりました。一方、保守強硬派のジャリリ氏は着用の取り締まりに賛成し、選挙戦の争点の一つになりました。

****イラン大統領選投票間近、スカーフ弾圧再燃で緊張高まる****
イランの首都では毎日午後になると、警察のバンがテヘランの主要な広場や交差点に急行し、ゆるいスカーフをかぶった女性や、あえてスカーフをかぶらない女性を捜索している。

当局の意に沿わないスカーフを着用したために拘束されたマフサ・アミニさんの死をめぐる大規模な抗議デモからまだ2年も経っていないのに、新たな弾圧が始まった。国連の委員会は、この22歳の女性が国家による「肉体的暴力」の結果死亡したと認定した。

アミニさんの死は、数カ月にわたる騒乱を引き起こし、血なまぐさい弾圧に終わった。しかし今、議員たちが厳罰化を求め続けるなか、女性たちが警察によって身体的にバンに押し込められる動画が出回っている。

その一方で、当局は女性が髪を隠していないことを理由に何千台もの車を押収し、女性にサービスを提供する企業も標的にしている。

イブラヒム・ライシ大統領がヘリコプター事故で亡くなる前から、警察が「ヌール(光)計画」と呼んでいる新たなヒジャブ推進は始まっており、金曜日に強硬派の聖職者の後任を決める投票に誰が勝つかは、それがどの程度激しくなるか、そしてイランがさらなる騒乱にどう対応するかに影響を与えるだろう。

「ヌール計画に基づく介入は……われわれを暗闇に引きずり込むだろう」と、改革派の大統領候補マスード・ペゼシュキアン氏は最近、女性支持者のグループに語った。

取り締まりは4月から強化され、制服警察官とともに、全身を黒いチャドルに包んだ女性取締官と暴力的な対峙をする女性たちを映した動画がネット上で拡散した。

警察はこの取り締まりに関する逮捕者数を公表しておらず、メディアも大きくは取り上げていないが、イランでは広く議論されている。しかし、それでも多くの女性がテヘラン市内を歩くとき、ヒジャブをゆるく着用したり、肩にかけたままにしたりしている。

テヘラン北部のある日の午後、女性たちはカフェやその他の公共の場所に座っていた: 50台の警官が「女性のみなさん、服を着てください: まったく、こんなことを繰り返しても聞き入れないのだから、うんざり」とつぶやく姿があった。

34歳の数学教師ファテメは、報復を恐れて下の名前しか言わなかった。「遅かれ早かれ、当局は手を引いたほうが自分たちの利益になると気づくでしょう」

イランと隣国のタリバン支配下のアフガニスタンは、ヒジャブが義務化されている唯一の国である。

イランでは女性は学校に通い、働き、自分の生活を管理することができるが、強硬派はヒジャブを強制しなければならないと主張している。

イランでは長い間、この衣服は政治と結びついてきた。前統治者レザー・シャー・パーレビーは1936年、西欧を反映させる努力の一環としてヒジャブを禁止した。この禁止令はわずか5年しか続かなかったが、イランの中流階級や上流階級の女性の多くは着ないことを選んだ。

1979年のイスラム革命後、国王打倒に貢献した女性たちの一部は、より保守的なチャドルを着用した。しかし、ルホラ・ホメイニ師が女性に公の場でのヒジャブ着用を命じたことに抗議する女性もいた。1983年、これは法律となり、罰金や2ヶ月以下の懲役などの罰則が科せられるようになった。

2022年9月のアミニさんの死は、数カ月にわたる抗議活動と治安弾圧を引き起こし、500人以上が死亡、22,000人以上が拘束された。しかし、それから2年も経たないうちに、イラン神権内部の強硬派は弾圧を強行した。

政府がヒジャブの強制に固執するのも、陰謀論的な世界観を反映している。イランの国家警察長官であるアフマド・レザ・ラダン将軍は、イランの敵が女性にベールを避けるよう促すことで国の文化を変えようと計画していると、証拠も示さずに主張している。

すでに「何万人もの女性が、イランのベール着用法に背いた罰として、恣意的に車を没収されている」とアムネスティ・インターナショナルは3月に発表した。また、起訴され、鞭打ち刑や懲役刑を言い渡されたり、罰金や『道徳』授業への出席を強制されるなどの刑罰に直面する女性もいる」(中略)

ニューヨークを拠点とするイラン人権センターのハディ・ゲーミ事務局長は、「イスラム共和国は大統領選という目くらましを利用して、女性活動家たちを追い詰め、投獄や虐待によって沈黙させようとしている」と述べた。同センターによれば、ライシ氏の死後、少なくとも12人の女性活動家がその活動に対して実刑判決を受けたという。

しかし、イラン政府と85歳の最高指導者アヤトラ・アリー・ハメネイ師は、強制執行をエスカレートさせることにリスクがあることを知っているようだ。イラン議会で可決された、ヒジャブ違反に10年の実刑判決を科す可能性のある法案は、まだ同国のガーディアン評議会(ハメネイ師が最終的に監督する聖職者と法学者で構成される委員会)で承認されていない。

これまでのところ、大統領候補の中でヒジャブ法を批判しているのはペゼシュキアン氏だけだ。現国会議長のモハマド・バガー・カリバフ氏を含む他の候補者は、この法律をよりソフトな方法で実施するよう求めている。

シーア派の聖職者であるモスタファ・プルモハマディ候補は、女性に対する暴力の行使を批判し、警察は警棒ではなく「信頼と感謝の言葉」を使うべきだと述べた。

一方、投獄中のノーベル平和賞受賞者ナルゲス・モハマディ氏は、著名な女性の権利活動家だが、獄中から大統領選投票のボイコットを促す呼びかけを行い、”弾圧、テロ、暴力を信奉する政権 “を支持するだけだと述べた。

最近テヘランで行われた金曜礼拝では、女性はいつものように一様にチャドルを着用して参加した。
「すべての女性はベールをかぶるべきです。これはアッラーの命令です」と49歳の主婦、マスウメ・アフマディさんは語った。

しかし、敬虔な人々の間でも意見が分かれることがある。
「そう、これは神の命令なのですが、私が知る限り、すべての女性がそうしなければならないわけではありません」と、アフマディさんの37歳の友人、ザーラ・カシャニさんは言う。【6月26日 ARAB NEWS】
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【ペゼシュキアン氏を取り巻く厳しい環境 国内保守強硬派の壁、アメリカ・トランプ氏の復権 改革が進まなければ国民離反も】
ペゼシュキアン氏の当選で、風紀警察によるヒジャブ取締りは、保守強硬派当選の場合に比べたらやや緩和されることも期待されますが、根本的な変化は難しいでしょう。

更に、ペゼシュキアン氏が目指す核合意再建・制裁解除は極めて困難というのが大方の見方です。
何より、こうした外交問題での最終的決定権を持つ最高指導者ハメネイ師が保守強硬路線を支持していますので。

****保守強硬路線継続勧めるとイラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は6日、大統領選で当選した改革派ペゼシュキアン氏に対して欧米との対立を深めたライシ大統領の保守強硬路線の継続を勧める声明を発表した。【7月6日 共同】
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ペゼシュキアン氏にとってタイミングが悪いのは、交渉の相手方であるアメリカで、以前核合意から離脱してイランへの制裁を行ったトランプ前大統領が復権しそうなことです。

保守強硬派が多数を占める議会の支持は得られず、最高指導者の後押しもなく、相手方のアメリカ・トランプ氏からも圧力をかけられる・・・これでは身動きできないでしょう。

制裁解除が進まなければ経済も好転せず、変化を求めた国民の支持もペゼシュキアン氏から離れ、政権は「死に体」化する・・・というのがありそうな予測です。

もっとも、最高指導者ハメネイ師・保守強硬派も今回選挙で示された国民の意思を全く無視することもできません。体制批判が膨らんでヒジャブ騒動のような体制が揺らぐ混乱に繋がる恐れもありますので。

****国民の不信感があらわになったイラン大統領選 改革派勝利の意味は****
イラン大統領選の決選投票(5日実施)は6日、開票が行われ、イラン内務省によると、米欧との対話に前向きな改革派のペゼシュキアン元保健相(69)が初当選を決めた。識者に話を聞いた。

日本エネルギー経済研究所・中東研究センター長の坂梨祥氏
イランの指導部は、大統領選での投票率をもって国民の体制への支持率とみなしている。最高指導者ハメネイ師らが繰り返し投票を呼びかける中、国民がどう反応するか注目していた。そして、第1回投票の投票率は約40%で、革命以来、史上最低となった。

今のイランでは、米欧の経済制裁や国際社会における孤立で社会不安が高まり、女性に対するヘジャブ(スカーフ)着用の強制などで抗議行動も見られる。「票を投じないことで抗議の意思を示そう」との呼びかけもネット交流サービス(SNS)で見られた。

決選投票では投票率が50%近くに上昇したものの、体制への不信感が全面に現れる結果となった。改革派のペゼシュキアン氏は経済立て直しには「制裁の解除が不可欠」と主張して当選した。現状路線の維持を訴える保守強硬派との違いを明確にし、変化を望む国民の支持を得た形だ。

イランでは国の方針を最高指導者が決めるため、大統領の権限は限られる。そのため、ペゼシュキアン氏の主張が実現されるのか懐疑的な見方もある。だが、選挙結果を受けて、イラン指導部は国民の抗議の意思を感じているはずだ。制裁解除を目指すとの主張を頭ごなしに否定するわけにはいかないだろう。

ペゼシュキアン氏は「最高指導者の意向は重要だ」とも訴えてきた。最高指導者や保守強硬派が納得する形で、核合意の再建に関する米国との協議を模索するとみられる。【7月6日 毎日】
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ペゼシュキアン氏を取り巻く環境が厳しいことは同氏自身が一番承知しているところでしょう。

“ペゼシュキアン氏はX(旧ツイッター)で「我々の共同作業は始まったばかりだ。あなた方の協力がなくては道のりは困難だ」と国民に協力を呼びかけた。”【7月6日 読売】

ペゼシュキアン氏としては国民支持を背景に、議会・最高指導者などの保守強硬派の了解も引き出してなんとか改革を現実のものにしていきたいところです。

さしあたり、最初のハードルは組閣でしょうか。
イランでは閣僚の選任には国会の過半数の賛成が必要ですが、議席の7割近くはハメネイ最高指導者の影響力が大きい保守派で占められています。

【予想される次期最高指導者問題】
将来の話については、当然ながら何が起こるかわからない不確定要素も。ライシ大統領が事故死してペゼシュキアン氏が後継を担うことになったこと自体、想像もされなかたことです。

イランの抱える大きな不確定要素は次期最高指導者の問題でしょう。

****イラン大統領選 改革派政権が誕生 最大の難問は最高指導者の後継か****
(中略)イランの新政権は今後、最高指導者の交代というイスラム体制にとって重大な事態に直面する可能性がある。現職の最高指導者ハメネイ師は84歳と高齢だからだ。有力な後継候補とみられていたライシ前大統領が事故死しただけに、跡目争いで体制内が混乱する可能性もある。

イランの最高指導者は、国教であるイスラム教シーア派の高位のイスラム法学者(聖職者)から選ばれ、終身制だ。軍事や外交など国政全般で最終決定権を握るほか、軍や精鋭軍事組織「イラン革命防衛隊」も従える。

1979年のイラン革命後、初代の最高指導者に就任したホメイニ師は89年に死亡した。その際に大統領だったハメネイ師が2代目となった。

憲法では、最高指導者はイスラム法学者であると同時に、政治的・社会的な洞察力を持つことなどが資格とされる。選挙で選ばれた聖職者による「専門家会議」(定数88、任期8年)で選出する。

後継候補としては、ハメネイ師の息子であるモジュタバ・ハメネイ師など複数の名前がささやかれているものの、いずれも決め手にかけると言われる。また、指導者交代に伴い、革命防衛隊が政治的な権力を増すとの観測もある。【7月6日 毎日】
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次期最高指導者問題がペゼシュキアン氏にとって“難問”となるのか、“改革の契機”となるのか・・・今後の話です。
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イラン大統領選挙  唯一の改革派候補の善戦も ヒジャブ問題では保守強硬派候補も柔軟姿勢

2024-06-26 22:20:13 | イラン

(イラン大統領選に立候補したジャリリ元最高安全保障委員会事務局長=テヘランで6月22日、WANAロイター【6月26日 毎日】 唯一の改革派候補として善戦も報じられています)

【盛り上がりを欠く大統領選挙 「改革は望めない」「誰が大統領になっても国はよくならない」 国民には諦めムードも】
イランでは、5月中旬に搭乗したヘリコプターがイラン北西部の山岳地帯で墜落して死亡したライシ大統領の後任を選ぶ大統領選挙が明後日28日に行われます。

イラン選挙制度特有の事前審査で、改革派や保守穏健派の候補が排除されたこともあって、「改革は望めない」という諦めの空気も色濃く漂う状況で有権者の関心はいまひとつもりあがらないようです。

****保守強硬派がポスト維持か イラン大統領選28日投票 「誰が大統領でも国よくならない」****
ヘリコプターの墜落で事故死したイランのライシ大統領の後任を選ぶ大統領選の投票が28日に迫った。

立候補した80人の大半が当局の事前審査で失格となり、出馬が認められたのは6人だけ。そのうち5人は欧米との融和に否定的なライシ師と同様の保守強硬派が占めた。

首都テヘランで有権者に聞くと、「改革は望めない」などと政治への失望感を強め、投票をボイコットすると打ち明ける人たちがいた。

24日に訪れたテヘランの繁華街で、設置されていた掲示板には、まばらに候補者のポスターが貼ってあるだけ。食品などのデリバリーで日銭を稼ぐモフセンさん(38)は、「誰が大統領になっても国はよくならない。かといって体制を批判すれば、すぐ投獄されてしまう」とこぼした。

ヤミ両替を営むレザさん(48)は「この国には夢も希望もない。政府は米国の経済制裁に対応できず、物価高が深刻で暮らしていけない」と憤った。モフセンさんもレザさんんも投票に行く予定はないと口をそろえた。

80人の立候補者の適性を審査し、6人に絞り込んだ「護憲評議会」は、メンバー12人のうち6人が最高指導者ハメネイ師が任命する聖職者で、保守派の影響下にある。

出馬が認められた保守強硬派5人で支持を集めそうなのが、ガリバフ国会議長と、アフマディネジャド元大統領時代に核交渉を担当したジャリリ氏だ。ガリバフ氏は政界に影響力を持つ革命防衛隊の元幹部。ジャリリ氏は最高安全保障委員会の元事務局長でハメネイ師の信頼が厚いとされる。

ただ、保守強硬派を巡っては、自由や民主化の障害になっているとして投票自体をボイコットする市民が増える傾向がある。ライシ師が当選した前回2021年の大統領選は投票率48・8%と革命以降で最低となった。

改革派からはペゼシュキアン元保健相が唯一、出馬する。外科医から政界に進出し、対米関係改善などを訴える。勝利には保守強硬派の支配を嫌う若年層やリベラル派の選挙参加が不可欠だが、体制への批判票を集め善戦するとの見方もある。

一方で保守票が割れるのを防ぐため、ガリバフ氏やジャリリ氏が投票直前に出馬を取りやめて一本化を図る可能性も残っている。

イランでは大統領は行政の長に過ぎず、国政全般の決定権は最高指導者が握る。ハメネイ師は推定84歳の高齢で、国民の不満が広がる中でも、反米の保守強硬派による支配を次世代に引き継がせる意向とみられる。
ライシ師は5月中旬、搭乗したヘリコプターがイラン北西部の山岳地帯で墜落して死亡した。【6月25日 産経】
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【善戦が報じられる唯一の改革派ペゼシュキアン氏 保守強硬派は直前一本化の可能性も】
「改革は望めない」「誰が大統領になっても国はよくならない」とは言っても、やはり保守強硬派の大統領と改革派の大統領ではやはりその違いは大きなものがあります。

今回選挙では絞り込まれた6人の中に改革派のペゼシュキアン元保健相が含まれているというのことの意味合いはよくわかりません。

保守強硬派が支える体制側としても、保守強硬派候補者だけの選挙となって極端に投票率が低くなって選挙の正当性が揺らぐこと、特にその国際的影響を懸念したものでしょうか。

いずれにしても、素人考えでも6人の中に改革派が一人という状況は、保守強硬派の票が分散し、改革派候補への現状批判票・体制批判票が集中し、結果的に改革派候補が上位に浮上する可能性も想像できます。

もし上位2名に改革派ペゼシュキアン氏が残って決戦投票となれば、現在の国民の諦めムードは一変する可能性もあります。

“ガリバフ氏やジャリリ氏が投票直前に出馬を取りやめて一本化を図る可能性も残っている”・・・・投票日が明後日に迫っているこの段階でやるのでしょうか? イランですから日本の常識は通用しないのでしょうが・・・26日22時時点では、そういう報道はまだ見ていません。

****イラン大統領選、改革派候補が「台風の目」 決選投票の可能性も*****
ライシ大統領がヘリコプターで事故死したことに伴うイラン大統領選は28日、投票が行われる。ライシ師の路線を支持する保守強硬派のジャリリ元最高安全保障委員会事務局長(58)とガリバフ国会議長(62)が有力候補とみられていたが、改革派から唯一、出馬が認められたペゼシュキアン元保健相(69)も支持を伸ばしており、「台風の目」となりつつある。

いずれの候補も当選に必要な過半数を得票できなければ、7月5日に上位2候補による決選投票が実施される。
 
大統領選は、最高指導者ハメネイ師が指名した聖職者などで作る「護憲評議会」が立候補資格の事前審査を行い、事実上ふるいにかける制度となっている。

2021年の大統領選では改革派や穏健派の候補者が出馬できず、ライシ師が圧勝。今回も候補者6人のうち、保守強硬派が5人を占めたが、改革派のハタミ政権で保健相を務めたペゼシュキアン氏の立候補も承認された。

世論調査機関「ISPA」が24日に発表した調査では、「投票に行く」と答えた人の各候補の支持率は、ペゼシュキアン氏24・4%▽ジャリリ氏24%▽ガリバフ氏14・7%。一方、投票先を決めていない人は30・6%に上った。

英紙ガーディアンなどによると、ペゼシュキアン氏は外交顧問として、2015年に米欧などと核合意を成立させた立役者の一人、ザリフ元外相を起用。選挙戦では米国が離脱した核合意の再建を通じ、欧米に経済制裁を解除させるべきだと訴えた。

一方、ジャリリ氏とガリバフ氏は中国やロシアとの連携を強め、経済を改善させる方針とみられる。

イランでは最高指導者が国政の最終決定権を持ち、大統領の権限は限られている。さらに、穏健派や改革派の実力者が立候補できなかったことから、失望した国民の多くは棄権するとの見方もある。

だが、ペゼシュキアン氏の陣営は選挙戦で「棄権はメッセージにならない。棄権すれば、イランをひどい状況に導く少数派に力を与えることになる」と訴えている。

ライシ政権は22年、全土で広がった女性権利の向上などを求めるデモを厳しく弾圧しており、国民の怒りを招いた。ペゼシュキアン氏は、候補者の中で警察による強硬な取り締まりに最も批判的とされ、当時のデモ参加者らに支持を広げられるかが注目される。【6月26日 毎日】
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当然ながら改革派ペゼシュキアン氏は、核合意の問題などで他の保守強硬派候補からは集中攻撃を受ける立場にあります。同候補顧問が生中継TV討論会で、怒ってマイク投げ捨てスタジオから立ち去る場面も。

****怒ってマイク投げ捨て、スタジオから立ち去る候補者…イラン大統領選挙は批判合戦が激化****
イラン大統領選(6月28日投票)に向け、保守強硬派と改革派の候補の批判合戦が激化している。米国などの制裁への対応をめぐる論戦が熱を帯びる中、国営テレビで生中継された座談会では、怒った改革派の顧問がマイクを投げ捨ててスタジオを立ち去り、物議を醸した。

(中略)今月6〜7日にイマーム・サディク大学が3000人を対象に行った意識調査によると、次期大統領に最も期待する政策はインフレ対策(45・2%)で、次に制裁解除(14・8%)だった。

経済制裁については、強硬派が抜け道による制裁回避を優先するよう主張しているのに対し、改革派は対話による制裁解除を目指しており、真っ向から対立している。

18日放送の国営テレビの座談会では、改革派候補のマスード・ペゼシュキアン氏(69)が、ロハニ前政権の外相として2015年に核合意をまとめたモハンマドジャバド・ザリフ氏(64)を顧問として伴って出演した。

強硬派候補のサイード・ジャリリ氏(58)が制裁下での石油輸出を可能としたと主張したことについて、ザリフ氏は「バイデン米政権が制裁を緩和したためだ」と反論した。イランに強硬な共和党のトランプ前大統領が返り咲く可能性があるとして、「反応が見ものだ」と拳を振り上げて批判した。

対話路線で保守穏健派のロハニ政権は核合意をまとめたが、トランプ米政権の一方的な合意離脱で制裁が再開された。ザリフ氏は強硬派から「戦犯」扱いされており、19日付の強硬派各紙は「負け組の再登場だ」と報じた。

改革派のペゼシュキアン氏の陣営は、強硬派の集中攻撃を受けている。文化を議題とした19日の座談会では、ペゼシュキアン氏と同席した顧問が、強硬派パネリストの国営放送大学学長から経歴を批判されて言い争いになり、生中継中の国営テレビが音声を遮断した。

怒った顧問はマイクを投げ捨ててスタジオを去り、残されたペゼシュキアン氏が「この行為が正しいとは言えない」と状況を取り繕う事態となった。【6月22日 読売】
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もっとも、こうした“集中攻撃”状態はペゼシュキアン氏の存在を際立たせる効果もあって、現状批判票・体制批判票を集めやすくなることにもなるのではないでしょうか。

候補者の支持率は調査によって差があるようです。
上記記事では“ペゼシュキアン氏24・4%▽ジャリリ氏24%▽ガリバフ氏14・7%”とのことですが、別の調査では・・・

****イラン大統領選、ハメネイ師側近vs元軍司令官のトップ争い…改革派の医師は3位****
(中略)外信は28日の大統領選挙を控え保守派候補2人がトップ争いを行う中で改革は候補が善戦していると評価した。 

最近の世論調査の結果、元外交官のジャリリ元イラン核交渉首席代表が支持率36.7%でトップとなり、元革命防衛隊空軍司令官のガリバフ国会議長が30.4%、元医師のペゼシュキアン元保健相が28.3%の順となった。

最高指導者ハメネイ師の側近であるジャリリ氏は最高国家安全保障会議議長を務めた強硬イスラム理念家と評価されている。

警察庁長官とテヘラン市長を歴任したガリバフ氏は2003年の学生民主化デモの際に実弾発砲を命令した人物として知られる。 

ペゼシュキアン氏はイラン護憲評議会が大統領選挙立候補者80人のうち最終候補として承認した6人の中で唯一の改革派だ。

ニューヨーク・タイムズは護憲評議会が彼を候補に残した理由について「投票率を高めようとする政府計画の一部」と分析した。

ペゼシュキアン氏は心臓外科医出身で、タブリズ医科大学総長を務めた。2022年のヒジャブデモ当時にはイラン女性の服装を規制する道徳警察と政府の強硬鎮圧を批判し、「強圧的な方法では信仰を強要できない」と主張した。

イランの保守派はイスラム教理原則を固守し、改革派は政治的自由と社会的変化を支持する傾向がある。 

反政府性向メディアのイラン・インターナショナルは、11~13日に行われた世論調査を引用し、投票意向がある有権者のうち浮動層が62%に達したと伝えた。このため残る3人の候補が終盤に浮上する可能性もあるという指摘が出る。 

(中略)ライシ大統領がハメネイ師を継ぐ有力候補の1人だった点から次期大統領選出はその後の最高指導者継承問題ともつながっている。 

ニューヨーク・タイムズは「今回の選挙の核心争点はインフレと失業など経済的困難、米国が主導する制裁、女性の権利。内部デモと米国・イスラエルとの緊張の中でイランが大統領死去にも揺らぐことなく対処できることを見せる機会」と評した。【6月26日 中央日報】
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こういう数字を見ると、保守強硬派としては投票日前日だろうが候補者一本化しないと改革派ペゼシュキアン氏を含む決選投票という事態に追い込まれる可能性がかなりありそうです。

【「選挙」の効用 保守強硬派と言えど、女性票を意識してヒジャブ問題では柔軟姿勢】
争点は先ずはインフレ対策、次に制裁解除ということですが、女性票を考えると女性の権利問題、具体的にはヒジャブ(スカーフ)強制の問題も大きな論点です。

この点について、保守強硬派候補者も女性票を意識して柔軟な姿勢を打ち出しているとか。

****イラン大統領補欠選挙の争点となった「ヒジャブ問題」****
「選挙と政治はさておき、いかなる場合にも女性を残酷に扱ってはならない」

28日に行われるイラン大統領補欠選挙に立候補したムスタファ・ポール・モハマディ元法相は21日のテレビ討論で、ヒジャブ未着用の女性弾圧について警告した。

イスラム法を厳格視する強硬保守の人物がヒジャブ着用をめぐる論争にこのような発言をすることはこれまで稀だった。米紙ニューヨーク・タイムズは24日、「ヒジャブ問題が大統領選挙の争点になっている」と報じた。

同紙によると、強硬保守派の5人を含め、今回の大統領選挙に立候補した6人の候補全員が、ヒジャブを着用していない女性を弾圧することに否定的な反応を示している。

先月、ヘリコプター事故で死亡したライシ前大統領の政権時代の2022年の「ヒジャブ不審死」に触発された反政府デモは、イラン全土を震撼させた。当時の反政府感情が再燃することを警戒しているとみられる。

今回の大統領選挙でヒジャブ問題を強調したのは、候補6人のうち唯一の改革派であるマスード・ペゼシュキアン氏だ。英紙フィナンシャル・タイムズによると、ペゼシュキアン氏は、「Z世代が問題視しているのは私たち(既成世代)だ。彼らは変化を望んでいるが、私たちは変わっていない」と述べ、ヒジャブを着用していないという理由で女性を弾圧するイスラム法はないと主張した。

有権者6100万人のうち半分を占める女性有権者は、大統領選挙で誰が当選してもヒジャブ義務化方針が廃止されるとは思っていないという。

しかし、「すでに変化は始まっている」というのが現地のムードだと、同紙は伝えた。ファッションブロガーのファヒメさん(41)は、「女性たちはヒジャブを脱ぐことについて当局の許可を待たない。すでに多くの人がヒジャブを着用していない」と話した。【6月26日 東亜日報】
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もちろん選挙前にこうした柔軟姿勢を見せていながら、政権獲得後は一転、強硬姿勢に転じる・・・というのはよくあることでしょうが。

さはさりながら、保守強硬派といえどヒジャブ問題で柔軟姿勢を見せざるを得ない・・・・事前審査などイランの選挙制度の問題や大統領権限が限られていることはあるものの、やはり民意を問う選挙というのはそれなりの効果はあるみたいです。

まともな選挙のない中国や有力候補を排除したロシアなどよりは、イランの方がまだ欧米的「選挙」に近いものがあります。

【仮に改革派大統領が誕生しても・・・】
ただ、今の段階で言及するのはいかにも早すぎますが、仮に改革派大統領が誕生したとしても、これでもそうであったように、最高指導者の存在、体制を固める保守強硬派の壁によって、実際にはなかなか政策実現ができないという事態は想像されます。

ハメネイ師も警告のような発言を。

****イラン最高指導者、対米接近論を批判 大統領選挙めぐり****
イラン最高指導者のハメネイ師は25日、28日投票の大統領選を巡り「米国の恩恵なしには一歩を踏み出せないと考えている者は、うまく国家を運営できない」と語った。米国との接近を念頭に対外融和的な姿勢を示す改革派候補に否定的な認識を示した。(後略)【6月26日 日経】
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イラン  大統領の事故死 次期最高指導者の死という側面の影響が大 進む革命防衛隊による権力独占

2024-05-20 22:08:01 | イラン

(イラン国営メディアが提供したライシ大統領搭乗のヘリ【5月19日】 出発時は天候には問題なかったようです)

【ライシ大統領の事故死は「悪天候が原因だ」として、イスラエル関与など政治的主張は否定する構え】
周知のようにイラン・ライシ大統領がヘリコプター事故で死亡しました。

****イラン大統領、ヘリで事故死=山間部に墜落、外相も同行****
イラン北西部の東アゼルバイジャン州で19日、ライシ大統領(63)やアブドラヒアン外相らを乗せたヘリコプターが山間部に墜落し、国営メディアによると、ライシ師ら搭乗者全員が死亡した。イラン最高指導者ハメネイ師は20日、ライシ師ら犠牲者に哀悼の意を示すとともに、5日間の国民服喪を宣言した。

イランの憲法の規定では、大統領が在職中に死去などで不在となった場合、第1副大統領が最高指導者の合意を得て大統領の職務を代行する。ハメネイ師は、ライシ師に任命された保守強硬派のモフベル第1副大統領が代行を務めると明らかにした。次の大統領選挙の日程は未定だが、規定により50日以内に実施される。

ハメネイ師は事故発生後の19日、「国政が混乱することはなく、心配する必要はない」と国民に平静を呼び掛けた。国営メディアはライシ師の死亡発表後、同師をたたえる映像を繰り返し伝えつつ、「国家の運営に全く問題はない」と報じた。在任中の大統領が事故死する異例の事態で、国民の間に動揺が広がるのを抑える思惑があるとみられる。

イラン政府は20日に緊急の閣議を開き、今後の対応を協議したもようだ。中東情勢のカギを握るイランで、行政をつかさどる大統領と対外的な顔である外相が同時に死亡したことで、内政や外交に影響が及びそうだ。国営メディアによれば、外相代行にはバゲリ外務次官が就く。

ライシ師やアブドラヒアン氏は19日にアゼルバイジャンとの国境地帯を訪れ、ダムや発電所の完成式に出席。その帰途に事故に遭った。バヒディ内相は、墜落は「悪天候が原因だ」と指摘。ライシ師らの遺体は北西部タブリーズに搬送されたという。 
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イスラエルとの攻撃の応酬もあった緊張状態での事故だけに、巷ではイスラエルの関与を主張する声もあったようですが、イラン政府は墜落は「悪天候が原因だ」として、事故が政治問題化しないように配意しているようです。

中東情勢に大きな影響力を持つ・・・と言うか、混乱の中心でもあるイランの現職大統領の突然の死亡ですから、今後の中東情勢にも大きな影響を与えるのは間違いないでしょうが、ライシ師が独裁的に物事を決めていたわけでもなく、あくまでも強固に構築されたイラン政治体制の中で大統領としての役割を担っていた訳ですから、「国家の運営に全く問題はない」(国営メディア)というのは基本的には間違ってはいないでしょう。

ただ、当然に、権力者の個性(ライシ師の場合は保守強硬派としての立場)は内外政治に影響しますので、次の大統領選挙で誰が選出されるかは注目されます。

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米国政治に詳しい早稲田大学 中林美恵子教授
「イランが政治的にどうなるのかということは、イスラエルにも影響してくることですし、ひいてはアメリカにも影響してくるということですので、次のリーダーシップがどうなるのかということが非常に重要なポイント。

非常に強硬的な人たちが間違った判断を起こす可能性もあるし、イスラエルが何か企んだのではないかということをこの件にかかわらず、様々な件で述べてくると、そのことによって求心力をなんとか作り出そうというような動きがないとも限りませんので、非常に緊張を持って見守らなければならない」【5月20日 テレ朝news】
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【「現職大統領の死」ということと、同じぐらい、あるいは、それ以上に「次期最高指導者候補者の死」ということの意味合いが大きい】
ライシ師の死亡は、「現職大統領の死」ということと同じぐらい、あるいは、それ以上に「次期最高指導者に最もちかいとされていた人物の死」ということの意味合いが大きいように思います。

イランの政治体制ではトップは大統領ではなく最高指導者とされていますので(もちろん、その力関係は個人的資質・基盤、政治環境によって異なりますが)、高齢(85歳)の現行最高指導者ハメネイ師及び保守強硬派から次期最高指導者として嘱望されていたライシ師の死は、今後のイラン政治にとって極めて大きな影響を与えます。

ライシ師は早くから「次期最高指導者」が期待されていました。下記は22年4月の記事。

*****イランの次期最高指導者がその時を待つ****
いくつかの兆候が、イランの次期最高指導者にイブラヒム・ライシ大統領が選出される可能性が高いことを示している。

現最高指導者(アヤトラ)アリ・ハメネイ師の手口は常に、国の政治的・経済的問題の責任を、政治的スペクトルを超えて歴代大統領に向けることに集約されてきた。

他の高官を非難することで、ハメネイ師は説明責任と遂行責任から逃れようとしているのだ。いわゆる穏健派のハサン・ロウハーニー氏、改革派のモハンマド・ハータミー氏、強硬派のマフムード・アフマディネジャド氏ら、前大統領がその対象となってきた。

しかし、ハメネイ師はライシ師に関しては異なるアプローチをとっている。ロウハーニー大統領時代の核交渉を頻繁に批判していたハメネイ師が、最近、強硬派政権との会談でライシ師を支持したのは意外な動きだった。

ハメネイ師は、ライシ政権の努力は「誠実で勤勉」であり、核交渉は「適切に進んでいる」と発言した。また、「これまでのところ、我々の交渉団は相手の過剰な要求を前に抵抗している。神のご意志により、その抵抗は続くだろう」とも述べた。(中略)

核協議以外でも、このイランの最高指導者は他の分野でもライシ師を評価している。司法長官らとの会談で、ハメネイ師はこう述べた。「ライシ師は、我々が常に提唱する、『良い結果を得るために日夜努力』している聖戦運動の顕著な例であった」

さらに、ハメネイ師は、ライシ師が「司法に対する国民の希望を蘇らせた。これは、この国にとって大きな社会的富となる……我々は、サイード・イブラヒム・ライシ師がイラン最高裁長官だった2年以上の間の、その不断の努力を称えなければならない」と付け加えた。

数年前から、政権がライシ師をイランの次期最高指導者に育てようとしていることは指摘されていた。
例えば、ライシ師は2017年に大統領選に出馬し、政権は彼が勝つことを期待していた。

しかし、この神権体制はいくつかの間違いを犯している。上院にあたる監督者評議会は、ロウハーニー政権の経済運営の失敗や、同大統領が人々の社会的、政治的、宗教的自由を改善するという選挙公約を達成できなかったことから、国民が彼の続投を支持する可能性は低いと考えたのか、この穏健派候補の出馬を承認した。

多くの一般イラン国民にとって、大統領選挙は、悪いか、より悪いほうか、の選択であった。その結果、彼らは強硬派のライシ師を勝たせないために、いわゆる穏健派のロウハーニー氏に票を入れた。ロウハーニー氏は、ライシ師の38.5%に対し、57%の票を獲得し、大差で勝利した。

次の選挙では、政権は教訓を生かし、監督者評議会は「すべての候補者は40歳から70歳までで、少なくとも修士号またはそれに相当する学位を持ち、管理職として少なくとも4年の職務経験があり、犯罪歴がないこと」と発表するなど、多くの制限を設けた。

監督者評議会は、ライシ師の大統領就任を妨げる障害を取り除くために、アリー・ラリジャニ氏のような政権トップの重鎮でさえ候補失格とした。

注目すべきは、ライシ師が、このイスラム共和国が次期最高指導者に求める人物像に合致していることだ。

ライシ師の政策は、イスラム革命防衛隊(IRGC)とその精鋭部隊であるコドス部隊の政策に合致している。彼はおそらく、国内と地域でIRGCがより大きな力を振るうことを認めるだろう。

マジッド・ラフィザデ博士(ハーバード大学で学んだイラン系アメリカ人の政治学者)
第一に、彼は残忍な力を行使し、反対勢力や政権に立ち向かう人々を取り締まることにためらいがない。例えば、テヘラン副検察官時代には、世界最大級の大量処刑に関与した。

米国の超党派の議会決議は最近、子どもや妊婦を含む数千人が処刑されたこの大虐殺の範囲と、その性質を取り上げている。同決議によれば、「1988年の4カ月間に、イラン・イスラム共和国政府は、数千人の政治犯と多くの無関係な政治団体に対する、野蛮な大量処刑を行った。NGO団体イラン人権ドキュメンテーション・センターの報告によれば、この虐殺は当時の最高指導者ホメイニ師が出した宗教上の命令、ファトワに従って行われた」とあり、処刑は主に反対派であるイラン国民抵抗評議会のメンバーが標的となった。

第二に、ライシ師の政策は、イスラム革命防衛隊(IRGC)とその精鋭部隊であるコドス部隊の政策に合致している。彼はおそらく、国内と地域でIRGCがより大きな力を振るうことを認めるだろう。

まとめると、ライシ師はハメネイとIRGCの幹部によって、イランの次期最高指導者に選ばれた可能性が高いということである。(後略)【2022年4月22日 ARAB NEWS】
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【お飾り最高指導者で進むことが想像される革命防衛隊の権力独占】
一方でイランの政治権力は最高指導者から革命防衛隊に移りつつあります。
ライシ師は革命防衛隊にとっても考えの近い候補者でした。

****イランの次の最高指導者は誰に? カギ握る革命防衛隊****
英エコノミスト誌5月25日号の解説記事‘Who will be Iran’s next leader’は、いずれイランの最高指導者の交代があるだろうが、革命防衛隊が実質的な権力を握って専制政治を敷くであろう、とする予測を示している。要旨は次の通り。

*   *   *
(英エコノミスト誌記事)
誰が最高指導者ハメネイ師の後継者となるのか、果たして中東の最後の神権政治が生き残れるのか誰も分からない。信心深いイラン人ですら神権政治に対する信頼を失い始めている。

ハメネイ師の後継者としてハメネイ師よりさらに宗教的権威が劣る2人の有力候補がいる。一人は、保守強硬派で現大統領のライシ師、もう一人は、ハメネイ最高指導者の次男のモジュタバ師である。

1989年にハメネイ師を最高指導者に任命した時と大きな違いは、革命防衛隊が大きな力を持っていることである。革命防衛隊は、聖職者より優位にいる。過去30年間、ハメネイ最高指導者は、革命防衛隊を利用して宗教界のライバルを押しのけ、民衆の抗議デモを排除して権力を掌握してきた。

今後、革命防衛隊は最高指導者をお飾りにしてしまうように思われる。その意味で、ライシ師は革命防衛隊にとりピッタリの人物と言える。恐らく革命防衛隊は権力を掌握し、「聖職者による支配」を有名無実化するが、今と同様な専制政治体制を敷くだろう。しかし、体制に対して不満な中産階級をこれ以上刺激しないだろう。

対外政策は強硬なままで、核武装に走るだろうが、ペルシャ湾地域での米国のプレゼンスに反対しつつも、「大悪魔(米国)」と協議することにはより柔軟だと思われる。

一部の専門家は、革命防衛隊は服装や飲酒に対する自由をより認める新たな社会契約を国民と結ぼうとするのではないかと考えている。国民はこのような社会契約を喜ぶであろうが、しかし、政治的な自由はこれまで以上に制限されるであろう。

ハタミ元大統領やムサヴィ元首相といった真の改革派は、革命防衛隊や聖職者が支配する体制ではなく、非宗教的な市民社会を実現しようとするであろう。

*   *   *
(論評)
これは大変良い分析である。ホメイニ師のようなカリスマと宗教的な権威に欠けるハメネイ最高指導者が宗教界を抑え、権力を掌握するために革命防衛隊を利用した結果、革命防衛隊の力が強くなり過ぎ、次期最高指導者は、お飾りとなり、実権を革命防衛隊が握って、専制政治を行うというシナリオは説得力がある。

革命防衛隊のメンバーの国会議員の占有率は約4分の1であるのに対して、聖職者の比率は11%である由である。1980年には、それぞれ6%と52%だったのが大きく逆転している。

これは、革命防衛隊の聖職者に対して優位に立ったことをよく表している。イラン経済についても、その30%を革命防衛隊が支配しているといわれている。

革命防衛隊が権力を握れば、国内的には、服装や飲酒の規制を緩めてイラン国民を惹きつけるだろう。対外政策は強硬で、特に「核武装しない」とのハメネイ師のファトワ(宗教指導者の命令)を廃止して核武装を進めるが、その一方で米国とも交渉することがあり得るかもしれない。

もっとも、現実には、革命防衛隊内には筋金入りの強硬派が少なくないと思われ、革命防衛隊にそのような現実的な対応ができるかどうかは、革命防衛隊内部の統制がどれだけ取れているかに掛かっているのではないか。しかし、革命防衛隊の内部は部外者にはブラックボックスであり、部外者には皆目分からない。

とはいえ革命防衛隊も不人気
一つ付け加えると、イスラム革命から40年以上が経過し、イラン国民が「聖職者による支配」に飽きているのと同様に、革命防衛隊も国民の間で不人気なのは間違いない。

去年(2022年)のスカーフ・デモが典型だが、国内で反政府デモが起きると鎮圧の先頭に立つのは革命防衛隊だ。そして、イスラム革命体制下で聖職者と革命防衛隊は様々な特権を有しているのにも関わらず両方ともリクルートに苦労しており、国民の間での不人気ぶりを物語っている。

なお、改革派について言及があるが、今となっては、改革派が勢力を盛り返すチャンスは、ほとんどない。革命防衛隊が権力を掌握し、服装や飲酒の規制を緩めれば、大多数の国民はそれで満足してしまうからである。【2023年6月23日  WEDGE】
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そしてライシ師が亡くなった現在、残るのはハメネイ最高指導者の次男のモジュタバ師

****次期最高指導者は世襲?****
ライシ師の不在は、今年推定85歳のハメネイ師の後継問題にも影を落とす。英誌エコノミスト(電子版)は、次期最高指導者の有力候補はライシ師を除けばハメネイ師の息子のモジタバ師しかいないとする一方、モジタバ師が跡を継げば革命体制が批判してきた世襲という矛盾が生じると報じた。【5月20日 産経】
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“革命体制が批判してきた世襲”・・・それはライシ師という別の弾があるときの話で、モジタバ師しかいなければ革命防衛隊も問題にしないでしょう。

ただそうなると、超軽量級で政治経験のない最高指導者ということで、その存在は完全に“お飾り”となり、革命防衛隊による権力独占はライシ師の場合よりも顕著に進むでしょう。実質的に最高指導者によるイラン神権政治も終わりを迎えるでしょう。

【改革派・保守穏健派が勢力を盛り返すチャンスは・・・ほとんどない】
保守強硬派のトップ死亡ということでは、一般的には改革派とか保守穏健派が勢いづくこともあり得ますが、現在のイランではそうした事態はなかなか想像できません。

監督者評議会が大統領・議員の出馬資格を厳しく制限している現行政治システムでは改革派・保守穏健派の拡大は見込めません。

選挙で権力に近づけないなら、「革命」を含むその他の方法で・・・という話にもなりますが、今のイランにそうした熱気が存在しているようには思えません。

「革命」などの抵抗運動には、自身の死をも覚悟する必要がありますが・・・・
“革命防衛隊が権力を掌握し、服装や飲酒の規制を緩めれば、大多数の国民はそれで満足してしまう”、政治的不自由は受入れてしまう・・・というのがイランの実情ではないでしょうか。
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イスラエル  イラン在外公館を挑発的に攻撃 イランの報復は? ガザでは食糧支援NGOへの攻撃

2024-04-03 23:37:37 | イラン
(イラン大使館の隣にある領事部が攻撃され破壊された【4月2日 BBC】)

【武装組織を支援するイラン 親イラン組織ヒズボラへの圧力を強めるイスラエル】
パレスチナ・ガザ地区でイスラエルと戦闘を続ける武装組織ハマスや「イスラム聖戦」の背後にイランの存在があるというのは今更の話です。3月末には両組織の指導者が相次いでイランを訪問しています。

****イスラエル「前例なき孤立」=ハマス指導者がイラン訪問****
パレスチナ自治区ガザでイスラエルと戦闘を続けるイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が26日、イランの首都テヘランを訪れ、アブドラヒアン外相と会談した。(後略)【3月26日 時事】
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****ガザ武装組織トップと会談=イスラエル・米をけん制―イラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は28日、首都テヘランで、パレスチナ自治区ガザの武装組織「イスラム聖戦」指導者のナハラ氏と面会した。

イスラム聖戦は、イスラエルと戦闘中のイスラム組織ハマスと共闘している。ハメネイ師は26日にハマス最高指導者ハニヤ氏と会談したばかりで、両組織が交戦中のイスラエルや米国を強くけん制する狙いもあるとみられる。(後略)【3月29日 時事】 
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こうしたパレスチナの武装組織以上にイランと直接的関係があるのがレバノンのヒズボラ。 

ハマスを上回る軍事力を持つヒズボラが本格的にイスラエルとの戦闘状態に入るのか・・・ガザでの戦闘開始以来、国際社会が注目してきましたが、これまでのところ小競り合いは継続していますが、本格的な戦闘にはいたっていません。

ただ、一昨日の4月1日ブログ“イスラエル 人質救出・首相退陣を求める抗議デモ 兵役免除のユダヤ教超正統派への批判”でも取り上げたように政治的苦境にあるイスラエル・ネタニヤフ首相としては、「ヒズボラを戦闘に引きずり込んで、戦争を一気に拡大したいのかも・・・」と思えるほどに、ヒズボラへの圧力を強めています。

****イスラエル軍、レバノン南部を空爆…ネタニヤフ首相「ヒズボラへの対処なしに勝利はあり得ない」****
イスラエル軍は27日、イスラム教シーア派組織ヒズボラが拠点とするレバノン南部を空爆した。ロイター通信によると、レバノン側でヒズボラ戦闘員ら8人、イスラエル北部で1人が死亡した。レバノン南部の戦闘が激化しており、イスラエルは全面的な戦争も辞さない構えだ。
 
空爆の報復で、ヒズボラはイスラエル北部にロケット弾数十発を撃ち込んだ。

イスラエル軍は27日、昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラム主義組織ハマスとの戦闘が始まった後に凍結した空軍の飛行訓練を数週間前に再開したと明らかにした。ヒズボラとの全面戦争を想定した動きとの見方がある。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は27日、「ヒズボラへの対処なしに勝利はあり得ない」と述べた。(後略)【3月28日 読売】
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****シリア空爆で43人死亡か イスラエル攻撃と監視団****
シリア人権監視団(英国)は29日、イスラエルが同日、シリア北部アレッポにあるレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの武器庫を空爆し、43人が死亡したと発表した。死者の多くがシリア軍の兵士でヒズボラの戦闘員も含まれているという。

イスラエル軍とヒズボラは29日もレバノンで交戦した。イスラエル軍はヒズボラのロケット部隊副司令官を殺害したと発表。ヒズボラはアレッポ空爆への報復としてイスラエル軍の施設をミサイルで攻撃したと主張した。

イスラエルは敵対するイランからシリアを経由してヒズボラなどの親イラン組織に武器が密輸されているとみて、シリア領内への攻撃を繰り返している。【3月29日 共同】
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イスラエルとヒズボラの小競り合いが続く状況で、イスラエル・レバノン両国ともに多くの避難民が出ています。
特にレバノン側は政府の支援も期待できない状況。戦争に苦しんでいるのはガザ地区だけではありません。

****レバノン南部の住民も9万人避難、イスラエルとヒズボラの戦闘で「家は壊れ…何もかも失った」****
イスラエル軍とレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘に伴い、レバノン南部の住民9万人超が避難生活を続けている。イスラエル軍の攻撃によって自宅を失った人もおり、住民らは「いつ戻れる日が来るのか」と不安を募らせている。(中略)

イスラエルでは、ヒズボラとの戦闘で避難した住民6万人超にホテルの部屋などが提供されている。一方でレバノン政府は放漫財政などで2020年3月にデフォルト(債務不履行)を宣言しており、支援はほぼ皆無だ。(後略)【3月29日 読売】
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【イスラエル シリアのイラン在外公館攻撃 攻撃対象はイランの革命防衛隊司令官】
上記のような武装組織へのイランの支援、ヒズボラとの全面的な戦争も辞さない構えのネタニヤフ首相の思惑などもあるところで起きた、イスラエルによる“一線を越えた”とも思える攻撃が、シリアの首都ダマスカスで1日に起きたイラン大使館に隣接する領事部ビルへのイスラエルによるとみられる空爆。

各地の武装組織を支援・指導するイランの革命防衛隊司令官を対象にした攻撃ですが、本国攻撃にも準じるような在外公館への直接攻撃という異例の事態となっています。

****イラン領事部ミサイル、死者13人に…イスラエルが攻撃認めると米報道****
シリアの首都ダマスカスのイラン大使館に隣接するビル(領事部ビル)に対する1日のミサイル攻撃について、イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」は同日、領事部ビルがイスラエルの攻撃を受けたと主張し、現地司令官ら7人が死亡したと発表した。イランの大使は死者数がシリア人を含め計13人と明らかにした。パレスチナ自治区ガザ情勢で対立する両国間の緊張が高まるのは必至だ。

イスラエル側は、空爆について公式反応を示していないが、米紙ニューヨーク・タイムズは複数のイスラエル当局者が、攻撃を認めたと報じた。イラン最高安全保障委員会は2日、会合を開き「適切な決定を行った」と発表した。対抗措置を議論したとみられる。

イスラエルは、ガザで戦闘を続けるイスラム主義組織ハマスをイランが支援していると指摘。昨年10月のガザでの戦闘開始後、シリア駐在の革命防衛隊隊員を空爆などで殺害してきた。

イランは攻撃を受けるたびに報復を宣言したが、ガザの戦闘への直接介入は一貫して否定。イラン、イスラエルともに慎重姿勢だったが、紛争拡大の懸念が強まっている。国連安全保障理事会は2日午後(日本時間3日未明)、この攻撃について協議する緊急会合を開催する予定だ。【4月2日 読売】
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イスラエルとしてもイランの大使・領事などに被害が出ると国際的に非難の的になるので、大使らの不在を確認したうえでの攻撃とか。

【イラン 報復を宣言するも、全面戦争やアメリカ介入は避けたい 対応には苦慮か】
武装組織を支援するイランの動きを牽制・・・というよりは、イラン側を“挑発”しているようにも思えます。
当然ながらイランは報復を宣言しています。

****イラン最高指導者がイスラエルに報復宣言****
イランの最高指導者ハメネイ師は2日、在シリアのイラン大使館の建物に対する攻撃について、イスラエルの「犯罪」だと糾弾し「罪を犯したことを後悔させる」と報復を誓った。最高指導者事務所が発表した。【4月2日 共同】
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問題は、その「報復」がどのようなものになるのか? ということ。

ネタニヤフ首相としてはイランがイスラエルとの直接戦争に踏み出せば、むしろ歓迎する事態でしょう。そうなれば、このところ関係がギクシャクしているアメリカもイスラエルを支援せざるを得ないでしょうから、この際一気に宿敵イランを叩き、国内的な政治苦境も「大成果」で解決・、アメリカとの関係も改善・・・・・。

逆にイランとしては、さすがに今の時点でそういう直接戦争状態に突入する気はないでしょう。ただ相応の報復をしないと国内強硬派から「弱腰」批判を受けます。

武装組織を使った軍事的攻撃(イスラエルの他、シリア・イラクの駐留米軍も対象)だけでなく、核開発を加速するという手段も可能性としてはありますが、現実的には難しいところも。

****イラン、イスラエルへの報復に選択肢 全面戦争は回避へ****
シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺への攻撃を受け、イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルに対する報復を宣言したが、大規模な衝突を引き起こすことなくいかに報復するかという難問に直面する。

イランにはさまざまな選択肢がある。同国が支援する武装組織に中東駐留米軍あるいはイスラエルを直接攻撃させるか、米国やその同盟国が長年抑制を求めてきた核開発を加速させることが可能だ。

米政府当局者らは、イランの支援を受ける武装組織がイラクとシリアに駐留する米軍を攻撃するかどうかを注視していると述べた。

米軍は2月初め、ヨルダンの米軍施設で米兵士が死亡した攻撃への報復として、イラン革命防衛隊や親イラン武装組織に関連するイラクとシリアの施設を空爆。これを受けて中東駐留米軍への攻撃は2月に停止していた。

米政府当局者らは、1日のイラン大使館周辺への攻撃後、親イラン武装組織が駐留米軍を攻撃しようとしていると示唆する情報はまだ入っていないと述べた。イランメディアは、大使館攻撃でイラン革命防衛隊のモハンマドレザ・ザヘディ司令官などが死亡したと報じた。

米国は2日、イランによる報復をけん制。ウッド国連次席大使は「われわれは自国の人員を守ることをためらわない」と言明し、イランや親イラン組織に対しこの状況を利用して米側への攻撃を再開しないよう改めて警告すると述べた。

<全面戦争回避>
ある関係筋は、イランが衝突を望んでいないのは明白で、報復すれば衝突を招き得るという「ジレンマに直面している」と指摘。「即応力はあるが状況悪化は目指さない」立場を示すために行動を調整しようとしているとした。

その上で、イランがイスラエル本国かその大使館、あるいは海外のユダヤ人施設を攻撃する可能性があると分析した。

米政府高官は、イスラエル軍による攻撃の重大性を考慮すると、イランは米軍を狙うのではなく、イスラエルの国益を直接攻撃して報復する以外の選択肢はないかもしれないと述べた。

米シンクタンク「外交問題評議会」の中東専門家、エリオット・エイブラムス氏もまた、イランは全面戦争を望んでいないが、イスラエルの国益を標的にする可能性はあるとの見方を示した。

イランはイスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラが大規模な戦争を始めることは望んでおらず、ヒズボラが目立った行動を取ることはないとも予想。「他にも報復の方法は数多くある。一つの例を挙げるならイスラエル大使館の爆破を試みることだ」と語った。

イランはまた、核開発を加速させることで対応する可能性もある。トランプ前米大統領が2018年にイラン核合意から離脱して以来、イランは核開発を強化してきた。

しかし、核兵器級の90%のウラン濃縮を行う、あるいは核兵器を実際に設計する作業を再開するという最も劇的な行動を取れば裏目に出て、イスラエルや米国からの攻撃を招く可能性がある。

関係筋はこのような劇的な行動は、核兵器獲得を決定したとイスラエルと米国に見なされるだろうと指摘。「つまり大きなリスクを取ることになる。そのような準備ができているとは思わない」と語った。【4月3日 ロイター】
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イランは(もたらすリスクを考えると)イスラエルとの直接戦闘はもちろん、ヒズボラの本格的戦争参加も望んでいない・・・というのはそうでしょうが、イスラエル側の対応にもよります。

殺害されたイランの革命防衛隊の司令官は、レバノンのヒズボラとの連携を担当する責任者だったとのことです。
また、イスラエル軍はレバノン国境に近いイスラエル北部でかなり大がかりな軍事作戦を準備している兆候があるとの情報も。そうしたことから、近くイスラエル軍がヒズボラ攻撃を激化させるとの予想もあるようです。

イスラエル・ネタニヤフ首相としては、前述のようにヒズボラとイランを刺激して参戦させ、アメリカがイスラエルを支援せざるを得ない状況で一気にケリをつけたい思惑なのかも。

イランとしてはアメリカの介入につながる直接的な攻撃はしたくない・・・武装組織を使ってイスラエルの在外公館などを狙うのか・・・制御された形で行わないとリスクが拡散します。それだけのインテリジェンス・能力があるのか・・・イランは難しい選択を迫られています。

いずれにしても、緊張状態のステージが一段階上がったのは間違いないでしょう。

【食料支援団体職員がイスラエル軍の空爆で死亡 バイデン大統領も“激しい憤り”】
一方、イラン在外公館空爆という“攻めの一手”をうったイスラエル・ネタニヤフ首相にとって誤算は、パレスチナ自治区ガザで支援活動を行う慈善団体「ワールド・セントラル・キッチン(WCK)」の職員7人がイスラエルの空爆で死亡した事件。国際的に激しい批判にさらされており、守勢を余儀なくされています。

****NGO“活動内容を事前連絡も攻撃” イスラエル軍空爆により職員ら7人死亡****
パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエル軍の空爆により、外国人NGO職員ら7人が死亡しました。NGOは、活動内容を事前にイスラエル軍に連絡していたにもかかわらず攻撃されたとしています。

国際NGOの「ワールド・セントラル・キッチン」は2日、ガザ地区でイスラエル軍の攻撃によりオーストラリア人、イギリス人、ポーランド人、アメリカとカナダの二重国籍者ら7人が死亡したと明らかにしました。

「ワールド・セントラル・キッチン」は、支援物資の食料をキプロスから海上輸送し、ガザ地区まで運搬する活動を行っていました。イスラエル軍と調整のうえ、NGOのロゴがついた車両で非戦闘地帯を移動していたにもかかわらず、空爆を受けたとしています。

一方、イスラエル軍は、「最高レベルで徹底的な調査を行っている」とする声明を発表しています。【4月2日 日テレNEWS】
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****イスラエル首相、ガザ食料支援団体の攻撃認める*****
パレスチナ自治区ガザ地区で、米国を拠点とする食料支援団体「ワールド・セントラル・キッチン」のスタッフら7人が攻撃を受け死亡した問題で、イスラエルのネタニヤフ首相は2日、「イスラエル軍が意図せずに非戦闘員に危害を加える悲劇があった」と認めた。各国はイスラエルへの批判を強めている。

同団体によると、死亡したスタッフの国籍は英国、オーストラリア、ポーランド、米国など。英国外務省は駐英イスラエル大使に「明白な非難」を伝え、迅速で透明性のある調査と人道支援のアクセス拡大を求めた。米ホワイトハウスも声明で「支援団体のメンバーが亡くなったと知り憤慨している」と非難した。

一方、アラブ首長国連邦(UAE)はロイター通信に対し、イスラエルによる安全の保証と調査が行われるまで、キプロスからガザへの海上回廊を通じた人道支援を一時停止すると明らかにした。ガザで活動する支援団体が治安のリスクから活動を一時停止する動きもあり、ガザの食料危機に拍車をかける可能性がある。【4月3日 毎日】
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犠牲者を出した各国はイスラエルに説明を求めていますが、アメリカ・バイデン大統領も“激しい憤り”を表明する事態に。

****ガザ支援職員死亡に「憤慨」=空爆のイスラエル批判―バイデン米大統領****
バイデン米大統領は2日、パレスチナ自治区ガザで活動していた食料支援団体職員がイスラエル軍の空爆で死亡したことを受けて声明を出し、「憤慨し、心を痛めている」と表明した。また、イスラエルに対し、迅速に調査を進めた上で結果を公表するよう求めた。

バイデン氏は、支援従事者や民間人の保護を「十分にしていない」としてイスラエルを強く批判。職員の死亡は「悲劇だ」と強調した。【4月3日 時事】
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バイデン大統領も、イスラエルへの「やり過ぎ」批判が国内的に、特に民主党支持層で高まる中で、先日明らかになった水面下で進められたイスラエルへの大型爆弾売却に続く事件だけに、イスラエルへの厳しい姿勢をとる必要があるところでしょう。

ネタニヤフ首相は「戦争状態ではよく起こることだ」みたいなことを言っていましたが、ただでさえイスラエルに批判的な国際世論が高まっている時期での出来事だけに痛い失点でしょう。
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イラン  事前の資格審査で「結果の出ている」議会選挙 アメリカとの過度の緊張を避けたい思惑も

2024-03-02 23:01:36 | イラン

(イラン (今回議会選挙ではありませんが)投票する女性【Pars Today 2月26日】 イランではヒジャブの被り方で、その女性の宗教的傾向、ひいては政治傾向がわかります。この写真の女性のようにきちんとした被り方をする女性の多くは敬虔なイスラム教徒で保守強硬派支持と推測されます。一方、街中には敢えて前髪を見せるような形で被る女性も多くいます。)

【改革派・穏健派排除で形骸化した議会選挙 議席数より投票率が民意反映】
従来、国際政治に大きな影響力を有するイランの議会選挙はメディアに注目されてきましたし、このブログでも何回も取り上げたことがあります。

8年前の2016年選挙では、欧米諸国との間で核開発問題で合意を取り付け、市民生活を疲弊させてきた経済制裁解除を実現した保守穏健派ロウハニ大統領(当時)の進める協調・改革路線が基盤を固めるのか、あるいは保守強硬派の巻き返しで政治的求心力を失う形になるのかが注目されました。

しかし、トランプ政権の対応(18年5月、核合意離脱)もあって、核合意・制裁解除路線は破綻。保守強硬派が勢いを増す中で21年6月大統領選挙で保守強硬派のライシ大統領が圧勝・・・政治状況は保守強硬派が完全に権力を握る形になっています。

従来からイランの選挙は事前の資格審査でのふるい落としは行われていましたが、保守強硬派が完全に権力を掌握する状況で、改革派・保守穏健派の出馬すら認められない流れが強まり、選挙は形骸化しています。

そのため前回20年2月の議会選挙も、20年2月24日ブログ“イラン国会議員選挙 体制を支える保守強硬派圧勝 しかし記録的低投票率 さらには新型肺炎の脅威”でも取り上げたように、国民の関心は著しく低下しました。

そしてその流れは更に強まり、3月1日に行われた今回選挙は、事前審査ですでに結果は決まっているとして、国民にも、国際的にもほとんど関心をもたれていません。

****「結果出ている。投票行かない」 イランで3月1日国会選 保守派が優勢維持か****
イランで3月1日、国会選が行われる。欧米に融和的な改革派や穏健派の候補が事前審査で失格になり、反米の保守強硬派が過半数を維持するとの見方が有力になっている。

米欧の経済制裁で生活苦にあえぐ国民に閉塞(へいそく)感が拡大。イスラム教シーア派の指導部への不満が広がり、投票率は低迷すると予想されている。

イラン国会は一院制で定数290。任期は4年。国会選に約2万5千人が立候補を届け出たが、「護憲評議会」の事前審査によって約1万5千人にまで絞り込まれた。

評議会は候補者の適格性を判断する役割を持ち、最高指導者ハメネイ師の影響下にある聖職者ら保守派が支配している。審査によって、すでに出馬表明していた改革派や穏健派の多くが立候補を阻まれた。

「選挙結果はもう出ている。投票には行かない」
2月28日、粉雪が舞う首都テヘランの中心街にあるフェルドシ広場で、オミドさん(38)がそう話した。

タクシーの運転手だが、妻と子供2人を養うには収入が足りず、日中は街頭に立ってヤミ両替をしている。
オミドさんは「この国を見てくれ。経済悪化でみな腹も満たせない」と話し、反米保守強硬派のライシ大統領の失政を非難した。

たびかさなる欧米の制裁で続く経済低迷を背景にして、市民の不満は募る一方だ。2年前には頭髪を覆うスカーフ「ヘジャブ」を適切に着用していないとして、警察に拘束された女性=当時(22)=が不審な死を遂げ、大規模な抗議デモが全土に拡大した。

指導部は不満を抑えるため、選挙前にもかかわらず引き締めを図ってきた。
今年1月には、ヘジャブをかぶらなかった30代の女性にむち打ち74回の刑を執行したと発表した。このほかにも、22年のデモの際に警官を殺害したとして男性(23)を処刑した。

反米保守の頂点に立つ最高指導者ハメネイ師は84歳の高齢で、指導部は権力継承をにらんで反米保守の勢力を維持することに躍起だといわれる。

イランでは、国政選挙の投票率が体制新任の度合いを測るバロメーターとされてきた。20年の前回選で保守強硬派が全議席の7割超を獲得したが、投票率は約43%となり、1979年のイスラム革命以来、最低を記録した。今回の投票率はさらに落ち込んで30%を割り込むとの予想もある。

1日は最高指導者の選出・罷免の権限がある「専門家会議」(定数88)の選挙も行われるが、2015年に欧米などと核合意を締結した穏健派のロウハニ前大統領が事前審査で失格となった。強引に反米保守の支配を目指す指導部の意向が見て取れる。【2月29日 産経】
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ヒズボラ、フーシ派、ハマスなど中東各地の親イラン勢力を支援しているイランですが、市民生活が苦しいなかで必ずしも国民にそうした対応が支持されている訳でもありません。

“政治家が信用できないため投票に行かないという52歳の男性は「社会全体が経済制裁の影響を受けて、外国から物を輸入できず、商品の質は落ちています。われわれ自身が弱っているのにハマスに興味なんて持てません」とハマスなどへの支援を批判していました。”【2月23日 NHK】

民意が反映しない形骸化した議員選挙、唯一の注目点は投票率がどうなるか・・・でしょうか。議席数より投票率の方が民意がどこにあるのかを知る手掛かりになりそうです。

84歳の最高指導者ハメネイ師の健康状態は思わしくないとも推測され、今回議会選挙と同時に選挙が行われる「専門家会議」のメンバー(任期8年)が、その任期中に新たな最高指導者を選ぶことになる事態が予想されますが、議会選挙同様に、保守穏健派のロウハニ前大統領が事前審査で失格となるなど、保守強硬派の意向が貫徹される流れとなっています。

上記【産経】記事にもあるように、保守強硬派による社会締め付けは強化されています。

****グラミー賞のイラン人歌手に禁錮3年8月、「ヘジャブ」抗議デモに連帯示す楽曲****
イランで女性の髪を隠すスカーフ「ヘジャブ」の強制着用に抗議するデモに連帯する曲を発表し、米グラミー賞に昨年新設された「社会変革のための最優秀楽曲賞」を受賞したイラン人歌手シェルビン・ハジプールさん(26)は1日、SNSへの投稿で、地元裁判所から扇動罪などで禁錮計3年8月の有罪判決を受けたと明らかにした。
 
ハジプールさんは22年にイラン全土に広がったヘジャブ抗議デモで、X(旧ツイッター)に投稿された抗議コメントを歌詞に採り入れた「バライエ」(ペルシャ語で「〜のために」)を発表し、人気を博した。同年10月に情報当局に逮捕された。現在は保釈中。【3月2日 読売】
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なお、イランメディアPars Todayは、下記のようにイラン政治・選挙の“秀逸性”を自画自賛しています。

****西アジア諸国と比較したイランの選挙の秀逸性****
(中略)イランの選挙では政治的競争が行われていることが挙げられます。イランの選挙においては、個人もしくは組織・団体の間に真の競争が存在し、結果が事前に分かる出来レースではなく、投票内油次第で結果が決まるほどのレベルにあります。

たとえば、2017年の大統領選挙では、当選者は全投票の50%をわずか0.5%超えるという僅差で勝利を確定させました。

一方、一部の地域諸国の選挙では、大統領選挙で当選する候補者や国会選挙で勝利する政党が全体の約9割の得票を獲得するなど、選挙において競争がほぼ存在しない状況が示されています。

したがって、イランにおいては、選挙への人々の参加に基づいてより良い候補者が選ばれていると言えるのです。【Pars Today 2月26日】
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かつてはそんな時代もあった・・・と言うべきか。(私も以前は“神権政治と批判されるイランだが、イメージより民意を反映した選挙が機能している”という主旨のブログ記事を書いたこともあります)

記事は、“敵はイランの選挙に反対する大規模なプロパガンダ攻撃を仕掛け、人々に選挙に参加しないよう呼びかけています”とも。 「敵」が何者かについては触れていませんが、アメリカもしくは欧米、その影響を受けた勢力を指すのでしょう。

【アメリカとの過度の緊張高まりを抑制したいイラン】
国際面では、イラクで活動する親イラン武装組織が1月28日にヨルダン北東部の米軍施設を攻撃し、米兵3人が死亡したことで、アメリカとの間の緊張が高まりましたが、イランとしては対米緊張を過度に高めたくないのが本音で、事件直後にイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官がイラクを訪問して、関係組織の抑制に務めたようです。

(1月28日の攻撃については、WSJ報道によれば“米軍が敵の無人機を自軍のものと勘違いしたため、迎撃に失敗したと報じた。米軍の無人機も同時刻に拠点に戻ってくるところだったという”【1月30日 時事】ということで、米兵に死者が出たことは、親イラン組織・イランにとって想定外だったのではないでしょうか。イランは関与を否定しています。)

****イランの精鋭「コッズ部隊」司令官、民兵組織に対米攻撃の自制を求める 緊張激化を回避か****
ロイター通信は18日、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官が1月下旬にイラクを訪問して親イラン民兵組織の代表者らと面会した後、駐留米軍施設への攻撃が途絶えたと報じた。

訪問はヨルダンの米軍施設が攻撃されて米兵3人が死亡した直後で、米国との緊張激化を避けたいイランの思惑がうかがえる。

イラク政府筋などの話を基にロイターが伝えたところでは、コッズ部隊のガアニ司令官は1月29日、イラクの首都バグダッドの空港で複数の民兵組織の代表者らと面談した。「イラクのイスラム抵抗運動」によるとされるヨルダンの米軍施設攻撃から48時間以内という迅速ぶりだった。

ガアニ氏は、米軍による各組織の幹部や施設への攻撃を回避するため、目立たないようにすべきだと述べたという。多くの組織が同意し、反米最強硬派と目される「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」は翌日、対米攻撃の一時停止を表明した。2月4日以降、イラクとシリアの米軍施設への攻撃は起きていないという。

ある組織の幹部はロイターに、「ガアニ氏の介入がなければカタイブ・ヒズボラに軍事作戦を停止させることは不可能だった」と述べた。ただ、カタイブ・ヒズボラの幹部が2月7日の米軍の攻撃で殺害されており、いつまで自制するかは不透明だ。【2月19日 産経】
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イラン革命防衛隊の元幹部もアメリカとの直接対決を望んでいないことを語っています。

****「米国との直接対決望まず」 イラン革命防衛隊幹部が会見 要衝の海峡安定が「シグナル」****
イラン革命防衛隊の元幹部キャナニモガッダム・ホセイン氏が1日までに、首都テヘランで産経新聞の取材に応じた。パレスチナ自治区ガザの戦闘を受け、中東各地の親イラン民兵組織と米国、イスラエルの間で軍事的緊張が高まる中、原油輸送の要衝ホルムズ海峡は平穏に推移していると指摘し、「これは緊張を高めるつもりはないというイランの米国へのシグナルだ」と述べた。

レバノンやイラク、シリア、イエメンの親イラン民兵組織は「抵抗の枢軸」と称して、ガザでイスラエルと戦闘を続けるイスラム原理主義組織ハマスへの連帯を表明し、イスラエル本土や米軍施設のほか、紅海周辺を通る船舶への攻撃を行ってきた。

ホセイン氏はこれらの民兵組織は「それぞれの地域の人民を守るために戦っている」とし、イランは資金や武器を供与していると明言した。半面、ウクライナに侵略するロシアと米欧の緊張が続く中、イランが米と衝突すれば第三次世界大戦に発展しかねないため、「イラン自身は米国との直接対決は望んでいない」との見方を示した。

その根拠としてホセイン氏は、イランが自国に面するホルムズ海峡の原油タンカーの航行を妨害していないことを挙げた。「米国は海峡周辺の情勢が悪化すれば、多大な損害を被ることを熟知している」とも述べた。

紅海周辺で船舶攻撃を続けるイエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」については、「イランの統制下にない」とし、約1カ月前に中国に訪問した際に会談した中国共産党関係者には、「攻撃を止めたければ彼らと直接交渉するしかない」と助言したという。【3月2日 産経】
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「米国との直接対決望まず」・・・まあ、それはそうでしょう。バイデン政権も同様でしょう。
ただ、イランにしても、アメリカにしても「譲れない一線」もありますので、「もしトラ」ということになれば、「望まない」対決も・・・という危険も大きくなります。
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イラン  相次ぐ周辺国への攻撃 アメリカを直接的に刺激することは避ける配慮も

2024-01-17 23:29:07 | イラン

(イランの首都テヘランで、反米・反イスラエルを訴えるプラカードを掲げる人々(2024年1月5日撮影)【1月16日 AFP】)

【相次ぐ周辺国への攻撃】
イランが周辺国を相次いで攻撃しています。・・・とは言っても、相手国政府ではなく、そこに存在するテロ組織施設(とイランが主張するもの)に対する攻撃ですが。しかし、攻撃を受けた相手国からすれば、当然ながら重大な主権侵害となります。

****革命防衛隊、イラクとシリア攻撃=イスラエル機関の「拠点破壊」―イラン****
イランの精鋭部隊、革命防衛隊は16日、隣国イラクとシリア領内を弾道ミサイルで攻撃したと明らかにした。イラクでは北部クルド人自治区アルビル近郊の「イランに対する諜報(ちょうほう)活動とテロ計画の拠点」を標的にしたと表明。イスラエルの対外情報機関モサドの拠点を破壊したと主張した。

イラクのメディアによると、空爆は15日深夜に行われ、民間人4人が死亡した。イラン外務省報道官は16日、「テロに対抗し、主権と安全を守る軍事行動だ」と正当化。一方、イラク政府とクルド自治政府は「主権侵害」と反発し、イランの駐イラク代理大使を呼んで抗議した。

革命防衛隊は、空爆は「司令官らを殉教させたシオニスト(イスラエル)の悪に対する反応だ」と強調した。革命防衛隊の上級軍事顧問が昨年12月、シリアでイスラエルからのミサイル攻撃で死亡し、イランは「イスラエルは犯罪の代償を必ず払う」(ライシ大統領)と報復を宣言していた。

アルビルには米軍部隊も駐留しているが、米軍関連施設への被害は確認されていない。AFP通信によると、米国務省報道官は「無謀な攻撃」と非難した。【1月16日 時事】
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“イラン外務省報道官は16日、革命防衛隊が15日、シリア北西部イドリブのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の拠点にも弾道ミサイルを発射したと述べた。ISは3日、イラン南東部ケルマンで80人以上が死亡した爆発事件で犯行声明を出し、イランは報復を明言していた。

報道官はイラクとシリアへの攻撃について、「主権と治安を守る政策に基づくものだ」とし、「報復する権利はためらわずに行使する」と述べ、警告した。”【1月17日 産経】

革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問が昨年12月25日、シリア・ダマスカス郊外でイスラエルからのミサイル攻撃で死亡、1月3日にはイラン南東部ケルマンで、2020年に米軍に殺害されたイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の追悼式典が行われている最中にイスラム国による自爆テロにより80人以上が死亡・・・ということで、イラン政府としても何らかの「報復」を行わないと国民に対して立場がない・・・といったところなのでしょう。

ただ、「主権と治安を守る政策に基づくものだ」とし、「報復する権利はためらわずに行使する」・・・イランが敵対するイスラエルのガザ攻撃と全く同じ主張です。

パキスタン領内の武装組織拠点に対しても。

****イランがパキスタンの武装組織を攻撃、子供2人死亡 緊張高まる****
イラン革命防衛隊は16日、隣国パキスタン南西部バルチスタン州の武装組織の拠点を攻撃した。イランのタスニム通信が報じた。パキスタン外務省は「罪のない子ども2人が死亡し、少女3人が負傷した」として強く反発しており、核保有国でもある同国とイランとの緊張が高まっている。

イランのタスニム通信によると、標的とされたのはイラン政府と敵対する武装組織「ジャイシュ・アル・アドル」の拠点2カ所。ミサイルとドローン(無人機)で破壊したとしている。同組織は昨年12月にイラン南東部ラスクで治安当局者11人が死亡するテロ事件を起こしており、イランが報復した形だ。

一方、パキスタン外務省は「いわれのない領空侵犯」だとして強く非難する声明を発表した。「パキスタンの主権に対する侵害はまったく容認できず、深刻な結果を招きかねない」として、イラン外務省に抗議を申し立てたことを明らかにした。

地域のすべての国にとってテロが共通の脅威であるとした上で「このような一方的な行動は良い隣国関係に反するもので、2国間の信頼と信用を著しく損なう」としている。【1月17日 毎日】
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【留意点その1 イラク・シリアで続く親イラン組織と米軍の攻撃の応酬】
今回のイランによるイラク・シリア攻撃については、留意しておくべき点が二つあります。

一つは、いきなりイランの攻撃があった訳でもなく、イスラエル・ハマスの戦闘の影に隠れて目立ちませんが、この地域ではこのところ親イラン武装勢力と駐留米軍の間で攻撃の応酬が続いています。

イラクの米軍駐留基地に無人機攻撃、米大使館でも警報【2023年11月9日 ロイター】
米軍がイラク国内の親イラン勢力の施設2カ所を空爆 イラク駐留米軍への攻撃の報復【2023年11月22日 テレ朝NEWS】
米軍、イラクで親イラン武装勢力を空爆 駐留部隊への攻撃阻止【12月4日 ロイター】


****「親イラン武装組織が好き勝手」 米、イラクの統治力に懸念****
米国のオースティン国防長官は8日、イラクのスダニ首相と電話で協議し、親イラン武装組織による駐留米軍への相次ぐ攻撃に関して「イラクの主権と安定を損ない、イラク市民の安全も危険にさらしており、止めなければならない」と強調した。

国務省のミラー報道官も8日の声明で「イラクでは親イラン武装組織が好き勝手に活動している」と指摘し、武装組織の抑止に積極的に動かないイラク政府の「統治力」に疑問を呈した。

イラクでは10月以降、駐留米軍の拠点に対する無人機やロケット弾による攻撃が頻発しており、米軍は親イラン武装組織の攻撃だと指摘している。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘を巡って、米国はイスラエル、イランはハマスを支持しており、この対立構図がイラクにも波及している形だ。

オースティン氏はスダニ氏との電話協議で、イラクの親イラン民兵組織「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」と「ヌジャバ運動」が「大半の攻撃に関与している」と批判し、「米国はこれらの組織に断固として対応する権利を有する」と通告した。在イラク米国大使館が8日未明にロケット弾による攻撃を受けたことも非難し、イラク政府に大使館や外交官らの保護を求めた。

ミラー氏も「米軍はイラク政府の要請に基づいて駐留している。イラク政府は外国公館や米軍を保護する義務があると繰り返し確認してきたが、これは交渉の余地がないことだ」と強調。イラク治安部隊に米側への攻撃に関する捜査を求めた。

イラクでは2003年に米軍などがフセイン政権を打倒して以降、治安が混乱し、さまざまな親イラン民兵組織が活動基盤を築いて、反米運動にも加わった。

14年以降の過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦では、イラク政府を介して米国と親イラン組織が実質的な「共闘」関係になったが、ISの衰退後は再び緊張が高まった。イラク政府は民兵の政府軍への取り込みを図ったが、民兵組織は独自の軍事力を保ち、政府も制御できない状況が続いている。【12月9日 毎日】
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その後も双方の攻撃は続いています。
米軍、イラクで親イラン組織の施設空爆 駐留基地攻撃に報復【12月26日 ロイター】
米軍、イラク民兵組織指導者を殺害 バグダッドで攻撃=当局者【1月5日 ロイター】
武装ドローンがイラク北部の米軍基地を攻撃【1月6日 ロイター】

一方、イラク・スダニ首相は声明で「有志連合軍が駐留する正当性がなくなったため、駐留を終わらせるという確固たる立場を強調する」と発表し、イラク首相府はイラクに駐留する米軍主導の有志連合軍を撤収させるための手続きに着手すると発表しています。

しかし、アメリカは撤収に応じていません。

****イラク、米軍の駐留終了に向け手続きへ 米側は継続意向で難航か****
イラクのスダニ首相は5日、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を支援している米軍の駐留終了に向けた手続きを始めると発表した。ロイター通信などが報じた。

米軍は4日にイラクの首都バグダッドで親イラン武装組織の幹部を殺害したが、イラク政府は「主権侵害で、テロ行為と変わりない」と反発していた。ただ、米政府は駐留を続けたい考えを示しており、イラクとの協議は難航が予想される。

イラクにはIS掃討に関する助言やイラク軍の訓練のため、2500人規模の米軍が駐留している。報道によると、スダニ氏は5日、「イラクの主権に関わる問題を無視することはできない」と述べ、米軍による武装組織幹部の殺害を改めて批判。駐留終了に関して、イラク政府と米側で構成する委員会で具体的に協議する方針を示した。

米国防総省のライダー報道官は4日の記者会見で、武装組織の幹部殺害について「(幹部は)駐留米軍への攻撃計画や実行に積極的に関与していた。我々には自衛権がある」と説明。その上で「10年前の夏に米軍が対IS作戦を始めた時、ISはバグダッドまで約24キロの地点に迫っていた。誰もISが復活することは望んでいない。我々は今後もIS掃討に集中していく」と述べ、駐留を続けたい意向を示していた。

2023年10月にイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの戦闘が激化して以降、イラクでは親イラン武装組織による駐留米軍の拠点への攻撃が頻発。イスラエルの後ろ盾である米国と、ハマスを支援するイランの対立が背景にある。

米国はイラク政府に取り締まり強化を要求したが、親イラン武装組織には政府の完全な統制は及んでいない。これらの武装組織が治安維持で政府に協力していることもあり、イラク政府は米国と武装組織の板挟みになっている格好だ。【1月6日 毎日】
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****米、イラク駐留部隊の撤収計画ない=国防総省****
米国防総省は8日、米国はイラクに駐留する2500人の部隊を撤収する計画はないと述べた。

イラクは先週5日、国内に駐留する米軍主導の有志連合軍の撤収に向けた手続きに着手すると表明。スダニ首相は声明で「有志連合軍が駐留する正当性がなくなったため、駐留を終わらせるという確固たる立場を強調する」としていた。

これについて国防総省のパトリック・ライダー報道官は記者会見で「現時点で撤収計画について承知していない」とし、「われわれは過激派組織『イスラム国(IS)』掃討に集中している」と述べた。

その上で、米軍はイラク政府の招きで駐留しているとし、国防総省はイラク政府から米軍撤収の決定の通知は受けていないと述べた。【1月9日 ロイター】
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こうしたイラクにおける親イラン組織とアメリカの最近の攻撃応酬を考えると、冒頭のイランの直接攻撃は米軍を狙ってもよさそうなところですが、さすがにイランもそこまでアメリカを刺激はしたくない模様で、米軍施設は避けています。

シリアでも親イラン武装勢力と米軍の間で同様の攻撃応酬があります。

****アメリカ軍がシリア東部の施設を空爆「武装勢力による米軍への攻撃への対応」****
アメリカ軍がシリア東部にある武器貯蔵施設への空爆を行いました。中東に駐留するアメリカ軍への攻撃への対応だとしています。

アメリカのオースティン国防長官はバイデン大統領の指示で、8日にシリア東部にある武器貯蔵施設をアメリカ軍のF15戦闘機が空爆したと明らかにしました。

この施設はイランのイスラム革命防衛隊とその関連組織が使用していると指摘し、空爆はイラクとシリアに駐留するアメリカ軍への攻撃への対応だとしています。

アメリカ国防総省によりますと、イランが支援する武装勢力によるアメリカ軍に対する攻撃は今月7日までに40回にのぼっていて、アメリカ軍は先月26日にもシリア東部の施設2か所の空爆を実施しています。【2023年11月9日 TBS NEWS DIG】
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【留意点その2 イランだけでなくトルコも同様攻撃実施】
イランのイラク・シリア攻撃のニュースについて留意すべきことの二つ目は、同じような攻撃はイランだけでなくトルコもPKK関連で行っており、(その良し悪しは別にして)こうしたことはこの地域ではさほど珍しいことでもないということです。

****イラクでトルコ兵12人死亡 武装組織の攻撃相次ぐ****
トルコ国防省は23日、トルコに隣接するイラク北部で22日から、トルコの非合法武装組織クルド労働者党(PKK)によるトルコ軍に対する攻撃が相次ぎ、兵士計12人が死亡したと発表した。軍は反撃し、イラクとシリアのPKK拠点を破壊したと主張した。

イラク北部にはPKKの拠点があり、シリアにも関連組織がある。トルコ軍が掃討作戦を続けている。エルドアン大統領は23日、「最後のテロリストが排除されるまで」作戦を続けると表明した。

22日の攻撃で兵士6人が死亡、23日にはPKKが軍の基地に侵入を試み、兵士6人が死亡した。【12月24日 共同】
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こうした攻撃を受けて・・・

****トルコ軍 イラク北部、シリア北東部に集中的空爆 “クルド人武装勢力との衝突への報復措置”****
トルコ軍は25日、政府と対立するクルド人勢力が支配するイラク北部やシリア北東部に集中的な空爆を行いました。先週起きたクルド人武装勢力との衝突への報復措置だとしています。

ロイター通信によりますと、トルコ当局は、軍が25日、政府と対立するクルド人武装組織PKK(=クルド労働者党)が拠点とするシリア北東部とイラク北部の施設およそ50か所を空爆したとを明らかにしました。

トルコ軍はイラク北部で23日に起きたクルド人武装勢力との衝突で兵士12人が死亡したことへの報復措置だとしています。

クルド系メディアによりますと、空爆を受けたのは主に油田や発電所、病院などのインフラ施設で、シリア北部ではおよそ2600の自治体が停電となり、少なくとも民間人8人が死亡、女性や子供を含む18人がケガをしたということです。

また、別のクルド系メディアによりますと、クルド系住民が多く住むトルコ南部のディヤルバクルで25日、親クルド政党の集会に参加者した52人が「テロ組織を賞賛した」として警察に拘束されました。

トルコ政府は国内外のクルド系住民への弾圧を強めていて、双方の間で緊張が高まってます。【12月27日 日テレNEWS】
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【アメリカとの対立を煽るつもりはないという意思表示ともとれるが・・・】
イラク・シリアでは親イラン武装勢力と米軍の間で攻撃の応酬が続いていること、イラク・シリア領内を攻撃しているのはイランだけでなくトルコも同じ・・・といったことを留意したうえで・・・

****イラン、周辺国を相次ぎ攻撃 「報復と処罰」 中東不安定化に拍車****
イランが周辺国を相次ぎ攻撃して緊張が高まっている。イラクとシリアへの攻撃に続き、16日にはパキスタン南西部バルチスタン州をミサイルと無人機で攻撃したと発表した。パキスタン外務省は17日、5人が死傷したとして「強く非難する」との声明を出した。

イランはイスラム原理主義組織ハマスへの攻撃を続けるイスラエルや後ろ盾の米国と対立し、中東の親イラン民兵組織は紅海などで攻撃を強化している。イラン自らも行動をとることで地域の不安定化に拍車がかかっている。

国営イラン通信などによると、イランはバルチスタン州にあるスンニ派民兵組織の基地2カ所を攻撃した。この組織はシーア派大国イランでも反体制活動を行っており、昨年12月にはイラン南東部で警察署を襲撃、18人が死傷した。イラン政府は「国内外を問わず、犯罪者は処罰する」との立場を強調した。

最高指導者に近いイランの革命防衛隊は15日、イラク北部のクルド人自治区アルビルに弾道ミサイルを発射した。イスラエルの特務機関モサドの「スパイの拠点」が標的だったとしている。昨年12月にはイスラエルによるとみられるシリアへの攻撃で革命防衛隊の幹部が死亡し、イランのライシ大統領は「代償を支払うことになる」と述べ、報復を誓っていた。

この攻撃でイスラエルとの貿易を手掛ける富豪ら少なくとも4人が死亡した。イラク政府は駐イラン大使を呼び戻して抗議の意を示し、米仏もイラクの主権を侵害する「無謀」な攻撃だとイランを非難した。

現場は米国の領事館の近くだが、施設や職員は無事だった。イスラエルへの報復であり、米国との対立を煽(あお)るつもりはないという意思表示とも受け取れる。

革命防衛隊は15日、シリア北西部イドリブにも弾道ミサイルを発射した。標的はスンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の拠点で、ISは3日、イラン南東部ケルマンで90人近くが死亡した爆発事件で犯行声明を出していた。

イラン外務省報道官は16日、イラクとシリアへの攻撃は主権と治安を守るのが目的だとし、「報復する権利はためらわずに行使する」と述べて警告した。

イランは連携する中東各地の民兵組織に兵器や資金を支援しているとみられるが、国民や要人が攻撃を受けない限り戦闘には深入りを避ける姿勢もうかがえる。【1月17日 産経】
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前述のように、“現場は米国の領事館の近くだが、施設や職員は無事だった。イスラエルへの報復であり、米国との対立を煽(あお)るつもりはないという意思表示とも受け取れる。”"国民や要人が攻撃を受けない限り戦闘には深入りを避ける姿勢" といったあたりが“ミソ”のようにも。

対立を煽(あお)るつもりはない・・・とは言いつつも、「もし、そっちが一線を超えた場合は、こっちも容赦しない」という意思表示もこめて・・・といったところでしょうか。
コメント
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