(2019年のG20大阪サミットで来日したインドのモディ首相(右)。当時の安倍晋三首相(中央)、トランプ米大統領とそろって笑顔を見せた【1月16日 産経】)
【世界で突出してトランプ氏歓迎のインド】
多くの西側諸国や中国がトランプ氏の復権に身構えるなかで、歓迎している国の筆頭がインド。
****トランプ政権復活は「よいこと」 インド84%で最高 欧州や韓国は悲観 各国調査で格差****
15日発表の各国世論調査によると、トランプ次期米大統領の選出は「自国にとってよいこと」と考える人の割合がインドが84%で最も高く、欧州や韓国では低迷した。地域による温度差が浮き彫りになった。
調査は米欧やロシア、中国、アジアなどの24カ国が対象。欧州の政策シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)が発表した。
トランプ氏の選出は「自国にとってよいこと」とする人の割合は、サウジアラビアが61%で、インドに次いで2位。ロシアが49%、中国が46%と続いた。一方、EU加盟11カ国は22%。英国では15%にとどまった。最低は韓国の11%だった。
インド、サウジ、中国、ロシアの4カ国では、「トランプ大統領ならウクライナで和平実現の可能性が高まる」と考える人の割合が6割に達している。
また、「米国の世界的影響力は今後、約10年間で増す」と考える人は、南アフリカやインド、ブラジルで7割にのぼった。米国では57%。EU11カ国は43%、英国は29%だった。
ECFRは「世界の多くの国でトランプ政権への期待が高まる一方、米同盟国の欧州や韓国は悲観的で、地政学上の西側の弱体化が示された」と評価した。今回の調査で日本は対象となっていない。【1月16日 産経】
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関税問題が焦点となっている中国が46%と高い割合で「自国にとってよいこと」としている点も興味深いですが、そこはまた別機会にして、今回は突出してトランプ氏を歓迎しているインド。
下記は以前も引用したことがある記事ですが、民主主義に関する上から目線の“お小言”が多かったバイデン政権がインドでは嫌われたのに対し、そうした“些細な事”にかまわず“強い指導力”を発揮するトランプ氏が好まれているようです。
****〈インドはトランプが好き〉米国・インド関係黄金時代か、新政権を歓迎する本音とは****
(中略)これらの状態(シーク教徒過激派指導者の暗殺未遂事案に関するアメリカの穏やかな対応、QUADへの参加など、安定しているように見える米印関係)から見れば、本来、バイデン政権は、インドにとっていい政権のはずである。しかし、インドではあまり人気がない。なぜか。
「弱い」と思われたバイデン政権
インドでの議論を聞いていると、インドでは、バイデン政権の評価が低い。それは、まず、ロシアのウクライナ侵略を受けて、米印間でロシアに対する立場の違いが出たこと。そして、バイデン政権が、安全保障に弱いにもかかわらず、お小言だけ多い政権だとみられていたことに起因するものとみられる。
バイデン政権が「弱い」というイメージは、アフガニスタンから撤退する際、総崩れの様相を示してしまったことが、始まりであった。それはロシアのウクライナ侵略につながったが、その際も、バイデン氏は、ロシアが侵略してもウクライナのために戦わないことを明確に表明し、むしろロシアの侵略を黙認するかのようにすら見えた。
その後、ウクライナが反転攻勢に出る際も、射程の長い武器や戦闘機の供与を行わなかったから、ウクライナは領土を奪還できなかった。
そして、中東では、イスラエルに「怒りに身を任せてはならない」などと軍事作戦の制限ばかり要求しているが、イスラエルに無視され続けているように見える状態が続いた。
こういった姿勢は、アメリアが影響力を失っている印象を強め、「弱い」というイメージを強めたのである。
それにもかかわらず、バイデン政権は、お小言だけは多かった。中国やロシアに対する対決を、民主主義対権威主義の対決として、イデオロギーを重視した。
そして、民主主義国としての成績評価を行い、インドのモディ政権が民主主義国としてのルールを守っていない、まるで権威主義国であるかのような態度をとった。
モディ首相が訪米した際には、モディ首相が好まない記者会見を要求し、その場では、インドの民主主義の関して厳しい質問が出ることになった。アメリカは、以前から、記者会見を利用して間接的にメッセージを送るやり方を好み、中国の指導者に対しても、記者会見の際に、活動家がプラカードを掲げたりした事例がある。同じ手法をインドに適応した可能性がある。
実際には、2024年にインドで行われた選挙は、与党が議席を減らしたが、インドが民主主義国としてきちんとした選挙行ったことを示している。問題があるとしても、インドを権威主義国として非難するようなバイデン政権とその支持者の姿勢は行き過ぎで、インドでは反感を買っていたのである。
これらの部分は、トランプ政権時代と比較すると、歴然とした差があった。トランプ政権は、「予測できない」として、怖がられていたから、弱い政権だとは思われていなかった。
実際、トランプ氏は、習近平氏を夕食会に招き、チョコレートケーキを進めている最中に、シリアにミサイルを撃ち込むことを伝えた政権だ。「今はシリアだが、次はお前だ」と言わんばかりの脅しを、油断したタイミングでかけてくる点で、怖い政権だった。
しかも、トランプ大統領の外交は、イデオロギーを気にしなかった。最初の外国訪問はサウジアラビアだったし、東南アジアではベトナムを優先して訪問、友好関係を結んだ。サウジアラビアもベトナムも民主主義国ではない。利益になれば、イデオロギーは気にしないのである。
そして、トランプ大統領はインドを重視しており、20年の大統領選挙前にトランプ大統領は、選挙活動で忙しい中でも、インドへ訪問した。
インドのような国では、まだまだ社会のルールが守られていないことがよくある。だから、ルールを守っているかどうかよりも、力が強くて、自分を守ってくれる人をリーダーに選ぶ傾向がある。
つい最近まで山賊が出るほどの国だったが、これは、自分を守ってくれるなら、政府ではなく山賊についていく人々がいることを示している。
そのような国に、民主主義のルールとか、国際社会のルール、といったお小言を言って説得するのは、効果が弱い。バイデン政権は、まず力を示し、強い、と印象付ける必要があり、過去4年間、それに失敗し続けたのである。
激しい交渉の幕開け
だから、インドでは、バイデン政権よりもトランプ政権の方が人気だ。ただ、それで、米印関係が全く問題のない、黄金関係、ということにならないだろう。トランプ大統領の外交の特徴は、2国間ベースで、脅しをかけて取引を狙う。
安全保障問題であれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に「十分国防費を負担しないなら、ロシアに好きなようにするよう促す」といったかなり激しい脅し文句がくる。経済であれば、関税を大幅に上げてくる。インドだけ例外とは言えない。
さらに、トランプ政権第1期で問題になったのは、合法移民になるためのビザの発給数だ。それも再び交渉課題になるだろう。
トランプ政権としては、アメリカ人の雇用を守る観点から、優秀なインドからの合法移民があまり無制限に来ると、困るからである。イデオロギーなどが関係してこないシンプルな外交だとしても、米印間で激しいやり取りが起きることは必至だ。
インドではトランプ歓迎のムードが高まっている。それは同時に、新しい駆け引きと交渉の時代の幕開けと、いえよう。【2024年11月9日 WEDGE】
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【似た者同士のモディ・トランプ 経済や対中国で問題も】
上記記事はややインドに甘いような印象がありますが、それはともかく、トランプ氏とモディ首相はともに自国優先で強い指導力をアピールする・・・似た者同士で相性もいいようです。
もっとも、そのことは、上記記事も関税問題、移民問題を取り上げているように、米印関係に問題がないという話ではありません。
****「考え方が瓜二つ」トランプとモディがもたらす、「米印関係の重大なリスク」とは?****
<関税を操作するトランプの手法はインドにとっては厄介になる。トランプ一族のビジネスへの投資を餌にする戦略も?>
ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰したら米・インド関係が安定する、と期待したくなる気持ちは分かる。確かに米政界では、中国の経済的および地政学的影響力に対抗する手段として、インドとの関係強化が超党派で支持されている。
だが、現実はそう簡単ではない。もちろん、米印の戦略的パートナーシップは双方に利益をもたらすだろう。トランプの「アメリカを再び偉大に」政策と、インドのモディ首相の「ヒンドゥー・ナショナリズム」にはイデオロギー上の共通点も多い。
にもかかわらず、2期目のトランプ政権は両国関係に重大なリスクをもたらしかねない。原因はインドの2つの弱みにある。
第1に、インドにとっては貿易赤字削減のために関税を操作するトランプの手法は厄介だ。インドは世界最高水準の関税を維持し、巨額の対米貿易黒字を記録している(2022年は457億ドル)。
前トランプ政権で米通商代表部(USTR)代表を務め、2期目でも要職への起用が取り沙汰されるロバート・ライトハイザーは、インドを「世界最大の保護主義国家」と評しており、貿易摩擦の激化は避けられない。
インドの2つ目の弱みは中国の拡張主義だ。
トランプは中国の経済と貿易を重大な脅威と見なす一方、中国の軍事的侵略には関心が薄く、他国の紛争への介入を嫌う。
そのため、通商上の譲歩を引き出せるなら、台湾や南シナ海、さらにはヒマラヤのインドとの国境地帯での中国の行動にも目をつぶる可能性がある。
イーロン・マスクら億万長者の側近も中国市場へのアクセスを守りたい思惑から、中国の拡張主義を放置するようトランプに促すかもしれない。
これらにインドはどう対処すべきか。トランプの要求に応じて関税を選択的に引き下げつつ相手の出方を慎重に待つ戦略や、トランプ一族のビジネスへの投資を餌にする戦略も選択肢の1つだ。
王道は2国間協定や自由貿易協定(FTA)だ。例えばインドの衣料品業界はFTAに守られたベトナムの競合企業や、アフリカ成長機会法(AGOG)によりアメリカ向け輸出関税が免除されるアフリカ諸国に比べて多大なハンディを負っている。
2国間FTAを結べば、労働集約型のインド製品へのアメリカの関税が引き下げられ、公平な競争環境を整えられる。
また、企業が中国以外にも製造拠点を分散させる「チャイナプラスワン」戦略の恩恵にもあずかれるだろう。
トランプが提案する中国製品への追加関税により中国からの資本流出が加速すれば、外国企業は代替の投資先を探す。前トランプ政権の中国製品への関税強化がベトナムやメキシコを利したように、インドも適切な政策を取れば、この傾向の恩恵を享受できるだろう。
さらにFTAは、低迷するインドの製造業を復活させるチャンスにもなる。トランプは米国内での製造を重視しているが、FTAがあれば国内産業がインドに奪われるという懸念を和らげられる。
市場自由化には政治的な抵抗が伴いがちだが、インドの場合はそうでもないかもしれない。アメリカからの輸入製品の大半がエネルギー関連製品か金で、自由化に反対する声の少ない分野だからだ。一方、輸出では宝石や医薬品、衣料品、機械などの主要産業がこぞって恩恵を享受できる。
トランプは存在しない問題をでっち上げて、関税絡みの圧力を課しているようにもみえる。それでも、インドにとっては中国から流出する資本を呼び寄せ、アメリカとの協力を促進する格好の機会だ。モディ政権は今すぐ、トランプの妄想をインドのチャンスに変えるべきだ。【2024年12月11日 Newsweek】
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“トランプの妄想”・・・・振り回される関係国には迷惑な話ですが。
【中印関係 改善の動き】
上記記事にあるように、トランプ氏は中国の軍事的侵略には関心が薄く、「取引」次第では日本や台湾、南シナ海、インドを中国に提供することもあり得ます。
公聴会で国防長官候補のヘグセス氏がASEANについて全く何も知らないことが明らかになったように、アメリカの外国、特にアジアに関する意識・知識はその程度のものですから。
****米・国防長官候補ヘグセス氏に厳しい質問相次ぐ 資質を疑問視する声も****
アメリカ議会でトランプ次期大統領が指名した閣僚候補に対する公聴会が始まり、国防長官候補のヘグセス氏に厳しい質問が相次ぎました。
民主党 ダックワース上院議員
「ASEANの少なくとも1カ国の重要性を挙げ、どんな安全保障の協定を結んでいるか、ASEANには何カ国あるか言えますか?」
国防長官候補 ヘグセス氏
「正確な数は言えません。韓国、日本、オーストラリアとの同盟は知っています。潜水艦の共同開発もしようとしています」
民主党 ダックワース上院議員
「あなたが言った3カ国はASEANではありません。交渉に臨む前に少しは下調べしたらどうでしょうか?」
トランプ氏から国防長官に指名されたヘグセス氏は、保守系「FOXニュース」の元司会者です。
政府や軍で要職を務めた経験はなく、過去に女性への性的暴行容疑で捜査を受けたことが報じられ、閣僚としての資質を疑問視する声が出ていました。
議会上院で14日に開かれた公聴会でヘグセス氏は、同盟国と協力しながらインド太平洋地域で中国の侵略を抑止し、トランプ氏が掲げる「力による平和」を実現すると訴えました。
また、自身の性的暴行疑惑については「中傷だ」と潔白を訴えましたが、ASEANの加盟国の数を尋ねられて答えられない場面もありました。
閣僚の人事には議会上院の承認が必要となりますが、資質を巡って閣僚候補の一部で承認を危ぶむ声も出ています。【1月15日 テレ朝news】
民主党 ダックワース上院議員
「ASEANの少なくとも1カ国の重要性を挙げ、どんな安全保障の協定を結んでいるか、ASEANには何カ国あるか言えますか?」
国防長官候補 ヘグセス氏
「正確な数は言えません。韓国、日本、オーストラリアとの同盟は知っています。潜水艦の共同開発もしようとしています」
民主党 ダックワース上院議員
「あなたが言った3カ国はASEANではありません。交渉に臨む前に少しは下調べしたらどうでしょうか?」
トランプ氏から国防長官に指名されたヘグセス氏は、保守系「FOXニュース」の元司会者です。
政府や軍で要職を務めた経験はなく、過去に女性への性的暴行容疑で捜査を受けたことが報じられ、閣僚としての資質を疑問視する声が出ていました。
議会上院で14日に開かれた公聴会でヘグセス氏は、同盟国と協力しながらインド太平洋地域で中国の侵略を抑止し、トランプ氏が掲げる「力による平和」を実現すると訴えました。
また、自身の性的暴行疑惑については「中傷だ」と潔白を訴えましたが、ASEANの加盟国の数を尋ねられて答えられない場面もありました。
閣僚の人事には議会上院の承認が必要となりますが、資質を巡って閣僚候補の一部で承認を危ぶむ声も出ています。【1月15日 テレ朝news】
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インドと中国は2020年6月にヒマラヤ山脈付近の国境係争地で衝突し、45年ぶりに死者が出ました。その後、両国のトップ外交が停滞するなど関係が悪化しており、インドにとって中国との関係は最重要課題です。
トランプ氏がそういうことに興味がないことはインドにとって問題ですが、インドも独自に中国対策を進めているようで、昨年末には関係改善に向けた動きが報じられています。
****中国とインド、国境問題解決に向けロードマップ作成で合意 関係改善さらに加速か****
中国とインドは懸案となっている国境問題について、問題解決に向けたロードマップを作成することなどで合意しました。
中国国営の中央テレビによりますと、王毅外相は18日、北京でインドのドバル国家安全保障補佐官と会談しました。王毅氏とドバル氏は国境問題の特別代表を務めていて、協議を行うのは5年ぶりです。
会談で、王毅外相は「貴重な資源は発展と振興に投入すべきであり、国境問題は適切に処理すべきだ」と強調し、インドとの関係を安定・発展させる意向を示しました。
これに対し、ドバル補佐官は「問題が適切に解決されることに大きな意義がある」と応じたということです。
そのうえで、双方は「国境問題が両国関係の発展に影響を及ぼすことがあってはならない」として、問題解決に向けたロードマップを作成することやインド人のチベット巡礼を復活させること、国境貿易の再開などで合意しました。
中国とインドは国境の係争地をめぐり軍事衝突を繰り返しており、2020年には双方の軍に死傷者が出る事態に発展していました。
しかし、今年10月に習近平国家主席とモディ首相が5年ぶりに会談し、関係の修復を目指すことで一致。これを受け、インド北部・ラダック地方の一部から両軍の部隊が撤退を始めるなど、緊張緩和と関係修復に向けた動きが加速しています。【12月19日 TBS NEWS DIG】
中国国営の中央テレビによりますと、王毅外相は18日、北京でインドのドバル国家安全保障補佐官と会談しました。王毅氏とドバル氏は国境問題の特別代表を務めていて、協議を行うのは5年ぶりです。
会談で、王毅外相は「貴重な資源は発展と振興に投入すべきであり、国境問題は適切に処理すべきだ」と強調し、インドとの関係を安定・発展させる意向を示しました。
これに対し、ドバル補佐官は「問題が適切に解決されることに大きな意義がある」と応じたということです。
そのうえで、双方は「国境問題が両国関係の発展に影響を及ぼすことがあってはならない」として、問題解決に向けたロードマップを作成することやインド人のチベット巡礼を復活させること、国境貿易の再開などで合意しました。
中国とインドは国境の係争地をめぐり軍事衝突を繰り返しており、2020年には双方の軍に死傷者が出る事態に発展していました。
しかし、今年10月に習近平国家主席とモディ首相が5年ぶりに会談し、関係の修復を目指すことで一致。これを受け、インド北部・ラダック地方の一部から両軍の部隊が撤退を始めるなど、緊張緩和と関係修復に向けた動きが加速しています。【12月19日 TBS NEWS DIG】
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