孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド 世界でも断トツの「トランプ大好き」 経済関係や中国への対応で米印関係に課題も

2025-01-17 21:59:17 | 南アジア(インド)

(2019年のG20大阪サミットで来日したインドのモディ首相(右)。当時の安倍晋三首相(中央)、トランプ米大統領とそろって笑顔を見せた【1月16日 産経】)

【世界で突出してトランプ氏歓迎のインド】
多くの西側諸国や中国がトランプ氏の復権に身構えるなかで、歓迎している国の筆頭がインド。

****トランプ政権復活は「よいこと」 インド84%で最高 欧州や韓国は悲観 各国調査で格差****
15日発表の各国世論調査によると、トランプ次期米大統領の選出は「自国にとってよいこと」と考える人の割合がインドが84%で最も高く、欧州や韓国では低迷した。地域による温度差が浮き彫りになった。

調査は米欧やロシア、中国、アジアなどの24カ国が対象。欧州の政策シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)が発表した。

トランプ氏の選出は「自国にとってよいこと」とする人の割合は、サウジアラビアが61%で、インドに次いで2位。ロシアが49%、中国が46%と続いた。一方、EU加盟11カ国は22%。英国では15%にとどまった。最低は韓国の11%だった。

インド、サウジ、中国、ロシアの4カ国では、「トランプ大統領ならウクライナで和平実現の可能性が高まる」と考える人の割合が6割に達している。

また、「米国の世界的影響力は今後、約10年間で増す」と考える人は、南アフリカやインド、ブラジルで7割にのぼった。米国では57%。EU11カ国は43%、英国は29%だった。

ECFRは「世界の多くの国でトランプ政権への期待が高まる一方、米同盟国の欧州や韓国は悲観的で、地政学上の西側の弱体化が示された」と評価した。今回の調査で日本は対象となっていない。【1月16日 産経】
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関税問題が焦点となっている中国が46%と高い割合で「自国にとってよいこと」としている点も興味深いですが、そこはまた別機会にして、今回は突出してトランプ氏を歓迎しているインド。

下記は以前も引用したことがある記事ですが、民主主義に関する上から目線の“お小言”が多かったバイデン政権がインドでは嫌われたのに対し、そうした“些細な事”にかまわず“強い指導力”を発揮するトランプ氏が好まれているようです。

****〈インドはトランプが好き〉米国・インド関係黄金時代か、新政権を歓迎する本音とは****
(中略)これらの状態(シーク教徒過激派指導者の暗殺未遂事案に関するアメリカの穏やかな対応、QUADへの参加など、安定しているように見える米印関係)から見れば、本来、バイデン政権は、インドにとっていい政権のはずである。しかし、インドではあまり人気がない。なぜか。

「弱い」と思われたバイデン政権
インドでの議論を聞いていると、インドでは、バイデン政権の評価が低い。それは、まず、ロシアのウクライナ侵略を受けて、米印間でロシアに対する立場の違いが出たこと。そして、バイデン政権が、安全保障に弱いにもかかわらず、お小言だけ多い政権だとみられていたことに起因するものとみられる。

バイデン政権が「弱い」というイメージは、アフガニスタンから撤退する際、総崩れの様相を示してしまったことが、始まりであった。それはロシアのウクライナ侵略につながったが、その際も、バイデン氏は、ロシアが侵略してもウクライナのために戦わないことを明確に表明し、むしろロシアの侵略を黙認するかのようにすら見えた。
 
その後、ウクライナが反転攻勢に出る際も、射程の長い武器や戦闘機の供与を行わなかったから、ウクライナは領土を奪還できなかった。

そして、中東では、イスラエルに「怒りに身を任せてはならない」などと軍事作戦の制限ばかり要求しているが、イスラエルに無視され続けているように見える状態が続いた。

こういった姿勢は、アメリアが影響力を失っている印象を強め、「弱い」というイメージを強めたのである。

それにもかかわらず、バイデン政権は、お小言だけは多かった。中国やロシアに対する対決を、民主主義対権威主義の対決として、イデオロギーを重視した。

そして、民主主義国としての成績評価を行い、インドのモディ政権が民主主義国としてのルールを守っていない、まるで権威主義国であるかのような態度をとった。

モディ首相が訪米した際には、モディ首相が好まない記者会見を要求し、その場では、インドの民主主義の関して厳しい質問が出ることになった。アメリカは、以前から、記者会見を利用して間接的にメッセージを送るやり方を好み、中国の指導者に対しても、記者会見の際に、活動家がプラカードを掲げたりした事例がある。同じ手法をインドに適応した可能性がある。

実際には、2024年にインドで行われた選挙は、与党が議席を減らしたが、インドが民主主義国としてきちんとした選挙行ったことを示している。問題があるとしても、インドを権威主義国として非難するようなバイデン政権とその支持者の姿勢は行き過ぎで、インドでは反感を買っていたのである。

これらの部分は、トランプ政権時代と比較すると、歴然とした差があった。トランプ政権は、「予測できない」として、怖がられていたから、弱い政権だとは思われていなかった。

実際、トランプ氏は、習近平氏を夕食会に招き、チョコレートケーキを進めている最中に、シリアにミサイルを撃ち込むことを伝えた政権だ。「今はシリアだが、次はお前だ」と言わんばかりの脅しを、油断したタイミングでかけてくる点で、怖い政権だった。

しかも、トランプ大統領の外交は、イデオロギーを気にしなかった。最初の外国訪問はサウジアラビアだったし、東南アジアではベトナムを優先して訪問、友好関係を結んだ。サウジアラビアもベトナムも民主主義国ではない。利益になれば、イデオロギーは気にしないのである。

そして、トランプ大統領はインドを重視しており、20年の大統領選挙前にトランプ大統領は、選挙活動で忙しい中でも、インドへ訪問した。

インドのような国では、まだまだ社会のルールが守られていないことがよくある。だから、ルールを守っているかどうかよりも、力が強くて、自分を守ってくれる人をリーダーに選ぶ傾向がある。

つい最近まで山賊が出るほどの国だったが、これは、自分を守ってくれるなら、政府ではなく山賊についていく人々がいることを示している。

そのような国に、民主主義のルールとか、国際社会のルール、といったお小言を言って説得するのは、効果が弱い。バイデン政権は、まず力を示し、強い、と印象付ける必要があり、過去4年間、それに失敗し続けたのである。

激しい交渉の幕開け
だから、インドでは、バイデン政権よりもトランプ政権の方が人気だ。ただ、それで、米印関係が全く問題のない、黄金関係、ということにならないだろう。トランプ大統領の外交の特徴は、2国間ベースで、脅しをかけて取引を狙う。

安全保障問題であれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に「十分国防費を負担しないなら、ロシアに好きなようにするよう促す」といったかなり激しい脅し文句がくる。経済であれば、関税を大幅に上げてくる。インドだけ例外とは言えない。

さらに、トランプ政権第1期で問題になったのは、合法移民になるためのビザの発給数だ。それも再び交渉課題になるだろう。

トランプ政権としては、アメリカ人の雇用を守る観点から、優秀なインドからの合法移民があまり無制限に来ると、困るからである。イデオロギーなどが関係してこないシンプルな外交だとしても、米印間で激しいやり取りが起きることは必至だ。

インドではトランプ歓迎のムードが高まっている。それは同時に、新しい駆け引きと交渉の時代の幕開けと、いえよう。【2024年11月9日 WEDGE】
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【似た者同士のモディ・トランプ 経済や対中国で問題も】
上記記事はややインドに甘いような印象がありますが、それはともかく、トランプ氏とモディ首相はともに自国優先で強い指導力をアピールする・・・似た者同士で相性もいいようです。

もっとも、そのことは、上記記事も関税問題、移民問題を取り上げているように、米印関係に問題がないという話ではありません。

****「考え方が瓜二つ」トランプとモディがもたらす、「米印関係の重大なリスク」とは?****
<関税を操作するトランプの手法はインドにとっては厄介になる。トランプ一族のビジネスへの投資を餌にする戦略も?>

ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰したら米・インド関係が安定する、と期待したくなる気持ちは分かる。確かに米政界では、中国の経済的および地政学的影響力に対抗する手段として、インドとの関係強化が超党派で支持されている。

だが、現実はそう簡単ではない。もちろん、米印の戦略的パートナーシップは双方に利益をもたらすだろう。トランプの「アメリカを再び偉大に」政策と、インドのモディ首相の「ヒンドゥー・ナショナリズム」にはイデオロギー上の共通点も多い。

にもかかわらず、2期目のトランプ政権は両国関係に重大なリスクをもたらしかねない。原因はインドの2つの弱みにある。

第1に、インドにとっては貿易赤字削減のために関税を操作するトランプの手法は厄介だ。インドは世界最高水準の関税を維持し、巨額の対米貿易黒字を記録している(2022年は457億ドル)。

前トランプ政権で米通商代表部(USTR)代表を務め、2期目でも要職への起用が取り沙汰されるロバート・ライトハイザーは、インドを「世界最大の保護主義国家」と評しており、貿易摩擦の激化は避けられない。

インドの2つ目の弱みは中国の拡張主義だ。
トランプは中国の経済と貿易を重大な脅威と見なす一方、中国の軍事的侵略には関心が薄く、他国の紛争への介入を嫌う。

そのため、通商上の譲歩を引き出せるなら、台湾や南シナ海、さらにはヒマラヤのインドとの国境地帯での中国の行動にも目をつぶる可能性がある。

イーロン・マスクら億万長者の側近も中国市場へのアクセスを守りたい思惑から、中国の拡張主義を放置するようトランプに促すかもしれない。

これらにインドはどう対処すべきか。トランプの要求に応じて関税を選択的に引き下げつつ相手の出方を慎重に待つ戦略や、トランプ一族のビジネスへの投資を餌にする戦略も選択肢の1つだ。

王道は2国間協定や自由貿易協定(FTA)だ。例えばインドの衣料品業界はFTAに守られたベトナムの競合企業や、アフリカ成長機会法(AGOG)によりアメリカ向け輸出関税が免除されるアフリカ諸国に比べて多大なハンディを負っている。

2国間FTAを結べば、労働集約型のインド製品へのアメリカの関税が引き下げられ、公平な競争環境を整えられる。

また、企業が中国以外にも製造拠点を分散させる「チャイナプラスワン」戦略の恩恵にもあずかれるだろう。

トランプが提案する中国製品への追加関税により中国からの資本流出が加速すれば、外国企業は代替の投資先を探す。前トランプ政権の中国製品への関税強化がベトナムやメキシコを利したように、インドも適切な政策を取れば、この傾向の恩恵を享受できるだろう。

さらにFTAは、低迷するインドの製造業を復活させるチャンスにもなる。トランプは米国内での製造を重視しているが、FTAがあれば国内産業がインドに奪われるという懸念を和らげられる。

市場自由化には政治的な抵抗が伴いがちだが、インドの場合はそうでもないかもしれない。アメリカからの輸入製品の大半がエネルギー関連製品か金で、自由化に反対する声の少ない分野だからだ。一方、輸出では宝石や医薬品、衣料品、機械などの主要産業がこぞって恩恵を享受できる。

トランプは存在しない問題をでっち上げて、関税絡みの圧力を課しているようにもみえる。それでも、インドにとっては中国から流出する資本を呼び寄せ、アメリカとの協力を促進する格好の機会だ。モディ政権は今すぐ、トランプの妄想をインドのチャンスに変えるべきだ。【2024年12月11日 Newsweek】
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“トランプの妄想”・・・・振り回される関係国には迷惑な話ですが。

【中印関係 改善の動き】
上記記事にあるように、トランプ氏は中国の軍事的侵略には関心が薄く、「取引」次第では日本や台湾、南シナ海、インドを中国に提供することもあり得ます。

公聴会で国防長官候補のヘグセス氏がASEANについて全く何も知らないことが明らかになったように、アメリカの外国、特にアジアに関する意識・知識はその程度のものですから。

****米・国防長官候補ヘグセス氏に厳しい質問相次ぐ 資質を疑問視する声も****
アメリカ議会でトランプ次期大統領が指名した閣僚候補に対する公聴会が始まり、国防長官候補のヘグセス氏に厳しい質問が相次ぎました。

民主党 ダックワース上院議員
「ASEANの少なくとも1カ国の重要性を挙げ、どんな安全保障の協定を結んでいるか、ASEANには何カ国あるか言えますか?」

国防長官候補 ヘグセス氏
「正確な数は言えません。韓国、日本、オーストラリアとの同盟は知っています。潜水艦の共同開発もしようとしています」

民主党 ダックワース上院議員
「あなたが言った3カ国はASEANではありません。交渉に臨む前に少しは下調べしたらどうでしょうか?」

トランプ氏から国防長官に指名されたヘグセス氏は、保守系「FOXニュース」の元司会者です。

政府や軍で要職を務めた経験はなく、過去に女性への性的暴行容疑で捜査を受けたことが報じられ、閣僚としての資質を疑問視する声が出ていました。

議会上院で14日に開かれた公聴会でヘグセス氏は、同盟国と協力しながらインド太平洋地域で中国の侵略を抑止し、トランプ氏が掲げる「力による平和」を実現すると訴えました。

また、自身の性的暴行疑惑については「中傷だ」と潔白を訴えましたが、ASEANの加盟国の数を尋ねられて答えられない場面もありました。

閣僚の人事には議会上院の承認が必要となりますが、資質を巡って閣僚候補の一部で承認を危ぶむ声も出ています。【1月15日 テレ朝news】
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インドと中国は2020年6月にヒマラヤ山脈付近の国境係争地で衝突し、45年ぶりに死者が出ました。その後、両国のトップ外交が停滞するなど関係が悪化しており、インドにとって中国との関係は最重要課題です。

トランプ氏がそういうことに興味がないことはインドにとって問題ですが、インドも独自に中国対策を進めているようで、昨年末には関係改善に向けた動きが報じられています。

****中国とインド、国境問題解決に向けロードマップ作成で合意 関係改善さらに加速か****
中国とインドは懸案となっている国境問題について、問題解決に向けたロードマップを作成することなどで合意しました。

中国国営の中央テレビによりますと、王毅外相は18日、北京でインドのドバル国家安全保障補佐官と会談しました。王毅氏とドバル氏は国境問題の特別代表を務めていて、協議を行うのは5年ぶりです。

会談で、王毅外相は「貴重な資源は発展と振興に投入すべきであり、国境問題は適切に処理すべきだ」と強調し、インドとの関係を安定・発展させる意向を示しました。

これに対し、ドバル補佐官は「問題が適切に解決されることに大きな意義がある」と応じたということです。

そのうえで、双方は「国境問題が両国関係の発展に影響を及ぼすことがあってはならない」として、問題解決に向けたロードマップを作成することやインド人のチベット巡礼を復活させること、国境貿易の再開などで合意しました。

中国とインドは国境の係争地をめぐり軍事衝突を繰り返しており、2020年には双方の軍に死傷者が出る事態に発展していました。

しかし、今年10月に習近平国家主席とモディ首相が5年ぶりに会談し、関係の修復を目指すことで一致。これを受け、インド北部・ラダック地方の一部から両軍の部隊が撤退を始めるなど、緊張緩和と関係修復に向けた動きが加速しています。【12月19日 TBS NEWS DIG】
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インド  アメリカの「上から目線での介入」、民主主義価値観の押しつけに不満、だからトランプ氏が好き

2024-12-12 23:43:37 | 南アジア(インド)

(訪米したモディ首相(左)を歓迎するトランプ大統領【2017年6月27日 CNN】)

【インド政界を揺るがすアメリカ発のスキャンダル】
インドでは賄賂なんて当たり前・・・のようにも思ったりもするのですが、財閥トップの贈賄事件がインド国内ではなくアメリカ発で表面化しています。

****インド新興財閥会長が390億円の賄賂に同意か、米検察当局が証券詐欺罪などで起訴…財閥側は否定****
米司法省は20日、インド新興財閥アダニ・グループの創業者ゴータム・アダニ会長(62)らが贈賄事件に関与して不正な資金調達を行ったなどとして、ニューヨーク州の連邦大陪審に証券詐欺などの罪で起訴されたと発表した。
 起訴状などによると、アダニ氏とグループ企業の幹部らは2020年から今年にかけて、印政府から太陽光発電事業の受注を獲得するため、同政府高官に2億5000万ドル(約390億円)以上の賄賂を支払うことに同意したとされる。

資金調達の際に、汚職防止の取り組みなどで虚偽の説明を行い、米国の投資家らを欺いたなどとしている。米メディアによると、米国の法律では、国内の投資家や市場と関連がある場合、検察当局が国外の汚職事件を捜査することを認めている。

アダニ氏は資産が850億ドルを超えるアジア有数の大富豪で、モディ首相との親密な関係で知られる。アダニ・グループは21日の声明で「米司法省の主張は根拠がない」と強調した。【11月21日 読売】
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なぜインド企業のインド国内での贈賄事件がアメリカで起訴されるのか・・・わかりにく話ですが、今回の起訴は賄賂を贈ったかどうかだけではなく、資金調達の際に汚職防止の取り組みなどで米国内の投資家に虚偽の説明を行い、賄賂の問題で米当局に捜査を受けていたにもかかわらず、そのことに関する報道を否定し、贈賄疑惑を隠して米国内で資金調達していた虚偽報告も問題視されており、従って米当局がインドにおける贈賄事件を起訴するという話になっているようです

問題は、財閥トップのアダニ氏がモディ首相と同郷で親密な関係にあり、モディ首相の庇護を受ける形で急成長したのではないかとも見られていることで、そのモディ首相との関係をめぐってインド議会は大荒れとなっているようです。

“主要野党・国民会議派の指導者ラフル・ガンジー氏は記者団に対し、「野党のリーダーとしてこの問題を提起するのは私の責任だ」と述べた。同党のカルゲ総裁は「アダニ・グループの活動のあらゆる側面」について包括的な議会調査を求めた。”【11月22日 ロイター】

***インド野党、アダニ問題追及姿勢強める 議会は機能不全****
インド財閥アダニ・グループの創業者らが贈賄罪などで米国で起訴された問題を巡り、野党が追及姿勢を強めている。今週開会した議会は、野党が連日アダニ・グループ問題の審議を要求して議事進行を阻止し機能不全に陥っている。

野党は、モディ首相と首相率いるインド人民党(BJP)がアダニをかばい、インドでの調査を妨害していると非難している。主要野党の国民会議派のラフル・ガンジー氏は記者団にゴータム・アダニ会長は逮捕されるべきだと述べた。

今回の問題の中心にあるアダニ・グリーンは27日、ゴータム・アダニ氏が証券法違反で米国で起訴され、罰金を科せられる可能性があるとした上で、米海外腐敗行為防止法(FCPA)では起訴されていないと説明。米証券取引委員会(SEC)が起こした民事訴訟については、ゴータム・アダニ氏らへの罰金支払いを求めているが金額は示していないとした。

米国での起訴を受け、アダニ・グループ傘下の10社の株は急落したが、27日はアダニ・グリーンが9%上昇するなど、持ち直しの動きを見せている。【11月27日 ロイター】
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【与党サイドにはアメリカの「上から目線での介入」といった不満も】
与党インド人民党(BJP)には米国発の今回スキャンダルについて、「上から目線での介入」といった不満もあるようです。

****米国で新興財閥トップが起訴…インド政治と経済を揺るがす「大スキャンダル」発生 西側諸国との対立を深める「上から目線での介入」****
贈収賄と不当な手段での資金調達
破竹の勢いだったインド経済の雲行きがあやしくなっている。
(中略)ここに来てインドを揺るがすスキャンダルが発生している。

米連邦裁判所ニューヨーク東部地区検察は11月20日、インド政府への贈収賄などに関与したとして、インドの新興財閥アダニ・グループのゴータム・アダニ会長らを起訴した。加えて米証券取引委員会(SEC)も、米国内外の投資家から不当な手段で資金調達した疑いで起訴した。

訴状によれば、アダニ氏らは再生可能エネルギーを手がけるグループ企業のアダニ・グリーンなど2社に利益をもたらすよう、インド政府高官に計2億5000万ドル(約390億円)の賄賂を贈ったという。インド政府とアダニ・グリーンは、市場価値を上回る価格で太陽光エネルギーを購入する契約を締結している。(中略)

インド議会は機能不全
アダニ・ショックはインド政界にも波紋を呼んでいる。

アダニ氏とモディ首相は同じ西部グジャラート州の出身で、密接な関係があると指摘されてきた。アダニ・グループの事業急拡大が、モディ氏の政治的成功と軌を一にするかのようだったことから、野党はモディ政権の保護があるとして非難している。対してインド政府はこうした主張を否定しており、今回の疑惑についても見解を示していない。
 
この問題が災いして、インド議会は機能不全に陥っている。11月21日、野党はインド議会としてもアダニ・グループの疑惑を調査するよう求めたが、与党はこれを拒否した。そのため、議事進行の目途は立っていない。
 
気になるのは、与党インド人民党(BJP)幹部の間で「議会の会期直前、トランプ次期大統領就任が迫っているこのタイミングでの起訴発表にはいくつかの疑問がある」という不満(11月21日付ロイター)が生まれていることだ。
 
西側諸国では近年、民主主義の伝統を根拠に「インドとは共通の価値観を共有している」との見方が広まっているが、専門家は「インドと西側諸国はお互いの世界観を共有していない」と反論する。インド人が植民地支配時代に負った心の深い傷がいまだに癒えていないことが大本の原因だ(11月23日付日本経済新聞)。

上から目線で介入してくることへの苛立ち
昨年1月、インド政府が開催した「グローバルサウスの声サミット」でジャイシャンカル外相は、「(グローバルサウスの国々は)植民地時代の過去の重荷を背負い、現在も世界秩序の不公平さに直面している」と述べた。

この発言はルサンチマン(弱者が強者に対して抱く恨み)的な感情に裏打ちされていると筆者は思う。西側諸国には植民地支配に対する反省がないばかりか、今も「西側基準の行動様式から逸脱している」と上から目線で介入してくることへの苛立ちだ。パワーを身につけ、自信を深めつつあるインドにとって、これほど不愉快なことはないだろう。

アダニ・ショックを引き起こした米司法当局の起訴について、前述のBJP幹部がこのような不快な思いをした可能性は十分にある。

2000年代に一連のテロ攻撃に苦しんだインド政府にとって、国内の治安維持は最優先課題だ。このため、インド政府は現在、米国やカナダ在住のシーク教徒殺害を巡って西側諸国と対立を深めている。

西側諸国との蜜月時代は短期間で終わってしまうのかもしれない。インドの動向については今後も細心の注意を払うべきだろう。【12月5日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ただ、“2000年代に一連のテロ攻撃に苦しんだインド政府にとって、国内の治安維持は最優先課題だ。このため、インド政府は現在、米国やカナダ在住のシーク教徒殺害を巡って西側諸国と対立を深めている。”という件に関して言えば、昨年6月にバンクーバー近郊でシーク教徒指導者が殺害された事件について、インド政府職員が関与していたとするカナダとインドが互いに外交官を追放し、双方首脳が相手国を批難するなど“ガチンコ勝負”的な対立になっているのに対し、アメリカ国内でも同様の殺害計画があったにもかかわらず、アメリカはあまりこれを問題視せず、対中国で重要なプレーヤーであるインドを刺激しないようにしているようにも見られます。

****シーク教徒殺害計画巡るインドとの会談、米政府「生産的」と評価****
米国務省の報道官は16日、米国内で計画されていたシーク教徒独立活動家の暗殺に関するインドとの協議について、生産的だったと評価し、インド側の協力に満足していると語った。

米政府は、昨年ニューヨークで起きたシーク教分離主義指導者の暗殺計画にインドの工作員が関与していたと主張し、インド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴した。

国務省報道官は、暗殺計画への関与を調査しているインド政府委員会が15日にワシントンで米当局者と会談したとし、会談は「生産的」なものだったと指摘。「我々は(彼らの)協力に満足している。これは継続中のプロセスだ」と説明した。

カナダ政府は14日、インド外交官6人の国外追放を決定した。インド側もカナダの外交官6人の追放を発表。カナダでインドでのシーク教徒独立運動に関わった男性が殺害された事件を巡り、両国の対立は激化している。【10月17日 ロイター】
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インド側には“「西側基準の行動様式から逸脱している」と上から目線で介入してくることへの苛立ち”あるとのことですが、客観的に見ると原子力関係でのインド優遇(NPT(核拡散防止条約)非加盟国のインドに対しアメリカの核輸出解禁を国際的に認めさせ、米印原子力協定を締結)でもそうですが、アメリカはインドをつなぎとめておくために、インドに対して非常に甘いと言えます。

【“つい最近まで山賊が出るほどの国”に民主主義のルールとか、国際社会のルールを説いても効果がない】
そのインドでは「西側基準の行動様式」を押し付ける印象もあった「「弱い」指導者バイデン大統領よりも、ルールや価値観ではなく実益を重視する「強い」トランプ大統領の方が人気があるとか。

****〈インドはトランプが好き〉米国・インド関係黄金時代か、新政権を歓迎する本音とは****
今年のアメリカ大統領選挙ではインドの存在感が目立った。民主党の候補者となったカマラ・ハリス副大統領がインド系とアフリカ系の両方のルーツをもっていただけではない。共和党の候補者としてニッキー・ヘイリー氏、ヴィヴェック・ラマスワミ氏という2人のインド系の候補者が出た上、最終的に副大統領候補となったJ・D・バンス氏の妻ウィーシャ・バンス氏もまたインド系だったからだ。

アメリカでは不法移民は問題視されており選挙の争点になったが、合法移民は問題視されていない。合法移民の代表であるインド系は、その勢力を見せつける状態になりつつある。

インド系アメリカ人の勢力拡大が続くと、その親族などを通じてつながり、アメリカ政治がインドへも影響する。インドでも、民主党支持、共和党支持両方の動きがみられた。

ハリス副大統領の母の出身地ではハリス氏勝利の祈願も行われる一方で、トランプ前大統領勝利を祈願するヒンドゥー寺院もあったのである。

インドにおける米大統領選挙への関心は非常に高く、TVでは特集があり、筆者も、米大統領選挙の2日前から選挙当日まで、インドのテレビで、米大統領選挙について解説する状態であった。

興味深かったのは、インドでは、ハリス氏よりもはるかに、トランプ氏が人気を集めているようにみえたことだ。インドの有識者の中には、トランプ氏の方が「far far better(はるかに、はるかに、いい)」とはっきり述べる有識者が少なくなかったからだ。

しかも、トランプ氏とモディ氏の個人的な友人関係もクローズアップされることが多かった。大統領選挙投票日である11月5日より前の11月1日、トランプ氏は、X(旧ツイッター)にコメントをだし、モディ首相への支持を表明している。そしてトランプ氏勝利が濃厚になると、かなり早い段階で、モディ首相も、トランプ大統領に祝意を伝えたのである。

なぜ、インドでは、トランプ氏が人気なのだろうか。米印関係はトランプ氏の下で黄金時代を迎えるのだろうか。本稿で分析することにした。

表面上蜜月に見えて悪化しかかっていた米印関係
一見すると、バイデン大統領の下で、米印関係は、何もかもうまくいっているように見えた。インドが求めていた戦闘機のエンジンの技術供与なども含め、防衛協力は明らかに進展しつつあり、経済面でも進展がみられていたからだ。

アメリカに逃げたインドのシーク教徒過激派指導者の暗殺未遂事案についても、外交官の国外追放合戦になっているインドとカナダとは違い、米印間では大きな問題になることなく、静かな交渉が行われているようにみえる。米印関係は安定して進展している。(中略)

だから、これらの状態から見れば、本来、バイデン政権は、インドにとっていい政権のはずである。しかし、インドではあまり人気がない。なぜか。

「弱い」と思われたバイデン政権
インドでの議論を聞いていると、インドでは、バイデン政権の評価が低い。それは、まず、ロシアのウクライナ侵略を受けて、米印間でロシアに対する立場の違いが出たこと。そして、バイデン政権が、安全保障に弱いにもかかわらず、お小言だけ多い政権だとみられていたことに起因するものとみられる。

バイデン政権が「弱い」というイメージは、アフガニスタンから撤退する際、総崩れの様相を示してしまったことが、始まりであった。それはロシアのウクライナ侵略につながったが、その際も、バイデン氏は、ロシアが侵略してもウクライナのために戦わないことを明確に表明し、むしろロシアの侵略を黙認するかのようにすら見えた。

その後、ウクライナが反転攻勢に出る際も、射程の長い武器や戦闘機の供与を行わなかったから、ウクライナは領土を奪還できなかった。

そして、中東では、イスラエルに「怒りに身を任せてはならない」などと軍事作戦の制限ばかり要求しているが、イスラエルに無視され続けているように見える状態が続いた。こういった姿勢は、アメリアが影響力を失っている印象を強め、「弱い」というイメージを強めたのである。

それにもかかわらず、バイデン政権は、お小言だけは多かった。中国やロシアに対する対決を、民主主義対権威主義の対決として、イデオロギーを重視した。

そして、民主主義国としての成績評価を行い、インドのモディ政権が民主主義国としてのルールを守っていない、まるで権威主義国であるかのような態度をとった。

モディ首相が訪米した際には、モディ首相が好まない記者会見を要求し、その場では、インドの民主主義の関して厳しい質問が出ることになった。

アメリカは、以前から、記者会見を利用して間接的にメッセージを送るやり方を好み、中国の指導者に対しても、記者会見の際に、活動家がプラカードを掲げたりした事例がある。同じ手法をインドに適応した可能性がある。

実際には、2024年にインドで行われた選挙は、与党が議席を減らしたが、インドが民主主義国としてきちんとした選挙行ったことを示している。問題があるとしても、インドを権威主義国として非難するようなバイデン政権とその支持者の姿勢は行き過ぎで、インドでは反感を買っていたのである。

これらの部分は、トランプ政権時代と比較すると、歴然とした差があった。トランプ政権は、「予測できない」として、怖がられていたから、弱い政権だとは思われていなかった。

実際、トランプ氏は、習近平氏を夕食会に招き、チョコレートケーキを進めている最中に、シリアにミサイルを撃ち込むことを伝えた政権だ。「今はシリアだが、次はお前だ」と言わんばかりの脅しを、油断したタイミングでかけてくる点で、怖い政権だった。

しかも、トランプ大統領の外交は、イデオロギーを気にしなかった。最初の外国訪問はサウジアラビアだったし、東南アジアではベトナムを優先して訪問、友好関係を結んだ。サウジアラビアもベトナムも民主主義国ではない。利益になれば、イデオロギーは気にしないのである。

そして、トランプ大統領はインドを重視しており、20年の大統領選挙前にトランプ大統領は、選挙活動で忙しい中でも、インドへ訪問した。

インドのような国では、まだまだ社会のルールが守られていないことがよくある。だから、ルールを守っているかどうかよりも、力が強くて、自分を守ってくれる人をリーダーに選ぶ傾向がある。

つい最近まで山賊が出るほどの国だったが、これは、自分を守ってくれるなら、政府ではなく山賊についていく人々がいることを示している。

そのような国に、民主主義のルールとか、国際社会のルール、といったお小言を言って説得するのは、効果が弱い。バイデン政権は、まず力を示し、強い、と印象付ける必要があり、過去4年間、それに失敗し続けたのである。

激しい交渉の幕開け
だから、インドでは、バイデン政権よりもトランプ政権の方が人気だ。ただ、それで、米印関係が全く問題のない、黄金関係、ということにならないだろう。トランプ大統領の外交の特徴は、2国間ベースで、脅しをかけて取引を狙う。

安全保障問題であれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に「十分国防費を負担しないなら、ロシアに好きなようにするよう促す」といったかなり激しい脅し文句がくる。経済であれば、関税を大幅に上げてくる。インドだけ例外とは言えない。

さらに、トランプ政権第1期で問題になったのは、合法移民になるためのビザの発給数だ。それも再び交渉課題になるだろう。

トランプ政権としては、アメリカ人の雇用を守る観点から、優秀なインドからの合法移民があまり無制限に来ると、困るからである。イデオロギーなどが関係してこないシンプルな外交だとしても、米印間で激しいやり取りが起きることは必至だ。

インドではトランプ歓迎のムードが高まっている。それは同時に、新しい駆け引きと交渉の時代の幕開けと、いえよう。【11月9日 WEDGE】
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非常に興味深い記事です。
インドの民主主義が充分に機能しているかどうかについては個人的にはやや疑念があり、“バイデン政権とその支持者の姿勢は行き過ぎ”云々には必ずしも賛同しませんが、“つい最近まで山賊が出るほどの国”に民主主義のルールとか、国際社会のルールを説いても効果がない・・・と言われると「そんなものかも」という感も。

ただ、それはインドを“その程度の国”と下に見るようなふうにも思えますが。
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パキスタン  カーン元首相釈放を求める抗議デモに、警察・軍「首都イスラマバードを封鎖せよ」

2024-11-25 23:21:33 | 南アジア(インド)

(パキスタンの首都イスラマバードでは11月24日、収監中のイムラン・カーン元首相の釈放を求める大規模な抗議デモに備え、警察が街を封鎖した。写真はバイクで準備する警官ら【11月25日 ロイター】  すごい警備ですね・・・この守備隊と不満を募らせるデモ隊が直接ぶつかったら相当な混乱になりそう)

【首都イスラマバード カーン元首相の釈放を求める大規模な抗議デモに備え、警察・軍が街を封鎖した】
****パキスタン首都封鎖、カーン元首相の釈放求める抗議デモに備え****
パキスタンの首都イスラマバードでは24日、収監中のイムラン・カーン元首相の釈放を求める大規模な抗議デモに備え、警察が街を封鎖した。

カーン氏の政党、パキスタン正義運動(PTI)を中心とする支持者らが市内の国会周辺に集まると予想されるため、イスラマバードに通じる高速道路の大半が封鎖された。

市内の主要道路も政府によって輸送用コンテナで封鎖され、重装備した警察と軍関係者が配置された。携帯電話の通信サービスは停止されている。

イスラマバード警察は声明で、いかなる集会も法律で禁止されていると警告した。インターネット監視団体ネットブロックスによると、ワッツアップ使用が制限されているという。

抗議行動を率いるアリ・アミン・ガンダプール氏はデモ参加者に対し、市内の議会や政府機関、大使館などが集まるレッドゾーンと呼ばれる地域に集結するよう呼びかけた。

PTIは、カーン氏を含む指導者らの釈放と、不正な選挙を行ったとして現政権の退陣を求めている。
カーン氏は2022年の政権追放後、汚職や暴力扇動など多くの罪に問われ、昨年8月に収監された。【11月25日 ロイター】
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上記ニュースの意味合いを理解するためには、少なくともここ1年ほどのパキスタン政治の動きを追う必要があります。

なお、“汚職や暴力扇動など多くの罪に問われ”ということで、一体どの罪状で収監されているのかよくわからないところもあります。

【軍の支持を失ったカーン元首相 失職・逮捕】
元クリケット有名選手であり、軍部の後ろ盾を得て首相の座を獲得したカーン氏の失職に至る経緯は以下のようにも。

****カーン元首相****
首相就任後は、外貨準備の枯渇や物価の高騰など経済を低迷させたとして批判が高まり、2022年4月には野党が下院議会に内閣不信任決議案を提出。

与党の一部もこれに同調する動きを見せたため可決される可能性が高まっていたが、カーン寄りの下院議長が採決直前で却下。

カーンは解散総選挙に打って出る方針を表明し、2022年4月3日に議会は解散されたが、野党は最高裁判所に提訴。4月7日、最高裁は議会解散を違憲と判断し、4月10日に内閣不信任決議案の採決が行われ、賛成多数で可決されたため、カーンは即時失職した。

なお、首相を解任されたことについてカーンはアフガニスタンやロシア、中国に対する外交政策上の姿勢を理由に、野党がアメリカと結託して自分を排除したと主張を続けている。【ウィキペディア】
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機密漏洩や汚職など、いろんな罪に問われていますが、かなり強引な感じも。
例えば機密漏洩に関しては、以下のようにも。

****国家機密漏えいの疑惑とは****
訴追の原因となったいわゆる「暗号事件」では、カーン氏が首相在任中、米ワシントンのパキスタン大使から送られた外交機密文書を漏えいしたとされる。

これは、元首相が2022年3月にあった集会のステージ上で、自らに対する外国の陰謀を示すものだとして、文書を振りかざしたのを受けたもの。元首相は国名は挙げなかったが、その後、アメリカを強く批判した。

検察側は、カーン元首相の行為は機密文書の漏えいと外交関係の毀損(きそん)に当たると主張していた。【6月4日 BBC】
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一連の政治・司法の動きの背後には軍部の意向があると推測されます。

パキスタンでは最も強い権限を持つのは軍部であり、首相も軍部の意向で決まることが多いようです。カーン元首相は当初は軍部と良好な関係で政権を獲得しましたが、その後軍部の支持を失い、一連の失職・起訴に至っているとも見られます。

****パキスタンのカーン元首相、汚職罪で禁錮14年 前日にも禁錮10年判決****
パキスタンのイムラン・カーン元首相と妻ブシュラ・ビビ氏が31日、汚職の罪で禁錮14年の有罪判決を受けた。カーン氏は前日、国家機密を漏えいさせた罪に問われた裁判で、禁錮10年の有罪判決を受けていた。

カーン氏は2022年に反対派によって首相の座を追われた。今回の裁判の前にも汚職の罪で禁錮3年の有罪判決を受けており、現在服役中。

カーン氏は、自身に対する訴追はすべて政治的動機に基づくものだとしている。
秘密保持に関する法律に基づく今回の有罪判決は、カーン氏が立候補を禁じられている総選挙を2月8日に控えたタイミングで出された。

カーン氏は言い渡された複数の禁錮刑に同時に服すると考えられている。カーンは昨年8月に拘束されて以来、主にアディアラ刑務所で収監されている。(中略)

カーン氏が率いる政党パキスタン正義運動(PTI)の広報担当は31日、この日の判決により、カーン氏は公職に就く資格を10年間失うことになると説明。「私たちの国の司法制度が解体されつつあるなか、また新たに悲しい日がその歴史に刻まれた」とした。

クリケットの国際的選手だったカーン氏は判決後、自身のX(旧ツイッター)のアカウントに声明を投稿。「平和を保ちながら、2月8日にあなたの一票であらゆる不正に仕返しをする」よう呼びかけた。
さらに、「私たちは棒で追い立てられるようなヒツジではないと示そう」と続けた。(中略)

訴追の原因となったいわゆる暗号事件では、カーン氏が首相在任中、米ワシントンのパキスタン大使から送られた外交機密文書を漏えいしたとされる。(中略)

今回の特別法廷は数カ月間続いたが、国際メディアは法廷に入ることを認められなかった。(中略)
カーン氏の別の側近によると、裁判では弁護団が弁護したり、証人を反対尋問したりすることはできなかったという。(中略)

パキスタンでは2月8日に総選挙が予定されている。この選挙をめぐっては、PTIが公正な選挙運動の機会を与えられていないとしている。

当局はPTIを弾圧してはいないとしているが、同党の指導者の多くは収監されているか亡命している。同党の候補者は無所属で立候補しなければならず、多くが逃亡している。

カーン氏が最初に拘束された昨年5月、警察はPTIの支持者数千人を、場合によっては暴力を使って検挙した。
同党はまた、クリケットのバットのシンボルマークも剥奪された。パキスタンは識字率が低く、有権者が投票先を選ぶうえで、このマークは欠かせないものだった。

今も高い人気を誇るカーン氏とその政党を除外して実施される総選挙については、その信頼性を疑う向きも多い。

勝利が有力視されているのが、昨秋亡命から帰国したナワズ・シャリフ元首相だ。シャリフ氏は、その長いキャリアの大半において強力な軍部の悩みの種となり、カーン氏が勝利した2018年の選挙の前に汚職の罪で収監された。

現在、その立場は逆転している。シャリフ氏の裁判は立ち消えとなり、多くの国民の目には、同市が有力者らに支持されていると映っている。一方で、かつて軍部と良好な関係だとみられていたカーン氏は人気を失っている。【1月31日 BBC】
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【2月の総選挙 カーン氏のPTIは党としては参加できなかったものの、無所属立候補で最大勢力に】
選挙に関するメディアの見立ては往々にして間違うものですが、上記BBCの“勝利が有力視されているのが、昨秋亡命から帰国したナワズ・シャリフ元首相だ”“カーン氏は人気を失っている”という見立ても大きく狂いました。

2月に行われた総選挙では、カーン氏率いるPTIは政党としては参加出来ませんので、党員が無所属として立候補した結果、最大勢力を獲得する結果となりました。ただ、過半数には至らず、PTI系無所属と与党イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)、更に爆殺された故ベナジル・ブット元首相の息子ビラワル氏が率いるパキスタン人民党(PPP)の三者の三つ巴の形になりました。

****与野党「勝利」で混乱拡大=双方とも新政権樹立を主張―パキスタン****
パキスタンで8日行われた国民議会(下院、定数336)選挙で、与野党がいずれも「勝利」を宣言し、混乱が広がっている。双方がそれぞれ新政権樹立を主張する構えで、誰が首相となり国のかじ取りを担うのかは見通せない。

「30議席差がついているにもかかわらず勝利演説したナワズ・シャリフは卑しい人間だ。国民は受け入れないだろう」。最大野党パキスタン正義運動(PTI)が9日公開した動画の中で、同党設立者カーン元首相は与党トップをそう批判した。カーン氏は汚職の罪で収監中。声は人工知能(AI)を活用して合成したという。

選管は11日午後(日本時間同)、小選挙区の最終集計結果を公表。獲得議席数は、PTI系が候補の大半を占める無所属が101、与党イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)が75、故ベナジル・ブット元首相の息子ビラワル氏が率いるパキスタン人民党(PPP)が54などとなった。選管は、投票用紙の盗難といった問題があった一部の投票所で再投票を命じた。

実質的にPTIが最大勢力となったものの、公式の政党として第1党になったのはPML―Nだったことが混乱の要因だ。

PTIは今回、党内の手続き上の問題を理由に選管から政党としての参加を認められなかった。PTIは同国で絶大な力を握る軍と対立。選管の決定には、軍や軍と比較的近い与党からの圧力があったとみられている。(後略)【2月11日 時事】
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最終集計では、カーン元首相が支持する無所属候補者が264議席中93議席を獲得して首位、シャリフ元首相の与党「パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派」(PML─N)は75議席で2位でした。

【連立交渉の結果、PTIは政権を得られず】
いろんな連立交渉が行われましたが、結局イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)と総選挙で3位につけたパキスタン人民党(PPP)が連立政権を継続することに。首相にはナワズ・シャリフ元首相の弟シャバズ氏が。

****パキスタン与党、連立継続で正式合意 最大勢力の野党政権阻止、支持者反発も****
(2月)8日に国民議会(下院)総選挙が行われたパキスタンで20日、イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)とパキスタン人民党(PPP)が連立政権を継続すると正式発表した。

選挙では国民の人気が高いカーン元首相が創設した野党のパキスタン正義運動(PTI)が弾圧されながらも最大勢力に躍進したが、多数派工作で政権樹立を阻止された。PTI支持者の反発が拡大しそうだ。(中略)

カーン氏は首相在任中、政治に強い影響力を持つ軍と対立し、今回の選挙前には複数回にわたり刑事訴追され、出馬を阻止された。PTIも政権側の弾圧で政党活動を制限された結果、多くの議員が無所属で立候補した。

一連のPTI側への圧力や今回の連立合意には、PTI政権誕生を阻止したい軍の意向が働いているとされる。

PTIは21日、連立合意を巡り、X(旧ツイッター)への投稿で「有権者はカーン氏がリーダーになることを望んだ。このままではパキスタンは闇に包まれる」と反発した。【2月21日 産経】
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首相にナワズ・シャリフ元首相ではなく弟シャバズ氏が立てれたのは、ナワズ氏率いる「パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派」(PML─N)の選挙で伸び悩んだことの責任と、軍部と対立を繰り返してきた兄ナワズ氏に対し、弟シャバズ氏の方が軍部と関係が良いことによるもの。

いすれにせよ、総選挙で最大勢力を獲得したカーン氏のパキスタン正義運動(PTI)は政権参加を阻止されることになり、支持者の不満は募ることに。

【無罪判決が出ても、別件で逮捕され、収監が続く】
7月には、再婚禁止期間に違反して現在の妻と結婚した罪に問われ、一審で有罪判決を受けたカーン元首相と妻に対する二審で、裁判所は逆転無罪判決を言い渡しました。カーン氏には6月にも別事件で逆転無罪判決が出ており、この判決によりカーン氏が釈放されるのかどうかが注目されました・・・・が、結局、別件で逮捕されて拘束が続くことに。

****パキスタンのカーン元首相を逮捕 逆転無罪直後、拘束続く****
パキスタンの汚職捜査機関は13日、カーン元首相を逮捕した。

逮捕直前、イスラム法が定めた再婚禁止期間に違反して現在の妻と結婚した罪に問われた事件の二審判決で逆転無罪となり、釈放の可能性が出ていたが、拘束が続くこととなった。地元メディアが報じた。

カーン氏はパキスタンの国民的スポーツ、クリケットの元スター選手で、野党パキスタン正義運動(PTI)を設立し、支持は厚い。支持者は新たな逮捕に反発しており、デモなどに訴えれば政情に影響が出る可能性もある。

詳しい逮捕容疑は不明だが、地元メディアによるとカーン氏が公職に就いていた際の寄贈品に関する捜査とみられる。【7月14日 共同】
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以上のように、そもそもカーン氏が拘束されているのも支持者からすれば政治的な言いがかりであるのに加え、軍の圧力で総選挙に党としては参加出来ず、無所属立候補で最大勢力になったにもかかわらず政権を得られず、裁判で無罪になってもすぐに別件で逮捕される・・・・ということで支持者の怒り・不満が募っている状況での冒頭のカーン元首相の釈放を求める大規模な抗議デモです。

相当に荒れそうだということで、警察、更には軍が首都イスラマバードを封鎖するという厳戒態勢となっています。
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インド  深刻な環境汚染 アダニ・グループ会長の問題は政権へ飛火の可能性も 中国とは関係改善へ

2024-11-21 23:50:59 | 南アジア(インド)

(【11月16日 NHK】)

【深刻な環境汚染 成長を妨げる問題のひとつにも】
このところインドの環境汚染に関するニュースが連日報じられています。

****インドの聖なる川に「白い泡」が大量発生… 正体は有毒物質、汚水や洗剤が主因****
インドの首都ニューデリーを流れるヒンズー教の聖なる川、ヤムナ川の表面に白い泡が大量に発生し、川一面を覆っている。正体は有毒物質。川に流された汚水や洗剤が主な原因で、環境汚染の深刻さを物語っている。地元メディアが23日までに報じた。

地元誌インディア・トゥデーによると、工場から出た汚染物質がヤムナ川上流に流れ込み、洗剤などを含む排水とともに放水路を通過する際にかき混ぜられて泡が発生する。白い泡は積雪のようで、衛星画像でも捉えられたという。

インドでは川が「母」や「女神」として崇拝され、研究者は「川が泣いているようだ」と話している。
ヤムナ川はヒマラヤ山脈に端を発し、聖なる川として知られるガンジス川の支流の一つ。(共同)【10月23日 産経】
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しかし、有害な泡も一部の熱心な信者の信仰を妨げることはできないようで・・・

****白い泡が大量発生...インド「下水汚染された川」に次々入る女性たちの目的とは?****

ヒンドゥー教の太陽神スーリヤに健康と繁栄を祈る伝統行事チャートプジャ祭で、インドの首都ニューデリー中心部を流れるヤムナ川に入る女性。

産業廃棄物や農薬、下水による高レベルの汚染で、川面には大量の泡が浮かぶ。
地元裁判所は健康と安全上の懸念から川での祝祭を禁じたが、それでも数千人が汚染水の中で祈りをささげた。【11月18日 Newsweek】
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川の汚染以上に多くの人々に影響するのが大気汚染。
“インドの首都ニュー・デリーは「世界で最も汚染された首都」と言われ、特にこの時期は車の排気ガスや収穫後の野焼き、さらにディワリの花火で町は煙に包まれます。”【11月7日 テレ朝news】

ディワリというのは10月末から11月初めに行われるヒンドゥー教の祭りで、別名「光のフェスティバル」とも呼ばれ、大量の爆竹や花火が使用されます。

****大気汚染のインド首都で工事禁止 学校はオンライン授業****
深刻な大気汚染への対策として、インド政府は18日から首都ニューデリーへの中大型トラックの進入や公共事業の建設工事を禁止した。学校はオンライン授業に切り替えるほか、中央政府職員には在宅勤務が導入される可能性もある。大気汚染が社会生活や経済に影響を及ぼし始めた。

大気汚染対策を担う政府機関が17日に公表し、地元メディアによると、状況が改善するまで続ける。ニューデリーや近郊では、農地の野焼きが本格化する10月ごろから空気の質が極端に悪化し「世界最悪級」とも言われる。

政府機関によると、生活必需品を運ぶほか、液化天然ガスや電気で走行するトラック以外はニューデリーへの乗り入れを認めない。ニューデリーを含むデリー首都圏では高速道路や高架、送電線などの公共事業の建設を中断させた。

首都圏政府のアティシ首相は17日、一部の学年を除き初等教育などの対面授業を中止すると発表。指示があるまでオンライン授業に切り替える【11月18日 共同】
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****泥縄式インドの大気汚染対策 汚染値はWHO基準の50倍超*****
(中略)濃く有毒なスモッグが首都を包み込み、大気の質がますます危険な状態になる中で、約3300万人のニューデリー市民は毎朝目を覚ます。  

肺の奥深くまで入り込む可能性のある大気中の微小粒子状物質を測定する国の主要な環境機関によれば、この数値はさらに深刻なカテゴリーへと上昇しているという。  

市内のいくつかの地域では、WHOが推奨する安全基準値の50倍以上だった。 予報によると、大気の質の悪さは週明けまで続くという。  

毎年農業地域で作物残渣が焼却されるため、インド北部の大気汚染は特に冬に上昇する。燃焼と同時に気温が下がるため、煙が空気中に閉じ込められ、その煙が都市部に吹き込まれ、自動車の排気ガスが汚染にさらに拍車をかける。  

産業界からの排出物や、発電のための石炭燃焼も汚染に関係しており、ここ数週間は着実に上昇している。(中略)

首都を取り巻く大気の悪化は、住民の怒りをい、多くの市民が頭痛や咳を訴え、街を"黙示録的"とか"ガス室"と表現する人もいる。  毎年100万人以上のインド人が公害関連疾患で死亡していると推定されている。  

当局は過去にもスモッグを抑えるために、スプリンクラーやスモッグ防止銃を配備したこともある。  既に地域が汚染されてしまってから、その影響を緩和しようとするのではなく、汚染そのものを大幅に削減する長期的な解決策が必要ではないか。 【11月19日 AP】
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日本もかつては川の大気も有害物質で汚染され公害に苦しんだ過去があります。水俣病、新潟水俣病(第二水俣病)、四日市ぜんそく、イタイイタイ病といった、いわゆる四大公害病も。光化学スモッグが社会問題になった時期も。

環境問題・公害は経済が成長していく過程で多くの国が経験していくものではあるのでしょうが、インドの場合その程度が甚だしいようにも。

6年ほど前のインド旅行だったでしょうか、南インドのある田舎の町で食べ物を買ったところ、レジ袋ではなく紙で包んで紐でしばってくれました。「レジ袋はコスト的に高い殻なのか・・・」と思ったら、後で知ったところではレジ袋が環境対策として条例で禁止になっているようでした。

「カオスの国インドも随分と先進的な取組をするようになったものだ・・・」と思ったのですが、一方で町の空き地などはプラゴミなどで地表が見えないぐらい。

レジ袋禁止もいいけど、先ずは勝手にそこらへんに捨てない・・・という最低限の意識の問題から取り組まないといけないと感じた次第。

ただ、今思うと、捨てない云々は、単に意識の問題ではなく、ゴミ回収の仕組みがどの程度整っているかにもよるでしょう。

いずれにしても、環境汚染は今後の経済成長を目論むインド・モディ首相にとっての障害のひとつになっています。

****インドはなぜ「次の中国」になれないのか 停電、水害、環境汚染…モディ首相の求心力も低下****
「次の中国」に必要なGDP成長率
米モルガン・スタンレーは9月17日に発表したリポートで、主要な世界株価指数(MSCI・ACワールドIMI指数)のインド株のウエート(2.35%)が初めて中国株(2.24%)を上回ったと発表した。

インドの経済成長率の高さを理由に、同国の株式市場では海外からの力強い資金の流入が続いている。中国経済が強力な刺激策の欠如や根強いデフレ圧力で失速する中、投資家の間で「インドが世界経済の新たな成長の原動力となる」との確信が高まっていることが示された形だ。

インドの第2四半期の実質国内総生産(GDP)の成長率は前年比6.7%増だった。前四半期の7.8%増から伸び率は鈍化したものの、人口増加などを背景に主要国を上回る成長を維持している。

国際通貨基金(IMF)によれば、世界の経済成長への寄与度はインドが16%、中国が34%だ。「インドは『次の中国』になる」との期待が生まれているが、そのためには2桁近い成長を長期にわたって続ける必要があると言われている。

高学歴者ほど就業環境が厳しく
「飛ぶ鳥を落とす」勢いの感があるインド経済だが、課題も山積している。

喫緊の課題は雇用創出力の低さを改善することだ。2022年度(22年4月〜23年3月)の失業率は、モディ政権発足前(2013年度)の4.9%から5.4%に上昇した。15〜29歳の若年層の失業率は16%を超え、高学歴者ほど就業環境が厳しくなっている。

米シティグループの分析結果によれば、現在の成長率(年率7%)ではインドの年間の雇用創出は800〜900万人にとどまるが、国内労働市場に新規参入する若年層を吸収するには年間1200万人の雇用創出が必要となるという。

インドの雇用創出力が低い主な要因は以下の2つだ。
(1)製造業のGDPに占める比率が17%と発展途上国の中で下位に属していること
(2)非農業部門の雇用に占める中小企業の割合も約4割と世界平均から見てかなり低いこと(中略)

停電、浸水、水不足、環境汚染
インフラの脆弱性も頭の痛い問題だ。

電力インフラ全体が未整備なインドではいまだに突然の停電が起きる。安定した電力の確保には原子力発電の拡大が不可欠だが、インドの総発電量に占める原子力の比率は2%未満だ。インド政府は民間の協力を得て導入の拡大を図ろうとしている(9月14日付日本経済新聞)ものの、前途遼遠と言わざるを得ない。

豪雨災害も増加の一途だ。雨季(モンスーン)中の9月14日、文化遺産のタージマハルでは庭園の一部が大雨で浸水した。7月末には南部ケララ州の著名な観光地でも集中豪雨による土砂崩れが発生している。

一方、深刻な水不足も発生しており、経済活動に悪影響を及ぼし始めている。

有数のビジネス都市バンガロールでは、3月に水不足で企業活動全般に支障をきたす事態が発生した。米格付け企業のムーディーズ・インベストメント・サービスは6月、水不足がインドの格付けに悪影響を及ぼす可能性があるという警告を発している。

水質汚染も目を覆うばかりの状況だ。モディ氏は議員に選出された際に「ガンジス川の浄化」を公約に掲げたが、一向に改善されていない。

都市廃棄物の問題も日に日に悪化している。英リーズ大学の研究チームは9月5日、環境中に廃棄されたプラスチックごみはインドが世界最大で930万トン(2020年時点)との分析結果を発表した。

またインド当局の推計によれば、毎日排出されている17万トンのゴミのうち適正に処分されているのは3分の2に過ぎず、残りは不法投棄されている。

中国との関係と連立政権…モディ氏の求心力は
国内の懸案事項に加え、中国との関係改善も焦眉の急だ。

インドの長期的な発展にはグローバルな供給網と一体になる必要があるが、その際、中国経済との連携強化は避けて通れない。だが、2020年5月にヒマラヤ山脈の国境沿いで衝突して以来、両国の関係は緊張状態が続いている。

これが災いして、電気自動車(EV)や半導体、人工知能(AI)などの分野での資本・技術・人材の交流は滞っているものの、インド政府はここに来て緊張緩和に動き出した。

ジャイシャンカル外相は9月10日、「中国からの投資に門戸を閉ざしていない」と発言した。また産業界の働きかけを受け、政府は中国人へのビザ発給を緩和し始めている(9月11日付ロイター)。

だが、この動きが続く保証はないと言わざるを得ない。

モディ氏は6月に3期目の政権樹立に成功したが、初めて体験する連立政権の運営に戸惑っている。連立する政党の反対で重要政策の撤回を余儀なくされるなど、求心力の低下も懸念事項だ。(中略)

「内憂外患」を抱えるインドが「第2の中国」になるのは、現段階では非常に難しいのではないだろうか。【9月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【アダニ・グループ会長、贈賄や巨額詐欺に関与した疑惑 モディ首相へ飛火も】
水や大気だけでなく、政治の世界も汚職・不正で汚染されています。

****印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に火の粉も****
富豪として知られるインド財閥アダニ・グループのゴータム・アダニ会長が20日、贈賄や巨額詐欺に関与した疑いで米検察当局に起訴された。アダニ・グループにとっては昨年の会計不正疑惑に続く、新たな危機となる。会長と同郷のモディ首相に火の粉が飛ぶ恐れもある。

アダニ会長、会長の甥でアダニ・グリーン・エナジー幹部のサガル・アダニ氏、アダニ・グリーン・エナジーのビニート・ジャエイン元最高経営責任者(CEO)は証券詐欺、証券詐欺の共謀、電信詐欺の共謀で起訴された。

21日のインド市場では、アダニ・グループの株・債券が急落。疑惑の渦中にあるアダニ・グリーン・エナジーは6億ドルの社債売却を取りやめた。

アダニ・グループは声明で、「(疑惑は)根拠がなく否定する」と表明し、あらゆる可能な法的手段を取る方針を示した。

アダニ・グループを巡っては昨年、空売り家のヒンデンブルグ・リサーチが、会計粉飾やタックスヘイブン(租税回避地)を利用した脱税などを指摘するリポートを発表。グループの株・債券が急落した。今もインド証券取引委員会(SEBI)の調査が続いている。

モディ首相は、アダニ会長と同じ西部のグジャラート州出身。野党からはかねて、アダニを「ひいき」しているとの批判が出ていた。野党・国民会議派は21日、アダニ・グループによる不正疑いを議会が調査するよう改めて求めた。【11月21日 ロイター】
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“「アダニが急成長した背景にはモディ首相との密接な関係があった」との指摘がかねてなされていた。両氏は同じ西部グジャラート州の出身で、アダニは同州を基盤に事業を拡大してきたからだ。”【2023年2月13日 藤和彦氏 デイリー新潮】

昨年2月に報じられていた案件がまだ解決しない状況で新たな問題・・・・アダニ会長の問題は“親密な関係”のモディ首相に飛び火します。

【中国との関係を改善せざるを得ないインド 「対立ではなく協調に焦点を当てるべきだ」(シン国防相)】
【9月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】でも指摘されている中国との関係については、インドとしては中国との関係を改善しないと経済的に回らなくなるという事情があります。

****インドが「中国重視」に方向転換せざるを得ない事情 「タージマハル」がスモッグで消える…深刻な公害や食品価格の高騰で高まる国民の不満****
(中略)
「消費」は流行遅れになった?
視界が不良なのは空気や水だけではない。景気の先行きもあやしくなっている。
インドの10月の消費者物価指数(CPI)は前年比6.21%上昇し、1年2カ月ぶりの高い伸びとなった。約半分のウエートを占める食品が前年比10.87%上昇し、11月もこの傾向が続くと見込まれている。

食品価格が賃金の伸びを上回るスピードで上昇を続けているため、インドの中間層の購買力は大きな痛手を被っている。(中略)その旺盛な消費に世界は注目してきたが、食品価格の高騰が災いとなり急減速している。

消費不振がインド経済全体に打撃
消費の不振は企業収益にも暗い影を投げかけている。
インドの主要企業の第3四半期決算は4年半ぶりの低水準に陥った。専門家は、消費動向を始め広範な分野で景気減速が見られると警戒している(11月11日付ロイター)。(中略)このように、食品価格の高騰はインド経済全体に打撃を与えつつある。

インド中央銀行は今年の実質経済成長率を前年比7.2%と予測しているが、民間では成長率予想を下方修正する動きが強まっている。

成長の鈍化はモディ首相にとって頭の痛い問題だ。今年の選挙で苦戦したのは中間層の不満が主な要因だった。成長が鈍化すれば、国内の雇用難はますます深刻化し、政権への批判が高まるばかりだろう。

西側諸国から中国へと軸足を移行
注目すべきは、海外投資家の間で「インドが西側諸国から中国へと軸足を移行している兆しがある」との指摘が出ていることだ(10月31日付日本経済新聞)。

モディ氏は10月23日、訪問先のロシア西部カザンで5年ぶりに中国の習近平国家主席と会談し、対立の原因となっていた国境紛争地の安全管理について協議を加速することで合意した。25日には、領有権を巡り対立するインド北部ラダック地方の一部から印中両軍が撤収を開始し、30日にその完了が報じられている。

今回の緊張緩和はインドが主導したと言われている。
2020年5月の国境紛争後、インド政府は中国企業を締め出してきた。だが、9月からは態度を一変させ、中国企業に対して投資の呼びかけを活発化させている。

中国に代わって「世界の工場」を目指すインドが、深刻なアキレス腱を抱えているからだ。国内企業の競争力が低いため、中国企業の助けを借りないとインド国内のサプライチェーンが整備されない。

インドには日米豪印の協力枠組み「クアッド(QUAD)」に対する失望もあるようだ。専門家は、「中国封じ込め」という当初の目的が希薄化し、具体的な成果が出ていないと批判的だ(10月5日付日本経済新聞)。(後略)【11月21日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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****中国・インド国防相が会談「対立ではなく協調を」国境の係争地めぐり相互の協力で一致****
(中略)中国の董軍国防相とインドのシン国防相は20日、ASEAN拡大国防相会議が開かれているラオスで個別に会談しました。

両国は国境の係争地で軍事衝突を繰り返してきましたが、5年ぶりとなる公式な首脳会談が行われた先月以降、緊張緩和と関係修復に向けた意思疎通を加速させています。インド政府によりますと、両国防相は会談で、互いの信頼を再構築するために協力していくことで合意しました。

また、シン国防相は「インドと中国が友好的な関係を築くことは、世界の平和につながるだろう」と述べたうえで、「対立ではなく協調に焦点を当てるべきだ」と強調したということです。【11月21日 TBS NEWS DIG】
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スリランカ  大統領与党地滑り的勝利 ただ、IMFと国民期待の板挟み状況と言う難題は変わらず

2024-11-16 23:09:05 | 南アジア(インド)

(就任後に仏僧たちの祝福を受けるディサナヤカ大統領(9月23日、コロンボ)【9月23日 BBC】)

【大統領を国外脱出に追いやった2022年の経済危機】
インド洋の島国スリランカで経済危機が深刻化して、大規模なデモが起きる中、当時の大統領ラジャパクサ氏が国外に脱出するという政変が起きたのが2022年7月のことでした。

****スリランカで経済危機 なぜ大統領が国外脱出?いったい何が?****
(中略)
いま何が起きているの?
スリランカでは経済危機が深刻化し、ことし(2022年)3月以降、政権の退陣を求めるデモが繰り返し起きていました。

そして、7月9日には大規模な抗議デモが広がり、最大都市コロンボではデモ隊の一部がゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の公邸を占拠する事態に発展。公邸に入った人たちがプールで泳いだり、ジムでトレーニングをしたり、ベッドに寝転がったりする様子が世界中に配信され、衝撃を与えました。

事前に公邸を出ていた大統領は13日未明に軍用機で家族とともにモルディブに脱出。その後、シンガポールに向かい、議長に辞表を提出していましたが、15日、記者会見した議長は辞表を正式に受理したと発表しました。

なぜ経済危機が起きたの?
スリランカはインフラ整備を進めるため借金を繰り返し、対外債務の残高は2021年末の時点で507億ドル(日本円でおよそ7兆円)に膨らんでいます。新型コロナウイルスの影響による観光客の激減なども重なり、深刻な外貨不足に陥りました。

また、ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が高騰する中、外貨不足で輸入が滞り、ガソリンなどの燃料費も高騰。食品や医薬品などの生活必需品の輸入も滞るようになっています。

こうした経済危機の根本的な原因は財政運営や農業政策の失敗、それに汚職にあるとしてラジャパクサ政権に対する不満が高まっていました。

ラジャパクサ政権、何が問題だったの?
国民の間ではラジャパクサ一族が権力を独占しているという批判が出ていました。

ゴタバヤ・ラジャパクサ氏は2019年の選挙で勝利し大統領に就任しましたが、2015年まで2期10年にわたって大統領を務めた兄のマヒンダ・ラジャパクサ氏の元で国防次官を務めていました。兄弟で合わせて10年以上大統領として実権を握り、首相や財務相に親族をあてるなど一族支配を強めてきました。

また、ラジャパクサ政権は兄弟ともに中国に近いとされ、中国企業などによる大規模な開発事業で国の借金を増やす一方、私腹を肥やしてきたという批判にもさらされています。

2017年には中国からの融資を受けて南部ハンバントタに建設した港の運営権がローンの返済が滞ったことを理由に99年間にわたって中国側に譲渡され、いわゆる「債務のわな」の典型例といわれています。(後略) 【2022年7月14日 NHK】
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【IMF支援もあって、ウィクラマシンハ前大統領のもとで一定に危機は緩和したものの、市民生活の苦しさは続く】
この政治・経済混乱を一定に(あくまでも“一定に”ですが)鎮め、再建への道筋をつけていたのがウィクラマシンハ前大統領。

IMFからの支援を受けて、債権国との債務整理を行い、外貨不足も緩和、物価上昇などの経済状況もひと頃に比べたら落ち着きをみせてきていました。

しかし、物価上昇が落ち着いてきたはいっても、一般国民にとっては依然高い水準で、生活困窮は続いていましたが、IMFとの合意で財政再建が優先し、市民生活支援は後回しにされた感も。

こうした2022年の混乱がまだ尾を引き、市民生活が困窮するなかで行われたのが今年9月の大統領選挙でした。

****三つどもえのスリランカ大統領選 財政破綻で前政権崩壊から初の選挙****
スリランカで(9月)21日、大統領選(任期5年)が実施される。2年前に国家財政が破綻して前政権が崩壊してから初の直接選挙で、ウィクラマシンハ大統領の経済再建策に対する評価が争点となっている。

スリランカ国内の経済状況や大統領選の注目ポイントについて、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の荒井悦代・南アジア研究グループ長に聞いた。

 ――スリランカは2022年4月、対外債務不履行(デフォルト)を表明しました。経済危機以降、政治・経済状況はどう変化しましたか。
 ◆2年前、深刻な経済危機によって当時のラジャパクサ大統領が国外逃亡し、議会で選ばれたウィクラマシンハ氏が残りの任期を引き継ぐ形となりました。誰も引き受けたがらない大統領職に就き、国際通貨基金(IMF)からの支援を取り付け、緊縮財政路線を進めるなどしました。

 その結果、極度に減少した外貨準備高が回復するなど、さまざまな経済指標で改善がみられ、うまく経済を立て直しているように見えます。

 ――現政権に対する国民の評価はどうですか。
 ◆国民の人気は高いとは言えません。2年前よりインフレ(物価上昇)の状況が改善したとはいえ、燃料費やガス、水道代などは依然として高いままで、国民は不満を募らせています。

 ウィクラマシンハ氏自身、首相を6回務めた昔ながらのエリート政治家であり「民衆の気持ちを分かっていない」との声が上がっています。これまで、与党であるラジャパクサ一族の政党と連携してきたこともあり、国民は従来の古い政治体質に嫌気がさしているとの見方もあります。

 ――大統領選の争点は。
 ◆政権が進める緊縮財政路線に対する評価や今後の経済運営の進め方が焦点になるとみられます。
 経済に関する論点の一つは、外貨をどう獲得していくかです。お茶や衣料品は有名ですが、1970年代後半の経済自由化以降、大きなインパクトのある輸出産業が成長しないまま現在に至っています。

 確固たる産業がない中、スリランカ政府は無計画で債務に依存し、新型コロナウイルスによる打撃や経済失策なども絡んで22年の経済危機に結びついたと指摘されています。

 今回の大統領選では、数十年続いてきたスリランカの経済の弱点を克服できる可能性のある候補を選ぶという意味でも注目されています。

 もう一つは、長年引きずってきた汚職問題があります。スリランカでは「国の屋台骨を揺るがす」と言われるほど汚職が深刻で、問題の解決が強く望まれています。(中略)

 ――選挙の結果は外交にどう影響しますか。
 ◆インド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝に位置するスリランカを巡って、これまでにインドと中国が影響力を争ってきました。
 南アジアでは政権次第で「親中」「親印」の見方をされますが、財政再建の途上にあるスリランカは双方の国々と協調していく必要があり、外交政策がどちらかに大きく傾くことはないと考えます。【9月20日 毎日】
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結果、緊縮財政路線や汚職のまん延を批判、クリーンなイメージを打ち出して支持を広げた左派野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利しました。現職ウィクラマシンハ前大統領は大きく離され3位で落選。

JVP(人民解放戦線)は、1970年代と80年代に二つの不成功だったが血生臭い蜂起を主導した革命的なマルクス・レーニン主義の政党で、その党首であるディサナヤカ大統領の紹介にはマルクス主義者だったという記述がなされますが、JVPは階級闘争と私有財産拒否を否認して、その起源にあるマルクス主義を希薄化していますし、ディサナヤカ大統領自身も「革命運動」とは距離を置いています。

【議会に3議席しか持たない左派・一匹狼のディサナヤカ氏が国民不満の受け皿となって大統領選挙勝利】
ディサナヤカ大統領の問題は、そうしたマルクス主義者の経歴ではなくて、JVPが議会に3議席しか占めていないという絶対的少数与党政権にあること、そして現実的な政策遂行能力があるのかという点だとも指摘されていました。

****スリランカ新大統領は異色な左派の一匹狼****
<マルクス主義者の過去は捨て去ったが、行く手には3つの障害が立ちはだかる>
9月21日のスリランカ大統領選で左派のアヌラ・クマラ・ディサナヤカが勝利したことは、政治の刷新を願う国民に大きな希望をもたらした。

ディサナヤカは「王朝政治」的な腐敗からの脱却を公約し、有力な政治家一族のいずれとも関係がない。2022年、当時のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は深刻な経済危機から国民の激しい抗議デモに遭い、国外脱出後に辞任したが、ディサナヤカはこの反政府行動にも参加している。

腐敗一掃を目指す上で、新大統領は国民の支持を頼りにできる。だが、行く手には3つの勢力が立ちはだかる。野党勢力、経済界、少数民族だ。

ディサナヤカは実は複雑な人物だ。メディアではマルクス主義者と呼ばれ、彼が率いる人民解放戦線(JVP)は1970〜80年代に反政府暴動を起こしている。

だが、ディサナヤカは革命家ではない。既にその過去を捨て去り、かつてJVPが異を唱えた体制内に身を置いている。現在55歳の彼は20年以上にわたって国会議員であり、短期間だが閣僚も務めた。

国会での議席は3議席
それでも、ディサナヤカはこの国の政治家としては異色だ。(中略)
この中で反汚職を掲げれば、ディサナヤカは必然的に一匹狼になる。しかもJVPは国会で3議席しか占めていない。

国会で過半数の議席を握るのは(国外脱出した元大統領の)ラジャパクサ一族が率いる政党で、225議席中145議席を占める。ほかに(選挙で2位になった)プレマダーサの野党が54議席を押さえている。

過去に超党派の妥協に応じたことがないディサナヤカは、法案審議で野党から支持されない恐れがある。9月24日、彼は議会を解散し、11月に総選挙を実施すると発表。選挙後に与党の影響力は強まるかもしれないが、それでも野党の妨害はなくならないだろう。

ディサナヤカは、マルクス主義者の過去に神経をとがらせる経済界との関係を築くのも難しいかもしれない。経済政策に関する現在の立場も近年の大統領とは違っていることを、経済界は懸念する。

経済界がもう1つ心配するのは、IMFの支援条件を再交渉するというディサナヤカの公約だ。目的は貧困層の負担を軽くすることだが、国にとって重要な国際機関との間で緊張が高まる恐れがある。

新大統領は少数民族、特に最大の集団であるタミル人の支持も必要としている。しかし長年の内戦の中で、JVPが政府による残虐なタミル人弾圧を無条件で支持したことを多くの人は忘れていない。

彼にとってベストの選択肢は最もシンプルなものでもある。否定的な見方をする相手と向き合うことだ。

就任演説では結束を呼びかけた。党派の垣根を越えれば、法案通過の可能性は高まる。経済界や外国人投資家の懸念に耳を傾けるのもいいだろう。少数民族の代表と頻繁に接触すれば、安心感はさらに増す。

対立する勢力との交渉は、ディサナヤカ自身の利益になるばかりではない。経済の足元が不安定ななか、結束への努力は国益にかなうだろう。【9月30日 Newsweek】
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【大統領選挙勝利の勢いで、議会選挙も地滑り的圧勝 議会に支持基盤は得たものの、IMFと国民期待の板挟みという難題は変わらず】
この9月~10月の大統領選挙後の予測では、“彼は議会を解散し、11月に総選挙を実施すると発表。選挙後に与党の影響力は強まるかもしれないが、それでも野党の妨害はなくならないだろう。”【前出 Newsweek】 “JVPを含む彼の左派グループは議会の225議席のうち3議席を持つに過ぎない。彼は議会を解散し、11月に選挙が予定されているが、過半数を勝ち取るとは思われない。”【後出 WEDGE】と、議会における支持基盤の弱さは議会選挙でも解消去れず、今後のハードルとなると指摘されていました。

しかし、11月14日の議会選の結果はそうした予測を超越し、与党JVPは僅か3議席から3分の2を越える159議席へと、地滑り的勝利を収めました。

****スリランカ議会選、与党が159議席獲得し圧勝 大勢判明****
インド洋の島国スリランカで14日に議会選(1院制、225議席)があり、15日に大勢が判明した。ディサナヤカ大統領が率いる左派連合・人民の力(NPP)が、議会の3分の2以上となる159議席を獲得して圧勝した。ロイター通信などが伝えた。

ディサナヤカ氏は9月の大統領選で初当選したものの、NPPは議会で3議席にとどまっていた。与党の勢力急拡大により、政権は目標とする貧困対策や汚職撲滅を推進する構えだ。

スリランカでは、新型コロナウイルス禍の影響で観光業が低迷したことなどから経済危機が深刻化し、2022年4月には対外債務のデフォルト(債務不履行)状態に陥った。経済失政を非難する反政府デモが盛り上がり、当時のラジャパクサ大統領は22年7月に国外逃亡して辞任した。

後継となったウィクラマシンハ前大統領は、国際通貨基金(IMF)の支援を受けるため、電気料金値上げなどの緊縮政策を進めた。ディサナヤカ氏は貧しい国民に過剰な負担を強いているとして見直しを主張し、初当選を果たした。【11月15日 毎日】
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これで議会における支持基盤は獲得しましたが、ディサナヤカ大統領が直面する課題は、以前から指摘されているところと変わりません。

****〈スリランカで起きた番狂わせ〉経済困窮立て直しで転換図るも、新大統領が心配な理由****
Economist誌9月28日号の社説が、9月23日にスリランカの大統領に就任したディサナヤケのマルクス主義のルーツは重大視する必要はないが、問題は、庶民の経済困難救済に必要とされる国際通貨基金(IMF)との支援合意の見直しなど、公約を実現する彼の能力にある、と指摘している。要旨は次の通り。(中略)

今年の選挙戦で、ディサナヤケは、宥和的な態度を示し、国の結束を強調し、市場経済に対する支持を表明した。22年に当時の大統領ゴタバヤ・ラジャパクサが大衆の抗議運動で追放されて以来、JVPを中核とする連合は、経済危機とその解決を目指す緊縮政策によって生活水準を破壊された中産階級の広い支持を獲得した。

ディサナヤケを心配する主たる理由は、彼が(マルクス主義)狂信者だからではなく、彼には政府の経験がほとんどない点である。彼はどうにかして彼を選んだ人々の不興を買うことなく経済を安定的に維持するための痛みを伴う改革を継続しなければならない。それはほとんど不可能な任務である。

ラジャパクサの腐敗し常軌を逸した政権の下で経済は崩壊した。スリランカは22年4月に債務不履行に陥った。3カ月後、大衆がラジャパクサの官邸を襲い、彼は国外に逃亡した。

後継のウィクラマシンハはインフレを抑え込み、通貨を安定させ、IMFおよびインドと中国を含む債権国との間で債務再編の合意を達成した。しかし、彼は一般市民の経済の苦痛を癒すことに失敗し、汚職を抑制し反体制派の権利を守ることはほとんど何もしなかった。

ディサナヤケは腐敗の根絶とIMFとの合意の再交渉を約束して選挙戦を戦った。しかし、IMFとの合意を違えれば、スリランカは経済危機に再び転落しかねない。

従って、彼は合意を守る可能性の方が大きい。しかし、それでは彼は約束通り税を下げ福祉支出を増やす余地はほとんどないことになろう。債務返済の額は来年の予算の半分を食うと予想され、経済成長を促進するためのディサナヤケのアイディアははっきりしないままである。

経済的苦痛を緩和することに失敗すれば、ディサナヤケの支持者を怒らせる。(後略)【10月14日 WEDGE】
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“彼はIMFとの30億ドルの支援合意を維持するとしつつも、2年にわたる緊縮財政による一般市民の経済的苦境を救済すべく、IMF合意にある条件の緩和を望んでいる。或る程度の手直しは出来るのかも知れないが、彼の支持者が満足出来るかどうか、要はIMFにどこまで譲る用意があるかであろう。”【前出 WEDGE】

IMF支援で経済危機をなんとか持ちこたえたものの、IMFの要求する財政再建と国民が求める生活苦の緩和が両立せず、政権が苦境に立つ・・・というのは、これまでも各国でありました。

これまで政界の一匹狼だったスリランカ・ディサナヤケ大統領がどのような手腕を発揮するのか・・・・。
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インド  ヒンズー教徒の暴力に怯え、「集団分離居住」を強いられるイスラム教徒

2024-10-22 17:41:16 | 南アジア(インド)

(2020年 インドで過激派ヒンズー教徒がイスラム教モスクを襲撃、放火【2030年3月4日 Pars Today】)

【中国との緊張関係は改善の動き】
インドと中国は、2020年に国境係争地で衝突して多数の死傷者を出し、今も両国軍が対峙する状態が続いていますが、改善に向けた合意がなされました。

****カシミール地方の中印対峙問題解決へ にらみ合いの軍部隊が撤収、印外務次官が発表****
インド軍と中国軍が印北部カシミール地方の係争地で2020年に衝突し、多数の死傷者を出して両国軍が対峙している問題で、ミスリ印外務次官は21日、ニューデリーで記者団に対し、中国側との数週間に渡る話し合いの結果、「実効支配線(LAC)のパトロールの取り決めについて合意に達した。部隊の撤収、最終的には2020年に生じていた問題の解決につながるだろう」と明らかにした。

インドのモディ首相はロシア中部カザンで開かれる主要新興国による「BRICS」首脳会議に出席するため、22〜23日に訪露する予定で、同会議に出席する中国の習近平国家主席とこの問題で何らかの合意に至る可能性もある。その場合、領土問題で対立する中印関係が改善へ向かうとみられる。【10月21日 産経】
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両国首脳の正式な会談は19年以来行われておらず、実現すれば5年ぶりとなります。
中印関係が改善すれば、インドを取り込んだ日米の対中国包囲網クアッドにも影響が出るかも。

【国内の宗教対立は悪化 「集団分離居住」を強いられるイスラム教徒】
中国との関係改善は喜ばしいことですが、ヒンズー至上主義のモディ政権のもとで、国内の多数派ヒンズー教徒と少数派イスラム教徒の関係は悪化しています。対外関係よりも先に、この国内対立を緩和してもらいたいものですが。

少数派と言っても、イスラム教徒の人口は14億インド人口の14%、日本の人口より遥かに多い約2億人です。

そのイスラム教徒がヒンズー教徒の暴力に怯え、イスラム教徒が多く暮らす地域に引っ越す「集団分離居住」を強いられているとか。

****インドで暴力におびえるイスラム教徒、急増する「集団分離居住」*****
インド首都ニューデリーから北東方向にすぐ近くの場所にある町シブ・ビハールで暮らしていたナスリーンさんと夫トフィクさんは2020年2月、イスラム教徒を標的とした暴徒の襲撃を受け、トフィクさんは自宅2階から突き落とされてしまった。

幸い命は取りとめたトフィクさんだったが、足に障害が残り、リハビリを経て路上で衣料品を販売する仕事に復帰するまで3年弱もかかった。

この暴動直後、2人はニューデリーからより遠いロニに引っ越した。ロニはインフラが整っておらず、良い仕事が得られる見通しも乏しいものの、相当な数のイスラム教徒が住む町だ。

トフィクさんは「シブ・ビハールには絶対戻らない。(今は)イスラム教徒の中に入って安心感が高まっている」とロイターに語った。

ロイターが取材した20人余りの関係者によると、ニューデリーでは20年の暴動や増え続ける反イスラムのヘイトスピーチを恐れたイスラム教徒が、多数派のヒンズー教徒から逃れて一定地域に固まって居住する傾向が強まっている。

インド総人口14億人のうちイスラム教徒は約14%。こうした「集団分離居住」に関する公式データは存在しないが、例えばニューデリー中心部にあるジャミア・ナガル地区は、イスラム教徒襲撃が発生するたびに彼らの一時的な避難場所として存在してきた。

ただイスラム教徒の絶え間ない流入により、ジャミア・ナガルは人口過密化が進行。地域指導者や支援団体、聖職者、不動産会社などの話では、住宅建設が活況を呈しているものの、需要に追いついていない。

ある不動産仲介業者は、イスラム教徒の顧客はほぼ例外なく、ジャミア・ナガルのような同教徒が多数派を占める地区に住むことを希望していると明かした。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで長年、インドのイスラム教徒人口に関する実地調査を行ってきた政治人類学者ラファエル・サスウィンド氏は、過去10年で集団分離居住が大幅に増加したと話す。

モディ首相が率いるヒンズー至上主義のインド人民党(BJP)の下でイスラム教を嫌悪する風潮が強まったことが、その主な要因だという。

6人のイスラム教地区の指導者らも、集団分離居住が増えているとするサスウィンド氏の見解を裏付ける話が聞こえてくると述べた。ジャミア・ナガルの聖職者は、モスクで行う朝の礼拝は参加者が過去4−5年で倍以上に増加しており、この地区の人口が膨らんだことを反映しているとみている。

BJP幹部でマイノリティー問題を担当するジャマル・シディキ氏はロイターの問い合わせに対して、相対的に貧しいイスラム教徒が住宅価格の安い分離居住を選択している可能性があるとの見方を示した上で「教育のあるイスラム教徒はそうした地区を退去して他宗徒が混在する発展した地域に住んでいる」と説明した。

ただジャミア・ナガルで野党国民会議派の仕事をしているサイド・サイード・ハサン氏は、ニューデリーにおける分離居住を後押しした大きな力は20年の暴動だったと指摘する。

この暴動で200人が負傷し、少なくとも53人が死亡。犠牲者の大半は、モディ政権が打ち出したイスラム教徒以外の不法移民に市民権を与える「インド市民権改正法」に抗議していたイスラム教徒だった。

野党系のデリー市政府は、BJPの指導者らが抗議運動参加者への暴力をあおる言動をしたことが暴動につながったとの報告書を公表。BJP側は根拠がないと反論している。

<反イスラム発言>
インド政府の犯罪データを収集・分析している機関は、特定コミュニティーを狙った暴力については記録を保持していない。ただ地域社会に起因する暴動の年間発生件数の平均は、国民会議派が政権を握っていた14年以前に比べ、14―22年までに約9%減少したとしている。

しかし米ワシントンのシンクタンク、センター・フォー・スタディ・オブ・オーガナイズド・ヘイトの専門家は、昨年前半に255件だった反イスラムの言論は昨年後半に413件に急増し、BJPの政治家や関連団体が重要な要素だと分析した。

ロイターは以前、イスラム教徒への襲撃を主導しているヒンズー過激主義の「牛を守る自警団」の一部メンバーとBJPにつながりがあると伝えている。

モディ氏は下院選挙戦を展開していた4月、子どもをより多く持つイスラム教徒を多数派ヒンズー教徒に対する脅威となる「侵入者」だと発言。BJPのシディキ氏は、モディ氏は「インドに住んでいて国家を弱体化させる」不法移民ロヒンギャのようなイスラム教徒を指していると付け加えた。

一方これまでモディ政権は、反イスラムに傾いていると言われていることに関して、差別はしていないし、多くの貧困対策はインドで最も貧しいグループに属するイスラム教徒にも恩恵を提供してきたと主張している。

<開発に遅れ>
ほとんどのイスラム教徒居住区は開発が進んでいない。英国と米国、インドの経済学者が昨年行ったインド各地域に対する分析調査では、イスラム教徒が多数を占める地区で水道や学校といった公共サービスが相対的に整備されておらず、子どもたちが教育格差に直面していることが分かった。

ロニに移り住んだトフィクさんも収入は半減し、16歳の娘は新しい学校が合わずに退学した。

それでもナスリーンさんは後悔していない。「シブ・ビハールに帰るつもりはない。住民たちへの信頼を失った」と語り、夫を突き落とした暴徒には近所の人が含まれていたと証言した。

古くからトフィクさん一家の近所で暮らしていたヒンズー教徒のサム・スンダルさん(44)は、暴動ではヒンズー教徒とイスラム教徒の双方が苦しい思いをしており、外部からやってきた連中がいけないのだと説明。ただイスラム教徒が矢面に立たされたことは認め、今ではこの地域にほとんどイスラム教徒の姿が見えなくなったのは良いことではないと打ち明けた。【10月21日 ロイター】
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【市民権付与に関する変更で起きた2020年の暴動】
2020年の暴動・・・・2019年12月、モディ政権は移民を救済するとして「国籍法の改正」(「インド市民権改正法(CAA)」)を打ち出しました。この改正では、迫害を受けてインドに逃れたバングラデシュ、アフガニスタン、それにパキスタンの3か国の出身者に、インド国籍を与えるとするものです。

ところが、その対象は、ヒンドゥー教など6つの宗教の人たちだけで、3か国で多数派のイスラム教徒は対象外としたのです。

この国籍法の改正で、イスラム教徒だけが救済されずに排除されるのでないか、イスラム教徒の怒りが爆発し、抗議デモが行われましたが、2020年2月、こうしたイスラム教徒の政府批判に反発するヒンズー教徒と衝突する事態となりました。

****インドで暴動、18人死亡 不法移民への市民権付与めぐり****
インドの首都デリーで連日、イスラム教徒以外の不法移民に市民権を与える「インド市民権改正法(CAA)」をめぐり、賛成派と反対派が衝突し、これまでに18人が死亡、約190人が負傷した。3夜連続で起きているこの暴動では、イスラム教徒の住宅や店舗が標的になっているという。

発端となったCAAは、今年1月に施行された。
CAAは、インドに不法に入国したヒンドゥー教、シーク教、仏教、ジャイナ教、パールシー教、キリスト教の各教徒について、イスラム教徒が多数を占めるパキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンのいずれかの出身だと証明できれば、インドの市民権を申請できるという内容。

一方でイスラム教徒は対象外となるため、差別的だとの声が上がっている。また、インドの世俗的地位が危険にさらされるという不安も高まっている。

ナレンドラ・モディ首相率いる政権側は、反対派のこうした主張を否定。迫害された少数派に恩赦を与えることのみが、CAAの目的だとしている。

宗教ごとに分裂
反イスラム的だと批判されているCAAをめぐっては、法案が可決された昨年以降、大規模な抗議デモが相次いでいる。一部は暴力沙汰につながっていたが、首都デリーでは今回の衝突が起きるまで、抗議デモは平和的に行われていた。

CAA賛成派と反対派の最初の衝突が起きたのは23日。それ以降は、デモ参加者の信仰する宗教によって、攻撃を受けているとの情報がある。

こうした暴力行為は、首都中心部から約18キロ離れた、イスラム教徒が多数を占めるデリー北東部地域に集中して起きている。

ソーシャルメディアには、危険と隣合わせの街を捉えた、ぞっとするような写真や動画が投稿されている。放火や、鉄の棒や石を持って路上をさまよっている男の集団、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が対決しているとの報告が上がっている。

誰が犠牲になったのか
負傷者の多くが入院しているグル・テグ・バハダ病院の関係者によると、死者の中には、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が含まれる。約190人が負傷したという。

病院を取材したBBC記者によると、銃弾によるものなど様々なけがを負った人が、治療を受けようと争っていたという。病院は「ひっ迫」しているようで、負傷者の多くは「怖くて自宅に帰るれない」と言っていたという。

真夜中に異例の審理が行われ、デリー高等裁判所は、政府と警察に対し、治療の設備が備わった最寄の病院へ負傷者を安全に移送するよう命じた。

目撃者によると、暴徒数人が、銃を運んでいたという。建物の屋上から発砲があったとの情報もある。病院関係者は、負傷者の多くは銃弾を受けていると認めた。

破れたコーランを拾い集める人も
BBCヒンディー語のファイサル・モハメドによると、同地域の中心部は、焼けた車両のいやな臭いが漂い、修羅場と化していたという。

また、一部が燃えたモスクや、コーランのページが地面に散らばっているのを確認したという。同記者は、「2人の若い男性が破れたコーランのページを拾い集め、ビニール袋に入れていた」と述べた。

あるジャーナリストは、自分の身元を証明するためにパンツを脱ぐよう暴徒から要求されたという。
イスラム教徒の男性のほとんどは、イスラム教の重要な教えの1つとして、割礼を受けている。割礼に疑問を持つ人は、イスラム嫌悪の罪に問われる場合がある。

「裏切り者を撃て」
デリー北東部で取材するBBC記者は、ヒンドゥー教の暴徒が投石し、スローガンを叫ぶ姿を目撃した。中には、「裏切り者を撃て」と叫ぶ者もいたという。

ヨギータ・リマエ記者は、放火されたタイヤ市場の方から煙が立ち上っているのを確認した。
25日午後には、シャハドラ地域のモスクが破壊された。複数の男が、モスクのミナレット(塔)のイスラム教を象徴する三日月を剥ぎ取ろうとしている様子を捉えた動画が、広く拡散された。

暴力行為の経緯
衝突は23日、デリー北東部のイスラム教徒が多数を占める3つの地域で勃発し、その後も続いている。
デモ隊は宗教ごとに分裂して互いを非難し、衝突した。

この暴力行為は、ヒンドゥー民族主義の与党・インド人民党(BJP)のカピル・ミシュラ党首と関係している。ミシュラ氏は週末に座り込み抗議を展開し、トランプ氏がインドを離れたら強制的に立ち退かせると、CAAに抗議するグループを脅していた。

デリー警察のMS・ランダワ報道官は記者団に対し、事態は制御されており、「十分な数の警察官」が配備されたと述べた。

しかし、同地域で取材するBBC記者は、暴徒はスローガンを叫んだり投石を続けていると指摘した。

ラワンダ報道官は、警察はドローンを配備し、監視カメラ映像を精査しているとした上で、騒動を起こした人物に対して措置を講じる方針だと述べた。同地域では、4人以上での集会を開くことが制限されてる。

目撃者によると、25日朝、ジャフラバードやチャンド・バックといった地域では、黒焦げになった複数の車両が残され、路上は石だらけだったという。警察は、身分証明書の確認ができた人のみ、立ち入りを許可した。
一部の地下鉄駅も封鎖されている。

トランプ氏のインド訪問の最中に
衝突は、アメリカのドナルド・トランプ大統領が24日からインドを初訪問し、首都でインド指導者や外交官、実業家らと会談を行っている最中に起きた。

現在の社会不安によって、トランプ氏の訪問から世間の注目がそれることとなり、モディ首相にとっては決まりが悪い出来事だと、BBC特派員は指摘する。

トランプ氏は記者会見で、今回の暴力行為について質問されると、対処については「インド次第」だと述べ、この問題を煙に巻いた。

一方でトランプ氏は、インド国内の宗教の自由に関する問題を持ち出し、インド政府の対応に感銘を受けたと述べた。【2020年2月26日 BBC】
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当時、衝突・混乱があったのは私も承知していましたが、これがイスラム教徒を「集団分離居住」に追いやるほど激しいものだったとは認識していませんでした。

戦争も恐ろしいですが、昨日まで平和に暮らしていた近所の顔見知り住民が突然襲い掛かる、こうした住民同士の暴力も恐ろしい。ルワンダの大虐殺もそうしたものでした。

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ネパールへ観光旅行 先月末の大雨の影響は? 観光できるの?

2024-10-16 23:39:39 | 南アジア(インド)

(ラリトプルで救助された人たち【9月30日 BBC】)

今日(17日)は1日かけてネパール・カトマンズに移動します。現地到着は深夜、日付も変わる頃。
深夜だろうが何だろうが、無事に着けばいいのですが・・・

ネパール関連のニュースとしては、先月の末の大雨被害が。

****豪雨災害の死者200人超に=ネパール****
ネパール内務省によると、27日から2日間続いた大雨に伴う洪水や土砂崩れによる死者が30日までに全土で206人に達した。いまだ30人弱の行方が分かっておらず、捜索活動が続いている。警察はこれまでに3500人以上を救助。

地元報道によれば、首都カトマンズ周辺の複数の観測所で観測開始以来最大の雨量を記録した。ネパールでは例年6〜9月のモンスーン期に水害が多発。気候変動による降雨パターンの変化や、川岸の無計画な開発が被害を拡大させたとの指摘もある。【9月30日 時事】 
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****ネパールで大規模洪水と地滑り、150人近く死亡 「屋根から屋根へ」避難****
ネパール各地で大雨による大規模な洪水と地滑りがあり、少なくとも148人が死亡、100人以上が負傷した。警察が発表した。

首都カトマンズ周辺の渓谷には、2日間にわたり大雨が降った。29日の時点でなお50人以上が行方不明となっている。これまでに約3600人が救助された。

数千軒の家屋が洪水被害に遭う中、被災地の住民は、増水から逃れるために「屋根から屋根へ飛び移った」と話した。また、救助隊はヘリコプターやゴムボートで救助を続けている。

雨は10月1日まで続くと予報されていたが、29日にはいくらか和らぐ兆しが見られた。

泥まみれの自宅に戻ることができた住民もいる一方で、町や村を結ぶ主要道路が封鎖され、いまだに孤立状態にある住民もいる。

こうした中で、鉄砲水や地滑りによって死者が増えている。
警察当局によると、カトマンズ近郊のプリトヴィ高速道路では、地滑りに埋まった車から少なくとも35人の遺体が収容された。

現在、カトマンズと国内の各地域を結ぶ主要な高速道路のほとんどが、地滑りのため複数の場所で通行できなくなっている。

国営メディアは28日、カトマンズ東部の都市バクタプルで地滑りが発生し、妊娠中の女性と4歳の女の子を含む5人が死亡したと報じた。

また、カトマンズの西に位置するダディングでは、土砂崩れで埋まったバスから2人の遺体が運び出された。運転手を含む12人が乗っていたという。

また、首都の南西マクワンプルにある、全ネパールサッカー協会が運営するトレーニングセンターでは、土砂崩れでサッカー選手6人が死亡した。

洪水に巻き込まれた人もいる。カトマンズ渓谷南部のナクー川では4人が流された。
目撃していたジテンドラ・バンダリさんはBBCに、「(被害者は)何時間も助けを求めていた」ものの、「私たちは何もできなかった」と話した。

運転手のハリ・オム・マラさんのトラックは、カトマンズで水没してしまったという。
マラさんはBBCに、27日の夜に雨が強まり、水が車内に「一気に流れ込んで」きたと語った。
「私たちは飛び降りて、泳いで、トラックから離れた。財布もバッグも携帯電話も川に流されてしまった。今は何も持っていない。一晩中、寒い中で過ごした」

ビシュヌ・マヤ・シュレタさんは、今季の洪水の規模は例年より極端だったと語った。
「前回も水から逃げたが、何も起こらなかった。でも今回は、すべての家が浸水した」
「水位が上がってきたので、屋根を切り開いて外に出なければならなかった。屋根から屋根へと飛び移り、やっとコンクリートの家にたどり着いた」

プリトヴィ・スッバ・グルング政府報道官は、ネパール国営テレビに対し、洪水の影響で水道管も破損し、電話線や送電線にも影響が出ていると語った。

国営メディアによると、捜索救助活動の一環として、警察官1万人に加え、ボランティアや兵士も動員されている。

ネパール政府は不要不急の旅行を避けるよう呼びかけ、カトマンズ渓谷での夜間の運転を禁止した。27日と28日には空の便も影響を受け、多くの国内便が遅延または欠航となった。

しかし科学者らは、気候変動により降雨がこれまでよりいっそう激しくなっていると指摘している。
大気が温暖化すると、大気内に保持する水分量が増える。そのほか、海水温が上昇すると暴風雨のシステムが活性化され、より不安定になるという。【9月30日 BBC】
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大雨被害から半月、今はどうなっているのでしょうか?
観光ができる状態でしょうか?

とにかく行ってみるしかありません。
観光ができないようだったらホテルで寝ています。それもいい休養になるかも。

ということでしばらく旅行中のため、ブログ更新も不定期になります。



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インド  ウクライナ問題でみせるしたたかなモディ外交

2024-09-19 23:04:01 | 南アジア(インド)

(ロシアのウクライナ侵攻開始後初めてキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領(左)と抱擁を交わすインドのモディ首相=23日)【8月23日 北海道新聞】)

【注目されたモディ首相のウクライナ・ロシア仲介外交】
インドはウクライナの問題では、ロシアとウクライナ双方と関係を維持する姿勢をとっています。モディ首相は7月にモスクワを訪問してプーチン大統領と会談、8月にはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談・・・ということで。その「仲介外交」が注目されました。

インドのこうした外交姿勢の背景には、武器輸入などロシアとの強いつながり、アメリカにおける「もしトラ」を見据えた動き、そしてライバル中国への意識があると指摘されています。

****インド・モディ首相のウクライナ訪問、なぜ今なのか?その狙いと苦悩****
インドのモディ首相が8月23日にウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。モディ首相は、ゼレンスキー大統領に、友人として平和に協力する用意があることを伝えたようだ。7月にはモスクワを訪問してプーチン大統領に会ったばかり。モディ首相は何の理由があって両国を訪問したのだろうか。

モディ首相のウクライナ訪問が注目されるわけ
まず、なぜモディ首相のウクライナ訪問がそれほど重要なのか。ウクライナは戦時下だが、すでに多くの欧州諸国の首脳が訪問し、アジアからも、インドネシアに続いて、日本の岸田文雄首相も訪問している。その点から言えば、モディ首相が訪問しても、特に新しい側面はない。

ただ、インドがそれを行う場合、他の国とは違う側面がある。なぜなら、インドはロシアと非常に強いつながりがあるからだ。

1970〜90年代、インドは非同盟政策を掲げていたにもかかわらず、実際には、ロシア(ソ連)と正式な同盟関係にあった。

1971年にインドとソ連が結んだ印ソ平和友好協力条約の第9条は、両国が第3国に対して軍事的に協力することが書かれているから、これは同盟関係の定義に該当する。そのため、インドはソ連から大量の武器を輸入するようになり、武器の修理部品や弾薬の供給をめぐって、現在でも、ロシアに大きく依存している。

そのため、2022年2月にロシアがウクライナ侵略を開始したとき、インドはロシアを非難しない姿勢をとってきた。ウクライナのブチャで虐殺が明るみになった時も、インドは国連でその行為を激しく非難したが、「ロシア」という国名を出さないように配慮していた。

そして、日本を含め西側諸国がロシアに経済制裁をかけている最中でも、インドはロシアから原油輸入を増やし、制裁の効果を減殺してしまっていた。

ただ、インドは、相当、苦悩の末に、このような決断に至っていたようである。それがわかるのは、西側諸国にも数多くの配慮をみせてきたからであった。

まず、西側諸国による、対ロシア経済制裁に関して、中国は西側諸国を非難しているが、インドは非難していない。ウクライナに対する人道支援も行っている。

ゼレンスキー大統領に対しても、昨年、広島で行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の際に会ったことも含め、対面・電話両方で、繰り返し会談している。そして、モディ首相がプーチン大統領に会った際は、「今は戦争の時代ではない」と直接伝え、戦争に反対であることを明確に示したのである。

このような行動の結果、インドに対して、一つの期待が生まれた。それはインドが、ロシアによるウクライナ侵略において、両方の指導者と直接やり取りできる、仲介者になれるのではないか、という期待である。

だから、モディ首相がモスクワを訪問した次の月にキーウを訪問したことは、注目されるのである。実際にモディ首相は会談でそのような姿勢を示したようだ。

なぜ今、仲介なのか
ただ、ロシアのウクライナ侵略が始まったのは、22年2月で2年半も前だ。それまで仲介がうまくいっていないのに、なぜ今、インドの仲介外交が、注目されるのだろうか。おそらく背景には、米国の大統領選挙がある。

(中略)トランプ前大統領は、繰り返し、ロシアのウクライナ侵略を終わらせ、ロシア対策から中国対策へと、政策をシフトさせることを主張している。しかも「電話一本で終わらせる」とまで豪語している。

そのため、もし仮に11月に選挙で勝利したら、1月の就任を待たず、トランプ大統領がロシアとウクライナの停戦交渉に着手する可能性がある。

そのため、各国とも動き始めている。すでにゼレンスキー大統領はトランプ前大統領と会談しているし、ウクライナの隣国ポーランドの大統領もトランプ前大統領と会談した。

ウクライナの軍事作戦も変わった。ロシアから奪われた領土の奪還だけでなく、一部地域でロシアに積極的に攻め込んでいる。もし停戦交渉が行われるなら、奪い取った領土を交換することも考えられ、11月までにできるだけ交渉カードを得ておきたいからだ。(中略)

こうした行き来で、遠距離では伝え難いメッセージを、直接送ったり、有力人物と会ってコネを作っておくことは、トランプ前大統領が勝利した際の停戦交渉においても、インドが貢献するかもしれないことを意味している。

もし貢献したら、「米国が行う停戦交渉は、実はインドのおかげで成功した」と外交的成果をアピールできる。そのためには、今、先手を打って、動いておかなければならないのである。

ただ、インドの動きには、もう一つ懸念事項がある。中国の動きだ。プーチン大統領だけでなく、ウクライナのクレバ外相も中国を訪問しており、中国による仲介外交にも注目が集まっている。

もし仲介外交で中国が成果を上げれば、中国の影響力はますます高まる。インドは、中国に負けたくないのである。(後略)【8月26日 WEDGE】
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“ウクライナ訪問を終えたインドのモディ首相は、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、対話の重要性を改めて強調しました。モディ氏は、アメリカのバイデン大統領にも和平に向けた支援を伝えるなど、積極的な仲介の姿勢もみせています。”【8月27日 TBS NEWS DIG】

【戦争状態をうまく利用して「漁夫の利」を狙った動きとも】
よく言えば、ロシア・ウクライナ両国との関係を活かした仲介外交とも言えますが、悪く言えば両国の戦争状態をうまく利用してインドの利益を最大とする「漁夫の利」を狙った動きとも。

西側制裁を利用したロシア産原油の“買いたたき”はこれからも続けるようです。

****インド、安価なロシア産原油の購入を継続へ=石油・天然ガス相****
インドのプーリー石油・天然ガス相は17日、安価なロシア産原油の購入を継続する方針を示した。米ヒューストンで開催されたイベントでロイターのインタビューに応じた。

ロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁により、ロシア産原油の上値は抑えられてきた。
プーリー氏は「制裁対象外であれば、最安値で販売する企業から石油を購入するのは当然だ」とした上で、欧州各国や日本企業もロシア産原油を購入しており、インドだけではないと強調した。(後略)【9月19日 ロイター】
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一方で、インドはウクライナに砲弾を提供しており、ロシアの抗議も無視する構えです。

****インド製弾薬、欧州経由でウクライナへ ロシア抗議でも規制の兆しなし****
欧州企業がインドの軍需企業から購入した砲弾や弾薬がウクライナにわたっていることがインドと欧州の当局者の話で分かった。ロシア政府はインド側に抗議したが、インド政府は取引停止の措置を取っていないという。

インドの武器輸出規制は、武器の使用を申告した購入者に限定し、無許可の転売などがあれば取引停止にすると定める。インド外務省報道官は1月の記者会見で、インドはウクライナに砲弾を供給・販売はしていないと述べた。

当局筋によると、ウクライナに供給されているインド製砲弾薬は、国有軍需企業ヤントラなどが製造したもの。取引は1年余り前から行われており、税関の記録によるとイタリア、チェコなどからウクライナに輸出されている。

元ヤントラ幹部は非上場のイタリア防衛企業MESが同社の最大の海外顧客だと述べた。MESは、ヤントラから中身が空の砲弾を購入し、爆発物を詰めてウクライナに輸出しているという。

ロシアは事態を深刻視し、7月の外相会談を含め少なくとも2回、インド側に対応を求めた。インド当局者によると、政府は状況を監視しているが、欧州向け輸出を制限する措置は取っていないという。

関係者は、ウクライナが使用する砲弾薬でインド製が占める割合はごくわずかと指摘。ロシアによる侵攻開始後にウクライナが輸入した武器全体の1%以下と推定されている。

キングス・カレッジ・ロンドンの南アジア安全保障の専門家、ウォルター・ラドウィグ氏は、比較的少量の弾薬の移転はインド政府にとって地政学的に有益とみる。インドはロシア・ウクライナ戦争について、「ロシアの味方」ではないことを西側にアピールできると指摘した。またロシアはインドの決定に対してほとんど影響力を持たないと述べた。【9月19日 ロイター】
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“インド側には、長期化するウクライナ侵攻を軍需産業の好機と捉える見方があるとしている。”【9月19日 共同】とも。

比較的少量の弾薬をウクライナへ輸出することで、ロシアと決定的に対立することなく、「ロシアの味方」ではないことを西側にアピール・・・なかなか“うまい”と言うか、したたかな戦略です。

ただ、こうした“どっちつかず”で“漁夫の利”を狙う動きは、どっちからも本当には信頼されないということもありますので、注意が必要です。

いずれにしても、いんどのある意味“身勝手”の行動に対し、ウクライナ・ロシアだけでなく、中国を意識するアメリカもインドをつなぎとめて起きたい思いから、あまり強くは出られない・・・といったところです。

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パキスタン  以前より激減したものの頻発するテロ バルチスタン解放軍の多発的攻撃で死者39人

2024-08-26 23:13:58 | 南アジア(インド)

(パキスタンのテロ発生件数出所:パキスタン平和研究所 【2023年4月18日 JETRO】)

【ひと頃に比べたらテロ激減・・・とは言うものの、未だに頻発】
このブログを開始したのは2006年ですが、その頃パキスタンは「テロ地獄」と形容されていたように、テロの頻発国でした。その後政府・軍部とも国内イスラム過激派を一掃する取り組みが進み、治安は大幅に改善されたようです。

****初めてのパキスタン出張に向けた安全対策****
テロの脅威や窃盗・強盗に要注意

パキスタンの治安情勢を俯瞰(ふかん)する上で特筆すべきは、テロ発生件数(注)が近年大幅に減少している点だろう。

ピーク時の2009年には同国全土でテロ件数は3,816件に上り、死者・負傷者数は2万5,000人を超えた。2013年に始まった政府の過激派組織への掃討作戦が功を奏し、テロ発生件数はその後、減少を続け、2022年には262件にまで縮小したが、後述するTTPによる停戦合意破棄によりテロの脅威が高まっている点には注意が必要だ(冒頭グラフ)。

テロ発生件数はピーク時から9割減
2022年のテロ発生件数を州・地域別にみると、北西部のハイバル・パフトゥンハー(KP)州が169件と、65%を占めている。日本人ビジネスパーソンが渡航する可能性があるカラチ(6件)、パンジャブ州(3件)、首都イスラマバード(2件)は非常に少ない。(中略)

TTPが政府との停戦合意を破棄、テロが増加
パキスタン北西部を拠点とする過激派組織パキスタン・タリバン運動(TTP)は2022年11月、政府との停戦合意を破棄し、テロ攻撃の開始を宣言した。その結果、国内のテロ件数は上昇に転じている。

12月には治安が厳しく維持されているイスラマバードで自爆テロがあった。2023年2月にはカラチ中心部で警察署を襲う事件が発生した。

TTPによる攻撃はアフガニスタンと国境を接する北西部KP州に集中しているとはいえ、カラチ中心部でテロが発生したことで、日本人駐在員コミュニティーもテロリスクへの認識を新たにしている。TTPは法執行機関(軍や警察)を標的にすることを宣言しているため、警察署などへは近づかないことが重要だ。(後略)【2023年4月18日
 JETRO】
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かつてに比べると激減したとは言え、未だにテロが頻発しています。そもそも、ピーク時の年間3,816件というのが異常。1日10件以上。 10分の1以下に減っても連日に近い状況です。

【南西部バルチスタン州で分離独立運動を行うバルチスタン解放軍(BLA) 3か所で攻撃、死者39人】
その主体は上記記事にある北西部KP州を中心に活動するイスラム過激派組織パキスタン・タリバン運動(TTP)、そしてもうひとつが南西部バルチスタン州で分離独立運動を行うバルチスタン解放軍(BLA)です。

****武装集団がバスなどから乗客降ろし銃撃 少なくとも23人殺害…パキスタン当局****
パキスタン南西部で、武装集団がバスやトラックなどから乗客を降ろして銃撃し、現地当局は26日、少なくとも23人が殺害されたと発表しました。地元メディアなどによりますと、銃撃があったのはパキスタン南西部バルチスタン州の高速道路です。

現地当局は26日、武装集団がバスやトラックなどから乗客を降ろして身分証を確認したあと銃撃し、少なくとも23人が殺害されたと発表しました。 犠牲者のほとんどが、中部パンジャブ州の出身とみられています。

武装集団は車両10台に火をつけたうえで、現場から逃走しました。

この襲撃は、パキスタンからの分離独立を目指す武装勢力「バルチスタン解放軍」が、高速道路に近づかないよう警告してから数時間後に起きたということですが、これまでのところ犯行声明は出されていません。

バルチスタン州ではこれまでにも、分離独立を目指す武装勢力がパンジャブ州出身者を排除しようと襲撃する事件が度々起きています。【8月26日 日テレNEWS】
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上記事件に合わせて、バルチスタン州の別の場所では警察が襲われています。

****パキスタンの銃撃戦で死者計33人に****
パキスタンメディアによると、南西部バルチスタン州で25日夜に武装集団が絡む銃撃戦があり、治安部隊と市民ら10人が死亡した。バス乗客らの殺害と合わせて死者は計33人となった。【8月26日 共同】
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更に、同州中部ボランでは鉄道橋が爆破され、6人の遺体が見つかった報じられていますので、死者合計は39人に。

【BLA 中国人を標的とするほか、国境を接するイランとの紛争原因にも】
バルチスタン解放軍(BLA)はパキスタン軍を支配するパンジャブ人の他、バルチスタン州で「一帯一路」事業を展開する中国人をしばしば標的にした攻撃を行っています。

****中国人を何度も襲撃している「バルチスタン解放軍」とはどんな組織か―独メディア****
2023年9月3日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、パキスタンでしばしば中国人を襲撃している「バルチスタン解放軍」について紹介する記事を掲載した。

記事は、パキスタン・バルチスタン州にあるグワダル港で8月13日、23人の技術者を乗せた中国企業の車列が襲撃されたと紹介。中国人の死傷者は出なかったが、中国はパキンスタに対し、襲撃事件の徹底究明と犯人への厳罰、現実的かつ効果的な対策を講じることによる再発防止を要求したと伝えた。

その上で、襲撃事件を起こしたとみられるバルチスタン解放軍(BLA)について、2004年に設立され、パキスタンの治安部隊やバルチスタン地域に住むバロチ人以外の人々、特にパキスタン軍を支配するパンジャブ人を攻撃していると説明。

10年には組織内に自爆テロ部隊「マジード殉教者旅団」が結成され、11年12月にバルチスタン州都クエッタで、パキスタンのシャフィク・メンガル元内務相を標的とした自動車自爆攻撃を仕掛けたとした。

また、18年8月にはダルバンディンで中国人技術者を乗せたバスに自爆攻撃を行い、19年5月には中国企業が建設したグワダル港のホテルを、20年6月にはパキスタン証券取引所をそれぞれ襲撃したほか、昨年4月には現地の孔子学院職員が乗ったバスを襲撃して中国人3人とパキスタン人運転手1人が死亡したと伝えた。

記事は、一部のアナリストからはBLAが米国とインドの「反中国家」の支援を受けているとの見方が出ているほか、バルチスタン州の政治家からは「中国の投資は地元住民に利益をもたらしていない。中国は何十億ドルもの投資を自慢しているが、グワダルはいまだに深刻な水不足に悩まされている。バルチスタンはパキスタンで最も子どもの死亡率が高く、インフラはボロボロで、保健と教育が優先されていない」といった声が出ていると指摘。

ブット元首相の顧問を務めたグワダルの政治家アブドゥル・ラヒム・ザファル氏が「中国の投資はかえって住民の苦しみを悪化させている。中国人の安全を確保するために、当局は地元住民の移動の自由を制限している」と語ったことを紹介した。

一方で、BLAによる襲撃や脅威、そして現地住民の不満があるからといって、中国がパキスタンでのプロジェクトを停止することはないと多くの人が考えていると紹介。

ある安全保障専門家が「中国人はこうした攻撃に対して心の準備をしている。彼らはリスクの存在を知っている。損失を被ったとしても、中国・パキスタン経済回廊でのプロジェクトを諦めることはないだろう」との見解を示したと伝えた。【2023年9月5日 レコードチャイナ】
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バルチスタン解放軍は中国が地元の資源を搾取し続けており、それを停止しない限り攻撃を続けると警告しています。

BLA以外にも中国人を標的にしたテロを行う組織があります。

*******************
(BLA以外の)他の地元武装勢力も中国権益を狙ったテロを繰り返している。

2021年7月、北西部のカイバル・パクトゥンクワ州で中国人技術者ら30人以上が乗るバスに爆発物を積んだ車両が突っ込み、少なくとも中国人9人を含む13人が死亡した。事件後、パキスタン政府はイスラム過激派「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の戦闘員が爆発物を積んだ車両でバスに突っ込んだと発表した。

また、同年4月には、バルチスタン州の州都クエッタにあるセレナホテルで爆発物を用いたテロ事件があり、4人が死亡、11人が負傷したが、事件後にTTPが犯行声明を出した。当時このホテルには在パキスタン中国大使が宿泊していたとみられるが、事件当時大使はセレナホテルに滞在しておらず無事だった。

水力発電ダム建設現場で働く中国人技師5人が狙われた 2024年3月最近でも今年3月、パキスタン北部の山岳地帯で中国人技術者らが乗る12台の車列が襲撃を受け、中国人5人を含む6人が死亡し、4月にも中国企業が建設や運営を担うグワダル港を武装集団が襲撃する事件が起こっている。【4月22日 FNNプライムオンライン】
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今年4月にはカラチで日本人5人が乗った車が攻撃を受けましたが、中国人と間違われたのでは・・・との見方もあります。

****パキスタンで日本人5人が乗った車両に自爆テロか、警察が襲撃犯射殺…ロイター****
在カラチ日本総領事館によると、パキスタン南部カラチで19日午前7時(日本時間午前11時)頃、日本人男性5人が乗った車両が襲撃された。1人がガラスの破片で足に軽傷を負い、病院で手当てを受けた。残りは無事だという。

5人はカラチに拠点を置く日系企業の駐在員で、車列を組んで通勤途中だった。近付いてきた武装勢力の戦闘員が持っていた爆弾が爆発した後、銃撃戦になった。警備員など数人が負傷した模様だ。

ロイター通信によると、地元警察は自爆テロとの見方を示し、襲撃犯を射殺した。犯行声明はまだ出ていない。

パキスタンでは3月、北西部カイバル・パクトゥンクア州で爆発物を積んだ車が中国人らの乗る別の車に突っ込み、中国人技師5人を含む計6人が死亡した。【4月19日 読売】
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中国人を標的にすることが多いBLAは、中国との関係で問題となりますが、バルチスタン州はイランとも接しており、イラン・パキスタン関係にも影響しています。

****パキスタンがイラン内の武装組織拠点を攻撃、9人死亡…越境攻撃への報復か****
パキスタン外務省と軍は18日、イラン南東部のシスタン・バルチスタン州にある武装組織の拠点を無人機やロケット弾で攻撃したと発表した。イラン国営テレビによると、攻撃で女性と子供を含む9人が死亡した。イランによる16日の越境攻撃への報復とみられる。

パキスタン軍によると、18日未明にパキスタンからの分離独立を狙う武装組織「バルチスタン解放軍」などの拠点を攻撃した。パキスタン外務省は攻撃で「テロリスト数人」を殺害したと発表した。イラン国営テレビは、州副知事の話として、パキスタン国境近くの村で数回の爆発音が聞こえたと報じた。

イラン外務省は18日、パキスタンの駐イラン臨時代理大使を呼び、強く抗議した。

パキスタンとイランは長年、国境地帯で武装集団をかくまっていると互いに非難している。

イランは16日、国内でテロを繰り返す反政府組織の拠点があるとして、パキスタン南西部バルチスタン州をミサイルと無人機で攻撃した。パキスタン側は子供を含む5人が死傷したと発表した。

17日に両国外相が電話で会談した際、パキスタン側は「挑発的行為へ応酬する権利を留保している」と述べ、報復の可能性を示唆していた。相次ぐ越境攻撃により、地域情勢の緊迫化が懸念されている。【1月18日 読売】
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【2月に行われた総選挙もテロ標的に】
パキスタン国内的には、2月に行われた総選挙もテロの標的とされました。

****パキスタンで総選挙前日に爆発、少なくとも28人死亡*****
パキスタン南西部バルチスタン州で(2月)7日、2件の爆発があり、少なくとも28人が死亡し、多数が負傷した。当局が発表した。同国は8日に総選挙を控えている。

最初の爆発があったのは、バルチスタン州ケッタ市の北部ピシン地区で、16人が殺された。
続いてキラ・サイフラー地区でも爆発があり、12人が死亡した。

いずれも、武装組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。どちらの爆発でも、オートバイに爆発物を仕掛けたと主張している。 パキスタンでは総選挙に関連し、暴力事件や不正の報告が相次いでいる。(中略)

パキスタン最大のバロチスタン州は資源が豊富な一方、同国で最も貧しいとされる。暴力事件が絶えず、数十年にわたってさまざまな組織が自治権拡大を求めて闘争を続けている。中には武装したグループもある。アフガニスタンとの国境では、「パキスタンのタリバン運動」(TTP)を含むイスラム主義の武装組織が活動している。(中略)

バルチスタン州にたまる不満
8日の総選挙を前に、バルチスタン州とカイバル・パクトゥンクワ州では暴力事件が相次いでおり、今回の事件も予想外の出来事ではなかった。

バルチスタン州で活動する武装組織「バルチスタン解放軍」(BLA)は1月中頃、選挙訓練事務所の爆発事件について犯行声明を発表。人々に選挙をボイコットするよう呼びかけていた。その直後、政党事務所への手りゅう弾攻撃が、州内の各都市で報告された。

バルチスタン州の有権者の多くは、同州の議席数の少なさから、国内の政党から見放されていると感じている。バルチスタンとのつながりがほとんどない候補者を押し付けられていると感じることも多いという。

また、投票が不公平という指摘もある。BBCウルドゥ語は先月、ターバトの街で多くの人から、「これは選別だ」という声を聞いた。

バルチスタン州政府は、8日の投票は予定通り行うと発表している。【2月8日 BBC】
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北西部のハイバル・パフトゥンハー(KP)州ではパキスタン・タリバン運動(TTP)が、南西部バルチスタン州ではバルチスタン解放軍(BLA)が活動している、首都イスラマバードや最大都市カラチでも・・・となると、要するにパキスタン全土でいつどこでテロが起きてもおかしくないということです。以前に比べると随分少なくはなりましたが。
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バングラデシュ  ユヌス氏率いる暫定政権は真の民主国家の実現への道を切り開けるか?

2024-08-24 23:00:55 | 南アジア(インド)

(バングラデシュ暫定政権の首席顧問、ムハマド・ユヌス氏。首都ダッカで(2024年8月13日撮影)【8月19日 AFP】)

【長期政権ハシナ首相のあっけない退場劇】
バングラデシュでは、8月6日ブログ“バングラデシュ ハシナ首相辞任、国外へ 軍主導で暫定政権発足 最高顧問にユヌス氏”でも取り上げたように、公務員採用特別枠への不満からの若者らの抗議が政権打倒運動に拡大し、ハシナ前首相がインドに脱出、マイクロファイナンス・グラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者のユヌス氏を最高顧問とする暫定政権が発足しています。

ハシナ前首相国外脱出の最後はあっけない形でしたが、やはり最後で軍がハシナ首相を見放した形だったようです。

****長期政権ハシナ前首相のあっけない退場劇  墜ちた「鉄の女」、バングラデシュ強権首相の罪と罰(1)****
ハシナ氏は辞任手続きの後、身の安全を確保するため隣国インドへと脱出した
まるで録画映像を見ているかのようだった。 絶対的な最高権力者が辞意を残して国外へ逃げ出す。主(あるじ)のいなくなった公邸に群衆がなだれ込み、「市民革命」の勝利に歓喜する――。

2022年7月にスリランカのラジャパクサ大統領(当時)が失脚した時と同じ光景が、2年後の8月5日、隣国のバングラデシュで繰り返された。現役の女性宰相では世界最長となる連続15年の在任期間を誇っていたハシナ首相の、あっけない退場劇だった。(中略)

8月4日午後6時、先鋭化する反政府デモを抑え込むため、ハシナ氏は全土に無期限の外出禁止を発令した。その夜、国軍トップのザマン陸軍参謀長は将校たちをオンライン会議に招集した。外出禁止を無視して街頭に繰り出す市民がいても発砲しないよう命じたうえで、首相に電話して「兵士は都市封鎖を実行できません」と伝えた。

5日朝、ハシナ氏は首都ダッカで厳戒態勢の首相公邸に立てこもっていた。デモの武力鎮圧にあたってきた警察幹部が「もはや統制は不可能です」と事態の深刻さを訴えた。政府高官は首相辞任を勧めたものの、ハシナ氏は頑として受け入れなかった。

思いあまった高官は妹のシェイク・レハナ氏に説得を頼んだが、ハシナ氏は首を縦に振らない。米国在住の実業家で政府顧問でもあるハシナ氏の息子、サジーブ・ワゼド氏が電話で再度説得を試みると、ようやく辞任に同意した。身の安全を確保するため、国外脱出に向けて急きょ、インド政府に一時的な入国許可を申請した。

ハシナ氏は国民向けに演説を録音したいと望んだが「そんな時間はありません。あと45分で群衆が押し寄せてきます」と拒まれ、レハナ氏と共に公邸近くの旧空港で軍用ヘリに乗り込んだ。シャハブッディン大統領の公邸に降り立って辞任の手続きをし、午後2時半ごろ、インドへ向けて飛び去った。午後4時すぎ、テレビ演説したザマン参謀長が首相辞任を明かし、野党らの協力を得て暫定政権を樹立すると表明した。【8月20日 日経】
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【強権に走ったハシナ前首相】
独立の英雄、建国の父であるムジブル・ラーマン初代大統領の娘でもあるハシナ前首相。政変の直接のきっかけは公務員採用特別枠の問題ですが、背景にはハシナ前首相が強権支配の性格を強めていたことがあります。

****民主化の先導役だったはずのハシナ前首相は、なぜ強権に走ったのか  墜ちた「鉄の女」、バングラデシュ強権首相の罪と罰(2)*****

最後の最後まで権力の座に固執した独裁者の半生は、波乱に満ちている。

シェイク・ハシナ氏は1947年、東パキスタン州の南西部に生まれた。71年の独立の英雄だった父ムジブル・ラーマン初代大統領が75年の軍事クーデターで暗殺され、母や当時10歳の弟を含む家族6人も巻き添えで失う。ハシナ氏はレハナ氏と共に当時の西ドイツに滞在していたため難を逃れ、インドで雌伏の亡命生活を送った。

81年に帰国し、父が創設したアワミ連盟(AL)の総裁に就任した。90年に民主化を勝ち取り、翌91年の総選挙に臨んだものの、カレダ・ジア氏が率いるバングラデシュ民族主義党(BNP)にまさかの敗北を喫する。ジア氏はかつて陸軍参謀長として父の暗殺を首謀し、後に自らも暗殺にたおれたジアウル・ラーマン元大統領の夫人だ。

ハシナ氏は次の96年総選挙で勝って初めて首相の座に就いたものの、しばらくは二大政党が交互に政権を担当する時期が続いた。しかし2009年の総選挙でALが勝利して以来、ハシナ氏は徹底した野党弾圧で権力を固め、長期政権を築き上げてきた。

「鉄の女」が墜(お)ちるきっかけは、独立に起因する公務員採用の特別枠だ。
長く最貧国に甘んじたバングラは、就労機会を広げるため、女性や少数民族、後進県の出身者などに特別枠を割り当てている。そのひとつが1971年の独立戦争の功労者(フリーダム・ファイター)の子供や孫に与える30%枠だ。

同国は縫製業などの労働集約型産業をけん引役に経済成長する半面、高学歴の若者の失業率は高止まりしたまま。功労者枠は不平等だとして、学生たちが撤廃を求めて街頭に繰り出した。

実は6年前にも、約5万人の学生が特別枠改革を求めて街頭デモに訴えたことがある。ハシナ氏は理解を示し、功労者枠の廃止を決めた。ところが今年6月5日、高等裁判所が「廃止は憲法違反」と判断したことで、抗議活動が再燃した。

ボタンの掛け違いがここで生じた。政府は控訴したのに、学生の矛先は司法でなく政府に向かった。違憲判決は政権が圧力をかけた結果、と考えたようだが、ハシナ氏は「学生の背後でBNPなどの野党が糸を引いている」と断じ、治安当局に武力鎮圧を命じた。

事態をさらに悪化させたのが、デモ参加者を「ラザカルの家族」と呼んだことだ。独立戦争の際、パキスタン軍側についた人々を指す、侮蔑的な言葉である。

力と言葉の暴力が、単なる抗議活動を政権打倒の運動へと一変させた。7月21日、最高裁判所が控訴審で特別枠の大幅縮小を命じたものの、後の祭りだった。

治安部隊とデモ隊の衝突で双方に多数の死傷者が出て、事態はさらにエスカレートした。国連が今月16日に公表した報告書によれば、7月中旬以降の一連の学生デモや政権崩壊後の混乱による死者数は約650人に達するという。(中略)

それにしても民主化の先導役だったはずの彼女は、なぜ強権に走ったのか。
「96年に最初に首相に就いた当初は、強権政治家の印象はなかった」と日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の村山真弓理事は振り返る。専横が目立つようになるのは、政情混乱下での2年間の暫定政権期を経て、再登板した2009年以降という。

憲法を改正し、野党時代には自らが実施を要求していた選挙管理内閣制度を廃止した。自由で公正な選挙を担保する制度がなくなったことで、政権交代が途絶え、強権化に歯止めがきかなくなった。

ジア氏を汚職で有罪に持ち込み、BNPを弱体化させたが、強権を振るったのは野党弾圧だけではなかった。父の神格化を熱心に進め、批判を許さない雰囲気を醸成した。メディアと並んで言論弾圧の主な舞台としたのは大学だ。ALの学生組織が幅を利かせ、批判すれば学生寮に入れないといった嫌がらせが日常茶飯に起きた。功労者枠を巡る抗議は、その恩恵を最も受けるAL支持派の学生への反発が根底にあった。

自身の主張に異を唱えるような側近も次々と排斥した。父の大統領時代に秘書官だった経済顧問のマシウル・ラーマン氏、同じく外交顧問のガシウール・リズビ氏といった古参幹部を次第に遠ざけた。インドのヒンズー紙は「彼女は次第に孤立していき、最後まで近しいアドバイザーであり続けたのは妹のレハナ氏だった」と評した。

「周りをイエスマンで固めたことによって、抗議する学生たちの主張や受け止め方が、首相には正確に伝わらなかったのではないか」と村山氏はみる。【8月20日 日経】
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【暫定政権の最初の課題は治安の回復】
ユヌス氏・暫定政権の最初の課題は治安の回復です。政変劇直後、前与党アワミ連盟(AL)幹部や子供を含むその家族への暴力・殺害、少数派のヒンズー教徒やその寺院などへの襲撃が相次ぎました。

****前与党関係者の殺害相次ぐ=デモ隊暴徒化、少数派に暴力も―バングラデシュ****
バングラデシュで5日のハシナ首相辞任以降、暴徒化したデモ隊がハシナ氏の率いた前与党アワミ連盟(AL)幹部や子供を含むその家族少なくとも29人を殺害した。地元紙ダッカ・トリビューンが7日、伝えた。宗教的少数派に対する暴力も相次ぎ、人権団体などが懸念を示している。

シャハブッディン大統領らは6日、ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏を首席顧問とする暫定政権発足を決定。政権の枠組みに関する協議が続く中、国民の反発が強いALをどう処遇するかも焦点となっているもようだ。

ユヌス氏は7日、デモ隊に向け「あらゆる暴力を控えてほしい」とする声明を出した。同氏は一時滞在先の欧州から8日帰国する見込み。

地元報道によると、少数派のヒンズー教徒やその寺院なども相次いで襲撃された。イスラム教が国教の同国でヒンズー教徒はALの支持者と見なされていることが背景にある。首都ダッカにある国際NGOの支部は「宗教的少数派と国の資産を守るため、直ちに措置を講じるよう当局に求める」との声明を出した。

ヒンズー教徒が多数派の隣国インドのジャイシャンカル外相は6日、議会の演説で「少数派に関する状況を注視している」と述べた。

AFP通信のまとめでは、反政府デモが激化した7月以降、デモ隊と治安部隊との衝突で450人以上が死亡した。【8月7日 時事】 
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市民からの報復を恐れる警察官が職務を停止して姿を消してしまったことで強盗なども頻発。

****バングラデシュ 首相辞任から1週間…治安悪化懸念****
バングラデシュで、学生らの反政府デモにより首相が辞任してから12日で1週間となりました。現地の日系企業は操業を再開する一方で、治安の悪化が懸念されています。(中略)

JETRO ダッカ事務所・安藤裕二所長
「現地の日本企業は既に活動を再開しています。ただ、政権崩壊後、街中から警察官の姿が消えまして、治安維持という面で非常に心配があります」

現地では、市民からの報復を恐れる警察官が職務を停止し、強盗が頻発しているといいます。

安藤裕二所長 「まず治安の安定を急いでもらうというのが日本企業一同が望んでいることですし、そのあと、行政機能の回復や許認可含めたビジネス活動の通常化というのが次に望まれています」

ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が率いる暫定政権は11日、警察官に職務に復帰するよう通達を出していて、治安の回復を急いでいます。【8月12日 日テレNEWS】
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その後、治安に関するニュースは目にしていませんので、事態は落ち着いてきたのでしょうか・・・。

【早期の民主的総選挙を実施することが暫定政権の責務ではあるが、かつてのバングラデシュ政治の繰り返しともなる懸念も】
治安が回復すれば、選挙という話にもなります。ユヌス氏も首席顧問に任命された際に「政府への信頼を早く取り戻すことが重要だ」として、新たな選挙の実施を求める声明を発表しています。【8月7日 毎日より】
“ユヌス氏は「数か月以内」に総選挙の実施を目指す考えを示した。”【8月19日 AFP】とも。

しかし、選挙実施時期はバングラデシュ政治の刷新にとって大きな影響があります。
選挙の早期実施は既存野党勢力による政権奪取ともなって、かつてのバングラデシュ政治の繰り返しともなる危険があります。その場合、イスラム主義が強まることも懸念されます。また、政権に復帰した野党が前与党への報復に走ることも想像されます。

これまでの既存政治勢力以外の政治の担い手を育てるためには時間が必要です。

そのあたりの事情もあって、これまでハシナ政権と良好な関係を保ってきたインド・モディ政権も、ユヌス氏とバングラデシュ暫定政権を歓迎し、暫定政権がなるべく長期に続くことを望む姿勢を見せています。

****民主主義と原理主義、岐路に立つバングラデシュ*****
(中略)
BNP(これまで与党ALに対抗してきた民族主義党)かJI(イスラム主義政党のイスラム協会)が与党になったら、バングラデシュは過激な原理主義国家に変貌し、テロが増加する恐れがある──バングラデシュ情勢へのインドメディアの注目度を見れば、そうした考えがインド国民の総意であることは明白だ。

だからこそ、2党の政権掌握を阻止することがインドにとって重要だと考える向きは多い。ならば、ユヌスを支持するのは、その上で最も効果的な方策かもしれない。

BNPとJIは3カ月以内の総選挙実施を求めているが、ユヌスは少なくとも3年間、暫定政権を続けることを主張している。この意見の相違は近い将来、両者の深刻な対立をもたらすかもしれない。

総選挙が3カ月以内に行われた場合、BNPとJIが過半数議席を獲得し、政権を樹立する可能性が高い。有権者のほうも、従来の2大政党であるハシナ政権時代の与党・アワミ連盟とBNP以外の政党を選ぶ覚悟ができていない。

一方、ユヌス率いる暫定政権が民主主義の回復に向けて総選挙実施を急ぐのでなく、法と秩序の回復を優先し、ファシスト体制とも呼ばれた政治制度の改革と不可欠である憲法修正に注力した場合、今回の抗議運動を主導した学生団体などの新たな勢力が団結し、BNPとJIに代わる選択肢となる新政党を結成する余裕が生まれるだろう。

ユヌスが必要な限り長く、暫定政権最高顧問でいられるようにすることが、BNPとJIによる政権の誕生を防ぐ唯一の道だ。【8月21日 NW】
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“ユヌスは少なくとも3年間、暫定政権を続けることを主張している”というのは前出の“「数か月以内」に総選挙の実施を目指す考え”と全く異なりますが、そこらの真偽はわかりません。暫定政権の基本性格からすれば早期の選挙実施ということになります。

****微妙な選挙実施次期  墜ちた「鉄の女」、バングラデシュ強権首相の罪と罰(3)****
(中略)学者や元外交官、元中央銀行総裁、退役軍人、学生代表など16人の顧問団から成る暫定政権は、混乱を収拾したうえで、できるだけ早く民主的な総選挙を実施する任を負う。

もともとバングラの有権者はAL(前与党)とBNP(対抗野党)の二大政党の支持者がそれぞれ3割ずつ、残る4割が他の少数政党か無党派層といわれてきた。

事実上の自宅軟禁を解かれたジア氏が党首のBNPは今後、党勢回復に躍起となるだろう。もし次の総選挙で政権を奪還すれば、またALへの報復に走る「負の連鎖」が再燃する疑念は拭えない。

ダッカ大のライルファー・ヤスミン教授は「国民はこれまで続いてきた二元政治をもはや受け入れない。かといって真の代替案を提示できる第三勢力が短期間で現れることも難しいだろう」と分析する。

「我々は第二の独立を果たした」とユヌス氏は言う。苦難に耐えて勝ち取ったパキスタンからの独立時に立ち返り、国づくりをやり直す決意表明だろう。ハシナ氏の罪と罰を教訓に、軍事独裁でもカリスマ独裁でもない、真の民主国家の実現は今度こそ可能か。

最大の援助国である日本、ハシナ体制に批判的だった米欧のみならず、強権国家と民主国家が混在するグローバルサウスの面々も、世界8位の人口大国の行く末を注視しているはずだ。。【8月20日 日経】
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【ロヒンギャ難民支援を表明するユヌス氏】
ユヌス氏について興味深いのは、首席顧問就任にあたりロヒンギャ難民についてその支援を明確にしていることです。今のバングラデシュ政治にとって中核的課題という訳でもないこの問題に敢えて言及したのは、ユヌス氏個人の強い関心のあらわれでしょうか。

****バングラ・ユヌス氏、ロヒンギャ難民と繊維産業への支援継続を公約****
バングラデシュ暫定政権の首席顧問に就任したムハマド・ユヌス氏は18日、初の主要政策演説を行い、ロヒンギャ難民と繊維産業への支援を継続する意向を示した。

ユヌス氏は、国内に身を寄せている100万人超のロヒンギャ難民について、「政府は引き続き支援する」と述べた。難民の多くは、2017年のミャンマー国軍による大規模弾圧を受け、バングラデシュに逃れてきた。

ユヌス氏は、「ロヒンギャへの人道支援と、安全と尊厳、全ての権利を保障した上での祖国ミャンマーへの最終的な帰還を実現させるためには、国際社会の持続的な努力が必要だ」とも指摘した。

バングラデシュでは約1か月にわたる学生主導の反政府デモの末、政権が転覆。その間、主要産業である繊維産業も大きな打撃を受け、競合国に輸出需要を奪われる形となった。

ユヌス氏は「わが国が中核的な役割を果たしている国際的な衣料供給網を寸断しようとする試みは容認しない」と語った。

バングラデシュは約3500の縫製工場を抱えており、繊維部門は国全体の年間輸出額550億ドル(約8兆円)の約85%を占めている。(後略)【8月19日 AFP】
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ロヒンギャ難民問題の改善が期待はされますが、暫定政権の時間的制約の中ではできることは限られるでしょう。
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