孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海近況  中国へ対抗するベトナム 親米姿勢、中国牽制を強めるフィリピン

2022-12-23 23:42:01 | 南シナ海
(アメリカ・フィリピンの共同水陸両用演習(2022年03月31日)【12月23日 Japan In-depth】)

【南シナ海で領土拡張に励むベトナム】
世間の関心には“波”があるので、ひところ連日のように報じられていた南シナ海における中国の進出についても、最近はあまりニュースを目にしなくなりましたが、状況が大きく変わった訳でもないでしょう。

南シナ海の海域は豊かな海洋資源があるとされ、海上交通の要衝でもあります。中国は南シナ海のほぼ全域を囲む「9段線」を独自に設定し、管轄権を主張。人工島を造り、軍事拠点化を進めてきました。

海域の南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)、東沙(プラタス)、中沙諸島には多数の島や岩礁があり、中国以外にも、台湾、マレーシア、ブルネイ、フィリピンなどの周辺国が領有権を主張しています。

中でもベトナムは中国に強硬な姿勢を取ってきました。これまでに激しい衝突を繰り返してきた歴史もあります。

1973年に当時の南ベトナムが南沙諸島の六つの島や岩礁を占領。74年に西沙諸島を中部ダナン市に編入し、軍艦を派遣。これに対して中国も軍艦を送り、両海軍が衝突。両国に多数の死傷者が出た末に、中国海軍が諸島全域を武力で制圧しました。

1988年には、南沙諸島のジョンソン南礁周辺で衝突が発生。中国海軍はフリゲート艦でベトナム海軍の輸送船を沈没させ、ベトナム側によると64人が犠牲になりました。

2012年にはベトナムが南沙、西沙諸島を自国領とする海洋法を成立させ、中国も両諸島を含む「三沙市」を設置するなど、駆け引きを繰り広げています。【12月23日 日系メディアより】

南シナ海では強硬姿勢が目立つベトナムですが、上記のような一触即発の状況、衝突の歴史があるだけに、ベトナムの対中国戦略は単純ではなく、強硬な対抗姿勢と同時に、過剰に、あるいは不用意に中国を刺激しないという抑制的な側面もあり、硬軟両面でコントロールしています。

そのベトナムは最近でも活発な動きを見せています。

****中国を相手に真っ向対決の姿勢...南シナ海、ベトナムの強気な「領土」拡張作戦****
<中国が急ピッチで人工島の造成を進めるなど、周辺国の領有権争いが過熱する南シナ海で、ベトナムの強気な姿勢がひときわ目を引いている>

領有権をめぐって周辺各国がにらみ合う南シナ海で、ベトナムが攻勢を強めている。

米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所の報告書によれば、ベトナムは2022年後半、中国などが領有権を主張するスプラトリー(南沙)諸島の複数の前哨基地で拡張工事を行い、新たに170ヘクタール分の埋め立てを完了。これで過去10年間に造成した「領土」は220ヘクタールに上る。

13~16年にかけてこの地域に計1300ヘクタールの人工島を建設した中国には及ばないとはいえ、ベトナムの強気の姿勢は南シナ海の領有権争いの新たな火種となるかもしれない。【12月20日 Newsweek】
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【中国の南シナ海進出を警戒するアメリカ】
一方、アメリカも中国の動きに警戒感を強めています。

米海軍第7艦隊は「航行の自由作戦」として、今年11月にミサイル巡洋艦チャンセラーズビルが南沙諸島付近を航行したと発表しました。

アメリカは声明で、この「航行の自由作戦」が国際法に沿ったものだと強調。中国が南シナ海で不法な海洋権益の主張をしているとし、「航行や飛行の自由、自由貿易、通商、沿岸諸国の経済的利益など、海上の自由への深刻な脅威となっている」と批判しています。【12月23日 日系メディアより】

また、11月末にフィリピンを訪問したハリス副大統領は、中国が人工島を建設し、軍事拠点化を進めてきた南沙(スプラトリー)諸島に近いパラワン島を訪問して中国の動きを牽制しています。

****米・ハリス副大統領が南シナ海のフィリピン・パラワン島を訪問 中国をけん制****
アメリカのハリス副大統領は22日、南シナ海に面するフィリピンのパラワン島を訪問し、国際的なルールを守る必要性を強調して海洋進出を強める中国をけん制しました。 

南シナ海をめぐっては、中国が人工島を造るなどして軍事拠点化を進めていて、フィリピンなど沿岸国と領有権を争っています。 

こうした中、アメリカのハリス副大統領は南シナ海に面するフィリピンのパラワン島で沿岸警備隊などを視察し、覇権主義的な動きを強める中国をけん制しました。 

ハリス副大統領「我々は違法かつ無責任な行動に対して同盟国などと連携を続ける。国際ルールに基づく秩序がどこかで脅かされれば、あらゆる場所が脅かされることにつながる」 

ハリス副大統領は、海上監視や違法漁業を取り締まるフィリピンの海洋当局に対し、日本円で10億円あまりの追加支援も発表しました。【11月23日 日テレNEWS】
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【アメリカに寄り添い、中国を牽制する姿勢を示すフィリピン・マルコス大統領】
万事について明確な姿勢がないとも言えるフィリピンのマルコス大統領はアメリカと中国の対立のはざまでバランスをとる姿勢でしたが、中国の南シナ海進出が止まない状況、また、中国の強引な姿勢に、中国への警戒感を強めている様子です。

そうした状況で「米国側は(6月に就任したフェルディナンド・マルコス大統領が)非常に親米だと予測し、良い機会であるとして積極的に乗り出した」(元駐フィリピン大使の石川和秀氏)【11月24日 読売】とも。ハリス副大統領のフィリピン訪問はその流れの中で行われました。

****南シナ海でわが物顔の中国を警戒、米比が防衛協力拡大で合意****
<フィリピンが実効支配するパグアサ島の近くで、フィリピン海軍が海面に漂う不審な金属片を回収したが、中国海警局の船に強奪された。翌日、ハリス米副大統領が到着した>

11月20日、フィリピンと中国が領有権を争っている南シナ海の島の沖合で、両国の軍による小競り合いが勃発した。翌21日には、カマラ・ハリス米副大統領が、アジアで最も古いアメリカの同盟国であるフィリピンを訪問し、防衛協力を拡大することで合意した。

フィリピン海軍のアルベルト・カルロス中将は、中国軍との一件について声明を発表。スプラトリー(南沙)諸島のうち、フィリピンが実効支配するパグアサ島の近くで、フィリピン海軍が海面に漂う不審な金属片を回収して持ち帰ろうとしたところ、中国海警局の船がそれを妨害して浮遊物を強奪したと主張した。

カルロスによれば、フィリピン海軍は20日、パグアサ島(中国名は中業島)から約800メートル沖合の海面に浮遊物があるのを発見。回収するためにゴムボートにロープでくくりつけて、島まで曳航していた。

すると「5203」の番号が記された中国海警局の船がゴムボートに接近してきて、「2回にわたって進路を妨害」。中国側もゴムボートを出してフィリピン側のボートに近づくと、「ロープを切って強引に浮遊物を奪い去った」。カルロスによれば、この件で怪我人は報告されていない。

浮遊物は中国が発射したロケットの残骸か
フィリピン軍西部司令部のシェリル・ティンドン報道官は、海面に浮遊していた金属片について、最近フィリピンの領海で相次いで発見された中国製ロケットの残骸によく似ていると述べた。(中略)

中国は南シナ海で、いわゆる「九段線」内の全ての島や礁、砂堆の領有権を主張している。オランダのハーグにある国際仲裁裁判所は2016年、この九段線には法的根拠がなく無効だと認定した。

フィリピンと中国が争ったこの裁判の判決を受けて、アメリカをはじめとする複数の国がフィリピンへの支持を表明したが、中国は判決を全面的に拒否した。

昨年11月には、フィリピンが実効支配しているセカンド・トーマス礁に向かう補給線を中国海警局の船舶が妨害する問題も発生した。

フィリピン政府はこれまでのところ、国際仲裁裁判所による2016年の判決を中国側に守らせることができておらず、中国側に繰り返し抗議を行っているものの、ほとんど成果は出ていない。フィリピン外務省は今回の一件について、再調査を行った上で次なる措置を検討すると述べた。

これとは別にフィリピン・デイリー・インクワイアラー紙は、パグアサ島の住民たちが今回の浮遊物強奪問題の数時間前、中国が占拠している近くのスービ礁から「大砲のような」大きな衝撃音を何度か聞いたと報告したと伝えた。

中国は、フィリピンでサモラと呼ばれるスービ(中国名:渚碧)礁を含むスプラトリー(南沙)諸島の3つの礁を完全に軍事化している。(中略)

相互防衛条約の下での協力を改めて確認
こうしたなか、ハリス米副大統領が20日夜にフィリピンに到着した。ハリスはジョー・バイデン米政権の一員としてフィリピンを訪問した最高レベルの米政府高官となり、このことは、6月末にフィリピン大統領に就任したばかりのフェルディナンド・マルコスJr.新大統領が、前任者のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領よりもアメリカとの同盟関係を重視していることを示している。

マルコスは、17日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪問していたタイのバンコクで、中国の習近平国家主席と初会談。21日にはハリスと会談を行い、「アメリカを含まないフィリピンの未来はないと思う」と述べた。

この会談に先立ち、ハリスはフィリピンに対して、1951年に締結された米比相互防衛条約の下での協力を改めて確認した。ドナルド・トランプ米政権以降、南シナ海でのフィリピンに対する攻撃も、米比相互防衛条約の適用対象となっている。

ハリスは「南シナ海に関する国際ルールと規範を守るため、我々はフィリピンと共にある」と述べた。「南シナ海において、フィリピン軍や公用船舶、航空機が武力攻撃を受けた場合、アメリカの相互防衛の約束が発動されることになる。これがアメリカの揺るぎない決意だ」(中略)

ハリスの今回の訪問では、貿易やサイバーセキュリティをはじめとする数多くの分野で二国間協力の強化が期待されている。フィリピンにおける米軍の活動拠点拡大についても前向きだ。

アメリカ軍は現在、フィリピン国内の5つの拠点が使用可能だ。フィリピン軍のバルトロメ・バカロ参謀総長は先週、アメリカがパラワン島を含めてさらに5カ所を増やすことを提案してきたと述べていた。

米ホワイトハウスの概要報告書によれば、ハリスは既存の5つの拠点について、軍事インフラや備蓄施設などの新設・改修プロジェクト(計21件)に8200万ドルを投じる予定。同報告書は、これにより「アメリカとフィリピンが恒久的な安全保障インフラを築いて長期的な近代化を推し進め、信頼できる相互防衛態勢を構築し、人道支援および災害救助能力を維持し、同盟を強化する」ことができるとしている。【11月22日 Newsweek】
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2016年の国際仲裁裁判所判断については、アメリカ嫌いのドゥテルテ前大統領がこれを事実上棚上げし、中国との関係を強化してきました。それだけに、マルコス大統領の中国への対応が注目されています。

一方、フィリピンと中国の間で進められてきた南シナ海の資源の共同開発を巡る協議は行き詰まっており、マルコス大統領は“交渉以外の方法”の可能性にも言及しています。

****南シナ海の資源共同開発、フィリピン大統領「中国政府と交渉以外の方法あるかも」****
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は1日、南シナ海の資源の共同開発を巡る中国との協議が行き詰まっていることについて、中国との対話以外の方法を探る意向を明らかにした。中国に対し、自国の権益を譲らない姿勢を示したとみられるが、具体的な方法については言及しなかった。

両国は2018年、南シナ海で石油・天然ガスの共同探査・開発を行うことで合意し、協議を進めていたが、今年6月、ロドリゴ・ドゥテルテ前政権が協議の打ち切りを発表。マルコス政権は協議を再開する意向を示したが、中比のどちらの法律に基づいて開発を進めるかが問題となっていた。

マルコス氏は、南シナ海における中国の領有権主張が、「共同開発の障害であり、解決は難しい。中国政府との交渉以外の方法があるかもしれない」と述べた。【12月1日 読売】
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上記のように、フィリピン・マルコス政権は中国への厳しい姿勢を見せ始めています。

****フィリピンが懸念表明、中国が南沙4カ所埋め立てと報道****
フィリピン外務省は21日、中国が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のエルダド礁やランキアム礁など4カ所で埋め立て作業を行っているとの報道について、深刻な懸念を表明した。

中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が2002年に出した、領有権争いを悪化させる行動の自制を定めた「南シナ海行動宣言」に違反すると批判した。

ブルームバーグは、西側の当局者の話として、中国の海上民兵がエルダド礁やランキアム礁などの埋め立てを行っていると報じていた。中国の在フィリピン大使館はこの報道を「フェイク(偽)ニュース」と一蹴。

中国外務省の毛寧報道官は定例記者会見で、領有権を主張する国や地域の間で、岩礁や無人島を開発しないことを含む「厳粛な合意」が成立していると改めて指摘。

「中国は常にこの合意を厳格に守ってきた。現在、中国とフィリピンの関係は発展の良い機運があり、双方は友好的な協議を通じて海洋問題に適切な対処を続ける見通し」と述べた。【12月22日 ロイター】
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****比、南シナ海での軍事プレゼンス強化へ 中国の「活動」受け****
フィリピン国防省は22日、自国軍に対し、係争海域となっている南シナ海の駐屯地に対する「脅威」があるとして、軍事プレゼンスを強化するよう命じた。前日には近くの海域での中国の「活動」が報じられていた。

米メディアは20日、中国政府が南沙諸島(スプラトリー諸島)で埋め立てを行い、新たな土地が出現していると報じた。

国防省は、「西フィリピン海(南シナ海のフィリピン名)のいかなる侵犯も同海域内の岩礁の埋め立ても、 パグアサ島(中国名:中業島)の安全保障に対する脅威である」との見解を示した。

同省は、軍に対して「パグアサ島近くで確認された中国の活動を受け、西フィリピン海におけるプレゼンスを強化する」よう指示したと明らかにした。

ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領は中国批判を避けてきたが、現職のフェルディナンド・マルコス大統領は中国の領海侵犯に対して強硬姿勢を貫いている。 【12月22日 AFP】AFPBB News
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ただ、“マルコス大統領は中国の領海侵犯に対して強硬姿勢を貫いている”と言えるかどうか・・・。前述のように万事について柔軟というか、信念を持って事に当たるタイプの政治家ではないようですから、中国側の今後の恫喝あるいは懐柔次第では、また流れが変わることもあるかも。来年1月にはマルコス大統領が訪中します。

ここのところは、中国側もフィリピンへの圧力を強めているようです。

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フィリピンはこのところEEZ内などでの中国海警局船舶の活動が活発化しているほか、漁船の集結などでフィリピンへの圧力を強めていることに警戒感を強めている。

1月に予定されるマルコス大統領の就任後初の訪中では習近平国家主席との首脳会談が予定され南シナ海問題の協議は不可避とされているが、訪中を前にフィリピン側の強硬姿勢を牽制するとの狙いが中国側にあるとの見方が有力だ。

経済的に中国への依存度が高いフィリピンが南シナ海問題でどこまで持論を主張できるか、マルコス大統領の手腕が問われている。【12月23日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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中国との“ウィンウィン”の関係に進むアメリカ・トランプ政権 南シナ海問題もスルー 日本の戦略は?

2017-03-23 21:37:09 | 南シナ海

(中国・北京の人民大会堂で握手する習近平国家主席(右)と米国のレックス・ティラーソン国務長官(2017年3月19日撮影)【3月19日 AFP】)

中国海洋戦略にとって残された重要課題:スカボロー礁
領有権を主張する周辺国や日本・アメリカの批判にもかかわらず南シナ海への進出・軍事拠点化を進める中国ですが、フィリピン沿岸の南沙諸島・スカボロー礁の状況が焦点となっています。

****最後に残された焦点、スカボロー*****
南シナ海での軍事的優勢を手にする海洋戦略を推し進める中国は、西沙諸島を手に入れ、南沙諸島での優勢的立場も手にしつつある。そして、スカボロー礁に対する軍事的コントロールの確保が、中国海洋戦略にとって残された重要課題となっている。
 
フィリピン沿岸から230キロメートルほど沖合に浮かぶスカボロー礁は、マニラから直線距離で350キロメートル程度しか離れていない。そして、アメリカ海軍がフィリピンに舞い戻ってきた場合に主要拠点となるスービック海軍基地からも270キロメートル程度しか離れていない戦略的要地である。
 
スカボロー礁には1990年代末からフィリピン守備隊が陣取っていたが、2012年に人民解放軍海洋戦力がフィリピン守備隊を圧迫・排除して以来、中国が実効支配を続けている。ただし、フィリピンと台湾もスカボロー礁の領有権を主張しており、いまだに決着していない。

スカボロー礁もいよいよ軍事拠点化
スカボロー礁より550〜700キロメートルほど南西には南沙諸島の島嶼環礁が点在しており、そのうちの7つの環礁に中国が人工島を建設し軍事拠点化している。
 
オバマ政権は、そうした中国による人工島建設作業を半ば見過ごした形になってしまっていたが、強力な軍事施設の誕生を目にするや、ようやく(遠慮がちにではあるが)中国に対して警告を発し始めた。
 
とりわけスカボロー礁に関しては、「中国がスカボロー礁に人工島や軍事施設を建設することは、アメリカにとってレッドラインを越えることを意味する」と強い警告を発した。
 
警告を発した2016年夏の段階では、中国によるスカボロー礁の埋め立て作業や人工島建設作業などはまだ実施されていなかった。その後もしばらくの間、スカボロー礁の本格的埋め立て作業は確認されていなかった。
 
だが、今年に入ってフィリピン政府が「中国がスカボロー礁を軍事拠点化しようとする兆候を確認した」と警鐘を鳴らし始めた。【3月23日 北村淳氏 JB Press】
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トランプ大統領に先んじて対中蜜月に向かうフィリピン・ドゥテルテ大統領
ただ、直接の当事国でもあるフィリピン・ドゥテルテ大統領は、中国との関係強化を進めており、スカボロー礁についても「われわれは中国を止めることはできない」などと、自国主張をあきらめたような発言もしています。

****南シナ海問題、「中国を止められない」ドゥテルテ比大統領****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は19日、中国はあまりに強大であり、フィリピンや中国が領有権を争う南シナ海のスカボロー礁で中国が進めている構造物建設を止めることはできないと述べた。
 
2012年から中国が実効支配するスカボロー礁に関しては、西沙諸島(英語名:パラセル諸島)の永興島(英語名:ウッディー島)に中国が設立した三沙市の市長が、環境モニタリング基地を建設すると語ったと伝えられている。
この報道についてミャンマー訪問を前に記者会見で尋ねられたドゥテルテ大統領は「われわれは中国を止めることはできない」と述べた。
 
さらに同大統領は「私にどうしろというのか。中国に宣戦布告をしろとでも。それはできない。(中国と交戦すれば)わが国は明日にも全ての軍隊と警察を失い、破壊された国となるだろう」と語り、中国に対しては「(問題の)海域を封鎖せず、わが国の沿岸警備隊に干渉しないよう」求めると語った。
 
またドゥテルテ大統領は、明白なフィリピン領だと国連が認めている、ルソン島東部沖のベンハム隆起近辺で中国の調査船が目撃され懸念が生じていることについてもこれを一蹴し、中国への不満は「とるに足らないことだ」と表現した。【3月19日 AFP】
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“正直”“本音”の大統領発言を周辺があとからフォロー・修正するというのはアメリカ・トランプ政権と同じですが、この発言に関しても、フィリピンのアベリヤ大統領報道官は「大統領はフィリピンがスカボロー礁周辺の領有権、探査権を放棄しないと繰り返し強調している。フィリピン国民の利益を守るため、しかるべき時に相応な行動をとる」、「ドゥテルテ大統領は主権を放棄することはない」と表明しています。【3月23日 Record Chinaより】

アメリカ・トランプ政権の本気度を試した?「環境観測所」問題
上記記事にもあるように、今月上旬、中国が「三沙市」と呼ぶ地域の市長を務める肖傑氏は、中国がスカボロー礁などの多くの島に環境測定所を設置するための準備作業を年内に開始すると発言したことが報じられています。

この報道に関し中国は3月22日、“外務省の華春瑩報道官は、定例記者会見で「中国は南シナ海の海洋環境保護を重視している。このことは確かだ」とする一方、「関係機関によれば、スカボロー礁に環境測定所を建設するとの報道は誤りだ」と言明。「同礁に関してわが国の立場は一貫しており明確だ。わが国はフィリピンとの関係を重視している」と述べた。”【3月22日 ロイター】と、報道を否定しています。

前出北村氏は、ティラーソン国務長官訪中直前になされた「環境観測所」発言について、中国の進出を阻止しようとするアメリカ・トランプ政権の本気度を試したのでは?とも指摘しています。

****米国の“本気度”を試した****
トランプ政権は、中国による南シナ海の支配権獲得行動に強い危機感を表明している。ティラーソン国務長官は、「中国が南シナ海をコントロールすることは何としてでも阻止しなければならない。そのためには中国艦船が人工島などに接近するのを阻止する場合もあり得る」といった趣旨の強固な決意を語った。
 
そのティラーソン国務長官が訪中する直前、三沙市市長がスカボロー礁を含む6カ所の島嶼環礁に「環境観測所」を建設することを公表した(中略)。

「環境観測所」建設の準備作業は2017年の三沙市政府にとって最優先事項であり、港湾施設をはじめとするインフラも併設するという。
 
これまで中国が誕生させてきた人工島の建設経緯から判断するならば、観測所に併設される港湾施設や航空施設などの各種インフラ設備は、いずれも軍事的使用を前提に建設され、観測所は同時に軍事基地となることは必至である。この種の施設を建設するには、スカボロー礁の埋め立て拡張作業は不可欠と考えられている。
 
中国に対して弱腰であったオバマ政権ですら、「スカボロー礁の軍事基地化を開始することは、すなわちレッドラインを踏み越えたものとみなす」と宣言していた。

そして、トランプ政権が誕生するや、外交の責任者であるティラーソン国務長官は「中国による南シナ海支配の企ては、中国艦船を封じ込める軍事作戦(ブロケード)を実施してでも阻止する」といった強硬な方針を公言した。
 
そのティラーソン国務長官が訪中する直前に、中国側はスカボロー礁に環境観測所を建設する計画を発表したのである。まさにトランプ政権の南シナ海問題に対する“本気度”を試した動きということができよう。【前出 3月23日 北村淳氏 JB Press】
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【“ウィンウィン”の関係が強調されたティラーソン米国務長官の訪中
で、そのティラーソン米国務長官の訪中ですが、南シナ海に関する厳しいやり取りがあったようには報じられておらず、二国間の関係強化のために協力していくとする米中双方の姿勢がアピールされています。(報道に出ない部分についてはわかりませんが。)下記記事を見ると、むしろ中国から南シナ海問題に介入しないようクギを刺されたようにも。

****中国の習近平氏、台湾や南シナ海で米国牽制 米国務長官と会談「互いの核心的利益を尊重****
中国の習近平国家主席は19日、ティラーソン米国務長官と北京の人民大会堂で会談した。中国外務省によると、ティラーソン氏は、トランプ米大統領が早期の米中首脳会談開催と、自身の中国訪問に期待していると伝えた。習氏はトランプ氏の訪中を歓迎すると応じた。(中略)
 
一方、中国側の発表によると、習氏は「中米両国の共通の利益は意見の相違よりはるかに大きい。協力こそが両国の唯一の正しい選択だ」と強調した。
 
習氏はまた、「中米関係は重要なチャンスに直面している」とし、「私とトランプ氏は両国が良好な協力パートナーになれると考えている」と指摘。

そのために「敏感な問題を適切に処理・コントロール」して、「互いの核心的利益と重大な関心を尊重しなければならない」と述べ、米国が台湾や南シナ海問題に介入しないようクギを刺した。【3月19日 産経】
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“レッドラインを踏み越えた”かどうか・・・という時期にしては、ずいぶん友好的な感も。

こうしたティラーソン米国務長官の対応については、アメリカ国内にも「中国に外交的勝利をもたらした」との批判もあるようですが、中国側は「これは誰が勝利したという話ではない」と余裕の対応。
ということは、中国側にとって非常に満足できる内容だった・・・ということでもあります。

****中国外交部「勝ち負けではない」、「米国との外交で勝利」報道受け****
ティラーソン氏は先週の訪中で、米中両国は衝突・対抗せず、相互尊重および協力してウィンウィンにしたいと2度も強調し注目を集めた。これを一部のメディアが「中国の外交的勝利であり、中国の核心利益を保証するものだ」などと報じ、米国の一部の学者と元政府高官から批判の声が上がっていた。

華報道官は「ティラーソン氏が訪中した際、中国と米国は衝突・対抗せず、相互尊重および協力してウィンウィンにするという精神にのっとり、新しいスタートライン上にある両国関係を発展させることで共通認識に達した。これは誰が勝利したという話ではなく、2つの重要な大国としての正しい付き合い方だ」と主張。

「中国は米国側とともに、意思疎通を強め、理解を深め、相互信頼を増し、対立点を適切に処理し、両国間、地域レベル、国際レベルでの協力を拡大し、両国関係が新しいスタートラインにおいてより大きな進展を遂げることを期待している」と述べた。【3月23日 Record China】
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アメリカは、より直接的脅威となる北朝鮮対応で中国の協力が必要
このあたりの背景について、前出北村氏は、アメリカにとって南シナ海問題より直接の脅威となる北朝鮮の核・ミサイル問題が表面化したことで、中国の協力を必要とするアメリカ側の事情を指摘しています。

****米国務長官はなぜ南シナ海に言及しなかったのか****
南シナ海問題は後回しに
中国を訪問したティラーソン国務長官がどの程度南シナ海問題(とりわけスカボロー礁に関する中国の動き)を牽制するのか、アメリカ海軍関係者は大いなる関心を持っていた。
 
ところが、ここに来て急遽、アメリカにとって中国との関係悪化を食いとどめなければならない事態が発生してきた。すなわち、北朝鮮のアメリカに対する脅威度が大きくレベルアップしたのだ。
 
軍事力の行使を含めて「あらゆるオプション」を考えているトランプ政権としては、中国の北朝鮮に対する影響力を最大限活用せざるを得ない。要するに「あらゆるオプション」には、いわゆる斬首作戦をはじめとする軍事攻撃に限らず、「中国を当てにする」というオプションも含まれているのだ。
 
そのためティラーソン長官としては、この時期に中国側とギクシャクするのは得策ではないと判断したためか、北京での会談では南シナ海問題に言及することはなかった。
 
いくら中国が南シナ海をコントロールしてしまったとしても、それによってアメリカに直接的な軍事的脅威や経済的損失が生ずるわけではない。

ところが北朝鮮の核弾道ミサイルはアメリカ(本土はともかく、日本やグアムのアメリカ軍基地)に直接危害を加えかねない。したがって、南シナ海問題を後回しにして北朝鮮問題を片付けるのが先決という論理が現れるのは当然であろう。

日本は腹をくくった戦略が必要
アメリカが強硬な態度に出られないのは、中国がすでに南シナ海での軍事的優勢を確保しつつあり、その状況を覆せないという事情もある。
 
いくらトランプ政権が「スカボロー礁はレッドライン」と警告し、ティラーソン長官のように「南シナ海でのこれ以上の中国海軍の動きは阻止する」と言ったところで、現実的には現在のレベルのアメリカ海洋戦力では虚勢に過ぎない。トランプ政権が着手する350隻海軍が誕生してもまだ戦力不足であると指摘する海軍戦略家も少なくない。

そのため、アメリカ海軍が南シナ海で中国の軍事的支配を封じ込めようとしても、それが実行できるのは5年あるいは10年先になることは必至である(そのときは南シナ海は完全に“中国の海”になっているかもしれない)。
 
いずれにせよ、老獪な中国、そして怪しげな中国─北朝鮮関係によってアメリカの外交軍事政策が翻弄されているのは間違いなく、アメリカが強硬な南シナ海牽制行動をとることは難しい。その結果、中国による南シナ海のコントロールはますます優勢になるであろう。
 
南シナ海の海上航路帯は“日本の生命線”である。そうである以上、日本は“中国の圧倒的優勢”を前提にした戦略を打ち立てなければならない。【前出 3月23日 北村淳氏 JB Press】
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はしごをはずされる中国仮想敵国論
北村氏の言う“中国の圧倒的優勢を前提にした戦略”が何を指すのかはよく知りませんが、南シナ海を含めアジアでの中国の存在感・影響力が強まることは間違いなく、アメリカ・トランプ政権は、通商問題などで中国とジャブの応酬をすることはあっても、基本的には中国と大きく対立することはなく、互いの利益のための“取引”でアジアにおける中国の支配を容認する方向に進むであろうと予想されます。

****米中が急接近、首脳会談で協調へ―安倍首相の中国仮想敵国論、空回り****
米国のトランプ政権の中国との急接近が目立っている。米中外交筋によると、中国の習近平国家主席は4月上旬に訪米し、トランプ米大統領とフロリダのトランプ氏の別荘で会談する。日本の外交関係者は日本の頭ごなしに、「ディール(取引)」によって物事が決められるのではないか、と疑心暗鬼にかられている。(中略)

首脳会談で習主席は、トランプ大統領が主導する「米国経済拡大」への協力策を伝える。具体的には(1)インフラ増強へ投資拡大、(2)米国における雇用創出への中国の寄与、(3)対米輸出の自主規制―などとなる。同筋によると、会談後に中国の製造産業の対米投資と鉄鋼業などの輸出自主規制が発表される見込みという。

トランプ大統領、習主席ともに、米中関係が正常に機能していることや、複雑化する米中間を取り巻く懸念を共に管理していくことが可能であることを世界に誇示することを狙っている。

中国には、共産党大会を今秋に控えて、より早い時期に、対米関係を安定させたい意向がある。一方、「米国ファースト」を掲げ経済再建を主導するトランプ政権としても、経済面で中国からの譲歩を引き出したい狙いがある。

米中外交筋によると、ミサイル実験や金正男氏暗殺で緊迫化している北朝鮮情勢も主要テーマとなり、新しい米中協力の道を探る。米中間の共通の目標に向けた新機軸が打ち出される可能性もある。(中略)

トランプ氏は当初台湾を中国の一部とみなす「一つの中国」政策見直しを示唆していたが、これをあっさり撤回。かつて強く非難した対中貿易赤字、人民元や南シナ海の問題でも、最近は発言を控えている。

一方、安倍政権のパフォーマンス優先の外交安全保障政策手法は空回り気味だ。日朝関係は在任中に拉致問題を解決すると豪語したが、全く進展していない。北方領土交渉も進んでいないことが、昨年12月のプーチン大統領との日露首脳会談で露呈した。

中国に関しては、外交的な努力が希薄で、厳しい状態が続いている。ある閣僚経験者は「日本の本来の役割は、本来なら米中の間に入ってトランプ大統領の一国保護主義的な政策を抑えること。安倍首相がその役回りを担うチャンスだったが、米中首脳会談開催で出番はなくなった」と指摘。

それでも「世界の貿易戦争回避へ、TPP挫折の後、本来は東アジア地域包括的経済連携(RCEP=日中韓インド・東南アジアなど15カ国で構成)を主導すべきだ」と力説する。

◆価値観の違う国に行き、摩擦を解消すべき
安倍首相ほど外遊した首相はいない。第2次政権以降で外遊51回。訪問国・地域は東南アジアや欧米を中心に延べ70に上る。国内向け露出度が上がり、支持率アップには効果的だが、行った先々で巨額の援助金を約束しており、総額は数1兆円以上に達するとの見方もある。価値観の同じところを回ってカネをばら撒くだけでは効果は薄い。

外交とは価値観の違う国に行き、友好促進を働きかけ、摩擦を解消し説得することである。巨額の財政赤字にあえぎ、貧困家庭が急増する中、「国内に目をもっと向けるべきだ」との声も高まっている。

自民党幹事長を務めた古賀誠氏はTBS番組で、「日米同盟が外交の基軸であることは間違いないが、あくまでも手段であって、これがアジア太平洋の平和、世界の平和にどういう役割を果たすかが大事だ。全方位外交が望まれる」と戒めている。

丹羽宇一郎・元駐中国大使・日中友好協会会長は、中国を仮想敵国視して軍備増強を志向する安倍政権に対し、「日中は引っ越しのできない隣国で、歴史・文化も密接に絡んでおり、最大の貿易投資相手国であり、仮想敵国論は愚の骨頂だ」と強調、友好関係の強化を訴えている。今こそ大平正芳首相が唱えた軍事だけでない外交政策による「総合安全保障」展開が必要だろう。【3月23日 Record China】
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トランプ大統領は、中国政府へ民主的対応を求めた多数の若者を戦車で踏み殺すなどした天安門事件を「暴動」とする中国共産党の見解を支持しているように、人権・民主化といった価値観で中国と対立するようなハードルはありません。
となると、あとは“取引”で相互の利益を確定するだけです。

そうした「自国第一」のアメリカ・トランプ政権を後ろ盾にした中国仮想敵国論は、はしごをはずされるだけでしょう。日本単独で中国に軍事的に立ち向かうのはフィリピン・ドゥテルテ大統領の言うように「中国に宣戦布告をしろとでも言うのか?」という話にもなります。

であるなら日本は、中国との価値観の違いは前提としつつも、“引っ越しのできない隣国で、歴史・文化も密接に絡んでおり、最大の貿易投資相手国”である中国とどのように向き合っていくか、相手の懐に飛び込んで急所をつかむような“腹をくくった戦略”が必要とされます。
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南シナ海問題  埋まらない米中間の溝 関係国の動向 「中華思想」のくびき

2016-06-07 22:08:44 | 南シナ海

【6月5日 産経】

中国批判を強めるアメリカ 有効な手立てが見いだせない苛立ちも
北京で開催されていた米中戦略・経済対話は、北朝鮮や温暖化の問題では一定の合意が得られたものの、南シナ海問題での溝は埋まりませんでした。

****南シナ海で溝埋まらず=米中戦略・経済対話が閉幕****
米中両政府が安全保障問題や経済課題を話し合う8回目の戦略・経済対話は7日、北京での2日間の討議を終えて閉幕した。

共同記者会見に臨んだケリー米国務長官は、南シナ海問題でフィリピンが提起した仲裁裁判を念頭に「法の支配の下での平和的な解決を訴えた」と強調。これに対し、楊潔※(※竹カンムリに褫のツクリ)国務委員は「仲裁裁判を受け入れないという立場は変わらない」と歩み寄りを見せず、双方の主張の溝は埋まらなかった。
 
ケリー長官は戦略対話で、中国が南シナ海で進める軍事拠点化を念頭に、「現状を変更する一方的な行動」への懸念を伝えたと明らかにした。

一方、楊国務委員は「中国には海洋主権を守る権利がある。南シナ海での航行・飛行の自由を尊重する」と、これまでの主張を繰り返した上で、米国に領有権問題で中立的な立場を維持するよう求め、「介入」をけん制した。(後略)【6月7日 時事】 
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南シナ海問題では、3,4日にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議でも、米中間で同様の議論がなされています。

****南シナ海問題で米中応酬=「孤立化」警告に中国反発―アジア安保会議2日目****
シンガポールで開催されているアジア安全保障会議は2日目の4日、カーター米国防長官による演説が行われた。中国による南シナ海での軍事化の動きに「孤立化を招く」と警告した演説内容に対し、中国側は早速「誤っている」と反発。中国は積極的な2国間会談も繰り広げて各国の取り込みを図っており、米中が応酬する構図となっている。
 
演説でカーター長官は、南シナ海での中国の動きを「自ら孤立を招く万里の長城を築きかねない」と批判。ただ、この文言は5月下旬に海軍士官学校で行った訓示内容と同じ。近く判断が示される見通しの国際仲裁手続きについても、結果に従うよう直接中国には求めず、間近に控えた米中戦略・経済対話をにらみ、むしろ批判のトーンを抑制する姿勢が目立った。
 
しかし、演説後の質疑応答では対応は一転。フィリピン・ルソン島に近いスカボロー礁で中国が拠点を構築した場合の対応について問われると「米国や各国は行動を起こすことになる」と強く警告。仲裁手続きについても「中国は判断に従う必要がある」と強調した。
 
これに対し中国側出席者は、カーター氏への質疑応答で「人工島は他国にもあるのになぜ中国だけ標的にされるのか」と不満を表明。中央軍事委国際軍事協力弁公室の関友飛主任(海軍少将)も中国メディアに対し、「孤立化」発言を「中国を孤立させ、地域国家にもそう仕向けようとする目的がある。こうした視点は誤っている」と批判した。【6月4日 時事】 
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アメリカが、中国によるスカボロー礁の埋め立て・軍事化が行われた場合は「行動を起こすことになる」と強い警告を行っているのは、南シナ海における中国の防空識別圏設定につながるためです。

****スカボロー礁埋め立てなら「行動起こす」米明言 アジア安保会議****
シンガポールで開催中のアジア安全保障会議では、南シナ海の軍事拠点化を進める中国に対し、米国が関係国を牽引(けんいん)する形で懸念が表明された。不快感を強める中国は、会議と並行して2国間会談を積極的に展開し、“分断工作”を加速させている。

「米国と周辺国は行動を起こすことになる」。カーター氏は、中国が南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島に続き、スカボロー礁(同・黄岩島)の埋め立てに着手した場合の対応を問われ、こう断言した。

中国は2012年、スカボロー礁からフィリピンを追い出した。同礁は比ルソン島から約200キロに位置し、米軍が再駐留を検討しているとされる同島のスービック海軍基地にも近い。

中国はスプラトリー諸島とパラセル(同・西沙)諸島で飛行場を建設し、ミサイルやレーダーの配備を進めている。両諸島に加えてスカボロー礁が軍事拠点化されれば、中国がこの3カ所を結ぶ一帯に防空識別圏を設定する恐れがあり、日米や周辺国は強く警戒している。

これに対し、中国の軍関係者は、「他国も埋め立てをしている」とし、中国への非難集中に不満を述べた。

だがカーター氏は、中国の最近の行動がはるかに過剰であると指摘して反論を退け、各国と連携した「法の支配」の圧力を強めた。(後略)【6月5日 産経】
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アメリカから批判にもかかわらず、「南シナ海の島しょは古来、中国の領土だ」とする中国は同海域の埋め立て・軍事化を進めています。

カーター国防長官の発言に見られるようなアメリカの強い中国批判は、“中国を制止する有効な手立てが見いだせない”という現実の裏返しでもあると指摘されています。

****<アジア安保会議>米中対立、再び先鋭化 南シナ海巡り****
・・・・米国が外交攻勢を強める背景には、中国の海洋進出のスピードが予想以上に速いとの認識がある。中国は領有権の争いのある南シナ海の岩礁や浅瀬などを埋め立てた人工島に、滑走路を建設し、レーダーやミサイルの配備を進めているとみられている。
 
一方で、強硬姿勢を強める米国の対中戦略は必ずしも成果に結びついているとは言い難い。米軍は昨年10月以降、南沙諸島海域に米艦船を通過させる「航行の自由作戦」を3度実行したが、中国の人工島埋め立てや軍事拠点化とみられる動きに歯止めはかかっていない。

問題解決の糸口は見えないまま、南シナ海で米国の偵察機と中国軍機が異常接近するなど偶発的な衝突の危機は高まっている。
 
米国防長官が年々この会議で批判のトーンを高める背景には、中国を制止する有効な手立てが見いだせないいらだちもありそうだ。【6月4日 毎日】
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アメリカ主導の包囲網を二国間会談で切り崩す中国
国際会議の場で関係国の利害を代弁する形で中国へ国際ルール順守を要求し、中国包囲網を形成しようとするアメリカに対し、中国側は中国が強い影響力を有する関係国との二国間会談を進める形で、中国包囲網を分断しようと対抗しています。

****アジア安保会議】中国、南シナ海情勢で包囲網分断に躍起 10カ国超と二国間会談****
シンガポールで開催中のアジア安全保障会議では、南シナ海の軍事拠点化を進める中国に対し、米国が関係国を牽引する形で懸念が表明された。不快感を強める中国は、会議と並行して二国間会談を積極的に展開し、“分断工作”を加速させている。(中略)

一方、南シナ海の領有権で中国と衝突するベトナム軍の高官は3日、シンガポールで、中国の孫建国副総参謀長と会談した。中国国営新華社通信によると、ベトナム側は、中国艦船の国際港への寄港を打診したという。南シナ海をにらむ要衝のカムラン湾も対象かは不明だが、先月のオバマ大統領訪越で友好関係をうたった米国としては警戒を要する動きだ。
 
中国国防省によると、孫氏はシンガポール滞在中、オーストラリアなど10カ国以上の軍幹部と会談し、関係強化を確認した。米国や日本と距離を置きつつ、対中包囲網を切り崩す狙いであるのは明らかだ。【6月4日 産経】
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アメリカの中国包囲網が奏功するかどうかは関係国の足並みをそろえることができるかどうかにもかかってきます。
しかし、目下の焦点ともなっているスカボロー礁の領有で中国と対峙し、中国を相手取って常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)のに裁定を求めるなど、これまで南シナ海問題での中国批判の急先鋒の立場にあったフィリピンでは、ドゥテルテ次期大統領が中国との対話姿勢に転じる動きを見せていることは、6月1日ブログ“フィリピン ドゥテルテ次期大統領のもとで、中国との対話姿勢に転換 相変わらずの「悪い奴は殺せ」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160601でも取り上げたところです。

一応、ドゥテルテ次期大統領は領有権では譲歩しないとは語っていますが、理念には関心がなく中国同様に力の信奉者で実利重視の政治家ですから、国内の鉄道建設などへの中国からの資金提供次第ではないでしょうか。

****次期比大統領ドゥテルテ氏、南シナ海の権利では譲歩せず****
フィリピンの次期大統領ロドリゴ・ドゥテルテ氏は2日、中国と領有権を争う南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)について、自国の権利を譲ることはないと述べた。

「スカボロー礁をめぐる領有権で譲ることは決してない」と、同氏は駐フィリピン中国大使との会談後の記者会見で指摘した。

「これは領土問題ではない。中国が行っている建設工事で我が国が妨害を被っている。同礁は我が国の排他的経済水域(EEZ)内にあり、国連海洋法条約で保護されている権利を我々は自由に行使できない」と述べた。

先月の比大統領選で勝利した前ダバオ市長のドゥテルテ氏は、南シナ海をめぐる領有権問題の平和裏な解決に向け、多国間協議を推進していく意向。【6月3日 ロイター】
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また、フィリピンと並んで強い中国批判を行ってきたベトナムは、中国と国境を接し、これまでも戦火を交えたことがあるだけに、批判一辺倒ではなく、前出記事の“中国艦船の国際港への寄港を打診”といったように関係維持にも腐心しています。

インドネシア・マレーシアには対中国姿勢硬化の動きも
フィリピンやベトナムが対中国で対話姿勢という形で軟化するとアメリカも足場を失うことにもなりますが、一方で、これまで中国批判に比較的慎重だったインドネシアやマレーシアでは、南シナ海問題での中国との対立を鮮明にする動きも見られます。

****インドネシア海軍「にらみ合いで勝利した」 密漁容疑の中国漁船の拿捕に成功****
インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポスト(電子版)は30日付で、南シナ海の南端に位置するインドネシア領ナトゥナ諸島沖の排他的経済水域(EEZ)で密漁していた容疑で、同国海軍が中国人船員8人を逮捕し、漁船を拿捕(だほ)したと伝えた。
 
この海域では3月にも、インドネシアの海洋・水産省の監視船が密漁の中国漁船を摘発したが、護衛していた大型の中国監視船に曳航(えいこう)中の漁船を奪われた。今回も中国監視船の妨害を受けたが、インドネシア海軍の駆逐艦が奪還を阻止したという。
 
海軍は訴追する方針で、逮捕した乗員8人はナトゥナ諸島にある海軍基地で取り調べ中という。広報官は「この海域がインドネシアの司法管轄下にあると世界に示す」とし、海軍の存在感をアピールした。
 
中国漁船はインドネシア海軍に摘発された後に逃走を試み、海軍は数回の警告射撃をしたという。
中国の監視船が漁船の“救護”を試みたが、同紙は「インドネシアの駆逐艦が中国の監視船と同じくらい大きかったため、にらみ合いに勝利した」としている。
 
在ジャカルタの中国大使館は同紙に対し、「友好的な話し合いで適切に解決したい」との立場を示した。3月に問題が起きた際、中国側はインドネシア政府の抗議に、現場海域は「中国の伝統的な漁場」だとしたが、今回は姿勢を軟化させた格好だ。【5月30日 産経】
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“中国漁船撃退の陣頭指揮にあたっているのは、インドネシアの「女・田中角栄」、スシ・プジアストゥティ海洋・水産相だ。スシ氏は、中国漁船を「見せしめ」として爆破、撃沈したことで喝采を浴びたことで知られる。姐御肌で、足に入れ墨を彫り込み、ジョコ大統領率いる政権内で「最も人気のある閣僚」だ。”【6月1日 夕刊フジ】とも。

****マレーシア、南シナ海めぐり対中国戦略を見直しへ****
マレーシアのサラワク州沖で3月、同国の沿岸警備艇が大型の船舶を確認した。乗組員たちは仰天した。その船が警告のサイレンを響かせながら、高速でこちらに突き進んできたからだ。その後、同船が針路を変えると、船腹に「中国海警局」の文字が刻まれているのが見えた。
 
マレーシア海上法令執行庁(MMEA)の当局者によれば、油田で潤うミリ市沖合の南ルコニア礁付近では、以前にも中国海警局の艦艇が何度か目撃されている。だが、今回のように攻撃的な遭遇は初めてだという。(中略)

この事件の他にも、同じ時期に当該海域に100隻ほどの中国漁船が現れたことに刺激されて、マレーシア国内の一部では、強大な隣国である中国に対し、従来は控えめだった批判を強めつつある。
 
ある上級閣僚は、南シナ海で領有権をめぐる対立が起きている岩礁・島しょの周辺で中国が力を誇示しているなかで、マレーシアはこうした領海侵犯に対抗しなければならない、と話している。(中略)

マレーシアの場合、中国との「特別な関係」を掲げ、また貿易と投資への依存度が高いため、従来、この地域での中国の活動に対する対応は、西側諸国の外交関係者から「控えめ」と表現される程度のものだった。
 
サラワク州から50カイリも離れていないジェームズ礁で2013年・2014年の2回にわたって中国が実施した海軍演習についても、マレーシアは重要視しなかった。さらに2015年には、中国海警局の艦艇の武装船員による威嚇行為があったとしてミリ市のマレーシア漁民が懸念する声を挙げたが、おおむね無視された。

漁業紛争
ところが3月に多数の中国漁船が、領有権が争われている南沙(スプラトリー)諸島の南方にあり、豊かな漁場の広がる南ルコニア礁付近に侵入した際には、マレーシアは海軍艦艇を派遣し、中国大使を召喚して説明を求めるという異例の動きを見せた。(中略)

わずか数週間後、マレーシアはミリ市の南にあるビントゥル付近に海軍の前進基地を設ける計画を発表した。
 
マレーシアの国防相は、この基地にはヘリコプター、無人機、特殊部隊を配備し、過激派組織「イスラム国」に同調する勢力が自国の豊かな石油・天然ガス資産を攻撃する可能性に対処することが目的だと強調している。しかし、そうした勢力が拠点としているのは、北東方向に何百キロも離れたフィリピン南部だ。
 
一部の当局者や有識者は、この基地の設置に関してもっと大きな要因となっているのは、サラワク州沖における中国の活動だと話している。(中略)

マレーシアの態度硬化を裏付けるように、上級閣僚の1人はロイターの取材に対し、「領海侵犯には断固たる行動を取らなければならない。さもなければリスクが容認されたことになってしまう」と話している。
 
デリケートな問題だけに匿名を希望しつつ、この閣僚は、3月にマレーシアが見せた対応と、その数日前に隣国インドネシアで起きた同様の事件との対比を強調した。
「インドネシアの水域に侵入した中国漁船は、ただちに追い払われた。しかし中国の船舶がわが国の水域に侵入しても何も起きない」とこの閣僚は言う。
 
マレーシア議会では先月、副外相が他の東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と同様にマレーシアも中国の主張する悪評高い「九段線」を認めていないことを繰り返した。中国は「九段線」を掲げて、南シナ海の90%以上の水域について自国の権利を主張している。

限られたオプション
MMEA当局者の説明する事件について、中国外務省は、中国・マレーシア両国は対話と協議を通じた海事紛争の処理について「高いレベルのコンセンサス」を共有している、と述べている。(中略)

マレーシアは、監視・防衛能力を強化する一方で、2002年に中国とASEAN諸国のあいだで調印された行動規範の履行を推進するなど、経済と安全保障のバランスを模索しつつ、さまざまな戦略を進めている。
 
さらに注意を要する選択肢としては、米国との軍事提携の強化がある。
ある政府高官はロイターに対し、「マレーシアは、中国政府を刺激しないようひそかにではあるが、情報収集に関する支援と沿岸警備能力の強化に向けて米国に打診を行っている」と話した。
 
前出のストーリー氏は、中国に対して強引な領有権の主張を控えるよう説得を試みるソフト外交と合わせて、米国との軍事提携の強化を確保する動きがあるかもしれないが、それでも問題解決は困難だろうと話す。
「こうした戦略のどれも、大きな成功を収めているわけではない。だが他に何ができるだろうか」とストーリー氏は言う。「この領有権をめぐる争いは非常に長引くだろう」【6月6日 Newsweek】
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経済関係だけでなく、マレーシアでは中国系住民が人口の約4分の1を占めるという事情も対中国関係に影響してきます。

馬英九・国民党政権から代った台湾の蔡英文・民進党政権も安全保障面で日米と足並みをそろえると見られています。台湾は南沙諸島最大の太平島を実効支配しており、中国の南シナ海における防空識別圏の設定を拒否する姿勢をみせています。

【「中華思想」のくびきから、外交を軽視する中国
中国とアメリカや関係国の間の綱引きがどういう結果になるのか・・・よくわかりませんが、中国に妥協の姿勢が見られませんのであまり期待もできません。

中国・習近平政権は、清朝以来の屈辱の歴史を晴らして、世界に冠たる大国として振る舞う「中国の夢」実現に邁進しています。

本来、外交は一定の“綱引き”を背景としながらも最後は妥協で収めるものですが、中国にはその発想がないようにも見えます。

3000年にわたって東洋の大国として君臨してきた中国には、周辺の“野蛮な小国”と妥協するような「外交」の発想がなく、“外交より内政が大事。これが中国政治の現実である。共産党が政権を担当しているからではない。中国の歴史がそうさせている。自国が世界で一番優れていると思い込んでいるから、他国の指図は受けない。また、一度言い出したら改めることはない。”【6月7日 川島 博之氏 JP Press】とも。一言で言えば「中華思想」でしょう。

結果的に国際社会から疎まれ、非礼と思われることにもなって、中国にとっても長期的にみて得策にはなっていませんが、そこがなかなか・・・・。
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南シナ海問題 中国・習近平主席のベトナム取り込みは? 相次ぐ海上でのトラブル

2015-11-30 22:03:02 | 南シナ海

(ハノイで、ベトナム訪問中の中国の習近平国家主席(左)と握手するベトナムのチュオン・タン・サン国家主席【11月6日 ロイター】

中国メディアの環球網は、日米の「対中包囲網の幻想」を揶揄する記事で、南シナ海問題で中国と対立するベトナムとフィリピンでも姿勢が異なると指摘。ベトナムはフィリピンのように激烈な姿勢を見せておらず「日本がASEANの他の国を“フィリピン化”できると思っているのは、実に純情だ」と皮肉っています。【11月29日 Searchinaより】

確かに、「中国の横暴にアジア各国がみな憤慨している」というのは日本の期待ではあっても、現実とは少し違うかも。経済的に中国なしでは回らなくなっている多くのアジア諸国は、これまで以上にその顔を中国に向けつつあるというのが現実の姿でしょう。

ただ、中国の横暴とも言える独善的行動が続けば、各国における反中感情も高まり、“フィリピン化”も起きてきます。)


不審船による襲撃で、ベトナム漁船乗組員死亡
南シナ海・南沙諸島海域で30日、ベトナム漁船乗組員が「武装集団」の銃撃を受け死亡しました。

****ベトナム漁民、撃たれ死亡=武装集団が襲撃―南シナ海****
ベトナム紙トイチェは30日、南シナ海・南沙(英語名・スプラトリー)諸島のミスチーフ(中国名・美済)礁に近い海域で26日、操業中のベトナム漁船の乗組員1人が銃で撃たれ、死亡したと報じた。不審船が接近して、武装した5人組が漁船に乗り込み、発砲したという。

南シナ海でベトナム漁民が銃撃で死亡する事件は珍しい。トイチェによれば、この海域では同国漁船が長年操業してきたが、不審船による襲撃はこれまで起きていなかった。

現場はミスチーフ礁とは別の岩礁から約30カイリ(約56キロ)の海域。ベトナム中部クアンガイ省の漁船が操業していたところ、1隻の船が近づき、5人が乗り込んできた。発砲により、42歳の男性乗組員が死亡。漁船には薬きょう4個が残っていたという。

南沙海域では、ベトナムや中国などが領有権をめぐって対立している。【11月30日 時事】
*********************

「不審船」ということで、銃撃した武装集団が何者だったのかは、まだ明らかにされていません。

現実的対応のベトナム共産党 習近平主席訪問を歓迎
ベトナムはかねてより南シナ海において、西沙諸島や南沙諸島において中国と対立・衝突を続けており、ASEAN諸国の中にあっては、対中国ではフィリピンとともに強硬姿勢を示してきています。

国民感情のうえでも、南シナ海問題に限らず、中国に対する反発は根深いものがあるようにも見えます。

ただ、中国と国境を接し、これまでも中国と戦火を交えたこともあるベトナムにとっては、中国との関係は安全保障上の最重要課題でもあり、また、中国との経済的な関係が深まっているのは他の東南アジア諸国同様であることもあって、ベトナム共産党指導部の中国への対応は、例えば中国批判のデモを一定に容認しながらも、過激化・拡大することは抑えるといったように、抜き差しならない事態にならないよう現実的な対応を行っているように見えます。

そんなベトナムを、今月初め中国・習近平国家主席が訪問しました。中国主席のベトナム訪問はは2006年の胡錦濤主席以来、9年ぶりでした。

****南シナ海で対立回避演出=友好関係を強調―中越首脳****
中国の習近平国家主席(共産党総書記)は5日、ベトナムを訪れ、最高指導者グエン・フー・チョン共産党書記長とハノイで会談し、南シナ海の領有権争いでは対立を回避し、両国関係に悪影響を及ぼさないよう努力することで合意した。ベトナム政府によると、両首脳は、友好関係が「新しい次元に入った」と認識を一致させた。

中国主席の訪越は、2006年の胡錦濤氏以来9年ぶり。両首脳は、インフラ建設や貿易、投資などに関する協力文書に署名した。経済関係を一段と深める契機とする。

ベトナム政府によれば、会談でチョン書記長は、南シナ海問題を念頭に「事態をさらに複雑にし、緊張をもたらさないよう努力することが重要だ」と強調。軍事基地化を目指すような動きを控え、国際法に従って問題を解決する必要があると訴えた。

習主席は「ベトナムと共に、両国関係および南シナ海の平和と安定の維持に努力する」と応じたという。【11月5日 時事】 
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隣国で、また、同じ共産党政権にもかかわらず、9年間訪問がなかったことにも、両国の微妙な関係が窺われます。

逆に言えば、南シナ海で中国が造成する人工島近海へのアメリカ艦航行を受け、米中対立が深まるこの時期に敢えてそんなベトナムを訪問した習近平主席の、領有権をめぐり対立するベトナムに接近することで中国包囲網にくさびを打ち込もうとする強い意向が窺えます。

習近平主席訪問中も首都ハノイでは反中国デモが容認されていたようです。

******************
・・・・現地からの報道によると、習氏の訪問直前から首都ハノイでは抗議活動が続いた。参加者は「スプラトリー(中国名・南沙)諸島とパラセル(同・西沙)諸島をベトナムに返せ!」などと訴える横断幕を掲げて抗議。5日は中国大使館周辺にバリケードが築かれ、道路が封鎖された。

しかし、3日にハノイ中心部で行われた抗議活動の参加者は「警官はほとんど抗議者を放っておいた。すぐに追い払われた昨年の反中デモと違った」と証言しており、ベトナム政府の対応にも変化が表れている。(後略)【11月5日 産経】
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先述のような反中国の国民感情はありますので一定に”ガス抜き”は行いつつも、ベトナム共産党指導部は、安全保障・経済両面での対中国関係を重視する立場から、習主席を歓迎したようです。

ベトナム取り込みを狙う習主席
習近平国家主席は6日にベトナム国会で演説し、中国とベトナムとの関係について「(幾つかの部分で)対立を避けるのは難しい」と認めたうえで「(双方の)党や国家の指導の下で、友好関係の『新たなページ』を書き続けることができる」と呼び掛け、対話継続が重要と訴えたとのことです。【11月6日 時事より】 

指導層レベルでは概ね友好的な雰囲気で行われ、習主席の狙うベトナム取り込みが一定に成功したようにも見えた習主席の訪問でしたが、その後は不協和音を出ているように報じられています。

****中国主席発言に不快感=南シナ海で「二枚舌」―ベトナム****
中国の習近平国家主席による南シナ海領有権に関する最近の発言に対し、ベトナムで不快感が高まっている。ベトナムを5、6の両日訪問した際に、領有権をめぐる対立を回避する姿勢を示した一方、7日のシンガポールでの演説では「古くから中国の領土」と主張したためだ。メディアは「二枚舌」(トイチェ紙)と厳しく批判している。

ベトナム政府によれば、習主席とグエン・フー・チョン共産党書記長は5日の会談で、南シナ海問題が両国関係に悪影響を及ぼさないよう「適切に処理」することで合意。習主席は「平和と安定の維持に努力する」と語ったとされる。ベトナム国会での6日の演説でも、両国間の問題では対話を通じた解決を目指す考えを表明した。

その翌日、シンガポールという「南シナ海問題と(直接には)無関係の国」(トイチェ紙)で、友好ムードに水を差すような発言が出たことに、メディアは「化けの皮が剥がれた」(ペトロ・タイムズ紙)と反発。中国の主張は身勝手として、国際法に従うよう訴えている。

ベトナム政府高官や外務省は、習主席のシンガポールでの演説に関してコメントしていない。【11月10日 時事】 
******************

【“現場”海上で相次ぐ衝突・トラブル
一方、南シナ海などの“現場”では、最近両国の衝突・トラブルが相次いでいます。

****中国漁船数百隻がベトナム漁船を「襲撃」か  ベトナム報道「漁網次々に引きちぎる」「過去30年で最悪****
中国漁船数百隻がベトナム漁船5隻を襲撃した模様だ。環球時報がベトナムでの報道を引用して伝えた。ベトナムでは漁網30網以上が引きちぎられ、「過去30年来、最悪の事態」と報じられているという。

ベトナム漁船の船長が16日、ダナン市ソンチャー区の自国当局に報告したことで明らかになったという。船長によると8日に出港して、仲間の船との計5隻でトンキン湾で操業していた。トンキン湾はベトナムと中国の広西チワン族自治区、海南省(海南島)など囲まれた海域だ。

船長は、14日午前2時ごろ、「無数の中国漁船が突然出現し、蜂のように押し寄せてきた」と説明したという。記事は、ベトナム漁船を襲撃した中国漁船は「数百隻」だったと伝えた。

中国漁船はベトナム漁船が漁網を投じていた水面に次々に突入。30網程度が引きちぎられたという。ベトナム当局関係者は「中国漁船がベトナムの領海に進入したかどうかを確認する」と述べたという。

以前にも中国とベトナムの漁船が海上で「抗争」することはあったが、最近では少なくなっていた。中国政府・外交部の華春瑩報道官は、「海上で問題が出たことはあったが2014年以来、双方は問題を妥当に処理し、密接な意思疎通を保っている」と説明していた。

中国社会科学院の研究室主任で東南アジア研究の専門家である許利平主任は、「仮に、(権益関連の)境界線が定まっていない『グレー・ゾーン』で操業する場合には、双方が協力の気持ちを持たねばならない。相手を一方的に批判するのはフェアでない」と述べた。(後略)【11月19日 Searchina】
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****中国、ベトナム船を銃で威嚇か 南沙海域、現地紙報道****
ベトナム国営紙トイチェは27日、南シナ海・南沙(スプラトリー)諸島の周辺海域で今月13日、ベトナムの輸送船が中国の艦船から「銃を向けられ、威嚇された」と報じた。輸送船船長の証言として報じた。発砲やけが人はなかった。

報道によると、現場は米駆逐艦が10月27日に「航行の自由作戦」を実施した南沙・スビ礁の西約12カイリ。

13日午前9時、ベトナム輸送船が自国が管理する灯台へ補給活動を行うため付近を航行したところ、所属不明の中国船1隻が近づき、立ち去った。その後2隻の中国海警局の巡視船が接近。午前11時には、人工島の方向から中国軍の艦船とみられる別の艦船が現れ、拡声機で中国語で警告した。さらに同11時半、10人以上の迷彩服の隊員が甲板に出て、輸送船に銃口を向けた。緊迫した状態が約2時間続いたのち、中国船は立ち去ったという。

南沙諸島の周辺では、ベトナムの漁船や輸送船が中国船から妨害を受けることはたびたび報告されているが、銃を向けられたのは異例。ベトナム外務省のレ・ハイ・ビン報道官は同日、「力の行使や威嚇に激しく抗議する」とする声明を発表した。【11月27日 時事】
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こうしたトラブル・事件を経ての冒頭銃撃事件です。中国の影を感じてしまいますが、事実関係はまだわかりません。
もし、「不審船」が中国の船ということになれば、ベトナム側の対応が硬化することは避けられないでしょう。

ただ、その場合、一連の中国側の強圧的な姿勢が習近平指導部の意向を反映したものかどうかは疑問もあります。
これではベトナム訪問による「ベトナム取り込み」も無駄になってしまいます。

中国では軍部などにおける強硬派や反習近平勢力の動きを政権指導部が必ずしもコントロールできていないという話はよく聞くところですが、一連のベトナムへの強圧的な行動もそうした線でしょうか。
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南シナ海問題での日本の立ち位置

2015-11-06 23:28:04 | 南シナ海

(ハリス米太平洋軍司令官からメダルを授与される河野統合幕僚長=6月18日、ハワイの太平洋軍司令部(米太平洋軍提供)【11月6日 朝日】)

南シナ海での自衛隊の活動について「今後検討していくべき課題だ」(菅官房長官)】
アメリカは、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で中国が建設している人工島の12カイリ(約22キロ)内に艦船を侵入させ、「航行の自由」を盾にした形で、中国のこの地域への急速な進出を阻止する行動に出ています。

現在までのところ、外交上の非難合戦やASEANを舞台にした綱引きはあるにしても、軍事的には中国は抑制的な対応をとっていること、ただ今後ともそうした対応が続く保証もないこと、ASEAN・東南アジア地域においては中国との決定的対立を多くの国が回避するほどに中国の存在が大きくなっていることなどは、一昨日の4日ブログ「南シナ海をめぐる米中対立 緊張が高まるいくつかのシナリオ 中国と対立を避けるASEAN諸国」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151104)でも取り上げたばかりです。

前回4日ブログでは、日本との関係については、“米中間の緊張が今以上に厳しさを増す情勢となれば、アメリカの日本への支援要請も強まるのでしょう。 安倍首相はそうした事態を想定して安保関連法を成立させたとも言われていますが、国内世論的には、与党内情勢を含めて、南シナ海問での日本・自衛隊の直接関与というのは難しい選択でしょう。”といった程度にとどめましたが、今回はそのあたりの話。

アメリカからは日本の協調を求める声がすでに出ています。

****12カイリ内航行、日本にも促す 南シナ海 ジョン・マケイン米上院軍事委員長****
米国の安全保障政策に大きな発言力を持つ共和党の重鎮、ジョン・マケイン上院軍事委員長は3日、ワシントンの連邦議会内で朝日新聞のインタビューに応じた。

米海軍の艦船が南シナ海で、中国が領有権を主張する人工島から12カイリ(約22キロ)内に進入したことに関して「いずれの国も国際法が許す範囲であれば、どこでも航行する権利がある」と語り、日本にも同様の行動を取るよう促した。(後略)【11月5日 朝日】
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現在のところは、海上自衛隊の対応能力が不十分なこともあって「航行の自由作戦に自衛隊が参加する予定はない」(菅官房長官)というのが日本政府の対応ですが、一方で、南シナ海での自衛隊の活動について「今後検討していくべき課題だ」とも。

****変わる安全保障)攻防の海、自衛隊苦心 装備不足でも、米と呼応探る****
「国際法にのっとって海洋活動を行う観点から米軍の行動について支持する」

3日午後、マレーシア・クアラルンプール郊外のホテル。ダウンライトが照らす一室で、カーター米国防長官と会談した中谷元・防衛相は、南シナ海で中国が領海と主張する海域を米艦が航行した「航行の自由作戦」に支持を表明した。

中谷氏は、翌4日の東南アジア諸国連合(ASEAN)と日米中などの防衛相が一堂に集まった会議でも作戦への支持を表明。中谷氏が演説を終えると、カーター氏は笑顔を見せた。同席した中国の常万全国防相は下を向いたままだった。

米軍は、日本が南シナ海での関与を強めるよう求めている。6月のハワイでの会談で、米太平洋軍のハリス司令官は、河野克俊(かわのかつとし)統合幕僚長に、南シナ海で米軍が実施する共同訓練や多国間演習に、自衛隊も参加するよう持ちかけたという。

しかし、河野氏の返答は慎重だった。河野氏は海上自衛隊の出身。海自が米軍を支援するだけの艦船などの装備が足りないことを知っているからだ。

海自が保有する護衛艦は47隻。一見、多いようだが、海自艦艇は尖閣諸島周辺の警戒、ロシアの動向の監視、北朝鮮のミサイル対応に加えインド洋・ソマリア沖の海賊対処も行う。訓練や定期修理もあり、やりくりに苦慮しているのが実態だ。

それでも海自は、現有の装備や能力で、米国の要請に精いっぱい応えようとしている。ソマリア沖で海賊対処に当たる護衛艦や哨戒機が日本と往復する際や、練習艦隊が定期的な遠洋航海に出向く際などに南シナ海に入り、自衛隊の存在感を示したり哨戒活動をしたりする。海上幕僚監部は、そんな案を検討している。

菅義偉官房長官は5日の記者会見で「航行の自由作戦に自衛隊が参加する予定はない」と述べる一方、南シナ海での自衛隊の活動について「今後検討していくべき課題だ」と、将来、警戒監視活動などに携わる可能性を示唆した。

折しも、南シナ海で10月下旬から、海上自衛隊の護衛艦「ふゆづき」が米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」などの米艦船と、通信訓練やヘリコプター離着陸などの共同訓練を行った。

ふゆづきは、インドと米国の両海軍が主催し、海上自衛隊も招かれた海上合同訓練「マラバール」に参加した帰途だった。南シナ海最南部のボルネオ島北方を航行し、中国が埋め立てた人工島周辺12カイリには近づかない。

防衛省幹部は「航行の自由作戦とは連動しない」と話すが、日米の緊密な連携をアピールし、中国を牽制(けんせい)する狙いがあった。【11月6日 朝日】
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不測の事態も
国内世論の抵抗もありますので、直ちにアメリカと協調して中国と対峙するというのは、あまり現実性はないようにも思えます。

ただ、万一米中両軍が衝突するような事態になったら・・・自衛隊が米軍の後方支援にあたるという状況も起きるのでしょうか。

もちろん、オバマ大統領も習近平主席も、実際に砲火を交えるような事態は望んでいないでしょうが、偶発的な(あるいは一部勢力の故意による)「不測の事態」を含め、事態が一気にエスカレートする危険性は常にあります。

中国の攻撃型潜水艦が10月下旬、日本近海を航行していた米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンの至近距離に近づいていたことは前回ブログでもとりあげました。

南シナ海で潜水艦を活動せたい中国と、これを阻止したいアメリカとの間できわどい状況が今後も続くと思われます。

****米中“原潜”攻防戦激化 米軍、最新装備で中国側封じ込め 南シナ海で緊張状態****
・・・軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「南シナ海で米イージス駆逐艦と、中国のミサイル駆逐艦が対峙しているように、海中で、米中の攻撃型潜水艦同士が熾烈な攻防戦をしているはずだ。米原潜は同海域に数隻入っているのではないか」といい、続ける。

「海上とは違い、海中の攻防戦は外部に見えないだけに激しく、まず発表もしない。一般的に、潜水艦が『事故』『行方不明』というときは、敵との衝突があったと考えられる。もし、『潜水艦が撃沈された』という発表があれば、米中の緊張状態がピークに達したといえる」

かつて、中国の原潜は「ドラをたたきながら水中を進む」と揶揄(やゆ)されるほど、スクリューやエンジンの音が大きかった。米海軍や海上自衛隊には簡単に発見できたといわれる。ところが、世良氏は指摘する。

「確かに、中国原潜はうるさかった。だが、宋級通常型潜水艦などの静粛性は向上している。世界最強の米海軍も侮れない。だから、P8対潜哨戒機を飛ばして警戒している。2006年に沖縄近海で、中国の潜水艦が探知されずに、米空母『キティホーク』の至近距離に浮上して挑発したことがある。現在の緊張状態で同様のことが起きれば、米軍が攻撃してもおかしくない。今後、1、2カ月はこのような緊張状態が続く」【11月6日 夕刊フジ】
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(原子力空母ロナルド・レーガンへの中国潜水艦の接近は)中国海軍の失態という分析だが、(軍事ジャーナリストの)井上氏は「ただ…」といい、以下のように付け加えた。

「中国軍の一部に、跳ね返り組がいる。2013年、海上自衛隊艦船へのレーダー照射を行ったような連中だ。もし、米空母に同様のことをすれば危ない。米軍は相手が攻撃態勢に入ったと認識すれば、すぐ撃つ。米中は紛争状態に突入するだろう」【11月5日 夕刊フジ】
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【夕刊フジ】はこの種の話が随分好きなようで、米中衝突を期待していいるようにも見えます。
ただ、そうした「不測の事態」の可能性も排除できないのも現実です。

安倍首相はそうした事態への自衛隊の関与を第一に想定して安全保障関連法案を成立させた・・・という話は、10月20日ブログ「高まる「南シナ海有事」の危険 そのとき日本は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151020)でも取り上げたところです。

****後方支援、対象にも****
安全保障関連法の柱の一つである重要影響事態法は、南シナ海での事態発生も想定している。安倍晋三首相は、5月の国会答弁で「南シナ海で、ある国が埋め立てをしている」と述べ、適用を示唆した。

原油を輸入に頼る日本にとって、同海域は最も重要な海上交通路(シーレーン)だ。安倍政権は関与に積極的な姿勢を見せる。

同法の前身の周辺事態法(1999年制定)は、朝鮮半島有事などで自衛隊が米軍に後方支援をすることを想定していた。活用範囲を事実上「日本周辺」に限定しており、南シナ海はその範囲外だった。

重要影響事態法は周辺事態法を改正して作られた。地理的な制約をなくし、南シナ海を含む世界中どこでも活動できる。米軍にとどまらずオーストラリア軍などへも支援が可能になる。

今後、仮に南シナ海で武力紛争が起きた場合、日本への武力攻撃の恐れがあるなど「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」と政府が認定すれば、自衛隊が米軍などに後方支援ができる。

後方支援には、物資や人員の輸送などに加え、周辺事態法では認められていなかった弾薬提供や発進準備中の航空機への給油など、武力行使により近い支援など幅広い内容を含む。

防衛省幹部の一人は、こう語る。「南シナ海での衝突が、沖縄の尖閣諸島に飛び火してくる可能性もある。最悪のケースを想定し、重要影響事態法も含めた対応を考えておいた方がよい」【11月6日 朝日】
********************

「最悪のケースを想定した」議論・外交が必要とされますが、やる気満々の安倍首相に対し、与党内にもいろんな考えがあるところでしょうが、表立ってものを言う政治家は少ないようです。

****南沙「日本に無関係」=野田聖子氏****
自民党の野田聖子前総務会長は4日夜のBS日テレの番組で、中国が進める南シナ海の人工島造成について「直接日本には関係ない。南沙(諸島)で何かあっても、日本は独自路線で対中国の外交に徹するべきだ」と述べた。同島近海では米国が艦船を航行させ中国をけん制、日本政府も支持を表明したばかりで、発言は波紋を呼びそうだ。

野田氏は次期総裁選への出馬に意欲を示しており、自身の外交政策を問われる中で発言した。野田氏は「南沙の問題を棚上げするぐらいの活発な経済政策とか、お互いの目先のメリットにつながるような2国間交渉をやっていかなければいけない」とも語った。【11月4日 時事】
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安倍首相との対立軸を明確化させるためもあってか、随分思い切った発言です。
当然のごとく、ネット上でも袋叩き状態です。

ただ、シーレーンの重要性云々の話はありますが、米中両国はお互いの思惑で力比べをしているとも言え、日本は日本の立場で考える必要があります。
ASEAN諸国の動きを見ていても、今後ますますアジアは中国を軸として動いていく流れにあるようにも見えます。

中国は問題の多い国で、日本との間でいろんなしがらみがある国ですが、これまでのようにアメリカと一緒になって中国を抑え込んでいこうというだけで将来に対応できるのかは疑問です。

実際に衝突が起きてしまうと、どういう選択にしろ日本としては難しい立場に置かれます。
そういう事態にならないように、米中間の「落としどころ」を探る方向で日本外交も米中双方に働きかけていく必要があります。
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南シナ海をめぐる米中対立 緊張が高まるいくつかのシナリオ 中国と対立を避けるASEAN諸国

2015-11-04 23:34:08 | 南シナ海

(なかなか手をつなぐのは難しそうで・・・ 4日、拡大ASEAN国防相会議 左からロシア、シンガポール、タイ、アメリカ、ベトナムの国防相 【http://wowway.net/news/read/category/world/article/the_associated_press-no_joint_declaration_at_asia_defense_meet_amid_sea-ap】)

米中、互いに牽制
アメリカ海軍が横須賀基地所属のイージス駆逐艦「ラッセン」を、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で中国が建設している人工島の12カイリ(約22キロ)内に10月26日夜(日本時間27日午前)、派遣したことを明らかにしたことで、南シナ海を巡るアメリカ・中国の対立が表面化していることは連日報道されているとおりです。

両国の交渉・綱引きはいろんなレベルで行われていると思われますが、潜水艦による文字通りの「水面下」の牽制も行われているようです。

****中国の攻撃型潜水艦、米空母ロナルド・レーガンに接近 10月下旬、日本近海で**** 
米ニュースサイト「ワシントン・フリービーコン」は3日、中国の攻撃型潜水艦が10月下旬、日本近海を航行していた米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンの至近距離に近づいていたと報じた。中国潜水艦がここまで米空母に接近したのは2006年以来という。

米海軍のイージス駆逐艦ラッセンは、10月27日に南シナ海で中国が造成した人工島周辺を航行。空母接近はこの直前のタイミングだった。

同サイトは中国側がラッセンの航行や、対中強硬派として知られるハリス太平洋軍司令官の訪中に合わせてけん制した可能性を指摘した。

潜水艦の接近時に空母艦内では警報が鳴ったが、対潜哨戒機が発進したかどうかなどは不明。中国潜水艦の詳しい種類も明らかになっていない。

ロナルド・レーガンは母港の米海軍横須賀基地を出て、韓国海軍との合同演習のために九州南方を経て日本海に向かう途中だった。【11月4日 産経ニュース】
*****************

一方、水面の上の原子力空母ロナルド・レーガンには、中国への強硬姿勢をとるカーター米国防長官が乗艦して、中国を牽制するとか。

****南シナ海で空母乗艦へ=中国にらみ米軍存在誇示―カーター長官****
カーター米国防長官は4日、拡大東南アジア諸国連合(ASEAN)国防相会議の閉幕後に記者会見し、南シナ海を航行中の米空母「セオドア・ルーズベルト」に5日、マレーシアのヒシャムディン国防相と共に乗艦すると明らかにした。

南シナ海で人工島の造成と施設建設を進め、海域の管理強化を図る中国をけん制する狙いがあるもようだ。(後略)【11月4日 時事】
******************

マレーシアは後述のようにASEANを舞台にした米中両国の綱引きに苦慮したASEAN議長国でもありますが、国防相がアメリカ原子力空母の米国防長官とともに乗り込むというのは意外な感もあります。
もっとも、だからといってマレーシアがアメリカ寄りを鮮明にしたという話でもないでしょう。

抑制的な中国 ただし、今後も続く保証はない
これまでのことろは当初懸念されていたような米中間の軍事的衝突などは起きておらず、基本的には中国側の「抑制的」な対応が目立ちます。

軍事的には中国側が劣勢にあると見られていることや、万一思わしい結果を得られなかった場合には国内での習近平主席の政権基盤が揺らぐことなどを考えると、当然の対応とも思われますが、今後とも「抑制的」対応が続く保証もありません。

****習近平の不気味な「沈黙****
習にとってアメリカとの対決はリスクが大き過ぎるが、重大な危機に発展する可能性を完全には排除できない

・・・・事前に米政府から知らされていた近隣のアジア諸国にとって、アメリカの行動は予想外ではなかった。意外だったのは中国の反応だ。

多くの観測筋は、中国側が米艦の通航を阻止しようとして危険な事態に発展しかねないと恐れていたが、その不
安は外れた。

中国政府は、米政府が中国の主権を侵し、不測の事態を招く危険を冒していると非難し、海軍の艦船にラッセンを追尾させたものの、中国艦船はラッセンとの距離を保った。

抑制的な態度は、現実主義的な対応を取った結果とみることができる。中国政府は仰々しい言葉でアメリカを非難するが、自国の領有権主張が国際法上の根拠を欠く海域で米軍と衝突することのリスクは十分に心得ている。

偶発的衝突が起きれば、習にとってはことのほか政治的リスクが大きい。
習としては、国民のナショナリズムを利用したい半面、長い目で見たリスクを考えると、南シナ海でアメリカと対
立することは許されないのだ。(中略)

米中危機への3つのシナリオ
中国にとって最悪のシナリオは、アメリカがフィリピンに圧力をかけ、スービック湾に再び米軍基地を設置する
ことかもしれない(米軍は92年にこの基地から撤退している)。これが実現した場合、米軍が先々まで南シナ海で
にらみを利かせることになり、地域の安全保障勢力図は一変する。

そのような事態を招けば、中国政府内で習の外交手腕が疑問視されるだろう。

今回、習が抑制的反応を選択した理由はこれだけではない。もっと重要なのは、国内経済の問題だ。 

習が旗を振っている反汚職キャンペーンは、権力基盤の強化には有効だったかもしれないが、経済改革の後押し
にはあまりなっていない。むしろ、賄賂を受け取ったり、公費で贅沢をできなくなったりした地方官僚の反発を買
い、実質的に全国規模で官僚のサボタージュユが起きている。

これにより、ただでさえ莫大な負債と弱い消費に悩まされている中国経済が一層苦しんでいるのが現状だ。
共産党トップとしての習の1期目の任期は、残り2年。さらに5年の任期を務めるのが既定路線とはいえ、17年
までに経済面で成果を挙げたい。

アメリカとの勝ち目のない戦いに乗り出している場合ではないのだ。そんな事態になれば、経済に振り向けるべきエネルギーが割かれる上に、国内外のビジネス界の心理を冷え込ませてしまう。

習が差し当たりアメリカとの対決回避を選択したとしても、中国軍が将来にわたり抑制的なアプローチを選び続
けるかどうかは別問題だ。アメリカが人工島周辺に艦船や軍用機を送り込み続ければ、メンツをつぶされた中国軍
部が文民指導部を押し切り、もっと強硬な姿勢を取らせないとも限らない。

少なくとも短期的には、このシナリオは現実昧が乏しい。今回の作戦により、アメリカは南シナ海問題で強い姿勢を示すという目的を達した。わざわざ頻繁に作戦を実行し続けて、緊張を高めることはしないだろう。

しかし、中国が人工島の軍事施設増強に乗り出せば、アメリカは作戦行動の頻度を高めざるを得ない。当然、衝突のリスクは大幅に高まる。

先週の出来事は、米中関係の現状を大きく変えるものではおそらくない。既に存在する地政学的対立を一層浮き
彫りにしたとみるべきだ。しかし、対立がこのまま解消されると考えるのは楽観的過ぎる。

今回のアメリカの作戦は、3つの面で米中関係を大きく損なう可能性を持っている。

第1は、戦術レベルで不測の事態が起きる可能性だ。両国のいずれかが対応を誤った場合、米中のにらみ合いが危機に発展しかねない。中国海軍に高度の裁量が与えられ、攻撃的で危険な戦術を用いることが許されれば、対立に歯止めが利かなくなる恐れがある。

第2は、対立を南シナ海に限定できなくなるケースだ。中国が報復として、アメリカヘのサイバー攻撃を強化した
り、イランや北朝鮮などへの新たな支援を開始したりすれば、米中関係に深刻なダメージが生じるだろう。

第3は、中国が引き続き、アジア諸国の安全保障に対するアメリカの関与の本気度を試そうとする可能性だ。中
国は、いま自国に地の利と時の利かあると思っている節がある。

中国はこれまで、南シナ海で人工島を建設したり、東シナ海上空にADIZ(防空識別圏)を設定することでア
メリカと同盟国の信頼関係をじわじわとむしばんできた。

そうした行動が続けば、アメリカはアジアの同盟国や友好国の安全を守る決意を明確に示すために強い態度に出ざるを得なくなる。米中の対立はさらに過熱するだろう。

私たちは、今回の中国の抑制を歓迎しつつも、南シナ海における米中の覚悟の試し合いが終わったわけではないことを理解しておく必要がある。【11月10日号 Newsweek日本版】
******************

「米中関係を大きく損なう可能性」としては、上記以外の重要要素として、中国国内の世論・敵対勢力の動向があります。

党内・軍部の粛清を続けてきた習近平主席ですが、その分、“敵”も多く、そうした勢力が世論を煽る形で、習政権がより強硬な姿勢をとらざるを得なくさせる・・・そうした場面も想定されます。

上記「第2」の「南シナ海以外の対立」については、逆に言えば、南シナ海問題を曖昧にしたまま、そうした他の対立で協調することで緊張緩和を図るということも可能ですが、現在のところは「サイバー攻撃」問題などはむしろ火に油を注ぐ形となっています。

基本線としては、中国側がこれまでのような南シナ海への進出を進めていけば、アメリカ側の対応もエスカレートすことになり、対立は次第に危険なものとなっていきます。

****南シナ海を泳ぐ中国原潜が米本土を狙う日****
・・・実はアメリカの本音は直接的な「核の脅威」にある。

今年5月に米国防総省が発表した中国の軍事に関する報告書に、注目すべき一節があった。
「年内に中国は初のSSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)による核抑止パトロールを行う可能性が高い」。
ここでのSSBNとは中国海軍の晋級戦略ミサイル原潜のことで、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)「巨浪2」
が搭載されている。(中略)

「巨浪2」の射程は推定約8000キロ。陸・海・空・海兵隊約36万人から成る米太平洋軍の司令部があるハワイを脅かすことができる。さらなる射程距離改善を待たずとも、南シナ海を拠点にしながら、いざというときに軍事力の脆弱なフィリピンを越えて太平洋に抜ければ、米本土を目標にすることもできる。(中略)

そうしたSLBMの無力化を防ぐためには、南シナ海の制海権や制空権を支配するしかない。

中国が南シナ海に人工島を造る理由の1つはそれだ。南沙諸島にある数々の岩礁にレーダー施設を置くことで防空網を張り巡らせる。

哨戒機やイージス艦が接近すれば、おなじく人工島に造った滑走路から戦闘機が発進し威嚇する。人工島が整えば、
束シナ海に一方的に敷かれたADIZ(防空識別圏)が南シナ海にもつくられることだろう。

南シナ海が恐怖の海になるのをオバマは防ぐことができるのだろうか。【11月10日号 Newsweek日本版】
********************

「アメリカの本音」が上記のようなものなのかどうかは知りませんが、居場所を特定しづらい中国の原潜が南シナ海を自由に航行することはアメリカとしては避けたいところでしょう。

中国がそのような形で押し出してくれば、アメリカは協力関係にあるフィリピンのスービック湾に再び米軍基地を設置するという対抗策も。

スービック湾にはフィリピン軍が軍事基地を再開する方針がすでに発表されています。

****フィリピン、旧米海軍スービック基地に駐屯へ 南シナ海の中国にらみ****
ロイター通信は16日、フィリピン軍が来年初頭にもルソン島中西部のスービック湾に戦闘機や艦船を駐留させると伝えた。

同湾は冷戦時代に米海軍が戦略拠点としたが、1992年の返還後は、経済特別区として利用されてきた。
フィリピンは同湾を軍事基地として再開、南シナ海の領有権で対立する中国を牽制(けんせい)する。(中略)

フィリピンと米国は昨年、米軍によるフィリピンの軍事基地使用を盛り込んだ新軍事協定に署名した。スービック湾がフィリピン軍の基地となれば、米軍の同湾への本格回帰につながる可能性がある。

同湾から約270キロ離れたスカボロー礁では、2012年から中国船が居座り、スプラトリー(中国名・南沙)諸島の一部と同様に、人工島を建設し軍事拠点化する恐れがある。スービック湾に米比両軍が駐留すれば、中国への大きな抑止力となる。【7月16日 産経ニュース】
*****************

そうした米中間の緊張が今以上に厳しさを増す情勢となれば、アメリカの日本への支援要請も強まるのでしょう。
安倍首相はそうした事態を想定して安保関連法を成立させたとも言われていますが、国内世論的には、与党内情勢を含めて、南シナ海問での日本・自衛隊の直接関与というのは難しい選択でしょう。

逆に言えば、アメリカの強い要請にどう対処するか・・・という話にもなります。

中国に批判的な共同宣言は出せないASEAN
話を現在に戻すと、とりあえずはASEANを舞台にした米中両国の綱引きが展開された結果、共同宣言を出せないという異例の事態ともなっています。

****拡大国防相会議、決裂=共同宣言に代え議長声明―ASEAN****
マレーシアの首都クアラルンプール近郊で開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国と日米中豪韓など計18カ国による拡大ASEAN国防相会議は4日、焦点となった南シナ海問題の記述をめぐり調整がつかず、共同宣言の取りまとめに失敗、事実上決裂して終了した。2010年に同会議が始まってから、共同宣言が採択されなかったのは初めて。

会議終了後に議長声明が発表されたが、南シナ海での人工島造成など中国の活動や日米が訴えている「航行の自由」の原則には一切触れておらず、緊張緩和に向け法的拘束力を持つ「行動規範」を早期に策定する重要性を指摘するにとどまった。これは従来の方針を改めて示したにすぎず、会議で実質的進展がなかったことを宣言したに等しい。

議長国マレーシアのヒシャムディン国防相は会議終了後の記者会見で、共同宣言を見送ったことについて「(合意できない)幾つかの問題があった」と述べた。

拡大会議は、南シナ海で中国が埋め立てた人工島周辺を米艦船が10月27日に航行して以降、カーター米国防長官と常万全・中国国防相が初めて顔を合わせる機会となった。しかし、共同宣言の取りまとめに失敗したことで、南シナ海問題をめぐる米中の緊張緩和には至らなかった。【11月4日 時事】
********************

これまでもASEANは中国との決定的対立を避けてきましたので、想定された事態でしょう。
ASEAN諸国における中国の存在の大きさを考えると、ASEANに中国批判を期待するのは無理があります。
アメリカ・日本が直視すべき現実でもあります。

一方、中国は習主席がベトナムに乗り込んで、南シナ海問題で対立するベトナム取り込みを狙います。
領土問題では中国と対立するベトナムですが、経済的に中国に大きく依存するベトナム側は習主席を熱烈歓迎の様子のようです。

ベトナム共産党はこれまでも、中国批判の世論が過熱しないように常にコントロールしてきています。

****中国、南シナ海めぐり越接近=習主席、5日に9年ぶり訪問****
中国の習近平国家主席(共産党総書記)は5〜7日、ベトナム、シンガポールを歴訪する。中国主席の訪越は2006年の胡錦濤氏以来、9年ぶり。

南シナ海で中国が造成する人工島近海への米艦航行を受け、米中対立が深まる中、中国は領有権をめぐり対立するベトナムに接近することで、包囲網にくさびを打ち込む考えだ。

中越関係は14年5月に中国が南シナ海の係争海域で石油試掘を強行したことで悪化したが、ベトナム共産党トップのグエン・フー・チョン書記長が今年4月に訪中し、修復へ前進。

習主席の訪越で両国はインフラ建設、貿易、投資などに関する協力文書に署名する見通しで、中国は経済協力を前面に出し、ベトナムの取り込みを図る。【11月4日 時事】 
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これまで中国と一定の距離感を保ってきたシンガポールにしても、人民元の国際化を踏まえた中国との金融協力の期待から、中国との関係強化に転じています。

軍事的にはどうこうという議論とは別に、南シナ海をとりまくアジア情勢は「中国との対立を望んでいない」「中国なしには経済がまわらない」という時代になっています。

アメリカ、それに連なる日本も、そのあたりを踏まえて行動する必要があります。
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高まる「南シナ海有事」の危険 そのとき日本は?

2015-10-20 23:11:34 | 南シナ海

(9月25日、ホワイトハウスで会見に臨んだ米中両首脳 〔PHOTO〕gettyimages 
この会談でオバマ大統領は、近くアメリカ軍の艦隊を派遣し、中国側が建設した埋立地の12海里(約22㎞)の海域へ入り、かつ埋立地の上空を飛行することを習主席に宣言したとのことです。本来は習近平主席の訪米前に行う予定でいたが、ライス大統領安保担当補佐官の建議によってストップさせていたとも【10月19日 現代ビジネス】)

オバマ米政権:艦艇派遣の方針を東南アジア周辺国に外交ルートで伝達
10月15日ブログ「南シナ海 中国の人工島12カイリ内にアメリカが艦船航行を検討」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151015)で取り上げた南シナ海をめぐる米中の対立ですが、アメリカ・オバマ政権の「強い決意」が報じられています。 

****米、艦艇派遣を周辺国に伝達 南シナ海、中国をけん制*****
南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で中国が「領海」と主張する人工島の12カイリ(約22キロ)内に近く米海軍の艦艇を派遣する方針を、オバマ米政権が東南アジアの周辺国に外交ルートで伝達したことが18日、分かった。複数の外交筋が明らかにした。

派遣方針は複数の米政府高官が公に示唆しているが、関係国に意向を伝えたことは、オバマ政権の強い決意を物語る。人工島を中国の領土と認めない立場を行動で示し、実効支配の既成事実化を進める中国をけん制する狙い。【10月18日 共同】
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カーター国防長官の発言や艦船派遣の「方針」の伝達といったことではありますが、オバマ大統領として艦船派遣を正式表明した・・・という段階ではまだないようです。

後には引けずエスカレート・・・戦争へ至るパターン
万一、実際に中国本土から遠く離れた南シナ海で米中が衝突した場合、15日ブログで紹介した【10月15日 夕刊フジ】記事のように、未だ中国は軍事的にはアメリカに対抗できないというのが大方の見方のようです。

そういう事情もあってか、中国側からは事態の鎮静化を図りたい発言も見られます。

****領有権争い「武力に訴えない」=航行の自由「影響なし」―中国軍高官****
中国軍制服組トップの范長竜・中央軍事委員会副主席は17日、北京で開かれた安全保障をめぐる国際フォーラムに出席し、「中国は防御的な国防政策を行い、永遠に覇権を唱えない」と主張した上で、南シナ海の領有権問題などを念頭に、「争いは平和的に解決し、軽々しく武力に訴えることはない」と強調した。

范氏は南シナ海で中国が進める埋め立てや建設について、「民間的な機能を主としており、航行の自由には影響を及ぼさない」と改めて主張。埋め立てた岩礁に中国が最近灯台を設置したことにも言及し、「既に各国の船舶に航行を支援するサービスを提供している」と訴えた。

南シナ海をめぐっては、中国が埋め立てた「人工島」から12カイリ以内に米国が軍艦を送り込むことを検討している。中国は軍事的側面を表立って主張しないことで、対立を抑えたい考えとみられる。【10月17日 時事】
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****南シナ海「混乱望まず」=建設活動は「正当」―中国主席****
中国の習近平国家主席は20日からの英国公式訪問を前にロイター通信との書面インタビューに応じ、南シナ海をめぐる対立について「中国にとって重要なシーレーンであり、どの国よりも平和と安全、安定を必要としている」と主張した。その上で「中国は南シナ海の混乱を望んでいないし、ましてや混乱を引き起こす当事者にはならない」と強調した。

南シナ海で中国が造成を進める「人工島」から12カイリ(約22キロ)以内に軍艦を送り込むことを検討している米国の動きを強くけん制した形だ。

習主席は「南シナ海における中国の主権や権益侵害に対しては、中国国民は誰であろうと許さない」と警告。埋め立てや建設についても「領土主権を守るための正当な活動だ」と主張した。【10月18日 時事】 
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ただ、「軽々しく武力に訴えることはない」 「混乱を引き起こす当事者にはならない」とは言いつつも、「南シナ海における中国の主権や権益侵害に対しては、中国国民は誰であろうと許さない」という基本線を変えることもありませんので、このままいくと両者ゆずらず南シナ海で両国艦船がにらみ合う事態も想定されます。

****米艦艇、南シナ海へ派遣 フィリピンなど関係国に通達 中国は猛反発****
・・・・習近平国家主席は英国訪問(19〜23日)を前に、ロイター通信の取材を受け、「中国が行っている活動は、領土主権を守るための正当なものだ」と、一切妥協しない考えを表明。南シナ海の島々は「昔から中国の領土だ」と強調した。

中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」は、さらに過激だ。15日の社説で、米艦艇が派遣された場合、「中国は海空軍の準備を整え、米軍の挑発の程度に応じて必ず報復する」「中国の核心的利益である地域に(米軍が)入った場合は、人民解放軍が必ず出撃する」と警告した。(後略)【10月20日 夕刊フジ】
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習主席の発言のどの部分を重視するかで、“南シナ海「混乱望まず」”【時事】ともなれば、“一切妥協しない考えを表明”【夕刊フジ】ともなります。メディアの伝える情報は注意が必要です。

実際に「ドンパチ」やるような事態は米中双方望んでいないでしょうが、動き出した流れを止めることは難しく、高揚する国内世論を背景に後に引けない“チキンレース”において次第に対応がエスカレートすることもあり得ます。

中国同様、オバマ大統領も大統領選挙に突入している今、後には引けません。

1982年、イギリスが支配するフォークランド諸島に領有権を主張するアルゼンチンが上陸、これに対しイギリス・サッチャー首相は遠路艦隊を派遣、両軍が衝突した「フォークランド紛争」をも連想します。

「フォークランド紛争」では、お互いが相手の出方を予測できず、事態が次第にエスカレート、最終的には軍事衝突に至りました。「戦争というのはこういう風に起こるものか・・・」と教えてくれた紛争でもありました。

結果、勝利したイギリス・サッチャー首相は「鉄の女」の武勇を高め、国内の支持を固めることになりました。

ただ、今回は米中という二大核保有国ですから、そう簡単に「ドンパチ」されても困ります。
そういう点では、冷戦下の「キューバ危機」のような緊張が伴います。

東アジアでの米中対立と言う点では、19年前に台湾海峡で危機が起こっています。

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このようにアジアの海が緊迫するのは、1995年-1996年の台湾海峡危機以来である。当時、台湾で初の総統直接選挙が実施され、独立派の李登輝総統が再選される可能性が高まっていた。そのため、江沢民政権は大艦隊を台湾海峡に送り込み、ミサイル発射実験などで恫喝した。

台湾はアメリカに救援を要請。クリントン大統領は、空母ニミッツとインデペンデンスを派遣し、台湾海峡で米中が対峙した。だが、両軍の軍事力の差は圧倒的で、人民解放軍が撤退して危機は去った。

それから19年経って、米中は再びアジアで危機を迎えた。早ければ11月にも、南沙諸島で米中が一触即発となる可能性が出てきたのである。【10月19日 現代ビジネス】
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中国:習政権の抱える不安定要素も
お互いに、国内強硬派への説明がつく形でなんとか実際の衝突は回避しようとするのでしょう。(局地的とは言え、実際に勝負して負けてしまっては政権が維持できません)

ただ、中国の場合、強硬な軍部が暴発する、あるいは習近平政権に不満を持つ勢力が暴発を装って事を起こし政権を揺さぶる・・・といった事態もありえますので、何が起こるかわからないリスクはあります。
激しい権力闘争、軍幹部の粛清を展開している習政権ですから、“敵”は軍内外に大勢います。

アメリカ:同盟国の結束を固める
一方、アメリカは“同盟国”の結束を固めて中国への圧力を強める姿勢です。

****<米国>韓国の中国傾斜にクギ 米大統領「共同歩調を****
米ホワイトハウスで16日に開かれた米韓首脳会談は、韓国と中国の接近による米国の懸念を朴槿恵(パク・クネ)韓国大統領が取り除けるかが焦点の一つだった。

オバマ米大統領は共同記者会見で韓国と中国の関係強化を支持し、韓国内では「中国傾斜論払拭(ふっしょく)」(聯合ニュース)との評価が出ている。

ただ、オバマ氏は南シナ海問題などで中国が国際規範に違反した場合は、共に「声を上げることを期待する」と要請。米国は主要同盟国である韓国にも対中けん制で役割を果たすよう強く求め、過度な中韓接近にくぎを刺した格好だ。(後略)【10月18日 毎日】
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こうしたアメリカの要請、あるいは、中国離れを促す“最後警告”【10月19日 夕刊フジ】に応える形で、韓国はアメリカの立場への支持を明らかにしています。

****南シナ海、航行自由保障を=米大統領の発言受け強調―韓国外務省****
韓国外務省報道官は20日の記者会見で、中国の南シナ海進出に関し「国際的に確立された行動規範によって平和的に解決されるべきで、航行・上空飛行の自由を保障し、紛争につながりかねない行為を自制する必要がある」との考えを示した。

韓国はこうした立場を8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議でも表明しているが、オバマ米大統領が今月16日の米韓首脳会談後の記者会見で「中国が国際法や規範に従わない場合、韓国が反対の立場を示すよう期待する」と述べたことを受け、改めて強調した。【10月20日 時事】 
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おりしも習近平主席はイギリスを訪問していますが、経済的メリットから中国への接近を強めるイギリス・キャメロン首相に対しても、「特別な関係」にあるアメリカの強い要請が行われているのではないでしょうか。

日本:安全保障関連法案の直接的な契機は南シナ海
アジアにおける「最大の同盟国」日本は・・・と言えば、今回のような南シナ海での米中衝突を想定して、安倍政権が“ぬかりなく”自衛隊派遣を可能とする安全保障関連法案を成立させて準備しています。
米中が衝突すれば、自衛隊も後方支援で出動する事態ともなります。

****南沙諸島で米中激突の危機! 自衛隊はこうなる****
防衛省幹部はオフレコで「南シナ海は『存立危機事態』になりうる」。
中国軍幹部は「埋め立ては軍事目的」と公言。米軍は接近をくり返す

・・・・「南シナ海は世界の貿易量の40%が経由する要衝。中国に好き勝手にやられては米国の沽券(こけん)に関わる。互いに引くに引けない状況で、突発的な軍事衝突のリスクが高まっている」(全国紙外信部記者)

南沙諸島は太平洋の玄関口で、戦略上重要な海域。米中の睨みあいは一触即発、抜き差しならないところまできている。

これに反応したのが、安倍晋三首相だ。国際情勢に敏感といえば聞こえがいいが、その場その場の"空気"に流されやすい安倍首相の頭の中はいま、「南沙」で一杯のようだ。

「(法案成立前に)南沙諸島で有事が発生したらどうするんだ!」
審議中の安全保障関連法案を早く成立させたい安倍首相は、自民党国対関係者をそう怒鳴りつけたという。

同法案には他国軍への後方支援が可能となる「重要影響事態」や、集団的自衛権により武力行使が可能となる「存立危機事態」など新しい概念が盛り込まれている。

「安倍首相は4月26日から1週間、米国を公式訪問しましたが、この時すでに、フィリピンへの軍事支援などの南シナ海における対中戦略を伝えられていたんです。安倍首相は米中有事の際、自衛隊がすみやかに米軍に協力できるよう一刻も早く法整備をしておく必要があると焦っている」(外務省幹部)

(中略)江田憲司前維新の党代表が、自衛隊が他国軍の後方支援を行う「重要影響事態」を想定している地域はどこかと質問すると、「具体的な場所を言うことは控えたい」と答弁しながらも、「南シナ海で、ある国が埋め立てをしている」と言及した。

江田氏が言う。
「具体的にどういう危険が想定されるのか、安倍首相は『安全保障は機密性の保持が必要とされる』という大義名分でごまかしていた。ところが私の質問で、南シナ海を懸念対象として見ている、とつい本音がこぼれた。法案の直接的な契機は南シナ海なんです」

「石油がない」から参戦する
防衛省も、内々に研究を進めている。
「南沙諸島で米中有事が発生し、日本のタンカーが通行できなくなった場合、どれくらい国内の石油備蓄が持つかなど、いまの安保法制議論では触れられていないケースまで省内でシミュレーションしていると聞いてます。ある防衛省幹部は、『個人的見解』と前置きして、『南沙諸島の有事は、我が国の存在を脅かす"存立危機事態"になりうる』と明言していた。明確に自衛隊の南沙諸島出撃を想定している」(自民党中堅議員)

官邸と防衛省が想定する事態はこうだ。
中国軍とフィリピン軍の間で小規模な戦闘が発生。ただちに米軍は艦船を派遣し、米中の睨み合いが続く。海兵隊がホバークラフトで上陸を狙うなど緊迫し、この海域でタンカーの航行が不可能になる。日本に石油が入ってこなくなり、米国からの要請を受けた日本は「我が国の存立が脅かされる」として「存立危機事態」を宣言、南沙諸島に自衛隊を派遣――。

元外務省中国課長の浅井基文氏が言う。
「今回の安保法制は戦争法制なんです。米国のカーター国防長官は、『日本が南シナ海でアメリカと活動することになる』とはっきり言っています。日本が米国からの軍事的要求に『あれはやらない』と選択できることはありえない。南シナ海でアメリカが中国に攻撃をすれば、安倍政権は集団的自衛権を行使して、積極的に関わっていく危険性があります」

柳澤協二・元内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)も警鐘を鳴らす。
「南シナ海に自衛隊が出動するなら、どういう条件でどこまでやるか、安倍首相は国民に説明ができないといけない。米軍の後方支援といっても、国際的には武力行使の一部とみなされる。敵国からすると米軍と区別がつきません。それどころか中国が、ミサイルが届く日本を先に狙う可能性すらある」

日本は70年前、太平洋で多くの人命を喪(うしな)った。再び、あの悲劇をくり返すのか。【6月8日 Fridayデジタル】
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****臨時国会 野党が要求 与党は困難と認識****
与野党の幹事長・書記局長らが会談し、野党側が、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉が大筋合意したことを国民に説明すべきだなどとして、早期に臨時国会を開くよう求めたのに対し、与党側は「要求は官邸に伝えたい」と述べるにとどめ、召集は困難だという認識を示しました。(後略)【10月20日 NHK】
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日本へも当然アメリカの「意向」は伝えられているでしょう。
TPPもさることながら、南シナ海有事への対応も議論が必要に思われるのですが・・・。
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南シナ海  中国の人工島12カイリ内にアメリカが艦船航行を検討 

2015-10-15 22:30:54 | 南シナ海

(南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島の永暑礁で中国が滑走路を完成したとみられることを示す衛星画像=〔C〕CNES2015、Distribution Airbus DS/〔C〕2015 IHS提供【9月26日 時事】)

米国防長官「国際法が許容するいかなる場所へも、我々は飛行、航行する」】
中国はかねてより自国領と主張する南シナ海・南沙(スプラトリー)諸島において、埋め立て工事及び軍事施設建設を進めています。

****中国、南シナ海に3本目の滑走路を建設か****
香港(CNN) 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)はこのほど、中国が南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島にある岩礁に3本目の滑走路を建設している可能性を指摘した。

今月8日に撮影された衛星画像を分析した結果だという。

CSISの専門家、グレッグ・ポーリング氏によると、中国は南シナ海のミスチーフ礁に長さ約3000メートルに及ぶ長方形の埋め立て地を作ったとみられる。すでにファイアリークロス礁、スービ礁の人工島で工事を始めている滑走路と同じ形に見える。

ポーリング氏は「新たな滑走路だとしたらこれで3本目になる」と述べた。いずれも、中国の人民解放軍が保有するすべての戦闘機に対応できる規模とされる。

「これらの場所はわずか1年ほどの間に、支柱の上の前哨基地から滑走路が作れる規模の島に変化した」と、ポーリング氏は指摘する。3本の滑走路はどれもまだ稼働していないが、ファイアリークロス礁では仕上げのペンキ塗り作業に入っている模様だ。

南シナ海では中国と東南アジア諸国が領有権を争っている。中国が昨年、岩礁の埋め立てを加速したことに対し、近隣諸国は強い警戒感を表明。米国も工事の即刻中止を求めてきた。

中国は今年6月、埋め立て作業はほぼ完了したと発表したが、埋め立てた島に各種施設を設ける工事は続けるとの方針を示していた。

ポーリング氏によれば、ベトナムやフィリピン、台湾、マレーシアもこの海域に滑走路を建設しているが、現在主流となっている第4世代ジェット戦闘機には対応していない。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は来週、米国を訪問する。オバマ米大統領との会談では、南シナ海での埋め立て工事が主要議題のひとつとなる見通しだ。
ポーリング氏によると、3本目の滑走路建設が両首脳の間の溝をさらに深める事態も懸念される。【9月16日 CNN】
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国際的批判をかわすために、中国は平和目的利用をアピールはしていますが・・・・。

****南シナ海問題】中国、スプラトリー諸島で灯台完成 船舶誘導施設も建設****
中国国営新華社通信によると、中国交通運輸省は9日、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島のクアルテロン(同・華陽)礁とジョンソン南(同・赤瓜)礁で5月から建設していた灯台の完成式典を開いた。

灯台はそれぞれ高さ50メートルで照射距離は22カイリ(約40キロ)。「南シナ海は中国と世界をつなぐ非常に重要な海路だ」として、同省が船舶誘導や人命救助の施設を引き続き建設するという。【10月10日 産経】
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ホワイトハウスで9月25日行われたオバマ・習近平の米中首脳会談では、東・南シナ海を念頭に両国の軍用機の偶発的な衝突を防止するための行動規範に関しては合意がなされましたが、南シナ海問題では平行線をたどったようです。

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オバマ大統領は首脳会談で、東シナ海や南シナ海における安全保障情勢、特に人工島建設に懸念を示したことを、共同記者会見で明らかにした。

それに対し習近平氏は中国外交部報道官と同じように「南シナ海島嶼は中国古来の領土であり、中国は合法、正当な海洋権益を持っている」と突っぱねた。【9月28日 Newsweek 遠藤 誉氏】
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中国の譲らない姿勢にアメリカ政権内において、中国が領海と主張する海域に艦船を航行させるという強い姿勢を検討していることが報じられています。

****南シナ海問題】中国の人工島12カイリ内に近く米艦船航行か 中国「侵犯を断固許さない****
米海軍専門紙「ネイビー・タイムズ」は8日、米軍事筋の話として、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島に中国が建設している人工島の12カイリ(約22キロ)内に、オバマ政権が近く、米軍艦船を航行させる可能性があると伝えた。同紙によると、海軍側はオバマ大統領の承認を待っており、近く命令が下されるとみている。

一方、英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は米政府高官の話として、2週間以内に航行に踏み切る可能性があると報じた。こうした見方についてアーネスト大統領報道官は8日の記者会見で確認を避けた。

国防総省と軍は今年5月ごろから、大統領に対して、国際法で領海と規定されている12カイリ以内の海域とその上空で艦船と航空機を活動させ、中国に強いメッセージを送り牽制(けんせい)するよう繰り返し進言している。

オバマ大統領はしかし、航行させれば事態の緊迫化を招くことから、12カイリ以内での活動を「禁止」し、承認を与えないままの状況が続いている。

これに対し、カーター国防長官や議会の一部議員らはここにきて、大統領やライス大統領補佐官らに承認を再び強く求めている。

背景には、人工島の一つで3千メートル級の滑走路が完成し運用が迫っているとみていることや、先の米中首脳会談では南シナ海問題で進展がなく事実上、「失敗」に終わったことがある。(後略)【10月9日 産経】
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また、オーストラリアなど周辺国と協調して、中国への圧力を強めています。

****<南シナ海>米豪、中国に「強い懸念」・・・埋め立て中止要求****
米国と豪州の外相と国防相は13日、米東部マサチューセッツ州ボストンで閣僚会合を開催し、共同声明を発表した。

この中で、南シナ海で中国が実施した岩礁埋め立てや軍事関連施設の建設に「強い懸念」を表明、中国を含む全ての領有権主張国にこうした活動の停止と事態の外交的解決を求めた。

カーター米国防長官は会合後の共同記者会見で、「国際法が許容するいかなる場所へも、我々は飛行、航行する」と明言。中国が埋め立てた岩礁周辺でも哨戒活動を行う意向を改めて強調した。

カーター氏は、南シナ海での緊張の高まりで、日本やベトナム、フィリピンなどが米海軍との連携強化を求めていると説明。「こうした需要に応えていく」と述べて、同盟や協力関係を強めていく意向を打ち出し、間接的に中国をけん制した。

ビショップ豪外相も南シナ海で「脅迫的で一方的な行動」がないよう、米国や東南アジア諸国連合(ASEAN)などと協力していくと述べた。

共同声明は中国とASEANに対し、衝突回避策などに関し法的拘束力を持つ「行動規範」で速やかに合意するよう求めた。

また、中国の習近平国家主席が9月の訪米時に、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島での建設作業について「軍事拠点化を進める考えはない」と述べたことに言及。「約束を守り、埋め立てによる緊張の緩和を図るべきだ」と指摘した。

米豪両国は海軍の共同訓練や演習を増やし、海洋での情勢把握や水陸両用作戦の向上でも合意。中国の活動が拡大しているとされるサイバー分野でも、情報共有や作戦運用の共通性を高めることを決めた。【10月14日 毎日】
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中国「一部の国が大量の攻撃的武器を展開し、南シナ海で頻繁に武力を誇示している」】
当然ながら、中国は反撥しています。

****米国が「武力誇示」と非難=南シナ海の軍事施設正当化―中国****
中国外務省の華春瑩・副報道局長は14日の定例会見で、中国が造成する南シナ海の人工島周辺に艦船を進入させる構えを見せている米国を念頭に、「一部の国が大量の攻撃的武器を展開し、南シナ海で頻繁に武力を誇示している」と非難、「これこそが南シナ海軍事化の最大の要素であり、重大な懸念を示す」と強調した。

さらに華副局長は「(日米などが)同盟国間で頻繁に特定の標的に絞った軍事演習を行っている」と批判した上で、「このため、われわれが(人工島に)防衛的な性格を持つ軍事施設を配備するのは完全に理解できる」と正当化した。

米、オーストラリアの外務・防衛担当閣僚が共同声明で南シナ海での埋め立てなどに懸念を表明したことについても、「南シナ海問題をあおり立てるのをやめ、言行を慎んでほしい」と不快感を示した。【10月14日 時事】 
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【“開戦シミュレーション”も
こうした事態を受けて、米中が南シナ海で軍事衝突した際のシュミレーションも報じられています。

***南シナ海“開戦シミュレーション” 米軍、防空能力で圧倒 7日間で中国軍撃退****
中国が、南シナ海の岩礁を一方的に埋め立てて人工島とし、軍事基地化を急いでいる問題で、米中両国間に緊張が走っている。軍事力を背景に覇権拡大を進める習近平政権下の中国を牽制するべく、米国のオバマ大統領は近く、中国が「領海」と主張する人工島の12カイリ(約22キロ)内で海軍艦艇を航行させる方針を固めた。

中国側も対抗措置を取るとみられ、軍事的衝突を排除できない状況が予想される。米中が南海の洋上で激突した場合、どうなるのか。専門家は「米側が1週間で撃退する」と分析する。(中略)

中国も反発するのは必至とみられ、応戦する状況を招く可能性がある。

迫る米軍と中国人民解放軍の一触即発の事態。軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「中国側としては絶対に12カイリ以内に米軍の艦艇を入らせたくない。戦闘は12カイリの外で始まる可能性が高い」とし、「ポイントは潜水艦」と指摘する。
 
横須賀(神奈川)に停泊中の米海軍第7艦隊の空母『ロナルド・レーガン』をはじめ、最低でも10艦程度の船団が現地に向かうだろう。その海域には、米中の潜水艦が先回りして情報を収集するはずだ。まず、この潜水艦同士で戦闘が始まる」(世良氏)

米軍は静粛性に優れた原子力潜水艦を運用しているのに対し、人民軍が所有する約半数は通常型のキロ型潜水艦で見劣ることから、世良氏は「緒戦は米軍が圧倒する」と読む。

この事態を受けて、人民軍は戦闘機を飛ばす第2の行動を取るという。
「中国はロシアから購入した機体を自国で生産可能にした主力戦闘機『殲11』で艦艇をねらうだろう。『ロナルド・レーガン』に約50機搭載されている米海軍の戦闘攻撃機『FA18』とは同世代に当たる機種だ。ただし、現代の空戦で求められるのは、レーダーで捕捉する技術。この点は米軍が完全に人民軍を上回っている。パイロットの腕も訓練時間の量から考えて米軍の方が高い」(世良氏)

米本土からは『ラプター』(猛禽類)の愛称を持つ空軍の『F22』が迎撃に参加。同機は、レーダーで捕捉されにくい「ステルス戦闘機」で、南沙諸島に張り巡らされた人民軍の警戒をすり抜けて攻撃を加えるとみられる。

劣勢の人民軍は、複数の艦船を現場に向かわせることになるが、世良氏はその数を「米軍を上回る少なくとも30艦」と予想する。

「海戦で勝敗を分けるのは相手の艦を攻撃する対艦ミサイルをいかに正確に撃てるか、防空能力をどれだけ発揮できるかにかかっている。人民軍は、浙江省の東海艦隊や海南島の南海艦隊から、ミサイル駆逐艦の旅洋I型やII型、より小型のフリゲート艦などを出動させるだろう。だが、対艦ミサイルの正確さ、防空能力のいずれも米軍の艦船のほうが成熟度は高く、人民軍を圧倒している」

人民軍が対艦ミサイルを打ちまくれば、米軍も無傷とはいかないが、12カイリ以内に一定期間、米軍がとどまれば、「国際社会は『中国の野望は打ち砕かれた』と判断することになる」(世良氏)。

総合的な観点からも南シナ海を舞台にした米中戦は、米軍が優位に立つ。両国の衝突について、世良氏は「中国の戦闘機が2〜3機撃墜された段階で、戦力の違いを認めて自制すれば、1週間程度で終結する」とみる。

南シナ海をめぐっての「ドンパチ」に世界中が注視している。【10月15日 夕刊フジ】
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【「ドンパチ」をいかに避けられるかに世界中が注視
“人民軍が対艦ミサイルを打ちまくれば・・・”・・・随分と物騒な話です。

“オバマ大統領は近く、中国が「領海」と主張する人工島の12カイリ(約22キロ)内で海軍艦艇を航行させる方針を固めた”・・・・カーター米国防長官は13日に行われたオーストラリアとの会合後の共同記者会見で、「国際法が許容するいかなる場所へも、我々は飛行、航行する」と明言していますが、ホワイトハウスの最終承認待ちという状況ではないでしょうか。

とかく外交面での「弱腰」批判を受けるオバマ大統領としても、厳しい選択でしょう。

両国の間では、南シナ海問題以外にも懸案事項が存在します。

サイバー攻撃による産業スパイ活動に関しては、首脳会談前に対中国制裁案をちらつかせる形で、両国政府は実行したり支援したりしないことで合意しましたが、アメリカ側にはなお強い中国批判があります。

また、中国当局が数多くの教会を破壊するなど、信仰の自由に対する深刻な侵害が続いていることも踏まえ、ケリー米国務長官が14日、キリスト教徒の人権派弁護士・張凱氏が「信仰の平和的表現のため拘束されている」として釈放するよう呼びかけるなど、人権問題も浮上しています。

こうした状況で、オバマ大統領としても中国に強い姿勢を見せる必要に迫られています。
ただ、いったん作戦を開始すれば、途中で撤回するのは困難です。

米中とも“対艦ミサイルを打ちまくる”ような軍事衝突を起こす考えはないでしょうが、両国艦船が海上(あるいは海中)でにらみ合うような事態、米艦船が短時間問題海域を航行し、中国側は追い出したと主張するような事態はあるのかも。

「ドンパチ」を期待している上記【夕刊フジ】には“南シナ海をめぐっての「ドンパチ」に世界中が注視している”とありますが、“南シナ海をめぐっての「ドンパチ」をいかに避けられるかに世界中が注視している”と言うべきでしょう。
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南シナ海でにらみ合い続く中国・ベトナム 中国漁船拿捕のフィリピン 注目されるASEAN議長国ミャンマー

2014-05-09 22:34:47 | 南シナ海

(「石油空母」とも称される中国石油業界にとっての「戦略兵器」である新型オイルリグ「海洋石油981」
http://www.worldoe.com/html/2014/Platform_0506/8652.html

中越 友好演出も根深い警戒感
南シナ海・西沙諸島(英語名パラセル)近海(ベトナム中部沖約221キロの海域)での中国の掘削活動をめぐる中国とベトナムの艦船同士のにらみあいは依然として続いています。

中国船は「中国海警」と書かれた巡視船や軍の船舶など約80隻で、ベトナム側は海上警察の巡視船や漁業監視船など30隻前後とされています。

****南シナ海 ベトナムは先に撤収しないと反発****
南シナ海で起きた中国とベトナムの当局の船どうしの衝突について、ベトナム側は中国が話し合いの前提として要求した船の撤収に、先に応じることはないと反発し、対立の長期化は避けられない情勢となっています。

中国とベトナムが領有権を争っている南シナ海の西沙諸島周辺の海域では、今月、中国の国有石油会社が海底の掘削作業を進めようとしたのを発端に、両国の当局の船どうしが複数回にわたって衝突しました。

ベトナム当局によりますと、9日は衝突は起きていないものの、依然双方のにらみ合いが続いているということです。

中国政府は、ベトナム側が先に船を撤収させるのが話し合いの前提だと要求していますが、ベトナム政府の関係者は9日、NHKの取材に対し、「中国の主張は受け入れられない。ベトナムの主権を守るため掘削装置の撤去を求め続ける」と述べ、船を撤収させる考えはないと強調しました。

また、ベトナムの国営テレビは、中国の船との衝突で破損した巡視船がベトナム中部の港に戻り、船の前の部分を修理している映像を放送し、修理を終えれば再び現場海域に向かうと伝えています。

ベトナム側が中国側への反発を強めるなか、対立の長期化は避けられない情勢となっています。【5月9日 NHK】
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問題の海域は、ベトナム側が「完全にベトナムの排他的経済水域(EEZ)と大陸棚に属する」としているのに対し、中国側は「中国の領土から17海里の接続水域だ」としています。

“中国は南シナ海の大半を占める「9段線」という国際法にはない独自の概念を根拠に同海での実効支配を強化。背景には南シナ海には豊富な地下資源があることや、海底が深く潜水艦が航行しやすいなど軍事的要衝に適していることがあり、領有権を主張するベトナムやフィリピンなど周辺国に対し、軍事力を背景に強硬姿勢も辞さない。
石油の掘削も2012年6月、南シナ海の9鉱区にわたる開発計画を発表するなど、着々と進めてきた。”【5月8日 朝日】

西沙諸島は、旧宗主国フランスが去った後は、西半分を南ベトナムが、東半分を中国が占領して対峙していましたが、ベトナム戦争末期の1974年、中国側が武力で南ベトナムを排除(西沙諸島海戦)し、そのすべてを実効支配しています。

こうした西沙諸島の領有をめぐる経緯や、近海での漁船妨害の問題で、ベトナムは一時フィリピンと同様に中国と厳しく対立もしましたが、最近は関係を緩和させていました。

“中国は昨年10月、李克強(リーコーチアン)首相が就任後初めてベトナムを訪問し、トンキン湾外での共同開発に向けた作業チーム立ち上げに合意するなど、対立するフィリピンとは異なり、友好的な関係を演出してきた。”

基本的には、ベトナムにとって中国は国境を接する経済関係も強い大国であり、また、1979年にはカンボジアへのベトナムの侵攻を巡って実際に戦火(中越戦争)を交えたこともありますので、中国に対する強い警戒心はあるものの、中国批判デモをときには容認したり、再び抑え込んだりと、対中国関係には慎重で過熱しすぎないような対応をこれまでもとってきました。

“友好的な関係を演出してきた”最近の状況から、今回の衝突については、双方とも“意外感”を表しています。

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中国当局がベトナム沖での掘削活動を行うと表明したのは3日。ベトナム外務省は4日に「許可のない外国の行為は違法であり無効」とする声明を発表。ファム・ビン・ミン外相兼副首相は6日に楊潔チー(ヤンチエチー)・国務委員と電話で会談。報道によると「受け入れられない。国民感情にもダメージ」と訴えた。最近は友好ムードだっただけに、外務省関係者は「なぜいま……」と戸惑う。【5月8日 朝日】
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“「正常な企業活動に対しベトナムが激しく妨害する事案が発生したことは大変意外であり、驚きだ。この海域での掘削作業は10年前から行っている」(中国国境海洋事務局の易先良副局長)

もっとも、両国の間には根深い警戒感が存在しています。

“今年は中国がパラセル諸島を実効支配するきっかけとなった西沙諸島海戦から40年、中越戦争から35年という節目のため反中感情が高まっていた。
一方、中国の専門家が「ベトナムが西沙を釣魚島(尖閣諸島の中国名)のように争いのある国際問題にして突破口を開くことは可能だ」と話すなど、中国側はベトナムに対し警戒心をあらわにしていた。”【5月7日 NHK】

石油開発をめぐる状況を一変させるものになる可能性がある新型オイルリグ
中国側は“の海域での掘削作業は10年前から行っている”としていますが、今回中国が投入したオイルリグは「海洋石油981」と呼ばれ、中国海洋石油が約750億円を投じて建造し、2011年に完成。海上移動が可能なことから「石油空母」と称されるものです。

****中国、南シナ海で周辺国と米国の出方を探る****
・・・・・このリグはありきたりのリグではない。高さ138メートルのプラットフォームは中国初の深海リグで、水深3000メートルでの作業ができる。2年前に鳴り物入りで完成したこのリグは、中国石油業界にとっての「戦略兵器」と言われる。

このリグは、石油開発の大幅な拡大という以前からの中国の目標を実現可能にすることで、石油開発をめぐる状況を一変させるものになる可能性がある。

シンガポール国立大学エネルギー研究所のフェロー、クリストファー・レン氏は南シナ海での中国の石油掘削について、「その意図は以前からあった」とし、「今やそれができるようになったということだ」と述べた。

しかし、安保問題のアナリストは、紛争は石油リグ、それに南シナ海の天然資源の開発をめぐって起きているが、問題はこの対立がもたらす結果がどのような先例として残るかであり、中国の周辺国と米国が、中国に対し紛争海域の戦略資源をほしいままにすることを認めるかどうかだ(と指摘している)。

専門家らは、アジアの一部の同盟国がオバマ政権のアジアでの軸足がぐらついていると不安を抱いている時に、中国は、米国がこれらの同盟国に対する支援の約束を守るかどうかを試しているのだと指摘した。(後略)【5月9日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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対アメリカで言えば、アメリカ国務省のサキ報道官が「中国が争いのある海域で一方的に掘削を始めた。挑発しているのは明らかだ」と述べたことに対して、「最近のアメリカによる事実を顧みない無責任で誤った一連の発言が、一部の国の危険な挑発を助長している。アメリカにはこの問題で言動を慎むよう求める」(中国外務省の華春瑩報道官)と強くけん制しています。

また、菅官房長官や岸田外務大臣が「境界が未確定の海域における中国の一方的かつ挑発的な海洋進出活動の一環だ」と指摘したことに対しても、「日本があわてて出てきて、こんな発言をするのは、事の是非を混同し火事場泥棒をたくらんでいるからだ」と強く反発しています。【5月9日 NHKより】

フィリピン:国内法に基づいて手続きを進める方針
一方、これまで中国と激しく領有権を争ってきたフィリピンが、南シナ海の係争地域である南沙諸島(英語名スプラトリー)付近でウミガメの密猟をしたとして中国漁船を拿捕した件も、対立が深まっています。

****中国船員逮捕 中国と比の対立激化か****
南シナ海でフィリピンの警察が中国の漁船を拿捕(だほ)し、これに中国側が反発している問題で、フィリピン側は逮捕した乗組員についてあくまで国内法に基づいて手続きを進める方針を示し、身柄の即時解放を求める中国側との対立が深まりそうです。

この問題は6日、南シナ海の南沙諸島付近でフィリピンの警察が中国の漁船を拿捕(だほ)し乗組員11人を逮捕したのに対し、中国側が、一帯の海域の主権は中国にあるとして乗組員の即時解放を求めているものです。

フィリピンの国家警察は、8日首都マニラで会見して逮捕の経緯について明らかにし、不審なフィリピンの漁船を見つけ追跡した結果、中国国旗を掲げた漁船に近づき、国際的な取引が規制されているウミガメを洋上で受け渡したことから、中国の漁船の乗組員11人を含む双方の乗組員16人の逮捕に踏み切ったと説明しました。

警察は、現在フィリピンのパラワン島の施設で乗組員を取り調べており、今後の身柄の取り扱いについては、あくまで国内法に基づいて手続きを進める方針を示しました。

フィリピン政府は、警察による一連の行為はフィリピンの排他的経済水域内で行われた正当なものだと主張していますが、中国側は強く反発しており、今後両国の対立が深まりそうです。【5月8日 NHK】
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中国に対し慎重な対応をとってきたベトナムと異なり、フィリピンは中国への一貫した強硬姿勢をとってきました。
フィリピンは南沙諸島の領有権をめぐり国連海洋法裁判所に仲裁を申し立てています。

また、フィリピンは中国との対立にあたりアメリカの後ろ盾を求める姿勢も明らかにしています。

****米軍、比に再駐留へ=新協定調印、中国けん制****
米国、フィリピン両政府は28日午前、新軍事協定に調印した。
フィリピン国内基地の共同使用など米軍の事実上の駐留を認める内容。1992年に全面撤退した米軍が再び拠点を構築することで、軍事力を背景に南シナ海への海洋進出を強める中国をけん制する狙いがあるとみられる。

調印式は、マニラ首都圏の国軍本部(アギナルド基地)で、フィリピンのガズミン国防相とゴールドバーグ米大使が署名。同日午後にはアジア歴訪中のオバマ米大統領がマニラに到着し、アキノ大統領と南シナ海問題などについて話し合う。

協定期間は10年で、フィリピン国軍施設の共同使用や米軍の一時的施設の建設、合同軍事演習の強化などが柱。フィリピン憲法は外国軍の駐留を禁止しているため、米軍はローテーション形式で駐留し、協定にも「常駐」ではないことも明記された。
 
軍の展開地域については、一部の国軍基地内としたが、具体的な場所は付属文書で定めるとした。ただ、これまでの交渉では、対象に冷戦時代に米軍が拠点とし、現在国軍施設があるスービック地区も含まれている。【4月28日 時事】 
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アメリカ側からすれば、フィリピンとの協定は“オバマ政権が掲げるアジア太平洋地域を重視する「リバランス(再均衡)」政策の一環。東西冷戦期にアジア最大の戦略拠点としていたフィリピンに米軍が「回帰」し、南シナ海でフィリピンを含めた周辺国を威圧する中国を強くけん制する。”というものになります。

中国はフィリピンに対し、“華報道官は「ただちに無条件で乗組員と船を解放し、二度と同じようなことを起こさないよう重ねて要求する。中国側はさらなる行動をとる権利を留保する」と述べ、フィリピンに対する報復の可能性を示唆しました。”【5月9日 NHK】と、強い姿勢を見せています。

ASEAN 今年の議長国ミャンマーにとって最初の大舞台
豊富な天然資源が眠るとされる南シナ海では、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張していますが、対立回避のため東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は2002年に行動宣言を結んで自制と協調を目指しました。
しかし、中国側の規制に対する消極的な対応と現場海域での強硬な姿勢で、実効をあげていません。

明日から開催されるASEANの会議では、当然にこの南シナ海問題が焦点にると思われます。

****ASEAN:議長国ミャンマー融和へ重責 11日首脳会議****
ミャンマーの首都ネピドーで11日、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開かれる。10日には外相会議もあり、今年の議長国ミャンマーにとって最初の大舞台となる。

2015年末に控える「ASEAN共同体」創設や領有権争いが続く南シナ海の緊張緩和に向け、重要なかじ取りを担う。

ミャンマーは1997年、ASEANに加盟し、06年に議長国就任が予定された。だが当時の軍政は、民主化勢力への弾圧などを理由に米欧から批判を受け、辞退した。11年の民政移行を受け、今年の議長国就任が決まった。

テインセイン大統領は昨年のブルネイでのASEAN首脳会議で、域内統合の深化を目指すASEAN共同体の実現に向け「他の加盟国と一丸となり取り組む」と決意を表明。国内では「(民主化)改革の良い手本を加盟国に示し、国際社会に国家の威厳を示す千載一遇のチャンスだ」と演説している。

だが、南シナ海を巡り、中国と対立するフィリピンやベトナム、多額の経済支援を背景に中国寄りの姿勢を示すカンボジアなど、加盟国の間で立場に違いがある。

米国と新軍事協定を結んだばかりのフィリピンは先日、「違法操業」を理由に中国漁船を拿捕(だほ)し、中国と非難合戦。ベトナムは中国の石油掘削を巡って中国と艦船同士の衝突を招くなど、緊張が再び高まっている。今回の一連の会議で、フィリピンやベトナムといった反中派が中国への危機感共有を強硬に訴える可能性もある。

12年のASEAN外相会議では、当時のカンボジアが加盟国間の調整に失敗、共同声明を出せないという異例の事態を招いた。

ミャンマーは軍政時代、米欧の経済制裁を受けて中国との関係を強化したが、国際社会との協調外交に転じた今、各国の利害対立をどう乗り越え、ASEAN統合を主導するか注目される。

ミャンマーでは今年1月の非公式外相会議を皮切りに年内に240以上の関連会議が予定される。8月には米中に北朝鮮も参加するASEAN地域フォーラム(ARF)、11月には日米中露印などが出席する東アジアサミットが開かれる。【5月8日 毎日】
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民主化の努力が国際的に認知され、ようやく手にした“最初の大舞台”で、議長国ミャンマーがどのような議事運営を見せるか非常に注目されます。
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南シナ海  “艦船にらみあい”は解けたものの、ベトナム海洋法と中国「三沙市」で新たな緊張

2012-06-23 21:31:03 | 南シナ海


(撮影日付“4月10日”ということで、スカボロー礁(中国名・黄岩島)付近での中国・フィリピンの“にらみあい”が始まった日の様子のようです。どの艦船がどちら側のものかは分かりません。“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/7273841860/

フィリピン監視船、悪天候を理由に帰港
南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)付近海域で4月10日から続いていた中国とフィリピンの艦船のにらみあいについては、これまでも何回か取り上げてきました。
前回、5月1日ブログ「南シナ海  3週間続く中国・フィリピン艦船のにらみ合い 解決を難しくする国内“弱腰”批判」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120501)で、“そのうちこの海域で台風でも発生すれば、気象条件悪化を理由に、領有権問題に触れずに両国が同時に艦船を引くということもできるのでは・・・”と書いたのですが、実際似た様な展開になったみたいです。

****フィリピンが巡視艇引き揚げ 南シナ海、悪天候理由****
フィリピンのアキノ大統領は15日夜、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)付近の海域で中国の艦船とにらみ合いを続けてきた沿岸警備隊の監視船2隻に、悪天候を理由に帰港を命じた。

フィリピンのデルロサリオ外相が16日、明らかにした。同礁の主権をめぐり4月10日以降、対立してきた両国だが、初めて一方が引き揚げることになる。フィリピン当局によると、中国側は監視船や漁船など約20隻が同礁周辺にとどまっている、

日本の気象庁によると、強い台風4号がフィリピン東部を北上中。外相によると、艦船の再派遣については天候が回復し次第、改めて検討するという。ただ、緊張緩和への道を探っているとの見方もある。(四倉幹木)【6月17日 朝日】
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上記記事では、中国側はまだ残っているとのことですので、フィリピン側の再派遣を含めて、今後については不明確です。

【「懸念されるのは、中国の誤った判断による発砲と軍事衝突だ」】
艦船にらみ合いが収まったとしても、ここにきて別の問題も浮上しています。
フィリピンと並んで、中国に対する強硬な姿勢をとっているベトナムが、南シナ海の領有権を明確に定めた同国初の海洋法を採択、当然ながら中国は反発しています。

****ベトナム海洋法が成立=南シナ海の領有権明記*****
ベトナム国会は21日、南シナ海の領有権を明確に定めた同国初の海洋法を採択した。来年1月から発効する。中国などが領有権を主張する南沙(英語名スプラトリー)、西沙(同パラセル)両諸島の主権や排他的経済水域(EEZ)を規定しており、領海権をめぐる対立激化が予想される。

海洋法は7章55条で構成され、議員496人中495人の圧倒的多数で成立した。第1条で両諸島の主権を宣言しているほか、沿岸の領海、EEZ、大陸棚の範囲を明記。また、領海紛争は、1982年国連海洋法に基づき平和的な方法で解決するとしている。
グエン・ハイン・フック国会事務局長は記者会見で、「長い海外線を有するベトナムには海洋法が必要だ。諸外国との関係に悪影響を及ぼすとは考えていない」と述べた。

しかし、中国外務省は海洋法成立直後に「中国の主権を侵害し、違法かつ無効」との抗議声明を発表。海洋・海底資源が豊富とされる南沙諸島は中越のほかフィリピン、マレーシア、台湾、ブルネイも領有権を主張しており、今後の綱引きが激しさを増しそうだ。【6月21日 時事】
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一方、同じ21日、中国は南シナ海の西沙、南沙、中沙の3諸島を海南省の三沙市にすると発表、領有権を争うベトナム、フィリピンなどは警戒と反発を強めています。

****南シナ海3諸島、「市」格上げ=比越など周辺国との摩擦必至―中国****
中国国務院(中央政府)は、フィリピンやベトナムなどとの領有権争いを抱える南シナ海の西沙(英語名パラセル)、南沙(同スプラトリー)、中沙(同マックルズフィールド・バンク)の3諸島を「三沙市」に格上げすることを承認した。民政省が21日発表した。海洋・海底資源が豊富な3諸島の主権を誇示し、南シナ海での影響力を拡大するための措置とみられ、周辺国との摩擦は必至だ。

新華社電によると、民政省報道官は「三沙市設立は3諸島の島・礁や海域の行政管理、開発建設をさらに強化し、南シナ海の海洋環境を保護するのに有益だ」と強調した。

3諸島を自国領土と主張する中国政府はこれまで、3諸島について海南省の「弁事処」(事務所)が管轄してきたが、国務院はこのほど弁事処を廃止し、同省三沙市を設立することを承認した。同市人民政府は西沙諸島の永興島(英語名ウッディ島)に置くとしている。【6月21日 時事】
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中国の今回措置に、フィリピン政府筋は「強引な態度であり、中国は今後、南シナ海での示威行動を、さらに強めてくるだろう」とみており、ベトナム外務省は「強く反対する」との抗議声明を出しています。
緊張が高まるなかでの“誤った判断による発砲と軍事衝突”を懸念する声もあります。

****南シナ海 中国、3諸島に「三沙市」 越・比、警戒と反発****
・・・・こうした関係当事国の主張がぶつかり合う領有権問題は、東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめ、多国間の枠組みが実質的に機能せず、「領有権問題には第三国が介入しにくい」(外交筋)こともあり、解決の糸口すら見えない。

オーストラリア国立大学のポール・ディブ教授は「問題は、中国が国際海洋法を受け入れないことにある」と話す。また、中国が実効支配を強める中で「懸念されるのは、中国の誤った判断による発砲と軍事衝突だ。関係当事国などと中国の間には、1972年に米ソが締結したような『公海・上空における事故防止協定』もない。中国が関心を示さない」と憂慮する。【6月23日 産経】
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緊張が極限まで高まっているシリアでは、トルコ空軍機をシリア側が撃墜する事件も起きており、今後の展開が憂慮されていますが、緊張状態にあっては偶発的な出来事、あるいはチキンレース的なエスカレーションが軍事衝突に拡大しかねません。

【「国家が強大になったのに、国家の安全がもっと侵蝕されるのはなぜだ?」】
中国国内には、中国が経済的・軍事的国力を増大させているにもかかわらず、中国を取り巻く政治・経済環境がむしろ悪化していることに対する戸惑い・疑問もあるようです。

人民日報系の国際情報紙「環球時報」は、そうした国際環境の悪化の理由・背景として4つほど指摘しています。
ひとつは、経済について言えば、リーマンショックや欧州危機のような欧米側の経済状況悪化は、経済関係を通じて、結果的には中国にとっても悪影響を及ぼすことになること。

ふたつには、欧米先進国に中国とともに対峙するはずの新興国・途上国にあっても、国益やイデオロギーの面で中国と相当の隔たりがある国家が圧倒的に多く、中国がこうした国々から明確な支持を得ることが難しいことを挙げています。

残るふたつについては、下記のとおりです。
****中国を取り巻く国際環境はなぜ厳しくなっているのか―中国メディア****
・・・・ネットメディアを始めとする新技術の助けを借りた、個人や小さなグループによる国家や国際社会への挑戦が勢いづいている。中国が自らの発展路線を堅持し、各国の発展モデルが多様化する一方で、個人の自由、平等、人権、民主などの観念も世界的規模で人々の心に一段と深く浸透してきている。これらはいずれも中国の国際戦略環境において軽視できない試練だ。
(中略)
第4に、中国はパワーと地位の高まりに伴い、安全保障面で一段と厳しい苦境に直面している。
中国が自らの安全のために国防力を強化する過程で、周辺国と米国は中国の平和的発展の意図を疑うだけでなく、中国をにらんだ防備措置を強化し、対中戦略の協調を図り、中国に対して安全保障上一層の圧力を形成している。

このため一部の中国人は現在、国力の弱かった過去よりも大きな不安感や焦りを覚え、「被害者感情」を深めている。「国家が強大になったのに、国家の安全がもっと侵蝕されるのはなぜだ?」というのが、民衆がおしなべて抱える疑問だ。
この疑問に対する答えは一般的に(1)国防への投入がまだ不十分(2)周辺国や米国に対する政策が軟弱すぎる―の2つだ。
こうした「安全保障面の苦境」を短期間で脱するのは困難だ。対外関係における中国の真の実力、政策手段、戦略計画は、引き続き国民の期待に追いつかない状態が続く。【6月21日 Record China】
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「国家が強大になったのに、国家の安全がもっと侵蝕されるのはなぜだ?」との民衆の疑問への答えが、(1)国防への投入がまだ不十分(2)周辺国や米国に対する政策が軟弱すぎる・・・の2点であっては、ますます国際社会からの信頼獲得からは遠ざかります。

中国が信頼を得られないのは自業自得ですが、緊張の高まりで周辺国が迷惑します。
“個人の自由、平等、人権、民主などの観念も世界的規模で人々の心に一段と深く浸透してきている”との認識にたって、関係国との協調の方向で行動してもらいたいものです。

もっとも、国際紛争で一番厄介なのは「被害者感情」的な国内世論の存在とも言えます。
中国が現在のような政治システムだからこそ、今のレベルで収まっているのであり、もし、民衆の不安感や焦りがストレートに政治に反映するような政治システムであれば、激高しやすい世論を抑えきれず、今よりもっと危険な状況になっているのかも・・・そんな感もあります。
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