(5月13日、ノルウェーの外務副大臣(左)と会談するスー・チーさん “flickr”より By Utenriksdept http://www.flickr.com/photos/utenriksdept/5715503105/ )
【「自由」の身で誕生日を祝うのは9年ぶり】
形式上“民政移管”したミャンマーですが、ここしばらくは民主化運動のシンボルであるスー・チーさんに対してはあまり干渉しない姿勢(あるいは、無視する姿勢)を見せていました。
66歳の誕生日には、英国に住む次男も駆けつけてお祝いしたと報じられています。
****スーチーさん:66歳誕生日 英国から次男も駆けつけ****
ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんが19日、66歳の誕生日を迎えた。長年軍事政権によって自宅軟禁されてきたスーチーさんにとって、「自由」の身で誕生日を祝うのは9年ぶり。英国に住む次男キム・エアリスさんも駆けつけ、スーチーさんは母の顔を見せた。
昨年11月の軟禁解除後にミャンマーを訪れ、約10年ぶりの親子対面を果たしたキムさんがこの日再びミャンマー入り。空港で出迎えたスーチーさんのほおにキスをした。
スーチーさんは近く地方遊説に出る意向を表明している。しかし、00年と03年に地方遊説しようとしたスーチーさんを軍事政権は拘束しており、民政移管を果たした形の現政権の対応が注目される。【6月19日 毎日】
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スー・チーさんは、ミャンマーの“民政移管”について、「変化は感じられない」との評価をしています。
****実質的な軍政続いている…スー・チーさん****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは18日、インターネット電話を通じてインドネシア、タイの国会議員や読売新聞などと会談した。
スー・チーさんは、ミャンマー政府が「民政移管を終えた」としていることについて「変化は感じられない」と述べ、実質的な軍政が続いているとの認識を示した。
また、ミャンマー政府が2014年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国就任を目指していることに「理解できない。国民生活の改善など、ほかにやるべき重要なことがある」と反対の意を示した。ミャンマーの議長国就任には米国が懸念を表明。5月にジャカルタで開かれたASEAN首脳会議では結論が出なかった。
ミャンマーのテイン・セイン大統領はスー・チーさんら民主化勢力との対話に前向きな姿勢を示したが、スー・チーさんは「政府からは何の働きかけもない」とした。【6月19日 読売】
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【「無視」から「禁止」へ】
5月30日には、香港の大学とのビデオ会見で「6月にも出かけたい。どこへ行くかはまだ明らかにできない」と、最大都市ヤンゴンを離れてミャンマー国内の地方遊説に出る意向を示していました。
しかし、地方遊説となると、政権側としてさすがに放置はできないようで、スー・チーさんと「国民民主連盟」(NLD)に対し、政治活動の禁止を改めて通告し、もし地方遊説を強行すれば再び拘束される恐れも出てきています。
****ミャンマー:政治活動禁止を通告 スーチーさんとNLDに*****
ミャンマー内務省は28日、民主化運動指導者のアウンサンスーチーさん(66)と「国民民主連盟」(NLD)に対して、政治活動の禁止を改めて通告した。国営紙「ミャンマーの新しい灯」が29日報じた。スーチーさんは7月に地方への遊説旅行を始める意向を示しており、禁止通告にはスーチーさんの地方遊説を阻止する狙いがあるとみられる。
同紙によると、内務省は、解党処分となったNLDが政治活動を続けているのは違法と指摘。スーチーさんとNLDに「法に従った行動」を取るよう求め、スーチーさんが社会問題に関わりたいのなら新たな社会活動組織を設立すべきだと指摘した。同紙は論評記事で、スーチーさんが地方旅行に出れば「混乱と暴力を招く恐れがある」と警告した。
ミャンマー軍部はスーチーさんが地方に影響力を拡大することに神経をとがらせ、00年と03年には地方旅行に出たスーチーさんを拘束し、そのまま長期の自宅軟禁下に置いた。軍事政権は今年3月の民政移管で消滅したが、新政権が改めて警告を発したことで、スーチーさんが地方旅行を強行すれば再び拘束される恐れも出てきた。
スーチーさんは地方旅行の日程や目的地を「未定」としている。在ヤンゴン外交筋は「手始めにヤンゴンに近い地域への遊説旅行を試みる」とみている。
新政権はこれまでスーチーさんの政治活動を「無視」してきたが、「禁止」の立場を明確にしたことで、政権側にスーチーさんを政治勢力として認めて対話する意思がないことがはっきりした。新政権の民主化への取り組みを「不十分」として制裁措置を継続する米国など国際社会との関係改善が一層困難になるのは確実だ。【6月29日 毎日】
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これに対し、スー・チーさんは反発を強めています。
****スー・チーさん、政治活動中止を求める通告に強く反発*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは29日、ヤンゴン市内で菊田真紀子外務政務官らと会談した。外務省の説明によると、スー・チーさんは政治活動の中止を求めたミャンマー政府の通告に対し「見解が違う。相談なしに一方的に発表された」と強く反発したという。(後略)【6月30日 朝日】
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【国際世論への働きかけ、されど・・・・】
総選挙をボイコットとして解党処分を受けたNLDの政治活動が認められないこと、スー・チーさんの活動にも制約が課されることは、想定されていたことでもあります。
スー・チーさんはアメリカ議会でビデオ証言したり、日本の外務政務官の会談したりして、従来からの主張をアピールしています。
*****「民主化へ協力を」スー・チーさん、米議会でビデオ証言*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが22日、米下院外交委員会アジア太平洋小委員会の公聴会で録画済みビデオを通じて初めて証言し、政治犯の釈放など民主化の実現に向け、協力を要請した。
スー・チーさんは、国連人権理事会が今年3月の決議で、政治犯の釈放や司法権の独立などをミャンマー政府に求めたことに触れ、「真の民主化プロセスを始めるためにまさに必要な内容だ」と評価した。中でも司法権の独立なしに「民主化の真の前進はありえない」と強調した。決議内容の実現に向けて、「できることは全て実施するように要請したい」と米議会に協力を呼びかけた。【6月23日 朝日】
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*****ミャンマー:日本の外務政務官、スーチーさんに支援伝える****
ミャンマー訪問中の菊田真紀子外務政務官は29日、最大都市ヤンゴンで民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんと会談した。日本高官とスーチーさんの会談は02年の川口順子外相以来約9年ぶり。総選挙や民政移管の評価などで意見交換し、日本が今後も民主化を支援していく方針を伝えたとみられる。
今回の訪問を日本は「新政権との積極的な対話の第一歩」と位置付けている。政務官は28日、首都ネピドーでワナマウンルウィン外相と会談、民主化に向けた一連の動きを「不十分ながら一歩前進」と評価する一方、スーチーさんとの対話や政治犯の釈放を求めた。
しかし、政務官とスーチーさんの会談当日にぶつける格好で、国営紙がスーチーさんに対する政治活動の禁止通告を報じ、ミャンマー新政権との対話の難しさを印象付けた。【6月29日 毎日】
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こうした国際社会へのアピールは、スー・チーさんならではの活動ではありますが、NLDも解党処分を受けた現状では国内基盤が更に脆弱になった感は否めません。
たとえ不本意でも総選挙に参加し、議会になにがしらかの足場を築く方策もあった訳で、総選挙ボイコットが賢明な判断だったかどうかについては疑問もあります。
国際社会がいくらスー・チーさんを支持しても、ミャンマー国内の政治は微動だにしません。
【少数民族との武力衝突】
ミャンマーでは、政府軍と少数民族の武力衝突が続いています。
****ミャンマー・カチン族と政府軍、続く衝突 中国も圧力、鎮圧苦慮****
ミャンマー北部カチン州で、政府軍と少数民族カチン族の武装勢力との武力衝突が激化している。現場は中国との国境付近。中国が出資する水力発電ダムの建設が中断し、住民1万人以上が避難した。周辺には中国が建設中のガスパイプラインもあり、ミャンマー政府は、事態の沈静化を求める中国の圧力も受け、内憂外患の状況にある。
主な戦闘地域は、国境からバモーへ流れるターペイン川周辺。数人が死亡し、カチン独立軍(KIA)は25カ所の橋を爆破し、2カ所の水力発電ダムから中国人技師約30人を一時、連れ去った。200人以上が中国へ帰還している。
ダムが完成すると、電力の9割が中国へ輸出され、KIAは「地元に還元されない」と建設に反対している。政府は、国境付近での少数民族の「反乱」を懸念する中国の意向も背に、ダム周辺からのKIA排除に躍起になっている。
事の本質はしかし、根深い。ミャンマーの人口約5千万人のうち、ビルマ族が68%を占め、その他はシャン、カレン、ラカイン、カチン族などの少数民族。細分化すると135民族とされる。だが、ミャンマー(ビルマ)が1948年に英国から独立した際、少数民族にはビルマ族と同等の権利が認められなかった。
根底にあるのは、これを起源とした、自治などを求める少数民族の武装勢力と、政府側との長年にわたる対立である。過去に停戦協定が結ばれたが事実上、破綻しているのが実情だ。
カチン州以外でも、例えばタイと国境を接する東部カレン(カイン)州では、カレン族と政府軍が対峙(たいじ)している。少数民族の武装勢力が、共闘することで合意したとの情報もあり、周辺国を巻き込みながら緊張がさらに高まる恐れもある。【6月22日 産経】
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【通貨高で輸出産業打撃】
経済的にも、通貨高で困難な状況にあります。
****通貨高、ミャンマー悲鳴 直接投資急増、輸出は打撃****
ミャンマー(ビルマ)で現地通貨のチャット高が急速に進んでいる。対ドル上昇率は1年で20%を超えた。20年ぶりの総選挙を経て3月に発足した新政権は、経済自由化の柱に農水産物や縫製品の輸出などを掲げるが、さっそく試練に直面している。
「輸入品の価格を下げます」。ヤンゴンなどに展開する高級スーパーチェーン「シティーマート」は6月中旬、各店に告知を出した。ある支店の店員によると、シンガポールやタイなどを通じて輸入するコーヒーやバター、シャンプーなどを10%値下げした。
同じ頃の実勢レートは2002年以来の高値となる1ドル=740チャット。去年6~7月が980~1千チャットだったから、1年間で約25%のチャット高が進んだことになる。
だが恩恵は限定的だ。コメやタマネギなどの野菜、食用油などの必需品の価格は、この1年でほぼ横ばいかやや上昇傾向にある。
打撃を受けているのが、豆類やコメなどの農産物、縫製品、木材、水産物などの輸出産業だ。コメは最近、日本製の精米機を導入するなどして輸出に力を入れるが、「今の為替レートでは赤字。それでも顧客との長期的な関係を考え、輸出を止めるわけにはいかない」(輸出業者)という。
対日輸出の5割近くを占める縫製業も苦しい経営が続く。従業員にドル建てで給与を支払う日系企業なども賃金の見直しなどの対応に追われている。
チャット高の大きな要因として挙げられるのが、世界的なドル安傾向に加えて、海外から急増する直接投資だ。政府当局によると、1988年~昨年3月の投資総計は160億ドルだが、昨年4月からの1年間の投資額はそれを上回る200億ドル(約1兆6千億円)。このうち約7割を、香港を含む中国が占める。
国営企業や政府所有不動産の民間への売却が今年1月と2月にも実施されたことも要因に挙げられる。英字週刊紙ミャンマータイムズによると、291件の落札総額は8兆チャット(約8千億円)に達した。この最終支払期限の7~8月を前に「市場でチャットを買う動きが活発になり、チャット高に拍車をかけている」(経済学者のイ・イ・ミン氏)という。【6月28日 朝日】
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政治的自由を声高に主張し、その結果また“自宅軟禁”となり国内政治から隔離されるよりは、山積する課題に地道に対応する道を探すほうがいいように思われます。
あまりに長い“自宅軟禁”を続けていると、ミャンマーの人々の暮らしの実態も見えなくなってしまうのでは・・・とも危惧します。