孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  スー・チーさんの地方遊説に、政権側は政治活動禁止を通告

2011-06-30 23:14:00 | 国際情勢

(5月13日、ノルウェーの外務副大臣(左)と会談するスー・チーさん “flickr”より By Utenriksdept http://www.flickr.com/photos/utenriksdept/5715503105/

【「自由」の身で誕生日を祝うのは9年ぶり
形式上“民政移管”したミャンマーですが、ここしばらくは民主化運動のシンボルであるスー・チーさんに対してはあまり干渉しない姿勢(あるいは、無視する姿勢)を見せていました。
66歳の誕生日には、英国に住む次男も駆けつけてお祝いしたと報じられています。

****スーチーさん:66歳誕生日 英国から次男も駆けつけ****
ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんが19日、66歳の誕生日を迎えた。長年軍事政権によって自宅軟禁されてきたスーチーさんにとって、「自由」の身で誕生日を祝うのは9年ぶり。英国に住む次男キム・エアリスさんも駆けつけ、スーチーさんは母の顔を見せた。

昨年11月の軟禁解除後にミャンマーを訪れ、約10年ぶりの親子対面を果たしたキムさんがこの日再びミャンマー入り。空港で出迎えたスーチーさんのほおにキスをした。
スーチーさんは近く地方遊説に出る意向を表明している。しかし、00年と03年に地方遊説しようとしたスーチーさんを軍事政権は拘束しており、民政移管を果たした形の現政権の対応が注目される。【6月19日 毎日】
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スー・チーさんは、ミャンマーの“民政移管”について、「変化は感じられない」との評価をしています。
****実質的な軍政続いている…スー・チーさん****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは18日、インターネット電話を通じてインドネシア、タイの国会議員や読売新聞などと会談した。

スー・チーさんは、ミャンマー政府が「民政移管を終えた」としていることについて「変化は感じられない」と述べ、実質的な軍政が続いているとの認識を示した。
また、ミャンマー政府が2014年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国就任を目指していることに「理解できない。国民生活の改善など、ほかにやるべき重要なことがある」と反対の意を示した。ミャンマーの議長国就任には米国が懸念を表明。5月にジャカルタで開かれたASEAN首脳会議では結論が出なかった。

ミャンマーのテイン・セイン大統領はスー・チーさんら民主化勢力との対話に前向きな姿勢を示したが、スー・チーさんは「政府からは何の働きかけもない」とした。【6月19日 読売】
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【「無視」から「禁止」へ
5月30日には、香港の大学とのビデオ会見で「6月にも出かけたい。どこへ行くかはまだ明らかにできない」と、最大都市ヤンゴンを離れてミャンマー国内の地方遊説に出る意向を示していました。
しかし、地方遊説となると、政権側としてさすがに放置はできないようで、スー・チーさんと「国民民主連盟」(NLD)に対し、政治活動の禁止を改めて通告し、もし地方遊説を強行すれば再び拘束される恐れも出てきています。

****ミャンマー:政治活動禁止を通告 スーチーさんとNLDに*****
ミャンマー内務省は28日、民主化運動指導者のアウンサンスーチーさん(66)と「国民民主連盟」(NLD)に対して、政治活動の禁止を改めて通告した。国営紙「ミャンマーの新しい灯」が29日報じた。スーチーさんは7月に地方への遊説旅行を始める意向を示しており、禁止通告にはスーチーさんの地方遊説を阻止する狙いがあるとみられる。

同紙によると、内務省は、解党処分となったNLDが政治活動を続けているのは違法と指摘。スーチーさんとNLDに「法に従った行動」を取るよう求め、スーチーさんが社会問題に関わりたいのなら新たな社会活動組織を設立すべきだと指摘した。同紙は論評記事で、スーチーさんが地方旅行に出れば「混乱と暴力を招く恐れがある」と警告した。

ミャンマー軍部はスーチーさんが地方に影響力を拡大することに神経をとがらせ、00年と03年には地方旅行に出たスーチーさんを拘束し、そのまま長期の自宅軟禁下に置いた。軍事政権は今年3月の民政移管で消滅したが、新政権が改めて警告を発したことで、スーチーさんが地方旅行を強行すれば再び拘束される恐れも出てきた。
スーチーさんは地方旅行の日程や目的地を「未定」としている。在ヤンゴン外交筋は「手始めにヤンゴンに近い地域への遊説旅行を試みる」とみている。

新政権はこれまでスーチーさんの政治活動を「無視」してきたが、「禁止」の立場を明確にしたことで、政権側にスーチーさんを政治勢力として認めて対話する意思がないことがはっきりした。新政権の民主化への取り組みを「不十分」として制裁措置を継続する米国など国際社会との関係改善が一層困難になるのは確実だ。【6月29日 毎日】
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これに対し、スー・チーさんは反発を強めています。
****スー・チーさん、政治活動中止を求める通告に強く反発*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは29日、ヤンゴン市内で菊田真紀子外務政務官らと会談した。外務省の説明によると、スー・チーさんは政治活動の中止を求めたミャンマー政府の通告に対し「見解が違う。相談なしに一方的に発表された」と強く反発したという。(後略)【6月30日 朝日】
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国際世論への働きかけ、されど・・・・
総選挙をボイコットとして解党処分を受けたNLDの政治活動が認められないこと、スー・チーさんの活動にも制約が課されることは、想定されていたことでもあります。

スー・チーさんはアメリカ議会でビデオ証言したり、日本の外務政務官の会談したりして、従来からの主張をアピールしています。

*****民主化へ協力を」スー・チーさん、米議会でビデオ証言*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが22日、米下院外交委員会アジア太平洋小委員会の公聴会で録画済みビデオを通じて初めて証言し、政治犯の釈放など民主化の実現に向け、協力を要請した。

スー・チーさんは、国連人権理事会が今年3月の決議で、政治犯の釈放や司法権の独立などをミャンマー政府に求めたことに触れ、「真の民主化プロセスを始めるためにまさに必要な内容だ」と評価した。中でも司法権の独立なしに「民主化の真の前進はありえない」と強調した。決議内容の実現に向けて、「できることは全て実施するように要請したい」と米議会に協力を呼びかけた。【6月23日 朝日】
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*****ミャンマー:日本の外務政務官、スーチーさんに支援伝える****
ミャンマー訪問中の菊田真紀子外務政務官は29日、最大都市ヤンゴンで民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんと会談した。日本高官とスーチーさんの会談は02年の川口順子外相以来約9年ぶり。総選挙や民政移管の評価などで意見交換し、日本が今後も民主化を支援していく方針を伝えたとみられる。

今回の訪問を日本は「新政権との積極的な対話の第一歩」と位置付けている。政務官は28日、首都ネピドーでワナマウンルウィン外相と会談、民主化に向けた一連の動きを「不十分ながら一歩前進」と評価する一方、スーチーさんとの対話や政治犯の釈放を求めた。

しかし、政務官とスーチーさんの会談当日にぶつける格好で、国営紙がスーチーさんに対する政治活動の禁止通告を報じ、ミャンマー新政権との対話の難しさを印象付けた。【6月29日 毎日】
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こうした国際社会へのアピールは、スー・チーさんならではの活動ではありますが、NLDも解党処分を受けた現状では国内基盤が更に脆弱になった感は否めません。
たとえ不本意でも総選挙に参加し、議会になにがしらかの足場を築く方策もあった訳で、総選挙ボイコットが賢明な判断だったかどうかについては疑問もあります。
国際社会がいくらスー・チーさんを支持しても、ミャンマー国内の政治は微動だにしません。

少数民族との武力衝突
ミャンマーでは、政府軍と少数民族の武力衝突が続いています。
****ミャンマー・カチン族と政府軍、続く衝突 中国も圧力、鎮圧苦慮****
ミャンマー北部カチン州で、政府軍と少数民族カチン族の武装勢力との武力衝突が激化している。現場は中国との国境付近。中国が出資する水力発電ダムの建設が中断し、住民1万人以上が避難した。周辺には中国が建設中のガスパイプラインもあり、ミャンマー政府は、事態の沈静化を求める中国の圧力も受け、内憂外患の状況にある。

主な戦闘地域は、国境からバモーへ流れるターペイン川周辺。数人が死亡し、カチン独立軍(KIA)は25カ所の橋を爆破し、2カ所の水力発電ダムから中国人技師約30人を一時、連れ去った。200人以上が中国へ帰還している。
ダムが完成すると、電力の9割が中国へ輸出され、KIAは「地元に還元されない」と建設に反対している。政府は、国境付近での少数民族の「反乱」を懸念する中国の意向も背に、ダム周辺からのKIA排除に躍起になっている。

事の本質はしかし、根深い。ミャンマーの人口約5千万人のうち、ビルマ族が68%を占め、その他はシャン、カレン、ラカイン、カチン族などの少数民族。細分化すると135民族とされる。だが、ミャンマー(ビルマ)が1948年に英国から独立した際、少数民族にはビルマ族と同等の権利が認められなかった。
根底にあるのは、これを起源とした、自治などを求める少数民族の武装勢力と、政府側との長年にわたる対立である。過去に停戦協定が結ばれたが事実上、破綻しているのが実情だ。

カチン州以外でも、例えばタイと国境を接する東部カレン(カイン)州では、カレン族と政府軍が対峙(たいじ)している。少数民族の武装勢力が、共闘することで合意したとの情報もあり、周辺国を巻き込みながら緊張がさらに高まる恐れもある。【6月22日 産経】
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通貨高で輸出産業打撃
経済的にも、通貨高で困難な状況にあります。
****通貨高、ミャンマー悲鳴 直接投資急増、輸出は打撃****
ミャンマー(ビルマ)で現地通貨のチャット高が急速に進んでいる。対ドル上昇率は1年で20%を超えた。20年ぶりの総選挙を経て3月に発足した新政権は、経済自由化の柱に農水産物や縫製品の輸出などを掲げるが、さっそく試練に直面している。

「輸入品の価格を下げます」。ヤンゴンなどに展開する高級スーパーチェーン「シティーマート」は6月中旬、各店に告知を出した。ある支店の店員によると、シンガポールやタイなどを通じて輸入するコーヒーやバター、シャンプーなどを10%値下げした。
同じ頃の実勢レートは2002年以来の高値となる1ドル=740チャット。去年6~7月が980~1千チャットだったから、1年間で約25%のチャット高が進んだことになる。

だが恩恵は限定的だ。コメやタマネギなどの野菜、食用油などの必需品の価格は、この1年でほぼ横ばいかやや上昇傾向にある。
打撃を受けているのが、豆類やコメなどの農産物、縫製品、木材、水産物などの輸出産業だ。コメは最近、日本製の精米機を導入するなどして輸出に力を入れるが、「今の為替レートでは赤字。それでも顧客との長期的な関係を考え、輸出を止めるわけにはいかない」(輸出業者)という。
対日輸出の5割近くを占める縫製業も苦しい経営が続く。従業員にドル建てで給与を支払う日系企業なども賃金の見直しなどの対応に追われている。

チャット高の大きな要因として挙げられるのが、世界的なドル安傾向に加えて、海外から急増する直接投資だ。政府当局によると、1988年~昨年3月の投資総計は160億ドルだが、昨年4月からの1年間の投資額はそれを上回る200億ドル(約1兆6千億円)。このうち約7割を、香港を含む中国が占める。

国営企業や政府所有不動産の民間への売却が今年1月と2月にも実施されたことも要因に挙げられる。英字週刊紙ミャンマータイムズによると、291件の落札総額は8兆チャット(約8千億円)に達した。この最終支払期限の7~8月を前に「市場でチャットを買う動きが活発になり、チャット高に拍車をかけている」(経済学者のイ・イ・ミン氏)という。【6月28日 朝日】
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政治的自由を声高に主張し、その結果また“自宅軟禁”となり国内政治から隔離されるよりは、山積する課題に地道に対応する道を探すほうがいいように思われます。
あまりに長い“自宅軟禁”を続けていると、ミャンマーの人々の暮らしの実態も見えなくなってしまうのでは・・・とも危惧します。

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ギリシャ  きょう29日、財政再建法案採決 否決の場合は? “第2のリーマン・ショック”?

2011-06-29 21:40:42 | 国際情勢

(6月15日 アテネ 暴徒化した群衆と警察の間を逃げ惑う旅行者 “flickr”より By Joseph Galanakis http://www.flickr.com/photos/iosgal/5836758029/

【「この採決が、ギリシャが二本足で立てる唯一のチャンスだ」】
財政危機のギリシャでは、きょう29日、EUからの支援の前提条件とされる、これまで以上の緊縮策を盛り込んだ財政再建法案が国会で審議されます。もし、否決された場合、(そのまま放置すれば)ギリシャは債務不履行(デフォルト)に陥る危険性が高く、そうなると連鎖的に欧州各国の金融危機、更には日本を含む世界全体の金融危機にもつながりかねません。

現在、日本時間で午後9時、ギリシャ時間で午後3時ですが、採決の状況については、日本のメディアにはまだ情報が入っていません。このブログを書き終える頃には結果が判明しているかも。

****ギリシャの財政再建法案、29日採決 国際金融に影響も****
財政危機に直面するギリシャで、財政再建法案が29日、国会で採決される。否決されれば欧州連合(EU)からの支援が止まり、国際的な金融危機の引き金をひく可能性がある。だが、緊縮策への国民の反発は強く、可決されるかどうか予断を許さない情勢だ。

採決前日の28日、アテネでは官民の労組が一斉にストライキに突入、混乱が続いている。停電でバスや地下鉄が運休。空港も機能していない。レストランや商店も閉店し、国会前のシンタグマ広場には、朝から市民らが続々集結。一部が暴徒化し、機動隊が催涙ガスで応戦、けが人が出た模様だ。夜には10万人超の大規模デモも予定されている。

法案は、さらなる増税や公務員のリストラに加え、電力公社や水道公社などの民営化が柱。2015年までに284億ユーロ(3兆2千億円)を削減し、民営化でさらに500億ユーロ(5兆7千億円)を捻出する。
パパンドレウ首相は27日夜始まった国会討論で演説し、「この採決が、ギリシャが二本足で立てる唯一のチャンスだ」と訴えた。

だが、昨年すでに増税や年金カットを受け入れた国民の反発は強い。首相率いる与党は国会(定数300)で155議席を占めるが、与党議員4人が造反する姿勢を示しており、過半数ラインの151票ぎりぎりの情勢になっている。

ギリシャは来月中旬に国債の償還日を迎えるが、投資家に払い戻す資金がない。総額1100億ユーロ(12兆6千億円)の支援を実施中のEUと国際通貨基金(IMF)が、可決を前提に5回目の入金として来月振り込む120億ユーロ(1兆3千億円)を充てる予定にしているため、法案が否決されれば、債務不履行(デフォルト)に陥る危険性が高い。ギリシャ国債を保有する欧州の金融機関が損失を被り、そこに投資する米国の投資信託などを通じて影響が広がる可能性がある。市場では「最悪の場合、第2のリーマン・ショックになる」との見方もある。【6月29日 朝日】
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“大きな痛みを伴う”度重なる緊縮策への国民の反発は上記記事にもあるように大きく、一部で治安部隊との衝突も起きています。

【「われわれはEUの支援など望んでいない。どうかお願いだから放っておいてくれ」】
****ギリシャで緊縮策に反対するデモ、警察が催涙ガス****
ギリシャで28日、政府の財政緊縮策に反対する主要労組がゼネスト入りする中、同じく政府の方針に抗議する1万人が首都アテネの国会議事堂前の広場でデモを行った。参加した一部の若者が火炎びんを投げ付けるなどして暴徒化し、警察の暴動鎮圧部隊が催涙ガスを発射する事態となった。
警察当局によると、午後3時ごろに発生したこの衝突で、少なくともデモ参加者1人が負傷した。
 
ギリシャ政府はデフォルト(債務不履行)回避のため、欧州連合(EU)などが支援の条件としている緊縮策の可決を目指す。緊縮策を盛り込んだ関連法案の採決は29日から行われる予定。デモ参加者の1人はAFP通信に対し、「われわれはEUの支援など望んでいない。どうかお願いだから放っておいてくれ」と話した。
28日に始まった労組による48時間のゼネストの影響で、アテネでは航空便や船舶の運航が停止し、公共交通機関もマヒ状態に陥っている。【6月29日 AFP】
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「われわれはEUの支援など望んでいない」・・・・“こんな危機を招いた政府が悪い”“これ以上の痛みには耐えられない”というのはわかりますが、さりとてEU支援なしにデフォルトの危機をどうしようと言うのでしょうか。外国人にはわからない解決の道があるのでしょうか?国家が破産すれば、現在の財政再建法案以上の“痛み”が国民を襲います。

「どうかお願いだから放っておいてくれ」・・・・と言われても、EUとしては放ってはおけない事態です。ギリシャのデフォルトはユーロ圏全体の崩壊にもつながりかねません。

【「代替のプランBがあるなどと誰にも思わせてはならない」】
仮に、ギリシャ国会が財政再建法案を否決した場合、EUとしてもギリシャのデフォルトをただ手をこまねいて見守る訳にはいかないでしょう。次の策を考慮せざるを得ないところです。
ただし、ギリシャに財政再建を行ってもらうために、今現在はその話はタブーのようです。

****EUがひた隠すギリシャ危機のプランB****
EUの追加支援の条件となるギリシャの緊縮財政案の採決が行われるが、EUが黙して語らない否決の場合の代替策とは

欧州連合(EU)からの追加支援の条件となるギリシャの緊縮財政案の審議が26日からギリシャ議会で行われている。新たな歳出削減などを盛り込んだこの法案を、もしもギリシャが否決したらどうなるのだろうか。
「代替のプランBがあるなどと誰にも思わせてはならない」と、ルクセンブルク首相でユーロ圏財務相会合の議長として統一通貨ユーロに参加する17カ国の会合を取り仕切るジャンクロード・ユンケルは言った。「そして実際、プランBは存在しない」。ギリシャ問題を話し合うために先週ブリュッセルで開催されたEU首脳会議の直後のことだ。

EUはギリシャのデフォルトを回避するために追加の救済策を実行する用意があるが、ギリシャ議会の採決待ちの状態だ。議会は29日、前提条件としてEUから求められた400億ドル規模の歳出削減と増税について採決しなければならない。ギリシャ議会が緊縮財政案を否決するようなことになった場合、今のところ代替案はいっさい残されていない、ギリシャはデフォルト(債務不履行)に陥るしかないと、EUは主張する。ブリュッセルではプランBについて話すことはタブーになっているのだ。

だが最悪の場合、ユーロやEUそのものの存在すら危うくなるという今の状況の中、EUが先のプランを考えていないことなど到底ありえない。だとすると、EUの「代替案なし」ははったりだろうか。

ギリシャはドラクマに戻るべき
シンクタンク「ヨーロッパ政策センター」のアナリスト、ジャニス・エマヌイリディスは、口先だけの問題ではないという。EUと各国リーダーたちは見事なまでに「プランBは存在せず」という筋書きに固執しているが、エマヌイリディスは「どんな場合でも、市場で起こりうるあらゆる事態に備えておくべきだ」と言う。29日にギリシャで何が起こるにせよ、EUは独自に代替案を用意しておく必要があると、彼は考えている。

理想を言えば、EUは改革案を策定すべきだと彼は言う。その中には「ユーロ債の導入や欧州財務省の創設、税制や社会制度で域内の政策を統一すること、EU予算を十分に拡大すること」が含まれるという。
それはいずれ、「1つの国家に匹敵するような経済・政治連合の誕生につながる。実現すればユーロ圏の危機を解決できるだけでなく、世界の発展においてヨーロッパが主導的役割を発揮するという戦略上の目標も達成できる」と彼は言う。

一方、経済アナリストで統一通貨ユーロに批判的なダニエル・ゲゲンは、ユーロを離脱する国が出てくるあり得るということをEUは受け入れるべきだと言う。ギリシャは当然そのケースになる。「(ギリシャの通貨)ドラクマに戻るべきだ」と、ゲゲンはギリシャ債務の再構築を提案する。
ゲゲンの言う「大きな懸念」は、債務危機がこのまま拡大を続けること。「ポルトガルにも既に問題が発生し、アイルランドやスペイン経済にも危険が潜んでいる」と彼は言う。「大変危ない状況だ」

ゲゲンの提案で問題なのは、これまでにもギリシャのユーロ離脱は何度か言われてきたものの、今のところユーロ離脱(あるいは追放)の仕組みそのものが存在しないことだ。あまりに繊細な問題なため、欧州中央銀行(ECB)広報官のウィリアム・レリベルドはこの問題について語ることを拒否した。ユーロ圏の解体について質問されても「ノーコメント」と繰り返している。

債務免除してもらって小さな国に
エマヌイリディスによれば、今のシステムにおいて残された唯一の方法は、ギリシャがユーロではなくEUそのものを離脱することだ。これはEUの基本条約に明記されている選択肢だが、エマヌイリディス自身もこれは現実的ではないと考えている。

ユーロから「離脱するためには何をすることが必要か、解決しておかなければならない問題が山ほどある」とエマヌイリディスは言う。「法律的な問題以外にも、解決の難しい実務上の問題がたくさんある。離脱する国もユーロ参加国の側も、数え切れないほどの妥協を覚悟しなければならない」

ゲゲンは、財務政策の異なる国々が統一通貨を導入するというユーロ圏モデルは持続不可能であり、EUはギリシャの経済崩壊の重荷を負うべきだと主張する。最低基準を満たせるかどうかの確証もなしにギリシャを統一通貨ユーロに迎えた以上は、「EUが責任を負って債務の多くを担わなければならない」と彼は言う。

ただし、度重なる救済という形ではない。それは底なしの穴にカネを投げ入れるようなものだと彼は表現する。
ギリシャはユーロ圏を去るべきだと彼は言う。そして連帯責任によって、EUが「ギリシャの債務の4分の3を免除する代わり、ギリシャはユーロ圏とは別に小さな債務国家として再スタートをきればいい」 だがこれはプランBではない。ゲゲンに言わせれば、これこそがプランAであるべきだ。【6月29日 テリ・シュルツ Newsweek】 
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【「あまりの重責で、彼には無理だった」】
このギリシャの危機的状況を打開すべく事にあたっているのは名家出身のパパレンドウ首相ですが、どこかのやはり危機的状況の国の指導者同様、その評価は芳しくないようです。

****統治も辞任もしない首相」ギリシャにも****
アメリカ生まれのパパレンドウ首相には、議会と国民の心を掌握する指導力もデフォルト危機に対処する経済知識もない

指導者失格 誠実な人柄で知られるパパンドレウには首相より大学教授が似合うとの声も 
ギリシャのパパンドレウ首相は、父親も祖父もかつて首相を務めたという政界のサラブレッド。だが、ギリシャ政界に半世紀以上に渡って君臨してきた名門パパンドレウ家は今、「退場」の瀬戸際に追い込まれている。

膨大な国家債務を抱え、デフォルト(債務不履行)の危機に直面してから1年あまり。EU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)の支援を得るために数々の厳しい財政再建策を打ち出してきたにも関わらず、ギリシャ財政は再び破綻の縁に立たされている。(中略)

ギリシャがこの1年間、国際社会からの支援と引き換えに行ってきた歳出削減と増税は、ギリシャ経済を一段と悪化させた。失業者は増え、収入は目減りする一方。緊縮財政に反対するデモ隊が、議会の目の前にあるシンタグマ広場に何週間も座り込んでいる。世論調査で、国家が間違った方向に進んでいると答えた人は87%に達した。

事態をさらに困難にしているのが、欧州諸国の対応だ。EUはギリシャ政界が一致団結して財政再建に取り組まない限り、5回目の融資を行わないと脅しをかけている。7月までに融資が下りなければ、ギリシャはデフォルトに陥る。それなのに、パパンドレウ首相の父親が1974年に創設した与党・全ギリシャ社会主義運動の国会議員の中にも、緊縮財政法案に反対する者がいる。

経済政策の明確なビジョンなし
「手に負えない状態だ」と、政治科学を専門とするエール大学のギリシャ人教授、スタティス・カリャバスは言う。「債務危機は非常に深刻で、そもそも交渉の余地などなかった。政府は過去30年間に行うべきだった経済改革を1年間で実行しなければならなかった」

だが、なりふり構わぬ泥仕合が繰り広げられるギリシャ政界のなかでは珍しく、穏やかな対話を好むパパンドレウは6月中旬、異例の行動に出た。最大野党の党首で米アムハースト大学時代に学生寮のルームメイトだったアントニス・サマラスに、ある提案を持ちかけたのだ。
それは、自らの辞任と引き換えに、法案に賛成し、大連立政権に参画してほしいというもの。だが身内からの助言もあって、パパンドレウは自身の59回目の誕生日に当たる6月16日、大連立構想を撤回した。

ギリシャのエスノス紙によれば、弟のニックが「ジョージ、パパンドレウ家の政治家が辞任したことは一度もない」と諌めたという。「首相は辞任しないものだ」
「父親の後を継いで政治家になったのは、彼自身の選択ではなかったのかもしれない」と、ギリシャで活躍する小説家で評論家のアレクシス・スタマチスは言う。「あまりの重責で、彼には無理だった」

口うるさいユーロ圏の国々と交渉しながら、自国を危機から救う舵取りをするのは困難極まりない仕事だ。しかも、パパンドレウには明確な経済政策のビジョンがなかったと、04〜06年にパパンドレウのスピーチライターを務めた政治経済学者ヤニス・バロウファキスは指摘する。
「パパンドレウは今年、猛スピードで経済学を学ばなければならなかった」とバロウファキスは言う。「彼は今の危機が起きる直前に、首相に選ばれた男だ。04年に首相になっていたら、彼にとっても国民にとっても話は違っていただろう。だがこの危機の最中では、諸外国とうまくやっていく力量さえ失っている」

米ミネソタ州で生まれてアメリカとイギリスで教育を受け、外国語に堪能な社会学者のパパンドレウ。当初はヨーロッパ人とうまく付き合っていける人物と見られていた。外務大臣時代は欧州諸国の大臣たちに好かれ、彼らと親しい関係を築いていた。

反対にパパンドレウが苦労したのは、同じギリシャ人との付き合い方だ。ギリシャ国民は、パパンドレウのことを同胞とは見ていない。カフェインとタバコをこよなく愛する国にあって、パパンドレウは健康志向の強いサイクリング愛好家。プリウスを運転する自然エネルギー信奉者でもある。
熱弁を振るった父とは違い、パパンドレウの演説は穏やかで、人々を鼓舞する迫力がない。好戦的なギリシャ政界では異色だ。ギリシャ国民に向かっての演説より、国際会議で英語で演説しているときのほうが居心地が良さそうにも見える。【6月28日 ジョアンナ・カキシス、ニコラス・レオントポウロス Newsweek】
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アフガニスタン  過激化するテロ 選挙結果をめぐり機能まひが懸念される議会

2011-06-28 20:58:20 | 国際情勢

(6月2日 アフガニスタン南部、カンダハル州 8歳の少女と言うと、写真中央の子供ぐらいでしょうか。 イラク戦争でも子どもの死体に爆弾をしかけるといったことが行われたようですが(観ていませんが、映画「ハート・ロッカー」でもそんな場面があるとか)、生きた少女に爆弾をしかけるというのは・・・ 戦争と言うのはそういうものだと言ってしまえばそれまでですが “flickr”より By Canadian Army  http://www.flickr.com/photos/canadianarmy/5828668329/ )

病院を対象にしたテロ、8歳の少女を使った自爆テロ
オバマ米大統領は2012年9月までにアフガニスタン駐留米軍3万3千人の撤退計画を表明しましたが、そのアフガニスタンでは、テロが頻発しており、治安改善の兆しは見えません。
撤退計画発表との関連は不明ですが、病院を対象にしたテロ、8歳の少女を使った自爆テロなど、これまでにない残忍な手法も気になるところです。

もっとも、いずれもタリバンは、そのようなことはしないと関与を否定しているようです。
ただ、もしそうなら、タリバン以外にこうした過激テロを行う組織が存在することになり、それはそれでアフガニスタンの今後の治安改善にとって問題となります。

****アフガニスタン:病院に自爆テロ…35人死亡****
アフガニスタン東部ロガル州のパキスタン国境に近いアズラ地区で25日、病院に乗り付けた四輪駆動車が自爆した。同州政府によると、患者や医師、見舞いに来た住民ら35人が死亡、約40人が負傷した。犠牲者の多くは女性や子供という。

武装勢力による自爆テロとみられるが、ロイター通信によると、旧支配勢力タリバンのムジャヒド報道官は「タリバンは病院を攻撃しない」と語り、犯行を否定した。カルザイ大統領は「(実行犯は)野蛮で無知なアフガニスタンの敵だ」と非難した。

オバマ米大統領は22日、アフガン駐留米軍3万3000人を来月から来年夏までに撤収させると発表したばかり。国内にはタリバン以外にもパキスタンや中央アジアなどから来た武装勢力が多数潜伏しているとみられ、治安回復は困難な情勢だ。【6月26日 毎日】
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****8歳少女利用し爆弾テロ アフガン かばんに忍ばせ爆破*****
アフガニスタン南部ウルズガン州で26日、8歳の少女が頼まれたかばんを警察に運んでいたところ、かばんが爆発し、少女は死亡した。アフガン内務省が同日、明らかにした。爆弾が仕掛けられたかばんは武装勢力によって渡され、少女が警察車両に近づいた際、遠隔装置で爆発したという。少女以外の死傷者はなかった。

女性の自爆テロや、頭から足元までを覆う女性の衣類ブルカを着た男性による自爆テロはたまにあるが、少女を使った自爆テロは極めて異例。アフガンでは5月、パキスタンから自爆テロ要員として勧誘された13歳以下の少年4人が確認されたばかり。
イスラム原理主義勢力タリバンは自爆テロに子供を使わないと主張しているが、実態は不明だ。

パキスタンでも8歳の少女が自爆テロの実行役として利用されかけたとして、同国治安当局が20日、少女を伴い会見した。この少女は警察に保護されたが、少女の主張を検証する方法がないことから、当局のやらせとの指摘も出ている。

一方、パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州デライスマイルカーン地区の警察署が25日、武装勢力に襲撃され警官12人が死亡したが、自爆テロを実行したのは夫婦だったことが明らかになった。パキスタンで女性の自爆テロ要員は珍しい。
ロイター通信によると、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」は「これまでとは違う戦法で攻撃を続ける」と語っている。【6月28日 産経】
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【「アフガンはおぞましい内戦状態に陥る危険性に直面するだろう」】
一方、オバマ大統領の撤退計画発表については、次期大統領選挙を睨んで、現地の戦略より国内政治を優先させたものとの見方が強いことは、6月23日ブログ「アフガニスタン  オバマ米大統領、来夏までに計3万3千人を撤収させる計画を発表」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110623)で、また、米軍撤退後のアフガニスタン情勢の不安については、6月24日ブログ「イラク  圧殺される自由、改善しない電力、横行するわいろ  アフガニスタンの今後は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110624)でも取り上げたところです。

イギリス・デーリー・テレグラフ紙はこの撤退計画について、ベトナム戦争後の南ベトナムとの比較で、「アフガニスタンから逃げ出す欧米は世界を不安定化させる」とのピーター・オボーン氏の主張を紹介しています。

****孤立主義に回帰する恐れ*****
英保守系紙デーリー・テレグラフの政治解説者、ピーター・オボーン氏は「アフガニスタンから逃げ出す欧米は世界を不安定化させる」と題した24日付コラムで、米国が撤退により「世界の警察官」の役割を果たせなくなり、伝統的な孤立主義に回帰する恐れがあることに強い懸念を示した。

オボーン氏は、ニクソン大統領時代のベトナム化政策と、オバマ大統領のアフガン撤退計画を比較する。ベトナム化政策とは、南ベトナム軍を強化して米軍を南ベトナムから撤退させる計画で、オバマ大統領の撤退計画と確かに似ている。
ベトナム戦争では米兵6万人が命を落とし、イラクとアフガンでは計6千人が亡くなった。ベトナム戦争時、米国の財政赤字は現在の貨幣価値で270億ドル、政府債務残高は1・8兆ドルだったのに対し、オバマ政権は今、60倍超の財政赤字(1兆6600億ドル)と8倍近い政府債務残高(14兆ドル)に苛(さいな)まれている。

オボーン氏はその上で、アフガンから米軍が撤退すればタリバンが勢いを増し、「カルザイ大統領は国外逃亡に追い込まれ、アフガンはおぞましい内戦状態に陥る危険性に直面するだろう」と、ベトナム同様の一層の混乱を予測する。

ただ、オボーン氏は「ベトナム撤退で米国の世紀は終わるといわれた。しかし米国は逆に地球規模の成功を収めた」と解説。ソ連を牽制するとともにベトナム戦争を終結に向かわせた電撃的な「ニクソン訪中」にも言及する。
オバマ大統領にそのような秘策は見当たらないが、オボーン氏は「われわれは新しい不確実な世界に向かっている。オバマ大統領は(孤立主義に回帰するのではなく)米国が世界で果たす役割を再定義する必要がある」と結んでいる。【6月27日 産経】
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【「状況は危機に向かっている」】
アフガニスタンの今後にとってアメリカの戦略が決定的に重要なのは言うまでもないことですが、それ以上に重要で、かつ、不安視されているのが現地カルザイ政権の統治能力です。

****下院62人 当選者入れ替え カルザイ氏設置の特別法廷****
アフガニスタンが、昨年9月に行われた下院選の結果をめぐり、再び混乱に陥っている。カルザイ大統領が昨年末、選挙の不正審査のため最高裁に設置した特別法廷が23日、下院249議席の約4分の1にあたる62人の当選を無効とし、新たな当選者を発表したため。
議会は大統領だけでなく司法との対立をも強めており、7月の米軍撤退開始を前に、国内の混乱は「危機的状況に発展しつつある」(政治アナリスト)との声も出ている。

特別法廷は、南部ザブル州や西部バドギス州で全当選者の入れ替えを決定し、他の州で一部議員の当選を無効とした。全当選者が少数派ハザラ人で、カルザイ氏が最も不満としていたとされる南東部ガズニ州は、複数のパシュトゥン人の当選が新たに決まった。

この判断について特別法廷は「票の再審査の結果」としているが、選挙管理委員会(IEC)がすでに不正と認定した票も含まれていたとされ、再審査の過程は不透明だ。選管は26日に声明を出し、「IEC以外の機関が選挙運営に関わることは憲法違反」とし、特別法廷の判断は認められないとの立場を鮮明にした。

昨年の下院選をめぐっては、多くの不正投票などが指摘され、IECは投票総数のほぼ4分の1にあたる約130万票を無効とし24人の当選を取り消した。12月に全議席が確定したが、カルザイ氏は特別法廷を設置して、不正票の再審査を指示。議会は「議会の反カルザイ勢力の拡大につながる選挙結果を覆そうとしている」と強く反発した。

議会は1月に開会したが、特別法廷の判断を受け、議会とカルザイ氏側の対立は再燃。議会はカルザイ氏に特別法廷の設置を助言したとして最高裁判事5人に不信任を突きつけ、カルザイ氏寄りの検事総長にも強く反発している。
新たに当選者になった候補者が政府に早期入れ替えを迫る一方、落選議員は決定を受け入れず居座る覚悟だ。抗議デモなども想定され、議会機能がまひする可能性がある。
政治アナリストのワヒド・ムジダ氏は、「状況は危機に向かっている」と述べ、事態の展開に危機感を示した。【6月28日 産経】
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“投票総数のほぼ4分の1にあたる約130万票が無効”という選挙自体も想像を絶するものがありますが、その結果を更に特別法廷で大幅に修正しようというカルザイ大統領のやり様も理解に苦しむものがあります。
汚職が蔓延していると言われるカルザイ政権ですが、選挙結果をめぐる政争で議会が機能まひに陥るようでは、米軍撤退後に崩壊した南べトナム政権を彷彿とさせます。
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カンボジア特別法廷  ポル・ポト派元最高幹部4人の初公判始まる

2011-06-27 21:12:45 | 世相

(ポル・ポト政権幹部 左からポル・ポト、ヌオン・チア元人民代表会議議長、イエン・サリ元副首相、中央眼鏡の男性がソン・セン元副首相  当時、ポル・ポトの存在は秘密にされており、彼の写真が確認されたのは77年9月になってからでした。 “flickr”より By manhhai http://www.flickr.com/photos/13476480@N07/3797955366/ )

異様な時代の大量虐殺
カンボジアの旧ポル・ポト政権(クメール・ルージュ)時代(1975~79年)には、当時の人口の3分の1、あるいは4分の1にもあたるとされる150万~200万人の国民が虐殺されたと言われています。しかも、この虐殺は同じカンボジア人同士で行われました。
更に、西洋文化はもちろん、都市生活や家族制度など現代社会の根幹が否定され、極端な原始共産制的な社会が強制されるという、極めて異様な時代でした。
都市住民は農村に強制移住させられ、そこでの強制労働において“消耗品”のように扱われました。

大量虐殺の本格的幕開けとなったのは、1975年4月17日のロン・ノル政権降伏、クメール・ルージュの首都プノンペン入城でした。
プノンペン市民はクメール・ルージュ兵士を“解放者”として歓迎しましたが、市民全員の農村への強制移住という信じ難い命令が人々に下され、地獄が始まりました。

「何千という病人、負傷者が町から出ていく。……中にはベッドの上で、輸血や点滴を受けながら家族に運ばれていく病人もいた。輸血用の血液や点滴液が大揺れに揺れていた。ちょん切られた虫のようにもがきながら進んでいく両手両足のない人、10歳の娘をシーツにくるみ、吊り包帯のように首から吊るして泣きながら歩いていく父親、足にやっと皮一枚でつながっている足首がぶらぶらしたまま連れていかれる男。私はこうした人たちを忘れることはあるまい。」【プノンペンに留まっていたフランス入宣教師のフラソソワ・ポソショー神父の言葉 山田寛著「ポル・ポト<革命>史」より】

“この大方針がいつ決定されたのか。ポル・ポト自身は、七七年になって、「それは七五年二月だった」と述べている。二月下旬に聞かれた党中央の会議で決まった、というのである。

最終的にはそうでも、実際にはずっと以前から計画されていたとみられる。七四年半ばにこの計画は上級幹部たちには明らかにされ、次項で述べるようにフー・ュオン、チュー・チェト(党西部地域書記)らが異を唱えていたが、もちろん取り上げられなかった。

イエン・サリは、七五年九月に公表された外国人記者とのインタビューで、「首都に入ってみると首都の人口が予想以上に多く、ほぼ三〇〇万人にも増大していたから、飢饉を防ぐため人々を食料のある場所に行かせる必要があった」と説明している。

だが、そんな短時間に、大雑把にせよ人口調査など行っているはずもない。内戦中の七三、七四年ごろから、彼らは都市や町を攻略すると、住民を退去させ、住家を焼き払うことを繰り退していた。強制退去は、革命の敵が集結した“悪と腐敗”の巣窟の都市を壊滅させるためだった。全国民を農民、労働者にし、生産に邁進させる。敵をバラバラにし、選別を容易にする。それが都市への憎悪と警戒心に基づいた彼らの基本戦略だった。

ただし、七七年四月に逮捕され、粛清地獄のツールスレン監獄(S21)に放り込まれて処刑されたフー・ニムは、殺される直前に書かされた供述書の中で、「四月一九日に、兄弟一号(ポル・ポト)と兄弟二号(ヌオン・チェア)から、状況と住民退去計画について説明を受けた」と記している。情報相だったフー・ニムですら、強制退去開始後二目たってやっと実際の退去計画について話を聞いたわけだ。それほど計画は狭い範囲だけの秘密とされていた。”【山田寛著「ポル・ポト<革命>史」】

最高幹部4被告は罪状を否認しており、捜査への協力も拒否
大量虐殺を裁くカンボジア特別法廷では、昨年7月、元トゥールスレン政治犯収容所所長、カン・ケ・イウ被告(68)に、禁錮35年の有罪判決が言い渡たされました。
“「つめはぎや電気ショック、水責めなどで自白を迫ることを容認し、故意の殺人、拷問、非人間的な拘禁が行われた」というのが、主な判決理由だった。検察側は終身刑を求め上訴し、近く判決が言い渡される見通しだ。公判で同被告は、「上」からの指示によるやむを得ない犯行だった、と弁明している。”【6月27日 産経】

カン・ケ・イウ被告本人も“「上」からの指示”と言っているように、同被告は当時の政治体制においては中枢とは言えない立場で、なぜあのような大量虐殺が起きたのかを明らかにするためには、当時の政権中枢にあった幹部の裁判が待たれていました。

最高指導者のポル・ポトはすでに死去していますが、上記引用文にも登場する政権ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表会議議長(84)、ナンバー3のイエン・サリ元副首相(85)ら4名が拘束されています。
その元最高幹部4人の初公判がようやく開始されました。
なお、その他幹部としては、ソン・セン元副首相は97年にポル・ポト元首相の命で殺害され、タ・モク元軍総参謀長も80歳で2006年に死亡しています。

****ポト派元最高幹部4人の初公判始まる、カンボジア特別法廷****
カンボジアの旧ポル・ポト政権時代(1975~79年)に起きた大量虐殺を裁くカンボジア特別法廷(ECCC)で27日、元最高幹部4人の初公判が始まった。

ジェノサイド(大量虐殺)や人道に対する罪、戦争犯罪などに問われている4人は、政権ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表会議議長(84)、ナンバー3のイエン・サリ元副首相(85)、その妻のイエン・チリト元社会問題相(79)、キュー・サムファン元幹部会議長(79)。

ポル・ポト政権下では人口の4分の1にあたる200万人が飢えや過労、拷問、処刑などによって死亡したとされる。大勢の犠牲者や犯罪現場が関係する元最高幹部らを裁く「ケース2」と呼ばれる今回の公判は、ポル・ポト政権時代を生き延びた人びとが長らく待ち望んでいたものだ。

だが、4被告は罪状を否認しており、捜査への協力も拒否していることから、裁判は長期化、複雑化するとみられる。4被告が高齢で、さまざまな疾病を患っていることから、被告の存命中に判決が下されるかどうかも懸念される。【6月27日 AFP】
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元トゥールスレン政治犯収容所所長、カン・ケ・イウ被告は自分の罪を認めていましたが、高齢の最高幹部の被告4人はいずれも罪を否認するとみられており、実際、“ヌオン・チア被告は開廷から45分後、公判前の捜査が非公開で行われるなど法廷の手続きが「根本的に不公正だ」と抗議し、退廷した。”【4月27日 朝日】とのことです。

“ポル・ポト政権時代を生き延びた人びとが長らく待ち望んでいたものだ”とありますが、大きな傷を抱える人々の思いは、あまり傷口に触れたくないといった複雑なものもあるでしょう。
フン・セン首相は自分自身がかつてはクメール・ルージュのメンバーだったという“脛に傷がある”せいもあってか、裁判にはあまり協力的とは言えないようです。
確かに、あまりに多くの国民がなんらかの形で関与し、今もクメール・ルージュの元兵士たちが一部地域に暮らす現状からすれば、社会の安定のためには裁判を拡大することで混乱を招きたくないという考えも分からないではありません。

【「裁判は次の世代への授業だ」】
虐殺から30年以上が経過し、国民の間でも風化が始まっているともいわれます。
ただ、過去を清算して前へ進むためには、百数十万人もの犠牲者がどうして出たのか、少なくともクメール・ルージュ幹部に当時の考えを明らかにしてもらう必要があります。

****ポト派裁判で初判決 「暗黒の歴史」清算へ一歩 国民和解なお曲折も****
・・・・ベトナム軍の侵攻で政権は79年に崩壊。30年以上が経過した今、事件そのものを知らない若い世代も増えている。このため、カンボジアでは昨年から授業で虐殺の事実について教えるようになった。この日の公判にも市内の高校生が傍聴に訪れた。さらに各地で記録映画の上映会も行われている。

南部コンポンスプーから来たイン・チェンさん(71)は、最近地元で行われた映画上映会で、多くの子供から「これ本当?」と聞かれ、事実を伝え続ける重要性を知ったという。
東部コンポンチャン出身のボウ・ユさん(55)は「裁判は次の世代への授業だ。政府が再び、このようなことを起こさないことを望んでいる」と述べた。

しかし、カンボジア政府と特別法廷との間には大きな溝がある。真相究明を最優先する特別法廷は、昨年9月、拘束した5人以外にも捜査対象者を広げる方針を発表。これにフン・セン首相は「(拡大は)国民和解を妨げ、再び内戦を招きかねない」と激しく反発した。現政府にはポル・ポト派の元幹部も多く、首相自身、77年まで同派の地方幹部だった。それだけに訴追者がでれば、政権だけでなく国内の混乱は必至だ。

今回の(カン・ケ・イウ被告に対する)判決だけでも、被告、検察側双方とも不服としており、裁判の長期化が必至だ。「カンボジアに和平を定着させるために不可欠」とする国際社会と、どう折り合いをつけていくか、カンボジア政府は引き続き問われることになる。【10年7月27日 産経】
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数年前、トゥールスレン政治犯収容所を訪れたことがありますが、外国人観光客ばかりで、現地の人々の姿が見えないことが気になりました。

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オランダ  極右政党・自由党のウィルダース党首の反イスラム発言に無罪判決

2011-06-26 21:02:41 | 国際情勢

(過激な反イスラム発言で知られるオランダの自由党党首・ウィルダース氏 “flickr”より By 3FM http://www.flickr.com/photos/3fm/5489444943/in/photostream/

進む欧州の右傾化
欧州では財政危機に陥った国への支援に反対する勢力、増大する移民による社会不安を警戒し、移民排斥・反イスラムを訴える勢力が台頭し、国際協調より内向きな民族主義を重視する右傾化への懸念が強まっていることは、これまでもたびたび取り上げてきました。

具体的には、4月のフィンランド総選挙で反ユーロを掲げる民族主義的な右派「真正フィン人党」が大躍進したことで、EUに批判的な勢力が台頭する欧州政治潮流がより鮮明になっています。
また、フランス次期大統領選挙においては、マリーヌ・ルペン党首率いる極右政党、国民戦線の支持率好調が伝えられていることは周知のところです。

デンマークでは、「ムスリムがヨーロッパに侵入し、ヨーロッパ人の民族浄化を企んでいる」「文明人はヨーロッパ人だけ、他は全て野蛮人」といった極端な主張をしているピア・クラスゴー率いるデンマーク国民党が、07年11月の総選挙で過去最高の25議席を獲得。また、09年6月の欧州連合議会選挙では議席を倍増させるとともに、デンマークの政党の中で得票率を最も伸ばした政党になっています。

この09年6月の欧州連合議会選挙にあっては、オランダでは反移民の自由党が得票率16・9%で4議席を獲得。自由党は「オランダのイスラム化を止める」「トルコをEUに加盟させない」と主張、移民流入やEU拡大による社会変容に危機感を抱く国民の支持を取り付けました。
イギリスでも、移民排斥を訴える英国民党から2人が当選し、初の議席を獲得しました。
ハンガリー、ブルガリアでも欧州議会選挙初参加の極右政党が各3議席を獲得したほか、フィンランド、オーストリアでも欧州懐疑派が躍進しました。

オーストリアでは、5月の世論調査によると、「次の日曜日が投票日とすれば、どの政党に投票するか」という問いに対し、シュトラーヒェ党首が率いる野党の極右政党「自由党」が29ポイントを得てトップに立ち、連立政権の2大政党を初めて上回ったとのことです。自由党は、外国人排斥運動を主導し、厳格な移住者政策を主張しています。(ウィーン発 『コンフィデンシャル』http://blog.livedoor.jp/wien2006/archives/51832011.htmlより)

スイスでは09年11月、ミナレット(イスラム教寺院の塔)の建設を禁止するべきかどうかをめぐる国民投票が行われ、スイス政府の反対にもかかわらず、57.5%の賛成多数で禁止を可決、欧州社会に衝撃を与えました。この国民投票は、犯罪歴のある外国人の追放など排外主義政策などを主張する右派・国民党が主導したものでした。

【「イスラム教批判が合法だというのは良い知らせだ」】
上記のような欧州極右政党のなかでも、08年に反イスラム短編映画「フィトナ」を作成して物議を醸すなどの行動で知られるオランダの自由党党首・ウィルダース氏の反イスラム発言に関する裁判判決がありました。

****オランダ:「イスラム脅威」発言の党首に無罪…地裁判決****
オランダの少数与党連立政権に閣外協力している極右政党・自由党のウィルダース党首が、イスラム教の脅威を訴えた発言で扇動罪などに問われた裁判で、アムステルダム地裁は23日、無罪判決を言い渡した。
同党首は自身が製作した反イスラム映画の上映差し止めを要求された民事訴訟でも08年に勝利しており、オランダで移民排斥ムードがさらに高まることが懸念されている。

同党首は07年8月、地元紙との会見でモスク(イスラム教礼拝所)の増加を取り上げ、「モスクが教会より多くなる。われわれは自衛すべきだ」などと述べた。この発言のほか別のメディアでの発言も含めて09年に扇動罪で起訴された。

判決は、一連の発言を「政治的議論の一部で犯罪ではない」と述べた。
ウィルダース党首は「言論の自由の勝利だ」と述べた。同党首は一連の批判を「イスラム教に対してであり、イスラム教徒が対象ではない」と移民への差別の意図を否定している。ルッテ首相は23日、「良好な協力関係にあるウィルダース党首にとって素晴らしいニュースだ」と判決を歓迎する声明を出した。

同党首は、自身が作った08年の反イスラム短編映画「フィトナ」で、米同時多発テロとイスラム教の聖典コーランの一部を結びつけた。イスラム教徒らが上映差し止めを求める民事訴訟を起こしたが、08年にハーグ地裁が「言論の自由」を理由に訴えを退けていた。【6月24日 毎日】
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ウィルダース党首は、「イスラム教批判が合法だというのは良い知らせだ」、「(イスラム批判は)必要だ。私たちの社会のイスラム化は大きな問題で、自由に対する脅威となっている。そして私はこう発言することを許されている」と語っているそうです。

****イスラム差別発言は表現の自由か*****
差別に寛容な判決で、第3の勢力を率いる極右政党のイスラム差別や移民排斥に拍車がかかりかねない

イスラム教の聖典コーランを「ファシズム的」と呼び、アドルフ・ヒトラーの著作『我が闘争』になぞらえたことで、オランダの極右政党・自由党党首ヘールト・ウィルダースは、数限りない殺人予告を受けてきた。だがウィルダースにとってイスラム教を非難することは表現の自由であり、自分自身の権利の行使に過ぎない。そしてその訴えがついに認められた。オランダ・アムステルダム地裁が23日、彼の発言はイスラム教徒に対する憎悪を煽ってはいないという判決を下したのだ。

裁判長は、ウィルダースが製作した17分の短編映画『フィトナ』は「憎悪に満ちて」いて「ショッキング」ではあるが、表現の自由の範囲と認められると述べた。ウィルダースはこの映画でコーランが信者の憎しみを煽っているとして91年の米同時多発テロと結びつけている。

殺害予告のせいで、47歳のウィルダースは24時間体制の護衛生活を送っている。髪をブロンドに染めた彼は反移民政策を標榜する自由党を率い、今ではオランダ国会で3番目に大きな勢力を誇っている。ウィルダースは反イスラム・反移民に関してオランダで最も活発に発言する人物だ。

英BBCによれば、ウィルダースは彼の言うところの「イスラム教の脅威」への批判を今後も続けるらしい。「イスラム教批判が合法だというのは良い知らせだ」と、彼は言う。「(イスラム批判は)必要だ。私たちの社会のイスラム化は大きな問題で、自由に対する脅威となっている。そして私はこう発言することを許されている」

差別を煽っているのは事実上の副首相
ロイター通信は判決でウィルダースの政治的影響力が強まり、緊張が高まる可能性があると報じている。彼は移民の数の削減や、イスラム教徒が顔を覆うベールやブルカを禁じる案についてすでに政府の譲歩を勝ち取っている。
「彼の政治的見解は法律で認められ、彼の政治的な発言は合法化された」と、アムステルダムにあるフリー大学の政治学者アンドレ・クローウェルは言う。「彼の政治力は増した。与党にとっては国会運営に不可欠な勢力だ。政権に入らなくても、実質的には副首相のような存在だ」
マイノリティー団体は、この問題を国連人権委員会に持ち込もうとしている。オランダがマイノリティーを差別から守ることに失敗した、と主張する予定だ。【6月24日 Newsweek】
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表現の自由との兼ね合いは微妙な問題ですが、ウィルダース党首のような発言、あるいは、アメリカでのコーラン焼却騒動などによって、イスラム世界との共存がますます困難になることは確かです。それによって多くの血が流されるであろうことも。

欧州は今後、北アフリカのチュニジアやリビアからの難民・移民が更に増加することが予想されます。
ギリシャなどの財政危機も深刻化する懸念があります。
そうした流れは、恐らく国内の極右勢力の主張をより強めることになると思われます。
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コンゴ  後を絶たない“集団レイプ”事件  毎日1100人以上の女性たちがレイプ被害

2011-06-25 20:12:47 | 世相

(当然ながら、コンゴのすべての女性が本文のような悲惨な状況に置かれている訳ではありません。写真は、喫煙と健康、特に子宮頸がんとの関連を学び、住民の健康増進に役立てようとする女性たち。 “flickr”より By Framework Convention Alliance http://www.flickr.com/photos/54886491@N08/5518385675/

【「レイプの首都」】
武装組織による反政府活動が続く中央アフリカのコンゴにおける“集団レイプ”事件については、10年8月31日ブログ「コンゴ東部で続く「戦争兵器としての集団レイプ」 問われる国連PKOの在り方」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100831)で取り上げました。

この事件は、10年7月から8月にかけて、フツ人反政府勢力であるルワンダ解放民主軍(FDLR)と民兵組織マイマイによって、数百人の女性が村民や家族の目前で集団レイプされたというものでした。
事件そのものの残虐性と併せて、集団レイプが発生した時期、近くに駐留していた国連平和維持活動(PKO)の国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)が、ルワンダの反政府勢力が村落を占拠していることをつかんでいながら、なぜ早く介入しなかったのかという点も問題になりました。

こうした“集団レイプ”事件は、ルワンダ解放民主軍(FDLR)や民兵組織マイマイだけでなく、コンゴ政府軍によっても引き起こされており、この地域における女性や人権に関する基本的認識の問題と言えるようです。

****コンゴ民主共和国でまた集団レイプ、今度は国軍 ****
国連の武力紛争下の性的暴力撤廃に関する事務総長特別代表、マルゴット・バルストロム氏は14日、国連安全保障理事会で、コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部・北キブ州ワリカレで、同国の政府軍であるコンゴ民主共和国軍(FARDC)の兵士が女性を集団レイプ、殺害していると述べた。

同地では7月から8月にかけて、フツ人反政府勢力、ルワンダ解放民主軍(FDLR)と民兵組織マイマイによって、数百人の女性が村民や家族の目前で集団レイプされたばかりだった。マイマイの指導者は10月5日に逮捕されている。

バルストロム氏によると、国連平和維持活動(PKO)の国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)から新たなレイプについての報告があったという。同氏は、同じ地域がまた性的虐待のターゲットになるとは「想像を絶する」と語り、FARDCがワリカレで遂行中の作戦をめぐり、市民の保護に重大な懸念があると述べた。
同氏はコンゴ民主共和国政府に対し、今回の集団レイプについて迅速に調査し、加害者の責任を問うよう求めた。
同氏は過去に、同国を世界の「レイプの首都」と述べたこともある。【10年10月15日 AFP】
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女性への暴力撲滅を訴えるデモ
女性たちも、こうした社会の有り様に抗議の声をあげています。
****集団レイプに抗議、女性2万人の大行進 コンゴ民主共和国****
2010年10月18日 12:52 発信地:ブカブ/コンゴ民主共和国
民兵や国軍兵士らによる集団レイプが問題となっているアフリカ中部コンゴ民主共和国(旧ザイール)で17日、女性への暴力撲滅を訴えるデモが行われ、世界43か国から集まった女性200万人(恐らく“2万人”の誤植)が行進した。南キブ州ブカブで行われたデモは国際民間女性団体が組織したもので、同国のOlive Lembe Kabila大統領夫人も行進に加わった。【10年10月18日 AFP】
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内戦後も不安定な政情
コンゴは、96年から03年にかけて、周辺国を巻き込んだ「アフリカ大戦」とも呼ばれる世界最大の内戦(死亡者数は540万人とも言われています)を経験していますが、大統領官邸が武装グループに襲撃されるなど、いまなお政情は安定していません。

****コンゴ大統領官邸を武装グループが襲撃*****
コンゴ民主共和国(旧ザイール)の首都キンシャサで27日、銃を持った武装グループが大統領官邸を襲撃し、警護隊と戦闘になった。政府報道官の発表によると、武装グループ6人を射殺したほか、数人の身柄を拘束したという。
襲撃があったのは27日午後1時30ごろで、当時、ジョゼフ・カビラ大統領は官邸にいた。ランベール・メンデ通信メディア相は、襲撃を「テロ行為」だと非難した。

当初、メンデ氏は国営テレビで「クーデター未遂」の可能性も示唆していたが、AFPの取材に対し「クーデター未遂だと主張する人もいるが、犯行声明が出ていない。テロだ」と語った。武装グループの身元は不明という。
大統領官邸のあるキンシャサ・ゴンベ地区には、各国大使館なども多い。【2月28日 AFP】
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今世紀最悪の人道危機
こうした政情を反映して、冒頭のような“集団レイプ”事件も後を絶たないようです。
国内では、毎日(!)1100人とも1500人とも言われる女性がレイプ被害に遭っているとの報告も出されています。

****コンゴ民主共和国、レイプ被害は毎日1100件以上 米調査****
内戦で荒廃したコンゴ民主共和国(旧ザイール)では毎日1100人以上の女性たちがレイプ被害に遭っているとする調査結果が、11日の米学術誌「Journal of Public Health(公衆衛生ジャーナル)」に発表された。国連の推定を26倍上回る数字だという。

米公衆衛生研究家のアンパー・ピーターマン氏らが、同国で性暴力に関するデータを集めたところ、2006~07年の1年間にレイプされた15~49歳の女性は40万人以上に達していたことが明らかになった。国連は以前、同期間にレイプされた女性の人数を1万5000人と報告していた。
ピーターマン氏は、「これまでの推定が大幅に過小評価されていたことが確認された」と話した。

一方で、被害者が報告をためらうケースが多いこと、対象年齢以外の女性および男性の統計は含まれていないこと、さらには国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が「同国の09年の性暴力件数は前年から倍増した」と報告していることから、実際は今回の数字をも上回っている可能性があると指摘した。
南キブ州のある病院で手当てを受けた性暴力の被害女性4133人に限って言えば、16歳未満は全体の6%、65歳以上は10%を占めていたという。

米ハーバード大学人道援助組織のマイケル・バンルーエン氏は、今回の調査結果について、「コンゴ民主共和国では性暴力の加害者が処罰されないなか、レイプがまん延している。今世紀最悪の人道危機と言ってもよい」とコメントしている。【5月12日 AFP】
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つい最近でも、少女たちを含む150人以上がレイプされた事件が報じられています。
****コンゴ民主共和国で少女ら150人レイプか、国連****
コンゴ民主共和国(旧ザイール)の東部の南キブ州ミネンブウェで10日から12日の間に起きた襲撃事件で、女性や少女たち150人以上がレイプされた可能性があるとの見解を23日、国連関係者が明らかにした。
同事件については、国連の初めての公式報告書が24日に発表されることになっているが、ある国連高官によると、襲撃事件は元武装組織の国軍統合を前に訓練を受けていた元反政府勢力兵士ら200人が軍を脱退した後に起きたという。
南キブ州出身のジャンマリー・ゴマ議員は今週、襲撃について民兵組織マイマイに所属していた元民兵を非難している。

報告書の発表を前に、国連の武力紛争下の性的暴力撤廃に関する事務総長特別代表、マルゴット・バルストロムは、この襲撃で150人を超える女性や少女がレイプされたと語った。
米学術誌「Journal of Public Health(公衆衛生ジャーナル)」に前月、掲載された2006年から07年の調査結果によると、コンゴでは毎日1500人の女性がレイプ被害にあっている。【6月24日 AFP】
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イスラム社会における女性の権利の問題などもよく話題になりますが、コンゴの状況はそうしたものをはるかに突き抜けたものがあります。
先述のように、女性や人権、あるいは人命というものに関する基本的認識の違いが存在していると言えますが、それも「アフリカだから・・・」という訳ではなく、長年続く内戦で生命がいともたやすく失われていく毎日の繰り返しのなかで生まれたものでしょう。

一刻も早い政情の安定、それに伴う社会の安定が強く望まれます。

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イラク  圧殺される自由、改善しない電力、横行するわいろ  アフガニスタンの今後は?

2011-06-24 21:18:28 | 国際情勢

(イラク・バグダッド 各家庭必需品の自家発電機に接続されたワイヤーでクモの巣状になった電柱 自家発電機というのは軽油などで動くものでは? 何のためのワイヤーかは、自家発電機のことを全くら知らないのでわかりません。 “flickr”より By Chewbaca5 http://www.flickr.com/photos/55188529@N04/5120058039/

【“前途多難”なアフガニスタン
オバマ米大統領が発表した、アフガニスタンから3万3000人を来年夏までに撤収するという計画については、各紙とも「大統領選へ内政シフト」(毎日)、「戦略より政治優先」(産経)、「大統領選へ出口演出」(朝日)といった、国内政治情勢を反映したものとの見方を示しています。

低迷する経済を背景に、10年近くに及ぶ戦争に疲れ、厭戦ムードが広がる米世論に配慮した決定で、“演説で示した3万3千人の撤退は、2012年9月に終わる。オバマ氏自身の再選がかかる大統領選を2カ月後に控えた時期だ。昨年の中間選挙でイラク戦争からの大規模な撤退実績を訴えたように、「計3万人の撤退」を有権者にアピールするねらいとみられる”【6月23日 朝日】といったものです。

今後のアフガニスタン情勢については、特にアフガニスタン軍・警察への不安がぬぐえず、これまでも十分な統治能力を示してきたとは言い難いカルザイ政権のもとで“前途多難”が予想されています。

イラク:米軍全面撤退を前にテロ急増
一方、アフガニスタンに先立って撤退が進むイラクについては、一時は17万人規模にまで膨れた米軍を、
(1)10年6月末までにイラクの都市部から戦闘部隊を撤収、郊外の基地に再配置
(2)10年9月末までに1万2千人の戦闘部隊をイラクから撤収
(3)10年8月末までにイラクでの戦闘任務を終了
(4)イラク治安部隊の訓練などにあたる残存部隊も含めて、11年末までにイラクから完全撤退
というスケジュールで撤退させており、今年末の最終段階の全面撤退を控えた時点にあります。

アフガニスタンに比べると、治安も安定し、マリキ政権もそれなりに機能していると見られるイラクですが、米軍全面撤退を前にして、最近テロ報道が急増しています。
今月に入ってからだけでも
イラク:米兵5人が死亡…各地でテロ相次ぐ【6月7日 毎日】
イラク中部で武装集団が州庁舎を襲撃、7人死亡【6月15日 AFP】
イラクで車爆弾テロ…26人死亡、30人負傷【6月22日 読売】
バグダッドで40人死亡 市場・モスクで自動車爆弾4発【6月24日 朝日】

といった状況です。

米軍基地や州庁舎が襲われており、今後の治安に不安が募りますが、一時は沈静化していたスンニ派勢力のシーア派に対する活動が活発になっていることも懸念されます。
スンニ派のアルカイダは、東部のディヤラ州や、北部でシリアと国境を接するニナワ州ではなお強い影響力を持っており、「かつてアルカイダはアラブ諸国からの送金に支えられていたが、いまでは銀行を襲撃したり、地元の商人や企業経営者を脅して資金を集めるなど、国内調達型になっている」【6月23日 朝日】とのことです。

一方、シーア派の民兵組織「マフディ軍」も、いまは武装解除していますが、いつでも武装闘争ができる状態です。
“バグダッドの北東部のイスラム教シーア派地域サドルシティーで5月下旬、数千人がパレードした。反米指導者ムクタダ・サドル師が率いる民兵組織「マフディ軍」である。真新しい制服にはイラク国旗があしらわれている。サドル師派幹部は「年末の米軍撤退を遅らせれば、武装闘争を再開する」と警告する” 【同上】

イラク戦争で得られたもの
治安問題については、少なくとも現在は、“06年、07年はバグダッドの遺体安置所には身元不明の他殺死体が毎日100以上を数えた”【同上】といった状況に比べればまだましとも言えます。
問題は、アメリカによるフセイン政権打倒、宗派間の内戦を経て、何が達成されたのか・・・という点です。

この問題について、【6月24日 朝日】は厳しいイラクの現状を伝えています。
ブッシュ元大統領が掲げた「自由で繁栄するイラクの建設」にもかかわらず、民主主義や自由は根付いていません。

****自由と繁栄」どこに〈イラク戦争の傷痕 下―1*****
6月10日金曜日午前中、バグダッドのタハリール広場で、「腐敗撲滅」「政治的自由の尊重」「公共サービスの改善」などを掲げる数百人の市民デモが行われた。軍や警察が厳重に警戒する中、マリキ首相支持派の部族の集団が入ってきて、市民たちを広場から追い出した。
イラクでも1月にチュニジアやエジプトで始まった民主化運動に連動して、改革要求のデモが始まった。しかし、イラク戦争の後に民主主義や自由がもたらされたはずのイラクで、改革を求める声は様々な圧力を受けている。

バグダッド市内にある人権団体「アイナハック」で5月28日午後に開かれたデモの準備会合も弾圧に遭った。治安部隊の車両や装甲バスが横付けされ、数十人の治安部隊が建物に入った。会議をしていたアイナハックの代表アフマド・ナッジャルさん(60)ら13人の市民組織の代表が拘束され、連行された。

「特殊部隊が押し入ってきて、わたしたちに手錠をかけ、目隠しをして車に乗せた。まるでアルカイダを扱うように」とナッジャルさん。全員がイラク南部にある軍情報部の拘置施設に移送された。取調官に「政府を転覆したいのか」と質問された。「私たちは国のために市民の力を結集したいだけだ」と答えた。

ナッジャルさんらは6日後に釈放されたが、政府と軍による市民組織への露骨な弾圧である。「政治は宗派や民族の個別の利益に基づいて行われ、国や国民の利益を考えていない。国民にとっては失敗国家だ」と、ナッジャルさんは政治のあり方を批判する。

米国が主導したイラク戦争で旧フセイン政権が打倒された後、シーア派やクルド人など旧政権時代の反体制組織が権力についた。マリキ首相も反体制シーア派組織ダワ党を率いている。
ブッシュ元大統領は開戦に際して「自由で繁栄するイラクの建設」を掲げた。しかし、戦争から8年後の現実は、自由や繁栄とはほど遠い状況だ。【6月24日 朝日】
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十分に機能しない政治によって電力事情は改善されず、経済活動・市民生活の足かせとなっています。
****電力不足、農・工業に打撃〈イラク戦争の傷痕 下―2*****
イラクで国民不在の政治を象徴するのは、昨年3月に行われた総選挙の後、政党間の駆け引きによって新政権が発足するまでに8カ月かかったことである。
さらに政府の機能不全を示すのが、電気事情のひどさだ。バグダッド中心部のカラダ地区のムハンマド・アベドさん(38)の家では公共の電気は1日に4、5時間しか流れない。残りは発電機を持つ業者から3アンペアを月50ドルで買う。

アベドさんは4年前まで米国系会社の技師をしていたが、アルカイダ系組織に脅迫されて辞めた。定収のない生活で電気代は大きな負担だ。3アンペアでは照明と扇風機を動かすだけで、冷房は動かない。最高気温が50度近くになるバグダッドでは、扇風機だけでは耐え難い暑さだ。

外国の支援も、政府の出費も、電気事情の改善のために膨大につぎ込んだ。それでも改善しないのは、電気省の役人と請負業者が費用を着服し、事業にお金がいかないためという。
外国から買った大型発電機が設置されなかったり、発電所の改修事業の資金が足りなくて事業が遅れたりした例は珍しくない。元電気相が汚職の疑いで、捜査の対象となったこともある。

電気供給が回復しないことは、産業にも大きな影響を与える。かつてはラシッド通りにひしめいていた縫製や皮加工の家内工場は、戦後、2、3年ですべて閉鎖した。かつて60人の従業員を使っていたサアド・アリさん(48)は、いまは工場を閉め、小型の車で荷物の配送をしている。

工場を閉めた理由の一番は電気事情だか、それ以外に、外国製品に関税がないため、中国製品やトルコ製品などが安い値段で入ってきて、太刀打ちできない。「旧政権では国内の工場には優先的に電気が回ってきたし、国内製品を保護するための外国製品への関税も、国内生産への政府の援助もあった。いまは保護も支援もない」と語る。

バグダッド大学経済学部のマフムード・ダーギル教授は「国内の工業だけでなく、農業もひどい状況だ」と語る。「電気がないからポンプによる灌漑(かんがい)ができない。八百屋にいっても野菜や果物はトルコ、シリア、イラン産など外国産ばかりだ。チグリス・ユーフラテスという二つの大河を持ちながら、国内農業は死に絶えつつある」という。【6月24日 朝日】
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社会の閉そく感を強めるのは、コネやわいろの横行です。
****わいろ横行 絶望する若者〈イラク戦争の傷痕 下―3*****
国民にとって石油収入を握る国の公務員が最大の就職先となる。しかし、省庁はすべて政党や政治組織が抑えている。大臣ポストを握る政治組織の支持者か、幹部の縁故採用が主で「コネ」がなければ任用は難しい。
さらに公務員任用で幅をきかせているのが、わいろだ。どのような部署でも、役人に数百ドルから2千ドル、3千ドルのわいろを渡さねば、採用されない。

両親も教員で、自ら教員養成学校に通うアリさん(21)の家族はスンニ派で、バグダッド市内でシーア派武装組織マフディ軍に脅迫されて、家を追われてアンバル州に移った。母親は地元で教職に復帰するのに文部省の役人に2千ドルを渡した。父親は5回出願したが、採用されずに、最後は同じく2千ドルのわいろを渡して教職を得た。

就職だけでなく、旅券も、運転免許証も、病院の治療も、申請しても延々と待たされるが、しかるべき人物にわいろを渡せばすぐに手続きが終わる。関係者に350ドルを払って、新しい旅券を翌日出してもらった女性(65)の話も聞いた。「申請書類も出さなかったし、指紋も押さなかったのに」と女性はいう。

イラクで大規模なデモが始まった2月25日にちなんで「2・25の青年たち」という若者グループに参加するアミールさん(27)は「これは政治家や役人が権力や権限を独占して、自分たちの利益しか考えていないからだ。若者の多くは大学を出ても、コネやわいろによってしか動かない社会に絶望している」と語る。

タクシー運転手をしている若者(26)にインタビューした。「私はイラク軍の機械化部隊の兵士だ」と軍の身分証明書を見せた。兵士の給料80万ディナール(約7万円)の半分をもらうが、軍務にはつかない。入隊後半年で上司や司令官との話し合いで、そのような取り決めになった。
「どの部隊でも兵士の10%から20%は、私のように名前だけの幽霊兵隊だ」と若者は言った。兵士の給与の残りは幹部で分配する仕組みだ。警察や、一般の役所でも同様の仕組みが広がっているという。

腐敗がどこまで国をむしばんでいるかは想像もつかないほどだ。「富国強兵」政策を進めて、国民を犠牲にして戦争を繰り返す独裁者が倒された後、権力は宗派、民族で分割された。しかし、それぞれに自分たちの利益しか考えず、国民はやはり見捨てられている。【6月24日 朝日】
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比較的うまくいったイラクですらこのような状況です。
タリバンとの戦闘が終結しない、そして汚職まみれで非効率なカルザイ政権のアフガニスタンの今後はどのようになるのか・・・あまり楽観的にはなれません。
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アフガニスタン  オバマ米大統領、来夏までに計3万3千人を撤収させる計画を発表

2011-06-23 22:42:45 | 国際情勢

(“flickr”より By david_axe http://www.flickr.com/photos/david_axe/5536919735/

【「我々は責務を果たしつつある」】
オバマ大統領は、一昨年暮れ、アフガニスタン駐留米軍を3万人増派すると発表しましたが、その際、11年7月から撤退を開始することも併せて明らかにしていました。

その“7月”を目前に控えて、バイデン副大統領らを中心とする早期の大規模撤退を主張するグループと、治安維持への懸念から初期の撤退を最小限に抑えたいゲーツ国防長官や米軍高官の間で、撤退規模をどうするかの議論が行われてきました。

こうしたなか、オバマ大統領は22日、今年末までに1万人を引き揚げ、来年夏までに計3万3千人を撤収する考えを示しました。
10年近くに及ぶ戦争で、米世論や議会に戦争疲れの空気が強いことへの配慮から、かなり大規模な撤退計画となったようです。

****アフガン撤収、来夏までに3万3千人 米大統領が演説****
オバマ米大統領は22日、ホワイトハウスで演説し、アフガニスタン駐留米軍(現在約10万人)の部分撤退を7月に開始し、来夏までに計3万3千人を撤収させる計画を発表した。2014年末にアフガン側への治安権限移譲を終えるため、来夏以降も撤兵を進める方針も明らかにした。

オバマ政権は発足時から、対テロ戦争の一環としてイラク戦争を始めたブッシュ前政権との違いを強調。アフガンを国際テロ組織アルカイダに抗する主戦場と位置づけ、09年12月に3万人の増派を決定した。同時に今年7月から部分撤退を始める方針を示していたが、今回、その具体案を示した形だ。

この日の演説では、アルカイダ指導者のオサマ・ビンラディン容疑者殺害や、アフガンの反政府武装勢力タリバーン掃討、アフガン政府の治安組織養成など、増派戦略の成果を列挙。「我々は責務を果たしつつある」と強調し、今年末までに1万人を引き揚げ、来年夏までに計3万3千人を撤収する考えを示した。

一方で、「多大な課題が残っている。これは戦争を幕引きする努力の始まりだが、終わりではない」とも発言。アフガンの治安を担う北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議を12年5月に自分の地元シカゴで開き、14年までにアフガン側に治安権限を移譲していく戦略を話し合う考えも示した。
アフガン政府とタリバーンとの和解の動きに加わる考えも表明。一方で「我々の軍事的な努力もあったからこそ(和解への)進展を確信できる根拠が生まれた」と述べ、軍事的な圧力もかけ続ける意向を示した。

10年近くに及ぶ戦争で、米世論や議会に戦争疲れの空気が強いことへの配慮も強くにじませた。米国の目標は「アルカイダが米本土を攻撃する拠点をつくらないこと」と明言し、際限のない軍事的関与を否定。アフガンでの米兵死者や、イラクと合わせた累計1兆ドルの戦費など米国民の負担に触れ、撤退によって、こうした資源を米経済再建に注ぎ「今からは米国の国造りに集中していく時だ」と訴えた。
アフガンには米軍とNATO主体の外国部隊計約14万人が駐留。財政難を背景に各国で撤退の動きが加速している。【6月23日 朝日】
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低迷する経済を背景に厭戦ムードが広がる米世論に配慮
オバマ大統領としては、“1週間で20億ドル(1610億円)の出費を強いられるアフガンでの戦争への拒否反応は強く、国民の5割強が戦争に反対しているとの世論調査もある”【6月23日 産経】という状況では、12年11月の大統領選を考えると、“オバマの戦争”と言われるアフガニスタンに何とか出口を見つけ、早期に撤退を進めたいところでしょう。

****オバマ大統領、治安より国内世論…2期目見据え米軍撤退*****
オバマ米大統領が発表した2012年9月までに3万3千人のアフガニスタン駐留米軍を撤退させる計画は、低迷する経済を背景に厭戦(えんせん)ムードが広がる米世論に配慮し、アフガンの治安より12年11月の大統領選を視野に国内世論を重視した内容となった。
大統領が演説で打ち出した撤退計画は、来年9月までに計3万3千人を撤退させるという、多くの当初予測よりも3カ月近く早い“駆け足”の計画だ。

オバマ政権はこれまで、バイデン副大統領らを中心とする早期の大規模撤退を主張するグループと、治安維持への懸念から初期の撤退を最小限に抑えたいゲーツ国防長官や米軍高官に分かれ、つばぜり合いを演じていた。
だが、11年度には1兆6千億ドル(約129兆円)の財政赤字が見込まれ、失業率が9%に達するなど米国の経済状況は悪化。1週間で20億ドル(1610億円)の出費を強いられるアフガンでの戦争への拒否反応は強く、国民の5割強が戦争に反対しているとの世論調査もある。

大統領は演説で、国際テロ組織アルカーイダの指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者の殺害にも言及するなど大統領自身が09年12月に決断した3万人規模の米兵増派の成果を強調。公約通りの撤退を実現させることで、米世論の理解を求める姿勢を示した形だ。
ただ、来年9月以降も約7万人が駐留を継続する状況にどこまで国民の理解を得られるかは不透明。撤退を機にアフガン情勢が暗転すれば、政権内外からオバマ大統領への批判が高まる可能性も捨てきれない。【6月23日 産経】
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【「これほどの数は期待していなかった」】
今回の撤退決定あたって、オサマ・ビンラディン容疑者殺害が大きな成果として強調されていることは言うまでもないところです。
オサマ・ビンラディン容疑者あけでなく、アルカイダ幹部の殺害による組織弱体化が進んでいるとの報道もあります。恐らく、撤退計画発表に合わせて、それを正当化するために敢えて流された情報ではないでしょうか。

****米情報当局:アルカイダの幹部20人を殺害 米紙報道*****
19日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、米情報当局が標的としていた国際テロ組織アルカイダの幹部30人のうち20人が殺害され同組織が弱体化したことで、オバマ政権がアフガニスタン駐留米軍の撤退を加速させることが可能になったと報じた。複数の米高官の話として伝えた。

同紙によると、米情報当局は09年、パキスタン国内や、同国とアフガンの国境地帯に潜んでいる幹部30人のリストを作成。昨年中に15人、今年になってさらに5人を殺害した。
これらの幹部は無人機によるミサイル爆撃やその他の秘密作戦によって殺害された。アルカイダ指導部の士気低下は、5月にウサマ・ビンラディン容疑者を殺害した際に隠れ家から押収した文書類からも明らかになっているという。
パキスタンでは軍部を中心に、米無人機の攻撃を「主権侵害」と批判する声が強まっている。【6月20日 毎日】
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タリバン勢力に投降者が増加しているとの情報もあります。
****アフガン武装勢力、2千人投降 長引く戦争で疲労か****
アフガニスタンでタリバーンなど反政府武装勢力の末端司令官や戦闘員に投降を促し、社会への再統合を図る政府の和平プログラムに、昨年秋以降約2千人が応じたことがわかった。アフガン高等和平評議会のスタネクザイ事務局長が朝日新聞とのインタビューで明らかにした。
元戦闘員の社会復帰の成否は、アフガンの治安回復のカギを握り、オバマ米大統領が22日に発表する米軍撤退が順調に進むかにも影響すると見られる。

スタネクザイ氏は投降者について「これほどの数は期待していなかった」との認識を示し、「和平プロセスは急速に前進している」と自信を見せた。長引く戦争への疲労感が末端の戦闘員に広がっている事情が背景にあると見られる。「タリバーン指導部が危機感を強めているとの情報もある」(外交筋)という。

ただ、投降が多いのはタリバーンが拠点とする南部や東部ではなく、クンドゥズ州やヘラート州など北部や西部が中心。米紙ニューヨーク・タイムズは北大西洋条約機構(NATO)軍幹部の話として、投降者の3分の2は北部の戦闘員だと伝えた。

武装勢力は最大で計4万人程度と推計されている。同紙によると、司令官レベルの投降者は少ないという。政府からの生活支援をあてにして武器を持って「投降」する偽タリバーンも多いのではないか、との見方もある。
こうした批判に、スタネクザイ氏は「再統合の成功は投降者数ではなく、どれだけの地域で治安が安定したかで評価されるべきで、いくつかの州では成功が出始めた」と語った。

だが、タリバーンは「春季攻勢」を宣言し、先月以降、政府施設などへの攻撃を強めている。国連によると、戦闘などによる民間人の死者数は先月、過去最悪を記録するなどアフガン全体の治安状況に改善の兆しは見えていない。
スタネクザイ氏は再統合と同時に進めるタリバーン指導部との和解交渉については接触があることは認めつつ、「信頼醸成の段階で、本格的な交渉には入っていない」と述べた。
スタネクザイ氏は和解路線を推し進めるカルザイ大統領の側近。大統領顧問として和解・再統合プログラムの策定に携わり、プログラムを進める高等和平評議会が昨年9月に設立された際に事務局長に就任した。【6月22日 朝日】
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カルザイと取り巻きは本当は戦争が永遠に終わってほしくないのではないか・・・
オバマ大統領の3万人増派、タリバン拠点の南部カンダハル州などでの大規模掃討作戦、無人機攻撃の拡大などは、確かにそれなりの成果をあげています。
アフガニスタンにおける最大の問題は、こうしたアルカイダ幹部殺害、タリバン投降者増大といった戦闘面における成果が、社会全体の安定化に必ずしもつながっていないことにあります。

****カルザイヘの最後の警告****
アフガニスタンが1年前より安定していることは確かだが米軍が大規模に撒返したら安定はそう長く続かないだろう

1万人以上ともされる大規模な撤退が議論される本当の理由は、少なくともハミド・カルザイが大統領を続けるアフガニスタンでは米軍の戦略は機能せず、今後もうまくいきそうに思えないからだろう。

アフガニスタン戦略に関しては、広く受け入れられている事実が2つある。1つはペトレアスが反政府武装勢力との戦闘で大きな成果を挙げていることだ。
米軍はイスラム原理主義勢力タリバンの中堅から幹部クラスの兵士や指揮官を数多く殺害。タリバンの指揮系統を混乱させ、かつては武装勢力が完全に掌握していた南部のパシュトゥン人の地域を中心に、彼らの支配地域での地位を弱めている。

2つ目の事実は、軍レベルの戦術的な進展がはるかに重要な政治レベルの戦略の進展にあまりつながっていないことだ。
すべての戦争には政治的な目的がある。反政府武装勢力との戦争は殊更に政治のための戦争で、政府が機能できる「安全地帯」が重要になる。
しかしカルザイは安全地帯を活用しようとしない。米軍とNATO軍、最近はアフガニスタン軍も加わって、人命を含む多くの資源を犠牲にしながら必死に戦って築いてきた安全地帯だ。

アフガニスタンでの戦略目標は本当に達成可能なのか。達成できそうにないのなら、少なくともより実現可能な規模に縮小すべきではないのか。目標を縮小すれば、はるかに少ない兵力しか必要でなくなる。
過去に成功したCOINでは、反政府武装勢力との戦いに協力する外国政府と当事国政府が基本的な利害を共有していた。

しかしアフガニスタンは違う。
アメリカはアフガニスタン政府に改革を受け入れさせ、権力の一部を地域の指導者と共有できるようにしたい。また、省庁にもっと有能な役人をそろえ、公共サービスを確実に提供したい。
だがカルザイの権力の大部分は、取り巻きのネットワークを維持して買収することで成り立っている。欧米がアフガニスタンに大量のカネをつぎ込むなか、カルザイと取り巻きは本当は戦争が永遠に終わってほしくないのではないか・・・そう懸念する高官もいる。欧米からの資金はアフガニスタンのGNPの何倍にも及び、カルザイたちは開発事業と経済支援の分け前で私腹を肥やしている。

オバマがどういう理由であれ大規模な撤退を目指すなら、それは最高司令官として当然の権利だ。ただし、戦略がうまくいっているから予想より兵力を大幅に減らせるという理屈は誠実さに欠ける。実際、米軍の状況はそれほど順調ではない。
米軍が突然、大規模な撤退をしてもタリバンは支配地域を再び拡大できないとは言い難い。反政府武装勢力はそれほど弱くないし、アフガニスタン軍はそれほど強くない。戦略は順調だというふりをするより、現在の状況を考えて方向を転換する必要があると主張するほうが、最高司令官として誠実だろう。
その場合は米軍の意向に沿って、撤退はおそらく数千人規模にとどまることになる。ただし、同時にカルザイに対してこれが本当に最後だと警告する。継続的に反政府勢力を寄せ付けない有効な政府を築かせるのだ。【6月22日号 Newsweek】
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アフガン憲法では大統領の任期は2期までと規定されていますが、カルザイ大統領は憲法を改定し、3期目を目指すとの臆測もありました。しかし、ゲーツ米国防長官は15日、上院歳出委員会の国防小委員会で証言し、カルザイ大統領から2期目の任期満了となる2014年に引退すると伝えられていることを明らかにしています。
アメリカとしては、これ以上カルザイ大統領には付き合いきれない・・・というのが本音でしょう。

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サウジアラビア  女性の自動車運転解禁を求める動き クリントン米国務長官も支援

2011-06-22 21:27:42 | 世相

(前月にサウジアラビア東部州で車を運転したとして逮捕されたマナル・シャリフさん(32) “flickr”より By sousapinto  http://www.flickr.com/photos/31566015@N07/5752697856/ )

女性による車の運転や近親者による付き添いなしでの外出は禁止
イスラム教の聖地メッカも存在するサウジアラビアは、イスラム教ワッハーブ派が国教とされています。
ワッハーブ派はイスラム教スンニ派のひとつですが、その厳格さで、過激なイスラム原理主義の母体となっていることでも知られています。

そうした宗教事情から、女性の権利も大きく制約されています。
“サウディアラビアはイスラーム教の中でももっとも厳格なワッハーブ派のシャリーアを国法としている。そのため女性は公的な場面から完全に排除されている。女性による車の運転や近親者による付き添いなしでの外出は禁止されている。また外出時には必ずヒジャーブを身に着けねばならない。遺産相続も男性の半分であり、公的な権限を行使するためには父親、夫、兄弟などの男性の代理人を介さねばならない。一夫多妻制が認められており、安易な離婚や家庭内暴力も問題となっている。”【ウィキペディア】

もっとも、ときおりメディアで話題になる宗教指導者の見解と民衆の生活には乖離もうまれているとの指摘もあります。
“近年では宗教指導者たちが示す宗教的見解と民衆の生活の乖離が進み、国民が宗教的な指導に従わなくなってきており、宗教指導者がハラーム(禁忌)であるとファトワー(宗教見解)を出した物の多くを民衆が利用していることが珍しくなくなった。代表的な物としてポケモン、バレンタインデー、クリスマスなどがある。
民衆が宗教指導者の言うことを聞かなくなった結果、宗教指導者が今まで以上に原理主義的で過激な発言を繰り返したり、宗教警察である勧善懲悪委員会による取り締まりを過激化させる傾向にある。これによってとんでもない理由での刑罰や死刑が科されることがある。
このような過激な発言がニュースで配信されたりしてネット上で話題になることがあるが、発言と実情がかけ離れていることが多い。
2008年には過激派宗教指導者二人が国王によって解任されるなど、過激派宗教指導者はサウジアラビアでも排除され始めている。”【ウィキペディア】

ただ、女性の自動車運転は依然として禁止されています。
“サウジアラビアは世界で唯一、女性が自動車を運転することを法律で禁止している国である。
元々は社会通念上は運転しないという程度の物で都市部では交通警察ではなく勧善懲悪委員会が取り締まっているだけで地方へ行けば女性の運転は珍しいことではなかったが、1990年代から都市部などで運転する女性が急増したことから禁止法が制定された。
この禁止法に対して女性団体が国王に直訴したが、国王からは我慢するようにとの返答がだされ法改正には至らなかった。(サウジアラビアは絶対君主制であるため国王が法律を変えるとの勅令を出せば法律が変わる。)” 【ウィキペディア】

【「女性が運転して何が悪いの?」】
こうした状況に対し、インターネットを通じて女性による「集団運転」を呼び掛ける運動が広がっています。

****サウジアラビア:「女性よ、運転を」ネット通じ運動広がる****
厳格なイスラム社会のサウジアラビアで、女性の車の運転が禁止されていることに対し、女性による「集団運転」を呼び掛ける運動がインターネットの交流サイト「フェイスブック」などで広がっている。
「女性が運転して何が悪いの?」。会社員のマナル・シャリフさん(32)はこう訴える。シャリフさんの動画はネット上で延べ10万人以上が閲覧した。

サウジでは「見知らぬ男性との出会いが増え、家庭崩壊につながる」との保守層の意見から女性の運転が禁じられているが、解禁を求める声は多い。
米国で運転免許を取得したシャリフさんは「運転手を雇えば、収入の3分の2が消える」と主張し、集団運転実現に向けたPRのため20日にハンドルを握ったが、直後に宗教警察に逮捕された。ネット上には釈放を求めるサイトが開設され、波紋が広がっており、当局は警戒を強めている。【5月31日 毎日】
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【「運転する女性はひもで叩こう」】
一方、女性の抗議行動に反発する動きもあって、「運転する女性はひもで叩こう」といういささか刺激的な呼びかけもなされているとか。

****運転する女性はひもで叩こう」、フェイスブックの呼び掛けが物議 サウジ****
イスラム教の中でも超保守的とされるサウジアラビアで、女性の自動車運転を禁止する法律に抗議するデモが6月に計画されているが、フェイスブック上では前週、このデモで車を運転しようとしている女性たちに制裁を加えるよう男性たちに呼び掛けるページが立ち上がり、物議を醸している。

同国では先ごろ、首都リヤド北東のアルラスで車を運転したとして、マナル・シャリフさん(37)が逮捕される事件があった。デモはこれに抗議するもので、6月17日に計画されている。活動家らはシャリフさんの即時釈放を求めている。

そんな中、フェイスブックには「イカール・キャンペーン: 6月17日は女性に自動車運転をさせない日」と銘打ったページが登場した。イカールとは、湾岸諸国の男性たちが頭にかぶる布を留める縄状の輪のこと。ページは車を運転した女性をイカールで叩こうと呼びかけ、これまでに6000人を超える読者から「いいね!」が寄せられている。
ある男性は、若者たちにイカールを配って「賛同」させることを提案。別の男性は「男たちがイカールを手に入れようと殺到しているので値段が上がっている」と冗談めいた書き込みをしている。

このイカール・キャンペーンをめぐって、サウジ国内各紙で激しい議論が巻き起こっている。有名作家のアブド・カル氏は地元紙オカズに、女性の自動車運転を禁止する法律を非難するコメントを発表した。キャンペーンについては「笑い飛ばせばいいのやら、悲しめばいいのやら」と当惑した反応だった。

一方で、同じくフェイスブックには「私たちはみんな マナル・シャリフ: サウジ女性の権利のために連帯しよう」というページも出現し、こちらも人気がうなぎ上りで、1日あたりの「いいね!」は1万9000件を超えるまでになっている。
また、湾岸諸国の知識人たちはシャリフさんの釈放を請願する署名を始めており、これまでに300人筆以上が集まっている。【5月26日 AFP】
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【「女性の運転を認める国王令が出されるまで、抗議行動を続ける」】
自動車運転で逮捕されたマナル・シャリフさんを支持する抗議行動は、6月17日に行われました。
****女性の運転認めて」、サウジアラビアで抗議行動*****
サウジアラビアで17日、女性の自動車運転を禁止するファトワ(宗教令)への抗議行動が行われた。
抗議行動は、前月に東部州で車を運転したとして活動家のマナル・シャリフさん(32)が逮捕される事件が発端となり、フェイスブックやツイッター上で参加が広く呼び掛けられたもので、多数の女性たちが参加を表明した。
同国ではデモ行進が禁止されていることから、運転免許証を持っている女性が車を運転するという、個人レベルの抗議行動が呼び掛けられた。

ツイッターには同日、コラムニストのTawfiq Alsaif氏が次のような書き込みを行った。「妻が運転する車で、今、スーパーマーケットから戻ってきたところだよ」
別の女性は、真夜中に車もまばらなメインストリートを運転し、スーパーマーケットの駐車場に停めるまでの様子を撮影した動画を投稿した。「われわれ女性が求めているのは、運転手に頼らなくても自分たちで用を足せるようになること。社会がわれわれを受け入れてくれることと信じています」と、女性は語っている。
 
抗議行動を呼びかけるフェイスブックのページ「Women2Drive」は、「女性の運転を認める国王令が出されるまで、抗議行動を続ける」と宣言している。
同国には女性の運転を禁止する法律はないが、内務省は、ファトワに基づき、女性の運転を禁止する規則を設けている。【6月20日 AFP】
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【「勇敢な行動で権利を要求したことに心を動かされた」】
ここにきて、運転許可を求める女性たちにとっては心強い援軍が現れました。
クリントン米国務長官が、この問題でサウジアラビア外相と協議したそうです。

****米国務長官:サウジ女性への支持を表明 運転禁止問題で****
クリントン米国務長官は21日、国務省で記者会見し、サウジアラビアの複数の女性が17日に女性の運転禁止解除を訴えて運転を強行したことについて「勇敢な行動で権利を要求したことに心を動かされた。彼女らを支持する」と表明した。
クリントン長官は、この問題について「サウジ政府の最高レベルで提起した」と述べ、サウジ外相と協議したことを明らかにした。さらに運転の自由は「雇用機会にもつながる」と強調し、禁止解除を求めた。【6月22日 毎日】
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クリントン米国務長官による後押しの結果が注目されますが、サウジアラビア側としてはアメリカの外圧に屈したイメージは避けたいところかも。
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スーダン  アビエイ地区の非武装化、PKO派遣で南北合意

2011-06-21 21:22:57 | 国際情勢

(5月26日 アビエイ地区でのPKO 装甲車はザンビア部隊 “”より By United Nations Photo  http://www.flickr.com/photos/un_photo/5805263974/ 

アビエイは炎に包まれ、北部の武装兵士が家や店への略奪
今年1月に実施された住民投票で7月に南部が独立することが決定したスーダンでは、北部政府軍が5月21日、石油資源が豊富で南北間の係争地であるアビエイ地区に進攻し、南部のスーダン人民解放軍(SPLA)との激しい戦闘の末、同地を掌握しました。南部の自治政府は「侵略だ」と強く反発、国連安全保障理事会も22日、北部政府軍の即時撤退を求める声明を出していました。

****スーダンに再び内戦の危機****
独立を勝ち取ったはずのスーダン南部に、石油資源が豊富なアビエイの領有権を狙う北軍が攻め込んだ

2月に独立が決まったばかりの南スーダンが、内戦に逆戻りする危機に瀕している。南北スーダンが領有権を争っている油田地帯の町アビエイに先週、北部政府軍が侵攻。これを南スーダンが「戦争行為」だと非難しているからだ。国連職員によれば、アビエイは炎に包まれ、北部の武装兵士が家や店への略奪を行っているという。バシル大統領が送り込んだ戦車や部隊から逃れるため、住民2万人のほとんどは避難している。(中略)

200万人の死者を出した22年間の内戦が05年の南北和平合意で終わった後も、スーダンでは暴力行為が続いてきた。スーダン政府軍による今回の侵攻はその最新の事例に過ぎない。

専門家や活動家たちは、アビエイがスーダン内戦の火ダネになると警告してきた。映画俳優でスーダン問題の活動家であるジョージ・クルーニーと共に、軍の動きを監視する「衛星見張り番プロジェクト」を立ち上げた人道支援NGO「イナフ・プロジェクト」の共同設立者ジョン・プレンダーガストは「衛星と地上の情報から南北の双方の部隊が増強され、北部政府軍が戦車や空の軍備を集めていることは知っていた」と言う。「戦争に向けたすべての準備が整っていた」

「違法な武装勢力を掃討中」
アメリカやほかの国々はバシルと北部政府に「事の重大さについて警告すべき」時だと、ブレンダーガストは言う。彼によれば、最近のスーダンは「(西部の)ダルフールの状況は悪化し、アビエイは交戦地域になり、南スーダンの一部地域でも北部が支援する武装勢力による戦闘が起きている」状態だ。

1月の南部独立を問う住民投票以降、南北は小競り合いを繰り返してきた。まず今月初め、治安維持活動に当たっていた国連職員4人がアベイエ近郊で何者かに襲われ銃殺された。そして先週、北部政府軍の兵士200人を先導していた国連の車列が南部の武装勢力によって攻撃された。国連は「犯罪行為」だとして非難。バシルはその後のアビエイ占領は奇襲攻撃に対する報復だと主張している。スーダン政府の大統領府長官アミン・ハッサン・オマルは「スーダン政府軍はアビエイで違法な武装勢力を掃討している」と述べた。

一方、南部は事態の悪化の責任は自分たちにはない、という立場だ。スーダン人民解放軍(SPLA)のスポークスマン、フィリップ・アギュイアー大佐は「宣戦布告したのはわれわれでなく、(北部政府の与党)国民会議と政府軍だ」と主張。南部自治政府のバルナバ・マリアル・ベンジャミン情報相は、今回の占領は何千人もの命を危険にさらす「違法な占領」だと語っている。

南部と北部を両天秤にかけるアメリカ
05年の和平合意に重要な役割を果たしたアメリカとイギリスも北部によるアビエイ占領を非難し、部隊の撤退するよう求めた。
アビエイは南部の主流民族であるディンカの多く暮らす地域だが、北部を支持するアラブ系遊牧部族ミッセリアも居住している。ミッセリアの選挙権問題で北部と南部が決裂し、アビエイの帰属を決めるはずの住民投票は行われなかった。

アメリカ政府は先週起こった南部による国連の車列への攻撃を「遺憾に思う」と同時に、北部による「不相応で無責任」な「侵攻作戦を非難」した。潘基文(バン・キムン)国連事務総長は戦闘終結を求めたが、北部はアビエイを占領し続けると主張。国連の要求を今のところ聞き入れていない。

プレンダーガストによれば、一連の侵攻と奇襲攻撃を一緒くたにするアメリカの反応は「平等の拡大解釈」だ
「北部政府の過剰な軍事力行使に警告すべき時だ」と、彼は言う。「リビアやイラン、シリアでは許されない虐殺行為が、スーダンではなぜ問題にされないのか」【5月25日 トリスタン・マコネル Newsweek】
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【「非常に重要な最初のステップだ」】
このアビエイ地区への北部政府軍侵攻は、南アフリカのムベキ元大統領を中心とするアフリカ連合(AU)の仲介により、エチオピア軍の平和維持活動(PKO)部隊を受け入れて非武装化することで、一応の打開は図られたようです。

****スーダン:境界油田を非武装化 PKO受け入れ…南北合意****
南アフリカのムベキ元大統領は20日、スーダンの南北政府担当者が、双方の境界に位置する油田地帯のアビエイ地区を非武装地帯化し、エチオピア軍の平和維持活動(PKO)部隊を受け入れることで正式に合意、文書に署名したと記者団に明らかにした。AP通信が伝えた。スーダンは来月9日にも南部が分離独立する予定で、油田の利権をめぐり双方の衝突が続いていた。

同地区は北部中央政府軍が5月後半に武力侵攻し、制圧。多数の避難民が出た。仲介にあたるアフリカ連合(AU)は今月13日、北部のバシル大統領と南部自治政府のキール大統領が同地区の非武装化で原則合意したと伝えたが、その後も一部で戦闘が続いていた。
AP通信によると、今回の合意に基づき、国連の承認を得てエチオピア軍約4000人が、同地区に展開する見通し。

ライス米国連大使は20日、南北の合意に歓迎の意を表明。近く国連安全保障理事会に同地区へのPKO部隊派遣に関する決議案を配布する考えを明らかにした。また、米国務省のヌーランド報道官も同日、「非常に重要な最初のステップだ」と述べ、合意が速やかに実行に移され、同地区の安全や人権を巡る状況が改善に向かうよう期待した。

アビエイ地区は05年まで20年以上続いた南北内戦の激戦地の一つ。今年1月、南部の分離独立を決めた住民投票と同時に、同地区が南北どちらに帰属するかを問う住民投票を実施予定だったが、有権者の範囲が決まらず延期されたままになっている。【6月21日 毎日】
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今回合意で、アビエイを占拠している北部政府軍は近く撤退することになります。
とりあえずの収拾は図られましたが、アビエイ地区の帰属をどうするかという問題自体は何も進展していません。
これからも南北間の“火薬庫”であることには変わりありません。
合意は13日になされましたが、14日には北部政府軍が南部との境界、南コルドファン州での空爆を強化しているとの報道がありました。同地域では、北部政府軍部隊と南部のSPLA部隊の衝突が伝えられています。

****スーダン、北部政府軍が南部空爆を激化****
国連が発表したところによると、スーダンの北部中央政府は14日、南部との境にある南コルドファン州での空爆を激化させた。一般市民が甚大な被害を受けたほか、緊急人道支援を行う人々も危険にさらされている。

国連スーダン派遣団の報道官はAFP通信に対し、「空爆作戦を非常に懸念している」と話した。同報道官によると、スーダン政府軍による激しい空爆はここ1週間続いており、14日は午前10時半に11個もの爆弾が投下された。恐らく飛行場を狙ったものだという。

スーダンのオマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領と、南部自治政府のサルバ・キール大統領は13日、南北間の係争地アビエイ(Abyei)から北部軍を撤退させることで暫定合意したばかり。スーダン南部は来月に分離独立することになっている。【6月15日 AFP】
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【南スーダンPKO、日本政府関係者は「かなり難しい」】
緊張が続くなかで、7月9日の南部独立及びその後の安定化を目指して、国連は現在の国連スーダン派遣団(UNMIS)を国連南スーダン派遣団(UNMISS)に改編して対応する予定ですが、このPKO参加について日本にも打診があったようです。

****陸自部隊の派遣打診 南部スーダンPKO、国連****
スーダン南部が7月に分離独立し新国家を樹立するのを受け、再編成される国連平和維持活動(PKO)部隊に関して、国連が日本政府に対し、陸上自衛隊施設部隊の派遣ができないか非公式に打診していることが18日、分かった。国連外交筋が明らかにした。

しかし、東日本大震災の復旧・復興への対応や、派遣先のスーダン南部の治安状況が十分確保されていないことなどから、日本政府関係者は「かなり難しい」と否定的な考えを示している。

スーダン南部の独立に伴い、現在の国連スーダン派遣団(UNMIS)は、国連南スーダン派遣団(UNMISS)に改編。潘基文事務総長の提案では、市民保護を担う部隊やインフラ整備のための施設部隊など約7千人に、警察約900人を加えた8千人規模。
1月の住民投票で南部の分離独立が決まって以降、国連PKO局が日本など広範囲の加盟国にUNMISSへの貢献ができないか打診してきた。【6月19日 共同】
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日本政府は去年、国連から、スーダンにヘリコプター部隊を派遣してほしいという要請を受けたものの、自衛隊側の運用上の支援態勢が十分に整わないなどとして、派遣を見送っています。
“東日本大震災の復旧・復興への対応”はわかりますが、“スーダン南部の治安状況”云々はどうでしょうか。
もちろん懸念の主旨は理解できますが、治安状況に問題があるからこそPKOが求められている訳で、そこにこだわる限り何もできません。

日本政府は18日、国連安全保障理事国入りを目指して、ドイツ、インド、ブラジルと組んだ「G4」(4カ国グループ)の枠組みで準備してきた安保理改革案の国連総会提出を断念する方向で最終調整に入ったことが報じられています。
いささか乱暴な言い方ではありますが、PKOにも参加できない国が安保理理事国としてどういう活動をしようというのだろうか?・・・という疑念を感じます。

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