(インドネシア・バリ島での“キスの祭典” “flickr”より By Bram & Vera
http://www.flickr.com/photos/bramvera/120718054/)
【キスの祭典】
インドネシア・バリ島では“キスの祭典”という行事があるとか。
****水もしたたる美男美女、バリ島でキスの祭典 インドネシア****
インドネシアのリゾート地、バリ島デンパサールで27日、「キスの祭典」として知られる伝統行事「Omed-Omedan」が行われた。
この儀式の前日はバリの暦で元旦にあたる「ニュピ」の日で、人びとは断食と瞑想に専念し、全ての職場や商店も休業となることから「静寂の日」とも呼ばれる。
しかし、その翌日に行われる「Omed-Omedan」は雰囲気も一転。参加者たちに水を浴びせられるなか、地元の若い男女たちが祈りながら集団で踊り続け、意中の男女はキスにこぎつける。【3月30日 AFP】
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「ニュピ」の日は聞いたことがあります。
この日は家から1歩も出てはいけない、火も使ってはいけない(当然料理もできません)、夜になっても灯りをともしてはいけない・・・ということで、働いているのは警察とホテルぐらいとのことです。
(とにかく、バリは365日・24時間、バリ・ヒンズーの宗教儀式で明け暮れている島ですので、そんな日があるのも、さもありなんというところです。)
しかし、翌日に行われる「Omed-Omedan」は初耳でした。
【反ポルノ法】
日本人からすれば、「へえ~」ということでおしまいですが、インドネシアという国は人口の大多数をイスラム教徒が占める一方で、バリ島のヒンズー教徒のほか、キリスト教徒やパプア・ニューギニアの伝統文化の中で暮らす人々なども存在する国です。
そんなインドネシアでは昨年10月にイスラムの価値観を前面に押し出した「反ポルノ法」が成立し、バリダンスなどもポルノ扱いされるのではないかといった懸念が広まりました。
「キスの祭典」なんて言ったら、ちょっとトラブルになるのではないか、大げさに言えば異民族間の文化的軋轢を強めるのではないかと思った次第です。
「反ポルノ法」は写真や動画、漫画やアニメ、イラストや文章などだけでなく動作や会話も取り締まりの対象になります。
この法案は1997年に初めてイスラム系政党の手で提出されて以来、何度も修正を提案されてきたそうで、さく年成立したのは、今年の総選挙での苦戦が予想される与党が「イスラム票取り込みを狙った」(地元紙ジャカルタ・ポスト)との見方がもっぱらだとか。
インドネシア政府は「あらゆる民族の伝統や儀式は尊重される」としていますが、法律ではワイセツの定義があいまいで、しかも一般市民が告発できるため、「対立相手を陥れる手段に使われかねない」(同紙)との指摘は根強いそうです。【08年11月19日 産経】
このイスラムの価値観に基づく法律に反対する人々は、「反ポルノ法は、文化の単一化を進めるもので、多様性を尊ぶインドネシアの精神に反する」と主張しています。
また、「文化、芸術、伝統に属するものは認める」とされていることについても、「宗教的シンボルや伝統を『ポルノ』扱いしたうえで、例外的に許可するということ。侮辱に他ならない」と批判しています。
問題となりそうなものに、バリのダンスや裸像が彫られたヒンズー寺院といったもののほかに、パプア・ニューギニアの男性が愛用するペニスケース「コテカ」もあります。
【ヨガ禁止に禁煙令のファトワ】
反ポルノ法は法律ですが、法律以外にイスラム指導者によるファトワ(宗教見解)として、ときおり“変わった”ものが出されます。
ファトワはイスラム教徒の行動を規制するものでしょうが、イスラム教徒が90%以上を占める社会にあっては、世の中全体の流れを決めるものにもなってきます。
今年1月には“ヨガ禁止”のファトワが出されました。
「純粋な運動だけなら問題ないが、トレーニング中にヒンズーのマントラを唱えることや、祈りを含んだ瞑想(めいそう)などは認められない」「イスラム信仰の妨げになる」という理由だそうです。
*****インドネシア:ヨガ禁止「イスラム信仰の妨げ」指導者会議****
インドネシアではここ数年、都市部を中心にヨガが普及し、女性誌や健康雑誌も取り上げるなどブームになっている。中所得層の増加とともに、イスラム教徒の間でもダイエット志向や健康への関心が高まっていることが背景にある。国立インドネシア大のオト・ヘルノウォノディ講師(社会学)は「ヨガがファッション感覚で多くのイスラム教徒を引きつけるようになり、イスラム指導者会議が危機感を持った」と話す。
ただ、ヨガ愛好者のあるイスラム教徒の女性は「インドネシアでは罰則がある法律さえ守らない人が多い。この宗教令を気にする人はあまりいないと思う」と冷ややかで、実効性がどの程度あるかは不明。
同様の宗教令は、昨年11月に隣国マレーシアでも出された。【1月30日 毎日】
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2月には、公共の場での“禁煙令”のファトワも出されています。
ただ、たばこを生産する農家が多い地域では反対も強いとか。
****イスラム指導者が禁煙令 たばこ大国インドネシアで波紋****
インドネシアのイスラム指導者たちが、公共の場での喫煙をハラーム(禁忌)とするファトワ(宗教見解)を出したことが波紋を広げている。2億人を超える国民の3人に1人が喫煙する世界有数のたばこ大国で、産地などから反発が強まっている。
国内のイスラム教の指導者で構成する「イスラム指導者評議会」は先月末、公共の場での喫煙や未成年・妊婦の喫煙をハラームと認定し、喫煙の行為そのものも「ハラームとマクルーフ(忌むべき行為)の中間」と位置づけた。法的規制はないが、人口の約9割を占めるイスラム教徒への心理的影響は大きい。
NGO「たばこ規制同盟」によると、インドネシア国民の喫煙率は34%(04年)で、未成年から喫煙を始める人が多い。政府は、たばこの健康被害を防ぐための世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組み条約」に東南アジアで唯一、加盟しておらず、分煙や広告規制は進んでいない。
国内のNGOなどからは、今回の認定について「限定的な言及だが、道徳の向上につながる」と評価の声が上がるが、ジャワ島各地のたばこ産地では反発が高まる。
地元報道によると、東ジャワ州のイスラム教住民組織の幹部は「国民の喫煙は、産地に仕事をもたらしている。評議会はファトワの意味を誇張しており拒否する」と発言。中部ジャワ州トゥマングン県では16日、数千人のたばこ農家たちが禁煙に反対してデモ行進した。【2月24日 朝日】
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【総選挙でのイスラム政党退潮傾向】
反ポルノ法や各種のファトワの話題を聞くと、インドネシアでイスラム原理主義的な動きが広まっているのか・・・とも感じられるのですが、来月に行われるインドネシアの総選挙予測に関する記事によれば、イスラム系諸政党の退潮傾向が指摘されています。
****インドネシア:ユドヨノ人気、安定感 総選挙まで2週間*****
インドネシア総選挙は来月9日の投票まで約2週間となった。ユドヨノ大統領の民主党が優位を保ち、メガワティ前大統領率いる闘争民主党、カラ副大統領のゴルカル党が追う展開。各党は激しい選挙戦を繰り広げる一方、7月の大統領選を視野に連携を模索する動きも活発化している。
最近の各種世論調査では、民主党の支持率は22%前後。野党第1党の闘争民主党が15~17%で続き、現在第1党のゴルカル党は14~15%。今回から、総選挙で国会議席の20%以上か、得票率25%以上を獲得した政党・政党連合しか大統領候補を擁立できない規定が設けられ、与野党の枠を超えた合従連衡の駆け引きが早くも熱を帯びている。(中略)
また、イスラム系諸政党の退潮傾向も指摘されている。開発統一党などイスラム系政党は、スハルト体制崩壊後初の総選挙(99年)で3割強、前回(04年)は4割弱と得票を伸ばしてきたが、最近の世論調査で「イスラム政党に投票する」という回答は2割台にとどまった。
党内の勢力争いなどが理由とみられるが、インドネシア科学院のシャフアン・ロジ・スブハン研究員は「既成イスラム政党の後退は、逆に過激なイスラム主義組織の伸長に結びつく危険性がある」と分析している。【3月24日 毎日】
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相次ぐファトワは、イスラム政党退潮を生むような世相に対するイスラム側からの抵抗・焦燥なのでしょうか。
それはともかく、スハルト時代の統治システムでもあったゴルカルが、大きく議席を減らしそうなことも注目されます。