【4月28日 AFP】
【拒絶姿勢が強まる欧州難民問題 再び「地中海」ルート犠牲者も】
欧州に押し寄せるシリアなどからの難民・移民の問題については、EUとトルコの難民送還合意やトルコ・レバノンにおける難民の厳しい状況などについて、4月13日ブログ「欧州難民問題 送還合意はしたものの双方に課題 トルコ・レバノンにおける難民らの厳しい生活」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160413で取り上げました。
また、難民問題でトルコの協力を必要としているドイツ・メルケル首相の苦境については、4月17日ブログ「EU イギリス離脱には耐えられても、フランス・ドイツで反EU感情が高まると・・・」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160413でも触れたところです。
なお、メルケル首相については、エルドアン大統領からの風刺作家告訴などで難題を突き付けられているのは事実ですが、ただ「苦悩」しているだけのヤワな政治家ではなく、したたかに今後に向けて対応していること、支持率も難民増加で低落した後、トルコとの合意などで回復していることなどの“しぶとさ”も指摘されています。
(「メルケル流「エルドアン大統領侮辱事件」のしのぎ方」佐藤伸行氏 4月20日 フォーサイト http://www.fsight.jp/articles/-/41122 )
最近の話題としては、24日の大統領選で、「移民排斥」を訴える極右・自由党候補のホーファー国民議会(下院)議員(45)が得票率でトップで、2位の左派・緑の党出身候補とともに決選投票に進むことになったオーストリアで、難民流入阻止の姿勢を強めていることが報じられています。
****難民入国、拒否可能に オーストリア、下院で法案可決****
昨年中東などから多くの難民が入国したオーストリアの下院が27日、今後難民らが殺到した場合は、ほとんどの入国を拒絶できるようにする法改正案を可決した。周辺国を「安全な第三国」と見なし、難民らにこうした国で難民申請をするよう求める内容だ。人権団体は「難民保護の放棄だ」と批判を強めている。(中略)
オーストリアは伝統的に手厚い難民保護制度を持ち、昨年は約9万人が難民申請した。人口1人あたりでEUで2番目に多い。
政権は当初は難民の受け入れを表明した。だが、多くの国が難民らを素通りさせ、オーストリアに向かわせるようになると方針を転換。難民抑制策に次々と着手し始めた。
背景に、難民受け入れ反対の右翼「自由党」の勢いが止まらない事情がある。同党は政府が抑制策を出すたび、より強い姿勢を強調している。【4月29日 朝日】
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オーストリアは昨年10月にはスロベニア国境でフェンス建設を計画していることを明らかにし、今年2月には難民申請の受け入れ数を1日最大80人に制限すると発表しており、台頭する極右勢力と政権与党が対難民強硬姿勢を競いあう形にもなっています。
欧州側の拒絶にもかかわらず、欧州を目指す人々は止みません。
****せめて息子だけでも欧州へ、アフガンの親たちの苦渋の選択****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンに標的にされている同国のモハメドさんは、ズボンを少し下げて、胴回りの爆弾の破片による複数の傷痕を見せてくれた。欧州に移民らを密入国させる密航業者に10代の息子2人を託すという苦しい決断を正当化するために──。
モハメドさんの息子たちのように、欧州へ渡るアフガン人の少年たちの数が前例のないほど急増している。(後略)【4月28日 AFP】
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周辺国による「バルカンルート」の事実上の閉鎖措置及びEU・トルコの送還合意で、懸念されたように、より危険な「地中海ルート」利用者が急増しています。
“国際移住機関(IOM)によると、北アフリカや中東などからイタリアに入国した難民らは、2月は3827人だったが、3月は9677人に急増。4月11〜17日の1週間では4651人に達し、ギリシャに入国した553人の8倍以上となっている。”【4月21日 毎日】
その結果、密航船遭難の悲劇も。
****<難民>「地中海」に再び・・・密航船転覆、500人死亡か****
リビア沖の地中海でイタリアに向かっていた密航船が転覆し、難民ら約500人が死亡した恐れが強まっている。背景には、トルコからギリシャ経由でバルカン半島を北上する「バルカンルート」が閉鎖され、北アフリカからイタリアに向けて地中海を渡る「地中海ルート」をたどる難民らが再び増えている事情がある。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が20日、生存者の証言として事故発生を明らかにした。確認されれば、地中海での密航船の海難事故では過去1年間で最悪規模という。(中略)
救助されたエチオピア人男性は国際移住機関(IOM)のスタッフに「妻と生後2カ月の赤ん坊が目の前の海で亡くなった。皆、数分で死んでしまった」と語った。生存者は数日間、海上を漂流。救助された際には「イタリアに行きたい」と訴えたという。
イタリアのレンツィ首相は「アフリカの兄弟姉妹が死の旅路をたどらなくて済むように手助けする唯一の方法は、出身国での雇用創出だ」と主張し、対アフリカ投資促進など難民危機対応のための欧州共同債の発行を提案している。【4月21日 毎日】
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【アフリカでもアジアでも 不均衡がある限り】
厳しい状況が続く欧州難民問題ですが、難民の問題は別に欧州に限った話ではなく、安全と豊かさに不均衡がある限り世界中のどこでも発生します。特に、移動や情報収集が容易になった現代では。
****「難民危機」南アフリカでも アフリカ全土から十五万人が流入****
欧州への難民流人が深刻化する中で、アフリカ諸国から南アフリカヘの移住を求める移民・難民も急増している。隣国のジンバブエ、モザンビークのほか、五千キロ以上離れたエチエピア、ソマリアからも移住者が押し寄せている。
アフリカは、国連の人口統計では、最も人目増加率の高い大陸だが、猛烈な勢いで北の欧州と南アフリカに、経済機会を求めて移動している。
南アフリカはアパルトヘイト(人種差別体制)を克服した国家。その一方で、外国人の流入には極めて厳しく、移住者に対する暴力事件も激増中だ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、二〇一四年~一五年六月末までの一年半で、二十四力国の十五万人が南アフリカで難民申請を行った。
ただ、このうちの八一%が申請を却下された。UNHCRは、「世界の平均(申請拒否率二一%)を遥かに超えている」と、南ア政府に改善を求めている。
ヨハネスブルクなど大都市部や国境周辺では、難民テントが急増中で、「もう一つの難民危機」が進行している。【選択 4月号】
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アジアでも。
****南アジアなどから「難民」が急増 香港で政策課題に浮上****
香港で、南アジアなとがら流人する「難民」対策が政治課題になっている。
香港へ入国後、難民申請をして審査待ちの人は約一万一千人で、二〇一四年から倍増。毎月の新規申請者数は一三年の約十三倍に増えた。八割はインドやべトナム、パキスタン、インドネシアなどアジア渋国出身。
経済難民が多く、数年かかる審告期間中、非合法に働くとされる。
申請者の増加に伴い、香港行政府高官は、インドなどからの入国者に対して、事前に資格審査を行うべきと発言。三月には行政府に影響力を持つ元保安局長らが、難民を受け入れる根拠の国連拷問等禁止条約からの脱退や、申請者を収容するキャンプ建設などに言及した。
人権団体や、香港のインド人コミュニティが反発しているが、問題の行方は、香港の民主派陣営も注目。
「雨傘運動」を主導した「学民思潮」の関係者は、「条約から脱退すれば、中国本土からの亡命者も守れなくなる」と懸念している。【選択 4月号】
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【オーストラリア・ターンブル首相「同情している訳にはいかない」】
アジアからの難民問題でしばしば問題視されるのが、オーストラリアの難民政策です。
オーストラリアは押し寄せる難民対策に苦慮し、国内には入れずに国外の施設に収容する措置をとっていますが、この国外収容施設の環境が劣悪で人道上の問題があると批判を受けています。
****オーストラリア「招かれざる客」を追い払え!****
「国境を守る」ため打ち出したのは、人権を脇に置いてでも難民を追い返す政策だった
わが国に不法に入国しようとする難民船は1隻残らず追い返す──そう威勢よく公約して13年秋にオーストラリア首相となったのが、保守系の自由党党首トニー・アボットだ。政治家の公約なんて選挙が終われば紙くず同然、と思ったら大間違い。この男は本気だった。
あんなに広くて人口密度の低い国なのに、しかも国連難民条約に加入しているのに、オーストラリアは欧米先進国に比べると難民の受け入れ数が極端に少ない。「国境を守る」ためにアボットが奮闘してきたからだ。
■「難民船の阻止」
アボットは昨年12月に議会で、「過去12カ月間、ほぼ1隻たりとも」難民船は上陸していないと語っている。だが、それを実現するために彼が何をしたかは明かさなかった。
実際には海軍が出動し、難民船の上陸を力ずくで阻んでいた。粗末な船に乗り込み命懸けで海を渡ってきた人々が正当な政治亡命者であるか否かを確かめることもなく、すべての難民船を出港地(たいていはインドネシア)へ追い返していたのだ。(中略)
■豪州版グアンタナモ
公平を期すために言えば、この国はアボット以前から、正規の難民申請手続きを経ずに船で不法入国しようとする外国人を第三国の難民収容所に、名目上は「一時的」に移送する政策を採用してきた。送り先はパプアニューギニアと、太平洋の小さな島国ナウルである。
だがパプアニューギニアのマヌス島にある収容所を視察した国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、そこでの収容者の扱いは「残酷で屈辱的」であり、「彼らが出身国に帰るよう促す意図的な試み」だと批判している。
昨年11月下旬には複数の収容者がアメリカとカナダの当局に書簡を送り、自分たちは「オーストラリア版グアンタナモ」に拘束されていると訴え、難民としての受け入れを懇願している。
■ジャングルの動物扱い
オーストラリア政府はパプアニューギニアおよびナウルとの間で、収容者の難民申請が正当なものと判定された場合は、当該人物をパプアニューギニアまたはナウルが受け入れるとの取り決めを交わしている。
だがナウルに暮らす難民50人余り(主としてパキスタン人)を取材したオーストラリアのメディアによれば、彼らは清潔な水や十分な食料も与えられず、働く場所もなく、「ジャングルの動物のように見放された生活」をしているという。
ある難民が言う。「パキスタンにいれば、いずれタリバンに殺される運命だった。でも、あそこで死ぬのは10分とかからない。ここでは私たちはじわじわと、苦しみながら死んでいくしかない」
■危険な国に送り帰す
英ガーディアン紙が昨年3月と8月に伝えたところでは、オーストラリア政府はシリアからの難民たちを、送還されれば「間違いなく殺される」と1人が訴えたにもかかわらず、「信じ難いほどの手間」を掛けてシリアに送り帰しているという。
ちなみにオーストラリア政府は現在、「自発的」に出国を選択した難民申請者に対して、1万豪ドルを支給している。
■カンボジアとの協定
この仕組みで、もしかすると潤っているかもしれないのがカンボジアだ。同国は昨年9月、オーストラリアで難民認定された人たちを受け入れる代わりにに、オーストラリアから4年間で4000万豪ドルの支援を受け、それで難民の再定住を支援することで合意している。
だが人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「難民保護の実績がなく、深刻な人権侵害が蔓延している国」に彼らを送り込むのは「難民を『安全な第三国』に送り届けるというオーストラリア政府の取り組み」と合致しないと批判している。
■政治難民も拒絶
昨年7月以降は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)ジャカルタ支部で難民と認定されても、オーストラリアには定住できなくなっている。
スコット・モリソン移民・国境警備相(当時)によれば、「まずインドネシアで難民認定を受け、それからオーストラリア行きの機会を待てばいいという甘い考え方」をやめさせるための措置だ。
これはおかしい。オーストラリア政府は従来、UNHCRの基準で認定された難民は受け入れるが、正規の手続きを経ずに難民船で勝手にやって来る人は不法入国者として追い返すと主張してきたはずだ。
■恒久的保護を否定
まだある。昨年末には難民に対する期間限定ビザを復活する法案を可決している。このビザは、難民がオーストラリアで最大5年間は働いて暮らすことを保障するが、恒久的な保護は与えない。出身国の政治的状況が改善したと政府が判断すれば、本人の意思にかかわらず送還されることになる。
この法案は難民の定義を狭め、当局側の決定に対する不服申し立ての権利も制限しており、「命の危険がある場所へと難民を送還しやすくする法案」だとの批判も上がっている。
しかし「国境の保全」に邁進するアボットの耳に、そんな批判は届かない。彼は時限ビザ法案可決の翌日、これで不法難民阻止の手続きがすべてそろったと満足げに語った。難民にとって、オーストラリアはさらに遠い国になった。【2015年1月20日 Newsweek】
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上記記事の後、昨年9月には保守派のアボット氏からリベラルを自任し、保護を求める難民への共感を示してきたターンブル氏に首相は変わりましたが、今のところ難民政策は大きくは変わっていないように見えます。
****イラン難民が焼身自殺、豪州から移送された島しょ国ナウルで****
オーストラリアから太平洋の島しょ国ナウルに移送されたイラン難民の男性(23)が27日、国連(UN)職員の訪問中に焼身自殺を図った。豪移民局が29日、明らかにした。
オーストラリアの移民政策に批判的な人々からは、男性の「意味のない死」はオーストラリアの強硬な移民政策が原因だと批判の声が上がっている。
男性は重度のやけどを負い、豪クイーンズランド州ブリスベンに空路搬送されたが、29日に死亡した。ナウル政府は、男性の焼身自殺が「政治的抗議行動」だったと述べている。
オーストラリアの難民政策は国連を含め国際社会から厳しく非難されている。オーストラリアは正式な難民であろうともボート難民の入国を拒否しており、ボートで入国しようとした難民認定希望者らをナウルの収容施設に移送している。これまではパプアニューギニアにも移送していたが、違憲判決を受けて閉鎖が決定された。【4月29日 AFP】
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上記記事にもあるように、パプアニューギニア・マヌス島の施設は違憲判断に基づいてパプアニューギニア政府によって閉鎖が決定されていますが、オーストラリア側は入国は認めない方針です。
****パプアニューギニア、豪の難民収容施設を閉鎖へ****
パプアニューギニア政府は27日、同国のマヌス(Manus)島にオーストラリア政府の資金で運営されていた難民収容施設の閉鎖すると発表した。前日の26日には同国の最高裁判所が、同施設での難民認定申請者の収容は憲法違反との判断を示していた。
パプアニューギニアのピーター・オニール首相は声明で、「判決を尊重し、政府は豪政府に対して、領外審査センターに現在収容されている難民申請者に対して別の措置を講じるよう直ちに要請する」と述べた。
船での入国を試みた難民申請者をマヌス島か、太平洋の島国ナウルの審査センターに移送するという豪州政府の政策については、これまでにも国際的に批判の声が上がっていた。
オニール首相の決定に先立ち、豪州のピーター・ダットン移民・国境警備相は、パプアニューギニア最高裁の判断にかかわらず、豪州の国境警備政策の有効性は変わらないと述べるとともに、マヌス島に収容されている850人全員は豪州への入国を認められることはなく、本国への送還か、第三国定住のいずれかしかないと述べていた。【4月27日 AFP】
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“ターンブル首相は、難民を受け入れない政府の方針は明確にすべきとした上で、「同情している訳にはいかない」と、譲らない姿勢を示した。政府は容易に受け入れることで、密入国を助長したり、ボートの沈没による犠牲者を増やすのを避けるためと説明している。”【4月28日 JAMS.TV】
「同情」か「人としての責務」か・・・・難民受入が多くの問題を惹起しやすいものであることは事実です。自分たちの豊かさと暮らしやすさを犠牲にして、どうしてよそ者を受け入れる必要があるのかという主張もわかります。人間だれしも自分のことが最大の関心事ですから。
ただ、“それでいいのか?”という自問も必要でしょう。そのうえで「よそ者は来るな!」と言うのであれば、当然のことのようにではなく、せめて恥ずかしそうに言ってほしいという気はしています。