テディちゃとネーさの読書雑記

ぬいぐるみの「テディちゃ」と養い親?「ネーさ」がナビする、新旧の様々な読書雑想と身辺記録です。

はてしなき影の国より。

2010-08-15 23:17:51 | ブックス
 今年も8月15日がやってきました。
 こんにちは、ネーさです。

「こんにちわッ、テディちゃでス!」
「ぐるる!」(←訳:虎です!)

 思い起こせば一年前……
 この特別な日に読むべき一冊として
 北杜夫さんの『楡家の人びと』を御紹介いたしました。
 では、今年は?
 2010年のこの日のために選んだ一冊は……
 こちらです!


 
                  ―― 忙しい蜜月旅行 ――



 著者はドロシー・L・セイヤーズさん、原著は1937年に発行されました。
 原題は『BUSMAN’S HONEYMOON』、
 貴族探偵ピーター・ウィムジー卿のシリーズとしては
 最後の長編小説になる作品です。

「きぞくたんていィさんッ!」
「ぐるるがるーる?」(←訳:何故これが特別な一冊なの?)

 ミシテリマニアさん以外には
 あまり知られていないことだと思われますが、
 実はピーター卿、
 深刻な戦争後遺症を抱えているんです。

 第十五代デンヴァー伯爵の次男、
 ピーター・デス・ブレドン氏こと
 ウィムジー卿――
 オックスフォード大学を優秀な成績で卒業したピーター卿は、
 折から勃発した世界大戦に出征しました。
 
「えッとォ、それはァ~」
「ぐるるがる?」(←訳:第一次世界大戦?)

 ええ、そうです。
 20世紀に起こった世界大戦の、
 欧州が主戦場となった悲惨な戦乱でした。
 戦車をはじめとする殺戮兵器・機械兵器の登場、
 怖ろしい毒ガスが実用化され、
 大型の爆弾が人間に対して仕掛けられる……

 1918年、
 ピーター卿は爆弾に吹き飛ばされ、
 土砂の中に埋められました。
 助け出されはしたものの、
 そののち約2年間に渡り、
 ひどい神経症が彼を悩ませることとなりました。
 
 ……2年?
 たった2年で、ピーター卿の苦しみは本当に癒えたのでしょうか?

「うむゥ~…」
「ぐるるがるぐる~…」(←訳:忘れられないことも~…)
「あるのでスよゥ~…」

 最後の長編作品となったこの御本『忙しい蜜月旅行』では、
 他のピーター卿推理譚とはやや異なる、
 哀調が隠されています。
 念願の結婚式!
 花嫁さんを連れて、とっておきのワインも持って、
 楽しきハネムーン!のはずが……
 ピーター卿、またまたしても事件に遭遇してしまいました。
 捜査のはてに、
 彼を待ち受けるものは――

 ピーター卿、
 そして我らがJ・H・ワトソン博士、
 またセル袴の裾をひるがえして走る金田一さんも、
 戦争に苦しめられた探偵さんでした。

 どうか、と願わずにはおれません。
 戦争で、苦しむひと、悲しむひとが、
 もうこれ以上増えませんように。
 世界を損なうばかり、
 傷つけるばかりの無意味な戦いは、
 お話の中だけで充分です。
 どうか、もう、新たな戦争がどこにも、起きませんように。

「せかいじゅうにィ!」
「がるがるぐうるる!!」(←訳:NO MORE WAR!!)
コメント
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