テディちゃとネーさの読書雑記

ぬいぐるみの「テディちゃ」と養い親?「ネーさ」がナビする、新旧の様々な読書雑想と身辺記録です。

夜を越え、朝の光へ。

2019-08-15 22:33:18 | ブックス
「こんにちわッ、テディちゃでス!
 わわゥッ! かぜがァ、つよいィ~!」
「がるる!ぐるるるる!」(←訳:虎です!蒸し暑いし!)

 こんにちは、ネーさです。
 平和のために祈る日が、
 台風のおかげで大混乱になってしまいました……
 皆さまの無事を願いつつの
 本日の読書タイムは、
 雨風にも負けない大御所さんに登場していただきましょう。
 さあ、こちらを、どうぞ~!
 
  


 
        ―― ある作家の夕刻 ――



 著者はスコット・フィッツジェラルドさん、
 2019年6月に発行されました。
 『――フィッツジェラルド後期作品集』と副題が付されています。
 
「ぎゃつびィー!」
「ぐぅっるーるがるるるる!」(←訳:ギャツビーの作家さんだ!)

 スコット・フィッツジェラルドさん(1896~1940)。

 不朽の名作『グレート・ギャツビー』(1925年刊)は
 いまもなお人々を魅了し、
 幾度となく映画化されていますね。

 そしてまた、フィッツジェラルドさんの人生――
 『ギャツビー』の主人公たちのように
 “時代の寵児”として絢爛たる日々を過ごしたのち、
 失意と困窮の中、
 急な病でこの世を去った……ということも、
 広く知られています。

 この御本に収められている
 短編小説8作品、
 エッセイ5作品、
 いずれも『グレート・ギャツビー』よりも
 後に執筆された作品です。

「ゆうぐれェ、でスかァ……?」
「がるるぅっるる?」(←訳:黄昏ちゃってる?)

 『ある作家の夕刻』という題名からは、
 勢いを失った作家さんの哀しい末路……などと、
 ネガティヴなイメージも抱いてしまいがちですが、
 いえいえ、そこは、
 翻訳者・村上春樹さんが仕掛けた《罠》なのかもしれません。

 実際に、この御本を手に取って、
 読んでみていただけたら解ると思うんですけど。

 フィッツジェラルドさん、
 決して枯れていません。
 諦めてもいません。

 『ある作家の午後』――
 そう、『夕刻』ではなくてね、
 『午後』という言葉が使われている作品は、
 明らかに著者・フィッツジェラルドさんが
 自身を投影したと思われる
 或る小説家さんの生活を描いたものです。

 お金はないし、
 お仕事はちっとも上手く進んでないし、
 何もかも行き詰っている、
 ように見えますが。

 それは真っ黒な絶望かといえば、
 そうでもない、のよね。

「どこかァ、らッかんてきィ!」
「ぐっるがるるるぐるる!」(←訳:きっとなんとかなるさ!)

 『フィネガンの借金』
 という作品で繰り広げられるのは、
 いわゆる“すれ違いの喜劇”。

 機智が効いていて、
 会話もシャレていて、
 軽妙な音楽さえ聴こえてきそうな
 楽しい作品ですよ。

「むゥ~んッ、でもォ~…」
「がっるるるぐる?」(←訳:エッセイの方は?)

 エッセイ5作品には、
 むしろ、フィッツジェラルドさんの
 誠実さが表れているかのようです。

 嘘をつかない。
 虚勢を、見栄を張らない。
 自分のこころを、偽らない。

 編訳者の村上春樹さんは
 そんなフィッツジェラルドさんのエッセイを
 《美しい》と讃えます。
 そこには
 《芯の強さ》が隠されている、とも。

「これはァ、まるでェ……?」
「ぐるるがる……!」(←訳:回想録だね……!)

 20世紀の初頭と、
 そこから続く激動の時代を泳ぎ、
 乗り越え、
 あるいは渦に呑みこまれかけ、
 それでも、
 遠い岸を目指して泳ぎ続ける――

 巻末の、
 フッツジェラルドさんへの思いの丈を綴った
 村上春樹さんの『訳者あとがき』、
 各作品に付されている村上さんの解説も
 読後の余韻を深めます。
 
 “書くこと”を愛し、
 その力を信じることを最後まで止めなかった
 ひとりの作家さんの希望の光を、
 どうか、皆さまも、ぜひ。
 


 
コメント
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