喫茶 輪

コーヒーカップの耳

「最後の授業」

2025-02-04 10:25:47 | 

『以倉紘平全詩集』より。

「最後の授業」(『地球の水辺』から)。

 

  最後の授業は

  黒板をていねいに拭くことから始めたい

  深みます宇宙の闇のような黒板

  ぼくは黒板の下方に端から端へ直線を引きたい

  ――この月面の地表の上に     

    諸君 ひとつの楕円を目に浮かべたまえ

    粉をふいたような

    さっくりと割れた

    粉ふき芋みたいな 鮮やかな球形を

  ぼくは黒板の隅から隅へ一本の対角線を引きたい

  それは宇宙の船から眺めた地球の弧だ

  薄い大気の層が闇にとけているのがみえる

  ――諸君はこの地表に生まれて二十年にみたず

    ぼくがここに滞在を許されるのはわずか二十年余に過ぎない

  ぼくは深みます黒板に黄色のチョークで斜線を引きたい

  流星のようにサッと

  宇宙の永遠の闇から闇へ消え去る閃光

  諸君 最後の日にも

  この閃光の前に

  ぼくがただ呆然と立ちつくすことを黙過せよ

  ――われらが人生の時間はかくのごとく束の間である

    何ごとにも心をつくすこと

    人間にできることは

    心づくしの他に何もない

  別れに臨んでぼくは願う

  ――深みます天の黒板に

    各自の生活が

    かがやいてあるように

 

教師からこんなはなむけの言葉をもらった生徒は一生忘れないでしょうね。

わたしもこんな教師の教えを受けたかった。残念ながらわたしは定時制高校にも通えなかったのだが。

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