すみません、正直みくびってました。
この川柳句集です。
敢えて裏表紙も。
先日須磨のギャラリー喫茶「あいうゑむ」さんでお会いした、フリーアナウンサー、ラジオパーソナリティーの久保奈央さんの処女句集『Ferris Wheel』(観覧車)です。
テレビやラジ関などでお馴染みの園田学園女子大学名誉教授、田辺眞人氏が丁寧な跋文を書いておられますが、ここでは久保さんご自身の「あとがき」を紹介しましょう。
2017年に川柳句会に初参加。そしてこの句集発行が2021年。
ということはたった4年間の句歴です。
ということで、わたしは、「どうせアナウンサーさんの遊び半分の余技」と見くびってしまったのでした。
ところがページを開いて読み進むと「これは!」と思ったわけです。
どのページにも小川清子さんの詩情豊かな写真が、いい雰囲気を醸しています。
川柳作品は全てで160句以上もあります。
みんないいのですが、川柳門外漢のわたしの独断でいくつかご紹介します。
先ず、ドカンとわたしの胸を撃ったのがこれ。
嘘さえも信じてくれた父が逝く
お父さん、あの世で泣いちゃいますね。わたしはこの一句だけでもこの本を読んだ値打ちがあったと思いました。
一寸だけ首をかしげる鳩時計
何気ない景色ですが、そこに自分の心象を重ねて、と思えます。読む者もそれなりに。
まだかゆい肩甲骨の2ミリ上
「2ミリ」、この微妙な数値が憎いですね。
猫じゃらし無口な人に振ってみる
やってみたくなります。あの人に。
集合の笛に飛び散る雀たち
一瞬のシャッターチャンスを逃さない。
閉店後ハードロックを聴く大将
取り合わせの妙。わたしは喫茶店をやっていた時、閉店後有線放送のチャンネルをクラシックからブルーグラスに変えて片付けをしてました。
この手紙結ぶ言葉を探してる
そうそう、誰もが経験すること。しかし作品化はだれにでもできない。
父の靴ちいさき指がみがく朝
ホロリとさせられます。
鼻歌でギリギリ嘘をはぐらかす
う~ん、いいとこ捕えますね。大げさかもしれませんが、人生の機微。
幼な子の柩に眠るきりんさん
「きりんさん」が絶妙。涙なくしては…。
似なかったところばかりが欲しくなる
こんな軽い句もホッとさせます。
リボンさえ結んでいればできた恋
そうですか。ほほう…。
蔵書にはハトロン紙巻く父の指
なんとも言えません。
いいですねえ。きっちりと時実新子さんの命脈を継いでおられます。
つまらないダジャレ川柳や、わけの分からない言葉を組み合わせただけの目立ちたいだけの深みのない川柳が世の中に出回っておりますが、
このような文学の香りする川柳は川柳界の主流にならないといけないと、門外漢ながらわたしは思います。
あの世で新子さんも拍手を送っておられることでしょう。
もっともっと作品、紹介したいですけどこれぐらいで。