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インポッシブル

2013年07月26日 01時41分29秒 | 洋画2012年

 ☆インポッシブル(2012年 スペイン、アメリカ 114分)

 原題 The Impossible

 staff 原作/マリア・ベロン

     監督/J・A・バヨナ 脚本/セルヒオ・G・サンチェス

     撮影/オスカル・ファウラ 美術/エウヘニオ・カバレロ

     音楽/フェルナンド・ベラスケス

 cast ナオミ・ワッツ ユアン・マクレガー トム・ホランド ジェラルディン・チャップリン

 

 ☆2004年12月26日、スマトラ沖地震

 マグニチュード9.1、死者 22万人。

 史上2番目に巨大な、文字どおりけた外れの地震と、

 それによる津波の被害は、 想像を絶するものになった。

 その巨大な悲劇に、タイのプーケットにいて遭遇してしまった家族の話だ。

 それも、実話。

 原作っていうか、マリア・ベロンというスペイン人の主婦の体験談が元になってる。

 このマリア・ベロンを演じたのがナオミ・ワッツなんだけど、いやもう、凄い。

 迫真の演技っていえば簡単だけれども、まじ、だ。

 津波に飲み込まれる場面だけでも、水槽の中で一か月、演じ続けたらしい。

 ただ、彼女もそうだけど、上手だな~と感心した俳優がいる。

 12歳の長男の役を演じたトム・ホランドだ。撮影当時、16歳。

 自然な演技で、弟たちの幼さが嫌で殻に閉じこもっていた長男が、

 津波に巻き込まれ、生死の境をさまよう母親を観ることで、

 父性を目覚めさせ、やがて父親に再会するまで、被災しながらも奉仕をするという、

 非常に難しい役どころをしっかり演じ切ってた。

 なかなかいないよ、こんなに好い子は。

 ただ、まあ、ホランド君も大変だっただろう。

 弟たちがあまりにも幼いものだから、津波に飲み込まれる場面は撮れないし、

 となると、一緒にいた父親もまた津波がひいてからしか登場できないわけで、

 必然的に、母親と長男の体験に集中せざるをえない中、

 水と泥と灼熱の太陽と、人ごみでごったがえした病院と、よく頑張ってた。

 実際、リアリティを要求したからか、特撮はかぎりなく少なく、

 ロケーションは長期をきわめたらしい。

 なんといっても、CGの津波では水が嘘っぽいからと、本物の水が使われてる。

 これが、凄いんだ。

 たしかにこの映画は、

 スマトラ沖地震を風化させないという効果もあるし、

 語り継がなくてはならない悲劇を疑似体験させることで、後の防災思想にも繋がる。

 でも、映画の主題は、ちょっとちがう。

 家族の絆の再確認なんだよね。

 なんだか、大人も子どもも、生きることが難しくて、表面上は家族なんだけど、

 その実、心の絆はどこかに置いてきちゃったんじゃないかって感じの家族が、

 リゾート地でちょっと癒されるどころか、

 死別離散するかもしれないっていうとんでもない状況に放り込まれることによって、

 家族の大切さをひしひしと実感させられるっていう運びになってる。

 もちろん、現代の被災なんだから、家族がばらばらになってたって、

 生きてるかぎり、記憶喪失とかにならない以上、かならず再会できる。

 だから、

 たとえ数度すれちがったところで、時間の問題じゃんっていう安心感はあるし、

 出会えるかどうかとか、死んじゃわないよねとかっていう心配なんていらんぜ、

 てなふうに観ちゃう観客もいるだろうけど、要はそんなことじゃない。

 家族の大切さを実感するのと同時に、

 母性や父性の再確認はもちろんのこと、

 この体験を通じて少年が大人になるという主題もある。

 その大切な、きらきらと輝くような瞬間を、ホランド君が演じてるのよ。

 上手だったわ~。

 子どもの劇団にありがちな大仰さも妙な発声も媚を売るような態度もなく、

 とにかく、自然だった。

 こういう子がのびていってほしいんだよな~。

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