◎劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 前編 始まりの物語(2012年 日本 130分)
英題 Puella Magi Madoka Magica the Movie Part I: The Beginning Story
staff 総監督/新房昭之 監督/宮本幸裕
脚本/虚淵玄 キャラクター原案/蒼樹うめ
キャラクター・デザイン/岸田隆宏 谷口淳一郎
総作画監督/谷口淳一郎 山村洋貴 撮影監督/江藤慎一郎
美術監督/内藤健 美術設定/大原盛仁 異空間設計/劇団イヌカレー
音響監督/鶴岡陽太 色彩設計/日比野仁 滝沢いづみ
音楽/梶浦由記 主題歌/ClariS Kalafina
cast 悠木碧 斎藤千和 水橋かおり 喜多村英梨 野中藍 加藤英美里
◎コラージュの見事さ
ちょっと、度肝を抜かれた。
魔女空間の世界設定を考案し、さらに制作した劇団イヌカレー。
いや、凄かった。
攻め手が少女であるがゆえに、その幻想的世界での凄惨さは度合いを増す。
で、ちょっと脱線すると、この魔女たちなんだけど、
世の中っていうか、象徴的には見滝原ね、ここで起きてる自殺や変死、
つまり精神的に抑圧された人達を魔女の囁きによって死に至らしめるんでしょ?
ただ、その場面はほとんどなくて、
魔女の囁きに乗せられる人物が登場してくることはほとんどない。
なんでだろ?
っていう疑問は、そもそも、思い浮かべる必要はないんだよね、実は。
要するに、魔女は悪という絶対的な概念というかお約束事として存在し、
いたいけな少女たちはその究極的な悪に対して、お約束事の戦いを挑むんだから。
けど、このお約束事の戦いが、これまでに観たことのない戦いだった。
イヌカレーの腕ちからとしか、いいようがない。
ひとつひとつの場面について分析したいほどだけど、そんな閑もないからやめる。
で、話は変わる。
巴マミのことだ。
ふつう、こういうキャラクターはなんか裏があって、もしくは闇を抱えていて、
主人公たちを悪の世界へ引き摺りこむか、窮地に陥れようするものだけど、
全然そうじゃなくって、むしろ、ある意味、とっても純粋で、
その純粋さゆえに主人公まどかとその親友さやかをすぐに魔法少女にせず、
そのせいで、みずからは援軍もなく、戦いに敗れ、無残な死を遂げる。
これは、おもわぬ展開で、この冷酷さがさらにボルテージを上げていく。
やがて、
好きな男のバイオリン演奏を復活させるためという、
個人的な思惑から魔法少女への道をたどるさやかの末路と、
そのさやかと仲違いする佐倉杏子の魔法少女への切っ掛けとなった父への愛とが、
リリカルな絵とは真反対の残酷さで描かれるわけだけど、
この作品の凄さは、主人公の親友が魔女化してしまうことではなく、
主人公がいったんは憧れ、やがてその対象となっている魔法少女の末路というか、
次の段階が魔女だという設定にある。
可憐な少女の成れの果てが魔女だというのは、おそらく初めてじゃない?
自分たちが、憧れの魔法少女になることは、単に悪の蛹になることで、
やがて悪の成虫ともいえる魔女になるという残酷さには、脱帽せざるをえない。
しかも、
彼女らの穢れを溜めていくソウルジェムが、実は魂の入れ物だということ、
さらには、
魔法少女になる契約を交わした途端、肉体は単なる器と化してしまうこと、
すべて小出しの謎解きながら、いや~、上手な展開でした。
音楽もまた、好いわ~。