Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

家へ帰ろう

2022年08月28日 17時42分05秒 | 洋画2017年

 ◎家へ帰ろう(El último traje)

 

 心に深い傷を負ってしまった人が、それに関係する人間や場所の固有名詞を口にしたくないというのは、とってもよくわかる。これを頭が固いとかひねくれてるとかって決めつけられたら、かわいそうだ。口にできないほど傷ついたわけで、死ぬまで話さなくってもいいし、そんな場所には死ぬまで立たなくたっていい。ぼくにもそういう人間や場所の名前はある。

 また傷ついてしまって切断を迫られてる右足をツーレス(問題って意味ね)と呼んでるのもよくわかる。ぼくの知り合いは、折れた手首をクララと呼んでた。クララの意味はわからないし、訊いていない。でも、なんとなく、身体の一部に名前をつけたくなる気持ちもわかる。

 頑迷だの、頑固だのというのは、どうしようもなくそうなってしまったわけで、寛容であることはたしかにすばらしいことだし、そうしたいと誰もがおもうのかもしれないんだけど、人間ってやつはなかなかそれができない。できずにもがき、ときには相対するものを不愉快にする。

 そうした老人を演じたのがミゲル・アンヘル・ソラで、上手だった。

 でもミゲル・アンヘル・ソラは置かれた立場はつらいし、過去の思い出は忘れたいのに忘れられないほど辛いものだったろうけれど、機内で出会ったマルティン・ピロヤンスキーも、ホテルの女主人アンヘラ・モリーナも、マドリードで暮らして父親とおなじユダヤ人収容所の入れ墨を自分も入れてるナタリア・ベルベケも、人類学者ユリア・ベアホルトも、旅の目的地つまり「おうち」のウッチまで同行してくれるオルガ・ボウォンジも善人で、ここが味噌で、ここで意地の悪いやつや感情を逆なでするようなアホが登場することはない。

 監督パブロ・ソラルスが寛容なんだろう、たぶん。

コメント