下北沢の街は、頭をカットする行きつけの「宗兵衛」美容室があったのでしばしば訪れた。何しろ車が入れない狭隘な道が続く街だ。駅に隣接して、戦後からの市場がそのまま残っていた。
昔大学時代の同級生で丹青社で博物館の仕事をしていた彼の下宿も下北沢にあった。隣家との間の数十センチにもみたない家の隙間からアプローチし陽のあたらない3畳程度の安下宿だった。その後再訪することもなく同級生は故郷の松本へ帰ってしまった。そんな下宿が結構あるのも下北沢である。
なぜかこの狭隘な街の喫茶店とか飲み屋の片隅に陣取ると、何時間でもいたいと思うほど落ち着く。都心から絶縁されていること、普段着の人ばかり、本多劇場や古本屋やレコード屋をはじめ、ここだけの特異な店も多く、文化の香りがする街だ。だから当時はこんな混沌下北沢ではあった。
今は、行きつけの宗兵衛さんも廃業し、駅近市場も見当たらず、小田急線が地下化されたので、街の様子は変わってきているだろう。
その自転車置き場も今は駐車禁止にされ、なくなってしまった。自転車の間を縫いながら歩いていると下北沢にきた気分になり、私的には必要があって自転車を停めているのだから、特にどかさなくてもよかったのにと思っていた。
さて京都の週末天気は雨模様。それも春の嵐の予報。ならば足慣らしに雨の清水寺に行こうと目論む。成就院でコロタイプの展示があるそうだ。
1997年、東京都世田谷区下北沢
LEICAM4-P、Hector135mm/F5.6、トライX