月よりの使者⑦

あの子供達と先生達の目の奥にあるものを探しに出かけた。

念の為小中学校を全部見て回ったがどこも似たりよったりだった。

少し良い空気を吸おうと思って市内を流れる大きな川と、自然公園へ出かけてみた。確かに学校よりは良い空気はすえたし気持ちはほうとした。ただ子供たちはとうとう1日中来なかった。

ならば、子供を追ってうわさのの学習塾へ行って見た。

何と入り口から有名私立云々と書かれた張り紙が多い。

中では学校で見たプリント学習が展開していた。子供の目の光も学校で見たのより一段と緊張しているようだ。

浮かぬ顔で外へ出ると遠くからきれいな音楽が聞こえる。

マサミとその音に誘われて行って見るとそこは市民会館。

中で、市民ミュージカルの公演を前にしたリハーサルをやっていた。舞台の上に100人近い同好の子供から20歳前後の青年男女、70歳をとっくに過ぎたたような老人、車椅子の人も2人いる。監督の≪GO≫の合図で歌い踊る。

地球へ来て初めて心を動かされ全身が熱くなった。

じゃーと言うことで、2人は60才過ぎの老人に化けて、客席でじっくり見ることにした。リハーサルだからか他にも2~30人が見ていた。

消灯している会場の暗さに目が慣れ、熱くのぼせた体温がとに戻ると、目が慣れてそれまで見えなかった所が見えてくる。

演じている人たちは、どう歌いどう動くかで一生懸命だ。

舞台上の人は夫々役があり夫々の心があるのだが、その夫々の心よりどう動くか演じ方の心のほうがこちらにおしよせる。

さらに見ていると、心の繋がりを歌い表現しているのに、自分が歌い踊るのに気をとられ目の前の子供や老人や車椅子の人たちに目が行かない。

平均して年配者特に男性は背中に亀の甲羅を背負っているようで動きがぎこちないところがが、ようく見ていると、小さな子供まで小さな甲羅ではあるが背負っているようだ。甲羅の影で首をすごめ、下から覗く優奈ようなあの目、そう、家や学校で見た子どもたちの目と似ている。目と甲羅は関係あるかもしれない。比較的甲羅の薄い男の子がいてついマサミとニヤッとしたが、周りがそれに呼応しない。その子も時々エネルギーをなくしてしまう。

そうしていると、私のすぐそばに2歳前後の男の子が寄ってきて私の顔を見ている。まだ話は出来ないようだ。月よりの使者を見抜かれたようなもの珍しい顔をして寄ってくる。それならと、変装用の老眼鏡をはずしてその子に目を合わせた。するとさらに寄ってくる。手の平を前に出すと、黙ってその手の上に手を乗っけて私の顔を見ている。時々手を軽く握ってあげると何か遊びになってしまった。暫く遊んでいたが舞台では一生懸命にリハーサルをしている。気が散ってもいけないと思ってその子から手を離した。すると辺りに目をやってその子は泣き出した。近くにいたおかーさんが、申し訳なさそうに会場の外へ連れ出した。

明らかに舞台上の子供とは違いその小さな子は背中に甲羅がない。その子の目は月の子どもたちと同じだ。

でも考えた。下手すると、子供はことばと同時に甲羅を背負い込むことになるかもしれない。私が手を離してその子は泣き出した。ちょっとすると、あのことであの子は背中に薄い甲羅を張ったかもしれない。

 

マサミと会場を出て大きく月を見ながら大きく息をつくと、周りは花みずきの花が白く光っていた。

 

これでまた(幾多‥の反省をこめて)月よりの使者に戻れた。危ない危ない!

 

 

 

 

 

 

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