福島県の原発被災地は今、大変厳しい状況になっている。政府から避難を命じられ、あるいは勧奨された人々は、現在の生活、将来の生活に大きな不安を持って生活している。
また避難地域ではないところであっても、福島県内は被曝線量が高いため、特に子どもがいる家庭では避難すべきかどうかを悩み苦しんでいる。避難地域ではないところの酪農家なども、原発事故による多額の出費のために生活基盤の喪失を迫られている。
今もって、福島第1原発の収束の目処は立っていない。
こんな状態の中、細野豪志原発事故担当相は今日、原発の再稼働について「安全性を確保した上で、しっかりチェックが入った再稼働は認めるべきだ」と述べた。
しかし、日本の原発に関する安全規制はきわめて問題が大きいことが指摘されている。原発推進の経産省のなかに、チェック機関である保安院があり、その保安院の信用は地に墜ちている。チェック機構の改善もせずに、原発の再稼働は許されない。
それどころか、現在稼働している原発も停止するべきだ。『佐賀新聞』が今月1日に報じた記事、「玄海原発1号機 想定以上に劣化進行か」を読むと、ぞっとする。
運転開始から36年が過ぎた九州電力玄海原子力発電所(佐賀県東松浦郡玄海町)1号機の原子炉圧力容器の劣化を判断する指標となる「脆性(ぜいせい)遷移温度」が大幅に上昇、大学の研究者らは異常として問題視し、最悪のケースとして容器破損の可能性にも言及している。九電や国は「安全性に問題ない」と反論。研究者は検証のためのデータ開示を求めるが、九電は「業界規程に基づいて適正に検査しており、検証しても結果は同じ。40年目の高経年化評価時にデータを公表する」としている。
鋼鉄製の原子炉圧力容器は中性子を浴びるともろくなる。電力各社は老朽化を把握するため容器内に同じ材質の試験片を置いて取り出し、緊急冷却した場合などに容器が壊れやすくなる温度の境目となる脆性遷移温度を測っている。劣化が進むほど温度は高くなる。
九電によると、運転開始時の1975年の脆性遷移温度は零下16度。これまで4回取り出した試験片の温度は、35度(76年)、37度(80年)、56度(93年)と推移し、2009年は98度に大幅上昇した。
九電は「試験片は圧力容器よりも多く中性子を浴びる場所に置き、数十年後の圧力容器の劣化状況を予測するためのもの。98度は2060年ごろの数値に当たる」と説明。「圧力容器の現在の脆性遷移温度の推定は80度で、60年間運転した場合でも91度」とし、日本電気協会が定める新設原子炉の業界基準93度を下回っていることを強調する。26日の県民説明会でこの問題を質問された経産省原子力安全・保安院も同様の説明をして「容器が壊れるような状況にはない」と答えた。
ただ、こうした見解に研究者は疑問を示す。九州大応用力学研究所の渡邉英雄准教授(照射材料工学)は「上昇値は本来の予測値から大きくずれ、誤差の範囲を超えている。原子レベルで想定外の異常が生じている可能性がある」と指摘。井野博満東大名誉教授(金属材料学)は中性子の影響を受けやすい不純物が含まれるなど材質が均一でない可能性を指摘したうえで、「緊急冷却で急激に温度を下げた場合、圧力容器が壊れる可能性がある」とする。
研究者は試験片や検査データが開示されていないため詳しい検証ができないとし、電力各社に情報開示を求める意見も強いが、九電は「今後も安全な数値で推移すると判断しているので、すぐにデータを提示する必要はない」としている。
また『中日新聞』も6月25日、「理事に電力幹部が複数 浜岡原発の耐震検査法人 経産省OBも天下り」という記事を載せている。
運転停止した中部電力浜岡原発3~5号機(御前崎市)の耐震補強工事をめぐり、確認検査を担当した財団法人発電設備技術検査協会(東京都)の役員に中電など複数の電力会社幹部が就任していることが分かった。同協会は原発を推進する経済産業省が所管する公益法人で、常勤の理事長と専務理事はいずれも同省OBが務めている。原子力の専門家は「客観性を装ったおざなりの検査になり、原発の安全性にも疑念が生じかねない」と批判している。
補強工事は中電が2005~08年に自主的に行った。東海地震の想定以上の600ガル(ガルは加速度の単位で地震動の強さを表す)を上回る1000ガルの揺れにも対応できるよう耐震性を強化したという。
確認検査は、同協会が中電の依頼を受けて実施。08年10月から09年3月にかけて原子炉や配管、機器の耐震性や工事などをチェックし「耐震評価、工事は適切に管理・実行された」とするお墨付きを与えた。中電は「第三者による公正なチェックを受けた」とし、東海地震に耐えられると主張する根拠の一つにしていた。
同協会の公開資料によると、経産省OB2人を除く役員は14人で、中電の阪口正敏副社長と九州電力の瓜生道明取締役が非常勤の理事、中電出身の久米雄二電気事業連合会専務理事が非常勤の監事にそれぞれ就任。その他は大学教授が大半だが、常勤理事に東京電力OBもいる。
中電で原子力を担当する阪口副社長は09年11月に就任。浜岡の検査当時は中電の別の幹部が非常勤理事を務めていた。また、理事会に助言する評議会メンバーには他の電力会社や東芝、日立製作所など原発をビジネスとする大手プラントメーカーの幹部らが名を連ねる。
民間企業の資本金に当たる基本財産は21億2000万円。このうち五分の一の4億6000万円が電力各社やプラントメーカーの寄付金で賄われている。10年度には、経産省から火力や発電設備などに関する委託事業費として7300万円が支払われた。
耐震補強工事が行われたのは、国の原子力安全委員会が耐震指針の見直しを進めていた時期。市民団体が起こした運転差し止め訴訟などで東海地震への懸念が広がり、地元では中立的な立場での耐震チェックを求める声が強かった。
同協会総務企画室の担当者は「検査に携わる職員の安全意識は高い。検査機関として公正、中立で、電力会社に気兼ねすることは一切ない」と話している。
専門性と経験評価
中部電力の話 長年、国の検査業務の代行を行うなど実績があり、発電設備にかかわる高度な専門性と経験があることから検査を依頼した。浜岡原発の耐震性工事に関し、適正かつ公正な評価、確認を行っていただいたと考えている。
発電設備技術検査協会 1970年設立で、職員は98人。電力会社が法律や技術基準に基づき自主的に行う原子力発電所の安全性に関する検査や審査などを実施。2003年に業務の一部が独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)に移行されるまでは、原発に関する国の定期検査も代行していた。経済産業省の指定を受けた安全管理審査機関として、火力発電所などの安全管理の審査も行っている。年間事業規模は18億円。
原発に関わって、きちんとしたチェック体制は、まったくできていない。こういう状況の中のチェックなんか、まったく信用できない。
また避難地域ではないところであっても、福島県内は被曝線量が高いため、特に子どもがいる家庭では避難すべきかどうかを悩み苦しんでいる。避難地域ではないところの酪農家なども、原発事故による多額の出費のために生活基盤の喪失を迫られている。
今もって、福島第1原発の収束の目処は立っていない。
こんな状態の中、細野豪志原発事故担当相は今日、原発の再稼働について「安全性を確保した上で、しっかりチェックが入った再稼働は認めるべきだ」と述べた。
しかし、日本の原発に関する安全規制はきわめて問題が大きいことが指摘されている。原発推進の経産省のなかに、チェック機関である保安院があり、その保安院の信用は地に墜ちている。チェック機構の改善もせずに、原発の再稼働は許されない。
それどころか、現在稼働している原発も停止するべきだ。『佐賀新聞』が今月1日に報じた記事、「玄海原発1号機 想定以上に劣化進行か」を読むと、ぞっとする。
運転開始から36年が過ぎた九州電力玄海原子力発電所(佐賀県東松浦郡玄海町)1号機の原子炉圧力容器の劣化を判断する指標となる「脆性(ぜいせい)遷移温度」が大幅に上昇、大学の研究者らは異常として問題視し、最悪のケースとして容器破損の可能性にも言及している。九電や国は「安全性に問題ない」と反論。研究者は検証のためのデータ開示を求めるが、九電は「業界規程に基づいて適正に検査しており、検証しても結果は同じ。40年目の高経年化評価時にデータを公表する」としている。
鋼鉄製の原子炉圧力容器は中性子を浴びるともろくなる。電力各社は老朽化を把握するため容器内に同じ材質の試験片を置いて取り出し、緊急冷却した場合などに容器が壊れやすくなる温度の境目となる脆性遷移温度を測っている。劣化が進むほど温度は高くなる。
九電によると、運転開始時の1975年の脆性遷移温度は零下16度。これまで4回取り出した試験片の温度は、35度(76年)、37度(80年)、56度(93年)と推移し、2009年は98度に大幅上昇した。
九電は「試験片は圧力容器よりも多く中性子を浴びる場所に置き、数十年後の圧力容器の劣化状況を予測するためのもの。98度は2060年ごろの数値に当たる」と説明。「圧力容器の現在の脆性遷移温度の推定は80度で、60年間運転した場合でも91度」とし、日本電気協会が定める新設原子炉の業界基準93度を下回っていることを強調する。26日の県民説明会でこの問題を質問された経産省原子力安全・保安院も同様の説明をして「容器が壊れるような状況にはない」と答えた。
ただ、こうした見解に研究者は疑問を示す。九州大応用力学研究所の渡邉英雄准教授(照射材料工学)は「上昇値は本来の予測値から大きくずれ、誤差の範囲を超えている。原子レベルで想定外の異常が生じている可能性がある」と指摘。井野博満東大名誉教授(金属材料学)は中性子の影響を受けやすい不純物が含まれるなど材質が均一でない可能性を指摘したうえで、「緊急冷却で急激に温度を下げた場合、圧力容器が壊れる可能性がある」とする。
研究者は試験片や検査データが開示されていないため詳しい検証ができないとし、電力各社に情報開示を求める意見も強いが、九電は「今後も安全な数値で推移すると判断しているので、すぐにデータを提示する必要はない」としている。
また『中日新聞』も6月25日、「理事に電力幹部が複数 浜岡原発の耐震検査法人 経産省OBも天下り」という記事を載せている。
運転停止した中部電力浜岡原発3~5号機(御前崎市)の耐震補強工事をめぐり、確認検査を担当した財団法人発電設備技術検査協会(東京都)の役員に中電など複数の電力会社幹部が就任していることが分かった。同協会は原発を推進する経済産業省が所管する公益法人で、常勤の理事長と専務理事はいずれも同省OBが務めている。原子力の専門家は「客観性を装ったおざなりの検査になり、原発の安全性にも疑念が生じかねない」と批判している。
補強工事は中電が2005~08年に自主的に行った。東海地震の想定以上の600ガル(ガルは加速度の単位で地震動の強さを表す)を上回る1000ガルの揺れにも対応できるよう耐震性を強化したという。
確認検査は、同協会が中電の依頼を受けて実施。08年10月から09年3月にかけて原子炉や配管、機器の耐震性や工事などをチェックし「耐震評価、工事は適切に管理・実行された」とするお墨付きを与えた。中電は「第三者による公正なチェックを受けた」とし、東海地震に耐えられると主張する根拠の一つにしていた。
同協会の公開資料によると、経産省OB2人を除く役員は14人で、中電の阪口正敏副社長と九州電力の瓜生道明取締役が非常勤の理事、中電出身の久米雄二電気事業連合会専務理事が非常勤の監事にそれぞれ就任。その他は大学教授が大半だが、常勤理事に東京電力OBもいる。
中電で原子力を担当する阪口副社長は09年11月に就任。浜岡の検査当時は中電の別の幹部が非常勤理事を務めていた。また、理事会に助言する評議会メンバーには他の電力会社や東芝、日立製作所など原発をビジネスとする大手プラントメーカーの幹部らが名を連ねる。
民間企業の資本金に当たる基本財産は21億2000万円。このうち五分の一の4億6000万円が電力各社やプラントメーカーの寄付金で賄われている。10年度には、経産省から火力や発電設備などに関する委託事業費として7300万円が支払われた。
耐震補強工事が行われたのは、国の原子力安全委員会が耐震指針の見直しを進めていた時期。市民団体が起こした運転差し止め訴訟などで東海地震への懸念が広がり、地元では中立的な立場での耐震チェックを求める声が強かった。
同協会総務企画室の担当者は「検査に携わる職員の安全意識は高い。検査機関として公正、中立で、電力会社に気兼ねすることは一切ない」と話している。
専門性と経験評価
中部電力の話 長年、国の検査業務の代行を行うなど実績があり、発電設備にかかわる高度な専門性と経験があることから検査を依頼した。浜岡原発の耐震性工事に関し、適正かつ公正な評価、確認を行っていただいたと考えている。
発電設備技術検査協会 1970年設立で、職員は98人。電力会社が法律や技術基準に基づき自主的に行う原子力発電所の安全性に関する検査や審査などを実施。2003年に業務の一部が独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)に移行されるまでは、原発に関する国の定期検査も代行していた。経済産業省の指定を受けた安全管理審査機関として、火力発電所などの安全管理の審査も行っている。年間事業規模は18億円。
原発に関わって、きちんとしたチェック体制は、まったくできていない。こういう状況の中のチェックなんか、まったく信用できない。