浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】宮地尚子『トラウマ』(岩波新書)

2013-02-08 22:08:44 | 日記
 この本は読もうかやめようかと考えた。現物を見てから考えようと書店に行った。

 宮地尚子という名は、知っていた。以前どこかの大学入試問題に宮地の論文の一部が載せられていて、それを読んで論ずるというものであったが、その文が難解で、どうしてこうわかりにくい文を書くのかと思った。

 店頭で見て、これは読もうと思った。「トラウマ」とか「PTSD」ということばは知っていても、それについて詳しい文献を読んだことがなかった。現代社会に生きる者として、まあ常識(教養)として知っておかなければならないと思ったからだ。

 ということは、学生諸氏も読んでおいたほうがよい、という本である。

 「トラウマ」とは何か、から始まって、「トラウマ」をもって生きている人の状況、「トラウマ」をもって生きている人にどう対処するか、どう治療するか、そしてDV、性暴力、加害者となることができる背景など、具体的なことを理論的にわかりやすく説明している。

 DV家庭に育つと、「力の強い者が弱い者を支配するのは当然」、「力で押さえつければ、相手は思い通りになるものだ」という価値観や人間観を植え付けられ、将来の加害者や被害者にもなりかねません。(127~8)

 これは経験的に知っていることでもあるが、DVは当事者だけではなく、それが子どもたちに伝えられていくということだ。

 また「女性の100人に一人が中学校に上がるまでに、レイプ被害に遭っている」(131)という記述には驚く。

 「加害」を実行するために、またその後に自分の心が傷つかないようにするためには、正当化が必要だと言うことです。また、正当化の理由があれば、人は簡単に暴力行為を容認したり、それを望ましいとみなすこと、命令と実行の分離が「加害」を容易にすることなどが、近年の研究からわかってきています。(181)

 この記述に続いて、どういうことが「正当化の理由」となるかを具体的にあげているが、上下(タテ)関係が基軸となっていることがわかる。そして「人は権威や命令には従順である」(191)という指摘にも、納得できる。

 「加害」が「トラウマ」をつくりだすのだから、「正当化の理由」をどう崩していくかが重要ではないかと思う。

 この本を読んで、引用・参考にされた文献、巻末にあげられている文献のいくつかを読みたくなった。

 「トラウマ」は、これからもあちこちで論じられるから、この本は買っておいたほうが良いと思う。



 
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「寄らば大樹の陰」

2013-02-08 09:03:45 | 日記
 今日の「中日春秋」。『中日新聞』のコラムである。

福島第一原発の周辺で、イノブタが急増しているらしい。野生のイノシシと家畜のブタの交配が進んでいるのでは、というのが地元の獣医師たちの見立てという

▼イノブタはイノシシに比べ、繁殖力が四、五倍も強いそうだ。増え続ければ、田畑が荒らされる。福島県が実態調査に乗り出そうとしているが、捕獲にあたる猟友会員の多くも避難してしまっていて、調べたくとも調べられない

▼「嘘(うそ)が嘘を生む」と古代ローマ人が言ったように、嘘も増殖する。一つの嘘を守るために別の嘘を…ときりがない。どうやら東電の嘘の繁殖力は、イノブタ並みらしい

▼「あんな大津波は想定外」と言っていたが、実のところ大津波対策の必要性は分かっていた。東電は、国会の事故調査委員会にも嘘をついていたという。第一原発内部を調べようとした事故調に「真っ暗で危険」と説明していたが、実は薄明るく照明器具もあった

▼事故調が調べようとしていたのは、非常用の冷却装置が東電の主張とは違い、地震で壊れたのではないか、という疑問だ。事故を検証して、教訓を得る機会が潰(つぶ)された。既に虚構と化した「原発安全神話」を生き永らえさせるための嘘が、増殖し続けているのだろう

▼東電は今年「福島復興本社」を発足させた。だが、まず復興すべきは、自らの信用なのだということが、どこまで分かっているのか。


 なぜ東電はこういうウソをついても平気なのだろうか。確かに下の記事(『東京新聞』配信)のように、国会や国民を愚弄している。これは確かだ。

虚偽説明 「東電、国会を愚弄」 国会事故調元委員指摘
2013年2月8日 朝刊

東電から虚偽の説明を受けたと指摘する田中三彦氏=7日、衆議院第二議員会館で


 東京電力が昨年二月、福島第一原発1号機の建屋内を調べようとした国会事故調査委員会に「(建屋内は)真っ暗で危険」などと虚偽の説明をして調査を断念させた問題で、事故調の委員を務めた元原子炉設計技術者の田中三彦氏が七日、東京都内で記者会見した。

 国会事故調は当時、1号機に設置されている非常用冷却装置(IC)が地震で壊れた可能性に着目していた。田中氏は「ICが地震で壊れたと分かれば、原発の耐震基準に影響が出る。それも考えると、調査されたくなかったとしか思えない」と東電を批判した。

 田中氏によると、昨年二月二十八日夜、東電の玉井俊光企画部長(当時)と、調査の打ち合わせで面会。玉井氏が、薄明るい建屋内の映像を見せる一方で「今はカバーを掛けたのでパニックを起こすほど真っ暗」と暗さを強調したため、調査を断念したという。

 しかし、その後に公開された映像などから、建屋内はある程度明るく、玉井氏が見せた映像はカバー設置後に撮影されたものだったことも分かった。

 田中氏は、あらためて建屋内の調査を求める申し入れ書を衆参両院議長あてに送付。「国会が愚弄(ぐろう)された気持ちを共有し、動いてほしい」と話した。

 東電広報部は、撮影日を誤って伝えたことは認めたが「単なる思い違い。だます意図はなく、現場が危険な状況だったのは間違いない」と説明している。


 だが、こういう姿は、いつも見られる風景ではないか。

 悪い奴らは、権力に寄りかかることで、ウソも平気なのだ。別に国会や国民のことを考えているのではない。たとえば東電は、自分自身や政治家や官僚、学者が利権をむさぼるために発電しているのだ。日本原電に公表前の資料をそっと渡した官僚(原子力規制庁幹部・名雪哲夫)も、別に国民のために仕事をしているのではなく、自分自身と電力会社、出身官庁のために生きているのだ。名雪は、まさに権力の中枢だ。

 彼らは、何の痛痒も感じないだろう。悪い奴らも権力の中枢にいるのも、同じ穴の狢。こういう者たちによって日本は動かされている。それでも、国民の多くは気にしない。『オリンピックの身代金』で、奥田が記していたとおりだ。

「この国のプロレタリアートは、歴史上ずっと支配層に楯突くということをしてこなかった。我慢することに慣れきっているので、人権という概念すら持っていない。無理をしてでも先進国を装いたい国側にとっては、願ってもない羊たちだろう」(230頁)

 


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フクシマ・警戒区域の現状

2013-02-08 08:54:04 | 日記
 一人の医師が、警戒区域を訪れ、その現状を報告している。

http://ameblo.jp/yamayurifarm/entry-11465543924.html
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