都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「第59回 正倉院展」 奈良国立博物館
奈良国立博物館(奈良市登大路町50)
「第59回 正倉院展」
10/27-11/12

会期初日の朝一番に見てきました。奈良国立博物館で開催中の「第59回 正倉院展」です。今年の展示の特徴は公式HPの記載をご覧いただくとして、以下、惹かれた作品をいつものように挙げていたいと思います。

まずは「国家珍宝帳」にも記載された屏風の残欠、「羊木臈纈屏風(ひつじきろうけちのびょうぶ)」と「熊鷹臈纈屏風(くまたかろうけちのびょうぶ)」です。これが屏風と言うのが何とも不思議な印象もしますが、仄かな光沢さえ放つ葉の薄い水色を味わいをはじめ、地を透かして象る羊や鷹の造形が非常に巧みに出来ていました。また、鷹の先に舞う小鳥や、足を跳ね上げて駆ける鹿などの躍動感にも見入るものがあります。ちなみにこの二点の屏風のデザインはどこか西方的(実際に、ササン朝ペルシアの羊文に通じる部分があるとのことです。)ですが、前者には「天平勝宝三年」という年号が記されており、確かに国内で作られたものだと分かっているのだそうです。

正六角形の床石に須恵器の硯をはめ込み、その上で木製の台に置いた「青斑石硯(せいはんせきのすずり)」も見事です。まずはその重々しい青斑石などの交じる床石が印象に残るところですが、より感銘するのは木製台の側面に表現された細やかな模様でした。象牙やツゲ、それに錫などの素材が精緻に組み合わされ、色も様々なモザイクを美しく象っています。ちなみにこれは木画と呼ばれる技法だそうです。当時の高い彫刻技術を垣間見られるような気がしました。
モザイクといえば、上の硯と同じ木画の方法で花、雲、そして飛鳥の模様を示した「紫檀木画箱(したんもくがのはこ)」も艶やかです。極めて細い線などで花などが象られ、そこへ白い羽や緑色の胴体をした色鮮やかな鳥が、ゆらゆらと舞うかのように描かれています。残念ながら当時より現存するのは蓋の部分(箱は後に作られたものです。)だけですが、焦げ茶色の蓋に浮かぶ紋様の美しさは目に焼き付きました。これは一推しです。

ハイライトはやはり「紫檀金鈿柄香炉(したんきんでんのえごうろ)」ではないでしょうか。これは僧侶が法会の際、手に持って焼香をするために使ったという仏具で、外面に花、鳥、そして蝶などの象嵌紋様が雅やかに飾られています。それに柄の端には金の獅子も鎮座し、蓮の花にはガラス製の玉もはめ込まれていました。また金銅の炉内に残った灰の跡が、この作品の使われた長い歴史を感じさせてくれるというものです。ちなみに宝庫には5点の香炉が残っていますが、これだけが唯一のシタン製だそうです。

楽器もいくつか出品されていましたが、一番に挙げたいのは「墨絵弾弓(すみえのだんきゅう)」における、弓の内側に描かれた画、「散楽図」です。この「散楽図」とは、古代中国で流行した奇術の軽業や、踊りなどを取り入れた民間芸能で、ここではそれらの様子が、細やかでかつ生き生きとした様子で表されています。ちなみにこの一角は展示室内でもとりわけ混雑していますが、列に並んででも是非味わいたい作品です。またその他には、ほぼ現在の笙を思わせる「う」と呼ばれる管楽器や、新羅楽に用いたという「琴」なども記憶に残りました。ともに木製ですが、その保存状態の良さには目を見張るものがあります。

全体が矢印の形をしたような旗の「彩絵仏像幡(さいえのぶつぞうばん)」も忘れられません。これは全長2メートル30センチ強にも及ぶ大きな幟ですが、中に彩絵による菩薩像が4体ほど示されています。宝庫唯一の仏像を描いた幟ということで制作年代にも諸説あるそうですが、(平安期という説もあるそうです。)今度は決して細やかとは言えない、むしろそののびやかな描写による仏の様子が興味深く感じられます。大らかな出で立ちです。
静かな空間で古代の美品に感じ入るとまではいきませんが、作品点数(全70点)がそれほど多くないので、混雑の割にはゆっくりと見ることが出来ました。また会場の最後には書が紹介されていましたが、特に「四分律・唐経(しぶんりつ)」の厳格な書体を見ると思わず身が引き締まる思いがします。仏教の規則が事細かに表されているのです。
今年の混雑はそれほどではないそうですが、展覧会のサイトには、会場の状況がほぼリアルタイムで更新されています。そちらを確認した上でのお出かけをおすすめしたいです。
次の月曜日、12日まで開催されています。(10/27)
「第59回 正倉院展」
10/27-11/12

会期初日の朝一番に見てきました。奈良国立博物館で開催中の「第59回 正倉院展」です。今年の展示の特徴は公式HPの記載をご覧いただくとして、以下、惹かれた作品をいつものように挙げていたいと思います。


まずは「国家珍宝帳」にも記載された屏風の残欠、「羊木臈纈屏風(ひつじきろうけちのびょうぶ)」と「熊鷹臈纈屏風(くまたかろうけちのびょうぶ)」です。これが屏風と言うのが何とも不思議な印象もしますが、仄かな光沢さえ放つ葉の薄い水色を味わいをはじめ、地を透かして象る羊や鷹の造形が非常に巧みに出来ていました。また、鷹の先に舞う小鳥や、足を跳ね上げて駆ける鹿などの躍動感にも見入るものがあります。ちなみにこの二点の屏風のデザインはどこか西方的(実際に、ササン朝ペルシアの羊文に通じる部分があるとのことです。)ですが、前者には「天平勝宝三年」という年号が記されており、確かに国内で作られたものだと分かっているのだそうです。

正六角形の床石に須恵器の硯をはめ込み、その上で木製の台に置いた「青斑石硯(せいはんせきのすずり)」も見事です。まずはその重々しい青斑石などの交じる床石が印象に残るところですが、より感銘するのは木製台の側面に表現された細やかな模様でした。象牙やツゲ、それに錫などの素材が精緻に組み合わされ、色も様々なモザイクを美しく象っています。ちなみにこれは木画と呼ばれる技法だそうです。当時の高い彫刻技術を垣間見られるような気がしました。
モザイクといえば、上の硯と同じ木画の方法で花、雲、そして飛鳥の模様を示した「紫檀木画箱(したんもくがのはこ)」も艶やかです。極めて細い線などで花などが象られ、そこへ白い羽や緑色の胴体をした色鮮やかな鳥が、ゆらゆらと舞うかのように描かれています。残念ながら当時より現存するのは蓋の部分(箱は後に作られたものです。)だけですが、焦げ茶色の蓋に浮かぶ紋様の美しさは目に焼き付きました。これは一推しです。

ハイライトはやはり「紫檀金鈿柄香炉(したんきんでんのえごうろ)」ではないでしょうか。これは僧侶が法会の際、手に持って焼香をするために使ったという仏具で、外面に花、鳥、そして蝶などの象嵌紋様が雅やかに飾られています。それに柄の端には金の獅子も鎮座し、蓮の花にはガラス製の玉もはめ込まれていました。また金銅の炉内に残った灰の跡が、この作品の使われた長い歴史を感じさせてくれるというものです。ちなみに宝庫には5点の香炉が残っていますが、これだけが唯一のシタン製だそうです。

楽器もいくつか出品されていましたが、一番に挙げたいのは「墨絵弾弓(すみえのだんきゅう)」における、弓の内側に描かれた画、「散楽図」です。この「散楽図」とは、古代中国で流行した奇術の軽業や、踊りなどを取り入れた民間芸能で、ここではそれらの様子が、細やかでかつ生き生きとした様子で表されています。ちなみにこの一角は展示室内でもとりわけ混雑していますが、列に並んででも是非味わいたい作品です。またその他には、ほぼ現在の笙を思わせる「う」と呼ばれる管楽器や、新羅楽に用いたという「琴」なども記憶に残りました。ともに木製ですが、その保存状態の良さには目を見張るものがあります。

全体が矢印の形をしたような旗の「彩絵仏像幡(さいえのぶつぞうばん)」も忘れられません。これは全長2メートル30センチ強にも及ぶ大きな幟ですが、中に彩絵による菩薩像が4体ほど示されています。宝庫唯一の仏像を描いた幟ということで制作年代にも諸説あるそうですが、(平安期という説もあるそうです。)今度は決して細やかとは言えない、むしろそののびやかな描写による仏の様子が興味深く感じられます。大らかな出で立ちです。
静かな空間で古代の美品に感じ入るとまではいきませんが、作品点数(全70点)がそれほど多くないので、混雑の割にはゆっくりと見ることが出来ました。また会場の最後には書が紹介されていましたが、特に「四分律・唐経(しぶんりつ)」の厳格な書体を見ると思わず身が引き締まる思いがします。仏教の規則が事細かに表されているのです。
今年の混雑はそれほどではないそうですが、展覧会のサイトには、会場の状況がほぼリアルタイムで更新されています。そちらを確認した上でのお出かけをおすすめしたいです。
次の月曜日、12日まで開催されています。(10/27)
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