N響定期 「プッチーニ:ボエーム」 サンティ

NHK交響楽団第1604回定期公演Aプログラム

プッチーニ 歌劇「ボエーム」(演奏会方式)

指揮 ネルロ・サンティ
合唱 二期会合唱団、東京少年少女合唱隊
管弦楽 NHK交響楽団
キャスト
 ミミ  アドリアーナ・マルフィージ
 ムゼッタ パトリツィア・ザナルディ
 ロドルフォ イグナシオ・エンシーナス
 マルチェルロ ステファノ・ヴェネツィア
 ショナール 吉原輝
 コルリーネ グレゴル・ルジツキ
 ブノア アルチンドロ: パオロ・ルメッツ

2007/11/11 15:00~ NHKホール 3階

そもそもN響がイタリアオペラを演奏することからして珍しいですが、サンティがオペラ全曲を振るということで行ってきました。演奏会方式によるプッチーニの「ボエーム」です。ともかく一にも二にもサンティの熟練した技の光る公演でした。

失礼ながらもその見事な体躯に似合わないサンティの素早いタクトの元、オーケストラから奏でられたのは確かにイタリアの軽やかなカンタービレでした。ともかくサンティは、この作品の全てがミミにあるといわんばかりに彼女を音楽でサポート、いやまさにエスコートして花を持たせます。第一幕における家主とロドルフォたちのゴタゴタ場面は殆ど飛ばすように進め、ミミの入場してくるクラリネットとヴァイオリンの甘美な主題からぐっとテンポを落として、まさに彼女のゆったりとした歩みに合わせるかのようにじっくりと音楽を聴かせるのです。そしてそれは第4幕の別れのシーンにおいて昇華します。ここではもはや音楽自体が泣いているのではと思ってしまうほど、沈痛でまた物思いに耽るような調べをホールに満たしました。またミミのマルフィージが、ドラマテックな表現というより、むしろか細いながらも安定したピアニシモを聴かせる技術に長けていたのも、結果的に公演を成功することに繋がったと思います。愛に燃えるというよりも、半ば宿命的に病に冒され、そして死を迎える可憐な女性の姿が強く打ち出されます。これは涙を誘われます。

サンティの冴えた指揮は単にミミをエスコートするだけにとどまりません。イタリアオペラに特有な輝かしく、またキレのあるリズム感を特に合唱において見事に指し示します。緩急に妙のある演奏とはまさにこのことではないでしょうか。常に全力で一糸乱れぬ様にオーケストラを統制するのではなく、むしろN響の高い合奏力をそのまま素直に引き出し、その上にイタリアのリズムを与えていました。また、所によってアンサンブルをあえて緩めにまとめること、ようは例えば上でも触れた第一幕冒頭のような力の抜けた箇所を作り出すことが、劇の起伏、つまりはミミの死へ向うクライマックスへの道程を音楽で示すことにも繋がっていきます。コンマスの篠崎ののびやかなソロ、朗々たる金管、そして小気味良い木管など、なだらかな横の線で結ばれていくN響はまさにイタリア一色に染まっていました。

歌手ではそれほどずば抜けた方を確認出来ませんでしたが、あえて挙げるならマルチェルロのヴェネツィアが美しい歌声を披露していたと思います。また快活に歌うムゼッタにも存在感がありました。反面、少し残念だったのはロドルフォです。クセのある渋いテノールですが、もう一歩響きに安定感が欲しいところでした。

「プッチーニ:ラ・ボエーム/フレーニ・パヴァロッティ・カラヤン」

あの広過ぎるNHKホールに、甘美なイタリアの調べが鳴ったことだけでもサンティの実力が伺い知れるというものです。願うことなら是非、次は彼の指揮で舞台を見たいと思いました。
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