ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト 「交響曲第9番、14番」 井上道義

ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト2007(Concert 5)

ショスタコーヴィチ 交響曲第9番、第14番

指揮 井上道義
管弦楽 広島交響楽団
ソプラノ アンナ・シャファジンスカヤ
バス セルゲイ・アレクサーシキン

2007/11/18 15:00~ 日比谷公会堂 階下

遅ればせながら参戦します。今、ホットな日比谷公会堂でのショスタコーヴィチの交響曲全曲演奏プログラムです。11日、第4回公演まではサンクトペテルブルク交響楽団が登場しましたが、今回以降、最終回までは広響、東フィル、名フィル、新日フィルの各国内オーケストラが残りの交響曲(順に第9、14、4、11、12、8、15番)を披露していきます。

ともかく今日の公演は、普段あまり紹介されることもない第14番が、驚くほど高い水準にて演奏されたことに尽きるのではないでしょうか。私自身、第14番を生で聴くのが初めてなので、残念ながら曲を消化するまでには至りませんでしたが、ともかくも井上の腰の据わった指揮が、小編成ながらも長大なドラマを伴うこの難曲の全てを見事な集中力にて表現していたのは確かだと思います。また井上は第14番をいわゆる「死者の歌」ではなく「死者の歌と踊り」とするべきだと語っていますが、生につきものな狂気とその結果迎える破局、それに「生者が最も緊張する時」(公演パンフレットより。)であるという死の瞬間が、神経質なほどに細やかな音を奏でる広響と、ドラマテックで逞しいシャファジンスカヤ、そして終始、諦念すら感じさせるように鈍くも光るアレクサーシキンの歌唱によって丹念に掘り起こされ、さらには何ら聴衆に媚びることなく直裁的に投げ出されていました。特にあっけないほど突然に迎える幕切れは、背筋が寒くなるほどに恐ろしい緊張感を誘います。アダージョ楽章での朗々とした美しいカンタービレ、また逆にスケルツォ風の第8楽章での躍り上がるような疾走感などのミッチー節も随所で炸裂していました。ちなみに字幕も彼らしい生き生きとしたスラング風のものです。曲への共感度が高まります。

第9番も破綻はありませんでしたが、全体的にオーケストラの安全運転志向とでも言うのか、やや井上のタクトも空回りしてしまうような大人しい表現が少し物足く感じました。とは言え、例えば第3楽章の目まぐるしいテンポ設定などは見事で、終始まとまりを保つ弦セクション、または特にクラリネットをはじめとする木管などが、この殆ど響かないホールでも美音をしっかりと奏でていたと思います。ただしもう少し破れかぶれとでも言えるような、諧謔さを越えるグロテスクな表現が欲しかったのも事実です。意図的なこけおどしの要素をもっと楽しませていただけたらとも感じました。

日比谷公会堂の中へ入ったのは今回が初めです。昭和4年建造のホールとのことで館内の老朽化は著しいものがありますが、ギコギコとがたつき、普通に座っても隣の人と肩が触れ合うような狭い座席(言ってしまえば、駅のホームの椅子に簡単なクッションを載せたようなものです。)や圧迫感のある天井の低いロビー、それに仰々しい都の紋章も掲げられるホール内の古めかしい装飾なども、ある意味では最新のホールにはない味わい深さととればそれほど問題にはなりません。また肝心の音響も、確かに体感的には残響ゼロといえるようなデッドなものでしたが、むしろ私は例えば上野の文化会館のような響きを好むので、直接音を耳に拾う作業を意識してしなくてはならないことを除けば、あまり嫌になることはありませんでした。(渋谷にある二軒のホールよりははるかにマトモです。)

 

14番のことを考えれば、この価格(3000円)で、これほど充実したショスタコーヴィチの交響曲の演奏を聴ける機会などなかなかないと思います。ということで、次回1日の東フィル、また最終回9日の新日フィルのチケットを購入してきました。今年の師走はショスタコ三昧となりそうです。
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