「シュルレアリスムと美術」 横浜美術館

横浜美術館横浜市西区みなとみらい3-4-1
「シュルレアリスムと美術 - イメージとリアリティーをめぐって - 」
9/29-12/9



宇都宮美術館、豊田市美術館より巡回してきました。横浜美術館で開催中の「シュルレアリスムと美術」展です。シュルレアリスム、もしくはそれ以降の美術の潮流を、全120点にも及ぶ様々な作品にて辿ります。

展覧会の構成は以下の通りです。

第1章「シュルレアリスム美術の胎動」:シュルレアリスム前史よりクレーまで。
第2章「シュルレアリスムが開くイメージ」:7つのテーマにてシュルレアリスム作品を解く。
第3章「シュルレアリスム以後の様々なイメージ」:宣伝、広告におけるシュルレアリスム。現代アートとの関係。



展示のメインは第2章、つまりは全体の6割、約80点余りのシュルレアリスム作品の並ぶセクションです。作品の殆どは、ここ横浜を含む上記三つの美術館の所蔵品ですが、ごく一部にMoMAやケルンの海外、及び大原やセゾン現代美術館などの国内美術館のそれらも紹介されています。もちろん常設でお馴染みの、ダリの大作「幻想的風景」やデルヴォーの「階段」なども展示されていました。率直なところ、浜美のコレクションにはやや既視感もありますが、まずは量でも圧倒的なシュルレアリスムの絵画群にどっぷりと浸れる内容であったのは確かです。それこそ謎解きを楽しむように見ていくと相当の時間もかかります。



ここ最近、特に惹かれているエルンストが多く出品されていたのも嬉しいところでした。古代の森を思わせる場所に白い円が月のように浮かぶ「灰色の森」は、まさに彼ならではの構図をとる作品ですが、その他にもどこかポップアートを彷彿させる「子どものミネルヴァ」や「喜劇の誕生」、それに「王妃とチェスをする王」というダリ風のブロンズ像も紹介されています。こうなってくると一度、回顧展に接してみたくもなりますが、エルンストの多様な表現を知る良い機会でもあると言えそうです。



シュルレアリスムの王様、マグリットが、やはり展示のハイライトかもしれません。まずはちらし表紙を飾る「大家族」です。本来なら小さいはずの鳥が、空全体を埋め尽くすほど巨大化して羽ばたき、その体は雲に隠れて見えないはずの青空によって象られています。また、画家が絵を書くかのようにして彫像を制作する様子を捉えた「無謀な企て」も面白い作品です。彫像とモデルのイメージが重なって表現され、さらには絵筆をとる画家と彫像という平面と立体の空間が交錯してもいます。知らず知らずうちに絵の中へ引き込まれてしまうような作品です。

さて、この展覧会の一番際立った特徴を挙げるとしたら、それはシュルレアリスムとは直接関係のない第3章の展示にあるのではないでしょうか。ここで紹介されているのは、シュルレアリスムのイメージより受け継いだ宣伝や広告、さらにはそこより派生するとも考えられるコンテンポラリーの世界です。人の潜在的な欲望にも訴えかけるというシュルレアリスムをそのまま広告に応用して描かれたのは、例えばナチス統制下の博覧会のためのポスター、バイヤーの「生の驚異」でした。そしてその後に続く現代アートでは、何故かフォンタナ、草間、森村、それにこれまた可愛らしい奈良美智の「ひよこ大使」までが展示されています。シュールとの関連は実際のところ良く分かりませんでしたが、この文脈で見ていくとそれほど違和感がないのが不思議でした。

以前、別エントリでもご紹介しましたが、常設では「ミロとデルヴォーの版画」という、企画展に極めてタイムリーな展示が開催されています。これは必見です。

祝日金曜の夜間開館を利用しましたが、館内は驚くほど空いていました。来月9日まで開催されています。(11/23)
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