都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「工芸館30年のあゆみ」 東京国立近代美術館・工芸館
東京国立近代美術館・工芸館(千代田区北の丸公園1-1)
「開館30周年記念展1 - 工芸館30年のあゆみ - 」
10/6-12/2
今年、開館30周年を迎えた工芸館の道程を振り返ります。「工芸館30年のあゆみ」展へ行ってきました。
展覧会の構成は以下の通りです。
1、「工芸館開設準備から開館記念展まで」(1972~1977):重文指定(1972年)以降、1977年のオープンへの道のりと、開館記念展「現代工芸の秀作」を振り返る。
2、「展覧会のあゆみ」(1977~2006):過去の代表的な展覧会を概観。
(1)近代日本シリーズ:素材毎に優れた工芸品を検証する。同館の展覧会活動の柱。磁器よりはじまり、以降、型染、ガラス、人形へと続いた。
(2)回顧展:初回の「松田権六展」(1978年)より開催してきた各作家の回顧展。
(3)近・現代と工芸史再考:歴史的観点から工芸を解く。「1960年代の工芸展」など。
(4)現代工芸への視点:現代の工芸。「現代の型染展」など。
3、「工芸館の収集活動とコレクションの成立」:1980年以降加えられたデザイン作品、もしくは海外作家の紹介。
展示は基本的に、過去、同館が開催して来た展覧会を簡単なキャプションで振り返りながら、その際出品された展示品のごく一部を見るというものです。ということで、その体裁は殆ど名品展の様相をとっていました。工芸館の多様なコレクションからピックアップされた代表作ばかりが揃っている展覧会かもしれません。
まず印象深いのは、同館初の回顧展を開いた松田権六から「蒔絵鷺文飾箱」(1961)です。深みのある漆の蒔箱に白鷺が飛び立つように描かれていますが、箱の全面に象られた葉の紋様にも見入るものがありました。また色の殆どは漆の黒を示していますが、葉の先に一部、光るような茶とも金ともとれる色が配されています。ちなみに松田権六というと昨年、初回以来30年ぶりに開催された回顧展も話題となりましたが、その際の入場者数は過去歴代2位を記録したそうです。
工芸館では良く名前を拝見する富本憲吉もいくつか紹介されています。中でも挙げたいのは「色絵金銀彩羊歯文八角飾箱」(1959)です。八角形をした器に金と銀の羊歯文が艶やかに配されていますが、おおよそ陶器とは思えない質感にも驚かされます。また同じく箱に繋がる作品としては、稲木東千里の「木製箱」(1936)にも惹かれました。桑の木によるひし形の蓋をはじめ、その側面にも象嵌の模様が精緻にはめ込まれています。これは先月、奈良の正倉院展で見た「紫檀木画箱」にも通じる味わいです。可愛らしくもあるモチーフです。
いかにもコンテンポラリー的なオブジェの並ぶ「現代工芸の視点」の中では、殆ど異質とさえ思う作風を見せる四谷シモンの「解剖学の少年」(1983)と吉田良の「すぐり」(1986)が圧倒的でした。そもそも工芸館で、この二点の存在感を上回る作品を見たことがありませんが、ともに強烈なエロティシズムとその反面の死の気配を強く意識させる傑作です。いつ見てもその姿が脳裏に焼き付いてきます。
その他ではラリックのブローチや、端正なフォルムが魅力的のルーシー・リーの器、または展示和室にイサムノグチのあかりとともに置かれていた当代樂吉左衛門の黒楽や水指などにも惹かれました。またもう一点、水指といえば三輪壽雪の「萩灰被四方水指」(2003)も心にとまります。ぐしゃっと上からひしゃげたような立方体の水指に、桃色や銀色にも変化して見える釉薬が美しく照り出しています。その形の崩れに何とも言えない良さを感じる作品です。
展示は来月2日までですが、以降14日からは、記念展の第二弾として、須田悦弘をはじめとする現代作家14名による「工芸の力 - 21世紀の展望」が開催されます。工芸館の展示はいつも見忘れてしまうか、今回のように会期末になってしまうので、次回展は忘れないうちに早く見に行ければとも思いました。(11/25)
*関連エントリ
「開館30周年記念展2 - 工芸の力 21世紀の展望」 東京国立近代美術館・工芸館
「開館30周年記念展1 - 工芸館30年のあゆみ - 」
10/6-12/2
今年、開館30周年を迎えた工芸館の道程を振り返ります。「工芸館30年のあゆみ」展へ行ってきました。
展覧会の構成は以下の通りです。
1、「工芸館開設準備から開館記念展まで」(1972~1977):重文指定(1972年)以降、1977年のオープンへの道のりと、開館記念展「現代工芸の秀作」を振り返る。
2、「展覧会のあゆみ」(1977~2006):過去の代表的な展覧会を概観。
(1)近代日本シリーズ:素材毎に優れた工芸品を検証する。同館の展覧会活動の柱。磁器よりはじまり、以降、型染、ガラス、人形へと続いた。
(2)回顧展:初回の「松田権六展」(1978年)より開催してきた各作家の回顧展。
(3)近・現代と工芸史再考:歴史的観点から工芸を解く。「1960年代の工芸展」など。
(4)現代工芸への視点:現代の工芸。「現代の型染展」など。
3、「工芸館の収集活動とコレクションの成立」:1980年以降加えられたデザイン作品、もしくは海外作家の紹介。
展示は基本的に、過去、同館が開催して来た展覧会を簡単なキャプションで振り返りながら、その際出品された展示品のごく一部を見るというものです。ということで、その体裁は殆ど名品展の様相をとっていました。工芸館の多様なコレクションからピックアップされた代表作ばかりが揃っている展覧会かもしれません。
まず印象深いのは、同館初の回顧展を開いた松田権六から「蒔絵鷺文飾箱」(1961)です。深みのある漆の蒔箱に白鷺が飛び立つように描かれていますが、箱の全面に象られた葉の紋様にも見入るものがありました。また色の殆どは漆の黒を示していますが、葉の先に一部、光るような茶とも金ともとれる色が配されています。ちなみに松田権六というと昨年、初回以来30年ぶりに開催された回顧展も話題となりましたが、その際の入場者数は過去歴代2位を記録したそうです。
工芸館では良く名前を拝見する富本憲吉もいくつか紹介されています。中でも挙げたいのは「色絵金銀彩羊歯文八角飾箱」(1959)です。八角形をした器に金と銀の羊歯文が艶やかに配されていますが、おおよそ陶器とは思えない質感にも驚かされます。また同じく箱に繋がる作品としては、稲木東千里の「木製箱」(1936)にも惹かれました。桑の木によるひし形の蓋をはじめ、その側面にも象嵌の模様が精緻にはめ込まれています。これは先月、奈良の正倉院展で見た「紫檀木画箱」にも通じる味わいです。可愛らしくもあるモチーフです。
いかにもコンテンポラリー的なオブジェの並ぶ「現代工芸の視点」の中では、殆ど異質とさえ思う作風を見せる四谷シモンの「解剖学の少年」(1983)と吉田良の「すぐり」(1986)が圧倒的でした。そもそも工芸館で、この二点の存在感を上回る作品を見たことがありませんが、ともに強烈なエロティシズムとその反面の死の気配を強く意識させる傑作です。いつ見てもその姿が脳裏に焼き付いてきます。
その他ではラリックのブローチや、端正なフォルムが魅力的のルーシー・リーの器、または展示和室にイサムノグチのあかりとともに置かれていた当代樂吉左衛門の黒楽や水指などにも惹かれました。またもう一点、水指といえば三輪壽雪の「萩灰被四方水指」(2003)も心にとまります。ぐしゃっと上からひしゃげたような立方体の水指に、桃色や銀色にも変化して見える釉薬が美しく照り出しています。その形の崩れに何とも言えない良さを感じる作品です。
展示は来月2日までですが、以降14日からは、記念展の第二弾として、須田悦弘をはじめとする現代作家14名による「工芸の力 - 21世紀の展望」が開催されます。工芸館の展示はいつも見忘れてしまうか、今回のように会期末になってしまうので、次回展は忘れないうちに早く見に行ければとも思いました。(11/25)
*関連エントリ
「開館30周年記念展2 - 工芸の力 21世紀の展望」 東京国立近代美術館・工芸館
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