「上野タウンアートミュージアム - 水、墨、モノクロームの世界 - 」 旧坂本小学校

旧台東区立坂本小学校(台東区下谷1-12-8)
「上野タウンアートミュージアム - 水、墨、モノクロームの世界 - 」
11/10-11/30



日中の約40名にも及ぶアーティストが、台東区内の廃校をそのまま使って、表題の水や墨などを連想させる多様なインスタレーションを繰り広げています。(*)上野タウンアートの一環として企画されたグループ展です。

失礼ながらも行く前はサラッと流し目で見るつもりでいましたが、思っていたよりもかなり充実した展示だったので、実際は相当の時間をかけて楽しむことが出来ました。それにしても告知されているアーティストからして壮観です。中国の方々は存じ上げませんが、日本からは小沢剛、小瀬村真美、遠藤利克、それに杉本博司らまでが登場しています。今、ここに挙げたラインナップに感ずるもののある方には是非おすすめしたい展示です。

   

惹かれた作品を挙げていくとキリがありませんが、学校という場を最大限に生かしていたのは、遠藤利克のダイナミックなインスタレーション「振動6」でしょう。実際に接した時の驚きを味わっていただきたいので詳細には触れませんが、一言で述べると彼の作品は二階の理科室そのものの全てです。ひっきりなしに流れるジャージャーという水の音に耳を傾け、ただ在り、また相互に関係し合うビーカーを見入る時、静謐ながらも有無を言わさぬ作品の圧倒的な存在感を感じることが出来ます。理科室を理科室のまま、非作為的に保存しながらも、そこにはモノの運動や力の在り処が鮮やかに示されているわけです。これぞ遠藤作品の醍醐味です。

  

  

  

  
 
二室を利用して、写真と映像を組み合わせた小瀬村の「Under Water」(2007)も印象に残ります。ある特定の風景写真の一部をインクのような物体で隠し、本来なら日差しも眩しい海の景色をどこか不気味な感触でまとめ上げていました。そしてもう一方の映像は、写真で示された風景の様子を動画で見ることの出来る作品です。まさに日が落ちて全てが闇に包まれるかのように、インクが爛れ、そして風景を閉ざしてしまいます。ちなみにこの展覧会のテーマの一つに「滲み」がありますが、彼女の作品はまさにそれを表すものではないでしょうか。滲み出すシミが全てを闇へ誘い込んでいきます。

中国人アーティストでは、徐水の「背後の物語」(2006)が面白い作品です。タイトルにネタバレ的な要素があるのが少々問題ですが、ともかくバックライトに照らされる山水画の背景には思いもよらない素材が組み合わされています。これは必見です。

その他では、都会の街角を廃墟として描く元田久治のドローイングなども見応えがありました。風にさらされて崩れ始めてた東京タワーや六本木ヒルズ、それに無惨にも折れ曲がる飛行機の放置された羽田空港などが描かれていますが、作品を展示する部屋もどこか廃墟のように天井などが剥き出しになっています。そもそもこの学校自体が一種の廃墟でもありますが、絵の廃墟と空間のイメージが重なってくる作品です。興味深く感じます。

「積み木工作で家を作り、旅する街づくり」という高浜利也のワークショップにも参加してきました。既に越後妻有や名古屋市民ギャラリーなども経由している企画だそうですが、内容は床にたくさん置かれた積み木を勝手気ままに何らかの形として示すというものです。誰でも手軽に楽しめます。

東京芸大、もしくは北京の芸術学校の学生も参加しています。展示では版画が目立っていましたが、中でも高尾雪野の「水際」に惹かれるものがありました。揺らめく水紋に差し込まれた足が何とも清々しい作品です。

旧坂本小学校は日比谷線入谷駅よりすぐ、また山手線の鴬谷駅から歩いても10分とかかりません。残念ながら集客はあまり芳しくないようでしたが、現代アート好きには間違いなく楽しめる展示だと思います。

入場は無料です。今月末まで開催されています。(土日も開いています。)(11/18)

* 今回の展覧会では、水墨という世界観と時間軸の延長線上にある墨、水、紙など、単色の世界を照射し、今日の写真や映像、インスタレーションの世界にまで繋がる東アジア的伝統と美意識を、典型的な単色の多様性を通じて考察していく。(展覧会パンフレットより引用。一部改変。)
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