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裸形阿弥陀像と御室大仏と聞けば、是非とも拝観したいということで転法輪寺へ拝観を致しました。
転法輪寺は1758年に浄土宗の関通上人によって北野の地に創建されたと伝わります。
大正の時代が終わり、昭和の時代へと変わった頃の1929年には北野から御室の地へ移転したのが、現在の転法輪寺といいます。
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寺院は仁和寺の巨大な仁王門を通り過ぎて、寺院の東側を進んだ先にあり、知らなければ見逃してしまうようなこぢんまりとした寺院でした。
数台しか停められない駐車場と聞いていましたので停められるか心配していましたが、なんとか空きは見つかりました。
参拝者が多かったにも関わらず駐車場が空いていたのは、おそらく仁和寺とセットで拝観される方が多かったからなのでしょう。
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竜宮門のような鐘楼門自体は他の寺院でも見かけるものの、驚くのはその大きさでしょうか。
鐘楼門がこの大きさを必要とするのは、鐘楼に吊るされた梵鐘が高さ9尺(342cm)重さ約4㌧の大きさのものであることも関係していると思われます。
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本堂の右側で受付を済ませて堂内に入るのですが、まさかこの中に7.5mの大仏様が安置されているとは想像がつかない感じがします。
とはいえ、受付をしながら堂内の大仏様が少しだけ垣間見えた時には思わずにんまりとしてしまいましたよ。
転法輪寺は本来は観光寺ではありませんので、特別公開にあたって檀家の方を動員しておられたようですが、観光寺とは雰囲気の違った雰囲気に心地よさも感じます。
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御本尊の「阿弥陀大佛」は1758年に開眼された仏像で、大きさ由来の迫力もさることながら、五色の光背の美しさも相まって実に見事な仏像です。
通常の阿弥陀如来は胸が見えていたり、片方の肩に衣を纏っていないことが多いのですが、この阿弥陀如来はきっちりと衣を纏っておられます。
御住職は“寒がりの阿弥陀さん”と呼ばれていると説明の方が話されていましたが、衣は清涼寺の釈迦如来像を思い起こさせる造りでした。
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大仏さんの右前には1本の木から彫り出された「巨大木魚」が置かれており、その大きさにも驚かされます。
仏像が7.5mの大きさですから木魚の大きさが想像できると思いますが、彫りの細工も見事な木魚ですね。
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頭の後ろ側になる光後には櫻町天皇(第115台天皇)御追福のために納められたという鏡が飾られていました。
こういう形で遺品が納められているのは始めて見ましたが、鏡の大きさと右下の大仏様の耳の一部とサイズを比較すると、大仏様のサイズ感が分かるかもしれません。
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内陣には木魚が幾つか置かれていましたが、これは読教の時に僧呂が使われるものなのでしょう。
別の棚にはさらに多くの木魚が置かれていましたので、そちらは読教に参加された方が使われるものなのでしょう。
木魚の中には骸骨を形どったものあり、思わずドキッとさせられます。
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外陣の壁面には5m×4mと巨大な「釈迦涅槃図」が掛けられていました。
1764年の描かれたものだといい、金色に輝くお釈迦様の周りには弟子・神々・菩薩・獣・鳥類・昆虫などがリアルに描かれています。
諸説ありますが、古い釈迦涅槃図には猫が描かれていないことが多く、猫は江戸時代の後半から涅槃図に加わったといいます。
この釈迦涅槃図は江戸後期の作ですから猫の姿が描かれているのが特徴的です。
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本堂の裏堂へ回ると「阿弥陀如来立像」「地蔵菩薩坐像」「法然上人坐像」「善導大師像」「釈迦誕生仏」「聖観音像」と安置されている中心部に「裸形阿弥陀如来立像(鎌倉期)」が安置されていました。
「裸形阿弥陀如来立像」は奈良の仏師:賢問子の作で、天智天皇の御生誕にまつわる縁起によって作られた仏様とされています。
裸形像として日本五体の一つとされていますが、他の4体がどの裸形像を指すのかは聞いてみたけど不明でした。裸形阿弥陀像は滋賀県にも分かっている限りでは2躰あり、奈良県にも2躰。
他の地域にもあるようなので、裸形阿弥陀像自体は幾つか現存しているようです。
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転法輪寺の開山者である開通上人は、箱根の関所で通行手形による人の往来を見て、此土から浄土への関所を通す役目を果たすことを誓い、諸国に念仏を広め歩いたとされます。
人間の苦しみの関所を念仏という手形で通すという意味から“関通”と名乗られ、上人の客殿には特別展示として「開通上人像」を始めとする寺宝が展示されていました。
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さて、寺院の一番奥の部屋では御朱印場とお休み処がありましたので、“甘茶とおせんべい”のセットをいただきます。
花まつり(灌仏会)に使われる甘茶と転法輪寺の名物といわれるおせんべいを食べながら、庭を見る時間は実にホッとする時間です。
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最後に頂いた御朱印に浄土宗紋の「月影杏葉」の紋を型押し機(エンボッサー)で押して参拝の記念としました。
転法輪寺はこぢんまりとした寺院ではありますが、一歩中に足を踏み入れると何時間でもいたくなるような落ち着いた気持ちにさせてもらえる寺院だと思います。