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第38回 観音の里ふるさとまつり1/3~余呉町「弘善館」・黒田「観音寺」「大澤寺」「安念寺」~

2022-10-19 12:55:00 | 御朱印蒐集・仏像・磐座・巨樹・古墳・滝・登山
 滋賀県の湖北地方は、古代より霊山として崇められてきた「己高山」を中心にして、北陸の白山信仰の影響を受けて、仏教文化圏を形成してきたといいます。
平安時代になると比叡山天台宗信仰の浸透により観音信仰がより一層高まってきますが、戦国時代の浅井長政と織田信長の戦いや賤ケ岳の合戦などで動乱の時代を向かえることになります。

戦乱の焼き討ちの中で村人たちは、川に沈めたり土中に埋めたりして難を逃れたといい、天台寺院が衰退していくなかで、村の観音堂で観音さまを祀り、観音文化を守り継いできたといいます。
「観音の里ふるさとまつり」は第38回を迎えますが、過去2年間はコロナ渦により開催がされず、3年ぶりの観音堂一斉開帳に多くの方が訪れられていました。



当方も過去何回かに渡って観音堂巡りをしてきましたが、まだ拝観したことのない仏像を求めて湖北大移動で観音堂を巡りました。
最初に訪れたのは余呉町坂口にある「弘善館」で、以前に“みうらじゅん”と“いとうせいこう”が「見仏記」で訪れた番組が記憶に残っています。



余呉町坂口の山中にある「菅山寺」は、奈良時代に開山された「龍頭山 大箕寺」と呼ばれる興福寺門法相宗の寺院だったと伝わるという。
平安時代になると菅原道真が6歳の時に入門して11歳まで勉学した寺院とされます。
京に上った道真が45歳の時に宇多天皇の勅命により大箕寺に参拝し、その後3院49坊からなる寺院に復興されたという。

山中には山門前に“道真公お手植えのケヤキ”がありましたが、2017に1本が残念ながら倒れてしまいもうかつての姿を見ることは出来ない。
「菅山寺」にあった宝物は、里宮の「弘善館」へ降ろして展示保存されており、館内には多数の仏像が保管されている。



車を停める場所がなかったので「弘善館」の方に聞くと、道を上へ上がった辺りに停めておいてとのことでしたので、狭い道ながらやや広くなっている場所に車を駐車。
すると、何と目の前に古墳がある。想像もしていなかったのでこれには驚き、「弘善館」の方に聞いてみたがよく分からないとのこと。
どうやら「大門古墳」という円墳で、かつてこの地域を治めていた権力者の墓と想像します。



石室が覗けるようになっており、内部を見るとかなり土砂に埋まっているものの、石室の様子が伺い見えます。
仏像巡りに来て、いきなり古墳スタートかと思わず笑ってしまいましたが、その土地の歴史や民俗も含めた上での仏像ですから、面白いスタートとなりました。



館内は撮影禁止でしたが、撮影してもいいけどネットはNGということで写真を撮らせて頂きました。
仏像は「照壇上人像」「専暁上人像」「地蔵菩薩立像」「弘法大師像」「菅原道真11才ノ像」「狛犬一対」「不動明王座像と立像」。
「降三世明王」「軍茶利明王」「不動妙座像」および傷んだ古仏の部分等などが展示されています。

平安期の「十一面観音立像」は体のひねり方など圧巻の仏像で、小さめのお顔で目が特徴的な尊顔の表情が印象に残ります。
また館内には1277年に鋳造された「梵鐘」が展示されており、銘文には菅原道真公が寺院を建立し不動明王を安置したと刻まれているといい、国の重要文化財となっている。

次に参拝したのは木之本町黒田にある3つの観音堂です。
黒田地区には「観音寺」「大澤寺」「安念寺」の観音堂があり、まずは「観音寺」へ参拝。



「観音寺」は行基が巡教してこの地に来た時、「千手観世音菩薩」をお刻みになり、「三縁山 観音寺」として建立した寺院とされます。
その後、火災や戦乱により寺院は荒れていたようですが、臨済宗の僧が浄財を集めて「霊応山 観音寺」として再興したという。



木之本町黒田地区は、黒田官兵衛に代表される黒田家の発祥の地とされており、黒田氏は6代にわたり黒田の地に居を構えていたとされます。
黒田家屋敷跡と伝えられる場所には黒田家御廟所が設けられており、境内に祀られる2基の宝篋印塔は後の黒田家の祖先の墓だとも伝えられているようです。



本尊「千手観世音菩薩(平安初期」は像高1.99mの一木彫りの大きな仏像で見る者を圧倒します。
左右18本の御手には宝剣や宝塔などを持ち、厳しい表情をされているものの慈愛に満ちたその姿は「准胝観音」ではないかと言われています。



集落内を少し歩いて急な石段を登って行くと「大澤寺(だいたくじ)」があり、大澤寺にも奈良時代の724年に行基が刻んだという「十一面観世音菩薩」が祀られています。
戦乱の時代には賤ケ岳の合戦や姉川の合戦で堂宇は焼失したものの、本尊は村人により助け出され、余呉町坂口の「菅山寺」に合祀されていたといいます。



九十三段の石段を登りきった所にある鐘楼の梵鐘には1412年の銘があるといい、湖北では先述の余呉町「弘善館の梵鐘(1277年)」、高月町井口「円満寺(1231年)」の梵鐘と並んで歴史ある梵鐘とされている。
またこの梵鐘は賤ケ岳の合戦の時に、柴田勝家の家臣・佐久間玄蕃盛政が羽柴秀吉の軍兵が着陣したことを知らせるため鐘を乱打したと伝わります。
梵鐘は総高1.1m、龍頭高17センチ、最大径63cmの鐘で、歴史ある梵鐘にも関わらず上記3つの梵鐘の内、「円満寺(日吉神社)の梵鐘」と「大澤寺の梵鐘」は撞かせてもらうことが出来ます。



大澤寺は江戸時代の1619年に菅山寺の法師により再興されますが、明治の廃仏毀釈により近隣にある観音寺に合祀され、1883年に現在の場所に再興されたという。
観音寺も大澤寺も集落の世帯数は十数件だと思いますが、何百年にわたって観音堂守り続けてきた尽力におそれいります。
湖北ではいわゆる檀家寺と観音堂の2つの寺院と村の神社をお守りしているケースが多く、将来的には行政や民間の支援が必要になってくることも考えられます。



厨子の中に祀られた「十一面観世音菩薩」は像高50センチほどの仏像で、ふくやかなお顔に紅をさした紅い唇が印象に残ります。
観音寺の「千手観世音菩薩(准胝観音)」と比べると、大澤寺の「十一面観世音菩薩」は同じ千手観音でも大きさが1/4くらいになりますが、それぞれ個性が際立つ仏像だったと思います。



黒田地区の「観音寺」「大澤寺」に参拝した後、黒田にあるもう一つの観音堂である「安念寺」に参拝します。
安念寺は聖武天皇の時代726年の開基で「天王山 安念寺」と称し、開基の詳厳法師は藤原不比等の庶腹の子供とされ、無実の汚名を受け世をはかなみ当地に草庵を建てて仏像を祀ったと伝わる。



「安念寺」は10件の世帯でお守りされている観音堂ですが、老朽化してきた観音堂の修理の費用が負担できなくなり、2021年にクラウドファンディングで修理・整備を行われています。
湖北の観音さんをお守りし続けていくには、今後時代に沿った新しい工夫が必要になってくると思います。



安念寺は平安時代に天台宗山門派の寺院でしたが、1571年の織田信長の比叡山焼き討ちの際に堂宇を焼かれてしまったといいます。
湖北に存在した他の天台寺院でも同じ話を聞くことがあり、信長の比叡山焼き討ちは延暦寺や湖東だけに留まらず、遥か湖北の天台寺院にも及んでいたようです。



お祀りしていた仏像は信長の兵火の際、村人が田圃の中に埋めて焼失を免れまれたものの、本来の美しい姿はなくなったといいます。
さらには1583年の賤ケ岳の合戦の際にも再び堂宇は焼失し、戦乱が治まった後に掘り出して安置したといいますが、御堂の雨漏り等で更に痛みが激しいものになったという。



仏像は須弥壇に6躰。聖観音を本尊としているとされますが、朽ちつつあるにも関わらずその姿は人の心を捉えます。
平安後期とされる諸仏は、田の中から掘り出して川で洗ったことから「いも観音」と呼ばれたり、昔は夏になると村の子供たちが川での水遊びに使っていたなどの話があります。
地域にとけ込んだ観音さんのありようが微笑ましい話です。



黒田地区の3つの観音堂へ参拝した後は、黒田地域の野神さんの「黒田のアカガシ」へと向かいます。
初めて「黒田のアカガシ」へ訪れた時は草ぼうぼうの道を登るのが気持ち悪くて断念し、草の枯れた冬場に再訪しています。
今回は心配した草はなく、ゲートを開けて山登りでもするような道を登ります。



湖北地方では「観音文化」や「オコナイ」「野神信仰」など地域独特の信仰や民俗行事があり、「黒田のアカガシ」も村の野神さんとして毎年8月17日に野神祭が行われているという。
野神さんには農耕の神としての側面があり、多くは村の外れにある巨樹を信仰対象としていて、山の神の信仰と混じり合っている集落もあります。



「黒田のアカガシ」は幹周6.9m、樹高15mで推定樹齢は300~400年とされていて、アカガシとしては県内最大級の巨樹とされている。
地表に広がる根と3本に分かれた幹の荒々しさを眺めていると、まさに神が宿る木という印象を受け、神々しい姿をしています。



「観音の里ふるさとまつり」はまずは余呉町の坂口集落へ行き、木之本町の黒田集落を巡りました。
次は賤ケ岳の麓から奥琵琶湖を経由して西浅井町山門まで向かいます。



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