じいちゃんの鉞、復活作戦。
1974年に亡くなった、俺のじいちゃんが使っていた鉞。
鉞は「マサカリ」だ。
じいちゃんは、山で働いていた。樵ではなく、ブルのオペレーターだった。夏休みに遊びに行くと、毎日夕方、金属キャタピラの軋む音を響かせて、じいちゃんは山から下りてきていた。
山につけられた伐採用の作業道路を指して、あれも、あの山のも、じいちゃんがつけた道だ、と教えてくれた。
後年、ばあちゃんが亡くなったとき、遺品を整理していたらこの鉞をはじめとする道具類が出てきたので、形見にもらってきたのだ。
それから十数年というもの、物置の奥のコンテナにしまわれていたのだが、去年の引越しで発掘したのだ。
こいつを引き取った当時は、俺は山仕事とは無縁だった。でも今はこうして山の中で仕事をするようになっている。
これも因縁かもしれない。それならばせっかくだから、40年以上昔の物と思われる、このじいちゃんの鉞を復活させてみようと思い立ったのだ。
刃長は、普通のボールペンくらい。
約14センチだ。
この刃の形は、調べた範囲では、筑前ハツリというのに近いようだが、詳細はわからない。
柄の握りは、じいちゃんが使い込んで黒光りしている。
櫃に入る部分は、乾燥で収縮してガタガタに緩くなっている。
背をハンマーで叩いたのか、櫃も歪んでいる。
柄の材質もよくわからないが、今の市販品でよく見るような樫ではなさそうだ。
じいちゃんが自分で作ってすげた柄なのかもしれない。
でも、残念ながらこの状態では、この柄は使えなそうだ。
楔代わりに太い釘が打たれている。
これ、ついやってしまうけど、実はほとんど効果がないんだよな。
柄は錆でくっついていたが、ちょっと叩く程度で簡単に外れた。
櫃の歪みを、できるだけ直してみる。
叩かれためくれ具合で想像は付いていたが、ここは軟らかい鉄だった。
このようなテーパーした櫃穴は、信州型というらしい。
重さで叩き切る刃物なので、計量してみる。
920グラム。昔風に言えば、245匁ってとこか。
そこらで手に入りやすい市販品の鉞は、150-200匁あたりが多いから、かなり重めだ。
柄の長さは、ほぼ50センチだった。
市販品のデータを見ると、150匁で36センチ、200匁で45センチとかだから、もう少し長くしようかな。
柄にするのに、山に入って、伐ってふた冬経過したヤチダモの枝を拾ってきた。
ヤチダモは、野球のバットにもできるような、しなやかで粘りのある木だ。
鉞の柄にするんだから、洋式斧の柄のようなイメージで、枝のカーブを生せそうなやつを探してきた。
こんな感じでどうだべか。
長さは55センチにしてみた。
並べたのは外した柄だが、じいちゃんの使い込んだ柄だと思うと捨てれないな。
柄を作るオガクズまみれの工程は写真撮ってないが、丸鋸で製材して、鉋で調整し、櫃部分を仕上げてから、丸みをナイフで荒削りして、鑢とサンドペーパーで仕上げた。
ヤチダモの木肌は、白くてやや毛羽立ったような感じだ。ペーパー仕上げでは、握ったときに滑るような感じでしっくりこない。
製材した切れ端を並べてみた。
枝のカーブなりに仕上げたので、木目はきっちり通っているはずだ。
以前に鉈の柄の仕上げにも使ったオイルステインで仕上げてみよう。
ウェスに出して、色合いを見ながら塗りこんでいく。
左半分だけ塗りこんだ状態。
色はオークだから、樫っぽくなるのかな。
塗ると、木目が鮮やかに浮き出してくる。
乾いてから布で磨くといい艶が出て、しかも手に吸い付くように滑りにくくなる。
どうだ。
いい色になったと思う。
オイルステイン前。
オイルステイン後。
刃は、錆をカップブラシで落として、砥ぎなおしている。
斧や鉞の刃には、よく、表に4本、裏に3本の溝が刻まれている。魔よけとか縁起かつぎとかいわれているらしいが、この鉞の場合、両面とも3本だった。
理由はわからない。
刃の錆を落としたら、鏨でなにか刻んであるのがみつかった。
じいちゃんが刻んだのかはわからないが、じいちゃんの名前の一部ではなさそうだ。
刃は両面が軟らかく、鋼はかなり硬いのを割り込んであるようだ。
ともかく、これで復活したぞじいちゃん。
ステイン前だが、乾いた丸太に重みだけで打ち込んでみた。
抜くのが大変なほど食い込むが、柄が衝撃を吸収して、手には響かない。
よしよし。