林真理子著「東京」2008年12月、ポプラ社発行、ポプラ文庫
いずれも田舎から東京へ出てきた女性の虚栄心とコンプレックスを描いた作品だ。
二人の部屋(出典「東京胸キュン物語」角川文庫)
広美は幼馴染の雅子の父の会社に勤め、夜は予備校へ通うことで上京することができた。しかも、南青山にある雅子のマンションの部屋に居候だ。やがて、幼馴染の間に・・・。
(両者の関係が、幼い時と現在とで逆転してしまった。徐々に危うくなる関係に緊張感がある)
東京の女性(出典「美食倶楽部」文春文庫)
豪壮な邸宅が並ぶ高級住宅街の一軒家に下宿をすることになった健と真由美。家の一階に住む政代は、一見きさくな性格の裏に、東京に住む上流階級の人間特有の驕慢さが次第に明らかになっていく…。-裏表紙より-
(確かに東京でも地域によるレベルが存在し、学校もお嬢様度でランク付けされている。東京には限らないと思うが、政代さんのように表面上気さくで実は陰険、粘着質で人を巻き込む上流のおばさんが居る。)
路地(出典「着物をめぐる物語」新潮文庫)
もと深川の気風のよい芸者で、今年78歳になるせい子姐さんが芸者仲間で助け合って暮すが、ある日・・・。
(深川芸者の心意気と女性同士の思いやりは気持ちよいのだが、最後に・・・)
一年ののち(出典「東京小説」角川文庫)
栃木から東京に出てきたが、デザイナーの夢破れ平凡なOLをするエリコは先輩に「地方コンプレックスを手っ取り早く直すコツは、東京生まれ東京育ちの男と結婚することね」と言われる。合コンで、東京育ちで慶應出の商社マンを捕まえ、青山、西麻布、六本木あたりでデートするが、彼にはニューヨークに恋人がいるという。
(山の手で育った貧乏人の私は、東京へのコンプレックスはないものの、地方出身者の方が華やかな場所を良く知っていると思うのだが)
林真理子さんのあとがき
・・・しかし私は、東京にひとり出てくる女の子に、今も昔もなんとも言えない愛おしさを感じる。小さなアパートを借り、ささやかな夕食を作り、日曜日には洗濯や掃除をすませ、‘こわごわ’という感じでおしゃれな盛り場に進出していく。
そしてこの街で恋をし、本当の大人になっていく。要領は悪いけれど、けなげで一生懸命生きているそんな女の子たちが大好きだ。
柴門ふみの解説
林さんは作家として大成功した現在でも、時たま東京コンプレックスのような言葉を口にすることがある。私が思うに、それは林さんが「ドM」だからだ。
林さんは、かって自分が<東京>から田舎娘扱いされた時の痛みを、成功した現在(いま)でも手放さずに握りしめ、それを創作の源としているのではないだろうか。
林真理子の略歴と既読本リスト
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)
林さんは女性のいやらしさと劣等感を書くのが上手い。林さんは東京や、美人に対するコンプレックスをばねとして小説を創りだしているようだ。一応東京生まれで、女性ではない私には、この本は面白く読めたが、共感するものはなかった。