hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

箒木蓬生「風花病棟」を読む

2009年03月03日 | 読書2
箒木蓬生(ははきぎ・ほうせい)著「風花病棟」2009年1月、新潮社発行を読んだ。

1999年から2008年まで、小説新潮に毎年1作品ずつで発表された10の短編をまとめた短編集。

箒木さんは現役の医師で、いずれも医師の立場から見た患者の話なのだが、医師も患者との係わりの中で悩み成長していく姿が描かれている。死が現実のものとなったときに希望を失わず凛として生きる患者に新米医師は逆に教えられる。

メディシン・マン:言っていることが真実であることを証明するために医者が薬物注射する
藤籠:窓から見える見事な山藤。そして子供に絵本を残したいというがん患者へ告知するか悩む医師
雨に濡れて:なんとか患者の気持ちを汲み取れる医師になろうとしていた泣き虫女性研修医が乳癌になる
百日紅:村人たちに慕われた田舎の開業医と後を継がず東京で暮らす息子の眼科医
チチジマ:米国の学会で発表する元軍医が米兵と奇跡的な再会
顔:顔面を全て病気で失ったが凛としている妻と、献身的看護をする夫
かがやく:アルコール病棟に22年長期入院している男と主治医がチューリップを植える
ショットグラス:いつも公園にいるアヒルおばさんや、金がなく手術できない女性と女医の交流
震える月:軍医だった真面目一方の大学医学部教授と反発しながら同じ分野で大学教授となる息子。そして、父が助けたベトコンの息子も医師に。
終診:30年間守り続けた診療所を引退する70歳になった町医者の思い

箒木蓬生は、1947年福岡県小郡市生まれ。東京大学仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後九州大学医学部に学び、現在、精神科医。1979年「白い夏の墓標」を発表し直木賞候補。「三たびの海峡」で吉川英治文学新人賞、「閉鎖病棟」で山本周五郎賞、「逃亡」で柴田錬三郎賞。「箒木、ははきぎ」はホウキグサの別称で、「源氏物語」の巻名。名前の蓬生も同じく巻名で「よもぎう」と読む。

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

いずれも生と死というドラマチックな話なのだが、派手さのない静かな語りで、良心的医者の揺れる心を描いている。新米医師の話が多いが、医師の迷い、悩みがはっきりと書かれている。担当医がこんな人間的悩みを直接見せたら、患者は困ってしまうだろう。私は、患者にとっては、一人の人間として捕らえられる医師より、専門家として尊敬できる医師が理想と思うのだが。実際の医者は最近でもまだ無愛想で強権的な人がいて、医師と患者の関係はバランスが難しい。
訴訟問題、医療崩壊がある近年の情勢では、医師と患者が良好な人間関係を築くことはますます難しくなっている。
いずれにしても、この本の読後感はすがすがしく、一読の値する。

また、作者の父の世代であろうアジア太平洋戦争での軍医の話2つと、田舎の医院を継がなかった息子の医師の話2つがある。私は箒木さんの作品を始めて読んだのだが、著者は、東大仏文を出て、TBS勤務後医学部に入り直していることから、これらの話は個人的体験を反映したものなのではと、邪推した。しかし、調べてみると、ミステリーに属する小説を多く書いている方のようだし、ヨーロッパを舞台とする話も多く、もっと幅広い方のようだ。



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