hiyamizu's blog

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梯久美子『愛の顚末』を読む

2016年04月12日 | 読書2

 

 

梯久美子著『愛の顚末 純愛とスキャンダルの文学史』(2015年11月15日文藝春秋発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

こんなにも、書くことと愛することに生きた! 小林多喜二、三浦綾子、梶井基次郎…運命の出会い・悲恋・ストーカー的妄執・死の床での愛。明治・大正・昭和に生きた文学者12人の知られざる愛の物語を辿った、珠玉のノンフィクション。

1 小林多喜二

小林多喜二の恋人、田口タキは身を売られた酌婦だった。初任給70円の多喜二は、肉体関係のなかったタキの借金500円を都合して身請けする。やがて、次第に世に注目されるようになった多喜二の足手まといになってはいけないとタキは身を引いた。再会し、東京で2人で暮らすようになり、タキは美容師として自立を目指す。多喜二は地下に潜り、老母セキは、息子の思想は理解できなくても、その生き方の理解者となることを願った。1933年多喜二は拷問の末、惨殺される。タキは毎年命日に手紙と供物を送ったが、多喜二の死後も何も語らず、完全な沈黙を貫いたまま生涯を終えた。102歳だった。

2 近松秋江(ちかまつしゅうこう)

別れた妻とその新しい男の足跡を追って日光に行き、旅館をしらみつぶしに当たって宿帳を調べる「疑惑」や、さんざん貢がせられた芸妓を山奥にまで追いかけていく「黒髪」などの私小説を描いた。晩年失明し、硬派な小説を書いたがまったく評価されず、「情痴作家」として文学史に残った。

「貧乏して娘にすがってね、惨憺たる姿でなんかの会に出てくる、それをみたとき「文士」というのはああゆうもんだという気がしたな。・・・この姿こそ大正文士としての最後の栄光だという気がしましたね」と高見順は書いている。


3 三浦綾子

三浦(堀田)綾子は旭川の小学校教師7年目で敗戦となり、軍国教師として真剣に生きたがゆえに価値観の転換に打ちのめされ退職する。結核療養所に入り、敬虔なクリスチャン前川により信仰の道に入る。綾子の療養は13年、内ギブスベッドに固定されていたのが7年間だった。しかしこの間、彼は結核で逝く。遺書には「決して私は綾ちゃんの最後の人であることを願わなかった」とあった。そして、三浦光世との出会いがめぐってきて、綾子は42歳で朝日新聞の一千万円懸賞小説『氷点』を書く。

 

5 原民喜

原は、神経過敏、極端な無口で、人と会う時には明るく社交的な6歳下の妻が付き添い代弁した。しかし、妻は結核に倒れ、5年の闘病の後、1944年に亡くなる。

「もし妻と死別れたら、一年間だけ生き残ろう、悲しく美しい一冊の詩集を書き残すために」と思っていた原だが、一周忌直後に広島で被爆し、そして生き延びる。

「今、ふと己が生きていることと、その意味が、はっと私を弾いた。このことを書きのこさねばならない、と、私は心に呟いた」(『夏の花』)

「とうとう僕は雲雀になって消えていきます」と、2年後に自死する。

 

8 中条ふみ子

 妻ある人が死んだ。ふみ子は『乳房喪失』でうたう。

「衆視のなかはばかりもなく嗚咽して君の妻が不幸をみせびらかせり」

 

病床から、

「灯を消してしのびやかに隣に来るものを快楽(けらく)の如くに今は狎(な)らしつ」

 

他に中島敦、鈴木しづ子、梶井基次郎、寺田寅彦、八木重吉、宮柊二、吉野せい。

 

 

初出:日本経済新聞 2014年6月4日~2015年5月31日

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

平凡な私から見るとその多くが性格破綻者としか思えない。ドラマチックな運命に弄ばれ、泳ぎ切り、文学にすべてを入れ込んだ者たち。すべてが桁外れだ。昭和以前の文士の姿がここにある。

 

もはや歴史のかなたにあるが、スキャンダルが決して嫌いでない私は、なるほど、なるほどと読み切った。

 

 

梯久美子(かけはし・くみこ)

1961年熊本県生まれ。北海道大学文学部卒業。2006年、『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8カ国で翻訳出版されている。著書に戦争体験者に取材した三部作『昭和二十年夏、僕は兵士だった』『昭和二十年夏、女たちの戦争』『昭和二十年夏、子供たちが見た戦争』のほか『昭和の遺書――55人の魂の記録』『百年の手紙――日本人が遺したことば』『廃線紀行――もうひとつの鉄道旅』などがある。

 

目次

1 小林多喜二――恋と闘争
2 近松秋江――「情痴」の人
3 三浦綾子――「氷点」と夫婦のきずな
4 中島敦――ぬくもりを求めて
5 原民喜――「死と愛と孤独」の自画像
6 鈴木しづ子――性と生のうたびと
7 梶井基次郎――夭折作家の恋
8 中城ふみ子――恋と死のうた
9 寺田寅彦――三人の妻
10 八木重吉――素朴なこころ
11 宮柊二――戦場からの手紙
12 吉野せい――相克と和解
あとがき

 

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