オレン・スタインハウアー著、上岡伸雄訳『裏切りの晩餐』(2016年4月21日岩波書店発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
過去を振り捨て、母親として平穏な人生を送っていた元CIAのスパイ、シーリア・ファヴロー。そこへ突然、かつて恋仲だった同僚ヘンリー・ペラムが訪ねてきた。久々の再会、懐かしい昔話、舌をとろかす料理の数々、ところが・・・。忘れようとしたウィーン国際空港でのテロ事件の真相をめぐって、二人の会話は手に汗握る心理戦へと一気に転じていく――。
突然訪ねてきたCIA工作員のヘンリーはまだ独身で、ウィーンではシーリアと恋人だった。ウィーンでのハイジャック事件の直後、シーリアは突然CIAを辞め、はるか年上の男と結婚してカルフォルニアへ去り、今は二人の子どもを授かり幸せな生活を送っている。
小説の大半は、この2人が5年ぶりに再会した現在のレストラン内部での会話、腹の探り合いに終始する。会話は、かっての恋のくすぶりにみせかけ、未解決に終わった事件の裏切り者の追及が目的だ。そして、ときにより過去の場面に戻り、CIAでの思い出が語られる。
120人が亡くなったウィーン国際空港でのハイジャック事件から6年後、逮捕したテロリストから、事件の際、たまたま機内に居たCIAの連絡員の素性がばれたのは、CIA内部に裏切り者がいたからだとの情報を得た。CIAは再調査を開始し、ヘンリーが調査担当に名乗り出たのだった。
オレン・スタインハウアー Olen Steinhauer
1970年アメリカ合衆国メリーランド州 ボルチモア生まれ。エマーソン大学卒(芸術学修士)
2003年警察小説『嘆きの橋』で作家として地歩を固める
2009年のCIAを舞台とした『ツーリスト 沈みゆく帝国のスパイ』と翌年の『ツーリストの帰還』がアメリカでベストセラー(ミロ・ウィーヴァー、シリーズ)
上岡伸雄
1958年東京生まれ。学習院大学文学部英語英米文化学科教授、専門は現代アメリカ文学
著書に『ニューヨークを読む』、訳書に『堕ちてゆく男』『ダイニング・アニマル』など
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
いわゆる派手なスパイ小説でなく、普通のミステリーとは異なるので、好き嫌いはあるだろう。そもそも、メイン場面がレストランでの二人の会話だけでスパイ小説を語る構成が斬新。
経緯がまとめて説明されることがないし、過去と現在とが入り混じり、登場人物の最初の登場場面で人物の説明がなされないので、物語の筋を理解しづらい。なにやらわけのわからないまま小説は進んでいき、霧が晴れてくるように、過去の空港での事件が徐々に姿を現すこのような構成も面白い。
登場人物
ヘンリー・ペラム:CIAウィーン支局。ウィーンでシーリアの恋人となる。
シーリア・ファヴロー(旧姓ハリソン):元CIAウィーン支局。ウィーンでヘンリーの恋人だった。夫はドルー。
ヴィック(ヴィクター・ウォリンジャー):CIAウィーン支局のボス
ビル(ウイリアム・ビル・コンプトン):CIAウィーン支局。シーリアの元上司。ワイルド・ビルと呼ばれる。1年前に引退しロンドン在住、妻はサリー。
オーウェン・ラシター:CIAウィーン支局。暗号担当。
エルンスト・プル:アメリカに帰化したオーストリア人。
アーメド・ナッジャー:CIA情報局員、たまたま飛行機に乗っていた。
ラリー・ダニエルズ:自信たっぷりなラングレーのCIA工作員、28歳
マッティ:活力にあふれるオーストリア人、シーリアが去る1週間前に登場
フランクラー:調査の暗号名
イリアス・シシャーニ:ヘンリーへのチェチェン人内通者で、ロシアに渡した内通者リストに含まれていた。ガンタナモの囚人の時、ウィーン空港事件のテロリストは米大使館のある人物から情報を得ていたと告白。