hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

宮下奈都『羊と鋼の森』を読む

2016年10月12日 | 読書2

 

宮下奈都著『羊と鋼の森』(2015年9月15日文藝春秋発行)を読んだ。

 

北海道の田舎町でピアノの調律に魅せられた青年が調律師として、そして人としてゆっくり成長する姿を温かく静かに語る、2016年本屋大賞受賞作品。

 

題名の『羊と鋼の森』は、羊がピアノの弦を叩くハンマーの羊毛のフェルトで、鋼がピアノの弦で、森はピアノ本体の木材で、ピアノがなると森が立ち上がると感じることからつけられている。

 

 

北海道の高校2年生の外村(とむら)は、「ただなんとなく高校を卒業して、なんとか就職口を見つけて生きていければいい。そう思っていた。」そんなとき、調律師が調律した体育館のピアノの音色を聞き、

森の匂いがした。夜になりかけの、森の入口。僕はそこに行こうとして、やめる。すっかり陽の落ちた森は危険だからだ。

と感じる。

 

外村は調律師養成の専門学校に入り、卒業後、江藤楽器店に勤め、調律師見習いとなる。そこには、トップ調律師の板鳥さん、割り切った言い方をする秋野さんがいて、先輩の柳さんと共に訪れた客に、和音(かずね)、由仁(ゆに)の双子の高校生がいた。

 

どんな音を目指すのかとの外村の質問に、板鳥さんは、小説家の原民喜の言葉で答える。

「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」

 

ピアノの基準となるラの音は、学校のピアノなら四百四十ヘルツと決められている、赤ん坊の産声は世界共通で四百四十ヘルツなのだそうだ。

 

 初出:別冊文藝春秋2013年11月号~2015年3月号

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 派手なところが全くなく、調律師になれるか不安を抱えながらただコツコツと積み重ねて成長していく主人公。そして、物語も大きな事件もなくたんたんと進む。

表舞台にでることのない調律師をメインに据え、文章でピアノの音色を表現するという難しい技に挑戦した点は買うにしても、少なくとも私は、努力賞は上げても、面白い小説とは感じなかった。

 

 この作品は、著者が北海道の山間の町に暮らしていたときに書かれた。小学校と中学校の併置校で、全部で10名少々しかいない学校の体育館にあるピアノにも、調律師がやってきていた。

 著者は言う。(antenna「本屋大賞に輝いた『羊と鋼の森』!著者・宮下奈都さんが語る執筆秘話。」より)

ちっちゃい町にも音楽を聞く人がいて、福井にも小説を書いている作家がいて、他のちいさい町にも腕のいい調律師がいる。それは当たり前のことなのに、『ちいさい町にいるともったいない』と言われたりするんです。

 

 

宮下奈都(みやした・なつ)
1967年福井県生れ。 上智大学文学部哲学科卒。
2004年、「静かな雨」が文學界新人賞佳作に入選、デビュー。
2007年『スコーレNo.4
2009年『遠くの声に耳を澄ませて』、『よろこびの歌』
2010年『太陽のパスタ、豆のスープ』、『田舎の紳士服店のモデルの妻』
2011年『 メロディ・フェア』、『 誰かが足りない
2012年『窓の向こうのガーシュウィン』

2013年エッセイ『はじめからその話をすればよかった

2014年『たった、それだけ

2016年本書『羊と鋼の森』で2016年本屋大賞受賞

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