三浦しをん『愛なき世界』(2018年9月10日中央公論新社発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
恋のライバルが、人類だとは限らない――!? 洋食屋の見習い・藤丸陽太は、植物学研究者をめざす本村紗英に恋をした。しかし本村は、三度の飯よりシロイヌナズナ(葉っぱ)の研究が好き。見た目が殺し屋のような教授、イモに惚れ込む老教授、サボテンを巨大化させる後輩男子など、愛おしい変わり者たちと地道な研究に情熱を燃やす日々……人生のすべてを植物に捧げる本村に、藤丸は恋の光合成を起こせるのか!? 道端の草も人間も、必死に生きている。世界の隅っこが輝きだす傑作長篇。
「円服亭」(えんぷくてい):東大赤門の向かいあたりにある洋食屋
円谷:店主。70歳位。花屋の店主「はなちゃん」(還暦前後)と花屋の2階で同棲中。
藤丸:2階に住込む店員。調理師専門学校卒。料理大好き。
T大学大学院理学系研究科 生物科学専攻(理学部B号館361号室)
松田賢三郎:教授。40代半ば(?)。黒いスーツで殺し屋風。
中岡:秘書
川井:助教。30歳前後。 岩間はるか:ポスドク、20代後半。遠距離恋愛中。 加藤:院生。サボテン命。
本村紗英:院生。シロイヌナズナの葉を研究。葉の表皮の気孔をプリントしたTシャツにジーンズ。
シロイヌナズナ:植物として初めて全ゲノムが解読されていて、ゲノムサイズが小さいこと、一世代が約2ヶ月と短いこと、室内で容易に栽培できること、多数の種子がとれることなどからモデル生物として使われる。
諸岡:老教授。イモを研究。
本書は、読売新聞朝刊に2016年10月12日から2017年9月29日まで連載作品を加筆・訂正。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
浮世離れした基礎研究者の面白味が無い日常を描き、447頁の大部をともかく読ませてしまう三浦さんの筆力には恐れ入る。
社会の真っただ中で日夜奮闘し、しのぎ合う一般の人からみると変な人々を、暖かい目ながら、面白がって描いている。確かに基礎研究者に、こんな人いると思うのだが、少々奇異な目を感じ、抵抗も覚える。
研究描写がすこし長ったらしく、必要最小限に抑えて欲しかった。どうも、作家さんは、のめり込みすぎる傾向があるようだ。
そのな小説が多いのだが、丁寧にじっくり進んできた話が、エンディングでバタバタを急ぎ足でともかくまとめてしまったように見える。二人の行く末以外でも、もう少しほのかな先の道筋が匂う最後にして欲しかった。
以下、蛇足。
私自身は基礎研究ではなかったが、ともかく研究所に30年勤務した。生活能力はなく、人が良すぎるが、極めて限定された分野で抜群の頭脳を持ち、研究に必要な力、例えば英語力などもいつのまにか身に着けている世界的学者を、私は何人か知っている。
例えば、廊下を飛行機の真似をして左右に揺れながら進んでいく彼は、世界レベルの抜群のIT能力を持っていた。そのぐらい変わっていなくては超一流になれないのかというと、そうでもなく、ごく常識があり、なんでもスムーズに答えれれる官僚のような一流の学者もいたし、ただ変わっているだけの、あるいは変人をよそおっていた凡人もいた。
長年ごく狭い分野に驚異的な集中力を発揮するためには、他のことに注意力がいかないようにする、いやそうなってしまいがちなのだろう。
仄聞=そくぶん:噂などで、少し耳に入ること。人づてにちょっと聞くこと。