東野圭吾著『天使の耳』(講談社文庫ひ17-11、1995年7月15日講談社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
深夜の交差点で衝突事故が発生。信号を無視したのはどちらの車か⁉ 死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。しかし、彼女は交通警察官も経験したことがないような驚くべき方法で兄の正当性を証明した。日常起こりうる交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した連作ミステリー。 (『交通警察の夜』を改題)
ほんの些細なちょっとしたことで起こる交通事故を題材にした6編の短編小説
「天使の耳」
深夜の交差点で車同士の衝突事故が発生。一方の友野は信号は青だったと証言。もう一方の軽自動車の御厨は死亡。どちらが信号無視なのか? その時、軽の後部座席の盲目の妹・奈緒が、車内で聴いていたユーミンの曲をヒントに、相手に非があると言い出す。。
陣内(交通課の警察官)、金沢(交通課主任)
友野(黒い会社の運転手、軽症、23歳)、畑山瑠美子(友野の車の同乗、女子大生)、石田(目撃者)
御厨(みくりや、軽自動車の運転手、死亡)、御厨奈穂(御厨の車の同乗者、妹、高2)
「分離帯」
深夜、車を走らせていた望月は前方のトラックが分離帯を越えてしまうという事故を目撃。直後に路上駐車していた黒い車が発進した。
世良(交通課の警察官)、福沢(交通課主任)
向井(トラック運転手。死亡)、彩子(向井の妻、旧姓菅沼、世良の高校の同級生)
望月(トラックの後方を走っていた車の運転手)。
石井(黒い車の運転手)
太田(目撃者)
「危険な若葉」
森本が抜け道を飛ばしていると前に若葉マークの遅い車がいる。森本はあおり運転をし、事故を起こさせた。車を降りて覗くと、運転手は何か言ったが、彼はそのまま立ち去った。
三上(交通課の警察官)、篠田(交通課の主任)斉藤(刑事)
福原映子(事故を起こした初心者運転手)、福原真知子(映子の妹)
森本(煽った運転手)
「通りゃんせ」
佐原に、車をこすってしまったという男・前村から電話があり、修理代を払いたいと言う。雪道に路上駐車していた佐原の車に傷を付けられていたのだ。修理費の交渉を終えた翌日、前村は別荘を使ってくれないかと依頼してくる。
佐原雄二(当てられた車の持ち主)、尚美(佐原の恋人)
前村(佐原の車を当て逃げした男)
「捨てないで」
高速で、高級車から投げ捨てられた空き缶が真智子の左目にぶつかり、彼女は失明した。深沢はその空き缶を頼りに投げ捨てた車を探し始める。
田村真智子(空き缶が左目に当たり失明)、深沢伸一(真智子の婚約者)
斉藤和久(高級車の運転手)、春美(斉藤の愛人)、斉藤昌枝(斉藤の妻、資産家)
「鏡の中で」
深夜の交差点で奇妙な事故が発生。右折しようとした車が反対車線に入り、停止中のバイクと衝突。中野はスピンしたというが、スリップ跡はそれほどではなかった。
織田(交通課警察官)、古川(交通課主任)
中野文貴(事故車の運転手、東西化学陸上部のコーチ)、高倉(東西化学陸上部の監督、元マラソン選手)、山本和美、堀江順子、田代由利子(東西化学陸上部のマラソン選手)
初出:「週刊小説」1989年11月10日~1991年10月25日(6回)
1992年1月実業之日本社刊行の「交通警察の夜」を改題
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
6編もある短編集だが、テーマは交通事故で統一されていて、パターンも同様なので安心してスラスラ読める。意外性のあるポイントは、短編らしく、各話ひとつだけで、すっきりしている。
書きたい気持ちより、読者の読みやすさを優先させるベテランぶりは新人作家の頃から身に着けていたのだろう。
解説の山崎洋子(ミステリー作家)が書いている。
ようするに、東野さんとわたくしは、最初からいろんなタイプのミステリーを書いてしまった。そのため、看板になるものをまだ持っていない、ということらしい。
『商売』とか『イメージ』ということを後回しにして、つい、好奇心と意欲のおもむくままに、次を書いてしまうーーそういうことではないだろうか。
作家になる人間は、たいてい子供のころから読書好きなものだが、彼は小説など大人になるまで読んだことがなかったという。なのに……。