白石一文著『一億円のさようなら』(2018年7月31日徳間書店発行)を読んだ。
表紙とその裏にかけて、こうある。さらに裏表紙にもごちゃごちゃあるが略。
連れ添って20年。発覚した妻の巨額隠し資産。
続々と明らかになる家族のヒミツ。
爆発事故に端を発する化学メーカーの社内抗争。
俺はもう家族も会社も信じない
加能鉄平は妻・夏代の驚きの秘密を知る。いまから30年前、夏代は伯母の巨額の遺産を相続、そしてそれは今日まで手つかずのまま無利息口座に預けられているというのだ。結婚して20年。なぜ妻はひた隠しにしていたのか。そこから日常が静かに狂いはじめていく。もう誰も信じられない――。鉄平はひとつの決断をする。人生を取り戻すための大きな決断を。夫婦はしょせん他人か? お金とは? 仕事とは? めくるめく人間模様を描く、直木賞作家・白石一文、文句なしの最高傑作!
登場人物
加能家
加能鉄平:医療機器会社をリストラされ、祖父・正平創設の加能産業の試験機器調達本部本部長になる。52歳。
夏代:妻、伯母からの遺産二億円を受取る。耕平:息子、真由は高校の1年先輩。 美嘉:娘、本城卓郎と交際。
加能産業(医薬品素材の製造・販売など福岡の会社)
加能正平:創立者。鉄平の祖父。
俊之:正平の長男。鉄平の父。学者一筋。
孝之:前社長。正平の次男。鉄平の叔父。
尚之:現社長。孝之の息子。妻は圭子。娘は真由。
金崎:総務部長。社長の腰巾着。
菅原:財務本部長。鉄平の理解者。
川俣:常務。製造本部長。
青島:鉄平の部下
その他
藤木遊星:鉄平の親友
藤木(高森)波江:藤木遊星の妹で中学の後輩。「木蓮」を経営
櫛木穣一:「木蓮」の板長。妻は周子。ふわふわしていて、ついどうでもいい女に手を出してしまう。デラシネ。
高松宅磨:鉄平の同級生。遊星をいじめる。大地主の息子。
木内正胤:嶺央大学病院の主任研究員からカナダのベンチャーを興す。夏代の不倫相手。
表莉緒:「はちまき寿司」の後継者
初出:「読楽」2017年4月号~2018年6月号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
次々と展開があり、541頁の大部だが、あきない。著者の白石一文氏はストイックな求道者で突き詰めた真面目な小説を書く人というイメージだったが、完全なエンターテインメントだ。私としては歓迎したい。
2億円を使わないで、自分の金でないとする理由がわからない。早く寄付してしまえばいいのにと思う。
落語に拾った大金を女房が真面目に働くなると心配して、隠して、夢だったとごまかす話があるが、例えば手切れ金だったなど、理解し易い話が欲しかった。
金沢の風景描写が多く、雰囲気は良く出ているのだが、長すぎて、流れが滞る。
鉄平が悪い奴を叩きのめした場面が出てくるが、相手が車いすになっても反省の弁がない。出世したとはいえ。
夏代は最初2億円を遺産相続し、10年前にベンチャーに投資して34億円になったのに、著者自身が混乱しているのではないだろうか。昔から34億円の資産があるかのような記述が何か所かある。(詳細未確認)(例、366頁)
白石一文(しらいし・かずふみ)
1958年福岡県生れ。早稲田大学政治経済学部卒業。
文藝春秋勤務しながら、2000年『一瞬の光』でデビュー。
2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞
2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。
他に『幻影の星』、『不自由な心』、『すぐそばの彼方』、『僕のなかの壊れていない部分』、『私という運命について』、『どれくらいの愛情』、『この世の全部を敵に回して』、『砂の上のあなた』、『翼』など。
「昇降籠」は、エレベーターの動く部分のことらしいが、あまり聞きなれない。
銀行名が必要ないのに実名(三菱東京UFJ、みずほ)で出てくる。